(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135990
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/21 20170101AFI20240927BHJP
H01M 4/587 20100101ALN20240927BHJP
H01M 4/36 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
C01B32/21
H01M4/587
H01M4/36 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046931
(22)【出願日】2023-03-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構「研究成果展開事業 共創の場形成支援(産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム)」事業、研究題目「地域資源活用型エネルギーエコシステムを構築するための基盤技術の創出」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 順三
(72)【発明者】
【氏名】松原 伸典
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 永宏
(72)【発明者】
【氏名】キム ギュソン
【テーマコード(参考)】
4G146
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146AA19
4G146AB01
4G146AC16B
4G146AC20B
4G146AD15
4G146AD22
4G146AD23
4G146BA02
4G146BC16
4G146BC47
4G146CA16
4G146DA16
5H050CB08
5H050GA02
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】本発明は、黒鉛微粒子の表面に所望の性質を有するコーティング層を形成する手段を提供する。
【解決手段】本発明の一態様は、黒鉛微粒子に、窒素含有化合物を含む溶媒を用いてソリューションプラズマ処理を行って、該黒鉛微粒子の表面に薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層を形成する、薄膜形成工程、を含む、薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子の製造方法に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛微粒子に、窒素含有化合物を含む溶媒を用いてソリューションプラズマ処理を行って、該黒鉛微粒子の表面に薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層を形成する、薄膜形成工程、
を含む、薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子の製造方法。
【請求項2】
薄膜形成工程で得られた黒鉛微粒子を熱処理する、熱処理工程、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
熱処理工程が、400から600℃の範囲で実施される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
窒素含有化合物が、2-ピロリドン、アニリン、ピロリジン、1-メチルピロリドン、N,N,-ジメチルホルムアミド、又はそれらの混合物である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、携帯電話及びスマートフォン等の携帯端末の電源としてだけでなく、電気自動車の電源としても広く普及している。リチウムイオン電池の負極活物質には、通常は、種々の炭素材料が使用される。このような炭素材料のうち、天然黒鉛がもっとも一般的に使用される。
【0003】
天然黒鉛をリチウムイオン電池の負極活物質に使用する場合、天然黒鉛の表面性状がリチウムイオン電池の電池性能に影響を及ぼし得る。しかしながら、天然黒鉛の表面性状は、該天然黒鉛が算出した鉱山に依存して様々である。また、天然黒鉛の表面性状を制御することは、通常は困難である。このため、天然黒鉛の表面を改質する手段の開発が求められていた。
【0004】
例えば、特許文献1は、リチウムを吸蔵放出可能な炭素材料粒子Aの表面を、窒素含有有機物で被覆する第1の工程と、前記粒子Aを熱処理してその表面に窒素含有量が高い層を形成する第2の工程と、前記粒子Aの表面に、リチウムと合金化可能な材料からなる粒子Bを担持させる第3の工程とを含む、負極活物質の製造方法を記載する。
【0005】
特許文献2は、酸化グラファイトと、窒素含有化合物と、を含む溶液に対してソリューションプラズマ処理を行うソリューションプラズマ処理工程と、ソリューションプラズマ処理を行った前記溶液から、導電性グラファイトを得る工程と、を備え、前記導電性グラファイトにおける窒素の含有比率が0.5重量%以上15重量%以下である、導電性グラファイトの製造方法を記載する。
【0006】
特許文献3は、カーボン粒子がカーボンナノファイバーに凝集しているカーボン系触媒の製造方法として、炭素と炭素、水素及び酸素以外の異種元素とを含み且つ環構造及び不飽和結合のうちの少なくとも一つを有する炭素化合物とカーボンナノファイバーとを、混合し、ソリューションプラズマ処理を施す方法を記載する。
【0007】
特許文献4は、グラフェン構造を有する炭素材料と、前記炭素材料の表面の少なくとも一部を覆う窒素ドープナノカーボンと、を含む、カーボン材料を記載する。当該文献は、化学組成に炭素と窒素とを含み、少なくとも一部に環構造を有する環式化合物とグラフェン構造を有する炭素材料と酸とを含む液中でプラズマを発生させることによって、前記原料化合物を前記炭素材料の表面において重合させる方法を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-221830号公報
【特許文献2】特開2016-102034号公報
【特許文献3】国際公開第2017/135386号
【特許文献4】特開2019-189495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
天然黒鉛の表面を改質する手段としては、天然黒鉛の表面にタール等を塗布し乾燥させて、炭素を含有するコーティング層を形成する方法が知られていた。しかしながら、この方法の場合、コーティング層の厚さ、コーティング層に導入する元素及びコーティング層の構造を制御することが困難であるという課題が存在した。
【0010】
それ故、本発明は、黒鉛微粒子の表面に所望の性質を有するコーティング層を形成する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した。本発明者らは、黒鉛微粒子に、窒素含有化合物を含む溶媒を用いてソリューションプラズマ処理を適用することにより、薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子を得ることができることを見出した。本発明者らは、前記知見に基づき、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の態様及び実施形態を包含する。
(実施形態1) 黒鉛微粒子に、窒素含有化合物を含む溶媒を用いてソリューションプラズマ処理を行って、該黒鉛微粒子の表面に薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層を形成する、薄膜形成工程、
を含む、薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子の製造方法。
(実施形態2) 薄膜形成工程で得られた黒鉛微粒子を熱処理する、熱処理工程、
をさらに含む、実施形態1に記載の方法。
(実施形態3) 熱処理工程が、400から600℃の範囲で実施される、実施形態2に記載の方法。
(実施形態4) 窒素含有化合物が、2-ピロリドン、アニリン、ピロリジン、1-メチルピロリドン、N,N,-ジメチルホルムアミド、又はそれらの混合物である、実施形態1から3のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、黒鉛微粒子の表面に所望の性質を有するコーティング層を形成する手段を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】黒鉛微粒子の表面に形成されたコーティング層の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を
図1に示す。図中、Aは、添加化合物を用いて形成された炭素及び窒素含有コーティング層のTEM画像であり、Bは、添加化合物を用いて形成された炭素含有コーティング層のTEM画像である。点線は、コーティング層の境界面を示す。(a)、(b)及び(c)は、コーティング層の膜厚の測定位置を示す。Aのスケールバーは、5 nmを、Bのスケールバーは、100 nmを、それぞれ示す。
【
図2】添加化合物を用いて黒鉛微粒子の表面に形成された炭素及び窒素含有コーティング層のTEM画像である。図中、Aは、未処理の黒鉛微粒子のTEM画像であり、Bは、薄膜形成工程で得られた炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子のTEM画像であり、Cは、熱処理工程で得られた炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子のTEM画像である。点線は、コーティング層の境界面を示す。スケールバーは、5 nmを示す。
【
図3】添加化合物を用いて黒鉛微粒子の表面に形成された炭素及び窒素含有コーティング層のラマンスペクトルである。図中、Aは、未処理の黒鉛微粒子のラマンスペクトルであり、Bは、薄膜形成工程で得られた炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子のラマンスペクトルであり、Cは、熱処理工程で得られた炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子のラマンスペクトルである。横軸は、ラマンシフト値(cm
-1)を、縦軸は、信号強度を、それぞれ示す。
【
図4】未処理の黒鉛微粒子、薄膜形成工程で得られた炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子、及び熱処理工程で得られた炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子を負極活物質に用いた電池のインピーダンス測定で得られたコール・コールプロットである。図中、横軸は、インピーダンスの実数成分を、縦軸は、インピーダンスの虚数成分を、それぞれ示す。(a)は、未処理の黒鉛微粒子を負極活物質に用いた電池のインピーダンス測定のプロットであり、(b)は、薄膜形成工程で得られた炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子を負極活物質に用いた電池のインピーダンス測定のプロットであり、(c)は、熱処理工程で得られた炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子を負極活物質に用いた電池のインピーダンス測定のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明の一態様は、薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子の製造方法に関する。
【0017】
本発明の各態様において、黒鉛微粒子は、微粒子形態の黒鉛(グラファイト)を意味する。黒鉛微粒子の原料となる黒鉛としては、当該技術分野で通常使用される天然黒鉛、又は人造黒鉛(例えば、キッシュ黒鉛、高配向性熱分解黒鉛又は熱膨張グラファイト等)を挙げることができる。黒鉛微粒子の平均粒径は、通常は1から500 μmの範囲であり、特に5から500 μmの範囲である。従来技術の方法の場合、カーボンナノファイバーのような数nmスケールの炭素材料にソリューションプラズマ処理を適用し得ることが知られていた(特許文献3及び4等)。これに対し、本態様の方法は、数μmスケールの平均粒径を有する黒鉛微粒子に適用する場合であっても、薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層を形成することができる。
【0018】
本態様の方法は、薄膜形成工程及び場合により熱処理工程を含む。以下、各工程について詳細に説明する。
【0019】
[1:薄膜形成工程]
本発明者らは、黒鉛微粒子にソリューションプラズマ処理を適用することにより、該黒鉛微粒子の表面に薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層を形成できることを見出した。それ故、本工程は、黒鉛微粒子に、窒素含有化合物を含む溶媒を用いてソリューションプラズマ処理を行って、該黒鉛微粒子の表面に薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層を形成することを含む。
【0020】
本発明の各態様において、「ソリューションプラズマ処理」は、原料混合物の溶液中でプラズマを発生させる処理を意味する。溶液中に対向するように配置された2個の電極の間にパルス電圧を印加することにより、2個の電極の間にプラズマを発生させる。発生したプラズマの周囲には気泡が発生し、その気泡がプラズマを取り囲む状態で該溶液中に存在する。このような機構により、プラズマによる高エネルギー状態を溶液中に閉じ込めて、周囲の気相、液相又はそれらの界面で様々な化学反応を促進することができる。
【0021】
本工程において使用される溶媒は、水系溶媒であることが好ましく、水であることがより好ましい。前記で例示した溶媒中で本工程を実施することにより、効率的にソリューションプラズマ処理を行うことができる。また、前記で例示した溶媒中で本工程を実施することにより、廃液処理に要するコストを低減できる。
【0022】
本工程において使用される溶媒は、窒素含有化合物を含む。窒素含有化合物は、2-ピロリドン、アニリン、ピロリジン、1-メチルピロリドン、N,N,-ジメチルホルムアミド、又はそれらの混合物であることが好ましい。窒素含有化合物を含む溶媒中でソリューションプラズマ処理を行うことにより、窒素含有化合物が黒鉛微粒子と反応して、該黒鉛微粒子の表面にコーティング層が形成される。このとき、ソリューションプラズマ処理により窒素含有化合物及び黒鉛微粒子がラジカル反応して、黒鉛微粒子の表面に薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層が形成される。これに対し、窒素を含有しない脂環式炭化水素又は芳香族炭化水素のような有機化合物(例えば、シクロペンタノン、シクロヘキサノン又はベンゼン)を含む溶媒中で黒鉛微粒子にソリューションプラズマ処理を行う場合、球状凝集体形態の炭素含有コーティング層が形成される。それ故、前記で例示した窒素含有化合物を含む溶媒中で本工程を実施することにより、窒素含有化合物に由来する炭素原子及び窒素原子を導入した、薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層を形成することができる。
【0023】
本工程において使用される溶媒は、窒素含有化合物に加えて、1種以上のさらなる成分を含んでもよい。1種以上のさらなる成分としては、無機酸(例えば、塩酸)を挙げることができる。前記で例示した1種以上のさらなる成分を含むことにより、ソリューションプラズマ処理による反応を促進することができる。
【0024】
本工程において、窒素含有化合物の含有量は、該窒素含有化合物を含む溶媒の総体積に対して0.1から10体積%の範囲であることが好ましく、0.1から5体積%の範囲であることがより好ましく、0.1から1体積%の範囲であることがさらに好ましい。窒素含有化合物の含有量が前記下限値未満である場合、炭素及び窒素含有コーティング層を十分に形成できない可能性がある。また、窒素含有化合物の含有量が前記上限値を超える場合、副生成物が過度に生じる可能性がある。それ故、前記で例示した範囲の含有量で窒素含有化合物を使用することにより、高い純度で薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子を得ることができる。
【0025】
本工程において、ソリューションプラズマ処理の電圧は、1から10 kVの範囲であることが好ましい。ソリューションプラズマ処理の周波数は、10から100 kHzの範囲であることが好ましい。ソリューションプラズマ処理のパルス幅は、0.1から10 μsの範囲であることが好ましい。ソリューションプラズマ処理の電極は、タングステンであることが好ましい。ソリューションプラズマ処理の電極間距離は、0.1から10 mmの範囲であることが好ましい。ソリューションプラズマ処理の時間は、1から60分間の範囲であることが好ましい。前記で例示した条件でソリューションプラズマ処理を行うことにより、効率的に反応を行うことができる。
【0026】
本工程は、場合により、ソリューションプラズマ処理で得られた反応生成物を洗浄液で洗浄する洗浄工程、及びソリューションプラズマ処理で得られた反応生成物をアルカリ処理するアルカリ処理工程を含んでもよい。洗浄工程及びアルカリ処理工程は、いずれかのみを実施してもよく、両方を実施してもよい。また、洗浄工程及びアルカリ処理工程の回数及び順序は特に限定されない。
【0027】
洗浄工程において使用される洗浄液は、前記で例示した溶媒であることが好ましい。洗浄液は、過酸化水素水を含むことが好ましい。前記で例示した洗浄液で反応生成物を洗浄することにより、未反応の窒素含有化合物及び反応で生じた副生成物を除去することができる。
【0028】
アルカリ処理工程において使用されるアルカリは、前記で例示した溶媒中の溶液として使用される。アルカリは、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムであることが好ましく、水酸化カリウムであることがより好ましい。前記で例示したアルカリで反応生成物を処理することにより、反応で生じた副生成物を除去することができる。
【0029】
前記で説明した条件で本工程を実施することにより、黒鉛微粒子の表面に、窒素含有化合物に由来する炭素原子及び窒素原子を含む薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層を形成することができる。
【0030】
[2:熱処理工程]
本態様の方法は、場合により、熱処理工程を含んでもよい。本工程は、薄膜形成工程で得られた黒鉛微粒子を熱処理することを含む。
【0031】
本工程において、黒鉛微粒子を熱処理する温度は、400から600℃の範囲であることが好ましく、400から500℃の範囲であることがより好ましい。黒鉛微粒子を熱処理する時間は、1から5時間の範囲であることが好ましく、1から2時間の範囲であることがより好ましい。前記で例示した条件で熱処理を行うことにより、薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層の結晶性を向上させ、且つ/又は導電性を向上させることができる。
【0032】
本工程は、空気雰囲気下で実施することが好ましい。空気雰囲気下で本工程を実施することにより、薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層の結晶性を向上させ、且つ/又は導電性を向上させることができる。
【0033】
本態様の方法により製造された及び/又は製造され得る黒鉛微粒子は、炭素及び窒素含有コーティング層を有する。炭素及び窒素含有コーティング層は、通常は薄膜形態である。薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層の膜厚は、通常は1から100 nmの範囲であり、例えば1から50 nmの範囲であり、特に1から20 nmの範囲である。
【0034】
以上、詳細に説明したように、本態様の方法により、薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子を製造することができる。本態様の方法により得られる黒鉛微粒子の表面の薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層は、炭素原子及び窒素原子を含む。また、本態様の方法により得られる黒鉛微粒子は、高い結晶性及び導電性を有する。それ故、本態様の方法により得られる黒鉛微粒子は、リチウムイオン電池の負極活物質として好適に使用することができる。本態様の方法により得られる黒鉛微粒子を負極活物質として備えるリチウムイオン電池は、高い電池特性を発揮することができる。
【実施例0035】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
<I:コーティング層を有する黒鉛微粒子の作製>
[I-1:薄膜形成工程]
1000 mgの黒鉛(グラファイト)微粒子を、1.25 mLの添加化合物、125 mLの1 M塩酸水溶液及び30 mLの脱イオン水からなる溶媒に投入して攪拌した。この反応溶液を、電極:タングステン、電極間距離:1 mm、パルス幅:1.3 μs、周波数:45 kHz、電圧:2.0 kVの条件下で15分間ソリューションプラズマ処理した。ソリューションプラズマ処理後、反応溶液に、60 mLの6質量%過酸化水素水を添加し、6時間攪拌した。反応溶液を、濾紙(孔径:0.1 μm)を用いて濾過した。濾過物を洗浄した。得られた濾過物を、60℃のオーブン内で乾燥した。乾燥した濾過物を、1 M水酸化カリウム水溶液に懸濁した。懸濁物を、濾紙(孔径:11 μm)を用いて濾過した。濾過物を、1 M水酸化カリウム水溶液を用いて洗浄した。得られた濾過物を、60℃のオーブン内で乾燥した。これにより、コーティング層を有する黒鉛微粒子を得た。
【0037】
[I-2:熱処理工程]
薄膜形成工程で得られたコーティング層を有する黒鉛微粒子を、空気雰囲気下、500℃で2時間の条件で熱処理した。これにより、熱処理したコーティング層を有する黒鉛微粒子を得た。
【0038】
<II:コーティング層を有する黒鉛微粒子の評価>
[II-1:形態観察及びラマンスペクトル分析]
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、黒鉛微粒子の表面に形成されたコーティング層の形態を観察した。また、ラマン分光分析装置を用いて、黒鉛微粒子のラマンスペクトルを測定した。得られたラマンスペクトルにおけるD'ピークを指標に、コーティング層への窒素原子の導入を確認した。使用した添加化合物及び作製した黒鉛微粒子のコーティング層の形態を表1に示す。表中、「窒素原子導入」列における「○」は、コーティング層に窒素原子が導入されたことを、「×」は、コーティング層に窒素原子が導入されなかったことを、それぞれ示す。「コーティング層の形成」列における「○」は、薄膜形態のコーティング層が形成されたことを、「△」は、薄膜及び球状凝集体の混合形態のコーティング層が形成されたことを、「×」は、球状凝集体形態のコーティング層が形成されたことを、それぞれ示す。また、黒鉛微粒子の表面に形成されたコーティング層のTEM画像を
図1に示す。図中、Aは、添加化合物を用いて形成された炭素及び窒素含有コーティング層のTEM画像であり、Bは、添加化合物を用いて形成された炭素含有コーティング層のTEM画像である。点線は、コーティング層の境界面を示す。(a)、(b)及び(c)は、コーティング層の膜厚の測定位置を示す。Aのスケールバーは、5 nmを、Bのスケールバーは、100 nmを、それぞれ示す。
【0039】
【0040】
表1及び
図1Aに示すように、添加化合物として2-ピロリドン、アニリン、ピロリジン、1-メチルピロリドン及びDMFの窒素含有化合物を用いた場合、黒鉛微粒子の表面に薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層が形成された。この炭素及び窒素含有コーティング層の膜厚は、約5 nmであった。これに対し、表1及び
図1Bに示すように、添加化合物としてシクロペンタノン、シクロヘキサノン及びベンゼンの窒素を含有しない有機化合物を用いた場合、黒鉛微粒子の表面に炭素含有コーティング層が形成された。しかしながら、そのコーティング層の形態は、球状凝集体形態、又は薄膜及び球状凝集体の混合形態であった。この炭素含有コーティング層の膜厚は、(a)の位置で108 nm、(b)の位置で75 nm、(c)の位置で38 nmであった。
【0041】
添加化合物を用いて黒鉛微粒子の表面に形成された炭素及び窒素含有コーティング層のTEM画像を
図2に示す。図中、Aは、未処理の黒鉛微粒子のTEM画像であり、Bは、薄膜形成工程で得られた炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子のTEM画像であり、Cは、熱処理工程で得られた炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子のTEM画像である。点線は、コーティング層の境界面を示す。スケールバーは、5 nmを示す。
【0042】
図2に示すように、薄膜形成工程を実施することにより、黒鉛微粒子の表面に薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層が形成された(
図2B)。この黒鉛微粒子に対して熱処理工程を実施することにより、薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層の結晶性が向上した(
図2C)。
【0043】
添加化合物を用いて黒鉛微粒子の表面に形成された炭素及び窒素含有コーティング層のラマンスペクトルを
図3に示す。図中、Aは、未処理の黒鉛微粒子のラマンスペクトルであり、Bは、薄膜形成工程で得られた炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子のラマンスペクトルであり、Cは、熱処理工程で得られた炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子のラマンスペクトルである。横軸は、ラマンシフト値(cm
-1)を、縦軸は、信号強度を、それぞれ示す。
【0044】
図3に示すように、いずれのラマンスペクトルでも、1600 cm
-1付近に黒鉛に由来するGバンドが観察された。薄膜形成工程及び熱処理工程後のラマンスペクトルでは、1350 cm
-1付近にDバンドが、1620 cm
-1付近に窒素原子に由来するD'バンドが、それぞれ観察された(
図3B及びC)。この結果から、薄膜形成工程によって、黒鉛微粒子の表面に形成された炭素及び窒素含有コーティング層に窒素原子が導入されたことが確認された。また、Dバンドピーク強度とGバンドピーク強度との比(I
D/I
G)を算出したところ、未処理の黒鉛微粒子のラマンスペクトルのI
D/I
Gは0.14であり、薄膜形成工程で得られた炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子のラマンスペクトルのI
D/I
Gは0.35であり、熱処理工程で得られた炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子のラマンスペクトルのI
D/I
Gは0.16であった。熱処理工程後にI
D/I
Gが低下したことから、熱処理工程を実施することにより、薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層の結晶性が向上したことが確認された。
【0045】
[II-2:炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子の導電特性]
添加化合物を用いて作製した炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子を負極活物質に用いて、試験用電池(コインセル)を作製した。この電池を用いて、電池容量、容量保持率及びインピーダンスを測定した。また、インピーダンス測定の結果から、反応抵抗(Rct)を算出した。未処理の黒鉛微粒子、薄膜形成工程で得られた炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子、及び熱処理工程で得られた炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子を負極活物質に用いた電池のインピーダンス測定で得られたコール・コールプロットを
図4に示す。図中、横軸は、インピーダンスの実数成分を、縦軸は、インピーダンスの虚数成分を、それぞれ示す。(a)は、未処理の黒鉛微粒子を負極活物質に用いた電池のインピーダンス測定のプロットであり、(b)は、薄膜形成工程で得られた炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子を負極活物質に用いた電池のインピーダンス測定のプロットであり、(c)は、熱処理工程で得られた炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子を負極活物質に用いた電池のインピーダンス測定のプロットである。
【0046】
未処理の黒鉛微粒子、薄膜形成工程で得られた炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子、及び熱処理工程で得られた炭素及び窒素含有コーティング層を有する黒鉛微粒子を負極活物質に用いた電池の電池性能を表2に示す。
【0047】
【0048】
図4及び表2に示すように、表面に薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層が形成された薄膜形成工程後の黒鉛微粒子を負極活物質に用いた電池は、未処理の黒鉛微粒子を負極活物質に用いた電池と比較して、電池容量が低下し、反応抵抗が上昇した。これに対し、熱処理工程後の黒鉛微粒子を負極活物質に用いた電池は、薄膜形成工程後の黒鉛微粒子を負極活物質に用いた電池と比較して、電池容量が増加し、反応抵抗が低下した。この結果から、熱処理工程を実施することにより、表面に薄膜形態の炭素及び窒素含有コーティング層が形成された薄膜形成工程後の黒鉛微粒子の導電特性を向上し得ることが明らかとなった。
【0049】
なお、本発明は、前記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除及び/又は置換をすることが可能である。