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特開2024-135962モータ制御装置、車両制御システム及びモータ制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135962
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】モータ制御装置、車両制御システム及びモータ制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
B60L15/20 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046892
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000237592
【氏名又は名称】株式会社デンソーテン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 国棟
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA01
5H125CA04
5H125CA11
5H125EE08
5H125EE43
5H125EE44
5H125EE52
5H125EE62
(57)【要約】
【課題】モータの制御の遅延を抑止すること。
【解決手段】実施形態に係るモータ制御装置は、車両制御装置から入力されるドライバの踏み込んだペダルの踏量に基づいたトルク指令に応じて、トルク制御で車両のモータに駆動信号を出力するコントローラを備える。コントローラは、ドライバによるペダルの誤操作が発生したと判断すると、車両を減速させるための回転数指令を生成し、回転数指令に応じた回転数制御で、モータに駆動信号を出力する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両制御装置から入力されるドライバの踏み込んだペダルの踏量に基づいたトルク指令に応じて、トルク制御で車両のモータに駆動信号を出力するコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記ドライバによるペダルの誤操作が発生したと判断すると、前記車両を減速させるための回転数指令を生成し、前記回転数指令に応じた回転数制御で、前記モータに前記駆動信号を出力する
モータ制御装置。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記車両のモードとして、第1のペダルの操作によって加速制御と減速制御の両方が行われる1ペダルモードと、第1のペダルの操作によって加速制御が行われ、第2のペダルの操作によって減速制御が行われる通常モードとを有し、前記1ペダルモードである場合に、前記ドライバによるペダルの誤操作が発生したか否かを判定する
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記1ペダルモードでは、前記ドライバの踏み込んだ前記第1のペダルの踏量が増えると加速制御を行い、前記ドライバの踏み込んだ前記第1のペダルの踏量が減ると減速制御を行い、
前記通常モードでは、前記ドライバの踏み込んだ前記第2のペダルの踏量が増えると減速制御を行う
請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記コントローラは、
前記第1のペダルの単位時間当たりの踏量が閾値を超えた場合に、前記ドライバによる前記第1のペダルの誤操作が発生したと判断する
請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記コントローラは、
前記第2のペダルの踏量、前記車両の速度、前記モータの実回転数、及び前記車両制御装置から入力されたトルクのうち、少なくともいずれかを基に、前記ドライバの誤操作が発生したか否かを判定する
請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記コントローラは、
前記ドライバの誤操作が発生したと判断した場合、前記モータの回転数に基づき、時刻ごとの最大発生トルクを計算し、前記最大発生トルクを基に前記モータを制御する
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記コントローラは、
前記車両の接地面の勾配角度を推定し、推定した勾配角度を基に勾配負荷トルクを計算し、前記勾配負荷トルクを基に前記最大発生トルクを計算する
請求項6に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
ドライバによる車両に備えられたペダルの踏み込み度合いに応じて、前記車両のモータを駆動させるモータ駆動信号を出力するコントローラを有するモータ制御装置であって、
前記コントローラは、
前記踏み込み度合いが閾値範囲内の場合は、トルク制御に基づいた前記モータ駆動信号を出力し、
前記踏み込み度合いが閾値範囲外の場合は、回転数制御に基づいた前記モータ駆動信号を出力する
モータ制御装置。
【請求項9】
車両制御装置から入力されるドライバの踏み込んだペダルの踏量に基づいたトルク指令に応じて、トルク制御で車両のモータに駆動信号を出力するコントローラによって実行されるモータ制御方法であって、
前記ドライバによるペダルの誤操作が発生したと判断すると、前記車両を減速させるための回転数指令を生成し、前記回転数指令に応じた回転数制御で、前記モータに前記駆動信号を出力する
モータ制御方法。
【請求項10】
ドライバの踏み込んだペダルの踏量に応じてトルク指令を出力する車両制御装置と、前記車両制御装置から入力される前記トルク指令に応じたトルク制御で、車両のモータに駆動信号を出力するモータ制御装置と、を有する車両制御システムであって、
前記モータ制御装置のコントローラは、
前記ドライバによるペダルの誤操作が発生したと判断すると、前記車両が減速させるための回転数指令を生成し、前記回転数指令に応じた回転数制御で、前記モータに前記駆動信号を出力する
車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のブレーキペダルとアクセルペダルの踏み間違え時の安全機構としての技術が知られている。例えば、ドライバが車両の走行中にブレーキペダルと間違えてアクセルペダルを操作した場合に、車両の誤操作判定装置が誤操作を判定し、誤操作だった場合は停止にむけた加速の抑制を行う技術が存在する(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-49857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、モータの制御に遅延が生じる場合があるという問題がある。
【0005】
例えば、車両のモータ制御では、車両制御装置とインバータ装置といったように、複数の制御装置が連携して制御するシステムが考えられる。このようなシステムの場合、車両制御装置からのトルク指令をインバータ装置が受けてモータの制御を行う等2つの制御装置間での通信が行われる。一方で、ユーザの誤操作を検知した場合に減速にむけて迅速なモータ制御が必要な場合であっても、2つの制御装置間での通信が必須となるため素早いモータ制御ができない。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、モータの制御の遅延を抑止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の一態様に係るモータ制御装置は、車両制御装置から入力されるドライバの踏み込んだペダルの踏量に基づいたトルク指令に応じて、トルク制御で車両のモータに駆動信号を出力するコントローラを備える。コントローラは、ドライバによるペダルの誤操作が発生したと判断すると、車両を減速させるための回転数指令を生成し、回転数指令に応じた回転数制御で、モータに駆動信号を出力する。
【発明の効果】
【0008】
実施形態の一態様によれば、モータの制御の遅延を抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係る車両制御システムのハードウェア構成の例を示す図である。
図2図2は、1ペダルモードにおける制御を説明する図である。
図3図3は、車両制御装置の機能ブロック図である。
図4図4は、MCUの機能ブロック図である。
図5図5は、登坂道における勾配負荷トルクの演算方法を説明する図である。
図6図6は、インバータ装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係るモータ制御装置、車両制御システム及びモータ制御方法について詳細に説明する。本実施形態により本発明が限定されるものではない。本実施形態では、インバータ装置がモータ制御装置として機能する。
【0011】
従来、1ペダルモード(One Pedal Mode)と通常モードを搭載した車両が知られている(参考文献:特開2006-137324号公報)。1ペダルモードは、アクセルペダル又はブレーキペダルのいずれかの操作により、加速制御及び減速制御の双方を行うモードである。通常モードは、アクセルペダルの操作により加速制御を行い、ブレーキペダルの操作により減速制御を行うモードである。
【0012】
例えば、1ペダルモードでは、アクセルペダルが踏まれると車両が加速し、逆にアクセルペダルが緩められると車両が減速していく。このため、一般走行状況において、ドライバは、常に右足でアクセルペダルを踏む状態にある。
【0013】
なお、アクセルペダルには、ばね等の作用により、原点地に復帰するように復帰力が働いている。このため、アクセルペダルが緩められると、アクセルペダルは原点地に復帰しようとする。また、アクセルペダルが緩められることは、アクセルペダルを踏んでいる踏力が緩められること、又はアクセルペダルの取り付け面とドライバが踏むアクセルペダルの面とのなす角度が大きくなる方向に操作すること、のように言い換えられてもよい。
【0014】
この1ペダルモードのときに、ドライバの操縦習慣が原因で、急停止が必要な場合に、通常モードにおけるブレーキ操作と勘違いして、アクセルペダルを緩ませる操作ではなく、アクセルペダルをさらに踏む操作を行う可能性がある。その場合、車両は急停止が必要な場面で、逆に急加速することになる。
【0015】
本実施形態のインバータ装置は、1ペダルモードにおいて、ドライバが急停止をするべき場面で誤ってアクセルペダルを踏んだことを検知し、モータを停止させる制御を行う。その結果、1ペダルモードにおける誤操作が発生した際に、車両制御装置がモータを制御する場合に比べて、迅速にモータを制御することができる。
【0016】
図1を用いて、車両制御システムの構成を説明する。図1は、実施形態に係る車両制御システムのハードウェア構成の例を示す図である。
【0017】
図1の車両制御システム1は、車両に搭載される。車両は、例えばBEV(Battery Electric Vehicle)、HV(Hybrid Vehicle)又はPHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)である。
【0018】
図1に示すように、車両制御システム1は、モード切替スイッチ11、アクセルペダル12、アクセルペダルセンサ13、ブレーキペダル14、ブレーキペダルセンサ15、速度センサ16を有する。また、車両制御システム1は、車両制御装置20、インバータ装置30、モータ60及びレゾルバ61を有する。
【0019】
モード切替スイッチ11は、1ペダルモードと通常モードを切り替えるためのスイッチである。
【0020】
アクセルペダル12及びブレーキペダル14は、車両の加速又は減速を目的としてユーザによって操作されるペダルである。アクセルペダルセンサ13は、アクセルペダル12の操作量を車両制御装置20に通知する。ブレーキペダルセンサ15は、ブレーキペダル14の操作量を車両制御装置20に通知する。
【0021】
インバータ装置30は、1ペダルモードでは、ドライバの踏み込んだアクセルペダル12の踏量が増えると加速制御を行い、ドライバの踏み込んだアクセルペダル12の踏量が減ると減速制御を行う。インバータ装置30は、通常モードでは、ドライバの踏み込んだブレーキペダル14の踏量が増えると減速制御を行う。なお、1ペダルモードと通常モードの各モードは、車両の操縦に関するモードである。
【0022】
1ペダルモードでは、アクセルペダル12が踏まれると車両が加速し、逆にアクセルペダル12が緩められると車両が減速していく。なお、1ペダルモードにおいて、ブレーキペダル14の操作は有効であってもよいし、無効であってもよい。
【0023】
速度センサ16は、車両の速度を感知し、感知した速度を車両制御装置20に通知する。
【0024】
車両制御装置20は、スイッチ及びセンサから通知された情報に基づき、車両を制御するための処理を行う。
【0025】
なお、車両は、制動を走行用のモータの回生ブレーキのみで行う構成でもよいし、回生ブレーキに機械式ブレーキを追加で設ける構成であってもよい。
【0026】
図2を用いて、1ペダルモードにおける制御を説明する。図2は、1ペダルモードにおける制御を説明する図である。
【0027】
1ペダルモードでは、アクセルペダル12の操作により、車両の起動、加速、減速及び停止が行われる。
【0028】
図2の横軸は、アクセルペダル12の操作量(踏量)に対応する。また、図2の縦軸は、車両の駆動力及び制動力に対応する。踏量は、アクセルペダルセンサ13によって車両制御装置20に通知される。
【0029】
踏量の範囲は0%から100%までである。踏量が0%であることは、アクセルペダル12が踏まれていないことを意味する。踏量が100%であることは、アクセルペダル12が最大限踏み込まれていることを意味する。
【0030】
縦軸の値が正の方向(0より上側)に進むほど、車両制御装置20は、車両の駆動力が大きくなるような制御(加速制御(加速度が正))を行う。縦軸がTd_Maxの場合、車両制御装置20は、車両が最大駆動力を発揮するような制御を行う。
【0031】
縦軸の値が負の方向(0より下側)に進むほど、車両制御装置20は、車両の制動力が大きくなるような制御(減速制御(加速度が負))を行う。また、このとき、車両制御装置20は、車両に回生エネルギを回収させる。縦軸がTb_Maxの場合、車両制御装置20は、車両が最大制動力を発揮するような制御を行う。
【0032】
縦軸の値が0である場合、車両制御装置20は、車両を惰性で走行させる。
【0033】
図2に示すように、踏量が50%-αから50%+αまでの範囲にある場合、縦軸の値は0に維持される。なお、図2ではαが5%の場合を例示しているが、これに限られない。
【0034】
また、踏量が50%+αより大きい場合、踏量に比例して縦軸の値は0の上側に進む(絶対値が大きくなる)。一方、踏量が50%-αより小さい場合、踏量に比例して縦軸の値は0の下側に進む(絶対値が大きくなる)。
【0035】
インバータ装置30は、車両制御装置20による演算の結果、又はインバータ装置30自身による演算の結果に応じて、モータ60に供給される電力を制御することで、モータ60の駆動を制御する。また、レゾルバ61は、モータ60の回転角をインバータ装置30に入力する。
【0036】
インバータ装置30は、MCU(Micro Controller Unit)40、及びモータ駆動装置50を有する。
【0037】
MCU40は、演算を行う。また、MCU40は、PWM(Pulse Width Modulation)制御信号をモータ駆動装置50に入力する。MCU40の処理の詳細については後述する。なお、MCU40は、CPU等の他の演算装置に置き換えられてもよい。
【0038】
モータ駆動装置50は、PWM制御信号に基づいて、モータ60を駆動させる。
【0039】
モータ駆動装置50は、トランジスタ51、電圧センサ52、ゲート駆動回路53、及びRDC(Resolver to Digital Converter)エンコーダ54を有する。
【0040】
トランジスタ51は、モータ60に供給される電力を制御する。例えば、トランジスタ51は、IGBT又はMOSFETである。
【0041】
電圧センサ52は、トランジスタ51の電圧を計測し、計測した電圧をMCU40に入力する。ゲート駆動回路53は、MCU40によって入力されたPWM制御信号に応じて、トランジスタ51に電圧を印可する。RDCエンコーダ54は、レゾルバ61によって入力されたモータ60の回転角をエンコードし、MCU40に入力する。
【0042】
図3は、車両制御装置の機能ブロック図である。図3に示すように、車両制御装置20は、モード判定部21及び通信制御部22を有する。
【0043】
モード判定部21は、車両が1ペダルモードにあるか通常モードにあるかを判定する。モード判定部21は、モード切替スイッチ11の操作内容に基づいて判定を行うことができる。
【0044】
通信制御部22は、インバータ装置30との間でデータの通信を行う。通信制御部22は、モード判定部21によって判定された車両のモードをインバータ装置30に通知する。
【0045】
図4は、MCUの機能ブロック図である。MCU40は、コントローラの一例である。MCU40は、メモリに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、図4に示す各部として機能する。
【0046】
図4に示すように、MCU40は、通信制御部41、モード選択部42、1ペダルモード制御部43、通常モード制御部44、信号制御部45、PWM制御部46、及び角度演算部47を有する。
【0047】
通信制御部41は、車両制御装置20との間でデータの通信を行う。通信制御部41は、車両制御装置20から、トルク指令(TRQ_cmd)、車両の現在の制御モード(CTRL_Mode)(1ペダルモード又は通常モード)を受信する。また、通信制御部41は、インバータに関する情報(INV_Inf)を車両制御装置20に送信する。インバータに関する情報とは、センサで取得した情報に基づいてインバータ装置30内で生成した情報や、故障の検出情報のことである。
【0048】
モード選択部42は、1ペダルモード及び通常モードのいずれかを選択する。モード選択部42は通信制御部41が車両制御装置20から受信した車両の現在の制御モードに応じてモードを選択する。
【0049】
車両の現在の制御モードを表す変数CTRL_Modeは、1(1ペダルモード)又は0(通常モード)を取る。CTRL_Mode=1の場合、モード選択部42は1ペダルモードを選択する。CTRL_Mode=0の場合、モード選択部42は通常モードを選択する。
【0050】
モード選択部42によって1ペダルモードが選択された場合、1ペダルモード制御部43が動作する。一方、モード選択部42によって通常モードが選択された場合、通常モード制御部44が動作する。
【0051】
1ペダルモード制御部43は、急停止判定部431、回転数制御部432、トルク制御部433及びSMC(Sliding Mode Control)制御部434を有する。
【0052】
車両のモードが1ペダルモードである場合に、急停止判定部431がドライバによるアクセルペダル12の誤操作が発生したと判断すると、回転数制御部432は、車両を減速させるための回転数指令を生成する。回転数制御部432は、回転数指令に応じた回転数制御で、モータ60に駆動信号を出力する。
【0053】
1ペダルモードにおいては、急停止をするための正しい操作は、アクセルペダル12を緩めることである。一方で、1ペダルモードに慣れていないドライバは、急停止が必要な場面で誤ってアクセルペダル12を踏み込んでしまう場合がある。このようなアクセルペダル12を踏み込む操作が、急停止を意図した誤操作の例である。インバータ装置30は誤操作が発生しやすい1ペダルモードにおける安全性を向上させることができる。
【0054】
急停止判定部431は、通信制御部41が受信したトルク指令を参照し、指令トルクの時間変化が閾値以上となった場合、急停止を意図した誤操作が発生したと判定する。
【0055】
また、急停止判定部431は、アクセルペダル12の踏量を参照して判定を行ってもよい。その場合、通信制御部41は、車両制御装置20からアクセルペダル12の操作量(踏量)を受信する。
【0056】
急停止判定部431は、アクセルペダル12の単位時間当たりの踏量が閾値を超えた場合に、車両の急停止が必要であると判定することができる。例えば、急停止判定部431は、アクセルペダル12の踏量が直前の踏量と比べて1秒間に50%以上増加した場合に、急停止を意図した誤操作が発生した(車両の急停止が必要である)と判定する。
【0057】
これにより、インバータ装置30は、特に危険であると考えられるアクセルペダル12の急激な踏み込みによる急加速を防止することができる。
【0058】
また、急停止判定部431は、ブレーキペダル14の踏量、車両の速度、モータの実回転数等を基に判定を行ってもよい。例えば、急停止判定部431は、1ペダルモードであるにもかかわらずブレーキペダル14が踏み込まれた場合、急停止を意図した誤操作が発生したと判定する。また、車両の速度で判定する場合、急停止判定部431は、速度センサ16から車両の速度を取得する。そして、直前の車両の速度と比べて1秒間に50%以上速度が増加している場合に、急停止判定部431は誤操作が発生したと判定する。
【0059】
インバータ装置30は、車両の仕様又は状況に合わせて、様々な情報から誤操作の発生を判定することができる。
【0060】
回転数制御部432、トルク制御部433及びSMC制御部434は、駆動信号を生成し、生成した駆動信号を後段の信号制御部45に入力する。
【0061】
急停止判定部431によって誤操作が発生したと判定されていない場合、トルク制御部433が駆動信号を生成する。トルク制御部433は、トルク指令(TRQ_cmd)を信号制御部45に入力する。
【0062】
急停止判定部431によって誤操作が発生したと判定された場合、回転数制御部432及びSMC制御部434が駆動信号を生成する。すなわち、MCU40は、駆動信号を生成する処理部を、トルク制御部433から、回転数制御部432及びSMC制御部434に切り替える。
【0063】
このように、MCU40は、ドライバによるアクセルペダル12の誤操作が発生したと判断すると、回転数制御部432は、車両を減速させるための回転数指令を生成し、回転数指令に応じた回転数制御で、モータ60に駆動信号を出力する。車両が停止するように設定される回転数指令は、例えば0回転である。
【0064】
図5に示すように、車両が登坂道に位置する場合、勾配負荷トルクが生じる。図5は、登坂道における勾配負荷トルクの演算方法を説明する図である。
【0065】
回転数制御部432及びSMC制御部434は、勾配負荷トルクを考慮して駆動信号を生成する。勾配負荷トルクの計算方法については後述する。
【0066】
回転数制御部432及びSMC制御部434による駆動信号の生成方法を説明する。急停止判定部431により誤操作が発生したと判定された場合、回転数制御部432及びSMC制御部434は以下の計算を行う。
【0067】
まず、回転数制御部432は、モータ60の目標回転数ωrefを設定する。ここでは、ωref=0とする。なお、目標回転数ωrefは、回転数指令の一例である。
【0068】
SMC制御部434は、(1)式により制御目標平面sを計算する。
【0069】
【数1】
【0070】
ただし、ωactはモータ60の実回転数であり、信号制御部45によって1ペダルモード制御部43に入力される。Δωは目標回転数と実回転数との差である。SMC制御部434は、Δω=ωref-ωactと計算する。
【0071】
aはモータ60の角速度の各加速度である。SMC制御部434は、a=d(ωact/dt)(実回転数の時間微分)と計算する。cは正の定数である。
【0072】
信号制御部45は、制御目標平面sをインバータ制御の制御目標値とし、車両が停止するまで回転数制御を実施する。例えば、停止する際の目標制御平面sの値は0である。SMC制御部434は、各時刻において、モータ60が発生させることができる時刻ごとの最大発生トルクTref(t)を計算し、計算したトルクTref(t)を信号制御部45に入力する。SMC制御部434は、(2)式のようにトルクTref(t)を計算する。
【0073】
【数2】
【0074】
Jはモータイナーシャである。Bはモータ60の粘性摩擦係数である。kは正の定数である。sgn(s)は制御目標平面sをパラメータとする符号関数である。sgn(s)の出力は(3)式の通りである。
【0075】
【数3】
【0076】
このように、SMC制御部434は、目標回転数を基に、駆動信号として扱うことが可能なトルクを求めることができる。これにより、インバータ装置30は、通常モードの場合と同様にトルクによる制御を行うことができる。
【0077】
(t)は、時刻tにおける車両の勾配負荷トルクである。SMC制御部434は、(4)式のように勾配負荷トルクT(t)を計算する。
【0078】
【数4】
【0079】
Mは車両の重量である。gは重力加速度である。rはタイヤの半径である。Nは車両パワトレイン減速器の減速比である。下記の関数は時刻tにおける勾配角度である。勾配角度は、例えば、図示しないGセンサ等によって取得する。
【0080】
このように、SMC制御部434は、車両の接地面の勾配角度を推定し、推定した勾配角度を基に勾配負荷トルクを計算し、勾配負荷トルクを基に最大発生トルクを計算する。また、SMC制御部434は、(2)式に示したように、接地面が水平であると仮定した場合の最大発生トルクに、勾配負荷トルクを相殺させるトルク((2)式のT(t)の項)を加える。
【0081】
これにより、インバータ装置30は、車両が坂道等に位置している場合であっても、正確に車両を停止させることができる。
【0082】
SMC制御部434によれば、スライディングモード制御(Sliding Mode Control)が実現される。スライディングモード制御は、従来のPI制御と比べて応答性能が良い。
【0083】
スライディングモード制御によれば、車両が停止するまでの回転数制御の過程において、モータ駆動装置50(インバータ)が、最大出力トルクを迅速に発生させることができる。モータ駆動装置50は、直流電圧、モータ60及びモータ駆動装置50のパワーデバイス温度、車速、モータの実回転数の情報を基に最大出力トルクを発生させる。
【0084】
なお、車両制御装置20は、急停止判定部431と同様にドライバが急停止を意図した誤操作を行ったことを判定し、判定結果に応じてモータ60を制御することができる。一方で、インバータ装置30は、車両制御装置20よりも迅速にモータ60の制御を行うことができる。
【0085】
さらに、本実施形態では、車両制御装置20とインバータ装置30が誤操作を二重に検知する構成を取ることによって、安全性を向上させることができる。
【0086】
通常モード制御部44は、トルク制御部441を有する。トルク制御部441は、通信制御部41が車両制御装置20から受信したトルク指令を信号制御部45に入力する。
【0087】
図4に戻り、信号制御部45は、マッピング部451、PI制御部452、ベクトル変換部453、相変換部454、相電流測定部455を有する。
【0088】
マッピング部451は、1ペダルモード制御部43又は通常モード制御部44から入力されたトルクのdq軸へのマッピングを行い、電流の目標値であるld_ref及びlq_refをPI制御部452に入力する。
【0089】
PI制御部452は、電流の目標値と実際の値(ld_acr及びlq_act)との誤差であるld_err及びlq_errを基に、PI制御を行う。PI制御部452は、dq軸の電圧であるVd及びVqをベクトル変換部453に入力する。
【0090】
ベクトル変換部453は、dq軸の電圧Vd及びVqを、uvw軸の電圧V、V、Vに変換し、PWM制御部46に入力する。PWM制御部46は、PWM制御信号をモータ駆動装置50に入力する。
【0091】
相電流測定部455は、モータ駆動装置50から入力された電流I、I、Iを測定し、相変換部454に入力する。
【0092】
相変換部454は、電流をld_act及びlq_actに変換する。
【0093】
角度演算部47は、実角度演算部471、実回転数演算部472、異常管理部473を有する。
【0094】
実角度演算部471は、RDCエンコーダ54によって入力された回転角を実角度Θactに変換する。実回転数演算部472は、RDCエンコーダ54によって入力された回転角を実角度実回転数ωactに変換する。異常管理部473は、角度や車両の速度の異常を検知すると、異常時の情報を記憶する。また、異常管理部473は、記憶した情報を車両制御装置20に送信する。
【0095】
図6を用いて、インバータ装置30の処理の流れを説明する。図6は、インバータ装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【0096】
まず、図6に示すように、インバータ装置30は、車両の現在のモードを取得する(ステップS101)。すなわち、インバータ装置30は、車両制御装置20から現在のモードを取得する。
【0097】
現在のモードが1ペダルモードである場合(ステップS102、1ペダルモード)、インバータ装置30は、ステップS103に進む。現在のモードが通常モードである場合、(ステップS102、通常モード)、インバータ装置30は、ステップS109に進む。
【0098】
インバータ装置30は、1ペダルモードにおいて、誤操作が発生したか否かを判定する(ステップS103)。例えば、アクセルペダル12の踏量を基に誤操作が発生したか否かを判定する。
【0099】
インバータ装置30は、誤操作が発生していないと判定した場合(ステップS104、No)ステップS109に進む。インバータ装置30は、誤操作が発生したと判定した場合(ステップS104、Yes)ステップS105に進む。
【0100】
ステップS109では、インバータ装置30は、車両制御装置20によって入力されたトルク指令を基に駆動信号を生成する。そして、インバータ装置30は、生成した駆動信号を基にモータ60を制御し(ステップS110)、ステップS101に戻る。
【0101】
ステップS105では、インバータ装置30は、車両を急停止させるためのモータ60の目標回転数を設定する(ステップS105)。例えば、インバータ装置30は、目標回転数を0に設定する。
【0102】
インバータ装置30は、目標回転数を基に駆動信号を生成する(ステップS106)。すなわち、インバータ装置30は、駆動信号の生成元を、トルク指令から回転数指令に切り替える。
【0103】
インバータ装置30は、生成した駆動信号を基にモータ60を制御する(ステップS107)。すなわち、インバータ装置30は、車両が停止するようにモータ60を制御する。
【0104】
インバータ装置30は、車両が停止した場合(ステップS108、Yes)、処理を終了する。一方、インバータ装置30は、車両が停止していない場合(ステップS108、No)、ステップS106に戻り処理を繰り返す。
【0105】
インバータ装置30は、ステップS103は、ペダルの踏み込み度合いを基に、閾値を使った判定を行うことができる。すなわち、インバータ装置30は、ドライバによるアクセルペダル12の踏み込み度合いが閾値範囲内の場合は、トルク制御に基づいたモータ駆動信号を出力し、踏み込み度合いが閾値範囲外の場合は、回転数制御に基づいたモータ駆動信号を出力する。ただし、アクセルペダル12の踏み込み度合いは、アクセルペダル12の単位時間当たりの踏量である。また、閾値範囲内には、閾値の境界値が含まれる。このように、インバータ装置30は、踏み込み度合いが得られれば、閾値を用いて容易に判定を行うことができる。
【0106】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細及び代表的な実施形態に限定されるものではない。従って、添付の特許請求の範囲及びその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0107】
1 車両制御システム
11 モード切替スイッチ
12 アクセルペダル
13 アクセルペダルセンサ
14 ブレーキペダル
15 ブレーキペダルセンサ
16 速度センサ
20 車両制御装置
21 モード判定部
22 通信制御部
30 インバータ装置
40 MCU(コントローラ)
41 通信制御部
42 モード選択部
43 1ペダルモード制御部
44 通常モード制御部
45 信号制御部
46 PWM制御部
47 角度演算部
50 モータ駆動装置
51 トランジスタ
52 電圧センサ
53 ゲート駆動回路
54 RDCエンコーダ
60 モータ
61 レゾルバ
431 急停止判定部
432 回転数制御部
433 トルク制御部
434 SMC制御部
451 マッピング部
452 PI制御部
453 ベクトル変換部
454 相変換部
455 相電流測定部
471 実角度演算部
472 実回転数演算部
473 異常管理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6