(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136183
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】電池劣化判定装置、蓄電池システムおよび電池劣化判定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20240927BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20240927BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20240927BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20240927BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240927BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/389
G01R31/382
G01R31/385
H01M10/48 P
H02J7/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047208
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】吉田 翔治
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 涼
(72)【発明者】
【氏名】沖田 優斗
(72)【発明者】
【氏名】長岡 直人
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA23
2G216BA29
2G216BA30
2G216BA53
2G216CB12
2G216CB35
2G216CB52
2G216CB55
5G503BA01
5G503BB02
5G503CA01
5G503CA11
5G503EA09
5G503GD06
5H030AA10
5H030AS01
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】蓄電池の劣化を高精度で判定することが可能な電池劣化判定装置を提供する。
【解決手段】差分値算出部(103A)は、内部抵抗の実測値と近似値との差分値を算出する。診断データ抽出部(104)は、差分値に基づいて、蓄電池(2)を診断するために使用する実測値を診断データとして抽出する。近似係数算出部(105)は、診断データ抽出部(104)によって抽出された診断データを用いて新たな近似係数を算出し、近似値算出部(102)は、新たな近似係数を用いて、蓄電池の内部抵抗の新たな近似値を算出する。そして、劣化判定部(109)は、新たな近似値を用いて蓄電池(2)の劣化を判定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流計によって計測された電流値および電圧計によって計測された電圧値に基づいて、蓄電池の内部抵抗の実測値を算出する内部抵抗値算出部と、
時系列の前記実測値に基づいて、前記蓄電池の内部抵抗値を近似するための近似式の近似係数を算出する近似係数算出部と、
前記近似係数を用いて、前記蓄電池の内部抵抗の近似値を算出する近似値算出部と、
前記実測値と前記近似値とから当該実測値を評価するための評価値を算出する評価値算出部と、
前記評価値に基づいて、前記蓄電池を診断するために使用する前記実測値を診断データとして抽出する診断データ抽出部と、
前記蓄電池の劣化を判定する劣化判定部と、を備え、
前記近似係数算出部は、前記診断データ抽出部によって抽出された前記診断データを用いて新たな近似係数を算出し、
前記近似値算出部は、前記新たな近似係数を用いて、前記蓄電池の内部抵抗の新たな近似値を算出し、
前記劣化判定部は、前記新たな近似値を用いて前記蓄電池の劣化を判定する、
電池劣化判定装置。
【請求項2】
前記電池劣化判定装置はさらに、前記内部抵抗値算出部が、定期的に、前記電流計によって計測された電流値および前記電圧計によって計測された電圧値に基づいて算出した時系列の前記実測値を記憶する記憶部を備える、
請求項1に記載の電池劣化判定装置。
【請求項3】
前記評価値算出部は、前記評価値として、前記実測値と前記近似値との差分値を算出する、
請求項2に記載の電池劣化判定装置。
【請求項4】
前記診断データ抽出部は、前記記憶部に記憶される時系列の前記実測値のうち、前記差分値が大きい順に所定割合の前記実測値を除外することによって、前記診断データを抽出する、
請求項3に記載の電池劣化判定装置。
【請求項5】
前記診断データ抽出部は、前記記憶部に記憶される時系列の前記実測値のうち、前記差分値が大きい順に所定数の前記実測値を除外することによって、前記診断データを抽出する、
請求項3に記載の電池劣化判定装置。
【請求項6】
前記評価値算出部は、前記評価値として、前記実測値の前記近似値に対する誤差率を算出する、
請求項2に記載の電池劣化判定装置。
【請求項7】
前記診断データ抽出部は、前記記憶部に記憶される時系列の前記実測値のうち、前記誤差率の絶対値が所定値以上の前記実測値を除外することによって、前記診断データを抽出する、
請求項6に記載の電池劣化判定装置。
【請求項8】
前記記憶部は、前記近似係数算出部が算出した前記新たな近似係数を記憶し、
前記近似値算出部は、前記記憶部に記憶された直近の前記新たな近似係数を用いて、前記蓄電池の内部抵抗の近似値を算出する、
請求項2に記載の電池劣化判定装置。
【請求項9】
前記電池劣化判定装置はさらに、前記蓄電池の運用時間が所定の期間を経過しているかによって前記蓄電池の診断の可否を判定する診断可否判定部を備え、
前記診断可否判定部によって前記蓄電池の診断が可能と判定された場合、前記劣化判定部が前記蓄電池の劣化を判定する、
請求項1に記載の電池劣化判定装置。
【請求項10】
前記電池劣化判定装置はさらに、前記蓄電池の運用データが所定の件数だけ存在するかによって前記蓄電池の診断の可否を判定する診断可否判定部を備え、
前記診断可否判定部によって前記蓄電池の診断が可能と判定された場合、前記劣化判定部が前記蓄電池の劣化を判定する、
請求項1に記載の電池劣化判定装置。
【請求項11】
前記電池劣化判定装置はさらに、前記蓄電池の運用時間を計測する運用時間計測部を備え、
前記近似係数算出部は、前記内部抵抗値算出部によって算出された内部抵抗の実測値と、前記運用時間計測部によって計測された運用時間とに基づいて、前記蓄電池の内部抵抗値を近似するための近似式の近似係数を算出し、
前記近似値算出部は、前記近似係数算出部によって算出された近似係数と、前記運用時間計測部によって計測された運用時間とを用いて前記蓄電池の内部抵抗の近似値を算出する、請求項1に記載の電池劣化判定装置。
【請求項12】
前記電池劣化判定装置はさらに、前記蓄電池の充放電サイクル数を計測する充放電サイクル数計測部を備え、
前記近似係数算出部は、前記内部抵抗値算出部によって算出された内部抵抗の実測値と、前記運用時間計測部によって計測された運用時間と、前記充放電サイクル数計測部によって計測された充放電サイクル数とに基づいて、前記蓄電池の内部抵抗値を近似するための近似式の近似係数を算出し、
前記近似値算出部は、前記近似係数算出部によって算出された近似係数と、前記運用時間計測部によって計測された運用時間と、前記充放電サイクル数計測部によって計測された充放電サイクル数とを用いて前記蓄電池の内部抵抗の近似値を算出する、請求項11に記載の電池劣化判定装置。
【請求項13】
前記電池劣化判定装置はさらに、前記蓄電池の停止時間を計測する停止時間計測部を備え、
前記近似係数算出部は、前記内部抵抗値算出部によって算出された内部抵抗の実測値と、前記運用時間計測部によって計測された運用時間と、前記充放電サイクル数計測部によって計測された充放電サイクル数と、前記停止時間計測部によって計測された停止時間とに基づいて、前記蓄電池の内部抵抗値を近似するための近似式の近似係数を算出し、
前記近似値算出部は、前記近似係数算出部によって算出された近似係数と、前記運用時間計測部によって計測された運用時間と、前記充放電サイクル数計測部によって計測された充放電サイクル数と、前記停止時間計測部によって計測された停止時間とを用いて前記蓄電池の内部抵抗の近似値を算出する、請求項12に記載の電池劣化判定装置。
【請求項14】
前記近似係数算出部は、前記内部抵抗値算出部によって算出された複数の内部抵抗の実測値に最小二乗法を適用して近似式の近似係数を算出する、請求項1~13のいずれか1項に記載の電池劣化判定装置。
【請求項15】
前記近似係数算出部は、次式(式5)を用いて前記近似式の近似係数を算出する、請求項1に記載の電池劣化判定装置。
R1=R0+a×t1
α+b×t2
β+c×nγ+d ・・・(式5)
R1:蓄電池の内部抵抗の近似値
R0:蓄電池の内部抵抗値の初期値
a:運用中の蓄電池に対して、経時的に複数回算出された内部抵抗の実測値を近似することにより求められる係数
b:停止中の蓄電池に対して、経時的に複数回算出された内部抵抗の実測値を近似することにより求められる係数
c:運用中の蓄電池に対して、充放電サイクル数に応じて複数回算出された内部抵抗の実測値を近似することにより求められる係数
d:運用中であるか停止中であるかにかかわらず、複数回算出された内部抵抗の実測値を近似することにより求められる定数
t1:蓄電池の運用中の経過時間
t2:蓄電池の停止中の経過時間
n:蓄電池の運用中の充放電サイクル数
α:蓄電池の内部抵抗値変化に対して最も誤差が少なくなるようなt1のべき定数
β:蓄電池の内部抵抗値変化に対して最も誤差が少なくなるようなt2のべき定数
γ:蓄電池の内部抵抗値変化に対して最も誤差が少なくなるようなnのべき定数
【請求項16】
蓄電池と、
前記蓄電池の電流値を計測する電流計と、
前記蓄電池の電圧値を計測する電圧計と、
前記電流計によって計測された電流値および前記電圧計によって計測された電圧値に基づいて、蓄電池の内部抵抗の実測値を算出する内部抵抗値算出部と、
時系列の前記実測値に基づいて、前記蓄電池の内部抵抗値を近似するための近似式の近似係数を算出する近似係数算出部と、
前記近似係数を用いて、前記蓄電池の内部抵抗の近似値を算出する近似値算出部と、
前記実測値と前記近似値とから当該実測値を評価するための評価値を算出する評価値算出部と、
前記評価値に基づいて、前記蓄電池を診断するために使用する前記実測値を診断データとして抽出する診断データ抽出部と、
前記蓄電池の劣化を判定する劣化判定部と、を備え、
前記近似係数算出部は、前記診断データ抽出部によって抽出された前記診断データを用いて新たな近似係数を算出し、
前記近似値算出部は、前記新たな近似係数を用いて、前記蓄電池の内部抵抗の新たな近似値を算出し、
前記劣化判定部は、前記新たな近似値を用いて前記蓄電池の劣化を判定する、
蓄電池システム。
【請求項17】
蓄電池の電流値を計測する工程と、
前記蓄電池の電圧値を計測する工程と、
前記計測された電流値および前記計測された電圧値に基づいて、前記蓄電池の内部抵抗の実測値を算出する工程と、
時系列の前記実測値に基づいて、前記蓄電池の内部抵抗値を近似するための近似式の近似係数を算出する工程と、
前記近似係数を用いて、前記蓄電池の内部抵抗の近似値を算出する工程と、
前記実測値と前記近似値とから当該実測値を評価するための評価値を算出する工程と、
前記評価値に基づいて、前記蓄電池を診断するために使用する前記実測値を診断データとして抽出する工程と、
抽出された前記診断データを用いて新たな近似係数を算出する工程と、
前記新たな近似係数を用いて、前記蓄電池の内部抵抗の新たな近似値を算出する工程と、
前記新たな近似値を用いて前記蓄電池の劣化を判定する工程と、
を含む電池劣化判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池の劣化を判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電池の劣化を判定する技術として、下記の特許文献1に開示された発明がある。特許文献1は、内部抵抗値算出部によって算出された時系列の内部抵抗値に基づいて、蓄電池の内部抵抗値を近似するための近似式を導出する近似式導出部と、近似式導出部によって導出された近似式を用いて、蓄電池の内部抵抗値を計算する近似式計算部と、近似式計算部によって計算された蓄電池の内部抵抗値と、判定値とを比較して蓄電池の劣化を判定する劣化判定部とを備える、蓄電池システムを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-069223号公報(2022年5月11日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、取得した内部抵抗値(実測値)の推移から内部抵抗値を近似するための近似式を導出し、導出した近似式に基づいて内部抵抗値(近似値)を算出して劣化を判定するものである。しかしながら、精度が低いデータ(実測値)が含まれる場合、近似式によって算出された近似値の精度が低下するという問題がある。
【0005】
本発明の一態様は、蓄電池の劣化を高精度で判定することが可能な電池劣化判定装置、蓄電池システムおよび電池劣化判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る電池劣化判定装置は、電流計によって計測された電流値および電圧計によって計測された電圧値に基づいて、蓄電池の内部抵抗の実測値を算出する内部抵抗値算出部と、時系列の前記実測値に基づいて、前記蓄電池の内部抵抗値を近似するための近似式の近似係数を算出する近似係数算出部と、前記近似係数を用いて、前記蓄電池の内部抵抗の近似値を算出する近似値算出部と、前記実測値と前記近似値とから当該実測値を評価するための評価値を算出する評価値算出部と、前記評価値に基づいて、前記蓄電池を診断するために使用する前記実測値を診断データとして抽出する診断データ抽出部と、前記蓄電池の劣化を判定する劣化判定部と、を備え、前記近似係数算出部は、前記診断データ抽出部によって抽出された前記診断データを用いて新たな近似係数を算出し、前記近似値算出部は、前記新たな近似係数を用いて、前記蓄電池の内部抵抗の新たな近似値を算出し、前記劣化判定部は、前記新たな近似値を用いて前記蓄電池の劣化を判定する。
【0007】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る蓄電池システムは、蓄電池と、前記蓄電池の電流値を計測する電流計と、前記蓄電池の電圧値を計測する電圧計と、前記電流計によって計測された電流値および前記電圧計によって計測された電圧値に基づいて、蓄電池の内部抵抗の実測値を算出する内部抵抗値算出部と、時系列の前記実測値に基づいて、前記蓄電池の内部抵抗値を近似するための近似式の近似係数を算出する近似係数算出部と、前記近似係数を用いて、前記蓄電池の内部抵抗の近似値を算出する近似値算出部と、前記実測値と前記近似値とから当該実測値を評価するための評価値を算出する評価値算出部と、前記評価値に基づいて、前記蓄電池を診断するために使用する前記実測値を診断データとして抽出する診断データ抽出部と、前記蓄電池の劣化を判定する劣化判定部と、を備え、前記近似係数算出部は、前記診断データ抽出部によって抽出された前記診断データを用いて新たな近似係数を算出し、前記近似値算出部は、前記新たな近似係数を用いて、前記蓄電池の内部抵抗の新たな近似値を算出し、前記劣化判定部は、前記新たな近似値を用いて前記蓄電池の劣化を判定する。
【0008】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る電池劣化判定方法は、蓄電池の電流値を計測する工程と、前記蓄電池の電圧値を計測する工程と、前記計測された電流値および前記計測された電圧値に基づいて、前記蓄電池の内部抵抗の実測値を算出する工程と、時系列の前記実測値に基づいて、前記蓄電池の内部抵抗値を近似するための近似式の近似係数を算出する工程と、前記近似係数を用いて、前記蓄電池の内部抵抗の近似値を算出する工程と、前記実測値と前記近似値とから当該実測値を評価するための評価値を算出する工程と、前記評価値に基づいて、前記蓄電池を診断するために使用する前記実測値を診断データとして抽出する工程と、抽出された前記診断データを用いて新たな近似係数を算出する工程と、前記新たな近似係数を用いて、前記蓄電池の内部抵抗の新たな近似値を算出する工程と、前記新たな近似値を用いて前記蓄電池の劣化を判定する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、蓄電池の劣化を高精度で判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】従来の蓄電池システムにおける経過時間と内部抵抗の近似値との関係の一例を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施形態1に係る蓄電池システムの機能的構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施形態1に係る蓄電池システムの処理手順を説明するためのフローチャートである。
【
図5】更新前の近似係数適用時の近似値と、更新後の近似係数適用時の近似値とを示すグラフである。
【
図6】乖離が大きい実測値を除外して内部抵抗を近似した場合を説明するためのグラフである。
【
図7】本発明の実施形態1に係る蓄電池システムにおいて、乖離が大きいデータを適切に除外できない場合を示すグラフである。
【
図8】本発明の実施形態2に係る蓄電池システムの機能的構成を示すブロック図である。
【
図9】本発明の実施形態2に係る蓄電池システムにおいて、乖離が大きいデータを適切に除外できていることを示すグラフである。
【
図10】本発明の実施形態2に係る蓄電池システムの処理手順を説明するためのフローチャートである。
【
図11】従来の実測値を除外しない場合と、本発明の実施形態1および第2の実施形態に係る蓄電池システムによって実測値を除外した場合とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<従来の蓄電池システムにおける問題点>
市販の円筒形リチウムイオン電池を同一種類で複数セル準備し、室温でSOC50%に調整して、交流インピーダンス法を用いて内部抵抗値の初期値を算出した後、設定温度を30℃とした恒温槽に設置して、リチウムイオン電池に充放電装置を接続し、以下の4条件の任意のパターンで加速劣化試験を行った。
【0012】
条件1:SOC50%で保存
条件2:SOC90%で保存
条件3:SOC70%でフロート課電
条件4:SOC10%~90%で充放電サイクル。
【0013】
加速劣化試験を行ったセルを定期的に恒温槽から取り出し、室温でSOC50%に調整し、交流インピーダンス法を用いて内部抵抗値を評価した。交流インピーダンス法は、電圧幅5mVを10kHz~10mHzの周波数で電池セルの直流電圧に重畳させ、等価回路によるフィッティング解析を行い、等価回路定数としての内部抵抗値を算出した。
【0014】
図1は、蓄電池の等価回路の一例を示す図である。ここで、R11はオーミック抵抗、R12およびR13は反応抵抗、CPE(Constant Phase Element)1およびCPE2はコンデンサ代用の容量成分、WZは拡散抵抗である。また、Lは電極端子およびケーブルのリアクタンス成分、R14は電極端子およびケーブルの抵抗成分である。R11+R12+R13を蓄電池2の内部抵抗値としている。
【0015】
図2は、従来の蓄電池システムにおける経過時間と内部抵抗の近似値との関係の一例を示すグラフである。横軸を加速劣化試験の経過時間の1/2乗とし、縦軸を内部抵抗値(
図1に示す等価回路のR11+R12+R13)としている。
図2に示すように、経過時間が増加すると共に内部抵抗値が上昇する。
【0016】
図2において、点線は、2594時間経過後まで、すなわち1/2乗した
図2の横軸における50.9までの内部抵抗の実測値を用いて導出した近似式を示している。加速劣化試験を行う前において、4つの電池セルの内部抵抗値を測定しており、平均でR
0=74.2mΩとする。2594時間経過後までの内部抵抗の実測値で導出される近似式は次式(式1)の通りである。
【0017】
R
1=74.2+0.3431×t
1
1/2-2.0 ・・・(式1)
また、
図2において、実線は、18638時間経過後、すなわち1/2乗した
図2の横軸における136.5までの内部抵抗の実測値を用いて導出した近似式を示しており、次式(式2)の通りである。この近似式(式2)を用いて内部抵抗の近似値を算出した場合、実際の内部抵抗の実測値と近い値になっている。
【0018】
R
1=74.2+0.0871×t
1
1/2+4.86 ・・・(式2)
図2に示すように、(式1)を用いて内部抵抗の近似値を算出した場合、誤差が大きくなっている。これは、点線で囲まれた(四角で示す)実測値が近似式から大きく乖離しており、この乖離が大きい実測値を用いて近似式を算出していることに起因する。
【0019】
[実施形態1]
<蓄電池システム100Aの構成>
図3は、本発明の実施形態1に係る蓄電池システム100Aの概略構成を示す機能ブロック図である。蓄電池システム100Aは、電池劣化判定装置1Aと、蓄電池2と、電流計3と、電圧計4と、RTC(Real Time Clock)5とを含む。
【0020】
本実施形態において、蓄電池2の一例としてリチウムイオン電池の場合について説明するが、これに限定されるものではない。電流計3は、蓄電池2の電流を計測し、その電流値を電池劣化判定装置1Aに出力する。電圧計4は、蓄電池2の電圧を計測し、その電圧値を電池劣化判定装置1Aに出力する。RTC5は、電池劣化判定装置1Aからの要求に応じて、現在の時刻情報を電池劣化判定装置1Aに出力する。
【0021】
電池劣化判定装置1Aは、内部抵抗値算出部101と、近似値算出部102と、差分値(評価値)算出部103Aと、診断データ抽出部104と、近似係数算出部105と、運用時間計測部106と、停止時間計測部107と、充放電サイクル数計測部108と、劣化判定部109と、診断可否判定部110と、記憶部111とを含む。なお、差分値算出部103Aは、評価値算出部とも呼ぶ。
【0022】
<内部抵抗値算出部>
内部抵抗値算出部101は、定期的に、電流計3から出力される電流値および電圧計4から出力される電圧値から、蓄電池2の内部抵抗の実測値を算出し、内部抵抗の実測値を記憶部111に格納する。このとき、内部抵抗値算出部101は、算出した内部抵抗の実測値以外に、そのときの運用時間、停止時間および充放電サイクル数を記憶部111から取得し、セットにして記憶部111に格納する。また、内部抵抗値算出部101は、RTC5からその時の時刻を取得し、これらの情報に付加するようにしてもよい。この処理は定期的に行われるため、記憶部111には、これらのデータセットが多数格納されることになる。
【0023】
内部抵抗値算出部101は、例えば、蓄電池2の等価回路を用いたフィッティング解析を行うことにより、蓄電池2の内部抵抗値を算出する。この等価回路を用いたフィッティング解析は公知であるので、ここでの詳細な説明は行わない。
【0024】
また、内部抵抗値算出部101は、電流計3から出力される電流値および電圧計4から出力される電圧値から、充電内部抵抗値R21および放電内部抵抗値R22を算出し、これらいずれかの値を蓄電池2の内部抵抗値としてもよい。充電内部抵抗値R21は、蓄電池2の充電時における内部抵抗値であり、放電内部抵抗値R22は蓄電池2の放電時における内部抵抗値である。
【0025】
内部抵抗値算出部101は、記憶部111から、電流値I1、電流値I2、電圧値U1、および電圧値U2を取得し、以下の(式3)に基づいて、充電内部抵抗値R21を算出する。
【0026】
R21=(U2-U1)/(I2-I1)・・・(式3)
ここで、電圧値U1は、蓄電池2に対して、充放電が行われていない待機状態から、一定の電流値I1により第1所定時間の充電を行い、充電が終了する直前に電流値I1が通電されている状態で計測された蓄電池2の電圧値である。電圧値U2は、蓄電池2に対して、充放電が行われていない待機状態から、電流値I1よりも大きな一定の電流値I2により第1所定時間の充電を行い、充電が終了する直前に電流値I2が通電されている状態で計測された蓄電池の電圧値である。
【0027】
内部抵抗値算出部101は、蓄電池2を運用しながら、定期的に充電内部抵抗値R21を算出する。内部抵抗値算出部101は、蓄電池2を運用しながら、定期的に所定のSOC(State Of Charge)の範囲にあることを確認し、電流値I1および電流値I2を蓄電池2に充電することにより、電圧値U1および電圧値U2を取得し、電流値I1、電流値I2、電圧値U1および電圧値U2を記憶部111に記憶する。SOCは、例えば、45~55%の範囲にある時とする。内部抵抗値算出部101は、記憶部111に記憶された電流値I1、電流値I2、電圧値U1および電圧値U2に基づき、充電内部抵抗値R21を算出する。
【0028】
また、内部抵抗値算出部101は、記憶部111から、電流値I3、電流値I4、電圧値U3、および電圧値U4を取得し、以下の(式4)に基づいて、放電内部抵抗値R22を算出する。
【0029】
R22=(U3-U4)/(I4-I3)・・・(式4)
ここで、電圧値U3は、蓄電池2に対して、充放電が行われていない待機状態から、一定の電流値I3により第2所定時間の放電を行い、当該放電が終了する直前に電流値I3が通電されている状態で計測された蓄電池の電圧値である。電圧値U4は、蓄電池2に対して、充放電が行われていない待機状態から、電流値I3よりも大きな一定の電流値I4により第2所定時間の放電を行い、放電が終了する直前に電流値I4が通電されている状態で計測された蓄電池2の電圧値である。
【0030】
内部抵抗値算出部101は、蓄電池2を運用しながら、定期的に放電内部抵抗値R22を算出する。内部抵抗値算出部101は、蓄電池2を運用しながら、定期的に所定のSOCの範囲にあることを確認し、電流値I3および電流値I4を蓄電池2から放電することにより電圧値U3および電圧値U4を取得し、電流値I3、電流値I4、電圧値U3および電圧値U4を記憶部111に記憶する。SOCは、例えば45~55%の範囲にある時とする。内部抵抗値算出部101は、記憶部111に記憶された電流値I3、電流値I4、電圧値U3および電圧値U4に基づき、放電内部抵抗値R22を算出する。
【0031】
運用時間計測部106は、蓄電池システム100Aの運用状態を監視しており、RTC5を参照して、運用時間の合計を算出して記憶部111に格納する。ここで、運用時間とは、蓄電池2が充電中の時間と、蓄電池2が放電中の時間との合計時間である。運用時間計測部106は、逐次運用時間を更新し、記憶部111に格納する。
【0032】
停止時間計測部107は、蓄電池システム100Aの停止状態を監視しており、RTC5を参照して、停止時間の合計を算出して記憶部111に格納する。ここで、停止時間とは、蓄電池システム100Aが充電中でも放電中でもない状態であり、総時間から運用時間を差し引いて停止時間を算出するようにしてもよい。停止時間計測部107は、逐次停止時間を更新し、記憶部111に格納する。
【0033】
充放電サイクル数計測部108は、蓄電池2の充放電サイクル数を計測し、充放電サイクル数を記憶部111に格納する。充放電サイクル数計測部108は、例えば、蓄電池2のSOCが10%以下の状態から充電を開始し、SOCが90%以上の状態になったときに1サイクルとしてカウントする。なお、充放電サイクル数の計測方法は、これに限られるものではない。
【0034】
ここで、蓄電池2のSOCは、蓄電池2が満充電状態(SOC 100%)、または、完全放電状態(SOC 0%)となってから蓄電池2に充放電される電流容量(Ah)から算出される。さらに、蓄電池2を充放電が行われていない停止状態にして、停止状態から蓄電池2に充放電された電流容量により、蓄電池2のSOCを算出してもよい。
【0035】
近似係数算出部105は、記憶部111に記憶される内部抵抗値算出部101によって算出された内部抵抗の実測値、運用時間計測部106によって計測された運用時間、停止時間計測部107によって計測された停止時間、充放電サイクル数計測部108によって計測された充放電サイクル数を以下の(式5)に代入し、最小二乗法によって近似係数a,b,cおよびdを算出する。このとき、記憶部111に記憶される全てのデータセット(内部抵抗の実測値、運用時間、停止時間、充放電サイクル数)が用いられる。
【0036】
R1=R0+a×t1
α+b×t2
β+c×nγ+d ・・・(式5)
ここで、R1は、近似式(式5)を用いて算出した蓄電池2の内部抵抗の近似値であり、劣化判定を行うときに用いられる値である。近似係数を算出する際には、R1に、内部抵抗値算出部101によって算出された内部抵抗の実測値が代入される。
【0037】
R0は、運用開始前または運用開始直後における蓄電池2の内部抵抗の実測値の初期値である。この初期値R0は、運用直後に内部抵抗値算出部101によって算出するのが好ましい。また、運用前に算出するようにしてもよい。
【0038】
aは、運用中の蓄電池2に対して、経時的に複数回算出された内部抵抗の実測値を近似することにより求められる係数である。bは、停止中の蓄電池2に対して、経時的に複数回算出された内部抵抗の実測値を近似することにより求められる係数である。cは、運用中の蓄電池2に対して、充放電サイクル数に応じて複数回算出された内部抵抗の実測値を近似することにより求められる係数である。また、dは、運用中であるか停止中であるかにかかわらず、複数回算出された内部抵抗の実測値を近似することにより求められる定数である。
【0039】
t1は、蓄電池2の運用中の経過時間である。ここでは、記憶部111に記憶される、運用時間計測部106によって計測された運用時間が用いられる。
【0040】
t2は、蓄電池2の停止中の経過時間である。ここでは、記憶部111に記憶される、停止時間計測部107によって計測された停止時間が用いられる。
【0041】
nは、蓄電池2の運用中の充放電サイクル数である。ここでは、記憶部111に記憶される、充放電サイクル数計測部108によって計測された充放電サイクル数が用いられる。
【0042】
α、βおよびγは、蓄電池2の内部抵抗の実測値変化に対して最も誤差が少なくなるようなべき定数とすることが望ましいが、リチウムイオン電池の放電容量低下は、運用時間の1/2乗に比例するという、いわゆるルート則が知られている。そのため、これらのべき定数を1/2としてもよい。また、リチウムイオン電池の直流内部抵抗は、運用時間に比例するとも言われているため、これらのべき定数を1としてもよい。
【0043】
蓄電池2は、電流が印加されていない停止状態でも劣化する。したがって、運用中の経過時間、停止中の経過時間、および充放電サイクル数を管理し、(式5)を用いて蓄電池2の内部抵抗の近似値を算出することにより、より高精度な近似を行うことができる。なお、停止中の経過時間や充放電サイクル数を計測できない場合には、係数bおよびcを0とし、運用中の経過時間のみで蓄電池2の内部抵抗値を近似するようにしてもよい。
【0044】
近似値算出部102は、近似係数算出部105によって算出された近似係数を用いた近似式に、実測値の計測時における運用時間t1、停止時間t2および充放電サイクル数nを代入し、蓄電池2の内部抵抗の近似値R1を計算する。
【0045】
差分値算出部103Aは、評価値として、記憶部111に記憶される蓄電池2の複数の内部抵抗の実測値と、複数の内部抵抗の実測値に対応する内部抵抗の近似値との差分値を算出する。このとき、近似値算出部102は、記憶部111に記憶される複数の内部抵抗の実測値のそれぞれの計測時におけるデータセット(運用時間、停止時間、充放電サイクル数)と、直近の近似係数とを用いて、それぞれの内部抵抗の近似値を算出し、その内部抵抗の近似値が差分値の算出に用いられる。
【0046】
診断データ抽出部104は、差分値算出部103Aによって算出された差分値の中から、例えば、差分値が大きい(乖離が大きい)順に所定割合のデータを除外することにより、蓄電池2を診断するために使用する診断データを抽出する。この所定割合は、差分値が大きい上位10~50%程度が適切であるが、この値に限定されるものではない。また、診断データ抽出部104は、差分値算出部103Aによって算出された差分値の中から、例えば、差分値が大きい順に所定数のデータを除外して診断データを抽出するようにしてもよい。
【0047】
近似係数算出部105は、診断データ抽出部104によって抽出された診断データを用いて、新たな近似係数を算出する。そして、近似値算出部102は、近似係数算出部105によって算出された新たな近似係数を用いて、蓄電池2の内部抵抗の新たな近似値を算出する。
【0048】
診断可否判定部110は、蓄電池2の運用時間が所定の期間を経過しているか否かによって、蓄電池2の診断の可否を判定する。蓄電池2の運用初期はデータ数が少なく、近似精度が低下するため、蓄電池2の運用時間が所定の期間を経過するまで蓄電池2の診断を行わないようにしている。
【0049】
劣化判定部109は、近似値算出部102によって算出された蓄電池2の内部抵抗の新たな近似値と、判定値とを比較することにより、蓄電池2の劣化を判定する。蓄電池2の特性や使用用途によっても劣化を判定するための判定値が異なるため、一概に判定値を決めることは難しいが、例えば、判定値を100mΩとし、劣化判定部109は、近似値算出部102によって算出された内部抵抗の新たな近似値が100mΩを超えたときに、蓄電池2が劣化であると判定する。
【0050】
<蓄電池システム100Aの処理手順>
図4は、本発明の実施形態1に係る蓄電池システム100Aの処理手順を説明するためのフローチャートである。まず、内部抵抗値算出部101は、上述のように蓄電池2の内部抵抗の実測値を算出し、運用時間、停止時間および充放電サイクル数と共に記憶部111に格納する(S1)。
【0051】
次に、診断可否判定部110は、蓄電池2の運用時間が所定の期間(データ蓄積期間)t0を経過しているか否かによって、蓄電池2の診断の可否を判定する(S2)。蓄電池2の運用時間がデータ蓄積期間t0を経過していなければ(S2,No)、ステップS11に処理が進む。
【0052】
また、蓄電池2の運用時間がデータ蓄積期間t0を経過していれば(S2,Yes)、記憶部111に近似係数が記憶されているか否かが判定される(S3)。記憶部111に近似係数が記憶されていなければ(S3,No)、近似係数算出部105は、記憶部111に記憶されている全データを用いて、最小二乗法によって近似係数を算出し(S12)、ステップS4に処理が進む。また、記憶部111に近似係数が記憶されていれば(S3,Yes)、ステップS4に処理が進む。
【0053】
なお、ステップS2とステップS3との間に、後述の
図10に示すステップS23の処理が追加されてもよい。この場合、蓄電池2の運用データが所定の件数N
0以上存在すれば、ステップS3に処理が進み、蓄電池2の運用データが所定の件数N
0よりも少なければ、ステップS11に処理が進むことになる。
【0054】
ステップS4において、近似値算出部102は、記憶部111に記憶される全蓄積データの診断時刻(実測値の計測時刻)におけるそれぞれの近似値を、直近の近似係数を用いて算出する。そして、差分値算出部103Aは、それぞれの診断時刻における実測値と近似値との差分値を算出する(S5)。
【0055】
次に、診断データ抽出部104は、差分値の大きい順に上位Nx%(または上位所定数)のデータを除外する(S6)。そして、近似係数算出部105は、診断データ抽出部104によって抽出された[100-Nx]%の診断データを用いて、近似式の新たな近似係数を算出する(S7)。このとき、近似係数算出部105は、記憶部111に記憶されている近似係数を、新たな近似係数に更新する。
【0056】
次に、近似値算出部102は、近似係数算出部105によって更新された新たな近似係数を用い、(式5)に示す近似式によって現在の蓄電池2の内部抵抗の近似値Ranaを算出する(S8)。そして、劣化判定部109は、近似値算出部102によって計算された内部抵抗の新たな近似値Ranaと、判定値とを比較し、内部抵抗の近似値Ranaが判定値を超えているか否かを判定する(S9)。内部抵抗の近似値Ranaが判定値を超えていれば(S9,Yes)、劣化判定部109は、蓄電池2が劣化していると判定し(S10)、処理を終了する。
【0057】
また、内部抵抗の近似値Ranaが判定値を超えていなければ(S9,No)、劣化判定部109は、蓄電池2が劣化していないと判定し、次の内部抵抗の実測値の算出を待ち(S11)、ステップS1に戻って以降の処理が繰り返される。ここで、次の内部抵抗の実測値の算出は定期的に、例えば、1週間ごとに内部抵抗値算出部101が内部抵抗の実測値を算出するようにしてもよい。
【0058】
図5は、更新前の近似係数適用時の近似値と、更新後の近似係数適用時の近似値とを示すグラフである。
図5において、横軸が時間、縦軸が内部抵抗であり、細かい点線は、更新前の近似係数適用時の近似値を示しており、太い点線は、更新後の近似係数適用時の近似値を示している。また、黒い丸は、内部抵抗の実測値を示している。
【0059】
データ蓄積期間t0までは、劣化判定部109による劣化判定は行われない。近似値算出部102は、記憶部111に記憶されている近似係数を用いて、全データの診断時刻における近似値を算出する。
【0060】
差分値算出部103Aは、内部抵抗の実測値と近似値との差分値ΔRを算出する。そして、診断データ抽出部104は、差分値ΔR(乖離)が大きい順に上位N%の実測値データを除外する。ここで、例えば、データ数が10点であり、Nx=20%とすると、
図5に示すように、乖離が大きい実測値d1と実測値d2とが除外され、残り8点の実測値が診断データとして抽出される。
【0061】
近似係数算出部105は、診断データ抽出部104によって抽出された8点の診断データを用いて、最小二乗法により近似係数を算出する。そして、近似係数算出部105は、算出した新たな近似係数を記憶部111に記憶することによって、近似係数を更新する。
【0062】
図5に示すように、乖離が大きい実測値d1と実測値d2とを含んだデータを用いて近似係数を算出しているため、更新前の近似係数適用時の近似値が、更新後の近似係数適用時の近似値よりも大きくなっていることが分かる。このように、乖離が大きい実測値データを除外することによって、内部抵抗の近似精度を高くすることができ、劣化判定部109は、蓄電池2の劣化を高精度で判定することが可能となる。
【0063】
図6は、乖離が大きい実測値を除外して内部抵抗を近似した場合を説明するためのグラフである。横軸を加速劣化試験の経過時間の1/2乗とし、縦軸を内部抵抗値(
図1に示す等価回路のR11+R12+R13)としている。なお、経過時間を1/2乗した時間の単位を、(√Hr)と表記することにする。
【0064】
図6において、黒い四角は、診断データ抽出部104によって抽出された診断データを示し、点線の四角は、診断データ抽出部104によって除外された実測値データを示している。また、実線は、全実測値データ(0~137(√Hr))を用いて算出した近似係数で内部抵抗値を近似した場合を示し、点線は、一部実測値データ(0~51(√Hr))を用いて算出した近似係数で内部抵抗値を近似した場合を示し、一点鎖線は、乖離が大きい実測値データを除外した実測値データ(0~51(√Hr))を用いて算出した近似係数で内部抵抗値を近似した場合を示している。
【0065】
まず、近似係数算出部105は、0~45.8(√Hr)の実測値データを用いて、内部抵抗の近似式の近似係数を算出する(
図4のS12)。次に、差分値算出部103Aは、0~50.9(√Hr)の実測値と近似値との差分値ΔRを算出する(
図4のS5)。次に、診断データ抽出部104は、差分値ΔRが大きい順に上位20%(3点)の実測値データを除外する(
図4のS6)。そして、近似係数算出部105は、抽出された診断データを用いて内部抵抗の近似式の新たな近似係数を算出し(
図4のS7)、近似値算出部102は、50.9(√Hr)における内部抵抗の新たな近似値を算出する(
図4のS8)。
【0066】
全実測値データ(0~137(√Hr))を用いて(式5)の近似係数を算出した場合、次式(式6)の通りとなる。なお、(式5)に示す近似係数b、cおよびdを「0」としている。
【0067】
R1=79.1+0.087×t1
1/2
Rana=83.50mΩ・・・(式6)
また、一部実測値データ(0~50.9(√Hr))を用いて(式5)の近似係数を算出した場合、次式(式7)の通りとなる。
【0068】
R
1=72.2+0.343×t
1
1/2
R
ana=89.69mΩ・・・(式7)
また、乖離が大きい実測値データ(
図6においては、点線の四角で示す3点のデータ)を除外して(式5)の近似係数を算出した場合、次式(式8)の通りとなる。
【0069】
R
1=73.3+0.215×t
1
1/2
R
ana=84.32mΩ・・・(式8)
このように、乖離が大きい実測値データを除外して算出した近似係数で内部抵抗の近似値(
図6の一点鎖線)を算出した場合、全実測値データを用いて算出した近似係数で内部抵抗の近似値(
図6の実線)を算出した場合と比較しても、概ね近似結果が一致していることが分かる。
【0070】
以上説明したように、本実施形態に係る電池劣化判定装置1Aによれば、近似係数算出部105が、診断データ抽出部104によって抽出された診断データを用いて新たな近似係数を算出し、近似値算出部102が、新たな近似係数を用いて、蓄電池2の内部抵抗の新たな近似値を算出する。したがって、劣化判定部109は、蓄電池2の劣化を高精度で判定することが可能となる。
【0071】
また、記憶部111は、内部抵抗値算出部101が、定期的に、電流計3によって計測された電流値および電圧計4によって計測された電圧値に基づいて算出した時系列の実測値を記憶する。したがって、近似値算出部102は、記憶部111を参照することによって、診断時における内部抵抗の近似値を容易に算出することができる。
【0072】
また、診断データ抽出部104は、記憶部111に記憶される時系列の実測値のうち、差分値が大きい順に所定割合の実測値を除外することによって、診断データを抽出する。したがって、近似係数算出部105は、診断データ抽出部104によって抽出された診断データを用いることによって、蓄電池2の劣化を高精度で判定することができる近似係数を算出することが可能となる。
【0073】
また、診断データ抽出部104は、記憶部111に記憶される時系列の実測値のうち、差分値が大きい順に所定数の実測値を除外することによって、診断データを抽出する。したがって、近似係数算出部105は、診断データ抽出部104によって抽出された診断データを用いることによって、蓄電池2の劣化を高精度で判定することができる近似係数を算出することが可能となる。
【0074】
また、近似値算出部102は、記憶部111に記憶された直近の新たな近似係数を用いて、蓄電池2の内部抵抗の近似値を算出するので、蓄電池2の劣化を高精度で判定することが可能となる。
【0075】
また、診断可否判定部110によって蓄電池2の診断が可能と判定された場合、劣化判定部109が蓄電池2の劣化を判定する。したがって、蓄積データ数が少ない蓄電池2の運用初期に劣化判定を行って、劣化判定の精度が低下するのを防止することが可能となる。
【0076】
[実施形態2]
本発明の実施形態1に係る電池劣化判定装置1Aは、内部抵抗の実測値と近似値との差分を算出し、乖離が大きい上位N%のデータを除外したデータに基づいて新たな近似式を算出し、診断時の内部抵抗値を算出して劣化を判定するものである。しかしながら、乖離が大きい上位N%のデータを除外しても、乖離が大きいデータが多い場合には、近似精度が低下する場合がある。
【0077】
図7は、本発明の実施形態1に係る蓄電池システムにおいて、乖離が大きいデータを適切に除外できない場合を示すグラフである。
図7において、点線で囲んでいるデータが除外されるべきデータを示しているが、乖離が大きいデータが多い場合には、点線で囲んでいるデータの数が多くなり、たとえ乖離が大きい上位N%のデータを除外したとしても、点線で囲んでいるデータが残る場合がある。本発明の実施形態2に係る蓄電池システムは、乖離が大きいデータを適切に除外することを可能にする。
【0078】
<蓄電池システム100Bの構成>
図8は、本発明の実施形態2に係る蓄電池システム100Bの概略構成を示す機能ブロック図である。本発明の実施形態2に係る蓄電池システム100Bの概略構成は、
図3に示す実施形態1に係る蓄電池システム100Aの概略構成と比較して、差分値(評価値)算出部103Aが誤差率(評価値)算出部103Bに置換されている点と、診断データ抽出部104Bおよび診断可否判定部110Bの機能が異なっている点のみが異なる。したがって、重複する構成および機能の詳細な説明は繰り返さない。
【0079】
誤差率算出部103Bは、評価値として、記憶部111に記憶される蓄電池2の複数の内部抵抗の実測値と、複数の内部抵抗の実測値に対応する内部抵抗の近似値とを用いて誤差率を算出する。誤差率Xは、内部抵抗の実測値Rrealの近似値Restに対する誤差率であり、次式(式9)によって表すことができる。
【0080】
X=100×(Rreal/Rest-1) ・・・(式9)
診断データ抽出部104Bは、誤差率算出部103Bによって算出された誤差率の中から、例えば、誤差率が所定の値(±Xa)よりも大きいデータ(誤差率の絶対値がXaよりも大きいデータ)を除外することにより、蓄電池2を診断するために使用する診断データを抽出する。
【0081】
近似係数算出部105は、診断データ抽出部104Bによって抽出された診断データを用いて、最小二乗法により近似係数を算出する。そして、近似係数算出部105は、算出した新たな近似係数を記憶部111に記憶することによって、近似係数を更新する。
【0082】
図9は、本発明の実施形態2に係る蓄電池システムにおいて、乖離が大きいデータを適切に除外できていることを示すグラフである。
図9において、黒い四角が実測値データを示しており、実線が更新前の近似係数適用時の近似式を示しており、一点鎖線が更新後の近似係数適用時の近似式を示している。
【0083】
図9に示すように、誤差率が、近似値の±Xa以上となる実測値データ(点線で囲んだデータ)を除外することによって、更新前の近似係数適用時の近似値よりも、更新後の近似係数適用時の近似値の方が実測値データに近くなっていることが分かる。このように、誤差率が大きい実測値データを除外することによって、内部抵抗の近似精度を高くすることができ、劣化判定部109は、蓄電池2の劣化を高精度で判定することが可能となる。
【0084】
診断可否判定部110Bは、蓄電池2の運用時間が所定の期間を経過しているか否か、および、蓄電池2の運用データが所定の件数だけ存在するかによって蓄電池2の診断の可否を判定する。蓄電池2の運用初期はデータ数が少なく、近似精度が低下するため、蓄電池2の運用時間が所定の期間を経過するまで、および、蓄電池2の運用データが所定の件数となるまで蓄電池2の診断を行わないようにしている。
【0085】
<蓄電池システム100Bの処理手順>
図10は、本発明の実施形態2に係る蓄電池システム100Bの処理手順を説明するためのフローチャートである。まず、内部抵抗値算出部101は、上述のように蓄電池2の内部抵抗の実測値を算出し、運用時間、停止時間および充放電サイクル数と共に記憶部111に格納する(S21)。
【0086】
次に、診断可否判定部110Bは、蓄電池2の運用時間が所定の期間(データ蓄積期間)t0を経過しているか否かによって、蓄電池2の診断の可否を判定する(S22)。蓄電池2の運用時間がデータ蓄積期間t0を経過していなければ(S22,No)、ステップS32に処理が進む。
【0087】
蓄電池2の運用時間がデータ蓄積期間t0を経過していれば(S22,Yes)、診断可否判定部110Bは、蓄電池2の運用データが所定の件数N0以上存在するかによって蓄電池2の診断の可否を判定する(S23)。蓄電池2の運用データが所定の件数N0よりも少なければ(S23,No)、ステップS32に処理が進む。
【0088】
蓄電池2の運用データが所定の件数N0以上であれば(S23,Yes)、記憶部111に近似係数が記憶されているか否かが判定される(S24)。記憶部111に近似係数が記憶されていなければ(S24,No)、近似係数算出部105は、記憶部111に記憶されている全データを用いて、最小二乗法によって近似係数を算出し(S33)、ステップS25に処理が進む。また、記憶部111に近似係数が記憶されていれば(S24,Yes)、ステップS25に処理が進む。
【0089】
ステップS25において、近似値算出部102は、記憶部111に記憶される全蓄積データの診断時刻(実測値の計測時刻)におけるそれぞれの近似値を、直近の近似係数を用いて算出する。そして、誤差率算出部103Bは、それぞれの診断時刻における実測値の近似値に対する誤差率Xを算出する(S26)。
【0090】
次に、診断データ抽出部104Bは、誤差率Xが閾値±Xa以上となる実測値データを除外する(S27)。そして、近似係数算出部105は、診断データ抽出部104Bによって抽出された診断データを用いて、近似式の新たな近似係数を算出する(S28)。このとき、近似係数算出部105は、記憶部111に記憶されている近似係数を、新たな近似係数に更新する。
【0091】
次に、近似値算出部102は、近似係数算出部105によって更新された新たな近似係数を用い、(式5)に示す近似式によって現在の蓄電池2の内部抵抗の近似値Ranaを算出する(S29)。そして、劣化判定部109は、近似値算出部102によって計算された内部抵抗の新たな近似値Ranaと、判定値とを比較し、内部抵抗の近似値Ranaが判定値を超えているか否かを判定する(S30)。内部抵抗の近似値Ranaが判定値を超えていれば(S30,Yes)、劣化判定部109は、蓄電池2が劣化していると判定し(S31)、処理を終了する。
【0092】
また、内部抵抗の近似値Ranaが判定値を超えていなければ(S30,No)、劣化判定部109は、蓄電池2が劣化していないと判定し、次の内部抵抗の実測値の算出を待ち(S32)、ステップS21に戻って以降の処理が繰り返される。ここで、次の内部抵抗の実測値の算出は定期的に、例えば、1週間ごとに内部抵抗値算出部101が内部抵抗の実測値を算出するようにしてもよい。
【0093】
図11は、従来の実測値を除外しない場合と、本発明の実施形態1および実施形態2に係る蓄電池システムによって実測値を除外した場合とを示すグラフである。
図11において、四角プロットは内部抵抗の実測値データ、×プロットは従来の実測値を除外しない場合の内部抵抗の近似値、三角プロットは本発明の実施形態1で説明した手法により算出した内部抵抗R
ana、丸プロットは本発明の実施形態2で説明した手法により算出した内部抵抗R
anaを示している。
【0094】
また、点線は従来の実測値を除外しない場合の内部抵抗の近似式のグラフ、実線は本発明の実施形態1で説明した手法により算出した内部抵抗の近似式のグラフ、一点鎖線は本発明の実施形態2で説明した手法により算出した内部抵抗の近似式のグラフを示している。
【0095】
本発明の実施形態1および実施形態2で説明した手法において、データ蓄積期間を40(√Hr)、データ蓄積数を5点とし、45.8(√Hr)以降(データ蓄積数は8点目以降)から近似係数の更新および各診断時刻における内部抵抗R
anaの算出を、
図10示すフローに基づいてデータが増えるたびに繰り返した。
【0096】
図11においては、実施形態1の手法では除外する件数比率を全体の20%とし、実施形態2の手法では除外する誤差率の閾値Xaを±10%に設定した。また、どちらも劣化係数(R
0,a)および近似値(R
1)の算出には(式5)の近似式を用いた。なお、(式5)に、α=1/2、b=0、β=0、c=0、γ=0、d=0を代入している。したがって、近似式は次式(式10)の通りとなる。
【0097】
R1=R0+a×t1
1/2 ・・・(式10)
なお、従来の実測値を除外しない場合の内部抵抗の近似式は、次式(式11)の通りである。また、従来の実測値を除外しない場合の決定係数は0.4108になっている。決定係数とは、推定された近似式の当てはまりの良さ(度合い)を表している。決定係数は、一般にR2で示され、0から1までの値をとる。1に近いほど、近似式が実際のデータに当てはまっていることを表している。
【0098】
y=0.0427x+84.992 ・・・(式11)
実施形態1の手法により算出した内部抵抗Ranaにおいて、45.8(√Hr)時点で算出した内部抵抗Ranaはやや低めに算出され、次に診断した50.9(√Hr)時点で算出した内部抵抗Ranaはやや高めに算出されるなど、45.8~50.9(√Hr)の短時間で内部抵抗Ranaが大きく変化しており、内部抵抗Ranaの安定性に欠ける結果となった。また、全ての内部抵抗Ranaの算出結果を直線近似した時の決定係数は0.9283になっていることからも内部抵抗Ranaの安定性がやや乏しいことが確認できる。
【0099】
なお、実施形態1の手法により算出した内部抵抗の近似式は、次式(式12)の通りである。
【0100】
y=0.1571x+74.254 ・・・(式12)
一方、実施形態2の手法により算出した内部抵抗Ranaの場合、いずれの診断時刻においても内部抵抗Ranaは√経過時間に比例して増加しており、全ての内部抵抗Ranaの算出結果を直線近似した時の決定係数は0.9844になったことから、劣化状態を判定するための内部抵抗Ranaの安定性が向上しているのが分かる。
【0101】
なお、実施形態2の手法により算出した内部抵抗の近似式は、次式(式13)の通りである。
【0102】
y=0.1231x+74.371 ・・・(式13)
以上説明したように、本実施形態に係る電池劣化判定装置1Bによれば、近似係数算出部105が、診断データ抽出部104Bによって抽出された診断データを用いて新たな近似係数を算出し、近似値算出部102が、新たな近似係数を用いて、蓄電池2の内部抵抗の新たな近似値を算出する。したがって、劣化判定部109は、蓄電池2の劣化をさらに高精度で判定することが可能となる。
【0103】
〔ソフトウェアによる実現例〕
電池劣化判定装置1Aおよび1Bの制御ブロック(特に内部抵抗値算出部101、近似値算出部102、差分値算出部103A、誤差率算出部103B、診断データ抽出部104、104B、近似係数算出部105、劣化判定部109および診断可否判定部110、110B)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0104】
後者の場合、電池劣化判定装置1Aおよび1Bは、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0105】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る電池劣化判定装置は、電流計によって計測された電流値および電圧計によって計測された電圧値に基づいて、蓄電池の内部抵抗の実測値を算出する内部抵抗値算出部と、時系列の前記実測値に基づいて、前記蓄電池の内部抵抗値を近似するための近似式の近似係数を算出する近似係数算出部と、前記近似係数を用いて、前記蓄電池の内部抵抗の近似値を算出する近似値算出部と、前記実測値と前記近似値とから当該実測値を評価するための評価値を算出する評価値算出部と、前記評価値に基づいて、前記蓄電池を診断するために使用する前記実測値を診断データとして抽出する診断データ抽出部と、前記蓄電池の劣化を判定する劣化判定部と、を備え、前記近似係数算出部は、前記診断データ抽出部によって抽出された前記診断データを用いて新たな近似係数を算出し、前記近似値算出部は、前記新たな近似係数を用いて、前記蓄電池の内部抵抗の新たな近似値を算出し、前記劣化判定部は、前記新たな近似値を用いて前記蓄電池の劣化を判定する。
【0106】
本発明の態様2に係る電池劣化判定装置は、上記態様1において、前記電池劣化判定装置はさらに、前記内部抵抗値算出部が、定期的に、前記電流計によって計測された電流値および前記電圧計によって計測された電圧値に基づいて算出した時系列の前記実測値を記憶する記憶部を備える。
【0107】
本発明の態様3に係る電池劣化判定装置は、上記態様2において、前記評価値算出部は、前記評価値として、前記実測値と前記近似値との差分値を算出する。
【0108】
本発明の態様4に係る電池劣化判定装置は、上記態様3において、前記診断データ抽出部は、前記記憶部に記憶される時系列の前記実測値のうち、前記差分値が大きい順に所定割合の前記実測値を除外することによって、前記診断データを抽出する。
【0109】
本発明の態様5に係る電池劣化判定装置は、上記態様3において、前記診断データ抽出部は、前記記憶部に記憶される時系列の前記実測値のうち、前記差分値が大きい順に所定数の前記実測値を除外することによって、前記診断データを抽出する。
【0110】
本発明の態様6に係る電池劣化判定装置は、上記態様2において、前記評価値算出部は、前記評価値として、前記実測値の前記近似値に対する誤差率を算出する。
【0111】
本発明の態様7に係る電池劣化判定装置は、上記態様6において、前記診断データ抽出部は、前記記憶部に記憶される時系列の前記実測値のうち、前記誤差率の絶対値が所定値以上の前記実測値を除外することによって、前記診断データを抽出する。
【0112】
本発明の態様8に係る電池劣化判定装置は、上記態様2~7のいずれかにおいて、前記記憶部は、前記近似係数算出部が算出した前記新たな近似係数を記憶し、前記近似値算出部は、前記記憶部に記憶された直近の前記新たな近似係数を用いて、前記蓄電池の内部抵抗の近似値を算出する。
【0113】
本発明の態様9に係る電池劣化判定装置は、上記態様1~8のいずれかにおいて、前記電池劣化判定装置はさらに、前記蓄電池の運用時間が所定の期間を経過しているかによって前記蓄電池の診断の可否を判定する診断可否判定部を備え、前記診断可否判定部によって前記蓄電池の診断が可能と判定された場合、前記劣化判定部が前記蓄電池の劣化を判定する。
【0114】
本発明の態様10に係る電池劣化判定装置は、上記態様1~8のいずれかにおいて、前記電池劣化判定装置はさらに、前記蓄電池の運用データが所定の件数だけ存在するかによって前記蓄電池の診断の可否を判定する診断可否判定部を備え、前記診断可否判定部によって前記蓄電池の診断が可能と判定された場合、前記劣化判定部が前記蓄電池の劣化を判定する。
【0115】
本発明の態様11に係る電池劣化判定装置は、上記態様1~10のいずれかにおいて、前記電池劣化判定装置はさらに、前記蓄電池の運用時間を計測する運用時間計測部を備え、前記近似係数算出部は、前記内部抵抗値算出部によって算出された内部抵抗の実測値と、前記運用時間計測部によって計測された運用時間とに基づいて、前記蓄電池の内部抵抗値を近似するための近似式の近似係数を算出し、前記近似値算出部は、前記近似係数算出部によって算出された近似係数と、前記運用時間計測部によって計測された運用時間とを用いて前記蓄電池の内部抵抗の近似値を算出する。
【0116】
本発明の態様12に係る電池劣化判定装置は、上記態様11において、前記電池劣化判定装置はさらに、前記蓄電池の充放電サイクル数を計測する充放電サイクル数計測部を備え、前記近似係数算出部は、前記内部抵抗値算出部によって算出された内部抵抗の実測値と、前記運用時間計測部によって計測された運用時間と、前記充放電サイクル数計測部によって計測された充放電サイクル数とに基づいて、前記蓄電池の内部抵抗値を近似するための近似式の近似係数を算出し、前記近似値算出部は、前記近似係数算出部によって算出された近似係数と、前記運用時間計測部によって計測された運用時間と、前記充放電サイクル数計測部によって計測された充放電サイクル数とを用いて前記蓄電池の内部抵抗の近似値を算出する。
【0117】
本発明の態様13に係る電池劣化判定装置は、上記態様12において、前記電池劣化判定装置はさらに、前記蓄電池の停止時間を計測する停止時間計測部を備え、前記近似係数算出部は、前記内部抵抗値算出部によって算出された内部抵抗の実測値と、前記運用時間計測部によって計測された運用時間と、前記充放電サイクル数計測部によって計測された充放電サイクル数と、前記停止時間計測部によって計測された停止時間とに基づいて、前記蓄電池の内部抵抗値を近似するための近似式の近似係数を算出し、前記近似値算出部は、前記近似係数算出部によって算出された近似係数と、前記運用時間計測部によって計測された運用時間と、前記充放電サイクル数計測部によって計測された充放電サイクル数と、前記停止時間計測部によって計測された停止時間とを用いて前記蓄電池の内部抵抗の近似値を算出する。
【0118】
本発明の態様14に係る電池劣化判定装置は、上記態様1~13のいずれかにおいて、前記近似係数算出部は、前記内部抵抗値算出部によって算出された複数の内部抵抗の実測値に最小二乗法を適用して近似式の近似係数を算出する。
【0119】
本発明の態様15に係る電池劣化判定装置は、上記態様1~14のいずれかにおいて、前記近似係数算出部は、次式(式5)を用いて前記近似式の近似係数を算出する。
【0120】
R1=R0+a×t1
α+b×t2
β+c×nγ+d ・・・(式5)
R1:蓄電池の内部抵抗の近似値
R0:蓄電池の内部抵抗値の初期値
a:運用中の蓄電池に対して、経時的に複数回算出された内部抵抗の実測値を近似することにより求められる係数
b:停止中の蓄電池に対して、経時的に複数回算出された内部抵抗の実測値を近似することにより求められる係数
c:運用中の蓄電池に対して、充放電サイクル数に応じて複数回算出された内部抵抗の実測値を近似することにより求められる係数
d:運用中であるか停止中であるかにかかわらず、複数回算出された内部抵抗の実測値を近似することにより求められる定数
t1:蓄電池の運用中の経過時間
t2:蓄電池の停止中の経過時間
n:蓄電池の運用中の充放電サイクル数
α:蓄電池の内部抵抗値変化に対して最も誤差が少なくなるようなt1のべき定数
β:蓄電池の内部抵抗値変化に対して最も誤差が少なくなるようなt2のべき定数
γ:蓄電池の内部抵抗値変化に対して最も誤差が少なくなるようなnのべき定数。
【0121】
本発明の態様16に係る蓄電池システムは、蓄電池と、前記蓄電池の電流値を計測する電流計と、前記蓄電池の電圧値を計測する電圧計と、前記電流計によって計測された電流値および前記電圧計によって計測された電圧値に基づいて、蓄電池の内部抵抗の実測値を算出する内部抵抗値算出部と、時系列の前記実測値に基づいて、前記蓄電池の内部抵抗値を近似するための近似式の近似係数を算出する近似係数算出部と、前記近似係数を用いて、前記蓄電池の内部抵抗の近似値を算出する近似値算出部と、前記実測値と前記近似値とから当該実測値を評価するための評価値を算出する評価値算出部と、前記評価値に基づいて、前記蓄電池を診断するために使用する前記実測値を診断データとして抽出する診断データ抽出部と、前記蓄電池の劣化を判定する劣化判定部と、を備え、前記近似係数算出部は、前記診断データ抽出部によって抽出された前記診断データを用いて新たな近似係数を算出し、前記近似値算出部は、前記新たな近似係数を用いて、前記蓄電池の内部抵抗の新たな近似値を算出し、前記劣化判定部は、前記新たな近似値を用いて前記蓄電池の劣化を判定する。
【0122】
本発明の態様17に係る電池劣化判定方法は、蓄電池の電流値を計測する工程と、前記蓄電池の電圧値を計測する工程と、前記計測された電流値および前記計測された電圧値に基づいて、前記蓄電池の内部抵抗の実測値を算出する工程と、時系列の前記実測値に基づいて、前記蓄電池の内部抵抗値を近似するための近似式の近似係数を算出する工程と、前記近似係数を用いて、前記蓄電池の内部抵抗の近似値を算出する工程と、前記実測値と前記近似値とから当該実測値を評価するための評価値を算出する工程と、前記評価値に基づいて、前記蓄電池を診断するために使用する前記実測値を診断データとして抽出する工程と、抽出された前記診断データを用いて新たな近似係数を算出する工程と、前記新たな近似係数を用いて、前記蓄電池の内部抵抗の新たな近似値を算出する工程と、前記新たな近似値を用いて前記蓄電池の劣化を判定する工程と、を含む。
【0123】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0124】
1A,1B 電池劣化判定装置
2 蓄電池
3 電流計
4 電圧計
5 RTC
100A,100B 蓄電池システム
101 内部抵抗値算出部
102 近似値算出部
103A 差分値算出部(評価値算出部)
103B 誤差率算出部(評価値算出部)
104,104B 診断データ抽出部
105 近似係数算出部
106 運用時間計測部
107 停止時間計測部
108 充放電サイクル数計測部
109 劣化判定部
110,110B 診断可否判定部
111 記憶部