(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136037
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】固体酸化物型燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1226 20160101AFI20240927BHJP
【FI】
H01M8/1226
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046991
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】李 新宇
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA15
5H126GG02
5H126GG08
5H126GG11
5H126JJ00
5H126JJ03
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】 反り量を小さくし、割れを抑制することができる固体酸化物型燃料電池を提供する。
【解決手段】 固体酸化物型燃料電池は、金属を主成分とする第1多孔質金属層と、前記第1多孔質金属層上に設けられ、金属材料とセラミックス材料とが混合された構造を有する第1混合層と、前記第1混合層上に設けられ、セラミックス材料を含むアノードと、前記第1多孔質金属層下に設けられ、金属材料とセラミックス材料とが混合された構造を有する第2混合層と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を主成分とする第1多孔質金属層と、
前記第1多孔質金属層上に設けられ、金属材料とセラミックス材料とが混合された構造を有する第1混合層と、
前記第1混合層上に設けられ、セラミックス材料を含むアノードと、
前記第1多孔質金属層下に設けられ、金属材料とセラミックス材料とが混合された構造を有する第2混合層と、を備える、固体酸化物型燃料電池。
【請求項2】
前記第1多孔質金属層は、金属のみで構成されている、請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項3】
前記第1多孔質金属層は、フェライト系ステンレスである、請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項4】
前記第1混合層および前記第2混合層のセラミックス材料の熱膨張率は、10.5×10-6/℃以下である、請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項5】
前記混合層の前記金属材料は、フェライト系ステンレスである、請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項6】
前記第1混合層および前記第2混合層において、前記セラミックス材料の体積割合は、20vol%以上80vol%以下である、請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項7】
前記第1多孔質金属層の厚みは、前記第1混合層および前記第2混合層のそれぞれの厚みよりも大きい、請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項8】
前記固体酸化物型燃料電池は、平面視で略矩形状を有しており、
前記固体酸化物型燃料電池の反り量は、前記略矩形状の1辺の長さの1/10未満である、請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項9】
前記第2混合層下に、金属を主成分とする第2多孔質金属層をさらに備える、請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などで使用可能な固体酸化物型燃料電池システムを開発するためには、振動に耐えられかつ急速昇温でも割れないセルを開発することが望まれている。そこで、金属支持体で支持するメタルサポートタイプの固体酸化物型燃料電池が開発されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-158026号公報
【特許文献2】特開2013-79190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、金属支持体層と電解質層との熱膨張率を合わせるために、フェライト系の金属支持体が用いられている。しかしながら、フェライト系ステンレスは組成を調整しても熱膨張率の調整には限界があり、電解質のZrO2系材料の熱膨張率との差異に起因して、熱応力でセルに反りが発生する。
【0005】
特許文献2では、ZrO2系材料とNiOの混合比を調整し、熱膨張率を合わせている。しかしながら、特許文献2,3のセルは、メタルサポートセルではないため、急速昇降温の際に割れる問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、反り量を小さくし、割れを抑制することができる固体酸化物型燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る固体酸化物型燃料電池は、金属を主成分とする第1多孔質金属層と、前記第1多孔質金属層上に設けられ、金属材料とセラミックス材料とが混合された構造を有する第1混合層と、前記第1混合層上に設けられ、セラミックス材料を含むアノードと、前記第1多孔質金属層下に設けられ、金属材料とセラミックス材料とが混合された構造を有する第2混合層と、を備える。
【0008】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記第1多孔質金属層は、金属のみで構成されていてもよい。
【0009】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記第1多孔質金属層は、フェライト系ステンレスであってもよい。
【0010】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記第1混合層および前記第2混合層のセラミックス材料の熱膨張率は、10.5×10-6/℃以下であってもよい。
【0011】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記混合層の前記金属材料は、フェライト系ステンレスであってもよい。
【0012】
上記固体酸化物型燃料電池の前記第1混合層および前記第2混合層において、前記セラミックス材料の体積割合は、20vol%以上80vol%以下であってもよい。
【0013】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記第1多孔質金属層の厚みは、前記第1混合層および前記第2混合層のそれぞれの厚みよりも大きくてもよい。
【0014】
上記固体酸化物型燃料電池は、平面視で略矩形状を有しており、上記固体酸化物型燃料電池の反り量は、前記略矩形状の1辺の長さの1/10未満であってもよい。
【0015】
上記固体酸化物型燃料電池は、前記第2混合層下に、金属を主成分とする第2多孔質金属層をさらに備えていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、反り量を小さくし、割れを抑制することができる固体酸化物型燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】燃料電池の積層構造を例示する模式的断面図である。
【
図2】混合層、多孔質金属層、混合層、およびアノードの詳細を例示する拡大断面図である。
【
図3】燃料電池の製造方法のフローを例示する図である。
【
図4】第2実施形態に係る燃料電池の積層構造を例示する模式的断面図である。
【
図5】第3実施形態に係る燃料電池の積層構造を例示する模式的断面図である。
【
図6】第4実施形態に係る燃料電池の積層構造を例示する模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、固体酸化物型の燃料電池100の積層構造を例示する模式的断面図である。
図1で例示するように、燃料電池100は、一例として、第2混合層20b上に、第1多孔質金属層10a、第1混合層20a、アノード30、電解質層40、中間層50、およびカソード60がこの順に積層された構造を有する。燃料電池100は、例えば、平面視で略矩形状を有している。複数の燃料電池100を積層させて、燃料電池スタックを構成してもよい。
【0020】
電解質層40は、酸化物イオン伝導性を有する固体酸化物を主成分とし、ガス不透過性を有する緻密層である。電解質層40は、スカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウム(ScYSZ)、YSZ(イットリア安定化酸化ジルコニウム)などのZrO2系セラミックスを主成分とすることが好ましく、またはGd(ガドリニウム)がCeO2にドープされたGDC(Gdドープセリア)などを主成分とすることが好ましい。ScYSZを用いる場合、Y2O3+Sc2O3の濃度は6mol%~15mol%の間で酸化物イオン伝導性が最も高く、この組成の材料を用いることが望ましい。また、電解質層40の厚みは、20μm以下であることが好ましく、より望ましいのは10μm以下である。電解質は薄いほど良いが、両側のガスが漏れないように製造するためには、1μm以上の厚みが望ましい。
【0021】
カソード60は、カソードとしての電極活性を有する電極であり、電子伝導性および酸化物イオン伝導性を有する。例えば、カソード60は、電子伝導性および酸化物イオン伝導性を有するセラミックス材料を主成分とする。当該セラミックス材料として、例えば、LaCoO3系材料、LaMnO3系材料、LaFeO3系材料などを用いることができる。例えば、LaCoO3系材料として、LSC(ランタンストロンチウムコバルタイト)などを用いることができる。LSCは、Sr(ストロンチウム)がドープされたLaCoO3である。
【0022】
中間層50は、電解質層40とカソード60との反応を防止する成分を主成分とする。中間層50の構成材料は、電解質層40の構成材料と異なっている。中間層50は、酸化物イオン伝導性を有しているが、カソードとしての電極活性を有していない。例えば、中間層50は、セリア(CeO2)に添加物が添加された構造を有している。添加物は、特に限定されるものではない。例えば、中間層50は、GDC(例えば、Ce0.8Gd0.2O2-x)などを主成分とする。一例として、電解質層40がScYSZを含有し、カソード60がLSCを含有する場合には、中間層50は、以下の反応を防止する。
Sr+ZrO2→SrZrO3
La+ZrO3→La2Zr2O7
【0023】
図2は、第2混合層20b、第1多孔質金属層10a、第1混合層20a、およびアノード30の詳細を例示する拡大断面図である。
図2で例示するように、第1多孔質金属層10aは、ガス透過性を有するとともに、第1混合層20a、第2混合層20b、アノード30、電解質層40、中間層50およびカソード60を支持可能な部材である。第1多孔質金属層10aは、金属を主成分とする金属多孔体であり、例えば、フェライト系ステンレスなどである。フェライト系ステンレスを用いることで、第1多孔質金属層10aの熱膨張率を電解質層40の熱膨張率に近づけることができる。また、第1多孔質金属層10aは、金属成分のみで構成されていることが好ましい。第1多孔質金属層10aの耐熱衝撃、耐機械的衝撃性などを向上させることができるからである。
【0024】
アノード30は、アノードとしての電極活性を有する電極であり、セラミックス材料の電極骨格を有する。電極骨格には、金属成分が含まれていない。この構成では、高温還元雰囲気での焼成時に、金属成分の粗大化によるアノードの空隙率の低下が抑制される。また、第1多孔質金属層10aの金属成分との合金化が抑制され、触媒機能低下が抑制される。
【0025】
アノード30の電極骨格は、電子伝導性および酸化物イオン伝導性を有している。アノード30は、電子伝導性セラミックス31を含有している。電子伝導性セラミックス31として、例えば、組成式がABO3で表されるペロブスカイト型酸化物であって、AサイトがCa、Sr、Ba、Laの群から選ばれる少なくとも1種であり、BサイトがTi、Cr、Ni、Mg、Coから選ばれる少なくとも1種であるペロブスカイト型酸化物を用いることができる。AサイトとBサイトのモル比は、B≧Aであってもよい。具体的には、電子伝導性セラミックス31として、LaCrO3系材料、SrTiO3系材料などを用いることができる。
【0026】
また、アノード30の電極骨格は、酸化物イオン伝導性セラミックス32を含有している。酸化物イオン伝導性セラミックス32は、ScYSZなどである。例えば、スカンジア(Sc
2O
3)が5mol%~16mol%で、イットリア(Y
2O
3)が1mol%~3mol%の組成範囲を有するScYSZを用いることが好ましい。スカンジアとイットリアの添加量が合わせて6mol%~15mol%となるScYSZがさらに好ましい。この組成範囲で、酸化物イオン伝導性が最も高くなるからである。なお、酸化物イオン伝導性セラミックス32は、例えば、酸化物イオンの輸率が99%以上の材料である。酸化物イオン伝導性セラミックス32として、GDCなどを用いてもよい。
図2の例では、酸化物イオン伝導性セラミックス32として、電解質層40に含まれる固体酸化物と同じ固体酸化物を用いている。
【0027】
図2で例示するように、アノード30において、例えば、電子伝導性セラミックス31と酸化物イオン伝導性セラミックス32とが電極骨格を形成している。この電極骨格によって、複数の空隙が形成される。空隙部分の電極骨格の表面には、アノード触媒が担持されている。したがって、空間的に連続して形成されている電極骨格において、複数のアノード触媒が空間的に分散して配置されている。アノード触媒として、複合触媒を用いることが好ましい。例えば、複合触媒として、酸化物イオン伝導性セラミックス33と、触媒金属34とが、電極骨格の表面に担持されていることが好ましい。酸化物イオン伝導性セラミックス33として、例えば、YがドープされたBaCe
1-xZr
xO
3(BCZY、x=0~1)、YがドープされたSrCe
1-xZr
xO
3(SCZY、x=0~1)、SrがドープされたLaScO
3(LSS)、GDCなどを用いることができる。触媒金属34として、Niなどを用いることができる。酸化物イオン伝導性セラミックス33は、酸化物イオン伝導性セラミックス32と同じ組成を有していてもよいが、異なる組成を有していてもよい。なお、触媒金属34として機能する金属は、未発電時には化合物の形態をとっていてもよい。例えば、Niは、NiO(酸化ニッケル)の形態をとっていてもよい。これらの化合物は、発電時には、アノード30に供給される還元性の燃料ガスによって還元され、アノード触媒として機能する金属の形態をとるようになる。
【0028】
第1混合層20aおよび第2混合層20bは、金属材料21とセラミックス材料22とを含有する。第1混合層20aおよび第2混合層20bにおいて、金属材料21とセラミックス材料22とがランダムに混合されている。したがって、金属材料21の層とセラミックス材料22の層とが積層されたような構造が形成されているわけではない。第1混合層20aおよび第2混合層20bは、多孔質状であり、複数の空隙が形成されている。金属材料21は、金属であれば特に限定されるものではない。例えば、金属材料21として、第1多孔質金属層10aと同じ金属材料を用いることが好ましい。例えば、金属材料21として、フェライト系ステンレスなどを用いることが好ましい。また、セラミックス材料22として、アノード30に含まれるセラミックス材料と同じセラミックス材料を用いることが好ましい。
【0029】
なお、第1混合層20aおよび第2混合層20bは、金属材料とセラミックス材料とが混合された構成を有していればよく、必ずしも同じ金属材料および同じセラミックス材料を備えていなくてもよい。
【0030】
燃料電池100は、以下の作用によって発電する。カソード60には、空気などの、酸素を含有する酸化剤ガスが供給される。カソード60においては、カソード60の電極活性の効果により、カソード60に到達した酸素と、外部電気回路から供給される電子とが反応して酸化物イオンになる。酸化物イオンは、中間層50および電解質層40を伝導してアノード30側に移動する。一方、第2混合層20bには、水素ガス、改質ガスなどの、水素を含有する燃料ガスが供給される。燃料ガスは、第2混合層20b、第1多孔質金属層10a、および第1混合層20aを介してアノード30に到達する。アノード30に到達した水素は、アノード30の電極活性の効果により、アノード30において電子を放出するとともに、カソード60側から電解質層40を伝導してくる酸化物イオンと反応して水(H2O)になる。放出された電子は、外部電気回路によって外部に取り出される。外部に取り出された電子は、電気的な仕事をした後に、カソード60に供給される。以上の作用によって、発電が行われる。
【0031】
第1混合層20aおよび第2混合層20bは、金属材料21とセラミックス材料22とを含有することから、金属の材料性質とセラミックスの材料性質とを併せ持つ。したがって、第1多孔質金属層10aは、第1混合層20aおよび第2混合層20bとの間に高い密着性を有し、第2混合層20bは、アノード30との間に高い密着性を有する。以上のことから、第2混合層20bからアノード30までの層間剥がれを抑制することができる。
【0032】
燃料電池100は、金属を主成分とする第1多孔質金属層10aを備えることから、熱衝撃、機械的衝撃等に強い構成を有している。したがって、急速昇降温の際の割れを抑制することができる。
【0033】
材料の相違に起因して、電解質層40と第1多孔質金属層10aとの間に熱膨張率差が生じる。しかしながら、金属の材料性質とセラミックスの材料性質とを併せ持つ第1混合層20aおよび第2混合層20bが互いに離間して備わることから、当該熱膨張率差の影響を抑えることができる。それにより、燃料電池100の反りが抑制される。
【0034】
以上のことから、本実施形態に係る燃料電池100は、反り量を小さくし、割れを抑制することができる。
【0035】
なお、第1混合層20aおよび第2混合層20bにおける金属材料21とセラミックス材料22との混合比を制御することで、第1混合層20aおよび第2混合層20bの熱膨張率を制御することができる。第1混合層20aおよび第2混合層20bの熱膨張率を第1多孔質金属層10aに近づける観点から、セラミックス材料22の熱膨張率は、例えば、10.5×10-6/℃以下であることが好ましい。セラミックス材料22として、例えば、ScYSZなどのZrO2系材料、GDC、LaをドープしたSrTiO3系材料、NiをドープしたLaCrO3系材料、ムライト、窒化アルミニウムなどを用いることができる。SrTiO3系材料およびLaCrO3系材料は高い電子伝導性を有するため、第1混合層20aおよび第2混合層20bにおけるオーム抵抗を小さくすることができる。
【0036】
第1混合層20aおよび第2混合層20bにおいてセラミックス材料22の体積割合は、20vol%以上80vol%以下であることが好ましい。当該体積割合が80vol%を超えると、第1混合層20aおよび第2混合層20bと、第1多孔質金属層10aとの密着性が悪くなって層間剥がれが発生するおそれがあり、当該割合が20vol%未満であると熱膨張率の調整が困難となって反りの改善が困難になるおそれがあるからである。
【0037】
第1多孔質金属層10aに十分な耐熱衝撃性、耐機械的衝撃性を持たせるために、第1多孔質金属層10aの厚みに下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、第1多孔質金属層10aの厚みは、50μm以上であることが好ましく、150μm以上であることがより好ましく、200μm以上であることがさらに好ましい。
【0038】
一方で、コストおよびセル軽量化の観点から、第1多孔質金属層10aの厚みに上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、第1多孔質金属層10aの厚みは、2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましく、0.8mm以下であることがさらに好ましい。
【0039】
セル全体の機械特性(柔軟性、曲げ強度など)に影響しない観点から、第1混合層20aおよび第2混合層20bは薄いことが好ましい。そこで、第1混合層20aおよび第2混合層20bのそれぞれの厚みは、第1多孔質金属層10aの厚みよりも小さいことが好ましい。また、第1混合層20aおよび第2混合層20bの合計の厚みは、第1多孔質金属層10aの厚みよりも小さいことが好ましい。
【0040】
また、第1混合層20aおよび第2混合層20bの厚みに上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、第1混合層20aおよび第2混合層20bのそれぞれの厚みは、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましい。
【0041】
一方、密着性を維持し、層間剥離が発生しない観点から、第1混合層20aおよび第2混合層20bの厚みに下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、第1混合層20aおよび第2混合層20bのそれぞれの厚みは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることがさらに好ましい。
【0042】
以下、燃料電池100の製造方法について説明する。
図3は、燃料電池100の製造方法のフローを例示する図である。
【0043】
(多孔質金属層用材料の作製工程)
多孔質金属層用材料として、金属粉末(例えば、粒径が10μm~100μm)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、消失材(有機物)、バインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。多孔質金属層用材料は、第1多孔質金属層10aおよび第2多孔質金属層10bを形成するための材料として用いる。有機成分(消失材、バインダ固形分、可塑剤)と金属粉末との体積比は、例えば1:1~20:1の範囲とし、空隙率に応じて有機成分量を調整する。多孔質金属層用材料の金属粉末には、Niを含ませないことが好ましい。
【0044】
(混合層用材料の作製工程)
混合層用材料として、セラミックス材料22の原料であるセラミックス材料粉末(例えば、粒径が100nm~10μm)、金属材料21の原料である小粒径の金属材料粉末(例えば、粒径が1μm~10μm)、溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、消失材(有機物)、およびバインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。有機成分(消失材、バインダ固形分、可塑剤)と、セラミックス材料粉末および金属材料粉末と、の体積比は、例えば1:1~5:1の範囲とし、空隙率に応じて有機成分量を調整する。また、空隙の孔径は、消失材の粒径を調整することによって制御される。セラミックス材料粉末は、電子伝導性材料粉末と酸化物イオン伝導性材料粉末とを含んでいてもよい。この場合、電子伝導性材料粉末と酸化物イオン伝導性材料粉末との体積比率は、例えば、1:9~9:1の範囲とすることが好ましい。また、電子伝導性材料の代わりに電解質材料ScYSZ、GDCなどを用いても界面のはがれが無く、セルの作製が可能である。ただし、オーム抵抗を小さくする観点から、電子伝導性材料と金属粉末とを混合することが好ましい。
【0045】
(アノード用材料の作製工程)
アノード用材料として、電極骨格を構成するセラミックス材料粉末、溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、消失材(有機物)、およびバインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。電極骨格を構成するセラミックス材料粉末として、電子伝導性セラミックス31の原料である電子伝導性材料粉末(例えば、粒径が100nm~10μm)、酸化物イオン伝導性セラミックス32の原料である酸化物イオン伝導性材料粉末(例えば、粒径が100nm~10μm)などを用いてもよい。有機成分(消失材、バインダ固形分、可塑剤)と電子伝導性材料粉末との体積比は、例えば1:1~5:1の範囲とし、空隙率に応じて有機成分量を調整する。また、空隙の孔径は、消失材の粒径を調整することによって制御される。電子伝導性材料粉末と酸化物イオン伝導性材料粉末との体積比率は、例えば、1:9~9:1の範囲とする。
【0046】
(電解質層用材料の作製工程)
電解質層用材料として、酸化物イオン伝導性材料粉末(例えば、ScYSZ、YSZ、GDCなどであって、粒径がD50%=10nm~1000nm)、溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、およびバインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。有機成分(バインダ固形分、可塑剤)と酸化物イオン伝導性材料粉末との体積比は、例えば6:4~3:4の範囲とする。
【0047】
(焼成工程)
まず、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に、多孔質金属層用材料を塗工することで、多孔質金属グリーンシートを作製する。別のPETフィルム上に、混合層用材料を塗工することで、混合層グリーンシートを作製する。別のPETフィルム上に、アノード用材料を塗工することで、アノードグリーンシートを作製する。別のPETフィルム上に、電解質層用材料を塗工することで、電解質層グリーンシートを作製する。本実施形態においては、混合層グリーンシート、多孔質金属グリーンシート、混合層グリーンシートを順に積層し、その上にアノードグリーンシートを1枚、電解質層グリーンシートを1枚、順に積層し、所定の大きさにカットする。その後、酸素分圧が10-20atm以下の還元雰囲気において1100℃~1300℃程度の温度範囲で焼成する。それにより、第2混合層20b、第1多孔質金属層10a、第1混合層20a、アノード30の電極骨格、および電解質層40を備えるハーフセルを得ることができる。これらの第2混合層20b、第1多孔質金属層10a、第1混合層20a、アノード30の電極骨格、および電解質層40は、焼結体である。炉内に流す還元ガスは、H2(水素)を不燃ガス(Ar(アルゴン)、He(ヘリウム)、N2(窒素)など)で希釈したガスであってもよく、H2が100%のガスであってもよい。安全を考慮して、爆発限界までの上限を設けることが好ましい。例えば、H2とArの混合ガスの場合には、H2の濃度は4体積%以下であることが好ましい。
【0048】
(アノード含浸工程)
次に、酸化物イオン伝導性セラミックス33および触媒金属34の原料を、アノード30の電極骨格内に含浸させる。例えば、還元雰囲気で所定の温度で焼成するとGdドープセリアあるいはSc,YドープジルコニアとNiが生成するように、Zr、Y、Sc、Ce、Gd、Niの各硝酸塩または塩化物を水またはアルコール類(エタノール、2-プロパノール、メタノールなど)に溶かし、ハーフセルを含浸、乾燥させ、熱処理を必要回数繰り返す。
【0049】
(中間層形成工程)
中間層50に含まれる酸化物イオン伝導性セラミックス(GDC、SDCなど)を、例えばPVD(物理気相成長)、PLD(パルスレーザアブレーション成膜)により電解質層40上に成膜することで、中間層50を成膜する。
【0050】
(カソード用材料の作製工程)
カソード用材料として、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC:LaSrCoO3)等の導電性セラミックス粉末を溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、およびバインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。有機成分(バインダ固形分、可塑剤)と、LSC粉末との体積比は、例えば6:4~1:4の範囲とする。
【0051】
(カソードの形成工程)
中間層上に、スクリーン印刷によって、作製したカソード用材料を印刷する。その後、窒素などの中性雰囲気において1000℃で焼成する。以上の工程により、酸化物系燃料電池が完成する。
【0052】
(第2実施形態)
図4は、第2実施形態に係る燃料電池100aの積層構造を例示する模式的断面図である。
図4で例示するように、燃料電池100aが第1実施形態に係る燃料電池100と異なる点は、第2混合層20bの第1多孔質金属層10aとは反対側に、第2多孔質金属層10bが設けられている点である。
【0053】
燃料電池100aは、多孔質金属グリーンシートおよび混合層グリーンシートを積層する際に、多孔質金属グリーンシート、混合層グリーンシート、多孔質金属グリーンシート、混合層グリーンシートを順に積層することによって作製することができる。
【0054】
第2多孔質金属層10bの構成は、金属を主成分とした多孔体であれば特に限定されるものではないが、第1多孔質金属層10aと材料で構成されていることが好ましい。また、第2多孔質金属層10bの厚みは、特に限定されるものではないが、第1多孔質金属層10aと同じ厚みであることが好ましい。
【0055】
本実施形態においては、金属を主成分とする第1多孔質金属層10aおよび第2多孔質金属層10bを備えることから、熱衝撃、機械的衝撃等に強い構成を有している。したがって、燃料電池100aの急速昇降温の際の割れを抑制することができる。また、第1混合層20aおよび第2混合層20bが互いに離間して備わることから、電解質層40と、第1多孔質金属層10aおよび第2多孔質金属層10bとの間の熱膨張率差の影響を抑えることができる。それにより、燃料電池100aの反りが抑制される。
【0056】
(第3実施形態)
図5は、第3実施形態に係る燃料電池100bの積層構造を例示する模式的断面図である。
図5で例示するように、燃料電池100bが第2実施形態に係る燃料電池100aと異なる点は、第3混合層20cがさらに設けられている点である。第3混合層20cは、第2多孔質金属層10bの第2混合層20bとは反対側の面に設けられている。
【0057】
燃料電池100bは、多孔質金属グリーンシートおよび混合層グリーンシートを積層する際に、混合層グリーンシート、多孔質金属グリーンシート、混合層グリーンシート、多孔質金属グリーンシート、混合層グリーンシートを順に積層することによって作製することができる。
【0058】
第3混合層20cの構成は、金属材料およびセラミックス材料が混合された構成されば特に限定されるものではないが、第1混合層20aおよび第2混合層20bの少なくともいずれか一方の材料で構成されていることが好ましい。また、第3混合層20cの厚みは、特に限定されるものではないが、第1混合層20aおよび第2混合層20bの少なくともいずれか一方と同じ厚みであることが好ましい。
【0059】
本実施形態においては、金属を主成分とする第1多孔質金属層10aおよび第2多孔質金属層10bを備えることから、熱衝撃、機械的衝撃等に強い構成を有している。したがって、燃料電池100bの急速昇降温の際の割れを抑制することができる。また、第1混合層20a、第2混合層20b、および第3混合層20cが互いに離間して備わることから、電解質層40と、第1多孔質金属層10aおよび第2多孔質金属層10bとの間の熱膨張率差の影響を抑えることができる。それにより、燃料電池100bの反りが抑制される。
【0060】
(第4実施形態)
図6は、第4実施形態に係る燃料電池100cの積層構造を例示する模式的断面図である。
図6で例示するように、燃料電池100cが第3実施形態に係る燃料電池100と異なる点は、第3多孔質金属層10cがさらに設けられている点である。第3多孔質金属層10cは、第3混合層20cの第2多孔質金属層10bとは反対側の面に設けられている。
【0061】
燃料電池100bは、多孔質金属グリーンシートおよび混合層グリーンシートを積層する際に、多孔質金属グリーンシート、混合層グリーンシート、多孔質金属グリーンシート、混合層グリーンシート、多孔質金属グリーンシート、混合層グリーンシートを順に積層することによって作製することができる。
【0062】
第3多孔質金属層10cの構成は、金属を主成分とした多孔体であれば特に限定されるものではないが、第1多孔質金属層10aおよび第2多孔質金属層10bの少なくともいずれか一方と材料で構成されていることが好ましい。また、第3多孔質金属層10cの厚みは、特に限定されるものではないが、第1多孔質金属層10aおよび第2多孔質金属層10bの少なくともいずれか一方と同じ厚みであることが好ましい。
【0063】
本実施形態においては、金属を主成分とする第1多孔質金属層10a、第2多孔質金属層10b、および第3多孔質金属層10cを備えることから、熱衝撃、機械的衝撃等に強い構成を有している。したがって、燃料電池100cの急速昇降温の際の割れを抑制することができる。また、第1混合層20a、第2混合層20b、および第3混合層20cが互いに離間して備わることから、電解質層40と、第1多孔質金属層10aおよび第2多孔質金属層10bとの間の熱膨張率差の影響を抑えることができる。それにより、燃料電池100cの反りが抑制される。
【実施例0064】
上記実施形態に従って、燃料電池を作製した。
【0065】
(実施例1)
実施例1では、第1実施形態に係る燃料電池を作製した。多孔質金属層用材料として、フェライト系ステンレスの粉末を用いた。電解質層用材料のセラミックス材料として、ScYSZを用いた。アノード用材料の電子伝導性セラミックスにLaドープしたSrTiO3系材料を用いて、酸化物イオン伝導性セラミックスにはScYSZを用いた。中間層用材料のセラミックス材料としてGDCを用いた。カソード用材料のセラミックス材料にはLSCを用いた。混合層用材料のセラミックス材料には、LaドープしたSrTiO3系材料を用いた。混合層用材料の金属材料には、SUSを用いた。混合層グリーンシート上に、多孔質金属層グリーンシート、混合層グリーンシート、アノードグリーンシート、および電解質層グリーンシートを積層し、所定の大きさにカットし、酸素分圧が10-16atm以下の還元雰囲気下で焼成した。GDCおよびNiをアノードの電極骨格に含浸させた後に大気雰囲気下で850℃以下の温度にて焼成した。その後、PVDにより、Ce0.8Gd0.2O2-xの中間層を形成し、中間層上に、スクリーン印刷等により、カソード用材料を塗布し、乾燥させた。その後、1000℃以下の温度で空気雰囲気での熱処理によってカソード用材料を焼結し、カソードを形成した。平面視での形状は、□100mmの正方形であった。
【0066】
(実施例2)
実施例2では、第3実施形態に係る燃料電池を作製した。各グリーンシートを積層する際に、混合層グリーンシート、多孔質金属層グリーンシート、混合層グリーンシート上に、多孔質金属層グリーンシート、混合層グリーンシート、アノードグリーンシート、および電解質層グリーンシートを積層した。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0067】
(実施例3)
実施3では、第4実施形態に係る燃料電池を作製した。各グリーンシートを積層する際に、多孔質金属層グリーンシート、混合層グリーンシート、多孔質金属層グリーンシート、混合層グリーンシート上に、多孔質金属層グリーンシート、混合層グリーンシート、アノードグリーンシート、および電解質層グリーンシートを積層した。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0068】
(実施例4)
実施例4では、第2実施形態に係る燃料電池を作製した。各グリーンシートを積層する際に、多孔質金属層グリーンシート、混合層グリーンシート上に、多孔質金属層グリーンシート、混合層グリーンシート、アノードグリーンシート、および電解質層グリーンシートを積層した。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0069】
(比較例1)
比較例1では、各グリーンシートを積層する際に、多孔質金属層グリーンシート、混合層グリーンシート上に、アノードグリーンシート、および電解質層グリーンシートを積層した。したがって、多孔質金属層および混合層を1層ずつとした。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0070】
(比較例2)
比較例2では、各グリーンシートを積層する際に、混合層グリーンシート上に、アノードグリーンシート、および電解質層グリーンシートを積層した。したがって、多孔質金属層を設けずに、混合層を1層とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0071】
(反り量の評価)
実施例1~4および比較例1,2の各燃料電池について、焼成過程における各層の収縮挙動差に起因する反り量を測定した。
図7で例示するように、燃料電池を平坦の面に置いた際に面と接触した両側の距離を距離Bとする。距離Bは、燃料電池を平面視した場合の矩形状の1辺に相当する。反りの頂点から平坦面までの垂直距離を距離Aとする。燃料電池の厚みをL(mm)とする。この場合において、反り量(mm)=(A-L)と定義する。反り率を=(A-L)/Bと定義する。
【0072】
結果を表1に示す。表1に示すように、実施例1~4では、反り量が10mm未満となり、反り率が1/10未満となり、反りを抑えられた。これは、2層以上の混合層を互いに離間して設けたことで、多孔質金属層と電解質層との熱膨張率差の影響を抑えられたからであると考えられる。初期の発電特性も良好であった。これに対して、比較例1では、反り量が10mmと大きくなった。これは、混合層を1層としたために、多孔質金属層と電解質層との熱膨張率差の影響を抑えられなかったからであると考えられる。
【0073】
(急速昇降温試験)
実施例1~4および比較例1,2の各燃料電池に対して、急速昇降温試験を行なった。急速昇温の際には、室温から750℃まで15分の昇温を行った。したがって、昇温速度を50℃/分とした。急速降温の際には、750℃から室温まで15分の降温を行った。したがって、降温速度を50℃/分とした。割れが発生しなければ「〇」と判定し、割れが発生すれば「×」と判定した。
【0074】
結果を表1に示す。表1に示すように、実施例1~4では、急速昇降温試験を行っても割れが発生しなかった。これは、金属を主成分とする多孔体金属層を設けたことで、熱衝撃に強い構成が得られたからであると考えられる。これに対して、比較例2では、急速昇降温試験を行った際に割れが発生した。これは、多孔体金属層を設けなったことで、熱衝撃に強い構成が得られなかったからであると考えられる。
【表1】
【0075】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。