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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136182
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】信号処理装置および信号処理方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/00 20060101AFI20240927BHJP
   G01R 23/165 20060101ALI20240927BHJP
   G01N 27/82 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B66B5/00 G
G01R23/165 A
G01N27/82
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047207
(22)【出願日】2023-03-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】金子 元樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 功一
(72)【発明者】
【氏名】田 利軍
【テーマコード(参考)】
2G053
3F304
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AB01
2G053BA03
2G053BA14
2G053CB12
2G053CB24
3F304BA09
(57)【要約】
【課題】素線切れ信号の確認に適した信号を生成することが可能な信号処理装置を提供する。
【解決手段】信号処理装置(10)は、エレベータ用ロープ(1)の磁束の計測信号を取得する信号取得部(111)と、計測信号に含まれるストランド信号の周波数および振幅を特定するストランド信号特定部(112)と、ストランド信号の振幅を含む値に対する素線切れ信号の振幅の値のSN比を算出するSN比算出部(114)と、SN比に基づいてカットオフ周波数を選択するハイパスフィルタ決定部(115)と、ハイパスフィルタを計測信号に適用するフィルタ適用部(116)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータ用ロープの磁束を計測する磁束計測部による計測信号を取得する信号取得部と、
前記計測信号に含まれるストランド信号の周波数および振幅を特定するストランド信号特定部と、
前記エレベータ用ロープの素線が切れている場合に前記計測信号に含まれる素線切れ信号として想定されている所定の素線切れ信号の周波数および振幅を取得するとともに、カットオフ周波数を複数の値に変化させてハイパスフィルタを適用した際の、前記ストランド信号の振幅を含む値に対する前記素線切れ信号の振幅の値のSN比をそれぞれ算出するSN比算出部と、
前記SN比算出部によって算出された前記SN比に基づいて、前記カットオフ周波数を選択するハイパスフィルタ決定部と、
前記ハイパスフィルタ決定部によって決定された前記ハイパスフィルタを前記計測信号に適用するフィルタ適用部と、を備える信号処理装置。
【請求項2】
前記ハイパスフィルタ決定部は、前記SN比が所定値以上となる前記カットオフ周波数を選択する、請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記計測信号に含まれるホワイトノイズの振幅を特定するホワイトノイズ特定部をさらに備え、
前記SN比算出部は、前記ストランド信号の振幅と前記ホワイトノイズの振幅との和に対する前記素線切れ信号の振幅の値のSN比を算出する、請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記ストランド信号特定部により特定された情報に基づき、前記エレベータ用ロープの送り速度を所定速度に低下させたと仮定した場合のストランド信号の周波数および振幅を特定し、仮想信号を生成する仮想信号生成部をさらに備え、
前記SN比算出部によって算出された前記SN比が所定値以上となるカットオフ周波数が存在しない場合、
前記SN比算出部は、前記エレベータ用ロープの素線が切れている場合に前記仮想信号に含まれる素線切れ信号として想定されている所定の素線切れ信号の周波数および振幅を取得し、前記カットオフ周波数を複数の値に変化させてハイパスフィルタを適用した際の前記仮想信号の振幅を含む値に対する前記素線切れ信号の振幅の値のSN比をそれぞれ算出し、
前記ハイパスフィルタ決定部は、前記SN比が所定値以上となる前記カットオフ周波数を選択し、
前記フィルタ適用部は、前記エレベータ用ロープの送り速度を前記所定速度に低下させた状態で計測された計測信号に対して、前記ハイパスフィルタ決定部によって決定された前記ハイパスフィルタを適用する、請求項2に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記ストランド信号特定部は、前記磁束計測部による計測が行われた際の、前記エレベータ用ロープの送り速度、および、前記エレベータ用ロープのストランドピッチに基づき、前記計測信号に含まれるストランド信号の周波数を特定する、請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記ストランド信号特定部は、前記計測信号を周波数変換し、前記ストランド信号の前記周波数に基づいて前記ストランド信号の振幅を特定する、請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項7】
前記ホワイトノイズ特定部は、カットオフ周波数が前記ストランド信号の周波数よりも高いノイズ判定用ハイパスフィルタを前記計測信号に適用したノイズ判定用信号に基づいて、前記ホワイトノイズの振幅を特定する、請求項3に記載の信号処理装置。
【請求項8】
エレベータ用ロープの磁束を計測する磁束計測部による計測信号を取得する信号取得ステップと、
前記計測信号に含まれるストランド信号の周波数および振幅を特定するストランド信号特定ステップと、
前記エレベータ用ロープの素線が切れている場合に前記計測信号に含まれる素線切れ信号として想定されている所定の素線切れ信号の周波数および振幅を取得し、ハイパスフィルタのカットオフ周波数に応じた前記ストランド信号の振幅を含む値に対する前記素線切れ信号の振幅の値のSN比を算出するSN比算出ステップと、
前記SN比算出ステップによって算出された前記SN比に基づいて前記カットオフ周波数を選択するハイパスフィルタ決定ステップと、
前記ハイパスフィルタ決定ステップによって決定された前記ハイパスフィルタを前記計測信号に適用するフィルタ適用ステップと、を有する信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は信号処理装置および信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレベータ用ロープを診断するために、磁化されたエレベータ用ロープからの漏洩磁束を検出し、時間軸と漏洩磁束軸とからなる波形を確認する手法がある。ロープが断線している場合には、断線部分から磁束が漏洩するため、漏洩磁束の大きさに基づいて、ロープの断線の有無が判定される。
【0003】
例えば特許文献1には、漏洩磁束探傷法を用いた探傷装置の計測において、計測データである計測波形に主成分として出力されるストランド信号周波数(ワイヤロープのストランド数とロープ速度で決まる周波数)に応じて、素線切れを判定するための信号処理を実行する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-33463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、計測波形を時間周波数解析し、ストランド信号周波数の成分を除去することによって、素線切れに基づく信号波形を検出することが可能である。ここで、ストランド信号周波数の成分を除去する手法として、ストランド信号周波数より大きい周波数をカットオフ周波数とするハイパスフィルタを用いる手法が考えられる。低い周波数成分には素線切れに基づく信号も強く出ているが、SN比が悪いため、上記のようにハイパスフィルタによってストランド信号周波数の成分を除去し、高い周波数成分の信号を用いる手法が好ましい。
【0006】
しかしながら、ハイパスフィルタのカットオフ周波数が大きくなりすぎると、素線切れに起因する信号をも除去してしまい、素線切れの検出に支障をきたすという問題がある。
【0007】
本発明の一態様は、素線切れ信号の確認に適した信号を生成することが可能な信号処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る信号処理装置は、エレベータ用ロープの磁束を計測する磁束計測部による計測信号を取得する信号取得部と、前記計測信号に含まれるストランド信号の周波数および振幅を特定するストランド信号特定部と、前記エレベータ用ロープの素線が切れている場合に前記計測信号に含まれる素線切れ信号として想定されている所定の素線切れ信号の周波数および振幅を取得するとともに、カットオフ周波数を複数の値に変化させてハイパスフィルタを適用した際の、前記ストランド信号の振幅を含む値に対する前記素線切れ信号の振幅の値のSN比をそれぞれ算出するSN比算出部と、前記SN比算出部によって算出された前記SN比に基づいて、前記カットオフ周波数を選択するハイパスフィルタ決定部と、前記ハイパスフィルタ決定部によって決定された前記ハイパスフィルタを前記計測信号に適用するフィルタ適用部と、を備える。
【0009】
上記の構成によれば、ストランド信号の振幅を含む値に対する素線切れ信号の振幅の値のSN比に基づいてカットオフ周波数が選択される。よって、選択されたカットオフ周波数のハイパスフィルタを計測信号に適用することによって、素線切れ信号の確認に適した信号を生成することができる。
【0010】
本発明の他の態様に係る信号処理装置では、前記ハイパスフィルタ決定部は、前記SN比が所定値以上となる前記カットオフ周波数を選択してもよい。
【0011】
上記の構成によれば、ストランド信号の影響を十分に低減するフィルタ処理を計測信号に対して適用することができる。
【0012】
本発明の他の態様に係る信号処理装置では、前記計測信号に含まれるホワイトノイズの振幅を特定するホワイトノイズ特定部をさらに備え、前記SN比算出部は、前記ストランド信号の振幅と前記ホワイトノイズの振幅との和に対する前記素線切れ信号の振幅の値のSN比を算出してもよい。
【0013】
上記の構成によれば、ホワイトノイズの振幅も考慮してSN比が算出されるので、より適切にハイパスフィルタのカットオフ周波数を選択することができる。
【0014】
本発明の他の態様に係る信号処理装置では、前記ストランド信号特定部により特定された情報に基づき、前記エレベータ用ロープの送り速度を所定速度に低下させたと仮定した場合のストランド信号の周波数および振幅を特定し、仮想信号を生成する仮想信号生成部をさらに備え、前記SN比算出部によって算出された前記SN比が所定値以上となるカットオフ周波数が存在しない場合、前記SN比算出部は、前記エレベータ用ロープの素線が切れている場合に前記仮想信号に含まれる素線切れ信号として想定されている所定の素線切れ信号の周波数および振幅を取得し、前記カットオフ周波数を複数の値に変化させてハイパスフィルタを適用した際の前記仮想信号の振幅を含む値に対する前記素線切れ信号の振幅の値のSN比をそれぞれ算出し、前記ハイパスフィルタ決定部は、前記SN比が所定値以上となる前記カットオフ周波数を選択し、前記フィルタ適用部は、前記エレベータ用ロープの送り速度を前記所定速度に低下させた状態で計測された計測信号に対して、前記ハイパスフィルタ決定部によって決定された前記ハイパスフィルタを適用してもよい。
【0015】
エレベータ用ロープの送り速度が下がると、ストランド信号の周波数が下がり、さらに振幅が下がる。これによりSN比が改善されるため、上記の構成によれば、エレベータ用ロープの送り速度を所定の速度に低下させて計測することで、素線切れ信号の確認により適した信号を生成することができる。
【0016】
本発明の他の態様に係る信号処理装置では、前記ストランド信号特定部は、前記磁束計測部による計測が行われた際の、前記エレベータ用ロープの送り速度、および、前記エレベータ用ロープのストランドピッチに基づき、前記計測信号に含まれるストランド信号の周波数を特定してもよい。
【0017】
上記の構成によれば、実際の計測条件および実際のロープ構造に基づいて正確にストランド信号の周波数を特定することができる。
【0018】
本発明の他の態様に係る信号処理装置では、前記ストランド信号特定部は、前記計測信号を周波数変換し、前記ストランド信号の前記周波数に基づいて前記ストランド信号の振幅を特定してもよい。
【0019】
上記の構成によれば、実際の計測信号に含まれるストランド信号の振幅を正確に特定することができる。
【0020】
本発明の他の態様に係る信号処理装置では、前記ホワイトノイズ特定部は、カットオフ周波数が前記ストランド信号の周波数よりも高いノイズ判定用ハイパスフィルタを前記計測信号に適用したノイズ判定用信号に基づいて、前記ホワイトノイズの振幅を特定してもよい。
【0021】
上記の構成によれば、ストランド信号の影響を抑制したノイズ判定用信号に基づいて、的確にホワイトノイズの振幅を特定することが可能となる。
【0022】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る信号処理方法は、エレベータ用ロープの磁束を計測する磁束計測部による計測信号を取得する信号取得ステップと、前記計測信号に含まれるストランド信号の周波数および振幅を特定するストランド信号特定ステップと、前記エレベータ用ロープの素線が切れている場合に前記計測信号に含まれる素線切れ信号として想定されている所定の素線切れ信号の周波数および振幅を取得し、ハイパスフィルタのカットオフ周波数に応じた前記ストランド信号の振幅を含む値に対する前記素線切れ信号の振幅の値のSN比を算出するSN比算出ステップと、前記SN比算出ステップによって算出された前記SN比に基づいて前記カットオフ周波数を選択するハイパスフィルタ決定ステップと、前記ハイパスフィルタ決定ステップによって決定された前記ハイパスフィルタを前記計測信号に適用するフィルタ適用ステップと、を有する。
【0023】
本発明の各態様に係る信号処理装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記信号処理装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記信号処理装置をコンピュータにて実現させる信号処理装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一態様によれば、素線切れ信号の確認に適した信号を生成することが可能な信号処理装置およびその方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態1に係る信号処理装置の機能ブロック図である。
図2】エレベータ用ロープの一例を示す図である。
図3】測定信号にノイズ判定用のハイパスフィルタを適用した信号を示すグラフである。
図4】ハイパスフィルタのカットオフ周波数と伝達率との関係を示すグラフである。
図5】上記信号処理装置の動作の一例を示すフロー図である。
図6】本発明の実施形態2に係る信号処理装置の機能ブロック図である。
図7】7001は各カットオフ周波数でのSN比算定用ハイパスフィルタ通過後の、素線切れを示す信号、ストランド信号およびホワイトノイズ信号の信号値を示すグラフであり、7002は7001に基づく各カットオフ周波数におけるSN比を示すグラフである。
図8】8001は図7の7001グラフから速度を低下させたと仮定した場合の素線切れを示す信号、ストランド信号およびホワイトノイズ信号の信号値を示すグラフであり、8002は8001に基づく各カットオフ周波数におけるSN比を示すグラフである。
図9】上記信号処理装置の動作の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。ただし、以下の説明は本発明に係る信号処理装置10の一例であり、本発明の技術的範囲は図示例に限定されるものではない。
【0027】
<信号処理装置の概要>
図1は、本発明の実施形態に係る信号処理装置10の機能ブロック図である。信号処理装置10は、エレベータ用ロープ1(以降、単にロープ1と称する)の素線切れ信号の確認に適した信号を、磁化されたロープ1の磁束を計測した計測信号から生成する。保守作業員等は、計測信号から生成された上記信号を確認することでロープ1の素線切れを判断する。信号処理装置10は、計測信号からストランド信号の成分を除去するためのハイパスフィルタをSN比に基づき適切に選定することによって、素線切れ信号の確認に適した信号を生成する。
【0028】
〔信号処理装置〕
信号処理装置10は、制御部11と、記憶部12と、を備えている。制御部11は、信号処理装置10の各部を統括的に制御する。制御部11の機能は、記憶部12に記憶されたプログラムを、CPU(Central Processing Unit)が実行することで実現されてよい。制御部11の詳細については後述する。記憶部12は、制御部11が実行する各種のプログラム、およびプログラムによって使用されるデータを格納する。
【0029】
(制御部の構成)
制御部11は、信号取得部111と、ストランド信号特定部112と、ホワイトノイズ特定部113と、SN比算出部114と、ハイパスフィルタ決定部115と、フィルタ適用部116と、を備えている。
【0030】
信号取得部111は、ロープ1の磁束を計測する磁束計測部20による計測信号を取得する。ロープ1はエレベータの乗りかご21と釣り合い重り22とをつなぐ。磁束計測部20はロープ1の近傍に取り付けられ、乗りかご21を昇降させて磁化されたロープ1の磁束をロープ1の全長に渡って計測する。磁束計測部20と信号処理装置10との通信方法は特に限定されず、直接通信してもよく、ネットワークを介して通信してもよい。
【0031】
ストランド信号特定部112は、計測信号に含まれるストランド信号の周波数および振幅を特定する。図2に基づきストランド信号について説明する、図2の2001はロープ1の断面図であり、図2の2002はロープ1の側面図である。
【0032】
ストランド信号は、ストランド2の噛み込み周波数による振動に起因する信号である。ストランド噛み込み周波数による振動とは、ストランド2が信号処理装置10との接触面に噛み込まれることで、ストランドピッチL周期で発生する振動である。図2の2001および図2の2002に示すように、ストランド2とは、細い素線3をより合わせたものである。ロープ1は、線維芯4を中心としてストランド2をさらにより合わせた構造を有し、ストランドピッチLとは、1本のストランド2が、線維芯4に一周巻き付くまでのロープ1の軸方向の長さである。ストランド噛み込み周波数による振動は、ストランド2が信号処理装置10との接触面に噛み込まれ(巻き込まれ)、ストライドピッチLの長さだけストランド2が進む時間を周期とする振動がストランド2と信号処理装置10との間に生じ、計測信号に影響を与えることで発生する。
【0033】
(ストランド信号の振幅の特定方法)
ストランド信号特定部112は、ストランド信号の周波数を特定し、特定した周波数を利用してストランド信号の振幅を特定する。以下に詳しく説明する。
【0034】
まず、ストランド信号特定部112は、磁束計測部20による計測が行われた際の、ロープ1の送り速度、および、ロープ1のストランドピッチLに基づき、計測信号に含まれるストランド信号の周波数を特定する。これにより、実際の計測条件および実際のロープ1の構造に基づいて正確にストランド信号の周波数を特定することができる。
【0035】
ストランド信号特定部112は、ロープ1の送り速度およびストランドピッチから、以下の式1によりストランド信号の周波数f(ストランド通過周波数)を求める。ストランド信号の周波数(f)=V/L(式1)。ここで、Vはロープ1の送り速度[m/s]、Lはストランドピッチ[m]である。
【0036】
次に、ストランド信号特定部112は、計測信号を周波数変換し、ストランド信号の周波数に基づいてストランド信号の振幅を特定する。これにより、実際の計測信号に含まれるストランド信号の振幅を正確に特定することができる。
【0037】
ストランド信号特定部112は、計測信号に対してFFT(高速フーリエ変換)等を行い、計測信号を周波数変換する。そして、式1により算出された、ストランド信号の周波数近傍の周波数変換結果を取得して振幅値として読み取り、ストランド信号の振幅として特定する。以降、ストランド信号特定部112により特定されたストランド信号の振幅を第1ストランド振幅として記載する。
【0038】
(ホワイトノイズの振幅の特定方法)
ホワイトノイズ特定部113は、計測信号に含まれるホワイトノイズの振幅を特定する。ホワイトノイズ特定部113は、カットオフ周波数がストランド信号の周波数よりも高いノイズ判定用ハイパスフィルタを計測信号に適用したノイズ判定用信号に基づいて、ホワイトノイズの振幅を特定する。
【0039】
これにより、ストランド信号の影響を抑制したノイズ判定用信号に基づいて、的確にホワイトノイズの振幅を特定することが可能となる。
【0040】
ホワイトノイズ特定部113は、測定信号に対してノイズ判定用ハイパスフィルタを適用することで暫定のストランド信号を除去し、ノイズ判定用信号を生成する。ノイズ判定用ハイパスフィルタは、カットオフ周波数がストランド信号の一般的な周波数より高くなるように設定される。図3の3001は、測定信号にノイズ判定用のハイパスフィルタを適用して生成したノイズ判定用信号を示すグラフであり、図3の3002は図3の3001の一部を拡大したグラフである。
【0041】
ホワイトノイズ特定部113は、ノイズ判定用信号において期間T1を除き、信号の最大値および最小値に基づく振幅をホワイトノイズの振幅値とする。期間T1は素線切れを示す信号が含まれると判断される期間である。期間T1は閾値以上の信号を含む期間を自動で判断することで設定されてもよく、目視により設定されてもよい。
【0042】
また、ホワイトノイズ特定部113は、ノイズ判定用信号の全期間に対して、図3の3002に示すように、ゼロ点交差ごとのピーク値群から上位10%を除いたピーク値による振幅の最大値をホワイトノイズの振幅値としてもよい。ここで、図3の3002の黒丸はゼロ点交差ごとのピーク値を示し、図3の3002の白丸はゼロ点交差ごとのピーク値で上位10%以内に入るピークを示す。
【0043】
ゼロ点交差ごとのピーク値群から上位10%のピーク値とは、ピーク値の0からの絶対値が、上位10%以内に入るピーク値を示す。つまり、ゼロ点交差ごとのピーク値群から上位10%を除いたピーク値による振幅の最大値は、ゼロ点交差ごとのピーク値群における、ピーク値の0からの絶対値が下位90%未満となるピーク値(黒丸で示すピーク値)のうち、当該ピーク値の最大値および最小値から得られる振幅となる。
【0044】
測定信号から暫定のストランド信号を除いたノイズ判定用信号では、ゼロ点交差ごとの素線切れ信号のピーク値は近い値が並ぶため、上述のような方法でもホワイトノイズの振幅を特定することができる。ホワイトノイズ振幅は本実施形態では上述の方法により算出されるため、ホワイトノイズ振幅は一定となる。なお、ホワイトノイズ信号はストランド信号と比較して十分に小さいため、信号処理装置10の処理においてホワイトノイズの算出は必須ではない。
【0045】
SN比算出部114は、ロープ1の素線が切れている場合に計測信号に含まれる素線切れ信号として想定されている所定の素線切れ信号の周波数および振幅を取得する。
【0046】
ロープ1の素線が切れている場合に計測信号に含まれる素線切れ信号として想定されている所定の素線切れ信号の周波数および振幅は、経験等により予め既知となっている値であり、ロープ1の種類により異なる。SN比算出部114は、予め記憶部12に格納された、ロープ1の種類と素線切れ信号の周波数および振幅とが対応付けられた情報から、所定の素線切れ信号の周波数および振幅を取得してもよい。
【0047】
SN比算出部114は、カットオフ周波数を複数の値に変化させてSN比算定用ハイパスフィルタ(ハイパスフィルタ)を適用した際の、ストランド信号の振幅を算出する。
【0048】
図4は、SN比算定用ハイパスフィルタの各カットオフ周波数と伝達率との関係を示すグラフである。SN比算出部114は、SN比算定用ハイパスフィルタのカットオフ周波数における伝達率と、ストランド信号の振幅の関係から、任意のカットオフ周波数でSN比算定用ハイパスフィルタを適用した際の、ストランド信号の振幅を算出する。
【0049】
具体的には、SN比算出部114は、SN比算定用ハイパスフィルタ通過前のストランド信号の振幅(第1ストランド振幅)をXD1とした場合、SN比算定用ハイパスフィルタ通過後のストランド信号の振幅YD1を以下の式2で算出する。YD1=A(f1)XD1(式2)。ここでA(f1)は、カットオフ周波数f1におけるSN比算定用ハイパスフィルタの伝達率を示す。SN比算定用ハイパスフィルタの伝達率はハイパスフィルタの種類およびカットオフ周波数により一意に決定される。以降、SN比算出部114により特定されたストランド信号の振幅を第2ストランド振幅として記載する。
【0050】
SN比算出部114は、カットオフ周波数を複数の値に変化させてSN比算定用ハイパスフィルタを適用した際の、ストランド信号の振幅を含む値に対する素線切れ信号の振幅の値のSN比をそれぞれ算出する。
【0051】
SN比算出部114は、任意のカットオフ周波数におけるSN比を算出する。具体的には、SN比算出部114は任意のカットオフ周波数におけるSN比を、(任意のカットオフ周波数における素線切れ信号の振幅)/(任意のカットオフ周波数における第2ストランド振幅)として算出する。上述した通り、「任意のカットオフ周波数における素線切れ信号の振幅」は既知の値であり、「任意のカットオフ周波数における第2ストランド振幅」は式2により算出される。
【0052】
SN比算出部114は、任意のカットオフ周波数を複数の値に変化させ、SN比算定用ハイパスフィルタを適用させた際のSN比をカットオフ周波数ごとに算出する。
【0053】
また、ホワイトノイズを考慮する場合、SN比算出部114は、ストランド信号の振幅とホワイトノイズの振幅との和に対する素線切れ信号の振幅の値のSN比を算出する。具体的には、ホワイトノイズを考慮する場合、SN比算出部114は、(任意のカットオフ周波数における素線切れ信号の振幅)/(任意のカットオフ周波数における第2ストランド振幅+ホワイトノイズの振幅)をSN比として算出する。これにより、ホワイトノイズの振幅も考慮してSN比が算出されるので、より適切に後述する素線切判定用ハイパスフィルタのカットオフ周波数を選択することができる。
【0054】
ハイパスフィルタ決定部115は、SN比算出部114によって算出されたSN比に基づいて、カットオフ周波数を選択する。ハイパスフィルタ決定部115は、SN比が所定値以上となるカットオフ周波数を選択する。
【0055】
ハイパスフィルタ決定部115は、SN比が最も大きくなる周波数をカットオフ周波数として選択することが望ましい。SN比の所定値は、例えば1としてもよい。これにより、ストランド信号の影響を十分に低減するフィルタ処理を計測信号に対して適用することができる。
【0056】
フィルタ適用部116は、ハイパスフィルタ決定部115によって決定されたカットオフ周波数となる素線切判定用ハイパスフィルタ(ハイパスフィルタ)を計測信号に適用する。これにより、計測信号からストランド信号を適切に除去することができ、計測信号からストランド信号が除去された素線切れ信号の確認に適した信号を生成することができる。
【0057】
<信号処理装置の動作の一例>
図5は、信号処理装置10の動作の一例を示すフロー図である。磁束計測部20がロープ1の磁束を計測すると、信号取得部111は、計測信号を取得する(ステップS1、信号取得ステップ)。ストランド信号特定部112は、計測信号に含まれるストランド信号の周波数および振幅(第1ストランド振幅)を特定する(ステップS2、ストランド信号特定ステップ)。
【0058】
次に、SN比算出部114は、所定の素線切れ信号の周波数および振幅を取得し、SN比算定用ハイパスフィルタを適用した際の、ストランド信号の振幅(第2ストランド振幅)を含む値に対する素線切れ信号の振幅の値のSN比を算出する(ステップS3、SN比算出ステップ)。
【0059】
ハイパスフィルタ決定部115は、SN比算出ステップによって算出されたSN比に基づいてカットオフ周波数を選択する(ステップS4、ハイパスフィルタ決定ステップ)。続いて、フィルタ適用部116は、ハイパスフィルタ決定ステップによって決定されたカットオフ周波数となる素線切判定用ハイパスフィルタを計測信号に適用する(ステップS5、フィルタ適用ステップ)。
【0060】
これにより、ストランド信号の振幅(第2ストランド振幅)を含む値に対する素線切れ信号の振幅の値のSN比に基づいてカットオフ周波数が選択される。よって、選択されたカットオフ周波数の素線切判定用ハイパスフィルタを計測信号に適用することによって、素線切れ信号の確認に適した信号を生成することができる。
【0061】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0062】
SN比算出部114によって算出されたSN比が所定値以上となるカットオフ周波数が存在しない場合、ロープ1の送り速度を低下させたと仮定して処理を行ってもよい。ロープ1の送り速度が下がると、ストランド信号の周波数が下がり、さらに振幅が下がる。これによりSN比が改善されるため、素線切れ信号の確認により適した信号を生成することができる。
【0063】
なお、ロープ1の送り速度はできるだけ速い方が、作業時間が短くすむ。そのため、ロープ1の送り速度は速く設定されることが望ましい。
【0064】
図6は本発明の実施形態2に係る信号処理装置10の機能ブロック図である。図6に示すように、本実施形態に係る信号処理装置10の制御部11は、仮想信号生成部117をさらに備えている。
【0065】
ハイパスフィルタ決定部115がSN比算出部114によって算出されたSN比に所定値以上となるカットオフ周波数が存在しないと判断した場合、仮想信号生成部117は、ストランド信号特定部112により特定された情報に基づき、ロープ1の送り速度を所定速度に低下させたと仮定した場合のストランド信号の周波数および振幅を特定し、仮想信号を生成する。仮想信号生成部117は、ストランド信号特定部112が特定したストランド信号の周波数および振幅に対して、振幅を一定とし、周波数を下げる(時間軸を伸ばす)ことにより仮想信号を生成する。
【0066】
具体的には、例えば、仮想信号生成部117は、ロープ1の送り速度をVoから速度Viに変更した場合のストランド信号の周波数fiおよび振幅Xiを、以下の式3及び式4により推定する。fi=Vi/Vo×fo(式3)。Xi=Xo(式4)。ここで、ストランド信号の周波数foおよび振幅Xoは、ロープ1の送り速度がVoである場合においてストランド信号特定部112が特定した値であり、すなわち、振幅Xoは第1ストランド振幅である。
【0067】
仮想信号生成部117は、上述の計算を行い、ロープ1の送り速度Voを速度Viにさせた場合のストランド信号の仮想信号をストランド信号の周波数fiおよび振幅Xiに基づき生成する。以降、仮想信号生成部117により特定されたストランド信号の振幅を第3ストランド振幅として記載する。
【0068】
ハイパスフィルタ決定部115により、SN比算出部114によって算出されたSN比が所定値以上となるカットオフ周波数が存在しないと判断された場合、SN比算出部114は、カットオフ周波数を複数の値に変化させてSN比算定用ハイパスフィルタを適用した際の、仮想信号生成部117により特定されたストランド信号(仮想信号)の振幅を式2により算出する。以降、仮想信号生成部117により特定されたストランド信号に対してSN比算定用ハイパスフィルタ通過させた、通過後の信号の振幅を第4ストランド振幅として記載する。
【0069】
さらに、SN比算出部114は、ロープ1の素線が切れている場合に仮想信号に含まれる素線切れ信号として想定されている所定の素線切れ信号の周波数および振幅を取得する。
【0070】
ロープ1の素線が切れている場合に仮想信号に含まれる素線切れ信号として想定されている所定の素線切れ信号の周波数および振幅は、経験等により予め既知となっている値であり、ロープ1の種類により異なる。SN比算出部114は、予め記憶部12に格納された、ロープ1の種類と素線切れ信号の周波数および振幅とが対応付けられた情報から、所定の素線切れ信号の周波数および振幅を取得してもよい。
【0071】
SN比算出部114は、カットオフ周波数を複数の値に変化させてSN比算定用ハイパスフィルタを適用させた際の仮想信号の振幅を含む値に対する素線切れ信号の振幅の値のSN比をそれぞれ算出する。
【0072】
具体的には、SN比算出部114は、任意のカットオフ周波数におけるSN比を算出する。より詳しくは、例えば、SN比算出部114は任意のカットオフ周波数におけるSN比を、(任意のカットオフ周波数における素線切れ信号の振幅)/(任意のカットオフ周波数における第4ストランド振幅)として算出する。SN比算出部114は、カットオフ周波数ごとにSN比を算出する。
【0073】
図7の7001は、各カットオフ周波数でのSN比算定用ハイパスフィルタ通過後の、素線切れを示す信号Z、ストランド信号D1およびホワイトノイズ信号D0の信号値を示すグラフである。図7の7002は図7の7001に基づく各カットオフ周波数におけるSN比を示すグラフである。
【0074】
それに対して、図8の8001は図7の7001グラフのロープ1の速度を1/2に低下させたと仮定した場合の、各カットオフ周波数でのSN比算定用ハイパスフィルタ通過後の、素線切れを示す信号Z、ストランド信号D1およびホワイトノイズ信号D0の信号値を示すグラフであり、図8の8002は図8の8001に基づく各カットオフ周波数におけるSN比を示すグラフである。
【0075】
図7の7001および図8の8001に示すように、ロープ1の送り速度を遅くすることで、ストランド信号D1のSN比算定用ハイパスフィルタ通過後の信号は小さくなる。これにより、図7の7002および図8の8002に示すように、SN比の算出結果が変わり、SN比の算出結果が高くなる。
【0076】
ハイパスフィルタ決定部115は、SN比算出部114が仮想信号に基づき算出したSN比が所定値以上となるカットオフ周波数を選択する。速度を下げた場合のSN比が所定値以上となるカットオフ周波数がない場合、ロープ1の送り速度をさらに下げると仮定し、仮想信号生成部117およびSN比算出部114にて同様の処理を再度行ってもよい。
【0077】
フィルタ適用部116は、ロープ1の送り速度を所定速度に低下させた状態で計測された計測信号に対して、ハイパスフィルタ決定部115によって決定されたハイパスフィルタを適用する。
【0078】
<信号処理装置の動作の一例>
図9は、本実施形態に係る信号処理装置10の動作の一例を示すフロー図である。磁束計測部20がロープ1の磁束を計測すると、信号取得部111は、計測信号を取得する(ステップS11)。ストランド信号特定部112は、計測信号に含まれるストランド信号の周波数および振幅を特定する(ステップS12)。
【0079】
次に、SN比算出部114は、所定の素線切れ信号の周波数および振幅を取得し、SN比算定用ハイパスフィルタを適用した際の、ストランド信号の振幅を含む値に対する素線切れ信号の振幅の値のSN比を算出する(ステップS13)。
【0080】
ハイパスフィルタ決定部115は、所定値以上となるSN比があるか否かを判定する(ステップS14)。所定値以上となるSN比がある場合(ステップS14でYES)、ハイパスフィルタ決定部115は、SN比算出ステップによって算出されたSN比に基づいてカットオフ周波数を選択する(ステップS19)。続いて、フィルタ適用部116は、ハイパスフィルタ決定ステップによって決定されたカットオフ周波数を有する素線切判定用ハイパスフィルタを計測信号に適用する(ステップS20)。
【0081】
所定値以上となるSN比がない場合(ステップS14でNO)、仮想信号生成部117は、ストランド信号特定部112により特定された情報に基づいて仮想信号を生成する(ステップS15)。
【0082】
SN比算出部114は、ロープ1の素線が切れている場合に仮想信号に含まれる素線切れ信号として想定されている所定の素線切れ信号の周波数および振幅を取得し、カットオフ周波数を複数の値に変化させてハイパスフィルタを適用した際の仮想信号の振幅を含む値に対する素線切れ信号の振幅の値のSN比をそれぞれ算出する(ステップS16)。
【0083】
その後、ハイパスフィルタ決定部115は、SN比算出部114によって算出されたSN比に基づいてカットオフ周波数を選択する(ステップS17)。続いて、フィルタ適用部116は、ロープ1の送り速度を所定速度に低下させた状態で計測された計測信号に対して、ハイパスフィルタ決定部115によって決定された素線切判定用ハイパスフィルタを適用する(ステップS18)。
【0084】
また、本願発明によれば、エレベータ用ロープの素線切れを精度よく検出することができ、エレベータを安全に運行するための保守作業に役立てることができる。そのため、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標11「包摂的で安全かつ強靭で持続可能な都市及び人間居住を実現する」等の達成にも貢献するものである。
【0085】
〔ソフトウェアによる実現例〕
信号処理装置10(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部11に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0086】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0087】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0088】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0089】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0090】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0091】
1 エレベータ用ロープ
2 ストランド
3 素線
10 信号処理装置
20 磁束計測部
111 信号取得部
112 ストランド信号特定部
113 ホワイトノイズ特定部
114 SN比算出部
115 ハイパスフィルタ決定部
116 フィルタ適用部
117 仮想信号生成部
L ストランドピッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2023-12-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータ用ロープの磁束を計測する磁束計測部による計測信号を取得する信号取得部と、
前記磁束計測部による計測が行われた際の、前記エレベータ用ロープの送り速度、および、前記エレベータ用ロープのストランドピッチに基づき、前記計測信号に含まれるストランド信号の周波数を特定し、該周波数に基づいて、前記計測信号を周波数変換した結果より、該計測信号に含まれるストランド信号の振幅を特定するストランド信号特定部と、
前記エレベータ用ロープの素線が切れている場合に前記計測信号に含まれる素線切れ信号として想定されている、既知の値としての所定の素線切れ信号の周波数および振幅を取得するとともに、カットオフ周波数を複数の値に変化させてハイパスフィルタを適用した際の、前記ストランド信号の振幅を含む値に対する前記素線切れ信号の振幅の値のSN比をそれぞれ算出するSN比算出部と、
前記SN比算出部によって算出された前記SN比に基づいて、前記カットオフ周波数を選択するハイパスフィルタ決定部と、
前記ハイパスフィルタ決定部によって決定された前記ハイパスフィルタを前記計測信号に適用するフィルタ適用部と、を備える信号処理装置。
【請求項2】
前記ハイパスフィルタ決定部は、前記SN比が所定値以上となる前記カットオフ周波数を選択する、請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記計測信号に含まれるホワイトノイズの振幅を特定するホワイトノイズ特定部をさらに備え、
前記SN比算出部は、前記ストランド信号の振幅と前記ホワイトノイズの振幅との和に対する前記素線切れ信号の振幅の値のSN比を算出する、請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項4】
エレベータ用ロープの磁束を計測する磁束計測部による計測信号を取得する信号取得部と、
前記計測信号に含まれるストランド信号の周波数および振幅を特定するストランド信号特定部と、
前記エレベータ用ロープの素線が切れている場合に前記計測信号に含まれる素線切れ信号として想定されている所定の素線切れ信号の周波数および振幅を取得するとともに、カットオフ周波数を複数の値に変化させてハイパスフィルタを適用した際の、前記ストランド信号の振幅を含む値に対する前記素線切れ信号の振幅の値のSN比をそれぞれ算出するSN比算出部と、
前記SN比算出部によって算出された前記SN比に基づいて、前記カットオフ周波数を選択するハイパスフィルタ決定部と、
前記ハイパスフィルタ決定部によって決定された前記ハイパスフィルタを前記計測信号に適用するフィルタ適用部と、
前記ストランド信号特定部により特定された情報に基づき、前記エレベータ用ロープの送り速度を所定速度に低下させたと仮定した場合のストランド信号の周波数および振幅を特定し、仮想信号を生成する仮想信号生成部と、を備え、
前記SN比算出部によって算出された前記SN比が所定値以上となるカットオフ周波数が存在しない場合、
前記SN比算出部は、前記エレベータ用ロープの素線が切れている場合に前記仮想信号に含まれる素線切れ信号として想定されている所定の素線切れ信号の周波数および振幅を取得し、前記カットオフ周波数を複数の値に変化させてハイパスフィルタを適用した際の前記仮想信号の振幅を含む値に対する前記素線切れ信号の振幅の値のSN比をそれぞれ算出し、
前記ハイパスフィルタ決定部は、前記SN比が所定値以上となる前記カットオフ周波数を選択し、
前記フィルタ適用部は、前記エレベータ用ロープの送り速度を前記所定速度に低下させた状態で計測された計測信号に対して、前記ハイパスフィルタ決定部によって決定された前記ハイパスフィルタを適用する、信号処理装置。
【請求項5】
エレベータ用ロープの磁束を計測する磁束計測部による計測信号を取得する信号取得部と、
前記計測信号に含まれるストランド信号の周波数および振幅を特定するストランド信号特定部と、
前記エレベータ用ロープの素線が切れている場合に前記計測信号に含まれる素線切れ信号として想定されている所定の素線切れ信号の周波数および振幅を取得するとともに、カットオフ周波数を複数の値に変化させてハイパスフィルタを適用した際の、前記ストランド信号の振幅を含む値に対する前記素線切れ信号の振幅の値のSN比をそれぞれ算出するSN比算出部と、
前記SN比算出部によって算出された前記SN比に基づいて、前記カットオフ周波数を選択するハイパスフィルタ決定部と、
前記ハイパスフィルタ決定部によって決定された前記ハイパスフィルタを前記計測信号に適用するフィルタ適用部と、
前記計測信号に含まれるホワイトノイズの振幅を特定するホワイトノイズ特定部と、を備え、
前記SN比算出部は、前記ストランド信号の振幅と前記ホワイトノイズの振幅との和に対する前記素線切れ信号の振幅の値のSN比を算出し、
前記ホワイトノイズ特定部は、カットオフ周波数が前記ストランド信号の周波数よりも高いノイズ判定用ハイパスフィルタを前記計測信号に適用したノイズ判定用信号に基づいて、前記ホワイトノイズの振幅を特定する、信号処理装置。
【請求項6】
エレベータ用ロープの磁束を計測する磁束計測部による計測信号を取得する信号取得ステップと、
前記磁束計測部による計測が行われた際の、前記エレベータ用ロープの送り速度、および、前記エレベータ用ロープのストランドピッチに基づき、前記計測信号に含まれるストランド信号の周波数を特定し、該周波数に基づいて、前記計測信号を周波数変換した結果より、該計測信号に含まれるストランド信号の振幅を特定するストランド信号特定ステップと、
前記エレベータ用ロープの素線が切れている場合に前記計測信号に含まれる素線切れ信号として想定されている、既知の値としての所定の素線切れ信号の周波数および振幅を取得し、ハイパスフィルタのカットオフ周波数に応じた前記ストランド信号の振幅を含む値に対する前記素線切れ信号の振幅の値のSN比を算出するSN比算出ステップと、
前記SN比算出ステップによって算出された前記SN比に基づいて前記カットオフ周波数を選択するハイパスフィルタ決定ステップと、
前記ハイパスフィルタ決定ステップによって決定された前記ハイパスフィルタを前記計測信号に適用するフィルタ適用ステップと、を有する信号処理方法。
【請求項7】
エレベータ用ロープの磁束を計測する磁束計測部による計測信号を取得する信号取得ステップと、
前記計測信号に含まれるストランド信号の周波数および振幅を特定するストランド信号特定ステップと、
前記エレベータ用ロープの素線が切れている場合に前記計測信号に含まれる素線切れ信号として想定されている所定の素線切れ信号の周波数および振幅を取得し、ハイパスフィルタのカットオフ周波数に応じた前記ストランド信号の振幅を含む値に対する前記素線切れ信号の振幅の値のSN比を算出するSN比算出ステップと、
前記SN比算出ステップによって算出された前記SN比に基づいて前記カットオフ周波数を選択するハイパスフィルタ決定ステップと、
前記ハイパスフィルタ決定ステップによって決定された前記ハイパスフィルタを前記計測信号に適用するフィルタ適用ステップと、
前記ストランド信号特定ステップにより特定された情報に基づき、前記エレベータ用ロープの送り速度を所定速度に低下させたと仮定した場合のストランド信号の周波数および振幅を特定し、仮想信号を生成する仮想信号生成ステップと、を有し、
前記SN比算出ステップによって算出された前記SN比が所定値以上となるカットオフ周波数が存在しない場合、
前記SN比算出ステップでは、前記エレベータ用ロープの素線が切れている場合に前記仮想信号に含まれる素線切れ信号として想定されている所定の素線切れ信号の周波数および振幅を取得し、前記カットオフ周波数を複数の値に変化させてハイパスフィルタを適用した際の前記仮想信号の振幅を含む値に対する前記素線切れ信号の振幅の値のSN比をそれぞれ算出し、
前記ハイパスフィルタ決定ステップでは、前記SN比が所定値以上となる前記カットオフ周波数を選択し、
前記フィルタ適用ステップでは、前記エレベータ用ロープの送り速度を前記所定速度に低下させた状態で計測された計測信号に対して、前記ハイパスフィルタ決定ステップによって決定された前記ハイパスフィルタを適用する、信号処理方法。
【請求項8】
エレベータ用ロープの磁束を計測する磁束計測部による計測信号を取得する信号取得ステップと、
前記計測信号に含まれるストランド信号の周波数および振幅を特定するストランド信号特定ステップと、
前記エレベータ用ロープの素線が切れている場合に前記計測信号に含まれる素線切れ信号として想定されている所定の素線切れ信号の周波数および振幅を取得し、ハイパスフィルタのカットオフ周波数に応じた前記ストランド信号の振幅を含む値に対する前記素線切れ信号の振幅の値のSN比を算出するSN比算出ステップと、
前記SN比算出ステップによって算出された前記SN比に基づいて前記カットオフ周波数を選択するハイパスフィルタ決定ステップと、
前記ハイパスフィルタ決定ステップによって決定された前記ハイパスフィルタを前記計測信号に適用するフィルタ適用ステップと、
前記計測信号に含まれるホワイトノイズの振幅を特定するホワイトノイズ特定ステップを有し、
前記SN比算出ステップでは、前記ストランド信号の振幅と前記ホワイトノイズの振幅との和に対する前記素線切れ信号の振幅の値のSN比を算出し、
前記ホワイトノイズ特定ステップでは、カットオフ周波数が前記ストランド信号の周波数よりも高いノイズ判定用ハイパスフィルタを前記計測信号に適用したノイズ判定用信号に基づいて、前記ホワイトノイズの振幅を特定する、信号処理方法。