(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013598
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】コレットチャック
(51)【国際特許分類】
B23B 31/20 20060101AFI20240125BHJP
B23Q 3/12 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
B23B31/20 H
B23Q3/12 J
B23B31/20 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115803
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】100125737
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 昭博
(72)【発明者】
【氏名】木村 敏隆
【テーマコード(参考)】
3C016
3C032
【Fターム(参考)】
3C016FA39
3C032JJ04
3C032JJ18
(57)【要約】
【課題】引き込み過ぎによる破損を防止するコレットチャックを提供すること。
【解決手段】引込み側に径を小さくした第1テーパ部が形成され軸方向に変位するチャック用マンドレルと、前記チャック用マンドレルの径方向外側に配置され、中心軸に平行な複数のスリットが円周方向に形成された筒状体であって、その内径側先端部に前記第1テーパ部と摺接する第2テーパ部が形成されたコレット部材と、前記コレット部材の径方向外側に配置されワークが当てられる当金と、を有し、前記コレット部材または前記当金には、径方向外側へ撓められた前記コレット部材の変形を抑えるためのストッパ部が形成されたコレットチャック。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
引込み側に径を小さくした第1テーパ部が形成され軸方向に変位するチャック用マンドレルと、
前記チャック用マンドレルの径方向外側に配置され、中心軸に平行な複数のスリットが円周方向に形成された筒状体であって、その内径側先端部に前記第1テーパ部と摺接する第2テーパ部が形成されたコレット部材と、
前記コレット部材の径方向外側に配置されワークが当てられる当金と、
を有し、
前記コレット部材または前記当金には、径方向外側へ撓められた前記コレット部材の変形を抑えるためのストッパ部が形成されたコレットチャック。
【請求項2】
前記コレット部材に形成された前記ストッパ部は前記当金の内周面に当たる凸部であり、前記当金に形成された前記ストッパ部は前記コレット部材の外周面に当たる凸部である請求項1に記載のコレットチャック。
【請求項3】
前記コレット部材のクランプ面がワークに当たるまでの径方向変位量である第1開き代に比べ、前記コレット部材が前記ストッパによって止められるまでの径方向の変位量である第2開き代が大きい請求項1または請求項2に記載のコレットチャック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引込み動作によってワークの内径を把持するコレットに関して、引き込み過ぎによる破損を防止するようにしたコレットチャックに関する。
【背景技術】
【0002】
コレットチャックには様々なタイプのものがあるが、下記特許文献1には引込み型であってワークの内径を把持するものが開示されている。そのコレットチャックは、ワークに形成された穴にコレットが挿入され、その内側には引込み側に径を小さくしたテーパ部を有するチャック用マンドレルが挿入されている。そのチャック用マンドレルはコレットの内部側へと引き込むためのピストンに連結されている。すなわち、従来のコレットチャックは、チャック本体の内部にシリンダが設けられ、その伸縮動作によってワークの把持および解放が行われるよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来例のようにチャック本体の内部にシリンダを構成したコレットチャックは、それ自体が大型化し且つ重くなってしまうため、例えば工作機械の主軸装置に使用するための主軸チャックとしては適してなかった。そこで、主軸装置を構成するコレットチャックは、チャック用マンドレルが外部のシリンダとドローバを介して連結され、その伸縮動作によって開閉操作が行われている。こうしたコレットチャックであれば、小型軽量化によって回転する主軸装置にも適している。
【0005】
一方で、両者をワークWが無い状態で把持動作を行う空クランプについて比較する。前記従来例のコレットチャックは、小ストロークのシリンダによって引込み過ぎになってしまうことはないが、外部シリンダはストロークが大きく、引込み過ぎによってコレットチャックを破損させてしまうおそれがある。従って、外部シリンダによって把持動作が操作されるコレットチャックには適切なストッパを設けることが必要であった。
【0006】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、引き込み過ぎによる破損を防止するコレットチャックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るコレットチャックは、引込み側に径を小さくした第1テーパ部が形成され軸方向に変位するチャック用マンドレルと、前記チャック用マンドレルの径方向外側に配置され、中心軸に平行な複数のスリットが円周方向に形成された筒状体であって、その内径側先端部に前記第1テーパ部と摺接する第2テーパ部が形成されたコレット部材と、前記コレット部材の径方向外側に配置されワークが当てられる当金と、を有し、前記コレット部材または前記当金には、径方向外側へ撓められた前記コレット部材の変形を抑えるためのストッパ部が形成されたものである。
【発明の効果】
【0008】
前記構成によれば、チャック用マンドレルの引込みによりその第1テーパ部がコレット部材の第2テーパ部に摺接し、そのことにより径方向外側へと押されたコレット部材によってワークが把持される。一方で、存在するはずのワークが無いままチャック用マンドレルの引込みを行う空クランプでは、コレット部材または当金に形成されたストッパ部が径方向外側へ撓められたコレット部材の変形を抑えるため、引き込み過ぎによるコレット部材の破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】コレットチャックの一実施形態を示した断面図である。
【
図2】第1実施形態のチャック機構を示した図である。
【
図3】第2実施形態のチャック機構を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係るコレットチャックの一実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。
図1は、本実施形態のコレットチャックを示した断面図である。コレットチャック1は、工作機械の主軸装置を構成するものであり、回転自在なスピンドル7の先端部に固定され、不図示のスピンドルモータによって回転が与えられる。また、スピンドル7の中心部にはドローバ8が通され、チャック装置1は、不図示の油圧シリンダによって軸方向に変位するドローバ8を介してその開閉動作が行われるよう構成されている。
【0011】
コレットチャック1は、スピンドル7に対して端面部に環状のスペーサ9がねじ止めされ、そのスペーサ9に対して更にチャック本体5がねじ止めによって固定され一体になっている。このチャック本体5には、その回転中心Oに重なる中央部分の正面側にチャック機構3が構成されている。
【0012】
チャック機構3は、ドローバ8の端部にチャック用マンドレル11が同軸上に固定され、主軸装置を構成する油圧シリンダの伸縮によって軸方向に変位するよう構成されている。特に、ワークWを把持する際のチャック用マンドレル11は、図面左側に位置する油圧シリンダによってチャック本体5の内部側へと引き込まれるようになっている。そうしたチャック用マンドレル11は、円柱部材の正面側先端部に、引込み側へと径が小さくなるように傾斜した第1テーパ部21が形成されている。
【0013】
チャック用マンドレル11は、径方向外側に配置された筒形状のブシュ12に嵌め込まれ、その中を回転中心Oに沿って摺動するよう構成されている。コレットチャック1は、更にブシュ12の径方向外側にコレット部材13が設けられている。筒状体のコレット部材13は、中心軸に平行な複数のスリットが円周方向に等間隔に形成され、その先端部内径側にはチャック用マンドレル11の引込み方向に径が大きくなるように傾斜した第2テーパ部23が形成されている。
【0014】
コレット部材13の第2テーパ部23は、チャック用マンドレル11の先端部に形成された第1テーパ部21と向かい合い、ワークWを把持する際に摺接するよう配置されている。そうしたコレット部材13の径方向外側には当金15が配置されている。その当金15は、加工対象であるワークWが当てられる正面側端面を基準面とするものである。そしてコレット部材13には、後述するように空クランプに対応して当金15に当てられる凸部26が外径側に形成されている。
【0015】
チャック機構3に対して位置決めされたワークWは、その内径側にコレット部材13のクランプ面25が当接することによって把持される。具体的には、チャック用マンドレル11が図面左側に引き込まれて変位することにより、その第1テーパ部21とコレット部材13の第2テーパ部23とが摺接する。それによりコレット部材13の先端部分が外径方向に撓められ、クランプ面25がワークWの内径部に押し付けられて把持状態が維持されることとなる。
【0016】
ところが、本実施形態と同様なタイプのコレットチャックは、チャック用マンドレルの引き込み過ぎによってコレット部材を破損させてしまう問題があった。ワークWが無い状態で把持動作を行う空クランプによって起こり得る現象である。
図4は、そうした課題を有する従来のコレットチャックについてチャック機構を示した断面図である。なお、ここではコレット部材の動きを分かり易くするためハッチングは省略している。
【0017】
チャック機構100は、
図1に示したチャック機構3と基本的には同じ構造であって、チャック用マンドレル101が図面左側に引き込まれることにより、その変位量に応じて外側のコレット部材103が外径方向に撓められ、ワークWの内径部を把持するものである。なお、チャック用マンドレル101を引き込むための構造は
図1と同様であり、ドローバを介して油圧シリンダの引込み力が伝達される。
【0018】
従来のチャック機構100は、空クランプによってチャック用マンドレル101が一点鎖線の位置まで引き込まれると、コレット部材103が同じく一点鎖線で示すように外側へと撓められる。このときコレット部材13は、当金105に当たるまで撓められてしまい、その変形量Cが大きく塑性変形が生じてしまっていた。すると、コレット部材103は、その後の使用ができなくなってしまい交換が必要であった。こうした空クランプはオートローダによる受け渡しミスなどによって一定程度起こり得る。
【0019】
コレットチャックは、ワークWを把持する際のコレット部材による開き代(径方向の変位量)が例えば1ミリ以下に設定されているが、これを油圧シリンダによってストローク調整するのは困難である。そのためドローバにストッパを設けてチャック用マンドレルの引き込み過ぎを防止する措置がとられている。一般的には、ドローバに対して油圧シリンダ側よりもチャック用マンドレル側の径が大きくなるように段付き形状が形成され、その段差部分がチャック本体内に形成された段部に突き当たることにより、一定以上の引込みが止められるようになっている。
【0020】
しかし、本実施形態のコレットチャック1は、
図1に示すように、ドローバ8の径がチャック用マンドレル11側に向けて小さくなっている。これはドローバ8の内部を軸方向に通した複数の流路が存在するためである。具体的には、
図1には図示していないコレットチャック1における補助機構へエアを送るため、ドローバ8の中心部には動作用エア流路27が形成されている。また、ドローバ8には、当金15に当てられたワークWの着座判定を行うための着座判定用エア流路28が形成されている。
【0021】
よって、チャック本体5内でドローバ8の径を更に大きくする構成をとってしまうと、コレットチャック1が無駄に大きくなってしまうほか、チャック本体5内に設けられる不図示の補助機構に対する組付けスペースにも影響を及ぼすことになる。その一方で、ストッパを新たな構造としてチャック本体5内に組み込むことも考えられるが、設計変更などによってコストが上がり、また、スペースを確保するなど新たな課題が生じることとなる。そこで、本実施形態では、部品点数を増やすことなく、軽微な改良によって課題を解決する構成が採られている。
【0022】
ここで
図2は、本実施形態のチャック機構3を示した図であり、
図4と同じくコレット部材の動きを分かり易くするためハッチングを省略している。チャック機構3は、コレット部材13に変更が加えられ、外径側に凸部26が形成されている。凸部26は、当金15の内周面に当たる位置に形成されたものであり、撓められたコレット部材13の変形量を抑えるためのストッパである。コレット部材13は、第2テーパ部23の外径側にクランプ面25が形成され、そのクランプ面25がワークWの内径部に当接する。
【0023】
チャック用マンドレル11によって外側へと撓められるコレット部材13は、クランプ面25がワークWに当たって把持するまでの第1開き代Aが0.5ミリに設定されている。一方、同じく撓められて凸部26が当金15に当たるまでの第2開き代Bは0.9ミリに設定されている。すなわち、引込み過ぎを防止の第2開き代Bは、ワークWを把持するための第1開き代Aよりも大きな値で設定され、凸部26がチャック機構3における通常の把持動作において機能することはない。
【0024】
こうしたコレットチャック1によれば、油圧シリンダによって引き込まれたチャック用マンドレル11は、その第1テーパ部23が摺接する第2テーパ部23を介してコレット部材13を撓めるが、クランプ面25がワークWに当たってそれ以上引き込まれることはない。そして、空クランプが生じてしまった場合でも、コレット部材13を撓んで凸部26が当金15に当たるため、チャック用マンドレル11がそれ以上引き込まれることがない。
【0025】
よって、本実施形態のコレットチャック1は、コレット部材13に凸部26を追加しただけの簡単な改良が施され、これによりチャック用マンドレル11の引き込み過ぎによる破損を防止することが可能になる。なお、第1および第2開き代A,Bは、チャック機構の大きさなどによって適宜設定可能な値である。
【0026】
次に、
図3は、
図2と同じようにチャック機構の第2実施形態を示した図である。そのチャック機構4は当金35側に変更が加えられ、他の構成は従来と同じである。すなわち中心にはドローバ8の端部に固定されたチャック用マンドレル31があり、その径方向外側に配置された筒形状のブシュ32とコレット部材33とが設けられ、更にその径方向外側には当金35が配置されている。本実施形態の当金35には内径側に凸部46が形成され、撓められたコレット部材33の変形量を抑えるためのストッパとして機能する。
【0027】
本実施形態でもワークを把持する場合と凸部46がストッパとして機能する場合のコレット部材33による開き代が同じ値で設定されている。すなわち、チャック用マンドレル31によって外側へと撓められるコレット部材33は、クランプ面45がワークWに当たって把持するまでの第1開き代が0.5ミリに設定され、同じく撓められて凸部46に当たるまでの第2開き代は0.9ミリに設定されている。なお、この第1および第2開き代に関しても値は適宜設定可能である。
【0028】
こうしたコレットチャックによれば、油圧シリンダに引き込まれたチャック用マンドレル31によってコレット部材33が撓められ、クランプ面45が当てられたワークが把持される。そして、空クランプが生じてしまった場合でも、撓んだコレット部材33が当金35の凸部46に当たるため、それ以上にチャック用マンドレル31が引き込まれることはない。よって、本実施形態では当金35に対する簡単な改良が施され、これによりチャック用マンドレル31の引き込み過ぎによる破損を防止することが可能になる。
【0029】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、外部の油圧シリンダによってチャック用マンドレルを引き込むコレットチャックを示したが、従来例のようにチャック本体内にシリンダを組み込んだコレットチャックであってもよい。
【符号の説明】
【0030】
1…コレットチャック 3…チャック機構 5…チャック本体 11…チャック用マンドレル 12…ブシュ 13…コレット部材 15…当金 21…第1テーパ部 23…第2テーパ部 25…クランプ面 26…凸部 W…ワーク