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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136107
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】感知センサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 5/02 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
G01N5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047085
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茎田 啓行
(72)【発明者】
【氏名】大西 直樹
(57)【要約】
【課題】周波数変化を利用して試料液中の感知対象物を検知する感知センサの圧電振動子について、歪みを抑制すると共に搭載される基板との接続強度を高くする。
【解決手段】本開示の圧電センサは、感知対象物を吸着させる吸着層を備えた圧電振動子と、振動領域の下方に空間を形成するための凹部を一面に備える基板と、電極端子を発振回路に接続するために基板の一面に形成される導電性のパターンと、圧電振動子を基板の一面に向けて押圧する押圧部と、圧電振動子を挟んで押圧部に対向するように基板の一面に設けられ、導電性のパターンから前記電極端子が離隔するように圧電振動子における振動領域に対して周縁側寄りの位置を支持する突部と、圧電振動子の一面から他面に亘ると共に、導電性のパターンと電極端子との間に介在する導電性接続部材と、を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動子を用いて試料液中の感知対象物を感知する感知センサにおいて、
圧電片と、当該圧電片の上面及び下面に対向配置されて当該圧電片に振動領域を形成するように設けられた励振電極と、前記圧電片の周縁部に形成されて前記励振電極とそれぞれ電気的に接続された電極端子と、前記上面に配置された前記励振電極の表面に設けられ、前記試料液中の感知対象物を吸着させる吸着層と、を備えた圧電振動子と、
前記振動領域の下方に空間を形成するための凹部を一面に備える基板と、
前記電極端子を発振回路に接続するために前記基板の一面に形成される導電性のパターンと、
前記圧電振動子を前記基板の一面に向けて押圧する押圧部と、
前記圧電振動子を挟んで前記押圧部に対向するように前記基板の一面に設けられ、前記導電性のパターンから前記電極端子が離隔するように前記圧電振動子における前記振動領域に対して周縁側寄りの位置を支持する突部と、
前記圧電振動子の一面から他面に亘ると共に、前記導電性のパターンと前記電極端子との間に介在する導電性接続部材と、
を備える感知センサ。
【請求項2】
前記突部は、金属層と、前記金属層を被覆し、当該金属層とは異なる材質からなる被覆層と、により構成される請求項1記載の感知センサ。
【請求項3】
前記被覆層はレジストである請求項2記載の感知センサ。
【請求項4】
前記突部は前記圧電振動子の下面において前記励振電極よりも当該圧電振動子の周縁側に形成される導電性のパターンに重ならず、前記凹部の周縁部に沿って設けられる請求項1記載の感知センサ。
【請求項5】
前記電極端子と前記導電性のパターンとの間隙の高さは、20μm以下である請求項1記載の感知センサ。
【請求項6】
前記圧電振動子に供給される試料液が流れる空間を形成するための流路形成部材が設けられ、
前記押圧部は前記流路形成部材に設けられ、前記振動領域を囲う請求項1記載の感知センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料液中の感知対象物を圧電振動子に吸着させて検知する感知センサに関する。
【背景技術】
【0002】
試料液中の感知対象物を感知するにあたって、QCM(Quartz Crystal Microbalance)を利用した感知センサが知られている(例えば特許文献1)。QCMは励振電極の表面に感知対象物を吸着する吸着層が設けられた水晶振動子を用い、試料溶液中の感知対象物の吸着による質量負荷を、水晶振動子の周波数の変化として捉えて、感知対象物の検出、定量を行うものである。
【0003】
ここで水晶振動子の表面に試料溶液を供給するにあたって、水晶振動子の表面に試料液を供給する空間を形成するため、水晶振動子の表面を囲む隙間を形成する部材を水晶振動子に押し当てている(例えば特許文献2)。このとき部材を押し当てる圧力が大きいと水晶振動子に機械的な歪みが生じ、水晶振動子の周波数特性が劣化してしまうおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005―064821号公報
【特許文献2】特開2009-162523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、周波数変化を利用して試料液中の感知対象物を検知する感知センサにおいて、圧電振動子の歪みを抑制すると共に、圧電振動子と圧電振動子が設けられる基板との接続強度を高くすることができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る感知センサは、圧電振動子を用いて試料液中の感知対象物を感知するものであって、
圧電片と、当該圧電片の上面及び下面に対向配置されて当該圧電片に振動領域を形成するように設けられた励振電極と、前記圧電片の周縁部に形成されて前記励振電極とそれぞれ電気的に接続された電極端子と、前記上面に配置された前記励振電極の表面に設けられ、前記試料液中の感知対象物を吸着させる吸着層と、を備えた圧電振動子と、
前記振動領域の下方に空間を形成するための凹部を一面に備える基板と、
前記電極端子を発振回路に接続するために前記基板の一面に形成される導電性のパターンと、
前記圧電振動子を前記基板の一面に向けて押圧する押圧部と、
前記圧電振動子を挟んで前記押圧部に対向するように前記基板の一面に設けられ、前記導電性のパターンから前記電極端子が離隔するように前記圧電振動子における前記振動領域に対して周縁側寄りの位置を支持する突部と、
前記圧電振動子の一面から他面に亘ると共に、前記導電性のパターンと前記電極端子との間に介在する導電性接続部材と、を備えている。
【0007】
上述の感知センサは、以下の構成を備えていてもよい。
(a)前記突部は、金属層と、前記金属層を被覆し、当該金属層とは異なる材質からなる被覆層と、により構成されること。
(b)前記被覆層はレジストである。
(c)前記突部は前記圧電振動子の下面において前記励振電極よりも当該圧電振動子の周縁側に形成される導電性のパターンに重ならず、前記凹部の周縁部に沿って設けられること。
(d)前記電極端子と前記導電性のパターンとの間隙の高さは、20μm以下であること。
(e)前記圧電振動子に供給される試料液が流れる空間を形成するための流路形成部材が設けられ、前記押圧部は前記流路形成部材に設けられ、前記振動領域を囲うこと。
【発明の効果】
【0008】
本発明の感知センサによれば、圧電振動子を基板に向けて押圧する押圧部に対向するように、圧電振動子の振動領域に対して周縁側寄りの位置を支持する突部が、基板に設けられる。この突部は、基板の導電性のパターンから圧電振動子の電極端子を離隔させ、圧電振動子の一面から他面に亘ると共に、導電性のパターンと電極端子との間に介在する導電性接続部材が設けられる。それによって圧電振動子の歪みの発生を抑えると共に、導電性のパターンと電極端子との接合強度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係る感知センサを用いた感知装置の斜視図である。
図2】前記感知センサの分解斜視図である。
図3】前記感知センサに用いられる配線基板の一部の平面図である。
図4】前記感知センサに用いられる水晶振動子の上面側及び下面側を示す図である。
図5】前記感知センサの縦断正面図である。
図6】前記感知装置の概略構成図である。
図7】前記感知センサの比較例を示す断面図である。
図8】比較例に係る感知センサに配置したシリコーン部材による影響を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
先ず、実施の形態に係る感知センサ1を用いた感知装置2について説明する。感知装置2は、マイクロ流体チップを利用して例えば人間の鼻腔の拭い液から得られた試料液を取り込んで感知対象物であるウイルスなどの抗原の有無を検出し、人間のウイルスの感染の有無を判定することができるように構成されている。図1の外観斜視図に示すように、感知装置2は、本体部12と、感知センサ1と、を備えている。感知センサ1は、本体部12に形成された差込口17に着脱自在に接続される。本体部12の上面には、例えば液晶表示画面により構成される表示部16が設けられている。表示部16は、例えば本体部12内に設けられた制御部100による出力周波数あるいは、周波数の変化分等の測定結果もしくは、ウイルスの検出の有無等を表示する。
【0011】
続いて感知センサ1について説明する。図2は、図1に示した感知センサ1に設けられた上側ケース体21を外した状態の斜視図を示す。図1図2に示すように感知センサ1は、上側ケース体21と下側ケース体22とで構成される容器20を備え、容器20から水平に突出し、本体部12に形成された差込口17に挿入される板状の差込部31を備えている。感知センサ1の差込部31側を後方(+Y側)、他端側を前方(-Y側)とすると、左右は平面図において後方から前方を見たときの左右(左が+X側、右が-X側)をいう。後述する吸着層48の有無が左右で異なることを除いて、感知センサ1は左右対称の構造である。下側ケース体22は、上面が開口した概略箱型に形成され、後方側の壁部に切欠き22aが形成されている。
【0012】
下側ケース体22の底面を構成する底壁22bには、略中央に配置されて後述する廃液管6を支持するための突部75と、突部75の前方に配置されて後述する吸収部材72を収納するための箱状の収納部73とが形成されている。そして突部75の後方における下側ケース体22の底面には、前後方向に延伸された形状の配線基板3が配置されている。この配線基板3の後方側部分は、切欠き22aを介して下側ケース体22から突出する既述の差込部31である。
【0013】
図3は、圧電振動子である水晶振動子4が配置される配線基板3の前方側部分を示す拡大平面図であり、一点鎖線で水晶振動子4が載置される領域を示している。図3に示すように、配線基板3の前方側の位置には、配線基板3を厚み方向に貫通する上面視略矩形の貫通孔32が形成されている。この貫通孔32は、下側ケース体22の底壁22bによって塞がれて配線基板3の上面側で開口する凹部を形成する。この凹部は、水晶振動子4の後述する振動領域に接触せずに振動させるための空間である。
【0014】
配線基板3の上面側には、前後方向に伸びる3本の配線25、26、27とが設けられており、各々金属の薄膜であって導電性のパターンである。これらの配線25~27と、後述する同じく配線基板3に形成されたパターンである金属層282と、は例えばCu(銅)により構成されている。各配線25、26、27の一端側には、それぞれ差込部31に配置された外部接続用端子252、262、272が形成されている。また各配線25、26、27の他端側には、貫通孔32より左右側及び後側の位置に配置された端子部251、261、271が形成されている。そして端子部251、261、271は、上に配置される水晶振動子4の周縁部に設けられた電極端子44a、45a、46aとそれぞれ対向する位置に設けられている。
【0015】
そして配線基板3の上面側には、貫通孔32の周縁に沿うように設けられた突部33が形成されている。突部33は、貫通孔32を介して対向する間隙36、37によって前後に2つに分離した略矩形環状に設けられている。突部33は、上面視において端子部251、261、271より貫通孔32側に配置されている。そして突部33は、端子部251、261、271及び貫通孔32から離隔して設けられている。
【0016】
このように配置された突部33は、水晶振動子4の下面に沿うような平坦な上面を有し、当該上面によって水晶振動子4を水平な姿勢で支持するように構成されている。また突部33は、金属層282と、金属層282の上に塗られたレジスト層34と、によって構成されている(図5)。金属層282及びレジスト層34は平面視で同じ形状であるため、レジスト層34により金属層282全体が被覆されている。
【0017】
レジスト層34は、端子部251、261、271、外部接続用端子252、262、272を除いて配線基板3の基材30の上に概ね一様に塗布される他のレジスト層と同様に、塗布されて形成される。以降は配線基板3の上面と記載した場合には、特に説明無い限り、当該他のレジスト層の上面のことを意味するものとする。レジスト層34の厚さは、他のレジスト層の厚さと同じであり、例えば10μmから数十μm程度に設定される。配線基板3の上面を基準とした金属層282の高さは、端子部251、261、271の高さと同一であり、例えば35μmである。突部33は、端子部251、261、271や金属層282よりもレジスト層34の厚みの分高く設定されている。
【0018】
続いて水晶振動子4の構成について説明する。図4は、配線基板3に載置される水晶振動子4の上面(a)及び下面(b)である。図5は、図3のB-B’線における感知センサ1の部分縦断側面図である。水晶振動子4は、例えばATカット圧電片である矩形状の水晶片41と、水晶片41の上面及び下面に形成された例えばAu(金)金属膜のパターンと、を備えている。この金属膜のパターンの一部は、水晶片41の上面及び下面において対向配置される励振電極42A、42B、43をなす。
【0019】
励振電極42A、42Bは水晶片41の下面側に設けられ、励振電極43は水晶片41の上面側に設けられている。励振電極43は、励振電極42A、42Bの対向位置に亘って設けられて励振電極42A、42Bに対して共用される電極である。以後、励振電極43を共通電極43ということもある。共通電極43は音叉形状であり、励振電極42A、42Bは、前後方向に伸びる略矩形状である。
【0020】
この水晶振動子4における励振電極42A及び共通電極43で挟まれた領域は、第1振動領域61となり、励振電極42B及び共通電極43で挟まれた領域は、第2振動領域62となる。共通電極43の上面(表面)における第1振動領域61に対応する領域には、例えば抗原であるウイルスを吸着するための吸着層48が形成されている。図4(a)中の吸着層48に多数の点を付して示している。
【0021】
共通電極43は、励振電極42A、42Bに対向する部分間を繋ぐ箇所に配線44の一端が接続され、この配線44は水晶振動子4の周縁部に向けて前後方向に伸びるように設けられている。配線44の他端側は、水晶振動子4の下面側に回り込み、当該下面側の後方の周縁部に設けられた電極端子44aに接続されている。下面側の励振電極42A、42Bは、それぞれ長手方向における中央に配線45、46の一端が接続されている。各配線45、46の他端側は、周縁部に向けて左右方向に伸び、下面側の左右の周縁部における中央にそれぞれ設けられた電極端子45a、46aに接続されている。
【0022】
図3図5に示すように上述の構成を備える水晶振動子4は、配線基板3の貫通孔32を覆う位置に配置されると共に、突部33の上面に載置されて水平に配置される。突部33の上面と接する水晶振動子4の下面領域は、第1、第2振動領域61、62より外側(即ち、第1、第2振動領域61、62よりも水晶振動子4の周縁寄りの部位)であって電極端子44a、45a、46aより内側の環状領域であり、かつ配線45、46及びその周囲を除く領域である。つまり突部33は、平面視で水晶振動子4の下面において励振電極42A、42Bよりも当該水晶振動子4の周縁寄りの部位に形成されるパターンに重ならないように形成されている(図4(b)参照)。
【0023】
後述するように水晶振動子4は突部33に支持された状態で上方から押圧されるが、上記のように突部33が形成されることにより、突部33の上面が水晶片41から下方に突出した電極端子44a、45a、46a及び配線45、46の下面を支持せずに、水晶振動子4の平坦な当該下面領域(即ち水晶片41により形成される領域)を支持する。それによって水晶振動子4の屈曲を抑止している。その一方で、突部33は基板3の貫通孔32に沿うように形成されることで、水晶振動子4との接触面積を比較的大きくし、水晶振動子4の屈曲がより確実に抑制されるようにしている。そして電極端子44a、45a、46aは、それぞれ対応する端子部251、261、271の上方に離れて対向して配置されて導電性接着剤Sで固着されている。
【0024】
導電性接着剤Sは、予め設定された流動性を有するように粘度が調整される。粘度の調整については図5に示すように例えば電極端子46aを例に説明すると、導電性接着剤Sを、先ず電極端子46aの例えば左端縁の上方である水晶振動子4の周縁部の上面に塗布する。塗布された導電性接着剤Sは、水晶振動子4の周縁部の上面から側面に亘って下方に流動し、毛細管現象によって電極端子46aと端子部271との間隙に浸入するように粘度が調整されている。
【0025】
硬化した導電性接着剤Sは、水晶振動子4の周縁部を上面から下面に亘って覆い、かつ端子部251、261、271の上面に接着している。このように硬化した導電性接着剤Sにより、電極端子44a、45a、46aは、対応する各端子部251、261、271に固着され、かつ電気的に接続されている。上記のように毛細管現象を利用して導電性接着剤Sが間隙に侵入できるように、図5に示すこの間隙の高さHとしては例えば20μm以下に設定される。このように水晶振動子4が設けられた配線基板3が、下側ケース体22の底壁22bの後側端部の上に配置されている。
【0026】
配線基板3の上面側には、弾性部材としてシリコーン部材5が設けられている。図2に示すようにシリコーン部材5は、例えばPDMS(ポリジメチルシロキサン)によって構成され、例えば下方に開口すると共に高さ2.0mmの略直方体に形成されている。シリコーン部材5は、上方から見て配線基板3の前端部分と同一の幅で構成され、当該前端部分を覆うように形成されている。図4(a)、図5に示すように、シリコーン部材5の下面には平面視で横幅よりも前後幅が大きい六角形の凹部50と、当該凹部50を囲う凹部と、が形成されている。凹部50と凹部50の外側の凹部との間は、平面視で六角形の流路形成壁(押圧部)51として構成されている。
【0027】
シリコーン部材5は、配線基板3の前端部上に配置されると、図5に示すように凹部50の開口が水晶振動子4によって塞がれ、水晶振動子4の上面側の励振電極42A、42Bは、凹部50に面して左右に並んで配置される。そして、流路形成壁51の下面は、配線基板3において突部33が形成されていない間隙36、37に重なる部分を除いて、水晶振動子4を介して当該突部33の上面に対向する。
【0028】
この状態で上側ケース体21を下側ケース体22に装着すると、シリコーン部材5は、上面を上側ケース体21によって下方に押圧され、流路形成壁51が水晶振動子4を配線基板3に向けて下方に押圧する。これにより水晶振動子4は、突部33の上面に沿った水平な状態であって、歪みが抑えられた平坦な状態で配置される。流路形成壁51及び突部33は、水晶振動子4の第1、第2振動領域61、62より外側であって周縁部より内側を挟む。
【0029】
またこのとき、シリコーン部材5の流路形成壁51は、水晶振動子4を弾性力で付勢して水晶振動子4の表面に密着し、凹部50は、水晶振動子4及びシリコーン部材5によって囲まれた流路57を構成する。シリコーン部材5及び水晶振動子4は本例の流路形成部材に相当する。また、第1、第2振動領域61、62は、貫通孔32で構成された凹部と流路形成壁51とによって振動が許容されている。
【0030】
図2図4に示すように凹部50の後方端、前方端には、それぞれ多孔質の毛細管部材により構成された入口側毛細管部材55、廃液側毛細管部材56がシリコーン部材5を貫通して設けられている。入口側毛細管部材55は例えば円柱状、廃液側毛細管部材56は例えば円柱を略L字状に屈曲させた形状にそれぞれ形成され、例えばポリビニルアルコール(PVA)の化学繊維束により構成されている。入口側毛細管部材55の下端部はシリコーン部材5の凹部50の後方側の端部に挿入され、その上端側が後述する上側ケース体21の液受け部23内に露出している。
【0031】
図4に示すように、廃液側毛細管部材56のL字の鉛直部分は、その下端側がシリコーン部材5の凹部50の前方側の端部に挿入されている。また廃液側毛細管部材56の上端側はシリコーン部材5の上面よりも上方に突出し、L字の水平部分が親水性のガラス管で構成された廃液管6の内部に挿入されている。これら毛細管部材55、56においては、前記化学繊維束の繊維間の空隙を毛細管現象により処理液が流通する。
【0032】
図2図4に示すように廃液管6の下流側には、廃液側毛細管部材56から排出された処理液を吸収して貯留するための廃液吸収部7が設けられている。この廃液吸収部7は毛細管シート71と、当該毛細管シート71と接触するように設けられ、毛細管シート71を流通する試料液を吸収するための吸収部材72と、を備えている。毛細管シート71の先端は、廃液管6の下流端内に取り付けられている。図2図4に示すように廃液吸収部7は下側ケース体22の収納部73に収納されている。また廃液管6は突部75により、支持されている。
【0033】
続いて上側ケース体21について説明する。上側ケース体21は、概略箱型に形成され、後方側の壁面に配線基板3の差込部を容器20の外部に突出させるための切欠きが形成されている。そして上側ケース体21は、差込部31を除いた配線基板3、シリコーン部材5及び廃液吸収部7を上方側から覆うように設けられる。上側ケース体21の上面側にはすり鉢状に傾斜した液受け部23が形成されている。図4に示すように上側ケース体21の裏面側における後方側には、シリコーン部材5の上面を配線基板3に向けて押圧するように構成された押し当て部90が設けられている。
【0034】
押し当て部90は、例えば概略箱形に構成され、上側ケース体21を下側ケース体22に嵌合して互いに係止した時に、押し当て部90の下面にてシリコーン部材5の上面を下方に押圧する。押し当て部90には、凹部50の後方側の端部に対応する位置に液受け部23に連通し、入口側毛細管部材55が挿入される貫通孔91が形成されている。また押し当て部90における前方寄りの位置には、次に説明する廃液管6及び廃液側毛細管部材56の設置領域を確保するための切り欠き92が形成されている。
【0035】
以上のように構成された感知装置2の制御部100とその検出動作について説明する。図6は、感知装置2の概略構成図である。制御部100は、交流の入出力を行う第1発振回路63及び第2発振回路64と、これらとの接続をスイッチ部65によって切り替えるデータ処理部66とによって構成されている。感知装置2の差込部31を本体部12の差込口17に差し込むと、第1振動領域61、第2振動領域62が第1発振回路61、第2発振回路62に接続される。そして、励振電極42A及び共通電極43が第1発振回路63に接続されて第1振動領域61が発振し、励振電極42B及び共通電極43が第2発振回路64に接続されて第2振動領域62が発振する。制御部100は、データ処理部66と第1発振回路63とを接続する第1チャンネルと、データ処理部66と第2発振回路64とを接続する第2チャンネルと、を例えばスイッチ部65により交互に切り替えて間欠発振を行う。
【0036】
上述の動作により、2つの発振回路63、64からの周波数信号を時分割して後段側のデータ処理部66に取り込み、第1、第2振動領域61、62の発振周波数を並行して求めることができる。第1発振回路63からの出力を第1チャンネル、第2発振回路64からの出力を第2チャンネルとすると、例えば1秒間をn分割(nは2以上の偶数)し、各チャンネルの発振周波数を1/n秒の処理で順次求めることにより、1秒間に少なくとも1回以上かつ実質同時に各チャンネルの周波数を取得する。データ処理部66に取り込まれた周波数信号は、例えばディジタル値として処理される。データ処理部66は、このディジタル値の周波数データに基づいて演算を行い、感知対象物となるウイルスの有無や濃度などを特定するように構成されている。
【0037】
感知装置2の検出動作について説明する。先ず流路内を大気雰囲気とした状態にて、スイッチ部65を切り替えて、第1、第2振動領域61、62における発振周波数f1、f2を安定させる。続いて入口側毛細管部材55を介して水晶振動子4の表面に緩衝液を供給すると、各発振周波数f1、f2はそれぞれ低下していく。そして、これら発振周波数f1、f2がある値に落ち着くまで、スイッチ部65を切り替えつつ緩衝液の供給を継続し、試料液供給前の発振周波数f10、f20を取得する。
【0038】
その後供給する液を例えば人間の鼻腔の拭い液などの試料液に切り替え、水晶振動子4への試料液の供給を開始する。試料液は、入口側毛細管部材55の下端部に到達すると凹部50内を流れ廃液側毛細管部材56に向かって通流していく。このように試料液を入口側毛細管部材55から供給し、廃液側毛細管部材56から排出するように流した状態とすると、試料液に含まれる感知対象物であるウイルスが吸着層48に接触して吸着し、第1振動領域61の発振周波数f1が低下していく。
【0039】
そして第1、第2振動領域61、62にて取得された試料液供給後の発振周波数F1、F2と試料液供給前の発振周波数f10、f20との差分値(周波数変化量)Δf1、Δf2をそれぞれ算出し、差分値(Δf2-Δf1)を取得する。この差分値(Δf2-Δf1)は、第1振動領域61における感知対象物の吸着量に応じた発振周波数f1の変化量に相当するため、差分値(Δf2-Δf1)の変化に基づいて試料液中の感知対象物の有無の判定及び濃度の測定を行うことができる。本実施形態の感知センサ1においては、水晶振動子4のシリコーン部材5からの押圧による歪みを突部33が防ぎ、測定精度の低減を抑止している。
【0040】
このような本実施形態に係る感知センサ1による効果を明示するため、配線基板3に突部33が設けられていない比較例の構造の感知センサの例を説明する。図7図8は、比較例の感知センサの例を示している。
【0041】
図7に示す比較例の感知センサにおいては、例えば端子部251、261、271の上面に塗布された導電性接着剤Sを介して、電極端子44a、45a、46aと端子部251、261、271とを貼り合わせるように水晶振動子4を設置する。その後、水晶振動子4の周縁部の上から端子部261、251、271にかけてさらに導電性接着剤Sを塗布して水晶振動子4を配線基板3に固定する。つまり、水晶振動子4の上側だけでなく下側にも導電性接着剤Sを塗布する。これは、上記したように水晶振動子4は流路形成壁51によって上方から押圧されるため、基板3の端子との導電性を確保するために、接着強度を高くするためである。
【0042】
しかし、このように水晶振動子4の下側に導電性接着剤Sを塗布することによって、塗布した導電接着剤の高さの分、水晶振動子4と配線基板3との距離が大きくなる。そのため配線基板3の導電路をなす金属パターン(図7中鎖線で表示している)と、流路形成壁51とが平面視で重なるように配置されたとしても、配線基板3と水晶振動子4との間には隙間h0が形成されてしまう。なお、この金属パターンには、実施形態のレジスト層34は形成されないものとする。
【0043】
そして、シリコーン部材5を配線基板3に設置して上側ケース体21を下側ケース体22に取り付けると、水晶振動子4については、周縁部が導電性接着剤Sによって配線基板3に固定された状態で、その固定される位置とは異なる位置が隙間h0に向けて押圧されることになるので撓みが生じる。水晶振動子4が大きく歪むと、水晶振動子4の特性が変わってしまい、感知対象物の吸着に伴う発振周波数の変化を正確に検出することが困難になるおそれがある。
【0044】
本実施の形態に係る感知センサ1においては、水晶振動子4を上方から押圧する流路形成壁51に当該水晶振動子4を挟んで対向するように、水晶振動子4を支持する突部33が配線基板3に設けられている。この構成により、上記した水晶振動子4と配線基板3との間の隙間h0が、流路形成壁51の全周に亘って形成されることを防止し、水晶振動子4の歪みを抑制することができる。また、この突部33によって水晶振動子4が支持された状態で水晶振動子4の上方から導電性接着剤Sを供給することで、上記したように毛細管現象により当該導電性接着剤Sを水晶振動子4の下面にも導入し、導電性接着剤Sを水晶振動子4の上面から側面を介して下面に跨がる状態で乾燥、固化させる。水晶振動子4は、下面側からも上面側からも導電性接着剤Sによって配線基板3に固定された状態となるので、水晶振動子4と配線基板3との接続強度を比較的高いものとすることができる。
【0045】
本実施形態における感知装置2は、例えば人間の鼻腔の拭い液から得られた試料液を取り込んで感知対象物をウイルスなどの抗原を検出するものだが、これに限らず、例えば有機溶剤などの試料液を対象として所定の金属を感知対象物とするものであってもよい。
【0046】
シリコーン部材5の形状は、略直方体形状であるが、これに限らず、突部33の上方に配置されて流路を区画できればよい。また、シリコーンではなく別の材質の部材によって水晶振動子4が配線基板3に押圧されてもよいが、破損防止のためにシリコーンのような弾性部材で押圧することが好ましい。また、上記の実施形態で水晶振動子4上に形成される流路は毛細管現象を利用して自動で液体が流れるように構成されているが、そのような流路であることに限られない。流路の高さを比較的高くし、ポンプによって当該流路を液体通過する構成であってもよい。
【0047】
端子部251、261、271は、電極端子44a、45a、46aとの間に導電性接着剤Sを流入し易くするために貫通孔32に向かって延びるようなスリットが形成されていてもよい。金属層282と端子部251、261、271は、一体で形成されていてもよい。この場合、電極端子44a、45a、46aに接続された各回路が導通しないように、金属層282は、複数に分離して形成される。具体的に金属層282は、端子部251、261、271に対応する箇所のみ端子部251、261、271とそれぞれ一体化され、これらは他の金属層282と共に相互に分離して形成される。また、端子部251、261、271の電極端子44a、45a、46aへの固着は、導電性接着剤S以外に、例えば半田などの他の導電性接続部材で行われてもよい。
【0048】
ところで、突部33としては流路形成壁51に対向して水晶振動子4を支持できればよいので、上記した金属パターンである金属層282と、レジスト層34との二層構造でなくてもよい。例えば比較的厚い1つのレジスト層からなる構成でもよい。ただし、導電性接着剤Sを水晶振動子4の電極と配線基板3の電極との間に進入させるために突部33としては配線基板3の電極よりも高く形成する必要がある。そのためレジスト層のみにより突部33を形成する場合は、製造工程において層の厚さの管理、調整に手間を要することになることが考えられる。
【0049】
配線基板3の製造工程において、配線基板3の端子部251、261、271等の電極と共に金属層282をパターニングにより一括して形成する。この時点で電極と金属層282との高さは揃っている。そして、金属層282の上にレジスト層34などの膜を形成して突部33を形成することで、必然的に突部33の高さは配線基板3の電極よりも高くなる。つまり突部33を形成するにあたり、2層構造とすることは、製造工程を簡素にする上で好ましい。なお、金属パターン上に形成する膜としては突部33の厚さを確保できればよいので任意の材質により形成することができる。ただし、水晶振動子4のパターンと配線基板3の金属層282との不慮の短絡の防止のために、レジストのような絶縁材料により形成することが好ましい。
【0050】
突部33は、間隙36、37によって2つに分離されているが、更に分離されていてもよく、水晶振動子4を水平に支持でき、かつ水晶振動子4の発振周波数の変化の検出に影響を与えない程度に歪みを抑制できればよい。例えば、既述の例のように配線基板3の貫通孔32に沿うように形成されることには限られず、例えば貫通孔32の前後左右に点在するように設けられていてもよい。ただし、既述したように貫通孔32に沿うように形成することが好ましく、水晶振動子4及び貫通孔32は、上面視において矩形状であるがこれに限られず、円形などの異なる形状にすることができ、これらは相互に異なる形状であってもよい。突部33、流路形成壁51は、上面視において矩形状、六角形状の環状に設けられるが、振動領域61、62を囲うように設けられていればこれに限られず、円環状など他の形状であってもよい。また、突部33は、上面視において端子部251、261、271、貫通孔32から離隔していなくてもよい。
【0051】
なお、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲及びその趣旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更及び組み合わせがなされてもよい。
【符号の説明】
【0052】
251、261、271
端子部
3 配線基板
32 貫通孔
33 突部
4 圧電振動子
41 圧電片
44A、45A、46A
励振電極
44a、45a、46a
電極端子
48 吸着層
5 シリコーン部材
61、62 振動領域
63、64 発振回路
S 導電性接着剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8