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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136141
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】分離膜、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/64 20060101AFI20240927BHJP
   B01D 71/82 20060101ALI20240927BHJP
   B01D 61/36 20060101ALI20240927BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20240927BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20240927BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20240927BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20240927BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20240927BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B01D71/64
B01D71/82 500
B01D71/82
B01D61/36
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
C08G73/10
C08L79/08
C08J5/18 CFG
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047133
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100214639
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】村上 晋平
(72)【発明者】
【氏名】シャ イクチン
(72)【発明者】
【氏名】仲野 武史
【テーマコード(参考)】
4D006
4F071
4J002
4J043
【Fターム(参考)】
4D006GA25
4D006GA28
4D006HA01
4D006HA21
4D006HA41
4D006HA61
4D006JA05A
4D006JA05C
4D006JA06A
4D006JA06C
4D006JA14A
4D006JA18A
4D006JA19A
4D006JA19C
4D006MA01
4D006MA03
4D006MA09
4D006MA18
4D006MA21
4D006MA31
4D006MA40
4D006MB02
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC39
4D006MC46
4D006MC47
4D006MC48
4D006MC49
4D006MC53
4D006MC54
4D006MC55
4D006MC58
4D006MC62
4D006MC65
4D006MC68
4D006MC71
4D006MC74
4D006MC75
4D006NA44
4D006NA46
4D006NA64
4D006PA01
4D006PA02
4D006PB14
4D006PB70
4F071AA60
4F071AH19
4F071BB02
4F071BC01
4J002CD132
4J002CM041
4J002FD142
4J002GD00
4J043PA04
4J043QB15
4J043QB26
4J043RA35
4J043SA06
4J043SB02
4J043TA22
4J043TB02
4J043UA121
4J043UA122
4J043UA131
4J043UA132
4J043UB121
4J043UB162
4J043VA021
4J043VA022
4J043VA062
4J043XA04
4J043XA19
4J043YA08
4J043ZB13
(57)【要約】
【課題】長期間使用した場合における分離性能の低下を抑制することに適した分離膜を提供する。
【解決手段】本発明の分離膜10は、揮発性の有機化合物Cと水とを含む混合液体Lから水を分離するための分離膜10である。分離膜10は、架橋ポリイミドを含む分離機能層1を備える。本発明の分離膜10の製造方法は、ポリイミドPを含む塗布液を基材の上に塗布して、塗布膜を形成することと、塗布膜を乾燥させ、ポリイミドPから架橋ポリイミドを形成することによって、分離機能層1を得ることと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性の有機化合物と水とを含む混合液体から水を分離するための分離膜であって、
前記分離膜は、架橋ポリイミドを含む分離機能層を備える、分離膜。
【請求項2】
前記分離機能層のゲル分率が80%以上である、請求項1に記載の分離膜。
【請求項3】
前記架橋ポリイミドは、ポリイミドがイオン結合又は共有結合を介して架橋したものである、請求項1に記載の分離膜。
【請求項4】
前記ポリイミドは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、チオール基及びスルホン酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基Fを有する、請求項3に記載の分離膜。
【請求項5】
前記ポリイミドは、前記官能基Fとしてカルボキシル基を有する、請求項4に記載の分離膜。
【請求項6】
前記架橋ポリイミドは、前記官能基Fに含まれる解離性のプロトンと、金属イオンとが交換することによって形成されたものである、請求項4に記載の分離膜。
【請求項7】
前記架橋ポリイミドは、前記官能基Fと架橋剤とが反応することによって形成されたものである、請求項4に記載の分離膜。
【請求項8】
前記架橋剤は、エポキシ系架橋剤及びイソシアネート系架橋剤からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項7に記載の分離膜。
【請求項9】
前記ポリイミドは、下記式(1)で表される構成単位X1を含む、請求項4に記載の分離膜。
【化1】
前記式(1)において、A1は4価の連結基であり、B1は2価の連結基である。ただし、A1及びB1からなる群より選ばれる少なくとも1つは前記官能基Fを含む。
【請求項10】
前記構成単位X1は、下記式(2)で表される構成単位X2である、請求項9に記載の分離膜。
【化2】
前記式(2)において、A2及びB1は、互いに独立して、2価の連結基であり、R1~R6は、互いに独立して、水素原子又は任意の置換基である。ただし、A2、B1及びR1~R6からなる群より選ばれる少なくとも1つは前記官能基Fを含む。
【請求項11】
下記試験を実施する前の前記分離機能層の表面の面積A1(cm2)に対する、当該試験を実施した後の前記分離機能層の前記表面の面積A2(cm2)から前記面積A1を差し引いた値の比率R1が10%以下である、請求項1に記載の分離膜。
試験:エタノール及び水からなる試験液体に前記分離機能層を1日間浸漬させる。ここで、前記試験液体におけるエタノールの含有率が50wt%であり、前記試験液体の温度が60℃である。
【請求項12】
下記試験を実施する前の前記分離機能層の重量W1(g)に対する、当該試験を実施した後の前記分離機能層の重量W2(g)から前記重量W1を差し引いた値の比率R2が10%以下である、請求項1に記載の分離膜。
試験:エタノール及び水からなる試験液体に前記分離機能層を1日間浸漬させる。ここで、前記試験液体におけるエタノールの含有率が50wt%であり、前記試験液体の温度が60℃である。
【請求項13】
前記分離機能層を支持している多孔性支持体をさらに備えた、請求項1に記載の分離膜。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の分離膜の製造方法であって、
前記製造方法は、
ポリイミドを含む塗布液を基材の上に塗布して、塗布膜を形成することと、
前記塗布膜を乾燥させ、前記ポリイミドから前記架橋ポリイミドを形成することによって、前記分離機能層を得ることと、
を含む、分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性の有機化合物と水とを含む混合液体から水を分離する方法としては、浸透気化法(パーベーパレーション法)及び蒸気透過法が開発されている。これらの方法は、特に、エタノールと水とを含む混合液体などの共沸混合物から水を分離することに適している。浸透気化法は、処理の前に混合液体を気化する必要がない点にも特長がある。
【0003】
浸透気化法に用いられる分離膜の材料としては、ゼオライト、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリイミドなどが挙げられる。例えば、特許文献1は、ポリイミドを含む分離膜の一例を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-184424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ゼオライト及びPVAは、高い親水性を有するため、混合液体における水の含有率が高い場合、ゼオライトやPVAでできた分離膜が水によって膨潤し、分離膜の分離性能が低下することがある。一方、ポリイミドは、ゼオライト及びPVAと比べて、水による膨潤を抑制できる材料である。しかし、従来のポリイミドを含む分離膜は、長期間の使用により、分離性能が大きく低下する傾向がある。
【0006】
そこで本発明は、長期間使用した場合における分離性能の低下を抑制することに適した分離膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、従来の分離膜を用いて、水を含む混合液体から水を分離する操作を長期間実施すると、分離膜が備える分離機能層の表面上にスジ状の亀裂が生じることや、分離膜を構成する層の間で剥離が生じることによって分離膜が劣化し、これにより、分離膜の分離性能が低下する傾向があることを新たに見出した。本発明者らは、この知見に基づいて検討を進め、分離膜の材料として、架橋構造を有する架橋ポリイミドを用いると、上記の劣化が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、
揮発性の有機化合物と水とを含む混合液体から水を分離するための分離膜であって、
前記分離膜は、架橋ポリイミドを含む分離機能層を備える、分離膜を提供する。
【0009】
さらに本発明は、
上記の分離膜の製造方法であって、
前記製造方法は、
ポリイミドを含む塗布液を基材の上に塗布して、塗布膜を形成することと、
前記塗布膜を乾燥させ、前記ポリイミドから前記架橋ポリイミドを形成することによって、前記分離機能層を得ることと、
を含む、分離膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長期間使用した場合における分離性能の低下を抑制することに適した分離膜を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態にかかる分離膜を模式的に示す断面図である。
図2】ゲル分率などの評価に用いる分離機能層を模式的に示す断面図である。
図3】本発明の分離膜を備えた膜分離装置の概略断面図である。
図4】本発明の分離膜を備えた膜分離装置の変形例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第1態様にかかる分離膜は、
揮発性の有機化合物と水とを含む混合液体から水を分離するための分離膜であって、
前記分離膜は、架橋ポリイミドを含む分離機能層を備える。
【0013】
本発明の第2態様において、例えば、第1態様にかかる分離膜では、前記分離機能層のゲル分率が80%以上である。
【0014】
本発明の第3態様において、例えば、第1又は第2態様にかかる分離膜では、前記架橋ポリイミドは、ポリイミドがイオン結合又は共有結合を介して架橋したものである。
【0015】
本発明の第4態様において、例えば、第3態様にかかる分離膜では、前記ポリイミドは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、チオール基及びスルホン酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基Fを有する。
【0016】
本発明の第5態様において、例えば、第4態様にかかる分離膜では、前記ポリイミドは、前記官能基Fとしてカルボキシル基を有する。
【0017】
本発明の第6態様において、例えば、第4又は第5態様にかかる分離膜では、前記架橋ポリイミドは、前記官能基Fに含まれる解離性のプロトンと、金属イオンとが交換することによって形成されたものである。
【0018】
本発明の第7態様において、例えば、第4又は第5態様にかかる分離膜では、前記架橋ポリイミドは、前記官能基Fと架橋剤とが反応することによって形成されたものである。
【0019】
本発明の第8態様において、例えば、第7態様にかかる分離膜では、前記架橋剤は、エポキシ系架橋剤及びイソシアネート系架橋剤からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。
【0020】
本発明の第9態様において、例えば、第4~第8態様のいずれか1つにかかる分離膜では、前記ポリイミドは、下記式(1)で表される構成単位X1を含む。
【化1】
前記式(1)において、A1は4価の連結基であり、B1は2価の連結基である。ただし、A1及びB1からなる群より選ばれる少なくとも1つは前記官能基Fを含む。
【0021】
本発明の第10態様において、例えば、第9態様にかかる分離膜では、前記構成単位X1は、下記式(2)で表される構成単位X2である。
【化2】
前記式(2)において、A2及びB1は、互いに独立して、2価の連結基であり、R1~R6は、互いに独立して、水素原子又は任意の置換基である。ただし、A2、B1及びR1~R6からなる群より選ばれる少なくとも1つは前記官能基Fを含む。
【0022】
本発明の第11態様において、例えば、第1~第10態様のいずれか1つにかかる分離膜では、下記試験を実施する前の前記分離機能層の表面の面積A1(cm2)に対する、当該試験を実施した後の前記分離機能層の前記表面の面積A2(cm2)から前記面積A1を差し引いた値の比率R1が10%以下である。
試験:エタノール及び水からなる試験液体に前記分離機能層を1日間浸漬させる。ここで、前記試験液体におけるエタノールの含有率が50wt%であり、前記試験液体の温度が60℃である。
【0023】
本発明の第12態様において、例えば、第1~第11態様のいずれか1つにかかる分離膜では、下記試験を実施する前の前記分離機能層の重量W1(g)に対する、当該試験を実施した後の前記分離機能層の重量W2(g)から前記重量W1を差し引いた値の比率R2が10%以下である。
試験:エタノール及び水からなる試験液体に前記分離機能層を1日間浸漬させる。ここで、前記試験液体におけるエタノールの含有率が50wt%であり、前記試験液体の温度が60℃である。
【0024】
本発明の第13態様において、例えば、第1~第12態様のいずれか1つにかかる分離膜は、前記分離機能層を支持している多孔性支持体をさらに備える。
【0025】
本発明の第14態様にかかる分離膜の製造方法は、
第1~第13態様のいずれか1つにかかる分離膜の製造方法であって、
前記製造方法は、
ポリイミドを含む塗布液を基材の上に塗布して、塗布膜を形成することと、
前記塗布膜を乾燥させ、前記ポリイミドから前記架橋ポリイミドを形成することによって、前記分離機能層を得ることと、
を含む。
【0026】
以下、本発明の詳細を説明するが、以下の説明は、本発明を特定の実施形態に制限する趣旨ではない。
【0027】
<分離膜の実施形態>
図1に示すように、本実施形態の分離膜10は、架橋ポリイミドを含む分離機能層1を備えている。分離膜10は、典型的には、揮発性の有機化合物Cと水とを含む混合液体Lから水を優先的に透過させることができる膜である。そのため、分離膜10は、上記の混合液体Lから水を分離する用途に用いることができる。
【0028】
分離膜10は、例えば、中間層2及び多孔性支持体3をさらに備えている。多孔性支持体3は、分離機能層1を支持している。中間層2は、分離機能層1と多孔性支持体3との間に配置されており、分離機能層1及び多孔性支持体3のそれぞれに直接接している。
【0029】
(分離機能層)
分離機能層1は、例えば、上記の混合液体Lから水を優先的に透過させることができる層であり、典型的には、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、拡大倍率5000倍で観察したときに、孔が確認できない緻密層(無孔層)である。
【0030】
上述のとおり、分離機能層1は、架橋ポリイミドを含む。架橋ポリイミドは、例えば、ポリイミドPがイオン結合又は共有結合を介して架橋したものである。本明細書において、「ポリイミドPがイオン結合を介して架橋する」とは、例えば、ポリイミドP(詳細には、複数のポリイミドPの分子)が金属イオンに配位して、イオン結合が形成されることによって、架橋構造が形成されることを意味する。「ポリイミドPが共有結合を介して架橋する」とは、例えば、ポリイミドP(詳細には、複数のポリイミドPの分子)が架橋剤と反応して、共有結合が形成されることによって、架橋構造が形成されることを意味する。
【0031】
ポリイミドPは、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシル基、チオール基及びスルホン酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基Fを有している。官能基Fは、架橋ポリイミドを合成するときに、架橋点として機能することができる。架橋ポリイミドの合成しやすさや、架橋ポリイミドの安定性の観点から、ポリイミドPは、官能基Fとしてカルボキシル基を有することが好ましい。
【0032】
ポリイミドPは、例えば、下記式(1)で表される構成単位X1を含む。
【化3】
【0033】
式(1)において、A1は4価の連結基であり、B1は2価の連結基である。ただし、A1及びB1からなる群より選ばれる少なくとも1つは上記の官能基Fを含む。
【0034】
構成単位X1は、下記式(2)で表される構成単位X2であることが好ましい。
【化4】
【0035】
式(2)において、A2及びB1は、互いに独立して、2価の連結基であり、R1~R6は、互いに独立して、水素原子又は任意の置換基である。ただし、A2、B1及びR1~R6からなる群より選ばれる少なくとも1つは上記の官能基Fを含む。
【0036】
[A2の好ましい一形態]
好ましい一形態では、式(2)において、A2は、例えば、主鎖にアリーレン基を含まず、かつFedors法による溶解度パラメータが5.0(cal/cm31/2より大きい連結基である。本明細書において、「主鎖」は、A2によって連結している2つのフタルイミド構造を結ぶ結合鎖を意味する。「アリーレン基」は、炭素原子から構成された芳香環を有する2価の芳香族基を意味する。A2は、主鎖にヘテロアリーレン基も含まないことが好ましい。「ヘテロアリーレン基」は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子などのヘテロ原子を含む複素芳香環を有する2価の芳香族基を意味する。特に、A2は、芳香環及び複素芳香環を含まないことが好ましく、環構造を含まないことがより好ましい。
【0037】
本明細書では、「Fedors法による溶解度パラメータ」をSP値と呼ぶことがある。「Fedors法による溶解度パラメータ」は、次の式から算出することができる。ただし、次の式において、δiは、i成分の原子又は原子団のSP値である。Δeiは、i成分の原子又は原子団の蒸発エネルギーである。Δviは、i成分の原子又は原子団のモル体積である。
δi[(cal/cm3)1/2]=(Δei/Δvi)1/2
【0038】
「Fedors法による溶解度パラメータ」の詳細は、例えば、Robert F. Fedors著、「Polymer Engineering and Science」、1974年、第14巻、第2号、P.147-154に開示されている。
【0039】
この形態において、A2のSP値は、5.0(cal/cm31/2より大きい。A2において、この程度に高いSP値は、分離機能層1への水の浸透を容易にする傾向がある。A2のSP値は、好ましくは8.5(cal/cm31/2以上であり、より好ましくは11.0(cal/cm31/2以上であり、さらに好ましくは12.0(cal/cm31/2以上である。A2のSP値の上限値は、特に限定されないが、例えば、30.0(cal/cm31/2であってもよく、14.0(cal/cm31/2であってもよい。A2のSP値の好ましい例は、12.68(cal/cm31/2等である。
【0040】
2は、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びケイ素原子からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。A2は、酸素原子及び窒素原子からなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましく、酸素原子を含むことが特に好ましい。A2は、例えば、上記の官能基Fや、エーテル基、カルボニル基、アミド基、チオエーテル基、スルホニル基などの他の官能基Gを含んでいてもよい。カルボニル基の具体例としては、エステル基、ケトン基などが挙げられる。A2は、官能基Gとして、エーテル基及びエステル基からなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましく、エステル基を含むことがより好ましい。
【0041】
2は、上記の官能基Fや官能基Gと共にその他の基、例えば炭化水素基を含んでいてもよい。炭化水素基の炭素数は、特に制限されないが、例えば1~15であり、好ましくは1~5であり、より好ましくは1~3である。A2は、2価の炭化水素基、特にアルキレン基、を含むことが好ましい。2価の炭化水素基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロパン-1,3-ジイル基、プロパン-2,2-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基及び2,2-ジメチルプロパン-1,3-ジイル基が挙げられ、好ましくはエチレン基である。これらの炭化水素基に含まれる少なくとも1つの水素原子は、ハロゲン原子によって置換されていてもよい。
【0042】
2は、例えば、一般式-O-R7-O-、又は、一般式-COO-R8-OOC-で表される連結基であり、特に、一般式-COO-R8-OOC-で表される連結基であることが好ましい。ここで、R7及びR8は、炭素数1~15の2価の炭化水素基である。2価の炭化水素基としては、上述したものが挙げられる。
【0043】
2は、SP値が5.0(cal/cm31/2より大きい連結基である限り、上記の官能基Fや官能基Gを含んでいなくてもよい。このようなA2としては、例えば、アルキレン基が挙げられる。アルキレン基の炭素数は、特に制限されないが、例えば1~15であってもよく、1~5であってもよい。アルキレン基は、分岐鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。アルキレン基は、その水素原子の一部がハロゲン原子によって置換されていてもよいが、置換されていない状態、すなわち、直鎖の又は分岐を有するアルキレン基そのものであることが好ましい。
【0044】
式(2)において、A2によって連結している2つのフタルイミド構造を結ぶ結合鎖のうち、原子の数が最も少ない結合鎖を構成する原子の数は、例えば2以上であり、好ましくは4以上であり、より好ましくは6~11である。本明細書では、原子の数が最も少ない結合鎖を「最短の結合鎖」と呼ぶことがある。仮に、A2がプロパン-1,3-ジイル基である場合、A2によって連結している2つのフタルイミド構造を結ぶ最短の結合鎖を構成する原子の数は3である。仮に、A2がプロパン-2,2-ジイル基である場合、A2によって連結している2つのフタルイミド構造を結ぶ最短の結合鎖を構成する原子の数は1である。
【0045】
2は、以下の表1に示された連結基1~16のうちの1つであってもよい。表1には、連結基1~16について、化学構造、SP値、及び、最短の結合鎖を構成する原子の数も示されている。A2は、好ましくは連結基12である。A2が連結基12であるとき、ポリイミドPは、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの極性有機溶媒に溶解しやすく、分離機能層1の望ましい製造方法を適用しやすい。
【0046】
【表1】
【0047】
[A2の別の好ましい一形態]
別の好ましい一形態では、式(2)において、A2は、主鎖にアリーレン基を含む連結基である。アリーレン基に含まれる芳香環は、多環式であってもよいが、単環式であることが好ましい。芳香環の炭素数は、特に限定されないが、例えば6~14である。芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環などが挙げられる。
【0048】
2において、アリーレン基に含まれる芳香環は、置換基を有していてもよく、置換基を有していなくてもよい。置換基としては、例えば、上記の官能基F、ハロゲン原子、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数1~30の炭化水素基などが挙げられる。アルコキシ基及び炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよい。アルコキシ基及び炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~20であり、より好ましくは1~10であり、特に好ましくは1~5である。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基などが挙げられる。アルコキシ基及び炭化水素基に含まれる少なくとも1つの水素原子は、ハロゲン原子によって置換されていてもよい。芳香環が複数の置換基を有するとき、複数の置換基は、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0049】
2において、アリーレン基は、置換基を有していてもよいフェニレン基、又は、置換基を有していてもよいナフタレンジイル基であることが好ましく、置換基を有していてもよいフェニレン基であることがより好ましい。アリーレン基は、置換基を有していてもよいフェニレン基である場合には、下記式(3)で表されることが好ましい。式(3)は、p-フェニレン構造を示している。p-フェニレン構造を有するポリイミドは、o-フェニレン構造又はm-フェニレン構造を有するポリイミドに比べて、立体的に嵩高くなく、分離膜10の分離性能を向上させることに適している。
【化5】
【0050】
式(3)において、R9~R12は、互いに独立して、水素原子又は任意の置換基である。任意の置換基としては、上記の官能基F、ハロゲン原子、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数1~30の炭化水素基などが挙げられる。アルコキシ基及び炭化水素基としては、上述したものが挙げられる。
【0051】
2は、アリーレン基の他に、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びケイ素原子からなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。A2は、酸素原子及び窒素原子からなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましく、酸素原子を含むことが特に好ましい。A2は、例えば、上記の官能基Fや、エーテル基、カルボニル基、アミド基、チオエーテル基、スルホニル基などの他の官能基Gを含んでいてもよい。A2は、官能基Gとして、エーテル基及びエステル基からなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましく、エーテル基を含むことがより好ましい。
【0052】
2は、例えば、一般式-O-R13-O-、又は、一般式-COO-R14-OOC-で表される連結基であり、特に、一般式-O-R13-O-で表される連結基であることが好ましい。ここで、R13及びR14は、主鎖にアリーレン基を含む2価の炭化水素基である。この炭化水素基の炭素数は、例えば6~15である。炭化水素基としては、1,4-フェニレン基、2,5-ジ-tert-ブチル-1,4-フェニレン基、1-メチル-1,1-エタンジイルビス(1,4-フェニレン)基、ビフェニル-4,4’-ジイル基などが挙げられる。
【0053】
式(2)において、A2で表される連結基のSP値は、例えば5.0(cal/cm31/2より大きい。A2において、この程度に高いSP値は、分離機能層1への水の浸透を容易にする傾向がある。A2のSP値は、好ましくは8.5(cal/cm31/2以上であり、より好ましくは11.0(cal/cm31/2以上である。A2のSP値の上限値は、特に限定されないが、例えば、30.0(cal/cm31/2であってもよく、14.0(cal/cm31/2であってもよい。A2のSP値の好ましい例は、11.02(cal/cm31/2等である。
【0054】
式(2)において、A2によって連結している2つのフタルイミド構造を結ぶ結合鎖のうち、原子の数が最も少ない結合鎖を構成する原子の数は、例えば6以上であり、好ましくは10以上である。この原子の数の上限値は、特に限定されず、例えば15である。
【0055】
2は、以下の表2に示された連結基17~26のうちの1つであってもよい。表2には、連結基17~26について、化学構造、SP値、及び、最短の結合鎖を構成する原子の数も示されている。A2は、好ましくは連結基19である。A2が連結基19であるとき、ポリイミドPは、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの極性有機溶媒に溶解しやすく、分離機能層1の望ましい製造方法を適用しやすい。
【0056】
【表2】
【0057】
[R1~R6
式(2)において、R1~R6は、互いに独立して、水素原子又は任意の置換基である。任意の置換基としては、上記の官能基F、ハロゲン原子、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数1~30の炭化水素基などが挙げられる。R1~R6のうち、少なくとも1つが上記の官能基Fであってもよく、R2及びR5のそれぞれが上記の官能基F(特にカルボキシル基)であってもよい。アルコキシ基及び炭化水素基としては、A2について上述したものが挙げられる。
【0058】
なお、R2及びR3、並びに、R5及びR6は、互いに結合して環構造を形成していてもよい。環構造は、例えば、ベンゼン環である。
【0059】
[B1の好ましい一形態]
好ましい一形態では、B1は、例えば、下記式(4)で表される。
-Ar1-B2-Ar2- (4)
【0060】
式(4)において、B2は、2価の連結基である。この連結基は、例えば、SP値が8.56(cal/cm31/2より大きい。B2において、この程度に高いSP値は、分離機能層1への水の浸透を容易にする傾向がある。B2のSP値は、好ましくは9.0(cal/cm31/2以上であり、より好ましくは11.0(cal/cm31/2以上であり、さらに好ましくは12.0(cal/cm31/2以上であり、特に好ましくは14.0(cal/cm31/2以上である。B2のSP値の上限値は、特に限定されないが、例えば、30.0(cal/cm31/2であってもよい。B2のSP値の好ましい例は、14.51(cal/cm31/2等である。
【0061】
2は、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びケイ素原子からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。B2は、酸素原子及び窒素原子からなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましく、酸素原子を含むことが特に好ましい。B2は、例えば、上記の官能基Fや、エーテル基、カルボニル基、アミド基、チオエーテル基、スルホニル基などの他の官能基Gを含む。B2は、官能基Gとして、エーテル基及びカルボニル基からなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましく、エーテル基を含むことがより好ましい。
【0062】
2は、上記の官能基Fや官能基Gと共にその他の基、例えば炭化水素基を含んでいてもよい。B2において、炭化水素基は、アリーレン基を含んでいてもよい。炭化水素基としては、A2について上述したものが挙げられる。B2は、A2と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0063】
式(4)において、B2によって連結しているAr1とAr2とを結ぶ結合鎖のうち、原子の数が最も少ない結合鎖(最短の結合鎖)を構成する原子の数は、例えば1以上である。最短の結合鎖を構成する原子の数の上限値は、特に限定されないが、12であってもよく、5であってもよい。最短の結合鎖を構成する原子の数は、好ましくは1である。
【0064】
2は、上記の表1に示された連結基1~16のうちの1つであってもよく、表2に示された連結基17~26のうちの1つであってもよい。B2は、好ましくは連結基5~26のうちの1つであり、より好ましくは連結基13、連結基18又は連結基22であり、特に好ましくは連結基13である。
【0065】
式(4)において、Ar1及びAr2は、2価の芳香族基である。2価の芳香族基は、炭素原子から構成された芳香環、又は、ヘテロ原子を含む複素芳香環を有し、好ましくは炭素原子から構成された芳香環を有する。式(2)のフタルイミド構造に含まれる窒素原子は、Ar1に含まれる芳香環(又は複素芳香環)、又は、Ar2に含まれる芳香環(又は複素芳香環)と直接結合していることが好ましい。式(4)において、B2は、Ar1に含まれる芳香環(又は複素芳香環)、及び、Ar2に含まれる芳香環(又は複素芳香環)のそれぞれと直接結合していてもよい。
【0066】
Ar1及びAr2において、芳香環(又は複素芳香環)は、多環式であってもよいが、単環式であることが好ましい。芳香環(又は複素芳香環)の炭素数は、特に限定されないが、例えば4~14であってもよく、6~10であってもよい。芳香環及び複素芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フラン環、ピロール環、ピリジン環及びチオフェン環が挙げられる。
【0067】
Ar1及びAr2において、芳香環(又は複素芳香環)は、置換基を有していてもよく、置換基を有していなくてもよい。置換基としては、例えば、上記の官能基F、ハロゲン原子、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数1~30の炭化水素基などが挙げられる。アルコキシ基及び炭化水素基としては、A2について上述したものが挙げられる。芳香環(又は複素芳香環)が複数の置換基を有するとき、複数の置換基は、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0068】
Ar1及びAr2は、置換基を有していてもよいフェニレン基、又は、置換基を有していてもよいナフタレンジイル基であることが好ましい。Ar1及びAr2は、置換基を有していてもよいフェニレン基である場合には、上記の式(3)で表されることが好ましい。
【0069】
Ar1及びAr2において、置換基を有していてもよいナフタレンジイル基は、例えば、ナフタレン-2,6-ジイル構造、ナフタレン-1,4-ジイル構造、ナフタレン-1,5-ジイル構造又はナフタレン-1,8-ジイル構造を有している。置換基を有していてもよいナフタレンジイル基の具体例は、ナフタレン-2,6-ジイル基である。
【0070】
Ar1とAr2とは、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。一例として、Ar1がナフタレン-2,6-ジイル基であり、かつ、Ar2がp-フェニレン基であってもよい。
【0071】
[B1の別の好ましい一形態]
別の好ましい一形態では、B1は、例えば、下記式(5)で表される。
-Ar3- (5)
【0072】
式(5)において、Ar3は、2価の芳香族基である。2価の芳香族基は、炭素原子から構成された芳香環、又は、ヘテロ原子を含む複素芳香環を有し、好ましくは炭素原子から構成された芳香環を有する。式(2)のフタルイミド構造に含まれる窒素原子は、Ar3に含まれる芳香環(又は複素芳香環)と直接結合していることが好ましい。
【0073】
Ar3において、芳香環(又は複素芳香環)は、多環式であってもよいが、単環式であることが好ましい。芳香環(又は複素芳香環)の炭素数は、特に限定されないが、例えば4~14であってもよく、6~10であってもよい。芳香環及び複素芳香環としては、Ar1及びAr2について上述したものが挙げられる。
【0074】
Ar3において、芳香環(又は複素芳香環)は、置換基を有していてもよく、置換基を有していなくてもよい。置換基としては、例えば、上記の官能基F、ハロゲン原子、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数1~30の炭化水素基などが挙げられる。アルコキシ基及び炭化水素基としては、A2について上述したものが挙げられる。芳香環(又は複素芳香環)が複数の置換基を有するとき、複数の置換基は、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0075】
Ar3としては、置換基を有していてもよいフェニレン基、置換基を有していてもよいナフタレンジイル基、置換基を有していてもよいビフェニレン基などが挙げられる。Ar3は、置換基を有していてもよいフェニレン基である場合には、下記の式(6)で表されることが好ましい。
【化6】
【0076】
式(6)において、R23~R26は、互いに独立して、水素原子又は任意の置換基である。任意の置換基としては、上記の官能基F、ハロゲン原子、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数1~30の炭化水素基などが挙げられる。特に、R23~R26のうち、少なくとも1つが上記の官能基Fであることが好ましく、R25が上記の官能基F(特にカルボキシル基)であることが好ましい。アルコキシ基及び炭化水素基としては、A2について上述したものが挙げられる。式(6)で表される連結基の具体例は、5-カルボキシ-1,3-フェニレン基である。この連結基は、ジアミノ安息香酸(3,5-ジアミノ安息香酸)に由来する。ジアミノ安息香酸に由来する構成単位を含むポリイミドPは、分離膜10を透過する水の流束を増加させることに適している。
【0077】
構成単位X2は、下記式(7)で表される構成単位X3、及び下記式(8)で表される構成単位X4からなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましく、構成単位X4を含むことが特に好ましい。
【化7】
【0078】
式(7)において、A2、B2及びR1~R6は、式(2)及び式(4)について上述したものと同じである。R15~R22は、互いに独立して、水素原子又は任意の置換基である。任意の置換基としては、上記の官能基F、ハロゲン原子、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数1~30の炭化水素基などが挙げられる。R15~R22は、好ましくは水素原子である。
【0079】
式(8)において、A2、R1~R6及びR23~R26は、式(2)及び式(6)について上述したものと同じである。
【0080】
ポリイミドPは、例えば、構成単位X1(特に構成単位X2~X4)を主成分として含む。本明細書において、「主成分」は、ポリイミドPにモル基準で最も多く含まれる構成単位を意味する。ポリイミドPにおける構成単位X1(特に構成単位X2~X4)の含有率は、例えば50mol%以上であり、60mol%以上、70mol%以上、80mol%以上、90mol%以上、さらには100mol%であってもよい。ただし、ポリイミドPにおける構成単位X1の含有率は、場合によっては50mol%未満であってもよい。ポリイミドPは、構成単位X1(特に構成単位X2~X4)を1種単独で含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。一例として、ポリイミドPは、A2が主鎖にアリーレン基を含まない構成単位X2と、A2が主鎖にアリーレン基を含む構成単位X2との両方を含んでいてもよい。なお、ポリイミドPは、官能基Fを含む構成単位とともに、官能基Fを含まない構成単位を含んでいてもよい。官能基Fを含まない構成単位は、官能基Fを含まないことを除き、上記の構成単位X1(特に構成単位X2~X4)と同じ構造であってもよい。
【0081】
一例として、ポリイミドPは、下記式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物C1、及び下記式(10)で表されるジアミンD1の反応によって得られる。式(9)において、A1は、式(1)と同じである。式(10)において、B1は、式(1)と同じである。
【化8】
【0082】
テトラカルボン酸二無水物C1は、下記式(11)で表されるテトラカルボン酸二無水物C2であることが好ましい。式(11)において、A2及びR1~R6は、式(2)と同じである。
【化9】
【0083】
なお、テトラカルボン酸二無水物C1は、上記のテトラカルボン酸二無水物C2以外の他のテトラカルボン酸二無水物(例えば、ピロメリット酸二無水和物)であってもよい。
【0084】
ジアミンD1は、下記式(12)で表されるジアミンD2や、下記式(13)で表されるジアミンD3であることが好ましい。式(12)において、B2、Ar1及びAr2は、式(4)と同じである。式(13)において、Ar3は、式(5)と同じである。
2N-Ar1-B2-Ar2-NH2 (12)
2N-Ar3-NH2 (13)
【0085】
なお、ジアミンD1は、上記のジアミンD2及びD3以外の他のジアミンであってもよい。
【0086】
ポリイミドPの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されず、例えば5×104以上であり、好ましくは7×104以上であり、より好ましくは10×104以上であり、さらに好ましくは15×104以上である。ポリイミドPの重量平均分子量が大きければ大きいほど、分離膜10は、高い耐久性を有する傾向がある。ポリイミドPの重量平均分子量の上限値は、特に限定されず、例えば1×106である。ポリイミドPの重量平均分子量は、例えば、示差屈折率検出器(RID)を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)によって、ポリイミドPの分子量分布を測定し、得られたクロマトグラム(チャート)から、標準ポリスチレンによる検量線を用いて算出することができる。
【0087】
好ましい一形態において、架橋ポリイミドは、例えば、ポリイミドP中の官能基Fに含まれる解離性のプロトンと、金属イオン(詳細には金属カチオン)とが交換することによって形成されたものである。この架橋ポリイミドは、分離膜10を透過する水の流束を増加させることに適している。なお、解離性のプロトンと金属イオンとが交換すると、官能基Fを介して、ポリイミドPが金属イオンに配位し、イオン結合が形成される。複数のポリイミドPの分子が、官能基Fを介して金属イオンに配位することによって、架橋構造が形成される。
【0088】
金属イオンを構成する金属としては、特に限定されず、例えば、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Ba、Sc、Y、Ti、Zr、V、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Zn、B、Al、Ga、In、Pbなどが挙げられ、好ましくは、Mg、Fe、Al及びGaであり、特に好ましくはAlである。金属イオンを構成する金属は、Na、Caなどであってもよい。
【0089】
金属イオンの価数は、例えば1以上であり、好ましくは2以上であり、より好ましくは3以上である。一例として、金属イオンの価数は、2又は3である。
【0090】
別の好ましい一形態において、架橋ポリイミドは、例えば、ポリイミドP中の官能基Fと架橋剤とが反応することによって形成されたものである。この架橋ポリイミドによれば、分離膜10を長期間使用した場合における分離性能の低下をより抑制できる傾向がある。さらに、架橋剤の種類によって、架橋ポリイミドの構造や性能を調整しやすい傾向もある。
【0091】
一例として、官能基Fが、架橋剤に含まれる官能基Hと反応して、官能基Fと架橋剤との間に共有結合が形成される。複数のポリイミドPの分子において、官能基Fが、架橋剤の官能基Hと反応することによって、架橋構造が形成される。この場合、架橋ポリイミドは、通常、複数のポリイミドPの分子同士が、架橋剤を介して間接的に結合した架橋構造を有する。ただし、架橋剤は、複数のポリイミドPの分子における官能基F同士の縮合反応を進行させることにより、架橋構造を形成する縮合剤であってもよい。本明細書では、このような縮合剤も、官能基Fと反応する架橋剤に分類する。縮合剤を用いた場合、架橋ポリイミドは、通常、複数のポリイミドPの分子同士が直接結合した架橋構造を有する。
【0092】
官能基Hを含む架橋剤としては、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、アミン系架橋剤などが挙げられる。架橋剤は、エポキシ系架橋剤及びイソシアネート系架橋剤からなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましく、エポキシ系架橋剤を含むことがより好ましい。
【0093】
エポキシ系架橋剤は、官能基Hとしてエポキシ基を含む化合物(エポキシ化合物)である。エポキシ化合物に含まれるエポキシ基の数は、典型的には2以上であり、3~5であってもよい。エポキシ化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0094】
エポキシ化合物の具体例としては、例えば、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0095】
エポキシ系架橋剤の市販品としては、三菱ガス化学社製の商品名「TETRAD-C」、商品名「TETRAD-X」、DIC社製の商品名「エピクロンCR-5L」、ナガセケムテックス社製の商品名「デナコールEX-512」、日産化学工業社製の商品名「TEPIC-G」等が挙げられる。
【0096】
イソシアネート系架橋剤は、官能基Hとしてイソシアネート基を含む化合物(イソシアネート化合物)である。イソシアネート化合物に含まれるイソシアネート基の数は、典型的には2以上であり、3~5であってもよい。イソシアネート化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
イソシアネート化合物としては、脂肪族イソシアネート化合物、脂環族イソシアネート化合物、芳香族イソシアネート化合物などが挙げられる。
【0098】
脂肪族イソシアネート化合物としては、1,2-エチレンジイソシアネート;1,2-テトラメチレンジイソシアネート、1,3-テトラメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート等のテトラメチレンジイソシアネート;1,2-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,3-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,5-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,5-ヘキサメチレンジイソシアネート等のヘキサメチレンジイソシアネート;2-メチル-1,5-ペンタンジイソシアネート、3-メチル-1,5-ペンタンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。
【0099】
脂環族イソシアネート化合物としては、イソホロンジイソシアネート;1,2-シクロヘキシルジイソシアネート、1,3-シクロヘキシルジイソシアネート、1,4-シクロヘキシルジイソシアネート等のシクロヘキシルジイソシアネート;1,2-シクロペンチルジイソシアネート、1,3-シクロペンチルジイソシアネート等のシクロペンチルジイソシアネート;水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加テトラメチルキシレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0100】
芳香族イソシアネート化合物としては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、2-ニトロジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、2,2’-ジフェニルプロパン-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、ナフチレン-1,4-ジイソシアネート、ナフチレン-1,5-ジイソシアネート、3,3’-ジメトキシジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、キシリレン-1,4-ジイソシアネート、キシリレン-1,3-ジイソシアネート等が挙げられる。
【0101】
イソシアネート系架橋剤としては、上記イソシアネート化合物の多量体(2量体、3量体、5量体など)、トリメチロールプロパンなどの多価アルコールに付加して得られた付加物、ウレア変性体、ビウレット変性体、アロファネート変性体、イソシアヌレート変性体、カルボジイミド変性体、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオールなどに付加して得られたウレタンプレポリマーなども挙げられる。
【0102】
イソシアネート系架橋剤の市販品としては、例えば、旭化成ケミカルズ社製の商品名「デュラネートTPA-100」、東ソー社製の商品名「コロネートL」、「コロネートHL」、「コロネートHK」、「コロネートHX」、「コロネート2096」等が挙げられる。
【0103】
アミン系架橋剤は、官能基Hとしてアミノ基を含む化合物(アミン化合物)である。アミン化合物に含まれるアミノ基の数は、典型的には2以上であり、3以上であってもよい。アミン化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0104】
アミン化合物の具体例としては、アジリジン、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
【0105】
縮合剤として機能する架橋剤としては、例えば、イートン試薬(P25とメタンスルホン酸の混合物)、ポリリン酸などの酸性化合物が挙げられる。
【0106】
分離機能層1における架橋ポリイミドの含有率は、例えば50wt%以上であり、60wt%以上、70wt%以上、80wt%以上、90wt%以上、さらには95wt%以上であってもよい。分離機能層1は、実質的に架橋ポリイミドのみから構成されていてもよい。ただし、分離機能層1は、架橋ポリイミドの他に未架橋のポリイミドPを含んでいてもよい。
【0107】
分離機能層1は、架橋ポリイミドの他に、フィラーを含んでいてもよい。フィラーは、例えば、親水性を有し、かつ多孔質である。このようなフィラーは、分離膜10の分離性能を大きく低下させずに分離膜10を透過する水の流束を増加させることに適している。フィラーは、例えば、ゼオライト及び金属有機構造体(Metal-Organic-Framework:MOF)からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。フィラーは、水に対する耐久性の観点から、金属有機構造体を含んでいることが好ましいが、含んでいなくてもよい。ゼオライトとしては、例えば、モレキュラーシーブ3A,4A,5A及び13Xが挙げられる。
【0108】
金属有機構造体は、多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymer:PCP)とも呼ばれている。金属有機構造体は、例えば、金属イオン及び有機配位子を含んでいる。金属イオンとしては、Coイオン、Niイオン、Znイオン、Mgイオン、Zrイオン、Cuイオンなどが挙げられる。有機配位子は、極性基を有していなくてもよいが、極性基を有していることが好ましい。極性基としては、例えば、アルデヒド基、アミノ基、アミド基、ヒドロキシル基、カルボキシル基及びニトロ基が挙げられる。有機配位子は、例えば、芳香環を含んでいる。有機配位子に含まれる芳香環としては、例えば、ベンゼン環及びイミダゾール環が挙げられる。有機配位子としては、例えば、2-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-ホルミルイミダゾール、テレフタル酸、2-ヒドロキシテレフタル酸、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸及び2-アミノテレフタル酸が挙げられる。
【0109】
金属有機構造体としては、例えば、ZIF-90、ZIF-91、UiO-66、UiO-66-NH2、UiO-66-OH、UiO-66-NO2、UiO-66-COOH、HKUST-1、及び、MOF-74(M=Co、Ni、Zn、Mgなど)が挙げられる。金属有機構造体は、分離膜10を透過する水の流束を増加させる観点から、ZIF-90、UiO-66-NH2、UiO-66-OH、UiO-66-NO2、UiO-66-COOH及びMOF-74(Ni)からなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましく、UiO-66-COOHを含むことがより好ましい。
【0110】
フィラーとしては、水を吸着可能なものが適している。特に、フィラーとしては、エタノールよりも水を吸着しやすいものが適している。25℃、7.4kPaのエタノール雰囲気下でのフィラーへのエタノールの吸着量Q1に対する、25℃、3.2kPaの水蒸気下でのフィラーへの水の吸着量Q2の比R3は、例えば2.0以上であり、好ましくは3.0以上である。比R3の上限値は、特に限定されず、例えば5.0である。比R3は、フィラーの親水性の指標として用いられることがある。なお、本明細書において、「吸着量」は、1gのフィラーが吸着した気体の体積を標準状態(298K、1atm)に換算した値を意味する。
【0111】
フィラーへのエタノールの吸着量Q1は、次の方法によって特定することができる。まず、フィラーを減圧雰囲気下で加熱することによって前処理を行う。前処理は、真空雰囲気下で行ってもよい。前処理の温度は、例えば100℃以上である。前処理の時間は、特に限定されず、例えば1時間以上である。次に、マイクロトラックベル社製のBELSORP-maxIIなどの公知の蒸気吸着量測定装置にフィラーをセットする。次に、25℃の測定温度で、気体のエタノールを測定装置内に導入する。導入された気体のエタノールは、フィラーに吸着される。気体のエタノールの導入は、測定装置内におけるエタノールの圧力が7.4kPaに達するまで行う。7.4kPaは、25℃におけるエタノールの平衡蒸気圧(飽和蒸気圧)に相当する。フィラーによるエタノールの吸着が平衡状態に達したことを確認した後に、フィラーによるエタノールの吸着量を特定する。フィラーによるエタノールの吸着が平衡状態に達したことは、測定装置内におけるエタノールの圧力の変化によって判断することができる。例えば、測定装置内におけるエタノールの圧力の変化が500秒間で40Pa以下である場合に、フィラーによるエタノールの吸着が平衡状態に達したと判断することができる。上記の方法によって特定されたエタノールの吸着量を吸着量Q1とみなすことができる。
【0112】
フィラーへの水の吸着量Q2は、次の方法によって特定することができる。まず、フィラーに対して、上述した前処理を行う。このフィラーを蒸気吸着量測定装置にセットする。次に、25℃の測定温度で、水蒸気を測定装置内に導入する。水蒸気の導入は、測定装置内における水蒸気の圧力が3.2kPaに達するまで行う。3.2kPaは、25℃における水の平衡蒸気圧に相当する。フィラーによる水の吸着が平衡状態に達したことを確認した後に、フィラーによる水の吸着量を特定する。特定された水の吸着量を吸着量Q2とみなすことができる。
【0113】
フィラーへのエタノールの吸着量Q1は、例えば200cm3/g以下である。吸着量Q1の下限値は、特に限定されず、90cm3/gであってもよく、100cm3/gであってもよい。フィラーへの水の吸着量Q2は、例えば300cm3/g以上であり、場合によっては350cm3/g以上であってもよく、450cm3/g以上であってもよく、500cm3/g以上であってもよく、550cm3/g以上であってもよい。吸着量Q2の上限値は、特に限定されず、例えば800cm3/gである。
【0114】
フィラーは、窒素ガス吸着によるBET(Brunauer-Emmett-Teller)比表面積S1に対する水蒸気吸着によるBET比表面積S2の比R4が0.005以上のものであってもよい。比R4は、フィラーの親水性の指標として用いられることがある。フィラーにおいて、比R4は、例えば0.01以上であり、好ましくは0.1以上であり、より好ましくは0.2以上であり、さらに好ましくは0.3以上である。比R4は、25以下であってもよく、10以下であってもよく、1.0以下であってもよく、0.6以下であってもよい。
【0115】
フィラーにおいて、窒素ガス吸着によるBET比表面積S1は、例えば1500m2/g以下であり、好ましくは1000m2/g以下であり、場合によっては900m2/g以下であってもよい。比表面積S1は、30m2/g以上であってもよく、400m2/g以上であってもよい。フィラーにおいて、水蒸気吸着によるBET比表面積S2は、例えば10m2/g以上であり、好ましくは100m2/g以上であり、より好ましくは150m2/g以上であり、場合によっては200m2/g以上であってもよい。比表面積S2は、1000m2/g以下であってもよく、600m2/g以下であってもよく、400m2/g以下であってもよい。
【0116】
フィラーの形状は、特に限定されず、例えば粒子状である。本明細書において、「粒子状」は、球状、楕円体状、鱗片状、繊維状などを含む。フィラーの平均粒径は、特に限定されず、例えば5nm~10000nmである。フィラーの平均粒径は、例えば、次の方法によって特定することができる。まず、分離機能層1の断面を透過電子顕微鏡で観察する。得られた電子顕微鏡像において、特定のフィラーの面積を画像処理によって算出する。算出された面積と同じ面積を有する円の直径をその特定のフィラーの粒径(粒子の直径)とみなす。任意の個数(少なくとも50個)のフィラーの粒径をそれぞれ算出し、算出値の平均値をフィラーの平均粒径とみなす。
【0117】
分離機能層1におけるフィラーの含有率は、例えば1wt%以上、5wt%以上、10wt%以上、15wt%以上、20wt%以上であってもよい。分離機能層1におけるフィラーの含有率は、30wt%以下であってもよい。
【0118】
分離機能層1の厚さは、特に限定されず、例えば200μm以下であり、100μm以下、50μm以下、10μm以下、4μm以下、2μm以下、さらには1.5μm以下であってもよい。分離機能層1の厚さは、0.05μm以上であってもよく、0.1μm以上であってもよい。
【0119】
分離機能層1のゲル分率は、特に限定されず、例えば60%以上であり、70%以上、80%以上、85%以上、さらには90%以上であってもよい。分離機能層1のゲル分率が高ければ高いほど、分離膜10を長期間使用した場合における分離性能の低下を抑制できる傾向がある。分離機能層1のゲル分率の上限は、例えば99%以下である。
【0120】
分離機能層1のゲル分率は、例えば、次の方法によって評価することができる。まず、分離膜10から中間層2及び多孔性支持体3を取り除き、分離機能層1の自立膜(単層膜)を作製する(図2)。ただし、分離機能層1の自立膜を作製する方法は、上記の方法に限定されない。例えば、分離膜10が備える分離機能層1と組成及び厚さが同じ層を基材(例えば、PET製のはく離ライナー)の上に作製し、当該基材を取り除くことによって、分離機能層1の自立膜を作製してもよい。分離機能層1の自立膜は、必要に応じて乾燥処理を行い、乾燥状態とする。なお、「乾燥状態」は、分離機能層1における水などの液体の含有率が0.5wt%以下であることを意味する。
【0121】
次に、分離機能層1の自立膜を縦2cm×横2cmに切り出して試験片とし、当該試験片の重量A(g)を測定する。この試験片を、サンプル瓶中のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に浸漬させて、室温(25℃)下で1日間放置する。次に、試験片をサンプル瓶から取り出し、130℃で1時間乾燥させ、乾燥後の試験片の重量B(g)を測定する。重量A及びBに基づいて、下記式により分離機能層1のゲル分率(%)を算出することができる。
ゲル分率(%)=100×B/A
【0122】
本実施形態において、下記試験(浸漬試験)を実施する前の分離機能層1の表面の面積A1(cm2)に対する、当該試験を実施した後の分離機能層1の表面の面積A2(cm2)から面積A1を差し引いた値の比率R1は、例えば10%以下である。
浸漬試験:エタノール及び水からなる試験液体に分離機能層1を1日間浸漬させる。ここで、試験液体におけるエタノールの含有率が50wt%であり、試験液体の温度が60℃である。
【0123】
比率R1は、好ましくは8.0%以下であり、5.0%以下、4.0%以下、3.0%以下、2.0%以下、さらには1.5%以下であってもよい。比率R1が低ければ低いほど、分離膜10を長期間使用した場合における分離性能の低下を抑制できる傾向がある。比率R1の下限は、例えば0%以上である。
【0124】
比率R1は、詳細には、次の方法によって特定できる。まず、ゲル分率の評価について上述した方法によって、分離機能層1の自立膜(単層膜)を作製する(図2)。分離機能層1の自立膜は、必要に応じて乾燥処理を行い、乾燥状態とする。
【0125】
次に、分離機能層1の自立膜を縦2cm×横2cmに切り出して試験片とし、一方の表面1aの面積A1(cm2)を特定する。この試験片を、サンプル瓶中の上記の試験液体に浸漬させて、60℃で1日間放置する。次に、試験片をサンプル瓶から取り出し、表面に付着した試験液体を素早く拭き取る。試験液体の拭き取りには、例えばキムタオルを用いることができる。得られた試験片について、表面1aの面積A2(cm2)を特定する。面積A1及びA2に基づいて、下記式により比率R1(%)を算出することができる。
比率R1(%)=100×(A2-A1)/A1
【0126】
本実施形態において、上記の浸漬試験を実施する前の分離機能層1の重量W1(g)に対する、当該試験を実施した後の分離機能層1の重量W2(g)から重量W1を差し引いた値の比率R2は、例えば10%以下である。
【0127】
比率R2は、好ましくは9.0%以下であり、8.0%以下、7.0%以下、6.0%以下、5.0%以下、さらには4.0%以下であってもよい。比率R2が低ければ低いほど、分離膜10を長期間使用した場合における分離性能の低下を抑制できる傾向がある。比率R2の下限は、例えば1.0%以上である。
【0128】
比率R2は、詳細には、次の方法によって特定できる。まず、ゲル分率の評価について上述した方法によって、分離機能層1の自立膜(単層膜)を作製する(図2)。分離機能層1の自立膜は、必要に応じて乾燥処理を行い、乾燥状態とする。
【0129】
次に、分離機能層1の自立膜を縦2cm×横2cmに切り出して試験片とし、その重量W1(g)を特定する。この試験片を、サンプル瓶中の上記の試験液体に浸漬させて、60℃で1日間放置する。次に、試験片をサンプル瓶から取り出し、表面に付着した試験液体を素早く拭き取る。試験液体の拭き取りには、例えばキムタオルを用いることができる。得られた試験片について、重量W2(g)を特定する。重量W1及びW2に基づいて、下記式により比率R2(%)を算出することができる。
比率R2(%)=100×(W2-W1)/W1
【0130】
(中間層)
中間層2は、例えば、樹脂を含み、樹脂(マトリクス)に分散したナノ粒子をさらに含んでいてもよい。ナノ粒子は、マトリクス内で互いに離間していてもよく、部分的に凝集していてもよい。ただし、中間層2は、ナノ粒子を含んでいなくてもよく、実質的に樹脂から構成されていてもよい。
【0131】
マトリクスの材料は、特に限定されず、例えば、ポリジメチルシロキサンなどのシリコーン樹脂;ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂;ポリエチレンオキシドなどのエポキシ樹脂;ポリイミド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリトリメチルシリルプロピン、ポリジフェニルアセチレンなどのポリアセチレン樹脂;ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂;ポリウレタン樹脂などが挙げられる。マトリクスは、ポリウレタン樹脂を含むことが好ましい。
【0132】
ナノ粒子は、無機材料を含んでいてもよく、有機材料を含んでいてもよい。ナノ粒子に含まれる無機材料としては、例えば、シリカ、チタニア及びアルミナが挙げられる。ナノ粒子は、シリカを含むことが好ましい。
【0133】
中間層2の厚さは、特に限定されず、例えば50μm未満であり、好ましくは40μm以下であり、より好ましくは30μm以下である。中間層2の厚さの下限値は、特に限定されず、例えば1μmである。
【0134】
(多孔性支持体)
多孔性支持体3は、中間層2を介して分離機能層1を支持する部材である。多孔性支持体3としては、例えば、不織布;多孔質ポリテトラフルオロエチレン;芳香族ポリアミド繊維;多孔質金属;焼結金属;多孔質セラミック;多孔質ポリエステル;多孔質ナイロン;活性化炭素繊維;ラテックス;シリコーン;シリコーンゴム;ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド及びポリフェニレンオキシドからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む透過性(多孔質)ポリマー;連続気泡又は独立気泡を有する金属発泡体;連続気泡又は独立気泡を有するポリマー発泡体;シリカ;多孔質ガラス;メッシュスクリーンなどが挙げられる。多孔性支持体3は、これらのうちの2種以上を組み合わせたものであってもよい。一例として、多孔性支持体3は、不織布と多孔質層(例えば、ポリフッ化ビニリデン多孔質層)との積層体であってもよい。
【0135】
多孔性支持体3は、例えば0.01~0.4μmの平均孔径を有する。多孔性支持体3の厚さは、特に限定されず、例えば10μm以上であり、好ましくは20μm以上であり、より好ましくは50μm以上である。多孔性支持体3の厚さは、例えば300μm以下であり、好ましくは200μm以下であり、より好ましくは75μm以下である。
【0136】
(分離膜の形状)
本実施形態において、分離膜10は、典型的には平膜である。ただし、分離膜10は、平膜以外の形状であってもよく、例えば、中空糸膜であってもよい。一例として、中空糸膜としての分離膜10は、分離機能層1及び多孔性支持体3を備えている一方、中間層2を備えていなくてもよい。
【0137】
(分離膜の製造方法)
分離膜10の製造方法は、例えば、上記のポリイミドPを含む塗布液を基材の上に塗布して、塗布膜を形成することと、塗布膜を乾燥させ、ポリイミドPから架橋ポリイミドを形成することによって、分離機能層1を得ることと、を含む。
【0138】
ポリイミドPは、例えば、次の方法によって作製することができる。まず、上記のジアミンD1を含むジアミン群を溶媒に溶解させ、溶液を得る。溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドンなどの極性有機溶媒が挙げられる。
【0139】
次に、得られた溶液に、上記のテトラカルボン酸二無水物C1を含むテトラカルボン酸二無水物群を徐々に添加する。これにより、テトラカルボン酸二無水物C1とジアミンD1を含むモノマー群が反応し、ポリアミド酸が形成される。テトラカルボン酸二無水物群の添加は、例えば、攪拌条件下で行われる。
【0140】
次に、ポリアミド酸をイミド化することによって、ポリイミドPを得ることができる。イミド化の方法としては、例えば、化学イミド化法及び熱イミド化法が挙げられる。化学イミド化法は、脱水縮合剤を用いて、例えば室温条件下でポリアミド酸をイミド化する方法である。脱水縮合剤としては、例えば、無水酢酸、ピリジン及びトリエチルアミンが挙げられる。熱イミド化法は、加熱処理によって、ポリアミド酸をイミド化する方法である。加熱処理の温度は、例えば、180℃以上である。
【0141】
塗布液におけるポリイミドPの含有率は、ポリイミドPの溶解性に応じて適宜調整でき、例えば1wt%~30wt%である。
【0142】
塗布液は、例えば、溶剤をさらに含む。溶剤は、典型的には、ポリイミドPを溶解させることができる良溶媒であり、例えばN-メチル-2-ピロリドン(NMP)である。塗布液における溶剤の含有率は、例えば30wt%~95wt%である。
【0143】
好ましい一形態において、塗布液は、金属を有する化合物Mをさらに含む。この形態では、化合物Mは、金属イオンの供給源として機能することができる。化合物Mが有する金属としては、架橋ポリイミドについて上述したものが挙げられる。化合物Mにおいて、金属は、例えば、カチオンとして存在する。化合物Mとしては、例えば、金属と、当該金属に配位している配位子とを有する金属錯体や、金属を含む無機塩などが挙げられる。化合物Mは、金属錯体を含むことが好ましい。
【0144】
金属錯体において、配位子は、揮発性を有していることが好ましい。一例として、配位子の沸点は、大気圧下(101.325kPa)で20℃~260℃であってもよい。揮発性を有する配位子は、後述する塗布膜の乾燥時に揮発しやすく、分離機能層1に残りにくい。なお、配位子は、揮発性を有していなくてもよい。この場合、分離機能層1の形成後に洗浄操作を行うことによって、分離機能層1から配位子を容易に除去することができる。
【0145】
金属錯体において、配位子は、典型的には、金属に配位するための官能基を有する有機配位子である。有機配位子の炭素数は、特に限定されず、例えば1~10である。有機配位子に含まれる官能基としては、例えば、ケトン基などのカルボニル基が挙げられる。有機配位子に含まれる官能基の数は、例えば1以上であり、2以上であってもよい。有機配位子の具体例としては、アセチルアセトナート(acac)などが挙げられる。金属錯体の具体例としては、Al(acac)3、Fe(acac)2、Ga(acac)3、Mg(acac)2などが挙げられる。
【0146】
無機塩としては、塩化物、硝酸塩、硫酸塩などが挙げられ、詳細には、LiCl、NaCl、KCl、AgNO3、MgCl2、CaCl2、BaCl2、NiCl2、ZnCl2、CuCl2、Pb(NO32、Al(NO33、Fe2(SO43、Ga(NO33、Fe(NO32、Mg(NO32などが挙げられる。
【0147】
塗布液において、ポリイミドPの重量に対する化合物Mの重量の比率は、ポリイミドPの組成などに応じて適宜調整でき、例えば1~20wt%であり、1~10wt%であってもよい。塗布液において、ポリイミドPに含まれる官能基Fの物質量に対する、化合物Mの物質量の比は、特に限定されず、例えば2.0以上である。
【0148】
塗布液が化合物Mとして金属錯体を含む場合、塗布液は、配位子をさらに含んでいてもよい。塗布液において、ポリイミドPの重量に対する配位子の重量の比率は、ポリイミドPや金属錯体の含有率などに応じて適宜調整でき、例えば1~20wt%であり、1~10wt%であってもよい。
【0149】
別の好ましい一形態において、塗布液は、架橋剤をさらに含む。架橋剤としては、上述したものが挙げられる。塗布液において、ポリイミドPの重量に対する架橋剤の重量の比率は、ポリイミドPの組成などに応じて適宜調整でき、例えば1~20wt%であり、1~10wt%であってもよい。塗布液において、ポリイミドPに含まれる官能基Fの物質量に対する、架橋剤の物質量の比は、特に限定されず、例えば2.0以上である。
【0150】
ポリイミドPを含む塗布液が塗布される基材は、例えば、多孔性支持体3及び中間層2の積層体である。この積層体は、例えば、次の方法によって作製できる。まず、中間層2の材料を含む塗布液を調製する。次に、多孔性支持体3の上に、中間層2の材料を含む塗布液を塗布し、乾燥することによって中間層2を形成する。塗布液の塗布方法は、特に限定されず、例えば、スピンコート法、ディップコート法などを利用できる。ワイヤーバーなどを利用して塗布液を塗布してもよい。塗布液の乾燥は、例えば、加熱条件下で行うことができる。塗布液の加熱温度は、例えば50℃以上である。塗布液の加熱時間は、例えば1分以上であり、5分以上であってもよい。さらに、中間層2の表面には、必要に応じて易接着処理を施してもよい。易接着処理としては、下塗り剤の塗布、コロナ放電処理、プラズマ処理などの表面処理が挙げられる。
【0151】
ポリイミドPを含む塗布液を基材に塗布する方法は、特に限定されず、中間層2について上述した方法を利用できる。塗布液を基材に塗布して得られた塗布膜の厚さは、目的とする分離機能層1の厚さに応じて適宜調整することができ、例えば1μm~100μmである。
【0152】
本実施形態では、上述のとおり、塗布膜を乾燥させ、ポリイミドPから架橋ポリイミドを形成することによって、分離機能層1を得る。基材として、多孔性支持体3及び中間層2の積層体を用いた場合、分離機能層1が形成されることによって、分離膜10が得られる。
【0153】
塗布膜の乾燥条件は、特に限定されず、例えば、乾燥温度が50℃~200℃であり、乾燥時間が1分間~10時間である。塗布膜の乾燥は、例えばヒーターを用いて行うことができる。一例として、ヒーターを備えた加熱部内を通過させることによって塗布膜を乾燥させてもよい。塗布膜の乾燥は、複数の加熱部内を通過させることによって行ってもよい。複数の加熱部の設定温度は、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0154】
塗布液が、金属を有する化合物Mを含む場合、例えば、塗布膜を乾燥させたときに、ポリイミドPの官能基Fに含まれる解離性のプロトンと、化合物Mの金属(金属イオン)とが交換する。特に、化合物Mが金属錯体であり、金属錯体に含まれる配位子が揮発性である場合は、乾燥時に配位子が揮発することによって、官能基Fの解離性のプロトンと、化合物Mの金属との交換が促進される傾向がある。官能基Fの解離性のプロトンと、化合物Mの金属との交換により、架橋構造が形成され、架橋ポリイミドが得られる。
【0155】
塗布液が架橋剤を含む場合、例えば、塗布膜を乾燥させたときに、ポリイミドPの官能基Fと架橋剤とが反応する。これにより、架橋構造が形成され、架橋ポリイミドが得られる。
【0156】
なお、架橋ポリイミドの形成は、塗布膜を乾燥させて、乾燥膜を形成してから行ってもよい。例えば、上記のポリイミドP及び溶剤を含む塗布液を基材の上に塗布し、乾燥させて乾燥膜を形成する。この乾燥膜を、化合物M又は架橋剤を含む溶液に浸漬させ、必要に応じて加熱処理をさらに行うことによって、架橋ポリイミドを形成してもよい。この場合、化合物Mを含む溶液の例は、上記の無機塩を含む水溶液である。水溶液における無機塩の濃度は、特に限定されず、例えば0.01~1mol/Lである。溶液に乾燥膜を浸漬させる操作の条件は、特に限定されず、例えば室温条件下で、1~48時間行ってもよい。上記の溶液に浸漬させた後の膜に対しては、水による洗浄処理や乾燥処理をさらに行ってもよい。乾燥処理は、150℃以下の温度で1~24時間行ってもよい。
【0157】
本実施形態の製造方法は、得られた分離機能層1に対して、さらに加熱処理(アニール処理)を行うことをさらに含んでいてもよい。この工程によれば、分離機能層1の分離性能が向上するとともに、分離機能層1の分離性能が経時的に低下することも抑制できる傾向がある。この工程によれば、溶剤が十分に揮発することによって、残存溶剤をほとんど含まない分離機能層1を得ることもできる。
【0158】
加熱処理の温度は、例えば200℃より高く、230℃以上、さらには250℃以上であってもよい。加熱処理の温度の上限は、特に限定されず、例えば350℃以下であり、300℃以下であってもよい。加熱処理の時間は、例えば1分以上であり、10分以上であってもよく、30分以上であってもよい。加熱処理の時間の上限は、特に限定されず、例えば24時間以下である。
【0159】
なお、本実施形態の製造方法は、上述のものに限定されない。ポリイミドPを含む塗布液に代えて、ポリイミドPの前駆体であるポリアミド酸を含む塗布液を用いてもよい。この塗布液を基材の上に塗布し、ポリアミド酸をイミド化してポリイミドPを形成し、さらにポリイミドPから架橋ポリイミドを形成することによって分離機能層1を作製してもよい。
【0160】
さらに、次の方法によって分離膜10を作製してもよい。まず、上述の方法によって、はく離ライナーなどの基材の上に形成された分離機能層1を準備する。次に、中間層2の材料を含む塗布液を分離機能層1の上に塗工して乾燥させることによって、中間層2を形成する。中間層2及び分離機能層1の積層体を多孔性支持体3に転写する。これにより、分離膜10が得られる。
【0161】
(分離膜の特性)
上述のとおり、分離膜10は、揮発性の有機化合物Cと水とを含む混合液体Lから水を優先的に透過させることができる。一例として、初期状態での分離膜10のエタノールに対する水の分離係数α1は、例えば10以上であり、15以上、さらには20以上であってもよい。分離係数α1の上限値は、特に限定されず、例えば100である。
【0162】
分離係数α1は、次の方法によって測定できる。まず、分離膜10の一方の面(例えば分離膜10の分離機能層側の主面11)にエタノール及び水からなる混合液体を接触させた状態で分離膜10の他方の面(例えば分離膜10の多孔性支持体側の主面12)に隣接する空間を減圧する。これにより、分離膜10を透過した透過流体が得られる。透過流体における水の体積比率及びエタノールの体積比率を測定する。上記の操作において、混合液体におけるエタノールの含有率は50wt%である。分離膜10に接触させる混合液体は、温度が60℃である。分離膜10の他方の面に隣接する空間は、空間内の圧力が測定環境における大気圧に対して100kPa小さくなるように減圧されている。分離係数α1は、以下の式から算出することができる。ただし、下記式において、XA及びXBは、それぞれ、混合液体における水の体積比率及びエタノールの体積比率である。YA及びYBは、それぞれ、分離膜10を透過した透過流体における水の体積比率及びエタノールの体積比率である。
分離係数α1=(YA/YB)/(XA/XB
【0163】
上記の分離係数α1の測定条件において、分離膜10を透過する水の流束T1は、例えば0.05(kg/m2/hr)以上であり、0.10(kg/m2/hr)以上、さらには0.15(kg/m2/hr)以上であってもよい。分離膜10を透過する水の流束T1の上限値は、特に限定されず、例えば1.0(kg/m2/hr)である。
【0164】
上述のとおり、本実施形態の分離膜10では、分離機能層1が架橋ポリイミドを含んでいる。この分離機能層1は、水を含む混合液体と接触したときに膨潤しにくく、寸法変化が抑制される傾向がある。そのため、分離膜10を長期間使用した場合であっても、分離機能層1の表面上にスジ状の亀裂が生じることや、分離膜10を構成する層の間(例えば、多孔性支持体3における不織布と多孔質層との間)で剥離が生じることを抑制でき、分離膜10が劣化しにくい。このように、分離膜10は、長期間使用した場合における分離性能の低下を抑制することに適している。
【0165】
長期間の使用による分離膜10の分離性能の低下は、例えば、以下の耐久性試験によって評価することができる。まず、上述の分離係数α1を測定する操作(分離操作)を3時間行う。次に、分離膜10が混合液体と接触しない状態で、分離膜10を室温下で一晩放置する。その後、上記の分離操作をさらに3時間行う。以上の耐久性試験を行った後の分離膜10について、分離係数α1と同じ方法によって、エタノールに対する水の分離係数α2を測定する。分離係数α1に対する分離係数α2の比α2/α1(分離係数の維持率)に基づいて、分離性能の低下を評価することができる。
【0166】
分離膜10において、上記の比α2/α1は、例えば0.5以上であり、0.6以上、0.7以上、0.8以上、0.9以上、さらには1.0以上であってもよい。比α2/α1の上限は、例えば1.2以下である。
【0167】
耐久性試験後の分離係数α2は、例えば10以上であり、15以上、さらには20以上であってもよい。分離係数α2の上限値は、特に限定されず、例えば100である。
【0168】
上記の分離係数α2の測定条件において、耐久性試験後の分離膜10を透過する水の流束T2は、例えば0.05(kg/m2/hr)以上であり、0.10(kg/m2/hr)以上、さらには0.15(kg/m2/hr)以上であってもよい。分離膜10を透過する水の流束T2の上限値は、特に限定されず、例えば1.0(kg/m2/hr)である。流束T1に対する流束T2の比T2/T1は、特に限定されず、例えば0.7~1.3である。
【0169】
(分離膜の用途)
本実施形態の分離膜10は、揮発性の有機化合物Cと水とを含む混合液体Lから水を分離する用途に適している。有機化合物Cは、揮発性を有する限り、特に限定されない。本明細書において、「揮発性を有する有機化合物」とは、大気圧下(101.325kPa)での沸点が20℃~260℃である有機化合物を意味する。
【0170】
有機化合物Cの炭素数は、特に限定されず、例えば10以下であり、8以下、6以下、さらには4以下であってもよい。有機化合物Cの炭素数の下限値は、1であってもよく、2であってもよい。有機化合物Cは、例えば、ヒドロキシル基、カルボニル基、エーテル基、エステル基などの酸素原子を含む官能基を有している。有機化合物Cにおいて、酸素原子を含む官能基の数は、典型的には1つである。
【0171】
有機化合物Cとしては、例えば、アルコール、ケトン、エステルなどが挙げられ、典型的にはアルコールである。アルコールは、アルキル基及びヒドロキシル基のみから構成されたアルキルアルコールであってもよく、アリール基及びヒドロキシル基を含むアリールアルコールであってもよい。アルキルアルコールは、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。アルキルアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノールなどが挙げられ、好ましくはエタノールである。アリールアルコールとしては、例えば、フェノールなどが挙げられる。
【0172】
ケトンは、アルキル基及びカルボニル基のみから構成されたジアルキルケトンであってもよい。ジアルキルケトンとしては、メチルエチルケトン(MEK)、アセトンなどが挙げられる。
【0173】
エステルは、アルキル基及びエステル基のみから構成された脂肪酸アルキルエステルであってもよい。脂肪酸アルキルエステルとしては、酢酸エチルなどが挙げられる。
【0174】
なお、有機化合物Cは、上述したものに限定されない。有機化合物Cは、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素であってもよい。
【0175】
混合液体Lは、1種類の有機化合物Cを含んでいてもよく、2種類以上の有機化合物Cを含んでいてもよい。混合液体Lにおける有機化合物Cの含有率は、例えば10wt%以上であり、20wt%以上であってもよい。分離膜10は、特に、有機化合物Cの含有率が中程度(20wt%~80wt%、特に30wt%~70wt%)である混合液体Lから水を分離することに適している。ただし、混合液体Lにおける有機化合物Cの含有率は、80wt%以上であってもよい。混合液体Lは、実質的に有機化合物C及び水から構成されていてもよい。
【0176】
<膜分離装置の実施形態>
図3に示すとおり、本実施形態の膜分離装置100は、分離膜10及びタンク20を備えている。タンク20は、第1室21及び第2室22を備えている。第1室21は、供給流体(詳細には、上述の混合液体L)が供給される供給空間として機能する。第2室22は、透過流体L1が供給される透過空間として機能する。透過流体L1は、混合液体Lが分離膜10を透過することによって得られる。
【0177】
分離膜10は、タンク20の内部に配置されている。タンク20の内部において、分離膜10は、第1室21と第2室22とを隔てている。分離膜10は、タンク20の1対の壁面の一方から他方まで延びている。
【0178】
第1室21は、入口21a及び出口21bを有する。第2室22は、出口22aを有する。入口21aは、混合液体Lを供給空間(第1室21)に供給するための開口である。出口22aは、透過流体L1を透過空間(第2室22)から排出するための開口である。出口21bは、分離膜10を透過しなかった混合液体L(非透過流体L2)を供給空間(第1室21)から排出するための開口である。入口21a、出口21b及び出口22aのそれぞれは、例えば、タンク20の壁面に形成されている。
【0179】
膜分離装置100は、流通式(連続式)の膜分離方法に適している。ただし、膜分離装置100は、バッチ式の膜分離方法に用いられてもよい。
【0180】
(膜分離装置の運転方法)
膜分離装置100の運転方法は、例えば、次のように実施される。まず、入口21aを通じて、混合液体Lを膜分離装置100の第1室21に供給する。これにより、分離膜10の一方の面(例えば、主面11)に混合液体Lを接触させることができる。
【0181】
混合液体Lの温度は、有機化合物Cの沸点より高くてもよいが、有機化合物Cの沸点より低いことが好ましい。混合液体Lの温度は、例えば25℃以上であり、好ましくは40℃以上であり、より好ましくは60℃以上である。混合液体Lの温度は、75℃以下であってもよい。
【0182】
次に、分離膜10の一方の面に混合液体Lを接触させた状態で、分離膜10の他方の面(例えば、主面12)に隣接する空間を減圧する。詳細には、出口22aを通じて、第2室22内を減圧する。膜分離装置100は、第2室22内を減圧するためのポンプ(図示せず)をさらに備えていてもよい。第2室22は、第2室22内の空間が測定環境における大気圧に対して、例えば10kPa以上、好ましくは50kPa以上、より好ましくは100kPa以上小さくなるように減圧される。
【0183】
第2室22内を減圧することによって、分離膜10の他方の面側において、水の含有率が高い透過流体L1を得ることができる。言い換えると、透過流体L1が第2室22に供給される。透過流体L1は、例えば、水を主成分として含んでいる。ただし、透過流体L1は、水の他に少量の有機化合物Cを含んでいてもよい。透過流体L1は、気体であってもよく、液体であってもよい。透過流体L1は、出口22aを通じて、膜分離装置100の外部に排出される。
【0184】
一方、混合液体Lにおける有機化合物Cの含有率は、第1室21の入口21aから出口21bに向かって徐々に上昇する。第1室21で処理された混合液体L(非透過流体L2)は、出口21bを通じて、膜分離装置100の外部に排出される。非透過流体L2は、典型的には液体である。
【0185】
本実施形態の膜分離装置100は、好ましくは浸透気化法に用いられる。しかし、膜分離装置100は、他の膜分離方法、例えば蒸気透過法、に用いられてもよい。すなわち、上述した膜分離方法において、混合液体Lの代わりに、気体の有機化合物Cと気体の水とを含む混合気体を用いてもよい。
【0186】
<膜分離装置の変形例>
膜分離装置100は、スパイラル型の膜エレメント、中空糸膜エレメント、複数の分離膜が積層されたディスクチューブ型の膜エレメント、プレートアンドフレーム型の膜エレメントなどであってもよい。図4は、スパイラル型の膜エレメントを示している。図4の膜分離装置110は、中心管41及び積層体42を備えている。積層体42が分離膜10を含んでいる。
【0187】
中心管41は、円筒形状を有している。中心管41の表面には、中心管41の内部に透過流体L1を流入させるための複数の孔又はスリットが形成されている。中心管41の材料としては、例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE樹脂)、ポリサルフォン樹脂(PSF樹脂)などの樹脂;ステンレス鋼、チタンなどの金属が挙げられる。中心管41の内径は、例えば20~100mmの範囲にある。
【0188】
積層体42は、分離膜10の他に、供給側流路材43及び透過側流路材44をさらに含む。積層体42は、中心管41の周囲に巻回されている。膜分離装置110は、外装材(図示せず)をさらに備えていてもよい。
【0189】
供給側流路材43及び透過側流路材44としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)又はエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)からなる樹脂製ネットを用いることができる。
【0190】
膜分離装置110は、例えば、次の方法で運転できる。まず、巻回された積層体42の一端に混合液体Lを供給し、中心管41の内部の空間を減圧する。これにより、積層体42の分離膜10を透過した透過流体L1が中心管41の内部に移動する。透過流体L1は、中心管41を通じて外部に排出される。膜分離装置110で処理された混合液体L(非透過流体L2)は、巻回された積層体42の他端から外部に排出される。
【実施例0191】
以下に、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0192】
[ポリイミドPの合成]
まず、自動重合装置(メトラー・トレド社製、EasyMax402)を用いて、ポリイミドPの合成を行った。装置に付属しているセパラブルフラスコ(容量2000mL)には、ジムロート、撹拌棒、内部温度計、窒素導入管及び平栓を装着した。ジムロートのチラーには、10℃に設定された冷却液を循環させた。フラスコ内には、400mL/minの流量で、N2ガスを流通させた。撹拌速度は、150rpmに設定した。次に、フラスコに、溶媒として1-メチル-2-ピロリドン250g、ジアミンとして4,4’-ジアミノジフェニルエーテル23gと3,5-ジアミノ安息香酸2gを加えた。これらを室温下で撹拌することによってジアミンを溶媒に溶解させた。得られた溶液に、テトラカルボン酸二無水物として4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物20gとビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)エチレン(新日本理化社製、リカシッドTMEG-100)37gをさらに加えた。次に、撹拌速度150rpmで40分、100rpmで10分、50rpmで3時間、10rpmで18時間撹拌した。フラスコの内温を25℃まで冷却し、一晩静置させた。
【0193】
次に、トリエチルアミン6gと無水酢酸37gを加え、ジャケット温度を60℃に昇温し、撹拌速度150rpmで6時間攪拌した。反応液を一晩静置させた後、1,3-ジオキソラン1250gを加えることによって反応液を希釈した。次に、ブフナーロートの大きさにカットしたPET製ろ紙(セーレン社製、#1000)を用いて、析出した固体を濾過し、2600mlのイオン交換水で洗浄する操作を3回行った。洗浄後、ろ別した固体を60℃の熱風循環乾燥機で15時間乾燥させ、さらに、100℃の真空乾燥機で8時間乾燥させた。これにより、収量70gでポリイミドPを得た。
【0194】
[多孔性支持体と中間層の積層体]
まず、シリコーン樹脂(信越化学工業株式会社製のPOLON MF-56)とポリウレタン樹脂(三井化学株式会社製のタケラックW-6010)を固形分比率が90:10となるように配合し、さらに、固形分濃度が10wt%となるようにイオン交換水で希釈した。次に、バーコーターを用いて、得られた塗工液を多孔性支持体に塗布した。多孔性支持体としては、限外濾過膜(日東電工株式会社製のRS-50)を用いた。塗工液の塗布は、塗工厚さが10μmの条件で行った。次に、得られた塗布膜を110℃で5分間乾燥させた。これにより、多孔性支持体及び中間層の積層体を得た。中間層の厚さは1μmであった。
【0195】
(実施例1)
上記のポリイミドPを10Lのペール缶に加え、さらに、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、及び、配位子としてアセチルアセトンを添加して、混合液を得た。この混合液について、プロペラ型撹拌羽根を用いて、回転数700~1400rpmで1時間撹拌した。次に、別のスクリュー管に、NMP、及び、化合物M(金属錯体)としてAl(acac)3を加え、さらに、超音波洗浄機を用いた超音波処理を行うことによって、Al(acac)3溶液を得た。Al(acac)3溶液と、上記の混合液とをさらに混合し、プロペラ型撹拌羽根を用いて、回転数700~1400rpmで1時間撹拌することによって、塗布液を調製した。
【0196】
塗布液において、ポリイミドP及びNMPの合計重量に対するポリイミドPの重量の比率は8wt%であり、当該合計重量に対するNMPの重量の比率は92wt%であった。塗布液において、ポリイミドPの重量に対するAl(acac)3の重量の比率、及び、ポリイミドPの重量に対するアセチルアセトンの重量は、いずれも6wt%であった。
【0197】
次に、得られた塗布液を、多孔性支持体及び中間層の積層体(基材)の上に塗布して、塗布膜を作製した。塗布液の塗布は、スロットダイを用いて行った。
【0198】
次に、速度1m/minで塗布膜を搬送し、3つの加熱部内を通過させることによって塗布膜を乾燥させた。詳細には、塗布膜は、第1加熱部、第2加熱部、及び第3加熱部をこの順番で通過した。第1加熱部の設定温度が100℃であり、第2加熱部の設定温度が130℃であり、第3加熱部の設定温度が130℃であった。塗布膜が第1~第3加熱部を通過する時間(乾燥時間)は6分間であった。塗布膜を乾燥させることによって、ポリイミドPに含まれる官能基F(カルボキシル基)の解離性のプロトンが、金属錯体のAlと交換され、ポリイミドPから架橋ポリイミドが形成された。これにより、分離機能層が形成され、実施例1の分離膜を得た。
【0199】
(実施例2)
上記のポリイミドPを10Lのペール缶に加え、さらに、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、及び、架橋剤としてエポキシ系架橋剤(三菱ガス化学社製、TETRAD-C(1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン))を添加して、混合液を得た。この混合液について、プロペラ型撹拌羽根を用いて、回転数700~1400rpmで1時間撹拌することによって塗布液を調製した。
【0200】
塗布液において、ポリイミドP及びNMPの合計重量に対するポリイミドPの重量の比率は8wt%であり、当該合計重量に対するNMPの重量の比率は92wt%であった。塗布液において、ポリイミドPの重量に対する架橋剤の重量の比率は、6wt%であった。
【0201】
上記の塗布液を用いたことを除き、実施例1と同じ方法によって、実施例2の分離膜を得た。なお、実施例2では、塗布膜の乾燥時に、ポリイミドPに含まれる官能基F(カルボキシル基)が架橋剤と反応して、ポリイミドPから架橋ポリイミドが形成された。
【0202】
(比較例1)
上記のポリイミドPを10Lのペール缶に加え、さらに、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を添加して、混合液を得た。この混合液について、プロペラ型撹拌羽根を用いて、回転数700~1400rpmで1時間撹拌することによって塗布液を調製した。この塗布液を用いたことを除き、実施例1と同じ方法によって、比較例1の分離膜を得た。なお、比較例1では、ポリイミドPから架橋ポリイミドは形成されなかった。
【0203】
[ゲル分率]
まず、実施例1及び2の分離膜が備える分離機能層と組成及び厚さが同じ層をはく離ライナーの上に作製した。はく離ライナーとしては、ポリエチレテレフタラート(PET)フィルム(三菱ケミカル社製、MRE38)を用いた。次に、はく離ライナーを取り除くことによって、分離機能層の自立膜を作製した。この自立膜について、上述の方法で、ゲル分率を測定した。
【0204】
[比率R1及びR2]
上述の方法によって、実施例及び比較例の分離膜が備える分離機能層と組成及び厚さが同じ層をはく離ライナーの上に作製した。次に、はく離ライナーを取り除くことによって、分離機能層の自立膜を作製した。この自立膜について、上述の方法で浸漬試験を実施した。浸漬試験を実施する前の分離機能層の表面の面積A1(cm2)と、浸漬試験を実施した後の分離機能層の表面の面積A2(cm2)に基づいて比率R1を算出した。さらに、浸漬試験を実施する前の分離機能層の重量W1(g)と、浸漬試験を実施した後の分離機能層の重量W2(g)に基づいて比率R2を算出した。
【0205】
[分離特性]
実施例及び比較例の分離膜について、上述の方法によって、初期状態でのエタノールに対する水の分離係数α1、及び水の流束T1を測定した。さらに、分離膜について、上述の耐久性試験を行い、耐久性試験後のエタノールに対する水の分離係数α2、及び水の流束T2を測定した。これらの結果から、分離係数α1に対する分離係数α2の比α2/α1(分離係数の維持率)を算出した。
【0206】
【表3】
【0207】
表3からわかるとおり、架橋ポリイミドを含む実施例の分離膜は、比較例と比べて、比α2/α1(分離係数の維持率)が高い値であった。この結果から、実施例の分離膜は、長期間使用した場合であっても分離性能の低下が抑制されることが推定できる。なお、実施例の分離膜は、初期状態での分離係数α1が20以上であり、水の流束T1が0.1(kg/m2/hr)以上であり、いずれも実用上十分な値であった。
【0208】
なお、実施例では、分離機能層についての比率R1が低い値であり、浸漬試験前後での寸法変化が抑制されていた。同様に、実施例では、分離機能層についての比率R2が低い値であり、浸漬試験前後での重量変化が抑制されていた。このように、実施例では、分離機能層が、水を含む混合液体と接触したときに膨潤しにくい傾向があった。このことに起因して、実施例の分離膜では、比α2/α1が高い値であったことが推定される。
【産業上の利用可能性】
【0209】
本実施形態の分離膜は、揮発性の有機化合物と水とを含む混合液体から水を分離することに適している。
【符号の説明】
【0210】
1 分離機能層
2 中間層
3 多孔性支持体
10 分離膜
100,110 膜分離装置
図1
図2
図3
図4