(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136049
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】編組シールドおよびシールド電線
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20240927BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H05K9/00 L
H01B7/18 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047003
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大井 勇人
(72)【発明者】
【氏名】佐橋 響真
【テーマコード(参考)】
5E321
5G313
【Fターム(参考)】
5E321AA24
5E321BB41
5E321BB44
5E321GG05
5E321GG09
5G313AB05
5G313AC03
5G313AD06
5G313AE08
(57)【要約】
【課題】目飛びによるシールド性能の低下が抑えられた編組シールド、およびそのような編組シールドを備えたシールド電線を提供する。
【解決手段】導電性材料よりなる複数の素線30が撚り合わせられた撚線31が、複数編み合わせられてなり、前記撚線31における前記素線30の撚りピッチが、前記撚線31の層芯径の90倍以上である、編組シールド3とする。また、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁層と、を有する絶縁電線と、前記絶縁電線の外周を被覆する前記編組シールド3と、を有するシールド電線とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料よりなる複数の素線が撚り合わせられた撚線が、複数編み合わせられてなり、
前記撚線における前記素線の撚りピッチが、前記撚線の層芯径の90倍以上である、編組シールド。
【請求項2】
前記撚線における前記素線の撚りピッチが、前記撚線の層芯径の150倍以下である、請求項1に記載の編組シールド。
【請求項3】
前記撚線のそれぞれは、1本ずつを単位として、他の撚線と編まれている、請求項1に記載の編組シールド。
【請求項4】
導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁層と、を有する絶縁電線と、
前記絶縁電線の外周を被覆する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の編組シールドと、を有するシールド電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、編組シールドおよびシールド電線に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧電線や通信用電線をはじめとする電線においては、1本または複数の絶縁電線の外周に、シールド材が設けられることが多い。シールド材は、外部からその電線に侵入する電磁波を遮蔽し、電線におけるノイズの発生を抑制するとともに、その電線から外部へ放出される電磁波を遮蔽し、放出された電磁波が外部においてノイズの原因となるのを抑制する役割を果たす。その種のシールド材として、複数の素線を編み合わせた編組体よりなる編組シールドがしばしば用いられる。編組シールドは高い柔軟性および耐屈曲性を有するため、電線に設けるシールド材として、好適である。例えば、特許文献1に、編組シールドを備えたシールド電線が開示されている。なお、金属材料よりなる編組体は、電線において、絶縁電線の外周に設けるシールド材として用いられるほか、特許文献2に開示されるように、通電用の導体として用いられる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-100048号公報
【特許文献2】特開2022-75607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、編組シールドは、高い耐屈曲性や柔軟性を利用して、電線用のシールド材として好適に用いられる。絶縁電線の外周に編組シールドを設けたシールド電線において、絶縁電線が大径化すると、それに伴って、編組シールドも大型化する。つまり、編組シールドの径が大きくなり、編組シールドを構成する素線の数も多くなる。例えば、電気自動車等の自動車において、大電流化に伴って、径の大きい絶縁電線が使用されるようになっているが、それに伴って、必要とされる編組シールドも大型化している。
【0005】
編組シールドは通常、複数の素線を束ねた素線束を単位として、複数の素線束を相互に編み合わせて形成される。編組構造において、1つの素線束を構成する素線の数が持数であり、編み合わせる素線束の数が打数であるが、持数および/または打数を増大させることで、編組シールドを大型化することができる。このうち持数を増大させる場合には、素線束を編み上げて編組シールドを製造する際に、素線束を構成する各素線に加えられる張力を制御するのが難しくなる。例えば、素線束を構成する一部の素線に張力が正常に印加されにくくなる。すると、編組シールドにおいて、目飛び、つまり正常に編組構造が形成されない箇所が生じやすくなる。詳細には、編組シールドを製造する際には、各素線束をワインダに巻き取り、その素線束に張力を与えながらワインダから繰り出して、編組機によって素線束を編み上げるが、この際、各素線に印加される張力が不均一になると、一部の素線が繰り出される際に弛んでしまい、その素線が他の素線と共に素線束をなして編まれた際に、目飛びを起こしやすい。
【0006】
目飛びとしては、例えば、
図3の編組シールド3’に示すように、素線束39を構成する各素線30のうちの一部の素線が、中途部で弛んで編組構造の外に飛び出す場合がある(図中に符号A1で表示)。さらに、その素線の飛び出しが起こった箇所、およびその周辺において、編組構造における編目の密度が低下してしまう場合がある(図中に符号A2で表示)。編組シールドにおいて、目飛びが生じると、その目飛びの箇所を電磁波が通過することにより、シールド性能が低下する可能性がある。また、編組シールドの製造中に目飛びが発生すると、その目飛びの箇所で素線が製造装置に引っ掛かる等により、編組構造の作成が円滑に行えなくなり、素線の断線が起こる可能性もある。この断線も編組シールドのシールド性能の低下につながりうる。
【0007】
以上に鑑み、目飛びによるシールド性能の低下が抑えられた編組シールド、およびそのような編組シールドを備えたシールド電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示にかかる編組シールドは、導電性材料よりなる複数の素線が撚り合わせられた撚線が、複数編み合わせられてなり、前記撚線における前記素線の撚りピッチが、前記撚線の層芯径の90倍以上である。本開示にかかるシールド電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁層と、を有する絶縁電線と、前記絶縁電線の外周を被覆する前記編組シールドと、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本開示にかかる編組シールドおよびシールド電線は、目飛びによるシールド性能の低下が抑えられた編組シールド、およびそのような編組シールドを備えたシールド電線となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1Aは、本開示の一実施形態にかかる編組シールドを示す斜視図である。
図1Bは、その編組シールドを拡大して示す側面図である。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態にかかるシールド電線を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、従来の編組シールドに目飛びが生じた構造を拡大して示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態を説明する。本開示にかかる編組シールドおよびシールド電線は、以下の構成を有している。
【0012】
[1]本開示にかかる編組シールドは、導電性材料よりなる複数の素線が撚り合わせられた撚線が、複数編み合わせられてなり、前記撚線における前記素線の撚りピッチが、前記撚線の層芯径の90倍以上である。
【0013】
上記編組シールドにおいては、複数の素線が、単に束にされるのではなく、相互に撚り合わせた撚線とされたうえで、複数の撚線が編み合わせられて、編組構造が形成されている。素線が撚り合わせられていることにより、編組シールドに目飛びが生じにくくなり、規則正しく編目が形成された編組シールドを形成することができる。これは、撚線を編んで編組構造を形成する際に、撚線を構成する各素線に、張力が均一性高く印加されるためであると考えられる。一方、撚線における素線の撚りピッチが層芯径の90倍以上とされることにより、編組構造において、複数の撚線の間に形成される空隙が小さくなる。これは、編組構造において、撚線の撚り構造が適度に緩み、撚りが緩んだ素線によって、空隙が占められることによると考えられる。これら目飛びの低減と、空隙の減少の両方の効果として、編組シールドにおいて、高いシールド性能が得られる。編組シールドが大型化した場合にも、目飛びを抑えることで、シールド性能の低下を抑制することができ、大電流用の電線等、大径の電線にも、上記編組シールドを好適に適用することができる。
【0014】
[2]上記[1]の態様において、前記撚線における前記素線の撚りピッチが、前記撚線の層芯径の150倍以下であるとよい。すると素線に撚りを加えて撚線としたうえで編組構造を形成することによる目飛び抑制の効果が、高く得られる。
【0015】
[3]上記[1]または[2]の態様において、前記撚線のそれぞれは、1本ずつを単位として、他の撚線と編まれているとよい。すると、素線を層芯径の90倍以上で撚り合わせた撚線としたうえで編み合わせることで、編組シールドのシールド性能を向上させる効果が、特に高く得られる。
【0016】
[4]本開示にかかるシールド電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁層と、を有する絶縁電線と、前記絶縁電線の外周を被覆する上記[1]から[3]のいずれか1つの編組シールドと、を有する。
【0017】
上記シールド電線においては、絶縁電線の外周に設けられる編組シールドが、素線が所定の撚りピッチで撚り合わせられた撚線を編み合わせて構成されている。編組シールドにおいて、目飛びおよび大きな空隙の存在によるシールド性能の低下が抑制されるため、シールド電線において、ノイズ遮蔽を効果的に達成することができる。編組シールドが大型化した場合にも、目飛びによるシールド性能の低下を抑制する効果が得られるので、絶縁電線の径が大きい場合や本数が多い場合等、大型の編組シールドが必要とされるシールド電線においても、高いシールド性能を得ることができる。
【0018】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を用いて、本開示の実施形態にかかる編組シールドおよびシールド電線について、詳細に説明する。本開示の実施形態にかかる編組シールドを含んで、本開示の実施形態にかかるシールド電線が構成される。
【0019】
<シールド電線の構成>
まず、本開示の一実施形態にかかるシールド電線について説明する。
図2に、本開示の一実施形態にかかるシールド電線1を、斜視図にて示す。
【0020】
シールド電線1は、導体21と、導体21の外周を被覆する絶縁層22とを有する絶縁電線2を備えている。そして、シールド材として、絶縁電線2の外周を被覆して、本開示の一実施形態にかかる編組シールド3が設けられている。
【0021】
絶縁電線2の本数は特に限定されるものではなく、1本または複数とすることができる。複数本の絶縁電線2がシールド電線1に含まれる場合に、編組シールド3は、それらの絶縁電線2の集合体全体としての外周を、一括して被覆している。複数の絶縁電線2は、相互に並走して束を構成していても、相互に撚られていても、いずれでもよい。図示した形態においては、2本の絶縁電線2が、相互に並走して配置されている。
【0022】
さらにシールド電線1には、任意ではあるが、編組シールド3の外周に、絶縁性材料よりなるシース4が設けられている。さらに、シールド電線1は、任意に、編組シールド3に加えて、他種のシールド材を絶縁電線2の外周に有していてもよい。その種のシールド材としては、金属箔を例示することができる。しかし、後に説明するように、本開示の実施形態にかかる編組シールド3は、単独でも高いシール性能を発揮するものであり、シールド材として単独でシールド電線1に設けられても、十分なシールド性能を与えることができる。
【0023】
絶縁電線2は、種類や組成、用途等、詳細を特に限定されるものではなく、各種の絶縁電線2を適用することができる。導体21を構成する材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金をはじめとして、種々の金属材料を用いることができる。導体21は、複数の素線が撚り合わせられた撚線として構成されることが好ましい。絶縁層22は、有機ポリマーを含む材料より構成される。有機ポリマーの種類は、特に限定されるものではなく、ポリオレフィンやオレフィン系共重合体等のオレフィン系ポリマー、ポリ塩化ビニル等のハロゲン系ポリマー、フッ素系ポリマー、各種エンジニアリングプラスチック、エラストマー、ゴム等を挙げることができる。絶縁層22には、有機ポリマーに加えて、適宜添加剤が含有されてもよい。
【0024】
絶縁電線2のサイズも特に限定されるものではない。しかし、後に説明するように、編組シールド3が、大型化した場合にも、シールド性能の低下が起こりにくいものであることから、絶縁電線2が大径のものである方が、編組シールド3が有する高いシールド性能を、シールド電線1において有効に活用することができる。例えば、絶縁電線2の導体断面積が、5mm2以上である形態を、好適に例示することができる。導体断面積に上限は特に設けられないが、概ね200mm2以下に抑えておくとよい。シールド電線1に含まれる絶縁電線2が複数である場合には、ここでの導体断面積は、それら複数の絶縁電線2の導体断面積の合計を指すものとする。
【0025】
シース4は、編組シールド3を外部に対して絶縁するとともに、編組シールド3および絶縁電線2を物理的に保護する役割を果たす。編組シールド3は、有機ポリマーを含む材料より構成される。シース4を構成する有機ポリマーとしては、絶縁層22を構成する有機ポリマーの具体例として上に列挙したものを、好適に適用することができる。有機ポリマーに加えて、適宜添加剤が含有されてもよい。
【0026】
<編組シールドの構成>
次に、本開示の一実施形態にかかる編組シールド3について、詳細に説明する。
図1Aに、本開示の一実施形態にかかる編組シールド3を斜視図にて示す。さらに、
図1Bに、編組シールド3を拡大して側面図にて示す。編組シールド3の用途は特に限定されるものではなく、各種の電気・電子機器や通信用部材において、電磁波シールドとして用いることいができるが、上で説明したように、シールド電線1の構成部材として、特に好適に用いることができる。以下でも、シールド電線1の構成部材として編組シールド3を用いる場合を主に想定して、説明を行う。
【0027】
本実施形態にかかる編組シールド3においては、導電性材料よりなる複数の素線30が編み合わせられた構造を有している。つまり、第一の方向D1に延びる素線30の群と、第一の方向D1と異なる第二の方向D2に延びる素線30の群とが、相互に交差され、網状に編み込まれている。編組シールド3全体としての形状は特に限定されるものではないが、編組シールド3がシールド電線1を構成する場合には、中空筒状に編み上げられていることが好ましい。
【0028】
編組シールド3を構成する素線30の構成材料は、導電性材料であれば特に限定されるものではない。素線30の構成材料として、銅または銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金、鉄または鉄合金等の金属材料、あるいはそれら金属材料の表面に、スズ等によってめっきを施したものを例示することができる。素線30の外径は特に限定されるものではないが、編組シールド3の柔軟性や耐屈曲性、またシールド性能を十分に高める観点から、0.08mm以上、また0.50mm以下の範囲を例示することができる。
【0029】
上記のように、編組シールド3においては、複数の素線30が群をなしており、その群を単位として、相互に編み合わせられている。ここで、本実施形態にかかる編組シールド3においては、各群を構成する素線30は、単に束にされているのではなく、相互に撚り合わせられて、撚線31となっている。つまり、複数の撚線31が相互に編み合わせられて、編組シールド3を構成している。
【0030】
さらに、本実施形態にかかる編組シールド3において、編組構造を構成する撚線31における素線30の撚りピッチは、撚線31の層芯径の90倍以上となっている。ここで、撚線31の層芯径とは、撚線31の最外周部に位置する素線30の中心を通る円の直径を指し、撚線31の外径から1本の素線30の外径を減じたものとして、見積もることができる。
【0031】
本実施形態にかかる編組シールド3においては、素線30が、単に束を構成するのではなく、撚線31とされたうえで編組状に編まれていることにより、編組シールド3において、目飛びが形成されにくくなっている。目飛びとは、編組体において、編目(撚線31どうしが交差する点)が規則正しく形成された正常な編組構造が局所的に崩れた箇所を指し、例えば、一部の素線30が中途部で弛んで編組構造の外側に飛び出した箇所(
図3に、素線を撚り合わせていない形態について、符号A1にて表示)や、その箇所またはその周辺で、編目の密度が低くなった箇所(
図3に符号A2にて表示)として出現する。本実施形態にかかる編組シールド3においては、素線30を撚り合わせていない場合、つまり
図3に示した編組シールド3’のように素線30を単に素線束39として編み合わせた場合と比較して、このような目飛びが発生しにくくなっている。
【0032】
編組シールド3に目飛びが発生すると、局所的に素線30の密度が低くなった箇所が生じ、編組シールド3のシールド性能が低下しうる。しかし本実施形態にかかる編組シールド3においては、撚線31の使用により、目飛びの発生が抑制されることで、そのようなシールド性能の低下が起こりにくくなっている。素線30を撚線31としておくことで、素線30を単に束にして編組構造を形成する場合と比べて、編組構造を形成する際に、各素線30に均一性高く張力が印加されうる。目飛びの発生原因の1つは、編組構造を製造する際に、一部の素線30に張力が均等に印加されないことにあると考えられ、撚線化して、張力の均一性を高めることで、目飛びの発生が抑制されるものと考えられる。詳細には、素線30の群を撚線31とした状態でワインダに巻き取り、張力を印加して繰り出しながら編組機で編むことで、本実施形態にかかる編組シールド3を製造できるが、この際、1本の撚線31を構成する各素線30に均一性高く張力が印加されることで、目飛びを抑制し、規則正しく編目が配列された編組構造が得られる。
【0033】
従来一般の編組シールド3’のように、素線30を単に素線束39として編組構造を形成する場合には、編組シールド3’を大型化するほど、目飛びが生じやすくなるが、本実施形態にかかる編組シールド3においては、素線30を撚線31としておくことで、編組シールド3が大型化した場合にも、目飛びによるシールド性能の低下を抑制することができる。目飛びが抑制されることで、編組シールド3の製造過程において、目飛びの箇所での素線30の引っ掛かり等、編組構造の形成における円滑性の低下が起こりにくくなり、編組構造の製造性が高く保たれる。素線の断線とそれによるシールド性能の低下も起こりにくくなる。
【0034】
さらに、本実施形態にかかる編組シールド3においては、上記のように、撚線31における素線30の撚りピッチが撚線31の層芯径の90倍以上となっている。これにより、編組シールド3は、上記の目飛びの抑制による効果と合わせて、高いシールド性能を保つ効果に優れたものとなる。その理由は以下のとおりである。
【0035】
上記のように、素線30を撚線31としたうえで編組シールド3を構成することで、目飛びの発生を抑制することができるが、撚線31における素線30の撚りピッチを小さくしすぎると、シールド性能を効果的に向上させられない場合がある。あるいはさらに、素線30を撚線31としない場合よりもかえってシールド性能が低くなる場合もある。撚線31の撚りピッチを小さくして、撚りが強くなりすぎると、撚線31が全体として1本の太い素線のように振舞うため、撚線31の間の空隙、つまり第一の方向D1に延びる1対の撚線31と、第二の方向D2に延びる1対の撚線31に囲まれた、撚線31に占められない空間が、大きくなってしまうからである。編組シールド3に大きな空隙が形成されていると、その空隙を電磁波が通過しやすくなり、シールド性能の低下を招く。
【0036】
これに対し、本実施形態にかかる編組シールド3においては、撚線31における素線30の撚りピッチが層芯径の90倍以上と大きくなっており、撚りが過剰に強くならない範囲に抑えられている。そのため、複数の撚線31が編み合わせられた編組構造において、撚り構造がある程度緩み、撚りの緩んだ素線30が、撚線31の間の空隙を占めるようになる。このように、緩んだ素線30が空隙を埋めることで、撚線31の間の空隙が小さくなる。編組シールド3において、空隙の総面積が減少すると、空隙を介した電磁波の通過が起こりにくくなり、編組シールド3が電磁波を遮蔽することによるシールド性能が高く得られることになる。この効果をさらに高める観点から、撚線31における素線30の撚りピッチは、層芯径の95倍以上であると、さらに好ましい。撚りピッチに特に上限は設けられないが、素線30を撚線31にすることによる目飛び抑制の効果を高める観点からは、層芯径の150倍以下、さらには120倍以下に抑えておくとよい。
【0037】
撚線31における素線30の撚りピッチは、このように、撚線31の層芯径を基準として、90倍以上となっていれば、絶対値としての長さを特に限定されるものではない。しかし、素線30の外径が、上で例示した好適な範囲にある場合に、撚線31における素線30の撚りピッチを50mm以上、さらには70mm以上とする形態を、好ましいものとして例示することができる。また、撚りピッチを、概ね120mm以下に抑えておくとよい。
【0038】
特許文献2でも、素線を撚り合わせて編組体を構成しているが、実施例において、撚線構造の撚りピッチが、最大で33倍と小さくなっている。特許文献2では、編組体を、電磁波遮蔽のためのシールド材として用いているのではなく、通電用の導体として用いている。よって、特許文献2の形態は、撚線の間の空隙を低減することで、電磁波の通過を抑制することを要するものではない。
【0039】
編組シールド3において、素線30が、層芯径の90倍以上の撚りピッチで撚られた撚線31の形で、編組構造を形成していれば、撚線31の構造や配置の詳細は特に限定されるものではない。上記のように、本明細書では、撚線31における素線30の撚りピッチは、各撚線31において、その撚線31の撚り構造の中での素線30の撚りの周期を示している。一方で、特許文献1でも編組構造における撚りピッチに言及しているが、特許文献1では、編組線において、複数の素線を互いに並べてなる素線束が、被覆電線の外周をらせん状に一回転したときに被覆電線の長手方向に進む距離として、撚りピッチを定義しており、本明細書における撚りピッチとは指すものが異なる。本開示の実施形態にかかる編組シールド3においては、特許文献1の意味での撚りピッチ、つまり、複数の素線30の集合体としての撚線31が、編組構造において絶縁電線2の外周に螺旋状に巻き回された構造の巻きピッチは、特に限定されるものではない。
【0040】
また、本実施形態にかかる編組シールド3において、撚線31における撚り構造および撚り方向は、特に指定されるものではない。撚り構造の種類としては、全ての素線30をランダムにまとめて同じ方向に撚り合わせる集合撚り、複数の素線30を同心状に撚り合わせる同心撚り、複数の子撚線を撚り合わせる複合撚り等、各種の撚り構造を採用することができる。中でも、目飛びの抑制および空隙の減少によるシールド性能向上の効果を高める観点から、集合撚りを採用する形態が最も好ましい。撚り方向としては、第一の方向D1に延びる撚線31と、第二の方向D2に延びる撚線31の間で、撚り方向を相互に異ならせてもよいが、全ての撚線31において、撚り方向を同じにしておく方が好ましい。また、編組構造において、撚線31のそれぞれは、撚線1本ずつを単位として、他の撚線31と編み合わせられていることが好ましい。つまり、複数の撚線31を束にしたうえで、その束よりなる素線群を単位として編組構造を形成するのではなく、1つの素線群を構成する素線30の全てを、1本の撚線31として撚り合わせたうえで、編組構造を形成することが好ましい。これにより、1つの素線群を構成する素線30を複数の撚線31に分割する場合に比べて、目飛びの抑制および空隙の低減によってシールド性能を向上させる効果を高めることができる。
【0041】
撚線31の編み合わせにおける各種パラメータ、つまり、持数、打数、編組角度、編組密度等の各種パラメータも、特に限定されるものではない。しかし、編組シールド3のシールド性能、また柔軟性や耐屈曲性を高める観点から、以下の範囲を好適に例示することができる。
・持数(各撚線31に含まれる素線30の本数):3本以上、50本以下
・打数(編組シールド3を構成する撚線31の総数):4本以上、130本以下
・編組密度(編組シールド3の面において素線30が占める面積の割合):60%以上、100%以下
【0042】
編組シールド3の全体としてのサイズは、取り囲む絶縁電線2の径や本数に応じて、適宜設定すればよい。素線30を束にして編組構造を形成した従来一般の編組シールド3’においては、編組シールド3’を大型化するほど目飛びが生じやすくなる傾向がある。しかし、本実施形態にかかる編組シールド3においては、素線30が撚線31の形で編組構造に組み込まれているため、持数の増加等によって編組シールド3を大型化しても、編組構造の形成時に各素線30に印加される張力の均等性が高い状態となり、目飛びを抑制することで、シールド性能を高める効果が得られる。この効果を高く享受する観点からは、編組シールド3が大型のものであることが好ましく、中空筒状の編組シールド3において、例えば内径を4.4mm以上とするとよい。編組シールド3の内径に特に上限は設けられないが、概ね26.0mm以下とすればよい。
【実施例0043】
以下に実施例を示す。ここでは、編組シールドにおいて、素線の撚りの有無、および撚りピッチによって、編組シールドの製造性や特性がどのように変化するのかを検証した。
【0044】
<試料の作製>
試料A1~A3および試料B1,B2として、シールド電線を準備した。いずれの試料においても、銅合金撚線よりなる導体断面積が95mm2の導体を備えた絶縁電線を2本並走させたものの外周に、中空筒状の編組シールドを配置した。各試料において、編組シールドの構成材料および編組構成、また素線に対する撚りの有無および撚りピッチは、表1に示したとおりとした。素線に撚りを加えた試料A1~A3,B2においては、持数に相当する本数の素線を、集合撚りにて、表1に記載の撚りピッチで撚り合わせた。そして、打数に相当する本数の撚線を、全て同じ撚り方向で配置して、編組構造を形成した。試料B2においては、素線を撚り合わせず、単に束にした状態で編組構造を形成した。各試料において、編組シールドの寸法としては、内径34.2mmとした。
【0045】
各試料の編組密度は、以下のとおりであった。
・試料A1:74.6%
・試料A2:96.4%
・試料A3:97.3%
・試料B1:74.6%(断線してない部分)
・試料B2:35.5%
【0046】
<評価方法>
(1)目飛びの有無
各試料において、編組シールドの表面を目視にて観察し、目飛びの有無を評価した。編組シールドの長手方向に沿って300mmの長さ領域にわたって、目飛びが発見されなかった場合には、目飛びなし(A)と評価した。一方、目飛びが発見された場合には、目飛びあり(B)と評価した。
【0047】
(2)製造性
ワインダと編組機を用いて素線群を編み合わせて編組シールドを製造するに際し、300mmにわたって編組シールドを形成する間に、素線の断線が生じるかによって、各試料の編組シールドの製造性を評価した。断線が生じなかった場合には、製造性が高い(A)と評価し、断線が生じた場合には、製造性が低い(B)と評価した。
【0048】
(3)シールド性能
各シールド電線のシールド性能の評価を、カレントプローブ法による放射エミッション評価にて行った。具体的には、各シールド電線の編組シールドの外周にカレントプローブを取り付け、編組シールドに囲まれた絶縁電線に交流信号を入力した。そして、ノイズ放射量を、カレントプローブにて計測した。編組シールドを設けていない状態で計測されたノイズ放射量と、編組シールドを設けた状態で計測されたノイズ放射量の差を、ノイズ遮蔽量とした。周波数100MH以下の領域で、ノイズ遮蔽量が20dB以上であれば、シールド性能が高い(A)と評価した。一方、ノイズ遮蔽量が20dBを下回る場合には、シールド性能が低い(B)と評価した。なお、試料B1については、編組シールドの製造中における素線の断線により、シールド性能を評価できるシールド電線を得ることができなかった。
【0049】
<評価結果>
下の表1に、試料A1~A3および試料B1,B2について、形成した編組シールドの構成とともに、各評価の結果を示す。撚りピッチは、編組シールドを構成する撚線における素線の撚りピッチを、「mm」を単位とする長さと、層芯径倍率、つまり撚線の外径から1本の素線の外径を減じて得られる層芯径を基準とした倍数値の両方で表示している。
【0050】
【0051】
表1によると、試料A1~A3では、編組シールドにおいて、素線が撚線の状態になっており、かつその撚線における素線の撚りピッチが、層芯径の90倍以上となっている。それらの試料ではいずれも、編組シールドにおいて、目飛びが起こっておらず、製造性も高くなっている。そして、高いシールド性能が得られている。一方で、素線に撚りが加えられずに編組シールドが形成されている試料B1では、編組シールドに目飛びが発生し、製造性も低くなっている。試料B2では、編組シールドにおいて素線に撚りが加えられているが、その撚りピッチが層芯径の90倍未満となっている。この試料B2においては、目飛びが発生しておらず、高い製造性も得られているものの、シールド性能が低くなっている。
【0052】
これらの評価結果の対比によれば、編組シールドにおいて、素線に撚りを加えて撚線とした状態で編組構造を形成することにより、目飛びを抑制して、高い製造性をもって編組シールドを製造できる。しかし、高いシールド性能を得るためには、撚線における素線の撚りピッチを層芯径の90倍以上とすることがさらに必要である。素線の撚りピッチを層芯径の90倍以上に大きくすることで、編組構造における空隙が、撚りの緩んだ素線によって占められることによって、シールド性能が向上するものと解釈される。
【0053】
本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。