(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136143
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】異方性導電フィルム
(51)【国際特許分類】
H01R 11/01 20060101AFI20240927BHJP
H01R 43/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01R11/01 501H
H01R43/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047135
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柄木田 充宏
(72)【発明者】
【氏名】工藤 克哉
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸一
【テーマコード(参考)】
5E051
【Fターム(参考)】
5E051CA04
(57)【要約】
【課題】異方性導電フィルムを用いて、異方性導電接続対象物であるICチップ等の第1電子部品を配線基板等の第2電子部品に異方性導電接続して接続構造体を製造する場合に、ショートや導通不良が発生しない異方性導電フィルムを提供する。
【解決手段】貫通孔が設けられたエラストマー層と、エラストマー層の表面に形成された第1電極と裏面に形成された第2電極とを有する異方性導電フィルムは、その第1電極と第2電極とが、エラストマー層の絶縁性樹脂層の貫通孔の内壁に形成された導電層を介して導通している。エラストマー層の20%圧縮変形時の圧縮硬さは、1500MPa以上8000MPa以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔が設けられたエラストマー層と、エラストマー層の表面に形成された第1電極と裏面に形成された第2電極とを有する異方性導電フィルムであって、第1電極と第2電極とが、エラストマー層の貫通孔の内壁に形成された導電層を介して導通している異方性導電フィルム。
【請求項2】
エラストマー層の20%圧縮変形時の圧縮硬さが、1500MPa以上8000MPa以下である請求項1記載の異方性導電フィルム。
【請求項3】
貫通孔がエラストマー層に規則的配列パターンで設けられている請求項1又は2記載の異方性導電フィルム。
【請求項4】
第1電極が、エラストマー層の表面側の貫通孔の開口周囲に形成され、第2電極が裏面側の貫通孔の開口周囲に形成されている請求項1又は2記載の異方性導電フィルム。
【請求項5】
第1電極及び第2電極の表面に突起が形成されている請求項1又は2記載の異方性導電フィルム。
【請求項6】
エラストマー層の表面と裏面に同一の接着層又は互いに相違する接着層が形成されている請求項1又は2記載の異方性導電フィルム。
【請求項7】
エラストマー層の表面と裏面に最低溶融粘度が互いに相違する接着層が形成されている請求項6記載の異方性導電フィルム。
【請求項8】
貫通孔に樹脂組成物が充填されている請求項6記載の異方性導電フィルム。
【請求項9】
第1電子部品と第2電子部品とが、請求項1記載の異方性導電フィルムを介して異方性導電接続されている接続構造体。
【請求項10】
第1電子部品と第2電子部品とを、請求項1記載の異方性導電フィルムを介して異方性導電接続する、接続構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性導電フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配線基板にICチップ等の電子部品を搭載する際、圧縮に対する反発性を有する樹脂コアの表面に金属層が形成された導電粒子を絶縁性樹脂層に多数分散させた異方性導電フィルムを用いて異方性導電接続を行う場合が多い。このような異方性導電接続時には、多数個の導電粒子が互いに接触する等によりショートの発生が懸念されるため、近年では、そのようなショートを防止し、接続すべき端子における導電粒子の良好な捕捉安定性を実現するために、絶縁性樹脂層に導電粒子を単層で規則配列させた導電粒子整列型の異方性導電フィルムが注目されている(特許文献1)。
【0003】
このような粒子整列型の異方性導電フィルムは、導電粒子が密に配置された延伸フィルムを利用した、いわゆる2軸延伸フィルム法により製造している。具体的には、延伸フィルムの表面に形成された粘着剤層上に単層で導電粒子を敷き詰め、導電粒子が敷き詰められた延伸フィルムを2軸延伸することにより、導電粒子を単層で整列させた延伸フィルムを取得し、得られた延伸フィルムの導電粒子配列面に、絶縁性樹脂層となる絶縁性接着フィルムを載置し押圧することで、絶縁性接着フィルムに導電粒子を転写し、更に埋め込み、その後に粘着剤層と共に延伸フィルムを剥離することにより製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の粒子整列型の異方性導電フィルムの場合、片面に導電粒子が規則配列されている延伸フィルムを2軸方向に均一且つ一定の割合で延伸することが難しいため、導電粒子を精密に規則配列することが難しいという問題や、また、延伸フィルムの2軸延伸の際のみならず、2軸延伸フィルムに整列配置された導電粒子を2軸延伸フィルムから絶縁性接着フィルムへ転写する際に、導電粒子の抜けや凝集が生じる可能性を払拭できないことが懸念されている。
【0006】
このため、特許文献1に開示の導電粒子整列型の異方性導電フィルムを用いてICチップ等の第1電子部品を配線基板等の第2電子部品に異方性導電接続して接続構造体を製造した場合、ショートや導通不良の発生の可能性が高まるという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、従来技術の問題を解決することであり、異方性導電フィルムを用いて、異方性導電接続対象物であるICチップ等の第1電子部品の第1電極と、配線基板等の第2電子部品の第2電極とを異方性導電接続して接続構造体を製造する場合に、ショートや導通不良が発生しない異方性導電フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来技術の問題が、互いに対向する第1電子部品の第1電極と第2電子部品の第2電極とを、異方性導電フィルムの導電粒子で導通させていることに起因しているという仮定の下、導電粒子を使用しないで異方性導電フィルムを構成できれば、従来技術の問題を解決できる可能性があり、そのために、導電粒子に代えて内面に導電層が形成された貫通孔を利用すれば、導電粒子を使用せずに異方性導電フィルムを構成することができ、しかも樹脂流動の影響も小さくでき、また、異方性導電フィルムを構成する絶縁性樹脂層としてエラストマー層を用いれば、導電粒子の樹脂コアと同様の圧縮に対する反発性を担保できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は、貫通孔が設けられたエラストマー層と、エラストマー層の表面に形成された第1電極と裏面に形成された第2電極とを有する異方性導電フィルムであって、第1電極と第2電極とが、エラストマー層の貫通孔の内壁に形成された導電層を介して導通している異方性導電フィルムを提供する。
【0010】
また、本発明は、第1電子部品と第2電子部品とが、前述の本発明の異方性導電フィルムを介して異方性導電接続されている接続構造体を提供する。
【0011】
更に、本発明は、第1電子部品と第2電子部品とを、前述の本発明の異方性導電フィルムを介して異方性導電接続する、接続構造体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の異方性導電フィルムは、貫通孔が設けられたエラストマー層と、エラストマー層の表面に形成された第1電極と裏面に形成された第2電極とを有する。これらの第1電極と第2電極とは、エラストマー層の貫通孔の内壁に形成された導電層を介して導通している。このため、本発明の異方性導電フィルムを製造する際には、導電粒子を利用しないので、従来の粒子整列型の異方性導電フィルムの製造方法である2軸延伸フィルム法を適用する必要もなく、しかも貫通孔はエラストマー層に固定されているので、導電粒子よりも樹脂流動の影響を小さくでき、しかもエラストマー層自体が、導電粒子の樹脂コアと同様の圧縮に対する反発性を担保できるので、確実に且つ安定的に異方性導電接続を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の異方性導電フィルムの概略断面図である。
【
図2】本発明の異方性導電フィルムの概略断面図である。
【
図3】本発明の異方性導電フィルムの概略断面図である。
【
図4】本発明の異方性導電フィルムの概略断面図である。
【
図5】本発明の異方性導電フィルムの概略断面図である。
【
図6】本発明の異方性導電フィルムの概略断面図である。
【
図7】本発明の異方性導電フィルムの概略断面図である。
【
図8A】本発明の異方性導電フィルムの製造工程図である。
【
図8B】本発明の異方性導電フィルムの製造工程図である。
【
図8C】本発明の異方性導電フィルムの製造工程図である。
【
図8D】本発明の異方性導電フィルムの製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は、同一又は同等の構成要素を表している。
【0015】
<<異方性導電フィルムの基本構造>>
図1に本発明の異方性導電フィルム10の概略断面図を示す。この異方性導電フィルム10は、貫通孔2が形成されたエラストマー層1と、エラストマー層1の表面に形成された第1電極3と裏面に形成された第2電極4とを有する。第1電極3と第2電極4とは、エラストマー層1の貫通孔2の内壁に形成された導電層5を介して導通している。
【0016】
<エラストマー層1>
本発明の異方性導電フィルム10を構成するエラストマー層1は、フィルム状の形状を有し、それ自体は絶縁性であり、従来の導電粒子の樹脂コアと同様の圧縮に対する反発性を担保すると同時に、異方性導電フィルム10の機械的強度を担保するものである。
【0017】
(エラストマー層の20%圧縮変形時の圧縮硬さ)
エラストマー層1の圧縮に対する反発性は、エラストマー層1を厚み方向に圧縮し、厚さが20%減少したときの硬さ(20%圧縮変形時の圧縮硬さ(K値[MPa]))で評価することができる。このK値は、具体的には以下の数式より算出される数値であり、K値が小さいほど柔らかいフィルムとなる。
【0018】
【0019】
上記式中、「F」は、エラストマー層1の20%圧縮変形時における加重[N]であり、「S」は20%圧縮変形時の変位[mm]であり、「R」は、エラストマー層1の圧縮前の厚さ[mm]である。
【0020】
前出の数式で算出されるエラストマー層1の20%圧縮変形時の圧縮硬さ(K値)は、柔らかすぎると異方性導電フィルムで接続すべき電子部品の端子表面の酸化皮膜を突き破りにくくなり、他方、硬すぎるとステージ側の電子部品(基板)の撓みといった不良の原因となり易く、いずれも良好な導通性能を実現できる圧縮に対する反発性を期待できないので、好ましくは1500MPa以上、より好ましくは3000MPa以上であり、好ましくは8000MPa以下、より好ましくは4000MPa以下である。
【0021】
(エラストマー層の溶融粘度)
エラストマー層1の溶融粘度は、異方性導電フィルム10を異方性導電接続する際の不要な変形を抑制するため、圧着、例えば熱圧着時の温度領域においてエラストマー層1の粘度の最低溶融粘度の好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上である。溶融粘度は、一例として回転式レオメータ(TA Instruments社製)を用い、測定圧力5gで一定に保持し、直径8mmの測定プレートを使用して求めることができ、より具体的には、温度範囲30~250℃において、昇温速度10℃/分、測定周波数10Hz、前記測定プレートに対する荷重変動5gとすることにより求めることができる。なお、溶融粘度の調整は、溶融粘度調整剤として微小固形物の種類や配合量、樹脂組成物の調整条件の変更などにより行うことができる。
【0022】
(エラストマー層の厚さ)
エラストマー層1の厚さは、主に異方性導電接続対象物の表面凹凸や異方性導電フィルムのハンドリング性などに応じて定められる。例えば、半導体装置に適用する場合、バンプ高さとそのバラツキとを考慮すると、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、特に好ましくは5μm以上である。厚さの上限は、特に限定はされないが、異方性導電フィルムのハンドリング性やファインピッチ対応等を考慮して、通常100μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。なお、エラストマー層の厚さは、公知の膜厚計(例えば、株式会社フジワーク、フィルムテスター連続厚み測定器、HKTハンディシリーズ)を用いて測定することができる。
【0023】
(エラストマー材料)
エラストマー層1を構成するエラストマー材料としては、熱可塑性エラストマー、例えば、ポリブタジエン、天然ゴム、ポリイソプレン、SBR、NBRなどの共役ジエン系ゴムおよびこれらの水素添加物、スチレンブタジエンブロック共重合体、スチレンイソプレンブロック共重合体などのブロック共重合体およびこれらの水素添加物、クロロプレン、ウレタンゴム、ポリエステル系ゴム、エピクロルヒドリンゴム、シリコンゴム、エチレンプロピレン共重合体、エチレンプロピレンジエン共重合体などが挙げられ、耐候性が必要な場合には、共役ジエン系ゴム以外の熱可塑性エラストマーが好ましく、特に成形加工性および電気特性の観点からはフィルム状のシリコンゴムが好ましい。なお、エラストマー層1には、必要に応じ、公知の熱硬化性エラストマーや、フェノキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリアセタール、ポイカーボネイト、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニルなどの熱可塑性樹脂組成物、高粘度粘着性樹脂組成物、あるいはエポキシ、アクリルなど硬化性樹脂組成物又はこれらの混合物を含有することができる。
【0024】
<貫通孔>
本発明の異方性導電フィルム10のエラストマー層1には、導電粒子に代えて異方性導電フィルムの異方性導電性を担保するために、内面に導電層5を有する貫通孔2を設ける。即ち、本発明の異方性導電フィルムは、対向する端子間を導通させる目的の導電粒子は必要としない。貫通孔2は、予め平坦なエラストマー材料をフィルム状にして用意し、例えば、パンチング加工、フォトリソ加工、レーザー加工等の公知の手法により作成することができる。スタンプ加工や、凸状が設けられた原盤を利用し、これに押し付けるなどして作成してもよい。エラストマー材料が乾燥や硬化前などの形状加工し易い状態で形成してもよい。
【0025】
貫通孔2は、隣接する貫通孔2同士が異方性導電接続時にショートしない限り、エラストマー層1にランダムに設けてもよいが、確実にショートを防止するために、規則的配列パターンで設けることが好ましい。配列パターンは端子配列のピッチ(所謂L/S(ライン/スペース))に応じて設計すればよい。規則的配列パターンとしては、正方格子パターン、六方格子パターン等の一般的な格子状パターンを採用することができる。なお、異方性導電接続対象物の端子に対応したパターンとすることもできる。一般的な導電粒子整列型の異方性導電フィルムの導電粒子と略同様の配置としてもよい。
【0026】
(貫通孔2の内径)
貫通孔2の内径は、異方性導電接続対象物の端子幅や端子ピッチ、貫通孔2の個数密度や配列ピッチ、内壁に形成される導電層5の形成手法等に応じて定められるが、内径が小さすぎると樹脂の流動を阻害し、気泡の要因となり易く、接着性悪化の要因となることが懸念され、大きすぎるとファインピッチに適応し難くなり、同一品種での流用がし難くなり、製造コストの増加を招くので、好ましくは1.0μm以上、より好ましくは2.5μm以上、好ましくは200μm以下、より好ましくは50μm以下である。貫通孔2の内径は顕微鏡観察により計測することができる。貫通孔径が大きい場合、ラフピッチの異方性導電接続対象物に使用でき、貫通孔の個数密度も少なくすむため、コスト上のメリットが高くなる。また、エラストマーフィルムがフィルム厚み方向の中心部に存在することもあり、リペアによる再利用も期待し易い。
【0027】
(貫通孔2の個数密度)
貫通孔2の個数密度は、低すぎると樹脂流動を阻害し易くなり、高すぎると導電材料で被覆する面積が過大となり、コストの増加を招くので、好ましくは10個/mm2以上、より好ましくは30個/mm2以上、好ましくは500000個/mm2以下、より好ましくは250000個/mm2以下である。個数密度は、顕微鏡観察によりフィルム面視野を測定し、求めることができる。顕微鏡観察の際の観察面積は、好ましくは2mm2以上、より好ましくは10mm2以上である。また、この個数密度は、画像解析ソフト(例えば、WinROOF(三谷商事株式会社)や、A像くん(登録商標)(旭化成エンジニアリング株式会社)等)により観察画像を計測して求めてもよい。観察方法や計測手法は、上記に限定されるものではない。
【0028】
なお、本発明では、貫通孔のサイズが統一されていることで、発明の効果をより顕著に奏することができる。そのためには、貫通孔の開口部の大きさおよび深さが、以下の条件を満たすことが望ましい。即ち、異方性導電フィルムにおいて、観察面積の合計が1mm2以上、好ましくは2mm2以上において、貫通孔の個数が1000個以上(好ましくは2000個以上)である領域に含まれる貫通孔の全数の95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99.5%以上のものが開口部の大きさ及び深さが一致していることが望ましい。ここで、「開口部の大きさ及び深さが一致している」の「一致している」とは、ある貫通孔の開口部の大きさ及び深さが、計測誤差を考慮し、それぞれ所定の領域に含まれる貫通孔の開口部の平均の大きさおよび平均の深さの±15%以内、好ましくは±10%以内、より好ましくは±5%以内の範囲内に収まっていることを意味する。なお、開口部の大きさは、開口部の形状が異なるものが存在するため、開口部の面積を円に換算した場合の直径としてもよい。
【0029】
(貫通孔2の配列ピッチ)
また、貫通孔2の配列ピッチは、異方性導電接続対象物の端子幅や端子ピッチ、規則配列パターンと個数密度等に応じて定まるが、狭すぎると導電材の被覆時に連結し易くなり、広すぎると使用できる端子レイアウトの自由度が低下し、製造コストの増加を招くので、貫通孔2の内径の好ましくは0.5倍以上、好ましくは200倍以下である。
【0030】
<貫通孔内壁に形成された導電層5>
貫通孔2の内壁には、貫通孔2の表面と裏面との間の導通を確保するために導電層5が形成されている。導電層5は、内壁全面に形成されていることが好ましいが、貫通孔2の表面と裏面との間の導通を確保できる限り、貫通孔2の表面側開口から裏面側開口まで連続するように内壁の一部に設けてもよい。導電層5は、例えば、スパッタ加工、無電解メッキ加工、電解メッキ加工、フォトリソ加工、レーザー加工等の公知の手法により作成することができる。
【0031】
(導電層の厚み)
導電層5の層厚は、その作成手法等により異なるが、薄すぎると圧縮時に剥がれの要因となり、厚すぎると圧縮時に割れの要因となるので、特に制限はないが、下限は好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、更により好ましくは0.3μm以上である。上限についても特に制限はないが、好ましくは3μm以下、より好ましくは1μm以下、更により好ましくは0.5μm以下である。
【0032】
(導電層5の材質)
導電層5の材質としては、金、銀、ニッケル、銅、インジウムチタンオキサイド、アルミニウム、ハンダなどの金属材料や合金材料を挙げることができる。メッキやスパッタリングできる材料や、インクジェット印刷で設けられる材料であることが好ましい。
【0033】
<第1電極及び第2電極>
本発明の異方性導電フィルム10においては、エラストマー層1の表面に第1電極3と裏面に第2電極4とが形成されており、これらの電極は、貫通孔2の内壁に形成されている導電層5により電気的に導通が確保されている。
【0034】
第1電極3及び第2電極4は、通常、導電層5と同時に形成されることが製造上有利であることから、第1電極3はエラストマー層1の表面側の貫通孔2の開口周囲に形成され、第2電極4は裏面側の貫通孔2の開口周囲に形成されることが好ましい。ここで、開口周囲とは、確実な導通を確保する観点から好ましくは開口の全周を意味するが、異方性導電接続が担保される限り、開口の一部であってもよい。なお、第1電極3及び第2電極4を、異方性導電接続対象物の端子に対応してエラストマー層1の表面又は裏面に設ける場合には、貫通孔2の開口の周囲ではなく、開口から離れた位置でエラストマー層1の表面又は裏面にさまざまな形状で設けることができる。その場合、第1電極3及び第2電極4の形成時に、それらの電極と貫通孔2の導電層5とを接続する接続線を同時に形成することが好ましい。
【0035】
(第1電極3及び第2電極4の厚さ、構成材料)
第1電極3及び第2電極4の厚さや構成材料は、導電層5と同様とすることができる。
【0036】
また、第1電極3及び第2電極4のいずれか一方又は双方の表面には、異方性導電接続対象物の端子表面の酸化皮膜を突き破り易くするために、突起が形成されていることが好ましい。突起は、電極材料と同じであってもよく、異なっていてもよい。突起の個数や形状及び大きさ並びに形成手法は、従来の異方性導電フィルムの導電粒子に形成される突起と同様とすることができる。
【0037】
<異方性導電フィルムの別態様1>
図2に示すように、本発明の異方性導電フィルム20は、エラストマー層1の表面側及び裏面側に同一の接着層で被覆されている構造を有する。ここで、表面側の接着層を接着層6aとし、裏面側を接着層6bとする。
図2では、生産性の観点から、貫通孔2の内部にも接着層を構成する樹脂組成物が充填されている。このように、接着層6a及び接着層6bを設けることにより、異方性導電接続時に異方性導電フィルム20を仮止めできるので、アライメント精度のみならず接続信頼性も向上させることができる。また、アンダーフィル剤としても機能させることが可能となる。
【0038】
(接着層6a、6bの厚み)
図2の異方性導電フィルム20において、接着層6a及び接着層6bの厚みは、同一であってもよく、相違していてもよいが、接着層を構成する樹脂組成物の種類や異方性導電接続対象物等を考慮して決定され、それぞれ独立的に、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上であり、バンプの高さ以下であることが好ましいので20μm以下、より好ましくは10μm以下である。合計で50μm以下であればよく、30μm以下であることが好ましく、22μm以下がより好ましい。
【0039】
(接着層6a、6bの構成材料)
接着層6a及び接着層6bを構成する材料としては、従来の異方性導電フィルムの絶縁性接着層を構成する材料、例えば、熱硬化型樹脂組成物や光硬化型樹脂組成物を採用することができる。熱硬化型樹脂組成物の例としては、アクリレート化合物と熱ラジカル重合開始剤とを含有する熱ラジカル重合型樹脂組成物、エポキシ化合物と熱カチオン重合開始剤とを含有する熱カチオン重合型樹脂組成物、エポキシ化合物と熱アニオン重合開始剤とを含有する熱アニオン重合型樹脂組成物等を挙げることができる。光硬化型樹脂組成物の例としては、アクリレート化合物と光ラジカル重合開始剤とを含有する光ラジカル重合型樹脂組成物、エポキシ化合物と光カチオン重合開始剤とを含有する光カチオン重合型樹脂組成物等を採用することができる。
【0040】
(接着層6a、6bの最低溶融粘度)
接着層6a及び接着層6bの最低溶融粘度は、異方性導電フィルム10を異方性導電接続に適用するために必要且つ十分な樹脂流動を実現するために、従来の知見を流用できるように一般的な異方性導電接続材料と同等であればよく、200Pa・s以上であってもよく、好ましくは1500Pa・s以上、より好ましくは2000Pa・s以上、さらに好ましくは3000Pa・s以上であり、好ましくは15000Pa・s以下、より好ましくは10000Pa・s以下、特に好ましくは8000Pa・s以下である。最低溶融粘度は、一例として回転式レオメータ(TA Instruments社製)を用い、測定圧力5gで一定に保持し、直径8mmの測定プレートを使用して求めることができ、より具体的には、温度範囲30~200℃において、昇温速度10℃/分、測定周波数10Hz、前記測定プレートに対する荷重変動5gとすることにより求めることができる。なお、最低溶融粘度の調整は、溶融粘度調整剤としての微小固形物の種類や配合量、樹脂組成物の調整条件の変更などにより行うことができる。
【0041】
(接着層6a、6bの粘着力)
接着層6a及び接着層6bは、異方性導電フィルムを圧着、熱圧着する物品に対して、圧着前の仮圧着を可能とする粘着力を有していることが好ましい。粘着力は、JIS Z 0237に準じて測定することができ、また、JIS Z 3284-3又はASTM D 2979―01に準じてプローブ法によりタック力として測定することもできる。異方性導電フィルム10を構成する接着層6a及び接着層6bのそれぞれのプローブ法によるタック力は、例えば、プローブの押し付け速度を30mm/min、加圧力を196.25gf、加圧時間を1.0sec、引き剥がし速度を120mm/min、測定温度23℃±5℃で計測したときに、好ましくは1.0kPa(0.1N/cm2)以上、より好ましくは1.5kPa(0.15N/cm2)以上、特に好ましくは3.0kPa(0.3N/cm2)以上である。
【0042】
また、異方性導電フィルムの粘着力は、特開2017-48358号公報に記載の接着強度試験に準じて求めることもできる。この接着強度試験において、例えば、2枚のガラス板で異方性導電フィルムを挟み、一方のガラス板を固定し、他方のガラス板を引き剥がし速度10mm/min、試験温度50℃で引き剥がしていく場合に、固定するガラス板と異方性導電フィルムとの接着状態を強めておくことで、引き剥がしていくガラス板と、そのガラス板と貼り合わさっている異方性導電フィルムの面との粘着力を測定することが可能となる。こうして測定される接着強度(粘着力)を、好ましくは1N/cm2(10kPa)以上、より好ましくは10N/cm2(100kPa)以上とすることができる。これは、異方性導電フィルムの引き剥がされる方向に存在する面と、引き剥がす物品間の粘着力になる。
【0043】
この他、異方性導電フィルムの粘着力は、試験片の一端を揃えて接着し(貼り合わせ)、他端を引き上げることにより試験片を剥離させる試験により求めることもできる。この試験方法により計測される粘着力が、上記の接着強度試験と同等(1N/cm2(10kPa)以上)の結果となってもよい。上述の接着強度試験による粘着力が十分に大きければ(例えば10N/cm2(100kPa)以上)、この試験方法での粘着力は上述の接着強度試験による粘着力の10%以上であればよい。
【0044】
<異方性導電フィルムの別態様2>
また、
図3に示すように、本発明の異方性導電フィルム30は、エラストマー層1の表面側に第1接着層7を設け、裏面側に第1接着層7と相違する第2接着層8を設けることができる。表面側と裏面側とで異方性導電接続対象物が相違した場合にも、それに対応するためである。
図3では、生産性の観点から、貫通孔2の内部にも第1接着層7及び第2接着層8を構成する樹脂組成物が充填されている。ここで第1接着層7と第2接着層8との間で相違する内容は、例えば、構成樹脂組成物の組成、光学的性質(屈折率、光透過率等)、機械的性質(圧縮硬さ、引張強度等)、熱的性質(ガラス転移点、軟化点、最低溶融粘度等)が相違することである。特に、最低溶融粘度が相違することが、樹脂の流動を制御することで接着性を確保する点から好ましい。最低溶融粘度は、粘弾性測定装置(レオメーターRS150、ハーケ社)で測定した値である。
【0045】
(第1接着層7及び第2接着層8の構成材料及び特性)
第1接着層7及び第2接着層8は、接着層6a又は接着層6bを構成する材料と同様の材料からそれぞれ独立的に形成することができる。また、第1接着層7及び第2接着層8のそれぞれの最低溶融粘度及び粘着力は、接着層6a又は接着層6bと同様の特性を示す。
【0046】
(第1接着層7及び第2接着層8の厚み)
第1接着層7及び第2接着層8の層厚は、接着層を構成する樹脂組成物の種類や異方性導電接続対象物等を考慮して決定され、それぞれ独立的に、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上であり、バンプの高さ以下であることが好ましいので20μm以下、より好ましくは10μm以下である。合計で50μm以下であればよく、30μm以下であることが好ましく、22μm以下がより好ましい。
【0047】
<異方性導電フィルムの別態様3>
図2及び
図3の異方性導電フィルム20,30の場合、貫通孔2の内部にそれぞれの接着層を構成する樹脂組成物が充填されているが、
図4の異方性導電フィルム40及び
図5の異方性導電フィルム50のように、貫通孔2の内部がボイド(内部空間)となっていてもよい。このような内部空間は、接着層を形成する際に高粘度の樹脂組成物を使用した場合や、接着層フィルムを積層した場合に生ずる。なお、異方性導電フィルム40、50の貫通孔2の内部空間は、通常、異方性導電接続の際に異方性導電フィルム40又は50を圧着、例えば熱圧着処理した場合には、それぞれの接着層を構成する樹脂組成物が溶融して貫通孔2に充填される。あるいは、異方性導電フィルム40又は50を、リールに巻き取ったリール体とした場合には、保存中に貫通孔に樹脂組成物が入り込む場合もある。
【0048】
<異方性導電フィルムの別態様4>
なお、
図2及び
図3の異方性導電フィルム20、30の場合、貫通孔2の内部にそれぞれの接着層を構成する樹脂組成物が充填されているが、
図6の異方性導電フィルム60及び
図7の異方性導電フィルム70のように、貫通孔2に、両面の接着層の構成樹脂組成物とは異なる樹脂組成物9で充填してもよい。樹脂組成物9としては、接着層6a(6b)を構成する材料と同様の材料を採用することができる。このように貫通孔2に、エラストマー層1の両面の接着層と異なる材料を充填することにより、異方性導電フィルムの物性の微調整が可能となる。これらの異方性導電フィルムは、
図1の異方性導電フィルム10の貫通孔2のみに樹脂組成物を公知の手法により充填し、その後に接着層6a、6bあるいは第1接着層7、第2接着層8を必要に応じて形成することにより得ることができる。
【0049】
<異方性導電フィルムの製造>
図1の本発明の異方性導電フィルム10は、公知の手法を利用して製造することができる。例えば、
図8Aのように、エラストマーフィルム81にレーザー光を照射して貫通孔82を設ける。次に、
図8Bに示すように、エラストマーフィルム81の表面81aと裏面81bとに、第1電極となるべき領域83と第2電極となるべき領域84を除いた領域85に、フォトリソ技術を利用してレジスト層86を形成する。次に、
図8Cに示すように、公知のドライプロセスメッキ法(真空蒸着法、化学蒸着法等)、あるいはウェットプロセスメッキ法(無電解メッキ法、電解メッキ法等)を利用して貫通孔82内に導電層87を形成すると共に、レジスト層86を含むエラストマーフィルム81の表裏面に導電層CLを形成し、その後、レジスト層86を除去する。これにより、エラストマーフィルム81の表面に第1電極88、裏面に第2電極89が形成され、
図1と同構成の
図8Dに示す異方性導電フィルム80が得られる。なお、異方性導電フィルム80の貫通孔82への樹脂の充填は、常法に応じて行うことができる。また、
図2~
図7における接着層6a及び6b、第1接着層7、第2接着層8は、それぞれ常法に従って形成することができる。例えば、接着層形成用樹脂組成物を塗布し、乾燥することにより形成することができる。
【0050】
<接続構造体>
本発明の異方性導電フィルムからは、
図9に示すような接続構造体90を製造することができる。この接続構造体90も本発明の一部である。この接続構造体90は、ICチップ、ミニLEDやマイクロLEDなどの第1電子部品91と配線基板等の第2電子部品92とが、例えば
図2の本発明の異方性導電フィルム20を介して異方性導電接続されている接続構造体である。この接続構造体90では、第1電子部品91の電極91aと、第2電子部品92の電極92aとが、それぞれ異方性導電フィルム20の第1電極3と第2電極4とで異方性導電接続しており、第1電極3と第2電極4とは導電層5で導通している。
【0051】
<接続構造体の製造方法>
図9の接続構造体は、第1電子部品と第2電子部品とを、本発明の異方性導電フィルムを介して異方性導電接続することにより製造することができる。この場合、まず、異方性導電フィルムを第1電子部品または第2電子部品に貼り合わせるが、貼り合わせる方法は、圧着、例えば熱圧着とすることができ、あるいは貼り合わせ時に光照射を利用してもよい。光照射を利用する一例としては、特開2022-151816号公報に記載されているレーザーリフトオフ法に従って異方性導電フィルムを個片化し、更に転写させることが挙げられる。レーザーリフトオフ法に適した異方性導電フィルムとするために使用すべき樹脂材料や粘着材料としては、特開2022-151816号公報に記載されているものの中から選択して使用することができる。接続構造体の製造の具体例としては、第1電子部品91の電極91aと第2電子部品92の電極92aとの間に、例えば
図4の異方性導電フィルム40の貫通孔を位置合わせし、接着層6aと接着層6bとが熱硬化型樹脂組成物から構成されている場合には、第1電子部品側から押圧しながら加熱することで異方性導電接続する。また、接着層6aと接着層6bとが光硬化型樹脂組成物から構成されている場合には、第1電子部品側から押圧した後、第1電子部品側と第2電子部品側の両面から光(好ましくは紫外線)照射することで異方性導電接続する。これらの異方性導電接続の際に、貫通孔2の内部空間は樹脂組成物で充填される。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の異方性導電フィルムは、貫通孔が設けられたエラストマー層と、エラストマー層の表面に形成された第1電極と裏面に形成された第2電極とを有する。これらの第1電極と第2電極とは、エラストマー層の貫通孔の内壁に形成された導電層を介して導通している。このため、本発明の異方性導電フィルムを製造する際には、導電粒子を利用しないので、従来の粒子整列型の異方性導電フィルムの製造方法である2軸延伸フィルム法を適用する必要もなく、しかも貫通孔はエラストマー層に固定されているので、導電粒子よりも樹脂流動の影響を小さくでき、しかもエラストマー層自体が圧縮に対する反発性を有するので、確実に且つ安定的に異方性導電接続を行うことができる。
【符号の説明】
【0053】
1 エラストマー層
2 貫通孔
3 第1電極
4 第2電極
5 導電層
6a、6b 接着層
7 第1接着層
8 第2接着層
9 樹脂組成物
10、20、30、40、50、60、70、80 異方性導電フィルム
81 エラストマーフィルム
81a エラストマーフィルムの表面
81b エラストマーフィルムの裏面
82 貫通孔
83 第1電極となるべき領域
84 第2電極となるべき領域
85 第1電極にも第2電極にもならない領域
86 レジスト層
87、CL 導電層
88 第1電極
89 第2電極
90 接続構造体
91 第1電子部品
91a 第1電子部品の電極
92 第2電子部品
92a 第2電子部品の電極