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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013609
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】建築構造物用の制振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20240125BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
F16F15/02 C
E04H9/02 341C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115824
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】山本 雄大
(72)【発明者】
【氏名】浅井 伸介
(72)【発明者】
【氏名】高田 友和
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139BB02
2E139BB10
2E139BB24
2E139BC13
3J048BF02
3J048CB18
3J048CB22
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】特に大質量の副マスを採用して優れた制振作用を発揮させる場合にも、副マスの質量調整を容易に行うことができる、新規な構造の建築構造物用の制振装置を提供する。
【解決手段】上下方向視で矩形の主マス16と、主マス16の下方に配されて主マス16をベース部材74に対して弾性連結する複数の支持体14とを、備えた建築構造物用の制振装置10であって、主マス16の下方には、主マス16の下面に重ね合わされて取り付けられる追加マス46と、追加マス46よりも軽量で追加マス46の下面に重ね合わされて取り付けられる調整マス48とを含む副マス44が配されており、追加マス46が主マス16に対して第一ボルト60によってボルト固定されていると共に、調整マス48が追加マス46に対して第一ボルト60とは異なる第二ボルト70によって着脱可能に固定されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向視で矩形の主マスと、
該主マスの下方に配されて該主マスをベース部材に対して弾性連結する複数の支持体と
を、備えた建築構造物用の制振装置であって、
前記主マスの下方には、該主マスの下面に重ね合わされて取り付けられる追加マスと、該追加マスよりも軽量で該追加マスの下面に重ね合わされて取り付けられる調整マスとを含む副マスが配されており、
該追加マスが該主マスに対して第一ボルトによってボルト固定されていると共に、該調整マスが該追加マスに対して該第一ボルトとは異なる第二ボルトによって着脱可能に固定されている建築構造物用の制振装置。
【請求項2】
前記調整マスが前記追加マスに対して複数箇所で前記第二ボルトによって固定されており、
該調整マスには該第二ボルトが挿通される複数の第二挿通孔が設けられており、
該第二挿通孔が相互に平行に延びる直線的なスリット状とされて、各該第二挿通孔の一方の端部が該調整マスの同じ側面に開口する開口端とされ、各該第二挿通孔の他方の端部が該調整マスの側面まで達していない奥端とされており、
該追加マスには該第二挿通孔に挿通された該第二ボルトが螺着される複数の第二螺着孔が設けられており、
それら第二挿通孔と第二螺着孔が何れも該調整マスの中心に対して非対称に配置されている請求項1に記載の建築構造物用の制振装置。
【請求項3】
前記追加マスが前記主マスに対して複数箇所で前記第一ボルトによってボルト固定されており、該第一ボルトが螺着される該主マスの第一螺着孔および該第一ボルトが挿通される該追加マスの第一挿通孔が、何れも該追加マスの中心に対して非対称とされている請求項2に記載の建築構造物用の制振装置。
【請求項4】
前記追加マスには、前記調整マス側へ向けて突出して前記第二挿通孔に挿入されるピンが、前記第二螺着孔よりも該第二挿通孔の前記開口端側に設けられており、該第二挿通孔の長さ方向において該ピンから該開口端までの距離が前記奥端から該開口端と反対側に位置する該調整マスの側面までの距離より短くされている請求項2又は3に記載の建築構造物用の制振装置。
【請求項5】
前記複数の第二挿通孔の長さ寸法が相互に異なっており、長い方の該第二挿通孔上に位置する前記第二螺着孔の少なくとも1つが、短い方の該第二挿通孔よりも前記奥端側に位置している請求項2又は3に記載の建築構造物用の制振装置。
【請求項6】
前記複数の第二挿通孔の幅寸法が相互に異なっており、幅広の該第二挿通孔上に位置する前記第二螺着孔が幅狭の該第二挿通孔上に位置する該第二螺着孔よりも大径とされている請求項2又は3に記載の建築構造物用の制振装置。
【請求項7】
前記複数の第二挿通孔は、前記調整マスの中心からの距離が相互に異なっている請求項2又は3に記載の建築構造物用の制振装置。
【請求項8】
前記主マスが平面視で長方形とされており、
該主マスの長辺方向において前記追加マス及び前記調整マスが前記支持体間に配されて、
該主マスの短辺方向における該調整マスの両端部が、該主マスの長辺方向で隣り合う該支持体間に位置しており、
該調整マスの前記第二挿通孔が該主マスの短辺方向に延びている請求項2又は3に記載の建築構造物用の制振装置。
【請求項9】
前記追加マスには、前記第一ボルトの頭部を収容する収容凹部が前記第一挿通孔の開口部に設けられており、該収容凹部の開口が前記調整マスによって覆われている請求項1又は2に記載の建築構造物用の制振装置。
【請求項10】
前記支持体の上端部がブラケットを介して前記主マスに取り付けられており、
該主マスには、該支持体と該ブラケットとの連結部の上方において上下方向に貫通する作業孔が設けられている請求項1又は2に記載の建築構造物用の制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病院やホテルなどの建築構造物において、交通振動や風等により発生する振動を抑制するために設置される建築構造物用の制振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
住宅等の建築構造物では、交通振動や風等の外力が加振力として作用することによって振動が発生する場合がある。そこで、このような振動を低減する手段の1つとして、特開2003-139191号公報(特許文献1)等には、建築構造物用の制振装置が提案されている。特許文献1の制振装置は、マス部材をゴムマウントによって弾性支持する構造を有しており、交通振動等の外力が加振力として作用する際に、マス部材が略水平方向に振動(並進運動)することによって、加振力を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-139191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、建築構造物用の制振装置は、制振作用を有効に得るために、建築構造物の質量に応じたマス部材の質量が必要になる。従って、一般住宅等の小型建築構造物では、加振力を十分に低減するために必要なマス部材の質量が比較的に小さく、制振装置の設置数を少なくすることができるが、集合住宅、病院、ホテルなどの大規模建築構造物では、加振力を十分に低減するために必要なマス部材の質量が大きくなることから、多数の制振装置を設置する必要があった。
【0005】
そこで、マス部材の質量を大きくして、必要な制振装置の設置基数を少なくするために、支持体で支持された主マスの下側のスペースを利用して副マス(錘)を設ける構造が特許文献1において提案されている。特許文献1の副マスは、例えば複数の錘部材を積層状態で主マスにボルト固定した構造であり、錘部材の積層数を変更することで、副マスの質量を調節することが可能とされている。
【0006】
しかしながら、特許文献1では、複数の錘部材が主マスに対して一括でボルト固定されていることから、質量調整のためにボルトを緩めたり、取り外したりすると、それら複数の錘部材全体のボルト固定に影響し、作業者が錘部材の質量を支えながら作業をする必要が生じたり、残ったボルトに大きな荷重が作用して損傷したりすることも考えられた。
【0007】
本発明の解決課題は、特に大質量の副マスを採用して優れた制振作用を発揮させる場合にも、副マスの質量調整を容易に行うことができる、新規な構造の建築構造物用の制振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0009】
第一の態様は、上下方向視で矩形の主マスと、該主マスの下方に配されて該主マスをベース部材に対して弾性連結する複数の支持体とを、備えた建築構造物用の制振装置であって、前記主マスの下方には、該主マスの下面に重ね合わされて取り付けられる追加マスと、該追加マスよりも軽量で該追加マスの下面に重ね合わされて取り付けられる調整マスとを含む副マスが配されており、該追加マスが該主マスに対して第一ボルトによってボルト固定されていると共に、該調整マスが該追加マスに対して該第一ボルトとは異なる第二ボルトによって着脱可能に固定されているものである。
【0010】
本態様に従う構造とされた建築構造物用の制振装置によれば、比較的に質量が大きい追加マスが主マスに対して第一ボルトで固定されていることから、主マスに固定されて着脱されない追加マスによって、マス部材の質量を大きく確保することができる。それゆえ、制振装置で構成される副振動系の制振作用が、主振動系を構成する建築構造物に対して有効に及ぼされて、建築構造物の振動状態の改善が図られる。しかも、追加マスは、下方を支持体で支持された主マスの下面に重ね合わされて取り付けられることから、例えば支持体間のスペースを有効に利用して追加マスを配することができる。
【0011】
追加マスよりも軽量の調整マスが、追加マスに対して第一ボルトとは別の第二ボルトによって着脱可能に取り付けられていることから、第二ボルトを緩めることによって、追加マスを主マスに対して固定したままで調整マスだけを取り外す又は追加することができる。これにより、質量が比較的に大きい追加マスを作業者が支える等する必要なく、軽量の調整マスだけを着脱してマス部材の質量を調節することができる。従って、質量の大きな副マスが求められる場合に、追加マスによって副マスの質量を確保しながら、調整マスによって副振動系の共振周波数のチューニングを容易に行うことができる。
【0012】
第二の態様は、第一の態様に記載された建築構造物用の制振装置において、前記調整マスが前記追加マスに対して複数箇所で前記第二ボルトによって固定されており、該調整マスには該第二ボルトが挿通される複数の第二挿通孔が設けられており、該第二挿通孔が相互に平行に延びる直線的なスリット状とされて、各該第二挿通孔の一方の端部が該調整マスの同じ側面に開口する開口端とされ、各該第二挿通孔の他方の端部が該調整マスの側面まで達していない奥端とされており、該追加マスには該第二挿通孔に挿通された該第二ボルトが螺着される複数の第二螺着孔が設けられており、それら第二挿通孔と第二螺着孔が何れも該調整マスの中心に対して非対称に配置されているものである。
【0013】
本態様に従う構造とされた建築構造物用の制振装置によれば、第二ボルトが挿通される第二挿通孔がスリット状とされることにより、第二ボルトを第二螺着孔から完全に取り外すことなく、調整マスを第二挿通孔の長さ方向へスライドさせて、第二挿通孔の開口端を通じて第二ボルトを第二挿通孔から離脱させる又は第二挿通孔に挿入することで、調整マスを追加マスに対して簡単に着脱することができる。
【0014】
複数の第二挿通孔の一方の端部が調整マスの同じ側面に開口する開口端とされており、他方の端部が調整マスの側面まで達しない奥端とされていることから、調整マスのスライド着脱方向が第二挿通孔の長さ方向の一方側に規定されている。
【0015】
第三の態様は、第二の態様に記載された建築構造物用の制振装置において、前記追加マスが前記主マスに対して複数箇所で前記第一ボルトによってボルト固定されており、該第一ボルトが螺着される該主マスの第一螺着孔および該第一ボルトが挿通される該追加マスの第一挿通孔が、何れも該追加マスの中心に対して非対称とされているものである。
【0016】
本態様に従う構造とされた建築構造物用の制振装置によれば、追加マスが主マスに対して誤った向きで取り付けられる場合に、追加マスの主マスに対する取付け態様が適切な向きで取り付けられた場合と異なったり、追加マスの主マスに対する取付けが不可能となったりする。それゆえ、追加マスの主マスに対する取付時の向きの誤りを、目視等によって簡単に把握することができる。このように、追加マスが主マスに対して適切な向きで取り付けられることにより、追加マスに対する調整マスの着脱時に調整マスの主マスに対するスライド方向が意図しない方向となるのを防ぐことができる。
【0017】
第四の態様は、第二又は第三の態様に記載された建築構造物用の制振装置において、前記追加マスには、前記調整マス側へ向けて突出して前記第二挿通孔に挿入されるピンが、前記第二螺着孔よりも該第二挿通孔の前記開口端側に設けられており、該第二挿通孔の長さ方向において該ピンから該開口端までの距離が前記奥端から該開口端と反対側に位置する該調整マスの側面までの距離より短くされているものである。
【0018】
本態様に従う構造とされた建築構造物用の制振装置によれば、調整マスが追加マスに対して逆向きのスライド方向で取り付けられる場合に、第二挿通孔へ挿入されたピンと第二挿通孔の奥端との当接によって、調整マスの追加マスに対する取付位置が第二挿通孔の長さ方向にずれる。これにより、調整マスの追加マスに対する誤った向きでの取付けが、目視による確認等によって簡単に防止される。
【0019】
第五の態様は、第二~第四の何れか1つの態様に記載された建築構造物用の制振装置において、前記複数の第二挿通孔の長さ寸法が相互に異なっており、長い方の該第二挿通孔上に位置する前記第二螺着孔の少なくとも1つが、短い方の該第二挿通孔よりも前記奥端側に位置しているものである。
【0020】
本態様に従う構造とされた建築構造物用の制振装置によれば、調整マスの追加マスに対する取付けの向きが適切ではない場合に、複数の第二挿通孔の長さ寸法の違いによって調整マスの追加マスに対する取付位置がずれることから、目視等によって誤組付けを簡単に把握することができる。
【0021】
第六の態様は、第二~第五の何れか1つの態様に記載された建築構造物用の制振装置において、前記複数の第二挿通孔の幅寸法が相互に異なっており、幅広の該第二挿通孔上に位置する前記第二螺着孔が幅狭の該第二挿通孔上に位置する該第二螺着孔よりも大径とされているものである。
【0022】
本態様に従う構造とされた建築構造物用の制振装置によれば、調整マスの追加マスに対する取付けの向きが適切ではない場合に、複数の第二挿通孔の幅寸法及び第二螺着孔の直径の違いによってボルト固定不能となることから、誤組付けを簡単に把握することができる。
【0023】
第七の態様は、第二~第六の何れか1つの態様に記載された建築構造物用の制振装置において、前記複数の第二挿通孔は、前記調整マスの中心からの距離が相互に異なっているものである。
【0024】
本態様に従う構造とされた建築構造物用の制振装置によれば、調整マスの追加マスに対する取付けの向きが適切ではない場合に、複数の第二挿通孔の調整マスの中心からの距離の違いによって、調整マスの追加マスに対する取付位置がずれることから、誤組付けを簡単に把握することができる。
【0025】
第八の態様は、第二~第七の何れか1つの態様に記載された建築構造物用の制振装置において、前記主マスが平面視で長方形とされており、該主マスの長辺方向において前記追加マス及び前記調整マスが前記支持体間に配されて、該主マスの短辺方向における該調整マスの両端部が、該主マスの長辺方向で隣り合う該支持体間に位置しており、該調整マスの前記第二挿通孔が該主マスの短辺方向に延びているものである。
【0026】
本態様に従う構造とされた建築構造物用の制振装置によれば、副マスが主マスの長辺方向における支持体間に配されることにより、副マスの配設領域を大きく確保することができる。
【0027】
調整マスの第二挿通孔が主マスの短辺方向に延びていることにより、調整マスの着脱時のスライド方向が主マスの短辺方向となって、調整マスが主マスの長辺方向の両側に配された支持体の間へスライドされることから、調整マスの着脱時に調整マスと支持体との干渉が問題になり難い。
【0028】
第九の態様は、第一~第八の何れか1つの態様に記載された建築構造物用の制振装置において、前記追加マスには、前記第一ボルトの頭部を収容する収容凹部が前記第一挿通孔の開口部に設けられており、該収容凹部の開口が前記調整マスによって覆われているものである。
【0029】
本態様に従う構造とされた建築構造物用の制振装置によれば、追加マスを主マスに固定する第一ボルトの頭部が収容凹部に収容されることにより、調整マスを収容凹部の開口まで延び出させることができて、調整マスの質量を効率的に確保することができる。なお、追加マスは主マスに対して固定状態に保持されており、調整マスの追加マスに対する着脱が第二ボルトの操作によって行われることから、収容凹部の開口部が調整マスで覆われていても、マス部材の質量調整作業には影響しない。
【0030】
第十の態様は、第一~第九の何れか1つの態様に記載された建築構造物用の制振装置において、前記支持体の上端部がブラケットを介して前記主マスに取り付けられており、
該主マスには、該支持体と該ブラケットとの連結部の上方において上下方向に貫通する作業孔が設けられているものである。
【0031】
本態様に従う構造とされた建築構造物用の制振装置によれば、主マスを貫通する作業孔を通じて支持体と取付金具とを連結する連結部を上方から操作することが可能となって、製造時に支持体の取付金具への取付け作業や支持体の向きの調整作業などを容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、建築構造物用の制振装置において、特に大質量の副マスを採用して優れた制振作用を発揮させる場合にも、副マスの質量調整を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の第一実施形態としての建築構造物用の制振装置を示す正面図
図2図1に示す建築構造物用の制振装置の平面図
図3図2のIII-III断面図
図4図1に示す建築構造物用の制振装置を構成する主マスの平面図
図5図1に示す建築構造物用の制振装置を構成する追加マスの平面図
図6図1に示す建築構造物用の制振装置を構成する調整マスの平面図
図7A図1に示す建築構造物用の制振装置において、調整マスが追加マスに対して適切な向きで取り付けられた状態を示す図
図7B図1に示す建築構造物用の制振装置において、調整マスが追加マスに対して誤った向きで配置された状態を示す図
図7C図1に示す建築構造物用の制振装置において、調整マスが追加マスに対して誤った向きで配置された状態を示す図
図7D図1に示す建築構造物用の制振装置において、調整マスが追加マスに対して誤った向きで配置された状態を示す図
図8図1に示す建築構造物用の制振装置を含んで構成された建築構造物用の制振構造体
図9A】本発明の第二実施形態としての建築構造物用の制振装置を示す底面図
図9B図9Aに示す建築構造物用の制振装置において、調整マスが追加マスに対して誤った向きで配置された状態を示す図
図10A】本発明の第三実施形態としての建築構造物用の制振装置を示す底面図
図10B図10Aに示す建築構造物用の制振装置において、調整マスが追加マスに対して誤った向きで配置された状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0035】
図1図3には、本発明に従う構造とされた建築構造物用の制振装置(以下、制振装置と称する)10が示されている。制振装置10は、マス部材12に支持体としてのゴムマウント14が取り付けられた構造を有している。以下の説明では、原則として、上下方向とは鉛直高さ方向である図1中の上下方向を、前後方向とは後述する主マス16の短辺方向である図2中の上下方向を、左右方向とは主マス16の長辺方向である図1中の左右方向を、それぞれ言う。
【0036】
マス部材12は、主マス16を含んで構成されている。主マス16は、金属または金属等を含んだ高比重の材料で形成されていることが望ましい。主マス16は、直方体であって、上下方向視において短辺方向(前後方向)と長辺方向(左右方向)がある長方形とされている。図4に示すように、主マス16には、他部材の取付けや製造時の作業性向上などを目的とする複数の穴が上下方向に貫通して形成されている。具体的には、例えば、主マス16の四隅部分には、各一対のブラケット取付孔18,18が形成されており、一対のブラケット取付孔18,18の間に作業孔20が形成されている。
【0037】
また、主マス16の長さ方向の中間部分には、4つの第一螺着孔22,22,22,22が形成されている。それら4つの第一螺着孔22,22,22,22は、3つが主マス16の中心G1を中心とする仮想矩形Sの角に配置されていると共に、右前方に配された1つが仮想矩形Sの角を外れている。そして、仮想矩形Sの角を外れて配置された第一螺着孔22は、他の3つの第一螺着孔22,22,22に対して、仮想矩形Sの中心(後述する追加マス46の中心G2)を通る上下軸、前後軸、左右軸の各軸に関する180度の回転対称とはならない非対称な位置に配置されている。要するに、仮想矩形Sの角を外れて配置された第一螺着孔22は、仮想矩形Sの中心を通る上下軸、前後軸、左右軸の各軸回りの180度の回転によって、他の第一螺着孔22,22,22の回転前の位置に移動することがないように配置されている。なお、第一螺着孔22の内周面には、後述する第一ボルト60と螺合するねじ山が形成されている。
【0038】
主マス16は、四隅の下方が支持体としてのゴムマウント14によってそれぞれ支持されている。ゴムマウント14は、構造を特に限定されるものではないが、本実施形態では、図1に示すように、所定の間隔で積層された複数枚のプレート部材24が、ゴム弾性体26によって相互に弾性連結された積層構造を有している。プレート部材24は、上下方向視で長方形の矩形板状とされており、長辺方向の両端部分にゴム弾性体26が固着されている。ゴム弾性体26は、プレート部材24の短辺方向に延びる矩形ブロック状とされており、上下方向で隣り合うプレート部材24,24の対向間にそれぞれ配されている。各ゴム弾性体26は、プレート部材24に形成された図示しない貫通孔を通じて相互に連続していると共に、プレート部材24の表面を覆う被覆ゴムによっても相互に連続しており、複数のゴム弾性体26が一体的に形成されている。なお、図1図3では、見易さのために、被覆ゴムで覆われたプレート部材に符号24を付した。
【0039】
ゴム弾性体26が固着されたプレート部材24の長辺方向の対辺部分(両端部分)は、長辺方向の外側へ向けて上傾する傾斜部28とされている。これにより、マス部材12の分担支持荷重をゴム弾性体26に作用する圧縮力として受けることができると共に、プレート部材24の長辺方向と短辺方向のばね特性の違いを大きくすることができ、ゴムマウント14の向きを調節することによって、後述するマス-バネ共振系の共振周波数をより大きな自由度で調節することができる。
【0040】
ゴムマウント14は、上端部に配された第一取付部材30が取付金具としてのブラケット32を介して主マス16に固定されている。ブラケット32は、略矩形断面で延びる溝状部34の両側壁の上端からフランジ状の取付片36がそれぞれ溝幅方向の外側へ向けて延び出した構造を有している。そして、取付片36,36のボルト孔に挿通された取付ボルト37が主マス16のブラケット取付孔18に螺着されることによって、ブラケット32が主マス16に固定されている。ブラケット32の溝状部34の底壁部分には、第一取付部材30から上方へ向けて突出する上締結ボルト38が挿通されており、上締結ボルト38にナット40が螺着されて連結部が構成されることによって、ゴムマウント14がブラケット32に固定されている。ナット40は、主マス16の作業孔20に対して位置決めされており、上方から作業孔20に挿入される工具によって緩める又は締め込むことが可能とされている。
【0041】
なお、ゴムマウント14の下端部には、第二取付部材42が設けられており、第二取付部材42には下方へ突出する下締結ボルト43が設けられている。
【0042】
主マス16には、主マス16よりも質量が小さい副マス44が取り付けられており、それら主マス16と副マス44とを含んで本実施形態のマス部材12が構成されている。副マス44は、主マス16の下方に配されており、ゴムマウント14に対して左右方向の内側に配されている。副マス44の前後端部は、左右方向に隣り合って配されたゴムマウント14,14の左右方向間に位置しており、左右方向の投影においてゴムマウント14と重なり合っている。副マス44は、主マス16の下面に重ね合わされて取り付けられた追加マス46と、追加マス46の下面に重ね合わされて取り付けられた調整マス48とを、含んでいる。
【0043】
追加マス46は、主マス16と同様に高比重の材料で形成されていることが望ましく、直方体又は立方体とされており、本実施形態では、厚肉の略矩形板状とされている。追加マス46は、平面視の大きさが主マス16よりも小さくされており、本実施形態では、図2に示すように、前後方向の長さが主マス16と略同じとされていると共に、左右方向の長さが主マス16よりも小さくされている。追加マス46は、左右方向においてゴムマウント14の間に配されており、ゴムマウント14に対して左右方向の内側に離隔している。
【0044】
追加マス46には、図5に示すように、4つの第一挿通孔50,50,50,50が形成されている。第一挿通孔50は、追加マス46を上下方向に貫通する円形孔であって、主マス16の第一螺着孔22と対応する形状で対応する位置に形成されている。また、追加マス46における第一挿通孔50の下開口部の周囲には、収容凹部52が形成されている。収容凹部52は、第一挿通孔50よりも大径の円形断面を有する凹所であって、第一挿通孔50の下開口部が収容凹部52の底面に開口している。
【0045】
追加マス46には、3つの第二螺着孔54,54,54が形成されている。すなわち、追加マス46の中心G2に対して左方へ離れた位置に1つの第二螺着孔54aが設けられていると共に、右方へ離れた位置に2つの第二螺着孔54b,54bが設けられており、それら2つの第二螺着孔54b,54bが前後方向で所定の距離を隔てて並んで位置している。第二螺着孔54aは、前後方向において追加マス46の中央部分に設けられており、第二螺着孔54b,54bは、追加マス46の中央部分に対して前後各一方側へ略同じ距離だけ離れた位置に設けられている。このように、3つの第二螺着孔54a,54b,54bは、追加マス46の中心G2を通る上下軸に関する180度の回転対称とはならないように非対称に配置されている。更に、3つの第二螺着孔54a,54b,54bは、追加マス46の中心G2を通る前後軸に関する180度の回転対称とはならないように非対称に配置されている。
【0046】
追加マス46には、ピン56が設けられている。ピン56は、円形断面で上下方向に延びるロッド状とされている。ピン56は、図3に示すように、上部が追加マス46に形成されたピン固定孔58に対して圧入固定されており、下部が追加マス46よりも下方へ突出している。ピン56は、前後方向に並んだ2つの第二螺着孔54b,54bよりも後方に離れた位置に配置されている。本実施形態のピン56は、追加マス46から突出した下部が上部よりも大径とされているが、下部と上部が略同じ直径でもよいし、下部が上部よりも小径とされていてもよい。また、ピン56は、追加マス46と別部材とされているが、追加マス46に一体的に設けられて下方へ突出する突起状であってもよい。
【0047】
追加マス46は、主マス16の下面に重ね合わされており、主マス16に対して第一ボルト60で取り付けられている。第一ボルト60は、追加マス46の第一挿通孔50に挿通された状態で、主マス16を上下方向に貫通する第一螺着孔22に螺着されることにより、追加マス46を主マス16に対してボルト固定する。本実施形態では、4つの第一ボルト60,60,60,60によって追加マス46が主マス16に対して4箇所でボルト固定されている。第一ボルト60の頭部62は、追加マス46の収容凹部52に収容されており、追加マス46の下面に対して下方へ突出していない。なお、収容凹部52は、第一ボルト60の頭部62を回転操作するための工具を挿入可能な直径とされており、収容凹部52の周壁内面と第一ボルト60の頭部62の外周面との間には隙間が設けられている。
【0048】
追加マス46を主マス16に固定する際に、1つの第一螺着孔22及び1つの第一挿通孔50が、それぞれ他の3つに対する非対称位置に配置されていることから、第一挿通孔50,50,50,50に挿通された第一ボルト60,60,60,60を第一螺着孔22,22,22,22に螺着させる際に、追加マス46の主マス16に対する向きが一義的に規定される。即ち、図2に示す適切な取付方向以外の方向で追加マス46を主マス16に取り付けようとすると、少なくとも1つの第一螺着孔22に対して第一ボルト60の螺着が不可能となることから、追加マス46が主マス16に対して適切な向きでのみ取付け可能とされている。
【0049】
追加マス46には、調整マス48が取り付けられている。調整マス48は、追加マス46に比して質量が小さくされた略矩形板状の部材であって、主マス16及び追加マス46と同様に好適には鉄等の比重が大きな金属材料等によって形成されている。調整マス48は、図2に示すように、上下方向視において追加マス46と略対応する外形とされており、前後方向の長さ寸法が追加マス46と略同じとされていると共に、左右方向の長さ寸法が追加マス46よりも僅かに小さくされている。調整マス48は、追加マス46に対して上下方向の厚さ寸法が小さくされている。本実施形態では、調整マス48が6枚設けられた構造を図示したが、それら調整マス48全体の厚さ寸法は、追加マス46の厚さ寸法よりも小さくされている。調整マス48は、後述するように、制振装置10の建築構造物への設置後にも着脱されることから、作業時の安全性等を考慮して、四隅が面取り加工されている。
【0050】
調整マス48は、図6に示すように、第二挿通孔64を備えている。第二挿通孔64は、上下方向に貫通しており、何れも前後方向に直線的に延びるスリット状とされている。第二挿通孔64は、前後方向の一端が調整マス48の側面(後面)まで達して側方へ開口する開口端66とされていると共に、前後方向の他端が調整マス48の側面(前面)までは達しない奥端68とされている。奥端68の壁内面は、図6に示すような略半円形とされていることが望ましいが、例えば前後方向と直交して広がる平面などであってもよく、形状を限定されるものではない。
【0051】
調整マス48には、長さが相互に異なる2つの第二挿通孔64a,64bが形成されている。短い方の第二挿通孔64aの長さ寸法は、調整マス48の前後方向の長さ寸法に対して、好適には1/2倍以上とされている。第二挿通孔64a,64bは、調整マス48の中心G3からの左右方向の距離が略同じとされている。2つの第二挿通孔64a,64bは、何れも、後端が開口端66、前端が奥端68とされており、開口端66,66が調整マス48の同じ側面(後面)に開口している。
【0052】
第二挿通孔64a,64bは、開口端66と奥端68を有する片側開放の貫通スリット状とされており、前後方向の長さが相互に異なっていることから、調整マス48の中心G3を通る上下軸、前後軸、左右軸の各軸に関する180度の回転対称となっておらず、何れの軸回りについても非対称な形状とされている。
【0053】
調整マス48は、追加マス46の下面に重ね合わされており、追加マス46に対して第一ボルト60とは別の第二ボルト70で取り付けられている。第二ボルト70が、調整マス48の第二挿通孔64に挿通された状態で、追加マス46を上下方向に貫通する第二螺着孔54に螺着されることにより、調整マス48が追加マス46に対してボルト固定される。
【0054】
調整マス48は、左右端部が追加マス46の収容凹部52上まで達しており、収容凹部52の開口部が調整マス48によって覆蓋されている。第一ボルト60の頭部62は、収容凹部52から下方へ突出することなく収容状態で配されていることから、調整マス48に干渉しない。このような構造とされていることによって、調整マス48の上下方向視の面積を大きくすることができて、薄肉の調整マス48であっても質量を効率的に確保することができる。なお、副マス44の質量の調整は、調整マス48の着脱によって行われることから、追加マス46は主マス16からの取り外しを想定されておらず、第一ボルト60の頭部62が収容された収容凹部52が調整マス48で覆われて、第一ボルト60が操作し難くなっていても問題ない。更に、第一ボルト60の頭部62が調整マス48で覆われていることにより、例えば、調整マス48の着脱作業を行う際に、誤って第一ボルト60を操作してしまうのを防ぐことができる。
【0055】
調整マス48は、追加マス46への取付けによって、ゴムマウント14に対して左右方向の内側に配置されており、特に前後方向の両端部が左右両側のゴムマウント14,14の間に位置している。従って、調整マス48は、前後方向の投影においてゴムマウント14と重なり合っておらず、左右方向の投影においてゴムマウント14と重なり合っている。これにより、例えば、第二ボルト70を第二挿通孔64に沿って相対移動させながら調整マス48を追加マス46に対して前方へスライド変位させる際に、調整マス48とゴムマウント14との干渉(接触)が回避される。
【0056】
調整マス48は、第二ボルト70の締付けを緩める或いは第二螺着孔54への螺着を解除することにより、追加マス46から取り外す或いは追加マス46に追加で取り付けることができるように、着脱可能にボルト固定されている。第二ボルト70の頭部は、調整マス48の下面よりも下方に突出しており、第二ボルト70を緩める或いは締め付ける作業を行い易くなっている。調整マス48の数は、特に限定されないが、本実施形態では6枚とされている。また、各調整マス48の質量は、追加マス46よりも軽量であれば、特に限定されない。好適には、調整マス48の質量の総和が追加マス46の質量よりも小さくされる。
【0057】
調整マス48は、第二挿通孔64が前後方向に延びる直線的なスリット状とされて後方へ向けて開口する開口端66を備えていることにより、第二ボルト70を第二螺着孔54から取り外すことなく追加マス46に対して着脱可能とされている。即ち、第二ボルト70の締付けを緩めた状態で、第二ボルト70の頭部と追加マス46との間へ調整マス48を前方から後方へ向けて挿入すれば、第二螺着孔54に予め螺着された第二ボルト70を開口端66から第二挿通孔64に挿入することができ、第二ボルト70の締付けによって、追加された調整マス48を追加マス46に固定することができる。また、第二ボルト70の締付けを緩めた状態で、調整マス48を前方へ向けて移動させることにより、第二螺着孔54に螺着されたままの第二ボルト70が開口端66を通じて第二挿通孔64から離脱して、調整マス48を追加マス46から取り外すことができる。
【0058】
調整マス48は、複数の第二ボルト70によって、追加マス46に対して複数箇所で固定されている。本実施形態では、3つの第二ボルト70,70,70によって、調整マス48が追加マス46に取り付けられている。3つの第二ボルト70,70,70は、1つが短い方の第二挿通孔64aに挿通されていると共に、2つが長い方の第二挿通孔64bに対して長さ方向(前後方向)の2か所において挿通されている。第二螺着孔54b,54bに螺着された第二ボルト70,70は、第二螺着孔54aに対して開口端66側(後側)と奥端68側とにそれぞれ位置しており、奥端68側の第二螺着孔54b(第二ボルト70)が第二挿通孔64aの奥端68よりも前側に位置している。第二螺着孔54aに螺着された第二ボルト70は、第二挿通孔64aの奥端68に挿通されており、第二ボルト70と奥端68との当接によって、追加マス46に対する調整マス48の前後位置が規定されている。なお、第二ボルト70の数や配置は、例示であって、調整マス48の形状(重量バランス)や重さ等を考慮して適宜に増減することができる。
【0059】
2つの第二挿通孔64a,64bと3つの第二螺着孔54a,54b,54bは、何れも、調整マス48の中心G3を通る上下軸及び前後軸に関する180度の回転対称とならない非対称な形状又は配置とされている。また、第二挿通孔64a,64bは、調整マス48の中心G3を通る左右軸に関する180度の回転対称にもならない非対称な形状とされている。
【0060】
第二ボルト70の頭部62と調整マス48との間には、矩形板状の座金72が配されており、座面の拡大による締付け力の分散化等が図られている。
【0061】
また、追加マス46の下方へ突出するピン56は、長い方の第二挿通孔64bに挿通されている。ピン56は、2つの第二螺着孔54b,54bよりも第二挿通孔64bの開口端66側において第二挿通孔64bに挿通されている。ピン56から第二挿通孔64bの開口端66(調整マス48の後端)までの距離D1は、第二挿通孔64bの奥端68から調整マス48の前端までの距離D2よりも短くされている。なお、ピン56から第二挿通孔64bの開口端66までの距離D1は、短い方の第二挿通孔64aの奥端68から調整マス48の前端までの距離D3よりも短くされている。
【0062】
調整マス48は、図7に示すように、追加マス46に対する向きが規定されており、適切な向きで取り付けられる。図7Aには、調整マス48が追加マス46に対して適切な向きで取り付けられた状態が示されている。図7Aに示すように、第二挿通孔64の開口端66が後方に位置しており、短い方の第二挿通孔64aが長い方の第二挿通孔64bに対して左方に位置している状態が、調整マス48が追加マス46に対して適切な向きで取り付けられた状態である。なお、図7では、見易さのために、ゴムマウント14の図示が省略されている。
【0063】
図7Bには、調整マス48を左右反転させて取り付けようとした場合が示されている。この場合には、短い方の第二挿通孔64aの奥端68と第二ボルト70との当接によって、調整マス48の前部が追加マス46及び主マス16に対して前方へ突出した状態となる。それゆえ、調整マス48が追加マス46に対して適切な向きで取り付けられていないことを、目視等によって簡単に把握することができる。なお、図7Bにおいて第二ボルト70が第二螺着孔54に予め螺着されていない場合には、調整マス48によって奥端68側に位置する第二螺着孔54bが覆蓋されて、第二ボルト70を奥端68側の第二螺着孔54bに螺着できなくなることから、調整マス48の向きが不適切であることを把握できる。
【0064】
図7Cには、調整マス48を上下反転させて取り付けようとした場合が示されている。この場合には、長い方の第二挿通孔64bの奥端68とピン56との当接によって、調整マス48の後部が追加マス46及び主マス16に対して後方へ突出した状態となる。それゆえ、調整マス48が追加マス46に対して適切な向きで取り付けられていないことを、目視等によって簡単に把握することができる。
【0065】
図7Dには、調整マス48を上下軸を回転中心として180度回転させた向きで取り付けようとした場合が示されている。この場合には、短い方の第二挿通孔64aの奥端68とピン56との当接によって、調整マス48の後部が追加マス46及び主マス16に対して後方へ突出した状態となる。それゆえ、調整マス48が追加マス46に対して適切な向きで取り付けられていないことを、目視等によって簡単に把握することができる。
【0066】
以上のように、本実施形態の制振装置10では、調整マス48に形成された第二挿通孔64a,64bの長さの違いと、追加マス46に設けられたピン56とによって、調整マス48の追加マス46に対する取付け時の向きが一義的に規定されるようになっており、誤った向きでの組付けが容易に防止される。
【0067】
かくの如き構造とされた制振装置10は、図8に示すように、ゴムマウント14の下端部に配された第二取付部材42が下締結ボルト43によってベース部材74に固定されることにより、ベース部材74に取り付けられて、建築構造物用の制振構造体76を構成する。マス部材12がゴムマウント14によってベース部材74上に弾性支持されることにより、制振装置10が制振構造体76においてベース部材74上に副振動系(マス-バネ共振系)を構成する。制振構造体76を構成する2つの制振装置10,10は、一方が他方に対して上下軸回りで180度回転した向きとされている。
【0068】
ベース部材74は、例えば、複数のH形鋼を矩形枠状に組み合わせて構成されている。そして、ゴムマウント14の下端に設けられた第二取付部材42が、ベース部材74に対してボルト-ナット構造で固定されている。なお、本実施形態のベース部材74は、建築構造物に取り付けられる建築構造物とは別の部材とされているが、天井の梁など建築構造物の一部であってもよい。
【0069】
制振構造体76は、建築構造物の天井裏に設置されることにより、主振動系である建築構造物に対して制振装置10で構成された副振動系を付与する。即ち、ベース部材74が建築構造物の天井裏の梁などの建築構造体に固定されて、ベース部材74の上方に取り付けられた制振装置10が天井裏の建築構造体に対してベース部材74を介して取り付けられる。
【0070】
制振構造体76は、天井に設けられた整備用ハッチ78上に配置される。図8には、整備用ハッチ78の開口位置が二点鎖線で仮想的に示されている。整備用ハッチ78は、2つの制振装置10,10の隣接内側に位置しており、左右方向の幅寸法が調整マス48の左右幅寸法よりも大きくされていることが望ましい。
【0071】
制振装置10は、調整マス48における第二挿通孔64の奥端68側が整備用ハッチ78側となるように向きが設定されている。要するに、制振装置10は、制振構造体76において、前後方向の内側が第二挿通孔64の奥端68側となる向きで、ベース部材74に取り付けられている。従って、制振構造体76を構成する2つの制振装置10,10は、一方において第二挿通孔64の開口端66が前方へ向けて開放されており、他方において第二挿通孔64の開口端66が後方へ向けて開放されている。
【0072】
第二挿通孔64の開口端66と奥端68の向きを、整備用ハッチ78に対して上記のように設定することにより、制振装置10を建築構造物の天井裏に設置した状態において、整備用ハッチ78を通じて調整マス48の着脱を容易に行うことができる。即ち、整備用ハッチ78を通じて第二ボルト70を緩めた後、調整マス48を整備用ハッチ78側へスライド変位させることで、第二ボルト70を開口端66を通じて第二挿通孔64から離脱させて取り外すことができる。そして、調整マス48を取り外した後、第二ボルト70を締め付けることにより、副マス44を構成する調整マス48の数を減らして、副マス44の質量の総和を減少させることができる。また、第二ボルト70が緩んだ状態で、第二ボルト70の頭部62と追加マス46又は下端の調整マス48との間へ追加の調整マス48を挿入し、第二ボルト70を開口端66を通じて第二挿通孔64へ挿入する。そして、追加の調整マス48を追加マス46又は調整マス48の下方へ重ね合わせた状態で、第二ボルト70を締め付けてボルト固定することにより、副マス44を構成する調整マス48の数を増やして、副マス44の質量の総和を増加させることができる。
【0073】
このように、調整マス48における第二挿通孔64の開口端66を整備用ハッチ78とは反対側に設定することによって、整備用ハッチ78を通じた調整マス48の着脱作業を、調整マス48のスライド移動によって容易に行うことが可能となる。
【0074】
本実施形態の構造によれば、整備用ハッチ78を通じた調整マス48の着脱作業においても、図7を用いて説明したように、調整マス48の追加マス46に対する誤った向きでの取付けが防止される。
【0075】
また、主マス16とゴムマウント14とを連結するブラケット32は、図8に示すように、それぞれ溝状部34の溝長さ方向が整備用ハッチ78に向けて延びる方向で主マス16に取り付けられている。本実施形態では、各ブラケット32が左右方向に対して略同じ傾斜角度で設けられている。
【0076】
溝状部34の溝長さ方向の開口が整備用ハッチ78側に向くようにブラケット32の主マス16への取付け向きが設定されていることから、ゴムマウント14の第一取付部材30とブラケット32とを締結するナット40が、溝状部34に整備用ハッチ78側の側方から差し入れられた工具によって、簡単に緩められる又は締め付けられる。それゆえ、例えば、ゴムマウント14の上下軸回りの向きを変更設定する作業が容易であり、ゴムマウント14の向きの変更による制振特性の調節作業を容易に行うことができる。本実施形態では、主マス16の四隅に固定されたブラケット32,32,32,32が相互に略同じ向きとされているが、例えば、整備用ハッチ78に近い前後方向内側のブラケット32,32と、整備用ハッチ78から遠い前後方向外側のブラケット32,32との向きを相互に異ならせることにより、各ブラケット32の溝状部34が何れも整備用ハッチ78の中央へ向けて開口するようにしてもよい。
【0077】
なお、ゴムマウント14の向きは、ブラケット32の向きによって規定されることなく、目的とする制振特性等に応じて適宜に設定される。本実施形態では、制振構造体76を構成する2つの制振装置10,10において、ゴムマウント14の向き(左右方向に対する傾斜角度)が相互に異ならされている。これにより、2つの制振装置10,10は、水平方向の入力に対する副振動系のチューニングが相互に異ならされており、有効な制振効果を発揮する入力振動(制振対象振動)の周波数域等が相互に異なることから、制振構造体76においてより広い周波数域の振動に対して有効な制振効果が発揮される。尤も、制振構造体76を構成する2つの制振装置10,10が構成する各副振動系のチューニング周波数を相互に同じとすることによって、特定の周波数域の振動に対してより優れた制振効果が発揮されるように特性チューニングすることも考えられる。
【0078】
図9Aには、本発明の第二実施形態としての建築構造物用の制振装置80が示されている。制振装置80は、追加マス46の下面に調整マス82が重ね合わされて取り付けられた構造を有している。以下の説明において、第一実施形態と実質的に同一の部材及び部位については、図中に同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0079】
調整マス82には、幅寸法が相互に異なる2つの第二挿通孔84a,84bが形成されており、第二挿通孔84bが第二挿通孔84aよりも幅広とされている。2つの第二挿通孔84a,84bの幅寸法が異なることから、追加マス46に形成された第二螺着孔54は、第二挿通孔84bと対応する第二螺着孔54bが、第二挿通孔84aと対応する位置に設けられた第二螺着孔54aよりも大径とされている。従って、第二螺着孔54bに螺着される第二ボルトは、第二螺着孔54aに螺着される第二ボルトよりも大径とされている。
【0080】
このような構造とされた制振装置80では、調整マス82が追加マス46に対して図9Aに示した適切な向きで取り付けられる場合には、大径とされた第二螺着孔54bが幅広とされた第二挿通孔84bを通じて下方に開口しており、第二挿通孔84bに挿通された第二ボルトを第二螺着孔54bに螺着させることができる。それゆえ、第二螺着孔54a,54bに対する第二ボルトの螺着によって、調整マス82を追加マス46に対して取り付けることができる。
【0081】
一方、図9Bに示すように、調整マス82の向きを左右反転させた状態で追加マス46に取り付けようとすると、幅の狭い第二挿通孔84aが大径とされた第二螺着孔54bの一部を覆うことから、第二挿通孔84aに挿通された第二ボルトを第二螺着孔54bに螺着させることはできない。また、各第二螺着孔54に第二ボルトが予め螺着されている場合には、第二螺着孔54bに螺着された大径の第二ボルトが、幅狭の第二挿通孔84aの開口端66に当接して、第二挿通孔84aに挿入できなくなることから、調整マス82が適切な向きではないことを把握できる。なお、図9Bでは、図7と同様に、ゴムマウント14の図示が省略されている。
【0082】
また、調整マス82を上下反転させた状態や上下軸回りで180度回転させた状態で追加マス46に取り付けようとした場合には、第一実施形態と同様に、ピン56と奥端68との当接による調整マス82の位置ずれ(追加マス46からの突出)によって、誤組付けを容易に把握することができる。
【0083】
このように、本実施形態の構造によっても、調整マス82を追加マス46に対して適切な向きで取り付けることが容易である。
【0084】
図10Aには、本発明の第三実施形態としての建築構造物用の制振装置90が示されている。制振装置90は、追加マス46に調整マス92が取り付けられた構造を有している。
【0085】
調整マス92は、2つの第二挿通孔94a,94bを備えている。2つの第二挿通孔94a,94bは、互いに同じ形状とされており、前後方向の長さ及び左右方向の幅も相互に同じとされている。2つの第二挿通孔94a,94bは、調整マス92の中心G3からの距離が相互に異なっている。本実施形態では、一方の第二挿通孔94aが調整マス92の左右方向の略中央に位置し、他方の第二挿通孔94bが第二挿通孔94aに対して左方へ離れた位置で略平行に設けられており、調整マス92の中心G3からの左右離隔距離が相互に異なっている。
【0086】
このような構造とされた本実施形態の制振装置90では、図10Aに示す調整マス92が適切な向きで取り付けられた状態では、3つの第二螺着孔54,54,54が2つの第二挿通孔94a,94bに対して位置決めされていると共に、追加マス46に設けられたピン56が第二挿通孔94bに挿入されている。そして、3つの第二螺着孔54,54,54に対して第二挿通孔94a,94bに挿通された第二ボルトがそれぞれ螺着されることによって、調整マス92が追加マス46に取り付けられている。
【0087】
一方、図10Bに示すように、調整マス92を左右反転した向きで追加マス46に取り付けようとすると、第二挿通孔94bに対して位置決めされるべき第二螺着孔54b,54bが調整マス92よって覆われて、第二ボルトをそれら第二螺着孔54b,54bに螺着することができない。また、各第二螺着孔54に第二ボルトが予め螺着されている場合には、第二螺着孔54b,54bに螺着された第二ボルトが調整マス92の後面に当接することから、調整マス92を適切な位置に配置することができず、調整マス92が適切な向きではないことを把握できる。なお、図10Bでは、図7と同様に、ゴムマウント14の図示が省略されている。
【0088】
また、第二挿通孔94bに挿入されるべきピン56が調整マス92の前面に当接して、調整マス92が追加マス46及び主マス16に対して後方へ突出した状態となることから、調整マス92の向きが適切でないことが、目視等によって簡単に把握可能とされる。
【0089】
また、調整マス92を上下反転させた状態や上下軸回りで180度回転させた状態で追加マス46に取り付けようとした場合には、ピン56と奥端68又は調整マス92の後面との当接等による調整マス92の位置ずれ(追加マス46からの突出)によって、誤組付けを容易に把握することができる。
【0090】
このように、本実施形態の構造によっても、調整マス92を追加マス46に対して適切な向きで取り付けることが容易である。
【0091】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、主マスは上下方向視において略正方形であってもよい。副マスは上下方向視において長辺と短辺が明確な長方形であってもよい。また、主マス及び副マスは、必ずしも金属製に限定されず、高比重材料にも限定されないことから、例えば、成形性、施工性、コスト等を考慮して他の材料を選択することも可能であり、金属に比して比重が小さいコンクリートや樹脂等、またそれらを含む複合材料で形成することもできる。
【0092】
第二挿通孔は、調整マスのスライドによる着脱を可能とするスリット状であることが望ましいが、例えば、スポット的な貫通孔等であってもよい。また、スリット状の第二の挿通孔を採用する場合に、前後方向に対して傾斜して延びていたり、緩やかに湾曲しながら延びていたりしてもよい。
【0093】
第二挿通孔は、3つ以上の複数が設けられていてもよい。3つ以上の第二挿通孔がスリット状とされている場合にも、各第二挿通孔は調整マスの同じ側面に開口するように直線的に延びることで、調整マスのスライドによる着脱が可能とされる。
【0094】
調整マスは、追加マスに対して第二ボルトによって複数箇所で固定されていることが望ましいが、調整マスの追加マスに対する固定箇所は、2箇所であってもよいし、4箇所以上であってもよい。
【0095】
調整マスの数は、特に限定されず、調整マスの数によって副マスの質量が調整される。また、複数の調整マスが設けられる場合に、調整マスは、全てが同じ形状や重さである必要はなく、例えば、重さの異なる2種類の調整マスを組み合わせて採用することで副マスの重さをより詳細に調整可能とすること等も可能である。
【0096】
主マスとベース部材を弾性連結する支持体の具体的な構造は、前記実施形態に示したゴムマウントの構造によって限定的に解釈されない。また、支持体は、必ずしも上下方向視における主マスの四隅部分に4つが配される必要はなく、例えば、左右両側に各1つの支持体が配されていてもよいし、左右一方側に2つの支持体が配され、他方側に1つの支持体が配されていてもよい。
【0097】
副マスは、上下方向視において主マスよりも外側に突出していないことが望ましいが、例えば、主マス短辺方向の片側又は両側において主マスから突出して設けられていてもよい。
【0098】
追加マスの収容凹部は必須ではなく、第一ボルトの頭部が追加マスの下面に突出していてもよい。この場合に、調整マスは、第一ボルトの頭部を避けた位置に設けられ、例えば、第一ボルトの左右間に配される。
【0099】
追加マスの下面に突出するピンは、追加マスに対して、圧入固定の他、ねじ固定、接着、溶接等の各種公知の固定構造によって固定され得る。ピンは追加マスに対して取外し可能とされていてもよく、例えば、調整マスの追加マスへの固定後にピンが追加マスから取り除かれてもよい。
【0100】
追加マスの下面に突出するピンは必須ではなく、ピン以外の構造によって調整マスの追加マスに対する取付方向が一義的に規定されるようにしてもよい。
【0101】
制振構造体は、2つの制振装置によって構成されるものに限定されず、例えば、1つの制振装置によって構成されていてもよいし、3つ以上の制振装置が1つのベース部材に取り付けられて構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0102】
10 制振装置(第一実施形態)
12 マス部材
14 ゴムマウント(支持体)
16 主マス
18 ブラケット取付孔
20 作業孔
22 第一螺着孔
24 プレート部材
26 ゴム弾性体
28 傾斜部
30 第一取付部材
32 ブラケット
34 溝状部
36 取付片
37 取付ボルト
38 上締結ボルト
40 ナット
42 第二取付部材
43 下締結ボルト
44 副マス
46 追加マス
48 調整マス
50 第一挿通孔
52 収容凹部
54(54a,54b) 第二螺着孔
56 ピン
58 ピン固定孔
60 第一ボルト
62 頭部
64(64a,64b) 第二挿通孔
66 開口端
68 奥端
70 第二ボルト
72 座金
74 ベース部材
76 制振構造体
78 整備用ハッチ
80 制振装置(第二実施形態)
82 調整マス
84(84a,84b) 第二挿通孔
90 制振装置(第三実施形態)
92 調整マス
94(94a,94b) 第二挿通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9A
図9B
図10A
図10B