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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136064
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】検査装置及び検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 15/00 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
G01B15/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047023
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 隆洋
【テーマコード(参考)】
2F067
【Fターム(参考)】
2F067AA24
2F067AA26
2F067AA27
2F067AA53
2F067AA54
2F067BB04
2F067CC15
2F067EE05
2F067HH04
2F067JJ03
2F067KK06
2F067KK07
2F067KK09
2F067LL16
2F067SS01
(57)【要約】
【課題】一つの実施形態は、断面加工形状を効率的に再構築できる検査装置及び検査方法を提供することを目的とする。
【解決手段】一つの実施形態によれば、測定部とコントローラとを有する検査装置が提供される。測定部は、所定のパターンが形成された試料に対して所定のパターンに応じた物理量を測定し、測定結果に応じて第1のスペクトルパターンを生成する。コントローラは、形状関数に形状関数のグラフ形状に対応するパラメータを適用して加工断面形状を予測する。形状関数は、ドライエッチング処理における所定のパターンを加工する際のエッチング深さに応じた断面形状を示す。コントローラは、予測された加工断面形状に応じて第2のスペクトルパターンを求める。コントローラは、第1のスペクトルパターンと第2のスペクトルパターンとを比較しながらグラフ形状に対応するパラメータを調整する。コントローラは、調整結果に応じて試料における加工断面形状を再構築する。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のパターンが形成された試料に対して前記所定のパターンに応じた物理量を測定し、測定結果に応じて第1のスペクトルパターンを生成する測定部と、
ドライエッチング処理における前記所定のパターンを加工する際のエッチング深さに応じた断面形状を示す形状関数に前記形状関数のグラフ形状に対応するパラメータを適用して加工断面形状を予測し、予測された加工断面形状に応じて第2のスペクトルパターンを求め、前記第1のスペクトルパターンと前記第2のスペクトルパターンとを比較しながら前記グラフ形状に対応するパラメータを調整し、調整結果に応じて前記試料における加工断面形状を再構築するコントローラと、
を備えた検査装置。
【請求項2】
前記形状関数は、1つの極値を持ち、グラフが前記極値の前後で非対称な形状を有し、前記グラフが前記極値の前において前記極値から遠ざかるにつれて第1のパラメータに対応する傾きを有する漸近線に漸近しながらバックグランドレベルに近付き、且つ、前記グラフが前記極値の後において前記極値から遠ざかるにつれて第2のパラメータに対応した位置に配される変曲点を経由して前記バックグランドレベルに近付く形状を有し、
前記コントローラは、前記調整において、前記第1のパラメータと前記第2のパラメータとをそれぞれ調整する
請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記形状関数は、前記グラフが前記極値の前において前記漸近線に漸近する上向きの凸形状を有し、前記グラフが前記極値及び前記変曲点の間で上向きの凸形状を有し、前記グラフが前記変曲点の後において下向きの凸形状を有する
請求項2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記形状関数は、第1の関数と第2の関数との積を含み、
前記第1の関数は、1つの極値を持ち、上に凸状であり、前記第1のパラメータを含み、
前記第2の関数は、S字状であり、前記第2のパラメータを含み、
前記コントローラは、前記調整において、前記第1のパラメータと前記第2のパラメータとをそれぞれ調整し、前記第1の関数のグラフ形状と前記第2の関数のグラフ形状とをそれぞれ変化させる
請求項2に記載の検査装置。
【請求項5】
前記形状関数は、第3の関数と第4の関数との前記極値における連結を含み、
前記第3の関数は、前記極値より前の区間を定義域として有し、上に凸状であり、単調増加し、前記第1のパラメータを含み、
前記第4の関数は、前記極値より後の区間を定義域として有し、S字状であり、単調減少し、前記第2のパラメータを含み、
前記コントローラは、前記調整において、前記第1のパラメータと前記第2のパラメータとをそれぞれ調整し、前記第3の関数のグラフ形状と前記第4の関数のグラフ形状とをそれぞれ変化させる
請求項2に記載の検査装置。
【請求項6】
前記形状関数は、前記極値の近傍における前記第3の関数のグラフの傾きと前記第4の関数のグラフの傾きとが均等化されている
請求項5に記載の検査装置。
【請求項7】
前記第1の関数は、カイ分布、カイ二乗分布、F分布、対数正規分布、ガンマ分布、ワイブル分布、Barr分布系、ジョンソン分布系、ピアソン分布系、レイリー分布を含む確率分布の確率密度関数のいずれかを含み、
前記第2の関数は、逆正接関数、フェルミ関数、双曲線正接関数、ロジスティック関数、階段関数、ゴンペルツ関数、グルーデマン関数を含むシグモイド曲線をあらわす関数のいずれか、あるいは正規分布の生存関数、一般化正規分布の生存関数、歪んだ正規分布の生存関数、BarrXII型の生存関数を含む確率分布の生存関数のいずれかを含む
請求項4に記載の検査装置。
【請求項8】
前記第3の関数は、整数p,qを含む代数方程式Ax+By+C=0の解あるいは整数p,q,rを含むAx(x+B)+Cy+D=0である代数関数を並進操作・対称操作・スケール変換することで得られる代数関数を含み、
前記第4の関数は、確率分布の確率密度関数のべき乗あるいは三角関数のべき乗により得られる関数を含む
請求項5に記載の検査装置。
【請求項9】
前記形状関数は、前記バックグランドレベルを示す1次関数と前記積とを含む
請求項4に記載の検査装置。
【請求項10】
前記形状関数は、前記バックグランドレベルを示す1次関数と前記連結とを含む
請求項5に記載の検査装置。
【請求項11】
所定のパターンが形成された試料に対して前記所定のパターンに応じた物理量を測定し、測定結果に応じて第1のスペクトルパターンを生成することと、
ドライエッチング処理における前記所定のパターンを加工する際のエッチング深さに応じた断面形状を示す形状関数に前記形状関数のグラフ形状に対応するパラメータを適用して加工断面形状を予測することと、
予測された加工断面形状に応じて第2のスペクトルパターンを求めることと、
前記第1のスペクトルパターンと前記第2のスペクトルパターンとを比較しながら前記グラフ形状に対応するパラメータを調整することと、
調整結果に応じて前記試料における加工断面形状を再構築することと、
を備えた検査方法。
【請求項12】
前記形状関数は、1つの極値を持ち、グラフが前記極値の前後で非対称な形状を有し、前記グラフが前記極値の前において前記極値から遠ざかるにつれて第1のパラメータに対応する傾きを有する漸近線に漸近しながらバックグランドレベルに近付き、且つ、前記グラフが前記極値の後において前記極値から遠ざかるにつれて第2のパラメータに対応した位置に配される変曲点を経由して前記バックグランドレベルに近付く形状を有し、
前記調整は、
前記第1のパラメータと前記第2のパラメータとをそれぞれ調整することを含む
請求項11に記載の検査方法。
【請求項13】
前記形状関数は、前記グラフが前記極値の前において前記漸近線に漸近する上向きの凸形状を有し、前記グラフが前記極値及び前記変曲点の間で上向きの凸形状を有し、前記グラフが前記変曲点の後において下向きの凸形状を有する
請求項12に記載の検査方法。
【請求項14】
前記形状関数は、第1の関数と第2の関数との積を含み、
前記第1の関数は、1つの極値を持ち、上に凸状であり、前記第1のパラメータを含み、
前記第2の関数は、S字状であり、前記第2のパラメータを含み、
前記調整は、
前記第1のパラメータと前記第2のパラメータとをそれぞれ調整し、前記第1の関数のグラフ形状と前記第2の関数のグラフ形状とをそれぞれ変化させることを含む
請求項12に記載の検査方法。
【請求項15】
前記形状関数は、第3の関数と第4の関数との前記極値における連結を含み、
前記第3の関数は、前記極値より前の区間を定義域として有し、上に凸状であり、単調増加し、前記第1のパラメータを含み、
前記第4の関数は、前記極値より後の区間を定義域として有し、S字状であり、単調減少し、前記第2のパラメータを含み、
前記調整は、
前記第1のパラメータと前記第2のパラメータとをそれぞれ調整し、前記第3の関数のグラフ形状と前記第4の関数のグラフ形状とをそれぞれ変化させる
請求項12に記載の検査方法。
【請求項16】
前記形状関数は、前記極値の近傍における前記第3の関数のグラフの傾きと前記第4の関数のグラフの傾きとが均等化されている
請求項15に記載の検査方法。
【請求項17】
前記第1の関数は、カイ分布、カイ二乗分布、F分布、対数正規分布、ガンマ分布、ワイブル分布、Barr分布系、ジョンソン分布系、ピアソン分布系、レイリー分布を含む確率分布の確率密度関数のいずれかを含み、
前記第2の関数は、逆正接関数、フェルミ関数、双曲線正接関数、ロジスティック関数、階段関数、ゴンペルツ関数、グルーデマン関数を含むシグモイド曲線をあらわす関数のいずれか、あるいは正規分布の生存関数、一般化正規分布の生存関数、歪んだ正規分布の生存関数、BarrXII型の生存関数を含む確率分布の生存関数のいずれかを含む
請求項14に記載の検査方法。
【請求項18】
前記第3の関数は、整数p,qを含む代数方程式Ax+By+C=0の解あるいは整数p,q,rを含むAx(x+B)+Cy+D=0である代数関数を並進操作・対称操作・スケール変換することで得られる代数関数を含み、
前記第4の関数は、確率分布の確率密度関数のべき乗あるいは三角関数のべき乗により得られる関数を含む
請求項15に記載の検査方法。
【請求項19】
前記形状関数は、前記バックグランドレベルを示す1次関数と前記積とを含む
請求項14に記載の検査方法。
【請求項20】
前記形状関数は、前記バックグランドレベルを示す1次関数と前記連結とを含む
請求項15に記載の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、検査装置及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
検査装置では、所定のパターンが形成された試料に対して前記所定のパターンに応じた物理量を測定し、その測定結果に応じたスペクトルパターンから断面加工形状を再構築することがある。検査装置では、断面加工形状の再構築を効率的に行うことが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2022/0068678号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2020/0184372号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2020/0284733号明細書
【特許文献4】米国特許開第10352695号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一つの実施形態は、断面加工形状を効率的に再構築できる検査装置及び検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一つの実施形態によれば、測定部とコントローラとを有する検査装置が提供される。測定部は、所定のパターンが形成された試料に対して所定のパターンに応じた物理量を測定し、測定結果に応じて第1のスペクトルパターンを生成する。コントローラは、形状関数に形状関数のグラフ形状に対応するパラメータを適用して加工断面形状を予測する。形状関数は、ドライエッチング処理における所定のパターンを加工する際のエッチング深さに応じた断面形状を示す。コントローラは、予測された加工断面形状に応じて第2のスペクトルパターンを求める。コントローラは、第1のスペクトルパターンと第2のスペクトルパターンとを比較しながらグラフ形状に対応するパラメータを調整する。コントローラは、調整結果に応じて試料における加工断面形状を再構築する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1の実施形態にかかる検査装置の構成を示すブロック図。
図2】第1の実施形態における測定部の動作を示す図。
図3】第1の実施形態におけるコントローラの動作を示す図。
図4】第1の実施形態にかかる検査装置の動作を示すフローチャート。
図5】第1の実施形態におけるドライエッチング処理を示す図。
図6】第1の実施形態における加工断面形状の概略を示す図。
図7】第1の実施形態におけるハードマスク近傍の加工断面形状を示す図。
図8】第1の実施形態における加工断面形状に対するxy座標系の設定を示す図。
図9】第1の実施形態における加工断面形状に対するxf座標系の設定を示す図。
図10】第1の実施形態における近似曲線の生成を示す図。
図11】第1の実施形態におけるパラメータの調整を示す図。
図12】第1の実施形態におけるパラメータの調整を示す図。
図13】第1の実施形態におけるパラメータの調整を示す図。
図14】第1の実施形態におけるパラメータの調整を示す図。
図15】第1の実施形態における再構築された加工断面形状を示す図。
図16】第2の実施形態における近似曲線の生成を示す図。
図17】第2の実施形態におけるパラメータの調整を示す図。
図18】第2の実施形態におけるパラメータの調整を示す図。
図19】第2の実施形態における再構築された加工断面形状を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に添付図面を参照して、実施形態にかかる検査装置を詳細に説明する。なお、これらの実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0008】
(第1の実施形態)
第1の実施形態にかかる検査装置は、非破壊で所定のパターンの断面加工形状を得るための装置であり、例えば、T-SAXS(Transmission Small Angle X-ray Scattering)装置である。検査装置では、所定のパターンが形成された試料に対して所定のパターンに応じた物理量を測定し、測定結果に応じたスペクトルパターンと計算したスペクトルパターンとに応じて断面加工形状を再構築する。検査装置1は、図1に示すように構成され得る。図1は、検査装置1の構成を示す図である。
【0009】
検査装置1は、測定部10及びコントローラ20を有する。測定部10は、所定のパターンが形成された試料SPに対して所定のパターンに応じた物理量を測定する。所定のパターンは、例えば、(例えばナノメーターレベルの)微細なホールパターンである。微細なホールパターンは、高アクペクト比構造であり、光が底部まで侵入しづらく、光学的に計測することが困難である。そのため、測定部10は、試料SPに対して放射線(例えば、X線)が照射された際に試料SPで回折される放射線を測定する。測定部10は、測定結果に応じてスペクトルパターンPT1を生成する。
【0010】
測定部10は、放射線照射部11及びスペクトル取得部12を有する。放射線照射部11は、試料SPに対して放射線を照射する。図2に示すように、放射線照射部11は、放射線源11a及び放射線光学系11bを有し、スペクトル取得部12は、放射線検出器12a及び位置決め機構12bを有する。図2は、測定部10の動作を示す図である。
【0011】
放射線源11aは、放射線を発生させ、放射線ビームを出射する。放射線源11aは、例えば、X線源である。X線源は、例えば、粒子加速器線源、液体陽極線源、回動陽極線源、静止固体陽極線源、微小焦点線源、微小焦点回動陽極線源及び逆コンプトン線源などが用いられ得る。
【0012】
放射線光学系11bは、放射線源11aから出射された放射線ビームを成形して試料SPへ導く。放射線光学系11bは、例えば、X線光学系である。放射線光学系11bは、放射線ビームをコリメート化してもよいし、試料SP近傍で集束させてもよい。
【0013】
位置決め機構12bは、試料SPを回転可能に支持する。試料SPは、例えば所定のパターンが形成された基板である。試料SPへ入射された放射線ビームは試料SPにおける所定のパターン(例えば、微細なホールパターン)で回折される。
【0014】
放射線検出器12aは、試料SPから散乱されてくる放射線輻射を集める。放射線検出器12aは、例えば、X線検出器である。放射線検出器12aは、2次元的に配列された複数の画素を有し、放射線の2次元的な強度分布を取得可能である。
【0015】
試料SPには、例えば、微細なホールパターンが所定の空間周期で周期的に配置される。スペクトル取得部12は、試料SPで回折される放射線を測定し、測定結果に応じたスペクトルパターンPT1を取得する。スペクトルパターンPT1は、微細なホールパターンの配置の周期性の情報に加えてホールパターンの3次元的な構造の情報も含む。ホールパターンの3次元的な構造が異なれば、それに応じて、スペクトルパターンPT1も異なる。スペクトルパターンPT1は、例えば、X線の散乱パターンである。
【0016】
スペクトル取得部12は、放射線検出器12aで散乱放射線を集めつつ位置決め機構12bで試料SPの位置及び方向を定めることで、角度分解された散乱X線強度を示す画像をスペクトルパターンPT1として取得できる。例えば、図2の例では、試料SPの放射線の光軸に対する傾き角を+1.0°,0.0°,-1.0°に対して、それぞれ、画像IM1,IM2,IM3がスペクトルパターンPT1として取得される場合が例示される。
【0017】
測定部10は、スペクトル取得部12で取得されたスペクトルパターンPT1をコントローラ20へ供給する。
【0018】
コントローラ20は、スペクトルパターンPT1(例えば、X線の散乱パターン)から加工断面形状をライブラリベースで再構築する。加工断面形状は、加工断面プロファイルとも呼ぶことにする。ライブラリは、形状関数を含む。
【0019】
形状関数は、加工断面形状(加工断面プロファイル)を表現した関数である。これにより、普通の多項式を用いる場合に比べて、より忠実に実際の形状に近い加工断面形状を表現することができる。形状関数は、ドライエッチング処理における所定のパターン(例えば、微細なホールパターン)を加工する際のエッチング深さに応じた断面形状を示す。ホールパターンが軸対称である場合、形状関数は、ホールパターンの軸に対する片側の側面の断面形状を示す。所定のパターン(例えば、微細なホールパターン)が近似的に軸対称な形状であると見なせる場合、所定のパターン(例えば、微細なホールパターン)の3次元形状は、形状関数で表される曲線を深さ方向軸の周りに回転させることで得られる。
【0020】
形状関数を用いることにより、プロセス開発において非常に時間のかかっている加工断面形状の時間的なトレースが非破壊で可能となり、同一又は類似のパラメータを流用しながら断面加工形状の時間的な変化を確認できる。このため、加工断面形状の時間的なトレースの開発TAT(Turn Around Time)を大幅に改善できる。
【0021】
コントローラ20は、予測部21、計算部22、調整部23、再構築部24及びライブラリ25を有する。予測部21は、ライブラリ25を参照して形状関数を取得する。予測部21は、図3に示すように、形状関数にパラメータを適用して加工断面形状を予測する。図3は、コントローラ20の動作を示す図である。計算部22は、予測された加工断面形状に応じてスペクトルパターンPT2を求める。計算部22は、予測された加工断面形状が放射線(例えば、X線)で回折された場合の散乱パターンをシミュレーションにより計算して求める。
【0022】
調整部23は、スペクトルパターンPT1をスペクトル取得部12から取得し、スペクトルパターンPT2を計算部22から取得する。スペクトルパターンPT1は、実際に測定部10で測定されたパターン(実測パターン)である。スペクトルパターンPT2は、計算部22で計算されたパターン(計算結果)である。調整部23は、スペクトルパターンPT1とスペクトルパターンPT2とを比較しながらパラメータを調整(突合せ)する。調整部23は、スペクトルパターンPT1とスペクトルパターンPT2とを比較し、両者の一致度が閾値より低ければパラメータを変更して予測部21へ供給する。
【0023】
予測部21は、形状関数に変更後のパラメータを適用して加工断面形状を予測する。計算部22は、予測された加工断面形状に応じてスペクトルパターンPT2を求める。調整部23は、スペクトルパターンPT1とスペクトルパターンPT2とを比較し、両者の一致度が閾値以上であれば、両者が一致している旨を再構築部24へ通知する。
【0024】
再構築部24は、調整部23の調整結果に応じて試料における加工断面形状を再構築する。すなわち、再構築部24は、スペクトルパターンPT1とスペクトルパターンPT2とが一致している旨が調整部23から通知されることに応じて、加工断面形状を予測部21から取得する。再構築部24は、取得された加工断面形状を試料における加工断面形状として決定(形状決定)する。
【0025】
すなわち、スペクトルパターンPT1とスペクトルパターンPT2とを一致させつつ、より忠実に実際の形状に近い加工断面形状を表現する形状関数を用いて加工断面形状を再構築するので、検査装置1による検査の精度を向上できる。
【0026】
次に、検査装置1の動作について図4を用いて説明する。図4は、検査装置の動作を示すフローチャートである。
【0027】
検査装置1は、スペクトルパターンPT1を測定により取得する(S1)。検査装置1は、所定のパターン(例えば、微細なホールパターン)が形成された試料SPに対して放射線(例えば、X線)を照射し、所定のパターンで回折された放射線輻射を検知する。検査装置1は、検知された放射線輻射に応じてスペクトルパターンPT1(例えば、実SAXS像)を生成する。また、検査装置1は、測定に用いた計測条件を特定する(S2)。計測条件は、測定における試料SPの傾斜角を含む。
【0028】
それと並行して、検査装置1は、ライブラリ25を参照して形状関数を取得する。(S3)。形状関数は、ドライエッチング処理における所定のパターン(例えば、微細なホールパターン)を加工する際のエッチング深さに応じた断面形状を示す。
【0029】
検査装置1は、S1で測定されたスペクトルパターンSP1とS2で取得された計測条件とS3で得られた形状関数とを用いて、S4~S7のループ処理を実行してパラメータを調整する。
【0030】
例えば、検査装置1は、スペクトルパターンSP1と計測条件とに応じたパラメータを決定し(S4)、パラメータを形状関数に適用して断面加工形状を予測する。検査装置1は、予測された断面加工形状に応じてスペクトルパターンPT2を計算により求める(S5)。検査装置1は、S1で測定されたスペクトルパターンPT1とS5で計算されたスペクトルパターンPT2とを比較し、誤差を評価し(S6)、評価結果がS4~S7のループ処理の収束条件を満たすか否かを判断する(S7)。
【0031】
検査装置1は、スペクトルパターンPT1とスペクトルパターンPT2との一致度が閾値より低ければ(S7でNo)、パラメータを変更し(S4)、形状関数に変更後のパラメータを適用して加工断面形状を予測する。検査装置1は、予測された加工断面形状に応じてスペクトルパターンPT2を再び計算により求める(S5)。検査装置1は、S1で測定されたスペクトルパターンPT1とS5で計算されたスペクトルパターンPT2とを比較し、誤差を評価し(S6)、評価結果がS4~S7のループ処理の収束条件を満たすか否かを判断する(S7)。すなわち、検査装置1は、スペクトルパターンPT1とスペクトルパターンPT2との一致度が閾値以上(S7でYes)になるまで、S4~S7のループ処理を繰り返す。
【0032】
検査装置1は、スペクトルパターンPT1とスペクトルパターンPT2との一致度が閾値以上になると(S7でYes)、S4で予測された断面加工形状が実測のスペクトルパターンPT1に対応する断面加工形状であるとして、処理を終了する。これにより、試料SPにおける加工断面形状が再構築され得る。再構築された加工断面形状は、例えば、プロセス条件の適切性を評価することなどに適用できる。
【0033】
次に、形状関数について説明する。形状関数は、ドライエッチング処理における所定のパターンを加工する際のエッチング深さに応じた断面形状を示す。
【0034】
ドライエッチング処理は、図5に示すようなプラズマ処理装置100で行われる。図5は、ドライエッチング処理を示す図である。図5において、試料SPの表面に垂直な方向をZ方向とし、Z方向に垂直な面内で直交する2方向をX方向及びY方向とする。
【0035】
処理室CH内の下部電極104b上に試料SPが載置される。試料SPの表面には、ハードマスクHM、微細なホールパターンRPaを有するレジストパターンRP(図示せず)が順に堆積される。レジストパターンRPをマスクとしてハードマスクHMがエッチング加工され、ホールパターンRPaがホールパターン200(図6参照)としてハードマスクHMに転写される。これにより、微細なホールパターン200を有するハードマスクHMが形成される。
【0036】
コントローラ101は、CPU101a及び記憶部101bを有する。記憶部101bには、プロセス条件情報101b1が記憶される。コントローラ101は、プロセス条件情報101b1に従い、ガス供給系102及び排気系103を制御し処理室CH内の処理ガス量を調整する。コントローラ101は、プロセス条件情報101b1に従い、電源104を制御し処理室CH内における上部電極104aと下部電極104bとの間に電界を形成する。
【0037】
これにより、処理室CH内における下部電極104bから+Z側に隔てられた空間CHaに処理ガスのプラズマPLを発生させ、処理ガスをイオン化する。また、点線の矢印で示されるように、-Z方向の電界により、処理ガスのイオン(反応性イオン)が試料SP(例えば、基板)上の被加工膜FMの側に加速される。試料SPは、ハードマスクHMをエッチングマスクとしてイオンが照射されることで、被加工膜FMに例えばホールパターン200に対応するホールパターン300(図6参照)のエッチング加工が施される。
【0038】
ハードマスクHMをマスクとして異方性エッチングの条件でエッチング加工を行うと、エッチング開始直後には、図6に示すように、処理ガスに応じた副生成物の膜DPがハードマスクHMの表面及びホールパターン200の側面に堆積される。図6は、加工断面形状の概略を示す図であり、ホールパターン200の中心軸CAを含むYZ断面図である。処理ガスは、例えば、フルオロカーボンなどのカーボン系のガスを含む。副生成物の膜DPは、例えばカーボン成分を含む。副生成物の膜DPは、ハードマスクHMの表面及び側面を覆うので、エッチングする際のエッチング保護膜として機能できる。これにより、異方性エッチングが良好に行われ得る。
【0039】
前述のように、T-SAXSによる形状ステップトレースを行うと、エッチング加工による加工断面形状の検査を非破壊で行うことができる。この際、加工中のハードマスクHMも含めた形状関数を作成する。これにより、ハードマスクHM及び被加工膜FMを含む加工断面形状を正確に検査できると期待される。
【0040】
ここで、形状関数は、ハードマスクHMに対応する部分と被加工膜FMに対応する部分とに分けて考える。
【0041】
被加工膜FMに対応する部分については、形状関数は、物理モデルに基づいて加工断面形状(加工断面プロファイル)を表現した関数とすることができる。形状関数は、エッチング深さに応じてホールパターン300の側壁301に入射するイオンフラックス量が深さ方向に積分された関数であってもよい。イオンフラックス量は、速度分布関数に基づくイオンの入射角度分布を含む。イオンの発生場所から出射されるイオンの広がり角をθとし、イオンの広がりの程度を示すパラメータをnとするとき、イオンフラックス量は、cosn+2θを含む。形状関数は、イオンの広がりの程度を示すパラメータを次数に含む代数方程式の解である。
【0042】
形状関数は、エッチング時間に応じた形状の変化をさらに示してもよい。形状関数は、エッチング時間に依存する係数をさらに含む。係数は、エッチングレートに時間を乗算した量を含む。すなわち、形状関数は、ドライエッチング処理のメカニズムにもとづく形状表現であるため、時間発展を含めた形状の表現が可能になる。パラメータの変動と加工時の状態との関連が明確なので、プロセス条件を変更した際、どのパラメータをどのくらい変更すれば良いかが推定できるためパラメータ決定が容易である。またフィッティング後のパラメータの値の変化から、主にイオン直進性に関連するプロセス条件の変化を検知できる可能性がある。
【0043】
これにより、プロセス開発において非常に時間のかかっている加工断面形状の時間的なトレースが非破壊で可能となり、同一又は類似のパラメータを流用しながら断面加工形状の時間的な変化を確認できる。このため、加工断面形状の時間的なトレースの開発TAT(Turn Around Time)を大幅に改善できる。
【0044】
一方、ハードマスクHMに対応する部分については、物理現象に不明な部分が多く、物理モデルに基づいて加工断面形状(加工断面プロファイル)を表現した関数とすることが困難である。
【0045】
例えば、形状関数として、複数次の多項式(例えば、3次および5次の多項式)を接続して表現された関数を用いることが考えられる。この場合、複数次の多項式を接続して表現された形状関数は、非常に多数のパラメータ(例えば、20個のパラメータ)を含むため、各パラメータと形状関数のグラフ形状との関係を把握しにくい。このため、多数のパラメータを並行して変更することになり、パラメータの調整において、形状関数のグラフ形状がハードマスクHM及び被加工膜FMの境界付近で大きく振動しやすいことなどの不安定性がある。これにより、複数次の多項式を接続して表現された形状関数では、パラメータの調整に要する時間が長くなりやすく、場合によっては、パラメータの調整ができない可能性がある。
【0046】
そこで、本実施形態では、ハードマスクHMに対応する部分について、形状関数に、形状関数のグラフ形状に対応するパラメータを適用して加工断面形状を予測し、グラフ形状に対応するパラメータを調整しながら加工断面形状を再構築する。これにより、複数次の多項式を接続して表現された形状関数を用いる場合に比べて、パラメータの調整をより少ない個数のパラメータで行うことができ、パラメータの調整を安定化できる。これにより、パラメータの調整でグラフ形状を所望の形状(例えば、経験的に予想される形状)に容易に近付けることができ、加工断面形状を効率的に再構築できる。
【0047】
ここで、形状関数として、パラメータがホールパターン200の間口201について経験的に予想される形状の特徴と近似的に対応するような関数を用いる。
【0048】
形状関数は、直線のベースラインとして、ハードマスクHMの上端側で直線に一致するような非対称な単峰関数を用いてもよい。
【0049】
形状関数は、1つの極値を持ち、グラフが極値の前後で非対称な形状を有してもよい。形状関数は、グラフが極値の前において極値から遠ざかるにつれて第1のパラメータに対応する傾きを有する漸近線に漸近しながらバックグランドレベルに近付き、且つ、グラフが極値の後において極値から遠ざかるにつれて第2のパラメータに対応した位置に配される変曲点を経由してバックグランドレベルに近付く形状を有してもよい。パラメータの調整では、第1のパラメータと第2のパラメータとがそれぞれ調整されてもよい。
【0050】
形状関数は、グラフが極値の前において漸近線に漸近する上向きの凸形状を有し、グラフが極値及び変曲点の間で上向きの凸形状を有し、グラフが変曲点の後において下向きの凸形状を有してもよい。
【0051】
例えば、副生成物の膜DPは、経験的に、図7に実線の曲線で示すような断面形状を有すると予測できる。この実線の曲線のうち、図7に太線で示す部分を形状関数で近似することを考える。形状関数は、xの関数S(x)で表すことにする。図7は、ハードマスクHM近傍の加工断面形状を示すYZ断面図であり、図6のA部分の拡大断面図である。
【0052】
まず、図7のYZ断面図上にxy座標系を設定する。xy座標系は、変数xに対応するx軸と、x軸に垂直なy軸とを有する。
【0053】
副生成物の膜DPの+Z側の面は、中心軸CAから十分離れたXY位置では平坦であり、Y方向に略平行である直線L0で近似できる。この直線L0を延長していったときにホールパターン202の中心軸CAと交わる点をxy座標系の原点Oとする。図8に示すように、原点Oを基準とし、中心軸CAに沿ってx軸を設定し、中心軸CAに垂直にy軸を設定する。図8は、加工断面形状に対するxy座標系の設定を示す図である。
【0054】
形状関数のグラフを太線の曲線に近付けることが目標である。形状関数は、xy座標系において、次の数式1で表される。
y=S(x)・・・数式1
【0055】
図7及び図8に示すように、太線の曲線は、-Z側の端点Pと+Z側の端点P0Mとを有する。
【0056】
ハードマスクHMの側面は、YZ断面視において、Z方向に沿い且つZ方向から若干傾いた直線L1で近似できる。ハードマスクHMと被加工膜FMとの界面は、YZ断面視において、Y方向に略平行な直線L2で近似できる。太線の曲線の-Z側の端点Pは、直線L1と直線L2との交点として規定され得る。点Pの座標を(x,y)と表す。太線の曲線の+Z側の端点P0Mは、直線L1と直線L0との交点として規定され得る。点P0Mの座標を(x0M,y0M)と表す。
【0057】
xy座標系における直線L1の傾きをAとすると、直線L1は、次の数式2に示すような1次関数で表される。
y=A(x-x)+y・・・数式2
【0058】
直線L1の傾きAは、次の数式3で求められる。
A=(y-y0M)/(x-x0M)・・・数式3
【0059】
太線の曲線は、極値の前後で非対称な形状を有し曲率の変化も不規則であることなどの理由により、1つの関数で近似することが困難であるため、複数の関数f、fを用いて近似する。
【0060】
例えば、形状関数S(x)は、次の数式4に示すように、直線L1に加えて、複数の関数f、fの積を含むものとすることができる。
y=S(x)
=A(x-x)+y-C・f・f・・・数式4
【0061】
数式4において、係数Cは、極値を調整するための任意の正の値である。数式4に示されるように、直線L1は太線の曲線に対するバックグランドとして捉えることができる。複数の関数f、fの積は、その直前が「-」となっていることから、y方向に反転して合成されることが分かる。
【0062】
太線の曲線を近似するにあたり、バックグランド除去及び関数値の反転を行うために、補助的な座標系として、図8に一点鎖線で示すxf座標系を設定する。図8は、太線の曲線の+Z側の端点P0Mをxf座標系の原点とする。原点P0Mを基準とし、直線L1に沿ってx’軸を設定し、直線L1に垂直にf軸を設定する。x’軸は、x軸にほぼ平行であるため、近似的にx軸とする。これにより、太線の曲線に対して、図9に示すように、xf座標系が設定される。xf座標系では、太線の曲線は、バックグランドが除去された形で得られる。図9は、加工断面形状に対するxf座標系の設定を示す図である。xf座標系において、f軸は、関数値を示す軸である。
【0063】
関数fは、グラフ形状が1つの極値を持ち且つ上に凸状であり、第1のパラメータを含む関数であってもよい。第1のパラメータは、グラフ形状が極値から遠ざかるにつれて漸近する漸近線の傾きに対応するパラメータである。関数fは、グラフ形状がS字状であり、第2のパラメータを含む関数であってもよい。第2のパラメータは、グラフ形状における変曲点の位置に対応するパラメータである。パラメータの調整では、第1のパラメータと第2のパラメータとがそれぞれ調整され、関数fのグラフ形状と関数fのグラフ形状とがそれぞれ変化されてもよい。
【0064】
例えば、図10(a)に示す関数fのパラメータが調整され、図10(b)に示す関数fのパラメータが調整された後、図10(a)に示す関数f図10(b)に示す関数fとの積により、図10(c)に示すような近似曲線が生成され得る。図10は、近似曲線の生成を示す図である。図10(a)、図10(b)、図10(c)では、f軸の値がそれぞれ正規化されている。
【0065】
例えば、図10(a)に示す関数fは、xf座標系において、次の数式5で示され得る。数式5は、図11(a)にも示してある。図11(a)に点線で囲って示す部分は、規格化因子である。規格化因子は、数式4に示す係数C=1のときに、関数fのピーク高さが1となるように決められる。
【数1】
【0066】
数式5において、x0Mは、関数fの原点のシフト因子である。
【0067】
数式5において、sは、スケール因子であり、関数fのグラフ形状をf軸方向に伸び縮みさせる係数である。sが大きいほど関数fのグラフ形状がf軸方向に縮み、sが小さいほど関数fのグラフ形状がf軸方向に伸びる。
【0068】
すなわち、sの値を調整することで関数fのグラフにおけるf軸方向の高さを太線の曲線(図9参照)のf軸方向の高さに近付けることができる。
【0069】
数式5において、bは、原点P0M近傍における関数fのグラフの傾きを調整するための係数である。bが大きいほど原点P0M近傍における関数fのグラフの傾きがゆるやかになり、bが小さいほど原点P0M近傍における関数fのグラフの傾きが急峻になる。
【0070】
例えば、b=bのとき、関数fのグラフ形状は、図11(b)に実線で示すように、原点P0M近傍における傾きが急峻である。b=b(>b)に増加させると、関数fのグラフ形状は、図11(b)に点線で示すように、原点P0M近傍における傾きがややゆるやかになる。b=b(>b)にさらに増加させると、関数fのグラフ形状は、図11(b)に一点鎖線で示すように、原点P0M近傍における傾きがさらにゆるやかになる。
【0071】
すなわち、bの値を調整することで関数fのグラフにおける原点P0M近傍の傾きを太線の曲線(図9参照)における原点P0M近傍の傾きに近付けることができる。
【0072】
図10(b)に示す関数fは、xf座標系において、次の数式6で示され得る。数式6は、図12(a)、図13(a)、図14(a)にもそれぞれ示してある。
【数2】
【0073】
数式6において、x0Mは、関数fの原点のシフト因子である。
【0074】
数式6において、γは、スケール因子であり、関数fのグラフ形状をx方向に伸び縮みさせる係数である。γが大きいほど関数fのグラフ形状がx軸方向に縮み、γが小さいほど関数fのグラフ形状がx軸方向に伸びる。
【0075】
例えば、γ=γのとき、関数fのグラフ形状は、図12(b)に実線で示すように、比較的x軸方向に縮んだ形状となっている。γ=γ(<γ)に減少させると、関数fのグラフ形状は、図12(b)に点線で示すように、ややx軸方向に伸びた形状になる。γ=γ(<γ)にさらに減少させると、関数fのグラフ形状は、図12(b)に一点鎖線で示すように、x軸方向にさらに伸びた形状になる。
【0076】
すなわち、γの値を調整することで関数fのグラフのX幅を太線の曲線(図9参照)のグラフのX幅に近付けることができる。
【0077】
数式6において、cは、変曲点の位置と変曲点における傾きとを変える係数である。cが大きいほど変曲点が原点P0Mから遠ざかり且つ変曲点における傾きが大きい。cが小さいほど変曲点が原点P0Mに近付き且つ変曲点における傾きが小さい。
【0078】
例えば、c=cのとき、関数fのグラフは、図13(b)に実線で示すように、変曲点がPであり且つ変曲点Pにおける傾きが小さい。c=c(>c)に増加させると、関数fのグラフは、図13(b)に点線で示すように、変曲点が原点P0Mからやや遠ざかったPとなり且つ変曲点Pにおける傾きがやや急峻になる。c=c(>c)にさらに増加させると、関数fのグラフは、図13(b)に一点鎖線で示すように、変曲点が原点P0Mからさらに遠ざかったPとなり且つ変曲点Pにおける傾きがさらに急峻になる。
【0079】
すなわち、cの値を調整することで、関数fのグラフの変曲点の位置と変曲点における傾きとを、太線の曲線(図9参照)の変曲点の位置と変曲点における傾きとに近付けることができる。
【0080】
数式6において、kは、変曲点の位置と変曲点における傾きとを変える係数である。kが大きいほど変曲点が原点P0Mに近付き且つ変曲点における傾きが大きい。kが小さいほど変曲点が原点P0Mから遠ざかり且つ変曲点における傾きが小さい。
【0081】
例えば、k=kのとき、関数fのグラフは、図14(b)に実線で示すように、変曲点がP11であり且つ変曲点P11において所定の傾きを有する。k=k(>k)に増加させると、関数fのグラフは、図14(b)に点線で示すように、変曲点が原点P0Mにやや近づいたP12となり且つ変曲点P12における傾きがやや急峻になる。k=k(>k)にさらに増加させると、関数fのグラフは、図14(b)に一点鎖線で示すように、変曲点が原点P0Mにさらに近づいたP13となり且つ変曲点P13における傾きがさらに急峻になる。
【0082】
すなわち、kの値を調整することで、関数fのグラフの変曲点の位置と変曲点における傾きとを、太線の曲線(図9参照)の変曲点の位置と変曲点における傾きとに近付けることができる。
【0083】
図11に示すようにパラメータが調整された関数f図12図14に示すようにパラメータが調整された関数fとの積により、例えば、図15に点線で示すような近似曲線が得られる。図15に示されるように、点線で示すような近似曲線は、再構築された加工断面形状を示し、太線の曲線を概ね良好に近似できていることが分かる。また、図15では、元のxy座標系を合わせて示している。xy座標系における点線の近似曲線は、求めるべき形状関数である。
【0084】
図11に示すようにパラメータが調整された関数fの式と図12図14に示すようにパラメータが調整された関数fの式とが数式4に代入され、調整された係数Cが数式4に適用されることで、xy座標系における形状関数S(x)の式が得られる。
【0085】
以上のように、第1の実施形態では、検査装置1は、形状関数に、形状関数のグラフ形状に対応するパラメータを適用して加工断面形状を予測し、グラフ形状に対応するパラメータを調整しながら加工断面形状を再構築する。これにより、複数次の多項式を接続して表現された形状関数を用いる場合に比べて、パラメータの調整をより少ない個数のパラメータで行うことができ、パラメータの調整を安定化できる。これにより、パラメータの調整でグラフ形状を所望の形状(例えば、経験的に予想される形状)に容易に近付けることができ、加工断面形状を効率的に再構築できる。
【0086】
また、第1の実施形態では、形状関数は関数fと関数fとの積を含む。関数fは第1のパラメータを含む。第1のパラメータは、グラフ形状が極値から遠ざかるにつれて漸近する漸近線の傾きに対応する。関数fは第2のパラメータを含む。第2のパラメータは、グラフ形状における変曲点の位置に対応する。パラメータの調整では、第1のパラメータと第2のパラメータとがそれぞれ調整され、関数fのグラフ形状と関数fのグラフ形状とがそれぞれ変化される。これにより、複数次の多項式を接続して表現された形状関数を用いる場合に比べて、パラメータの調整をより少ない個数のパラメータで行うことができる。
【0087】
なお、関数fは、数式5以外の関数であってもよい。関数fは、グラフ形状が1つの極値を持ち且つ上に凸状であり第1のパラメータを含む任意の関数であってもよい。第1のパラメータは、グラフ形状が極値から遠ざかるにつれて漸近する漸近線の傾きに対応するパラメータである。例えば、関数fは、カイ分布、カイ二乗分布、F分布、対数正規分布、ガンマ分布、ワイブル分布、Barr分布系、ジョンソン分布系、ピアソン分布系、レイリー分布を含む確率分布の確率密度関数のいずれかを含んでもよい。
【0088】
また、関数fは、数式6以外の関数であってもよい。関数fは、グラフ形状がS字状であり第2のパラメータを含む任意の関数であってもよい。第2のパラメータは、グラフ形状における変曲点の位置に対応するパラメータである。例えば、関数fは、逆正接関数、フェルミ関数、双曲線正接関数、ロジスティック関数、階段関数、ゴンペルツ関数、グルーデマン関数を含むシグモイド曲線をあらわす関数のいずれか、あるいは正規分布の生存関数、一般化正規分布の生存関数、歪んだ正規分布の生存関数、BarrXII型の生存関数を含む確率分布の生存関数のいずれかを含んでもよい。
【0089】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態にかかる検査装置について説明する。以下では、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0090】
第1の実施形態では、複数の関数f、fの積を含む形状関数S(x)が例示されるが、第2の実施形態では、複数の関数f、fの連結を含む形状関数S(x)が例示される。
【0091】
例えば、形状関数S(x)は、次の数式7に示すように、直線L1に加えて、複数の関数f、fの連結を含むものとすることができる。
y=S(x)
=A(x-x)+y-C・f||f・・・数式7
【0092】
数式7において、「f||f」は、互いに相補的な定義域を有する複数の関数f、fの連結を示す。「||」は、プログラミング言語等で用いられる連結演算子であるが、本明細書において、互いに相補的な定義域を有する複数の関数の連結を表すものとして流用する。係数Cは、極値を調整するための任意の正の値である。数式7に示されるように、直線L1は太線の曲線に対するバックグランドとして捉えることができる。複数の関数f、fの連結は、その直前が「-」となっていることから、y方向に反転して合成されることが分かる。
【0093】
太線の曲線を近似するにあたり、バックグランド除去及び関数値の反転を行うために、補助的な座標系として、図8に一点鎖線で示すxf座標系を設定する点は、第1の実施形態と同様である。
【0094】
関数fは、極値より前の区間を定義域として有し、グラフ形状が上に凸状であり、xの増加に応じて単調増加し、第1のパラメータを含む関数であってもよい。極値より前であるとは、そのx座標が極値のx座標より小さいことを意味する。第1のパラメータは、グラフ形状が極値から遠ざかるにつれて漸近する漸近線の傾きに対応するパラメータである。関数fは、極値より後の区間を定義域として有し、グラフ形状がS字状であり、xの増加に応じて単調減少し、第2のパラメータを含む関数であってもよい。極値より後であるとは、そのx座標が極値のx座標より大きいことを意味する。第2のパラメータは、グラフ形状における変曲点の位置に対応するパラメータである。パラメータの調整では、第1のパラメータと第2のパラメータとがそれぞれ調整され、関数fのグラフ形状と関数fのグラフ形状とがそれぞれ変化されてもよい。
【0095】
例えば、図16(a)に示す関数fのパラメータが調整され、図16(b)に示す関数fのパラメータが調整された後、図16(a)に示す関数f図16(b)に示す関数fとの連結により、図16(c)に示すような近似曲線が生成され得る。図16は、近似曲線の生成を示す図である。図16(a)、図16(b)、図16(c)では、f軸の値がそれぞれ正規化されている。
【0096】
例えば、図16(a)に示す関数fは、xf座標系において、次の数式8で示され得る。数式8は、図17(a)にも示してある。
【数3】
【0097】
数式8において、x0Mは、関数fの原点のシフト因子である。xpは、極値となる点のシフト因子である。
【0098】
数式8において、mは、原点P0M近傍における関数fのグラフの傾きを調整するための係数である。mが小さいほど原点P0M近傍における関数fのグラフの傾きがゆるやかになり、mが大きいほど原点P0M近傍における関数fのグラフの傾きが急峻になる。
【0099】
例えば、m=mのとき、関数fのグラフ形状は、図17(b)に実線で示すように、原点P0M近傍における傾きが急峻である。m=m(<m)に減少させると、関数fのグラフ形状は、図17(b)に点線で示すように、原点P0M近傍における傾きがややゆるやかになる。m=m(<m)にさらに減少させると、関数fのグラフ形状は、図17(b)に一点鎖線で示すように、原点P0M近傍における傾きがさらにゆるやかになる。m=m(<m)にさらに減少させると、関数fのグラフ形状は、図17(b)に二点鎖線で示すように、原点P0M近傍における傾きがさらにゆるやかになる。
【0100】
すなわち、mの値を調整することで関数fのグラフにおける原点P0M近傍の傾きを太線の曲線(図9参照)における原点P0M近傍の傾きに近付けることができる。
【0101】
図16(b)に示す関数fは、xf座標系において、次の数式9で示され得る。数式9は、図18(a)にも示してある。
【数4】
【0102】
数式9において、xは、極値となる点のシフト因子である。
【0103】
数式9において、nは、変曲点の位置と変曲点における傾きとを変える係数である。nが大きいほど変曲点が原点P0Mに近付き且つ変曲点における傾きが大きい。nが小さいほど変曲点が原点P0Mから遠ざかり且つ変曲点における傾きが小さい。
【0104】
例えば、n=nのとき、関数fのグラフは、図18(b)に実線で示すように、変曲点がP31であり且つ変曲点P31において所定の傾きを有する。n=n(>n)に増加させると、関数fのグラフは、図18(b)に点線で示すように、変曲点が原点P0Mにやや近づいたP32となり且つ変曲点P32における傾きがやや急峻になる。n=n(>n)にさらに増加させると、関数fのグラフは、図18(b)に一点鎖線で示すように、変曲点が原点P0Mにさらに近づいたP33となり且つ変曲点P33における傾きがさらに急峻になる。n=n(>n)にさらに増加させると、関数fのグラフは、図18(b)に二点鎖線で示すように、変曲点が原点P0Mにさらに近づいたP34となり且つ変曲点P34における傾きがさらに急峻になる。
【0105】
すなわち、nの値を調整することで、関数fのグラフの変曲点の位置と変曲点における傾きとを、太線の曲線(図9参照)の変曲点の位置と変曲点における傾きとに近付けることができる。
【0106】
図17に示すようにパラメータが調整された関数f図18に示すようにパラメータが調整された関数fとの連結により、例えば、図19に点線で示すような近似曲線が得られる。図19に示されるように、点線で示すような近似曲線は、再構築された加工断面形状を示し、太線の曲線を概ね良好に近似できていることが分かる。また、図19では、元のxy座標系を合わせて示している。xy座標系における点線の近似曲線は、求めるべき形状関数である。
【0107】
図17に示すようにパラメータが調整された関数fの式と図18に示すようにパラメータが調整された関数fの式とが数式7に代入され、調整された係数Cが数式7に適用されることで、xy座標系における形状関数S(x)の式が得られる。
【0108】
以上のように、第2の実施形態では、形状関数は関数fと関数fとの連結を含む。関数fは第1のパラメータを含む。第1のパラメータは、グラフ形状が極値から遠ざかるにつれて漸近する漸近線の傾きに対応する。関数fは第2のパラメータを含む。第2のパラメータは、グラフ形状における変曲点の位置に対応する。パラメータの調整では、第1のパラメータと第2のパラメータとがそれぞれ調整され、関数fのグラフ形状と関数fのグラフ形状とがそれぞれ変化される。これにより、複数次の多項式を接続して表現された形状関数を用いる場合に比べて、パラメータの調整をより少ない個数のパラメータで行うことができる。
【0109】
なお、極値の近傍における関数fのグラフの傾きと関数fのグラフの傾きとは、均等化されていてもよい。これにより、関数fのグラフの曲率と関数fのグラフの曲率とを極値の近傍で連続させることができ、関数fのグラフと関数fのグラフとを極値で滑らかに連結できる。
【0110】
関数fは、数式8以外の関数であってもよい。関数fは、極値より前の区間を定義域として有し、グラフ形状が上に凸状であり、xの増加に応じて単調増加し、第1のパラメータを含む任意の関数であってもよい。第1のパラメータは、グラフ形状が極値から遠ざかるにつれて漸近する漸近線の傾きに対応するパラメータである。例えば、関数fは、整数p,qを含む代数方程式Ax+By+C=0の解あるいは整数p,q,rを含むAx(x+B)+Cy+D=0である代数関数を並進操作・対称操作・スケール変換することで得られる代数関数を含んでもよい。
【0111】
関数fは、数式9以外の関数であってもよい。関数fは、極値より後の区間を定義域として有し、グラフ形状がS字状であり、xの増加に応じて単調減少し、第2のパラメータを含む関数任意の関数であってもよい。第2のパラメータは、グラフ形状における変曲点の位置に対応するパラメータである。例えば、関数fは、確率分布の確率密度関数のべき乗あるいは三角関数のべき乗により得られる関数を含んでもよい。
【0112】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0113】
1 検査装置、10 測定部、20 コントローラ。
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