(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013612
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B28B 7/36 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
B28B7/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115830
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】金子 直樹
(72)【発明者】
【氏名】青木 泰穂
【テーマコード(参考)】
4G053
【Fターム(参考)】
4G053AA15
4G053BB13
4G053EB17
(57)【要約】
【課題】離型剤の塗布及び金型の洗浄を行わずに寸法精度が良好な成形体を製造できる方法を提供する。
【解決手段】凹部を有する金型を樹脂フィルム包装材で真空包装する金型包装工程と、真空包装された前記金型の前記凹部に、セラミックス粉末及び/又は金属粉末を含むスラリーを注入して固化させる注型固化工程とを含む成形体の製造方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部を有する金型を樹脂フィルム包装材で真空包装する金型包装工程と、
真空包装された前記金型の前記凹部に、セラミックス粉末及び/又は金属粉末を含むスラリーを注入して固化させる注型固化工程と
を含む成形体の製造方法。
【請求項2】
前記注型固化工程後に、前記金型を真空包装した前記樹脂フィルム包装材内を復圧し、成形体を離型させる離型工程を更に含む、請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項3】
前記注型固化工程において、前記スラリーを注入した後、前記金型の前記凹部の上方に蓋材を配置する、請求項1又は2に記載の成形体の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂フィルム包装材が、熱可塑性、離型性、形状追従性及び耐薬品性を有する、請求項1又は2に記載の成形体の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂フィルム包装材を構成する樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂から選択される1種以上である、請求項1又は2に記載の成形体の製造方法。
【請求項6】
前記注型固化工程において、前記金型の前記凹部を水平に維持する、請求項1又は2に記載の成形体の製造方法。
【請求項7】
前記スラリーが、反応剤、ゲル化剤及び分散媒を更に含む、請求項1又は2に記載の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成形体の製造方法として、鋳込み成形法の一種であるモールドキャスト法が知られている(例えば、特許文献1)。モールドキャスト法は、セラミックス粉末や金属粉末などの所定の粉末、反応剤、ゲル化剤などを含むスラリーを金型に注型し、金型内で固化(硬化)させることによって成形体を製造する方法である。
【0003】
モールドキャスト法では、従来、成形体を金型から離型し易くするために、金型の内壁面に離型剤を塗布することが行われている。また、成形体の離型後の金型には、スラリーの残留物や離型剤などが付着しているため、金型を洗浄液に浸漬させてブラッシングすることで洗浄する必要がある(例えば、特許文献2)。
【0004】
ここで、外径の寸法精度が要求される成形体を製造するための従来の成形プロセスを
図8に示す。
図8に示されるように、まず、金型100の構成部品として下型110及び上型120を準備し、下型110及び上型120のそれぞれに離型剤130を塗布する(P1)。次に、下型110及び上型120を型組して金型100を作製する(P2)。次に、金型100にスラリー140を注型して固化(硬化)させる(P3)。その後、各型を離型させることによって成形体150を得ることができる(P4)。そして、離型後の下型110及び上型120は、次の成形体の製造を行うために洗浄される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-37658号公報
【特許文献2】特開2020-131708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
モールドキャスト法によって成形体を製造するための従来の方法では、成形前に金型に対する離型剤の塗布、成形後に金型の洗浄が必要とされている。
しかしながら、離型剤の塗布は、塗りムラが発生して離型させ難いことがある。また、金型の洗浄は、金型の洗浄不足によって成形体に異物が混入することがある。そのため、組成の異なる製品を成形するのに同じ金型を使用し難い。また、離型剤の塗布及び金型の洗浄を行うための設備面積も大きくなる。特に、組成の異なる製品を成形する場合、製品毎に成形型を洗浄するための設備を設ける必要がある。また、離型剤の塗布及び金型の洗浄は、工程時間が長いため、成形体の生産性が低下する原因となる。さらに、離型剤の塗布及び金型の洗浄は、薬品の使用が必要であるため、製造コストや環境負荷への影響も大きい。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決することを課題とし、特に、離型剤の塗布及び金型の洗浄を行わずに寸法精度が良好な成形体を製造できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、凹部を有する金型を樹脂フィルム包装材で真空包装し、この真空包装した金型を用いて成形を行うことにより、離型剤の塗布及び金型の洗浄を省略することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、上記の課題は、以下の本発明によって解決されるものであり、本発明は以下の通りである。
【0009】
[1]凹部を有する金型を樹脂フィルム包装材で真空包装する金型包装工程と、
真空包装された前記金型の前記凹部に、セラミックス粉末及び/又は金属粉末を含むスラリーを注入して固化させる注型固化工程と
を含む成形体の製造方法。
【0010】
[2]前記注型固化工程後に、前記金型を真空包装した前記樹脂フィルム包装材内を復圧し、成形体を離型させる離型工程を更に含む、[1]に記載の成形体の製造方法。
【0011】
[3]前記注型固化工程において、前記スラリーを注入した後、前記金型の前記凹部の上方に蓋材を配置する、[1]又は[2]に記載の成形体の製造方法。
【0012】
[4]前記樹脂フィルム包装材が、熱可塑性、離型性、形状追従性及び耐薬品性を有する、[1]~[3]のいずれか1つに記載の成形体の製造方法。
【0013】
[5]前記樹脂フィルム包装材を構成する樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂から選択される1種以上である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の成形体の製造方法。
【0014】
[6]前記注型固化工程において、前記金型の前記凹部を水平に維持する、[1]~[5]のいずれか1つに記載の成形体の製造方法。
【0015】
[7]前記スラリーが、反応剤、ゲル化剤及び分散媒を更に含む、[1]~[6]のいずれか1つに記載の成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、離型剤の塗布及び金型の洗浄を行わずに寸法精度が良好な成形体を製造できる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】金型包装工程を説明するための断面概略図である。
【
図2】注型固化工程を説明するための断面概略図である。
【
図3】注型固化工程において蓋材を配置した状態を説明するための断面概略図である。
【
図4】注型固化工程においてスペーサーを介して蓋材を配置した状態を説明するための断面概略図である。
【
図5】注型固化工程において真空包装された金型を水平台に配置した状態を説明するための断面概略図である。
【
図6】離型工程を説明するための断面概略図である。
【
図8】従来の製造プロセスを説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0019】
本発明の実施形態に係る成形体の製造方法は、金型包装工程と注型固化工程とを含む。また、本発明の実施形態に係る成形体の製造方法は、注型固化工程後に離型工程を更に含むことができる。これらの各工程について説明する。
【0020】
<金型包装工程>
金型包装工程を説明するための断面概略図を
図1に示す。
図1に示されるように、金型包装工程は、凹部11を有する金型10を樹脂フィルム包装材20で真空包装する工程である。具体的には、金型包装工程では、凹部11を有する金型10と樹脂フィルム包装材20とを準備し、樹脂フィルム包装材20の中に金型10を入れた後、樹脂フィルム包装材20内の空気を除去することにより、金型10を樹脂フィルム包装材20で真空包装する。
【0021】
樹脂フィルム包装材20は、金型10を真空包装することが可能なものであれば特に限定されないが、熱可塑性、離型性、形状追従性及び耐薬品性を有することが好ましい。このような特性を有する樹脂フィルム包装材20を用いることにより、寸法精度が良好な成形体を安定して得ることができる。
【0022】
樹脂フィルム包装材20が熱可塑性を有するとは、樹脂フィルム包装材20が熱可塑性樹脂から形成されていることを意味する。樹脂フィルム包装材20が熱可塑性を有することにより、真空包装によって金型10を確実に包装することができる。熱可塑性樹脂の融点は、特に限定されないが、300℃以下であることが好ましい。
【0023】
樹脂フィルム包装材20が離型性を有するとは、樹脂フィルム包装材20が成形体に付着し難いことを意味する。樹脂フィルム包装材20が離型性を有することにより、下記で説明する離型工程の際に、樹脂フィルム包装材20で真空包装された金型10から成形体を容易に分離させることができる。
【0024】
樹脂フィルム包装材20が形状追従性を有するとは、真空包装時に金型10の形状に樹脂フィルム包装材20が追従するように密着させることができることを意味する。樹脂フィルム包装材20が形状追従性を有するためには、23±2℃における樹脂フィルム包装材20の伸び率が50%以上であることが好ましい。ここで、樹脂フィルム包装材20の伸び率とは、樹脂フィルム包装材20の当初の寸法(例えば、長さ)に対する、樹脂フィルム包装材20が破断する直前における最大の変形量(例えば、変形後の長さ)の比率のことを意味する。樹脂フィルム包装材20が形状追従性を有することにより、寸法精度が良好な成形体を安定して得ることができる。
【0025】
樹脂フィルム包装材20が耐薬品性を有するとは、成形体の製造に用いられる薬品(例えば、スラリー30に用いられる薬品)に対して耐性を有し、溶解などが生じないことを意味する。樹脂フィルム包装材20が耐薬品性を有することにより、成形体に異物が混入することを抑制することができる。
【0026】
樹脂フィルム包装材20に用いられる樹脂の例としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、樹脂フィルム包装材20は、単層構造を有していてもよく、2層以上の複層構造を有していてもよい。このような樹脂から構成される樹脂フィルム包装材20であれば、上記の特性を得ることができる。
【0027】
樹脂フィルム包装材20の厚みは、上記の特性が得られる範囲であれば特に限定されないが、0.01~1.0mm、より好ましくは0.02~0.5mmである。樹脂フィルム包装材20の厚みが0.01mm未満であると、真空包装時に樹脂フィルム包装材20が破れることがある。また、樹脂フィルム包装材20の厚みが1.0mm超過であると、金型10に対する樹脂フィルム包装材20の形状追従性が十分でないことがある。
【0028】
金型10は凹部11を有する。金型10の凹部11は、スラリー30が注入される領域であるため、成形体の外形(側面及び一方の表面)に対応する形状を有する。したがって、金型10の凹部11は、作製する成形体の形状に応じて適宜決定すればよく特に限定されない。
【0029】
図8に示されるような複数の金型100(下型110及び上型120)を組み合わせて構成される従来の金型100は、下型110又は上型120のどちらに成形体が付着し易いかがわかり難いため離型剤130の塗布量の制御が難しく、成形体の厚みに応じた金型100を準備する必要もあった。これに対して本発明の実施形態で用いられる金型10は、1つの金型10であり、スラリー30の量(例えば、質量)によって厚さを容易に制御することができる。また、成形体の離型性は、樹脂フィルム包装材20によって確保されているため、離型剤130の塗布量の制御も不要である。
【0030】
金型10を構成する材料としては、特に限定されないが、金属(アルミニウム、アルミニウム合金、SUS鋼、ニッケル合金など)、セラミックスなどを用いることができる。
樹脂フィルム包装材20による金型10の真空包装は、市販の真空包装機を用いて行うことができる。真空包装の条件は、金型10の形状に樹脂フィルム包装材20が十分追従できるような条件であれば特に限定されず、使用する真空包装機に応じて適宜設定すればよい。
【0031】
<注型固化工程>
注型固化工程を説明するための断面概略図を
図2に示す。
図2に示されるように、注型固化工程は、真空包装された金型10の凹部11にスラリー30を注入して固化させる工程である。
スラリー30は、セラミックス粉末及び/又は金属粉末を含む。また、スラリー30は、必要に応じて、反応剤、ゲル化剤及び分散媒を更に含むことができる。
【0032】
セラミックス粉末としては、特に限定されないが、例えば、アルミナ粉末、ジルコニア粉末、窒化アルミニウム粉末、炭化珪素粉末などが挙げられる。これらのセラミックス粉末は、単一種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、金属粉末としては、特に限定されないが、白金粉末、タングステン粉末、モリブデン粉末などが挙げられる。これらの金属粉末は、単一種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。スラリー30におけるセラミックス粉末及び/又は金属粉末の含有量は、特に限定されないが、例えば40~80質量%とすることができる。
【0033】
反応剤は、ゲル化剤と反応して硬化反応(ゲル化反応)を引き起こす反応性官能基を含む。反応剤としては、水、多価アルコール(エチレングリコールのようなジオール類、グリセリンのようなトリオール類など)、多塩基酸(ジカルボン酸など)などが挙げられる。スラリー30における反応剤の含有量は、特に限定されないが、例えば0.05~5質量%とすることができる。
【0034】
ゲル化剤は、反応剤に含まれる反応性官能基と反応して硬化反応を引き起こす添加剤である。ゲル化剤としては、例えば、MDI(4,4’-ジフェニルメタンジイソシアナート)、HDI(ヘキサメチレンジイソシアナート)、TDI(トリレンジイソシアナート)などが挙げられる。ゲル化剤は、イソシアナート基(-N=C=O)及びイソチオシアナート基(-N=C=S)の少なくとも一方を有することが好ましい。これにより、ゲル化剤と反応剤との反応を促進することができる。スラリー30におけるゲル化剤の含有量は、特に限定されないが、例えば1~10質量%とすることができる。
【0035】
分散媒は、所定の粉末を分散させるための添加剤である。分散媒としては、多塩基酸エステル(グルタル酸ジメチルなど)、多価アルコールの酸エステル(トリアセチンなど)、脂肪族多価エステルなどの2以上のエステル基を有するエステル類などが挙げられる。スラリー30における分散媒の含有量は、特に限定されないが、例えば10~40質量%とすることができる。
【0036】
また、スラリー30は、必要に応じて、当該技術分野において公知の添加剤(例えば、分散助剤、触媒など)を更に含んでもよい。
分散助剤は、スラリー30の粘度を低減させるための添加剤である。分散助剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリカルボン酸系共重合体、重合体のリン酸エステル塩化合物などが挙げられる。スラリー30における分散助剤の含有量は、特に限定されないが、例えば0.5~5質量%とすることができる。
【0037】
触媒は、ゲル化剤と反応剤との反応を更に促進するための添加剤である。触媒としては、例えば、トリエチレンジアミン、ヘキサンジアミン、6-ジメチルアミノ-1-ヘキサノール、DBN(ジアザビシクロノネン)などが挙げられる。スラリー30における触媒の含有量は、特に限定されないが、例えば0.01~3質量%とすることができる。
【0038】
スラリー30は、上記の各成分を混合することによって調製することができる。スラリー30の固化(硬化)は、各成分を混合した時点から始まるため、真空包装された金型10の凹部11へのスラリー30の注入は、スラリー30の調製後にできるだけ迅速に行うことが好ましい。
【0039】
真空包装された金型10の凹部11に注入したスラリー30の固化条件は、特に限定されず、使用するスラリー30の成分に応じて適宜調整すればよい。例えば、常温(25℃)にて2~6時間静置することによってスラリー30を固化させることができる。
【0040】
注型固化工程において、真空包装された金型10の凹部11にスラリー30を注入した後、
図3に示されるように、真空包装された金型10の凹部11の上方に蓋材40を配置してもよい。蓋材40を配置することにより、真空包装された金型10の凹部11で固化された成形体の表面(凹部11と接していない表面)の過度の乾燥を抑制し、成形体の表裏における特性の差が生じることを抑制することができる。また、成形体に反りが発生することを抑制することもできる。
【0041】
蓋材40としては特に限定されず、金属やセラミックスなどの材料から形成されたものを用いることができる。また、蓋材40は、金型10と直接接するようにして配置してもよいし、スペーサー(例えば、Oリング)などを介して間接的に接触するようにして配置してもよい。特に、
図4に示されるように、スラリー30を金型10の凹部11の上端まで注入する場合には、蓋材40とスラリー30との接触を避ける観点から、スペーサー50などを介して間接的に接触するようにして配置することが好ましい。
【0042】
注型固化工程において、真空包装された金型10の凹部11を水平に維持することが好ましい。真空包装された金型10の凹部11を水平に維持することにより、均一な厚みの成形体を得ることができる。金型10の凹部11を水平に維持する方法としては、特に限定されないが、例えば、
図5に示されるように、真空包装された金型10を水平台60に配置すればよい。
【0043】
<離型工程>
離型工程を説明するための断面概略図を
図6に示す。
図6に示されるように、離型工程は、成形体70(固化したスラリー30)を、真空包装された金型10から離型させる工程である。例えば、金型10の上下を反転させることにより、重量によって成形体70を金型10から離型させることができる。
成形体70と金型10との間には樹脂フィルム包装材20が介在しているため、樹脂フィルム包装材20の離型性により、成形体70を金型10から容易に離型させることができる。
【0044】
離型工程は、金型10を真空包装した樹脂フィルム包装材20内を復圧し、成形体70を離型させてもよい。このように樹脂フィルム包装材20内を復圧することにより、成形体70の離型性がより一層向上する。
樹脂フィルム包装材20内を復圧する方法としては、特に限定されず、例えば、樹脂フィルム包装材20を破って真空を単に開放するだけでもよいし、樹脂フィルム包装材20を破った後に空気導入手段によって樹脂フィルム包装材20内に空気を導入してもよい。
【実施例0045】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0046】
<成形体の製造>
金型包装工程、注型固化工程及び離型工程を順次行うことにより成形体を製造した。この製造では、同じ条件で7つの成形体を作製した。
金型包装工程では、凹部(縦300mm×横300mm×深さ5mm)を有する金型を樹脂フィルム包装材(アズワン株式会社、高密度ポリエチレン(PE)製、厚さ0.1mm×横550mm×縦900mm)に入れ、金型と樹脂フィルム包装材とが密着するように真空包装した。
【0047】
注型固化工程では、樹脂フィルム包装材で真空包装された金型を水平台に配置した後、真空包装された金型の凹部にスラリーを注入した。スラリーは、アルミナ粉末を71質量%、分散助剤を1質量%、分散媒を25質量%、触媒を0.1質量%、イオン交換水を0.2質量%、反応剤を0.2質量%、ゲル化剤を2.5質量%混合することによって得た。その後、スラリーを注入した凹部の上方にOリングを介して蓋材を配置して4時間硬化させた。
離型工程では、蓋材を除去し、金型の上下を反転させ、樹脂フィルム包装材内を復圧させることによって成形体を離型させた。
【0048】
<評価>
(1)離型性
7つの成形体の製造において、成形体の離型性を評価した。その結果、7つの成形体はいずれも離型性が良好であることを確認した。
比較のため、上記と同じ金型に離型剤を塗布してスラリーを注型して成形する従来の方法によって成形体の製造を試みた。この製造においても、同じ条件で7つの成形体を作製した。また、スラリーの種類及び硬化条件は上記と同様にした。その結果、7つの成形体のうち、6つの成形体は離型性が良好であったが、1つの成形体の離型性が十分でなかった。
【0049】
(2)成形体の品質評価1(DSC)
上記で得られた成形体に対して、後処理として乾燥のみを行った乾燥成形体に対し、表裏面の0~100μmにおけるDSC(示差走査熱量測定)を行った。DSCは、示差走査熱量計を用い、雰囲気:大気、昇温速度:10℃/分の条件で実施した。
また、比較のために、スラリーを注入した凹部の上方に蓋材を配置しないこと以外は上記の製造方法と同様にして成形体を製造し、上記と同様にしてDSCを行った。
DSCの結果を
図7に示す。
図7に示されるように、蓋材を配置しない場合、表面と裏面との間のDSC曲線の差が大きくなった。これは、解放された表面において乾燥が進み、樹脂偏析などが起こったためであると推察される。一方、蓋材を配置した場合、表面と裏面との間のDSC曲線の差が小さくなり、表面と裏面との間の品質に差がほとんどないことが確認できた。
【0050】
(3)成形体の品質評価2(平面度及び厚み差)
上記で得られた成形体に対して、形状(平面度及び厚み差)を三次元測定したところ、従来の方法と同等の形状が得られたことを確認した。
【0051】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、離型剤の塗布及び金型の洗浄を行わずに寸法精度が良好な成形体を製造できる方法を提供することができた。特に、本発明の方法と離型剤の塗布及び金型の洗浄を行う従来の方法(
図8)との効果の違いは表1に示すとおりである。
【0052】
【0053】
表1に示されるように、従来の方法では、成形体を離型させる際の歩留まりが70%であったのに対して、本発明の方法では、当該歩留まりを100%に向上させることができた。また、本発明の方法では、離型剤の塗布及び金型の洗浄に要する設備面積が不要であるとともに、真空包装に要する設備面積も従来の離型剤の塗布及び金型の洗浄に要する設備面積の10分の1と大幅に削減できた。また、本発明の方法では、離型剤の塗布及び金型の洗浄が不要であり、真空包装に要する作業時間が従来の離型剤の塗布及び金型の洗浄に要する作業時間の30分の1であるため、成形体の生産性が著しく向上した。さらに、従来の方法では、離型剤及び洗浄液の使用や、金型として2つの精密型(下型及び上型)が必要であったのに対し、本発明の方法では、離型剤及び洗浄液が不要であり、しかも1つの金型で従来と同程度の品質の成形体を作製することができた。