(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136178
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】浄水用フロック形成装置とその運転方法及び迂流装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/56 20230101AFI20240927BHJP
B01D 21/01 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C02F1/56 Z
B01D21/01 C
B01D21/01 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047198
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094226
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100087066
【弁理士】
【氏名又は名称】熊谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】森 康輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雄斗
(72)【発明者】
【氏名】山本 崇史
(72)【発明者】
【氏名】矢出 乃大
【テーマコード(参考)】
4D015
【Fターム(参考)】
4D015BA19
4D015BA28
4D015BB09
4D015BB12
4D015DA04
4D015DB01
4D015EA04
4D015EA06
4D015EA32
(57)【要約】
【課題】処理水量の増減に関わらずフロック形成を確実に行え、設備のコンパクト化も図れ、さらに高分子凝集剤によるフロック形成も効果的に行える浄水用フロック形成装置を提供すること。
【解決手段】前処理設備からの被処理水を流入する流入室20と、流入室20に流入した被処理水を撹拌する撹拌機40と、流入室20から流入した被処理水を迂流板61によって迂流しながら流下させる迂流室60と、迂流室60から流入した被処理水を後段設備へ流出させる流出室80とを備える。流入室20と流出室80を近接して配置する。流入室20と流出室80の間に循環用開口31を介して被処理水の一部を流入室20に戻して循環する循環流路を形成する。流入室20に高分子凝集剤を注入する高分子凝集剤注入点120Aを設け、循環流路にも高分子凝集剤を注入する高分子凝集剤注入点130Aを設ける。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浄水処理の凝集沈殿処理工程でフロック形成処理に用いられる浄水用フロック形成装置において、
前処理設備からの被処理水を流入する流入室と、
前記流入室に流入した被処理水を撹拌する撹拌機と、
前記流入室から流入した被処理水を迂流板によって迂流しながら流下させる迂流室と、
前記迂流室から流入した被処理水を後段設備へ流出させる流出室と、
を備え、
前記流入室と前記流出室を近接して配置し、
前記流入室または前記流入室の下流側に、高分子凝集剤を注入する高分子凝集剤注入点を設けたことを特徴とする浄水用フロック形成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の浄水用フロック形成装置であって、
前記流入室と前記流出室の間に、被処理水の一部が流入室、迂流室、流出室を循環する循環流路を形成したことを特徴とする浄水用フロック形成装置。
【請求項3】
請求項2に記載の浄水用フロック形成装置であって、
前記流入室の下流側の高分子凝集剤注入点は、前記循環流路に設けられていることを特徴とする浄水用フロック形成装置。
【請求項4】
請求項2に記載の浄水用フロック形成装置であって、
前記循環流路に設置されて循環流量を調整する循環流量調整手段と、
当該循環流量調整手段によって調整される循環流量と、前記撹拌機の回転数と、前記高分子凝集剤注入点から注入される高分子凝集剤の注入量とを制御する制御手段と、
を具備することを特徴とする浄水用フロック形成装置。
【請求項5】
請求項4に記載の浄水用フロック形成装置であって、
前記高分子凝集剤注入点は、前記流入室と前記循環流量調整手段の下流側の両方に設けられ、
前記制御手段は、前記循環流量調整手段によって循環流路を閉じた際は、高分子凝集剤を、前記流入室に設けた高分子凝集剤注入点から注入しながら、前記撹拌機を駆動させる制御を行うことを特徴とする浄水用フロック形成装置。
【請求項6】
請求項4に記載の浄水用フロック形成装置であって、
前記高分子凝集剤注入点は、前記流入室と前記循環流量調整手段の下流側の両方に設けられ、
前記制御手段は、前記循環流量調整手段によって循環流路を開いた際は、高分子凝集剤を、前記循環流量調整手段の下流側に設けた高分子凝集剤注入点から注入しながら、前記撹拌機を駆動させる制御を行うことを特徴とする浄水用フロック形成装置。
【請求項7】
請求項1に記載の浄水用フロック形成装置であって、
前記迂流室のHRTを5~40(min)とし、且つ当該迂流室の後段部分の流路幅を表面負荷率が30~200(mm/min)となる流路幅としたことを特徴とする浄水用フロック形成装置。
【請求項8】
請求項2に記載の浄水用フロック形成装置の運転方法であって、
前記循環流路を閉じた際は、前記流入室に設けた高分子凝集剤注入点から高分子凝集剤を注入しながら、前記撹拌機を駆動させ、
前記循環流路を開いた際は、前記流入室の下流側に設けた高分子凝集剤注入点から高分子凝集剤を注入しながら、前記撹拌機を駆動させることを特徴とする浄水用フロック形成装置の運転方法。
【請求項9】
浄水処理の凝集沈殿処理工程で、凝集剤を添加した被処理水を迂流板によって迂流しながら流下させることでフロック形成処理を行う迂流装置において、
前記迂流装置のHRTを5~40(min)とし、且つ当該迂流装置の後段部分の流路幅を表面負荷率が30~200(mm/min)となる流路幅としたことを特徴とする迂流装置。
【請求項10】
浄水処理の凝集沈殿処理工程でフロック形成処理に用いられる浄水用フロック形成装置の運転方法において、
前記浄水用フロック形成装置は、
前処理設備からの被処理水を流入する流入室と、
前記流入室に流入した被処理水を撹拌する撹拌機と、
前記流入室から流入した被処理水を迂流板によって迂流しながら流下させる迂流室と、
前記流入室と近接して配置され、前記迂流室から流入した被処理水を後段設備へ流出させる流出室と、
を備え、
前記流入室または前記流入室の下流側に、高分子凝集剤を注入する運転を行うことを特徴とする浄水用フロック形成装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水処理の凝集沈殿処理工程におけるフロック形成処理に用いて好適な浄水用フロック形成装置とその運転方法及び迂流装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、浄水(浄水・用水)処理においては、河川水や湖沼水などの水道原水から水道水質を満足する上水を得るために、凝集沈殿処理やろ過処理、消毒処理を行う。凝集沈殿処理は、凝集剤薬品を用いて水中の懸濁物質を凝集し、沈殿池で固液分離可能となるよう処理を行う操作である。凝集沈殿処理設備は、注入した凝集剤を原水中に速やかに分散して荷電中和を行って懸濁物質同士の反発力(斥力)を減ずる混和池と、混和池で荷電中和した懸濁物質を、後段の沈殿池で固液分離可能なように粗大化するフロック形成装置とを具備する。フロック形成装置での撹拌方式は、機械式撹拌と迂流式撹拌の2つに大別される。
【0003】
上記機械式撹拌は、専用の撹拌機を用いて撹拌を行うものである。この機械式撹拌は、流量変動に対する追従性は良いものの、撹拌機の補修や交換を定期的に実施する必要があり、さらに撹拌機を駆動するための駆動エネルギーが必要になる。
【0004】
一方、上記迂流式撹拌は、水の持つ水頭(位置エネルギー)を撹拌に利用する方法である。このため迂流式撹拌は、駆動部を含む機械的な故障や部品交換が必要なく、位置エネルギー(自然エネルギー)を有効活用できるが、処理水量の増減が避けられない浄水場において当該水量変動への追随性に難がある。即ち、迂流式撹拌の場合、水量が減少すると撹拌力も減少し、フロック同士の接触機会が減少するためフロックが良好に成長できなくなる虞がある。しかし昨今の自然エネルギーの有効活用の観点から、低LCC(ライフサイクルコスト)な装置として注目されている。
【0005】
特許文献1には、迂流式混合槽の内部で無機系凝集剤と有機系高分子凝集剤を2段添加し、場合によっては凝集剤拡散用の撹拌機を用いて凝集処理を行う雨水混入下水の処理方法及び装置が開示されている。また特許文献2には、混和槽などにおいて凝集剤(無機系凝集剤)や凝集助剤(高分子凝集剤)を注入し撹拌機などによって分散した後、迂流水路を有するフロック形成槽においてフロックを生成する固液分離システムが開示されている。また特許文献3には、迂流式流路内において、無機系凝集剤と有機系高分子凝集剤を2段添加して凝集処理を行う雨水混入下水の処理方法及び装置が開示されている。非特許文献1には、フロック形成装置の基本的な設計指針が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-344778号公報
【特許文献2】特開2013-49057号公報
【特許文献3】特開2005-177602号公報
【非特許文献1】「水道施設設計指針2012」(社団法人日本水道協会)P.186「5.4.3フロック形成池」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2,3,非特許文献1においては、何れも迂流式撹拌について開示されているが、上述したように、処理水量の増減が避けられない浄水場においては、当該水量変動への追随性に難があり、水量が減少すると撹拌力も減少し、フロックが良好に成長できなくなる虞があった。またフロックの形成をより良好にするために迂流水路を長くすると、コンパクト化が図れなくなる虞もあった。
【0008】
また特許文献1,2,3においては、原水に含まれる固体を凝集させるために無機系凝集剤を添加した後、フロックを強固又は大きくして回収し易くするために高分子凝集剤を添加しているが、高分子凝集剤の注入点や注入方法などにも各種の課題があった。例えば特許文献1や特許文献2では、迂流式撹拌による撹拌力の減少を補うために高分子凝集剤の注入箇所に撹拌機を設置しているが、特許文献1では迂流室内に凝集剤分散専用の撹拌機を設置し、また特許文献2では迂流槽の前段に別途高分子凝集剤を注入するための混和装置を設けてその中に凝集剤分散専用の撹拌機を設置しており、その分装置が複雑化し大型化してしまうなどの虞があった。
【0009】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものでありその目的は、処理水量の増減に関わらずフロック形成を確実且つ効率よく行うことができ、また設備のコンパクト化を図ることもでき、また迂流式撹拌において高分子凝集剤によるフロックの形成を効果的に行うことができる浄水用フロック形成装置とその運転方法及び迂流装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、浄水処理の凝集沈殿処理工程でフロック形成処理に用いられる浄水用フロック形成装置において、前処理設備からの被処理水を流入する流入室と、前記流入室に流入した被処理水を撹拌する撹拌機と、前記流入室から流入した被処理水を迂流板によって迂流しながら流下させる迂流室と、前記迂流室から流入した被処理水を後段設備へ流出させる流出室と、を備え、前記流入室と前記流出室を近接して配置し、前記流入室または前記流入室の下流側に、高分子凝集剤を注入する高分子凝集剤注入点を設けたことを特徴としている。
前処理設備としては、薬品混和池(急速混和池)などがある。後段設備としては、沈殿池などがある。
流入室と流出室を近接して配置するためには、迂流室を、流入室から流入した被処理水が折返して流出室に流下する折返し構造とすることが好ましい。
また高分子凝集剤は、アクリルアミドを含まない高分子凝集剤が好ましい。
本発明によれば、流入室と流出室を近接して配置する構成としたので、設備の小型化・コンパクト化が図られると同時に、迂流水路を長くすることができてフロックの良好な成長を促すことができる。
また上述のように、浄水場においては処理水量の増減が避けられないが、処理水量が減少したときに撹拌機によって流入室に流入した被処理水を撹拌することでG値(撹拌強度を表す値)を与え、これによって迂流室におけるフロック形成能力を向上させることができる。
また、流入室に設けた高分子凝集剤注入点から流入室内に高分子凝集剤を注入すれば、当該高分子凝集剤が撹拌機によって撹拌・分散されて被処理水への接触機会が増大し、後段の迂流室でのフロック形成を効果的に進めることができる。
【0011】
また本発明は、上記特徴に加え、前記流入室と前記流出室の間に、被処理水の一部が流入室、迂流室、流出室を循環する循環流路を形成したことを特徴としている。
循環流路は、流入室と流出室を直接繋ぐように、または他の室(例えば循環室)などを介して間接に繋ぐように、例えば循環用開口を設けて構成することが好ましい。
本発明によれば、前処理設備から流入してくる被処理水と、流出室から循環してくるフロック成長済みの被処理水とを接触させる接触凝集によってフロック形成作用をさらに向上させることができる。
【0012】
また本発明は、上記特徴に加え、前記流入室の下流側の高分子凝集剤注入点は、前記循環流路に設けられていることを特徴としている。
当該高分子凝集剤注入点は、前記循環流路の中でも、流入室に近くて撹拌機の回転によって被処理水が流入室に吸い込まれる側の位置に設置することがより好ましい。
本発明によれば、流出室から流入室に向かうフロック成長済みの一部の被処理水だけに高分子凝集剤を注入できる。このため前処理設備から流入する被処理水と、流出室から循環してくるフロック成長済みの被処理水と、注入された高分子凝集剤とを効果的に接触させることができ、接触凝集によるフロック形成作用をさらに向上させることができる。
【0013】
また本発明は、上記特徴に加え、前記循環流路に設置されて循環流量を調整する循環流量調整手段と、当該循環流量調整手段によって調整される循環流量と、前記撹拌機の回転数と、前記高分子凝集剤注入点から注入される高分子凝集剤の注入量とを制御する制御手段と、を具備することを特徴としている。
循環流量調整手段は、例えば流入室と流出室を繋ぐ循環用開口に、その開度を調整する開度調整手段を設置すること等によって構成することが好ましい。
本発明によれば、流出室から流入室に循環させるフロック成長済みの被処理水の循環流量と、流入室において撹拌する撹拌機の回転数と、高分子凝集剤の注入量とを、制御手段が制御するので、これらの最適な組み合わせが実現でき、迂流室におけるフロック形成作用をさらに向上させることができる。
【0014】
また本発明は、上記特徴に加え、前記高分子凝集剤注入点は、前記流入室と前記循環流量調整手段の下流側の両方に設けられ、前記制御手段は、前記循環流量調整手段によって循環流路を閉じた際は、高分子凝集剤を、前記流入室に設けた高分子凝集剤注入点から注入しながら、前記撹拌機を駆動させる制御を行うことを特徴としている。
例えばこの浄水用フロック形成装置の運転開始当初は、迂流室において十分なフロックが生成されていない。このためこのようなときは、循環流路を閉じて前処理施設からの被処理水だけを流入室へ流入させると同時に、流入室だけに高分子凝集剤を注入して撹拌機を駆動させることとした。これによって十分なフロックが形成されていないときのフロック形成作用を効果的に発揮させることができる。
また本発明は、上記特徴に加え、前記高分子凝集剤注入点は、前記流入室と前記循環流量調整手段の下流側の両方に設けられ、前記制御手段は、前記循環流量調整手段によって循環流路を開いた際は、高分子凝集剤を、前記循環流量調整手段の下流側に設けた高分子凝集剤注入点から注入しながら、前記撹拌機を駆動させる制御を行うことを特徴としている。
浄水用フロック形成装置の運転を継続していると、迂流室において十分なフロックが生成される。このためこのようなときは循環流路を開いて、前処理施設からの被処理水の他に、フロックが生成され且つ高分子凝集剤が注入された被処理水を流入室へ流入させると同時に撹拌機を駆動させることとした。これによって十分なフロックが生成されているときのフロック形成作用を効果的に発揮させることができる。
【0015】
また本発明は、上記特徴に加え、前記迂流室のHRTを5~40(min)とし、且つ当該迂流室の後段部分の流路幅を表面負荷率が30~200(mm/min)となる流路幅としたことを特徴としている。
迂流室の流路幅は、例えば前段ではその幅を狭くして被処理水の流速を速めて被処理水と高分子凝集剤の接触機会を増やしてフロックの形成を促進させるが、後段ではフロックの大きさが十分な大きさになっているので、その幅を前段よりも広くして流速を落とす。但しあまり流速を落とすと、形成されたフロックが顕著な堆泥となって流れにくくなる。
本発明によれば、上記条件とすることで、良好なフロックを形成することができ、且つこのフロックを後段設備へ押し流していくことができる。なお、流路幅は、上記迂流室の後段部分の流路幅が上記条件を満たせば、前段側と後段側を均一としても良い。また後段側とは、迂流室の最終段でも良いし、最終段より上流側にある段であっても良い。
【0016】
また本発明は、上記浄水用フロック形成装置の運転方法であって、前記循環流路を閉じた際は、前記流入室に設けた高分子凝集剤注入点から高分子凝集剤を注入しながら、前記撹拌機を駆動させ、前記循環流路を開いた際は、前記流入室の下流側に設けた高分子凝集剤注入点から高分子凝集剤を注入しながら、前記撹拌機を駆動させることを特徴としている。
本発明にかかる運転方法によれば、迂流室において、十分なフロックが形成されていないときと、十分なフロックが形成されているときの何れにおいても、その状況に応じた効果的なフロック形成作用を発揮させることができる。
【0017】
また本発明は、浄水処理の凝集沈殿処理工程で、凝集剤を添加した被処理水を迂流板によって迂流しながら流下させることでフロック形成処理を行う迂流装置において、前記迂流装置のHRTを5~40(min)とし、且つ当該迂流装置の後段部分の流路幅を表面負荷率が30~200(mm/min)となる流路幅としたことを特徴としている。
本発明によれば、上記条件とすることで、良好なフロックを形成することができ、且つこのフロックを後段設備へ押し流していくことができる。なお、流路幅は、前段ではその幅を狭くして被処理水の流速を速めて被処理水と高分子凝集剤の接触機会を増やしてフロックの形成を促進させ、後段ではフロックの大きさが十分な大きさになっているので、その幅を前段よりも広くして流速を落とすように構成することが好ましい。但し、上記迂流装置の後段部分の流路幅が上記条件を満たせば、前段側と後段側を均一な流路幅としても良い。また後段側とは、迂流室の最終段でも良いし、最終段より上流側にある段であっても良い。
【0018】
また本発明は、浄水処理の凝集沈殿処理工程でフロック形成処理に用いられる浄水用フロック形成装置の運転方法において、前記浄水用フロック形成装置は、前処理設備からの被処理水を流入する流入室と、前記流入室に流入した被処理水を撹拌する撹拌機と、前記流入室から流入した被処理水を迂流板によって迂流しながら流下させる迂流室と、前記流入室と近接して配置され、前記迂流室から流入した被処理水を後段設備へ流出させる流出室と、を備え、前記流入室または前記流入室の下流側に、高分子凝集剤を注入する運転を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、処理水量の増減に関わらず、フロック形成を確実且つ効率よく行うことができ、また設備のコンパクト化を図ることもできる。また迂流式撹拌において高分子凝集剤によるフロックの形成を効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】浄水用フロック形成装置1の概略平面図である。
【
図4】フロック形成装置1の制御手段を示す制御ブロック図である。
【
図5】循環用開口31部分の拡大縦断面概略図である。
【
図6】
図6(a),(b)は迂流室(迂流装置)60における各種条件でのフロック形成状態を示す図である。
【
図7】浄水用フロック形成装置1-2の概略平面図である。
【
図9】撹拌機40の一例を示す図であり、
図9(a)は斜視図、
図9(b)は
図9(a)のD-D断面矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
浄水用フロック形成装置は、上述したように、凝集沈殿処理設備(凝集沈殿処理工程)の一部であり、原水中に凝集剤(無機系凝集剤)を注入・分散して荷電中和を行う薬品混和池の後段に接続され、薬品混和池で荷電中和した懸濁物質を粗大化する装置である。フロック形成装置の後段には、粗大化したフロックを沈殿させる沈殿池が設置される。
【0022】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる浄水用フロック形成装置1の概略平面図、
図2は
図1のA-A概略断面図、
図3は
図1のB-B断面矢視図である。これらの図に示すように、浄水用フロック形成装置(以下単に「フロック形成装置」と記載する場合もある)1は、前処理設備である薬品混和池(急速混和池)からの被処理水を導入する流入室20と、流入室20の下部に設置される循環室22と、流入室20内に設置され流入室20に流入する被処理水を必要に応じて撹拌する撹拌機40と、流入室20の流出口27から被処理水を導入する迂流室60と、流入室20に隣接して設置され、迂流室60から流出してくる被処理水を流入口81から流入させる流出室80と、流出室80の流出口83から流出した被処理水を整流させて後段設備である沈殿池に流出する整流板100と、前記流入室20の流入口23近傍に設置され流入室20に高分子凝集剤を注入する第1高分子凝集剤注入部材120と、前記循環室22に設置され前記流入室20(撹拌機40の下部)に高分子凝集剤を注入する第2高分子凝集剤注入部材130とを具備して構成されている。
【0023】
図1に示すように、流入室20と迂流室60と流出室80は、矩形状の箱形にユニット化されている。
【0024】
流入室20は、
図2,
図3に示すように、当該流入室20と循環室22とを上下に仕切る仕切板21を設置し、流入室20の側壁22の下部に流入口23を設け、また流入室20の迂流室60側の側壁25の上部に流出口27を設け、また仕切板21のほぼ中央に上下に貫通する流通口29を設けている。
【0025】
循環室22の迂流室60側の側壁25の下部(流出室80に対向する面、仕切壁)には、この循環室22と流出室80とを連通する略矩形状に貫通する循環用開口31が形成されている。
【0026】
図5は循環用開口31部分の拡大縦断面概略図である。同図に示すように、循環用開口31は、その循環室22側に逆流防止ゲート33を設置し、その流出室80側に開度調整扉35を設置している。
【0027】
逆流防止ゲート33は循環用開口31を塞ぐ寸法形状に形成され、上辺がヒンジ機構331によって側壁25に回動自在に取り付けられ、これによって逆流防止ゲート33は循環室22側の方向(
図5の矢印E方向)のみに回動自在となっている。即ち逆流防止ゲート33は、流出室80側から循環室22(流入室20)側に向かう被処理水(循環水)の移動は可能であるが、その逆方向に向かう移動は阻止されるように動作する。
【0028】
開度調整扉35は、循環用開口31を塞ぐ寸法形状であって且つその上辺に棒状の駆動部材37を取り付け、さらにその上部に駆動部材37を上下方向に駆動させる開閉手段駆動部39を取り付けて構成されている。そして開閉手段駆動部39を駆動することで、開度調整扉35を上下動し、これによって循環用開口31の開度を調整する。これら開度調整扉35と駆動部材37と開閉手段駆動部39全体を、開度調整手段といい、さらに循環用開口31に開度調整手段を設置した構成を、循環流量調整手段ということとする。
【0029】
図1~
図3に戻って、撹拌機40は、その上面に回転駆動軸41を取り付け、さらに回転駆動軸41の上部にこの回転駆動軸41を回転駆動する撹拌機駆動部43を取り付けて構成されている。撹拌機40は、
図3では羽根(攪拌翼)が中央から放射状に配列された構造の撹拌機40を示しているが、実際には、揚水性を加味し、
図9(a),(b)に示すような遠心ポンプで使用されるインボリュート羽根形状の羽根車からなる撹拌機40を用いることがより望ましい。そして撹拌機駆動部43を駆動すれば撹拌機40が回転する。この撹拌機40は、遠心力で被処理水に圧力をかけることで、流入室20の流入口23から流入してくる被処理水にG値を与えて迂流室60へ流出していく被処理水に対する撹拌力を増加させてフロック同士の接触機会を増加する機能(撹拌機能)と、前記循環用開口31から吸い込んだ被処理水を流通口29を通してその上方に吸い上げて回転駆動軸41に垂直な面方向に向けて吐き出す機能(循環機能)とを併せ持っている。もちろん他の各種構造の撹拌機を用いても良い。循環機能の点からいうと、撹拌翼を有する撹拌機40は、循環翼を有する循環機ということもできる。
【0030】
迂流室60は、多数枚の迂流板61を、上流から下流に向けて流れる被処理水を迂流させるように設置して構成されている。各迂流板61はその面が被処理水の流れに交差するように設置され、またその上辺や下辺や左右両側辺などに、所望の切り欠きや貫通孔からなる被処理水挿通部63を設けている。隣接する迂流板61の被処理水挿通部63の位置を異ならせることで、被処理水が下流に向けて流下する際に撹拌を行い、フロック形成作用が効果的に生じるようにしている。なお迂流板61の設置位置や被処理水挿通部63の形状や設置位置などに種々の変更が可能であることはいうまでもない。例えば、図では迂流板61の設置間隔(流路幅)を迂流室60の全体にわたって同一に記載しているが、迂流室60内を流れる被処理水の流速を速い流れから徐々に遅くして撹拌強度を小さくしてフロックを大きくしていくため(テーパードフロキュレーション)、迂流板61の設置間隔を下流側ほど広くするように、例えば複数のブロック(同一ブロック内は同一の流路幅)に分けて下流側のブロックほど迂流板61の流路幅を広くするように、構成することがより好ましい。
【0031】
そしてこの実施形態にかかる迂流室60においては、流入室20から流入した被処理水が、流入室20から離れる方向に向かって流下した後、折返し部65において折り返し、流入室20に隣接して設けた流出室80に近づいていく方向に向かって流下する構造、即ち迂流構造の流路を隔壁67で仕切って折り返す折返し構造としている。
【0032】
流出室80は、最後の迂流板61の下流側端部に形成された部屋である。流出室80と前記流入室20及び循環室22との間は側壁(仕切壁)25によって仕切られている。この流出室80は、前記迂流室60から被処理水を流入させる流入口81と、整流板100側に流出させる流出口83と、循環室22を介して流入室20に被処理水の一部を循環させる前記循環用開口31とを有している。なお流出口83には、その下辺の高さが上下動できる流出壁高可変構造を設けることで、流出室80内の水位を制御・維持できる構成としている。
【0033】
整流板100は、前記流出室80の流出口83から流出した被処理水を整流して後段設備である沈殿池に向けて流出するものであり、多数の貫通孔111を設けることで流出室80から流入してくる被処理水を整流するものである。
【0034】
第1高分子凝集剤注入部材120は、アクリルアミドを含まない有機系の高分子凝集剤を供給する配管であり、
図3に示すように、その先端の第1高分子凝集剤注入点120Aは、流入室20の流入口23内に向けて開口しており、当該第1高分子凝集剤注入点120Aから流入室20内の撹拌機40の下部に向けて高分子凝集剤を注入するものである。
【0035】
第2高分子凝集剤注入部材130は、前記第1高分子凝集剤注入部材120と同様に、アクリルアミドを含まない有機系の高分子凝集剤を供給する配管であり、
図3に示すように、その先端の第2高分子凝集剤注入点130Aが、循環室22側から流入室20の流通口29側を向いて開口しており、当該第2高分子凝集剤注入点130Aから流入室20内の撹拌機40の下部に向けて高分子凝集剤を注入するものである。第2高分子凝集剤の注入点に制限は無いが、注入点を撹拌機40に近接させることによって、第2高分子凝集剤が効率良く分散されると共に、注入されることによって生成する“高い沈降速度を有する凝集フロック”の滞留を防止することができる。
【0036】
前記第1高分子凝集剤注入部材120と第2高分子凝集剤注入部材130は、それぞれ下記する第1高分子凝集剤注入部材駆動部147と第2高分子凝集剤注入部材駆動部149によって高分子凝集剤の供給量が調整される。これら第1,第2高分子凝集剤注入部材駆動部147,149は、例えば高分子凝集剤を収納する薬液槽や、この薬液槽から配管に導入された高分子凝集剤を送液するポンプなどによって構成される。薬液槽は、第1,第2高分子凝集剤注入部材駆動部147,149に対して共用しても良い。またポンプの代わりに(またはポンプと共に)開閉弁や3方切替弁などを用いて第1,第2高分子凝集剤注入点120A,130Aからの薬液の注入状態を切り換えても良い。
【0037】
図4は、上記フロック形成装置1の制御ブロック図である。同図に示すようにフロック形成装置1の制御は、制御手段140に、流入状態測定部141と、開度検出部143と、流入室スラリ濃度測定部145からそれぞれの検出・測定信号を入力し、一方制御手段140から前記撹拌機駆動部43と、前記開閉手段駆動部39と、第1高分子凝集剤注入部材駆動部147と、第2高分子凝集剤注入部材駆動部149とにそれぞれの駆動・制御信号を出力することによって行われる。
【0038】
流入状態測定部141は、前処理設備である薬品混和池からフロック形成装置1に流入する被処理水の流入状態(この例の場合は流入量)を測定する装置(この例の場合は流量計)である。流入状態測定部141は、図示はしないが例えば薬品混和池とフロック形成装置1の間の所定の位置に設置されて被処理水の流量を測定し、その測定値を制御手段140に出力する。また流入状態測定部141は、流入量を測定する代わりに、迂流室60内やその他の箇所の水位を測定することで流入量の過不足を測定しても良いし、流出口83から流出する水量を測定する構成でも良い。さらに迂流室60内で成長するフロックの成長状態を検出することで、流入状態の良否を判断しても良い。要は迂流室60への被処理水の流入状態の過不足が検出できるものであればよい。
【0039】
開度検出部143は、循環用開口31の開度を検出するものであり、図示はしないが例えば水面よりも上方の位置にある駆動部材37の上下方向の位置を測定することなどによって開度を検出し、その測定値を制御手段140に出力する。もちろん他の各種構造の開度検出部であっても良い。
【0040】
流入室スラリ濃度測定部145(
図1~
図3に図示せず)は、流入室20内又はその周辺(例えば、循環室22、迂流槽流入部など)に設置されて流入室20内の被処理水中のスラリ濃度を測定するものである。第1,第2高分子凝集剤注入部材駆動部147,149は、それぞれ前記第1,第2高分子凝集剤注入部材120,130のポンプや開閉弁などを駆動制御し、第1,第2高分子凝集剤注入点120A,130Aから吐出させる高分子凝集剤の流量を調整するものである。
【0041】
制御手段140は、流入状態測定部141から入力した被処理水の流入状態と、開度検出部143から入力した循環用開口31の開度と、流入量スラリ濃度測定部145から入力したスラリ濃度とを用いて、撹拌機駆動部43と開閉手段駆動部39と第1,第2高分子凝集剤注入部材駆動部147,149とに制御信号を出力し、撹拌機40の回転数と、循環用開口31の開度と、第1,第2高分子凝集剤注入点120A,130Aから吐出させる凝集剤の流量とを調整・制御する。
【0042】
次にフロック形成装置1の運転方法の一例を説明する。
図示しない前処理設備である薬品混和池において無機系凝集剤などが添加され、場合によっては撹拌機で撹拌することで前記凝集剤などを分散して懸濁物質を荷電中和した被処理水を、流入口23を通して流入室20に流入する。流入室20に流入する被処理水には、必要に応じて、第1高分子凝集剤注入部材120の第1高分子凝集剤注入点120Aから高分子凝集剤が注入される。この実施形態では、第1高分子凝集剤注入点120Aを撹拌機40の近傍(特に被処理水を吸い込む側である撹拌機40の下側)に設置したので、撹拌機40によって撹拌される際に高分子凝集剤の被処理水への分散が促進され、両者の接触機会が増進される。そして流入室20に流入した被処理水は、流出口27を通して迂流室60に流入する。
【0043】
流入室20から迂流室60に流入した被処理水は、自然流下によって下流に向かって流下してゆき、途中で折り返して流出室80に向かって流下していく。当該流下の間に、被処理水は迂流板61によって上下左右に蛇行を繰り返すことで撹拌されてフロックが形成され、さらに生成されたフロック同士が効果的に接触し、成長・粗大化していく。
【0044】
フロックの形成は、主として迂流室60の前段部分で行い、後段部分では被処理水と固液分離され沈殿したフロックを沈降させずに流動させていくことが望ましい。このため、上述のように、迂流板61の設置間隔(流路幅)をその前段では狭くして撹拌強度を強くしてフロックの生成を促し、後段部分では迂流板61の設置間隔を広くして迂流室60内を流れる被処理水の流速を粗大化したフロックが流れる程度に遅くして固液分離を促していくことが好適である。
【0045】
そして粗大化したフロックを固液分離した被処理水は、流入口81から流出室80に流入した後、流出口83から整流板100側に流出し、整流板100の各貫通孔111を通過して整流された後、後段設備である図示しない沈殿池に導入され、粗大化したフロックを沈殿させる。
【0046】
上記フロック形成工程において、薬品混和池から流入する被処理水の流量が少ない場合(少ないことを流入状態測定部141が検出した場合)、制御手段140は撹拌機40をその流量に応じた回転速度で回転させる(停止状態から稼働する場合や回転状態からその回転速度を速くする場合がある)。回転速度は被処理水の水量が減少すればするほど速くしていく。これによって被処理水は撹拌され、迂流室60に流下していく被処理水にG値を印加することができ、迂流室60内を流下する被処理水の流量が少ないことによってフロック同士の接触回数が低下することを防止する。これによってたとえ被処理水の流量が少ない場合でも、良好なフロック形成を維持することが可能になる。
【0047】
一方、被処理水の流量の多少とは別に、撹拌機40を回転駆動することで、当該回転する撹拌機40のポンプ作用によって、迂流室60から流出室80に流入した被処理水の一部を、循環用開口31を介して循環室22に流入させ、さらに循環室22に流入した被処理水を流通口29を通して流入室20に導入し、前記流入口23から流入してくる被処理水と合流させながら、流出口27から迂流室60に流出させていく。ここで循環用開口31から循環室22を介して流通口29に至る流路、即ち流入室20と流出室80の間を結ぶ流路を循環流路という。
【0048】
このとき必要に応じて、第2高分子凝集剤注入部材130の第2高分子凝集剤注入点130Aから流通口29、即ち撹拌機40の近傍(特に被処理水を吸い込む側である撹拌機40の下側)に向けて高分子凝集剤を注入する。撹拌機40の吸込み側に高分子凝集剤を注入する構成としたので、撹拌機40による高分子凝集剤の攪拌がより効果的に行われ、被処理水と高分子凝集剤との接触機会が増進される。
【0049】
このように、フロック生成が進んでいない前処理設備から流入する被処理水と、迂流室60において既にフロックを生成して流出室80から循環してくる被処理水とを混合して接触させ、さらにその際高分子凝集剤を効果的な位置で注入することにより、すでに生成されているフロックを用いた接触凝集を図り、これによって迂流室60におけるフロック生成をより効果的に進めることができる。
【0050】
流出室80から流入室20に循環させる被処理水の水量の調節は、撹拌機40の回転速度、及び開度調整扉35の開度の調整によって行う。例えば前処理設備の薬品混和池から流入する被処理水の流量が多い場合は、それに見合う循環流量を付与するため、開度調整扉35の開度を大きくし、撹拌機40の回転速度も速くする。一方、前処理設備の薬品混和池から流入する被処理水の流量が少ない場合は、上述のように撹拌機40の回転速度は被処理水に強いG値を与えるため速くするが、循環流量を少なくするため開度調整扉35の開度を小さくする。
【0051】
また第1,第2高分子凝集剤注入部材120,130からそれぞれ供給される高分子凝集剤の注入量の調整は、制御手段140が第1,第2高分子凝集剤注入部材駆動部147,149を制御することによって行われる。制御手段140による調整方法としては、この実施形態では、循環流量調整手段を構成する循環用開口31を開度調整扉35によって閉じることで循環流路を閉じた際は、第1高分子凝集剤注入部材120によって高分子凝集剤を注入しながら撹拌機40を駆動させる制御を行う。
【0052】
一方、前記循環流量調整手段を構成する循環用開口31を開度調整扉35によって開くことで循環流路を開いた際は、第2高分子凝集剤注入部材130によって高分子凝集剤を注入しながら撹拌機40を駆動させる制御を行う。このとき、撹拌機40の撹拌翼を回転させると共に、流入室20内のスラリ濃度(SS)を流入室スラリ濃度測定部145によって測定し、スラリ濃度が所定値以上であることを検出したときは、循環流路側からのフロックの量が多すぎる(フロックと被処理水との接触機会が多すぎになる)と判断し、撹拌機40の撹拌翼の回転数を低減したり、循環用開口31の開度を狭くしたりする制御を行う。逆に、スラリ濃度が所定値以下であることを検出したときは、循環流路側からのフロックの量が少なすぎる(フロックと被処理水との接触機会が少なくなる)と判断し、撹拌機40の撹拌翼の回転数を増加したり、循環用開口31の開度を広くしたりする制御を行う。即ち、制御手段140は、スラリの濃度に応じて、撹拌機40と循環用開口31の少なくとも何れか一方を適切な状態になるように制御する。
【0053】
もちろん循環流路側からの被処理水の流量を撹拌機40の回転数や循環用開口31の開度によって調整しながら、第1高分子凝集剤注入部材120と第2高分子凝集剤注入部材130から同時にそれぞれ調整した量の高分子凝集剤を注入するように制御してもよい。
【0054】
上述のように、撹拌機40は、流入水量が少ないときに被処理水にG値を付与してフロックの成長を促す機能と、流出室80側から循環させる被処理水の循環流量を増減させる機能(ポンプ機能、循環機能)と、第1,第2高分子凝集剤注入部材120,130から供給された高分子凝集剤を被処理水中に分散させる機能とを兼用する。そしてこれらの機能が同時に効果的に発揮できるよう、制御手段140は、流入状態測定部141や開度検出部143や流入室スラリ濃度測定部145からの入力データを用いて、撹拌機40の運転状態と、循環用開口31の開度と、第1,第2高分子凝集剤注入点120A,130Aから吐出させる凝集剤の流量とを変更・制御する。
【0055】
なお、撹拌機40を停止させたような場合、流入口23から流入してきた被処理水が、流通口29を逆流し、循環用開口31から流出室80側に短絡(逆流、短絡流)して流出しようとするが、この実施形態では、逆流防止ゲート33を設置しているので、当該逆流は生じない。
【0056】
なお、逆流防止ゲート33を設置していないような場合は、撹拌機40の駆動を開始する前に開度調整扉35を開くと被処理水が逆流するため、撹拌機(循環機)40を先に起動した後に開度調整扉35を開放するように運用すればよい。
【0057】
図6は、上記構造の迂流室(迂流装置)60において、良好なフロックが形成されて固液分離され、且つ固液分離されたフロックが沈殿・堆積しないで流れていくための条件を求める実験結果を示す図である。
【0058】
実験条件は、以下のとおりである。
実験装置として
図1に示す構成の迂流室60を用いた。そしてこの迂流室60への流入流量を1.5(L/min)とし、模擬原水として濁度3度の模擬原水(カオリンと水道水で調製)を用いた。第1高分子凝集剤注入点120Aから高分子凝集剤を適量注入しながら、上記循環凝集を行わせた。また各迂流板61間の流路幅を変更することで水理学的滞留時間(HRT)や表面負荷率を変更し、これによって被処理水の浄水処理の程度を測定した。また凝集剤については、PAC(ポリ塩化アルミニウム)凝集剤と、アクリルアミド非含有凝集剤(濃度0.5mg/L)と、アクリルアミド非含有凝集剤(濃度2mg/L)とをそれぞれ用いて測定した。
【0059】
好適な浄水処理の判定基準は、固液分離した液体の方の濁度が3度以下であること、または顕著な堆泥が発生しないことの2点とし、HRTを変更することによる実験と、表面負荷率を変更することによる実験とを行った。
【0060】
図6(a)は、水理学的滞留時間(min)と上澄水濁度(度)の関係を示す図である。同図に示すように、被処理水が迂流室60内に滞留する時間が短ければ短いほど、上澄水濁度が大きく、即ち固液分離が不十分であることを示しており、水理学的滞留時間が4(min)以下の場合は、上澄水濁度が3度以上となり、凝集および固液分離が進んでいないばかりか、系内に蓄積していた濁質分さえも流下してしまっていることを示唆する結果になった。
【0061】
また
図6(b)は、迂流室60の最終段(流出室80の直前の部分)における、表面負荷率(%)と、上記3種類の高分子凝集剤と、上澄水濁度(度)との関係を示す図である。同図に示すように、高分子凝集剤としては、アクリルアミド非含有高分子凝集剤の方が、PACよりも効果的に固液分離ができていることが分かる。またアクリルアミド非含有高分子凝集剤の濃度は、より濃度の高い(2mg/L)の方がより効果的に固液分離できていることが分かる。そして、アクリルアミド非含有凝集剤(濃度2mg/L)を用いれば、上澄水濁度が3度以下となる表面負荷率(%)は200(mm/min)である。一方、固液分離は効果的に進むが、その分顕著な堆泥が生じるのは、濁度が0.2(度)以下であった。
【0062】
以上の実験結果から、迂流室60は、そのHRTを5~40(min)とし、且つ当該迂流室60の後段部分(最終段でなくても良い)の流路幅を表面負荷率が30~200(mm/min)となる流路幅とすることが好ましいことが分かった。
【0063】
なおこの実験結果による条件は、この実施形態にかかる浄水用フロック形成装置1に適用できるばかりでなく、アクリルアミド非含有高分子凝集剤を注入する被処理水を流して複数枚の迂流板によって迂流させる構造の迂流装置(迂流室)であれば、他の各種迂流装置にも同様に適用することができる。
【0064】
以上説明したように、浄水用フロック形成装置1は、流入室20と流出室80を近接して配置する構成としたので、設備の小型化・コンパクト化が図られると同時に、迂流水路を長くすることができてフロックの良好な成長を促すことができる。また上述のように、浄水場においては処理水量の増減が避けられないが、処理水量が減少したときに撹拌機40によって流入室20に流入した被処理水を撹拌することでG値を与え、これによって迂流室60におけるフロック形成能力を向上させることができる。
【0065】
また、流入室20の流入口23付近に設けた高分子凝集剤注入点120Aから流入室20内に高分子凝集剤を注入すれば、当該高分子凝集剤が撹拌機40によって撹拌・分散されて被処理水への接触機会が増大し、後段の迂流室60でのフロック形成を効果的に進めることができる。
【0066】
また流入室20と流出室80の間に、被処理水の一部が流入室20、迂流室60、流出室80を循環する循環流路を形成したので、前処理設備から流入する被処理水と、流出室80から循環してくるフロック成長済みの被処理水とを接触させる接触凝集によってフロック形成作用をさらに向上させることができる。
【0067】
また前記循環流路(循環用開口31と流通口29間の流路)に設けた高分子凝集剤注入点130Aから高分子凝集剤を注入するので、流出室80から流出して流入室20に向かう被処理水だけに効果的に高分子凝集剤を注入することができる。このため前処理設備から流入する被処理水と、流出室80から循環してくるフロック成長済みの被処理水と、注入された高分子凝集剤とを効果的に接触させることができ、接触凝集によるフロック形成作用をさらに向上させることができる。高分子凝集剤注入点130Aは、上記実施形態のように、前記循環流路の中でも、さらに流入室20に近くて撹拌機40の回転によって被処理水が流入室20に吸い込まれる位置に設置することがより好ましい。
【0068】
またこの浄水用フロック形成装置1によれば、流出室80から流入室20に循環させるフロック成長済みの被処理水の循環流量と、流入室20において撹拌する撹拌機40の回転数と、高分子凝集剤の注入量とを、制御手段140が制御するので、これらの最適な組み合わせが実現でき、迂流室60におけるフロック形成作用をさらに向上させることができる。
【0069】
また第1,第2高分子凝集剤注入点120A,130A を、流入室20と、開度調整扉35などからなる循環流量調整手段の下流側の両方に設け、制御手段140は、循環流量調整手段によって循環流路を閉じた際は、高分子凝集剤を流入室20に設けた高分子凝集剤注入点120Aから注入しながら撹拌機40を駆動させる制御を行い、循環流量調整手段によって循環流路を開いた際は、高分子凝集剤を循環流量調整手段の下流側に設けた高分子凝集剤注入点130Aから注入しながら撹拌機40を駆動させる制御を行う。このため、例えばこの浄水用フロック形成装置1の運転開始当初のように、迂流室60において十分なフロックが形成されていないようなときは、前処理施設からの被処理水だけを流入室20へ流入させると同時に流入室20だけに高分子凝集剤を注入して撹拌機40を駆動させることとし、これによって十分なフロックが形成されていないときのフロック形成作用を効果的に発揮させることとした。一方この浄水用フロック形成装置1の運転を継続していると、迂流室60において十分なフロックが形成されるので、このような場合は循環流路を開いて前処理施設からの被処理水の他に、フロックが形成され且つ高分子凝集剤が注入された被処理水を流入室20へ流入させると同時に撹拌機40を駆動させることとし、これによって十分なフロックが形成されているときのフロック形成作用を効果的に発揮させることとした。即ち、迂流室60において十分なフロックが形成されていないときと、十分なフロックが形成されているときの何れにおいても、その状況に応じた効果的なフロック形成作用を発揮させることができる。
【0070】
また上述のように、迂流室60のHRTを5~40(min)とし、且つ当該迂流室20の後段部分の流路幅を表面負荷率が30~200(mm/min)となる流路幅としたので、良好なフロックを生成することができ、且つ生成したフロックを後段設備へ押し流していくことができる。なお、上記迂流室60の後段部分の流路幅が上記条件を満たしていれば、前段側の流路幅と後段側の流路幅は同一としても良い。ここで後段側とは、迂流室60の最終段でも良いし、最終段より少し上流側の段であっても良い。
【0071】
ところで、従来の迂流式撹拌による凝集の場合、流量低下時には、一般的に機械式撹拌による凝集に比べて、フロック形成能力が低下するが、本実施形態にかかるフロック形成装置1では、例え流量低下時でも撹拌・循環羽根を回転することでG値を与え、且つフロック形成後の被処理水の一部を上流に循環して接触凝集させているので、上記従来の機械式撹拌による凝集に比べても、フロック形成能力が向上する。即ち、原水性状(濁度、TOC)と水量の変化への追従性が向上する。
【0072】
図7は本発明の他の実施形態にかかる浄水用フロック形成装置1-2の概略平面図、
図8は
図7のC-C概略断面図である。これらの図に示す浄水用フロック形成装置1-2において、前記
図1~
図6に示す実施形態にかかる浄水用フロック形成装置1と同一又は相当部分には同一符号(但し各符号に「-2」の添え字を付す)を付す。なお以下で説明する事項以外の事項については、前記
図1~
図6に示す実施形態と同じである。
【0073】
この浄水用フロック形成装置1-2において、上記浄水用フロック形成装置1と相違する主な点は、流入室20-2と流出室80-2の配置と、流出室80-2の流出口83-2に整流機構100-2を設置したことである。即ちこの浄水用フロック形成装置1-2においては、隔壁67-2の延長線上に流入室20-2と流出室80-2間を仕切る仕切壁26-2を設けている。仕切壁26-2には、前記浄水用フロック形成装置1と同様の循環用開口31-2や逆流防止ゲート33-2や開度調整手段(開度調整扉35-2など)が設置されている。
【0074】
本実施形態の場合も、前記フロック形成装置1の場合と同様に、流入室20-2と流出室80-2を近接して配置する構造としているので、設備の小型化・コンパクト化を図ることができ、同時に、迂流水路を長くとることができてフロックの良好な成長を促すことができる。また処理水量が減少したときに撹拌機40-2によって流入室20-2に流入した被処理水を撹拌することでG値を与え、これによって迂流室60-2におけるフロック形成能力を向上できることや、高分子凝集剤を流入室20-2や流出室80-2からの循環流路に適宜注入することによってフロック形成を促進することも前記フロック形成装置1の場合と同様である。
【0075】
また整流機構100-2は流出口83-2に多数の貫通孔を設けた板体を取り付けることなどによって構成されている。流出口83-2に整流機構100-2を設置することで、流出室80-2に整流機能を兼用させれば、上記フロック形成装置1で設けた整流板100を設置する必要がなくなり、装置のコンパクト化や部品点数の削減をさらに図ることができる。なお同様に流入室20の流入口23に整流機構を設置しても良い。
【0076】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお直接明細書及び図面に記載がない何れの形状や構造であっても、本願発明の作用・効果を奏する以上、本願発明の技術的思想の範囲内である。例えば上記各実施形態では、迂流室における自然流下方向の折返しを1往復としたが、2往復以上の複数回折り返してその両端の流入室と流出室が近接する位置となるように構成しても良い。
【0077】
また上記実施形態では第1高分子凝集剤注入点が流入室の流入口内に向けて開口しているが、当該第1高分子凝集剤注入点は、流入室に高分子凝集剤を注入できる位置であれば、他の位置に設置しても良い。その場合、必ずしも撹拌機の下部に向けて高分子凝集剤を注入する位置でなくても良い。また上記実施形態では第2高分子凝集剤注入点が流入室の流通口に向けて開口しているが、当該第2高分子凝集剤注入点は、流入室内の撹拌機に向けて流出室側から高分子凝集剤を導入できる位置であれば、他の位置、例えば循環流路中の他の何れかの位置に設置しても良い。さらに場合によっては循環流路よりも上流側の流出室内や迂流室内の位置、即ち流入室の下流側の何れかの位置に設置しても良い。
【0078】
また上記各実施形態では、仕切壁の両側に直接流入室と流出室を配置したが、場合によっては両者間を配管や水路などで繋ぐ構成としても良く、要は流入室と流出室を近接して配置する構成であればよい。また上記各実施形態ではフロック形成装置で処理する被処理水の水量を測定したり、スラリ濃度を測定したりする制御手段を設けたが、人の目視や手作業によってフロック形成装置の運転を行っても良い。また上記各実施形態では、撹拌羽根(循環羽根)を用いて被処理水を循環させたが、その代わりに、ポンプや配管などにより被処理水を流出側から流入側に循環させる方法を用いても良い。
【0079】
また、上記記載及び各図で示した実施形態は、その目的及び構成等に矛盾がない限り、互いの記載内容を組み合わせることが可能である。また、上記記載及び各図の記載内容は、その一部であっても、それぞれ独立した実施形態になり得るものであり、本発明の実施形態は上記記載及び各図を組み合わせた一つの実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0080】
1 浄水用フロック形成装置(フロック形成装置)
20 流入室
23 流入口
31 循環用開口(循環流量調整手段)
33 逆流防止ゲート
35 開度調整扉(開度調整手段、循環流量調整手段)
37 駆動部材(開度調整手段、循環流量調整手段)
39 開閉手段駆動部(開度調整手段、循環流量調整手段)
40 撹拌機
60 迂流室(迂流装置)
61 迂流板
80 流出室
100 整流板
120 第1高分子凝集剤注入部材
120A 第1高分子凝集剤注入点
130 第2高分子凝集剤注入部材
130A 第2高分子凝集剤注入点
140 制御手段
141 流入状態測定部
143 開度検出部
145 流入室スラリ濃度測定部