(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136045
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】座屈拘束ブレース
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
E04B1/58 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046999
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】薮田 智裕
(72)【発明者】
【氏名】吉田 文久
(72)【発明者】
【氏名】中川 学
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA33
2E125AB12
2E125AC14
(57)【要約】
【課題】木造建築物等の架構内に組み込んで使用するのに好適であり、芯材の強軸方向と弱軸方向の双方の剛性を高めることのできる座屈拘束ブレースを提供すること。
【解決手段】座屈拘束ブレース60は、一対の第1プレート11と第2プレート13とを有し、角形鋼管により形成される芯材10と、木製で一対の拘束材41を少なくとも備える木製拘束体40とを有し、一対の第1プレート11の端部の外周面と一対の第2プレート13の端部の外周面にはそれぞれ、一対の第1補強リブ21と一対の第2補強リブ23が取り付けられて、断面形状が略十字状の外側補強リブ20Aが形成され、拘束材41の端部には、第1補強リブ21が隙間G1を有した状態で収容される第1凹部48が設けられ、一対の拘束材41の間の端部には、第2補強リブ23が隙間G2を有した状態で収容される第2凹部49が設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の第1プレートと一対の第2プレートとを有し、角形鋼管により形成される、芯材と、
前記一対の第1プレートに当接するように配設されている、木製で一対の拘束材を少なくとも備える、木製拘束体とを有し、
前記一対の第1プレートの端部の外周面と前記一対の第2プレートの端部の外周面にはそれぞれ、一対の第1補強リブと一対の第2補強リブが取り付けられ、該第1補強リブと該第2補強リブにより、断面形状が略十字状の外側補強リブが形成され、
前記拘束材の端部には、前記第1補強リブが隙間を有した状態で収容される、第1凹部が設けられ、
前記一対の拘束材の間の端部には、前記第2補強リブが隙間を有した状態で収容される、第2凹部が設けられていることを特徴とする、座屈拘束ブレース。
【請求項2】
一対の第1プレートと一対の第2プレートとを有し、角形鋼管により形成される、芯材と、
前記一対の第1プレートに当接するように配設されている、木製で一対の拘束材を少なくとも備える、木製拘束体とを有し、
前記芯材の中空の端部には、前記第1プレートと前記第2プレートにそれぞれ平行な、第3補強リブと第4補強リブにより形成される、断面形状が十字状の内側補強リブが設けられていることを特徴とする、座屈拘束ブレース。
【請求項3】
前記一対の拘束材が、前記一対の第2プレートの外側において、少なくとも該拘束材の長手方向に間隔を置いて配設されている留め具により接合されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項4】
前記一対の拘束材が、前記一対の第2プレートの外側において、一対の木製のスペーサーを介して接合されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項5】
前記一対の拘束材が、双方の該拘束材に跨がる木製の側板を介して相互に接合されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項6】
前記拘束材が、複数の角材の接合体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項7】
前記拘束材の断面形状が、コの字状もしくはL字状を呈し、一対の該拘束材が内部に前記芯材を収容した状態で双方の当接面が当接し、接合されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項8】
建物架構のブラケットに接合されるエンドプレートが、前記芯材の端部に接合され、前記第1補強リブと前記第2補強リブのそれぞれの端部が該エンドプレートに接合されていることを特徴とする、請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項9】
建物架構のブラケットに接合されるエンドプレートが、前記芯材の端部に接合され、前記第3補強リブと前記第4補強リブのそれぞれの端部が該エンドプレートに接合されていることを特徴とする、請求項2に記載の座屈拘束ブレース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座屈拘束ブレースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物の架構(柱・梁架構、屋根架構等)を形成するブレースとして、座屈防止措置が講じられた座屈拘束ブレースが適用されている。座屈拘束ブレースとしては、鋼製の芯材の周囲を鋼板のみで補剛した形態、鋼製の芯材の周囲をRC(Reinforced Concrete:鉄筋コンクリート)で補剛した形態、鋼製の芯材の周囲を鋼材とモルタルで被覆した形態など、多様な補剛形態が存在する。
【0003】
ところで、昨今、木造建築物(木造住宅、木造の倉庫、木造の競技場など)の耐火性能や耐震性能の向上が図られている。木造住宅は本来的に、間取りやデザインの自由度の高さ、自然物の木材による癒し効果、木材の有する調湿効果、住宅などの建物用途によっては鉄骨造やRC造に比べて建設費用が一般に安価であるといった利点を備えているが、上記する耐火性や耐震性の向上が木造住宅をはじめとする木造建築物の注目度を高めている一つの要因である。このような木造住宅の架構内に上記する従来の座屈拘束ブレースを組み込む場合、木製の柱や梁と、金属製もしくはコンクリート製の補剛材を有する座屈拘束ブレースとが混在することになり、不釣合いな外観となることが否めない。
【0004】
そこで、座屈拘束ブレースの全体を木製もしくは紙製のパネル等で覆うことにより、金属製もしくはコンクリート製の補剛材を外部から視認できないようにする方策が考えられるが、この方策には多大な作業手間を要することから建設費の増加が懸念される。また、従来の座屈拘束ブレースは、金属やコンクリート、モルタル等が多用されていることから、重量が重くなる傾向にあり、木造住宅を構成する軽量な木製の梁や柱の中に重量のある座屈拘束ブレースを取り付けることは構造的にも不釣合いである。
【0005】
そこで、木造住宅をはじめとする木造建築物の架構内に組み込んで使用するのに適した座屈拘束ブレースが提案されている。具体的には、プレート状の芯材と、芯材の両面に沿って配置した一対の拘束材とを有する座屈拘束ブレースであり、芯材を鋼材にて形成し、一対の拘束材を木材にて形成し、この拘束材に集成材を適用し、集成材は芯材と平行にラミナが積層されたものとした座屈拘束ブレースである(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載される座屈拘束ブレースによれば、木造建築物の架構内に組み込んで使用するのに好適な座屈拘束ブレースとなる。しかしながら、プレート状の芯材が適用されることから、芯材の特に弱軸方向の剛性が低くなって弱軸方向の曲げや補剛力が大きくなり易いといった課題がある。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、木造建築物等の架構内に組み込んで使用するのに好適であり、芯材の強軸方向と弱軸方向の双方の剛性を高めることのできる座屈拘束ブレースを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による座屈拘束ブレースの一態様は、
一対の第1プレートと一対の第2プレートとを有し、角形鋼管により形成される、芯材と、
前記一対の第1プレートに当接するように配設されている、木製で一対の拘束材を少なくとも備える、木製拘束体とを有し、
前記一対の第1プレートの端部の外周面と前記一対の第2プレートの端部の外周面にはそれぞれ、一対の第1補強リブと一対の第2補強リブが取り付けられ、該第1補強リブと該第2補強リブにより、断面形状が略十字状の外側補強リブが形成され、
前記拘束材の端部には、前記第1補強リブが隙間を有した状態で収容される、第1凹部が設けられ、
前記一対の拘束材の間の端部には、前記第2補強リブが隙間を有した状態で収容される、第2凹部が設けられていることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、角形鋼管により形成される芯材の周囲を、木製で一対の拘束材を少なくとも備える木製拘束体が包囲することにより、芯材が角形鋼管であることから、プレート状の芯材に比べて芯材の強軸方向と弱軸方向の双方の剛性を高めることができ、特に弱軸方向の剛性が高まることで、当該弱軸方向の曲げや補剛力を小さくすることができる。その上で、芯材の周囲に木製拘束体が配設されていることにより、外観意匠性に優れた座屈拘束ブレースとなることから、木造建築物の架構に適用した場合でも、架構構成部材と不釣合いな外観を与える恐れはない。
【0011】
また、角形鋼管の4つの面の端部にそれぞれ、第1補強リブと第2補強リブが取り付けられて断面形状が略十字状の外側補強リブが形成されることにより、芯材の端部における構面内方向及び構面外方向の剛性をともに高めることができる。さらに、拘束材の端部に設けられている、第1凹部と第2凹部にそれぞれ第1補強リブと第2補強リブが隙間を有した状態で収容されることにより、構面の変形に応じて芯材が伸縮や変形した際に、この芯材の伸縮や変形を隙間にて吸収することができ、外側補強リブが木製拘束体の第1凹部や第2凹部の壁面に接触して、木製拘束体が破損に至るといった問題は生じない。
【0012】
例えば大地震時における構面の変形量は設計者の裁量に委ねられ、例えば層間変形角1/100の際の構面の変形量や層間変形角1/75の際の構面の変形量などに基づいて、座屈拘束ブレースの芯材の変形量や伸縮量が算定される。そして、例えばこの算定された変形量や伸縮量よりも大きな隙間が設定されることにより、付加曲げモーメントが第1凹部や第2凹部を介して木製拘束体に作用することを解消できる。ここで、付加曲げモーメント(あるいは、単に、付加曲げ)とは、大地震時に架構が大きく変形した際に、この変形に起因する曲げモーメントのことであり、付加曲げモーメントが木製の拘束材に作用することにより、拘束材が破損に至る可能性が生じ、拘束材が破損することにより、拘束材による芯材の座屈拘束機能が低下して芯材が座屈に至る恐れがある。
【0013】
ここで、「角形鋼管」には、断面形状が正方形の鋼管と長方形の鋼管の双方が含まれる。第一プレートと第二プレートの幅(芯材の長手方向に直交する方向の長さ)が同じ場合は断面正方形となり、第一プレートと第二プレートの幅が異なる場合は断面長方形となる。また、断面矩形の四つの隅角がR加工されている形態も、断面矩形に含まれるものとする。この鋼管には、角形鋼管の他、四面ボックス部材(四枚の平鋼による溶接組立箱形断面部材)、二つの溝形鋼による溶接組立箱形断面部材等が含まれる。芯材が断面矩形の鋼管にて形成されていることにより、芯材の高次座屈モードの波長が長くなり、それに伴って木製拘束体に作用する補剛力を小さくすることができ、このことに起因して木製拘束体の局部破壊を生じ難くすることができる。
【0014】
また、「木製で一対の拘束材を少なくとも備える」とは、木製拘束体が一対の拘束材のみを備える形態の他に、一対の拘束材同士を繋ぐ一対の側板をさらに備える形態、一対の拘束材を包囲する二対の側板をさらに備える形態等を含んでいる。また、一対の拘束材同士は、例えば、留め具や接着剤、留め具と接着剤の双方により接合される。
【0015】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、
一対の第1プレートと一対の第2プレートとを有し、角形鋼管により形成される、芯材と、
前記一対の第1プレートに当接するように配設されている、木製で一対の拘束材を少なくとも備える、木製拘束体とを有し、
前記芯材の中空の端部には、前記第1プレートと前記第2プレートにそれぞれ平行な、第3補強リブと第4補強リブにより形成される、断面形状が十字状の内側補強リブが設けられていることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、角形鋼管により形成される芯材の周囲を、木製で一対の拘束材を少なくとも備える木製拘束体が包囲することにより、作用し得る付加曲げモーメントに対して破損の生じ難い、高剛性の木製拘束体を有する座屈拘束ブレースを形成することができる。また、角形鋼管の中空の端部に、第3補強リブと第4補強リブにより形成される断面形状が十字状の内側補強リブが取り付けられていることにより、芯材の端部において補強リブが外側に張り出すことなく、当該芯材の端部における構面内方向及び構面外方向の剛性をともに高めることができる。このことにより、一対の拘束材における、補強リブとの干渉を防止するための凹部の加工を不要にできる。
【0017】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、
前記一対の拘束材が、前記一対の第2プレートの外側において、少なくとも該拘束材の長手方向に間隔を置いて配設されている留め具により接合されていることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、一対の拘束材が少なくとも複数の留め具により接合されていることによって、拘束材同士が簡易かつ強固に接合されている木製拘束体を形成することができる。ここで、留め具には、ビスや釘、ボルト等が含まれる。また、「少なくとも留め具により接合されている」とは、留め具のみにより接合される形態の他に、留め具と接着剤の双方により接合される形態が含まれる。
【0019】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、
前記一対の拘束材が、前記一対の第2プレートの外側において、一対の木製のスペーサーを介して接合されていることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、芯材の一対の第1プレートの外側に断面形状が矩形(例えば長方形)の一対の拘束材を配設した際に、芯材の一対の第2プレートの外側に形成される隙間(凹部)に対して一対のスペーサーを介在させ、スペーサーを介して一対の拘束材を接合することにより、特別な加工を要しない一般的な断面形状(断面矩形)の拘束材を適用しながら、一対の拘束材と一対のスペーサーにて芯材の周囲が完全に包囲され、剛性の高い閉合構造の木製拘束体を形成することができる。
【0021】
ここで、スペーサーと拘束材の接合形態は、一対の拘束材のそれぞれとスペーサーが接着剤や留め具にて接合される形態や、スペーサーを貫通するボルト等の留め具が一対の拘束材同士を直接接合する形態等がある。
【0022】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、
前記一対の拘束材が、双方の該拘束材に跨がる木製の側板を介して相互に接合されていることを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、一対の拘束材が双方に跨がる木製の側板を介して相互に接合されていることにより、より一層断面剛性の高い木製拘束体を形成することができる。ここで、拘束材と側板は、留め具や接着剤、留め具と接着剤の双方により接合される。尚、一対の拘束材の外側において、別途の一対の側板がさらに設けられてもよい。
【0024】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、
前記拘束材が、複数の角材の接合体であることを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、拘束材が複数(2つ、もしくは3つ以上)の角材の接合体であることにより、一般に流通されている角材が適用されることで座屈拘束ブレースの製作コストの抑制を図ることができる。
【0026】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、
前記拘束材の断面形状が、コの字状もしくはL字状を呈し、一対の該拘束材が内部に前記芯材を収容した状態で双方の当接面が当接し、接合されていることを特徴とする。
【0027】
本態様によれば、断面形状がコの字状もしくはL字状の一対の拘束材が、双方の当接面同士を当接させて接合されることにより、側板を適用することなく、一対の拘束材のみで芯材の周囲を完全に包囲することができる。
【0028】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、
建物架構のブラケットに接合されるエンドプレートが、前記芯材の端部に接合され、前記第1補強リブと前記第2補強リブのそれぞれの端部が該エンドプレートに接合されていることを特徴とする。
【0029】
本態様によれば、芯材の端部に外側補強リブを備えた座屈拘束ブレースに関し、建物架構のブラケットに接合されるエンドプレートに対して、芯材と第1補強リブと第2補強リブのそれぞれの端部が接合されることにより、建物架構との間の高強度な接合構造を形成できる。
【0030】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、
建物架構のブラケットに接合されるエンドプレートが、前記芯材の端部に接合され、前記第3補強リブと前記第4補強リブのそれぞれの端部が該エンドプレートに接合されていることを特徴とする。
【0031】
本態様によれば、芯材の端部に内側補強リブを備えた座屈拘束ブレースに関し、建物架構のブラケットに接合されるエンドプレートに対して、芯材と第3補強リブと第4補強リブのそれぞれの端部が接合されることにより、建物架構との間の高強度な接合構造を形成できる。
【発明の効果】
【0032】
以上の説明から理解できるように、本発明の座屈拘束ブレースによれば、木造建築物等の架構内に組み込んで使用するのに好適であり、芯材の強軸方向と弱軸方向の双方の剛性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】第1実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の斜視図である。
【
図5A】
図2に対応する図であって、第2実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例を、芯材の一般部で切断した縦断面図である。
【
図5B】
図3に対応する図であって、第2実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例を、芯材の端部で切断した縦断面図である。
【
図6A】
図2に対応する図であって、第3実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例を、芯材の一般部で切断した縦断面図である。
【
図6B】
図3に対応する図であって、第3実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例を、芯材の端部で切断した縦断面図である。
【
図7】第4実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の斜視図である。
【
図10】第1実施形態に係る座屈拘束ブレースが木造建物等の架構に組み込まれた状態を示す図である。
【
図11】大地震時における架構の変形態様と、架構の変形に起因する座屈拘束ブレースの接合部における付加曲げモーメントを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、各実施形態に係る座屈拘束ブレースについて、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0035】
[第1実施形態に係る座屈拘束ブレース]
はじめに、
図1乃至
図4を参照して、第1実施形態に係る座屈拘束ブレースについて説明する。ここで、
図1は、第1実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の斜視図であり、
図2,
図3、及び
図4はそれぞれ、
図1のII-II矢視図、
図1のIII-III矢視図、及び
図1のIV方向矢視図である。
【0036】
座屈拘束ブレース60は、角形鋼管により形成される芯材10と、芯材10を包囲する木製拘束体40とを有する。
【0037】
芯材10は、一対の対向する第1プレート11と、一対の対向する第2プレート13とを有する、断面矩形(図示例は断面正方形)の鋼管により形成される。ここで、図示例の芯材10は断面長方形の角形鋼管により形成されているが、芯材はその他、断面正方形であってもよいし、四枚の平鋼による溶接組立箱形断面部材(四面ボックス部材)や、二つの溝形鋼による溶接組立箱形断面部材等であってもよい。
【0038】
一対の第1プレート11の両端部と一対の第2プレート13の両端部にはそれぞれ、芯材10の長手方向に直交して、建物架構SのブラケットBR(
図10参照)に接合されるエンドプレート30が取り付けられている。図示例のエンドプレート30は、正面視矩形を呈し、各隅角部の近傍には、ブラケットBRに取り付けられているエンドプレートEP(
図10参照)のボルト孔と連通してボルトが挿通される、ボルト孔35が開設されている。
【0039】
一対の第1プレート11の端部の外周面と、一対の第2プレート13の端部の外周面にはそれぞれ、一対の第1補強リブ21と一対の第2補強リブ23が取り付けられており、一対の第1補強リブ21と一対の第2補強リブ23とにより、断面形状が略十字状(中央に芯材10があるため、それぞれの補強リブが離れている形状)の外側補強リブ20Aが形成されている。そして、第1補強リブ21と第2補強リブ23のそれぞれの端部も、芯材10と同様にエンドプレート30に接合されている。
【0040】
ここで、芯材10に対する第1補強リブ21と第2補強リブ23の接合や、エンドプレート30に対する芯材10と第1補強リブ21と第2補強リブ23の接合はいずれも溶接により接合されているが、必要に応じてボルト接合等が適用されてもよい。
【0041】
芯材10や外側補強リブ20Aは、SN材(建築構造用圧延鋼材)や、LYP材(極低降伏点鋼材)等の降伏点の低い鋼材にて形成されているのが好ましく、芯材10の降伏による地震エネルギー吸収性が良好になる。
【0042】
座屈拘束ブレース60が角形鋼管により形成される芯材10を有することにより、プレート状の芯材を適用する場合と比べて、芯材10の強軸方向と弱軸方向の双方の剛性を高めることができ、特に弱軸方向の剛性が高まることで、当該弱軸方向の曲げや補剛力を小さくすることができる。さらに、市販の角形鋼管を適用することで、座屈拘束ブレース60の製作コストを抑制できる。
【0043】
木製拘束体40を形成する木製の拘束材41と側板45はいずれも、ラミナが積層された集成材や構造用合板、無垢材等により形成され、座屈拘束ブレース60の全体座屈を防止できるように、木製拘束体40の断面積や断面剛性、ヤング率等が設定される。そして、このヤング率は木材の材質により決定される。木材の材質としては、ヒノキやアカマツ、カラマツ、モミ、エゾマツ等が挙げられる。
【0044】
また、一対の拘束材41の間で、かつ芯材10の一対の第2プレート13の側方には、一対の木製のスペーサー50が配設されている。そして、一対の拘束材41とスペーサー50や、一対の拘束材41と側板45はそれぞれ、座屈拘束ブレース60の長手方向に間隔を置いて打ち込まれる不図示の複数の留め具により相互に接合されている。ここで、留め具には、ビスや釘、ボルト等が含まれる。また、留め具に代わり、接着剤が適用されてもよいし、留め具と接着剤の双方が適用されてもよい。
【0045】
図2に示すように、一対の拘束材41の双方の広幅面が芯材10の一対の第1プレート11と当接し、一対の第2プレート13が一対のスペーサー50と当接し、一対のスペーサー50が一対の側板45と当接することにより、芯材10の全周が木製拘束体40に包囲される。
【0046】
また、図示を省略するが、芯材10の一対の第1プレート11の広幅面の例えば長手方向の中央位置に、木製拘束体40側へ張り出す突起が取り付けられ、一対の拘束材41における広幅面の突起に対応する位置に溝があり、溝に突起が嵌まり込むことで、木製拘束体40と芯材10の長手方向への相対的なずれが防止されるように構成されてもよい。
【0047】
木製拘束体40の端部には、第1補強リブ21が隙間G1を有した状態で収容される第1凹部48と、第2補強リブ23が隙間G2を有した状態で収容される第2凹部49が設けられている。より詳細には、
図4に示すように、第1凹部48の内壁面48aは、第1補強リブ21の先端との間に長手方向の幅tを備えた位置にあり、この位置まで第1凹部48が設けられている。
【0048】
ここで、隙間G3の幅tは、座屈拘束ブレース60が組み込まれている構面の地震時の変形の際に芯材10の伸縮量以上の長さに設定されており、この隙間G3によって、第1凹部48の内壁面48aと第1補強リブ21が当接し、さらに第1補強リブ21から押圧されることに起因する木製拘束体40の破損が防止されている。
【0049】
一方、第2凹部49は、木製拘束体40の長手方向の全域に亘って設けられているが、第2補強リブ23が収容される範囲と、さらに上記する幅tの範囲に亘って隙間G2が形成され、それよりも内側にはスペーサー50が収容されている。
【0050】
木製拘束体40が、一対の拘束材41に跨がる一対の側板45を有することにより、木製拘束体40の断面剛性を高めることができる。ここで、図示を省略するが、一対の拘束材41の外周面にも別途の一対の側板が配設されることにより、木製拘束体の断面剛性をより一層高めることができる。さらに、図示を省略するが、木製拘束体が一対の拘束材41のみにより形成され、一対の側板の無い構成であってもよい。この形態では、図示例の木製拘束体40に比べて断面剛性は低下するものの、部材点数を低減して製作コストの削減を図ることができる。
【0051】
座屈拘束ブレース60によれば、芯材10の周囲に木製拘束体40が設けられていることにより、木造建築物等の架構内に組み込んで使用するのに好適な座屈拘束ブレースとなる。さらに、木製拘束体40にて芯材10が補剛されることから、芯材がコンクリート等で補剛される場合と比べて、全体の重量を可及的に軽量にでき、搬送性とハンドリング性が良好になる。
【0052】
[第2乃至第4実施形態に係る座屈拘束ブレース]
次に、
図5乃至
図9を参照して、第2乃至第4実施形態に係る座屈拘束ブレースについて説明する。
【0053】
まず、
図5を参照して、第2実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例について説明する。ここで、
図5Aは、
図2に対応する図であって、第2実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例を、芯材の一般部で切断した縦断面図であり、
図5Bは、
図3に対応する図であって、第2実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例を、芯材の端部で切断した縦断面図である。
【0054】
座屈拘束ブレース60Aは、木製拘束体40Aを形成する一対の拘束材41Aが、複数(図示例は2つ)の角材42により構成される点において、座屈拘束ブレース60と相違する。
【0055】
拘束材41Aが一般に流通されている角材42により形成されることで、木製拘束体40Aの製作コストを抑制でき、座屈拘束ブレース60Aの製作コストを抑制できる。
【0056】
ここで、角材42同士は、留め具や接着剤等により接合されることにより、拘束材41Aが形成される。尚、図示を省略するが、拘束材が例えば3以上の角材により形成されてもよい。
【0057】
次に、
図6を参照して、第3実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例について説明する。ここで、
図6Aは、
図2に対応する図であって、第3実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例を、芯材の一般部で切断した縦断面図であり、
図6Bは、
図3に対応する図であって、第3実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例を、芯材の端部で切断した縦断面図である。
【0058】
座屈拘束ブレース60Bは、断面形状がコの字状の一対の拘束材43により形成される木製拘束体40Bを有する点において、座屈拘束ブレース60,60Aと相違する。双方の拘束材43の当接面43a同士が当接し、留め具や接着剤により接合される。
【0059】
一対の拘束材43が接合されることにより、内部にある一対のスペーサー50を介して芯材10の一対の第2プレート13が包囲される。すなわち、側板を不要にしながら、一対の拘束材43によって芯材10を完全に包囲することができる。
【0060】
ここで、断面形状がコの字状に代わり、L字状の拘束材を適用して木製拘束体が形成されてもよい。
【0061】
次に、
図7乃至
図9を参照して、第4実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例について説明する。ここで、
図7は、第4実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の斜視図であり、
図8と
図9はそれぞれ、
図7のVIII-VIII矢視図とIX-IX矢視図である。
【0062】
座屈拘束ブレース60Cは、芯材10の端部の外周面に補強リブを備えることに代わり、芯材10の中空の端部において、第1プレート11と第2プレート13にそれぞれ平行な、第3補強リブ25と第4補強リブ27により形成される、断面形状が十字状の内側補強リブ20Bが設けられている点において、座屈拘束ブレース60,60A,60Bと相違する。
【0063】
また、補強リブが芯材10の外周面に張り出さない構成であることから、木製拘束体40Cを構成する一対の拘束材44において、補強リブとの干渉を防止するための凹部をそれらの端部に設ける必要がない。
【0064】
以上のことから、木製拘束体40Cの端部の構成がシンプルになり、芯材10の端部において外側へ張り出す補強リブが存在しないことから、座屈拘束ブレース60Cの端部の全体構成がシンプルになる。また、芯材10の端部において外側に張り出す補強リブが存在しないことから、芯材10のハンドリング性が良好になるとともに、木製拘束体40Cではその端部において凹部を開設する加工を不要にできる。
【0065】
[架構への座屈拘束ブレースの適用例]
次に、
図10及び
図11を参照して、架構への座屈拘束ブレースの適用例について説明する。ここで、
図10は、実施形態に係る座屈拘束ブレースが木造建物等の架構に組み込まれた状態を示す図である。また、
図11は、大地震時における架構の変形態様と、架構の変形に起因する座屈拘束ブレース接合部における付加曲げモーメントを説明する図である。尚、図示例の座屈拘束ブレースは、木造建物の架構以外にも、S造(S:Steel)建物の架構、RC造建物の架構、SRC造(SRC:Steel Reinforced Concrete)建物の架構に組み込まれてもよい。また、
図10では、第1実施形態に係る座屈拘束ブレース60が適用されている例を示しているが、他の座屈拘束ブレース60A乃至60Cが適用されてもよい。
【0066】
図10に示す架構Sは、木造建築物等を構成する木製の柱Cと梁Bにより形成されている。対角線位置にある二つの隅角部には、形鋼材や平鋼等により形成されるブラケットBRが取付けられている。ブラケットBRの内側には、エンドプレートEPが取り付けられている。
【0067】
対角位置にある一対のブラケットBRに取り付けられている一対のエンドプレートEPに対して、座屈拘束ブレース60の両端にある一対のエンドプレート30が位置合わせされ、双方の対応するボルト孔に対してボルトBOが挿通されてエンドプレート30,EPがボルト接合されることにより、架構Sに対して座屈拘束ブレース60が組み込まれる。
【0068】
図11に示すように、大地震時において構面が変形することにより、ブラケットBRと座屈拘束ブレース60との接合部においては、接合部を剛と見なした場合に、以下の式(1)に示す付加曲げモーメントが作用し得る。
【0069】
【0070】
座屈拘束ブレース60によれば、芯材10に取り付けられている外側補強リブ20Aと木製拘束体40の間に、幅tの隙間G3や隙間G1,G2が設けられていることにより、座屈拘束ブレース60が取り付けられている構面が大きく変形した場合に、これらの隙間G1乃至G3にて芯材10の伸縮や変形を吸収することができる。そのため、付加曲げモーメントが外側補強リブ20Aを介して木製拘束体40に作用して木製拘束体40が破損するといった問題は生じない。
【0071】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0072】
10:芯材
11:第1プレート
13:第2プレート
20A:外側補強リブ
20B:内側補強リブ
21:第1補強リブ
23:第2補強リブ
25:第3補強リブ
27:第4補強リブ
30:エンドプレート
35:ボルト孔
40,40A,40B,40C:木製拘束体
41,41A:拘束材
42:角材
43:拘束材
44:拘束材
43a:当接面
45:側板
48:第1凹部
49:第2凹部
50:スペーサー
60,60A,60B,60C:座屈拘束ブレース
G1、G2,G3:隙間
S:架構(構面)
C:柱
B:梁
BR:ブラケット
EP:エンドプレート
BO:ボルト