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特開2024-136117粘稠層厚みの測定方法、高炉の操業方法及び高炉
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136117
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】粘稠層厚みの測定方法、高炉の操業方法及び高炉
(51)【国際特許分類】
   C21B 5/00 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
C21B5/00 323
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047102
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】照屋 聖矢
(72)【発明者】
【氏名】大本 展久
(72)【発明者】
【氏名】丸山 和也
(72)【発明者】
【氏名】田村 佳洋
(72)【発明者】
【氏名】板楠 元邦
(72)【発明者】
【氏名】室伏 孝彦
(57)【要約】
【課題】粘稠層厚みを短い時定数で測定できる粘稠層厚みの測定方法、高炉の操業方法及び高炉を提供する。
【解決手段】粘稠層厚みの測定方法は、高炉10の煉瓦における炉内側の表面32bから、表面32bに対して直交する方向に600mm以内の範囲に複数の第1温度計22それぞれの測温部を設置する。複数の第1温度計22で測定した温度情報に基づいて、表面32bに形成される粘稠層50の厚みを測定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉の煉瓦における炉内側の表面から、前記表面に対して直交する方向に600mm以内の範囲に複数の温度計それぞれの測温部を設置し、
前記複数の温度計で測定した温度情報に基づいて、前記表面に形成される粘稠層厚みを測定する、粘稠層厚みの測定方法。
【請求項2】
前記複数の温度計は、前記高炉の側壁の煉瓦において外側に開口する設置開口部に配置され、
前記設置開口部には、スタンプ材が充填されている、請求項1に記載の粘稠層厚みの測定方法。
【請求項3】
前記スタンプ材は、前記高炉の炉内環境温度下において1時間以内に熱硬化する材料である、請求項2に記載の粘稠層厚みの測定方法。
【請求項4】
前記スタンプ材の嵩密度が1.8g/cm以上である、請求項3に記載の粘稠層厚みの測定方法。
【請求項5】
前記複数の温度計は束ねられている、請求項2に記載の粘稠層厚みの測定方法。
【請求項6】
前記複数の温度計は、前記高炉の底壁を構成する煉瓦の目地に設置される、請求項1に記載の粘稠層厚みの測定方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の粘稠層厚みの測定方法より測定された粘稠層厚みに基づいて、粘稠層厚みを制御する、高炉の操業方法。
【請求項8】
出銑の際、前記複数の温度計それぞれの測温部は、前記高炉の内部から溶銑を外部に取り出す炉底出銑基準点と同じ高さに設置される、請求項7に記載の高炉の操業方法。
【請求項9】
煉瓦における炉内側の表面から、前記表面に対して直交する方向に600mm以内の範囲に複数の温度計それぞれの測温部を設置している高炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘稠層厚みの測定方法、高炉の操業方法及び高炉に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉のなかには、例えば容器を形成する煉瓦の内部に温度計を煉瓦の厚み方向に間隔をあけて埋設し、埋設した温度計で煉瓦の温度変化を測定して煉瓦の残厚を求めるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1-230711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種の高炉では、粘稠層厚みを測定することが望まれていることがある。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、粘稠層厚みを短い時定数で測定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1>本発明の一態様に係る粘稠層厚みの測定方法は、高炉の煉瓦における炉内側の表面から、前記表面に対して直交する方向に600mm以内の範囲に複数の温度計それぞれの測温部を設置し、前記複数の温度計で測定した温度情報に基づいて、前記表面に形成される粘稠層厚みを測定する。
【0007】
<2>上記<1>に係る粘稠層厚みの測定方法では、前記複数の温度計は、前記高炉の側壁の煉瓦において外側に開口する設置開口部に配置され、前記設置開口部には、スタンプ材が充填されている。
【0008】
<3>上記<2>に係る粘稠層厚みの測定方法では、前記スタンプ材は、前記高炉の炉内環境温度下において1時間以内に熱硬化する材料である。
【0009】
<4>上記<3>に係る粘稠層厚みの測定方法では、前記スタンプ材の嵩密度が1.8g/cm以上である。
【0010】
<5>上記<2>に係る粘稠層厚みの測定方法では、前記複数の温度計は束ねられている。
【0011】
<6>上記<1>に係る粘稠層厚みの測定方法では、前記複数の温度計は、前記高炉の底壁を構成する煉瓦の目地に設置される。
【0012】
<7>本発明の一態様に係る高炉の操業方法は、<1>から<7>のいずれか1つに記載の粘稠層厚みの測定方法により測定された粘稠層厚みに基づいて、粘稠層厚みを制御する。
【0013】
<8>上記<7>に係る高炉の操業方法では、出銑の際、前記複数の温度計それぞれの測温部は、前記高炉の内部から溶銑を外部に取り出す炉底出銑基準点と同じ高さに設置される。
【0014】
<9>本発明の一態様に係る高炉は、煉瓦における炉内側の表面から、前記表面に対して直交する方向に600mm以内の範囲に複数の温度計それぞれの測温部を設置している。
【0015】
本願発明者は、温度計を煉瓦における炉内側の表面から、表面に対して直交する方向に600mm以内の複数位置(表面に近い複数位置)において温度変化を検知することにより、粘稠層厚みを高精度に測定できることを見出した。すなわち、温度変化を検知する位置が前記表面から600mmよりも遠くなると、所定時間経過時における温度変化を精度よく検出することができなくなる。
ここで、表面に付着する粘稠層厚みが0mmに近づくと煉瓦が急速に損耗する一方、粘稠層が回復すると煉瓦の損耗が停止する。
よって、粘稠層厚みを適切に制御することにより、例えば、煉瓦の急速損耗などを回避できる。この結果、例えば、高炉を寿命延長させること等が可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、粘稠層厚みを短い時定数で測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係る高炉を示す断面図である。
図2図1に示す高炉に溶銑を蓄えた状態を示す断面図である。
図3図1に示す高炉の第2煉瓦に形成した設置開口部に2つの第1温度計を設置した状態を示す断面図である。
図4図3に示す設置開口部にスタンプ材を突き固めた状態を拡大して示す断面図である。
図5】設置開口部に押し込むスタンプ材をシュート治具に載せる施工を説明する断面図である。
図6】設置開口部の先端部までスタンプ材を押し込む施工を説明する断面図である。
図7】設置開口部にスタンプ材を突き固める施工を説明する断面図である。
図8】設置開口部にスタンプ材を突き固める施工を複数回繰り返す例を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1から図8を参照し、本発明の一実施形態に係る粘稠層厚みの測定方法、高炉の操業方法、及び高炉を説明する。
【0019】
[第1実施形態]
(高炉)
図1図2に示すように、高炉10の炉内における底部側では、溶銑12が生成される。高炉10は、高炉本体20と、複数の第1温度計22と、複数の第2温度計26と、複数の第3温度計55と、を備えている。
【0020】
(高炉本体)
高炉本体20は、底壁31と、側壁32と、内側スタンプ材33と、ステーブ34と、外側スタンプ材35と、鉄皮36と、を備えている。
【0021】
底壁31は、高炉10の炉底を構成する。底壁31では、複数の第1煉瓦(煉瓦)41が長手方向を鉛直に向けて縦向きに配置されている。第1煉瓦41には、例えばカーボン煉瓦が使用される。底壁31では、複数の第1煉瓦41が水平方向に連続して設けられ、隣接する第1煉瓦41と第1煉瓦41との間に目地42が形成されている。目地42の隙間は、例えば目地材で埋め込まれている。
【0022】
側壁32は、高炉10の炉壁を構成する。側壁32の底部32aは、底壁31の外周面31aを径方向の外側から覆うように円筒状に形成されている。側壁32は、底部32aから上方に向けて筒状に形成されている。側壁32では、複数の第2煉瓦(煉瓦)45が長手方向を水平に向けて横向きに配置されている。第2煉瓦45には、例えばカーボン煉瓦が使用される。第2煉瓦45は、複数段積み上げられている。上下方向に隣接する第2煉瓦45と第2煉瓦45との間には目地46が形成されている。目地46の隙間は目地材で埋め込まれている。
【0023】
底壁31及び側壁32により炉内の空間48が形成されている。空間48の底部には、中埋め煉瓦49が配置されている。中埋め煉瓦49は、例えば底壁31の上に2段に積み上げられている。中埋め煉瓦49は、炉内の溶銑12により消失する。
【0024】
内側スタンプ材33は、側壁32の外周面に沿って円筒状に形成された耐火材である。内側スタンプ材33は、例えば突き固められて施工される。
ステーブ34は、例えば冷媒水路が備えられた水冷金物である。ステーブ34は、鉄皮36等を冷却して鉄皮36等を炉内の高熱から保護する。
外側スタンプ材35は、ステーブ34の外周面に沿って円筒状に形成された耐火材である。外側スタンプ材35は、内側スタンプ材33と同様に突き固められて施工される。
鉄皮36は、外側スタンプ材35の外周面に沿って円筒状に形成された鋼板製の部材である。鉄皮36は、外側スタンプ材35を覆うことにより高炉の外部を形成する。
【0025】
高炉10の稼働時、炉内には溶銑12が生成され、中埋め煉瓦49の一部または全部、および、第2煉瓦45の炉内側の一部が、溶銑12により消失する。底壁31の表面(煉瓦の表面)31b及び側壁32の表面(煉瓦の表面)32bに粘稠層50が形成される。底壁31の表面31bは、第1煉瓦41のうち炉内側に対向する内面で形成されている。側壁32の表面32bは、第2煉瓦45のうち炉内側に対向する内面で形成されている。各表面31b、32bの位置は、後述するように、例えば、第3温度計44の測定結果など、各煉瓦41、45についての温度の測定結果から推定することができる。
【0026】
粘稠層50は、底壁31の表面31b及び側壁32の表面32bに付着している。粘稠層50は、表面31bと溶銑12との間に介在し、さらに表面32bと溶銑12との間に介在する半溶融状態の層である。粘稠層50が表面31bと溶銑12との間に介在することにより、底壁31の第1煉瓦41が保護される。粘稠層50が表面32bと溶銑12との間に介在することにより、側壁32の第2煉瓦45が保護される。すなわち、粘稠層50は、表面31b及び表面32bに付着して第1煉瓦41及び第2煉瓦45を保護する煉瓦保護層である。
【0027】
複数の第3温度計55は、高炉10の稼働前に設置されている既設の温度計である。複数の第3温度計55は、側壁32の外周面側に、側壁32の周方向に間隔をあけて配置されている。複数の第3温度計55は、一対の第3温度計55が一組として配置されている。一対の第3温度計55は、例えば、一方の第3温度計55が側壁32の外周面から炉内に向けて50mmの位置に設置されている。他方の第3温度計55が側壁32の外周面から炉内に向けて150mmの位置に設置されている。複数の第3温度計55は、例えば、積み上げられた第2煉瓦45の段ごとに設置されている。第3温度計55は、例えば、第2煉瓦45の残厚を推定(管理)するために用いられる。すなわち、高炉10の稼働時から第3温度計55により温度を測定しておくことで、測定結果の変化に応じて、第2煉瓦45の残圧を推定することができる。さらに、第3温度計55は、例えば、鉄皮36等の冷却状況を確認するためにも用いられる。
【0028】
図2から図4に示すように、高炉本体20には、設置開口部58が形成されている。設置開口部58は、側壁32のうち底壁31寄りの側壁32c(以下、炉底側壁(ろていそくへき)ともいう)に設けられている。設置開口部58は、例えば、炉底側壁32cにおいて下から4段目の第2煉瓦45に設けられている。設置開口部58は、高炉本体20の外部から炉内に向けて側壁32の表面32bに対して直交する方向に形成されている。本実施形態では、設置開口部58は、下から4段目の第2煉瓦45において外側に開口している。設置開口部58の孔径は、任意に選択可能であり、例えば20mmである。設置開口部58の先端部58aは、側壁32の表面32bから、表面32bに対して直交する方向(径方向)に600mm以内の範囲に位置する。
【0029】
設置開口部58には高炉本体20の外部から単管61が挿入されている。単管61は、先端部から設置開口部58に挿入されている。図示の例では、単管61は、設置開口部58のうち、ステーブ34と、外側スタンプ材35と、鉄皮36と、に位置する部分に挿入されている。単管61の先端部は、内側スタンプ材33に挿入されていない。単管61は、基端部61aが高炉本体20の外周面から外部に突出されている。単管61の基端部61aにはフランジ62が固定されている。フランジ62には単管61と同軸上に挿通孔63が形成されている。フランジ62にはフランジ65が着脱可能に取り付けられる。フランジ65にはフランジ62の挿通孔63と同軸上に貫通孔66が形成されている。
【0030】
(第1温度計)
フランジ65の貫通孔66、フランジ62の挿通孔63、及び単管61を通して複数の第1温度計22が設置開口部58に設置されている。本実施形態では、複数の第1温度計22として2つの第1温度計22を例に説明する。2つの第1温度計22は、設置開口部58に設置されることにより、炉底側の炉底側壁32cにおいて4段目の第2煉瓦45(図1参照)に設置されている。
【0031】
2つの第1温度計22は、炉底の第1煉瓦41から1500mm以上5500mm以内(第2煉瓦45の3段目から10段目)の高さ位置に設置されている。2つの第1温度計22は、例えば、複数の第3温度計55で測定された温度情報に基づいて、高炉10の稼働後に設置箇所を決めてもよい。例えば、2つの第1温度計22は、第2煉瓦45のうち、温度の管理を必要とする箇所に設置する。前記温度の管理を必要とする第2煉瓦45としては、例えば、第2煉瓦45の残厚が薄層化している箇所や、第1温度計22による温度の測定結果が高い箇所などが挙げられる。
なお、複数の第1温度計22は、2つに限らないで3つ以上としてもよい。また、本実施形態では、2つの第1温度計22を炉底側壁32cの一か所に設置する例について説明するが、例えば炉底側壁32cの複数個所(上下方向の複数個所、周方向の複数個所)に2つの第1温度計22を設置してもよい。
【0032】
2つの第1温度計22は、例えば一般に知られているシース熱電対が使用される。シース熱電対は、シースの内部に熱電対素線(図示せず)が封入されている。2つの第1温度計22は、一方の第1温度計23と、他方の第1温度計24と、を備えている。
一方の第1温度計23は、例えばシース(温度計のシース)23aの直径が3.2mmで、第1底部58cに接触した状態に設置されている。シース23aの直径は任意に選択可能である。一方の第1温度計23の先端23bは、設置開口部58の先端部58aに接触されている。よって、一方の第1温度計23の先端23bは、高炉10の炉底側における側壁32の表面32bから、表面32bに対して直交する方向に600mm以内の範囲に位置するように設置されている。
【0033】
他方の第1温度計24は、例えばシース(温度計のシース)24aの直径が1.6mmで、第2底部58dに接触した状態に設置されている。シース24aの直径は任意に選択可能である。他方の第1温度計24の先端24bは、第2底部58dの先端部58eに接触されている。よって、他方の第1温度計24は、一方の第1温度計23の先端23bから高炉本体20の外側に所定距離だけ離れた位置に先端24bが設置されている。他方の第1温度計24の先端24bは、高炉10の炉底側における側壁32の表面32bから、表面32bに対して直交する方向に600mm以内の範囲に位置するように設置されている。
【0034】
すなわち、2つの第1温度計22それぞれの先端23b及び先端24bは、高炉10の炉底側における側壁32の表面32bから、表面32bに対して直交する方向に600mm以内の範囲に位置する。言い換えると、複数の第1温度計22それぞれの先端23b、24bのうち、表面32bから最も離れている先端24bから、表面32bまでの距離が、600mm以内である。ここで、これらの複数の第1温度計22それぞれの先端23b及び先端24bは、各第1温度計22の測温部である。また、複数の第1温度計22それぞれの先端23b及び先端24bは、同じ高さ位置における側壁32の表面32bから、前述したような600以内の範囲に位置する。
なお第1実施形態では、2つの第1温度計22において、一方の第1温度計23の先端23bと他方の第1温度計24の先端24bとを500mm離して設置する例について説明するが、先端23bと先端24bとの間の距離は任意に選択可能である。
【0035】
2つの第1温度計22は、一方の第1温度計23のシース23aと他方の第1温度計24のシース24aとがシースの長手方向に間隔をあけて、例えば結束バンド25等により複数個所で束ねられている。よって、2つの第1温度計22の強度が高められている。これにより、2つの第1温度計22を設置開口部58の第1底部58cや第2底部58dに沿って真っすぐに設置しやすくなる。
【0036】
2つの第1温度計22が設置開口部58に配置された状態において、設置開口部58にはスタンプ材68が充填されている。言い換えると、設置開口部58がスタンプ材68により仕舞されている。スタンプ材68は、例えば内側スタンプ材33や外側スタンプ材35をベースとした材料である。スタンプ材68は、高炉10の炉内環境温度下において1時間以内に熱硬化する熱硬化性を有する。また、スタンプ材68は、例えば第2煉瓦45と同等の熱伝導性を有する。スタンプ材68は、設置開口部58の内部において嵩密度が1.8g/cm以上に突き固められている。なお図示の例では、設置開口部58の全体ではなく、設置開口部58のうち、炉内側の一部に、スタンプ材68が充填されている。
【0037】
(第2温度計)
図1に示すように、複数の第2温度計26は、底壁31を構成する第1煉瓦41間の目地42に設置されている。本実施形態では、複数の第2温度計26として2つの第2温度計26を例に説明する。2つの第2温度計26を第1煉瓦41間の目地42に設置することにより、例えば2つの第2温度計26を設置するために設置開口部を第1煉瓦41に形成する必要がない。これにより、第1煉瓦41の強度を確保できる。2つの第2温度計26は、例えば第1温度計22と同様に一般に知られているシース熱電対が使用される。2つの第2温度計26は、一方の第2温度計27と、他方の第2温度計28と、を備えている。
【0038】
一方の第2温度計27の先端27aは、高炉10の炉底側における底壁31の表面31bから、表面31bに対して直交する方向(上下方向)に600mm以内の範囲に位置するように設置されている。
他方の第2温度計28は、一方の第2温度計27の先端27aから底壁31の外側に所定距離だけ離れた位置に先端28aが設置されている。他方の第2温度計28の先端28aは、高炉10の炉底側における底壁31の表面31bから、表面31bに対して直交する方向に600mm以内の範囲が位置するように設置されている。
【0039】
これにより、2つの第2温度計26それぞれの先端27a及び先端28aは、高炉10の炉底側における底壁31の表面31bから、表面31bに対して直交する方向に600mm以内の範囲に位置するように設置されている。先端27aと先端28aとの間の距離は任意に選択可能である。
【0040】
なお、複数の第2温度計26は、2つに限らないで3つ以上としてもよい。また、実施形態では、2つの第2温度計26を底壁31の一か所に設置する例について説明するが、例えば底壁31の複数個所に2つの第2温度計26を設置してもよい。
【0041】
(設置開口部にスタンプ材を充填する施工例)
つぎに、2つの第1温度計22を設置開口部58に設置して、設置開口部58にスタンプ材68を充填する施工例を図3から図8に基づいて説明する。2つの第1温度計22は、例えば、高炉10の稼働後、第2煉瓦45に対して温度の管理が必要となったとき等に、施工することができる。
図3図4に示すように、2つの第1温度計22を束ねた状態において、2つの第1温度計22を設置開口部58の第1底部58cや第2底部58dに沿って真っすぐに設置する。2つの第1温度計22を設置開口部58に設置した後、フランジ62からキャップ65を外す。2つの第1温度計22のシース23a及びシース24aにフランジ62の位置に合わせてマーキングをする。よって、スタンプ材68の施工中に2つの第1温度計22のずれを確認できる。
【0042】
設置開口部58内の温度を放射温度計で測定する。スタンプ材68の熱間可使時間を考慮して設置開口部58内の温度が高くないかを確認する。設置開口部58内の温度が高い場合の備えとして空冷用のエアパイプを準備しておくことが好ましい。また、設置開口部58の先端部58aからフランジ62までの長さをコンベックス(図示せず)で測定する。測定した長さの測定値をスタンプ材68の嵩比重を計算するベースとする。
ここで、例えばスタンプ材68を1回の施工量として33gごとに個別に小分けして包装し、後述するシュート治具71(図5参照)に合わせて細長く紙に包んでおくことが好ましい。これにより、スタンプ材68をシュート治具71に短時間で載せることができる。
【0043】
図5に示すように、個別に包装して細長く紙に包んだ33gのスタンプ材68を包装から取り出してシュート治具71に載せる。シュート治具71は、フランジ62から外側に突出する部分71aが半割パイプに形成されている。半割パイプの部分71aは、スタンプ材68を載せやすく、スタンプ材68がこぼれ難い形状に形成されている。また、シュート治具71は、フランジ62から単管61に差し込まれる部分(図示せず)がパイプ状に形成されている。パイプ状に形成された部分は、単管61の孔径より小径に形成されている。よって、パイプ状に形成された部分をフランジ62から単管61に差し込むことができる。設置開口部58の孔径は、一例として20mmに形成されている。
【0044】
シュート治具71に1回の施工量として33gのスタンプ材68を載せ、シュート治具71に載せたスタンプ材68をスポンジブラシ(図示せず)でシュート治具71から設置開口部58に押し込む。不図示のスポンジブラシは弾性変形可能なブラシである。
図6に示すように、2つの第1温度計22のシース23a及びシース24a周りのスタンプ材68を、設置開口部58内において他の部分のスタンプ材68とともにスポンジブラシで設置開口部58の先端部58aまで押し込む。スタンプ材68を設置開口部58の先端部58aまで押し込む治具としてはスポンジブラシを使用することが好ましい。
【0045】
図7に示すように、スタンプ材68をスポンジブラシで設置開口部58の先端部58aまで押し込こんだ後、スタンプ材68をスタンプ付き棒75で30秒突き固める。よって、スタンプ材68に空隙がないようにできる。
スタンプ付き棒75は、付き棒75aの先端に円板状の突板75bを備える。突板75bは、設置開口部58との隙間を極力狭くすることが好ましい。具体的には、突板75bは、設置開口部58孔径20mmに対して直径18mmに形成されている。また、突板75bには、2つの第1温度計22のシース23a及びシース24aに対応する下部に凹部75cが形成されている。凹部75cは、切り欠きである。よって、突板75bが2つの第1温度計22のシース23a及びシース24aや、シース23a及びシース24aを束ねる結束バンド25等に干渉することを防止できる。
さらに、付き棒75aは、高炉10の外部空間が狭いために継ぎ足し式に形成されている。また、予備の付き棒として、突板75bの直径を18mmより小さい16mmのものを準備しておくことが好ましい。
【0046】
ここで、2つの第1温度計22は、設置開口部58の底部に沿って真っすぐに設置されている。これにより、スタンプ材68を設置開口部58に押し込んで突き固める施工を2つの第1温度計22が妨げられにくい。また、2つの第1温度計22では、スタンプ材68を設置開口部58に押し込んで突き固める突板75bに対して干渉しないようにシース23a及びシース24aが結束されていることが好ましい。
【0047】
スタンプ材68をスタンプ付き棒75で突き固めた後、突き固めたスタンプ材68の表面からフランジ62までの長さをコンベックス(図示せず)で測定する。測定したスタンプ材68の表面からフランジ62までの長さと、予め測定した設置開口部58の先端部58aからフランジ62までの長さとに基づいて突き固めたスタンプ材68の嵩比重を計算する。スタンプ材68の嵩密度が1.8g/cm以上であることを確認する。
2つの第1温度計22のシース23a及びシース24aのマーキングがフランジ62からずれていないかを確認する。例えば、マーキングがフランジ62から炉外側にずれている場合には2つの第1温度計22を押し込み、マーキングをフランジ62に合わせる。
【0048】
図8に示すように、スタンプ材68を個別に小分けして設置開口部58に押し込んで突き固める施工を複数回繰り返す。この際、一例として、設置開口部58にスタンプ材68を充填する長さLを600mmとする。ここで、2つの第1温度計22は、例えば、一方の第1温度計23の先端23bと他方の第1温度計24の先端24bとが500mm離れている。よって、スタンプ材68の長さを600mmとすることにより、スタンプ材68を他方の第1温度計24の先端24bから炉外側に100mm離れた位置まで延ばすことができる。これにより、2つの第1温度計22は、第2煉瓦45の温度(すなわち、炉内環境温度)を精度よく測定できる。
【0049】
ここで、スタンプ材68の長さを600mmとするためには、小分けしたスタンプ材68を1回の施工で約30mmに付き固める施工を約20回繰り返す必要がある。1回の施工時間を約5分とすると、スタンプ材68の長さを600mmにする施工時間は約100分となる。炉内環境温度(すなわち、設置開口部の表面側の想定温度)を300℃とした場合、スタンプ材68の可使時間は1時間以内(具体的には、30~60分)である。
【0050】
一例として、スタンプ材68の可使時間を30分と仮定すると、例えば7回目の施工中に、1回目に施工したスタンプ材68が硬化し始める。一方、3回目から6回目に施工されたスタンプ材68は硬化していない。よって、7回目に施工されたスタンプ材68を6回目に施工されたスタンプ材68に対して一体的に硬化させることができる。
以上から、スタンプ材68を炉内環境温度下において1時間以内に熱硬化する材料とすることにより、スタンプ材68の嵩密度を1.8g/cm以上に確保した状態で設置開口部58にスタンプ材68を充填することができる。
【0051】
ここで、設置開口部58にスタンプ材68を充填する施工中に、高炉本体20の内側スタンプ材33や外側スタンプ材35(図1参照)が僅かに崩れて設置開口部58の内部でスタンプ材68に混合することが考えられる。しかしながら、内側スタンプ材33や外側スタンプ材35が、スタンプ材68と同種の材料の場合、内側スタンプ材33や外側スタンプ材35が崩れてスタンプ材68に混合しても問題が生じにくい。
なお、一方の第1温度計23の先端23bと他方の第1温度計24の先端24bとの間隔は500mmに限らないで任意に選択可能である。また、スタンプ材68の長さは600mmに限らないで任意に選択可能である。
【0052】
(粘稠層厚みの測定方法及び高炉の操業方法)
ついで、2つの第1温度計22により粘稠層50の厚み(稼働面の位置)を測定する粘稠層厚みの測定方法及び高炉10の操業方法を図2図4に基づいて説明する。以下、粘稠層50の厚みを「粘稠層厚み」ということがある。
なお、2つの第2温度計26による粘稠層厚みの測定方法及び高炉10の操業方法は、2つの第1温度計22の粘稠層厚みの測定方法及び高炉10の操業方法と同様である。よって、2つの第2温度計26による粘稠層厚みの測定方法及び高炉10の操業方法の説明を省略する。
【0053】
本願発明者は、第1温度計22を第2煉瓦45の表面32bから、表面32bに対して直交する方向に600mm以内の複数位置(表面32bに近い複数位置)において温度変化を検知することにより、粘稠層厚みを高精度に測定できることを見出した。すなわち、温度変化を検知する位置が前記表面32bから600mmよりも遠くなると、所定時間経過時における温度変化を精度よく検出することができなくなる。
【0054】
そこで、図2に示すように、2つの第1温度計22を、高炉10の炉底側における側壁32の表面32b(粘稠層厚みを0mmと仮定したときの稼働面の位置)から、表面32bに対して直交する方向(径方向)に600mm以内の範囲に先端23b及び先端24b(測温部)が位置するように設置した。このような2つの第1温度計22によって、一定の時間の間隔をあけて連続的に温度を測定することにより、短い時定数の温度変化(すなわち、炉内の非定常的な温度変化)を測定できる。これにより、炉内側の現象(具体的には、側壁32の表面32bに形成される粘稠層50の厚み)を正確に測定して把握できる。
【0055】
粘稠層厚みは、例えば、2つの第1温度計22で測定した各温度の温度差(ΔT)、2つの第1温度計22の距離(ΔX)、第2煉瓦45の煉瓦物性値(λ)等を因子として算出することができる。具体的には、第1温度計22の高さ位置において、第1温度計22よりも径方向の内側に位置する部分の温度(以下、推定温度ともいう)を、上述した各因子を利用して推定する。ここで、銑鉄の溶融温度を1150℃と仮定すると、粘稠層厚みは、前記水底温度が1150℃以下となる位置が、粘稠層50の表面(内面)と設定される。そこで、粘稠層50の表面の位置から、第2煉瓦45の残厚を差し引くことで、粘稠層厚みを算出することができる。第2煉瓦45の残圧は、例えば、第3温度計55の測定結果から推定することができる。
以上のように算出した粘稠層厚みに基づいて粘稠層厚みを制御し、粘稠層厚みを適切に確保するように高炉10を操業する。例えば、粘稠層厚みが小さくなり、炉内側が温度上昇した場合に、温度上昇した周辺の温度を早期に下げる手段(具体的には、当該箇所の送風量調整、及び近傍出銑口の閉塞による出銑量調整)を実施できる。
ここで、粘稠層厚みの測定結果に基づいて粘稠層厚みを制御することには、以下の場合が含まれる。
(1)粘稠層厚みの測定結果と、粘稠層厚みについて設定された目標値と、を比較する。測定結果と目標値とに相違がある場合、測定結果が目標値に近づくよう、高炉10の運転条件を調整する。
(2)粘稠層厚みの測定結果と、粘稠層厚みについて設定された最低値と、を比較する。測定結果が最低値を下回った場合、粘稠層が厚くなるよう、高炉10の運転条件を調整する。
【0056】
このように、高炉10の操業方法では、粘稠層厚みの測定方法により測定した粘稠層厚みに基づいて粘稠層50の厚みを制御する。よって、側壁32の表面32bに付着している粘稠層50を消失させることなく、粘稠層50を適切な厚みで制御できる。
ここで例えば、表面32bに付着する粘稠層厚みが0mmに近づくと第2煉瓦45が急速に損耗する一方、粘稠層50が回復すると第2煉瓦45の損耗が停止する。
よって、粘稠層厚みを適切に制御することにより、例えば、第2煉瓦45の急速損耗などを回避できる。この結果、例えば、高炉10を寿命延長させること等が可能になる。
【0057】
また、図2図4に示すように、2つの第1温度計22を配置する設置開口部58にスタンプ材68を充填するようにした。さらに、スタンプ材68の嵩密度を1.8g/cm以上とした。よって、スタンプ材68を緻密にでき、炉内熱による熱硬化時の揮発(突沸、及び突沸時の空隙)を防止できる。これにより、設置開口部58にスタンプ材68を充填することにより、炉内の溶銑滓が設置開口部58に差し込むことを防止できる。したがって、溶銑滓の漏洩によるトラブルリスクを回避できる。さらに、2つの第1温度計22により長期的に、かつ安定的に温度指示値を継続して測定できる。これにより、2つの第1温度計22により高炉10の末期まで安定的に温度管理を継続できる。
【0058】
[第2実施形態]
つぎに、高炉10の内部から溶銑12を出銑する際に第1実施形態の粘稠層厚みの測定方法を活用する例を図2に基づいて説明する。
図2に示すように、例えば、高炉10を改修する場合、高炉10の内部(すなわち、炉内)から溶銑12を出銑する必要がある。この場合、炉内に残る溶銑12を可能な限り少量にすることが好ましい。炉内から溶銑12を外部に取り出す際には、高炉10の外側において炉底出銑開孔位置P1からドリル等で炉底側の側壁32に炉内へ向けて上り勾配の溶銑取出孔82を開ける。
ここで、高炉10の周囲には、例えば、高炉10に関連する設備等が設けられている。よって、高炉10は周囲の空間が狭い。このため、高炉10の周囲では、ドリルを設置する空間が限定される。
【0059】
この条件において、炉内に残る溶銑12を可能な限り少量にすることを考慮すると、高炉10の外側における炉底出銑開孔位置P1や溶銑取出孔82の傾斜角が限定される。よって、ドリルの設置箇所、炉底出銑開孔位置P1、溶銑取出孔82の傾斜角、粘稠層厚み等を考慮することにより、溶銑取出孔82が粘稠層50の表面に開口する位置P2を予め予測することが可能である。以下、溶銑取出孔82が粘稠層50の表面に開口する位置P2を炉底出銑基準点P2ということがある。
【0060】
本実施形態では、2つの第1温度計22を炉底出銑基準点P2と同じ高さに設置するようにした。よって、2つの第1温度計22で測定した温度を管理することにより、炉底出銑基準点P2における粘稠層厚みを、高炉10の改修時に合わせて精度よく管理できる。これにより、高炉10を改修する際に、溶銑取出孔82を炉底出銑開孔位置P1から粘稠層50の表面の炉底出銑基準点P2までドリルで適切にあけることができる。したがって、溶銑取出孔82の開口(すなわち、炉底出銑基準点P2)から炉内の溶銑12を外部に取り出すことができる。これにより、高炉10の改修を適切におこなうことができる。
【0061】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0062】
例えば、単管61およびフランジ62がなくてもよい。
【0063】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10 高炉
12 溶銑
22 2つの第1温度計(複数の温度計)
23 一方の第1温度計
23a 一方の第1温度計のシース(温度計のシース)
24 他方の第1温度計
24a 他方の第1温度計のシース(温度計のシース)
26 2つの第2温度計(複数の温度計)
27 一方の第2温度計
28 他方の第2温度計
31 底壁
31b 底壁の表面(煉瓦の表面)
32 側壁
32b 側壁の表面(煉瓦の表面)
41 第1煉瓦(煉瓦)
42 目地
45 第2煉瓦(煉瓦)
50 粘稠層
58 設置開口部
68 スタンプ材
P2 炉底出銑基準点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8