(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136147
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】成形用材料の製造方法および成形用材料
(51)【国際特許分類】
C08B 3/08 20060101AFI20240927BHJP
C08L 1/10 20060101ALI20240927BHJP
C08L 23/02 20060101ALI20240927BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08B3/08
C08L1/10
C08L23/02
C08L67/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047142
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 篤志
(72)【発明者】
【氏名】横川 忍
(72)【発明者】
【氏名】保刈 宏文
(72)【発明者】
【氏名】柿下 元
【テーマコード(参考)】
4C090
4J002
【Fターム(参考)】
4C090AA05
4C090BA25
4C090BB02
4C090BB12
4C090BB33
4C090BB36
4C090BB52
4C090BB65
4C090BB72
4C090BC08
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4C090CA38
4C090DA31
4J002AB02W
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4J002CF03X
4J002CF16X
4J002CF19X
4J002GG01
4J002GM00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】引張強度に優れた成形体の製造に好適に用いることができる成形用材料を提供すること、また、引張強度に優れた成形体の製造に好適に用いることができる成形用材料の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の成形用材料の製造方法は、セルロースと、アシル化剤と、溶媒とを含む混合物に、0.4GHz以上6.0GHz以下のマイクロ波を照射しつつ、前記セルロースのアシル化反応を行うアシル化工程を有し、前記溶媒は、イオン液体または塩を含む液体であり、前記混合物は、前記セルロースが有する全水酸基に対し、前記アシル化剤を0.2当量以上の割合で含んでいる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースと、アシル化剤と、溶媒とを含む混合物に、0.4GHz以上6.0GHz以下のマイクロ波を照射しつつ、前記セルロースのアシル化反応を行うアシル化工程を有し、
前記溶媒は、イオン液体または塩を含む液体であり、
前記混合物は、前記セルロースが有する全水酸基に対し、前記アシル化剤を0.2当量以上の割合で含んでいる、成形用材料の製造方法。
【請求項2】
前記混合物は、前記セルロースが有する全水酸基に対し、前記アシル化剤を8.0当量以下の割合で含んでいる、請求項1に記載の成形用材料の製造方法。
【請求項3】
前記アシル化工程で得られたセルロース誘導体と、熱可塑性樹脂とを混錬する混練工程をさらに有する、請求項1または2に記載の成形用材料の製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂がポリ乳酸を含むものである、請求項3に記載の成形用材料の製造方法。
【請求項5】
セルロースが有する少なくとも一部の水酸基がアシル化されたセルロース誘導体と、
イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、リチウムイオンおよび塩化物イオンよりなる群から選択される少なくとも1種のイオンと、を含み、
前記セルロース誘導体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定される分子量分布において、ピークトップ分子量の1/4以下の分子量を有する低分子量成分の含有率が15%以下であり、
温度23℃、相対湿度50%における導電率が1.0×10-6S/cm以上である、成形用材料。
【請求項6】
前記成形用材料の温度23℃、相対湿度50%における導電率が1.0×107S/cm以下である、請求項5に記載の成形用材料。
【請求項7】
さらに、熱可塑性樹脂を含む、請求項5または6に記載の成形用材料。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂がポリ乳酸を含むものである、請求項7に記載の成形用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形用材料の製造方法および成形用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
石油枯渇対策や温暖化対策として、従来のプラスチック材料から、植物由来で豊富な天然素材であるセルロースを利用した成形用材料に置き換える試みが検討されている。
【0003】
例えば、セルロース繊維および樹脂等を含む成形用材料が知られている。しかしこのような成形用材料を用いて製造された成形体は、耐久性が低いという問題がある。
【0004】
これに対し、熱可塑性、耐水性、衝撃強度等を向上させた成形体に適用する目的で、セルロースの水酸基の水素原子が、炭素数2の短鎖有機基、炭素数3~5の中鎖有機基および炭素数6~30の長鎖有機基により、所定の割合で置換されたセルロース誘導体が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のセルロース誘導体を用いて成形体を製造する場合、混練時、成形時等の熱と機械攪拌等によって、セルロース骨格の一部が剪断力を受けて分解し、低分子成分が生じてしまい、製造される成形体の機械的強度が低下するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することができる。
【0008】
本発明の適用例に係る成形用材料の製造方法は、セルロースと、アシル化剤と、溶媒とを含む混合物に、0.4GHz以上6.0GHz以下のマイクロ波を照射しつつ、前記セルロースのアシル化反応を行うアシル化工程を有し、
前記溶媒は、イオン液体または塩を含む液体であり、
前記混合物は、前記セルロースが有する全水酸基に対し、前記アシル化剤を0.2当量以上の割合で含んでいる。
【0009】
本発明の適用例に係る成形用材料は、セルロースが有する少なくとも一部の水酸基がアシル化されたセルロース誘導体と、
イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、リチウムイオンおよび塩化物イオンよりなる群から選択される少なくとも1種のイオンと、を含み、
前記セルロース誘導体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定される分子量分布において、ピークトップ分子量の1/4以下の分子量を有する低分子量成分の含有率が15%以下であり、
温度23℃、相対湿度50%における導電率が1.0×10-6S/cm以上である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、各実施例および各比較例に係る熱可塑性樹脂を含まない成形用材料の製造条件、ならびに、熱可塑性樹脂を含まない成形用材料および熱可塑性樹脂を含む成形用材料についての測定結果・評価結果をまとめて示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[1]成形用材料
まず、本発明の成形用材料について説明する。
【0012】
本発明の成形用材料は、セルロースが有する少なくとも一部の水酸基がアシル化されたセルロース誘導体と、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、リチウムイオンおよび塩化物イオンよりなる群から選択される少なくとも1種のイオンと、を含む。そして、成形用材料中に含まれる前記セルロース誘導体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定される分子量分布において、ピークトップ分子量の1/4以下の分子量を有する低分子量成分の含有率が15%以下である。そして、温度23℃、相対湿度50%における成形用材料の導電率は、1.0×10-6S/cm以上である。
【0013】
これにより、引張強度に優れた成形体の製造に好適に用いることができる成形用材料を提供することができる。また、成形体を製造する際の成形性に優れた成形用材料を提供することができる。また、成形用材料を用いて製造される成形体の帯電を好適に防止することができる。
【0014】
これに対し、上記のような条件を満たさない場合には、満足のいく結果が得られない。
例えば、セルロースが有する少なくとも一部の水酸基がアシル化されたセルロース誘導体を含んでいたとしても、上記のような所定のイオンを含んでいないと、成形用材料を用いて製造される成形体の引張強度や成形体を製造する際の成形性を十分に優れたものとすることができない。
【0015】
また、前記セルロース誘導体の前記低分子量成分の含有率が高すぎると、成形用材料を用いて製造される成形体の引張強度を十分に優れたものとすることができない。
【0016】
温度23℃、相対湿度50%における導電率が低すぎると、成形用材料を用いて製造される成形体は帯電しやすいものとなる。
【0017】
本発明の成形用材料は、後述するような方法で好適に製造することができる。
[1-1]セルロース誘導体
本発明の成形用材料は、セルロースが有する少なくとも一部の水酸基がアシル化されたセルロース誘導体を含んでいる。
【0018】
すなわち、本発明の成形用材料中に含まれる前記セルロース誘導体は、Rを炭化水素基としたときに、セルロースが有する-OHの少なくとも一部が-OCORの構造に変換された化学構造を有するものである。
【0019】
このようなセルロース誘導体を後に詳述するような特定のイオンとともに含むことにより、成形体を製造する際の成形性や、成形用材料を用いて製造される成形体の引張強度を優れたものとすることができる。
【0020】
前記セルロース誘導体は、分子内に1種のアシル基を含むものであってもよいし、複数種のアシル基を含むものであってもよい。
【0021】
前記Rは、炭化水素基であればよく、芳香族性の炭化水素基であってもよいが、脂肪族性の炭化水素基であるのが好ましい。
【0022】
これにより、成形体を製造する際の成形性や、成形用材料を用いて製造される成形体の引張強度をより優れたものとすることができる。
【0023】
また、前記Rは、例えば、直鎖状の炭化水素基であってもよいし、分岐鎖状の炭化水素基であってもよい。
【0024】
前記Rの炭素数は、1以上18以下であるのが好ましく、2以上6以下であるのがより好ましく、2以上4以下であるのがさらに好ましい。
【0025】
これにより、成形体を製造する際の成形性や、成形用材料を用いて製造される成形体の引張強度をより優れたものとすることができる。特に、成形用材料がセルロースを含む場合であっても、セルロースと前記セルロース誘導体との親和性をより優れたものとすることができ、成形体を製造する際の成形性や、成形用材料を用いて製造される成形体の引張強度をより優れたものとすることができる。
【0026】
なお、前記セルロース誘導体が、分子内に複数種のアシル基を含むものである場合、これら複数種のアシル基を構成する前記Rの炭素鎖長の加重平均値が上記の条件を満たしているのが好ましい。
【0027】
また、前記Rは、炭化水素基であればよいが、アルキル基であるのが好ましい。
これにより、成形体を製造する際の成形性や、成形用材料を用いて製造される成形体の引張強度をより優れたものとすることができる。
【0028】
前記セルロース誘導体のDS値、すなわち、セルロースが有する全水酸基のうちアシル基でエステル化されたものの割合である置換度は、0.2以上3.0以下であるのが好ましく、1.0以上2.8以下であるのがより好ましく、2.0以上2.6以下であるのがさらに好ましい。
【0029】
これにより、成形体を製造する際の成形性や、成形用材料を用いて製造される成形体の引張強度をより優れたものとすることができる。特に、成形用材料がセルロースを含む場合であっても、セルロースと前記セルロース誘導体との親和性をより優れたものとすることができ、成形体を製造する際の成形性や、成形用材料を用いて製造される成形体の引張強度をより優れたものとすることができる。
【0030】
本発明の成形用材料は、少なくとも1種の前記セルロース誘導体を含んでいればよく、複数種の前記セルロース誘導体を含んでいてもよい。
【0031】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより求められる前記セルロース誘導体の重量平均分子量は、10,000以上500,000以下であるのが好ましく、100,000以上450,000以下であるのがより好ましく、200,000以上400,000以下であるのがさらに好ましい。
【0032】
これにより、成形体を製造する際の成形性や、成形用材料を用いて製造される成形体の引張強度をより優れたものとすることができる。
【0033】
前記セルロース誘導体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定される分子量分布において、ピークトップ分子量の1/4以下の分子量を有する低分子量成分の含有率が15%以下であるが、前記低分子量成分の含有率は、12%以下であるのが好ましく、10%以下であるのがより好ましく、7%以下であるのがさらに好ましく、5%以下であるのが最も好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0034】
前記セルロース誘導体のガラス転移温度は、80℃以上200℃以下であるのが好ましく、90℃以上180℃以下であるのがより好ましく、100℃以上170℃以下であるのがさらに好ましい。
【0035】
これにより、成形体を製造する際の成形性や、成形用材料を用いて製造される成形体の引張強度をより優れたものとすることができる。
【0036】
前記セルロース誘導体は、アシル化剤を用いてセルロースをアシル化することにより好適に合成することができる。前記セルロース誘導体の合成については、後に詳述する。
【0037】
本発明の成形用材料中における前記セルロース誘導体の含有量は、10.0質量%以上99.8質量%以下であるのが好ましく、20.0質量%以上99.5質量%以下であるのがより好ましく、40.0質量%以上99.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0038】
これにより、成形体を製造する際の成形性や、成形用材料を用いて製造される成形体の引張強度をより優れたものとすることができる。
【0039】
[1-2]特定イオン
本発明の成形用材料は、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、リチウムイオンおよび塩化物イオンよりなる群から選択される少なくとも1種のイオンである特定イオンを含む。
【0040】
本発明の成形用材料中に含まれる特定イオンは、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、リチウムイオンおよび塩化物イオンよりなる群から選択される少なくとも1種のイオンであるが、中でも、イミダゾリウムイオンが好ましい。
【0041】
これにより、成形体を製造する際の成形性や、成形用材料を用いて製造される成形体の引張強度をより優れたものとすることができる。
【0042】
特定イオンは、成形用材料中において、例えば、セルロース誘導体との間で、塩を形成していてもよい。
【0043】
本発明の成形用材料中における特定イオンの含有量は、0.01質量%以上5.0質量%以下であるのが好ましく、0.05質量%以上1.0質量%以下であるのがより好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0044】
これにより、成形体を製造する際の成形性や、成形用材料を用いて製造される成形体の引張強度をより優れたものとすることができる。
【0045】
[1-3]熱可塑性樹脂
本発明の成形用材料は、前記セルロース誘導体および特定イオンに加えて、さらに、熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。
【0046】
これにより、本発明の成形用材料の熱可塑性がより優れたものとなり、成形体を製造する際の成形性がより優れたものとなる。また、成形用材料や成形用材料を用いて製造される成形体中における均一性が向上し、成形体において、より優れた物性、例えば、引張強度等が発揮される。
【0047】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル等のポリエステル等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
脂肪族ポリエステルは、芳香族性の化学構造を有していないポリエステルであり、構成モノマーのすべてが、芳香族性の化学構造を有していないポリエステルである。脂肪族ポリエステルとしては、例えば、構成モノマーとしての多価カルボン酸成分、多価アルコール成分のいずれもが、脂肪族性のアルキレン基を有するものが挙げられる。また、脂肪族ポリエステルは、分子内に水酸基およびカルボキシル基を有するモノマーで構成されたものであってもよい。分子内に水酸基およびカルボキシル基を有するモノマーで構成された脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリ乳酸等が挙げられる。
【0049】
脂肪族ポリエステルが、脂肪族性のアルキレン基を有する多価カルボン酸成分と、脂肪族性のアルキレン基を有する多価アルコール成分とが重合した化学構造を有するものである場合、当該脂肪族ポリエステルは、炭素鎖長が2以上6以下のアルキレン基を有するアルキレンジカルボン酸と、炭素鎖長が2以上8以下のアルキレン基を有するアルキレンジオールと、が縮合した化学構造を有するものであるのが好ましい。
【0050】
特に、本発明の成形用材料が熱可塑性樹脂としてポリ乳酸を含むものであると、以下の点で有利である。すなわち、ポリ乳酸は、生物由来原料より製造できるため、熱可塑性樹脂と混錬させる場合でも地下資源の消費を抑制することができる。また、上述したような成形性の向上や成形用材料を用いて製造される成形体の物性の向上等の効果も十分に発揮される。
【0051】
本発明の成形用材料が熱可塑性樹脂を含むものである場合、本発明の成形用材料中における熱可塑性樹脂の含有量は、10.0質量%以上80.0質量%以下であるのが好ましく、15.0質量%以上75.0質量%以下であるのがより好ましく、20.0質量%以上58.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0052】
本発明の成形用材料がポリ乳酸を含むものである場合、本発明の成形用材料中に含まれる熱可塑性樹脂全体に占めるポリ乳酸の割合は、50.0質量%以上であるのが好ましく、60.0質量%以上であるのがより好ましく、70.0質量%以上であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0053】
本発明の成形用材料が熱可塑性樹脂を含むものである場合、本発明の成形用材料中における前記セルロース誘導体の含有量をXC[質量%]、熱可塑性樹脂の含有量をXR[質量%]としたとき、0.12≦XR/XC≦4.1の関係を満たすのが好ましく、0.18≦XR/XC≦3.1の関係を満たすのがより好ましく、0.26≦XR/XC≦1.3の関係を満たすのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0054】
[1-4]溶媒
本発明の成形用材料は、溶媒を含んでいてもよい。
このような溶媒は、例えば、前記セルロース誘導体を溶解することができる。
【0055】
溶媒としては、例えば、臭化1-アリル-3-ブチルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルピリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N-メチル-N-プロピルピロリヂウムビス(フルオロスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド、ヨウ化ジメチルプロピルイミダゾリウム、ヨウ化ブチルメチルイミダゾリウム、ヨウ化1,2-ジメチル-3-n-プロピルイミダゾイニウム塩、ヨウ化1-メチル-3-n-ヘキシルイミダゾリニウム塩、1,2-ジメチル-3-エチルイミダゾリウムトリフロオロメタンスルホン酸塩、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウムノナフルオロブチルスルホン酸塩、1-メチル-3-エチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチル)スルホニルイミド、1-メチル-3-n-ヘキシルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチル)スルホニルイミド、1-メチル-3-n-ヘキシルイミダゾリウムジシアナミド、リチウムビスフルオロスルホニルイミド、リチウムビストリフルオロスルホロメタンスルホニルイミド、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド、1-エチル-3-ブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート等のイオン液体、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等の1価のアルコール、エチレングリコール、プロパングリコール、ブタンジオール等の2価のアルコール、ジエチレングルコール、ジプロピレングリコール等のエーテル結合を含む2価のアルコール、グリセリン等の3価のアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、メチルホルムアミド、酢酸エチル、テトラヒドロフラン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0056】
本発明の成形用材料が溶媒を含むものである場合、当該溶媒は、成形用材料中において、前述した特定イオンを溶解していてもよい。言い換えると、特定イオンを含む液体が前記セルロース誘導体を溶解する溶媒として機能してもよい。
【0057】
本発明の成形用材料が溶媒を含むものである場合、本発明の成形用材料中における溶媒の含有量は、0.1質量%以上80.0質量%以下であるのが好ましく、0.2質量%以上70.0質量%以下であるのがより好ましく、0.5質量%以上65.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0058】
なお、本発明の成形用材料が溶媒を含むものである場合、当該溶媒は、例えば、成形体の製造に際して、除去されるものであってもよい。
【0059】
[1-5]その他の成分
本発明の成形用材料は、前述した成分以外の成分を含んでいてもよい。以下、この項目内で、このような成分を「その他の成分」とも言う。
【0060】
その他の成分としては、例えば、難燃剤、着色剤、防虫剤、防カビ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、凝集抑制剤、離型剤、セルロース、前記セルロース誘導体以外の誘導体、ヘミセルロース、リグニン、アシル化剤、有機酸、前記特定イオン以外のイオン等が挙げられる。
【0061】
ただし、本発明の成形用材料中におけるその他の成分の含有量は、10.0質量%以下であるのが好ましく、7.0質量%以下であるのがより好ましく、5.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0062】
[1-6]成形用材料の特性
前述したように、本発明の成形用材料の温度23℃、相対湿度50%における導電率は、1.0×10-6S/cm以上であるが、1.0×10-4S/cm以上であるのが好ましく、1.0×10-2S/cm以上であるのがより好ましく、1.0S/cm以上であるのがさらに好ましい。
【0063】
これにより、成形用材料を用いて製造される成形体の帯電をより好適に防止することができる。
【0064】
また、本発明の成形用材料の温度23℃、相対湿度50%における導電率は、1.0×1011S/cm以下であるのが好ましく、1.0×107S/cm以下であるのがより好ましく、1.0×103S/cm以下であるのがさらに好ましい。
これにより、成形体を製造する際の成形性をより優れたものすることができる。
【0065】
[2]成形用材料の製造方法
次に、本発明の成形用材料の製造方法について説明する。
【0066】
本発明の成形用材料の製造方法は、セルロースと、アシル化剤と、溶媒とを含む混合物に、0.4GHz以上6.0GHz以下のマイクロ波を照射しつつ、前記セルロースのアシル化反応を行うアシル化工程を有している。
【0067】
そして、前記混合物に含まれる溶媒は、イオン液体または塩を含む液体であり、前記混合物は、前記セルロースが有する全水酸基に対し、前記アシル化剤を0.2当量以上の割合で含んでいる。
【0068】
これにより、引張強度に優れた成形体の製造に好適に用いることができる成形用材料の製造方法を提供することができる。また、成形体を製造する際の成形性を優れたものすることができる。また、得られる成形体の帯電を好適に防止することができる。
【0069】
これに対し、上記のような条件を満たさない場合には、満足のいく結果が得られない。
例えば、セルロースとアシル化剤とを反応させる工程を有していても、当該工程をマイクロ波の照射なしで行うと、熱と機械攪拌によって、セルロースの一部が剪断力を受けて分解し、低分子成分が生じて成形体の機械的強度が低下するという問題が生じる。
【0070】
また、前記工程でマイクロ波の照射を行う場合であっても、当該マイクロ波の周波数が前記下限値未満であると、前記セルロース誘導体の低分子量成分の割合が大きくなりすぎ、成形用材料を用いて製造される成形体の引張強度を十分に優れたものとすることができない。
【0071】
また、前記工程でマイクロ波の照射を行う場合であっても、当該マイクロ波の周波数が前記上限値を超えると、前記セルロース誘導体の低分子量成分の割合が大きくなりすぎ、成形用材料を用いて製造される成形体の引張強度を十分に優れたものとすることができない。
【0072】
また、セルロースとアシル化剤とを反応させる工程を有していても、当該工程で溶媒として、イオン液体または塩を含む液体を用いない場合には、前記セルロース誘導体の低分子量成分の割合が大きくなりすぎ、成形用材料を用いて製造される成形体の引張強度を十分に優れたものとすることができない。
【0073】
また、アシル化工程におけるアシル化剤の使用量が前記下限値未満であると、アシル化の反応が好適に進行せず、成形用材料を用いて製造される成形体の引張強度を十分に優れたものとすることができない。
【0074】
[2-1]アシル化工程
本発明の成形用材料の製造方法は、セルロースと、アシル化剤と、溶媒とを含む混合物に、0.4GHz以上6.0GHz以下のマイクロ波を照射しつつ、前記セルロースのアシル化反応を行うアシル化工程を有している。
【0075】
[2-1-1]セルロース
セルロースは、植物由来で豊富な天然素材である。そのため、セルロースを原料として用いることにより、環境問題や埋蔵資源の節約等に好適に対応することができるとともに、成形用材料やそれを用いて製造される成形体の安定供給、コスト低減等の観点からも好ましい。また、セルロースは、理論上の剛性が特に高いものであり、化学修飾により誘導体化して得られる前記セルロース誘導体も理論上の剛性に優れたものである。したがって、成形体の剛性の向上の観点からも有利である。
【0076】
アシル化工程に用いられるセルロースは、あらかじめ精製処理が施されたものであってもよいし、ヘミセルロースやリグニン等の不純物を含むものであってもよい。より具体的には、セルロースとしては、バージンパルプを用いてもよいし、古紙、古布等を再利用してもよい。
【0077】
アシル化工程に供される混合物中におけるセルロースの含有量は、20.0質量%以上95.0質量%以下であるのが好ましく、30.0質量%以上90.0質量%以下であるのがより好ましく、50.0質量%以上87.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0078】
これにより、原料としてのセルロースをより高い反応率でアシル化することができるとともに、溶媒やアシル化剤の使用量を効果的に抑制することができる。
【0079】
[2-1-2]アシル化剤
アシル化剤は、セルロースと反応し、セルロースが有する水酸基の少なくとも一部をアシル化する機能を有する。
【0080】
アシル化剤が有するアシル基の炭素数は、特に限定されないが、2以上7以下であるのが好ましい。
【0081】
アシル化剤としては、例えば、カルボン酸無水物、カルボン酸ハロゲン化物、カルボン酸等が挙げられ、これらよりなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0082】
カルボン酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水ブタン酸等が挙げられる。カルボン酸ハロゲン化物としては、例えば、フッ化アセチル、フッ化プロピオニル、フッ化ブチリル等のフッ化アシル、塩化アセチル、塩化プロピオニル、塩化ブチリル等の塩化アシル、臭化アセチル、臭化プロピオニル、臭化ブチリル等の臭化アシル、ヨウ化アセチル、ヨウ化プロピオニル、ヨウ化ブチリル等のヨウ化アシル等が挙げられる。カルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸等が挙げられる。
【0083】
アシル化剤は、前記混合物中に含まれるセルロースが有する全水酸基に対し、0.2当量以上の割合で用いられるものであればよいが、0.5当量以上の割合で用いられるものであるのが好ましく、1.0当量以上の割合で用いられるものであるのがより好ましく、3.0当量以上の割合で用いられるものであるのがさらに好ましい。
【0084】
これにより、十分な割合でセルロースが有する水酸基をアシル化することができ、得られる成形用材料を用いて成形体を製造する際の成形性や、成形用材料を用いて製造される成形体の引張強度をより優れたものとすることができる。
【0085】
アシル化剤は、前記混合物中に含まれるセルロースが有する全水酸基に対し、8.0当量以下の割合で用いられるものであるのが好ましく、7.5当量以下の割合で用いられるものであるのがより好ましく、7.0当量以下の割合で用いられるものであるのがさらに好ましい。言い換えると、前記混合物は、セルロースが有する全水酸基に対し、アシル化剤を8.0当量以下の割合で含んでいるのが好ましく、7.5当量以下の割合で含んでいるのがより好ましく、7.0当量以下の割合で含んでいるのがさらに好ましい。
【0086】
これにより、セルロースが有する水酸基を過剰にアシル化してしまうことを効果的に防止することができ、成形用材料に含まれる前記セルロース誘導体において、適度な割合で水素結合が形成されることとなり、成形用材料の成形性がより優れたものとなる。また、アシル化剤の使用量を抑制することができることから、成形用材料の製造コストの低減、省資源等の観点からも有利である。
【0087】
[2-1-3]溶媒
前記混合物中に含まれる溶媒は、例えば、前記混合物中に含まれる成分、例えば、アシル化剤の少なくとも一部を溶解する機能や、反応生成物である前記セルロース誘導体の少なくとも一部を溶解する機能を有するものである。
【0088】
前記混合物を構成する溶媒は、イオン液体または塩を含む液体である。
イオン液体としては、例えば、臭化1-アリル-3-ブチルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルピリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N-メチル-N-プロピルピロリヂウムビス(フルオロスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド、ヨウ化ジメチルプロピルイミダゾリウム、ヨウ化ブチルメチルイミダゾリウム、ヨウ化1,2-ジメチル-3-n-プロピルイミダゾイニウム塩、ヨウ化1-メチル-3-n-ヘキシルイミダゾリニウム塩、1,2-ジメチル-3-エチルイミダゾリウムトリフロオロメタンスルホン酸塩、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウムノナフルオロブチルスルホン酸塩、1-メチル-3-エチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチル)スルホニルイミド、1-メチル-3-n-ヘキシルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチル)スルホニルイミド、1-メチル-3-n-ヘキシルイミダゾリウムジシアナミド、リチウムビスフルオロスルホニルイミド、リチウムビストリフルオロスルホロメタンスルホニルイミド、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド、1-エチル-3-ブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0089】
イオン液体を用いる場合、当該イオン液体としては、イミダゾリウム塩構造を有しているものを用いるのが好ましい。
【0090】
これにより、セルロースや前記セルロース誘導体の溶解性をより優れたものとすることができ、アシル化反応をより好適に進行させることができるとともに、生成された前記セルロース誘導体を反応生成物中により高い均一性で含ませることができる。
【0091】
前記塩を構成する陽イオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン等の1価の陽イオン;マグネシウムイオン、カルシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン等の2価の陽イオン等が挙げられる。
【0092】
前記塩を構成する陰イオンとしては、例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン、硝酸イオン等の1価の陰イオン;硫酸イオン等の2価の陰イオン;リン酸イオン等の3価の陰イオン等が挙げられる。
前記塩の溶液としては、特に限定されないが、例えば、水溶液等が挙げられる。
【0093】
前記溶媒が塩を含む液体である場合、当該塩を溶解する成分としては、例えば、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等の1価のアルコール、エチレングリコール、プロパングリコール、ブタンジオール等の2価のアルコール、ジエチレングルコール、ジプロピレングリコール等のエーテル結合を含む2価のアルコール、グリセリン等の3価のアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、メチルホルムアミド、酢酸エチル、テトラヒドロフラン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0094】
アシル化工程に供される混合物中における前記溶媒の含有量は、2.0質量%以上75.0質量%以下であるのが好ましく、3.0質量%以上60.0質量%以下であるのがより好ましく、4.0質量%以上30.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0095】
これにより、過剰な溶媒を用いることなく、セルロースのアシル化反応をより好適に進行させることができる。
【0096】
[2-1-4]その他の成分
アシル化工程に供される混合物は、前述した成分以外の成分を含んでいてもよい。以下、この項目内で、このような成分を「その他の成分」とも言う。
【0097】
その他の成分としては、例えば、触媒、ヘミセルロース、リグニン、有機酸、前記特定イオン以外のイオン等が挙げられる。
【0098】
ただし、アシル化工程に供される混合物中におけるその他の成分の含有量は、10.0質量%以下であるのが好ましく、7.0質量%以下であるのがより好ましく、5.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0099】
[2-1-5]反応条件
アシル化工程では、前記混合物に、0.4GHz以上6.0GHz以下のマイクロ波を照射しつつ、セルロースのアシル化反応を行う。
【0100】
本工程で前記混合物に照射するマイクロ波の周波数は、0.4GHz以上6.0GHz以下であればよいが、0.5GHz以上5.8GHz以下であるのが好ましく、0.6GHz以上3.0GHz以下であるのがより好ましく、0.7GHz以上2.0GHz以下であるのがさらに好ましい。
【0101】
これにより、セルロースのアシル化反応をより好適に進行させることができ、製造される成形用材料中に含まれる前記セルロース誘導体の低分子量成分の割合をより小さくすることができ、成形用材料を用いて製造される成形体の引張強度をより優れたものとすることができる。また、成形用材料を用いて成形体を製造する際の成形性をより優れたものとすることができる。
【0102】
本工程での前記混合物へのマイクロ波の照射時間は、15分間以上600分間以下であるのが好ましく、30分間以上450分間以下であるのがより好ましく、60分間以上300分間以下であるのがさらに好ましい。
【0103】
これにより、製造される成形用材料中に含まれる前記セルロース誘導体の低分子量成分の割合をより小さくすることができ、成形用材料を用いて製造される成形体の引張強度をより優れたものとすることができる。また、成形用材料の生産性をより優れたものとすることができる。
【0104】
本工程では、混合物にマイクロ波を照射しないで、反応を進行させる時間を有していてもよい。
【0105】
このような時間を有する場合、本工程でのマイクロ波を照射しない時間は、60分間以下であるのが好ましく、30分間以下であるのがより好ましく、15分間以下であるのがさらに好ましい。
【0106】
本工程における前記混合物の温度は、5℃以上70℃以下であるのが好ましく、10℃以上60℃以下であるのがより好ましく、15℃以上50℃以下であるのがさらに好ましい。
【0107】
[2-2]セルロース誘導体分離工程
本発明の成形用材料の製造方法は、少なくともアシル化工程を有していればよいが、アシル化工程で得られた組成物から、前記セルロース誘導体を分離するセルロース誘導体分離工程を有していてもよい。
【0108】
これにより、前記セルロース誘導体を、過剰な溶媒、未反応のアシル化剤やセルロース、アシル化剤と水等との反応生成物等から、分離することができ、前記セルロース誘導体の純度、含有率を高めることができる。
【0109】
前記セルロース誘導体の分離は、例えば、アシル化工程で得られた組成物から前記セルロース誘導体を析出させ、当該セルロース誘導体を濾別することにより、行うことができる。
【0110】
前記セルロース誘導体の析出は、例えば、アシル化工程で得られた組成物を濃縮させる方法や、アシル化工程で得られた組成物に前記セルロース誘導体の貧溶媒を加える方法等が挙げられる。
【0111】
なお、セルロース誘導体分離工程では、前記セルロース誘導体以外の成分を実質的に完全に除去する必要はなく、所定の割合で、分離される前記セルロース誘導体は、前記溶媒等の他の成分を所定の割合で含んでいてもよい。
【0112】
ただし、本工程で分離される前記セルロース誘導体は、純度が、90質量%以上のものであるのが好ましく、95質量%以上のものであるのがより好ましい。
【0113】
[2-3]混練工程
本発明の成形用材料の製造方法は、前記セルロース誘導体と、熱可塑性樹脂とを混錬する混練工程をさらに有していてもよい。
【0114】
これにより、製造される成形用材料の熱可塑性がより優れたものとなり、成形体を製造する際の成形性がより優れたものとなる。また、成形用材料や成形用材料を用いて製造される成形体中における均一性が向上し、成形体において、より優れた物性、例えば、引張強度等が発揮される。
【0115】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル等のポリエステル等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0116】
特に、熱可塑性樹脂がポリ乳酸を含むものであると、以下の点で有利である。すなわち、ポリ乳酸は、生物由来原料より製造できるため、熱可塑性樹脂と混錬させる場合でも地下資源の消費を抑制することができる。また、上述したような成形性の向上や成形用材料を用いて製造される成形体の物性の向上等の効果も十分に発揮される。
【0117】
本工程で用いる熱可塑性樹脂がポリ乳酸を含むものである場合、本工程で用いる熱可塑性樹脂全体に占めるポリ乳酸の割合は、50.0質量%以上であるのが好ましく、60.0質量%以上であるのがより好ましく、70.0質量%以上であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0118】
本工程で用いる熱可塑性樹脂の使用量は特に限定されないが、本工程に供される前記セルロース誘導体の量をXC[質量部]、本工程に供される熱可塑性樹脂の量をXR[質量部]としたとき、0.12≦XR/XC≦4.1の関係を満たすのが好ましく、0.18≦XR/XC≦3.1の関係を満たすのがより好ましく、0.26≦XR/XC≦1.3の関係を満たすのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0119】
また、本工程では、熱可塑性樹脂とともに熱可塑性樹脂以外の成分を前記セルロース誘導体と混錬してもよい。以下、この項目内で、このような成分を「その他の成分」とも言う。
【0120】
その他の成分としては、例えば、難燃剤、着色剤、防虫剤、防カビ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、凝集抑制剤、離型剤、セルロース、前記セルロース誘導体以外の誘導体、前記特定イオン以外のイオン等が挙げられる。
【0121】
ただし、本工程に供される材料中に占めるその他の成分の含有量は、10.0質量%以下であるのが好ましく、7.0質量%以下であるのがより好ましく、5.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0122】
なお、その他の成分は、混練工程に供される前に、予め熱可塑性樹脂と混錬されたものであってもよい。
【0123】
本工程での混練には、例えば、一軸混錬機や二軸混錬機、多軸混練機、ミキサー、ロールバンバリー機を用いることができる。
【0124】
混練により得られたストランド状の成形用材料は、例えば、ストランド方式やウォータリングホットカット方式等のペレタイザーを用いてペレタイズ加工を施してペレット状の成形用材料としてもよい。
【0125】
[2-4]その他の工程
本発明の成形用材料の製造方法は、前述した工程以外の工程を有していてもよい、このような工程としては、例えば、セルロース繊維からの不純物の除去等を行う前処理工程、熱可塑性樹脂と混錬するのに先立ち、前記セルロース誘導体を洗浄する洗浄工程等の中間処理工程、混練物を所定形状に成形する後処理工程等が挙げられる。
【0126】
[3]成形体
次に、本発明の成形用材料を用いて製造される成形体について説明する。
【0127】
本発明に係る成形体は、セルロースが有する少なくとも一部の水酸基がアシル化されたセルロース誘導体と、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、リチウムイオンおよび塩化物イオンよりなる群から選択される少なくとも1種のイオンと、を含むものである。そして、前記セルロース誘導体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定される分子量分布において、ピークトップ分子量の1/4以下の分子量を有する低分子量成分の含有率が15%以下である。また、本発明に係る成形体は、前記セルロース誘導体と、前記イオンとを含む材料で構成された部位の温度23℃、相対湿度50%における導電率が1.0×10-6S/cm以上である。
【0128】
これにより、引張強度に優れた成形体を提供することができる。また、成形体の帯電を好適に防止することができる。
【0129】
上記のような、本発明に係る成形体は、前述した本発明の成形用材料を用いて好適に製造することができる。
【0130】
成形体を構成する各成分は、上記[1-1]~[1-5]で述べた条件を満たすものであるのが好ましい。ただし、成形体中における溶媒の含有量は、1.0質量%以下であるのが好ましい。
【0131】
成形体の形状は、特に限定されず、例えば、シート状、ブロック状、球状、三次元立体形状等、いかなるものであってもよい。
【0132】
成形体は、いかなる用途のものであってもよいが、例えば、プリンターの筐体等の各種筐体、インクカートリッジ、各種容器等が挙げられる。
【0133】
特に、本発明に係る成形体は、発塵が効果的に防止されているため、発塵の発生が特に問題となるインクカートリッジ等に好適に適用することができる。
【0134】
また、本発明に係る成形体は、効果的に帯電が防止されているため、摩擦による帯電が生じやすい部材、例えば、電化製品、精密機器等に好適に適用することができる。
【0135】
本発明に係る成形体は、いかなる方法で製造されたものであってもよいが、例えば、前述したような本発明の成形用材料を用いた射出成形、プレス成形等により、好適に製造することができる。
【0136】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【実施例0137】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[4]成形用材料の製造
[4-1]熱可塑性樹脂を含まない成形用材料の製造
(実施例1)
セルロース(日本製紙社製、溶解パルプ、重合度750、約3mm角シート状)100質量部に、イオン液体としての臭化1-アリル-3-ブチルイミダゾリウム(関東化学社製)を5質量部、ジメチルアセトアミド(関東化学社製)を10質量部、アシル化剤としての無水プロピオン酸(関東化学社製)を前記セルロースが有する全水酸基に対して6当量加え、窒素雰囲気下35℃で4時間撹拌してアシル化反応を行った。この時、マイクロ波発振手段によって発生した、0.4GHzの周波数のマイクロ波を、導波管を経由して、反応溶液に照射した。
【0138】
反応終了後、セルロース誘導体を析出させた。析出したセルロース誘導体を濾別し、水500質量部を用いた水洗および濾別を3回繰り返した後、80℃で4時間真空乾燥して、成形用材料を得た。
【0139】
(実施例2)
セルロース(日本製紙社製、溶解パルプ、重合度750、約3mm角シート状)100質量部に、イオン液体としての臭化1-アリル-3-ブチルイミダゾリウム(関東化学社製)を5質量部、ジメチルアセトアミド(関東化学社製)を10質量部、アシル化剤としての無水プロピオン酸(関東化学社製)を前記セルロースが有する全水酸基に対して6当量加え、窒素雰囲気下35℃で2時間撹拌してアシル化反応を行った。この時、マイクロ波発振手段によって発生した、0.915GHzの周波数のマイクロ波を、導波管を経由して、反応溶液に照射した。
【0140】
反応終了後、セルロース誘導体を析出させた。析出したセルロース誘導体を濾別し、水500質量部を用いた水洗および濾別を3回繰り返した後、80℃で4時間真空乾燥して、成形用材料を得た。
【0141】
(実施例3)
セルロース(日本製紙社製、溶解パルプ、重合度750、約3mm角シート状)100質量部に、イオン液体としての臭化1-アリル-3-ブチルイミダゾリウム(関東化学社製)を5質量部、ジメチルアセトアミド(関東化学社製)を10質量部、アシル化剤としての無水プロピオン酸(関東化学社製)を前記セルロースが有する全水酸基に対して6当量加え、窒素雰囲気下35℃で4時間撹拌してアシル化反応を行った。この時、マイクロ波発振手段によって発生した、5.8GHzの周波数のマイクロ波を、導波管を経由して、反応溶液に照射した。
【0142】
反応終了後、セルロース誘導体を析出させた。析出したセルロース誘導体を濾別し、水500質量部を用いた水洗および濾別を3回繰り返した後、80℃で4時間真空乾燥して、成形用材料を得た。
【0143】
(実施例4)
セルロース(日本製紙社製、溶解パルプ、重合度750、約3mm角シート状)100質量部に、イオン液体としての1-ブチル-3-メチルピリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(関東化学社製)を5質量部、ジメチルアセトアミド(関東化学社製)を10質量部、アシル化剤としての無水プロピオン酸(関東化学社製)を前記セルロースが有する全水酸基に対して6当量加え、窒素雰囲気下35℃で4時間撹拌してアシル化反応を行った。この時、マイクロ波発振手段によって発生した、0.915GHzの周波数のマイクロ波を、導波管を経由して、反応溶液に照射した。
【0144】
反応終了後、セルロース誘導体を析出させた。析出したセルロース誘導体を濾別し、水500質量部を用いた水洗および濾別を3回繰り返した後、80℃で4時間真空乾燥して、成形用材料を得た。
【0145】
(実施例5)
セルロース(日本製紙社製、溶解パルプ、重合度750、約3mm角シート状)100質量部に、塩としての塩化リチウム(関東化学社製)を5質量部、ジメチルアセトアミド(関東化学)を10質量部、アシル化剤として無水プロピオン酸(関東化学社製)を前記セルロースが有する全水酸基に対して6当量加え、窒素雰囲気下35℃で4時間撹拌してアシル化反応を行った。この時、マイクロ波発振手段によって発生した、0.915GHzの周波数のマイクロ波を、導波管を経由して、反応溶液に照射した。
【0146】
反応終了後、セルロース誘導体を析出させた。析出したセルロース誘導体を濾別し、水500質量部を用いた水洗および濾別を3回繰り返した後、80℃で4時間真空乾燥して、成形用材料を得た。
【0147】
(実施例6)
セルロース(日本製紙社製、溶解パルプ、重合度750、約3mm角シート状)100質量部に、イオン液体としての臭化1-アリル-3-ブチルイミダゾリウム(関東化学社製)を5質量部、ジメチルアセトアミド(関東化学社製)を10質量部、アシル化剤としての無水プロピオン酸(関東化学社製)を前記セルロースが有する全水酸基に対して9当量加え、窒素雰囲気下35℃で2時間撹拌してアシル化反応を行った。この時、マイクロ波発振手段によって発生した、0.915GHzの周波数のマイクロ波を、導波管を経由して、反応溶液に照射した。
【0148】
反応終了後、セルロース誘導体を析出させた。析出したセルロース誘導体を濾別し、水500質量部を用いた水洗および濾別を3回繰り返した後、80℃で4時間真空乾燥して、成形用材料を得た。
【0149】
(実施例7)
セルロース(日本製紙社製、溶解パルプ、重合度750、約3mm角シート状)100質量部に、イオン液体としての臭化1-アリル-3-ブチルイミダゾリウム(関東化学社製)を5質量部、ジメチルアセトアミド(関東化学社製)を10質量部、アシル化剤としての無水プロピオン酸(関東化学社製)を前記セルロースが有する全水酸基に対して8当量加え、窒素雰囲気下35℃で2時間撹拌してアシル化反応を行った。この時、マイクロ波発振手段によって発生した、0.915GHzの周波数のマイクロ波を、導波管を経由して、反応溶液に照射した。
【0150】
反応終了後、セルロース誘導体を析出させた。析出したセルロース誘導体を濾別し、水500質量部を用いた水洗および濾別を3回繰り返した後、80℃で4時間真空乾燥して、成形用材料を得た。
【0151】
(実施例8)
セルロース(日本製紙社製、溶解パルプ、重合度750、約3mm角シート状)100質量部に、イオン液体としての臭化1-アリル-3-ブチルイミダゾリウム(関東化学社製)を5質量部、ジメチルアセトアミド(関東化学社製)を10質量部、アシル化剤としての無水プロピオン酸(関東化学社製)を前記セルロースが有する全水酸基に対して0.2当量加え、窒素雰囲気下35℃で2時間撹拌してアシル化反応を行った。この時、マイクロ波発振手段によって発生した、0.915GHzの周波数のマイクロ波を、導波管を経由して、反応溶液に照射した。
【0152】
反応終了後、セルロース誘導体を析出させた。析出したセルロース誘導体を濾別し、水500質量部を用いた水洗および濾別を3回繰り返した後、80℃で4時間真空乾燥して、成形用材料を得た。
【0153】
(比較例1)
セルロース(日本製紙社製、溶解パルプ、重合度750、約3mm角シート状)100質量部に、イオン液体としての臭化1-アリル-3-ブチルイミダゾリウム(関東化学社製)を5質量部、ジメチルアセトアミド(関東化学社製)を10質量部、アシル化剤としての無水プロピオン酸(関東化学社製)を前記セルロースが有する全水酸基に対して6当量加え、窒素雰囲気下35℃で6時間撹拌してアシル化反応を行った。この時、マイクロ波発振手段によって発生した、0.3GHzの周波数のマイクロ波を、導波管を経由して、反応溶液に照射した。
【0154】
反応終了後、セルロース誘導体を析出させた。析出したセルロース誘導体を濾別し、水500質量部を用いた水洗および濾別を3回繰り返した後、80℃で4時間真空乾燥して、成形用材料を得た。
【0155】
(比較例2)
セルロース(日本製紙社製、溶解パルプ、重合度750、約3mm角シート状)100質量部に、イオン液体としての臭化1-アリル-3-ブチルイミダゾリウム(関東化学社製)を5質量部、ジメチルアセトアミド(関東化学)を10質量部、アシル化剤としての無水プロピオン酸(関東化学社製)を前記セルロースが有する全水酸基に対して6当量加え、窒素雰囲気下35℃で6時間撹拌してアシル化反応を行った。この時、マイクロ波発振手段によって発生した、20GHzの周波数のマイクロ波を、導波管を経由して、反応溶液に照射した。
【0156】
反応終了後、セルロース誘導体を析出させた。析出したセルロース誘導体を濾別し、水500質量部を用いた水洗および濾別を3回繰り返した後、80℃で4時間真空乾燥して、成形用材料を得た。
【0157】
(比較例3)
セルロース(日本製紙社製、溶解パルプ、重合度750、約3mm角シート状)100質量部に、ジメチルアセトアミド(関東化学社製)を10質量部、アシル化剤としての無水プロピオン酸(関東化学社製)を前記セルロースが有する全水酸基に対して6当量加え、窒素雰囲気下35℃で6時間撹拌してアシル化反応を行った。この時、マイクロ波発振手段によって発生した、0.915GHzの周波数のマイクロ波を、導波管を経由して、反応溶液に照射した。
【0158】
反応終了後、セルロース誘導体を析出させた。析出したセルロース誘導体を濾別し、水500質量部を用いた水洗および濾別を3回繰り返した後、80℃で4時間真空乾燥して、成形用材料を得た。
【0159】
(比較例4)
セルロース(日本製紙社製、溶解パルプ、重合度750、約3mm角シート状)100質量部に、イオン液体としての臭化1-アリル-3-ブチルイミダゾリウム(関東化学社製)を5質量部、ジメチルアセトアミド(関東化学社製)を10質量部、アシル化剤として無水プロピオン酸(関東化学社製)を前記セルロースが有する全水酸基に対して0.1当量加え、窒素雰囲気下35℃で2時間撹拌してアシル化反応を行った。この時、マイクロ波発振手段によって発生した、0.915GHzの周波数のマイクロ波を、導波管を経由して、反応溶液に照射した。
【0160】
反応終了後、セルロース誘導体を析出させた。析出したセルロース誘導体を濾別し、水500質量部を用いた水洗および濾別を3回繰り返した後、80℃で4時間真空乾燥して、成形用材料を得た。
【0161】
[4-2]熱可塑性樹脂を含む成形用材料の製造
前記各実施例および各比較例の成形用材料、すなわち、熱可塑性樹脂を含まない各成形用材料を、それぞれ、同質量のポリ乳酸(巴工業社製、PLA(ポリ乳酸)L105)と混合して混合物を得、当該混合物を二軸押出機(テクノベル社製、KZW15TW-45MG-NH)を用いて最高加熱温度を220℃として混錬し、押し出すことにより、ペレット状の成形用材料、すなわち、熱可塑性樹脂を含む成形用材料を得た。
【0162】
[5]測定・評価
[5-1]導電率
前記各実施例および各比較例の熱可塑性樹脂を含まない成形用材料について、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、体積導電率を測定した。
【0163】
体積導電率は、以下のようにして求めた。すなわち、温度23℃、相対湿度50%の環境下のチャンバー内に各サンプルを1時間放置した後、真鍮製の電極、電流測定器を用い、JIS K6723に準じて、直流100Vの電圧を印加し、1分間充電後の電流値の測定し、下記式より、体積導電率を算出した。なお、主電極は直径50mm、高さ35mm、ガード電極は外径80mm、内径70mm、高さ10mm、対電極は300×150×2mmのものを用いた。
【0164】
ρ=(πd2/4t)Rv
ρ :体積抵抗率(Ω・cm)
d :主電極の直径(cm)
t :試験片の厚さ(cm)
Rv:体積抵抗(Ω)
【0165】
[5-2]分子量分布
前記各実施例および各比較例の熱可塑性樹脂を含まない成形用材料中に含まれるセルロース誘導体について、以下のようにして、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる重量平均分子量および分子量分布の測定を行った。
【0166】
すなわち、N-メチル-2-ピロリドンに、0.1mol/LとなるようにLiBrを添加した溶液Aに、成形用材料を溶解した溶液を、カラム接続したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(本体:島津製作所社製 HPLC Prominence)を用いて、55℃の温度でRI(示差屈折計)にて測定した。カラムは、ガードカラム(アジレント・テクノロジー社製 PolyPore GUARD サイズ50×7.5mm)と本カラム(前段カラム:アジレント・テクノロジー社製 PolyPore サイズ300×7.5mm、後段カラム:アジレント・テクノロジー社製 PolyPore サイズ300×7.5mm)からなるものを用いた。また、測定条件は、移動相:溶液A、カラム温度:55℃とした。なお、ポリマーの分子量および分子量分布の算出には、アジレント・テクノロジー社製のポリメチルメタクリレート(M-M-10セット)の既知の分子量とセルロース誘導体のGPC測定値(Retention Time)との関係を用いた。
【0167】
[5-3]成形性
前記各実施例および各比較例の熱可塑性樹脂を含まない成形用材料について、射出成形機での成形適性を評価した。
【0168】
成形搬送性が良好であるとは、成形用材料を成形機に投入した時に安定して供給でき、負荷が過大にならないことを意味する。また射出性が良好であるとは、成形用材料が気泡の発生や着色等の劣化がなく所望の形状に成形できることを意味する。成形搬送性および射出性ともに良好である成形用材料を「A」、いずれか一方に課題があるが成形できる成形用材料を「B」、両方に課題があるが成形できる成形用材料を「C」、成形できないものを「D」とした。
【0169】
[5-4]成形体の引張強度
前記各実施例および各比較例の熱可塑性樹脂を含まない成形用材料を用いて、以下のように、成形体を製造し、引張強度を測定した。
【0170】
まず、成形用材料を二軸押出機(テクノベル社製 KZW15TW-45MG-NH)を用いて最高加熱温度を220℃として混錬し、押し出すことにより、ペレット状に加工した。当該ペレット状の成形用材料を射出成形機(住友重機械工業社製、SE-EV-A)でJIS K7127に記載されたプラスチックの物性評価の標準形状(試験片タイプ2号)の形状に成形し、引張試験片を得た。引張試験機(インストロン社製のインストロン試験機 5567型)により、票線間距離25mm、試験速度:50mm/minの条件で引張試験片の引張強度を求め、以下の基準に従い評価した。引張強度は、高いほど好ましい。判定は以下の通り。
【0171】
A:引張強度が40MPa以上である。
B:引張強度が30MPa以上40MPa未満である。
C:引張強度が20MPa以上30MPa未満である。
D:引張強度が20MPa未満である。
【0172】
また、前記各実施例および各比較例の熱可塑性樹脂を含まないペレット状の成形用材料の代わりに、熱可塑性樹脂を含むペレット状の成形用材料、すなわち、上記[4-2]で製造した成形用材料を用いた以外は、上記と同様にして、引張試験片を製造し、上記と同様の方法、基準で引張強度の測定、評価を行った。
【0173】
これらの測定結果・評価結果を、前記各実施例および各比較例に係る熱可塑性樹脂を含まない成形用材料の製造条件とともに、
図1にまとめて示す。
【0174】
図1中、アシル化剤使用量の欄には、原料として用いたセルロースが有する全水酸基に対するアシル化剤の使用量を当量で示した。
【0175】
図1から明らかなように、前記各実施例では優れた結果が得られた。これに対し、前記各比較例では、満足のいく結果が得られなかった。