(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136026
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】金属-セラミックス接合基板製造用の鋳型、金属-セラミックス接合基板および金属-セラミックス接合基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 19/00 20060101AFI20240927BHJP
B22C 9/08 20060101ALI20240927BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240927BHJP
H05K 1/05 20060101ALI20240927BHJP
H05K 3/44 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B22D19/00 E
B22C9/08 B
H05K1/03 610D
H05K1/05 C
H05K3/44 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046976
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(72)【発明者】
【氏名】坪田 卓真
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 和希
(72)【発明者】
【氏名】浅川 淳二
(72)【発明者】
【氏名】井手口 悟
【テーマコード(参考)】
4E093
5E315
【Fターム(参考)】
4E093PA03
5E315AA05
5E315BB03
5E315BB10
5E315BB11
5E315CC29
5E315DD29
5E315GG01
5E315GG22
(57)【要約】
【課題】球面状の凸形状の放熱面の形状精度に優れた金属-セラミックス接合基板を製造する鋳型、金属-セラミックス接合基板およびその接合基板の製造方法を提供する。
【解決手段】
球面状の凸形状の放熱面を有する金属-セラミックス接合基板を製造する鋳型において、放熱面を形成するための凹部を有する第1型と、第1型との間で製品形状空間を形成する第2型20と、を設け、第2型20の1個の製品形状空間に対応する、金属溶湯を注入するための複数の注湯孔を備えた矩形状の注湯領域を特定の方向に平行に三等分し、その三等分した領域を端から順に領域A、領域B、領域Cと定義したとき、領域A内に配置された注湯孔23の数に対する領域C内に配置された注湯孔23の数の比が0.75~1.33となるように各注湯孔23を配置する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
球面状の凸形状の放熱面を有する金属-セラミックス接合基板を製造する鋳型であって、
前記放熱面を形成するための凹部を有する第1型と、
前記第1型と対向して配置され、当該第1型との間で製品形状空間を形成する第2型と、を備え、
前記第2型は、
前記第2型の平面視における当該第2型の1個の前記製品形状空間に対応する、金属溶湯を注入するための複数の注湯孔を備えた矩形状の注湯領域を有し、
矩形状の前記注湯領域の各辺の近傍の凹部である前記第2型の金属ベース板の形成空間における前記注湯孔の数を比較し、
前記注湯孔の数が最も多い側の辺に垂直な方向に対して1個の前記製品形状空間に対応する前記注湯領域を平行に三等分し、
その三等分した領域を端から順に領域A、領域B、領域Cと定義したときに、前記領域A内に配置された前記注湯孔の数に対する前記領域C内に配置された前記注湯孔の数の比が0.75~1.33であることを特徴とする、
鋳型。
【請求項2】
前記注湯孔は、直径が0.3~1.0mmの円筒状、或いはその直径の円の面積に相当する断面積を有する非円筒状であることを特徴とする、請求項1に記載の鋳型。
【請求項3】
金属-セラミックス接合基板であって、
セラミックス基板と、
前記セラミックス基板の一方の面に直接接合された回路用金属板と、
前記セラミックス基板の他方の面に直接接合され、前記セラミックス基板の接合側とは反対側の表面に球面状の凸形状の放熱面を備えた、平面視において矩形状の金属ベース板と、を有し、
前記回路用金属板の表面および前記金属ベース板における前記放熱面側とは反対側の表面には、複数の柱状突起が形成されており、
矩形状の前記金属ベース板における各辺近傍の前記柱状突起の数を比較し
前記柱状突起の数が最も多い側の辺に垂直な方向に対して前記金属-セラミックス接合基板を平行に三等分し、その三等分した領域を端から順に領域A、領域B、領域Cと定義したときに、前記領域A内に配置された前記柱状突起の数に対する前記領域C内に配置された前記柱状突起の数の比が0.75~1.33であることを特徴とする、
金属-セラミックス接合基板。
【請求項4】
前記柱状突起は、直径が0.3~1.0mmの円柱状、或いはその直径の円の面積に相当する断面積を有する非円柱状であることを特徴とする、請求項3に記載の金属-セラミックス接合基板。
【請求項5】
前記回路用金属板および前記金属ベース板が、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなることを特徴とする、請求項3または4に記載の金属-セラミックス接合基板。
【請求項6】
鋳型を用いた球面状の凸形状の放熱面を有する金属-セラミックス接合基板の製造方法であって、
前記鋳型は、
前記放熱面を形成するための凹部を有する第1型と、
前記第1型と対向して配置され、当該第1型との間で製品形状空間を形成する第2型と、を備え、
前記第2型の平面視における当該第2型の1個の前記製品形状空間に対応する、
金属溶湯を注入するための複数の注湯孔を備えた矩形状の注湯領域を金属溶湯の凝固方向に対して平行に三等分し、
その三等分した領域を端から順に領域A、領域B、領域Cと定義したときに、前記領域A内に配置された注湯孔の数に対する前記領域C内に配置された前記注湯孔の数の比が0.75~1.33である第2型を用い、
前記第1型と前記第2型を対向して配置して前記製品形状空間を形成し、
前記製品形状空間に前記注湯孔より金属溶湯を注入して前記凝固方向に順次前記金属溶湯を凝固させ、
金属-セラミックス接合基板を製造することを特徴とする、製造方法。
【請求項7】
前記注湯孔は、直径が0.3~1.0mmの円筒状、或いはその直径の円の面積に相当する断面積を有する非円筒状であることを特徴とする、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記金属溶湯が、アルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯からなることを特徴とする、請求項6または7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属-セラミックス接合基板製造用の鋳型、金属-セラミックス接合基板および金属-セラミックス接合基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車、電車、工作機械等の大電流を制御するためのパワーモジュールには、金属-セラミックス接合基板が使用されることがある。金属-セラミックス接合基板は、セラミックス基板の一方の面に所定パターンの回路用金属板が接合され、その回路用金属板の表面に半導体チップ等が搭載される。また、セラミックス基板の他方の面側、すなわちセラミックス基板における回路用金属板の接合側とは反対側に、半導体チップで生じた熱を放熱するための金属ベース板からなる放熱部が設けられる。
【0003】
金属-セラミックス接合基板の製造方法として、特許文献1には、鋳型内部の製品形状空間に溶湯を注入し、回路用金属板のパターン形成と放熱部の形成を同時に行う鋳造方法が開示されている。特許文献1に記載された方法では、鋳型に設けられた回路用金属板を形成するための空間に対し、注湯孔から溶湯が注入されることによって所望のパターンの回路用金属板が形成されている。
【0004】
また、特許文献2には、金属-セラミックス接合基板の放熱面(放熱部の表面)の形状を球面状の凸形状とすることにより、放熱面と放熱フィン等の放熱部材を取りつける際に、放熱部材との密着性を向上させて金属-セラミックス接合基板の放熱性を高めることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-092285号公報
【特許文献2】国際公開第2018/131583号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、特許文献1のような回路用金属板のパターン形成と放熱部の形成を同時に行う鋳造方法を用いて、球面状の凸形状の放熱部を形成する方法について検討した。その結果、回路用金属板を形成するための空間に溶湯を注入する注湯孔の配置位置によっては、放熱面の形状を球面に維持できず、放熱面の形状精度(すなわち鋳型形状の転写精度)が低下するという知見を得た。
【0007】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、球面状の凸形状の放熱面の形状精度に優れた金属-セラミックス接合基板を製造する鋳型、金属-セラミックス接合基板およびその接合基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の金属-セラミックス接合基板を製造する鋳型は、 球面状の凸形状の放熱面を有する金属-セラミックス接合基板を製造する鋳型であって、前記放熱面を形成するための凹部を有する第1型と、前記第1型と対向して配置され、当該第1型との間で製品形状空間を形成する第2型と、を備え、前記第2型は、前記第2型の平面視における当該第2型の1個の前記製品形状空間に対応する、金属溶湯を注入するための複数の注湯孔を備えた矩形状の注湯領域を有し、矩形状の前記注湯領域の各辺の近傍の凹部である前記第2型の金属ベース板の形成空間における前記注湯孔の数を比較し、前記注湯孔の数が最も多い側の辺に垂直な方向に対して1個の前記製品形状空間に対応する前記注湯領域を平行に三等分し、その三等分した領域を端から順に領域A、領域B、領域Cと定義したときに、前記領域A内に配置された前記注湯孔の数に対する前記領域C内に配置された前記注湯孔の数の比が0.75~1.33であることを特徴とする。
【0009】
前記注湯孔は、直径が0.3~1.0mmの円筒状、或いはその直径の円の面積に相当する断面積を有する非円筒状であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の金属-セラミックス接合基板は、セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一方の面に直接接合された回路用金属板と、前記セラミックス基板の他方の面に直接接合され、前記セラミックス基板の接合側とは反対側の表面に球面状の凸形状の放熱面を備えた、平面視において矩形状の金属ベース板と、を有し、前記回路用金属板の表面および前記金属ベース板における前記放熱面側とは反対側の表面には、複数の柱状突起が形成されており、矩形状の前記金属ベース板における各辺の近傍の前記柱状突起の数を比較し前記柱状突起の数が最も多い側の辺に垂直な方向に対して前記金属-セラミックス接合基板を平行に三等分し、その三等分した領域を端から順に領域A、領域B、領域Cと定義したときに、前記領域A内に配置された前記柱状突起の数に対する前記領域C内に配置された前記柱状突起の数の比が0.75~1.33であることを特徴とする。
【0011】
前記柱状突起は、直径が0.3~1.0mmの円柱状、或いはその直径の円の面積に相当する断面積を有する非円柱状であることが好ましく、前記回路用金属板および前記金属ベース板が、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなることが好ましい。
【0012】
また、本発明の金属-セラミックス接合基板の製造方法は、鋳型を用いた球面状の凸形状の放熱面を有する金属-セラミックス接合基板の製造方法であって、 前記鋳型は、前記放熱面を形成するための凹部を有する第1型と、前記第1型と対向して配置され、当該第1型との間で製品形状空間を形成する第2型と、を備え、前記第2型の平面視における当該第2型の1個の前記製品形状空間に対応する、金属溶湯を注入するための複数の注湯孔を備えた矩形状の注湯領域を金属溶湯の凝固方向に対して平行に三等分し、その三等分した領域を端から順に領域A、領域B、領域Cと定義したときに、前記領域A内に配置された注湯孔の数に対する前記領域C内に配置された前記注湯孔の数の比が0.75~1.33である第2型を用い、前記第1型と前記第2型を対向して配置して前記製品形状空間を形成し、前記製品形状空間に前記注湯孔より金属溶湯を注入して前記凝固方向に順次前記金属溶湯を凝固させ、金属-セラミックス接合基板を製造することを特徴とする。
【0013】
前記注湯孔は、直径が0.3~1.0mmの円筒状、或いはその直径の円の面積に相当する断面積を有する非円筒状であることが好ましく、前記金属溶湯が、アルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、球面状の凸形状の放熱面の形状精度に優れた金属-セラミックス接合基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る鋳型で製造された金属-セラミックス接合基板の概略構成を示す断面図である。
【
図2】
図1に示した金属-セラミックス接合基板の上面図である。
【
図3】
図1に示した金属-セラミックス接合基板の下面図である。
【
図4】第1実施形態に係る鋳型の概略構成を示す断面図である。
【
図5】
図4に示した鋳型に溶湯を注入した状態を示す図である。
【
図6】第1実施形態に係る製品形状空間の配置を説明するための鋳型の構成例を示す平面図である。
【
図7】第1実施形態に係る1個の製品形状空間に対応する注湯領域における注湯孔の配置例を示す下型の平面図である。
【
図8】従来知見に基づく1個の製品形状空間に対応する注湯領域における注湯孔の配置例を示す下型の平面図である。
【
図9】注湯孔の配置位置と溶湯の凝固時に生じる熱応力との関係を説明するために接合基板の断面を模式的に示した図である。
【
図10】第2実施形態に係る製品形状空間の配置を説明するための鋳型の構成例を示す平面図である。
【
図11】第2実施形態に係る1個の製品形状空間に対応する注湯領域における注湯孔の配置例を示す下型の平面図である。
【
図12】下型とこの鋳型で製造される金属-セラミックス接合基板の半導体チップの搭載予定領域との位置関係を模式的に示した平面図である。
【
図13】金属-セラミックス接合基板を封止材で封止した状態を模式的に示す断面図である。
【
図14】実施例3の1個の製品形状空間に対応する注湯領域における注湯孔の配置を示す下型の平面図である。
【
図15】金属-セラミックス接合基板における放熱面の断面形状測定の方法を説明する図である。
【
図16】比較例および実施例の鋳型を使用して製造された金属-セラミックス接合基板における放熱面の断面形状測定結果を示す断面プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。図中のX方向、Y方向およびZ方向は、互いに垂直な方向である。
【0017】
<第1実施形態>
(金属-セラミックス接合基板)
図1は、本実施形態に係る鋳型で製造された金属-セラミックス接合基板100(以下、「接合基板」という)の概略構成を示す断面図である。
図2は、
図1に示した接合基板100の上面図(接合基板100を上方から見た平面図)である。
図3は、
図1に示した接合基板100の下面図(接合基板100を下方から見た平面図)である。
【0018】
図1~
図3に示すように、接合基板100は、金属材料からなる金属ベース板101と、金属ベース板101の両面のうちの一方の面に接合された絶縁材料からなるセラミックス基板102と、セラミックス基板102の表面に接合された金属材料からなる回路用金属板103を有する。
【0019】
本実施形態の金属-セラミックス接合基板100は、セラミックス基板102と、前記セラミックス基板102の一方の面に直接接合された回路用金属板103と、前記セラミックス基板102の他方の面に直接接合され、前記セラミックス基板102の接合側とは反対側の表面に球面状の凸形状の放熱面104aを備えた、平面視において矩形状の金属ベース板101と、を有し、前記回路用金属板103の表面および前記金属ベース板101における前記放熱面104a側とは反対側の表面には、複数の柱状突起23aが形成されており、矩形状の前記金属ベース板101における各辺の近傍の前記柱状突起23aの数を比較し前記柱状突起23aの数が最も多い側の辺に垂直な方向に対して前記金属-セラミックス接合基板100を平行に三等分し、その三等分した領域を端から順に領域A、領域B、領域Cと定義したときに、前記領域A内に配置された前記柱状突起23aの数に対する前記領域C内に配置された前記柱状突起23aの数の比が0.75~1.33であることを特徴とする。
【0020】
金属ベース板101に使用される金属材料としては、例えば純アルミニウム又はアルミニウムを主原料とするアルミニウム合金が適用される。
【0021】
セラミックス基板102に使用される絶縁材料としては、例えば窒化アルミニウム、窒化珪素、酸化アルミニウム等を主成分とする板材が適用される。セラミックス基板102の厚さは、例えば0.25~2.0mmであり、セラミックス基板102の形状が矩形である場合には、セラミックス基板102の一辺の長さは例えば20~150mmである。
【0022】
回路用金属板103は、接合基板100の製品仕様に応じた所定のパターンが形成され、セラミックス基板102の表面に1つまたは複数設けられる。パワーモジュール等の半導体製品を製造する際には、回路用金属板103の表面に半導体チップ等が搭載される。回路用金属板103に使用される金属材料としては、例えば純アルミニウム又はアルミニウムを主原料とするアルミニウム合金が適用される。回路用金属板103の厚さは、例えば0.2~2mmである。なお、回路用金属板103の表面における半導体チップ等の搭載予定領域には、必要に応じて半田付け等によるチップの接合が容易になるようにニッケル系めっき層等が形成される。
【0023】
前述したように金属ベース板101の一方の面側には、セラミックス基板102が設けられ、他方の面側、すなわち金属ベース板101におけるセラミックス基板102の接合側とは反対側の面側を便宜上放熱部104という。
【0024】
放熱部104は、金属ベース板101の内部から外部に向かって凸状に形成され、放熱面104aは球面状の凸形状を有している。放熱面104aには、熱伝導グリースを介して金属製の放熱フィンまたは冷却ジャケット等の放熱促進部品(図示せず)を取り付けることができる。
【0025】
前記回路用金属板103の表面および前記金属ベース板101における前記放熱面104a側とは反対側の表面には、複数の柱状突起23aが形成されている。本実施形態の金属-セラミックス接合基板100では、この矩形状の前記金属ベース板101における各辺近傍の前記柱状突起23aの数を比較し前記柱状突起23aの数が最も多い側の辺に垂直な方向に対して前記金属-セラミックス接合基板100を平行に三等分し、その三等分した領域を端から順に領域A、領域B、領域Cと定義したときに、前記領域A内に配置された前記柱状突起23aの数に対する前記領域C内に配置された前記柱状突起23aの数の比が0.75~1.33である。このような構成にすることにより、金属ベース板101の放熱面104aの形状を良好な球面状の凸形状とすることができる。
【0026】
ここで、「前記金属ベース板101における各辺近傍の前記柱状突起23aの数を比較し前記柱状突起23aの数が最も多い側の辺に垂直な方向」とは後述する金属-セラミックス接合基板100の製造方法における、金属溶湯の凝固方向に対応する。後述の溶湯接合法により金属-セラミックス接合基板100を作製する場合、鋳造欠陥などの不良を低減するために、金属溶湯は略一方向に指向性凝固させる。そのため最終凝固部近傍に後述の金属溶湯を供給する注湯孔23を多く設けてあり、その注湯孔跡23aが柱状突起23aとして残るので、凝固方向を金属-セラミックス接合基板100より規定することができる。
【0027】
なお、金属-セラミックス接合基板100を回路用金属板103側の上方から見たときに、金属ベース板101の外周の各辺からセラミックス基板102の外周までの範囲にあるベース板の領域を「金属ベース板における各辺の近傍」または「注湯領域の各辺の近傍」とする。
【0028】
また、前記柱状突起は、金属-セラミックス接合基板の半導体チップの搭載予定領域以外の領域に位置していることが好ましい。
【0029】
なお、柱状突起23aの数をカウントするにあたり、柱状突起23aが隣り合う二つの領域に跨るように配置されている場合には、柱状突起23aの中心が位置している領域内の柱状突起23aとしてカウントする。例えば領域Aと領域Bに跨るように柱状突起23aが配置されている場合であって、かつ柱状突起23aの中心が領域A内に位置している場合には、領域A内に配置された柱状突起23aとしてカウントされる。
【0030】
また、柱状突起23aの中心が領域Aと領域Bの境界線上に位置する場合には、その柱状突起23aは、領域A内に配置された柱状突起23aとしてカウントされ、柱状突起23aの中心が領域Bと領域Cの境界線上に位置する場合には、その柱状突起23aは領域C内に配置された柱状突起23aとしてカウントされる。
【0031】
この柱状突起23aは、直径が0.3~1.0mmの円柱状、或いはその直径の円の面積に相当する断面積を有する非円柱状であることが好ましい。
【0032】
金属ベース板101の内部におけるセラミックス基板102と放熱面104aとの間には、必要に応じて補強板105が設けられる。補強板105は、接合基板100の反りを抑制するために設けられ、放熱面104aの近傍に配置されることが好ましい。補強板105は、例えばセラミックスからなり、前述したセラミックス基板102と同様の材料が適用され得る。
【0033】
金属ベース板101の周縁部には、放熱フィンまたは冷却ジャケット等の放熱促進部品(図示せず)を金属ベース板101に取り付けるための貫通孔106を形成することができる。貫通孔106は、例えばねじ切り加工が施されており、締結具としてのねじによって放熱促進部品と金属ベース板101が締結される。また、貫通孔106は、ねじ切り加工をしていない円筒状であってもよく、ボルト締めによって放熱促進部品と金属ベース板101が締結されてもよい。
【0034】
以上で説明した接合基板100において、金属ベース板101と回路用金属板103と放熱部104の形成、および、金属ベース板101に対するセラミックス基板102と補強板105の接合は、鋳型を用いた公知の溶湯接合法によって行われる。
【0035】
(接合基板製造用の鋳型および接合基板の製造方法)
図4は、第1実施形態に係る鋳型1の概略構成を示す断面図である。説明の便宜上、
図4においては、鋳型内1にセラミックス基板102と補強板105が配置された状態を示している。
図4に示すように、鋳型1は、第1型としての上型10と、その上型10に対向して配置された第2型としての下型20を備えている。鋳型1の内面には、金属溶湯の凝固物の離型が容易となるように塗布やスプレー等の手段によってBN粉等の離型剤のコーティングを施すことができる。
【0036】
本実施形態の金属-セラミックス接合基板100を製造する鋳型1は、球面状の凸形状の放熱面104aを有する金属-セラミックス接合基板100を製造する鋳型1であって、前記放熱面104aを形成するための凹部を有する第1型と、前記第1型と対向して配置され、当該第1型との間で製品形状空間30を形成する第2型と、を備え、前記第2型は、前記第2型の平面視における当該第2型の1個の前記製品形状空間30に対応する、金属溶湯を注入するための複数の注湯孔23を備えた矩形状の注湯領域を有し、矩形状の前記注湯領域の各辺の近傍の凹部である前記第2型の金属ベース板の形成空間31における前記注湯孔23の数を比較し、前記注湯孔23の数が最も多い側の辺に垂直な方向に対して1個の前記製品形状空間30に対応する前記注湯領域を平行に三等分し、その三等分した領域を端から順に領域A、領域B、領域Cと定義したときに、前記領域A内に配置された前記注湯孔23の数に対する前記領域C内に配置された前記注湯孔23の数の比が0.75~1.33であることを特徴とする。
【0037】
前記注湯孔23は、直径が0.3~1.0mmの円筒状、或いはその直径の円の面積に相当する断面積を有する非円筒状であることが好ましい。
【0038】
また、本実施形態の金属-セラミックス接合基板100の製造方法は、鋳型1を用いた球面状の凸形状の放熱面104aを有する金属-セラミックス接合基板100の製造方法であって、前記鋳型1は、前記放熱面104aを形成するための凹部を有する第1型と、前記第1型と対向して配置され、当該第1型との間で製品形状空間30を形成する第2型と、を備え、前記第2型の平面視における当該第2型の1個の前記製品形状空間30に対応する、金属溶湯を注入するための複数の注湯孔23を備えた矩形状の注湯領域を金属溶湯の凝固方向に対して平行に三等分し、その三等分した領域を端から順に領域A、領域B、領域Cと定義したときに、前記領域A内に配置された注湯孔23の数に対する前記領域C内に配置された前記注湯孔23の数の比が0.75~1.33である第2型を用い、前記第1型と前記第2型を対向して配置して前記製品形状空間30を形成し、前記製品形状空間30に前記注湯孔23より金属溶湯を注入して前記凝固方向に順次前記金属溶湯を凝固させ、金属-セラミックス接合基板100を製造することを特徴とする。
【0039】
前記注湯孔23は、直径が0.3~1.0mmの円筒状、或いはその直径の円の面積に相当する断面積を有する非円筒状であることが好ましく、前記金属溶湯が、アルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯からなることが好ましい。
【0040】
第1型としての上型10の内面には、
図1に示した接合基板100が有する球面状の凸形状の放熱面104aを形成するための凹部11が形成されている。
【0041】
第2型としての下型20の内面には、セラミックス基板102の下面を支持する支持部21が設けられている。なお、
図4に示す断面には示されていないが、下型20の内面には補強板105を支持する支持部も設けられている。
【0042】
また、下型20の内面には、上述した支持部21の上面に対して下方に凹んだ複数の凹部22が設けられている。それらの凹部22の各々には、少なくとも1つの注湯孔23が接続されていて、下型20全体には複数の注湯孔23が設けられている。注湯孔23は、鉛直方向に延びた孔であり湯道40に接続されている。
【0043】
各注湯孔23の配置は、接合基板100の放熱面104a(
図1)の形状精度に影響を与える。このため、放熱面104aの形状精度を高める観点からは、複数の注湯孔23を適切に配置する必要がある。この注湯孔23の配置に関する詳細な説明は後述する。
【0044】
以上の構成を有する鋳型1において、下型20に上型10を被せて上型10と下型20とを密接させた際には、上型10と下型20との間に接合基板100を形成するための中空部である製品形状空間30が形成される。製品形状空間30は、製品としての接合基板100に相当する形状を有した空間であり、製品形状空間30には、金属ベース板101(
図1)の形成空間31と、回路用金属板103(
図1)の形成空間32と、金属ベース板101の一部である放熱部104(
図1)の形成空間33が含まれる。
【0045】
また、上型10と下型20との間における製品形状空間30の金属ベース板の形成空間31には、下型20の上面に形成された少なくとも1つの注湯孔23が接続されている。注湯孔23は、鉛直方向に延びた孔であり、溶湯(溶融金属)の流路となる湯道40に接続されている。なお、湯道40内の溶湯が凝固することで形成される凝固部(湯道跡)は、製品としての接合基板100にとっては不要な部分であるため、湯道40は製品形状空間30には含まれない。
【0046】
湯道40は、溶湯が貯留する溶湯貯留部41(例えば溶湯貯留タンク)に接続されている。溶湯貯留部41の上端には、鋳型1内に溶湯を供給するための給湯口42が設けられ、給湯口42から供給される溶湯は、溶湯貯留部41と湯道40を通り、製品形状空間30に充填される。なお、前述の注湯孔23には、湯道40が接続されており、給湯口42から供給された溶湯は、湯道40を介して注湯孔23に供給される。
【0047】
図5(a)に示すように、鋳型1に溶湯Mが注入された際には、金属ベース板の形成空間31、回路用金属板の形成空間32、および放熱部の形成空間33に溶湯Mが充填される。
【0048】
そして、
図5(b)に示すように、鋳型1の溶湯貯留部41とは反対側の側壁(
図5の左側の側壁)に、冷却装置として例えば水冷式の銅などからなる金属製のブロック50を接触させることによって、鋳型1内の溶湯Mを一方向(
図5の例ではX方向)に沿って冷却する。これにより、鋳型1内においては溶湯Mの指向性凝固が起こり、溶湯Mは銅ブロック50側から溶湯貯留部41側(最終凝固部側)に向かって徐々に凝固する。溶湯接合法においては、このような指向性凝固を促すことにより、凝固物(鋳造品)の引け巣などの鋳造欠陥を抑制することができる。本明細書においては、指向性凝固が進む方向を「凝固方向」と称す。
【0049】
その後、鋳型1内の溶湯Mの凝固が完了することによって、
図1に示した金属ベース板101、回路用金属板103、および球面状の凸形状の放熱部104が形成される。それと共に、金属ベース板101に対するセラミックス基板102と補強板105の接合も同時に行われる。また、回路用金属板103の表面および前記金属ベース板101における前記放熱面104a側とは反対側の表面には、複数の柱状突起23aが形成される。そして、鋳型1が十分に冷却された後、凝固物が鋳型1から取り出され、湯道内の凝固部(湯道跡)の切断などの加工が行われる。
【0050】
以上、鋳型1及び接合基板100の製造方法の概略構成について説明したが、鋳型1の構成は本実施形態で説明した構成に限定されない。
【0051】
例えば、本実施形態では、球面状の凸形状の放熱面104aを形成するための凹部11を上型10に設け、注湯孔23を下型20に設けたが、凹部11を下型20に設け、注湯孔23を上型10に設けてもよい。すなわち、球面状の凸形状を形成するための凹部11を有する第1型は、上型10と下型20のいずれであってもよく、注湯孔23を有する第2型は、その第1型に対向して配置されていればよい。
【0052】
鋳型1が有する製品形状空間30は、1つであってもよいが、例えば後述の
図6に示すように複数配置されてもよい。
図6に示す例では、矩形状の製品形状空間30の短手方向がX方向(凝固方向)に向いており、一つの鋳型1に製品形状空間30はX方向とY方向の各々の方向に2列ずつ、計4箇所に配置されている。
また、
図6の鋳型1には溶湯貯留部41が2つ備えられており、1つの溶湯貯留部41から金属溶湯が湯道40を通って2つの製品形状空間30に対応する2つの注湯領域に注湯孔23より供給される構造となっている。
【0053】
(注湯孔の配置)
次に、下型20における注湯孔23の配置について説明する。
図7は、本実施形態に係る注湯孔23の配置例を示す下型20の平面図(下型20を上方から見た図)である。なお、図面の視認性を高めるために、図中では複数の凹部22の一部についてのみ符号を付しているが、凸部24に囲まれる領域は凹部22である。また、図中では複数の注湯孔23の一部についての符号を付しているが、図中の丸印は、注湯孔23を示している。前述したように、各凹部22には少なくとも1つの注湯孔23が接続され、各凹部22にそれぞれ溶湯が注入される。
【0054】
本明細書においては、一個の製品形状空間30(
図5)内における最も外側に配置された凹部22の外縁よりも内側の領域を「注湯領域」と定義する。また、
図7に示す例では、注湯領域が矩形状に形成され、注湯領域のX方向における一辺の長さは、Y方向における一辺の長さよりも短い。また、
図7に示す例においては、図面の下側から鋳型が冷却される。なお、最も外側に配置された凹部22は、金属ベース板101を形成するための、下型20の金属ベース板の形成空間31という。
【0055】
本明細書では、さらに上記の注湯領域を三分割した領域A~Cを定義する。領域A~Cは、下型20の平面視において、注湯領域を溶湯の凝固方向(本実施形態ではX方向)に対して平行に三等分し、その三等分された領域に対して端から順にA、B、Cの符号が付された領域である。領域A~Cは、注湯領域が三等分された領域であるため、領域A~Cの各々の幅(Y方向長さ)は互いに等しい。
【0056】
なお、鋳型においては下型20の平面視における当該下型の1個の前記製品形状空間30に対応する、金属溶湯を注入するための複数の注湯孔23を備えた略矩形の注湯領域において、矩形状の前記注湯領域の各辺の近傍の金属ベース板101の形成空間における前記注湯孔23の数を比較し、前記注湯孔23の数が最も多い側の辺に対して垂直な方向が金属溶湯の「凝固方向」に対応する。
【0057】
本実施形態に係る下型20においては、領域A内に配置された注湯孔23の数に対する領域C内に配置された注湯孔23の数の比(領域C内の注湯孔数/領域A内の注湯孔数)が0.75~1.33となるように各注湯孔23が配置されている。
【0058】
注湯孔23の直径は0.3~1.0mmの円筒状、或いはこの直径に相当する面積を有する形状の非円筒状の孔であることが好ましい。注湯孔23がそのような大きさであることにより、溶湯がスムーズに凹部22に供給され易くなると共に、後工程の湯道跡の切断工程がある場合において、回路用金属板103の表面を平滑にする作業が容易になる。
【0059】
なお、注湯孔23の数をカウントするにあたり、注湯孔23が隣り合う二つの領域に跨るように配置されている場合には、注湯孔23の中心が位置している領域内の注湯孔としてカウントする。例えば領域Aと領域Bに跨るように注湯孔23が配置されている場合であって、かつ注湯孔23の中心が領域A内に位置している場合には、領域A内に配置された注湯孔23としてカウントされる。
【0060】
また、注湯孔23の中心が領域Aと領域Bの境界線上に位置する場合には、その注湯孔23は、領域A内に配置された注湯孔としてカウントされ、注湯孔23の中心が領域Bと領域Cの境界線上に位置する場合には、その注湯孔23は領域C内に配置された注湯孔としてカウントされる。
【0061】
領域C内の注湯孔数/領域A内の注湯孔数が0.75~1.33となるように各注湯孔23が配置されている場合には、後述の実施例でも示すように、球面状の凸形状の放熱面104aの形状精度に優れた接合基板100を得ることが可能となる。
【0062】
一方、従来知見に基づいて注湯孔23が配置される場合、例えば
図8に示すように注湯孔23が配置される。従来知見においては、パターン形状が複雑な箇所への溶湯の注入を促進するために、パターン形状が複雑な箇所の近傍には、パターン形状が簡素な箇所よりも多くの注湯孔23が配置される。
【0063】
このため、
図8に示した例では、領域Cよりもパターン形状が複雑な領域A内において、個数密度が高くなるように注湯孔23が配置されることになり、領域C内の注湯孔数/領域A内の注湯孔数は、0.75未満となる。この場合、後述の実施例で示すように、接合基板100の放熱面104a(
図1)の形状精度が低下する。
【0064】
ここで、領域A内と領域C内の注湯孔23の数によって放熱面104aの形状精度の差異が生じる理由を考察する。
図9は、注湯孔23の配置位置と溶湯の凝固時に生じる熱応力との関係を説明するために接合基板100の断面を模式的に示した図である。
【0065】
図9に例示した接合基板100は、
図7に示した凹部22の配置で製造される接合基板と同様の形状であるが、注湯孔23の配置が
図7とは異なる鋳型で製造された接合基板である。
図9(a)~(d)に示す各接合基板100の切断面は、
図7のA-Aに沿って切断した断面のようにY方向に対して平行に接合基板を切断した断面に相当する。また、溶湯の冷却は、凝固方向(X方向)に沿って一方向に進むため、
図9に例示した切断面は、溶湯の冷却時において同一の温度域にある接合基板100の切断面に相当する。
【0066】
鋳型内に溶湯が充填された際には、接合基板100の外形は、鋳型内面に沿った形状となるため、放熱面104aの形状は、鋳型内面に形成された球面状の凹部形状を反映して球面状の凸部形状となる。一方、その後の溶湯の冷却段階においては、接合基板100の主として回路用金属板103および金属ベース板101において凝固収縮および固体収縮が生じることから、その収縮に伴って放熱部104においては、接合基板100の中心部に向かう熱応力が生じる。なお、
図9中の白抜き矢印の大きさと向きは、収縮に伴う熱応力の大きさと向きを模式的に示している。
【0067】
図9(a)に示す例では、領域A内に注湯孔23が4つ設けられ、領域C内には注湯孔23が設けられていない。溶湯が凝固するまで冷却される際には、放熱部104を含む鋳型内の凝固部が一体となって収縮するが、注湯孔23が設けられている場合には、注湯孔23内の溶湯が凝固した部分(注湯孔跡)も鋳型内の凝固部として一体となって収縮しようとする。
【0068】
しかし、注湯孔跡は、鋳型の注湯孔23で拘束された状態にあるため、接合基板100の中心部に向かって放熱部104が収縮する際には、回路用金属板103および放熱部104に繋がる注湯孔跡が注湯孔23で拘束されていることにより熱応力に対する抵抗力が生じる。このため、
図9(a)に示す例のように、領域C内に対して領域A内の注湯孔23の数が多い場合には、放熱部104の領域A内の部位に作用する熱応力が、領域C内の部位に作用する熱応力よりも小さくなる。これによって、領域A内と領域C内における放熱部104の収縮量の差が大きくなり、放熱面104aの形状が球面に維持され難いと考えられる。
【0069】
一方、
図9(b)に示す例のように、領域A内と領域C内で注湯孔23の数が等しい場合には、領域A内と領域C内で生じる熱応力に対する抵抗力も互いに同等のものとなる。これにより、双方の領域内における放熱部104の収縮量も概ね等しくなり、放熱面104aの形状が球面に維持され易いと考えられる。
【0070】
図9(c)に示す例では、
図9(a)と同様に、領域C内に注湯孔23が設けられていないが、領域A内の注湯孔23の数は、
図9(a)の注湯孔23の数よりも少なく、領域A内の注湯孔23の数と領域C内の注湯孔23の数の差は、
図9(a)の場合よりも小さい。このため、熱応力の差も
図9(a)の場合と比較して小さくなるため、収縮量のバランスをとることができ、放熱面104aの形状が
図9(a)の場合と比較して球面に維持され易いと考えられる。
【0071】
図9(d)に示す例では、領域A内と領域C内のいずれにも注湯孔23が設けられていない。この場合においては、領域A内と領域C内のいずれにおいても、熱応力に対する注湯孔23による抵抗力が発生しないが、熱応力の大きさは双方の領域において同等であるため、熱応力差は小さい。したがって、双方の領域内における放熱部104の収縮量は均一になり易く、放熱面104aにおける形状が球面に維持され易いと考えられる。
【0072】
本発明者らは様々な検討を行った結果、以上で説明したように、領域A内に配置された注湯孔23の数に対する領域C内に配置された注湯孔23の数の比が0.75~1.33である鋳型1によれば、球面状の凸形状の放熱面104aの形状精度に優れた接合基板100を得ることができることを見いだした。なお、
図9では、説明の便宜上、接合基板の1つの断面を例示して説明しているが、領域Aの全域と領域Cの全域で注湯孔23の数のバランスをとることにより、放熱面104aの形状を良好な球面状の凸形状とすることができる。
【0073】
形状精度をさらに高める観点からは、上記の比は0.80~1.25であることが好ましい。より好ましくは、0.90~1.11であり、さらに好ましくは1.0である。
【0074】
<第2実施形態>
図10は、第2実施形態に係る製品形状空間30の配置を説明するための鋳型1の構成例を示す平面図である。本実施形態に係る鋳型1では、矩形状の製品形状空間30の長手方向がX方向(凝固方向)に向いており、その製品形状空間30は、Y方向に沿って3つ並んで配置されている。
また、
図10の鋳型1には溶湯貯留部41が3つ備えられており、1つの溶湯貯留部41から金属溶湯が湯道40を通って3つの製品形状空間30に対応する3つの注湯領域に注湯孔23よりそれぞれ供給される構造となっている。
【0075】
図11は、第2実施形態に係る
図10に示す鋳型1の1つの製品形状空間30に対応する注湯領域における注湯孔23の配置例を示す下型20の平面図である。本実施形態においても、領域A内に配置された注湯孔23の数に対する領域C内に配置された注湯孔23の数の比が0.75~1.33となるように各注湯孔23が配置されている。したがって、後述の実施例でも示すように、接合基板100の放熱面104aの形状を球面状に維持し易くなり、球面状の凸形状の放熱面104aの形状精度が向上する。
【0076】
以上、第1~第2実施形態に係る鋳型1について説明した。
【0077】
なお、鋳型1の注湯孔23は、
図12に示すように、この鋳型で製造される金属-セラミックス接合基板における半導体チップの搭載予定領域110以外の領域に配置することが好ましい。注湯孔23が半導体チップの搭載予定領域110(
図12中の斜線領域)と重ならないように配置されている場合には、接合基板100の製造時の仕上げ工程において、注湯孔23内の溶湯が凝固した部分(注湯孔跡)の除去を省略することもできる。
【0078】
注湯孔跡の除去は切断等の機械加工や研磨によって行われるが、注湯孔跡の研磨を行うと、回路用金属板103の厚みのバラつきが大きくなるおそれがある。このため、本実施形態の接合基板100のように注湯孔跡23aの研磨による除去を省略することによって、回路用金属板103の厚みバラつきを抑えることができる。
【0079】
また、注湯孔跡23aの研磨による除去を実施しない場合には、回路用金属板103の厚みは、鋳型1内の回路用金属板の形成空間32(
図5)の厚みによって定まる。鋳型1の寸法精度は非常に高いことから、注湯孔跡23aの研磨による除去を省略できることによって、回路用金属板103の製品厚みの制御を容易に行うことが可能となる。
【0080】
さらに、
図13に示すように、注湯孔跡23aの研磨による除去を実施しない場合、回路用金属板103の上に半導体チップ111を搭載した後も、回路用金属板103の表面に柱状の注湯孔跡23a(柱状突起23a)が残存する。半導体チップ111を封止する際に使用されるゲルや樹脂等の封止材112は、凹凸箇所に噛み込むことで封止効果が得られるため、注湯孔跡23a(柱状突起23a)が残存している場合には、凹凸箇所が増加し、封止材112の噛み込みが強固になる。
【0081】
すなわち、金属-セラミックス接合基板における半導体チップ111の搭載予定領域110(
図12)以外の領域に注湯孔23を配置することで、半導体チップ111を封止する際に注湯孔跡23a(柱状突起23a)を残存させることができ、その結果、モールド性を向上させることができる。また、金属-セラミックス接合基板に、前記貫通孔106を必要に応じて形成することができる。例えば、ベース板101の四隅にドリルで穴開け加工を施すことによって形成することができる。
【0082】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0083】
例えば、上記実施形態の構成要件は任意に組み合わせることができる。当該任意の組み合せからは、組み合わせにかかるそれぞれの構成要件についての作用及び効果が当然に得られるとともに、本明細書の記載から当業者には明らかな他の作用及び他の効果が得られる。
【0084】
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的または例示的なものであって限定的ではない。つまり、本開示に係る技術は、上記の効果とともに、又は、上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【実施例0085】
注湯孔の配置が異なる複数の鋳型を用いて以下に示す通り金属-セラミックス接合基板を製造した。
【0086】
(実施例1)
実施例1の金属-セラミックス基板の製造においては、矩形状の製品形状空間30の短手方向が凝固方向に向いた
図6に示す下型20と、
図4に示す上型10からなる鋳型と同様の形状の鋳型を用いた。なお、下型20の平面視において、注湯領域を溶湯の凝固方向に対して平行に三等分し、その三等分された領域を端から順に領域A、領域B、領域Cを定義したとき、
図7に示すように、領域Aの注湯孔の数は20個、領域Bは23個、領域Cは20個であり、「領域Cの注湯孔数/領域Aの注湯孔数」は1.00である。また、領域A~Cは、注湯領域が三等分された領域であるため、領域A~Cの各々の幅(Y方向長さ)は互いに等しい。なお、全ての注湯孔の直径は0.8mmである。
【0087】
また、鋳型においては下型20の平面視における当該下型の1個の前記製品形状空間30に対応する、金属溶湯を注入するための複数の注湯孔23を備えた略矩形の注湯領域において、矩形状の前記注湯領域の各辺の近傍の金属ベース板101の形成空間における前記注湯孔23の数を比較し、前記注湯孔23の数が最も多い側の辺に対して垂直な方向であり、前記注湯孔23の最も数が多い側の辺に向かう方向が金属溶湯の「凝固方向」に対応する。
【0088】
上記の鋳型を用いて、まず、縦120mm、横91mm、厚さ1.0mmの窒化アルミニウムからなるセラミックス基板を下型20内のセラミックス基板の支持部21に載置して配置した後、縦126mm、横93mm、厚さ1.0mmの窒化アルミニウムの板材からなる補強材を図示しない下型の補強材支持部に配置した後、下型20に上型10をかぶせた。
【0089】
次いで、鋳型1内を窒素雰囲気にした状態で加熱し、アルミニウム溶湯をその表面の酸化膜を取り除きながら直径0.8mmの注湯孔23から鋳型1内の回路用金属板の形成空間32および放熱部の形成空間33を含む金属ベース板の形成空間31に注湯した。
【0090】
その後、鋳型1に銅からなる水冷のブロックを当接して冷却してアルミニウム溶湯を指向性凝固させ、金属-セラミックス接合体を得た。その後、鋳型1を解体して金属-セラミックス接合体を取り出し、不要な湯道を切除し、70個の金属-セラミックス接合基板100を作製した。
【0091】
作製された金属-セラミックス接合基板100は、セラミックス基板102の一方の面に厚さ0.45mmの回路用金属板103が形成され、他方の面に補強板を内蔵した厚さ4mmの金属ベース板101が形成されている。これらの金属-セラミックス接合基板100をサンプルとして後述の放熱面の形状の評価に使用した。
【0092】
(実施例2)
矩形状の製品形状空間30の長手方向が凝固方向に向いた
図11に示す下型と同様の構成の下型を用い、かつ、領域Aの注湯孔数を19、領域Bの注湯孔数を26、領域Cの注湯孔数を21としたこと以外は、実施例1と同様の方法で24個の金属-セラミックス接合基板100を作製した。これらの金属-セラミックス接合基板100をサンプルとして後述の放熱面の形状の評価に使用した。なお、実施例2における「領域Cの注湯孔数/領域Aの注湯孔数」は1.11である。
【0093】
(実施例3)
矩形状の製品形状空間30の長手方向が凝固方向に向いた
図14に示す下型と同様の構成の下型を用い、かつ、領域Aの注湯孔数を26、領域Bの注湯孔数を26、領域Cの注湯孔数を21としたこと以外は、実施例1と同様の方法で6個の金属-セラミックス接合基板100を作製した。これらの金属-セラミックス接合基板100をサンプルとして後述の放熱面の形状の評価に使用した。なお、実施例3における「領域Cの注湯孔数/領域Aの注湯孔数」は0.81である。
【0094】
(比較例1)
図8に示すように、領域Aの注湯孔数を25、領域Bの注湯孔数を23、領域Cの注湯孔数を15としたこと以外は、実施例1と同様の方法で20個の金属-セラミックス接合基板100を作製した。これらの金属-セラミックス接合基板100をサンプルとして後述の放熱面の形状の評価に使用した。なお、比較例1における「領域Cの注湯孔数/領域Aの注湯孔数」は0.60である。
【0095】
<放熱面の形状評価>
実施例1~3および比較例1の各接合基板の放熱面の形状を次の方法で評価した。
(1)三次元測定器を用い、接合基板の長手方向に沿って、且つ接合基板の中心を通るように放熱面のプロフィルラインを取得する。
(2)
図15のようにプロフィルラインを5等分する位置P1~P5を設定する。
(3)位置P1と位置P5を通る直線Lを引く。
(4)直線Lからの位置P2、位置P3、位置P4の高さを算出する。
(5)位置P3に対する位置P2の高さの差分(位置P3の高さ-位置P2の高さ)と、位置P3に対する位置P4の高さの差分(位置P3の高さ-位置P4の高さ)を算出する。
(6)上記の各差分がいずれも0より大きい場合には、放熱面の形状が球面状に維持されていると判定する。なお、
図16(a)は、各差分がいずれも0より大きい場合のプロフィルラインの一例であり、
図16(b)は、位置P3に対する位置P4の高さの差分が0より小さい場合のプロフィルラインの一例である。
(7)上記(1)~(6)の手順により、製造された全ての接合基板の放熱面の形状を評価し、球面状の形状を維持することができた接合基板数を記録する。
【0096】
放熱面の形状評価の結果は以下の表1の通りである。なお、直線Lからの位置P3の高さの測定の結果、実施例1~3における位置P3の高さはいずれも0.045mmであり、比較例1における位置P3の高さは0.025mmであった。
【0097】
【0098】
表1に示すように、領域C内の注湯孔数/領域A内の注湯孔数が0.75~1.33の範囲内にある実施例1~3においては、製造した全ての接合基板において放熱面の形状を球面状に維持できた。一方、領域C内の注湯孔数/領域A内の注湯孔数が0.75~1.33の範囲から外れている比較例1においては、製造した全ての接合基板において放熱面の形状を球面状に維持できなかった。
【0099】
本実施例の結果で示されるように、領域A内に配置された注湯箇所の数に対する領域C内に配置された注湯箇所の数の比が0.75~1.33であれば、放熱面の形状精度に優れた接合基板を得ることができる。