(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001360
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】流体補助アブレーションの成形治療のためのデバイス
(51)【国際特許分類】
A61B 18/00 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
A61B18/00
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023189133
(22)【出願日】2023-11-06
(62)【分割の表示】P 2021169803の分割
【原出願日】2017-10-26
(31)【優先権主張番号】61/474,574
(32)【優先日】2011-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】313009648
【氏名又は名称】サーメディカル・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カーレイ、マイケル、ジー.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】流体補助アブレーション治療で形成されるアブレーション処置体積を成形するデバイスおよび方法が提供される。
【解決手段】デバイスおよび方法は、流体同士を相互作用させて様々な形状のアブレーション処置体積を作成する。一実施形態では、所望の形状をもつアブレーション処置体積を形成する方法が、組織に治療エネルギーを供給して、アブレーション処置体積を形成して、同時に、第1の流体と第2の流体とを組織に供給する段階を含む。第1の流体および第2の流体は、治療エネルギーを所望の方向に循環させ、アブレーション処置体積が所望の形状を有するようにする。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の体内に導入される遠位端を有する長尺部材と、
前記長尺部材の前記遠位端に設けられた少なくとも2つの長尺部と、
を備え、
前記少なくとも2つの長尺部のそれぞれは、
近位端及び遠位端と、
その内部で延伸する内腔と、
当該長尺部に設けられ、当該長尺部を取り囲む組織に流体を供給する少なくとも1つの出口孔と、
を有し、
前記少なくとも2つの長尺部の少なくとも1つは、当該長尺部の遠位部分に沿って配された少なくとも1つのアブレーション部を有し、
前記アブレーション部は、前記アブレーション部を取り囲む組織を加熱し、
前記少なくとも2つの長尺部の少なくとも1つは、当該長尺部の前記内腔の内部に配された加熱部を有し、
前記加熱部は、前記内腔を通って流れる流体を加熱する、
アブレーションデバイスであって、
前記アブレーションデバイスは、前記アブレーション部からのエネルギの放出、第1の長尺部の前記少なくとも1つの出口孔からの第1の流体の供給、及び、第2の長尺部の前記少なくとも1つの出口孔からの第2の流体の供給を同時期に実施するように構成されており、
前記アブレーションデバイスは、前記第1及び前記第2の流体を異なる温度で供給するように構成され、
前記第1の流体は、組織に不可逆な損傷を引き起こし得る治療温度であり、
前記第2の流体は、前記治療温度未満であって、組織を選択的に急冷して組織の損傷を抑制するような温度である、
アブレーションデバイス。
【請求項2】
前記少なくとも2つの長尺部は、前記長尺部材の前記遠位端の周りに、前記長尺部材の長手方向軸から離れて配される前記第1の長尺部、前記第2の長尺部及び第3の長尺部を有する、
請求項1に記載のアブレーションデバイス。
【請求項3】
前記第1及び前記第2の流体の液体流速及び温度の少なくとも1つが調節される、
請求項1に記載のアブレーションデバイス。
【請求項4】
前記アブレーション部から放出されるエネルギ量が調節される、
請求項1に記載のアブレーションデバイス。
【請求項5】
前記加熱部は、不可逆な組織の損傷を引き起こし得る治療温度まで流体を加熱する、
請求項1に記載のアブレーションデバイス。
【請求項6】
前記加熱部は、流体を、41℃を超える温度まで加熱する、
請求項1に記載のアブレーションデバイス。
【請求項7】
前記アブレーション部は、周囲の組織にRFエネルギを供給する、
請求項1に記載のアブレーションデバイス。
【請求項8】
前記アブレーションデバイスは、液体が互いに流通しない複数の流路を介して、前記第1及び前記第2の流体を、前記第1及び前記第2の長尺部に供給する、
請求項1から請求項7までの何れか一項に記載のアブレーションデバイス。
【請求項9】
前記アブレーションデバイスは、
前記第1の流体を、前記第1の長尺部に設けられた第1の出口孔に供給し、
前記第2の流体を、前記第2及び前記第3の長尺部のそれぞれに設けられた第2の出口孔に供給する、
請求項2に記載のアブレーションデバイス。
【請求項10】
前記アブレーションデバイスは、流体が互いに流通しない複数の経路を介して、前記第1及び前記第2の流体を、それぞれ、前記第1及び前記第2の出口孔に供給する、
請求項9に記載のアブレーションデバイス。
【請求項11】
前記少なくとも2つの長尺部は、
前記長尺部材の前記遠位端の中心に配され、そこから延伸する前記第1の長尺部と、
前記長尺部材の前記遠位端から延伸し、前記長尺部材の直径を規定する軸に沿って、前記第1の長尺部からオフセットされている前記第2の長尺部と、
前記長尺部材の前記遠位端から延伸し、前記軸に沿って、前記第2の長尺部のオフセットとは逆の方向に、前記第1の長尺部からオフセットされている第3の長尺部と、
を備え、
前記第1の長尺部は、
その中を通って延伸する前記内腔と、
前記少なくとも1つの出口孔と、
その長さ方向に配された前記少なくとも1つのアブレーション部と、
前記内腔の内部に配された前記加熱部と、
を有し、
前記第2の長尺部は、
その中を通って延伸する前記内腔と、
前記少なくとも1つの出口孔と、
を有し、
前記第3の長尺部は、
その中を通って延伸する前記内腔と、
前記少なくとも1つの出口孔と、
を有し、
前記アブレーションデバイスは、前記第1の長尺部からの前記第1の流体と、前記第2及び前記第3の長尺部からの前記第2の流体とを同時期に供給するように構成されている、
請求項1に記載のアブレーションデバイス。
【請求項12】
前記アブレーションデバイスは、前記第1の長尺部に沿って配された前記アブレーション部から、治療エネルギーを供給する、
請求項11に記載のアブレーションデバイス。
【請求項13】
前記加熱部は、不可逆な組織の損傷を引き起こし得る治療温度まで前記第1の流体を加熱する、
請求項11に記載のアブレーションデバイス。
【請求項14】
前記加熱部は、前記第1の流体を、41℃を超える温度まで加熱する、
請求項11に記載のアブレーションデバイス。
【請求項15】
前記少なくとも2つの長尺部は、前記長尺部材に対して位置決めされている、
請求項1に記載のアブレーションデバイス。
【請求項16】
前記少なくとも2つの長尺部は、互いに位置決めされている、
請求項1に記載のアブレーションデバイス。
【請求項17】
前記少なくとも2つの長尺部の少なくとも1つの前記内腔の中に配された少なくとも1つの温度センサをさらに備える、
請求項1に記載のアブレーションデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、「アブレーションカテーテルの向上」という題名の2011年4月12日に提出された米国仮出願第61/474,574号の優先権を請求している。本願は、本願と同時に提出された「流体補助アブレーション治療の遠隔温度監視デバイスおよび方法」という題名の米国出願第13/445,034号、「流体補助アブレーション治療において流体を加熱する方法およびデバイス」という題名の米国出願第13/445,036号、「アブレーション治療を制御する方法およびデバイス」という題名の米国出願第13/445,373号、および、「流体補助アブレーションデバイスで脱気された流体を利用するデバイスおよび方法」という題名の米国出願第13/445,040号にもそれぞれ関している。これら出願のそれぞれの開示の全体をここに参照として組み込む。
【0002】
本発明は、概して、流体補助アブレーション(たとえばSERF(登録商標)アブレーション技術:生理食塩水で補助する、高周波(radio frequency)(登録商標)アブレーション)に関している。より詳しくは、本発明は、流体補助アブレーションを行っている間に作成される処理ゾーンの形状を制御するデバイスおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
身体の組織を破壊するための熱エネルギーの利用は、腫瘍の破壊を含む様々な治療に利用することができる。熱エネルギーは、様々な流体のエネルギー(たとえば高周波電気エネルギー、マイクロ波または光波電磁エネルギー、または超音波振動エネルギーなど)を利用して、組織に伝えることができる。たとえば、高周波(RF)アブレーションは、1以上の電極を、治療対象の組織に対して、またはその内部へ配置して、高周波電流を組織に流すことで行うことができる。電流は、密に配置されたエミッタ電極間、または、エミッタ電極と、加熱対象の組織から離れた位置にある、より大きな共通の電極との間に流すことができる。
【0004】
これら技術がもつ欠点の1つは、治療道具および組織の間の界面またはその付近が最も加熱されることである。たとえばRFアブレーションでは、エミッタ電極の直近にある組織が最も加熱される。これにより、組織の導電性が低減し、場合によっては、組織の中の水分が沸点に達して水蒸気になる。このプロセスが継続すると、組織のインピーダンスが増して、電流が周辺の組織に入りにくくなる。したがい、従来のRF法では、治療可能な組織量が限られている。
【0005】
SERF(登録商標)アブレーション技術(生理食塩水で補助する、高周波(radio frequency)(登録商標)アブレーション)等の、流体補助アブレーション治療は、従来のRFアブレーションよりも大量の組織を治療することができる。SERFアブレーション技術は米国特許第6,328,735号明細書に記載されており、これをここに参照として組み込む。SERFアブレーション技術を利用すると、生理食塩水は、針からの導入、加熱が可能であり、加熱された流体は、針のすぐ近くを取り囲む組織に供給される。生理食塩水は、針に近接して生成される熱を分散させることで、より大きな組織体積を、アブレーションエネルギーの治療量で治療させる。治療は、通常、対象の組織が所望の治療温度になると完了し、この温度に達していなければ、一定の治療量のエネルギーが与えられる。
【0006】
一般的に、流体補助アブレーション治療では、アブレーションデバイスを取り囲むように、組織に球形の処置ゾーンを設ける。しかし、非球形の処置ゾーンを設けるほうが望ましい場合もある。たとえば、流体補助アブレーションでの治療に適した病斑、腫瘍のなかには、球形ではないものもある。加えて、病変その他の対象組織に非常に近い位置にある繊細な神経細胞などの一定の構造は、保護するほうが望ましい。
【0007】
また、アブレーション治療を利用して作成した処置ゾーンに方向性があるほうが望ましい場合もある。たとえば、心房細動等の不整脈に共通した処置法は、心房壁(atrial wall)の組織を選択的に切除して、心拍を起こさせる電気信号が通過する通路を画定するカテーテルベースの処置を利用する。しかし、アブレーション治療で現在利用されている方法は、心室のこれらの方向性を持った通路に匹敵するような処置ゾーンを作成することはできない。これは、現在利用されている方法が、心室壁を加熱することができないために、心室頻拍の処置には利用することができないからである。流体補助アブレーションは、心室壁を加熱することができるが、作成されるアブレーションゾーンが大きくなり、心臓の大きな部分を切除してしまうので、電気信号のための通路を作成することはできない。
【0008】
したがって、流体補助アブレーション治療中に作成される処置ゾーンを成形するための、向上したデバイスおよび方法が望まれている。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、処置ゾーンの形状を制御することで、アブレーション治療を向上させるデバイスおよび方法を提供する。本発明の一態様では、組織に、所望の形状を持つアブレーション処置体積を形成する方法が、組織に治療エネルギーを供給して、組織にアブレーション処置体積を形成して、同時に、第1の流体および第2の流体を組織に供給して、第1の流体および第2の流体は、治療エネルギーを所望の方向に循環させて、アブレーション処置体積が所望の形状を持つようにする。
【0010】
一部の実施形態では、方法がさらに、第1の流体と第2の流体との組み合わせのさらなる流体を組織に供給する段階を含んでよい。たとえば、一部の実施形態では、第3、第4、第5等の流体を導入することができる。これら流体のそれぞれは、それぞれが相互作用して、所望の形状のアブレーション処置体積を形成するように、組織に供給することができる。任意の数の流体を利用することができる。
【0011】
一部の実施形態では、第1および第2の流体がそれぞれ異なる温度で供給されてよい。複数の異なる温度を、第1および第2の流体のために選択することができる。一部の実施形態では、第1の流体は約摂氏50度であってよい。他の実施形態では、第2の流体は、約摂氏37度であってよい。しかし、第1または第2の流体について、任意の温度を選択することができる。さらに、方法は、患者の体内の様々な位置で利用することができる。一部の実施形態では、たとえば組織が心臓のものであってよい。他の実施形態では、組織が肝臓のものであってよい。また別の実施形態では、組織は、前立腺、子宮、腎臓、肺、胸、またはその他の患者の体内のいずれの他の臓器または組織であってもよい。
【0012】
一部の実施形態では、第1および第2の流体は、組織に挿入された1以上の長尺部により供給することができる。加えて、方法は、アブレーション処置体積の成形を促す他の様々な段階を含んでよい。たとえば方法は、さらに、第1および第2の流体のいずれかの流体の流速および流体の温度のいずれかを調節して、さらにアブレーション処置体積を成形する段階を含んでよい。同様に、方法はさらに、さらにアブレーション処置体積を成形するために、組織に供給される治療エネルギーのレベルを調節する段階を含んでよい。一部の実施形態では、治療エネルギーを組織に供給する段階は、組織に電気エネルギーを伝えるよう構成されたアブレーション部を起動する段階を含んでよい。またさらに他の実施形態では、方法はさらに、治療エネルギーを供給することと、同時に、第1および第2の流体を複数の位置に供給することを繰り返して、長尺形の平面形状をもつ処置体積を形成する段階を含んでよい。
【0013】
一部の実施形態では、第1の流体は、長尺部の内腔の第1および第2の対向する長手方向の部分から供給され、第2の流体は、上記内腔の第3および第4の対向する長手方向の部分から供給されてよい。加えて、第3および第4の部分は、第1および第2の部分と放射状にオフセットされていてよい。
【0014】
また他の実施形態では、第1の流体の供給は、第1の流体を、長尺部材の側壁の近位部分に形成された少なくとも1つの出口孔から放出することを含み、第2の流体の供給は、第2の流体を、近位部分に隣接している、長尺部材の側壁の遠位部分に形成された少なくとも1つの出口孔から放出することを含む。
【0015】
また別の実施形態では、方法は、第1および第2の流体を、組織から取り除き、さらにアブレーション処置体積を成形することを含んでよい。第1および第2の流体は、たとえば、長尺部を取り囲む組織から流体を引き揚げる長尺部を利用して選択的に取り除かれてよい。
【0016】
本発明の別の態様では、組織に供給される治療エネルギーを成形する方法が、患者の体内の第1の位置に第1の長尺部を配置させ、第1の長尺部の内部には内腔が延びており、第1の長尺部は少なくとも1つの出口孔を含み、その長さ方向に少なくとも1つのアブレーション部が設けられており、内腔内には少なくとも1つの加熱部が設けられている。方法はさらに、患者の体内の第2の位置に第2の長尺部を配置させ、第2の長尺部の内部には内腔が延びており、第2の長尺部は少なくとも1つの出口孔を含む。方法はさらに、第1の流体を第1の長尺部から、第2の流体を第2の長尺部から、同時に供給して、第1および第2の流体が相互作用して、アブレーション処置体積が成形されることを含む。
【0017】
方法はさらに、本発明の範囲内に、様々な変形例を含んでよい。一部の実施形態では、たとえば第1および第2の流体が、それぞれ異なる温度であってよい。他の実施形態では、方法はさらに、第1の長尺部に沿って設けられたアブレーション部から治療エネルギーを供給することを含む。この実施形態では、流体の相互作用は、アブレーション部からのエネルギーを方向づけて、治療エネルギーを受けるように組織体積を成形することができる。
【0018】
他の実施形態では、第1の位置に第1の長尺部を配置して、第2の位置に第2の長尺部を配置することは、患者の体内に、内部に第1および第2の長尺部が設けられた長尺部材を配置することを含んでよい。長尺部材はたとえば、後述するような、カテーテルその他の長尺シャフトまたは長尺部材であってよい。さらに一部の実施形態では、第2の長尺部は、治療エネルギーから守られるべき構造(たとえば神経細胞群)に隣接する位置に配置されてよい。
【0019】
本発明の別の態様では、アブレーションデバイスであって、長尺部を備え、長尺部は、近位端および遠位端と、長尺部内に延びる内腔と、長尺部の内部に形成され、流体を長尺部を取り囲む組織に供給する、少なくとも2つの出口孔とを含む。長尺部は、さらに、長尺部の遠位部に沿って設けられ、長尺部が組織に挿入されたときに少なくとも1つのアブレーション部を取り囲む組織を加熱する少なくとも1つのアブレーション部を含む。さらに、少なくとも2つの出口孔は、それぞれ異なる温度の流体を供給する。
【0020】
アブレーションデバイスは、様々な構成およびさらなる特徴部を有してよい。一部の実施形態では、アブレーションデバイスはさらに、2つの出口孔のうち1以上の出口孔に関連づけられ、内腔の内部に配置され、関連付けられた1以上の出口孔に流れる流体を加熱する、少なくとも1つの加熱部をさらに備える。
【0021】
他の実施形態では、アブレーションデバイスは、内腔の内部に配置され、内腔を、互いに流体連通しない2以上の部分に分割する、少なくとも1つの分割部をさらに備えてよい。さらに、2以上の部分の各部分は、少なくとも2つの出口孔のうち1以上の出口孔と連通してよい。特定の実施形態では、少なくとも1つの分割部が、内腔を、内腔に沿って長手方向に延びる4つの部分に分割して、内腔を、互いに対向する対を持つ四分円に分割してよい。加熱部は、四分円の第1の対向する対の各部分に設けられ、内部を流れる流体を、第1の温度に加熱してよい。さらに、加熱部は、四分円の第2の対向する対の各部分にも設けられて、内部を流れる流体を、第1の温度より低い第2の温度に加熱してよい。また他の実施形態では、少なくとも1つの分割部は、内腔を近位部と遠位部に分割してよく、各部分は、別のアブレーション部に関連付けられていてよい。少なくとも1つの分割部は、さらに内腔を分割して、遠位部より近位のまたは遠位の第3の部分を作成する、少なくとも2つの分割部を含んでもよい。特定の実施形態では、デバイスはさらに、2以上の温度センサを含み、各温度センサは、内腔の別の部分に配置されてよい。
【0022】
本発明の別の態様では、患者の体内に供給される遠位部を持つ長尺部材をもつアブレーションデバイスが提供される。デバイスはさらに、長尺部材の遠位部に設けられた少なくとも2つの長尺部を含む。長尺部のそれぞれは、近位端と遠位端とを含み、内腔がその内部を延び、少なくとも1つの出口孔が長尺部に設けられ、流体を、長尺部を取り囲む組織に供給する。長尺部の少なくとも1つは、長尺部の遠位部に沿って設けられた少なくとも1つのアブレーション部を含み、アブレーション部は、アブレーション部を取り囲む組織を加熱するよう構成されている。さらに、長尺部の少なくとも1つは、長尺部の内腔に設けられた加熱部を含み、加熱部は、内腔内を流れる流体を加熱するよう構成されている。
【0023】
一部の実施形態では、少なくとも2つの長尺部が、長尺部材の遠位部の周りの、長尺部材の縦軸から一定の距離離れた位置に設けられた、第1、第2、および第3の長尺部材を含んでよい。たとえば、第1、第2、および第3の長尺部は、互いに角度がオフセットされ、長尺部の縦軸から特定の半径の位置に設けられる。他の実施形態では、第1、第2、および第3の長尺部は、長尺部材の遠位端に直線状に設けられる。この実施形態では、長尺部の1以上に、アブレーション部が含まれてよい。
【0024】
上述した本発明の態様および実施形態は、添付図面とともに以下の詳細な記載を読むことで完全に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】流体補助アブレーションシステムの一実施形態を示す。
【
図2】流体補助アブレーションで利用される長尺部を持つ医療デバイスの一実施形態の斜視図である。
【
図3】様々な形態のアブレーションのためのシミュレーションされた加熱プロフィールのグラフィック描写である。
【
図4】経時的な処置ゾーンの拡張を示す、長尺部の遠位部の側面図である。
【
図5】本発明の流体補助アブレーションシステムの一実施形態で作成可能な処置ゾーンの断面概略図である。
【
図6】カテーテルから長手方向に延びる3つの長尺部を持つアブレーションデバイスの一実施形態の斜視図である。
【
図7A】内腔に沿って長手方向に延びる各部分に分割された内腔をもつ長尺部を含むアブレーションデバイスの一実施形態の斜視図である。
【
図7B】矢印で流体の流れを示し、作成される処置ゾーンを示す、
図7Aのデバイスの断面図である。
【
図8A】長尺部沿いに配置された複数のアブレーション部を持つ長尺部の一実施形態の側面図である。
【
図8B】
図8Aの長尺部を、それぞれが一定の温度の流体を受け容れることができる近位部分と遠位部分とに分割した、半透視斜視図である。
【
図9】非球形の処置ゾーンを形成する、第1の温度で流体を運ぶ第1の長尺部と、第2の温度で流体を運ぶ第2の長尺部とを示す手術部位の一実施形態の断面図である。
【
図10】処置ゾーンに流体と治療のためのエネルギーを処置ゾーンに供給する第1の長尺部と、処置ゾーンから流体を持ち帰る第2の長尺部とを示す手術部位の一実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下で、例示的な実施形態を示し、ここで開示するデバイスおよび方法の原理の全体的な理解を促す。これら実施形態の1以上の例は、添付図面に示されている。当業者であれば、ここで具体的に説明し、添付図面に示されたデバイスおよび方法が、限定を意図しない例である実施形態であることを理解し、本発明の範囲が請求項によってのみ定義されることを理解するだろう。一実施形態に関連して例示され、記載される特徴は、他の実施形態の特徴と組み合わせることができる。本発明の範囲には修正例または変形例も含まれることが意図されている。
【0027】
"1つの(a, an)"という言葉は、本願で使用されている"1以上の(one or more)"という言葉と等価である。"備える(comprising)"、"有する(having)"、"含む(including)"および"含まれる(containing)"という言葉は、そうでないと記載されてない限り、制約がない言葉(すなわちこれらに限定されないが、これらを含むという意味)として解釈される。数値および範囲に対して使用されている"約(about)"および"略(approximately)"という言葉は、要素の組成、部分又は集合体が本明細書に記載する意図した目的の機能を達成可能な好適な数値的許容差を示す。このような言葉は、概して、中央値に対して±10%の変動を意味する。本明細書で"連結される(coupled)"と記載される構成要素は、直接連結されている、または、1以上の介在物を介して間接的に連結されていることを指す。本明細書に列挙される数値範囲は、そうでないと明記されない限り、範囲に含まれる別個の値を個別に示すのを簡潔にする方法としての記載であり、範囲に含まれる個別の値が、あたかも個別に列挙されたように明細書に組み込まれる。また、直線的な態様または円形の態様が、開示される装置、システムおよび方法で使用される限りでは、このような態様は、装置、システムおよび方法と関連して使用される形状の種類を制限することを意図していない。当業者であれば、このような直線的なおよび円形の態様に等価な構成を、任意の幾何学的形状に対して容易に決定できる。
【0028】
特に指定されない限り、本明細書に記載される全ての方法を任意の順番で実行することが可能である。任意のおよびすべての例または例を表す言葉(例えば、等(such as))は、本発明の理解を容易にすることのみを目的としており、特許請求の範囲に記載されていない限り、本発明の範囲を限定しているものではない。本明細書の如何なる言葉も、任意の特許請求の範囲に記載されていない構成要素が本発明を実施するのに必要な要素であると解釈されるべきでない。さらに、本明細書中で任意の実施形態に関連して使用されている"生理食塩水(saline)"という言葉は、そうでないと明確に記載されていない限り、別の流体と区別するための"生理食塩水"に実施形態を限定しているわけではない。その他の流体も同様に使用可能である。
【0029】
<流体補助アブレーションシステム>
本発明は概して、流体補助アブレーションを利用して作成される治療または処置ゾーンまたは領域を成形するためのデバイスおよび方法に関している。上述した流体補助アブレーションとは、アブレーション部から治療エネルギーを供給しつつ、組織内に流体を流すこと、と定義される。治療エネルギーを組織内に運ぶことにより、組織に異常高熱を発生させ、最終的には、壊死させる。このように高温に加熱することによる選択的組織破壊を利用して、腫瘍、類線維腫、不整脈(例えば、心室頻拍等)およびその他の疾患を含む様々な症状を治療することができる。
【0030】
ここに参照として組み込む米国特許第6,328,735号明細書に記載されているSERFアブレーション技術(たとえばSERF(登録商標)アブレーション技術:生理食塩水で補助する、高周波(radio frequency)アブレーション)等の、流体補助アブレーション治療は、治療温度にまで加熱された流体を、アブレーションエネルギーとともに組織内に供給する。加熱された流体を供給することで、処置組織の細胞外空間に流体を流すことで、組織の熱伝導率を係数20以上も上げることができる。このように、加熱した流体を流すことで、アブレーションエネルギー源からの熱エネルギーを対象組織内に深く循環(convect)させることができる。加えて、流体を治療温度にまで加熱することで、組織に伝わるエネルギー量が増す。最後に、流体は、組織を常に水和させておき、炭化(charring)その他の関連するインピーダンスの上昇を防ぐことができる、という効果もある。
【0031】
図1は、流体アブレーションシステム100の一実施形態を示す。システムは、組織の対象体積に挿入するための長尺部102を含む。長尺部は、対象組織の形状に応じて様々な形状およびサイズであってよい。さらに、長尺部の特定のサイズは、処置対象の組織のタイプおよび位置、並びに、処置対象の組織のサイズを含む様々な要素によって変化させてよい。あくまで例であるが、一実施形態では、長尺部が、約16から約18の間のゲージ(つまり、外径が約1.27ミリメートルから約1.65ミリメートルである)であり、長さLが約25cm(
図2に示す)の、壁の薄いステンレス鋼製の針であってよい。長尺部102は、組織を穿孔して、デバイスの対象組織部位への導入を助けるよう構成された先鋭の遠位端104を含んでいてよいが、他の実施形態では、遠位端104が先鈍であり、様々な他の構成を有していてもよい。長尺部102は、導電性材料から形成されて、長尺部の長さ方向に、長尺部の遠位部沿いに位置している1以上のアブレーション部に電気エネルギーを伝えることができてよい。エミッタ電極105は、長尺部からRFエネルギーを供給可能なアブレーション部の一例である。
【0032】
他の実施形態では、エミッタ電極105が、長尺部102の一部であってよい。たとえば、長尺部102は、エミッタ電極105を表す部分を除いて、その長さ全体にわたり絶縁材料で被覆されていてよい。より詳しくは、一実施形態で、1.5milのフッ素重合体Xylan(登録商標)8840で被覆されていてよい。電極105は、様々な長さと形状構成とを有していてよい。一実施形態では、電極105は、周辺の組織に晒されている、管状の長尺部の4mmの部分であってよい。さらに、電極105は、長尺部105の長さ沿いのいずれの場所に位置していてもよい(さらに、長尺部の長さ沿いには、1を超える数の電極を配置することができる)。一実施形態では、電極は遠位端104に隣接して設けられてよい。他の実施形態では、長尺部は、絶縁材料で形成されてよく、電極は、長尺部の周り、または、長尺部の部分の間に配置してよい。
【0033】
他の実施形態では、電極は、電流を流すのに適した様々な他の材料から形成することができる。任意の金属または金属塩を利用することができる。ステンレス鋼以外にも、金属の例には、白金、金、または銀が含まれ、金属塩の例には、銀/塩化銀が含まれる。一実施形態では、電極は銀/塩化銀から形成されてよい。金属電極は、周辺の組織および/または液体のものとは異なる電位(voltage potential)をとることができることが分かっている。電流をこの電力差に流すと、電極/組織の界面にエネルギー散逸が生じ、電極付近の組織の過熱が悪化しうる。銀/塩化銀等の金属塩を利用することの利点の1つに、これらの交換電流密度が高いことがある。この結果、大量の電流が電極から組織へと通過する際に生じる電力降下が僅かなので、この界面におけるエネルギー散逸が最小限に抑えられる。したがい、金属塩から形成される、銀/塩化銀等の電極は、組織の界面における過度のエネルギー散逸を低減させることができ、電極の周りに液体を流さなくても、より望ましい治療用の温度プロフィールを生じさせることができる。
【0034】
電極105または他のアブレーション部は、長尺部102に延びる内腔106(矢印109に示す)から周辺の組織へと流体を供給するよう構成された1以上の出口孔を含んでよい。または電極105が、長尺部102に形成されている1以上の出口孔108付近に位置していてもよい。多くの実施形態では、電極を、1以上の出口孔に隣接させて設けることで、供給される流体の治療に対する効果を最大化することができる。出口孔108は、様々なサイズ、数、およびパターン構成で形成してよい。加えて、出口孔108は、流体を、長尺部に対して様々な方向に方向づけることができる。これらには、
図1の矢印109で示すような法線方向(normal orientation:つまり、長尺部の表面に対して垂直)、および、長尺部102の縦軸沿いの近位および遠位の方向が含まれてよい(長尺部の周りに液体の円形または螺旋状の流れを形成する様々な方向を含む)。また、一部の実施形態では、長尺部102が、出口孔として機能する開口した遠位端で形成されていてもよい。更なる例として、一実施形態では、24個の等間隔で設けられ、約0.4の直径を有する出口孔108が、放電加工機(EDM)を利用して電極105の周辺に設けられてよい。当業者であれば、出口孔108を作成するのに別の製造方法を用いることもできることを理解する。加えて、出口孔は、一部の実施形態では、電極自身にではなく、電極に隣接した長尺部の一部に沿って設けられてもよい。
【0035】
出口孔108と連通する内腔106は、組織に入る直前に、内腔106を通るときに流体を加熱するよう構成されている加熱アセンブリ110を収容してよい。本発明のデバイスおよび方法での利用に適した加熱アセンブリ110の様々な実施形態の詳細な説明は、本願と同時に提出され、関連している「流体補助アブレーション治療において流体を加熱する方法およびデバイス」という題名の米国出願第13/445,036号(上記でこの全体を参照として組み込んでいる)に詳述されている。
【0036】
電極105またはその他のアブレーション部より遠位に位置している長尺部の部分は、固体であり(または充填されており)、電極105の遠位端で内腔106が終端する。一実施形態では、電極より遠位の長尺部の部分の容積は、エポキシにより、締りばめにより固定することができる。別の実施形態では、電極より遠位の長尺部の部分を、固体金属から形成して、長尺部の近位部に、溶接、かしめまたはその他の周知の技術を使用して接続させてもよい。
【0037】
流体は、流体貯蔵部112から内腔106および加熱アセンブリ110に供給されてよい。流体貯蔵部112は、内腔106に、流体管114を通じて接続されてよい。流体管114は、たとえば、長い可撓性プラスチックチューブであってよい。流体管114は、さらに、剛体チューブであってもよいし、剛体チューブと可撓性チューブとの組み合わせであってもよい。
【0038】
流体は、ポンプ116によって流体貯蔵部112から内腔106に入れられてよい。ポンプ116は、プランジャー(不図示)を進めることで、決まった体積を流すシリンジ型のポンプであってよい。このポンプの一例は、イリノイ州シカゴのCole-Palmer Corporationが販売しているモデル74900である。他のタイプのポンプ(膜板ポンプ)を利用してもよい。
【0039】
ポンプ116は、電力供給/制御部118により制御されてよい。電力供給/制御部118は、ポンプ116に電気制御信号を供給して、ポンプに、所望の流速の流体を生成させることができる。電力供給/制御部118は、電気接続120によってポンプ116に接続されてよい。電力供給/制御部118は、さらに、接続122によって長尺部102に、および、接続126によってコレクタ電極124に、電気的に接続されてもよい。加えて、電力供給/制御部118は、同様の電気接続によって加熱アセンブリ110に接続されてもよい。
【0040】
コレクタ電極124は様々な形態をとることができる。たとえばコレクタ電極124は、患者の身体外に位置する大型の電極であってよい。他の実施形態では、コレクタ電極124は、長尺部102沿いの何処かの場所に設けられる戻り電極であってもよいし、患者の体内の、処置サイト付近に導入される第2の長尺部に設けられていてもよい。
【0041】
動作に際して、電力供給/制御部118は、所望の流速で対象組織に、流体を供給させて、所望の治療温度で流体を加熱させ、1以上のアブレーション部(たとえば電極105)で、治療用のアブレーションエネルギーを供給させてよい。こうするために、電力供給/制御部118自身が、必要な電力制御および治療用のエネルギー信号を生成、調整、および、供給する複数のコンポーネントを含んでもよい。たとえば電力供給/制御部118は、一定の振幅および周波数の1以上のRF信号を生成するための1以上の周波数発生器を含んでよい。これらの信号は、1以上のRF電力増幅器によって、比較的高電圧、高電流値(high amperage)の信号(たとえば1アンペアで50ボルト)に増幅されてよい。これらのRF信号は、1以上の電気接続122および長尺部102によってアブレーション部に運ばれ、RFエネルギーが、患者の身体から離れた位置に設けられるコレクタ電極124とエミッタ電極105と間に通るようにしてよい。長尺部が非導電材料で形成される実施形態では、1以上の電気接続122は、長尺部の内腔に延び、または、外表面を通り、電流をエミッタ電極105に供給することができる。アブレーション部とコレクタ電極124との間にRFエネルギーを通すことで、組織に本来備わっている電気抵抗によって、長尺部102の周りの組織を加熱することができる。電力供給/制御部118は、さらに、1以上のRF信号の一部を、たとえば電力モニタに供給して、RF信号電力を所望の処置レベルに調節させることができる、方向性結合器を含んでよい。
【0042】
図1に示す長尺部102は、患者の体内に様々な方法で挿入されるよう構成されていてよい。
図2は、組織の対象領域に腹腔鏡でまたは直接挿入するよう構成されている遠位端に長尺部202が設けられた医療デバイス200の一実施形態を示す。デバイス200は、長尺部202に加えて、操作者がデバイスを操作できるハンドル204を含んでよい。ハンドル204は、長尺部の様々な部材(たとえば加熱アセンブリおよびアブレーション部205等)を、たとえば上述した電力供給/制御部118に接続する1以上の電気接続206を含んでよい。ハンドル204は、さらに、流体源をデバイス200に接続するための少なくとも1つの流体管208を含んでよい。
【0043】
デバイス200は、流体補助アブレーションでの利用に適合しうる医療デバイスの実施形態の一例であるが、複数の他のデバイスを利用することもできる。たとえば、心室頻拍等の不整脈の治療には、極小の長尺部が必要になる場合がある。この場合には、たとえば適切なサイズの長尺部を、循環器系を通り心臓に挿入するよう構成されたカテーテルの遠位端に設けることができる。一実施形態では、ステンレス鋼の針部(約20から約25ゲージの間、つまり、外径は約0.5ミリメートルから約0.9ミリメートル)を、カテーテルの遠位端に設けてよい。カテーテルは様々なサイズであってよいが、一部の実施形態では、約120cmの長さを持ち、直径が約8フレンチであってよい(「フレンチ」とは、カテーテル産業で、カテーテルのサイズを記述するために利用される単位であり、ミリメートルで測ったカテーテルの直径の3倍に等しい)。
【0044】
<流体補助アブレーションを利用する治療処置>
アブレーションは一般的に、高温または低温を利用して、組織の選択的壊死および/または除去を行わせる。アブレーションが行う組織の熱破壊においては、時間と温度の関係が既に分かっている。組織に不可逆的な熱的損傷を与えるための閾値温度は、約摂氏41度であると一般的に広く受け入れられている。また、特定のレベルの細胞壊死を起こすための時間は、処置温度が摂氏41度より高くなると、短くなっていくこともわかっている。正確な時間/温度の関係は、細胞のタイプによっても変化することが分かっているものの、多くの細胞タイプにおいて適している熱付与量(thermal dose)のレベルを決定するために利用することができる一般的な関係が存在している。この関係は、通常、以下で表現される摂氏43度における等価時間で表される。
【数1】
本式において、Tは、組織の温度であり、Rは、0と5との間の範囲の治療効率の単位のない指標である(通常は、摂氏43度以上の温度において2であり、摂氏41度未満では0であり、摂氏41から43度の間の温度では4であることが、Sapareto S.A. and W.C. Dewey, Int. J. Rad. Onc. Biol. Phys. 10(6):787-800 (1984)に記載されている)。この数式およびパラメータセットは、熱付与量を計算するための数多くの公知の方法の一例にすぎず、本発明の方法およびデバイスは、いずれの方法論であっても利用可能である。上記数式(1)を利用することで、t
eq,43℃=20分から1時間の範囲の熱付与量は、治療効果がある、と一般的に受け入れられているが、組織を殺すのに必要な付与量は、組織のタイプにも依る、とする見方も存在している。したがって、治療温度は、摂氏41度を超えるいずれの温度のことであってもよいが、供給される付与量ひいては最終的には治療効果は、温度の経時的履歴(temporal history:つまり、組織がそれまでに受けた熱の量)、加熱対象の組織のタイプ、および数式(1)によって決まる。たとえばNath, S. and Haines, D. E., Prog. Card. Dis. 37(4):185-205 (1995) (Nath et al.)は、1分間、摂氏50度の温度が治療効果を持つ、と示唆しているが、これは、128分間、摂氏43度(R=2)の等価時間である。加えて、効率を最大にするためには、治療温度を、処置対象の組織にわたり均一にして、熱付与量の供給を均一にする必要がある。
【0045】
図3は、電極105等のアブレーション部から一定の距離離れた位置で達成される温度のシミュレーションを示すことで、いくつかのアブレーション技術の性能プロフィールを示す。第1のプロフィール302は、流体補助を利用しない場合のRFアブレーションの性能を示す。電極から離れるにつれて、組織の温度が急降下していることが本図からわかる。これは、アブレーション部から10ミリメートルの範囲内では、組織の温度はまだ略体温であり(摂氏37度)、上述した治療温度である摂氏50度よりかなり低い。さらに、アブレーション部の直近では、温度は非常に高く、これは組織が非常に急速に脱水され(desiccate)、すっかり乾燥して、炭化することを意味している。こうなると、組織のインピーダンスが劇的に上昇して、アブレーション部から遠く離れた部位の組織にエネルギーを与えることが難しくなる。
【0046】
第2の組織温度プロフィール304は、米国特許第5,431,649号明細書に記載されているものに類似した第2の先行技術のシステムに関している。この第2のシステムでは、組織に電極を挿入して、約525mAの400kHzのRF電流を流して、組織を加熱する。同時に、体温(摂氏37度)の温度の生理食塩水溶液を組織に10ml/分の速度で投入する。この結果生じる組織温度プロフィール304は、プロフィール302より均一ではあるが、いずれの位置においても最大温度が大体摂氏50度である。したがって、温度プロフィール304は、一般的に受け入れられている、組織の小部分のみにおける1分間の治療で組織を損傷させる閾値温度を超えている。上述したように、このように小さな温度上昇しかないと、意味のある治療効果を得るためには処置時間が長くなる。
【0047】
第3の組織温度プロフィール306は、本発明の教示を利用して達成されたものである。図示されている実施形態では、銀/塩化銀で形成される電極を組織に挿入して、525mAの480kHzのRF電流を流し、組織を加熱する。同時に、摂氏50度に加熱した生理食塩水溶液を10ml/分の速度で投入する。この結果生じる温度プロフィール306は、均一であるとともに、電極から15ミリメートル離れた場所では、摂氏50度の治療閾値温度を有意に超えている。さらに、温度がこの体積の範囲で均一であることから、供給すべき熱付与量も、この体積では均一ということになる。
【0048】
図3の均一な温度プロフィールは、アブレーションエネルギーを加えている間に対象組織に加熱した流体を導入することで達成することができる。流体は、熱を組織内に深く循環させることができるので、プロフィール302に示すような、アブレーション部付近での炭化およびインピーダンスの変化を低減させることができる。さらに、流体が治療レベルまで加熱されることから、プロフィール304に示すような、周辺組織の温度を降下させるヒートシンクとして機能することがない。したがって、RFエネルギーと加熱した生理食塩水溶液の還流とを組織に同時に適用することで、電極に隣接している組織の脱水および/または気化をなくすことができ、組織の有効インピーダンスを保ち、RFエネルギーによる加熱対象の組織内の熱輸送(thermal transport)を高めることができる。これにより、治療温度(たとえば摂氏41度を超える温度)まで加熱することができる組織の総量も増やすことができる。たとえば、実験試験により、ここで説明する流体補助アブレーション技術を5分間利用することで直径が約8センチメートルの体積の組織(つまり約156cm
3の球形体積(spherical volume))を処置することができる。これに比べて、従来のRFを同じ5分間利用しても、約3センチメートル(つまり14cm
3の球形体積)の体積しか処置できない。
【0049】
加えて、本発明の流体補助アブレーションデバイスは、処置対象の組織によって処置プロフィールの形状を調節するために変化させることができる多数のパラメータを有している。たとえば、SERFアブレーション技術を利用する場合、操作者または制御システムはパラメータを変更することで(たとえば、生理食塩水の温度(たとえば約摂氏40度から約摂氏80度に)、生理食塩水の流速(たとえば約0ml/分から約20ml/分に)、RF信号電力(たとえば、約0Wから約100Wに)、および、処置期間(たとえば約0分から約10分))、温度プロフィール306を調節することができる。加えて、様々な異なる電極の構成も、処置を変更するために利用することができる。たとえば、
図1に示すエミッタ電極105は、単極電流用に、連続した円柱に構成されているが、電極は、連続した表面積を構成する、球形または螺旋系等の他の形状に構成してもよいし、電極は、複数の別個の部分を含んでも良い。電極は、1つの電極(または1つの電極の1つの部分)が陰極として動作し、別の電極(または別の部分)が陽極として動作する、双極用の構成であってもよい。
【0050】
SERFアブレーション技術で利用するのに適した流体は、殺菌された通常の生理食塩水である(食塩水溶液として定義される)。しかし、他の液体(リンゲル液または濃縮生理食塩水など)を利用してもよい。対象の組織に利用されたときに、所望の治療および物理特性を提供する流体が選択されてよく、組織を感染から守るために、殺菌された流体がお薦めである。
【0051】
<治療ゾーンにおける流体の成形>
上述したように、アブレーションエネルギーは、一般的に、球形パターンのアブレーション部(たとえばエミッタ電極105)から拡大する。そして、略球形状のアブレーション治療処置ゾーン、体積、または領域(つまり上述したように、一定の期間で治療温度に達することで、治療量のアブレーションエネルギー(therapeutic dose of ablative energy)を受ける領域のこと)が形成される。球形の処置ゾーンの直径は、処置時間が長くなると、大きくしてもよい。
【0052】
この振る舞いの一実施形態を
図4に示す。本図は、遠隔端404とエミッタ電極405とを有する長尺部402を含むアブレーションデバイス400の一実施形態を示す。複数の出口孔408が、エミッタ電極405の外表面に沿って配置されてよく、長尺部402を取り囲む組織に流体を運ぶことができる。加熱された流体は、出口孔408から出て、アブレーションエネルギーが、エミッタ電極405によって組織に運ばれ、T
1と名付けられている破線によって定義される処置ゾーンが、第1の時間に生成される。二次元の丸で示されているが、当業者であれば、処置ゾーンは三次元であり、ほぼ球形の形状をもつことを理解する。第1の時間より長い第2の時間に、T
2と名付けられた破線に達するまでは、処置時間が長くなると、処置ゾーンの直径も大きくなる。同様に、第2の時間より長い第3の時間に、処置ゾーンはT
3と名付けられた破線に達する。
【0053】
しかし、一定の状況では、球形ではない組織の体積に治療量のアブレーションエネルギーを提供すると望ましい場合もある。たとえば、一部の実施形態では、アブレーションが、対称ではなかったり球形ではなかったりする子宮筋腫(fibroid)、腫瘍、その他の病変に対して行われる場合がある。他の実施形態として、処置対象の組織の体積が、処置してはならない別の組織構造(たとえば、神経細胞群またはその他の健康な組織等)に非常に近接している場合もある。また一部の実施形態では、明確な方向性を持つ処置領域(たとえば、長さと厚みとをもつアブレーションする組織の平面)を作成すると望ましい場合もある。方向性を持つ処置領域の使用例は、不整脈(たとえば心室頻拍)をアブレーション処置する場合である。この処置では、アブレーションは、心拍を制御する電気信号の電波を誘導するために、方向を持つ経路を作成して、頻拍を生じさせる可能性のある不規則な信号(errant signal)を防止するために利用される。これら経路は、心臓の壁部の垂直方向の平面に作成されることが多い。
【0054】
本発明は、流体補助アブレーション治療中に、これらのタイプの方向性を持つ、または非球形の処置領域を作成するデバイス及び方法を提供する。概して、本発明のデバイスおよび方法は、様々な温度の流体によって動作して、処置領域を成形する。一実施形態では、処置温度に加熱された流体が、長尺部の1以上の位置から組織に導入されてよく、同じまたは別の長尺部の1以上の別の場所に、低温の流体が導入されてよい。1以上の長尺部を取り囲む一定の領域では、高温の流体が低温の流体と混ざり、急冷される(つまり、加熱された流体が治療温度未満にまで冷却されること)。この急冷によって、特定の位置に、治療量のアブレーションエネルギーが供給されなくなる。流体源の相対位置および、流速および温度といった動作パラメータの選択によって、流体補助アブレーション治療中に作成される治療領域の制御およびカスタマイズ性能を向上させることができる。当業者であれば、ここで開示する様々な方法およびデバイスを、任意の所望の形状を持つ処置領域の作成に利用することができることを理解する。
【0055】
<多体システム>
図5は、本発明のシステムの一実施形態を示す。本図は、様々な温度の流体を供給する複数の長尺部を有する流体補助アブレーションシステムの一実施形態の上部断面図である(長尺部については、本ページで後述する)。特に、第1の長尺部502は、処置対象の体積の略中心に位置させてよい。第1の長尺部502は、上述した長尺部102に類似していてよい。図示するように、第2の長尺部504aおよび第3の長尺部504bは、第1の長尺部502と隣接して位置させてよい。第2および第3の長尺部504a、504bは、一部の実施形態で上述した長尺部102に類似していてよい。しかし他の実施形態では、第2および第3の長尺部は、治療用に加熱された流体またはアブレーションエネルギーを供給するために利用されないので、長尺部102のもつアブレーション部および加熱アセンブリの1以上を有さなくてよい。一定の実施形態では、加熱アセンブリは第2および第3の長尺部504a、504bに残して、これら部材を流れる流体を高温(たとえば、体温は超えているが、治療閾値未満の温度であるが、高温はどの温度でもよい)にまで加熱させてもよい。
【0056】
利用に際しては、第1の流体源からの流体を、流体を内腔に通すことで第1の長尺部502を囲む組織に供給して、流体を加熱して、流体を、上述したように長尺部502の側壁に形成されている少なくとも1つの出口孔から出す。加熱された流体は、たとえば約摂氏45度および約摂氏80度の間の治療温度であってよい。一実施形態では、流体は約摂氏50度に加熱されてよい。加えて、第2のより低い温度の流体を、同じまたは別の流体源から、第2および第3の長尺部504a、504bを取り囲む組織に供給してよい。低温の流体は、長尺部502内に供給される流体の温度未満のいかなる温度であってもよい。一実施形態では、低温の流体は、約摂氏25度および約摂氏41度の間であってよいが、任意の熱付与量を急冷できるものであれば任意の温度の流体を利用することができる。第1、第2、および第3の長尺部502、504a、504bのそれぞれからの流体の流れを
図5の矢印で表す。上述したように、第1の長尺部502からの高温の流体は、第2および第3の長尺部504a、504bからの低温の流体と混ざり、組織の一定の領域が治療温度に至らないようにして、組織に損傷が出ないようにしてもよい。この流体の相互作用ひいては組織における選択的な熱の急冷が、楕円形状の治療体積を生成する(
図5でA
1と名付けられている破線)。当業者であれば、
図5の処置領域A1は楕円形状として示されているが、治療体積は三次元に延在しており、第2および第3の長尺部504a、504bからの流体の流れによって対向する側面方向が圧縮された楕円円盤または球形に類似したものであってよい。
【0057】
図5の構成は、ここで開示する流体補助アブレーションシステムの様々な可能性のある構成の1つである。たとえば一定の実施形態では、1を超える数の長尺部を、治療用に加熱した流体または加熱した流体およびアブレーションエネルギーを供給するよう構成してよい。同様に、2を超えるまたは下回る数の長尺部504a、504bを利用して、低温の流体を、組織を切除するために利用される1以上の長尺部に隣接した領域に供給してよい。この結果、組織に流体を供給する任意の数の長尺部を利用して、複数の異なる三次元治療ゾーンの形状が作成される。またさらに、1以上の長尺部を、互いに様々な位置に位置させることができる。変形例としては、角度調節(たとえば、図で第3の長尺部504bを第1の長尺部502の、下ではなく、左に位置させるなど)、距離調節(たとえば、図で第3の長尺部504bを、第1の長尺部502からもっと離すなど)、および、垂直方向の調節(たとえば、第2の長尺部504aを図の平面の法線方向に移動させるなど)が含まれてよい。加えて、様々な温度を、任意の長尺部内に供給される流体について選択することができる。一実施形態では、第1の長尺部502を流れる流体を、治療温度に加熱することができる。第2および第3の長尺部504aおよび504bを流れる流体は、治療温度未満の任意の温度に加熱されてよい。たとえば、流体を、積極的に加熱せずに体温で供給してもよいし、流体を、体温未満の温度で供給してもよい。さらに、第1、第2、および第3の長尺部から導入される流体の流速および温度は、
図5に示す形状を様々に変形させることができる。加えて、長尺部に設けられている任意のアブレーション部から供給されるアブレーションエネルギーを変更したり、任意の数の長尺部を処置ゾーン内またはその周りに設けたりすることで、所望の治療を行うことができる。
【0058】
図5に示す長尺部502、504a、504bは、様々な方法で組織の対象体積内に導入して位置させることができる。たとえば上述した医療デバイス200に類似した3つの別個のデバイスを利用してもよい。しかし一部の実施形態では、複数の長尺部が取り付けられたアブレーションデバイスを提供することもでき、必要に応じて、各長尺部は、同じまたは別の流体源、ならびに、加熱アセンブリおよびアブレーション部に連結されていてよい。
図6は、長尺シャフト610、第1の長尺部602、第2の長尺部604a、および、第3の長尺部604bを含んでよいデバイス600の一実施形態を示す。第1の長尺部602は、たとえばエミッタ電極605からのアブレーションエネルギーとともに、周辺組織に治療温度に加熱された流体を供給するよう構成されていてよい。第2および第3の長尺部604a、604bは、第1の長尺部602より低温の流体を周辺組織に供給するよう構成されていてよい。加えて、長尺部602、604a、604bのそれぞれが、長尺部602、604a、604bのそれぞれの内腔から流体を周辺組織に供給するよう構成される1以上の出口孔606a、606b、606cを有してよい。
【0059】
長尺シャフト610は、様々なサイズおよび構成を有してよい。たとえば一部の実施形態では、長尺シャフトは、循環システムによって患者の体内に導入するよう構成されたカテーテルであってよい。一実施形態では、カテーテルは約12フレンチであってよい。第1、第2、第3の長尺部602、604a、604bのそれぞれのサイズは、長尺シャフト610として利用されるカテーテルの全径(overall diameter)に応じたものとしてよい。一実施形態では、各長尺部が、27ゲージのステンレス鋼の針部(つまり、外径が約0.4mmである)であってよい。別の実施形態では、長尺シャフト610は、上述した医療デバイス200同様の腹腔鏡デバイスとして構成されてもよい。
【0060】
長尺部602、604a、604bは、長尺シャフト610に対して様々な構成で配置することができる。
図6に示す実施形態では、長尺部602、604a、604bが、長尺シャフト610の直径を定義する軸D沿いに均等間隔で配置されていてよい。より詳しくは、第1の長尺部602が、長尺シャフト610の中央部分に配置されていてよく、第1および第2の長尺部604a、604bが、長尺シャフトの直径の外部の軸D沿いに配置されていてよい。長尺部602、604a、604bは、長尺シャフト610の縦軸Lに実質的に平行な方向に延在させてよい。他の実施形態では、長尺部602、604a、604b、または、少なくとも第2および第3の長尺部604a、604bが、軸D沿いを滑動して、長尺部602、604a、604bの間の間隔を調節することができるように構成されていてもよい。また別の実施形態では、長尺部602、604a、604bが、縦軸Lから特定の半径で互いに角度オフセットされてもよい。たとえば、長尺部602、604a、604bは、縦軸Lから一定の距離で、それぞれから120度の位置に設けられてよい。この実施形態では、アブレーション部が、各長尺部602、604a、604bに設けられてよく、異なる電力レベル、流体の流速および流体の温度を利用することで、所望の治療ゾーンを生成することができる。
【0061】
上述したように、第1の長尺部602は、長尺部602を取り囲む組織を加熱するためにRFエネルギーを供給するよう構成されている、エミッタ電極605等のアブレーション部を含んでよい。一定の実施形態では、第2および第3の長尺部604a、604bも、アブレーション部を含んでよいし(たとえば、アブレーション部は、非常に低温で動作してもよいし、治療中は停止されてもよい)、一部の実施形態では、アブレーション部を全く含まなくてもよい。さらに、長尺部602、604a、604bのそれぞれは、内腔内に配置され、内部を流れる流体を加熱するよう構成された加熱アセンブリを含んでよい。利用される加熱アセンブリは、本願と同時に出願され、上述した通り全体を参照として組み込む「流体補助アブレーション治療において流体を加熱する方法およびデバイス」という題名の関連する米国出願第13/445,036号明細書に記載されているものに類似していてよい。上述したように、一部の実施形態では、第2および第3の長尺部604a、604bは、加熱アセンブリを含まなくても含んでもよく、第2および第3の長尺部のそれぞれに含まれる加熱アセンブリは、加熱が不要である場合または望ましくない場合には停止させ続けることができる。さらに、当業者であれば、長尺シャフトは、上部に任意の数の長尺部を有してよく、長尺部は、カテーテルに対して様々な角度方向で方向づけられてよいことを理解する。
【0062】
<単体デバイス>
流体補助アブレーション治療中に作成される処置ゾーンの効果的な成形は、長尺部を1つだけもつデバイスを利用して行うこともできる。たとえば一実施形態では、アブレーションデバイスが、内腔を、互いに流体連通していない2以上の部分に分割されている長尺部を含んでよく、2以上の部分のそれぞれが、共通または別個の流体源と連通してもよく、1以上の別の出口孔が長尺部沿いに位置していてもよい。このようにすると、流体を、様々な温度で長尺部を取り囲む別の領域に供給することができる。1以上の出口孔を出た後で、流体は混ざり合い、長尺部を取り囲んでいる組織の一定の領域のもつ熱が選択的に急冷される。この選択的な急冷によって組織の損傷が防がれ、治療量のエネルギーを受ける組織の体積を成形することができる。
【0063】
図7Aは、複数の内壁w
1、w
2、w
3、w
4によって、四分円706a、706b、706c、706dの形態の複数の部分に分割された内腔706をもつ長尺部702を含む単体のアブレーションデバイス700の一実施形態を示す。各四分円706a、706b、706c、706dは、したがい、長尺部702内を延びる別個の内腔を定義している。当業者であれば、他の構成の長尺部に内腔を形成することもでき、長尺部が任意の数の内腔を持っていてもよいことを理解する。デバイス700は、さらに、先鋭の(または成形された)遠位端710、アブレーション部(たとえばエミッタ電極)705、および複数の出口孔708を含む。
【0064】
内壁w1、w2、w3、w4は、長尺部702の全長にわたり延びており、これらの壁が定義する四分円706a、706b、706c、706dは、互いに流体連通がない。内壁w1、w2、w3、w4と長尺部702の内壁との界面は、流体が四分円706a、706b、706c、706dの間を漏れないようにする封止剤または接着剤等の特徴部を含んでよい。さらに、内壁w1、w2、w3、w4は、絶縁材料(熱的絶縁、または、電気的絶縁であってもよい)で形成され、または、絶縁材料で被覆されていてよく、これにより、四分円の加熱された流体が、隣の四分円の流体を温めないようにする。たとえば内壁w1、w2、w3、w4は、長尺部102に対して上述したものと同じフッ素重合物で形成されていても、または、フッ素重合物で被覆されていてもよい。一部の実施形態では、熱的絶縁は不要である場合もある。たとえば流体の流速が速い場合(たとえば10ml/分以上)には、流体が内腔706を流れるために必要な時間が短くなり、隣の四分円の間に生じうる熱伝達量も低くなる。
【0065】
四分円706a、706b、706c、706dのそれぞれは、出口孔708の1以上と流体連通してよい。たとえば、
図7Aに示す実施形態では、内腔706の四分円706aが、正のy方向に流体を導く、出口孔708の1以上と流体連通していてよい。逆に、四分円706bは、負のy方向に流体を導く、出口孔708の1以上と流体連通してよい。同様に、四分円706cおよび706dは、それぞれ、流体を負のx方向および正のx方向に導く出口孔708の1以上と流体連通していてよい。当業者であれば、四分円706a、706b、706c、706dのそれぞれが、
図7Aに示されたものとは異なる出口孔と流体連通していてもよく、任意の数の出口孔が、長尺部702沿いの様々な位置に設けられてよいことを理解する。
【0066】
図7Bは、
図7Aのデバイスの断面図である。図示されているように、内腔706の四分円706c、706dから放出される流体は、各四分円内に設けられた別個の熱アセンブリ(不図示)によって治療温度にまで熱せられてよい。他方で、四分円706aおよび706bから放出された流体は、四分円706cおよび706dから供給される流体の治療温度未満の第2の温度であってよい。上述したように、第2の温度は、体温未満、体温と等しい、または、体温より高いが、選択された治療温度よりは低くてよい。さらに、この第2の温度は、第2の温度で流体を供給する、または、別の加熱アセンブリ(不図示)を四分円706c、706dで利用することで、内部を流れる流体を第2の温度に熱することで達成されてよい。各四分円からの流体は、長尺部702を取り囲む組織に入ると、混ざり、破線が示す熱境界を形成する。これら境界は、一定の期間でアブレーションエネルギーの治療量を供給するに足る治療温度に達する処置ゾーンA
2およびA
3を定義することができる。ゾーンA
2およびA
3の外部の組織は、四分円706aおよび706bから放出される、より冷たい流体によって治療量のアブレーションエネルギーを受けないようになっている。当業者であれば、四分円706a、706b、706c、706dのそれぞれが、異なる温度および流速で流体を放出して、様々に異なる形状の治療ゾーンを形成することができることを理解する。
【0067】
図8Aおよび
図8Bは、様々な温度の流体を治療体積に供給するよう構成されている単体アブレーションデバイス800の別の実施形態を示す。
図7Aおよび
図7Bに示すデバイス700の内腔706から長手方向に延びる部分と比較して、デバイス800は、遠位部および近位部802a、802bに分割されてよい。
図8Aに示すように、アブレーションデバイス800は、遠位部802aと近位部802bとに、緩衝部803によって分割されている長尺部802を含んでよい。緩衝部803は、長尺部の遠位部802aの内腔を、長尺部の近位部802bの内腔から隔てる内壁であってよい。
【0068】
各部分802a、802bは、エミッタ電極805a、805b、並びに、長尺部802沿いに設けられた1以上の出口孔808a、808b、および/または、各部分の内腔と流体連通するエミッタ電極805a、805bを含んでよい。部分802a、802bは、さらに、長尺部沿いに設けられ、長尺部802を取り囲む組織の温度を検知するよう構成されている1以上の温度センサ804a、804bを含む。温度センサは、様々な方法で実装することができ、一部の実施形態では、センサは、長尺部802の側壁に形成された孔に埋め込まれたクロメルーコンスタンタン細線熱電対(CRC熱電対)であってよい。温度センサ804a、804bは、長尺部802沿いの任意の場所に位置してよいが、一部の実施形態では、アブレーション部805a、805bに対して対称に設けられてよい。この構成により、処置ゾーンの拡張の均一性を正確に計測することができるようになる。温度センサに関するさらなる情報は、本願と同時に提出され、上述した通り全体を参照として組み込む「流体補助アブレーション治療の遠隔温度監視デバイスおよび方法」という題名の関連する米国出願第13/445,034号明細書に見つけることができる。
【0069】
長尺部802を部分802a、802bに分割することで、温度センサ804aおよび804bにより不均一な加熱が検知された場合に、処置ゾーンを調節することができるようになる。たとえば、例示されているデバイスは、電極805a、805bからのアブレーションエネルギーとともに、均等な温度で部分802a、802bの両方から流体が供給されるような場合には特に有用であるが、温度センサ804aが記録する温度は、センサ804bが記録する温度より高い。治療ゾーンを調節して、より均一な加熱を行うために、電極805aからのアブレーションエネルギーの供給を低減させたり停止させたりすることができる。加えて、遠位部802aの1以上の出口孔808aから放出される流体の温度を下げることができる。さらに、適宜、流体の流速を低減させることができる。これら動作のそれぞれが、遠位部802aを取り囲む組織で生じる熱を低減させることができ、近位部802bの出口孔から温度センサ804bおよびその領域の長尺部802を取り囲む組織に向かって、加熱された流体を放出させる手助けを行う。当業者であれば、反対のステップ(たとえばアブレーションエネルギーを増加させたり、生理食塩水の温度を増加させるなど)を、部分802aに適用することで、その領域に供給される熱量を増加させることもできることを理解するだろう。さらに、観察された状態が逆の場合には、上述したステップのいずれかを逆に適用して、温度センサ804a付近をより高温にすることもできる。またさらに、上で挙げたステップは、所望のまたは必要な治療成形量に応じて、いずれの順序で行うこともできるし、個別にまたは同時に行うこともできる。
【0070】
図8Bは、
図8Aのデバイスの半透視図であり、近位部と遠位部とが1以上の緩衝部803によって隔てられている長尺部の一実施形態の内部構成を示す。示されているように、遠位部802aの内腔は、近位部802bから、バッフル部803によって隔てられていてよい。バッフル部803は、上述した内壁w
1、w
2、w
3、w
4同様に構成されてよい。たとえば、バッフル部が、長尺部802と一体化された部分であってもよいし、接着剤その他の保持部材または材料により長尺部802の内腔806に固定された別個の部材であってもよい。バッフル803は、たとえば、プラスチックその他の適した材料から形成されてよい。
【0071】
バッフル部803は、さらに、それぞれが排管(たとえば排管810a)を受けるよう構成されている1以上のルーメンが内部に構成されていてよい。排管810aは、金属、プラスチック、または金属の裏張りをもつプラスチックにより形成されてよく、任意の介在バッフル(たとえばバッフル803)および部分(たとえば近位部802b)を通りデバイス800の近位端に流体の流路を提供する内腔を含んでよい。排管810aの内腔は、他の部分(たとえば近位部802b)の内腔と流体連通していない。こうすることで、たとえば、近位部802bに流体を供給するために利用される流体源とは異なる源から遠位部802aへと流体を供給することができるようになる。この代わりに、流体は、共通の流体源から部分802a、802bに供給してもよい。内腔806は、さらに、デバイス800の他の部分に流体を供給するよう構成されている追加の排管を含んでもよい。たとえば内腔806は、デバイス800の近位端からデバイス800の遠位端の近位部802bに流体を供給するよう構成されている排管810bを含んでよい。
【0072】
当業者は、内腔806が、デバイスにいくつか部分があるために、多くの排管を含みうることを理解する。さらに、デバイス800は、処置ゾーンの所望の形状に応じて任意の数の部分を持ってもよい。たとえばデバイス800は、
図8Aおよび
図8Bに示すように2つの部分を含んでよいし、3以上の部分を含んでもよい。3つの部分を持つ一実施形態では、たとえば中央に位置するアブレーション部の各側面が、長尺部802を取り囲む組織に低温の流体を供給するよう構成されている1以上の出口孔に接していてよい。この実施形態では、接する出口孔は、長尺部802の縦軸の方向に沿って処置ゾーンを圧縮することができる。
【0073】
加えて、排管はそれぞれ、スペーサ部(たとえば、バッフル803に類似しているが、バッフルの周りに流体を流れさせる1以上のルーメンを含む部材等)によって一定の位置にしっかり固定され(rigidly held)、または、内腔806内に浮遊させられてよい。他の実施形態では、排管は、外表面に形成された特徴部を含むことで、内腔806の内壁または他の排管との接触を防止することができる。特徴部の例には、排管の外表面に形成されたフィンまたはリブが含まれる。
【0074】
各排管810a、810bは、近位端で、独立したまたは共通の流体源に接続されている。各排管810a、810bは、さらに、遠位端付近の、排管の内腔内に配置された、独立した加熱アセンブリを含んでよい。加熱アセンブリの例には、たとえば、RFエネルギーを、排管810a、810bの内腔の流体により排管の内壁に通過させるよう構成されている、排管の内腔を通る1つのワイヤ814a、814bを含んでよい。ワイヤ814a、814bには1以上のスペーサが含まれることで、ワイヤが排管810a、810bの伝導部分に直接接しないようにされている。加熱アセンブリのさらなる詳細は、本願と同時に出願され、上述した通り全体を参照として組み込む「流体補助アブレーション治療において流体を加熱する方法およびデバイス」という題名の米国出願第13/445,036号明細書を参照されたい。
【0075】
上述した加熱アセンブリの例では、各排管810a、810bの少なくとも一部が、導電材料で形成されている必要がある(RFエネルギーをワイヤ814a、814bから受けるために)。この実施形態では、排管810a、810bが、絶縁材料で被覆され、互いに、またはデバイス800の内腔806の内壁と接触することで電気的短絡を起こさないようになっている。加えて、熱絶縁材を利用することで、排管810a、810bを被覆して、いずれかの部分の流体の温度が他の部分の流体の温度に影響を及ぼさないようにしてもよい。しかし一部の実施形態では、流体の流速が速すぎて、流体が、ある部分に影響を及ぼすことができなかったり、その部分の流体の温度による影響を受けたりできなかったりする場合もある。これらの実施形態では、排管810a、810bの熱絶縁は不要である。
【0076】
排管810a、810bは、さらにデバイス800のある部分に供給される流体の温度に関するフィードバックを提供する。たとえば排管810aは、排管810aの遠位端を超えて延びるダブルワイヤの熱電対812aを含んでよく、ダブルワイヤの熱電対812aは、排管を出てから内腔806内で混合された後であって、出口孔808aを通って周囲の組織に出ていく前の、遠位端802a内の流体の温度を計測する。2つの熱電対線820、822は、排管810aの内腔を通り、デバイス810aの近位端に戻ることができる。熱電対線は、当技術分野で公知な信号処理エレクトロニクスに接続され、遠位部802a内の流体の温度を測ることができる。図に示すように、第2の排管810bは、さらに、2つのワイヤ816、818から形成されるデュアルワイヤの熱電対等の温度センサ812bを含んでよい。センサ812bも、排管810bの遠位端から近位部802bに延び、センサ812bが計測する温度が、出口孔808bによって周囲の組織に供給されようとしている混合された流体の温度を表すようにする。当業者であれば、本発明のデバイスでは、たとえばクロメルーコンスタンタン細線熱電対を含む様々な温度センサを利用可能であることを理解する。
【0077】
<利用方法>
本発明の教示は、任意の所望の形状を有する処置ゾーンを作成するために利用することができる。概して、これは、2以上の位置から、流体を治療エネルギーとともに導入することで達成される(アブレーション部から、または、流体を加熱することによってのみ)。たとえば一部の実施形態では、方法に、アブレーションエネルギーと加熱した流体とを1以上の位置に供給しつつ、同時に、1以上の異なる位置にこれより低い温度の流体を供給して、所望の処置ゾーンの形状を形成する、というものがある。さらなる例として、一定の状況においては、略球形の治療体積を提供するが、体積の特定のサブセットは、アブレーションエネルギーの治療量を受けないようにすると好適である場合もある。たとえば前立腺の領域に流体補助アブレーションを利用する場合には、失禁および起立機能を制御する近隣の神経束を保護することが望ましい。本発明の教示を利用すると、これは、長尺部を、保護対象の構造の付近の組織に導入して、治療中に選択された治療温度未満の流体を供給しつつ、同時に、治療対象の組織にエネルギーを供給することによって達成される。
【0078】
図9は、非球形の処置ゾーンの一実施形態の断面図を示す(上で述べた
図5に類似している)。本図に示すように、第1の長尺部902は、治療体積の略中央に位置している。しかし治療体積は、アブレーション治療から除外されるべき構造901(たとえば神経束、健康な組織等)に隣接して位置している。これを達成するためには、第2の長尺部904を、構造901に隣接する位置であって、且つ、第1の長尺部902と構造901との間に位置させることができる。第1の長尺部が、治療温度に熱せられた流体をRFエネルギーとともに、周囲の組織に導入される流体補助アブレーション治療中に、第2の長尺部904が、流体を、治療温度未満の温度で周囲の組織に供給することができる。上述したように、流体は、周辺の組織において混ざり、構造901を取り囲む組織の温度を、治療レベル未満に降下させることができる。この結果生成される治療処置領域をA
4と名付けられた破線で示す。当業者であれば、この技術、および、複数のアブレーションおよび非アブレーション長尺部に関する変形例を利用して、身体の様々な組織構造を保護することができることを理解する。
【0079】
他の実施形態では、処置ゾーンの成形は、複数の温度で流体を同時に供給するよう構成された1つの長尺部を利用して行うことができる。このデバイスは、上述されており、処置ゾーンの例は
図7Aおよび
図7Bに示されている通りである。このデバイスの別の実施形態が
図8Aおよび
図8Bに示されている。利用に際しては、これらデバイスのいずれかを、腹腔鏡を利用して、または内視鏡を利用して、患者の体内に導入して、治療対象の組織に近接させて位置させる。次にデバイスの1以上の内腔を通じて、治療対象の組織に、流体が供給されてよい。各内腔を流れる流体は、治療温度に、または、治療温度未満のいずれかの温度に独立して加熱されてよい。異なる温度の流体は、デバイスの異なる位置から(デバイスの長さを通り、またはその外周を通り)供給され、異なる形状の処置ゾーンを作成することができる。
【0080】
また別の実施形態では、流体を組織に供給するのではなく、周辺組織から流体を取り除くよう構成された長尺部を導入することで、治療処置ゾーンを成形することが望ましい場合もある。流体を周辺組織から引き揚げさせるよう構成された長尺部を利用すると、処置中の組織の体積内に所望の流体の流れのパターンを形成する助けとなる。一部の実施形態では、流体を引き揚げさせることは、治療体積が、アブレーション治療中に導入される量の流体を吸収、放散できない場合にも必要となるだろう。
【0081】
図10は、加熱された流体を供給するための1つの長尺部と、治療体積から流体を取り除くための1つの長尺部とを利用して、流体補助アブレーションを導入する方法の一実施形態を示す。本図に示すように、第1の長尺部1002が治療体積1004に挿入される。しかし、長尺部が治療体積の略中央に位置していた上述した実施形態とは異なり、長尺部1002は、アブレーション部1006が、治療体積1004の片側に位置するよう配置される。次いで、第2の長尺部1008が、第1の長尺部1002に略対向する、治療体積の位置に挿入されてよい。第2の長尺部1008は、アブレーション部を含まなくてよく、含む場合には、アブレーション部は停止させておいてよい。さらに第2の長尺部1008は、たとえば第2の長尺部1008の内腔(1以上の出口孔1010から周辺組織と流体連通している)を真空源に接続することにより、周辺組織から流体を引き揚げる構成されていてよい。
【0082】
第1および第2の長尺部1002、1008の両方を治療体積1004内に位置させた後に、第1の長尺部が、アブレーション部1006から治療エネルギーを供給し始め、さらに、治療レベルに熱せられた流体を、長尺部1002またはアブレーション部1006の側壁に形成された1以上の出口孔1012から供給開始してよい。第2の長尺部1008も、起動を開始させて、治療体積1004の組織から流体を引き揚げ始めてよい。流体の治療体積に対する供給および引き揚げを同時に開始することで、第1の長尺部1002および第2の長尺部1008の間に方向性を持つ流れのパターンが形成される(図の矢印を参照のこと)。
【0083】
当業者であれば、治療領域から流体を引き揚げる技術を、ここで説明する他のいずれかの技術とも組み合わせることで、複数の形状を持つ様々な複雑な治療処置ゾーンを作成することができることを理解する。さらに、アブレーションエネルギーを供給して、処置ゾーンに導入された流体を引き揚げるよう構成されている複数の長尺部を同時に利用することができる。またさらに、第1および第2の長尺部の配置は、所望の治療領域の形状、および、部位にアクセスする能力によっては、必ずしも互いに対向させる必要はない。実際、一部の実施形態では、流体の導入および取り除きは、1つの長尺部(たとえば
図8Aおよび
図8Bに示すデバイス800)によって行うこともできる。この実施形態では、デバイスのもつ複数の部分のうち1つが、流体を治療体積に導入するよう構成されていてよく、デバイスの別の部分が、流体を体積から取り除くよう構成されていてよい。
【0084】
図10に示す方法は、たとえば覆われている病変(たとえば子宮筋腫)の治療をする場合などに特に有用である。覆われている病変は、流体(流体補助アブレーション中に導入させる流体等)を通過させない外皮を有している。この結果、流体は治療中に引き上げられず、多量の圧縮不可能な流体が導入されることで、病変が不当な圧力を受ける。加えて、図に示すように第1および第2の長尺部1002および1008を配置することで、第1の長尺部1002によって供給される熱の伝播に、強い方向性(矢印で示す)が課される場合がある。これにより、治療の完了は、上述したものと同じタイプの温度を利用して、第2の長尺部1008を取り囲む組織の温度を計測することで決定されることになる。
【0085】
ここに開示するデバイスおよびシステムの様々な実施形態は、複数の症状を治療する様々な外科手術で利用することができる。たとえば、ここに開示する医療デバイスは、一般に公開されている外科手術(open surgical procedure)中に直接対象組織体積に挿入するよう構成されていてよい。または、医療デバイスは、腹腔鏡またはその他の最小限の侵襲を伴う治療中に1以上の組織層を通過させることができる。さらに、デバイスは、患者の1以上の組織層に、または自然の開口部を通じて(内視鏡により)導入するよう構成されていてよい。処置サイトへの供給に続き、外科的道具の一部(たとえば長尺部102の遠位部)を、対象の治療体積に挿入して、アブレーション部が治療体積に位置するようにする。一部の実施形態では、アブレーション部が、治療体積の中央付近に位置されてよい。
【0086】
デバイスが治療体積内に配置されると、治療温度に加熱された流体とアブレーションエネルギーとを、デバイスの1以上を通じて治療体積に供給することができる。加えて、1以上の他のデバイスが、低温の流体を供給したり、治療体積から流体を引き揚げたりすることができる。一定の期間が経つと、または、1以上のフィードバックの情報に基づいて(たとえば治療体積内に配置されている温度センサの測定値)、アブレーションエネルギーおよび流体の供給を停止させてよい。次にデバイスを取り除いたり、および/または、さらなる治療が必要な場合には、再配置させたりすることができる。
【0087】
加えて、第1の形状を有する大きな処置ゾーンを、第2の形状を有するいくつかの小さな処置ゾーンを接続することで作成することもできる。たとえば、スライス状の形状(たとえば
図5に示すようなもの)を作成して、デバイスを、後続する処置ゾーンの終端部を重ならせてデバイスを再配置する治療を行うことで、大きな線形の処置ゾーンを作成することができる。様々な他の形状も、一定の形状およびサイズを持つ複数の小さな処置ゾーンを接続する類似した方法を用いることで作成することができる。
【0088】
<殺菌および再利用>
ここで開示したデバイスは、一回利用した後で廃棄されるよう設計してもよいし、複数回利用できるよう設計されてもよい。いずれにしても、デバイスは、少なくとも1度利用されると、再利用するために再生することができる。再生には、デバイスの分解ステップの後に、洗浄または複数のピースの置き換え、および、この後で再組立てすることが含まれる。具体的には、デバイスを分解して、デバイスの任意の数のピースまたはパーツを、任意の組み合わせで選択的に置き換えたり、除去したりすることができる。特定のパーツを洗浄および/または置き換えて、デバイスは、再生工場で、または外科手術の直前に手術チームによって、再組立てすることができる。当業者であればデバイスの再生では、分解、洗浄/置き換え、および再組立てに、様々な技術を利用することができることを理解する。これら技術の利用、および、その結果再生されるデバイスは、全て本発明の範囲に含まれる。
【0089】
たとえば、ここで開示する外科デバイスは、部分的または全体が分解可能であってよい。具体的には、
図2に示す医療デバイス200の長尺部202は、ハンドル204から取り外すことができてもよいし、ハンドルおよび長尺部アセンブリ全体が、電気的接続および流体接続206,208から切り離すことができてよい。また別の実施形態では、ハンドル、長尺部、および接続が、たとえば
図1に示す流体貯蔵部、ポンプ、および電源および制御部を含む筐体に取り外し可能に連結されていてよい。
【0090】
好適には、ここで記載するデバイスは手術前に加工される。第1に、新しい、または使用済みの道具を取得して、必要に応じて洗浄する。道具は次に殺菌される。殺菌技術の1つとしては、道具を、閉じられ、封止された容器(たとえばプラスチックまたはTYVEKバッグ)に配置する。容器とその内容物は、次に、容器を貫通できる放射場(たとえばガンマ放射線、x線、または高エネルギー電子)に置かれる。放射によって道具および容器内が殺菌される。殺菌された道具は、次に、滅菌容器に格納されてよい。封止された容器は、医療施設で開封されるまで、道具を殺菌された状態に保つことができる。
【0091】
多くの実施形態において、デバイスを殺菌すると好適である。これは、当業者に知られている複数の方法で行うことができる(たとえば、ベータまたはガンマ放射、エチレンオキシド、水蒸気、液体せっけん、(たとえば寒冷浸透))。一定の実施形態では、長尺部等の部材の形成などに選択される材料が、特定の形態の殺菌(たとえばガンマ線放射)に耐えられない場合もある。この場合、殺菌の適切な代替的な形態を利用することができる(たとえばエチレンオキシド)。
【0092】
当業者であれば、上述した実施形態に基づいて本発明のさらなる特徴および利点を理解する。したがい、本発明は、請求項に示されていない限り、具体的に図示され記載されたことに限定はされない。ここで引用したすべての出版物および参照文献は、その全体を参照でここに明示的に組み込まれる。
[項目1]
組織に、所望の形状を持つアブレーション処置体積を形成する方法であって、
上記組織に治療エネルギーを供給して、上記組織にアブレーション処置体積を形成する段階と、
同時に、第1の流体および第2の流体を上記組織に供給して、上記第1の流体および上記第2の流体は、上記治療エネルギーを所望の方向に循環させて、上記アブレーション処置体積が所望の形状を持つようにする段階と、
を備える、方法。
[項目2]
上記第1の流体および上記第2の流体をそれぞれ異なる温度で供給する、項目1に記載の方法。
[項目3]
上記第1の流体および上記第2の流体を、上記組織に挿入された1以上の長尺部により供給する、項目1に記載の方法。
[項目4]
さらに、上記第1の流体および上記第2の流体のいずれかの流体の流速および流体の温度のいずれかを調節して、さらに上記アブレーション処置体積を成形する段階を備える、項目1に記載の方法。
[項目5]
さらに上記アブレーション処置体積を成形するために、上記組織に供給される治療エネルギーのレベルを調節する段階をさらに備える、項目1に記載の方法。
[項目6]
上記組織に治療エネルギーを供給する段階は、
上記組織に電気エネルギーを伝えるよう構成されたアブレーション部を起動する段階を含む、項目1に記載の方法。
[項目7]
上記第1の流体は、長尺部の内腔の対向する長手方向の第1および第2の部分から供給され、上記第2の流体は、上記内腔の対向する長手方向の第3および第4の部分から供給され、上記第3および第4の部分は、上記第1および第2の部分と放射状にオフセットされている、項目1に記載の方法。
[項目8]
上記第1の流体の供給は、上記第1の流体を、長尺部材の側壁の近位部分に形成された少なくとも1つの出口孔から放出することを含み、
上記第2の流体の供給は、上記第2の流体を、上記近位部分に隣接している、上記長尺部材の側壁の遠位部分に形成された少なくとも1つの出口孔から放出することを含む、項目1に記載の方法。
[項目9]
さらに、治療エネルギーを供給することと、同時に、第1の流体および第2の流体を複数の位置に供給することとを繰り返して、長尺状の平面形状をもつ処置体積を形成する段階を備える、項目1に記載の方法。
[項目10]
組織に供給される治療エネルギーを成形する方法であって、
患者の体内の第1の位置に第1の長尺部を位置させ、上記第1の長尺部の内部には内腔が延びており、上記第1の長尺部は少なくとも1つの出口孔を含み、その長さ方向に少なくとも1つのアブレーション部が設けられており、上記内腔内には少なくとも1つの加熱部が設けられている、段階と、
患者の体内の第2の位置に第2の長尺部を位置させ、上記第2の長尺部の内部には内腔が延びており、上記第2の長尺部は少なくとも1つの出口孔を含む、段階と、
第1の流体を上記第1の長尺部から、第2の流体を上記第2の長尺部から、同時に供給して、上記第1の流体および上記第2の流体が相互作用して、アブレーション処置体積が成形される段階と、
を備える、方法。
[項目11]
上記第1の流体および上記第2の流体はそれぞれ異なる温度である、項目10に記載の方法。
[項目12]
治療エネルギーを、上記第1の長尺部に沿って配置された上記少なくとも1つのアブレーション部から供給する段階をさらに備える、項目10に記載の方法。
[項目13]
上記第1の長尺部を第1の位置に配置して、上記第2の長尺部を第2の位置に配置することは、患者の体内に、内部に上記第1の長尺部および上記第2の長尺部が設けられた長尺部材を配置することを含む、項目10に記載の方法。
[項目14]
上記第2の長尺部は、治療エネルギーから守られるべき構造に隣接する位置に配置される、項目10に記載の方法。
[項目15]
アブレーションデバイスであって、
長尺部を備え、
上記長尺部は、
近位端および遠位端と、
上記長尺部内に延びる内腔と、
上記長尺部の内部に形成され、流体を、上記長尺部を取り囲む組織に供給する、少なくとも2つの出口孔と、
上記長尺部の遠位部に沿って設けられ、上記長尺部が組織に挿入されたときに少なくとも1つのアブレーション部を取り囲む組織を加熱する上記少なくとも1つのアブレーション部と、
を有し、
上記少なくとも2つの出口孔は、それぞれ異なる温度の流体を供給する、アブレーションデバイス。
[項目16]
上記2つの出口孔のうち1以上の出口孔に関連づけられ、上記内腔の内部に配置され、関連付けられた上記1以上の出口孔に流れる流体を加熱する、少なくとも1つの加熱部をさらに備える、項目15に記載のアブレーションデバイス。
[項目17]
上記内腔の内部に配置され、上記内腔を、互いに流体連通しない2以上の部分に分割する、少なくとも1つの分割部をさらに備え、
上記2以上の部分の各部分は、上記少なくとも2つの出口孔のうち1以上の出口孔と連通する、項目15に記載のアブレーションデバイス。
[項目18]
上記少なくとも1つの分割部は、上記内腔を、上記内腔に沿って長手方向に延びる4つの部分に分割して、上記内腔を、互いに対向する対を持つ四分円に分割し、
加熱部が、四分円の第1の対向する対の各部分内に設けられ、内部を流れる流体を、第1の温度に加熱し、
加熱部が、上記四分円の第2の対向する対の各部分内に設けられて、内部を流れる流体を、上記第1の温度より低い第2の温度に加熱する、項目17に記載のアブレーションデバイス。
[項目19]
上記少なくとも1つの分割部は、上記内腔を、それぞれ別のアブレーション部に関連付けられる近位部と遠位部に分割する、項目17に記載のアブレーションデバイス。
[項目20]
上記少なくとも1つの分割部は、さらに上記内腔を分割して、上記遠位部より近位のまたは遠位の第3の部分を作成する、少なくとも2つの分割部を含む、項目19に記載のアブレーションデバイス。
[項目21]
2以上の温度センサを含み、各温度センサは、上記内腔の別の部分に配置されている、項目17に記載のアブレーションデバイス。
[項目22]
アブレーションデバイスであって、
患者の体内に導入される遠位部を持つ長尺部材と、
上記長尺部材の上記遠位部に設けられた少なくとも2つの長尺部と、
を備え、
上記少なくとも2つの長尺部のそれぞれは、近位端と遠位端とを含み、内腔がその内部を延び、少なくとも1つの出口孔が当該長尺部に設けられ、流体を、当該長尺部を取り囲む組織に供給し、
上記少なくとも2つの長尺部のうち少なくとも1つは、上記長尺部の遠位部に沿って設けられた少なくとも1つのアブレーション部を含み、上記少なくとも1つのアブレーション部は、上記少なくとも1つのアブレーション部を取り囲む組織を加熱するよう構成されており、
上記少なくとも2つの長尺部のうち少なくとも1つは、当該長尺部の内腔に設けられた加熱部を含み、上記加熱部は、上記内腔内を流れる流体を加熱するよう構成されている、アブレーションデバイス。
[項目23]
上記少なくとも2つの長尺部が、上記長尺部材の上記遠位部の周りの、上記長尺部材の縦軸から一定の距離離れた位置に設けられた、第1、第2、および第3の長尺部材を含む、項目22に記載のアブレーションデバイス。