(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136127
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】エレクトロスラグ溶接装置およびエレクトロスラグ溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 25/00 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
B23K25/00 N
B23K25/00 D
B23K25/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047114
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】302040135
【氏名又は名称】日鉄溶接工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩良
(72)【発明者】
【氏名】伊東 宗俊
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 慎司
(57)【要約】
【課題】エレクトロスラグ溶接装置における台車の動作制御を簡素化する。
【解決手段】エレクトロスラグ溶接装置1において、開先4に向かって溶接ワイヤ9を送給し、当該溶接ワイヤ9に給電する溶接トーチ7と、開先4を構成する複数の板材のうちの一つである摺動板3と、溶接トーチ7および摺動板3が固定された台車5と、台車5の動作を制御する制御部100と、を設け、制御部100は、溶接ワイヤ9に流れる溶接電流が予め設定された設定電流値を超えたときに台車5を上昇させ、溶接電流が設定電流値未満であるときに台車5を停止させる制御を実行するように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロスラグ溶接装置であって、
開先に向かって溶接ワイヤを送給し、当該溶接ワイヤに給電する溶接トーチと、
前記開先を構成する複数の板材のうちの一つである摺動板と、
前記溶接トーチおよび前記摺動板が固定された台車と、
前記台車の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記溶接ワイヤに流れる溶接電流が予め設定された設定電流値を超えたときに前記台車を上昇させ、
前記溶接電流が前記設定電流値未満であるときに前記台車を停止させる制御を実行するように構成されていることを特徴とする、エレクトロスラグ溶接装置。
【請求項2】
前記開先内に形成されるスラグ浴の浴面を検知するスラグ浴検知器と、
前記スラグ浴にフラックスを供給するフラックス供給装置と、を備え、
前記スラグ浴検知器は、
前記台車の移動に連動して前記開先内で鉛直方向に移動する検知部と、
前記検知部と前記スラグ浴が接触したときに溶接電圧が印加されるトランジスタと、を備え、
前記制御部は、前記トランジスタに前記溶接電圧が印加されていないときに、前記フラックス供給装置から前記フラックスを供給する制御を実行することを特徴とする、請求項1に記載のエレクトロスラグ溶接装置。
【請求項3】
前記開先内に形成されるスラグ浴にフラックスを供給するフラックス供給装置を備え、
前記フラックス供給装置は、
前記フラックスが貯蔵されるホッパーと、
前記ホッパーを振動させる振動機構と、を備え、
前記振動機構は、
前記ホッパーに取り付けられた振動伝達部と、
前記振動伝達部を振動させるための振動駆動部と、を有すること特徴とする請求項1または2に記載のエレクトロスラグ溶接装置。
【請求項4】
前記振動駆動部は、往復動可能な構造を有し、
前記振動機構は、
前記振動駆動部を固定する固定部と、
前記振動駆動部の動作に応じて上下動する可動部と、
前記可動部の下端に設けられた重りと、
前記重りの下方において当該重りに接触する接触部と、を有することを特徴とする、請求項3に記載のエレクトロスラグ溶接装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記フラックスの供給開始から所定の時間までは、第1の間隔で前記振動駆動部のON状態とOFF状態を切り替え、前記所定の時間経過後に、前記第1の間隔よりも短い第2の間隔で前記ON状態と前記OFF状態を切り替える制御を実行することを特徴とする、請求項3に記載のエレクトロスラグ溶接装置。
【請求項6】
前記ホッパーの下方に前記フラックスの散布装置を備え、
前記散布装置は、
水平方向を回転軸として回転する円柱状の回転体と、
前記ホッパーの下端部に接続され、前記回転体を収容する筐体と、
前記筐体の下面部に取り付けられたノズルと、を有し、
前記回転体は、当該回転体の周縁部に前記回転軸の方向に沿って延びた複数の溝を有し、
前記複数の溝の各々は、前記回転体の周方向において間隔を空けて設けられ、
前記筐体は、
前記回転体の外周面に近接する内周面を有した中空部と、
前記中空部から前記ホッパーに通ずる上部開口と、
前記中空部から前記ノズルに通ずる下部開口と、を備えることを特徴とする、請求項3に記載のエレクトロスラグ溶接装置。
【請求項7】
エレクトロスラグ溶接方法であって、
開先に向かって溶接ワイヤを送給し、当該溶接ワイヤに給電する溶接トーチと、前記開先を構成する複数の板材のうちの一つである摺動板と、を搭載した台車を溶接中に移動させる際に、
前記溶接ワイヤに流れる溶接電流が予め設定された設定電流値を超えたときに前記台車を上昇させ、
前記溶接電流が前記設定電流値未満であるときに前記台車を停止させることを特徴とする、エレクトロスラグ溶接方法。
【請求項8】
前記台車の移動に連動して前記開先内で鉛直方向に移動する検知部と、前記検知部とスラグ浴が接触したときに溶接電圧が印加されるトランジスタと、を備えたスラグ浴検知器を用い、
前記トランジスタに前記溶接電圧が印加されていないときに、前記スラグ浴にフラックスを供給することを特徴とする、請求項7に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
【請求項9】
フラックスが貯蔵されたホッパーから前記フラックスを供給する際に、振動駆動部のON状態とOFF状態を切り替えることで振動を発生させ、発生した振動を前記ホッパーに伝達することを特徴とする、請求項7または8に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
【請求項10】
前記振動駆動部は、往復動可能な構造を有し、
前記振動駆動部のON状態とOFF状態を切り替えることで重りを上下動させ、
前記重りの上下動によって生じた振動を前記ホッパーに伝達することを特徴とする、請求項9に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
【請求項11】
前記フラックスの供給開始から所定の時間までは、第1の間隔で前記振動駆動部のON状態とOFF状態を切り替え、前記所定の時間経過後に、前記第1の間隔よりも短い第2の間隔で前記ON状態と前記OFF状態を切り替えることを特徴とする、請求項9に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロスラグ溶接装置およびエレクトロスラグ溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄骨建築分野においては建築物の超高層化や深地下化の傾向があり、使用される鋼材は、より一層の高強度化、高靱化、高付加価値化とともに極厚化が図られつつある。例えば近未来の都市ビルには板厚が100mmにも及ぶ鋼材を使用するボックス柱の利用も見込まれる。また、例えば船舶の外板や石油タンク、風力発電のポール(タワー)等の構造物においても厚板の適用が進んでいる。
【0003】
構造物に使用される厚板の溶接法として、立向自動溶接が可能なエレクトロスラグ溶接法が知られている。エレクトロスラグ溶接法は、他の立向自動溶接法として知られるエレクトロガスアーク溶接法と比較してアーク放射熱、ヒューム、スパッタ等の発生が少ないため、溶接時の作業環境に優れた溶接法である。
【0004】
エレクトロスラグ溶接法では、四方が鋼材などの板で覆われた開先内に溶融スラグが形成され、溶接トーチから送出される溶接ワイヤと溶接対象の母材がスラグ浴に溶融する。その後、溶融金属が冷却されて凝固することで母材同士が溶接される。このような溶接法において安定した溶接品質を担保するためには、溶接ワイヤの突出し長さ(ワイヤエクステンション)やスラグ浴深さを溶接中に一定に保持できることが好ましい。
【0005】
そのようなエレクトロスラグ溶接に関する技術として、特許文献1には、スラグ浴深さを予め定めた深さに保ちつつ溶接を行うエレクトロスラグ溶接装置が開示されている。このエレクトロスラグ溶接装置においては、ワイヤ送給速度に応じて定められた基準電流値に対して溶接電流が予め定めた関係となるように、溶接トーチを搭載した台車の走行速度を調節している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
溶接ワイヤに流れる溶接電流は、溶接トーチ先端部からの溶接ワイヤの突出し長さ(ワイヤエクステンション)に応じて変動し、溶接ワイヤの突出し長さは、溶接中のスラグ浴深さの変動やその他の溶接条件に応じて変動する。エレクトロスラグ溶接においては、溶接中に溶接トーチを揺動させる場合があり、溶接トーチの揺動中は溶接ワイヤの突出し長さが変動し易いため、溶接電流も変動し易い。
【0008】
特許文献1に記載された装置は、そのような溶接電流が基準電流値に対して予め定めた関係となるように台車の走行速度を調節する構成であるため、溶接電流の変動に伴い台車の走行速度が常時調節されることになる。このため、特許文献1に記載されたエレクトロスラグ溶接装置の台車は、溶接中に加減速を繰り返しながら上昇するが、溶接中に停止することはない。
【0009】
したがって、溶接中に台車が常時動作する特許文献1に記載のエレクトロスラグ溶接装置においては、緻密な制御とそれに対応するソフトウェアが必要となり、電気的に複雑な構成となる。そのような構成の溶接装置は、制御系への負荷がかかり耐久性の観点で懸念がある。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、エレクトロスラグ溶接装置における台車の動作制御を簡素化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明は、エレクトロスラグ溶接装置であって、開先に向かって溶接ワイヤを送給し、当該溶接ワイヤに給電する溶接トーチと、前記開先を構成する複数の板材のうちの一つである摺動板と、前記溶接トーチおよび前記摺動板が固定された台車と、前記台車の動作を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記溶接ワイヤに流れる溶接電流が予め設定された設定電流値を超えたときに前記台車を上昇させ、前記溶接電流が前記設定電流値未満であるときに前記台車を停止させる制御を実行するように構成されていることを特徴としている。
【0012】
別の観点による本発明は、エレクトロスラグ溶接方法であって、開先に向かって溶接ワイヤを送給し、当該溶接ワイヤに給電する溶接トーチと、前記開先を構成する複数の板材のうちの一つである摺動板と、を搭載した台車を溶接中に移動させる際に、前記溶接に流れる溶接電流が予め設定された設定電流値を超えたときに前記台車を上昇させ、前記溶接電流が前記設定電流値未満であるときに前記台車を停止させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エレクトロスラグ溶接装置における台車の動作制御を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係るエレクトロスラグ溶接装置の概略構成を示す図である。
【
図2】実施形態に係るスラグ浴検知器の概略構成を示す図である。
【
図3】スラグ浴検知器の他の構成例を示す図である。
【
図4】実施形態に係るフラックス供給装置の概略構成を示す図である。
【
図5】実施形態に係る振動機構の概略構成を示す図である。
【
図8】実施形態に係るエレクトロスラグ溶接装置の動作を示す図である。
【
図9】実施形態に係るエレクトロスラグ溶接方法における台車の動作に関するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。なお、図中のX方向、Y方向、Z方向は互いに垂直な方向であり、Z方向は鉛直方向(水平面に垂直な方向)である。
【0016】
<エレクトロスラグ溶接装置>
図1は、本実施形態に係るエレクトロスラグ溶接装置の概略構成を示す図であり、図中のハッチングを付した部位は断面を示している。
【0017】
エレクトロスラグ溶接装置1は、固定板の一例である固定水冷銅板2と、摺動板の一例である摺動水冷銅板3を備えている。
【0018】
固定水冷銅板2は、裏当て金に相当するものである。摺動水冷銅板3は、固定水冷銅板2に対向し、その固定水冷銅板2に対して間隔を空けて配置されている。また、摺動水冷銅板3は、鉛直方向(Z方向)に沿って移動可能に構成されている。
【0019】
固定水冷銅板2と摺動水冷銅板3は、いずれも内部に冷却水が通水可能な構造を有しており、溶接時には溶融スラグ温度(例えば1200~1450℃)に対して溶解しない温度まで冷却される。なお、水冷銅板の使用箇所を増やすなどの手段により水冷領域を拡大することによって、溶接金属を冷却し易くすることができる。
【0020】
なお、本実施形態においては、固定板として銅板を使用しているが、銅板を使用することに限定されず、例えば耐熱温度の高いセラミック板を使用してもよい。また、摺動板も同様に銅板を使用することに限定されず、他の金属板を使用してもよい。ただし、固定板や摺動板として溶融スラグ温度よりも融点が低い金属板を用いる場合には、その金属板が溶融スラグに対して溶解しないよう水冷構造等の冷却手段を適用する必要がある。
【0021】
固定水冷銅板2と摺動水冷銅板3の間においては、溶接対象となる2つの母材
(図示せず)のうちの一方の母材が
図1の紙面垂直方向の手前側に配置され、もう一方の母材が
図1の紙面垂直方向の奥側に配置される。エレクトロスラグ溶接装置1では、固定水冷銅板2、摺動水冷銅板3、上記の2つの母材(図示せず)に囲まれる領域が開先4となる。開先4は、上方から見て矩形状に形成される。
【0022】
エレクトロスラグ溶接装置1は、摺動水冷銅板3を上下動させるための移動機構の一例として、台車5と、その台車5が走行する鉛直方向に延びたレール6を備えている。摺動水冷銅板3は、台車5に対して固定されており、例えば台車5が上昇した際には、台車5の移動量と同一の移動量で鉛直方向上方に摺動水冷銅板3が摺動する。なお、摺動水冷銅板3は、ネジ式のスライダー(図示せず)を調整することによってY方向にも移動可能に構成されている。
【0023】
台車5には、摺動水冷銅板3の取付箇所よりも上方において1本の溶接トーチ7が取り付けられている。摺動水冷銅板3と溶接トーチ7は、同一の台車5に固定されていることにより、互いの相対的な位置関係が常に等しい状態で鉛直方向に移動できる。
【0024】
溶接トーチ7の先端部にはコンタクトチップ8が取り付けられている。ワイヤ送給装置(図示せず)から送給される溶接ワイヤ9は、その溶接トーチ7の内部を通り、コンタクトチップ8の先端から送出される。溶接トーチ7は、溶接電源(図示せず)に接続されており、溶接電流はコンタクトチップ8を介して溶接ワイヤ9に供給される。
【0025】
なお、溶接トーチ7は、ネジ式のスライダー(図示せず)によってトーチ単体でX方向および鉛直方向(Z方向)に移動可能であり、台車5に対する位置関係を調整することができる。また例えば、溶接トーチ7をZ方向に移動させることによって、コンタクトチップ8の下端からスラグ浴面までの溶接ワイヤ9の長さ(ドライエクステンション)を変更することができる。なお、本実施形態においては、1本の溶接トーチ7を用いた単電極式の溶接装置を例示しているが、溶接装置は多電極式の装置であってもよい。
【0026】
溶接時の開先4内においては、フラックスが溶融して発生するスラグ浴10と、スラグ浴10の底部に溜まる溶融金属11と、溶融金属11が冷却されて凝固したビード12が形成される。溶接時において、溶接ワイヤ9の先端部はスラグ浴10に浸漬し、その溶接ワイヤ9を介してスラグ浴10が通電する。ここでスラグ浴10に溶接電流が流れることによってスラグ浴10に抵抗熱が生じ、この抵抗熱によって溶接ワイヤ9と溶接対象の母材(図示せず)が溶融する。これによって溶融金属11が形成され、ビード12の上に堆積する。その後、溶融金属11は底面側から徐々に冷却され、冷却された部分が凝固することによって母材同士が溶接される。
【0027】
(スラグ浴検知器)
エレクトロスラグ溶接装置1は、上記のスラグ浴10の浴面を検知するスラグ浴検知器20を備えている。
図2に示すように、スラグ浴検知器20は、スラグ浴10の浴面を検知する検知部としてのタングステン棒21と、タングステン棒21を支持する導電板22を有している。
【0028】
導電板22は、導電性材料で形成されていればよく、例えば銅板が使用される。本実施形態における導電板22は、L字状に形成されており、上面部22aと、側面部22bを有する。
【0029】
導電板22の上面部22aの開先4側端部には、上述したタングステン棒21が、延伸方向が鉛直方向となる向きで固定され、タングステン棒21は、固定水冷銅板2と摺動水冷銅板3の間に位置している。
【0030】
摺動水冷銅板3の開先4側とは反対側の側面と、導電板22の側面部22bとの間には絶縁材23が挟まれており、その状態で側面部22bが摺動水冷銅板3に対して固定されている。また、側面部22bには鉛直方向に延びた長穴(図示せず)が形成されており、その長穴にボルトが挿通されて側面部22bが摺動水冷銅板3に固定されているため、導電板22は高さ調節が可能に構成されている。
【0031】
摺動水冷銅板3は、前述したように台車5に対して固定されているため、摺動水冷銅板3に固定された導電板22と、その導電板22に支持されたタングステン棒21も台車5に対して固定された状態にある。すなわち、台車5が上昇した際には、摺動水冷銅板3、タングステン棒21、導電板22および絶縁材23は、互いに相対的な位置関係を維持したまま、台車5と共に上昇する。
【0032】
なお、
図2に示す例では、導電板22の上面部22aと摺動水冷銅板3の上面との間に間隙が存在するが、その間隙に絶縁材が挟まれていてもよい。また、摺動水冷銅板3に対するタングステン棒21と導電板22の固定方法は、タングステン棒21と導電板22がスラグ浴10に接する導電性の摺動水冷銅板3に接触しなければ特に限定されない。加えて、タングステン棒21および導電板22は、摺動水冷銅板3ではなく、台車5に図示しないアームを設けて、そのアームに取り付けられてもよい。
【0033】
スラグ浴検知器20は、トランジスタ24と、リレー25を備えている。トランジスタ24のベース側は導電板22に接続され、コレクタ側はリレー25に接続され、エミッタ側は摺動水冷銅板3に接続されている。このため、タングステン棒21がスラグ浴10に接触した際には、タングステン棒21と導電板22に対しても溶接電圧が印加され、トランジスタ24のベース側に電流が流れる。これにより、トランジスタ24のコレクタ側からエミッタ側に電流が流れる。
【0034】
リレー25は、トランジスタ24に溶接電圧が印加されている間にON状態となり、後述する制御部100に対して信号を出力する。本明細書では、説明の便宜上、リレー25から出力される信号を浴面検知信号と称す。
【0035】
以上の構成を有するスラグ浴検知器20においては、タングステン棒21がスラグ浴10に接触しているときは、浴面検知信号が出力され続け、タングステン棒21がスラグ浴10に接触していないときには、浴面検知信号の出力が停止する。換言すると、その浴面検知信号の有無に基づいて、スラグ浴10とタングステン棒21が接しているか否かを判定でき、スラグ浴10の浴面がタングステン棒21の下端まで達しているか否かを判定できる。
【0036】
したがって、本実施形態にかかるスラグ浴検知器20によれば、トランジスタ24を利用することによって、簡易な回路構成でスラグ浴10の浴面を検知することができる。
【0037】
なお、スラグ浴検知器20の構成は、
図2に示した構成に限定されない。例えば
図3に示すように、摺動水冷銅板3の上端部近傍を覆う絶縁材23を設け、その絶縁材23の上に被せるようにしてコ字状の導電板26を設けてもよい。
【0038】
この導電板26の開先4側には、上方から下方に向かって延びた突出部26aが形成されており、固定水冷銅板2と摺動水冷銅板3の間に位置している。
図3に示した構成例では、その突出部26aがスラグ浴10の浴面に接する検知部として機能する。また、この構成例において、導電板26として例えば銅板などの溶融スラグ温度よりも融点が低い材料を用いる場合には、導電板26がスラグ浴10に対して溶解しないよう水冷構造等の冷却手段を適用する必要がある。
【0039】
(フラックス供給装置)
図1に示すように、エレクトロスラグ溶接装置1は、開先4内にフラックスを供給するフラックス供給装置30を備えている。フラックス供給装置30は、フラックスが貯蔵されるホッパー31と、フラックスの定量散布を行う散布装置32と、散布装置32からスラグ浴10にフラックスを供給するノズル33を備えている。
【0040】
ホッパー31は、水平断面が矩形状の容器である。ホッパー31の上部の側壁は、鉛直面に平行に延在した鉛直壁31aで構成され、ホッパー31の下部の側壁は、傾斜面を有した傾斜壁31bで構成されている。なお、ホッパー31の形状は特に限定されず、水平断面形状は円形であっても多角形であってもよい。
【0041】
散布装置32の詳細な説明については後述するが、散布装置32と台車5とは、支持部34を介して固定されている。これにより、フラックス供給装置30は、台車5と一体となって上昇または下降することができる。
【0042】
ノズル33は、散布装置32の下面部に接続され、散布装置32の下面部からスラグ浴10の浴面近傍まで延びている。
【0043】
図4は、本実施形態に係るフラックス供給装置の概略構成を示す図であり、一部の構成要素については説明の便宜上、内部構造を図示している。また、図中の黒丸点はフラックスの粒子を示している。
【0044】
散布装置32は、円柱状の回転体としての凸凹ローラ35と、凸凹ローラ35を収容する筐体36と、筐体36の側面に取り付けられた回転駆動源としてのモータ(図示せず)を備えている。
【0045】
凸凹ローラ35は、水平方向(本実施形態ではY方向)を回転軸として回転する。凸凹ローラ35の周縁部には、当該凸凹ローラ35の周方向に沿って間隔を空けて複数の溝37が形成されている。これらの溝37は例えば等間隔で配置され、上記の回転軸の方向に沿って延びている。また、凸凹ローラ35は、複数の溝37が形成されていることによって、隣り合う溝37の間に凸部38を有する。なお、凸凹ローラ35は回転体の一例であり、回転体としては例えば歯車などを適用してもよい。
【0046】
筐体36は、内部に円筒状の中空部39を有する容器である。この中空部39の内周面と凸凹ローラ35の外周面(最大外径部の円周面)は対向した状態で近接しており、凸凹ローラ35が有する複数の凸部38と中空部39の内周面は、凸凹ローラ35の回転を阻害しない範囲で略接触している。このため、凸凹ローラ35の溝37と中空部39の内周面との間には、フラックスが充填される空間が形成されている。
【0047】
筐体36の上面部には、ホッパー31の下端部に通ずる上部開口40が形成されている。上部開口40は、筐体36の上面から筐体36内の中空部39まで貫通しており、ホッパー31の下端部から排出されるフラックスは、上部開口40を通過して凸凹ローラ35の溝37に落下する。
【0048】
筐体36の下面部には、ノズル33の上端部に通ずる下部開口41が形成されている。下部開口41は、筐体36内の中空部39から筐体36の下面まで貫通しており、凸凹ローラ35の溝37に充填されたフラックスは、下部開口41を通過してノズル33に落下する。
【0049】
本実施形態に係る散布装置32によれば、筐体36の中空部39の内周面と凸凹ローラ35の各溝37との間の体積がそれぞれ等しいため、上部開口40から溝37にフラックスが落下した後に凸凹ローラ35が回転することで、各溝37内のフラックス量が等しくなる。これによってフラックスの定量散布が可能となる。
【0050】
次に、ホッパー31を振動させる振動機構について説明する。
図5は、本実施形態に係る振動機構50の概略構成を示す図である。
図6は、その振動機構50を
図5の右方から見た図である。
【0051】
振動機構50は、ホッパー31に振動を伝達する振動伝達部としてのL字状のステー51と、コ字状のブラケット52と、電磁力を利用したアクチュエータであるソレノイド53を備えている。
【0052】
ステー51は、ホッパー31の側壁に固定される第1壁部51aと、ソレノイド53を固定するための第2壁部51bを有する。第1壁部51aは、ホッパー31の鉛直壁31aに接触した状態でボルト締結等の固定手段を用いて固定されている。なお、第1壁部51aは、ホッパー31の傾斜壁31bに固定されてもよいし、ホッパー上面の開口を覆う蓋体に固定されてもよい。第2壁部51bは、第1壁部51aからホッパー31の外方に向かって水平方向に延在している。
【0053】
ブラケット52は、ソレノイド53を固定する固定部としての上壁部52aと、上壁部52aに対向する下壁部52bと、上壁部52aと下壁部52bの間にある側壁部52cを有する。側壁部52cは、鉛直方向に延在しており、ステー51の第1壁部51aに対して垂直となる向きで配置されている。
【0054】
ソレノイド53の上端部には、水平方向に延在したフランジ54が設けられている。上述したステー51の第2壁部51bは、そのフランジ54とブラケット52の上壁部52aに挟まれており、第2壁部51bと上壁部52aとフランジ54は、互いに重なった状態でボルト締結等の固定手段で固定されている。これによって、ソレノイド53がステー51に対して固定されている。
【0055】
また、ソレノイド53は、可動部としてのプランジャー55を有している。ソレノイド53は、そのプランジャー55が鉛直方向に沿って上昇または下降可能、すなわち上下動可能となる姿勢でステー51に対して固定されている。
【0056】
プランジャー55の下端部には、鉛直方向下方に向かって延びた一対の突出部56a、56bが設けられている。一対の突出部56a、56bは、間隔を空けて対向しており、一方の突出部56aから他方の突出部56bに向かって棒材57が挿通されている。
【0057】
挿通された棒材57は、各突出部56a、56bに対して固定されており、ソレノイド53の動作に応じてプランジャー55が上下動した際に突出部56a、56bから外れない構造となっている。棒材57としては例えばボルトを用いることができ、当該ボルトを突出部56a、56bに挿通してナットで締結することによって上述した棒材57の固定状態を実現できる。
【0058】
また、プランジャー55の下端部には、例えば鋼製の板材またはブロック体からなる重り58が設けられている。プランジャー55に対する重り58の取り付け方法は特に限定されないが、重り58は、当該重り58の下端がプランジャー55の下端(本実施形態では突出部56a、56bの下端)よりもさらに下方に位置するように取り付けられる。本実施形態の場合、重り58には貫通孔(図示せず)が形成されており、棒材57を突出部56a、56bに挿通する際に、重り58に形成された貫通孔にも棒材57を挿通することによってプランジャー55に重り58が固定される。
【0059】
上記の重り58は、プランジャー55の上下動に合わせて上昇または下降し、プランジャー55が下降した際にはブラケット52の下壁部52bに接触する。なお、重り58が接触する接触部として下壁部52bを機能させるためには、下壁部52bの上面はプランジャー55の下死点における重り58の下面よりも上方に位置することが必要である。
【0060】
振動機構50においては、上記のプランジャー55が上死点まで上昇したときの衝撃によって振動が発生すると共に、重り58と下壁部52bが接触することによって接触箇所において振動が発生する。以下、振動機構50の動作について詳述する。
【0061】
図7は、振動機構50の動作を説明する説明図であり、
図7(a)はソレノイド53がONの状態を示し、
図7(b)はソレノイドがOFFの状態を示している。
【0062】
図7(a)に示すように、ソレノイド53をOFF状態からON状態に切り替えると、プランジャー55が上昇し、プランジャー55と共に重り58も上昇する。このとき、プランジャー55が上死点まで上昇して停止したときの衝撃によって振動が発生する。ここで発生した振動は、ソレノイド53本体を介してブラケット52の上壁部52aに伝達し、さらに上壁部52aが固定されたステー51を介してホッパー31に伝達する。
【0063】
さらに、この状態からソレノイド53をOFFにすると、
図7(b)に示すように、プランジャー55と重り58が下降する。そして、重り58がブラケット52の下壁部52bに接触し、その接触時の衝撃によって当該接触箇所で振動が発生する。ここで発生した振動は、ブラケット52の側壁部52cとソレノイド53本体を介してブラケット52の上壁部52aに伝達し、さらに上壁部52aが固定されたステー51を介してホッパー31に伝達する。これにより、ホッパー31が振動し、ホッパー31内のフラックスの詰まりを抑制することができる。
【0064】
上記の重り58はプランジャー55に対して着脱可能に取り付けられていることが好ましい。これにより、重り58の数を増加または減少させたり、重り58を交換することができる。重り58と下壁部52bの接触時に生じる振動の大きさは、重り58の重量に比例する衝撃力の大きさによって変動するため、重り58を適宜着脱することで、発生させる振動の大きさを調節できる。これによって、ホッパー31内に貯蔵されるフラックス粒子の性状に応じて、ホッパー31内の詰まり発生を抑制するための効果的な振動をホッパー31に付与できる。
【0065】
なお、ソレノイド53は、振動伝達部としてのステー51を振動させるための振動駆動部の一例であるが、振動駆動部はソレノイド53に限定されない。例えば、振動駆動部はソレノイド53と同様に往復動可能な構造を有するエアシリンダ等のシリンダ機構で構成されてもよい。また、振動機構50は、例えば振動駆動部としてモータを適用し、当該モータの出力軸に偏心錘を取り付けることによって振動を発生させる構成であってもよい。
【0066】
(制御部)
エレクトロスラグ溶接装置1は、制御部100(
図1)によって制御される。制御部100は、例えばCPUやメモリ等を備えたコンピュータであり、例えば現場作業員が操作可能な操作盤(図示せず)に搭載される。
【0067】
制御部100は、プログラム格納部(図示せず)を有している。プログラム格納部には、エレクトロスラグ溶接装置1における一連の溶接工程を行うための各種プログラムが格納されている。プログラム格納部には、例えば溶接電流の大きさに基づいて台車5の動作を制御するためのプログラムや、スラグ浴検知器20から出力される浴面検知信号に基づいてフラックス供給装置の供給開始または供給停止を制御するためのプログラム等が格納されている。なお、これらのプログラムは、コンピュータに読み取り可能な記憶媒体に記録されていたものであって、当該記憶媒体から制御部100にインストールされたものであってもよい。
【0068】
以上、本実施形態に係るエレクトロスラグ溶接装置1の概略構成について説明した。
【0069】
<エレクトロスラグ溶接方法>
次に、上記のエレクトロスラグ溶接装置1を用いたエレクトロスラグ溶接方法について、溶接中の台車5の動作に重点を置いて説明する。
図8は、本実施形態に係るエレクトロスラグ溶接装置の動作を示す図である。
図9は、本実施形態に係るエレクトロスラグ溶接方法における台車の動作に関するフローチャートである。
【0070】
まず、
図8(a)に示すように、溶接中においては、溶接トーチ7の先端部からスラグ浴10内に向かって一定の送給速度で溶接ワイヤ9が送出される。なお、
図8(a)に示す状態では、スラグ浴10の深さが所定の深さに維持されており、スラグ浴検知器20のタングステン棒21の下端部とスラグ浴10とが接した状態にある。このため、スラグ浴検知器20からは前述した浴面検知信号が出力され続けており、フラックス供給装置30は停止した状態にある。また、台車5についても停止した状態にある。
【0071】
スラグ浴10に溶接ワイヤ9が浸漬すると、
図8(b)に示すように、溶接ワイヤ9が溶融し、溶接ワイヤ9の突出し長さが短くなる(ステップS101)。このとき、短縮された溶接ワイヤ9の突出し長さ分だけ溶接電圧に対する抵抗が減少するが、溶接電源(図示せず)から印加される溶接電圧は一定であるため、溶接ワイヤ9に流れる溶接電流が上昇する(ステップS102)。
【0072】
制御部100(
図1)においては、溶接電流と、予め設定された設定電流値とを対比し、溶接電流が設定電流値を超えているか否かの判定が実行される(ステップS103)。
【0073】
予め設定された「設定電流値」とは、溶接ワイヤの組成やワイヤ送給速度、その他の溶接条件等に応じ、当業者が適切なエレクトロスラグ溶接を実施できるよう設定される電流値である。また、制御部100が有する設定電流値の情報は、例えば溶接開始時において現場作業員がワイヤ送給速度の設定条件を考慮して操作盤(図示せず)に直接入力したものであってもよいし、制御部100に予め記憶されたものであってもよい。なお、設定電流値と対比される溶接電流の値は、公知の方法で測定され、制御部100に入力されている。
【0074】
上述のステップS103において、溶接電流が設定電流値以下である場合には、ステップS101に戻る。一方、溶接電流が設定電流値を超えている場合には、
図8(c)に示すように、台車5が上昇する(ステップS104)。
【0075】
台車5は、予め設定された一定の速度(例えば30mm/min)で上昇し、台車5が上昇することによって溶接トーチ7の先端部とスラグ浴10の浴面との間隔が大きくなり、溶接ワイヤ9の突出し長さが長くなる(ステップS105)。そして、溶接ワイヤ9の突出し長さが増加した分だけ溶接電圧に対する抵抗が増大し、その結果として溶接電流が低下する(ステップS106)。
【0076】
制御部100(
図1)においては、溶接電流と設定電流値とを対比し、溶接電流が設定電流値未満であるか否かの判定を行う(ステップS107)。なお、ステップS107の設定電流値は、ステップS103の設定電流値と同一の値である。
【0077】
上述のステップS107において、溶接電流が設定電流値以上である場合には、ステップS104に戻り、台車5は上昇を続ける。一方、溶接電流が設定電流値未満である場合には、台車5の上昇は停止する(ステップS108)。
【0078】
以上で説明したステップS101~ステップS108は、溶接が終了するまで繰り返される。このような一連の溶接工程の過程では、固定水冷銅板2や摺動水冷銅板3などによってスラグ浴10が冷却されながら外側に排出されるため、スラグ浴10の体積が減少し、スラグ浴10の深さが浅くなる。これにより、
図8(d)に示すように、タングステン棒21の下端とスラグ浴10の浴面とが接触しない状態となる場合がある。
【0079】
そのような場合には、スラグ浴検知器20からの浴面検知信号が制御部100に入力されない状態となり、制御部100では、浴面検知信号が入力されなかったことをトリガーとして、フラックス供給装置30に対してフラックスを供給するための供給開始信号を出力する。フラックス供給装置30では、その供給開始信号に基づいてノズル33からフラックスを散布する。これによってスラグ浴10の浴面が上昇して
図8(a)に示す状態に戻り、溶接が継続される。
【0080】
以上、エレクトロスラグ溶接装置1を用いたエレクトロスラグ溶接方法について説明した。
【0081】
本実施形態に係るエレクトロスラグ溶接装置1においては、溶接中の溶接電流が設定電流値を超えたときに台車5を上昇させ、溶接電流が設定電流値を下回ったときに台車5を停止させる。そして、停止した台車5は、溶接電流が再び設定電流値を超えるまで停止状態を維持する。このため、従前のエレクトロスラグ溶接装置のような、台車の速度調節を頻繁に行いながら台車を常時動作させる装置に対して台車の動作制御を簡素化できる。これにより、従前の装置に対して制御系への負荷が低減されるため、装置としての耐久性を向上させることができる。
【0082】
また、エレクトロスラグ溶接装置1によれば、台車5が停止した状態でスラグ浴10の浴面を検知することも可能であるため、浴面の検知精度を向上させることもできる。例えば従前のエレクトロスラグ溶接装置ように、浴面を検知する検知部を搭載する台車が停止せずに加減速を繰り返して上昇する場合には、検知部の位置が常に動いている状態となるため、スラグ浴面を誤検知する頻度も高いと推察される。一方、本実施形態に係るエレクトロスラグ溶接装置1においては、台車5の停止している間は検知部の位置が変動しないため、精度の良い浴面検知が可能となる。
【0083】
(フラックス供給方法)
次に、
図8(d)に示したフラックスの供給時におけるフラックス供給装置30の動作およびフラックス供給方法について具体的に説明する。
【0084】
まず、フラックスの供給開始前は、
図1に示した散布装置32は停止しており、ホッパー31内に貯蔵されたフラックスの排出は停止した状態にある。
【0085】
このようなフラックスの供給開始前においては、振動機構50のソレノイド53をOFF状態とし、ホッパー31を振動させないことが好ましい。ホッパー31内のフラックスが排出されない状態でホッパー31を振動させると、フラックス粒子の性状によっては粒子と粒子の間に他の粒子が入り込み、かつ、いずれの粒子も落下しない部分がホッパー31内に形成されることがある。このため、フラックスの供給開始前にホッパー31を振動させないことによって、ホッパー31内における詰まり発生を抑制する効果を高めることができる。
【0086】
スラグ浴検知器20から制御部100に浴面検知信号が入力されない状態となったときには、制御部100からフラックス供給装置30に対してフラックスの供給を開始するための信号として供給開始信号が入力される。フラックス供給装置30では、その供給開始信号に基づいて散布装置32が作動する。このように散布装置32が作動することによって、ホッパー31内のフラックスの排出が開始される。散布装置32から散布されるフラックスは、ノズル33を介してスラグ浴10に供給される。
【0087】
また、フラックス供給装置30に上記の供給開始信号が入力された際には、振動機構50の動作も開始する。具体的には、
図7(a)のようにソレノイド53がOFF状態からON状態に切り替わることで重り58が上昇し、プランジャー55が上死点まで上昇したときに振動が発生する。
【0088】
その後、
図7(b)のようにソレノイド53がON状態からOFF状態に切り替わることで重り58が下降する。そして、ソレノイド53がOFF状態となった際には、重り58がブラケット52の下壁部52bに接触することによって振動が発生する。
【0089】
フラックスの供給中は、上記のような重り58が上昇と下降する動作が所定の間隔で繰り返し行われ、これによってホッパー31に対して間欠的に振動が付与される。この結果、ホッパー31内においてはフラックスの詰まりが生じ難い状態、あるいは仮にホッパー31内に詰まりが生じていても、その詰まりが解消され易い状態となる。
【0090】
なお、フラックスの供給開始から所定の時間(例えば3秒)が経過するまでは、第1の間隔(例えば1秒)でソレノイド53のON状態とOFF状態を切り替える制御を行うことが好ましい。これに加え、上記の所定の時間経過後には、第1の間隔よりも短い第2の間隔(例えば0.3秒)でソレノイド53のON状態とOFF状態を切り替える制御を行うことが好ましい。
【0091】
例えば上記の「所定の時間」を3秒、「第1の間隔」を1秒、「第2の間隔」を0.3秒とした場合には、フラックスの供給開始から3秒経過するまでは、ソレノイド53のOFF→ON→OFFの切り替えが1秒間隔で行われる。このため、フラックスの供給開始から3秒経過するまでの間は、1秒ごとに2回ずつ振動が発生し、3秒経過時点では計6回振動が発生する。そして、フラックスの供給開始から3秒経過した後は、ソレノイド53のOFF→ON→OFFの切り替えが0.3秒間隔で行われるため、0.3秒ごとに2回ずつ振動が発生する。
【0092】
このようにフラックスの供給開始当初において過度にホッパー31を振動させないことによって、ホッパー31内における詰まり抑制の効果を高めることができる。理由は次の通りである。
【0093】
フラックスの供給開始によりフラックスがホッパー31内から排出される状態となるが、フラックスの供給開始直後のホッパー31内の状態は、フラックスの供給開始前のフラックスの排出が停止した状態に近い状態にある。前述したように、フラックスの排出が停止した状態でホッパー31を振動させると、ホッパー31内において詰まり易い部分が生じ得ることから、ホッパー31内の状態がそのような状態に近いフラックスの供給開始当初においては、振動発生回数を抑えることが好ましい。
【0094】
なお、上述した「所定の時間」、「第1の間隔」および「第2の間隔」は、フラックス粒子の性状やホッパー31の形状、振動機構50の構造等に応じて当業者が実験等を行うことで適宜設定されるものである。また、「フラックスの供給開始」とは、散布装置32が作動するタイミング(本実施形態では
図4に示す凸凹ローラ35の回転が開始するタイミング)を指す。
【0095】
本実施形態に係るフラックス供給方法によれば、フラックスの供給中にホッパー31を振動させることができる。これによって、例えばブリッジやラットホール、ホッパー内の壁面付着等が原因となって生じるフラックスの詰まりを抑制することができ、フラックスの供給不良の発生を抑制できる。
【0096】
なお、本実施形態で説明した散布装置32のように、フラックスを常時供給しない構造の散布装置を用いる場合には、フラックスの排出が停止する頻度が高く、フラックスの排出が停止している間は、ホッパー上部の各粒子からの荷重を受けて詰まりが発生し易い。このため、ホッパー31を振動させて詰まりを抑制できる振動機構50をそのような散布装置に組み合わせることは特に有用である。
【0097】
また、ホッパー31内に貯蔵されるフラックスとして、例えば粒径が1mm以下の粉末状のフラックス、あるいは粉末状の粒子を顆粒状に成形したフラックスが用いられるが、顆粒状のフラックスは粉末状のフラックスよりも製造コストが増大する。このため、ランニングコストの低減を考慮すると、顆粒状よりも粉末状のフラックスを使用することが好ましいが、粉末状のフラックスは顆粒状のものと比較してホッパー31内においてブリッジ等の詰まりが発生し易くなる。
【0098】
一方、本実施形態に係る振動機構50によれば、ホッパー31を振動させることによって、粉末状のフラックスを使用した場合であってもホッパー31内におけるフラックスの詰まりの発生を抑制できる。すなわち、本実施形態に係る振動機構50によれば、使用するフラックスを顆粒状のものから粉末状のものに切り替えることができるため、ランニングコストを低減させることも可能である。
【0099】
以上、本発明の実施形態の一例について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0100】
例えば、上記実施形態の構成要件は任意に組み合わせることができる。当該任意の組み合せからは、組み合わせにかかるそれぞれの構成要件についての作用及び効果が当然に得られるとともに、本明細書の記載から当業者には明らかな他の作用及び他の効果が得られる。
【0101】
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的または例示的なものであって限定的ではない。つまり、本開示に係る技術は、上記の効果とともに、又は、上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、エレクトロスラグ溶接装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0103】
1 エレクトロスラグ溶接装置
2 固定水冷銅板
3 摺動水冷銅板
4 開先
5 台車
6 レール
7 溶接トーチ
8 コンタクトチップ
9 溶接ワイヤ
10 スラグ浴
11 溶融金属
12 ビード
20 スラグ浴検知器
21 タングステン棒
22 導電板
22a 上面部
22b 側面部
23 絶縁材
24 トランジスタ
25 リレー
26 導電板
26a 突出部
30 フラックス供給装置
31 ホッパー
32 散布装置
33 ノズル
34 支持部
35 凸凹ローラ
36 筐体
37 溝
38 凸部
39 中空部
40 上部開口
41 下部開口
50 振動機構
51 ステー
51a 第1壁部
51b 第2壁部
52 ブラケット
53 ソレノイド
54 フランジ
55 プランジャー
56a、56b 突出部
57 棒材
58 重り
100 制御部