(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135978
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】磁気ディスク基板用研磨剤組成物
(51)【国際特許分類】
G11B 5/84 20060101AFI20240927BHJP
G11B 5/73 20060101ALI20240927BHJP
G11B 5/738 20060101ALI20240927BHJP
G11B 5/82 20060101ALI20240927BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20240927BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240927BHJP
【FI】
G11B5/84 Z
G11B5/73
G11B5/738
G11B5/82
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
B24B37/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046917
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000178310
【氏名又は名称】山口精研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100198856
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】安藤 順一郎
【テーマコード(参考)】
3C158
5D006
5D112
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA01
3C158CB04
3C158EB01
3C158ED00
3C158ED10
3C158ED23
3C158ED26
5D006CA01
5D006CB04
5D006CB07
5D006DA03
5D006FA05
5D112AA02
5D112AA24
5D112BA06
5D112BA09
5D112GA14
(57)【要約】
【課題】研磨速度を維持しつつ、ハレーション低減、更には研磨後の基板表面に残存砥粒や研磨屑が残らない洗浄性に優れた磁気ディスク基板用研磨剤組成物の提供を課題とするものである。
【解決手段】磁気ディスク基板用研磨剤組成物は、無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の仕上げ研磨に用いられ、コロイダルシリカと、水溶性高分子化合物と、第4級アンモニウム塩型有機化合物と、水を含有し、水溶性高分子化合物は、少なくともカルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体を含有し、第4級アンモニウム塩型有機化合物は、窒素原子に結合する4つの炭化水素基が炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基及び/または炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の仕上げ研磨に用いられる磁気ディスク基板用研磨剤組成物であって、
コロイダルシリカと、
水溶性高分子化合物と、
第4級アンモニウム塩型有機化合物と、
水と
を含有し、
前記水溶性高分子化合物は、
少なくともカルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体を含有し、
前記第4級アンモニウム塩型有機化合物は、
窒素原子に結合する4つの炭化水素基が炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基及び/または炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基である磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項2】
前記第4級アンモニウム塩型有機化合物は、
窒素原子に結合する4つの炭化水素基が炭素数1~10の飽和脂肪族炭化水素基及び/または炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基である請求項1に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項3】
前記第4級アンモニウム塩型有機化合物は、
ビニルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジビニルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムフルオライド、ジアリルジメチルアンモニウムブロマイド、ジアリルジメチルアンモニウムアイオダイド、ジアリルジエチルアンモニウムクロライド、テトラアリルアンモニウムクロライド、ジエチルジメチルアンモニウムクロライド、トリエチルメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、ジブチルジメチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、オクチルトリメチルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムクロライドで構成される群の中から選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項4】
前記第4級アンモニウム塩型有機化合物は、
窒素原子に結合する4つの炭化水素基が炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基である第一の第4級アンモニウム塩型有機化合物と、
窒素原子に結合する4つの炭化水素基のうち少なくとも1つ以上の炭化水素基が炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基であり、かつ、残余の炭化水素基が炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基である第二の第4級アンモニウム塩型有機化合物と
を少なくとも1つ以上含む混合物である請求項1に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項5】
前記水溶性高分子化合物は、少なくともカルボン酸基を有する単量体及びアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体を更に含有する請求項1に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項6】
酸及び/またはその塩を更に含有し、
pH値(25℃)が0.1~4.0の範囲にある請求項1に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項7】
酸化剤を更に含有する請求項1に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク基板用研磨剤組成物に関する。更に詳しくは、半導体、ハードディスクといった磁気記録媒体等の電子部品の研磨に使用される磁気ディスク基板用研磨剤組成物に関し、特にガラス磁気ディスク基板やアルミニウム磁気ディスク基板等の磁気記録媒体用基板の表面研磨に使用される磁気ディスク基板用研磨剤組成物に関する。
【0002】
更には、アルミニウム合金製の基板表面に無電解ニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム磁気ディスク基板の仕上げ研磨に好ましく使用される磁気ディスク基板用研磨剤組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、アルミニウム磁気ディスク基板の無電解ニッケル-リンめっき皮膜の表面を研磨するための磁気ディスク基板用研磨剤組成物が用いられており、特に、当該磁気ディスク基板用研磨剤組成物に対して磁気記録密度の向上を目的とするための種々の研磨特性が要求されている。例えば、研磨後の表面に残るスクラッチ部分によって、磁気ディスク基板として使用した場合の書き込みや読み込みのエラーを生じる可能性があり、更にスクラッチ部分の周囲に生じた「バリ」とヘッドとが衝突するおそれがある。そのため、研磨後の表面において、スクラッチの低減が求められている。
【0004】
そこで、磁気ディスク基板用研磨剤組成物の機械研磨を担う砥粒成分として、コロイダルシリカがアルミニウム磁気ディスク基板の仕上げ研磨に使用されることが多くなっている。この場合、工業的な研磨において、磁気ディスク基板用研磨剤組成物の機械研磨を担う砥粒成分と、化学研磨を担う薬剤成分とを実施する研磨工程の直前に混合したものが一般的に使用されている。
【0005】
砥粒成分としてコロイダルシリカと薬剤成分との両者が混合されると、コロイダルシリカが凝集しやすい傾向にあることが知られている。このような不具合の発生を抑制するために、磁気ディスク基板用研磨剤組成物の中に含有している粗大粒子や凝集粒子等を混合前に予め除去したり、コロイダルシリカの粒子の形状を調整したり、或いは、磁気ディスク基板用研磨剤組成物を含む研磨剤自体の腐食性の調整を図ったりすることで、コロイダルシリカの凝集を抑制し、磁気ディスク基板用研磨剤組成物として使用した際のスクラッチの低減を図るための試みがなされている。例えば、研磨剤の腐食性の調整(特許文献1)、粒子の形状の調整(特許文献2)、凝集粒子の含有量の調整(特許文献3)等の試みが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-120850号公報
【特許文献2】特開2009-172709号公報
【特許文献3】特開2010-170650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、磁気記録密度の向上のためには、上述したスクラッチや基板表面のうねりの低減の他、当該スクラッチよりも更に微細な表面欠陥に起因すると考えられるハレーションの低減、更には残存砥粒や研磨屑の基板表面への付着防止等の解決すべき課題が残っている。
【0008】
そこで、本発明は上記実情に鑑み、研磨速度を維持しつつ、ハレーション低減、更には研磨後の基板表面に残存砥粒や研磨屑が残らない洗浄性に優れた磁気ディスク基板用研磨剤組成物の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、以下の磁気ディスク基板用研磨剤組成物を用いることにより、研磨速度を維持しつつ、ハレーション低減と基板表面の付着物の低減とを実現し、本発明に到達した。
【0010】
[1] 無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の仕上げ研磨に用いられる研磨剤組成物であって、コロイダルシリカと、水溶性高分子化合物と、第4級アンモニウム塩型有機化合物と、水を含有し、前記水溶性高分子化合物は、少なくともカルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体を含有し、前記第4級アンモニウム塩型有機化合物は、窒素原子に結合する4つの炭化水素基が炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基及び/または炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基である磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0011】
[2] 前記第4級アンモニウム塩型有機化合物は、窒素原子に結合する4つの炭化水素基が炭素数1~10の飽和脂肪族炭化水素基及び/または炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基である前記[1]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0012】
[3] 前記第4級アンモニウム塩型有機化合物は、ビニルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジビニルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムフルオライド、ジアリルジメチルアンモニウムブロマイド、ジアリルジメチルアンモニウムアイオダイド、ジアリルジエチルアンモニウムクロライド、テトラアリルアンモニウムクロライド、ジエチルジメチルアンモニウムクロライド、トリエチルメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、ジブチルジメチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、オクチルトリメチルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムクロライドで構成される群の中から選ばれる少なくとも1種である前記[2]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0013】
[4] 前記第4級アンモニウム塩型有機化合物は、窒素原子に結合する4つの炭化水素基が炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基である第一の第4級アンモニウム塩型有機化合物と、窒素原子に結合する4つの炭化水素基のうち少なくとも1つ以上の炭化水素基が炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基であり、残余の炭化水素基が炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基である第二の第4級アンモニウム塩型有機化合物とを少なくとも1つ以上含む混合物である前記[1]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0014】
[5] 前記水溶性高分子化合物は、少なくともカルボン酸基を有する単量体及びアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体を更に含有する前記[1]~[4]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0015】
[6] 酸及び/またはその塩を更に含有し、pH値(25℃)が0.1~4.0の範囲である前記[1]~[5]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0016】
[7] 酸化剤を更に含有する前記[1]~[6]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明の研磨剤組成物は、コロイダルシリカと、水溶性高分子化合物と、第4級アンモニウム塩型有機化合物と、水とを含み、前記水溶性高分子化合物がカルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、磁気ディスク基板の研磨に用いることにより、研磨速度を維持しつつ、ハレーション低減、基板表面への残存砥粒や研磨屑の付着の低減を可能とする作用効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0019】
1.研磨剤組成物
本発明の一実施形態である磁気ディスク基板用研磨剤組成物(以下、単に「研磨剤組成物」と称す。)は、コロイダルシリカと、水溶性高分子化合物と、第4級アンモニウム塩型有機化合物と、水とを含み、任意成分として酸及び/またはその塩、酸化剤、その他の添加剤とを含むものである。
【0020】
1.1 コロイダルシリカ
本実施形態の研磨剤組成物に用いられるコロイダルシリカは、平均粒子径(D50)が1~100nmであることが好ましい。より好ましくは、2~80nmであり、更に好ましくは3~40nmである。コロイダルシリカは、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ酸アルカリ金属塩を原料とし、当該原料を水溶液中で縮合反応させて粒子を成長させる水ガラス法、テトラエトキシシラン等のアルコキシシランを原料とし、当該原料をアルコール等の水溶性有機溶媒を含有する水中で、酸またはアルカリでの加水分解による縮合反応によって粒子を成長させるアルコキシシラン法、金属ケイ素と水をアルカリ触媒の存在下に反応させ、水素を発生させながらシリカ粒子を形成させる方法等によって得られる。
【0021】
コロイダルシリカは球状、鎖状、金平糖型、異形型等の形状が知られており、水中に一次粒子が単分散してコロイド状を呈している。使用されるコロイダルシリカとしては、球状または球状に近いコロイダルシリカが特に好ましい。球状、または球状に近いコロイダルシリカを用いることでスクラッチを少なくできる利点を有している。
【0022】
研磨剤組成物中のコロイダルシリカの濃度は、1~50質量%の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、2~40質量%である。
【0023】
1.2 水溶性高分子化合物
本実施形態の研磨剤組成物に用いられる水溶性高分子化合物は、カルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体である。更にカルボン酸基を有する単量体及びアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体を併用することも好ましい態様である。
【0024】
1.2.1 カルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体
カルボン酸基を有する単量体の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、及びそれらの塩が挙げられる。一方、スルホン酸基を有する単量体の例としては、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸及びそれらの塩等が挙げられる。
【0025】
カルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体の具体例としては、アクリル酸/イソプレンスルホン酸共重合体、メタクリル酸/イソプレンスルホン酸共重合体、アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合体、メタクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合体、アクリル酸/2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合体、メタクリル酸/2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合体等が挙げられる。
【0026】
上記カルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体中のカルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位とスルホン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合は、mol比で95:5~5:95の範囲であることが好ましく、より好ましくは、mol比で90:10~10:90であり、更に好ましくは、80:20~20:80である。
【0027】
上記カルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体の重量平均分子量は、好ましくは1,000~1,000,000の範囲であり、更に好ましくは3,000~500,000の範囲である。尚、共重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリアクリル酸換算で測定したものである。
【0028】
上記カルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体の研磨剤組成物中の濃度は、固形分換算で、0.0001~2.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.001~1.0質量%であり、更に好ましくは0.005~0.5質量%である。
【0029】
1.2.2 カルボン酸基を有する単量体及びアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体
本実施形態の研磨剤組成物において、研磨速度を向上させる目的で好ましく使用されるカルボン酸基を有する単量体及びアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体について以下に説明する。
【0030】
カルボン酸基を有する単量体は、一部がカルボン酸の塩として含有されていてもよい。カルボン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルキルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0031】
カルボン酸基を有する単量体を、カルボン酸として含有させるには、カルボン酸基を有する単量体として重合しても良いし、カルボン酸の塩の基を有する単量体を重合した後、陽イオン交換することによりカルボン酸へと変換してもよい。また、カルボン酸基を有する単量体をカルボン酸の塩として含有させるには、カルボン酸塩の基を有する単量体として重合しても良いし、カルボン酸基を有する単量体を重合した後、塩基で中和することによりカルボン酸の塩を形成しても良い。
【0032】
カルボン酸基を有する単量体と、カルボン酸の塩の基を有する単量体との割合を評価するためには、共重合体水溶液のpH値を用いることができる。共重合体水溶液のpH値が低い場合には、カルボン酸基を有する単量体の含有割合が高いと評価できる。一方、共重合体水溶液のpH値が高い場合には、カルボン酸の塩の基を有する単量体の含有割合が高いと評価できる。本発明においては、例えば、濃度10質量%の共重合体水溶液におけるpH値が1~13の範囲の共重合体を用いることができる。
【0033】
アミド基を有する単量体の具体例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミド等が挙げられる。
【0034】
N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミド等の好ましい具体例としては、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-iso-プロピルアクリルアミド、N-n-ブチルアクリルアミド、N-iso-ブチルアクリルアミド、N-sec-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-iso-プロピルメタクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N-iso-ブチルメタクリルアミド、N-sec-ブチルメタクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミド等が挙げられる。なかでも、N-n-ブチルアクリルアミド、N-iso-ブチルアクリルアミド、N-sec-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N-iso-ブチルメタクリルアミド、N-sec-ブチルメタクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミドが特に好ましい。
【0035】
これらの単量体成分を組み合わせて重合することにより、共重合体とすることが好ましい。共重合体の組み合わせとしては、アクリル酸及び/またはその塩とN-アルキルアクリルアミドの組み合わせ、アクリル酸及び/またはその塩とN-アルキルメタクリルアミドの組み合わせ、メタクリル酸及び/またはその塩とN-アルキルアクリルアミドの組み合わせ、メタクリル酸及び/またはその塩とN-アルキルメタクリルアミドの組み合わせが好ましく用いられる。なかでも、N-アルキルアクリルアミドまたはN-アルキルメタクリルアミドのアルキル基が、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基からなる群より選択される少なくとも1つであるものが特に好ましく用いられる。
【0036】
上記カルボン酸基を有する単量体及びアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体中のカルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位とアミド基を有する単量体に由来する構成単位の割合は、mol比で95:5~5:95の範囲であることが好ましく、更に好ましくは、mol比で90:10~10:90である。
【0037】
上記カルボン酸基を有する単量体及びアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体の重量平均分子量は、好ましくは1,000~1,000,000の範囲であり、更に好ましくは3,000~500,000の範囲である。尚、共重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリアクリル酸換算で測定したものである。
【0038】
上記カルボン酸基を有する単量体及びアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体の研磨剤組成物中の濃度は、固形分換算で0.0001~2.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.001~1.0質量%であり、更に好ましくは0.005~0.5質量%である。
【0039】
1.2.3 水溶性高分子化合物の製造方法
水溶性高分子化合物の製造方法は特に制限されないが、例えば、水溶液重合法が好ましい。水溶液重合法によれば、均一な溶液として水溶性高分子化合物を得ることができる。
【0040】
上記水溶液重合の重合溶媒としては、水性の溶媒であることが好ましく、特に好ましくは水である。また、上記単量体成分の溶媒への溶解性を向上させるために、各単量体の重合に悪影響を及ぼさない範囲で有機溶媒を加えてもよい。上記有機溶媒としては、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
以下に、上記水性溶媒を用いた水溶性高分子化合物の製造方法を説明する。重合反応では、公知の重合開始剤を使用できるが、特にラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。
【0042】
ラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、過酸化水素等の水溶性過酸化物、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類等の油溶性過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド等のアゾ化合物が挙げられる。これらの過酸化物系のラジカル重合開始剤は、1種類のみ使用しても、または2種類以上併用してもよい。
【0043】
上記のラジカル重合開始剤の使用量は、特に制限されないが、水溶性高分子化合物の全単量体合計質量に基づいて、0.1~15質量%、特に0.5~10質量%の割合で使用することが好ましい。この割合を0.1質量%以上にすることにより、共重合率を向上させることができ、15質量%以下にすることにより、水溶性高分子化合物の安定性を向上させることができる。
【0044】
また、場合によっては、水溶性高分子化合物は、水溶性レドックス系重合開始剤を使用して製造してもよい。レドックス系重合開始剤としては、酸化剤(例えば上記の過酸化物)と、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、ハイドロサルファイトナトリウム等の還元剤や、鉄明礬、カリ明礬等の組み合わせを挙げることができる。
【0045】
水溶性高分子化合物の製造において、分子量を調整するために、連鎖移動剤を重合系に適宜添加してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、2-プロパンチオール、2-メルカプトエタノール及びチオフェノール等が挙げられる。
【0046】
水溶性高分子化合物を製造する際の重合温度は、特に制限されないが、重合温度は60~100℃で行うのが好ましい。重合温度を60℃以上にすることで、重合反応が円滑に進行し、かつ生産性に優れるものとなり、100℃以下とすることで着色を抑制することができる。
【0047】
また、重合反応は、加圧または減圧下に行うことも可能であるが、加圧あるいは減圧反応用の設備にするためのコストが必要になるので、常圧で行うことが好ましい。重合時間は、2~20時間、更には3~10時間で行うことが好ましい。
【0048】
重合反応後、必要に応じて塩基性化合物で中和を行う。中和に使用する塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア水、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン類等が挙げられる。
【0049】
中和後のpH値(25℃)は、水溶性高分子化合物濃度が10質量%の水溶液の場合、2~9が好ましく、更に好ましくは3~8である。
【0050】
1.3 第4級アンモニウム塩型有機化合物
本実施形態の研磨剤組成物に含有される第4級アンモニウム塩型有機化合物は、窒素原子に結合する炭化水素基が炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基及び/または炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基で構成される第4級アンモニウム塩型有機化合物である。
【0051】
具体例としては、ビニルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジビニルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムフルオライド、ジアリルジメチルアンモニウムブロマイド、ジアリルジメチルアンモニウムアイオダイド、ジアリルジエチルアンモニウムクロライド、テトラアリルアンモニウムクロライド、ジエチルジメチルアンモニウムクロライド、トリエチルメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、ジブチルジメチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、オクチルトリメチルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0052】
第4級アンモニウム塩型有機化合物は、研磨剤組成物のぬめり感抑制及び研磨速度低下抑制の観点から、窒素原子に結合する4つの炭化水素基が炭素数1~10の飽和脂肪族炭化水素基及び/または炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基からなる第4級アンモニウム塩型有機化合物が好ましく用いられる。
【0053】
また、これらの第4級アンモニウム塩型有機化合物は、単独で用いることもできるし、2種類以上の第4級アンモニウム塩型有機化合物を混合して用いることもできる。特に窒素原子に結合する炭化水素基が4つの炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基で構成される第一の第4級アンモニウム塩型有機化合物と、窒素原子に結合する炭化水素基のうち少なくとも1つ以上の炭化水素基が炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基であり、残余の炭化水素基が炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基である第二の第4級アンモニウム塩型有機化合物とを少なくとも一つ以上含む混合物を用いることが好ましい。更に具体的に示すと、例えば、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドとドデシルトリメチルアンモニウムクロライドとを含む混合物を用いることができる。
【0054】
第4級アンモニウム塩型有機化合物の研磨剤組成物中の濃度は、通常0.00001~1.0質量%であり、好ましくは0.00005~0.5質量%であり、より好ましくは0.0001~0.3質量%であり、更に好ましくは0.0001~0.1質量%である。
【0055】
1.4 酸及び/またはその塩
本実施形態の研磨剤組成物は、pH値(25℃)の制御の目的で酸及び/またはその塩を含有することができる。具体的には、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸等の無機酸及び/またはその塩、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミン(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸等の有機ホスホン酸及び/またはその塩、グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノカルボン酸及び/またはその塩、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、ニトロ酢酸、マレイン酸等のカルボン酸及び/またはその塩等が挙げられる。
【0056】
上記の化合物は2種以上を組み合わせて使用することも好ましい実施態様であり、具体的には、硫酸及び/またはその塩と有機ホスホン酸及び/またはその塩との組み合わせ、リン酸及び/またはその塩と有機ホスホン酸及び/またはその塩の組み合わせ等が挙げられる。
【0057】
研磨剤組成物中の酸及び/またはその塩の含有量は、研磨剤組成物のpH値(25℃)の設定に応じて適宜決められる。
【0058】
1.5 酸化剤
本発明の研磨剤組成物は、研磨速度を向上させるために酸化剤を含有することができる。酸化剤としては、過酸化物、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、過ヨウ素酸またはその塩等が挙げられる。
【0059】
具体例としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、過マンガン酸カリウム、オルト過ヨウ素酸、メタ過ヨウ素酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でも過酸化水素が好ましい。酸化剤は、研磨剤組成物中の含有量として、通常0.1~10.0質量%の範囲で使用される。酸化剤が0.1質量%以上含有されることにより、研磨速度が向上する。酸化剤が10.0質量%以上含有されても、研磨速度の向上は認められず、経済的に不利である。
【0060】
本発明の研磨剤組成物は、上記成分の他に、緩衝剤、防カビ剤、防菌剤等を含有してもよい。
【0061】
1.6 水
本発明で使用される水は、蒸留水、イオン交換水等の不純物を除去した水が好ましく用いられる。水は研磨剤組成物の流動性を制御する機能を有するので、その含有量は、研磨速度のような目標とする研磨特性に合わせて適宜決定することができる。例えば、水の含有割合は50~95質量%とすることが好ましい。水の含有量が、研磨剤組成物の50質量%未満では、研磨剤組成物の粘性が高くなり、流動性が損なわれる場合がある。一方、水の含有量が95質量%を超えると、砥粒濃度が低くなり、十分な研磨速度が得られない場合がある。
【0062】
2.物性
研磨剤組成物のpH値(25℃)は、0.1~4.0であることが好ましく、より好ましくは0.5~3.0である。研磨剤組成物のpH値(25℃)が0.1以上であることにより、表面平滑性の悪化を抑制することができる。研磨剤組成物のpH値(25℃)が4.0以下であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。
【0063】
本発明の研磨剤組成物の好適に用いられる無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の研磨においては、無電解ニッケル-リンめっき皮膜がpH値(25℃)4.0以下の条件下で溶解傾向に向かうことから、研磨速度向上の観点からpH値(25℃)が4.0以下の研磨剤組成物が好ましく用いられる。
3. 磁気ディスク基板の研磨方法
本発明の研磨剤組成物は、無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板やガラス磁気ディスク基板等の磁気ディスク基板の研磨での使用に適している。特に無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の研磨での使用に適している。更には無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の仕上げ研磨での使用に適している。
【0064】
本実施形態の研磨剤組成物を適用することが可能な研磨方法としては、例えば、研磨機の定盤に研磨パッドを貼り付け、研磨対象物(例えばアルミニウム磁気ディスク基板)の研磨する表面または研磨パッドに研磨剤組成物を供給し、研磨する表面を研磨パッドで擦りつける方法がある。
【0065】
例えば、アルミニウム磁気ディスク基板のおもて面と裏面を同時に研磨する場合には、上定盤及び下定盤それぞれに貼りつけた研磨パッドでアルミニウム磁気ディスク基板を挟み込み、研磨面と研磨パッドの間に研磨剤組成物を供給し、2つの研磨パッドを同時に回転させることによって、アルミニウム磁気ディスク基板のおもて面と裏面を研磨する。
【0066】
研磨パッドは、種々のタイプのパッドを使用することができる。また研磨パッドの表面形状としては、溝あり、溝無し、いずれの研磨パッドも使用することができる。
【実施例0067】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでなく、本発明の技術的範囲に属する限り、種々の態様で実施できることはいうまでもない。
【0068】
(1)研磨剤組成物の調製方法
実施例1~13及び、比較例1~4で使用した研磨剤組成物は、コロイダルシリカ、酸、酸化剤、第4級アンモニウム塩型有機化合物、水溶性高分子化合物を、表1に記載した種類、及び研磨剤組成物中の含有量となるように調製された研磨剤組成物である。
【0069】
ここで、表1において、「AA」はアクリル酸を示し、「TBAA」はN-tert-ブチルアクリルアミド、及び「ATBS」は2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸をそれぞれ示す。水溶性高分子化合物は、表1に記載した通り、合成番号1及び2の重合体を使用した。
【0070】
【0071】
(実施例1の調製)
純水中に、コロイダルシリカ、硫酸、過酸化水素、水溶性高分子化合物として合成番号1の重合体、及び第4級アンモニウム塩型有機化合物としてジアリルジメチルアンモニウムクロライドを、表1に記載の含有量となるように攪拌しながら添加することにより研磨剤組成物を調製した。
【0072】
(実施例2の調製)
実施例1において、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドの添加量を表1に記載の添加量にすること以外は、実施例1と同様に研磨剤組成物を調製した。
【0073】
(実施例3の調製)
実施例1において、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドの添加量を表1に記載の添加量にすること以外は、実施例1と同様に研磨剤組成物を調製した。
【0074】
(実施例4の調製)
実施例1において、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドの添加量を表1に記載の添加量にすること以外は、実施例1と同様に研磨剤組成物を調製した。
【0075】
(実施例5の調製)
実施例1において、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドに代えてテトラブチルアンモニウムクロライドを用いること以外は、実施例1と同様に研磨剤組成物を調製した。
【0076】
(実施例6の調製)
実施例1において、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドに代えてn-オクチルトリメチルアンモニウムクロライドを用いること以外は、実施例1と同様に研磨剤組成物を調製した。
【0077】
(実施例7の調製)
実施例1において、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドに代えてデシルトリメチルアンモニウムクロライドを用いること以外は、実施例1と同様に研磨剤組成物を調製した。
【0078】
(実施例8の調製)
実施例1において、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドに代えてドデシルトリメチルアンモニウムクロライドを用いること以外は、実施例1と同様に研磨剤組成物を調製した。なお、調製後の実施例8の研磨剤組成物は、ぬめり感が認められた。
【0079】
(実施例9の調製)
実施例1において、第4級アンモニウム塩型有機化合物としてジアリルジメチルアンモニウムクロライドに加えてドデシルトリメチルアンモニウムクロライドを表1に記載の含有量となるように添加すること以外は、実施例1と同様に研磨剤組成物を調製した。なお、調製後の実施例9の研磨剤組成物は、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドの添加量が少ないため、ぬめり感が認められなかった。
【0080】
(実施例10の調製)
実施例9において、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドの添加量を表1に記載の添加量にすること以外は、実施例9と同様に研磨剤組成物を調製した。なお、調製後の実施例10の研磨剤組成物は、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドの添加量が少ないため、ぬめり感が認められなかった。
【0081】
(実施例11の調製)
実施例9において、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドの添加量を表1に記載の添加量にすること以外は、実施例9と同様に研磨剤組成物を調製した。なお、調製後の実施例11の研磨剤組成物は僅かにぬめり感が認められた。
【0082】
(実施例12の調製)
実施例1において、水溶性高分子化合物として合成番号1の重合体に加えて合成番号2の重合体を表1に記載の含有量となるように添加すること以外は、実施例1と同様に研磨剤組成物を調製した。
【0083】
(実施例13の調製)
実施例9において、水溶性高分子化合物として合成番号1の重合体に加えて合成番号2の重合体を表1に記載の含有量となるように添加すること以外は、実施例9と同様に研磨剤組成物を調製した。なお、調製後の実施例12の研磨剤組成物は、ぬめり感が認められなかった。
【0084】
(比較例1の調製)
実施例1において、水溶性高分子化合物及び第4級アンモニウム塩型有機化合物を添加しないこと以外は同様にして、比較例1の研磨剤組成物を調製した。
【0085】
(比較例2の調製)
実施例1において、第4級アンモニウム塩型有機化合物を添加しないこと以外は同様にして、比較例2の研磨剤組成物を調製した。
【0086】
(比較例3の調製)
実施例12において、第4級アンモニウム塩型有機化合物を添加しないこと以外は同様にして、比較例3の研磨剤組成物を調製した。
【0087】
(比較例4の調製)
実施例8において、水溶性高分子化合物を添加しないこと以外は実施例8と同様にして、比較例4の研磨剤組成物を調製した。なお、調製後の比較例4の研磨剤組成物は、ぬめり感が認められた。
【0088】
上記のように調製された実施例1~13、及び比較例1~4の研磨剤組成物を用いて、研磨試験を行った結果を下記の表2に示す。
【0089】
【0090】
なお、研磨剤組成物に含有される水溶性高分子化合物として、表1に記載の合成番号1及び2の共重合体をそれぞれ使用した。ここで、水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリアクリル酸換算で測定したものである。以下にGPC測定条件を示す。
【0091】
(2)GPC測定条件
カラム:G4000PWXL(東ソー株式会社製)+G2500PWXL(東ソー株式会社製)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/アセトニトリル=9/1(容量比)
流速:1.0ml/min
温度:40℃
検出:210nm(UV)
サンプル:濃度5mg/ml(注入量100μl)
検量線用ポリマー:ポリアクリル酸 分子量(ピークトップ分子量:Mp)11.5万、2.8万、 4100、 1250(創和化学株式会社製、American Polymer Standards Corp.製)
【0092】
(3)コロイダルシリカの粒子径及び平均粒子径測定方法
コロイダルシリカの粒子径(Heywood径)は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製、透過型電子顕微鏡 JEM2000FX(200kV))を用いて倍率10万倍の視野を撮影し、この写真を解析ソフト(マウンテック株式会社製、Mac-View Ver. 4.0)を用いて解析することによりHeywood径(投射面積円相当径)として測定した。
【0093】
コロイダルシリカの平均粒子径は前述の方法で2000個程度のコロイダルシリカの粒子径を解析し、小粒径側からの積算粒径分布(累積体積基準)が50%となる粒子径を上記解析ソフト(マウンテック株式会社製、Mac-View Ver. 4.0)を用いて算出した平均粒子径(D50)である。
【0094】
(4)研磨条件
無電解ニッケル-リンめっきされた外径97mmのアルミニウム磁気ディスク基板を粗研磨したものを研磨対象とした。
研磨機:スピードファム株式会社製、9B両面研磨機
研磨パッド:株式会社FILWEL社製 P2用パッド
定盤回転数:上定盤 -6.7min-1
下定盤 20.0min-1
研磨剤組成物供給量: 100ml/min
研磨時間: 340秒
加工圧力: 14kPa
【0095】
(5)研磨したディスク表面の評価
(5-1)研磨速度比
研磨速度は、研磨後に減少したアルミニウム磁気ディスク基板の質量を測定し、下記式に基づいて計算した。
研磨速度(mg/min)=アルミニウム磁気ディスク基板の質量減少(mg)/研磨時間(min)
更に、研磨速度比は、比較例1で基板を研磨した時に上記式を用いて求めた研磨速度を1(基準)とした場合の相対値である。
【0096】
(5-2)研磨後の基板表面のハレーション評価方法
ハレーションは、基板全表面欠陥検査機(株式会社日立ハイテクファインテクノロジーシステムズ社製 NS2000H)を使用して測定した。
【0097】
ここで、ハレーションの測定条件は下記の通りである。
PMT/APD Power Control Voltage
Hi-Light 1 OFF
Hi-Light 2 875V
Scan Pitch 3μm
Inner/Outer Radius 15.500-48.000mm
Positive Level 73mV
H2 White Spot Level 250mV
【0098】
ハレーションは、上記検査条件において、基板表面に微細な欠陥として検出され、ハレーションカウントとして定量評価できる。こうして得られたハレーションカウント数を、以下の基準でランク付けした。ランク付けした結果を上記の表2に示す。
◎:カウント数0~499
〇:カウント数500~549
△:カウント数550~599
×:カウント数600以上
【0099】
(5-3)研磨剤の洗浄性の評価方法
各実施例・各比較例で研磨後のアルミニウム磁気ディスク基板の基板表面をイオン交換水でリンスし、その後イオン交換水を用いてスクラブ洗浄を行い、スクラブ洗浄後、更にイオン交換水でリンスを行った後、スピン乾燥を行った。得られたアルミニウム磁気ディスク基板を、洗浄性評価用の基板とした。なお、上記の操作はクリーンルーム内で実施した。
【0100】
上記で得られた洗浄性評価用の基板を、基板表面の微細な残留パーティクルを強調し、検査することができる検査装置(ビジョンサイテックス社製 MicroMAX VMX-4100)を用いて、アルミディスクのおもて面と裏面に対して、下記の測定条件下でおもて面を6視野、裏面を6視野(合計12視野)観察し、一つの視野中(9mm×7mm)に観察された残留パーティクルの数を計測した。そして、上述の方法で観察された残留パーティクルの数について、下記「洗浄性評価基準」に照らしあわせて12視野合計の残留パーティクルの数から1視野当たりの平均残留パーティクル数を計算し、ランク付けした。ランク付けした結果を表2に示す。
【0101】
(5-4)検査装置(MicroMAX VMX-4100)の測定条件
傾斜:-5°
アイリス:10
ズーム:10
【0102】
洗浄性評価基準(1視野当たりの平均残留パーティクル数)
◎:残留パーティクル数0~1.0個
〇:残留パーティクル数1.1~2.0個
△:残留パーティクル数2.1~5.0個
×:残留パーティクル数>5.1個
【0103】
(6)考察
実施例1~8は、水溶性高分子化合物と第4級アンモニウム塩型有機化合物との双方を含有している研磨剤組成物を用いることにより、いずれも含有しない研磨剤組成物を用いた比較例1に比べて洗浄性が著しく向上し、研磨速度も向上していることが認められた。
【0104】
これに対し、水溶性高分子化合物のみ含有する比較例2は、比較例1に対して洗浄性の向上がやや認められるものの不十分であり、水溶性高分子化合物及び第4級アンモニウム塩型有機化合物を含有する実施例1が比較例2よりも更に洗浄性が向上していることが認められた。
【0105】
更に、第4級アンモニウム塩型有機化合物のみ含有する比較例4は、比較例1に比べて洗浄性は向上するもののハレーションが悪化し、研磨速度も低下している。一方、第4級アンモニウム塩型有機化合物と水溶性高分子化合物を含有する実施例1~8ではハレーションは良好であり、しかも研磨速度は向上している。
【0106】
実施例2~4は、実施例1において第4級アンモニウム塩型有機化合物の含有量を変化させた実施例である。実施例5~8は、実施例1において第4級アンモニウム塩型有機化合物の種類を変更した実施例である。
【0107】
第4級アンモニウム塩型有機化合物としてドデシルトリメチルアンモニウムクロライドを用いた比較例4と実施例8を比べると、実施例8は比較例4に比べて洗浄性が向上し、ハレーションが改善され研磨速度も向上している。これは水溶性高分子化合物と第4級アンモニウム塩型有機化合物の併用による相乗効果によるものである。
【0108】
実施例9は、実施例2と第4級アンモニウム塩型有機化合物の総添加量を同じにして、2種類の第4級アンモニウム塩型有機化合物を併用した実施例であり、実施例2よりも洗浄性が向上している。
【0109】
実施例10は、実施例3と第4級アンモニウム塩型有機化合物の総添加量を同じにして、2種類の第4級アンモニウム塩型有機化合物を併用した実施例であり、実施例3よりも洗浄性が向上している。
【0110】
実施例11は、実施例4と第4級アンモニウム塩型有機化合物の総添加量を同じにして、2種類の第4級アンモニウム塩型有機化合物を併用した実施例であり、実施例4よりも洗浄性が向上している。
【0111】
実施例12は、実施例1において合成番号1の水溶性高分子化合物に加えて合成番号2の水溶性高分子化合物を更に添加した実施例であり、実施例1よりも研磨速度が向上している。同時に実施例12は、比較例3において第4級アンモニウム塩型有機化合物を添加した実施例であり、洗浄性が向上している。
【0112】
実施例13は、実施例9において合成番号1の水溶性高分子化合物に加えて合成番号2の水溶性高分子化合物を更に添加した実施例であり、実施例9よりも研磨速度が向上している。
【0113】
以上のことから、本発明の水溶性高分子化合物と第4級アンモニウム塩型有機化合物を含有する研磨剤組成物は、いずれも含有しない比較例1、いずれか一方を含有する比較例2~4に比べて研磨速度、ハレーション、及び洗浄性のバランスに優れていることが明らかである。
本発明の研磨剤組成物は、半導体、ハードディスクといった磁気記録媒体等の電子部品の研磨に使用することができる。特に、ガラス磁気ディスクやアルミニウム磁気ディスク等の磁気記録媒体用基板の表面研磨に使用することができる。更には、アルミニウム合金製の基板表面に無電解ニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム基板の仕上げ研磨に好適に使用することができる。