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特開2024-136138原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法及び化学除染装置
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  • 特開-原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法及び化学除染装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136138
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法及び化学除染装置
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/28 20060101AFI20240927BHJP
   G21D 1/00 20060101ALI20240927BHJP
   G21F 9/06 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G21F9/28 525A
G21D1/00 Y
G21F9/28 525B
G21F9/06 551A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047127
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】細川 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】大平 高史
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 慎太郎
(57)【要約】
【課題】酸化皮膜の溶解中には酸化皮膜の溶解を妨げる沈殿皮膜を形成せず、かつ還元除染剤の分解時に母材の腐食を従来に比べて抑制することができる原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法及び化学除染装置を提供する。
【解決手段】ギ酸及びアスコルビン酸を含む除染剤を用いて炭素鋼部材を除染する除染工程と、除染工程で用いた除染剤中のギ酸及びアスコルビン酸を過酸化水素を含む除染剤分解液を用いて分解する分解工程と、を有し、分解工程では、鉄濃度に基づいて決定される、除染剤分解液中に過酸化水素が残留する残留酸化還元電位に基づいて除染剤分解液中の過酸化水素の残留状態を判断し、除染剤分解液への過酸化水素の注入を停止する。
【選択図】 図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法であって、
ギ酸及びアスコルビン酸を含む除染剤を用いて前記炭素鋼部材を除染する除染工程と、
前記除染工程で用いた前記除染剤中の前記ギ酸及び前記アスコルビン酸を過酸化水素を含む除染剤分解液を用いて分解する分解工程と、を有し、
前記分解工程では、鉄濃度に基づいて決定される、前記除染剤分解液中に前記過酸化水素が残留する残留酸化還元電位に基づいて前記除染剤分解液中の前記過酸化水素の残留状態を判断し、前記除染剤分解液への前記過酸化水素の注入を停止する
化学除染方法。
【請求項2】
請求項1に記載の化学除染方法において、
前記分解工程では、前記過酸化水素の濃度が前記ギ酸及び前記アスコルビン酸を分解するのに必要な前記過酸化水素の当量以下の濃度になるように前記除染剤分解液へ前記過酸化水素を注入する
化学除染方法。
【請求項3】
請求項1に記載の化学除染方法において、
前記分解工程では、サージタンクの下流側に設置された酸化還元電位計で測定される酸化還元電位の値が前記残留酸化還元電位を越えた場合に前記過酸化水素の注入を停止する
化学除染方法。
【請求項4】
請求項3に記載の化学除染方法において、
前記分解工程では、前記サージタンクを含む閉ループ内で前記除染剤分解液を循環させる
化学除染方法。
【請求項5】
請求項1に記載の化学除染方法において、
前記分解工程では、前記除染剤分解液に腐食抑制剤を追加で添付する
化学除染方法。
【請求項6】
原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染装置であって、
ギ酸及びアスコルビン酸を含む除染剤を供給する除染剤供給部と、
前記除染剤中の前記ギ酸及び前記アスコルビン酸を分解する、過酸化水素を含む除染剤分解液を供給する分解液供給部と、
前記除染剤分解液中の酸化還元電位を測定する酸化還元電位計と、を備え、
鉄濃度に基づいて決定される、前記除染剤分解液中に前記過酸化水素が残留する残留酸化還元電位に基づいて前記除染剤分解液への前記過酸化水素の注入を停止する
化学除染装置。
【請求項7】
請求項6に記載の化学除染装置において、
サージタンクを更に備え、
前記酸化還元電位計が前記サージタンクの下流側に設置され、
前記酸化還元電位計で測定される酸化還元電位の値が前記残留酸化還元電位を越えた場合に前記過酸化水素の注入を停止する
化学除染装置。
【請求項8】
請求項7に記載の化学除染装置において、
前記炭素鋼部材と並列に配置されたバイパス配管を更に備え、
前記除染剤分解液を注入した後は、前記バイパス配管により前記サージタンクを含む閉ループ内で前記除染剤分解液を循環させる
化学除染装置。
【請求項9】
請求項6に記載の化学除染装置において、
前記除染剤分解液に腐食抑制剤を添付する腐食抑制剤添加部を更に備える
化学除染装置。
【請求項10】
請求項7に記載の化学除染装置において、
前記炭素鋼部材と前記サージタンクとを接続する第一配管に配置された過酸化水素注入装置を更に備え、
前記酸化還元電位計が、前記サージタンクと前記炭素鋼部材とを接続する第二配管に設置されている
化学除染装置。
【請求項11】
請求項8に記載の化学除染装置において、
前記酸化還元電位計の測定結果の入力を受け、前記除染剤分解液中の前記過酸化水素の残留状態を判定し、前記除染剤分解液への前記過酸化水素の注入を停止するよう前記分解液供給部を制御する制御装置を更に備えた
化学除染装置。
【請求項12】
請求項11に記載の化学除染装置において、
前記炭素鋼部材と前記サージタンクとを接続する第一配管と、
前記サージタンクと前記炭素鋼部材とを接続する第二配管と、を更に備え、
前記制御装置は、前記酸化還元電位計の測定結果の入力を受けて、前記第一配管、前記第二配管及び前記バイパス配管に設けられた開閉弁の開閉を制御して前記炭素鋼部材をバイパスさせる
化学除染装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力プラント、特に沸騰水型原子力プラントに用いられている炭素鋼部材の化学除染に好適な化学除染方法及び化学除染装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素鋼を含む除染対象物に付着した金属酸化物を含有する放射性不溶物を除染液で溶解する溶解工程と、溶解工程によって生成する金属イオン含有除染液をカチオン交換樹脂と接触させて金属イオンを除去する金属イオン除去工程とを有する化学除染方法において、溶解工程が、ギ酸と、アスコルビン酸及び/又はエリソルビン酸と、腐食抑制剤とを含有する除染液による還元溶解工程を含む、ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-151210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、沸騰水型原子力プラント(以下、BWRプラントという)は、原子炉圧力容器(RPVと称する)内に炉心を内蔵した原子炉を有する。
【0005】
再循環ポンプまたはインターナルポンプによって炉心に供給された炉水は、炉心内に装荷された燃料集合体内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部が蒸気になる。この蒸気は、RPVからタービンに導かれ、タービンを回転させる。タービンから排出された蒸気は、復水器で凝縮され、水になる。この水は、給水として原子炉に供給される。
【0006】
給水は、RPV内での放射性腐食生成物の発生を抑制するため、給水配管に設けられたろ過脱塩装置で主として金属不純物が除去される。炉水とは、RPV内に存在する冷却水である。
【0007】
また、放射性腐食生成物の元となる腐食生成物は、RPV及び再循環系配管等のBWRプラントの構成部材の炉水と接する表面で発生するため、主要な一次系の構成部材には腐食の少ないステンレス鋼及びニッケル基合金などの不銹鋼が使用されている。また、低合金鋼製のRPVは内面にステンレス鋼の肉盛りが施され、低合金鋼が、直接、炉水と接触することを防いでいる。さらには、炉水の一部を原子炉浄化系のろ過脱塩装置によって浄化し、炉水中に僅かに存在する金属不純物を積極的に除去している。
【0008】
しかし、上述のような腐食対策を講じても、炉水中における極僅かな金属不純物の存在が避けられないため、一部の金属不純物が、金属酸化物として、燃料集合体に含まれる燃料棒の表面に付着する。燃料棒表面に付着した不純物(例えば、金属元素)は、燃料棒内の核燃料物質の核分裂により放出される中性子の照射によって原子核反応を起こし、コバルト60,コバルト58,クロム51,マンガン54等の放射性核種になる。
【0009】
これらの放射性核種は、大部分が酸化物の形態で燃料棒表面に付着したままである。しかしながら、一部の放射性核種は、取り込まれている酸化物の溶解度に応じて炉水中にイオンとして溶出したり、クラッドと呼ばれる不溶性固体として炉水中に再放出されたりする。炉水に含まれる放射性物質は、RPVに連絡された原子炉浄化系によって取り除かれる。
【0010】
原子炉浄化系で除去されなかった放射性物質は、炉水とともに再循環系などを循環している間に、原子力プラントの構成部材(例えば、配管)の炉水と接触する表面に蓄積される。その結果、構成部材の表面から放射線が放射され、定検作業時の従事者の放射線被ばくの原因となる。
【0011】
その従事者の被ばく線量は、各人毎に規定値を超えないように管理されている。近年この規定値が引き下げられ、各人の被ばく線量を可能な限り低くする必要が生じている。
【0012】
そこで、定検作業での被ばく線量が高いことが予想される場合は、配管に付着した放射性核種を溶解して除去する化学除染が実施される場合があり、このような技術の一例として特許文献1に記載のような技術がある。
【0013】
上述の特許文献1では、ギ酸とアスコルビン酸に加え、有機系の腐食抑制剤を使って炭素鋼部材の還元除染を行って、カチオン樹脂通水によって鉄イオン濃度を調整後に過酸化水素を添加してギ酸を分解し、次に紫外線照射と過酸化水素によってアスコルビン酸を分解し、いずれの分解工程でも腐食抑制剤を添加して母材の腐食を抑制している。
【0014】
この特許文献1に記載された化学除染方法は、シュウ酸を使用しないことから、放射性物質を取り込んだ酸化皮膜を溶解する上ではシュウ酸鉄(II)2水和物皮膜の形成という問題は起こらない。また、ギ酸やアスコルビン酸の分解時に過酸化水素を利用する際には有機系の防錆剤を添加することで母材の腐食抑制にも配慮している。このため、この時の腐食量は炭素鋼配管の腐食裕度に対して小さいものの、更なる改善の余地があることが明らかとなり、本発明者らは更に母材の腐食を抑制する方法を検討した。
【0015】
そこで本発明の目的は、ギ酸とアスコルビン酸を用いる化学除染において、酸化皮膜の溶解中には酸化皮膜の溶解を妨げる沈殿皮膜を形成せず、かつ還元除染剤の分解時に母材の腐食を従来に比べて抑制することができる原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法及び化学除染装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法であって、ギ酸及びアスコルビン酸を含む除染剤を用いて前記炭素鋼部材を除染する除染工程と、前記除染工程で用いた前記除染剤中の前記ギ酸及び前記アスコルビン酸を過酸化水素を含む除染剤分解液を用いて分解する分解工程と、を有し、前記分解工程では、鉄濃度に基づいて決定される、前記除染剤分解液中に前記過酸化水素が残留する残留酸化還元電位に基づいて前記除染剤分解液中の前記過酸化水素の残留状態を判断し、前記除染剤分解液への前記過酸化水素の注入を停止する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ギ酸とアスコルビン酸を用いる化学除染において、酸化皮膜の溶解中には酸化皮膜の溶解を妨げる沈殿皮膜を形成せず、かつ還元除染剤の分解時に母材の腐食を従来に比べて抑制することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】還元除染剤分解工程の水質における炭素鋼の腐食試験結果を比較した図面である。
図2】還元除染剤分解工程の水質における炭素鋼の腐食試験を行った試験装置構成を示す図面である。
図3】還元除染剤溶液の過酸化水素添加による分解過程における過酸化水素が残留する酸化還元電位と鉄濃度の関係を調べた結果を示す図面である。
図4】本発明の好適な適当対象の一つであるBWRプラントの一次冷却水系の構成を示す図面である。
図5】実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法に使用する化学除染装置の詳細構成図である。
図6】実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法において実施される手順を示すフローチャートである。
図7】実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法において実施される還元除染剤分解工程を示すフローチャートである。
図8】実施例2の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法に使用する化学除染装置の詳細構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法及び化学除染装置の実施例を、図面を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0020】
まず、本発明を完成させるに至った経緯について図1乃至図3を用いて説明する。図1は還元除染剤分解工程の水質における炭素鋼の腐食試験結果を比較した図、図2は還元除染剤分解工程の水質における炭素鋼の腐食試験を行った試験装置構成を示す図、図3は還元除染剤溶液の過酸化水素添加による分解過程における過酸化水素が残留する酸化還元電位と鉄濃度の関係を調べた結果を示す図面である。
【0021】
本発明者らは、ギ酸、アスコルビン酸、有機系の腐食抑制剤を含む水溶液(還元除染液)を用いた炭素鋼の化学除染において、ギ酸分解工程での炭素鋼の腐食を抑制する方法を検討した。
【0022】
具体的な条件として、腐食抑制剤にはチオ尿素4%と4級アンモニウム塩1~5%、有機硫黄化合物1~5%等を含む水溶液を使用した。除染剤はギ酸3500ppm、アスコルビン酸1500ppm、腐食抑制剤200ppmに鉄濃度が100ppmとなるようにマグネタイトを添加して90℃で溶解し、その後炭素鋼試験片を浸漬するものとした。更に、過酸化水素をギ酸分解当量の約1.5倍の8000ppm添加して除染剤分解液とした。
【0023】
ギ酸の分解は、鉄(II)イオンと過酸化水素のフェントン反応(1)で形成されるヒドロキシルラジカルによって反応式(2)によって分解される。
Fe2++H → Fe3++OH+OH ……(1)
HCOOH+2OH → CO+2HO ……(2)
【0024】
初めにシュウ酸鉄(II)2水和物の沈殿皮膜について検討した。シュウ酸鉄(II)皮膜は、鉄(II)イオンとシュウ酸との反応によって下記の反応式(3)に示すような低溶解度のシュウ酸鉄(II)2水和物が形成され、これが析出する。
Fe2++(COO) 2-+2HO = Fe(COO)・2HO ……(3)
【0025】
ギ酸、アスコルビン酸、腐食抑制剤の溶液にシュウ酸500ppmを添加して炭素鋼試験片を浸漬して2時間シュウ酸鉄の形成を促した。その結果、シュウ酸鉄(II)2水和物は形成したが、表面に弱く堆積しただけで水流によって剥離した。過酸化水素を添加して腐食量を求めたところ、腐食量は基準に対して90%で、腐食抑制効果は10%程度であった。
【0026】
そこで本発明者らはシュウ酸鉄(II)2水和物が母材に密着しなかった要因を検討したところ、腐食抑制剤が炭素鋼表面に吸着してシュウ酸鉄(II)2水和物の付着を阻害していると考え、過酸化水素によって表面に吸着している腐食抑制剤を除去して、その後にシュウ酸鉄(II)2水和物が形成するための時間を設けることとした。
【0027】
過酸化水素の添加を2回に分けて、最初はギ酸の当量の1/10を添加して炭素鋼試験片表面から腐食抑制剤を除去し、その後2時間シュウ酸鉄(II)2水和物の形成を行い、その後残りの過酸化水素を添加して炭素鋼試験片の腐食量を測定した。
【0028】
その結果、炭素鋼試験片には水流では剥離しないシュウ酸鉄(II)2水和物の沈殿皮膜が形成され、炭素鋼の腐食量は基準に対して30%まで抑制され、シュウ酸鉄(II)2水和物沈殿皮膜の過酸化水素添加時における腐食抑制効果が確認された。これらの結果を図1に示した。
【0029】
図1中、「1」は腐食抑制剤+H8000ppm、「2」は腐食抑制剤+シュウ酸+H8000ppm、「3」は腐食抑制剤+H800ppm+シュウ酸2h+H7200ppm、「4」は腐食抑制剤+ORP620mVとなるように調整したギ酸+アスコルビン酸、とした。
【0030】
以上の結果から、過酸化水素が炭素鋼に作用すると腐食抑制剤が影響を受けることがわかったため、本発明者らは腐食抑制剤の効果を維持するためには過酸化水素を炭素鋼表面に供給する量を低減することが必要であると考えた。そこで除染剤分解液中の過酸化水素をインラインで検知することで接触を抑制する方法について検討することとした。
【0031】
除染剤分解液中では、反応式(1)で示すように過酸化水素によるFe2+とFe3+の酸化還元系に加えて、下記の反応式(4)に示すようなアスコルビン酸による酸化還元系も存在する。
2Fe2++C → 2Fe3++C+2H ……(4)
【0032】
このため、除染剤分解液の酸化還元電位は反応式(1)と反応式(4)との平衡で決まってくるが、過酸化水素が消失、或いは除染剤の分解が進んでアスコルビン酸が消失すると、一方の反応が無くなるので、酸化還元電位が大きくなることが予想された。
【0033】
そこで、除染剤分解液の酸化還元電位と過酸化水素の残留有無の関係を調べた。方法はギ酸3500ppm、アスコルビン酸1500ppm、腐食抑制剤200ppmに鉄濃度が100ppmとなるようにマグネタイトを添加して90℃で溶解した溶液を調製し、過酸化水素を添加して酸化還元電位を測定しその時の過酸化水素の有無を過酸化水素濃度1ppmを検知できる試験紙で調べた。
【0034】
図2は除染剤分解液による炭素鋼の腐食量評価装置で、サージタンク101内の除染剤分解液を配管102を通してポンプ103を用いて循環させる装置で、ポンプ103の出口側に酸化還元電位計104を配置した。実験条件は、サージタンク101に過酸化水素を100ppm/分で添加し、サンプリングで過酸化水素が検知され始めた酸化還元電位を求めた。
【0035】
その結果、620mV vs SHEで過酸化水素が検知され始めた。そこで酸化還元電位を測定できる図2の装置に炭素鋼試験片設置部を設けて腐食試験を実施した。炭素鋼試験片106を試験片設置部105内にセットし、酸化還元電位測定試験と同様に除染剤分解液を準備し、過酸化水素を注入した。酸化還元電位が620mV vs SHEを越えたところで試験を終了して試験片を取り出し、試験開始前後の重量差から腐食量を求めた。結果、図1に示したように炭素鋼の腐食量は基準に対して20%まで抑制された。
【0036】
以上の結果から、除染剤分解液に添加した過酸化水素が残留する酸化還元電位を予め求めておいて、除染剤の分解開始後、酸化還元電位がその値に到達したところで過酸化水素を含む除染剤分解液が炭素鋼へ接触することが無いように過酸化水素の供給を停止する、あるいは系を閉鎖ループに切り替えることで炭素鋼表面に吸着した防錆剤(腐食抑制剤)が過酸化水素の影響を受けないので、炭素鋼母材の腐食が抑制される。
【0037】
次に本発明者らは除染剤分解液に過酸化水素が残留する酸化還元電位の鉄濃度依存性についても検討した。方法は除染剤分解液の調製に際して、前述の方法では鉄濃度100ppm分のマグネタイトを溶解していたが、これを鉄濃度で50ppm及び200ppmとしたマグネタイトを溶解して準備し、これらの除染剤分解液を用いて、前述と同様にして過酸化水素を添加しながら酸化還元電位とサンプリング液の過酸化水素の有無を過酸化水素濃度1ppmを検知できる試験紙で調べた。
【0038】
その結果、過酸化水素が残留し始める酸化還元電位には鉄濃度依存性が見られ、鉄濃度50ppmでは545mV vs SHE、200ppmでは650mV vs SHEであった。これらを基に鉄濃度依存性を図3に示した。
【0039】
以上の結果から、除染剤分解液に添加した過酸化水素が残留する酸化還元電位を、除染剤分解液に含まれる鉄濃度を基に図3のような関係に基づいて求め、この酸化還元電位に到達した段階で過酸化水素を含む除染剤分解液が炭素鋼へ接触することが無いようにすることで、炭素鋼表面に吸着した腐食抑制剤が過酸化水素の影響を受けないので、炭素鋼母材の腐食が抑制される還元除染剤の分解処理を実現、運用することができる。
【0040】
<実施例1>
本発明の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法及び化学除染装置の実施例1について図4乃至図7を用いて説明する。
【0041】
本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法は、沸騰水型原子力発電プラント(BWRプラント)に適用した例である。最初に、本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法が適用されるBWRプラントの概略構成を、図4を用いて説明する。図4は本発明の好適な適当対象の一つであるBWRプラントの一次冷却水系の構成を示す図面である。
【0042】
図4に示すBWRプラントは、原子炉49、タービン56、復水器57、再循環系、原子炉浄化系及び給水系等を備えている。
【0043】
原子炉格納容器11内に設置された原子炉49は、炉心51を内蔵する原子炉圧力容器50(以下、RPV50と記載する)を有し、RPV50内にジェットポンプ52を設置している。複数の燃料集合体(図示省略)が炉心51に装荷されている。核燃料集合体は、核燃料物質で製造された複数の燃料ペレットを充填した複数の燃料棒を含んでいる。再循環系は再循環ポンプ53及びステンレス鋼製の再循環系配管54を有し、再循環ポンプ53が再循環系配管54に設置されている。
【0044】
給水系は、復水器57とRPV50を連絡する給水配管58に、復水ポンプ59、復水浄化装置60、低圧給水加熱器61、給水ポンプ63及び高圧給水加熱器62を復水器57からRPV51に向かってこの順番に設置して構成される。水素注入装置66が、復水器57と復水ポンプ59の間で給水配管58に接続されている。復水浄化装置60をバイパスするバイパス配管65が給水配管58に接続される。
【0045】
原子炉水浄化系は、再循環系配管54と給水配管58とを連絡する浄化系配管67に、浄化系ポンプ68,再生熱交換器69,非再生熱交換器70及び炉水浄化装置71を設置して構成される。浄化系配管67は、再循環ポンプ53より上流で再循環系配管54に接続される。
【0046】
RPV50内の冷却水は、再循環ポンプ53で昇圧され、再循環系配管54を通ってジェットポンプ52のノズル(図示省略)からジェットポンプ52のベルマウス(図示省略)内に噴出される。このノズルの周囲に存在する炉水も、ノズルから噴出される噴出流の作用により、ベルマウス内に吸引される。
【0047】
ジェットポンプ52から吐出された炉水は、炉心51に供給され、燃料棒内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱される。加熱された炉水の一部が蒸気になる。この蒸気は、RPV50から主蒸気配管55を通ってタービン56に導かれ、タービン56を回転させる。タービン56に連結された発電機(図示省略)が回転され、電力が発生する。タービン56から排出された蒸気は、復水器57で凝縮され、水になる。
【0048】
この水は、給水として、給水配管58を通りRPV50内に供給される。給水配管58を流れる給水は、復水ポンプ59で昇圧され、復水浄化装置60で不純物が除去され、給水ポンプ63でさらに昇圧され、低圧給水加熱器61及び高圧給水加熱器62で加熱される。抽気配管74で主蒸気配管55,タービン56から抽気された抽気蒸気が、低圧給水加熱器61及び高圧給水加熱器62にそれぞれ供給され、給水の加熱源となる。
【0049】
再循環系とRPV50をつなぐ系統には原子炉停止時に炉心の余熱を除去する残留熱除去系(RHR系)がある。RHR系は炭素鋼製のRHR配管82、熱交換器(図示省略)、ポンプ83を有する。
【0050】
RHR配管82の一端部は、図4に示すように、再循環ポンプ53よりも上流で再循環系配管54に接続される。RHR配管82の他端部は、RPV50に接続される。このように、RHR配管82は、RPV50内に設置された炉心シュラウド内で炉心よりも上方で炉心シュラウドの上端部に設けられた、複数の炉心スプレイノズル(図示省略)を有する炉心スプレイスパージャ(図示省略)に連絡されている。炉心スプレイノズル及び炉心スプレイスパージャは、高圧スプレイ系を構成する構成要素の一部である。
【0051】
RHR系は、図3においてRPV50の右側にのみ示したが、左側の再循環ポンプ53よりも上流で再循環系配管54に接続され、RHR配管82の他端部は、RPV50に接続される系統が配置される(図示省略)。これらの二系統のRHR系は、同じ構成を有する。
【0052】
本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法に用いられる化学除染装置1の詳細な構成を、図5を用いて説明する。図5は実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法に使用する化学除染装置の詳細構成図である。
【0053】
図5に示すように、化学除染装置1は、原子力プラントの浄化系配管67やRHR配管82等の炭素鋼部材の化学除染を行うための装置であって、循環配管2A,2B、除染剤中のギ酸及びアスコルビン酸を分解する分解剤としての酸化剤である過酸化水素注入装置7、ギ酸及びアスコルビン酸を含む除染剤を供給する除染剤供給部6、内部に加熱器19が設置されたサージタンク17、除染剤分解液に腐食抑制剤を添付する腐食抑制剤添加装置12、循環ポンプ20,26、フィルタ21、紫外線照射装置25、陽イオン交換樹脂塔23、混床樹脂塔24及びホッパ5等を備えている。
【0054】
開閉弁27、循環ポンプ20、弁28,29,30,31が、上流である浄化系配管67よりこの順に循環配管2Aに設けられており、サージタンク17を介して、循環ポンプ26、弁32及び開閉弁33が、上流側よりこの順に循環配管2Bに設けられている。
【0055】
弁28をバイパスして循環配管2Aに接続された配管34には、弁35及びフィルタ21が設置される。
【0056】
弁29をバイパスする配管36が循環配管2Aに接続され、冷却器22及び弁37が配管36に設置される。
【0057】
両端が循環配管2Aに接続されて弁30をバイパスする配管38には、陽イオン交換樹脂塔23及び弁40が設置される。両端が配管38に接続されて陽イオン交換樹脂塔23及び弁40をバイパスする配管39には、混床樹脂塔24及び弁41が設置される。陽イオン交換樹脂塔23は、内部に陽イオン交換樹脂を充填した樹脂層を有している。混床樹脂塔24は、内部に陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を充填した樹脂層を有している。
【0058】
弁43及び紫外線照射装置25が設置される配管42が弁31をバイパスして循環配管2Aに接続される。
【0059】
過酸化水素注入装置7は、薬液タンク8、注入ポンプ9及び注入配管44を有する。
【0060】
薬液タンク8は、注入ポンプ9及び弁45を有する注入配管44によって紫外線照射装置25の上流において配管42に接続される。薬液タンク8は酸化剤(例えば、過酸化水素またはオゾン水)を充填している。
【0061】
紫外線照射装置25は、主にアスコルビン酸の分解に使用する。化学除染に使用する還元除染用の薬剤としては、廃棄物量の低減化を考慮して水及び二酸化炭素に分解できる有機酸を用いており、中でも鉄と錯体を形成して沈殿物を作り難いモノカルボン酸でC-H結合の少ないギ酸を用いる。ただし他のモノカルボン酸を用いることも可能である。
【0062】
サージタンク17は、弁31と循環ポンプ26の間で循環配管2Aの下流側且つ循環配管2Bの上流側に設置される。
【0063】
サージタンク17の上端部には配管75が接続され、この配管75が循環ポンプ26と弁32の間で循環配管2Bに接続される。弁3及びエゼクタ4が配管75に設置される。ホッパ5がエゼクタ4に接続される。ホッパ5にギ酸、アスコルビン酸、及び腐食抑制剤を添加し、適宜水を加えて弁3を開くことでエゼクタ4の水流によってホッパ5内の試薬が吸い込まれてサージタンク17に供給される。
【0064】
除染剤分解液中の酸化還元電位を測定する酸化還元電位計18は、サージタンク17の下流側であるサージタンク17と浄化系配管67とを接続する循環配管2B上のうち、弁32と開閉弁33との間に設置されている。
【0065】
腐食抑制剤添加装置12は、腐食抑制剤を含む薬液を保持する薬液タンク13、腐食抑制剤を含む薬液を送液する注入ポンプ14、注入配管16、弁15で構成され、注入配管16を介して循環配管2Bから循環している還元除染廃液に腐食抑制剤を注入する。
【0066】
開閉弁46を設けたバイパス配管47の両端部が、酸化還元電位計18と開閉弁33の間に存在する循環配管2B、及び開閉弁27と循環ポンプ20の間に存在する循環配管2Aにそれぞれ接続されており、浄化系配管67と並列に配置されることになる。
【0067】
RPV50内の冷却水は、炉心51に装荷された燃料集合体に含まれる核燃料物質の核分裂に伴って発生する放射線の照射を受けて放射線分解を起こし、過酸化水素及び酸素などの酸化性化学種を生ずる。この酸化性化学種によって冷却水と接触する原子力プラントの構成部材の腐食電位が上昇する。このため、BWRプラントでは、応力腐食割れに対する環境緩和対策として水素注入装置66から給水に水素を注入しているプラントがある。この水素と冷却水に含まれる過酸化水素及び酸素などの酸化性化学種を放射線によって反応させることによって冷却水の酸化性化学種濃度を低減させて原子力プラントの構成部材の腐食電位を低下させる運転が行われている。
【0068】
BWRプラントにおいては、この給水に水素を注入しながら行う運転を、水素注入水質(HWC:Hydrogen Water Chemistry)運転と言い、水素注入を行わない運転を通常水質(NWC:Normal Water Chemistry)運転と言う。水素注入により腐食電位を低下させるBWRプラントの運転は運転中継続することが望ましいが、水素注入が中断される場合があり、この水素注入が中断されている場合におけるBWRプラントの運転は、NWC運転であり、原子力プラント構成部材の腐食電位は高い状態になる。
【0069】
再循環系配管54内を流れる炉水の一部は、浄化系ポンプ68の駆動によって浄化系配管67内に流入し、再生熱交換器69、非再生熱交換器70で冷却された後、炉水浄化装置71で浄化され、再生熱交換器69によって加熱された後、給水配管58を流れる給水に供給され、RPV50内に戻される。
【0070】
BWRプラントは、1つの運転サイクルでの運転が終了した後に停止される。この運転停止後に、BWRプラントに対して定期検査が実施される。この定期検査が終了した後、BWRプラントが再度起動される。この定期検査の期間中において、炉心51内の一部の燃料集合体が新燃料集合体と交換される。すなわち、炉心51内の一部の燃料集合体が、使用済燃料集合体としてRPV50から取り出され、燃焼度0GWd/tの新燃料集合体が炉心51に装荷される。BWRプラントの運転停止後で定期検査を実施する前に、BWRプラントの配管等に対する化学除染が実施される場合がある。
【0071】
図6に示す手順により実施される、実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法を、以下に具体的に説明する。図6は実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法において実施される手順を示すフローチャートである。
【0072】
例えば、炭素鋼製の配管である、原子炉浄化系の浄化系配管67に設けられた浄化系ポンプ68、再生熱交換器69及び非再生熱交換器70等の点検、保守作業が計画されている定期検査において、点検作業員または保守作業員の放射線被ばく低減のため、浄化系配管67に対して化学除染を実施する場合を考える。このとき、浄化系配管67に対して図6に示すステップS1乃至S7の各工程が実施される。
【0073】
運転を経験したBWRプラントでは、RPV50内の冷却水が流れる再循環系配管54及び浄化系配管67等の内面に、放射性核種を含む酸化皮膜が形成されており、この酸化皮膜が化学除染により除去される。本実施例の化学除染方法は、BWRプラントの炭素鋼部材を対象に行うものであり、このため、炭素鋼製の配管である例えば浄化系配管67の内面から酸化皮膜を除去する処理である。
【0074】
浄化系配管67に対する化学除染では、図5に示す化学除染装置1が用いられる。
【0075】
初めに、化学除染装置1を、化学除染対象物である、運転が停止された原子力プラントの配管系に接続する(ステップS1)。
【0076】
仮設設備である化学除染装置1の循環配管2Aの上流側端部及び循環配管2Bの下流側端部が、化学除染対象物である炭素鋼製の浄化系配管67に接続される。この循環配管2A,2Bを浄化系配管67に接続する作業を具体的に説明する。
【0077】
BWRプラントの運転停止後に、例えば、再循環系配管54に接続されている浄化系配管67に設置されている弁72のボンネットを開放して再循環系配管54側を封鎖する。化学除染装置1の循環配管2Aの端部を弁72のフランジに接続する。これにより、循環配管2Aの端部が浄化系ポンプ68の上流で浄化系配管67に接続される。
【0078】
他方、浄化系ポンプ68の下流側で浄化系配管67に設置された弁73のボンネットを開放して再生熱交換器69側を封鎖する。化学除染装置1の循環配管2Bの端部を弁73のフランジに接続する。これにより、循環配管2Bの一端が浄化系ポンプ68の下流で浄化系配管67に接続され、浄化系配管67及び循環配管A,2Bを含む閉ループが形成される。
【0079】
化学除染装置1が浄化系配管67に接続された後でステップS2において循環ポンプ20,26を駆動する前に、循環配管2A,2B、サージタンク17及び弁72と弁73の間の浄化系配管67内に、水を充填する。このためには、まず図5のすべての弁を閉止し、その後にサージタンク17に水を張り、開閉弁46や弁32,28,29,30,31を開いて化学除染装置1の循環系統に水を循環させる。続いて、開閉弁27,33を開いて、開閉弁46を閉めることで浄化系配管67に水を張る。その際、サージタンク17への給水は継続する。
【0080】
次いで、循環水の温度を調節する(ステップS2)。サージタンク17内に設置された加熱器19によって、循環配管2A,2B及び浄化系配管67内を循環する循環水を加熱し、循環水の温度を約90℃に調節する。
【0081】
昇温後、還元除染液を用いた浄化系配管67の内面に対する還元除染が実施される。本実施例の化学除染方法における還元除染を以下に詳細に説明する。
【0082】
還元除染液を生成するためのギ酸、アスコルビン酸及び腐食抑制剤を添加する(ステップS3)。このステップS3は還元除染工程である。なお腐食抑制剤としては例えば朝日化学工業株式会社製のイビット(登録商標)の「30AR」を用いることができる。
【0083】
ステップS3において、ホッパ5にギ酸、アスコルビン酸、及び腐食抑制剤を添加し適宜水を加えて弁3を開くことでエゼクタ4の水流によってホッパ5内の試薬が吸い込まれてサージタンク17に供給される。
【0084】
供給された試薬は循環ポンプ26,20の駆動によって化学除染系統内に供給され、浄化系配管67の内面に形成された酸化皮膜を溶解し、酸化皮膜に取込まれているCo-60などの放射性核種も溶解する。
【0085】
ここで、ギ酸、アスコルビン酸の濃度は高濃度ほど酸化皮膜の溶解には有効であるが、後の除染剤分解工程で負荷がかかるので、あまり高い濃度で除染することは現実的ではない。例としてはギ酸3500ppm、アスコルビン酸はその1/2の1750ppm程度を目安とし、それぞれの濃度範囲としては例えばギ酸が1750ppmから7000ppm、アスコルビン酸が875ppmから3500ppmの間の濃度に調製すると良い。
【0086】
酸化皮膜が溶解してくると還元除染液中の鉄濃度やCo-60濃度が増加してくるので、弁40と弁30の開度を調整して陽イオン交換樹脂塔23に化学除染液を通水してカチオン成分を除去する。この時、腐食抑制剤も除去されるので除去量に相当する量をホッパ5から供給する。陽イオン交換樹脂塔23で金属陽イオンが除去された還元除染水溶液は弁30を通過した還元除染水溶液と混合され、サージタンク17内に導かれる。
【0087】
還元除染水溶液が、浄化系配管67及び循環配管2A,2Bで形成される閉ループ内を循環しながら浄化系配管67の内面の還元除染を実施する。
【0088】
還元除染が実施される間、還元除染水溶液の一部が陽イオン交換樹脂塔23に導かれ、還元除染水溶液に含まれる金属陽イオンが陽イオン交換樹脂塔23で除去される。
【0089】
化学除染対象物である浄化系配管67の外側に配置された放射線検出器76が、化学除染対象物である浄化系配管67から放出される放射線を検出し、放射線検出信号を出力する。この放射線検出信号に基づいて浄化系配管67の線量率を求める。放射性核種の除去によって求められた線量率が除染後の作業に必要な線量率を下回った場合、例えば除染後の被ばく線量管理に必要な線量率が0.1mSv/hとした場合は、この線量率を下回った場合、或いは線量率の低下傾向が下げ止まったところ、例えば1時間当たりの線量率低下が初期線量率の1%を下回るようになった時点で還元除染を終了する。あるいは還元除染開始から所定の時間が経過したところで還元除染を終了する。
【0090】
還元除染の終了後は、還元除染剤の分解を実施する(ステップS4)。ステップS4の工程は還元除染剤の分解、浄化工程である。この工程は複数の工程からなるため、図7にその詳細を示す。図7は実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法において実施される還元除染剤分解工程を示すフローチャートである。
【0091】
初めに還元除染液に過酸化水素が残留し始める酸化還元電位を求めるため、還元除染液の鉄濃度を求める(ステップS4―1)。
【0092】
ここで、還元除染廃液の酸化還元電位(E)は、鉄(II)イオン濃度[Fe2+]、鉄(III)イオン濃度[Fe3+]とアスコルビン酸濃度[C]及びその酸化体であるデヒドロアスコルビン酸濃度[C]を含む、下記の式(5)で表されるネルンストの式で表すことができる。
E=E+(RT/nF)・log([Fe3+][C]/{[Fe2+][C]}) ……(5)
【0093】
ここで、Eは標準電極電位、Rは気体定数、Tは還元除染水溶液の温度、nは価数、及びFはファラデー定数である。
【0094】
ギ酸とアスコルビン酸の分解が進んでくると反応式(4)の鉄(III)イオンを還元するアスコルビン酸が無くなってくるので、鉄(II)イオンが減って鉄(III)イオンが優勢となり、酸化還元電位が増加してくる。こうなると過酸化水素を分解する鉄(II)イオンが無くなってくるので、過酸化水素が残留し始める。過酸化水素が残留し始める酸化還元電位と鉄濃度の関係は実験により図3で示すように確認済みである。そこで、ステップS4-1で求めた鉄濃度と図3とから、分解対象の還元除染液に過酸化水素が残留する酸化還元電位を求める(ステップS4-2)。
【0095】
続いて過酸化水素を分解対象の還元除染液に注入する(ステップS4-3)。過酸化水素の添加には過酸化水素注入装置7を用いる。弁31と弁43の開度を調整し、配管42に還元除染廃液を流通させる。この時、紫外線照射装置25の紫外線は消灯したままとしておく。弁45を開いて注入ポンプ9を駆動し、薬液タンク8の過酸化水素を注入配管44を通して配管42を流れる還元除染廃液に注入する。
【0096】
注入される過酸化水素の量はギ酸、アスコルビン酸の分解に必要な当量よりも少なく、例えば0.5当量として、ギ酸3500ppm、アスコルビン酸1500ppmの場合の過酸化水素濃度は約6000ppmとする。
【0097】
添加された過酸化水素は還元除染廃液中に含まれる鉄(II)イオンと反応式(1)を起こしてヒドロキシルラジカルと鉄(III)イオンを形成する。ヒドロキシルラジカルは反応式(2)によってギ酸を分解する。
【0098】
一方、鉄(III)イオンは還元除染廃液中に含まれるアスコルビン酸によって反応式(4)に従って鉄(II)イオンに還元される。過酸化水素が残っていると反応式(4)で形成した鉄(II)イオンと反応してギ酸の分解がさらに進む。
【0099】
これらの反応式(1),(2),(4)を通してギ酸の分解がサージタンク17の中で進む。ギ酸分解に利用するヒドロキシルラジカルは反応選択性が低く、腐食抑制剤も分解するので、それ補う目的で腐食抑制剤を添加する(ステップS4-4)と下流側の炭素鋼配管の腐食抑制に有効である。
【0100】
ただし、過酸化水素の添加量は循環配管2A,2Bを流れる還元除染廃液のギ酸、アスコルビン酸の分解に必要な当量の0.5倍で、残留過酸化水素による炭素鋼腐食への影響は大きくはないので、腐食抑制剤の添加は必ずしも必須というわけではない。腐食抑制剤添加装置12の弁15を開き、注入ポンプ14を駆動して薬液タンク13内の腐食抑制剤を循環配管2Bに接続した注入配管16を通して循環している還元除染廃液に注入する。
【0101】
サージタンク17内では還元除染廃液が滞留するので、その滞留している間にギ酸やアスコルビン酸の分解反応が進む。過酸化水素の添加量は循環配管2A,2Bを流れる還元除染廃液のギ酸、アスコルビン酸の分解に必要な当量の0.5倍なので、サージタンク17内で滞留している間に先に過酸化水素が消失する。
【0102】
するとサージタンク17を流出する還元除染廃液ではアスコルビン酸が残留しているので鉄イオンは反応式(4)によって鉄(II)イオンに還元されている。このため、酸化還元電位計18の値は鉄(II)イオン優勢の低い電位を示す。ギ酸とアスコルビン酸の分解が進んでくると反応式(4)の鉄(III)イオンを還元するアスコルビン酸が無くなってくるので、鉄(II)イオンが減って鉄(III)イオンが優勢となり、酸化還元電位が増加してくる。
【0103】
そこで、例えば鉄濃度が100ppmの場合は、図3より、酸化還元電位が620mV vs SHEを越えているかどうかの判断を行う(ステップS4-5)。越えていなければ過酸化水素の添加を継続し、越えていた場合は過酸化水素が残留し始め、浄化系配管67に到達するので、過酸化水素の注入を停止する(ステップS4-6)。このように運用することで過酸化水素とギ酸を含んだ還元除染廃液が浄化系配管67に到達することが無いので、腐食量の大きい過酸化水素と未分解のギ酸の表面接触による炭素鋼腐食が抑制される。
【0104】
なお、過酸化水素の添加を停止してもサージタンク17内の分解中の還元除染液に過酸化水素が残留する場合は開閉弁46を開いて開閉弁33及び開閉弁27を閉じて除染対象をバイパスし、しばらくバイパス系で循環することで過酸化水素の分解を待つ方法がある。
【0105】
また、残留した過酸化水素がなかなか分解しない場合は、フィルタ21に活性炭フィルタを導入して、そこへ通水することで残留する過酸化水素を分解することができる。
【0106】
続いて、還元除染廃液に含まれる鉄(III)イオンを除去するため、添加した過酸化水素が残留するようになった還元除染廃液に紫外線を照射して鉄(II)イオンに還元して、陽イオン交換樹脂塔23に通水する(ステップS4-7)。
【0107】
具体的には、弁31と弁43の開度を調整して還元除染廃液を紫外線照射装置25に通水する。還元除染廃液中に残存するアスコルビン酸の分解生成物であるデヒドロアスコルビン酸などの有機物を還元剤として、紫外線によって鉄(III)イオンが鉄(II)イオンに還元され、陽イオン交換樹脂塔23を通過する際に鉄(II)イオンはカチオン交換樹脂に補足されて還元除染廃液から取り除かれる。
【0108】
ここで、陽イオン交換樹脂塔23を運用すると腐食抑制剤も取り除かれるので、それを補うため腐食抑制剤を添加する(ステップS4-8)。添加濃度としては例えば還元除染時の200ppmとする。
【0109】
鉄イオン濃度が5ppmを下回ったところで次の紫外線照射によるアスコルビン酸派生成分の分解を行う(ステップS4-9)。
【0110】
具体的には、還元除染で使用したアスコルビン酸はその後の工程の過酸化水素の添加によって大部分が酸化形態のデヒドロアスコルビン酸となり、その一部はフェントン反応(1)で形成されるヒドロキシルラジカルで更に分解が進んでいる。これらのアスコルビン酸派生成分を分解除去するため還元除染廃液に過酸化水素を添加しながら紫外線を照射する。
【0111】
弁31と弁43の開度を調整し紫外線照射装置25へ還元除染廃液の一部を流通させる。弁45を開いて注入ポンプ9を駆動して薬液タンク8内の過酸化水素を紫外線照射装置25に流入する前の還元除染廃液に添加する。添加量はアスコルビン酸の分解に必要な当量以上の濃度で、例えば1当量となる濃度になるように注入する。アスコルビン酸及びデヒドロアスコルビン酸の過酸化水素と紫外線による分解は次の反応式(6)及び反応式(7)による。
【0112】
【数1】
【0113】
【数2】
【0114】
アスコルビン酸派生成分の分解は還元除染廃液を定期的にサンプリングしてTOC(Total Organic Carbon:全有機炭素)を測定することで監視できる。TOC濃度の低下が収まるか、TOCが10ppmを下回ったところでアスコルビン酸の分解を終了する。
【0115】
続いて還元除染廃液中に残留している不純物をさらに浄化するため混床樹脂による浄化を行う(ステップS4-10)。
【0116】
混床樹脂に含まれるアニオン交換樹脂の耐熱温度に合わせて還元除染廃液を冷却するため、弁29と弁37の開度を調整し、冷却器22に還元除染廃液を通水する。循環配管2Aと冷却器22を有する配管36の合流点の温度がアニオン交換樹脂の耐熱温度以下、例えば60℃以下になるように弁29と弁37の開度を調整する。60℃以下になった還元除染廃液を混床樹脂塔24に通水するため、弁30と弁41の開度を調整する。還元除染廃液に含まれるカチオン成分、アニオン成分は混床樹脂に含まれるカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂に吸着されて除去される。これによって還元除染廃液の導電率は2μS/cmまで低下できる。
【0117】
続いて、化学除染終了の判断を行う(ステップS5)。化学除染対象物である浄化系配管67の外側に配置された放射線検出器76が、化学除染対象物である浄化系配管67から放出される放射線を検出し、放射線検出信号を出力する。この放射線検出信号に基づいて浄化系配管67の線量率を求める。この線量率が目標に到達していない場合は水温を90℃に加熱してステップS3の還元除染から再度繰り返す。繰り返しは目標線量率を達成するまで継続することもできるが、試薬やイオン交換樹脂の準備量で可能な繰り返し回数が制限されるので、3回程度で終了する。
【0118】
化学除染の終了判断がなされると化学除染で使用した系統水を排水する(ステップS6)。排水先は原子力プラントの排水処理系とし、導電率やpHなどの排水基準をクリアしていることを確認して排水する。排水後、仮設として取り付けた化学除染装置1を浄化系配管67から取り外して、装置を撤去し化学除染を終了する(ステップS7)。
【0119】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0120】
上述した本発明の実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法では、ギ酸及びアスコルビン酸を含む除染剤を用いて炭素鋼部材を除染する除染工程と、除染工程で用いた除染剤中のギ酸及びアスコルビン酸を過酸化水素を含む除染剤分解液を用いて分解する分解工程と、を有し、分解工程では、鉄濃度に基づいて決定される、除染剤分解液中に過酸化水素が残留する残留酸化還元電位に基づいて除染剤分解液中の過酸化水素の残留状態を判断し、除染剤分解液への過酸化水素の注入を停止する。
【0121】
これによって、炭素鋼配管の母材が、腐食の大きい過酸化水素を含むギ酸の溶液に接触することが強く抑制されるので、炭素鋼部材の除染による母材の腐食量を従来に比べて少なくすることができる。また、本実施例では有機系の腐食抑制剤を還元除染剤の各分解工程で追加しており、還元除染剤分解工程の最後の混床樹脂塔による浄化を除く全工程で腐食抑制剤の効果を得ることができるので、化学除染による炭素鋼母材の腐食を低く抑えることができる。従って、原子力プラントの運転中に炭素鋼に形成された酸化皮膜を沈殿皮膜によって被覆されることなく効率的に溶解するとともに、除染剤の分解中の炭素鋼母材の腐食を従来に比べて抑制することができる。その上、炭素鋼配管の腐食による余寿命への影響が少なく、溶出する鉄量も少なくなるので、イオン交換樹脂の廃棄物量も抑制することができる、との効果も奏する。
【0122】
また、分解工程では、過酸化水素の濃度がギ酸及びアスコルビン酸を分解するのに必要な過酸化水素の当量以下の濃度になるように除染剤分解液へ過酸化水素を注入するため、炭素鋼部材の除染による母材の腐食量をより確実に減らすことができる。
【0123】
更に、サージタンク17を更に備え、酸化還元電位計18がサージタンク17の下流側に設置され、酸化還元電位計18で測定される酸化還元電位の値が残留酸化還元電位を越えた場合に過酸化水素の注入を停止することで、過酸化水素の残留を炭素鋼部材への流入経路の手前で検知することができ、過酸化水素の炭素鋼部材への流入を抑止し、その腐食を抑制することができる。
【0124】
また、浄化系配管67と並列に配置されたバイパス配管47を更に備え、除染剤分解液を注入した後は、バイパス配管47によりサージタンク17を含む閉ループ内で循環させることにより、過酸化水素を含む除染剤分解液の流路を切り替えることができ、除染対象の炭素鋼部材が分解液に接触する機会をより減らすことができるため、その腐食を更に低減することができる。
【0125】
更に、除染剤分解液に腐食抑制剤を添付する腐食抑制剤添加装置12を更に備えることで、炭素鋼部材の除染における母材の腐食を更に低減することができる。
【0126】
また、浄化系配管67とサージタンク17とを接続する循環配管2Aに配置された過酸化水素注入装置7を更に備え、酸化還元電位計18が、サージタンク17と浄化系配管67とを接続する循環配管2Bに設置されていることにより、炭素鋼部材へ流入する前で過酸化水素の残留状態を把握できることから、炭素鋼部材が過酸化水素に接触する可能性をより低くすることができる。
【0127】
<実施例2>
本発明の実施例2の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法及び化学除染装置について図8を用いて説明する。図8は実施例2の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法に使用する化学除染装置の詳細構成図である。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法も、沸騰水型原子力プラント(BWRプラント)に適用した例である。
【0128】
本実施例の化学除染方法に用いられる化学除染装置1Aは、図8に示すように、前述の化学除染装置1に加えて、制御装置110と、この制御装置110と酸化還元電位計18、注入ポンプ9、注入ポンプ14、開閉弁33、開閉弁46、及び開閉弁27とを情報制御ケーブル111でつないだ構成が追加されている。化学除染装置1Aの他の構成は化学除染装置1と同じである。
【0129】
制御装置110には、図3に示すような予め鉄濃度に基づいて決定される過酸化水素が残留する酸化還元電位の情報が格納されており、酸化還元電位計18の測定結果の入力を受け、除染剤分解液中の過酸化水素の残留状態を判定し、除染剤分解液への過酸化水素の注入を停止するよう過酸化水素注入装置7の注入ポンプ9を制御するとともに、酸化還元電位計18の測定結果の入力を受けて、循環配管2Aに設けられた開閉弁27、循環配管2Bに設けられた開閉弁33、バイパス配管47に設けられた開閉弁46の開閉を制御して浄化系配管67をバイパスさせる。
【0130】
本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法は、実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法において、還元除染剤分解工程(ステップS4)の内容を酸化還元電位計18からの出力を制御装置110で受け取り、これに基づいて実施例1と同様にポンプの起動停止や弁の開閉操作を行うもので、他の手順は実施例1と同様である。
【0131】
本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法も、実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法と同様に、BWRプラントの運転停止後において、例えば、炭素鋼製の浄化系配管67に対して実施される。
【0132】
本実施例では、図6のステップS1において、化学除染装置1Aの循環配管2A,2Bの端部が、実施例1と同様に、浄化系配管67に接続される。その後、実施例1と同様に、ステップS2、S3の各工程(図6参照)が実施され、ギ酸、アスコルビン酸、腐食抑制剤を還元除染剤とした浄化系配管67の内面に対する還元除染が実施される。
【0133】
浄化系配管67の線量率が下げ止まるか、還元除染時間が所定の時間を経過したとき、還元除染(ステップS3)を終了して還元除染剤分解、浄化工程(ステップS4)へ移る。
【0134】
還元除染剤分解工程では、図7で示すように始めに還元除染溶液の鉄濃度を測定する。実施例2ではこの値を制御装置110へ入力する(ステップS4-1)。制御装置110は、鉄濃度に対応した過酸化水素が残留する酸化還元電位を決定する(ステップS4-2)。制御装置110では、これより以前の還元除染工程においても継続してギ酸、アスコルビン酸の濃度を入力しておき、これらの分解に必要な過酸化水素当量が算出されている。
【0135】
制御装置110は、過酸化水素の濃度を必要当量の例えば0.5当量となるように注入ポンプ9の注入速度を制御する信号を情報制御ケーブル111を通して注入ポンプ9に対して送信し、過酸化水素の添加が開始される(ステップS4-3)。同時に注入ポンプ14に注入開始の信号を注入ポンプ14に対して送信し、腐食抑制剤の注入が開始される(ステップS4-4)。
【0136】
制御装置110では酸化還元電位計18からの信号を常時モニターし、ステップS4-2で決定した過酸化水素が残留する酸化還元電位を基に還元除染液中の過酸化水素の残留を判定する(ステップS4-5)。
【0137】
測定された酸化還元電位が基準より低い間は過酸化水素の注入を継続する信号が制御装置110から注入ポンプ9に送信される。
【0138】
これに対し、酸化還元電位が基準より高くなった場合は、制御装置110から注入ポンプ9に停止の信号が送信される(ステップS4-6)。更に、酸化還元電位が基準より高い間は炭素鋼配管に過酸化水素が流入しないように、除染対象をバイパスするように弁の開閉を操作する信号を開閉弁33、開閉弁46、開閉弁27に送信する。
【0139】
これにより、しばらくバイパス系で循環することで過酸化水素の分解は進む。なお、残留した過酸化水素がなかなか分解しない場合は、フィルタ21に活性炭フィルタを導入して、そこへ通水することで残留する過酸化水素を分解することができる。酸化還元電位が基準を下回ったところで、バイパス運転を解除するように開閉弁27、開閉弁33を開いて開閉弁46を閉じる信号を送信する。
【0140】
これ以降の紫外線照射とカチオン交換樹脂通水による鉄イオンの除去(ステップS4-7)から還元除染剤分解廃液中の残留イオン成分の除去である混床樹脂塔通水(ステップS4-10)、及び図6に示す除染完了の判断(ステップS5)から化学除染装置の撤去(ステップS7)までは実施例1と同等に実施する。
【0141】
その他の構成・動作は前述した実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法及び化学除染装置と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0142】
本発明の実施例2の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法及び化学除染装置においても、前述した実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法及び化学除染装置とほぼ同様な効果が得られる。
【0143】
また、酸化還元電位計18の測定結果の入力を受け、除染剤分解液中の過酸化水素の残留状態を判定し、除染剤分解液への過酸化水素の注入を停止するよう分解液供給部を制御する制御装置110を更に備えることにより、酸化還元電位に基づく過酸化水素注入停止の判断を制御装置110を通して自動的に行えるので、操作時間が短縮され、その分だけ過酸化水素の炭素鋼配管への流入を抑制するとともに、作業員の削減が可能となる。
【0144】
更に、制御装置110は、酸化還元電位計18の測定結果の入力を受けて、循環配管2A、循環配管2B及びバイパス配管47に設けられた開閉弁27,33,46の開閉を制御して浄化系配管67をバイパスさせることで、酸化還元電位に基づく除染対象の炭素鋼配管のバイパス操作が制御装置110を通して自動的に行えることから、同様に操作時間が短縮され、その分過酸化水素の炭素鋼配管への流入を抑制するとともに、作業員の削減が可能となる。
【0145】
<その他>
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0146】
また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【0147】
例えば、実施例1あるいは実施例2のそれぞれの化学除染装置及び化学除染方法は、加圧水型原子力プラントにも適用することができる。
【0148】
また、「前記分解工程では、鉄濃度に基づいて決定される、前記除染剤分解液中に前記過酸化水素が残留する残留酸化還元電位に基づいて前記除染剤分解液中の前記過酸化水素の残留状態を判断し、前記除染剤分解液への前記過酸化水素の注入を停止する」ことに限られず、「前記分解工程では、鉄濃度に基づいて決定される、前記除染剤分解液中に前記過酸化水素が残留する残留酸化還元電位に基づいて前記除染剤分解液中の前記過酸化水素の残留状態を判断し、前記炭素鋼部材から隔離された閉ループ内で前記除染剤分解液を循環させる」こととしても同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0149】
1,1A…化学除染装置
2A…循環配管(第一配管)
2B…循環配管(第二配管)
3,15,28,29,30,31,32,35,37,40,41,43,45,72,73…弁
4…エゼクタ
5…ホッパ
6…除染剤供給部
7…過酸化水素注入装置(分解液供給部)
8,13…薬液タンク
9,14…注入ポンプ
11…原子炉格納容器
12…腐食抑制剤添加装置
16,44…注入配管
17…サージタンク
18,104…酸化還元電位計
19…加熱器
20,26…循環ポンプ
21…フィルタ
22…冷却器
23…陽イオン交換樹脂塔
24…混床樹脂塔
25…紫外線照射装置
27,33,46…開閉弁
34,36,38,39,42,75,102…配管
47…バイパス配管
49…原子炉
50…原子炉圧力容器
51…炉心
52…ジェットポンプ
53…再循環ポンプ
54…再循環系配管
55…主蒸気配管
56…タービン
57…復水器
58…給水配管
59…復水ポンプ
60…復水浄化装置
61…低圧給水加熱器
62…高圧給水加熱器
63…給水ポンプ
65…バイパス配管
66…水素注入装置
67…浄化系配管(炭素鋼部材)
68…浄化系ポンプ
69…再生熱交換器
70…非再生熱交換器
71…炉水浄化装置
74…抽気配管
76…放射線検出器
82…RHR配管(炭素鋼部材)
83,103…ポンプ
101…サージタンク
105…試験片設置部
106…炭素鋼試験片
110…制御装置
111…情報制御ケーブル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8