(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136153
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】プライマー用ポリウレタン水分散体及びプライマー層並びに積層体
(51)【国際特許分類】
C09D 175/04 20060101AFI20240927BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240927BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240927BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20240927BHJP
C08G 18/00 20060101ALI20240927BHJP
C08G 18/08 20060101ALI20240927BHJP
C08G 18/65 20060101ALI20240927BHJP
C08G 18/76 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D5/00 D
C09D5/02
B32B27/40
C08G18/00 C
C08G18/08 019
C08G18/65 011
C08G18/76
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047158
(22)【出願日】2023-03-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】真野 寛之
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 成相
【テーマコード(参考)】
4F100
4J034
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AK25
4F100AK25B
4F100AK45
4F100AK45B
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4J034BA08
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4J038MA10
4J038NA12
4J038PB08
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】密着性、耐温水性、耐薬品性及び耐湿熱性に優れるプライマー層を形成することができるプライマー用ポリウレタン水分散体及びプライマー層並びに積層体を提供する。
【解決手段】本発明は、非晶性の樹脂基材にプライマー層を形成するために使用される、プライマー用ポリウレタン水分散体であって、芳香族イソシアネートと、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物と、炭素数3~5の直鎖状脂肪族ポリオールと、カルボキシル基を有するジオール化合物と、数平均分子量が500~3000であるポリオール化合物Xとを含む組成物の重合体を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性の樹脂基材にプライマー層を形成するために使用される、プライマー用ポリウレタン水分散体であって、
芳香族イソシアネートと、
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物と、
炭素数3~5の直鎖状脂肪族ポリオールと、
カルボキシル基を有するジオール化合物と、
数平均分子量が500~3000であるポリオール化合物Xと、
を含む組成物の重合体を含有する、プライマー用ポリウレタン水分散体。
【請求項2】
前記ポリオール化合物Xは、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1に記載のプライマー用ポリウレタン水分散体。
【請求項3】
前記カルボキシル基を有するジオール化合物がジメチロールプロピオン酸を含む、請求項1に記載のプライマー用ポリウレタン水分散体。
【請求項4】
前記非晶性の樹脂基材が光学フィルムである、請求項1に記載のプライマー用ポリウレタン水分散体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のプライマー用ポリウレタン水分散体の乾燥物を含有する、プライマー層。
【請求項6】
前記非晶性の樹脂基材と、請求項5に記載のプライマー層とを含有する、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プライマー用ポリウレタン水分散体及びプライマー層並びに該プライマー層を含む積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
光学フィルムの表面にはプライマー層が設けられることがあり、これによって、光学フィルムと他の基材との密着性を高められ、加えて光学フィルムの表面が改質され得る。例えば、光学フィルムの表面にプライマー層が設けられることで、光学フィルムの耐擦傷性、機械強度を向上させることができる。
【0003】
プライマー層を形成するためのコーティング剤は広く検討されており、中でも、樹脂エマルジョンを含有する組成物が好適に用いられている。例えば、特許文献1には、脂環構造を有するポリカーボネートポリオールと、ポリイソシアネートと、酸性基含有ポリオールと、水酸基含有ポリアミンとを反応させて得られるポリウレタンを含有する水性ポリウレタン樹脂分散体組成物により、プライマー層を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のポリウレタン樹脂分散体を用いて形成されるプライマー層は、基材(特に非晶性樹脂で形成された基材)への密着性、耐温水性、耐薬品性及び耐湿熱性のすべての性能を必ずしも満足できていなかった。このため、例えば、高湿下では水分の侵入によって接着力が低下する問題が発生することがあり、また、プライマー層上に有機溶剤を含むコーティング組成物を塗布する場合、コーティング組成物に含まれている有機溶媒によってプライマー層が崩壊する等の問題もあった。この観点から、密着性、耐温水性、耐薬品性及び耐湿熱性のすべての性能に優れるプライマー層を形成可能なコーティング剤が求められている。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、非晶性の樹脂基材に対する密着性に優れるプライマー層を形成することができ、しかも、耐温水性、耐薬品性及び耐湿熱性にも優れるプライマー層を形成することできるプライマー用ポリウレタン水分散体及びプライマー層並びに積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のイソシアネート化合物と、ポリオール化合物を含む組成物を用いることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
非晶性の樹脂基材にプライマー層を形成するために使用される、プライマー用ポリウレタン水分散体であって、
芳香族イソシアネートと、
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物と、
炭素数3~5の直鎖状脂肪族ポリオールと、
カルボキシル基を有するジオール化合物と、
数平均分子量が500~3000であるポリオール化合物Xと、
を含む組成物の重合体を含有する、プライマー用ポリウレタン水分散体。
項2
前記ポリオール化合物Xは、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群より選ばれる1種以上である、項1に記載のプライマー用ポリウレタン水分散体。
項3
前記カルボキシル基を有するジオール化合物がジメチロールプロピオン酸を含む、項1又は2に記載のプライマー用ポリウレタン水分散体。
項4
前記非晶性の樹脂基材が光学フィルムである、項1~3のいずれか1項に記載のプライマー用ポリウレタン水分散体。
項5
項1~4のいずれか1項に記載のプライマー用ポリウレタン水分散体の乾燥物を含有する、プライマー層。
項6
前記非晶性の樹脂基材と、請求項5に記載のプライマー層とを含有する、積層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプライマー用ポリウレタン水分散体は、非晶性の樹脂基材に対する密着性に優れるプライマー層を形成することができ、しかも、耐温水性、耐薬品性及び耐湿熱性にも優れるプライマー層を形成することできる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0011】
本発明のプライマー用ポリウレタン水分散体は、非晶性の樹脂基材にプライマー層を形成するために使用されるものであって、
芳香族イソシアネートと、
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物と、
炭素数3~5の直鎖状脂肪族ポリオールと、
カルボキシル基を有するジオール化合物と、
数平均分子量が500~3000であるポリオール化合物Xと、
を含む組成物の重合体を含有する。
【0012】
以下、本発明のプライマー用ポリウレタン水分散体を単に「ポリウレタン水分散体」と表記する。
【0013】
ポリウレタン水分散体は、上記組成物の重合体を含有するので、非晶性の樹脂基材に対する密着性に優れるプライマー層を形成することができ、しかも、耐温水性、耐薬品性及び耐湿熱性にも優れるプライマー層を形成することできる。
【0014】
(芳香族イソシアネート)
芳香族イソシアネートは、分子内に少なくとも1個の芳香族基及び少なくとも1個のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物である。芳香族イソシアネートは、2個又は2個以上のイソシアネート基を有することが好ましい。
【0015】
芳香族イソシアネートは、例えば、ウレタン樹脂を形成するための公知の芳香族イソシアネートを広く挙げることができる。芳香族イソシアネートとして、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート(TDI、2,4-トルエンジイソシアネートともいう)、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート等の1種又は2種以上を挙げることができる。
【0016】
芳香族イソシアネートは、2種以上の異性体の混合物であってもよい。例えば、芳香族イソシアネートが2,4-トリレンジイソシアネートである場合、その異性体である2,6-トリレンジイソシアネートが芳香族イソシアネートに含まれていてもよい。
【0017】
芳香族イソシアネートは、公知の方法で製造することができ、あるいは、市販品等から入手することもできる。
【0018】
(ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物)
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物は、ビスフェノールAの2個の水酸基がアルキレンオキサイド部位で置換された構造を有する化合物を挙げることができる。すなわち、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物は、アルキレンオキサイド部位を少なくとも2個有する化合物である。
【0019】
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物において、アルキレンオキサイド部位は、アルキレンオキサイド単位を2個以上有することが好ましく、また、例えば、4個以下であることが好ましい。
【0020】
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物において、アルキレンオキシドは、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等を挙げることができ、エチレンオキシド、プロピレンオキシドが好ましく、エチレンオキシドであることが好ましい。すなわち、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物は、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物またはプロピレンオキサイド付加物であることが好ましく、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物であることが特に好ましい。
【0021】
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物の重量平均分子量は、例えば、100~1000とすることができる。ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物の重量平均分子量は、GPC法(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法)により測定し、標準ポリスチレンによる検量線を用いて算出した値である。GPCの条件は、例えば、カラム:東ソー(株)製「TSKgel GMHHR-H」、溶媒:THF、流速:0.6mL/分、測定温度:40℃である。
【0022】
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物の水酸基価は特に限定されず、例えば、50~400mgKOH/gとすることができ、80~350mgKOH/gであることが好ましく、100~300mgKOH/gであることがより好ましい。
【0023】
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物の水酸基価は、JIS K1557-1:2007のA法に準じて測定される値であり、ポリオール1g中の水酸基(OH基)をアセチル化する酢酸と反応する、水酸化カリウム(KOH)のmg数である。
【0024】
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物は、公知の方法で製造することができ、あるいは、市販品等から入手することもできる。ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物の市販品としては、三洋化成工業株式会社製のニューポール(登録商標)が例示され、具体的には、ニューポールBPEシリーズ、ニューポールBPシリーズが例示される。
【0025】
組成物に含まれるビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物は、1種のみとすることができ、2種以上とすることもできる。
【0026】
(炭素数3~5の直鎖状脂肪族ポリオール)
炭素数3~5の直鎖状脂肪族ポリオール(以下、単に「直鎖状脂肪族ポリオール」と表記する)は、分子中に炭素数3~5の直鎖状アルキル基を有し、かつ、二個以上の水酸基を有する化合物を挙げることができる。直鎖状脂肪族ポリオールの水酸基は2個であることが好ましい。
【0027】
直鎖状脂肪族ポリオールの分子量(モル質量)は、500未満であることが好ましく、400以下であることがより好ましく、300以下であることがさらに好ましく、200以下であることが特に好ましい。
【0028】
直鎖状脂肪族ポリオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオールを挙げることができる。
【0029】
直鎖状脂肪族ポリオールは、公知の方法で製造することができ、あるいは、市販品等から入手することもできる。
【0030】
組成物に含まれる直鎖状脂肪族ポリオールは、1種のみとすることができ、2種以上とすることもできる。
【0031】
(カルボキシル基を有するジオール化合物)
カルボキシル基を有するジオール化合物は、分子内に少なくとも1個のカルボキシル基と、2個の水酸基を有する化合物であり、好ましくは、1個のカルボキシル基と、2個の水酸基を有する化合物である。
【0032】
カルボキシル基を有するジオール化合物は、ジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等を挙げることができる。中でも、カルボキシル基を有するジオール化合物は、ジメチロールプロピオン酸を含むことが好ましい。この場合、ポリウレタン樹脂が容易に生成するので、分散安定性が良好なポリウレタン水分散体の製造が容易になり、しかも、密着性、耐温水性、耐薬品性及び耐湿熱性に優れるプライマー層が形成されやすい。カルボキシル基を有するジオール化合物は、ジメチロールプロピオン酸のみからなるものであってもよい。
【0033】
組成物に含まれるカルボキシル基を有するジオール化合物は、1種のみとすることができ、2種以上とすることもできる。
【0034】
(数平均分子量が500~3000であるポリオール化合物X)
数平均分子量が500~3000(500以上3000以下)であるポリオール化合物X(以下、単に「化合物X」と表記する)は、その種類は特に限定されず、各種のポリオールを広く挙げることができる。
【0035】
化合物Xとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。この場合、ポリウレタン水分散体から得られるプライマー層は、非晶性の樹脂基材に対する密着性に優れ、しかも、耐湿熱性も特に向上しやすい。中でも化合物Xは、ポリエーテルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群より選ばれる1種以上であることがより好ましく、ポリエーテルポリオールであることが特に好ましい。
【0036】
ポリエーテルポリオールは、数平均分子量が500~3000である限り、その種類は特に限定されない。例えば、ポリエーテルポリオールとして、ポリエチレングリコールを挙げることができ、その他、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールA、ジブロモビスフェノールA、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジヒドロキシエチルテレフタレート、ハイドロキノンジヒドロキシエチルエーテル、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール又はその誘導体;エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどのオキシアルキレン誘導体;等が挙げられる。
【0037】
ポリエーテルポリオールは、数平均分子量が500~3000であるポリエチレングリコールであることが好ましい。この場合、ポリウレタン水分散体から得られるプライマー層は、非晶性の樹脂基材に対する密着性に優れ、しかも、耐温水性、耐薬品性及び耐湿熱性も特に向上しやすい。
【0038】
ポリエステルポリオールは、数平均分子量が500~3000である限り、その種類は特に限定されない。例えば、多価カルボン酸と多価アルコールを縮合反応物が挙げられる。
【0039】
多価カルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、ピメリン酸、シュベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ダイマー酸、ハロゲン化無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸無水物、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、またこれらのジアルキルエステル等の二塩基酸、もしくはこれらに対応する酸無水物等、ピロメリット酸等の多塩基酸が挙げられる。これらの多価カルボン酸を単独又は2種類以上組み合わせて用いることができる。α,β-不飽和二塩基酸としては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸等を挙げることができる。
【0040】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール等の二価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0041】
ポリカーボネートポリオールは、数平均分子量が500~3000である限り、その種類は特に限定されない。ポリカーボネートポリオールは、例えば、ポリオール化合物とカーボネート化合物との反応で得られるポリカーボネートポリオールが挙げられる。ポリオール化合物としては、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオールが挙げられる。また、カーボネート化合物としては、炭酸エステル、ホスゲン等のカーボネート誘導体が挙げられる。
【0042】
化合物Xの数平均分子量は、530以上であることが好ましく、550以上であることがより好ましく、580以上であることがさらに好ましく、600以上であることが特に好ましい。また、化合物Xの数平均分子量は、2800以下であることが好ましく、2500以下であることがより好ましく、2300以下であることがさらに好ましく、2000以下であることが特に好ましい。
【0043】
化合物Xの数平均分子量(Mn)は、GPC法(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法)により測定し、標準ポリスチレンによる検量線を用いて算出した値である。GPCの条件は、例えば、カラム:東ソー(株)製「TSKgel GMHHR-H」、溶媒:THF、流速:0.6mL/分、測定温度:40℃である。
【0044】
化合物Xの水酸基価は特に限定されず、例えば、10~300mgKOH/gとすることができ、30~250mgKOH/gであることが好ましく、50~200mgKOH/gであることがより好ましい。
【0045】
化合物Xの水酸基価は、JIS K1557-1:2007のA法に準じて測定される値であり、ポリオール1g中の水酸基(OH基)をアセチル化する酢酸と反応する、水酸化カリウム(KOH)のmg数である。
【0046】
化合物Xは、公知の方法で製造することができ、あるいは、市販品等から入手することもできる。
【0047】
組成物に含まれる化合物Xは、1種のみとすることができ、2種以上とすることもできる。
【0048】
(組成物)
ポリウレタン水分散体は、前述の通り、芳香族イソシアネートと、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物と、直鎖状脂肪族ポリオールと、カルボキシル基を有するジオール化合物と、化合物Xとを含む組成物の重合体を含有する。斯かる組成物は、本発明の効果が阻害されない限り、他の成分を含有することができる。例えば、組成物は、本発明の効果が阻害されない限り、脂肪族イソシアネート等の芳香族イソシアネートを含むことができ、また、他のポリオールを含むこともできる。
【0049】
組成物は、上記各成分を含む他、溶剤を含むこともできる。溶剤は、例えば、一般にポリウレタンの合成に使用される活性水素基を有しない有機溶媒を広く使用することができ、例として、ジオキサン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。
【0050】
組成物が溶剤を含む場合、その含有量は特に限定されず、例えば、公知のポリウレタン樹脂を重合する際に採用される溶剤の含有量とすることができる。
【0051】
組成物において、各成分の含有量は特に限定されない。例えば、組成物におけるビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物の含有量をDモルとし、直鎖状脂肪族ポリオールの含有量をGモルとしたとき、モル比D/Gの値は、0.5以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましく、1以上であることがさらに好ましく、2以上であることがよりさらに好ましく、3以上であることが特に好ましく、また、15以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましく、10以下であることがさらに好ましく、8以下であることがよりさらに好ましく、7以下であること特に好ましい。
【0052】
また、組成物において、直鎖状脂肪族ポリオールの含有量をGモルとし、カルボキシル基を有するジオール化合物の含有量をFモルとし、たとき、モル比G/Fの値は、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.25以上であることがさらに好ましく、0.3以上であることがよりさらに好ましく、0.4以上であることが特に好ましく、また、2.5以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましく、1.2以下であることが特に好ましい。
【0053】
また、組成物において、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物の含有量をDモルとし、カルボキシル基を有するジオール化合物の含有量をFモルとしたとき、モル比F/Dの値は、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.25以上であることがさらに好ましく、0.3以上であることが特に好ましく、また、2以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1.3以下であることがさらに好ましく、1以下であることが特に好ましい。F/Dの値がこれらの範囲である場合は、ポリウレタン水分散体は、分散安定性が向上しやすい。
【0054】
組成物において、化合物Xの含有割合は特に限定されない。例えば、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物、直鎖状脂肪族ポリオール、カルボキシル基を有するジオール化合物及び化合物Xの全量に対して、化合物Xの含有割合は、0.1~30モル%であることが好ましく、1~20モル%であることがより好ましく、2~15モル%であることがさらに好ましく、3~10モル%であることが特に好ましい。これらの場合、非晶性の樹脂基材の対するプライマー層の密着性が高まりやすい。
【0055】
また、組成物において、芳香族イソシアネートの含有量は特に限定されず、例えば、組成物における芳香族イソシアネートの含有量をAモルとし、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物、直鎖状脂肪族ポリオール、カルボキシル基を有するジオール化合物及び化合物Xの総量をBモルとしたとき、モル比A/B(すなわち、NCO/OH)の値が0.5~2の範囲とすることができ、好ましくは0.8~1.5、より好ましくは0.9~1.3である。
【0056】
(ポリウレタン水分散体)
ポリウレタン水分散体は、前記組成物の重合体を含有する。言い換えれば、ポリウレタン水分散体は、組成物を含む原料を重合することで得られる。従って、ポリウレタン水分散体は、前記組成物を用いて製造することができる。
【0057】
ポリウレタン水分散体は、例えば、前記組成物を所定の温度で反応させてポリウレタン樹脂を生成させ、次いで、水及び必要に応じて中和剤を加えることで調製することができる。以下、前記組成物を用いたポリウレタン水分散体の調製方法の一例を説明する。
【0058】
まず、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物と、直鎖状脂肪族ポリオールと、カルボキシル基を有するジオール化合物と、化合物Xとを所定量含む原料に、前記溶剤を所定量加えた後、芳香族イソシアネートを所定のNCO/OHの値となるように加えて組成物を調製する。この組成物を所定の温度で重合反応することで、ポリウレタン樹脂を生成させた後、水及び必要に応じて中和剤を加えて乳化させ、乳化物を得る。この乳化物から前記溶剤を適宜の方法で除去することで、ポリウレタン水分散体が得られる。
【0059】
ポリウレタン水分散体の製造にあたり、ポリウレタンの分子量を増大させることを目的に鎖伸長剤を用いることもできる。鎖伸長剤の種類は特に限定されず、例えば、公知の鎖伸長剤を広く使用でき、例えば、ポリイソシアネート化合物に対して反応性を有する官能基を有する化合物が挙げられ、具体的には、アミン化合物、ジオール化合物、水等を挙げることができる。鎖伸長剤の添加は、例えば、前述の乳化物を調製と同時あるいは乳化物の調整後に添加することができるが、これに限定されるものではない。
【0060】
前記重合反応温度は特に限定されず、例えば、公知のポリウレタン樹脂の合成と同様の温度とすることができ、具体的には、30~150℃、好ましくは40~100℃である。
【0061】
前記中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の不揮発性塩基、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の三級アミン類、アンモニア等の揮発性塩基等が挙げられる。なお、中和は、重合反応前、重合反応中、又は重合反応後の何れにおいても行うことができる。
【0062】
ポリウレタン水分散体は、前記組成物の重合体が水に分散してなる分散体、すなわち、ポリウレタン樹脂が水に分散してなる分散体である。ポリウレタン水分散体の固形分濃度は特に限定されず、形成するプライマー層の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、ポリウレタン水分散体の固形分濃度は、1~50質量%、好ましくは5~30質量%である。
【0063】
ポリウレタン水分散体は、前記組成物の重合体であることから、ポリウレタン水分散体に含まれるポリウレタン樹脂は、芳香族イソシアネートに由来する構成単位と、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物に由来する構成単位と、直鎖状脂肪族ポリオールに由来する構成単位と、カルボキシル基を有するジオール化合物に由来する構成単位と、化合物Xに由来する構成単位とを有するポリマーである。
【0064】
ポリウレタン水分散体において、重合体(ポリウレタン樹脂)の平均粒子径は特に限定されず、例えば、0.01~50μm、好ましくは0.015~10μm、より好ましくは0.02~5μmである。平均粒子径は動的光散乱法で計測した50%累積値を意味する。
【0065】
ポリウレタン水分散体は、分散安定性に優れるものであることに加えて、非晶性の樹脂基材に対する密着性に優れるプライマー層を形成することができ、耐温水性、耐薬品性及び耐湿熱性にも優れるプライマー層を形成することでき、プライマー用として使用されるものである。従って。ポリウレタン水分散体は、非晶性の樹脂基材にプライマー層を形成するために使用されるものである。
【0066】
非晶性の樹脂基材は、非晶性の樹脂で形成された基材を広く挙げることができる。例えば、非晶性の樹脂基材としては、アクリル樹脂で形成された基材、ポリカーボネート樹脂で形成された基材、ポリアミド系樹脂で形成された基材、ポリスチレン系樹脂で形成された基材、非晶性のオレフィン樹脂で形成された基材、ポリエーテル系樹脂で形成された基材等を挙げることができる。中でも、非晶性の樹脂基材は、アクリル樹脂で形成された基材、ポリカーボネート樹脂で形成された基材であることが好ましい。この場合、ポリウレタン水分散体から得られるプライマー層は、密着性が優れるものとなる。
【0067】
非晶性の樹脂基材は、例えば、フィルムを挙げることができ、特に光学フィルムであることが好ましい。光学フィルムの厚み及び形状は特に限定されず、公知の光学フィルムを広く採用することができる。
【0068】
(プライマー層及び積層体)
ポリウレタン水分散体を用いてプライマー層を形成することができる。例えば、ポリウレタン水分散体を前述の非晶性の樹脂基材に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させることにより、プライマー層が形成され得る。すなわち、プライマー層は、ポリウレタン水分散体の乾燥物を含有するものである。ポリウレタン水分散体の乾燥物とは、例えば、ポリウレタン水分散体の水等の揮発成分が乾燥したものである。
【0069】
プライマー層の厚みは特に限定されず、例えば、公知のプライマー層と同等の厚みとすることができる。
【0070】
ポリウレタン水分散体からプライマー層を形成する方法も特に限定されず、公知のプライマー層の形成方法を広く採用することができる。
【0071】
ポリウレタン水分散体から得られるプライマー層は、前述の光学フィルム等の非晶性の樹脂基材に対する密着性が優れるのみならず、光学フィルムの表面をより高性能に改質することができる。例えば、ポリウレタン水分散体から得られるプライマー層によって、非晶性の樹脂基材(光学フィルム等)の耐温水性、耐薬品性及び耐湿熱性を向上させることができる。
【0072】
従って、ポリウレタン水分散体は、プライマー層を形成するためのコーティング剤(もしくはプライマー組成物)として好適であり、とりわけ、非晶性樹脂基材用コーティング剤(もしくは非晶性樹脂基材用プライマー組成物)として好適に使用できる。斯かるコーティング剤は、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、pH調整剤などの公知の添加剤を含むこともでき、コーティング剤は、ポリウレタン水分散体のみからなるものであってもよい。コーティング剤は、ポリウレタン水分散体を50質量%以上含むことができ、70質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましい。
【0073】
ポリウレタン水分散体からプライマー層と、前記非晶性の樹脂基材とを含有する積層体は、例えば、各種光学用途に広く適用することができ、例えば、液晶ディスプレイ、タッチパネル等の表示装置用の部材として特に好適である。
【0074】
本開示に包含される発明を特定するにあたり、本開示の各実施形態で説明した各構成(性質、構造、機能等)は、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各構成のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0075】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0076】
(原料)
下記に示す原料から適宜の原料を選択して、各実施例のポリウレタン水分散体を製造した。
【0077】
<芳香族イソシアネート(A)>
・2,4-トリレンジイソシアネート80質量%及び2,6-トリレンジイソシアネート20質量%からなる混合物(コロネートT-80)
・4、4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)
【0078】
<ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物(D)>
・ビスフェノールAのエチレンオキシド4モル付加物(三洋化成社製「ニューポールBPE-40」、重量平均分子量400、水酸基価281mgKOH/g)
・ビスフェノールAのエチレンオキシド2モル付加物(三洋化成社製「ニューポールBPE-20NK」)
・ビスフェノールAのプロピレンオキシド2モル付加物(ADEKA社製「BPX-11」)
【0079】
<直鎖状脂肪族ポリオール(G)>
・1,4-ブタンジオール(三菱ケミカル株式会社製)
・1,3-プロパンジオール
・1,5-ペンタンジオール
【0080】
<カルボキシル基を有するジオール化合物(F)>
・ジメチロールプロピオン酸
【0081】
<化合物X>
・ポリエチレングリコール1(数平均分子量600、三洋化成社製「PEG-600」)
・ポリエチレングリコール2(数平均分子量1000、三洋化成社製「PEG-1000」)
・ポリエチレングリコール3(数平均分子量2000、三洋化成社製「PEG-2000」)
・ポリエステルポリオール(数平均分子量2000、クラレ社製「P-2010」)
・ポリカーボネートポリオール(数平均分子量1000、旭化成社製「T-5651」)
【0082】
(実施例1)
表1の配合表の実施例1に示す配合割合(モル比)で各原料を選択して、ポリウレタン水分散体を製造した。なお、表1の配合条件の欄には、芳香族イソシアネート(A)を基準(1モル)とした、各原料のモル比を示した。まず、攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ビスフェノールAのエチレンオキシド4モル付加物と、1,4-ブタンジオールと、ジメチロールプロピオン酸と、化合物Xとしてポリエチレングリコール1と、メチルエチルケトンとを加え十分攪拌溶解した原料を得た。この原料に、コロネートT-80を加えて組成物を調製し、NCO含量が1.20質量%になるまで75℃で重合反応させた。その後、中和剤としてトリエチルアミンと、水とを加えて乳化して乳化物を得た後、この乳化物を加熱減圧下、溶剤であるメチルエチルケトンを留去した。これにより、固形分25質量%であるポリウレタン水分散体を得た。
【0083】
(実施例2~17)
表1に示す原料及び配合量に変更したこと以外は実施例1と同様の方法でポリウレタン水分散体を得た。
【0084】
(比較例1~4)
表1に示す原料及び配合量に変更したこと以外は実施例1と同様の方法でポリウレタン水分散体を得た。
【0085】
(参考例1)
実施例1と同じポリウレタン水分散体を準備した。
【0086】
(評価方法)
<基材に対する密着性>
非晶性の樹脂基材として、ポリメタクリル酸メチルフィルム(PMMAフィルム;テクノロイS000♯75)及びポリカーボネート(PCフィルム;カネカ社製「エルメック」)のいずれかを用いた。斯かる基材をイソプロピルアルコールで脱脂してから、該基材上に、ポリウレタン水分散体をバーコーターで乾燥膜厚が10μmになるように塗布し塗膜を形成した。この塗膜を、80℃で10分間乾燥したのち、120℃で10分間乾燥し一晩放置することにより基材上にプライマー層を作成した。このプライマー層に対し、100マス碁盤目剥離試験(JIS-K5400)を実施し残存マスの個数を計測して、下記判定基準で評価を行った。
[判定基準]
A:全く剥がれず、基材に対する密着性が極めて優れるものであった。
B:残存マスが80%以上であり、基材に対する密着性が優れるものであった。
C:残存マスが80%未満にとどまり、基材に対する密着性が劣るものであった。
【0087】
<配合安定性>
ポリウレタン水分散体50質量部に対し、カルボジイミド系架橋剤(製品名:カルボジライトV-02-L2、日清紡ケミカル株式会社製)を6質量部加えてサンプルを調製した。このサンプルを20℃で1週間保管し、保管前と保管後それぞれの粘度を測定し、その粘度変化により配合安定性を評価した。粘度の測定は単一円筒形回転粘度計(JIS Z-8803:2011)により20℃において測定し、下記判定基準で評価を行った。
[判定基準]
A:粘度変化が100mPa・s未満であり、配合安定性(分散安定性)に優れるものであった。
B:粘度変化が100mPa・s以上であるか、保管後にゲル化が生じ、配合安定性(分散安定性)に劣るものであった。
【0088】
<耐温水性>
ポリウレタン水分散体を乾燥厚み約200~300μmになるように基材上に塗布し、40℃で15時間乾燥した後、80℃で6時間乾燥し、更に120℃で30分乾燥して皮膜を作製した。基材としてはテフロン(登録商標)加工された金属板を使用した。基材上に形成した皮膜から2×2cmの試験片を切り取った試験片を、温水40℃に24時間浸漬し、浸漬前の試験片質量(W0)(g)と浸漬後の試験片質量(Wn)(g)を測定し、下記式(1)
質量増加率(%)
={(Wn(g)-W0(g))/W0(g)}×100 (1)
に基づいて、試験片の質量増加率(%)を算出し、下記判定基準で評価を行った。
[判定基準]
A:質量増加率が50%以下であり、耐温水性に極めて優れていた。
B:質量増加率が50%超過、200%以下であり、耐温水性に優れていた。
C:質量増加率が200%超過であり、耐温水性に劣るものであった。
【0089】
<耐薬品性>
ポリウレタン水分散体を乾燥厚み約200~300μmになるように基材上に塗布し、40℃で15時間乾燥した後、80℃で6時間乾燥し、更に120℃で30分乾燥して皮膜を作製した。基材としてはテフロン(登録商標)加工された金属板を使用した。基材上に形成した皮膜から2×2cmの試験片を切り取った試験片を、酢酸エチル/トルエンの1:1(質量比)混合溶媒、又は、イソプロピルアルコールに40℃にて24時間浸漬し、浸漬前の試験片質量(W0)(g)と浸漬後の試験片質量(Wn)(g)を測定し、上記式(1)に基づいて、試験片の質量増加率(%)を算出し、下記判定基準で評価を行った。
[判定基準]
A:質量増加率が50%以下であり、耐薬品性に極めて優れていた。
B:質量増加率が50%超過、200%以下であり、耐薬品性に優れていた。
C:質量増加率が200%超過であり、耐薬品性に劣るものであった。
【0090】
<耐湿熱性>
非晶性の樹脂基材として、前述のPMMAフィルム及びPCフィルムのいずれかを用いた。斯かる基材をイソプロピルアルコールで脱脂してから、基材上にポリウレタン水分散体をバーコーターで乾燥膜厚が10μmになるように塗布し塗膜を形成した。この塗膜を、80℃で10分間乾燥したのち、120℃で10分間乾燥し一晩放置することにより基材上にプライマー層を作成した。このプライマー層を温度85℃、湿度85%RHの環境下に1週間保管した後、100マス碁盤目剥離試験(JIS-K5400)を実施し残存マスの個数を計測して、下記判定基準で評価を行った。
[判定基準]
A:全く剥がれず、耐湿熱性が極めて優れるものであった。
B:残存マスが80%以上であり、耐湿熱性が優れるものであった。
C:残存マスが80%未満にとどまり、耐湿熱性が劣るものであった。
【0091】
表1には、各実施例及び比較例のポリウレタン水分散体の製造における配合条件及び評価結果を示している。なお、表1の配合条件において、空欄は、その原料を使用していないことを意味する。また、表1において、「基材の種類」は、基材に対する密着性、耐温水性、耐薬品性及び耐湿熱性の評価で使用した非晶性の基材の種類を意味する。また、表1において、4EO付加物、2EO付加物及び2PO付加物はそれぞれ、ビスフェノールAのエチレンオキシド4モル付加物、ビスフェノールAのエチレンオキシド2モル付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキシド2モル付加物を意味する。
【0092】
表1に記載の「(D)/(G)」「(G)/(F)」「(F)/(D)」はいずれもモル比を意味し、具体的には下記のとおりである。
(D)/(G):ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物/直鎖脂肪族ポリオール
(G)/(F):直鎖脂肪族ポリオール/カルボキシル基を有するジオール化合物
(F)/(D):カルボキシル基を有するジオール化合物/ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物
【0093】
表1に記載の「NCO/OH」は、芳香族イソシアネートのモル数と、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物、直鎖状脂肪族ポリオール、カルボキシル基を有するジオール化合物及び化合物Xの総モル数との比である(すなわち、前述のA/Bの値を意味する)。
【0094】
表1の参考例1では、基材として、PMMAフィルム又はPCフィルムの代わりにPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを使用して、基材に対する密着性、耐温水性、耐薬品性及び耐湿熱性の評価を行った結果が示されている。
【0095】
表1から、芳香族イソシアネートと、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物と、炭素数3~5の直鎖状脂肪族ポリオールと、カルボキシル基を有するジオール化合物と、ポリオール化合物Xとを含む組成物から得られたポリウレタン水分散体は、非晶性の樹脂基材(非晶性の光学フィルム)に対する密着性に優れるプライマー層を形成することができ、しかも、耐温水性、耐薬品性及び耐湿熱性にも優れるプライマー層を形成することできることが明らかである。
【0096】