(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136032
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】通信装置、ランクアダプテーション方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 7/0413 20170101AFI20240927BHJP
H04W 16/28 20090101ALI20240927BHJP
H04W 24/08 20090101ALI20240927BHJP
H04W 72/21 20230101ALI20240927BHJP
【FI】
H04B7/0413
H04W16/28 130
H04W24/08
H04W72/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046985
(22)【出願日】2023-03-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年2月17日 https://www.youtube.com/watch?v=hLpRqXHoESMを通じて発表、令和5年2月19日 https://www.icact.org/program/participants.aspを通じて発表、令和5年2月20日 https://www.icact.org/Presentation/slide_show.asp?pno=20230234を通じて発表、令和5年2月22日 一般社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告 信学技法 Vol.122 No.399」に発表、https://ken.ieice.org/ken/paper/20230303CCrG/を通じて発表、令和5年3月3日 一般社団法人電子情報通信学会の「移動通信ワークショップ」にて文書をもって発表、一般社団法人電子情報通信学会の「移動通信ワークショップ」(オンライン開催)にてhttps://zoom.us/join ミーティングID:85374707563,パスコード:923622を通じて発表。
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度 国立研究開発法人情報通信研究機構、「革新的情報通信技術研究開発委託研究/Intelligent Reflecting Surfaceによるプロアクティブな無線空間制御と耐干渉型空間多重伝送技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】393031586
【氏名又は名称】株式会社国際電気通信基礎技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100121223
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 悟道
(72)【発明者】
【氏名】松室 尭之
(72)【発明者】
【氏名】矢野 一人
(72)【発明者】
【氏名】奥本 裕介
(72)【発明者】
【氏名】坂野 寿和
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA23
5K067DD11
5K067EE02
5K067EE10
5K067KK03
(57)【要約】
【課題】散発的な干渉が存在する環境において、MIMO伝送における好適なランクアダプテーションを行う通信装置を提供する。
【解決手段】送信側の通信装置からMIMO伝送によって送信された無線信号を受信する通信装置2は、複数のアンテナを介して無線信号を受信する受信部21と、受信された無線信号を用いて、1以上の干渉波の有無に応じたランクごとのチャネル容量をそれぞれ取得するチャネル容量取得部22と、受信された1以上の干渉波ごとの受信履歴を用いて、1以上の干渉波ごとの受信確率を取得する確率取得部23と、1以上の干渉波ごとの受信確率と、チャネル容量とを用いて、ランクごとのチャネル容量の期待値を算出する算出部24と、送信側の通信装置が使用するランクを、期待値が最大となるランクに決定する決定部25と、決定されたランクを送信側の通信装置に送信する送信部26とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信側の通信装置からMIMO伝送によって送信された無線信号を受信する通信装置であって、
複数のアンテナを介して無線信号を受信する受信部と、
前記受信部で受信された無線信号を用いて、1以上の干渉波の有無に応じたランクごとのチャネル容量をそれぞれ取得するチャネル容量取得部と、
前記チャネル容量取得部によって取得されたチャネル容量に基づいて、前記送信側の通信装置が使用するランクを決定する決定部と、
前記決定部によって決定されたランクを前記送信側の通信装置に送信する送信部と、を備えた通信装置。
【請求項2】
前記受信部で受信された1以上の干渉波ごとの受信履歴を用いて、1以上の干渉波ごとの受信確率を取得する確率取得部と、
前記確率取得部によって取得された1以上の干渉波ごとの受信確率と、前記チャネル容量取得部によって取得されたチャネル容量とを用いて、ランクごとのチャネル容量の期待値を算出する算出部と、をさらに備え、
前記決定部は、前記送信側の通信装置が使用するランクを、前記算出部によって算出された期待値が最大となるランクに決定する、請求項1記載の通信装置。
【請求項3】
前記決定部は、前記送信側の通信装置が使用するランクを、1以上の干渉波の有無に応じたチャネル容量の最小値が最も大きいランクに決定する、請求項1記載の通信装置。
【請求項4】
MIMO伝送におけるランクアダプテーション方法であって、
複数のアンテナを介して受信された無線信号を用いて、1以上の干渉波の有無に応じたランクごとのチャネル容量をそれぞれ取得するステップと、
取得されたチャネル容量に基づいて、送信側の通信装置が使用するランクを決定するステップと、
決定されたランクを前記送信側の通信装置に送信するステップと、を備えたランクアダプテーション方法。
【請求項5】
MIMO伝送におけるランクアダプテーションのためのプログラムであって、
コンピュータに、
複数のアンテナを介して受信された無線信号を用いて、1以上の干渉波の有無に応じたランクごとのチャネル容量をそれぞれ取得するステップと、
取得されたチャネル容量に基づいて、送信側の通信装置が使用するランクを決定するステップと、
決定されたランクを前記送信側の通信装置に送信するステップと、を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MIMO伝送におけるランクアダプテーションを行うための通信装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の広帯域無線通信では、MIMO(Multiple Input Multiple Output;多入力多出力)伝送が多く用いられている。また、MIMO伝送におけるランクアダプテーションは、干渉波が到来した場合にロバストな伝送を行うために重要な技術である(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】F. Bohagen, P. Orten, G. E. Oien,「Design of Optimal High-Rank Line-of-Sight MIMO Channels」, IEEE Transactions on Wireless Communications, vol. 6, no. 4, pp. 1420-1425, April 2007, doi: 10.1109/TWC.2007.348338
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
免許不要帯では、各無線システムが自律的に運用されている。そのようなランダムアクセス制御を行っている無線チャネルを利用して行われる無線通信(例えば、無線LANなど)では、隠れノード問題が発生することもある。このような状況では、通信装置は散発的な干渉波に対応しなければならず、MIMO伝送における好適なランクを選択することが難しいという問題があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、散発的な干渉が存在する環境において、MIMO伝送における好適なランクを決定することができる通信装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一態様による通信装置は、送信側の通信装置からMIMO伝送によって送信された無線信号を受信する通信装置であって、複数のアンテナを介して無線信号を受信する受信部と、受信部で受信された無線信号を用いて、1以上の干渉波の有無に応じたランクごとのチャネル容量をそれぞれ取得するチャネル容量取得部と、チャネル容量取得部によって取得されたチャネル容量に基づいて、送信側の通信装置が使用するランクを決定する決定部と、決定部によって決定されたランクを送信側の通信装置に送信する送信部と、を備えたものである。
このような構成により、1以上の干渉波の有無に応じたチャネル容量を用いることによって、例えば、目的とするMIMO伝送を実現することができるランクを決定することができる。
【0007】
また、本発明の一態様による通信装置では、受信部で受信された1以上の干渉波ごとの受信履歴を用いて、1以上の干渉波ごとの受信確率を取得する確率取得部と、確率取得部によって取得された1以上の干渉波ごとの受信確率と、チャネル容量取得部によって取得されたチャネル容量とを用いて、ランクごとのチャネル容量の期待値を算出する算出部と、をさらに備え、決定部は、送信側の通信装置が使用するランクを、算出部によって算出された期待値が最大となるランクに決定してもよい。
このような構成により、干渉波の受信確率に応じたチャネル容量の期待値を用いて、スループットを最大化するMIMO伝送を実現するためのランクを決定することができるようになる。
【0008】
また、本発明の一態様による通信装置では、決定部は、送信側の通信装置が使用するランクを、1以上の干渉波の有無に応じたチャネル容量の最小値が最も大きいランクに決定してもよい。
このような構成により、各干渉波の有無に関わらず、チャネル容量が極端に低くなることを回避することができる。したがって、例えば、高い確実性の要求されるMIMO伝送において、より確実な通信を保証することができるようになる。
【0009】
また、本発明の一態様によるランクアダプテーション方法は、MIMO伝送におけるランクアダプテーション方法であって、複数のアンテナを介して受信された無線信号を用いて、1以上の干渉波の有無に応じたランクごとのチャネル容量をそれぞれ取得するステップと、取得されたチャネル容量に基づいて、送信側の通信装置が使用するランクを決定するステップと、決定されたランクを送信側の通信装置に送信するステップと、を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様による通信装置等によれば、1以上の干渉波の有無に応じたチャネル容量を用いることによって、例えば、目的とするMIMO伝送に必要なランクアダプテーションを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態によるMIMO伝送システムの構成を示す模式図
【
図2】同実施の形態による通信装置の構成を示すブロック図
【
図3】同実施の形態による通信装置の動作を示すフローチャート
【
図4】同実施の形態におけるランクごと、干渉波の有無ごとのチャネル容量、及びランクごとの期待値を示す図
【
図5】同実施の形態のシミュレーション結果におけるランクごと、干渉波の有無ごとのチャネル容量、及びランクごとの期待値を示す図
【
図6】同実施の形態のシミュレーション結果における干渉波の受信確率に応じたチャネル容量の期待値の変化を示すグラフ
【
図7】同実施の形態におけるコンピュータシステムの構成の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明による通信装置、及びランクアダプテーション方法について、実施の形態を用いて説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素及びステップは同一または相当するものであり、再度の説明を省略することがある。本実施の形態による通信装置は、MIMO伝送におけるランクごと、1以上の干渉波の有無ごとのチャネル容量と、干渉波の受信確率とを用いて、ランクごとのチャネル容量の期待値を算出し、送信側の通信装置が使用するランクを、その期待値が最大となるランクに決定するランクアダプテーションを行うものである。
【0013】
図1は、本実施の形態によるMIMO伝送システム100の構成を示す模式図であり、
図2は、MIMO伝送の受信側の通信装置2の構成を示すブロック図である。本実施の形態によるMIMO伝送システム100は、MIMO伝送によって無線信号を送信する送信側の通信装置1と、送信側の通信装置1からMIMO伝送によって送信された無線信号を受信する受信側の通信装置2とを備えている。なお、送信側、受信側は、本実施の形態で説明するMIMO伝送に関する送信側、受信側の意味であり、例えば、制御用の信号などは、通信装置2から通信装置1に送信されてもよい。また、MIMO伝送についても、通信装置2が送信側となり、通信装置1が受信側となる通信も行われてもよい。また、通信装置1,2は特に限定されないが、一例として、通信装置1はアクセスポイントであり、通信装置2は端末装置であってもよい。この場合には、ダウンリンクMIMOのランクアダプテーションが行われることになる。
【0014】
本実施の形態では、通信装置1,2が、それぞれ4個のアンテナ1a,2aを介して、4×4のシングルユーザMIMO(SU-MIMO)伝送を行い、2個の干渉源3,4からの干渉波を通信装置2が受信する場合について主に説明するが、MIMO伝送で用いられるアンテナの個数や、干渉源の個数はそれらに限定されないことは言うまでもない。以下、通信装置2が干渉源3,4から受信する干渉波を、それぞれ干渉波A,Bと呼ぶことにする。干渉源3,4は、例えば、無線通信を行う通信装置であってもよく、電子レンジなどのように無線通信を行わない装置であってもよい。
【0015】
通信装置2は、
図2で示されるように、受信部21と、チャネル容量取得部22と、確率取得部23と、算出部24と、決定部25と、送信部26とを備える。本実施の形態では、上記したように、通信装置2が4個のアンテナ2aを有している場合について主に説明する。
【0016】
受信部21は、複数のアンテナ2aを介して無線信号を受信する。受信部21は、送信側の通信装置1から送信されたMIMO伝送の電波を受信すると共に、干渉源3,4から送信された干渉波A,Bも受信してもよい。なお、干渉波A,Bがそれぞれ自律的に送信される場合には、受信部21が干渉波A,Bをそれぞれ受信するかどうかに応じて、4通りの事象が存在する。第1の事象は干渉波A,Bを両方とも受信しない事象であり、第2の事象は干渉波Aを受信し、干渉波Bを受信しない事象であり、第3の事象は干渉波Aを受信せず、干渉波Bを受信する事象であり、第4の事象は干渉波A,Bの両方を受信する事象である。
【0017】
受信部21は、例えば、干渉波A,Bの識別も行ってもよい。干渉波が復調できる信号、例えば、他の無線システムから送信された信号である場合には、受信部21は、受信した無線信号を復調し、その無線信号に含まれている送信元の識別子(例えば、アドレスなど)を取得することによって、干渉波を識別する情報を取得してもよい。一方、干渉波が復調できない信号、例えば、電子レンジなどの機器から送信される、通信信号ではない信号である場合には、受信部21は、4個のアンテナ2aのうち、基準となる1個のアンテナ2aで受信された受信信号と、それ以外の3個のアンテナ2aで受信された受信信号との振幅比、及び位相差の集合、すなわちアレーレスポンスベクトルを取得して、干渉波を識別する情報として用いてもよい。そして、アレーレスポンスベクトルが一致する干渉波については、同じ干渉源からの干渉波であると判断してもよい。なお、アレーレスポンスベクトルが一致するとは、例えば、厳密に一致することであってもよく、所定の誤差の範囲内で一致することであってもよい。
【0018】
また、2個の干渉波A,Bが同時に受信された場合には、一方の干渉波の強度が強くなることが多いと考えられる。この場合には、強度の強い方の干渉波のアレーレスポンスベクトルに類似したアレーレスポンスベクトルが取得されることになる。したがって、例えば、干渉波Aのアレーレスポンスベクトルと一致しないが類似するアレーレスポンスベクトルの干渉波が受信された場合には、干渉波A,Bが同時に受信されたと判断してもよい。また、複数の干渉波のビジーの期間が完全に一致することは少ないと考えられる。そのため、2個の干渉波が同時に受信される期間の前後には、1個の干渉波が受信される期間が存在することが多いと考えられる。例えば、干渉波Aのみが受信される第1の期間の後に、干渉波A,Bの両方が受信される第2の期間が存在し、その後に干渉波Bのみが受信される第3の期間が続く場合には、第2の期間の前後の状況から、第2の期間において、干渉波A,Bの両方が受信されていたと推測することができる。したがって、この場合には、第2の期間に受信された受信信号のアレーレスポンスベクトルを、干渉波A,Bの両方に対応するアレーレスポンスベクトルとしてもよい。このようにすることによって、受信部21は、受信した受信信号に1以上の干渉波の信号が含まれているかどうかを識別することができるようになる。なお、ここで説明した干渉波の識別方法は一例であり、他の方法によって干渉波を識別してもよいことは言うまでもない。
【0019】
また、受信部21は、例えば、複数のアンテナ2aで受信された受信信号にMMSE(最小平均二乗誤差)ウェイトを乗算することなどによって、所望信号を抽出してもよい。この所望信号を抽出する処理は、従来のMIMO伝送における処理と同様であり、その詳細な説明を省略する。なお、受信部21は、例えば、チャネル容量取得部22によって取得されたMMSEウェイトを用いて所望信号を抽出してもよい。
【0020】
チャネル容量取得部22は、受信部21で受信された無線信号を用いて、1以上の干渉波の有無に応じたランクごとのチャネル容量をそれぞれ取得する。チャネル容量取得部22は、一例として、MMSEウェイトを算出し、そのMMSEウェイトを用いてチャネル容量を取得してもよい。なお、チャネル容量は、1以上の干渉波の有無のすべての組み合わせについて取得されることが好適である。例えば、n個の干渉波が受信部21で受信される場合には、n個の干渉波のそれぞれの有無に応じた2n個の事象が存在することになり、各事象について1個のチャネル容量が取得されるため、2n個のチャネル容量が取得されることになる。nは1以上の整数である。また、そのチャネル容量はランクごとに取得されることになる。ランクは、MIMO伝送のストリーム数であり、厳密には、MIMO伝送に使用される送信アンテナの数と、受信アンテナの数とのうち、少ない方の数である。しかしながら、本実施の形態では、干渉波の影響を低減したいため、MIMO伝送に使用する受信アンテナの数を減らすことは考えられない。そのため、本実施の形態では、通常、送信側の通信装置1がMIMO伝送に使用するアンテナ1aの個数がランクとなる。したがって、送信側の通信装置1がM個のアンテナ1aを有している場合には、ランクは1からMまでのいずれかの整数値となる。Mは、2以上の整数である。各ランクについて、2n個のチャネル容量が取得されるため、チャネル容量取得部22によって取得されるチャネル容量の総数は、2n×M個となる。なお、チャネル容量の取得の詳細な処理については後述する。
【0021】
確率取得部23は、受信部21で受信された1以上の干渉波ごとの受信履歴を用いて、1以上の干渉波ごとの受信確率を取得する。干渉波の受信履歴とは、干渉波のビジー/アイドルの履歴であってもよい。干渉波ごとの受信履歴は、例えば、確率取得部23によって取得され、図示しない記録媒体に蓄積されてもよい。確率取得部23は、送信側の通信装置1が今後、通信を行う将来の時点の干渉波の受信確率を取得することが好適である。例えば、現在の時刻がtである場合には、確率取得部23は、干渉波の時刻t+Dの受信確率を取得してもよい。Dは正の実数であり、通常、大きくない値である。すなわち、通常、近い将来の受信確率が取得されることになる。確率取得部23は、各干渉波について受信確率を取得する。そのため、n個の干渉波が存在する場合には、確率取得部23は、n個の干渉波にそれぞれ対応する、時刻t+Dのn個の受信確率を取得してもよい。なお、ある干渉波の受信履歴を用いて、その干渉波の将来の時点における受信確率を取得する方法については、例えば、次の文献を参照されたい。
文献:K. Yano, N. Egashira, J. Webber, M. Usui, Y. Suzuki, 「Achievable throughput of multiband wireless LAN using simultaneous transmission over multiple primary channels assisted by idle length prediction based on PNN」, Proc. of ICAIIC 2019, pp. 22-27, Feb. 2019, doi: 10.1109/ICAIIC.2019.8668975.
文献:特開2019-087916号公報
【0022】
例えば、送信側の通信装置1から送信された送信予告が受信部21で受信された場合には、確率取得部23は、その送信予告に応じた送信が行われる時点の各干渉波の受信確率を取得してもよい。また、送信予告がない場合には、確率取得部23は、例えば、各干渉波の受信確率を定期的に取得してもよい。なお、受信確率の取得後、後述するように期待値が算出されてランクが決定され、その決定結果が送信側の通信装置1にフィードバックされるまでには所定の時間が掛かることになる。したがって、確率取得部23は、現在の時点から、少なくともその所定の時間以上経過した将来の時点の各干渉波の受信確率を取得することが好適である。
【0023】
算出部24は、確率取得部23によって取得された1以上の干渉波ごとの受信確率と、チャネル容量取得部22によって取得されたチャネル容量とを用いて、ランクごとのチャネル容量の期待値を算出する。より具体的には、算出部24は、あるランクについて、各干渉波の受信の有無に応じた事象ごとに、事象の確率とチャネル容量とを乗算し、その乗算結果の総和を算出することによってチャネル容量の期待値を算出してもよい。そして、算出部24は、その期待値の算出を、すべてのランクについて行ってもよい。ランクの最大値がMである場合には、例えば、M個の期待値が算出されてもよい。なお、チャネル容量の期待値の算出の詳細な処理については後述する。
【0024】
決定部25は、チャネル容量取得部22によって取得されたチャネル容量に基づいて、送信側の通信装置1が使用するランクを決定する。チャネル容量に基づいてランクを決定するとは、例えば、ランクを決定する過程に少なくともチャネル容量が用いられることであってもよい。決定部25は、例えば、送信側の通信装置1が使用するランクを、算出部24によって算出された期待値が最大となるランクに決定してもよい。本実施の形態では、この場合について主に説明し、それ以外の場合については後述する。算出部24がランクごとに期待値を算出した場合には、決定部25は、その期待値のうち、最大の期待値を特定し、その特定した最大の期待値に対応するランクを、送信側の通信装置1が使用するランクに決定してもよい。
【0025】
送信部26は、決定部25によって決定されたランクを送信側の通信装置1に送信する。このようにして、決定結果のランクが送信側の通信装置1に渡され、その送信側の通信装置1では、その決定結果のランクによって、MIMO伝送による無線信号の送信が行われることになる。送信部26は、例えば、決定結果のランクを、送信側の通信装置1に直接送信してもよく、または、他のサーバ等を介して間接的に送信してもよい。また、送信部26は、送信を行うための送信デバイス(例えば、モデムやネットワークカードなど)を含んでもよく、または含まなくてもよい。また、送信部26は、ハードウェアによって実現されてもよく、または送信デバイスを駆動するドライバ等のソフトウェアによって実現されてもよい。
【0026】
次に、MIMO伝送システム100の動作について
図3のフローチャートを用いて説明する。
(ステップS101)チャネル容量取得部22は、チャネル容量を取得するかどうか判断する。そして、チャネル容量を取得する場合には、ステップS102に進み、そうでない場合には、ステップS103に進む。チャネル容量取得部22は、例えば、チャネル容量を取得していない事象の受信信号が受信された場合に、その事象に応じたチャネル容量を取得すると判断してもよい。また、新たな干渉波が発生するなどのように事象が変化した場合には、チャネル容量取得部22は、その変化後において、チャネル容量を取得していない事象の受信信号が受信された際に、その事象に応じたチャネル容量を取得すると判断してもよい。
【0027】
(ステップS102)チャネル容量取得部22は、受信された無線信号を用いて、ランクごとに、1以上の干渉波の有無に応じたすべての事象に応じたチャネル容量を取得する。取得されたチャネル容量は、図示しない記録媒体で記憶されてもよい。そして、ステップS101に戻る。
【0028】
(ステップS103)決定部25は、ランクを決定するかどうか判断する。そして、ランクを決定する場合には、ステップS104に進み、そうでない場合には、ステップS101に戻る。決定部25は、例えば、すべての事象のチャネル容量の取得が終了している場合であって、送信側の通信装置1から送信予告が受信された際に、ランクを決定すると判断してもよく、または、ランクを決定すると繰り返して判断してもよい。後者の場合には、例えば、ランクを決定すると定期的に判断されてもよい。
【0029】
(ステップS104)確率取得部23は、将来の時点における各干渉波の受信確率を取得する。この将来の時点は、例えば、送信予告に応じた送信が行われる時点であってもよく、または、現時点からあらかじめ決められた時間だけ将来の時点であってもよい。
【0030】
(ステップS105)算出部24は、事象ごと、ランクごとのチャネル容量と、将来の時点における各干渉波の受信確率とを用いて、ランクごとのチャネル容量の期待値を算出する。
【0031】
(ステップS106)決定部25は、算出された期待値のうち、最大の期待値に対応するランクを、送信側の通信装置1が使用するランクに決定する。
【0032】
(ステップS107)送信部26は、決定部25による決定結果を、送信側の通信装置1に送信する。そして、ステップS101に戻る。この決定結果の送信に応じて、送信側の通信装置1において、決定されたランクを用いたMIMO伝送による送信信号の送信が行われることになる。
【0033】
なお、
図3のフローチャートには含まれていないが、受信部21は、干渉波を受信することによって、各干渉波を識別する処理を行ってもよい。また、確率取得部23は、その干渉波の識別結果を用いて、各干渉波の受信履歴を記録してもよい。また、
図3のフローチャートにおける処理の順序は一例であり、同様の結果を得られるのであれば、各ステップの順序を変更してもよい。また、
図3のフローチャートにおいて、電源オフや処理終了の割り込みにより処理は終了する。
【0034】
次に、チャネル容量の取得、及びチャネル容量や受信確率を用いた期待値の算出などについて、より詳細に説明する。ここでは、上記したように、4×4のSU-MIMO伝送が行われる場合について説明する。したがって、M=4であり、決定対象のランクは、1~4の4個である。また、受信部21が、2個の干渉源3,4から2個の干渉波A,Bを受信する場合について説明する。この場合には、干渉波A,Bのそれぞれの有無に応じて、2
2個の事象が存在することになる。各事象を識別するインデックスkを、干渉なし(k=1)、干渉波Aのみ(k=2)、干渉波Bのみ(k=3)、干渉波A,Bの両方(k=4)のように設定する。なお、以下の説明において、インデックスkによって識別される事象を「事象k」と呼ぶこともある。受信部21による2個の干渉波の受信の有無、及びランクmに応じて、
図4で示されるように、16個のチャネル容量C
m
kが存在する。m及びkは、それぞれ1から4の整数である。チャネル容量取得部22は、その16個のチャネル容量を取得するものとする。チャネル容量取得部22は、例えば、その16個のチャネル容量を、次式を用いて算出してもよい。次式は、MMSEを適用した場合のチャネル容量であり、所望信号と干渉信号のSINRから求まるものである。
【数1】
【0035】
(1)式において、ベクトルW
k
opt,jは、事象kにおいて、送信側の通信装置1におけるj番目のアンテナ1aから送信されるj番目のストリームの送信信号s
j(t)に対する最適ウェイトであり、ウィナー解として次の(2)式で与えられる。このことについては、例えば、次の文献を参照されたい。また、上付き文字のTは転置を表し、*は複素共役を表し、Hは複素共役転置を表す。ベクトルh
jについては後述する。なお、本明細書におけるベクトルは、列ベクトルであるとする。
文献:B. Widrow, P. E. Mantey, L. J. Griffiths, B. B. Goode, 「Adaptive antenna systems」, Proceedings of the IEEE, vol. 55, no. 12, pp. 2143-2159, Dec. 1967, doi: 10.1109/PROC.1967.6092.
【数2】
【0036】
(2)式において、行列R
k
xxは、受信信号の相関行列であり、事象ごとに次式で示される。
【数3】
【0037】
ここで、PSは所望波の送信電力であり、既知である。所望波は、通信装置2が受信しようとしている電波のことであり、送信側の通信装置1から送信された無線信号のことである。PA、PBはそれぞれ干渉波A,Bの送信電力であり、σ2は雑音電力である。また、行列HDは所望波の伝搬路行列であり、行列hA、hBはそれぞれ干渉波A,Bの伝搬路行列である。所望波の伝搬路行列HDは、例えば、所望波に含まれるパイロット信号を用いて取得されてもよい。パイロット信号は、一例として、通信装置1から送信される送信信号の各ブロックのヘッダに挿入されたパイロットシンボルであってもよい。また、干渉波の伝搬路行列hA、hBはそれぞれ干渉波A,Bを用いて取得されてもよい。行列Iは、NR×NRの単位行列である。NRは、受信側の通信装置2が有するアンテナ2aの個数であり、通常、2以上の整数である。
【0038】
また、(2)式において、ベクトルr
xs,jは、送信信号と受信信号の相関ベクトルであり、次式で示される。(1)式、及び次の(7)式におけるベクトルh
jは、行列H
Dの送信側のj番目のアンテナ1aに対応した伝搬路ベクトルである。
【数4】
【0039】
チャネル容量取得部22は、例えば、所望波や干渉波の伝搬路行列を取得し、それらを(3)~(7)式に代入することによって受信信号の相関行列Rk
xxや、送信信号と受信信号の相関ベクトルrxs,jを求め、それらを(2)式に代入することによってMMSEの最適ウェイトベクトルWk
opt,jを算出し、最適ウェイトベクトルWk
opt,jや、所望波の伝搬路行列における特定の送信側のアンテナ1aに対応した伝搬路ベクトルを(1)式に代入することによって、チャネル容量を算出してもよい。
【0040】
なお、行列R
k
xxは、受信信号のベクトルx
k(t)を用いて、次の(8)式のように算出することもできる。ベクトルx
k(t)は、事象kである時刻tに、受信部21で受信された各アンテナ2aの受信信号を要素として有するベクトルであってもよい。次式において、E[X]は、Xの期待値である。したがって、チャネル容量取得部22は、例えば、次の(8)式を用いて行列R
k
xxを算出してもよい。
【数5】
【0041】
また、ベクトルr
xs,jも、受信信号のベクトルx
k(t)と、送信側のj番目のアンテナ1aから送信されるj番目のストリームの送信信号s
j(t)を用いて、次の(9)式のように算出することもできる。送信信号s
j(t)は、例えば、送信側の通信装置1が無線信号を送信する際に挿入されるパイロット信号であってもよい。したがって、チャネル容量取得部22は、例えば、次の(9)式を用いてベクトルr
xs,jを算出してもよい。
【数6】
【0042】
このように、チャネル容量取得部22は、例えば、受信信号のベクトルxk(t)及び送信信号sj(t)を用いて、MMSEの最適ウェイトベクトルWk
opt,jを算出すると共に、所望波に含まれるパイロット信号を用いて伝搬路行列HDを取得することによって、伝搬路ベクトルhjを取得してもよい。そして、チャネル容量取得部22は、それらを用いて、チャネル容量を算出してもよい。なお、伝搬路ベクトルhjは、例えば、算出されたrxs,jを(7)式に代入することによって算出されてもよい。
【0043】
(8)式から明らかなように、各事象に対応する行列Rk
xxは、各事象において受信された受信信号を用いて算出される。したがって、例えば、事象1(干渉波なし)に対応する行列R1
xxは、所望波のみを受信している際の受信信号を用いて算出されることになり、事象2(干渉波Aのみ)に対応する行列R2
xxは、所望波と干渉波Aを受信している際の受信信号を用いて算出されることになる。(9)式を用いてベクトルrxs,jを算出する際も同様である。
【0044】
なお、ここで説明したチャネル容量の算出方法は一例であり、他の方法を用いてチャネル容量を算出してもよいことは言うまでもない。また、チャネル容量取得部22は、事象が変化した際には、再度、チャネル容量の算出を行うことが好適である。例えば、新たな干渉波が受信されるようになった場合や、既存の干渉波が受信されないようになった場合には、それに応じてチャネル容量が再度、算出されることが好適である。
【0045】
確率取得部23によって取得された、将来の時刻t+Dの干渉波Aの受信確率(すなわち、到来確率)をp
Aとし、干渉波Bの受信確率をp
Bとすると、干渉波なしの事象の確率は(1-p
A)(1-p
B)となり、干渉波Aのみが到来する事象の確率はp
A(1-p
B)となり、干渉波Bのみが到来する事象の確率は(1-p
A)p
Bとなり、干渉波A,Bの両方が到来する事象の確率はp
Ap
Bとなる。したがって、算出部24は、ランクmの期待値E
mを、各事象に対応する確率とチャネル容量との積の総和として、次式のように計算することができる。このように、次式を用いて、4個の期待値E
1~E
4が算出されてもよい。
【数7】
【0046】
なお、ここでは、最大ランクが4であり、干渉波が2個である場合について主に説明したが、それ以外の場合であっても、同様にしてランクごと、事象ごとのチャネル容量を算出し、各干渉波の受信確率を取得し、それらを用いてランクごとのチャネル容量の期待値を算出することができることは明らかである。
【0047】
次に、本実施の形態によるMIMO伝送システム100のシミュレーション結果について説明する。本シミュレーションでは、4×4のSU-MIMO伝送において、2個の干渉波A,Bが存在する場合を想定した。また、送信側の通信装置1から受信側の通信装置2までの伝搬路は、仲上-ライスフェージング伝搬路であるとした。また、送信側及び受信側のアンテナ1a,2aにおいて、アンテナ間の間隔は半波長とした。また、Kファクターは10dBとし、SNR(PS/σ2)は30dBとし、所望波と2個の干渉波A,Bとの送信電力はすべて等しいとした。チャネル容量は2000回の試行の平均を取った。また、干渉波Aの受信確率は、0%、50%、100%の3つとし、干渉波Bの受信確率は、0%から100%まで10%ずつ変化させた。
【0048】
図5は、シミュレーション結果のチャネル容量(bps/Hz)と、干渉波Aの受信確率p
Aが50%であり、干渉波Bの受信確率p
Bが10%である場合におけるチャネル容量の期待値とを示す表である。
図5において、ランク4の場合には、干渉波なしのときのチャネル容量は20.8bps/Hzであるのに対して、干渉波Aのみ、または干渉波Bのみが到来するときのチャネル容量は半分以下に落ち、干渉波A,Bの両方が到来するときのチャネル容量はさらに落ちることになる。一方、ランク3の場合には、MMSEウェイトによって1つの干渉成分を抑圧することができるため、干渉波Aのみ、または干渉波Bのみが到来するときのチャネル容量は、15.6bps/Hz,17.0bps/Hzを維持できているが、干渉波A,Bの両方が到来するときのチャネル容量は大きく落ちることになる。ランク1,2の場合には、干渉波A,Bの両方が到来するときであっても、13.5bps/Hz,11.4bps/Hzのように、ランク3,4よりも高いチャネル容量を維持できることが分かる。
【0049】
干渉波の受信確率を考慮した各ランクのチャネル容量の期待値は、
図5に示されるとおりである。この場合には、決定部25は、送信側の通信装置1が使用するランクを、最も高いチャネル容量の期待値17.2bps/Hzに対応するランク3に決定することになる。
【0050】
図6は、干渉波の受信確率に応じた各ランクのチャネル容量の期待値の変化について示すグラフである。
図6(a)、
図6(b)、
図6(c)では、干渉波Aの受信確率p
Aをそれぞれ0%、50%、100%としている。そして、各グラフにおいて、干渉波Bの受信確率p
Bを変化させた際のランクmごとのチャネル容量の期待値の変化を示している。ランク1は三角印、ランク2はバツ印、ランク3は丸印、ランク4は四角印で示している。
【0051】
図6(a)の干渉波Aの受信確率p
Aが0%である場合において、干渉波Bの受信確率p
Bが0%であるとき、すなわち、干渉波Bが到来していないときには、ランク4のチャネル容量の期待値が最大であるが、干渉波Bの受信確率が10%以上になると、ランク3のチャネル容量の期待値が最大となる。これは、4個の送信側のアンテナ1aのすべてを所望波の通信に使用している場合には、1個の干渉波Bを適切に抑圧することができないからである。
【0052】
図6(b)の干渉波Aの受信確率p
Aが50%である場合において、干渉波Bの受信確率p
Bが40%未満では、ランク3のチャネル容量の期待値が最大であるが、干渉波Bの受信確率p
Bが40%以上になると、ランク2のチャネル容量の期待値が最大になる。また、
図6(c)の干渉波Aの受信確率p
Aが100%である場合において、干渉波Bの受信確率p
Bが10%未満では、ランク3のチャネル容量の期待値が最大であるが、干渉波Bの受信確率p
Bが10%以上になると、ランク2のチャネル容量の期待値が最大になる。これは、干渉波A,Bの両方が高い確率で到来する場合に、ランク3,4では、干渉波A,Bの両方を抑圧するための自由度が不足するためである。
【0053】
図6から分かるように、干渉波A,Bが受信され得る状況であっても、干渉波A,Bのそれぞれの受信確率に応じて、チャネル容量の期待値が最大になるランクは、ランク4からランク2まで変化することになる。したがって、決定部25によって、チャネル容量の期待値が最大になるランクが決定されることによって、MIMO伝送においてより高いスループットを実現できることが分かる。
【0054】
以上のように、本実施の形態による通信装置2によれば、干渉波A,Bの受信確率をそれぞれ取得し、ランクごと、干渉波A,Bの受信の有無に応じた事象ごとにチャネル容量を取得し、ランクごとのチャネル容量の期待値を算出し、送信側の通信装置1が使用するランクを、その期待値が最大となるランクに決定することによって、干渉波が散発的に到来する環境においても、スループットを最大化するMIMO伝送を実現するためのランクアダプテーションを行うことができる。
【0055】
なお、本実施の形態では、チャネル容量の期待値を用いてランクを決定する場合について主に説明したが、そうでなくてもよい。例えば、送信側の通信装置1が使用するランクを、1以上の干渉波の受信の有無がどのような状況であっても、すなわち、どの事象であっても最低のチャネル容量が最も大きくなるランクに決定してもよい。この場合には、受信側の通信装置2は、確率取得部23や算出部24を備えていなくてもよい。そして、決定部25は、ランクごと、1以上の干渉波の有無に応じた事象ごとに取得されたチャネル容量に基づいて、送信側の通信装置1が使用するランクを、1以上の干渉波の有無に応じたチャネル容量の最小値が最も大きいランクに決定してもよい。より詳細には、決定部25は、例えば、各ランクにおいて、事象ごとのチャネル容量のうち、最小値のチャネル容量を特定し、その特定したランクごとの最小値のチャネル容量のうち、最大のチャネル容量に対応するランクを、送信側の通信装置1が使用するランクに決定してもよい。例えば、
図5で示されるようにランクごと、事象ごとのチャネル容量が取得された場合には、ランク4の最小のチャネル容量4.5bps/Hz、ランク3の最小のチャネル容量6.0bps/Hz、ランク2の最小のチャネル容量13.5bps/Hz、ランク1の最小のチャネル容量11.4bps/Hzのうち、最大のチャネル容量13.5bps/Hzに対応するランク2が、送信側の通信装置1が使用するランクに決定されてもよい。このようにランクを決定することによって、1以上の干渉波の到来がどのような事象になったとしても、13.5bps/Hz以上のチャネル容量を確保できることになる。そのため、例えば、より高い確実性の要求されるMIMO伝送を行う場合には、このようなランクの決定を行ってもよい。
【0056】
また、本実施の形態では、すべてのランクについてチャネル容量や期待値が算出される場合について主に説明したが、そうでなくてもよい。例えば、ランクの最大値がMであり、干渉波の個数がNIF個である場合には、仮にすべての干渉波が同時に到来したとしても、通常、ランク(M-NIF)において、そのすべての干渉波を抑圧することができると考えられる。そのため、チャネル容量や期待値の算出は、ランク(M-NIF)以上についてのみ行われてもよい。
【0057】
また、本実施の形態では、SU-MIMO伝送が行われる場合、及び、プリコーディングを行わない場合について主に説明したが、例えば、マルチユーザMIMO(MU-MIMO)伝送が行われる場合や、プリコーディングを行う場合にも、本実施の形態で説明したランクアダプテーションが行われてもよい。また、本実施の形態では、通信装置1から通信装置2に対して、MIMO伝送による無線信号の送信が行われる場合について主に説明したが、通信装置2から通信装置1に対しても、MIMO伝送による無線信号の送信が行われ、そのMIMO伝送において本実施の形態によるランクアダプテーションが行われてもよい。一例として、アップリンクMIMOのランクアダプテーションも行われてもよい。この場合には、例えば、通信装置1においても、本実施の形態で説明したランクアダプテーションの処理が行われてもよい。
【0058】
また、上記実施の形態において、各処理または各機能は、単一の装置または単一のシステムによって集中処理されることによって実現されてもよく、または、複数の装置または複数のシステムによって分散処理されることによって実現されてもよい。
【0059】
また、上記実施の形態において、通信装置2に含まれる2以上の構成要素が通信デバイスや入力デバイス等を有する場合に、2以上の構成要素が物理的に単一のデバイスを有してもよく、または、別々のデバイスを有してもよい。
【0060】
また、上記実施の形態において、各構成要素は専用のハードウェアにより構成されてもよく、または、ソフトウェアにより実現可能な構成要素については、プログラムを実行することによって実現されてもよい。例えば、ハードディスクや半導体メモリ等の記録媒体に記録されたソフトウェア・プログラムをCPU等のプログラム実行部が読み出して実行することによって、各構成要素が実現され得る。その実行時に、プログラム実行部は、記憶部や記録媒体にアクセスしながらプログラムを実行してもよい。なお、上記実施の形態における通信装置2を実現するソフトウェアは、以下のようなプログラムである。つまり、このプログラムは、MIMO伝送におけるランクアダプテーションのためのプログラムであって、コンピュータに、複数のアンテナを介して受信された無線信号を用いて、1以上の干渉波の有無に応じたランクごとのチャネル容量をそれぞれ取得するステップと、取得されたチャネル容量に基づいて、送信側の通信装置が使用するランクを決定するステップと、決定されたランクを送信側の通信装置に送信するステップと、を実行させるためのプログラムである。
【0061】
なお、上記プログラムにおいて、情報を送信する送信ステップや、情報を受信する受信ステップなどでは、ハードウェアでしか行われない処理、例えば、送信ステップにおけるモデムやインターフェースカードなどで行われる処理は少なくとも含まれない。
【0062】
また、このプログラムは、サーバなどからダウンロードされることによって実行されてもよく、所定の記録媒体(例えば、CD-ROMなどの光ディスクや磁気ディスク、半導体メモリなど)に記録されたプログラムが読み出されることによって実行されてもよい。また、このプログラムは、プログラムプロダクトを構成するプログラムとして用いられてもよい。
【0063】
また、このプログラムを実行するコンピュータは、単数であってもよく、複数であってもよい。すなわち、集中処理を行ってもよく、または分散処理を行ってもよい。
【0064】
図7は、上記プログラムを実行して、上記実施の形態による通信装置2を実現するコンピュータの一例を示す図である。上記実施の形態は、コンピュータハードウェア及びその上で実行されるコンピュータプログラムによって実現されうる。
図7において、コンピュータシステム900は、例えば、ディスクドライブ905を含むコンピュータ901と、キーボード902と、マウス903と、モニタ904と、複数のアンテナ906とを備える。
【0065】
コンピュータ901は、ディスクドライブ905に加えて、MPU(Micro Processing Unit)911と、ブートアッププログラム等のプログラムを記憶するためのROM912と、MPU911に接続され、アプリケーションプログラムの命令を一時的に記憶すると共に、一時記憶空間を提供するRAM913と、アプリケーションプログラム、システムプログラム、データを記憶するハードディスク914、通信デバイス916と、MPU911、ROM912等を相互に接続するバス915とを備える。コンピュータ901は、通信デバイス916を介して、複数のアンテナ906から無線信号を送信したり、複数のアンテナ906から無線信号を受信したりすることができる。
【0066】
コンピュータシステム900に、上記実施の形態による通信装置2の機能を実行させるプログラムは、一例として、CD-ROM、DVD-ROM等のディスク921に記憶されて、ディスクドライブ905に挿入され、ハードディスク914に転送されてもよい。これに代えて、そのプログラムは、図示しないネットワークを介してコンピュータ901に送信され、ハードディスク914に記憶されてもよい。プログラムは実行の際にRAM913にロードされる。なお、プログラムは、ディスク921、またはネットワークから直接、ロードされてもよい。また、例えば、ハードディスク914に代えて、SSD(Solid State Drive)などの記録媒体が使用されてもよい。
【0067】
プログラムは、コンピュータ901に、上記実施の形態による通信装置2の機能を実行させるオペレーティングシステム(OS)、またはサードパーティプログラム等を必ずしも含んでいなくてもよい。プログラムは、制御された態様で適切な機能やモジュールを呼び出し、所望の結果が得られるようにする命令の部分のみを含んでいてもよい。コンピュータシステム900がどのように動作するのかについては周知であり、詳細な説明は省略する。
【0068】
また、以上の実施の形態は、本発明を具体的に実施するための例示であって、本発明の技術的範囲を制限するものではない。本発明の技術的範囲は、実施の形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲の文言上の範囲及び均等の意味の範囲内での変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0069】
1、2 通信装置
21 受信部
22 チャネル容量取得部
23 確率取得部
24 算出部
25 決定部
26 送信部