(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136200
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】熱拡散デバイス及びその利用
(51)【国際特許分類】
H01L 29/66 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
H01L29/66 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047231
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】舟山 啓太
(72)【発明者】
【氏名】三浦 篤志
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏哉
(57)【要約】 (修正有)
【課題】二次元構造体を用いた二次元での熱拡散制御を実現する熱拡散デバイス及び方法を提供する。
【解決手段】トポロジカルエッジ状態を発現する熱拡散デバイスは、熱拡散方向を設定することができ、六員環単位が二次元的に周期的に配列された二次元構造体20を有し、トポロジカルエッジ状態を発現する。二次元構造体20は、トポロジカル領域22とトリビアル領域24とが接する境界26を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
六員環単位が二次元的に周期的に配列された二次元構造体であって、トポロジカルエッジ状態を発現する、熱拡散デバイス。
【請求項2】
前記二次元構造体は、トポロジカル状態の六員環単位とトリビアル状態の六員環単位とが隣接する境界を備える、請求項1に記載の熱拡散デバイス。
【請求項3】
前記二次元構造体は、6個の頂点要素と、前記6個の頂点要素を連結して六員環を形成する6個の環形成要素を備える前記六員環単位と、隣接する六員環単位を結合する前記6個の頂点要素から前記六員環の外側に突出する少なくとも1個の相互連結要素と、を備える、請求項1に記載の熱拡散デバイス。
【請求項4】
前記6個の環形成要素の熱拡散率である第1の熱拡散率が前記少なくとも1個の相互連結要素の熱拡散率である第2の熱拡散率より大きい前記六員環単位が周期的に配列された第1の領域と、前記1の熱拡散率が前記第2の熱拡散率より小さい前記六員環単位が周期的に配列された第2の領域と、が隣接する境界を備える、請求項3に記載の熱拡散デバイス。
【請求項5】
前記六員環単位は、1辺が1cm以上8cm以下であり、厚みが0.5mm以上2cm以下であり、前記第1の熱拡散率及び前記第2の熱拡散率は、0.1m2/s以上10.0m2/s以下である、請求項4に記載の熱拡散デバイス。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の熱拡散デバイスを用いて、熱の拡散方向を制御する方法。
【請求項7】
六員環単位が二次元的に周期的に配列された二次元構造体を準備すること、及び
前記二次元構造体に対して、熱拡散方程式に基づいて、エッジ状態を発現する温度分布を形成するように熱を入力すること、
を備え、
エッジ状態は、前記二次元構造体において発現される第1のモード及び第2のモードのエッジ状態のいずれか又はこれらの組合せである、二次元構造体における熱の拡散方向の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、熱拡散デバイス及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
熱拡散に関して、例えば、トポロジカルエッジ状態を用いることで、一次元での熱の拡散速度を制御できることが報告されている(非特許文献1)。熱拡散は、粒子のブラウン運動による現象のため、通常は、その拡散方向を設計することはできない。この文献では、トポロジカル状態が異なる熱格子接する境界領域(ウォール)を備える構造体を形成し、この境界領域において、トポロジカルエッジ状態が発生すること、及び、この境界領域から熱が拡散することを実験的に報告した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Haoら、Advanced Materials、2022,34,2202257
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、熱拡散の方向制御は未だ実現されていない。
【0005】
本明細書は、二次元構造体を用いた二次元での熱拡散制御を実現する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、二次元的に周期的に配置して二次元平面を構築できる六員環素子に着目した。その上で、六員環素子を周期的に備える二次元構造体においてトポロジカルエッジ状態(以下、単に、エッジ状態ともいう。)を発現させることで、このエッジ状態を利用して二次元での熱の拡散方向制御が可能であることを見出した。本明細書によれば、以下の手段が提供される。
【0007】
[1]六員環単位が二次元的に周期的に配列された二次元構造体であって、トポロジカルエッジ状態を発現する、熱拡散デバイス。
[2]前記二次元構造体は、トポロジカル状態の六員環単位とトリビアル状態の六員環単位とが接する境界を備える、[1]に記載の熱拡散デバイス。
[3]前記二次元構造体は、6個の頂点要素と、前記6個の頂点要素を連結して六員環を形成する6個の環形成要素を備える前記六員環単位と、隣接する六員環単位を結合する前記6個の頂点要素から前記六員環の外側に突出する少なくとも1個の相互連結要素と、を備える、[1]又は[2]に記載の熱拡散デバイス。
[4]前記6個の環形成要素の熱拡散率である第1の熱拡散率が前記少なくとも1個の相互連結要素の熱拡散率である第2の熱拡散率より大きい前記六員環単位が周期的に配列された第1の領域と、前記1の熱拡散率が前記第2の熱拡散率より小さい前記六員環単位が周期的に配列された第2の領域と、が接する境界を備える、[1]~[3]のいずれかに記載の熱拡散デバイス。
[5]前記六員環単位は、1辺が1cm以上8cm以下であり、厚みが0.5mm以上2cm以下であり、前記第1の熱拡散率及び前記第2の熱拡散率は、0.1m2/s以上10.0m2/s以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の熱拡散デバイス。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の熱拡散デバイスを用いて、熱の拡散方向を制御する方法。
[7]六員環単位が二次元的に周期的に配列された二次元構造体を準備すること、及び
前記二次元構造体に対して、熱拡散方程式に基づいて、エッジ状態を発現する温度分布を形成するように熱を入力すること、
を備え、
エッジ状態は、前記二次元構造体において発現される第1のモード及び第2のモードのエッジ状態のいずれか又はこれらの組合せである、二次元構造体における熱の拡散方向の制御方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本明細書に開示される二次元構造体の基本構成単位と、六員環単位の6個の頂点要素における温度T1~T6についての熱拡散方程式を行列式で表す図である。行列式の内容は、ハミルトニアン行列(H)である。
【
図2】
図1に示す基本構成単位に関する行列式から常数λを導く固有方程式に関して、変数k(波数)とλとの関係を示すバンド図を示す図であり、D1<D2の状態(トポロジカル状態)におけるバンド図(a)と、D1>D2の状態(トリビアル状態)におけるバンド図(b)と、1つのλから導き出されるT1~T6の温度分布を視覚化した図(c)を示す。
【
図3】トポロジカル状態の10個の基本構成単位が直列に連結された構造からなるトポロジカル領域と、トリビアル状態の10個の基本構成単位が直列に連結された構造からなるトリビアル領域と、が連結された二次元構造体におけるバンド図を示す。
【
図4】
図3に示すバンド図におけるトポロジカル絶縁体のトポロジカルエッジ状態と称される状態の解としてのλを矢印で示す図(a)と、λに相当する2つのプロットに内包される第1のモード及び第2のモードの各エッジ状態における温度分布を可視化した図(b)とを示す。
【
図5】第1のモード及び第2のモードの各エッジ状態を発現させた二次元構造体の境界領域近傍の熱拡散方向及び量をそれぞれ示す図(a)及び図(b)である。
【
図6】第1のモードと第2のモードとを重ねたエッジ状態を発現させた二次元構造体の境界領域近傍の熱拡散方向及び量をそれぞれ示す図(a)及び図(b)である。
【
図7】シミュレーションに用いた二次元構造体の基本構成単位を示す図である。
【
図8】シミュレーションに用いた二次元構造体を示す図である。
【
図9】シミュレーション用二次元構造体に、第1のモードのエッジ状態を発現するように温度分布を付与したときの熱の拡散の経時的変化を示す図(a)及び、第2のモードのエッジ状態を発現するように温度分布を付与したときの熱の拡散の経時的変化を示す図(b)と、である。
【
図10】シミュレーション用二次元構造体に、第1のモードと第2のモードとを重ねたエッジ状態を発現するように温度分布を付与したときの熱の拡散の経時的変化を示す図(a)、及び、反転した第1のモードと第2のモードを重ねたエッジ状態を発現するように温度分布を付与したときの熱の拡散の経時的変化を示す図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書に開示される熱拡散デバイスによれば、デバイスにおいてエッジ状態が発現されることで、熱拡散制御が可能である。熱拡散デバイスがエッジ状態で発現する温度分布は、熱拡散方程式によって取得できる。熱拡散デバイスに対してエッジ状態において発現される温度分布を与えるように外部から熱を入力することで、エッジ状態が発現する。エッジ状態が発現すると、その温度分布に応じて熱が拡散される。
【0010】
六員環単位が二次元的に周期的に配置された二次元構造体において、エッジ状態は、例えば、六員環単位内外での熱拡散率がそれぞれ異なる六員環単位からなる領域同士の境界で形成される。エッジ状態を用いて熱の拡散する方向を制御するにあたり、六員環単位を周期的に配列した二次元構造体を用いることで、このような二次元的な熱拡散制御ができることは全く予想できないものであった。
【0011】
以下、本明細書に開示される熱拡散デバイスについて、適宜図面を参照しつつ詳細に説明する。まず、新たに構築した二次元構造体及びこの二次元構造体に所定の温度分布を形成するように熱を入力することで、熱拡散を制御できることを理論的に説明する。
【0012】
(二次元構造体)
本明細書に開示される熱拡散デバイスを構成する二次元構造体は、六員環単位が周期的に配列されて形成されている。すなわち、六員環単位を基本単位としてこれらが連結されて配列された二次元構造を有している。
【0013】
図1には、六員環単位10を示す。
図1に示すように、六員環単位10は、6個の頂点要素A1~A6と、頂点要素A1~A6を連結する環形成要素B1~B6と、を備える。さらに、こうした六員環単位10には、その頂点要素A1~A6のそれぞれから環外方に向かって、例えば、隣接する他の六員環単位10と連結するための相互連結要素C1~C6を備えている。二次元構造体は、六員環単位10と、相互連結要素C1~C6とを備える単位を、その基本構成単位12として備えている。なお、二次元構造体2における基本構成単位12は、6個の頂点要素A1~A6の全てに対して相互連結要素C1~C6を備えていなくてもよい。例えば、後述する二次元構造体20の端縁等においては、相互連結要素の一部を備えていない場合もある。
【0014】
六員環単位10は、正六角形であってもよいし、そうでなくてもよい。基本構成単位12を構成する頂点要素A1~A6、環形成要素B1~B6、相互連結要素C1~C6は、それぞれ、異なる材料で形成されていてもよいし、同一ないし同種の材料で形成されていてもよい。また、これらの要素が有する3次元構造は、同一であっても異なっていてもよい。典型的には、基本構成単位12における頂点要素A1~A6、環形成要素B1~B6、相互連結要素C1~C6は、全体として正六角形の六員環単位10を構成し、同一材料で構成され、頂点要素A1~A6、環形成要素B1~B6、相互連結要素C1~C6は、それぞれ同種の要素同士、同一形状を備えている。
【0015】
基本構成単位12を構成する頂点要素A1~A6、環形成要素B1~B6、相互連結要素C1~C6は、それぞれ、異なる材料で形成されていてもよいし、同一ないし同種の材料で形成されていてもよい。また、これらの要素が有する、3次元形状、中実性、多孔質性を含む3次元構造は、同一であっても異なっていてもよい。基本構成単位12を構成する材料は、熱拡散デバイスに用いられる固体材料を適宜用いることができる。材料は、典型的には、金属、セラミックス等であり、これらをマトリックス又は熱拡散性相として備える複合材料であってもよい。
【0016】
基本構成単位12の頂点要素A1~A6、環形成要素B1~B6、相互連結要素C1~C6は、その材料、三次元形状等に基づき、それぞれ、固有の熱拡散率を備えることができる。以下の説明では、
図1に示す基本構成単位12において、環形成要素B1~B6の熱拡散率を第1の熱拡散率D1とし、頂点要素A1~A6も、第1の熱拡散率D1を有するものとし、相互連結要素C1~C6の熱拡散率を第2の熱拡散率D2を有するものとする。
【0017】
こうした基本構成単位12の頂点要素A1~A6のそれぞれにおける温度T1~T6は、熱拡散方程式によって、
図1に併せて示す行列式で表すことができる。なお、D1、D2は、定数とする。
【0018】
図1中、頂点要素A1における温度T1は、式(1)で表される。そして、T1~T6について、全てについて記載すると、行列式である式(2)で表される。なお、熱拡散方程式自体は、当業者において周知であり、また、行列式に含まれる内容は、ハミルトニアン行列(H)と称され、
図1中の式(3)で表すことができる。
【0019】
式(3)で表されるとき、式(3)が成り立つ定数λを導く固有方程式に変換が可能であり、定数λが取りうる解の個数は、求める温度の数、ここでは、T1~T6の6個の数だけ存在する。
【0020】
さらに、式(1)及び式(2)中には、変数κ(波数とも称される。)を含んでいる。変数κの値が決まる毎に、6個のλが解として算出される。
【0021】
図2(a)及び
図2(b)のバンド図は、式(1)~(3)から導いた、変数κと6個の解λとの関係を示す。
図2(a)には、基本構成単位12における、六員環内の環形成要素の熱拡散率である第1の熱拡散率D1<六員環外の相互連結要素の熱拡散率である第2の熱拡散率D2のとき(以下、このような熱拡散率の相互関係の状態をトポロジカル状態ともいう。)のバンド図の一例(D1=0.6m
2/s、D2=0.85m
2/s)を示し、
図2(b)には、第1の熱拡散率D1>第2の熱拡散率D2のとき(以下、このような熱拡散率の相互関係の状態をトリビアル状態ともいう。)のバンド図の一例(D1=0.765m
2/s、D2=0.518m
2/s)を示す。
【0022】
図2(a)及び
図2(b)に示すように、第1の熱拡散率D1、第2の熱拡散率D2との関係を逆転させることで、異なるバンド図を得ることができる。また、
図2(a)及び
図2(b)に示すように、変数κが決まると、6個の定数λ[1]~[6]が決まることがわかる。さらに、1つの定数λが決まると、頂点要素A1~A6の温度T1~T6が決まる。
【0023】
例えば、
図2(c)に、
図2(a)のバンド図において、1つの定数λ(ここでは、λ[2])に基づいて決まる、T1~T6の温度分布を視覚化した図を示す。すなわち、トポロジカル状態の基本構成単位12にあっては、頂点要素A1~A6につき、温度T1~T6の温度分布を備えることがあることがわかる。
【0024】
図3の左側には、上記で説明した基本構成単位12を周期的に配列した二次元構造体20の部分構造の一例を示す。以下の理論的解析に用いる二次元構造体20は、
図3の左側に示す線状構造を互いに隣接するように無限に備えている。二次元構造体20の線状構造は、トポロジカル状態の基本構成単位12を10個直列に連結したトポロジカル領域22と、トリビアル状態の基本構成単位12を10個直列に連結したトリビアル領域24と、を備えている。すなわち、二次元構造体20は、トポロジカル領域22と、トリビアル領域24と、これらの境界26と、を備えている。境界26を介して基本構成単位12が隣接する領域を境界近傍領域28である。また、この線状構造は、全体として、20個の基本構成単位12を有して、合計120個の頂点要素A1~A120を備えている。
【0025】
かかる二次元構造体20のバンド図を、
図3の右側に示す。このバンド図は、基本構成単位12の場合と同様に、式(1)~(3)を用いて固有方程式に変換し、変数をkとすると導くことができる。このバンド図に示される個々のプロットが、それぞれ頂点要素A1~A120についての温度T1~T120からなる温度分布情報を内包している。
【0026】
図4(a)に示すように、このバンド図には、トポロジカル絶縁体特有のエッジモード(Topologically protected edge modes)のディラック点に相当する2つの解λ(2つのプロット)が見出される。
【0027】
これら2つのプロットに内包されるそれぞれの二次元構造体20のT1~T20の温度からなる温度分布情報を可視化したものを
図4(b)に示す。
図4(b)左側に示す温度分布を備えるエッジ状態を第1のモードという。また、
図4(b)の右側に示す温度分布を備えるエッジ状態を第2のモードという。
【0028】
図4(b)から明らかなように、各エッジ状態をそれぞれ備える二次元構造体20は、境界26を挟む境界近傍領域28において、大きい温度差を伴う温度分布を備えていることがわかる。
【0029】
図5には、既述の熱拡散方程式を用いて、第1のモード及び第2のモードの温度分布をそれぞれ備える二次元構造体20が、次の瞬間(例えば、1秒後等)に、熱がどの方向にどの程度移動するかを理論的に予測した結果を示す。
【0030】
図5(a)及び
図5(b)には、熱拡散方程式による予測結果に基づいて、第1のモード及び第2のモードをそれぞれ備える二次元構造体20の境界近傍領域28の24個の個々の頂点要素における熱の移動方向と移動量とを、矢印の方向と太さで示す。
【0031】
図5(a)に示すように、第1のモードを備える二次元構造体20の境界近傍領域28では、熱が図中右方向から左方向に移動することが予測された。また、
図5(b)に示すように、第2のモードを備える二次元構造体20の境界近傍領域28では、熱が図中下方から上方に移動することが予測された。
【0032】
さらに、熱拡散方程式を用いて、第1のモードと第2のモードとを、重ね合わせて、それぞれのモードを同時に発現させることを意図した温度分布を二次元構造体20に付与したとき、境界近傍領域28における熱の移動量及び移動方向を予測した。結果を、
図6に示す。
【0033】
図6(a)には、第1のモードと第2のモードとを1:1で重ねた温度分布を付与したとき、二次元構造体20の境界近傍領域28の24個の個々の頂点要素における熱の移動方向と移動量を、矢印の方向と太さで示す。
図6(a)に示すように、(第1のモード+第2のモード)を備える二次元構造体20の境界近傍領域28では、第1のモードの発現によって熱が図中右から左に移動し、第2のモードの発現によって、熱が図中下方から上方に移動して、結果として、図中右下方から左上方への移動が予測された。
【0034】
図6(b)には、第1のモードを反転させたモードと第2のモードとを、1:1で重ねた温度分布を付与したとき、二次元構造体20の境界近傍領域28の24個の個々の頂点要素における熱の移動方向と移動量を、矢印の方向と太さで示す。
図6(b)に示すように、(反転第1のモード+第2のモード)を備える二次元構造体20の境界近傍領域28では、第1のモードの発現によって熱が図中左から右に移動し、第2のモードの発現によって、熱が図中下方から上方に移動して、結果として、図中左下方から右上方への移動が予測された。
【0035】
以上説明した、二次元構造体20における理論的手法に基づく結果から、六員環単位を周期的に所定の態様で配列した二次構造体20の境界近傍領域28に、熱拡散方程式に基づいて所定の温度分布を与えることで、固有のモードのエッジ状態を発現させ、それにより、意図した熱の拡散方向を付与できることが理解される。すなわち、熱拡散制御が可能であることが理解された。
【0036】
また、第1のモードと第2のモードとを重ね合わせた温度分布を付与したとき、第1のモードと第2のモードとがそれぞれ互いに干渉することなく発現されることがわかった。こうした第1のモードと第2のモードとを組み合わせることで、任意の方向性で熱の拡散方向を制御できることが理解された。
【0037】
次に、以上説明した理論予測を実証するために、有限の二次元構造体において、有限要素法を用いた熱拡散の数値シミュレーションを行った。このシミュレーションに用いた構造体の概要を
図7及び
図8に示す。
【0038】
図7には、シミュレーション用構造体の基本構成単位32を示す。頂点要素A1~A6は、直径(d)2cm、高さ(t)1cmの円柱であり、頂点要素A1~A6は、幅(W)0.2cm、高さ(t)1cmで、長さ3.5cmの壁体(相互連結要素ないし環形成要素)で連結した。なお、頂点要素の中心間距離(a)は5.5cmとした。材料をアルミニウム(Al)とした。
【0039】
また、トポロジカル状態の基本構成単位32の環形成要素及び相互連結要素の熱拡散率であるD1及びD2は、それぞれ、0.6m2/s及び0.85m2/sとし、トリビアル状態の基本構成単位32の連結要素(壁体)のD1及びD2は、それぞれ、0.765m2/s及び0.518m2/sとした。
【0040】
図8には、シミュレーションに用いる基本構成単位32を周期的に備える二次元構造体40を示す。この二次元構造体40は、基本構成単位32が周期的に接続された平行四辺形の二次元構造体である。二次元構造体40は、その中央に境界42を備えている。境界42に沿って下方にトポロジカル状態の基本構成単位32を備えている。また、二次元構造体40は、境界42に沿って上方にトリビアル状態の基本構成単位32を備えている。境界42を挟んで、上下2列でトポロジカル状態及びトリビアル状態の基本構成単位を備える領域は、境界近傍領域44を形成している。
【0041】
以下のシミュレーションでは、この境界近傍領域44の中央部分を含む領域46を、外部から温度分布を付与する領域とする。この領域46を構成する頂点要素(円柱体)のそれぞれに、熱拡散方程式に基づいて取得した第1のモード、第2のモード、及びこれらを組み合わせた複合モードの温度分布を付与した。
【0042】
シミュレーションの結果を
図9~
図10に示す。なお、既述の先行技術文献からも明らかなように、有限要素法に基づくシミュレーションが、実験的手法と同様の実現性を有していることは当業者において明らかである。
【0043】
図9(a)には、二次元構造体40の領域46に第1のモードの温度分布(エッジ状態)を発現するように熱を付与した。この結果、二次元構造体40における領域46の各頂点要素に入力された熱は、時間経過とともに、図中右側から左側へ(右側がより低温、左側がより高温となるように)と拡散した。この熱の拡散は、
図5(a)に示す理論的解析結果と一致した。
【0044】
また、
図9(b)には、二次元構造体40の領域46に第2のモードの温度分布(エッジ状態)を発現する熱を付与した。この結果、二次元構造体40における領域46の各頂点要素に入力された熱は、時間経過とともに、図中下方から上方に(下方がより低温、上方がより高温となるように)拡散した。この熱の拡散は、
図5(b)に示す理論的解析結果と一致した。
【0045】
図10(a)には、二次元構造体40の領域46に、第1のモードと第2のモードとを、例えば、1:1で重ねた温度分布(エッジ状態)を発現するように熱を付与した。この結果、二次元構造体40における領域46の各頂点要素に入力された熱は、時間経過とともに、図中右方向と上方向とに同時に拡散した。この熱の拡散は、
図6(a)に示す理論的解析結果と一致した。
【0046】
また、
図10(b)には、二次元構造体40の領域46に、反転させた第1のモードと第2のモードとを、例えば、1:1で重ねた温度分布(エッジ状態)を発現するように熱を付与した。この結果、二次元構造体40における領域46の各頂点要素(円柱)に入力された熱は、時間経過とともに、図中左方向と上方向とに同時に拡散した。この熱の拡散は、
図6(b)に示す理論的解析結果と一致した。
【0047】
以上のとおり、二次元構造体40についての有限要素法によるシミュレーションによっても、熱拡散方程式に基づく論理的解析結果を再現できることがわかった。
【0048】
以上のことから、所定の構造を備える二次元構造体を設計し、熱拡散方程式に基づいて、第1のモード及び第2のモードのエッジ状態を発現する温度分布を取得し、こうした温度分布を付与するように二次元構造体に熱を入力することで、二次元構造体における熱の拡散方向を制御できることがわかった。
【0049】
すなわち、以上の説明から、本明細書には、二次元構造体における熱の拡散方向の制御方法も提供される。この方法は、六員環単位が二次元的に周期的に配列された二次元構造体を準備すること、及び前記二次元構造体に対して、熱拡散方程式に基づいて、エッジ状態を発現する温度分布を形成するように熱を入力すること、を備え、エッジ状態は、前記二次元構造体において発現される第1のモード及び第2のモードのエッジ状態のいずれか又はこれらの組合せとすることができる。
【0050】
以上説明した二次元構造体は、
図7及び
図8において特定される基本構成単位及び二次元構造体のほか、種々の形態を採ることができる。すなわち、二次元構造体における基本構成単位のサイズ、形態、熱拡散率、材料などの設計は、いずれも、必要に応じて適宜設定される。また、こうした二次元構造体に付与すべき温度分布は、熱拡散方程式を含めた理論的手法により取得できる。
【0051】
例えば、基本構成単位における頂点要素等は、特に限定するものではないが、例えば、直径を、0.5cm以上3cm以下などとすることができる。また、六員環単位の頂点要素の中心間距離は、特に限定するものではないが、例えば、1辺が2cm以上8cm以下などとすることができる。さらに、特に限定するものではないが、特に限定するものではないが、例えば、厚みが0.5mm以上2cm以下などとすることができる。環形成要素等の厚みは、特に限定するものではないが、例えば、0.1cm以上1cm以下などとすることができる。
【0052】
さらに、第1の熱拡散率D1及び第2の熱拡散率D2は、特に限定するものではないが、例えば、0.1m2/s以上10.0m2/s以下などとすることができる。頂点要素の熱拡散率は、特に限定するものではないが、例えば、0.1m2/s以上10.0m2/s以下などとすることができる。
【0053】
以上、本明細書が開示する技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書、又は、図面に説明した技術要素は、単独で、あるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。本明細書又は図面に例示した技術は、複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。