(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136175
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】電力変換装置及び検出方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/38 20060101AFI20240927BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240927BHJP
【FI】
H02J3/38 180
H02J3/38 110
H02M7/48 R
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047190
(22)【出願日】2023-03-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 崇
【テーマコード(参考)】
5G066
5H770
【Fターム(参考)】
5G066DA08
5G066HB04
5H770BA11
5H770EA01
5H770HA03Y
5H770HA04Y
5H770HA05Y
5H770JA17Y
5H770JA17Z
(57)【要約】 (修正有)
【課題】単独運転状態となったことを容易に検出することが可能な電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力系統に連系可能であり、仮想同期発電機機能を有する電力変換装置であって、仮想同期発電機機能における周波数又は電力系統との連系点における電圧の周波数に対して所定の伝達関数を演算した後に上下限制限を与えた処理結果を出力する周波数フィードバック部及び連系点における電圧に関する所定の第1振幅指令値と、処理結果とを加算した第2振幅指令値を出力する加算部22bを有し、第2振幅指令値及び連系点における電圧の振幅に基づいて、インバータ出力電圧振幅指令値を生成する連系点電圧振幅制御部と、仮想同期発電機機能における位相及びインバータ出力電圧振幅指令値に基づいて、三相交流電圧を発生させる電圧出力部と、を含み、処理結果が上下限制限に達した場合に、電力変換装置が電力系統から切り離された単独運転状態であることを検出する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統に連系可能であり、仮想同期発電機機能を有する電力変換装置であって、
前記仮想同期発電機機能における周波数又は前記電力系統との連系点における電圧の周波数に対して所定の伝達関数を演算した後に上下限制限を与えた処理結果を出力する周波数フィードバック部と、
前記連系点における電圧に関する所定の第1振幅指令値と、前記処理結果とを加算した第2振幅指令値を出力する加算部と、
前記第2振幅指令値及び前記連系点における電圧の振幅に基づいて、インバータ出力電圧振幅指令値を生成する連系点電圧振幅制御部と、
前記仮想同期発電機機能における位相及び前記インバータ出力電圧振幅指令値に基づいて、三相交流電圧を発生させる電圧出力部と、
前記処理結果が前記上下限制限に達した場合に、前記電力変換装置が前記電力系統から切り離された単独運転状態であることを検出する単独運転検出部と、を含み、
前記伝達関数は、
分母におけるラプラス演算子の少なくとも2次の多項式と、分子におけるラプラス演算子の1次の単項式とを有し、
閉ループ伝達関数の分母について、前記電力変換装置が前記電力系統と連系している場合は安定多項式となり、前記電力変換装置が単独運転している場合は不安定多項式となるように前記多項式及び前記単項式における係数が与えられる、
電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記多項式及び前記単項式における係数は、
前記電力変換装置が前記電力系統と連系している場合、前記閉ループ伝達関数の特性方程式に含まれる項の係数が全て同じ符号となり、前記電力変換装置が単独運転している場合、前記閉ループ伝達関数の特性方程式において、他の項の係数の符号と異なる項が発生するように設定される、
電力変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記伝達関数は、
分母がラプラス演算子の2次の多項式である、
電力変換装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電力変換装置であって、
前記伝達関数は、
分母がラプラス演算子の1次の多項式の平方で表現される、
電力変換装置。
【請求項5】
電力系統に連系可能であり、仮想同期発電機機能を有する電力変換装置が、前記電力系統から切り離された単独運転状態であることを検出する検出方法であって、
前記電力変換装置が、
前記仮想同期発電機機能における周波数又は前記電力系統との連系点における電圧の周波数に対して所定の伝達関数を演算した後に上下限制限を与えた処理結果を出力するステップと、
前記連系点における電圧に関する所定の第1振幅指令値と、前記処理結果とを加算した第2振幅指令値を出力するステップと、
前記第2振幅指令値及び前記連系点における電圧の振幅に基づいて、インバータ出力電圧振幅指令値を生成するステップと、
前記仮想同期発電機機能における位相及び前記インバータ出力電圧振幅指令値に基づいて、三相交流電圧を発生させるステップと、
前記処理結果が前記上下限制限に達した場合に、前記電力変換装置が前記電力系統から切り離された単独運転状態であることを検出するステップと、 を含み、
前記伝達関数は、
分母におけるラプラス演算子の少なくとも2次の多項式と、分子におけるラプラス演算子の1次の単項式とを有し、
閉ループ伝達関数の分母について、前記電力変換装置が前記電力系統と連系している場合は安定多項式となり、前記電力変換装置が単独運転している場合は不安定多項式となるように前記多項式及び前記単項式における係数が与えられる、検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統に連系して運転する電力変換装置に関する。特に、運転中に系統から切り離されて単独運転状態となった際にそれを検出する機能を備えた電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力系統における再生可能エネルギーの増加に伴ってインバータ電源の割合が増加しつつあるが、現在普及している電流制御型インバータでは慣性力をもたないため、さらなるインバータ電源の割合増加によって周波数が変動しやすくなって系統が不安定になることが懸念されている。
【0003】
この問題の解決手段として、同期発電機のように振舞わせる、仮想同期発電機(VSG)制御を行うインバータが期待されている。(特許文献1、非特許文献1)
【0004】
インバータ電源に限らず、系統に連系する発電設備には、系統電源から切り離されて単独運転状態となった場合にその状態を速やかに検知して部分系統への通電を遮断することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4846450号
【非特許文献1】IEEE Journal,Vol.141 No.11,2021「電力系統の慣性不足に対応するインバータの仮想同期発電機制御」著者 三浦友史
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
VSG制御を行うインバータの場合、通常の電流制御型インバータでよく使われているPLLを使うことを前提とした周波数シフト方式などでは単独運転検出することができない。
【0007】
本発明はこのような課題を鑑みてなされたものであり、仮想同期発電機制御を有する電力変換装置が単独運転状態となった場合に、その状態を検出することが可能な電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための一の発明は、電力系統に連系可能であり、仮想同期発電機機能を有する電力変換装置であって、前記仮想同期発電機機能における周波数又は前記電力系統との連系点における電圧の周波数に対して所定の伝達関数を演算した後に上下限制限を与えた処理結果を出力する周波数フィードバック部と、前記連系点における電圧に関する所定の第1振幅指令値と、前記処理結果とを加算した第2振幅指令値を出力する加算部と、前記第2振幅指令値及び前記連系点における電圧の振幅に基づいて、インバータ出力電圧振幅指令値を生成する連系点電圧振幅制御部と、前記仮想同期発電機機能における位相及び前記出力電圧振幅に基づいて、三相交流電圧を発生させる電圧出力部と、前記処理結果が前記上下限制限に達した場合に、前記電力変換装置が前記電力系統から切り離された単独運転状態であることを検出する単独運転検出部と、を含み、前記伝達関数は、分母におけるラプラス演算子の少なくとも2次の多項式と、分子におけるラプラス演算子の1次の単項式とを有し、有効電力を入力とする仮想同期発電機の出力である位相の変化と、仮想同期発電機の周波数または連系点電圧周波数を入力として所定の伝達関数を演じた結果である電圧振幅変化と、位相変化と電圧振幅変化によって生ずる有効電力変化をまとめて1つの閉ループシステムとみなした閉ループにおける閉ループ伝達関数の分母について、前記電力変換装置が前記電力系統と連系している場合は安定多項式となり、前記電力変換装置が単独運転している場合は不安定多項式となるように前記多項式及び前記単項式における係数が与えられる、電力変換装置である。
【0009】
また、上記目的を達成するための一の発明は、電力系統に連系可能であり、仮想同期発電機機能を有する電力変換装置が、前記電力系統から切り離された単独運転状態であることを検出する検出方法であって、前記電力変換装置が、前記仮想同期発電機機能における周波数又は前記電力系統との連系点における電圧の周波数に対して所定の伝達関数を演算した後に上下限制限を与えた処理結果を出力するステップと、前記連系点における電圧に関する所定の第1振幅指令値と、前記処理結果とを加算した第2振幅指令値を出力するステップと、前記第2振幅指令値及び前記連系点における電圧の振幅に基づいて、出力電圧振幅を生成するステップと、前記仮想同期発電機機能における位相及び前記出力電圧振幅に基づいて、三相交流電圧を発生させるステップと、前記処理結果が前記上下限制限に達した場合に、前記電力変換装置が前記電力系統から切り離された単独運転状態であることを検出するステップと、を含み、前記伝達関数は、分母におけるラプラス演算子の少なくとも2次の多項式と、分子におけるラプラス演算子の1次の単項式とを有し、有効電力を入力とする仮想同期発電機の出力である位相の変化と、仮想同期発電機の周波数または連系点電圧周波数を入力として所定の伝達関数を演じた結果である電圧振幅変化と、位相変化と電圧振幅変化によって生ずる有効電力変化をまとめて1つの閉ループシステムとみなした閉ループ伝達関数の分母について、前記電力変換装置が前記電力系統と連系している場合は安定多項式となり、前記電力変換装置が単独運転している場合は不安定多項式となるように前記多項式及び前記単項式における係数が与えられる、検出方法である。本発明の他の特徴については、本明細書の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、仮想同期発電機制御を有する電力変換装置が単独運転状態となった場合に、その状態を検出することが可能な電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】電力変換装置2が設けられた電力系統1の一例を説明する図である。
【
図2】実施形態の制御装置20の機能ブロックを説明する図である。
【
図3】実施形態のインバータ出力電圧位相生成部21を説明する図である。
【
図4】実施形態の連系点電圧振幅制御部22を説明する図である。
【
図5】変形例の連系点電圧振幅制御部52を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
==実施形態==
<<電力変換装置2>>
図1は、電力系統1に連系した電力変換装置2を説明する図である。連系中、負荷Gは、インピーダンス(リアクタンス)X1を有する送電線10を介した電力系統1と電力変換装置2の双方から電力が供給される。
【0013】
事故等によって遮断器11が解放されると、電力変換装置2は単独運転状態となる。
【0014】
負荷Gと遮断器3との間には、測定部4が設置されている。測定部4は、設置点において、電力変換装置2からの出力である有効電力Pout、電圧vout(瞬時値)、周波数ωout、電圧の振幅Vout等を測定して電力変換装置に入力する。あるいは、瞬時電圧Voutおよび電流Ioutを測定して電力変換装置2に入力し、ωout、Pout、および連系点電圧振幅Vを算出する。
【0015】
電力変換装置2は、仮想同期発電機機能を有する系統連系装置である。更に、電力変換装置2は、電力変換装置2が単独運転状態に移行した場合に、それを検出することが可能な装置である。
【0016】
単独運転状態では、負荷Gに対して電力系統1からの電力の供給がなく、電力変換装置2からのみ電力が供給される。
【0017】
遮断器3の設置点を、「電力系統1と電力変換装置2との連系点」、あるいは単に「連系点」と称する。電力変換装置2は、制御装置20と、電力変換部30とを含む。電力変換装置2と遮断器3との間のインピーダンス(リアクタンス)X2はあっても小さいとする。
【0018】
<制御装置20>
以下では、先ず、制御装置20のハードウェア構成について説明し、次いで、制御装置20の機能ブロックについて説明する。
【0019】
・制御装置20のハードウェア構成
制御装置20は、DSP(Digital Signal Processor)200と、記憶装置201とを備える(
図1)。
【0020】
[DSP200]
DSP200は、記憶装置201に記憶された所定のプログラムを実行することにより、制御装置20が有する様々な機能を実現する。
【0021】
[記憶装置201]
記憶装置201は、DSP200によって、実行または処理される各種データを格納する非一時的な(例えば不揮発性の)記憶装置を含む。
【0022】
記憶装置201は、更に、例えばRAM(Random-Access Memory)等(後述するメモリ36a)を有し、様々なプログラムやデータ等の一時的な記憶領域として用いられる。
【0023】
・制御装置20の機能ブロック
図2は、制御装置20の機能ブロックを説明する図である。制御装置20は、有効電力出力および連系点電圧を制御して電力変換部30が出力する電圧の指令値を生成する装置である。
【0024】
制御装置20には、インバータ出力電圧位相生成部21と、連系点電圧振幅制御部22と、瞬時電圧指令生成部23と、PWMパルス生成部24とが実装される。
【0025】
[インバータ出力電圧位相生成部21]
図3は、インバータ出力電圧位相生成部21を説明する図である。インバータ出力電圧位相生成部21は、仮想同期発電機制御に基づいて、電力変換部30の出力電圧の位相θを生成する。
【0026】
具体的には、インバータ出力電圧位相生成部21は、電力変換装置2が電力系統1に出力する目標となる電力Prefと、電力系統1に実際に出力される電力Poutとの差とVSG周波数に基づいて、VSG周波数ωを更新し、その積分値として位相θを生成する。
【0027】
ここで、目標となる電力P
refは、電力変換装置2の設計者、運用者等によって予め設定された値である。また、電力P
outは、
図1及び
図2の測定部4による測定値である。
【0028】
以下の説明では、インバータ出力電圧位相生成部21に実装する仮想同期発電機の慣性定数をMとし、制動定数をDとする。
【0029】
図3に示すように、インバータ出力電圧位相生成部21は、加算器21a,21b,21dと、乗算器21e,21fと、積分器21c,21gとを含む。
【0030】
加算器21aは、電力Prefから電力Poutを減じた値(Pref-Pout)を、加算器21bに出力する。
【0031】
加算器21bは、加算器21aからの入力値(Pref-Pout)に乗算器21e(後述)からの入力を加えた値を、積分器21cに出力する。
【0032】
積分器21cは、加算器21bからの入力に対して1/Mを乗じた(つまり、Mで除した)上で、所定期間に亘って時間積分した結果を、乗算器21fに出力する。
【0033】
ここでの積分演算によって、得られた値は、電力変換装置2から出力される電圧の周波数ωを、ノミナル周波数ωnで単位化した値である。
【0034】
ノミナル周波数ωnは、例えば日本国内においては、東日本は50Hzに2πを乗じた値であり、西日本は60Hzに2πを乗じた値である。
【0035】
加算器21dは、1から積分器21cからの入力を減じた値を、乗算器21eに出力する。 なお、ここで加算器21dへの入力は、積分器21cからの入力に代えて、測定部4によって測定された連系点周波数ωoutを定格ノミナル周波数ωnで除した値としてもよい。
【0036】
乗算器21eは、加算器21dからの入力に対し、VSGの制動定数Dを乗じた値を、加算器21bに出力する。
【0037】
乗算器21fは、積分器21cからの入力に対してノミナル周波数ωnを乗じた値を出力する。乗算器21fの出力値は、電力変換装置2の出力電圧に関する周波数である。
【0038】
積分器21gは、乗算器21fからの入力に対し、所定期間に亘って時間積分する演算を実行する。この演算によって、積分器21gは、電力変換装置2から出力される電圧の位相θを出力する。
【0039】
[連系点電圧振幅制御部22]
図4は、連系点電圧振幅制御部22を説明する図である。連系点電圧振幅制御部22は、電力変換装置2から出力される電圧の振幅を制御するためのインバータ出力電圧振幅指令値V
INVを算出する。インバータ出力電圧振幅指令値V
INVは、電力変換装置2から実際に出力される電圧の振幅に相当する。
【0040】
具体的には、連系点電圧振幅制御部22は、所定の振幅指令値V
ref
**と、インバータ出力電圧位相生成部21(
図3)の乗算器21fからの出力であって出力電圧周波数に等しいω、またはω
outに基づいて、インバータ出力電圧振幅指令値V
INVを出力する。
【0041】
連系点電圧振幅制御部22は、周波数フィードバック部22aと、加算器22bと、振幅制御部22cと、単独運転検出部22dとを含む。
【0042】
周波数フィードバック部22aは、周波数ω等に基づいて、電力変換装置2が電力系統1と連系しているか、又は単独運転しているかを識別するための信号を、処理結果として出力する。
【0043】
電力変換装置2が周波数フィードバック部22aを含み、かつ後述の条件を満たすことにより、電力変換装置2が単独運転状態に移行した場合にそれを検出することが可能となる。
【0044】
周波数フィードバック部22aは、仮想同期発電機機能における周波数ωまたはωoutに対して所定の伝達関数GOを演算した後に上下限制限を与えた処理結果を出力する。なお、「仮想同期発電機機能における周波数ω」とは、電力変換装置2から出力される電圧の周波数である。
【0045】
本実施形態では、伝達関数G
Oとして次式を用いる。
【数1】
【0046】
数式1に示すように、本実施形態では、伝達関数GOは、分子がラプラス演算子sの1次の単項式である。また、伝達関数GOは、分母がラプラス演算子sの1次の多項式の平方で表現される。また、パラメータγ及びτは、電力変換装置2の設計者、運用者等によって予め設定されるパラメータである(後述)。
【0047】
周波数フィードバック部22aは、演算部22eと、制限部22fとを含む。演算部22eは、周波数ωまたはωoutに対して伝達関数GOを演算した値を制限部22fに出力する。制限部22fは、演算部22eからの入力に対し、上下限制限を与えた処理結果を付加電圧Vaddとして出力する。
【0048】
制限部22fは、演算部22eからの入力が所定の下限値V
L以上であって所定の上限値V
U以下であれば、演算部22eからの入力をそのまま付加電圧V
addとして出力する(次式)。
【数2】
【0049】
また、制限部22fは、演算部22eからの入力が上限値V
Uよりも大きければ、上限値V
Uを付加電圧V
addとして出力する(次式)。
【数3】
【0050】
また、制限部22fは、加算器22bからの入力の値が下限値V
Lよりも小さければ、下限値V
Lを付加電圧V
addとして出力する(次式)。
【数4】
【0051】
数式1の右辺のパラメータγ及びτを決定するための条件を以下で簡単に説明する。なお、この詳細については後述する。
【0052】
パラメータγ及びτは、系統連系中は安定を保ちつつ、単独運転状態では不安定となるように決定する。
【0053】
単独運転状態では不安定となるように決定するので、単独運転状態では、22eの出力はVUまたはVLに向かって発散する。
【0054】
以上のようにパラメータγ及びτが決定されると、制限部22fからの出力が上限値VU又は下限値VLに達した場合に、後述する単独運転検出部22dが、単独運転状態を検出することができる。
【0055】
図4に戻り、加算器22b(「加算部」に相当)は、連系点における電圧に関する所定の振幅指令値V
ref
**(「第1振幅指令値」に相当)と、周波数フィードバック部22aの処理結果(つまり、付加電圧V
add)とを加算した連系点電圧振幅指令値V
ref
*(「第2振幅指令値」に相当)を出力する。
【0056】
つまり、振幅指令値Vref
**は、付加電圧Vaddが加算される前の連系点電圧振幅指令値である。また、連系点電圧振幅指令値Vref
*は、振幅指令値Vref
**に付加電圧Vaddが加算された後の連系点電圧振幅指令値である。
【0057】
振幅制御部22cは、連系点振幅指令値Vref
*及び連系点における電圧の振幅Voutに基づいて、インバータ出力電圧振幅指令値VINVを生成する。
【0058】
このとき、振幅制御部22cは、測定部4の設置点において電圧振幅の測定値Voutが連系点振幅指令値Vref
*に一致するように、インバータ電圧振幅指令値VINVを生成する。
【0059】
単独運転検出部22dは、周波数フィードバック部22aによる処理結果が上下限制限に達した場合に、電力変換装置2が電力系統1から切り離された単独運転状態であることを検出する。
【0060】
単独運転状態を検出すると、遮断器3を開放または電力変換装置2を停止することによって単独運転状態から脱する。
【0061】
なお、以上説明した本実施形態の連系点電圧振幅制御部22では周波数フィードバック部22aへの入力をωとしたが、測定部4で測定された電圧voutの周波数ωoutを用いてもよい。
【0062】
[瞬時電圧指令生成部23]
図2に戻り、瞬時電圧指令生成部23は、電力変換装置2から出力される電圧に対する三相の各相の瞬時電圧指令値v
INVを生成する。
【0063】
[PWMパルス生成部24]
PWMパルス生成部24は、例えば三角波で実現される搬送波と、基本波としての正弦波との交点を検出する。これによって、PWMパルス生成部24は、PWMパルスのデューティ比を決定し、決定したデューティ比を有するPWMパルス信号vPWMを生成する。
【0064】
PWMパルス信号VPWMは、電力変換部30に出力され、電力変換部30のインバータ回路が駆動される。
【0065】
<電力変換部30>
電力変換部30は、直流電源と、複数のスイッチング素子を含むインバータ回路(図示せず)とを有する。インバータ回路は、直流電源からの直流電圧を交流電圧に変換し、電力系統1に出力する。
【0066】
このとき、インバータ回路は、PWMパルス生成部24からの出力であるPWMパルス信号vPWMに基づいて生成された電圧を出力する。
【0067】
PWMパルス信号vPWMに基づく電圧が電力変換部30から出力されると、瞬時電圧指令生成部23の出力である瞬時電圧指令値vINVに相当する電圧voutが、測定部4において測定される。
【0068】
なお、PWMパルス生成部24と電力変換部30とを合わせたものは、「電圧出力部」に相当する。つまり、電圧出力部は、仮想同期発電機機能における位相及び出力電圧振幅に基づいて、三相交流電圧を発生させる。
【0069】
<パラメータγ及びτの設定>
数式1に示した伝達関数GOに含まれるパラメータγ及びτの設定について上では簡単に説明したが、ここで詳細に説明する。
【0070】
パラメータγ及びτは、有効電力を入力とする仮想同期発電機の出力である位相θの変化と、仮想同期発電機の周波数ωまたは連系点電圧周波数ωoutを入力として所定の伝達関数GOを演じた結果である電圧振幅変化と、位相変化と電圧振幅変化によって生ずる有効電力変化をまとめて1つの閉ループシステムとみなした場合の閉ループ伝達関数GCに関する特性方程式に基づいて設定する。
【0071】
閉ループ伝達関数G
Cの特性方程式は、電力変換装置2が連系している場合と、単独運転している場合とで異なる。以下、それぞれの場合の特性方程式を導出する。なお、特性方程式の導出において、インピーダンスX2(
図1及び
図2)は十分に小さく、無視できると仮定する。また、系統周波数はノミナル周波数に等しいと仮定する。
【0072】
先ず、電力変換装置2から出力される電圧に対する周波数ωが、定格周波数ωnからΔωだけ変動した場合を考える。
【0073】
これに伴って、電力変換装置2から出力される電圧の位相の変動(系統との位相差の変動に等しい)Δθは、次式で表わされる。
【数5】
ここで、右辺の分母はラプラス演算子sである。
【0074】
数式5の位相の変動Δθに伴う電力系統1に流れる有効電力P
1の変動ΔP
1は、位相差が大きくなければ、次式で表わされる。
【数6】
【0075】
ここで、右辺の上段は連系中の場合であり、下段が単独運転状態の場合である。単独運転状態では電力系統1に流れる有効電力P1は常に0であるため、その変動ΔP1も0である。また、V0は電力系統1から出力される電圧の振幅である。
【0076】
さらに、連系点電圧変動に伴う負荷Gにおける消費電力P
2の変動ΔP
2は、次式で表わされる。
【数7】
【0077】
以上のように電力変換装置2から出力される有効電力P
outの変動(ΔP=ΔP
1+ΔP
2)が生じると、仮想同期発電機機能において、次式の周波数変動Δωが生じる。
【数8】
【0078】
更に、数式8の周波数ωの変動Δωが生じると、電圧の振幅V
outの変動ΔVは数式1を用いて次式で表わされる。
【数9】
【0079】
数式5~数式9を考慮して、連系中と、単独運転中のそれぞれの閉ループにおける閉ループ伝達関数GCの特性方程式を以下のように導出することができる。
【0080】
【0081】
【0082】
以下では、数式10及び数式11を用いて、パラメータγ及びτの条件を導出する。
【0083】
連系中は、周波数変動に応じて電圧振幅を変化させても安定を保つように設定する。
【0084】
従って、数式10は安定多項式となる必要がある。それには少なくとも、数式10のラプラス演算子の各次数の係数の符号が全て同じになる必要がある。
【0085】
数式10において、ラプラス演算子sの4次、3次、1次及び0次の係数の符号は全て正であるが、2次の係数の符号が不定である。
【0086】
従って、数式10のラプラス演算子sの2次の係数の符号を正とするために、下記の条件が必要である。
【数12】
【0087】
更に、単独運転している場合において、システムが不安定となるように決定する。
【0088】
従って、数式11は不安定多項式となる必要がある。それには、数式11のラプラス演算子sの各次数の係数の少なくとも1つは、他の次数の係数の符号と異なればよい。
【0089】
数式11において、ラプラス演算子sの3次、2次及び0次の係数の符号は全て正であるが、1次の係数の符号が不定である。
【0090】
従って、数式11のラプラス演算子sの1次の係数の符号を負とするために、下記の条件を与える。
【数13】
【0091】
以上をまとめると、数式12及び数式13の条件を満たすパラメータγ及びτが設定されることにより、連系中は安定を保ちつつ、単独運転状態では不安定となって、単独運転検出が可能となる。
【0092】
<<伝達関数GO>>
本実施形態では、伝達関数GOとして数1を例示して説明したがこの例に限られるものではない。伝達関数GOが満たすべき条件について詳細に説明する。
【0093】
伝達関数GOは、次式に示すように、分母におけるラプラス演算子sの少なくとも2次の多項式と、分子におけるラプラス演算子sの1次の単項式とを有することが必要である。
【0094】
【0095】
なお、説明は省略するが、伝達関数GOの分母がラプラス演算子sの1次以下である場合や、伝達関数GOの分子がラプラス演算子sの0次である場合は、上述した安定多項式及び不安定多項式の条件を満たすことはできない。
【0096】
ここで、例えば有効電力指令を入力とする閉ループにおける閉ループ伝達関数GCは、形式的に次式で表わされる。
【0097】
【数15】
ここで、l及びmは整数である。つまり、分母はラプラス演算子sのl次の多項式であり、分子はラプラス演算子sのm次の多項式である。
【0098】
数式14の伝達関数GOは、閉ループ伝達関数GCの分母について、連系中は安定多項式となり、単独運転状態では不安定多項式となるように、多項式及び単項式における係数(a1,a2,・・・,an及びb)が与えられる。
【0099】
以下に示す例では、数式14の伝達関数GOは、分母がラプラス演算子の2次の多項式(n=2)とする。
【0100】
この場合、伝達関数GOの分母の多項式及び分子の単項式における係数(a1,a2及びb)は、次の2つの条件を満たすように設定されればよい。
【0101】
[電力変換装置2が電力系統1と連系している場合]
この場合の特性多項式は、上記実施形態の説明における伝達関数G
Oを、数式1の代わりに数式14とすることにより、次式で表わされる。
【数16】
【0102】
数式14における複数の係数(a1,a2及びb)は、閉ループ伝達関数GCの特性方程式(数16)に含まれる項の係数が全て同じ符号となるように設定される。
【0103】
この場合、ラプラス演算子sの2次の係数の符号が正となる次式の条件が必要である。
【数17】
【0104】
[電力変換装置2が単独運転している場合]
この場合の特性多項式も、上述の説明における伝達関数G
Oを、数式1の代わりに数式14とすることにより、次式で表わされる。
【数18】
【0105】
数式14における複数の係数(a1,a2及びb)は更に、閉ループ伝達関数GCの特性方程式(数式18)において、他の項の係数の符号と異なる項が発生するように設定される。
【0106】
この場合、ラプラス演算子sの1次の係数の符号が負となる次式の条件が必要である。
【数19】
【0107】
以上説明した条件(数式17及び数式19)を満たす伝達関数GOであれば、電力変換装置2が単独運転状態である場合に、それを容易に検出することができる。
【0108】
==変形例==
変形例の電力変換装置について説明する。
図5は、本変形例の電力変換装置の連系点電圧振幅制御部52を説明する図である。
【0109】
本変形例の電力変換装置は、実施形態の電力変換装置2と比べると、連系点電圧振幅制御部52が振幅制御部52aを更に含む点で異なっている。
【0110】
上記実施形態では、振幅指令値Vref
**として所定の値を連系点電圧振幅制御部22への入力として用いた。
【0111】
これに対して本変形例では、振幅制御部52aが、電力系統1に出力する無効電力指令値Qrefと、電力系統1に実際に出力される無効電力Qoutとに基づいて、振幅指令値Vref
**を出力する。
【0112】
ここで、無効電力指令値Q
refは、電力変換装置2の設計者、運用者等によって予め設定された値、または力率を維持するように動的に設定される値である。無効電力Q
outは、測定部4(
図1及び
図2)による測定値である。
【0113】
本変形例のように振幅指令値Vref
**を算出することとしてもよい。これによって、無効電力制御あるいは力率一定制御を行う場合であっても単独運転検出が可能である。
【0114】
==まとめ==
実施形態の電力変換装置2は、電力系統1に連系可能であり、仮想同期発電機機能を有する電力変換装置2であって、仮想同期発電機機能における周波数又は電力系統1との連系点における電圧の周波数に対して所定の伝達関数GOを演算した後に上下限制限を与えた処理結果を出力する周波数フィードバック部22aと、連系点における電圧に関する所定の第1振幅指令値と、処理結果とを加算した第2振幅指令値を出力する加算部と、第2振幅指令値及び連系点における電圧の振幅に基づいて、インバータ出力電圧振幅指令値を生成する連系点電圧振幅制御部22と、仮想同期発電機機能における位相及び出力電圧振幅に基づいて、三相交流電圧を発生させる電圧出力部と、処理結果が上下限制限に達した場合に、電力変換装置2が電力系統1から切り離された単独運転状態であることを検出する単独運転検出部22dと、を含み、伝達関数GOは、分母におけるラプラス演算子の少なくとも2次の多項式と、分子におけるラプラス演算子の1次の単項式とを有し、有効電力を入力とする仮想同期発電機の出力である位相の変化と、仮想同期発電機の周波数または連系点電圧周波数を入力として所定の伝達関数を演じた結果である電圧振幅変化と、位相変化と電圧振幅変化によって生ずる有効電力変化をまとめて1つの閉ループシステムとみなした閉ループにおける閉ループ伝達関数GCの分母について、電力変換装置2が電力系統1と連系している場合は安定多項式となり、電力変換装置2が単独運転している場合は不安定多項式となるように多項式及び単項式における係数が与えられる。
【0115】
このような構成によれば、連系中は安定を維持しつつ、単独運転状態移行後は不安定となるために単独運転検出が可能となる。
【0116】
実施形態の電力変換装置2において、多項式及び単項式における係数は、電力変換装置2が電力系統1と連系している場合、閉ループ伝達関数GCの特性方程式に含まれる項の係数が全て同じ符号となり、電力変換装置2が単独運転している場合、閉ループ伝達関数GCの特性方程式において、他の項の係数の符号と異なる項が発生するように設定される。このような構成によれば、連系中の安定性確保と単独運転状態移行後の不安定化を容易に実現できる。
【0117】
実施形態の電力変換装置2において、伝達関数GOは、分母がラプラス演算子の2次の多項式である。このような構成によれば、設定すべき独立なパラメータの数を少なく抑えられるため、その設定が容易になる。
【0118】
実施形態の電力変換装置2において、伝達関数GOは、分母がラプラス演算子の1次の多項式の平方で表現される。このような構成によれば、設定すべき独立なパラメータの数を更に少なく抑えられるため、その設定が更に容易になる。
【0119】
実施形態の検出方法は、仮想同期発電機制御を有して系統連系する電力変換装置2が、電力系統1から切り離された単独運転状態であることを検出する検出方法であって、電力変換装置2が、仮想同期発電機機能における周波数又は電力系統1との連系点における電圧の周波数に対して所定の伝達関数GOを演算した後に上下限制限を与えた処理結果を出力するステップと、連系点における電圧に関する所定の第1振幅指令値と、処理結果とを加算した第2振幅指令値を出力するステップと、第2振幅指令値及び連系点における電圧の振幅に基づいて、インバータ出力電圧振幅指令値を生成するステップと、仮想同期発電機機能における位相及び出力電圧振幅に基づいて、三相交流電圧を発生させるステップと、処理結果が上下限制限に達した場合に、電力変換装置2が電力系統1から切り離された単独運転状態であることを検出するステップと、を含み、伝達関数GOは、分母におけるラプラス演算子の少なくとも2次の多項式と、分子におけるラプラス演算子の1次の単項式とを有し、有効電力を入力とする仮想同期発電機の出力である位相の変化と、仮想同期発電機の周波数または連系点電圧周波数を入力として所定の伝達関数を演じた結果である電圧振幅変化と、位相変化と電圧振幅変化によって生ずる有効電力変化をまとめて1つの閉ループシステムとみなした閉ループにおける閉ループ伝達関数GCの分母について、電力変換装置2が電力系統1と連系している場合は安定多項式となり、電力変換装置2が単独運転している場合は不安定多項式となるように多項式及び単項式における係数が与えられる。
【0120】
このような方法によれば、連系中は安定を維持しつつ、単独運転状態移行後は不安定となるために単独運転検出が可能となる。
【符号の説明】
【0121】
電力系統 1
送電線 10
遮断器 11
電力変換装置 2
制御装置 20
DSP 200
記憶装置 201
インバータ出力電圧位相生成部 21
加算器 21a,21b,21d
積分器 21c,21g
乗算器 21e,21f
連系点電圧振幅制御部 22
周波数フィードバック部 22a
加算器 22b
振幅制御部 22c
単独運転検出部 22d
演算部 22e
制限部 22f
瞬時電圧指令生成部 23
PWMパルス生成部 24
電力変換部 30
遮断器 3
測定部 4