IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 日立パワーデバイスの特許一覧

<>
  • 特開-半導体装置 図1
  • 特開-半導体装置 図2
  • 特開-半導体装置 図3
  • 特開-半導体装置 図4
  • 特開-半導体装置 図5
  • 特開-半導体装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136199
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/48 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
H01L23/48 V
H01L23/48 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047230
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000233273
【氏名又は名称】ミネベアパワーデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石塚 典男
(72)【発明者】
【氏名】西森 独志
(72)【発明者】
【氏名】恩田 智弘
(57)【要約】
【課題】温度変化によって生じる熱応力を低減し、半導体チップのクラックの発生を抑制可能な半導体装置を提供する。
【解決手段】半導体装置は、半導体チップと、半導体チップの第1面に鉛フリーはんだにより接合される第1リードフレームと、半導体チップの第1面とは反対側の第2面に鉛フリーはんだにより接合される第2リードフレームと、を備えた半導体装置であって、第1リードフレーム及び第2リードフレームのそれぞれは、複数の材料が積層された積層材であり、半導体チップの形状は、正方形状であり、半導体チップのサイズをX、積層材の線膨張係数をYとした場合、「0<Y≦-0.63X+7.2」を満たす。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップと、前記半導体チップの第1面に鉛フリーはんだにより接合される第1リードフレームと、前記半導体チップの前記第1面とは反対側の第2面に鉛フリーはんだにより接合される第2リードフレームと、を備えた半導体装置であって、
前記第1リードフレーム及び前記第2リードフレームのそれぞれは、複数の材料が積層された積層材であり、
前記半導体チップの形状は、正方形状であり、
前記半導体チップのサイズをX、前記積層材の線膨張係数をYとした場合、以下の式(1)を満たす、半導体装置。
0<Y≦-0.63X+7.2 …(1)
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記鉛フリーはんだの固相線温度は、300℃以上である
半導体装置。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体装置において、
前記鉛フリーはんだは、SnAgCuSb系はんだである
半導体装置。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体装置において、
前記第1リードフレーム及び前記第2リードフレームのそれぞれは、インバーの表裏面に銅が積層された積層構造を有している
半導体装置。
【請求項5】
請求項4に記載の半導体装置において、
前記半導体チップの前記第1面には、ニッケル層が形成され、
前記ニッケル層と前記第1リードフレームとの間に前記鉛フリーはんだの層が形成されることにより、前記半導体チップの前記第1面と前記第1リードフレームとが接合され、
前記鉛フリーはんだの層は、その端部が前記ニッケル層の端部と一致するように形成されている
半導体装置。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体装置において、
前記半導体チップの厚みと、前記第1リードフレームの厚みと、前記第2リードフレームの厚みとは、同程度である
半導体装置。
【請求項7】
請求項6に記載の半導体装置において、
前記半導体チップのサイズは、1mm以上6mm以下である
半導体装置。
【請求項8】
請求項4に記載の半導体装置において、
前記インバーの厚みは、前記銅の厚みよりも厚い
半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
整流回路等に用いられる半導体装置は、自動車や産業機器等に広く用いられている。半導体装置は、半導体チップと、半導体チップにはんだにより接合されたリードフレームと、を備えている。半導体装置に温度変化が生じると半導体チップに熱応力が発生する。大きな熱応力が発生した場合には、半導体チップにクラックが生じる場合がある。したがって、半導体装置では、半導体チップのクラックの発生を抑制することが重要となる。
【0003】
特許文献1には、半導体装置に発生する熱応力を低減するために、半導体チップ(半導体素子)にはんだを介して接合される金属部材が、第1金属層と、第1金属層よりも線膨張係数の小さい第2金属層とを積層した構造とされた半導体装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2020/241238A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年は、環境負荷低減の観点から、半導体チップとリードフレームの接合には、鉛(Pb)を含まない鉛フリーはんだの使用が推進されている。しかしながら、鉛フリーはんだは、スズ(Sn)を主成分とするSn系はんだである。Sn系はんだは、Pb系はんだよりも高弾性であり脆い。このため、Sn系はんだを用いた半導体装置では、Pb系はんだを用いた半導体装置よりも半導体チップに発生する熱応力が高くなりやすい。さらに、半導体チップの上下両面にリードフレームが接合される両面実装構造の半導体装置では、温度変化時に半導体チップが上下面から拘束されるため、熱応力がより高くなりやすい。
【0006】
特許文献1は、半導体チップに接合される金属部材に、線膨張係数の異なる材料を積層することについて開示している。しかしながら、特許文献1には、半導体チップのサイズと線膨張係数との関係についての記載がなく、半導体チップのサイズによっては、半導体チップにクラックが生じるおそれがある。
【0007】
本発明は、鉛フリーはんだにより半導体チップとリードフレームとが接合される半導体装置であって、温度変化によって生じる熱応力を低減し、半導体チップのクラックの発生を抑制可能な半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による半導体装置は、半導体チップと、前記半導体チップの第1面に鉛フリーはんだにより接合される第1リードフレームと、前記半導体チップの前記第1面とは反対側の第2面に鉛フリーはんだにより接合される第2リードフレームと、を備えた半導体装置であって、前記第1リードフレーム及び前記第2リードフレームのそれぞれは、複数の材料が積層された積層材であり、前記半導体チップの形状は、正方形状であり、前記半導体チップのサイズをX、前記積層材の線膨張係数をYとした場合、「0<Y≦-0.63X+7.2」を満たす。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鉛フリーはんだにより半導体チップとリードフレームとが接合される半導体装置であって、温度変化によって生じる熱応力を低減し、半導体チップのクラックの発生を抑制可能な半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施形態に係る半導体装置の全体を示す断面模式図である。
図2図2は、本実施形態に係る封止樹脂が形成される前の半導体装置の断面模式図である。
図3図3は、リードフレームの構成を示す断面模式図である。
図4図4は、半導体装置の試験体にクラックが発生した状態を示す模式図である。
図5図5は、半導体チップに対する熱応力解析の結果を示す図である。
図6図6は、クラック発生限界応力が生じる半導体チップのサイズとリードフレームの線膨張係数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照して、本発明の実施形態に係る半導体装置1について説明する。図1は本実施形態に係る半導体装置1の全体を示す断面模式図である。図1に示すように、半導体装置1は、半導体チップ2と、半導体チップ2の上面(第1面)21に第1はんだ層4aにより接合される第1リードフレーム3aと、半導体チップ2の上面21とは反対側の下面(第2面)22に第2はんだ層4bにより接合される第2リードフレーム3bと、封止樹脂5と、を備える。第1リードフレーム3aと第2リードフレーム3bは、総称してリードフレーム3とも記す。第1はんだ層4aと第2はんだ層4bは、総称してはんだ層4とも記す。
【0012】
封止樹脂5は、第1リードフレーム3a、第1はんだ層4a、半導体チップ2、第2はんだ層4b、及び第2リードフレーム3bの積層部を封止する。封止樹脂5により、半導体チップ2が湿気及び衝撃から保護される。
【0013】
本実施形態に係る半導体装置1は、整流用のディスクリート半導体装置である。半導体チップ2は、上面21がアノード面、下面22がカソード面とされた整流ダイオードである。
【0014】
図2は、本実施形態に係る封止樹脂5が形成される前の半導体装置1の断面模式図である。図1では省略していたが、図2では半導体チップ2の上面21及び下面22に形成されるニッケル層7と、半導体チップ2の上面21に形成されるシリコン酸化膜6を示している。なお、ニッケル層7及びシリコン酸化膜6は、その膜厚を誇張して図示している。図2では、半導体チップ2を側方から見た断面を示しているが、平面視では、半導体チップ2の形状は、正方形状である。本実施形態に係る半導体チップ2は、厚さ0.25mmで2.2mm角の直方体形状である。
【0015】
はんだ層4は、鉛フリーはんだにより形成される。はんだ層4の厚みは50μmである。鉛フリーはんだとしては、Snを主成分とするSnAgCuSb系はんだを採用することが好ましい。Snはスズであり、Agは銀であり、Cuは銅であり、Sbはアンチモンである。
【0016】
半導体チップ2の上面21の外周は、シリコン酸化膜6によって覆われている。つまり、シリコン酸化膜6は、半導体チップ2の外縁に沿って、平面視矩形枠状に形成される。半導体チップ2の上面21における矩形枠状のシリコン酸化膜6の内側には、ニッケル層7が形成されている。なお、シリコン酸化膜6及びニッケル層7の厚みは、0.1μm~1.0μm程度であり、半導体チップ2の厚みに比べて非常に小さい。
【0017】
ニッケル層7は、溶融させた鉛フリーはんだ材(以下、溶融はんだとも記す)の濡れ性がシリコン酸化膜6に比べて良い。溶融はんだをニッケル層7に塗布すると、溶融はんだはニッケル層7の上面において、ニッケル層7の端部まで広がる。したがって、半導体チップ2の上面21のニッケル層7と第1リードフレーム3aとの間で固化されてなる第1はんだ層4aは、その端部がニッケル層7の端部と一致するように形成される。ニッケル層7と第1リードフレーム3aとの間に第1はんだ層4aが形成されることにより、半導体チップ2の上面21と第1リードフレーム3aとが接合される。
【0018】
なお、半導体チップ2の下面22の全体には、ニッケル層7が形成されている。したがって、第2はんだ層4bは、その端部が半導体チップ2の下面22のニッケル層7の端部、すなわち半導体チップ2の端部と一致するように形成される。ニッケル層7と第2リードフレーム3bとの間に第2はんだ層4bが形成されることにより、半導体チップ2の下面22と第2リードフレーム3bとが接合される。
【0019】
図1に示すように、半導体チップ2の厚みt0と、第1リードフレーム3aの厚みt1と、第2リードフレーム3bの厚みt2とは、同程度である。ここで、半導体チップ2及びリードフレーム3の厚みt0,t1,t2は、積層方向(図示上下方向)の長さのことを指す。本実施形態では、半導体チップ2及びリードフレーム3の厚みt0,t1,t2は、それぞれ0.25mmである。なお、本実施形態では、半導体チップ2とリードフレーム3の厚みを一致させているが、ある程度の差があってもよい。その場合、半導体チップ2とリードフレーム3の厚みの差は、半導体チップ2の厚みの20%以下とすることが好ましい。例えば、半導体チップ2が0.25mmの場合、リードフレーム3の厚みは0.25±0.05mmとすることが好ましい。
【0020】
半導体装置1は、製品として完成した後、プリント基板等にさらにはんだで接合される。以下、半導体チップ2とリードフレーム3との接合に用いるはんだを「1次はんだ」とも記す。また、半導体装置1とプリント基板等との接合に用いるはんだを「2次はんだ」とも記す。1次はんだは、その固相線温度が2次はんだの固相線温度よりも高いものである必要がある。
【0021】
2次はんだとしては、鉛フリーはんだが使用される。鉛フリーはんだは、従来のPb系はんだに比べて固相線温度が高く、リフロー温度も従来に比べて高くなる。例えば、2次はんだにSn-3.0mass%Ag-0.5mass%Cuはんだ(通称SAC305)を用いる場合、リフロー温度は250~260℃程度となる。このため、リフロー温度のばらつきなども考慮して、1次はんだ(はんだ層4)には、固相線温度が300℃以上のものを用いることが好ましい。1次はんだの固相線温度は、1次はんだに含有されるSb(アンチモン)の割合を増加させることにより、高めることができる。
【0022】
2次はんだのリフロー時(例えば、リフロー処理後の冷却時)、半導体装置1には温度変化が生じるため、熱応力が発生する。ここで、リードフレーム3が銅のみによって形成される場合、リードフレーム3の線膨張係数は、銅の線膨張係数である16ppm/℃となる。これに対して、半導体チップ2の線膨張係数は3ppm/℃である。このように、銅のみからなるリードフレーム3の線膨張係数と半導体チップ2の線膨張係数との差が大きいため、温度変化が生じたときに、半導体装置1に大きな熱応力が発生する。
【0023】
本実施形態では、図1において破線で模式的に示すように、リードフレーム3は、銅31,32とインバー30の積層材によって形成される。図3は、リードフレーム3の構成を示す断面模式図である。図3に示すように、具体的には、第1リードフレーム3a及び第2リードフレーム3bのそれぞれは、インバー30の表裏面に銅31,32が積層された3層構造を有している。インバー30は、34質量%以上且つ38質量%以下のニッケルを含む鉄-ニッケル合金である。インバー30の線膨張係数は、約1.2ppm/℃であり、銅31,32の線膨張係数よりも小さい。線膨張係数の小さいインバー30をリードフレーム3の構成要素として用いることにより、リードフレーム3の線膨張係数を半導体チップ2の線膨張係数に近づけることができる。
【0024】
リードフレーム3の厚みt1(t2)に対するインバー30の厚みtaの割合と銅31,32の厚みtb,tcの割合を調整することで、リードフレーム3の線膨張係数を調整することができる。ここで、インバー30及び銅31,32の厚みta,tb,tcは、積層方向(図示上下方向)の長さのことを指す。リードフレーム3の厚みt1(t2)に対するインバー30の厚みtaの割合を大きく(すなわち銅31,32の厚みtb,tcの割合を小さく)することで、リードフレーム3の線膨張係数を小さくできる。したがって、リードフレーム3を構成するインバー30の厚みtaは、銅31,32の厚みtb,tcよりも厚く形成することが好ましい(ta>tb,ta>tc)。なお、銅31の厚みtbは、銅32の厚みtcとほぼ等しい。
【0025】
本願発明者らは、300℃以上の固相線温度を有するSnAgCuSb系はんだを用いて半導体装置1の試験体を作製し、実験を行った。試験体のサイズは、上述した半導体装置1のサイズと同じである。この実験では、試験体を構成するリードフレーム3の試験片として、線膨張係数が3.8ppm/℃の第1試験片、線膨張係数が5.8ppm/℃の第2試験片、及び線膨張係数が7.5ppm/℃の第3試験片が使用された。第1~第3試験片は、いずれも銅/インバー/銅の積層構造であるが、銅31,32とインバー30の厚みが異なっている。試験片の厚みに対するインバー30の厚みの割合と銅31,32の厚みの割合を調整することで、試験片の線膨張係数を調整することができる。
【0026】
実験の結果、第1試験片を用いた試験体及び第2試験片を用いた試験体では、半導体チップ2にクラックが生じず、第3試験片を用いた試験体では、半導体チップ2にクラックが生じた。第3試験片を用いた試験体では、図4に示すように、半導体チップ2の上面21のニッケル層7の端部(第1はんだ層4aの端部)Peからクラック8が生じた。
【0027】
次に、本願発明者らは、第2試験片を用いた試験体と同じ構造、サイズの構造物(解析モデル)に対して、熱応力解析を実施した。なお、第2試験片を構成するインバー30の厚みは、銅31,32の厚みよりも厚い。銅31の厚みは、銅32の厚みとほぼ等しい。なお、SnAgCuSb系はんだは、弾塑性解析として扱った。
【0028】
図5は、半導体チップ2に対する熱応力解析の結果を示す図である。図5に示す熱応力解析結果から半導体チップ2には、ニッケル層7の端部(角部)、すなわち第1はんだ層4aの端部(角部)に相当する位置(Pe)において、最大主応力が発生し、その最大主応力が175MPaであることがわかった。第2試験片を用いた試験体では、実験においてクラックが発生しなかったため、熱応力解析により得られた最大主応力は、クラックが発生しない応力(以下、クラック発生限界応力)として定めることができる。つまり、上記実験結果(熱応力実験)及び上記数値解析(熱応力解析)により、クラック発生限界応力は175MPaと定められる。
【0029】
また、熱応力解析の結果、熱応力を主に支配する因子が、半導体チップ2のサイズとリードフレーム3の線膨張係数であることが判明した。そこで、半導体チップ2のサイズとリードフレーム3の線膨張係数を変数として熱応力解析を行い、半導体チップ2の位置(Pe)に発生する応力がクラック発生限界応力175MPaに達する半導体チップ2のサイズとリードフレーム3の線膨張係数との関係をプロットすると、図6に示す点Pa,Pb,Pc,Pdが得られた。図6は、クラック発生限界応力が生じる半導体チップ2のサイズとリードフレーム3の線膨張係数との関係を示すグラフである。横軸は半導体チップ2のサイズ[mm]を示し、縦軸はリードフレーム3の線膨張係数[ppm/℃]を示している。各点Pa,Pb,Pc,Pdを通る直線Lは、Y=-0.63X+7.2で表される。ここで、Xは半導体チップ2のサイズ[mm]であり、Yはリードフレーム3の線膨張係数[ppm/℃]である。
【0030】
グラフに示す直線Lの下側が半導体チップ2にクラックが発生しない領域となる。つまり、半導体チップ2のクラックの発生を防止するためには、以下の式(1)を満たしていればよい。
0<Y≦-0.63X+7.2 …(1)
なお、半導体チップ2のサイズXは、平面視正方形状の半導体チップ2の幅に相当する。
【0031】
以上のとおり、本願発明者らは、300℃以上の固相線温度を有した1次はんだにより、半導体チップ2と上下のリードフレーム3とが接合された構造において、2次はんだのリフロー処理後のクラック発生限界応力を、実験と解析により求め、熱応力の主要因となる半導体チップ2のサイズXとリードフレーム3の線膨張係数Yとの関係を式(1)により規定した。
【0032】
したがって、あるサイズ(例えば1mm以上6mm以下)の半導体チップ2を用いた半導体装置1を形成する場合、サイズを式(1)のXに代入して得られた値以下となる線膨張係数Yのリードフレーム3を用いることで、半導体チップ2のクラックの発生を防止可能な半導体装置1を作製することができる。
【0033】
上述した実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0034】
(A)半導体装置1は、半導体チップ2と、半導体チップ2の上面(第1面)21に鉛フリーはんだにより接合される第1リードフレーム3aと、半導体チップ2の上面21とは反対側の下面(第2面)22に鉛フリーはんだにより接合される第2リードフレーム3bと、を備えている。第1リードフレーム3a及び第2リードフレーム3bのそれぞれは、複数の材料(銅31,32及びインバー30)が積層された積層材である。半導体チップ2の形状は、正方形状である。半導体チップ2のサイズ(横幅)をX、上記積層材の線膨張係数をYとした場合、「0<Y≦-0.63X+7.2」を満たす。
【0035】
この構成によれば、鉛フリーはんだにより半導体チップ2とリードフレーム3とが接合される半導体装置1であって、温度変化によって生じる熱応力を低減し、半導体チップ2のクラックの発生を抑制可能な半導体装置1を提供することができる。また、接合材として鉛フリーはんだが用いられているため、環境にも優しい信頼性の高い半導体装置1を提供することができる。
【0036】
(B)鉛フリーはんだ(はんだ層4)の固相線温度は、300℃以上である。この構成によれば、半導体装置1をプリント基板等に実装する際の2次はんだのリフロー処理の際に、1次はんだとしてのはんだ層4が溶融してしまうことを防止できる。
【0037】
(C)鉛フリーはんだ(はんだ層4)は、SnAgCuSb系はんだである。この構成によれば、1次はんだ(はんだ層4)の固相線温度を2次はんだとして一般に用いられるSnAgCu系はんだの固相線温度よりも高くすることができる。
【0038】
(D)第1リードフレーム3a及び第2リードフレーム3bのそれぞれは、インバー30の表裏面に銅31,32が積層された積層構造を有している。線膨張係数の低いインバー30をリードフレーム3の構成部材として用いることで、リードフレーム3の線膨張係数を銅のみから形成されるリードフレームに比べて小さくできる。すなわち、リードフレーム3の線膨張係数を半導体チップ2の線膨張係数に近づけることができる。半導体チップ2とリードフレーム3の線膨張係数の差を小さくすることができるので、温度変化が生じたときに発生する熱応力を低減することができる。
【0039】
(E)半導体チップ2の上面21には、ニッケル層7が形成されている。ニッケル層7と第1リードフレーム3aとの間に鉛フリーはんだの層(第1はんだ層4a)が形成されることにより、半導体チップ2の上面21と第1リードフレーム3aとが接合される。鉛フリーはんだの層(第1はんだ層4a)は、その端部がニッケル層7の端部と一致するように形成されている。この構成によれば、ニッケル層7の端部まで第1はんだ層4aが設けられない形態に比べて、半導体チップ2と第1リードフレーム3aとの接合強度を向上できる。同様に、半導体チップ2の下面22には、ニッケル層7が形成されている。ニッケル層7と第2リードフレーム3bとの間に鉛フリーはんだの層(第2はんだ層4b)が形成されることにより、半導体チップ2の下面22と第2リードフレーム3bとが接合される。鉛フリーはんだの層(第2はんだ層4b)は、その端部がニッケル層7の端部と一致するように形成されている。この構成によれば、ニッケル層7の端部まで第2はんだ層4bが設けられない形態に比べて、半導体チップ2と第2リードフレーム3bとの接合強度を向上できる。
【0040】
(F)半導体チップ2の厚みt0と、第1リードフレーム3aの厚みt1と、第2リードフレーム3bの厚みt2とは、同程度である。半導体装置1を構成する各部材の厚みt0,t1,t2を均一にすることで、製造性を向上することができる。
【0041】
(G)半導体チップ2のサイズXは、1mm以上6mm以下である。この構成によれば、半導体チップ2のクラックの発生を抑制可能なダイオードなどのコンパクトなディスクリート半導体装置を提供することができる。
【0042】
(H)インバー30は、その厚みtaが銅31,32の厚みtb,tcのそれぞれよりも厚くなるように形成することが好ましい。なお、銅31及び銅32は、互いの厚みtb,tcが等しくなるように形成される。この構成によれば、リードフレーム3の線膨張係数を適切に半導体チップ2の線膨張係数に近づけることができる。
【0043】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0044】
<変形例1>
上記実施形態では、半導体チップ2の厚みt0とリードフレーム3の厚みt1,t2が、ほぼ同等である例について説明したが、本発明はこれに限定されない。しかしながら、半導体チップ2の厚みt0に対してリードフレーム3の厚みt1,t2が数倍以上になる場合には、半導体チップ2のサイズ(幅)だけでなく、半導体チップ2の厚みt0も発生応力に影響してくる。このため、リードフレーム3の厚みt1,t2は、半導体チップ2の厚みt0の2倍未満とすることが好ましい。
【0045】
<変形例2>
上記実施形態では、半導体装置1が整流用のディスクリート半導体装置である例について説明したが、本発明はこれに限定されない。半導体装置1は、トランジスタ、イメージセンサ等のディスクリート半導体装置であってもよい。
【0046】
<変形例3>
上記実施形態では、リードフレーム3が銅/インバー/銅の3層構造とされている例について説明したが、本発明はこれに限定されない。リードフレーム3の厚みが厚い場合には、銅/インバー/銅/インバー/銅などの5層以上の積層構造としてもよい。
【0047】
<変形例4>
上述のインバー30に代えて、30質量%以上且つ34質量%以下のニッケルに加えてさらにコバルトを含む鉄-ニッケル-コバルト合金であるスーパーインバーを採用してもよい。リードフレーム3の銅31,32によって挟まれる金属は、銅31,32よりも線膨張係数が小さい金属であればよい。つまり、第1リードフレーム3a及び第2リードフレーム3bのそれぞれは、複数の材料が積層された積層材であればよい。リードフレーム3の銅31,32によって挟まれる金属は、例えばモリブデンであってもよいが、モリブデンはインバー30に比べて高価である。このため、半導体装置1の低コスト化の観点からは、リードフレーム3の構成要素としてはインバー30を採用することが好ましい。
【0048】
<変形例5>
上記実施形態では、ニッケル層7の端部とはんだ層4の端部とが一致している例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ニッケル層7の外周部とシリコン酸化膜6に樹脂層などを設けた場合、溶融はんだはニッケル層7の端部まで到達することができない。このため、はんだ層4の端部は、ニッケル層7の端部よりも半導体装置1の中心側に位置することになる。
【0049】
<変形例6>
上記実施形態では、鉛フリーはんだ(はんだ層4)の固相線温度が、300℃以上である例について説明したが、本発明はこれに限定されない。はんだ層4の固相線温度は、半導体装置1が製品として完成した後の温度変化による最高温度よりも高ければよい。例えば、はんだ層4の固相線温度は、280℃や290℃であってもよい。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。上述した実施形態は本発明をわかりやすく説明するために詳細を述べたものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施形態の構成の一部について、本発明の趣旨を損なわない範囲で追加、削除、置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1…半導体装置、2…半導体チップ、3…リードフレーム、3a…第1リードフレーム、3b…第2リードフレーム、4…はんだ層、4a…第1はんだ層、4b…第2はんだ層、5…封止樹脂、6…シリコン酸化膜、7…ニッケル層、21…上面(第1面)、22…下面(第2面)
図1
図2
図3
図4
図5
図6