(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136046
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】アルミニウム-セラミックス接合基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 19/00 20060101AFI20240927BHJP
B22D 21/04 20060101ALI20240927BHJP
B22D 27/20 20060101ALI20240927BHJP
C22C 21/12 20060101ALI20240927BHJP
C22C 21/06 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B22D19/00 E
B22D21/04 A
B22D27/20 B
B22D19/00 W
C22C21/12
C22C21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047000
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】コマロフ セルゲイ
(72)【発明者】
【氏名】山本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】小林 幸司
(72)【発明者】
【氏名】小山内 英世
(57)【要約】
【課題】強化に寄与する合金元素が添加されたアルミニウム合金を用いたアルミニウム-セラミックス接合基板の耐ヒートサイクル性を改善する。
【解決手段】下記(A)に規定される凝固物からなるアルミニウム合金固体材料を溶融させてアルミニウム合金溶湯を作り、その溶湯を鋳型中に配置されるセラミックス板の表面に接触させた状態で凝固させる。
(A)質量%で、Cu:0.10~1.20%、Mg:0~0.40%、Ti:0.01~0.20%、B:0.001~0.10%、Cu、Mg、Ti、B、Al以外の元素の合計:0~0.50%、残部がAlからなる組成を有する金属溶湯を形成させ、その金属溶湯の温度が680~720℃の範囲にあるときに超音波振動を当該金属溶湯に付与する処理を施し、その後、前記処理が施された金属溶湯を凝固させて得られた凝固物。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)に規定される凝固物からなるアルミニウム合金固体材料を溶融させてアルミニウム合金溶湯を作り、その溶湯を鋳型中に配置されているセラミックス板の表面に接触させた状態で凝固させることにより、前記セラミックス板の片面または両面にアルミニウム合金部材を接合させる、アルミニウム-セラミックス接合基板の製造方法。
(A)質量%で、Cu:0.10~1.20%、Mg:0~0.40%、Ti:0.01~0.20%、B:0.001~0.10%、Cu、Mg、Ti、B、Al以外の元素の合計:0~0.50%、残部がAlからなる組成を有する金属溶湯を形成させ、その金属溶湯の温度が680~720℃の範囲にあるときに超音波振動を当該金属溶湯に付与する処理を施し、その後、前記処理が施された金属溶湯を凝固させて得られた凝固物。
【請求項2】
前記の超音波振動を付与する処理は、振動振幅10~80μm(p-p)の超音波振動を付与する処理である、請求項1に記載のアルミニウム-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項3】
アルミニウム-セラミックス接合基板は、セラミックス板の両面にアルミニウム合金部材が接合された構造を有し、それら両方のアルミニウム合金部材のうち、一方が半導体素子を搭載するための回路用部材であり、他方が前記セラミックス板より大きい体積を有するベース部材である、請求項1または2に記載のアルミニウム-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項4】
前記ベース部材は、前記セラミックス板との接合面以外の部分に補強部材を備えるものである、請求項3に記載のアルミニウム-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項5】
前記補強部材は、セラミックス板からなるものである、請求項4に記載のアルミニウム-セラミックス接合基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子を搭載するための絶縁回路基板として有用な、セラミックス板とアルミニウム系材料からなる板状部材とが接合した「アルミニウム-セラミックス接合基板」の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュールなどの発熱量の多い半導体装置では、一般にセラミックス板の表面に板状金属からなる「回路用部材」が接合された絶縁回路基板が使用され、半導体素子は前記の回路用部材の上にはんだ付けなどの方法で搭載される。回路用部材としては、導電性の良好な銅系あるいはアルミニウム系の金属材料が適用される。これらのうちアルミニウム系の回路用部材を適用した絶縁回路基板(アルミニウム-セラミックス接合基板)は、昇温、降温を繰り返すヒートサイクルに対し、セラミックス板の耐破損性の点で有利であることなどから、自動車用途などにおいて需要増が期待されている。
【0003】
アルミニウム-セラミックス接合基板の製造方法として、セラミックス板の表面でアルミニウム合金の溶湯を凝固させることによってセラミックス板とアルミニウム合金からなる回路用部材とを直接接合する「溶湯接合法」の技術が知られている。溶湯接合法によると、セラミックス板の裏面(回路用部材の形成面に対して反対側の面)に、絶縁回路基板としての強度向上や放熱のための熱伝導を担う「ベース部材」を、回路用部材と同時に形成することができる。本明細書では、セラミックス板の一方の面に回路用部材が接合され、他方の面にベース部材が接合されて、回路用部材、セラミックス板、ベース部材が一体化した構造のアルミニウム-セラミックス接合基板を「ベース一体型アルミニウム-セラミックス接合基板」と呼ぶ。
【0004】
溶湯接合法では、アルミニウム合金からなる回路用部材は凝固組織となることから、圧延材などの加工品とは異なり、結晶粒が粗大化しやすい。回路用部材の結晶粒径が大きいと、回路用部材がセラミックス板に拘束されながら昇温・降温に伴う変形を繰り返すことによって、回路用部材の表面に露出している結晶粒界の部分に段差が生じて半導体素子搭載面に凹凸が形成されることがある。表面の段差が大きい場合には、その面に搭載された半導体素子に損傷を与える恐れがある。
【0005】
特許文献1には、溶湯接合法におけるアルミニウム系部材の結晶粒微細化技術として、Ti、Bを添加したアルミニウム合金を適用する手法が開示されている。この技術では、比較的低温でアルミニウム合金溶湯を生成させることにより溶湯中に含まれているTiAl3、AlB2、TiB2などの凝固核成分が溶解することを防ぎ、かつ速やかに鋳型内に注湯することによってTiやBがAl中に固溶するのを抑制することが好ましいとされる(特許文献1の段落0020参照)。この技術を利用することにより、半導体素子の損傷に関する上記の問題点を大幅に軽減することができる。
【0006】
一方、特許文献2には、アルミニウムを鋳造する際、溶湯へ超音波を照射することにより凝固組織制御等の効果が得られることが記載されている。溶湯への超音波照射は、移動樋を流れる溶湯中、あるいは鋳型内の溶湯中に超音波ホーンを挿入して行うことができるという(段落0002)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-141879号公報
【特許文献2】特開2011-177787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
昨今、アルミニウム-セラミックス接合基板には小型化の要求が高まっており、それに伴い高強度化も重要となっている。アルミニウム-セラミックス接合基板の小型高強度化には、例えばベース一体型アルミニウム-セラミックス接合基板の適用、およびそれを構成するアルミニウム系部材の高強度化が有利となる。溶湯接合法で製造される鋳造製品においてアルミニウム系部材の高強度化を図る手法としては、Ti、B添加による結晶粒微細化に伴う強度向上作用を利用することの他、析出強化元素の添加も有効であると考えられる。しかし、アルミニウム系部材の高強度化に伴い、アルミニウム系部材との接合面で拘束されているセラミックス板(回路用部材とベース部材の間にある絶縁用のセラミックス板、および補強部材として使用されることがあるセラミックス板)は、ヒートサイクルが付与されたときに、アルミニウム系部材から厳しい拘束応力を繰り返し受けることになり、クラックが発生しやすくなる。
【0009】
本発明は、強化に寄与する合金元素が添加されたアルミニウム合金を用いたアルミニウム-セラミックス接合基板において、その基板の構成部材であるセラミックス板のヒートサイクルに対する耐クラック発生性を顕著に高める技術を提供すること、およびその技術によって得られるベース一体型アルミニウム-セラミックス接合基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは研究の結果、所定量のCu、Ti、Bを含むアルミニウム合金溶湯に超音波振動を付与したのち凝固させた凝固物を再溶融させて、溶湯接合法によりアルミニウム-セラミックス接合基板を製造することにより、セラミックス板のヒートサイクルに対する耐クラック発生性を顕著に改善できることを見いだした。また、CuとともにMgを添加することも有効であることが確認された。本発明はこれらの知見に基づいて成されたものである。すなわち、本発明では上記目的を達成するために、Cu、Ti、B、必要に応じてさらにMgを含むアルミニウム合金溶湯に超音波振動を付与する処理を施したのち、その溶湯を凝固させる手法により、予めアルミニウム合金固体材料を作製しておき、そのアルミニウム合金固体材料を溶湯接合法での溶湯形成用原料として使用する。具体的には、本明細書では以下の発明を開示する。
【0011】
[1]下記(A)に規定される凝固物からなるアルミニウム合金固体材料を溶融させてアルミニウム合金溶湯を作り、その溶湯を鋳型中に配置されているセラミックス板の表面に接触させた状態で凝固させることにより、前記セラミックス板の片面または両面にアルミニウム合金部材を接合させる、アルミニウム-セラミックス接合基板の製造方法。
(A)質量%で、Cu:0.10~1.20%、Mg:0~0.40%、Ti:0.01~0.20%、B:0.001~0.10%、Cu、Mg、Ti、B、Al以外の元素の合計:0~0.50%、残部がAlからなる組成を有する金属溶湯を形成させ、その金属溶湯の温度が680~720℃の範囲にあるときに超音波振動を当該金属溶湯に付与する処理を施し、その後、前記処理が施された金属溶湯を凝固させて得られた凝固物。
[2]前記の超音波振動を付与する処理は、振動振幅10~80μm(p-p)の超音波振動を付与する処理である、上記[1]に記載のアルミニウム-セラミックス接合基板の製造方法。
[3]アルミニウム-セラミックス接合基板は、セラミックス板の両面にアルミニウム合金部材が接合された構造を有し、それら両方のアルミニウム合金部材のうち、一方が半導体素子を搭載するための回路用部材であり、他方が前記セラミックス板より大きい体積を有するベース部材である、上記[1]または[2]に記載のアルミニウム-セラミックス接合基板の製造方法。
[4]前記ベース部材は、前記セラミックス板との接合面以外の部分に補強部材を備えるものである、上記[3]に記載のアルミニウム-セラミックス接合基板の製造方法。
[5]前記補強部材は、セラミックス板からなるものである、上記[4]に記載のアルミニウム-セラミックス接合基板の製造方法。
【0012】
ここで、振動振幅についての「(p-p)」は、peak-to-peakのモードで測定される振幅であることを意味する。セラミックス板のクラック有無は超音波探傷検査によって調べることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、強化元素を添加したアルミニウム合金を回路用部材やベース部材に用いたアルミニウム-セラミックス接合基板において、ヒートサイクルに対するセラミックス板の耐クラック発生性が顕著に改善されたものを、溶湯接合法により得ることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明で対象とするアルミニウム-セラミックス接合基板の断面構造の一態様を模式的に例示した断面図。
【
図2】本発明で対象とするアルミニウム-セラミックス接合基板の断面構造の一態様を模式的に例示した断面図。
【
図3】
図1に示した断面構造を有するアルミニウム-セラミックス接合基板を作製するための鋳型内の配置を模式的に例示した断面図。
【
図4】
図2に示した断面構造を有するアルミニウム-セラミックス接合基板を作製するための鋳型内の配置を模式的に例示した断面図。
【
図5】
図3に示した鋳型の内部に溶湯を導入した状態を表す断面図。
【
図6】
図4に示した鋳型の内部に溶湯を導入した状態を表す断面図。
【
図7】溶湯接合法に用いるアルミニウム合金固体材料を作製するための溶解装置の構成の一例を模式的に例示した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[アルミニウム-セラミックス接合基板]
アルミニウム-セラミックス接合基板は、半導体素子を搭載するための絶縁基板であり、セラミックス板の一方の面に回路用部材である板状のアルミニウム合金部材が接合された積層構造を有する。前記セラミックス板の回路用部材と反対側の面には、放熱のための伝熱を担うアルミニウム合金部材が接合されていてもよい。セラミックス板の回路用部材と反対側の面に接合されているアルミニウム合金部材を、本明細書では「背面部材」と呼ぶことがある。
【0016】
図1に、本発明で対象とするアルミニウム-セラミックス接合基板の断面構造の一態様を模式的に例示する。セラミックス板10の片側の面に、板状のアルミニウム合金部材からなる回路用部材20が接合されている。回路用部材20は、後述の溶湯接合法により、アルミニウム合金溶湯がセラミックス板10の表面上で凝固することによって形成されたものである。半導体素子は回路用部材20の面上に搭載される。回路用部材20はアルミニウム合金であるため、通常、回路用部材20の上面(半導体素子搭載面22)にNiめっきなどを施して、はんだ濡れ性を改善したのちに、半導体素子がめっき層の上にはんだ層を介して接合される。セラミックス板10の厚さは、半導体装置の仕様に応じて様々であるが、例えば0.3~1.5mmの範囲で設定することができる。回路用部材20の厚さは、例えば0.3~1.5mmの範囲で設定することができる。なお、
図1において、各部材の厚さは誇張して描いてある。
【0017】
セラミックス板10の材料としては、半導体搭載用の絶縁基板に従来から用いられているものや、今後開発されうる強度・熱伝導性に優れる新たなセラミックスが適用できる。公知のセラミックスとしては、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化ケイ素(Si3N4)、炭化ケイ素(SiC)の1種以上を主成分(50質量%以上含有)とするものが挙げられる。
【0018】
図1の例では、セラミックス板10の回路用部材20と反対側の面に、背面部材としてアルミニウム合金を用いたベース部材50が接合されて、ベース一体型アルミニウム-セラミックス接合基板が構築されている。ベース部材50は、放熱部材であるとともに、回路用部材と接合されたセラミックス板を半導体装置の内部や筐体に取り付けることができる強度を担う部材であり、セラミックス板10より大きい体積を有することが好ましい。このベース部材50には、セラミックス板10との接合面以外の部分に補強部材110を必要に応じて備えることができる。図示の態様では、ベース部材50を構成するアルミニウム合金の中に、補強部材110が埋め込まれた形態を有している。補強部材110としては、上述のセラミックス材料、アルミニウム合金よりも融点の高い金属材料、セラミックスや金属以外の耐火材料(例えば炭素材料)などからなる1種以上のものが適用できる。補強部材110の形状は、板状やシート状であることが好適である。補強部材110を用いたベース部材50であっても、セラミックス板10との接合面はアルミニウム合金であるので、この種のベース部材50も本明細書でいうアルミニウム合金部材に該当する。
【0019】
回路用部材およびベース部材の構成材料であるアルミニウム合金としては、後述の化学組成を有するものが適用される。
【0020】
図2に、背面部材としてピン状突起が一体化された構造を有するベース部材を持つ態様の、本発明で対象とするアルミニウム-セラミックス接合基板の断面構造の一態様を模式的に例示する。ここでは、2つの回路用部材20が併置されている部分の断面を例示してある。2つの回路用部材20は、セラミックス板10上に形成されている溝部21によって互いに電気的に絶縁されている。また、ベース部材50には、複数のピン状突起53が形成されている。ピン状突起53の配置によっては、
図2に図示したピン状突起53の間から背後のピン状突起の一部が見える場合があるが、ここでは背後のピン状突起の図示を省略してある。ピン状突起53は放熱性を高めるためのヒートシンク機能を有する。この例では、ベース部材50の厚さ方向に直角方向の端部は、セラミックス板10の端面を囲む構造の周壁部51と一体化している。すなわち、
図2のベース部材50は、セラミックス板10の回路用部材20が形成されている面と反対側のほぼ全面と、セラミックス板10の端面(側面)と、セラミックス板10の回路用部材20が形成されている面の周囲において、セラミックス板10に接合されている。周壁部51と回路用部材20とは、セラミックス板10上に形成されている溝部52によって互いに電気的に絶縁されている。ピン状突起53および周壁部51を有するベース部材50も、回路用部材20を形成する溶湯接合の過程を利用して、アルミニウム合金溶湯の鋳造により形成させることができる。放熱性を高めるための部材として、ピン状突起53に代えて例えば板状部材からなる放熱フィンを、溶湯接合の過程を利用して鋳造により形成させることもできる。
【0021】
[アルミニウム合金]
本発明では、回路用部材20の構成材料であるアルミニウム合金として、また、ベース部材50を有する場合にはベース部材50の構成材料であるアルミニウム合金として、下記の化学組成を有するものを適用する。
質量%で、質量%で、Cu:0.10~1.20%、Mg:0~0.40%、Ti:0.01~0.20%、B:0.001~0.10%、Cu、Mg、Ti、B、Al以外の元素の合計:0~0.50%、残部がAlからなる組成を有するアルミニウム合金。
【0022】
本明細書において、合金の化学組成における「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。
本発明では、析出強化によりアルミニウム合金の高強度化に寄与すると考えられる元素のうち、Cuを使用する。Cuを使用した場合に、後述の超音波振動を付与する製造技術の適用により、ヒートサイクルに対するセラミックス板の耐クラック発生性を顕著に改善できることがわかった。その作用を十分に発揮させるため、0.10%以上のCu含有量を確保する。Cu含有量が0.10%以上1.20%以下の範囲では導電性の過度の低下を回避しながら高強度化と上記の耐クラック発生性を得ることができる。Cu含有量は0.15以上0.90%以下であることがより好ましく、0.20%以上0.80%以下であることが更に好ましい。
【0023】
Mgは任意添加元素であり、Cuとともに高強度化に寄与し、かつヒートサイクルに対するセラミックス板の耐クラック発生性への悪影響を生じないことから、必要に応じて含有させることができる。Mg含有量は0.05%以上とすることがより効果的である。また、Mg含有量を0.40%以下とすることにより導電性の過度の低下を回避することができる。Mg含有量は0.30%以下の範囲に管理してもよい。
【0024】
Ti、Bについては、結晶粒微細化効果を有することから、本発明においてもこれらの元素を含有させる。Ti含有量は0.01~0.20%、B含有量は0.001~0.10%の範囲で調整すればよい。Cu、Mg、Ti、B、Al以外の元素については、合計0.50%以下の範囲で含有が許容され、残部がAlからなる化学組成とする。Cu、Mg、Ti、B、Al以外の元素の合計含有量は0.20%以下に管理してもよい。
【0025】
[溶湯接合法]
本発明では、溶湯接合に使用するアルミニウム合金溶湯の原料として、後述の手法で予め溶製された凝固物からなるアルミニウム合金固体材料を適用することを除き、公知の溶湯接合法を利用することができる。溶湯接合は、主として「部材配置工程」と「接合工程」によって実現される。以下に、本発明に適用可能な溶湯接合法の好適な態様を例示するが、これに限定されるものではない。
【0026】
(部材配置工程)
部材配置工程は、アルミニウム合金溶湯が接合されるセラミックス板などの部材を鋳型内に設置する工程である。
図3に、
図1に示した断面構造を有するアルミニウム-セラミックス接合基板を作製するための鋳型内の配置を模式的に例示した断面図を示す。上型1aと下型1bにより鋳型1が構成されている。上型1aと下型1bは、ガス透過性を有する炭素材料または金属材料からなる。鋳型1には上型1aと下型1bの内部空間によって形成される貯湯部5がある。貯湯部5は、鋳型内部の製品形状空間へ供給するための金属溶湯を収容する空間である。貯湯部5でアルミニウム合金固体材料を溶融させてアルミニウム合金溶湯を得ることもできる。その場合、貯湯部5は坩堝としての機能も有する。貯湯部5の上部には加圧口2があり、貯湯部5内の溶湯を製品形状空間に送り込むための圧力が鋳型1の外部から加圧口2を通じて溶湯に付与されるようになっている。下型1bには貯湯部5内の溶湯を鋳型内の各部位へ供給するための湯道3が設けられている。
図3の例では、湯道3の一部に、溶湯が通過する流路の断面を細くした狭断面流路103が設けられている。アルミニウム合金溶湯が狭断面流路103を通過する際に溶湯表面の酸化皮膜が除去される。
【0027】
セラミックス板10を下型1bの所定位置(セラミックス板収容部)に設置する。
図3の例では、さらに板状の補強部材110を下型1b内部に設けられた図示しない支持部に載置することによって所定位置に設置する。セラミックス板10と下型1bの内壁面の間には、空間Aが形成されている。空間Aは下型1b内の図示しない湯道によって貯湯部5に繋がっている。空間Aに充填されたアルミニウム合金溶湯が凝固することにより板状の回路用部材(
図1の符号20)が形成される。セラミックス板10の上面側には、補強部材110を取り囲むように空間Bが形成されている。空間Bは下型1b内の湯道によって貯湯部5に繋がっている。空間Bに充填されたアルミニウム合金溶湯が凝固することにより、補強部材110を内蔵する放熱部材(
図1の符号50)が形成される。セラミックス板10、補強部材110は、いずれも接合工程において溶湯を注入した際に所定位置からずれないように、鋳型内部の支持部材あるいは挟持部材によって位置が拘束されている。
図3において、セラミックス板10の厚さ、補強部材110の厚さ、空間Aにおけるセラミックス板10と下型1bの間隔、空間Bにおけるセラミックス板10と補強部材110の間隔、および空間Bにおける補強部材110と上型1aの間隔は、それぞれ誇張して描いてある。
【0028】
図4に、
図2に示した断面構造を有するアルミニウム-セラミックス接合基板を作製するための鋳型内の配置を模式的に例示した断面図を示す。この場合は、空間Bは上型1aの壁面によって形成された複数のピン状凹部4を有している。ピン状凹部4に充填されたアルミニウム合金溶湯が凝固することによりヒートシンク機能を有するピン状突起(
図2の符号53)が形成される。
図4の鋳型構造は、ピン状凹部4が形成されていること、セラミックス板10、空間A、空間Bの配置が異なること、補強部材(
図3の符号110)を設置する構造を有しないことを除き、
図3のものと基本的に同様である。セラミックス板10は、接合工程において溶湯を注入した際に所定位置からずれないように、鋳型内部の支持部材あるいは挟持部材によって位置が拘束されている。
【0029】
(接合工程)
接合工程は、鋳型内にアルミニウム合金溶湯を注入して、そのアルミニウム合金溶湯を鋳型内部に配置されていたセラミックス板あるいは更に補強部材の表面に接触させた状態で凝固させ、前記アルミニウム合金溶湯に由来するアルミニウム合金部材とセラミックス板あるいは更に補強部材とが接合した構造体を形成させる工程である。
【0030】
図5および
図6に、それぞれ
図3および
図4に示した鋳型の内部に溶湯を導入した状態の断面図を例示する。溶湯接合を行うための鋳造を、例えば以下のようにして行う。セラミックス板10、必要に応じて更に補強部材110が上述のようにセットされた鋳型1を用意する。貯湯部5を坩堝として利用する場合には、アルミニウム合金溶湯の原料であるアルミニウム合金固体材料を例えば粒状物や小片の形態で貯湯部5の中に入れる。その鋳型1を加熱炉に装入し、窒素ガスなどの非酸化性ガス雰囲気中で加熱する。鋳型1の外部にある溶解炉でアルミニウム合金固体材料を溶融させたアルミニウム合金溶湯を使用する場合は、その溶湯を加圧口2から貯湯部5に導入する。貯湯部5を坩堝として利用する場合は、原料のアルミニウム合金固体材料を貯湯部5内で溶融させ、アルミニウム合金溶湯を得る。
【0031】
鋳型が所定温度(例えば700~725℃)に到達したのち、加圧口2から窒素ガス等の不活性ガスにより例えば5~50kPaの圧力で加圧して、貯湯部5に収容されているアルミニウム合金溶湯100(すなわち後述の方法で作製したアルミニウム合金固体材料が溶融した溶湯)を、湯道3(空間Aには図示しない湯道)を経由して鋳型内の空間に注入する。本発明では、鋳型に注入するアルミニウム合金溶湯を得る際に、微細化剤などの固体金属を使用して成分調整する必要がなく、予め用意してある単一種類のアルミニウム合金固体材料のみを溶融させれば済むので、アルミニウム合金固体材料が完全に溶融し、所定の注湯温度に到達すれば、すぐに溶湯の注入(注湯)を開始することができる。
【0032】
図5、
図6の例では、アルミニウム合金溶湯100が狭断面流路103を通過することによって、溶湯表面に形成されている酸化皮膜が除去される。湯道で繋がっている鋳型内の空間が全てアルミニウム合金溶湯100によって満たされたのち、凝固を開始する。凝固の方法としては、鋳型1の外壁の一部分(例えば
図5、
図6の左端)に冷却装置として水冷の銅ブロックを接触させるなどの方法で、指向性凝固させることが望ましい。引け巣などの鋳造欠陥を防止するために、加圧口2から窒素ガス等の不活性ガスにより例えば5~50kPaの圧力での加圧を継続しながら凝固を進行させることが望ましい。アルミニウム合金溶湯100が空間Aおよび空間Bで凝固することによって得られたアルミニウム合金部材は、後述の方法で作製されたアルミニウム合金固体材料が再溶融したのち、再凝固することによって形成されたものである。
【0033】
[アルミニウム合金固体材料の作製方法]
溶湯接合法で鋳型に注入するアルミニウム合金溶湯の原料として、本発明では下記(A)に規定される凝固物からなるアルミニウム合金固体材料を使用する。
(A)質量%で、Cu:0.10~1.20%、Mg:0~0.40%、Ti:0.01~0.20%、B:0.001~0.10%、Cu、Mg、Ti、B、Al以外の元素の合計:0~0.50%、残部がAlからなる組成を有する金属溶湯を形成させ、その金属溶湯の温度が680~720℃の範囲にあるときに超音波振動を当該金属溶湯に付与する処理を施し、その後、前記処理が施された金属溶湯を凝固させて得られた凝固物。
以下、超音波振動を金属溶湯に付与する処理を、単に「超音波処理」と言うことがある。
【0034】
溶湯接合法に使用するためのアルミニウム合金固体材料は、例えば以下のプロセスにより作製することができる。
(アルミニウム合金固体材料の作製プロセスの例示)
(工程1)上記(A)に記載の組成を有する金属溶湯を得る。
(工程2)前記金属溶湯を凝固させて母合金を得る。
(工程3)前記母合金を再溶融させて金属溶湯を得る。
(工程4)前記金属溶湯に超音波処理を施す。
(工程5)超音波処理後の金属溶湯を凝固させて凝固物を得る。
また、上記工程1によって得られた金属溶湯に直接超音波処理を施してもよい。その場合は工程2、3が省略できるが、大量生産においては工程2、3を経由して予め超音波処理に供する母合金を作製しておく方が生産性向上に有利となる場合もある。以下、上記工程1~5を適用する場合を例に、アルミニウム合金固体材料の作製方法を説明する。以下は好ましい態様の例示であり、これに限定されるものではない。
【0035】
(工程1)
Al原料として純Al、Cu原料としてAl-Cu母合金、Mgを含有させる場合はMg原料として金属マグネシウムなどを使用することができる。これらの原料を所定組成となるように坩堝に入れて加熱することにより溶融させ、Al-Cu-(Mg)合金の溶湯(溶融金属)を得る。溶湯温度を730℃以上に昇温し、Ti原料として例えばTiを10質量%程度含むAl-Ti合金、B原料として例えばBを4質量%程度含むAl-B合金をそれぞれ金属溶湯の中に投入し、Ti、BをAl合金の液相中に完全に溶解させる。TiB2の生成を防ぐためにTi原料、B原料投入時の溶湯温度は730℃以上とすることが好ましいが、更に高温域、例えば750~850℃の温度に昇温することがより好ましい。Al-Ti合金、Al-B合金の投入量は、金属溶湯が、Ti:0.01~0.20質量%、B:0.001~0.10質量%の範囲にある目標組成となるように調整する。TiとBの含有量比は、質量割合でTi:Bが1:1~6:1となるように設定することがより好ましい。溶湯が接する気相空間は、大気雰囲気としてもよいし、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気としてもよい。
【0036】
(工程2)
工程1で得られた金属溶湯を鋳型に鋳造して凝固させ、母合金を得る。
【0037】
(工程3)
工程2で得られた母合金を、超音波振動を付与できる機構を備える溶解装置で再溶融させて、Al-Cu-(Mg)-Ti-B系合金の溶湯を得る。
図7に、その溶解装置の構成例を断面構造によって模式的に例示する。炉70の内部に坩堝71が設置されている。坩堝71の中に工程2で得られた母合金を入れ、炉70内で加熱溶融させることにより金属溶湯72を形成させる。成分調整のために前記母合金以外の副原料を加えてもよい。工程1で得られた溶湯に直接超音波処理を施す場合は、工程1で使用する溶解炉としてこの炉70を適用することができる。炉70としては、例えば図示しないヒーターを備える電気炉や、図示しない高周波コイルを備える高周波誘導炉などが使用できる。坩堝71としては、例えばアルミナ坩堝を使用することができる。炉外からの操作によって、振動子を内蔵する超音波振動子73に備えられたホーン74を、金属溶湯72の中に浸漬させること、および金属溶湯72の中から引き上げることができるようになっている。金属溶湯72の温度をモニターするために、例えば熱電対センサー75が坩堝71内に設置される。溶湯が接する気相空間は、大気雰囲気としてもよいし、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気としてもよい。
【0038】
(工程4)
超音波振動子73のホーン74を工程3で得た坩堝71中の金属溶湯72の中に浸漬させる。そして、溶湯温度を680℃以上720℃以下の範囲に調整したのち、その温度域に維持しながら、超音波振動をホーン74から金属溶湯72に付与する処理を施す。金属溶湯72へ付与する超音波振動の振動振幅は例えば10~80μm(p-p)とすることが効果的であり、40~70μm(p-p)とすることがより好ましい。なお、本願記載の振動振幅は、peak-to-peak(p-p)のモードで測定される値である。溶湯中にキャビテーション場を形成させることで粒子の分散効果が期待されるので、振動振幅の下限としては、アルミニウム合金溶湯の場合、完全発達キャビテーションの開始閾振幅に近い10μm(p-p)とすることが好ましい。また、ホーン端面の直下でキャビテーション気泡が多く生成してホーンからAl溶湯へ伝達するエネルギーが大きく低下する現象(acoustic (or cavitation) shielding)をできるだけ回避する必要があることや、振動振幅が過大になるとホーン中の内部応力が大きくなりホーンの折損リスクが高まることを考慮し、振動振幅は80μm(p-p)以下とすることが望ましい。ホーン74の浸漬位置は、処理対象である金属溶湯72の全体に超音波振動の効果が及ぶように設定することが望ましい。上記の振動振幅を処理対象である金属溶湯72の全体に付与するためには、超音波振動子73による超音波振動出力を溶湯1kg当たり例えば0.05~0.5kWの範囲で調整することによって実現できる。超音波振動の付与時間は例えば0.5~15分の範囲で設定することができ、1~10分の範囲で設定することがより効果的である。「超音波」は20kHz以上の音波を意味する用語として使用されることが多いが、本明細書では、振動子によって発生される15kHz以上の周波数の振動を超音波振動と呼ぶ。これまでの実験によれば、例えば15kHz以上の超音波振動によって、アルミニウム合金溶湯中でのキャビテーション効果を得ることができる。また、上限は特に定めないが、アルミニウム合金溶湯中のキャビテーションの発生現象を考慮すると例えば30kHz以下に設定するのが好ましい。
【0039】
(工程5)
超音波振動を付与する処理を終えたのち、ホーン74を金属溶湯72から引き上げる。その後、坩堝71を傾動させるなどの方法で金属溶湯72を炉70内に設置してある鋳型などに流し込んで凝固させるか、あるいは金属溶湯72の温度を降下させて坩堝72中で金属溶湯72を凝固させ、凝固物を得る。
【0040】
超音波振動がAl溶湯に及ぼす影響については、現時点で十分に解明されていないが、以下のことが考えられる。超音波振動によってTiB2粒子の凝集が回避され、サイズの小さいTiB2粒子が溶湯中に分散した状態になると考えられる。これにより、Al溶湯を凝固したときの凝固物の組織の均質化を図ることができると考えられる。
【0041】
次いで、得られた凝固物からなるアルミニウム合金固体材料を、溶湯接合法の工程で再溶融させるのに適した所定サイズに小片化する。このようにして溶湯接合法でアルミニウム原料として使用するためのアルミニウム合金固体材料を得ることができる。
【0042】
以上のようにして得られたAl-Cu-(Mg)-Ti-B系アルミニウム合金固体材料は、溶湯接合法に適用して再溶融させたのちにセラミックス板の表面に接触した状態で再凝固させたとき、超音波処理を受けていない同等組成のアルミニウム合金を適用した場合と同様に強度(硬さ)の高いアルミニウム合金部材が得られるにもかかわらず、ヒートサイクル付与に対するセラミックス板(補強部材として使用されることがあるセラミックス板を含む)の耐クラック発生性を顕著に向上させる性質を内在している。そのメカニズムについては現時点で未解明である。
【実施例0043】
[実施例1]
(アルミニウム合金固体材料の作製)
上述した工程1~5を実施するプロセスにより、溶湯接合法に適用するためのアルミニウム合金固体材料を以下のようにして得た。
【0044】
工程1;
純度99.9%以上の純Alのインゴットと、Cu原料であるAl-Cu母合金と、Mg原料である金属マグネシウムを電気炉内の坩堝に入れ、電気炉の加熱を開始し、上記の各材料を溶融させ、金属溶湯を得た。金属溶湯の温度は坩堝内に設置した熱電対センサーによりモニターした。金属溶湯の温度をさらに上昇させ、溶湯温度を800℃に維持した。このAl-Cu-Mg系合金の溶湯に、Ti原料およびB原料としてAl-5質量%Ti-1質量%B合金を投入し、800℃で60分保持することによりAl-5質量%Ti-1質量%B合金を完全に溶解させ、Al-Cu-Mg-Ti-B系合金の溶湯約5.5kgを得た。溶湯組成は、質量%で、Cu:0.20%、Mg:0.10%、Ti:0.04%、B:0.008%、残部Alとなるように各原料を混合した。溶湯が接する気相空間は大気雰囲気とした。
工程2;
得られた溶湯を鋳型に流し込み、母合金を得た。
【0045】
工程3;
この母合金を、
図7に示した構成を有する電気炉の坩堝に入れ、再溶融させ、溶湯温度を700~720℃の範囲に維持した。
工程4;
この状態で超音波振動子のホーンを金属溶湯中に浸漬させ、超音波振動を溶湯に付与した。ここでは、周波数20kHz、振動振幅40μmの超音波振動を溶湯に5分間付与した。超音波振動出力は溶湯1kg当たりに換算すると0.13~0.2kW程度であった。溶湯が接する気相空間は大気雰囲気とした。
工程5;
超音波振動を付与したのち、ホーンを金属溶湯から引き上げ、溶湯温度690℃以下にて坩堝中の金属溶湯を鋳型に流し込み、溶湯を凝固させた。
【0046】
鋳型から凝固物を取り出し、得られた凝固物を切断して小片に分割し、溶湯接合法に使用するためのアルミニウム合金固体材料とした。溶湯が接する気相空間は大気雰囲気とした。
【0047】
(アルミニウム-セラミックス接合基板の作製)
超音波振動を付与する方法で作製した上記のアルミニウム合金固体材料(質量%で、Cu:0.20%、Mg:0.10%、Ti:0.04%、B:0.008%、残部Alである組成のもの)のみを、アルミニウム合金溶湯を得るための原料に使用して、
図1に示した断面構造を有するアルミニウム-セラミックス接合基板(ベース一体型アルミニウム-セラミックス接合基板)を溶湯接合法により、以下のようにして作製した。
【0048】
セラミックス基板(
図1の符号10)として、120mm×92mm×1mmのAlNからなる板材を用意した。補強部材(
図1の符号110)として、126mm×94mm×1mmのAlNからなる板材を用意した。これらを
図3に示した断面構造のガス透過性を有する炭素材料からなる鋳型の内部に設置した。回路用部材(
図1の符号20)となる鋳型内空間(
図3の空間A)における鋳型壁面とセラミックス基板の間の距離は0.4mm、放熱部材(
図1の符号50)となる鋳型内空間(
図3の空間B)のうち、セラミックス板(
図3の符号10)と補強部材(
図3の符号110)の間の距離は2.6mm、補強部材(
図3の符号110)と鋳型壁面の距離は0.4mmである。セラミックス板、補強部材は、いずれも溶湯を注入した際に所定位置からずれないように、鋳型内部の支持部材あるいは挟持部材によって位置が拘束されている。
【0049】
この鋳型の貯湯部(
図3の符号5)にAl原料として上記の方法で作製したアルミニウム合金固体材料を入れたのち、鋳型を炉内に装入し、窒素雰囲気中で加熱した。加熱温度は鋳型に取り付けた熱電対によってモニターした。Al原料が溶融したのち、温度720℃において鋳型の加圧口(
図5の符号2)から窒素ガスにより16kPaの圧力を付与し、湯道に設けた狭断面流路(
図5の符号103)(空間Aには図示しない狭断面流路を設けた湯道)を経由して鋳型内部の空間へアルミニウム合金溶湯を注入した。その注湯開始から約4分経過した時点で鋳型端部の外壁(
図5の左端に相当する部位)に冷却装置として水冷の銅ブロックを接触させる方法で、指向性凝固を開始させた。窒素ガスによる加圧および貯湯部からの溶湯供給を継続しながら凝固を進行させた。鋳型の温度が約50℃以下となった後、炉内を大気に開放し、鋳型から鋳造製品(積層構造体)を取り出した。このようにして、製品部分の断面が
図1に示した構造を有するアルミニウム-セラミックス接合基板を得た。このアルミニウム-セラミックス接合基板の各部材の寸法(鋳型から取り出した際に付属している湯道部分などの不要部分を切断により除いた製品部分の寸法)は、回路用部材(
図1の符号20)が114mm×86mm×0.4mm、セラミックス板(
図1の符号10)が120mm×92mm×1.0mm、放熱部材(
図1の符号50)が140mm×100mm×4.0mm、放熱部材に内蔵される補強部材(
図1の符号110)が126mm×94mm×1.0mmである。
この方法で寸法形状が同じであるベース一体型アルミニウム-セラミックス接合基板を試験数n=3として3体作製した。得られたアルミニウム-セラミックス接合基板を供試体として以下の調査に供した。
【0050】
(アルミニウム合金の硬さ測定)
ここでは、硬さ測定のための圧痕形成が後述のヒートサイクル試験の結果に影響を及ぼさないよう、ベース部材(
図1の符号50)のセラミックス板(
図1の符号10)接合面の四隅近傍におけるアルミニウム合金露出部分4箇所について、ビッカース硬さを測定した。その結果、4箇所×3体=計12箇所のビッカース硬さの平均値は19.7HVであった。Cu、Mgを添加しないAl-Ti-B系合金溶湯により従来公知の溶湯接合法で同様の構造および寸法形状を有するアルミニウム-セラミックス接合基板を作製した場合、上記測定箇所におけるビッカース硬さは16HV程度になると考えられることから、Cu、Mgの添加によりアルミニウム合金の強度が向上したと評価できる。
【0051】
(アルミニウム合金の導電率の測定)
上述の硬さ測定と同様に、ベース部材(
図1の符号50)のセラミックス板(
図1の符号10)接合面の四隅近傍におけるアルミニウム合金露出部分4箇所について、導電率(%IACS)を、導電率計(FOERSTER社製、SIGMATEST2.069)を用いて渦電流法により測定した。その結果、4箇所×3体=計12箇所の導電率の平均値は59.52%IACSであった。
【0052】
(ヒートサイクル試験)
供試体であるベース一体型アルミニウム-セラミックス接合基板をヒートサイクル試験機(エスペック株式会社製の冷熱衝撃装置TSA-103ES-W)の中に置き、大気雰囲気中で、-40℃で30分保持、25℃で10分保持、150℃で30分保持、25℃で10分保持を1サイクルとするヒートサイクルを付与した。100サイクル毎に供試体を超音波探傷装置(SAT)(株式会社日立パワーソリューションズ製、FineSAT V)により、回路用部材とベース部材の間にあるセラミックス板(
図1の符号10、以下これを「絶縁部材」と呼ぶ)、およびベース部材に埋め込まれている補強部材のセラミックス板(
図1の符号110)について、それぞれセラミックス/アルミニウム合金の界面およびセラミックス内部を観察し、クラックの有無を調べた。その結果、600サイクル終了後の供試体(試験数n=3)のうち1体において、補強部材のセラミックス板にクラックが認められた。
また、100サイクル毎に上述の方法でアルミニウム合金の硬さおよび導電率を測定した。
これらの結果を以下の比較例1とともに表1に示してある。表1に記載の平均硬さおよび平均導電率は、12箇所の測定値(4箇所×3体)の平均値である。
【0053】
[比較例1]
超音波処理を施していないAl-Cu-Mg-Ti-B系合金の母合金を溶湯接合法に適用する従来の手法によって、実施例1のものと構造および寸法形状が同じであるベース一体型アルミニウム-セラミックス接合基板を試験数n=3として3体作製した。具体的には、実施例1の工程1、2で得られた母合金を、溶湯接合法のアルミニウム合金溶湯形成用の原料として使用した。したがって、アルミニウム合金の組成は実施例1と共通である。
【0054】
得られたベース一体型アルミニウム-セラミックス接合基板において、アルミニウム合金の硬さは上述12箇所の平均値で20.1HVであった。また、アルミニウム合金の導電率は上述12箇所の平均値で60.06%IACSであった。
ヒートサイクル試験の結果、100サイクル終了後の供試体(試験数n=3)のうち2体において、補強部材のセラミックス板にクラックが認められた。
これらの結果を表1に示してある。
【0055】
【0056】
表1からわかるように、Cuを添加したアルミニウム合金を回路用部材およびベース部材に適用したベース一体型アルミニウム-セラミックス接合基板において、超音波処理を施した溶湯の凝固物を溶湯接合法の溶湯形成用原料に使用することにより、ヒートサイクルに対するセラミックス板の耐クラック発生性が顕著に向上した。アルミニウム合金の硬さ(強度)および導電性には、超音波処理の有無による上記の耐クラック発生性の大きな差異に関係していると考えられるような有意差は認められなかった。超音波処理によってもたらされる耐クラック発生性の改善機構については、現時点で未解明である。