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特開2024-136146ガラス振動子の製造方法および溶融成形装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136146
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ガラス振動子の製造方法および溶融成形装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 23/035 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
C03B23/035
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047141
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島岡 敬一
(72)【発明者】
【氏名】藤塚 徳夫
(72)【発明者】
【氏名】明石 照久
(72)【発明者】
【氏名】後藤 勝昭
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貴彦
【テーマコード(参考)】
4G015
【Fターム(参考)】
4G015AA13
4G015AB02
4G015AB03
4G015AB05
4G015AB10
(57)【要約】
【課題】ガラス振動子の製造方法を提供する。
【解決手段】溶融成形型は、平坦な表面と、表面の一部に形成されている穴部と、穴部の底面から上方へ延びている支柱と、を備えている。ガラス振動子の製造方法は、溶融成形型の表面に、穴部を覆うとともに支柱上面から離間するように板状の被加工材料を配置する配置工程を備える。ガラス振動子の製造方法は、穴部に第1の負圧を発生させる第1負圧発生工程を備える。ガラス振動子の製造方法は、第1負圧発生工程の後に、被加工材料の上面を加熱手段で加熱する加熱工程を備える。ガラス振動子の製造方法は、加熱工程により被加工材料が変形して支柱上面に接触したことによる、支柱上面の瞬間的な温度上昇を検出する検出工程を備える。ガラス振動子の製造方法は、温度上昇が検出されたことに応じて、穴部の負圧を第1の負圧からさらに負側に大きくする第2負圧発生工程を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融成形型を用いたガラス振動子の製造方法であって、
前記溶融成形型は、平坦な表面と、前記表面の一部に形成されている穴部と、前記穴部の底面から上方へ延びている支柱と、を備えており、
前記支柱の支柱上面は、前記溶融成形型の前記表面よりも低い位置に存在しており、
ガラス振動子の製造方法は、
前記溶融成形型の前記表面に、前記穴部を覆うとともに前記支柱上面から離間するように板状の被加工材料を配置する配置工程と、
前記穴部に第1の負圧を発生させる第1負圧発生工程と、
前記第1負圧発生工程の後に、前記被加工材料の上面を加熱手段で加熱する加熱工程と、
前記加熱工程により前記被加工材料が変形して前記支柱上面に接触したことによる、前記支柱上面の瞬間的な温度上昇を検出する検出工程と、
前記温度上昇が検出されたことに応じて、前記穴部の負圧を前記第1の負圧からさらに負側に大きくする第2負圧発生工程と、
を備える、ガラス振動子の製造方法。
【請求項2】
前記第2負圧発生工程は、前記温度上昇が検出された直後、または、前記温度上昇が検出されてから第1所定時間の経過後に行われる、請求項1に記載のガラス振動子の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程では、前記加熱手段を前記支柱に所定速度で近づけており、
前記温度上昇が検出された直後、または、前記温度上昇が検出されてから第2所定時間の経過後に、前記加熱手段の移動を停止する工程をさらに備える、請求項1に記載のガラス振動子の製造方法。
【請求項4】
前記加熱手段は、燃料ガスを用いて火炎を生成する装置であり、
前記温度上昇が検出されることに応じて、前記燃料ガスの供給量を変化させる工程をさらに備える、請求項1に記載のガラス振動子の製造方法。
【請求項5】
平坦な表面と、前記表面の一部に形成されている穴部と、前記穴部の底面から上方へ延びている支柱と、を備える溶融成形型であって、前記支柱の支柱上面が前記表面よりも低い位置に存在しており、前記穴部を覆うとともに前記支柱上面から離間するように板状の被加工材料を前記表面に配置することが可能に構成されている、前記溶融成形型と、
前記支柱上面の温度を計測可能に構成されている温度計と、
前記被加工材料が配置されている状態の前記穴部を加熱することが可能に構成されている加熱手段と、
前記被加工材料が配置されている状態の前記穴部に負圧を発生させることが可能に構成されている穴部負圧発生手段と、
を備える溶融成形装置であって、
前記温度計は、前記加熱手段により前記被加工材料が変形して前記支柱上面に接触したことによる、前記支柱上面の瞬間的な温度上昇を検出可能に構成されており、
前記穴部負圧発生手段は、前記温度上昇が前記温度計で検出されたことに応じて、前記穴部の負圧をさらに負側に大きくすることが可能に構成されている、
溶融成形装置。
【請求項6】
前記穴部負圧発生手段は、前記温度上昇が前記温度計で検出された直後、または、前記温度上昇が前記温度計で検出されてから第1所定時間の経過後に、前記穴部の負圧をさらに負側に大きくすることが可能に構成されている、請求項5に記載の溶融成形装置。
【請求項7】
前記加熱手段は、前記支柱に近づく方向に所定速度で移動可能に構成されており、
前記加熱手段は、前記温度上昇が前記温度計で検出された直後、または、前記温度上昇が前記温度計で検出されてから第2所定時間の経過後に、移動を停止することが可能に構成されている、請求項5に記載の溶融成形装置。
【請求項8】
前記加熱手段は、燃料ガスを用いて火炎を生成する装置であり、
前記加熱手段は、前記温度計で温度上昇が検出されることに応じて、前記燃料ガスの供給量を変化させることが可能に構成されている、請求項5に記載の溶融成形装置。
【請求項9】
前記溶融成形型の外周を取り囲む壁部をさらに備え、
前記壁部の上端は、前記溶融成形型の前記表面よりも上方に位置している、請求項5に記載の溶融成形装置。
【請求項10】
前記溶融成形型の裏面側に配置されており、一定温度を維持することが可能に構成されているヒートシンクをさらに備える、請求項5に記載の溶融成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、ガラス振動子の製造方法および溶融成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高精度化が可能であるジャイロとして、溶融シリカ製振動子を用いたBird-bath Resonator Gyroscope (BRG)が開示されている。具体的には、上面の一部に穴部が形成されている溶融成形型を準備する。穴部の内部には、穴部の底面から上方へ延びている支柱が備えられている。穴部を塞ぐように被加工材料(例:石英板)を配置し、穴部の内部を減圧しながら、被加工材料の上面を加熱手段で加熱する。負圧と大気圧との差圧による分布荷重によって、軟化した被加工材料を、穴部の内部に入り込むように溶融変形させることができる。これにより、支柱を中心軸とした半球形状のガラス振動子を作製することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/079129号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加熱手段による入熱分布の揺らぎにより、被加工材料の温度上昇分布にばらつきが発生する場合がある。この場合、局所的に軟化温度に到達した箇所から溶融成形が開始されてしまう。その結果、ガラス振動子の形状が非対称になってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示するガラス振動子の製造方法は、溶融成形型を用いたガラス振動子の製造方法である。溶融成形型は、平坦な表面と、表面の一部に形成されている穴部と、穴部の底面から上方へ延びている支柱と、を備えている。支柱の支柱上面は、溶融成形型の表面よりも低い位置に存在している。ガラス振動子の製造方法は、溶融成形型の表面に、穴部を覆うとともに支柱上面から離間するように板状の被加工材料を配置する配置工程を備える。ガラス振動子の製造方法は、穴部に第1の負圧を発生させる第1負圧発生工程を備える。ガラス振動子の製造方法は、第1負圧発生工程の後に、被加工材料の上面を加熱手段で加熱する加熱工程を備える。ガラス振動子の製造方法は、加熱工程により被加工材料が変形して支柱上面に接触したことによる、支柱上面の瞬間的な温度上昇を検出する検出工程を備える。ガラス振動子の製造方法は、温度上昇が検出されたことに応じて、穴部の負圧を第1の負圧からさらに負側に大きくする第2負圧発生工程を備える。
【0006】
上記の構成によると、第1の負圧によって被加工材料を溶融成形型の表面に吸着固定することができる。そして、加熱工程により被加工材料が変形して支柱上面に接触したことを、支柱上面の瞬間的な温度上昇によって検出することができる。このとき、比較的小さい第1の負圧を用いているため、局所的に軟化温度に到達した箇所が発生した場合においても、溶融変形が開始することを抑制できる。これにより、変形開始させずに、加工領域全体を加熱することができる。そして、加工領域の全体が軟化温度に到達してから、第1の負圧からさらに負側に大きくすることで、加工領域の全体を一様に溶融変形開始させることができる。これにより、高い対称性を有するガラス振動子を作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1の溶融成形装置1の断面概略図である。
図2】実施例1の溶融成形装置1の上面図である。
図3】実施例1のガラス振動子の製造工程を説明するフロー図である。
図4】実施例1のガラス振動子の製造工程を説明するタイミングチャートである。
図5】石英板30の中央部が支柱上面TSに接触した状態を示す概略図である。
図6】溶融変形後した状態を示す概略図である。
図7】第1変形例のタイミングチャートである。
図8】第2変形例のタイミングチャートである。
図9】第3変形例のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例0008】
図1に、溶融成形装置1の断面概略図を示す。図2に、溶融成形装置1の上面図を示す。図1は、図2のI-I線における断面図に対応している。なお図2では、バーナ50、放射温度計60、電動ステージ45の記載を省略している。溶融成形装置1は、プレート10、成形型20、石英板30、ヒートシンク40、電動ステージ45、バーナ50、放射温度計60、制御部70、穴部負圧発生手段81、を主に備える。
【0009】
成形型20は、石英板30を溶融変形させて半球形状の振動子を成形するための型である。成形型20の材料をグラファイトとした。本実施例では、成形型20は、中心軸CAを備えた円板形状である。成形型20は、下面20r、表面20s、穴部20h、支柱20p、貫通孔20e、を備える。下面20rおよび表面20sは、中心軸CAに垂直な平坦面である。表面20sは、下面20rと平行である。表面20sの一部には、穴部20hが形成されている。穴部20hは、石英板30が溶融変形するための変形空間である。本実施例では、穴部20hは、中心軸CAを中心とした円筒状にくり抜かれた形状を有している。穴部20hは、底面20bを備えている。底面20bには、下面20rに貫通している複数の貫通孔20eが形成されている。貫通孔20eは第1連絡孔10c1に連通している。
【0010】
穴部20hの中央には、底面20bから垂直上方に伸びている支柱20pが配置されている。支柱20pは、中心軸CAを中心軸とする円柱であり、中心軸CA周りに回転対称な形状を備えている。支柱20pは、支柱上面TSを備えている。支柱上面TSは、支柱20pの上端に位置しており、中心軸CAに垂直な面である。支柱上面TSは、成形型20の表面20sよりも低い位置に存在している。これにより、石英板30の下面と支柱上面TSとの間には、ギャップGA1が形成されている(図1参照)。ギャップGA1は任意の値でよく、例えば100~500μmである。
【0011】
プレート10は、成形型20を設置するためのステンレス製の台である。プレート10は、成形型20を冷却する機能を備えている。プレート10の表面10sには、第1連絡孔10c1が形成されている。第1連絡孔10c1は、貫通孔20eに対応した位置に配置されており、貫通孔20eと接続されている。第1連絡孔10c1は、第1連絡路10p1を介して穴部負圧発生手段81に接続されている。穴部負圧発生手段81は、穴部20hに負圧を発生させることが可能な手段である。穴部負圧発生手段81は、例えば真空ポンプであってもよい。
【0012】
ヒートシンク40は、プレート10の下面10rと接触している。ヒートシンク40の内部には、循環配管41が配置されている。循環配管41は、チラー設備42に接続されている。循環配管41には、チラー設備42によって室温以上に恒温化された冷媒が循環している。これによりヒートシンク40は、工程中に一定の温度を保ち続ける。石英板30の加工中における、成形型20からプレート10への放熱性能の変動を抑制することができる。すなわちヒートシンク40は、プレート10を介して成形型20の温度を調整することが可能に構成されている。これにより、火炎で加熱された成形型20からのプレート10への熱伝達(排熱)の再現性を高めることができる。従って、季節変動などの環境変化に関わらず、ガラス振動子の加工再現性を高めることが可能となる。
【0013】
電動ステージ45上には、ヒートシンク40、プレート10、成形型20が載置されている。電動ステージ45は、x,y方向(水平方向)に移動可能に構成されている。
【0014】
成形型20の表面20sには、穴部20hを覆うように、石英板30が配置されている。石英板30は、ガラス振動子を形成するための被加工材料である。石英板30の厚さは、例えば100μm以下である。本実施例では石英板30は円形であるが、正方形や正六角形や正八角形であってもよい。
【0015】
バーナ50は、火炎により石英板30を加熱する手段である。バーナ50は、上下方向(±z方向)に移動する可動機構53に固定されている。これによりバーナ50は、中心軸CAに沿って上下に移動可能である。バーナ50は、予混合室50cを備えている。予混合室50cには、ガス供給設備51からガス流量調整器52を介して、燃料ガスG1および酸素ガスG2が供給される。予混合室50cによって燃料ガスG1および酸素ガスG2を予め混合した上で燃焼させることができるため、安定した火炎を発生させることが可能となる。
【0016】
放射温度計60は、非接触式の温度計である。放射温度計60は、成形型20の上方に、不図示の固定器具によって配置されている。放射温度計60の焦点を支柱20pの支柱上面TSに当てることによって、支柱上面TSの表面温度を非接触で測定できる。
【0017】
衝立11は、プレート10の表面10sに、成形型20の外周を取り囲むように配置されている。衝立11は、ステンレス製の円筒形状の壁部である。衝立11の上端11uは、成形型20の表面20sよりも上方側(+z方向側)に位置している。これにより、気流の外乱を遮断することができるため、火炎の揺らぎを抑制することが可能となる。火炎によって加熱された石英板30の温度分布を、中心軸CAと中心とした点対称とすることができるため、高対称なガラス振動子を再現性良く製造することが可能となる。また衝立11は成形型20とは接触していない。これにより、衝立11が成形型20を冷却するフィンとして機能してしまうことがない。
【0018】
制御部70は、穴部負圧発生手段81、可動機構53、ガス流量調整器52、放射温度計60、チラー設備42に接続されており、これらの機器から各種情報を取得するとともに、これらの機器を制御する。制御部70は、例えばPCであってもよい。
【0019】
(ガラス振動子の製造工程)
図3のフロー図を用いて、ガラス振動子の製造工程を説明する。また図4に、タイミングチャートを示す。図4(A)の縦軸は、穴部20hの圧力である。図4(B)の縦軸は、バーナ50の先端50sと石英板30の表面との距離である。図4(C)の縦軸は、支柱上面TSの表面温度である。
【0020】
ステップS10において、制御部70は、チラー設備42によって40℃に制御された冷媒を、ヒートシンク40の循環配管41に供給し循環させる。ステップS20において、プレート10の表面10sに、成形型20を設置する。
【0021】
ステップS30において、成形型20の表面20sに石英板30を配置する。このとき、中心軸CAと石英板30の中心とが一致するように位置決めする。石英板30の下面と支柱上面TSとの間には、ギャップGA1が存在している。ステップS35において、プレート10の表面10sに、衝立11を設置する。
【0022】
ステップS40において、制御部70は、穴部負圧発生手段81を動作させる(図4、時刻t1参照)。これにより、第1連絡孔10c1および貫通孔20eを介して、穴部20hが第1の負圧NP1とされる。本実施例では、第1の負圧NP1は10kPaの負圧とした。ステップS50において制御部70は、放射温度計60によって、支柱20pの支柱上面TSの温度測定を開始する。
【0023】
ステップS60において、制御部70は、バーナ50に着火する(図4、時刻t2参照)。具体的には、ガス供給設備51から提供される燃料ガスG1および酸素ガスG2の流量を、ガス流量調整器52によって制御する。そして火炎が安定するまで待機する。本実施例では、着火後、プロパンの燃料ガスG1を流量1000sccm、酸素ガスG2を流量5000sccmに調節した。これにより、図1に示す状態となる。なお、時刻t2においてバーナ50は、初期位置に位置している。初期位置におけるバーナ50の先端50sと石英板30の表面との距離は、初期距離L0である(図1参照)。
【0024】
ステップS70において制御部70は、可動機構53を制御することで、バーナ50を一定速度で下降させる(図4、時刻t2-t4参照)。これにより、火炎による石英板30の加熱が行われる。本実施例では、バーナ50を50mm/秒の速度で下降させた。
【0025】
ステップS80において制御部70は、放射温度計60によって、支柱上面TSの瞬間的な温度上昇が検出されたか否かを判断する。瞬間的な温度上昇について説明する。加熱初期状態では、支柱20pの上面と石英板30の下面との間には、ギャップGA1が形成されており、接触していない。よって石英板30から支柱20pへは、熱伝導経路が形成されない。そのため石英板30の温度分布は、中心である支柱20pの近傍領域が最も高く、支柱20pの外周方向に離れるほど低下する分布となる。そして石英板30の中心が最初に軟化温度に到達し、溶融変形が開始される。そのため図5に示すように、石英板30の中央部が支柱上面TSに接触する。石英板30の中央部に蓄積されていた熱が、接触により支柱20pへ排熱されるため、支柱上面TSの温度が瞬間的に上昇する(図4(C)、領域A1参照)。また石英板30の中央部の温度が急激に低下し、石英板30中央部近傍の変形が停止する。以上説明したように、支柱上面TSの瞬間的な温度上昇を検出することで、石英板30が変形開始したことを検出することができる。
【0026】
時刻t3において石英板30の変形開始が検知されると(S80:YES)、ステップS85へ進む。ステップS85において制御部70は、石英板30の変形開始が検出されてから第2所定時間PT2の経過後に、バーナ50の下降を停止する(図4、時刻t4、矢印Y1参照)。これにより、バーナ50と石英板30との距離を、変形開始距離L1からさらに所定距離PLだけ近づけた距離L2にすることができる(図4(B)参照)。本実施例では、第2所定時間PT2を3秒、所定距離PLを150mmとした。
【0027】
ステップS90において、制御部70は、石英板30の変形開始が検出されてから第1所定時間PT1の経過後に、穴部20hの負圧を、第1の負圧NP1からさらに負側に大きくする(図4、時刻t5、矢印Y2参照)。具体的には、第2の負圧NP2に到達するまで、一定の速度で真空引きを行う。本実施例では、第1所定時間PT1を10秒、第2の負圧NP2を75kPaの負圧とし、10kPa/秒の速度で真空引きを行った。これにより、火炎からの入熱、および、穴部20hに発生した負圧と大気圧との差圧による分布荷重によって、穴部20hに入り込むように石英板30を溶融変形させることができる。これにより、図6に示すように、石英板30を所望の形状に溶融変形させることができる。
【0028】
ステップS100において、制御部70は、穴部20hの負圧が第2の負圧NP2(75kPa)に到達したか否かを判断する。時刻t6において、第2の負圧NP2に到達したことが検知されると(S100:YES)、ステップS110へ進む。
【0029】
ステップS110において制御部70は、第2の負圧NP2に到達してから第3所定時間PT3の経過後に、バーナ50を上昇開始させる(図4、時刻t7参照)。本実施例では、第3所定時間PT3を10秒とし、バーナ50の上昇速度を200mm/秒とした。時刻t8において、バーナ50が初期位置まで上昇すると、バーナ50の移動を停止するとともに火炎を消火する。
【0030】
ステップS120において制御部70は、火炎を消火してから第4所定時間PT4の経過後に、穴部負圧発生手段81による真空引きを停止する(図4、時刻t9参照)。これにより、穴部20hが大気開放される。本実施例では、第4所定時間PT4を3秒とした。ステップS130において、溶融成形された石英板30を成形型20から取り外す。これにより、ガラス振動子が完成する。
【0031】
(効果)
バーナ50による入熱分布の揺らぎにより、石英板30の温度上昇分布にばらつきが発生する場合がある。この場合、局所的に軟化温度に到達した箇所から溶融成形が開始されてしまう。その結果、ガラス振動子の形状が非対称になってしまう。本実施例の技術によると、第1の負圧NP1によって石英板30を成形型20の表面20sに吸着固定することができる(ステップS40)。そして、加熱工程により石英板30が変形して支柱上面TSに接触したことを、支柱上面TSの瞬間的な温度上昇によって検出することができる(ステップS80)。このとき、第2の負圧NP2よりも小さい第1の負圧NP1を用いているため、局所的に軟化温度に到達した箇所が発生した場合においても、溶融変形が開始することを抑制できる。これにより、変形開始させずに、石英板30の加工領域全体を加熱することができる。そして、支柱20pを中心とした同心円状に均一に軟化温度まで加熱してから、第2の負圧NP2を印加することで、加工領域の全体を一様に溶融変形開始させることができる。穴部20h上の石英板30の何れの場所においても、同時に溶融変形を開始させることができる。従って、中心軸CAに対して高い対称性形状を有するガラス振動子を、高い再現性で加工することができる。本技術で製造された高対称性形状を有するガラス振動子は、振動ロスの少ない高いQ値を有するため、高精度のジャイロセンサを作製することが可能となる。
【0032】
ガラス振動子の溶融成形においては、様々な製造パラメータにばらつきが存在する。例えば、火炎の揺らぎによる入熱量ばらつき、石英板30の厚さの面内ばらつきやロット間ばらつき、環境ばらつき(気温、湿度)、などである。これらの製造パラメータばらつきの影響により、石英板30の温度分布や温度上昇傾きもばらついてしまうため、ガラス振動子の加工形状の再現性が低くなる問題があった。本実施例の技術では、支柱上面TSの瞬間的な温度上昇を検出することで、石英板30の変形開始時点を検出することができる(ステップS80)。すなわち、製造パラメータがばらつく場合においても、変形開始という一定状態が発生した時点を検出することができる。そして、変形開始時点を基準として加熱時間や入熱量を制御できるため、製造パラメータのばらつきの影響を抑制することができる。ガラス振動子の加工形状の再現性を高めることが可能となる。
【0033】
石英板30の変形開始が検出されてから、第1所定時間PT1(10秒)が経過するまで、穴部20hの圧力を第1の負圧NP1に維持することができる(ステップS90)。これにより、第1所定時間PT1の間、石英板30を変形させずに加熱することができる。よって石英板30を、支柱20pを中心とした同心円状に、均一加熱することが可能となる。
【0034】
石英板30の変形開始が検出されてから、第2所定時間PT2(3秒)が経過するまで、バーナ50の下降状態を維持することができる(ステップS85)。第2所定時間PT2を大きくするほど、バーナ50と石英板30との距離を小さくすることができるため、石英板30への入熱量を大きくすることができる。その結果、石英板30の下方側への変形量を大きくできるため、完成したガラス振動子の高さを高くすることが可能となる。
【実施例0035】
実施例2では、バーナ50の下降を停止するタイミング(ステップS85)や、第1の負圧NP1からさらに負側に大きくするタイミング(ステップS90)の様々な変形例について説明する。
【0036】
図7に、第1変形例のタイミングチャートを示す。図7の内容は、実施例1の図4の内容と同様である。同一部位には同一符号を付すことで、説明を省略する。第1変形例では、支柱上面TSの瞬間的な温度上昇を検出(S80)した直後に、バーナ50の下降を停止(S85)する(矢印Y11参照)。また同時に、穴部20hの負圧を、第1の負圧NP1からさらに負側に大きくする(S90)(矢印Y12参照)。これによっても、ガラス振動子の加工形状の再現性を高めることが可能となる。
【0037】
図8に、第2変形例のタイミングチャートを示す。第2変形例では、支柱上面TSの瞬間的な温度上昇を検出(S80)した直後に、バーナ50の下降を停止(S85)する(矢印Y21参照)。そして、温度上昇を検出(S80)してから第1所定時間PT1の経過後に、穴部20hの負圧を、第1の負圧NP1からさらに負側に大きくする(S90)(矢印Y22参照)。これにより、第1所定時間PT1の間、石英板30を変形させずに加熱することができる。
【0038】
図9に、第3変形例のタイミングチャートを示す。第3変形例では、支柱上面TSの瞬間的な温度上昇を検出(S80)した直後に、穴部20hの負圧を、第1の負圧NP1からさらに負側に大きくする(S90)(矢印Y32参照)。そして、温度上昇を検出(S80)してから第2所定時間PT2の経過後に、バーナ50の下降を停止(S85)する(矢印Y31参照)。これにより、石英板30への入熱量を大きくすることができる。
【実施例0039】
ステップS80において石英板30の変形開始が検知されると(S80:YES)、制御部70は、ガス流量調整器52を制御する。これにより、燃料ガスG1や酸素ガスG2の流量を変化させることができる。
【0040】
燃料ガスG1や酸素ガスG2の流量を減少させる場合には、火力を小さくすることができる。入熱量を減少させることができるため、石英板30の変形速度を低下させることが可能となる。よって、ガラス振動子の加工対称性をより高めることが可能となる。
【0041】
また、燃料ガスG1や酸素ガスG2の流量を増加させる場合には、火力を大きくすることができる。入熱量を増大させることができるため、石英板30の変形速度を上昇させることが可能となる。よって、ガラス振動子の加工形状の再現性を高めることが可能となる。
【0042】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【0043】
(変形例)
振動子の材料は、石英板30に限られない。石英にナトリウム等を混ぜたボロシリケートガラスや、その他のガラス材でもよい。
【0044】
以下に、本技術の態様を列挙する。
[態様1]
溶融成形型を用いたガラス振動子の製造方法であって、
前記溶融成形型は、平坦な表面と、前記表面の一部に形成されている穴部と、前記穴部の底面から上方へ延びている支柱と、を備えており、
前記支柱の支柱上面は、前記溶融成形型の前記表面よりも低い位置に存在しており、
ガラス振動子の製造方法は、
前記溶融成形型の前記表面に、前記穴部を覆うとともに前記支柱上面から離間するように板状の被加工材料を配置する配置工程と、
前記穴部に第1の負圧を発生させる第1負圧発生工程と、
前記第1負圧発生工程の後に、前記被加工材料の上面を加熱手段で加熱する加熱工程と、
前記加熱工程により前記被加工材料が変形して前記支柱上面に接触したことによる、前記支柱上面の瞬間的な温度上昇を検出する検出工程と、
前記温度上昇が検出されたことに応じて、前記穴部の負圧を前記第1の負圧からさらに負側に大きくする第2負圧発生工程と、
を備える、ガラス振動子の製造方法。
[態様2]
前記第2負圧発生工程は、前記温度上昇が検出された直後、または、前記温度上昇が検出されてから第1所定時間の経過後に行われる、態様1に記載のガラス振動子の製造方法。
[態様3]
前記加熱工程では、前記加熱手段を前記支柱に所定速度で近づけており、
前記温度上昇が検出された直後、または、前記温度上昇が検出されてから第2所定時間の経過後に、前記加熱手段の移動を停止する工程をさらに備える、態様1または2に記載のガラス振動子の製造方法。
[態様4]
前記加熱手段は、燃料ガスを用いて火炎を生成する装置であり、
前記温度上昇が検出されることに応じて、前記燃料ガスの供給量を変化させる工程をさらに備える、態様1-3の何れか1項に記載のガラス振動子の製造方法。
[態様5]
平坦な表面と、前記表面の一部に形成されている穴部と、前記穴部の底面から上方へ延びている支柱と、を備える溶融成形型であって、前記支柱の支柱上面が前記表面よりも低い位置に存在しており、前記穴部を覆うとともに前記支柱上面から離間するように板状の被加工材料を前記表面に配置することが可能に構成されている、前記溶融成形型と、
前記支柱上面の温度を計測可能に構成されている温度計と、
前記被加工材料が配置されている状態の前記穴部を加熱することが可能に構成されている加熱手段と、
前記被加工材料が配置されている状態の前記穴部に負圧を発生させることが可能に構成されている穴部負圧発生手段と、
を備える溶融成形装置であって、
前記温度計は、前記加熱手段により前記被加工材料が変形して前記支柱上面に接触したことによる、前記支柱上面の瞬間的な温度上昇を検出可能に構成されており、
前記穴部負圧発生手段は、前記温度上昇が前記温度計で検出されたことに応じて、前記穴部の負圧をさらに負側に大きくすることが可能に構成されている、
溶融成形装置。
[態様6]
前記穴部負圧発生手段は、前記温度上昇が前記温度計で検出された直後、または、前記温度上昇が前記温度計で検出されてから第1所定時間の経過後に、前記穴部の負圧をさらに負側に大きくすることが可能に構成されている、態様5に記載の溶融成形装置。
[態様7]
前記加熱手段は、前記支柱に近づく方向に所定速度で移動可能に構成されており、
前記加熱手段は、前記温度上昇が前記温度計で検出された直後、または、前記温度上昇が前記温度計で検出されてから第2所定時間の経過後に、移動を停止することが可能に構成されている、態様5または6に記載の溶融成形装置。
[態様8]
前記加熱手段は、燃料ガスを用いて火炎を生成する装置であり、
前記加熱手段は、前記温度計で温度上昇が検出されることに応じて、前記燃料ガスの供給量を変化させることが可能に構成されている、態様5-7の何れか1項に記載の溶融成形装置。
[態様9]
前記溶融成形型の外周を取り囲む壁部をさらに備え、
前記壁部の上端は、前記溶融成形型の前記表面よりも上方に位置している、態様5-8の何れか1項に記載の溶融成形装置。
[態様10]
前記溶融成形型の裏面側に配置されており、一定温度を維持することが可能に構成されているヒートシンクをさらに備える、態様5-9の何れか1項に記載の溶融成形装置。
【符号の説明】
【0045】
1:溶融成形装置 10:プレート 20:成形型 20h:穴部 20p:支柱 30:石英板 50:バーナ 60:放射温度計 70:制御部 81:穴部負圧発生手段 TS 支柱上面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9