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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136204
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】筒型防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 1/387 20060101AFI20240927BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
F16F1/387 C
F16F15/08 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047237
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】川井 基寛
【テーマコード(参考)】
3J048
3J059
【Fターム(参考)】
3J048AA01
3J048BA19
3J048CB22
3J048EA01
3J048EA08
3J059AA08
3J059BA42
3J059BB01
3J059BC06
3J059BD09
3J059DA22
3J059GA07
3J059GA28
(57)【要約】
【課題】高周波域での防振性能の向上を実現することができる、新規な構造の筒型防振装置を提供する。
【解決手段】インナ軸部材12とアウタ筒部材14とが本体ゴム弾性体16によって連結された筒型防振装置10であって、本体ゴム弾性体16はインナ軸部材12からアウタ筒部材14へ向けて延びてインナ軸部材12とアウタ筒部材14とを相互に連結する複数のゴム脚22を有しており、複数のゴム脚22が他のゴム脚とは異なる軸方向長さとされることで他のゴム脚とは固有振動数を異ならされた調節ゴム脚を含んでいる。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材とアウタ筒部材とが本体ゴム弾性体によって連結された筒型防振装置であって、
前記本体ゴム弾性体は、前記インナ軸部材から前記アウタ筒部材へ向けて延びて該インナ軸部材と該アウタ筒部材とを相互に連結する複数のゴム脚を有しており、
該複数のゴム脚が、他の該ゴム脚とは異なる軸方向長さとされることで該他のゴム脚とは固有振動数を異ならされた調節ゴム脚を含んでいる筒型防振装置。
【請求項2】
前記調節ゴム脚は、前記他のゴム脚に対して前記アウタ筒部材の径方向と直交する断面の面積が互いに異なっている請求項1に記載の筒型防振装置。
【請求項3】
前記調節ゴム脚と前記他のゴム脚とでは、前記アウタ筒部材の径方向に直交する断面の形状の相対差に比して、該アウタ筒部材の軸方向に直交する断面の形状の相対差が小さくされている請求項1又は2に記載の筒型防振装置。
【請求項4】
主たる荷重の入力方向となる径方向を対称軸として、互いに固有振動数が異ならされた前記調節ゴム脚と前記他のゴム脚とが軸対称に配置されている請求項1又は2に記載の筒型防振装置。
【請求項5】
少なくとも3つの前記調節ゴム脚が設けられている請求項1又は2に記載の筒型防振装置。
【請求項6】
前記複数のゴム脚の全てが前記調節ゴム脚とされており、それら調節ゴム脚が何れも前記他のゴム脚の何れとも固有振動数を異ならされている請求項1又は2に記載の筒型防振装置。
【請求項7】
主たる入力による前記インナ軸部材の変位方向を周方向に外れた両側に径方向に延びる前記ゴム脚が設けられており、
それらゴム脚の周方向間には、該インナ軸部材と前記アウタ筒部材の間を軸方向に貫通して延びるすぐり孔が形成されている請求項1又は2に記載の筒型防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンマウントやモータマウント等に適用される筒型防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンマウントやモータマウント等に用いられる防振装置の一種として、筒型防振装置が知られている。筒型防振装置は、例えば特開2015-025472号公報(特許文献1)に示されているように、インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体で連結された構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-025472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、昨今では、自動車の静粛性の向上等によって、以前は問題になり難かった100Hz以上の高周波域の振動が問題視されている。しかしながら、従来の筒型防振装置では、高周波域において防振性能の低下が生じており、高周波域での更なる防振性能が求められていた。
【0005】
本発明の解決課題は、高周波域での防振性能の向上を実現することができる、新規な構造の筒型防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0007】
本発明者は、従来の筒型防振装置における高周波域での振動状態の悪化は、本体ゴム弾性体のゴムサージングに起因すると考えた。即ち、特許文献1にも示されているように、筒型防振装置の本体ゴム弾性体は、インナ軸部材とアウタ筒部材との間に延びる複数のゴム脚を備えている場合がある。それら複数のゴム脚は、一般的には、相互に同じ形状及び大きさとされており、固有振動数が相互に略同じであることから、特定周波数の振動入力時に全てのゴム脚が共振状態となって、ゴムサージングに起因する振動状態の悪化が発生していると推定された。
【0008】
特許文献1では、2つのゴム脚の一方だけに突起部を設けることで、質量の違いによって固有振動数を相互に異ならせている。しかし、本発明者の検討によれば、ゴム脚相互間の固有振動数を十分に異ならせるほどの大きな突起部をゴム脚に局所的に設けると、振動入力によるゴム脚の変形時に、突起部の基端部等に応力集中が発生して、ゴム脚の耐久性の低下を招くおそれもあることが分かった。
【0009】
このような知見に基づいて、本発明者は、複数のゴム脚の固有振動数を相互に異ならせてゴムサージングに起因する振動状態の悪化を抑制しながら、本体ゴム弾性体の耐久性の低下を防止し得る構造を検討し、本発明を成すに至った。
【0010】
第一の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材とが本体ゴム弾性体によって連結された筒型防振装置であって、前記本体ゴム弾性体は、前記インナ軸部材から前記アウタ筒部材へ向けて延びて該インナ軸部材と該アウタ筒部材とを相互に連結する複数のゴム脚を有しており、該複数のゴム脚が、他の該ゴム脚とは異なる軸方向長さとされることで該他のゴム脚とは固有振動数を異ならされた調節ゴム脚を含んでいるものである。
【0011】
本態様に従う構造とされた筒型防振装置によれば、調節ゴム脚の固有振動数と他のゴム脚の固有振動数との違いが、それら調節ゴム脚と他のゴム脚との軸方向長さ寸法の違いによって設定されている。これにより、応力集中によるゴム脚の損傷を回避し、且つ、ゴム脚の周方向幅寸法の違いによるばね特性や耐久性への影響を低減しながら、ゴムサージングによる振動状態の悪化を抑制することができる。
【0012】
第二の態様は、第一の態様に記載された筒型防振装置において、前記調節ゴム脚は、前記他のゴム脚に対して前記アウタ筒部材の径方向と直交する断面の面積が互いに異なっているものである。
【0013】
本態様に従う構造とされた筒型防振装置によれば、調節ゴム脚と他のゴム脚との径方向に直交する断面の面積が互いに異なっていることから、調節ゴム脚と他のゴム脚との軸方向の長さ寸法の違いによる質量差が、調節ゴム脚と他のゴム脚との周方向の幅寸法の違いによって0になることなく設定される。それゆえ、調節ゴム脚と他のゴム脚との固有振動数の違いによる高周波域でのゴムサージングの低減が有効に図られる。
【0014】
第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された筒型防振装置において、前記調節ゴム脚と前記他のゴム脚とでは、前記アウタ筒部材の径方向と直交する断面の形状の相対差に比して、該アウタ筒部材の軸方向と直交する断面の形状の相対差が小さくされているものである。
【0015】
本態様に従う構造とされた筒型防振装置によれば、調節ゴム脚の固有振動数と他のゴム脚の固有振動数との違いが、主として軸方向の長さ寸法の違いによって設定されており、周方向及び径方向の長さ寸法の違いが抑えられている。それゆえ、ばね特性や耐久性への影響をより効果的に低減しながら、ゴムサージングによる振動状態の悪化を防ぐことができる。
【0016】
第四の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載された筒型防振装置において、主たる荷重の入力方向となる径方向を対称軸として、互いに固有振動数が異ならされた前記調節ゴム脚と前記他のゴム脚とが軸対称に配置されているものである。
【0017】
主たる荷重の入力方向となる径方向を対称軸として軸対称に配置されたゴム脚は、主たる荷重が同様に入力されることから、固有振動数が相互に同じであればゴムサージングが同時に発生し易い。そこにおいて、本態様に従う構造とされた筒型防振装置によれば、主たる荷重の入力方向となる径方向に対して対称に配置されたゴム脚が、固有振動数が相互に異なる調節ゴム脚と他のゴム脚であることから、主たる荷重の入力時に同時に共振状態になり難く、ゴムサージングによる振動状態の悪化が抑えられる。
【0018】
第五の態様は、第一~第四の何れか1つの態様に記載された筒型防振装置において、少なくとも3つの前記調節ゴム脚が設けられているものである。
【0019】
本態様に従う構造とされた筒型防振装置によれば、3つ以上のゴム脚を有する場合に、少なくとも3つのゴム脚が調節ゴム脚とされることで、ゴムサージングによる振動状態の悪化を効果的に抑制することができる。
【0020】
第六の態様は、第一~第五の何れか1つの態様に記載された筒型防振装置において、前記複数のゴム脚の全てが前記調節ゴム脚とされており、それら調節ゴム脚が何れも前記他のゴム脚の何れとも固有振動数を異ならされているものである。
【0021】
本態様に従う構造とされた筒型防振装置によれば、振動荷重の入力時に複数のゴム脚が同時に共振状態となるのを防ぐことができることから、多数のゴム脚が設けられていたとしても、ゴムサージングによる振動状態の悪化を効果的に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、応力集中によるゴム脚の損傷を回避し、且つ、ゴム脚の周方向幅寸法の違いによるばね特性や耐久性への影響を低減しながら、ゴムサージングによる振動状態の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第一の実施形態としてのエンジンマウントを示す斜視図
図2図1のエンジンマウントを別角度で示す斜視図
図3図1に示すエンジンマウントの正面図
図4図1に示すエンジンマウントの右側面図
図5図3のV-V断面図
図6図3のVI-VI断面図
図7図1に示すエンジンマウントの各ゴム脚の断面図
図8】エンジンマウントのばね特性のシミュレーション結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1図6には、本発明に従う構造とされた筒型防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体16で連結された構造とされている。以下の説明において、原則として、上下方向とは図2中の上下方向を、前後方向とは図3中の左右方向を、左右方向とは図2中の左右方向を、それぞれ言う。
【0026】
インナ軸部材12は、金属や合成樹脂等で形成された硬質の部材とされており、厚肉小径の略円筒形状とされている。アウタ筒部材14は、金属や合成樹脂等で形成された硬質の部材とされており、薄肉大径の略円筒形状とされている。インナ軸部材12は、アウタ筒部材14に対して略同一中心軸上で挿通されており、アウタ筒部材14から内周側に離れて配置されている。本実施形態では、インナ軸部材12の軸方向長さ寸法が、アウタ筒部材14の軸方向長さ寸法よりも大きくされており、インナ軸部材12の軸方向両端部分がアウタ筒部材14よりも軸方向外側まで突出している。
【0027】
インナ軸部材12とアウタ筒部材14の径方向間には、本体ゴム弾性体16が設けられている。本体ゴム弾性体16は、ゴムや樹脂エラストマ等のゴム状弾性を有する材料で形成されており、全体として厚肉大径の円筒形状とされている。より詳細には、本体ゴム弾性体16は、インナ軸部材12の外周面に固着された内周固着部18と、アウタ筒部材14の内周面に固着された外周固着部20と、それら内周固着部18と外周固着部20とを径方向に連結する4つのゴム脚22(22a,22b,22c,22d)とを、一体で備えている。
【0028】
内周固着部18は、小径の略円筒形状とされており、インナ軸部材12における軸方向両端部を外れた軸方向中間部分に固着されている。内周固着部18は、アウタ筒部材14よりも軸方向で長尺とされて、アウタ筒部材14よりも軸方向の両外側まで延び出しており、インナ軸部材12の外周面を両端部付近まで覆っている。
【0029】
外周固着部20は、大径の略円筒形状とされており、アウタ筒部材14における軸方向両端部を外れた軸方向中間部分に固着されている。外周固着部20は、アウタ筒部材14の内周面を両端部付近まで覆っている。また、外周固着部20には、上下一対のストッパゴム24,24が一体形成されている。ストッパゴム24は、ゴム脚22a,22bの周方向間と、ゴム脚22c,22dの周方向間とに、それぞれ設けられている。ストッパゴム24は、外周固着部20からインナ軸部材12へ向けて突出しており、ゴム脚22a,22b,22c,22d及び内周固着部18から離れて設けられている。そして、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の上下方向での相対変位量が、ストッパゴム24,24のインナ軸部材12側への当接によって制限される。なお、エンジンマウント10は、主たる荷重の入力方向が上下方向とされている。
【0030】
ゴム脚22は、図3図5図6に示すように、内周固着部18と外周固着部20との間を径方向に延びており、内周端が内周固着部18と一体で連続していると共に、外周端が外周固着部20と一体で連続している。従って、インナ軸部材12とアウタ筒部材14は、4つのゴム脚22a,22b,22c,22dによって、径方向で相互に連結されている。ゴム脚22は、軸方向の両端面が外周へ向けて下傾する傾斜形状のテーパ面とされており、軸方向寸法が外周へ向けて小さくなっている。ゴム脚22は、周方向の幅寸法が外周へ向けて小さくなっている。
【0031】
4つのゴム脚22a,22b,22c,22dは、周方向で略90度ごとに配置されており、ゴム脚22aとゴム脚22cとが径方向でインナ軸部材12を挟んだ反対側に設けられていると共に、ゴム脚22bとゴム脚22dとが径方向でインナ軸部材12を挟んだ反対側に設けられている。
【0032】
4つのゴム脚22a,22b,22c,22dは、図7に示すように、軸方向の長さ寸法が相互に異なっている。具体的には、ゴム脚22aの軸方向長さ寸法L1がゴム脚22bの軸方向長さ寸法L2より小さく、ゴム脚22bの軸方向長さ寸法L2がゴム脚22cの軸方向長さ寸法L3より小さく、ゴム脚22cの軸方向長さ寸法L3がゴム脚22dの軸方向長さ寸法L4より小さくされている。
【0033】
ゴム脚22aの軸方向長さ寸法L1とゴム脚22bの軸方向長さ寸法L2との差D1と、ゴム脚22bの軸方向長さ寸法L2とゴム脚22cの軸方向長さ寸法L3との差D2と、ゴム脚22cの軸方向長さ寸法L3とゴム脚22dの軸方向長さ寸法L4との差D3とは、本実施形態において互いに略同じ大きさDとされている。尤も、D1とD2とD3は、少なくとも1つが他と異なっていてもよく、例えば全てが相互に異なっていてもよい。D1,D2,D3の大きさは特に限定されないが、軸方向長さ寸法が最も小さいゴム脚22aの軸方向長さ寸法L1に対して、3%以上且つ15%以下であることが望ましく、より好適には5%以上且つ10%以下とされる。
【0034】
軸方向の長さ寸法が相互に異なるゴム脚22aとゴム脚22bは、主たる荷重の入力方向となる径方向(上下方向)を対称軸とする軸対称に配置されている。また、軸方向の長さ寸法が相互に異なるゴム脚22cとゴム脚22dは、主たる荷重の入力方向となる径方向を対称軸とする軸対称に配置されている。このように、軸方向の長さ寸法の差が小さいゴム脚22aとゴム脚22b及びゴム脚22cとゴム脚22dが、それぞれ主たる荷重の入力方向となる径方向を対称軸とする軸対称に配置されている。
【0035】
主たる荷重入力方向となる径方向(上下方向)において、インナ軸部材12の両側には、すぐり孔としての一対の第一すぐり孔26,26が形成されている。第一すぐり孔26,26は、左右方向で軸対称に配置されたゴム脚22a,22bの周方向間と、ゴム脚22c,22dの周方向間とにおいて、軸方向に貫通して形成されている。各第一すぐり孔26には、ストッパゴム24が突出している。なお、左右径方向におけるインナ軸部材12の両側には、一対の第二すぐり孔28,28が形成されている。第二すぐり孔28,28は、上下方向で軸対称に配置されたゴム脚22a,22dの周方向間と、ゴム脚22b,22cの周方向間とにおいて、軸方向に貫通して形成されている。従って、ゴム脚22a,22bとゴム脚22c,22dは、それぞれ主たる荷重入力方向に延びる対称軸を周方向に外れた両側に配置されている。
【0036】
4つのゴム脚22a,22b,22c,22dは、図3に示すように、周方向の幅寸法が相互に略同じとされている。ゴム脚22a,22b,22c,22dは、軸方向の長さ寸法が相互に異なり、且つ周方向の幅寸法が相互に略同じであることから、各延伸方向となるアウタ筒部材14の径方向と直交する断面の面積(以下、直交断面積)が、相互に異なっている。具体的には、ゴム脚22aの直交断面積がゴム脚22bの直交断面積よりも小さく、ゴム脚22bの直交断面積がゴム脚22cの直交断面積よりも小さく、ゴム脚22cの直交断面積がゴム脚22dの直交断面積よりも小さくされている。
【0037】
4つのゴム脚22a,22b,22c,22dは、図6に示すように、径方向の厚さ寸法が相互に略同じとされている。従って、ゴム脚22a,22b,22c,22dは、径方向に直交する断面の形状の相対差よりも、軸方向に直交する断面の形状の相対差が小さくされている。本実施形態において、ゴム脚22a,22b,22c,22dは、周方向の幅寸法及び径方向の厚さ寸法が相互に略同じであることから、軸方向に直交する断面の形状が相互に略同じとされている。
【0038】
ゴム脚22a,22b,22c,22dは、軸方向の長さ寸法が相互に異なっていることにより、上下方向の主たる荷重の入力に対するばね定数が相互に異なっている。本実施形態では、ゴム脚22a,22b,22c,22dの周方向幅寸法及び径方向厚さ寸法が相互に同じとされていることから軸方向長さ寸法の違いに応じてゴム脚22a,ゴム脚22b,ゴム脚22c,ゴム脚22dの順にばね定数が大きくなっている。
【0039】
本実施形態では、ゴム脚22aとゴム脚22b及びゴム脚22cとゴム脚22dが、それぞれ主たる荷重の入力方向となる径方向を対称軸とする軸対称に配置されていることから、左右中央を上下方向に延びる対称軸に対する右側のばねと左側のばねとの差が抑えられている。その結果、主たる荷重の上下入力に対する左右両側のばねのバランスがとられており、上下入力時のインナ軸部材12とアウタ筒部材14の相対変位の態様の安定化が図られている。
【0040】
ゴム脚22a,22b,22c,22dは、軸方向の長さ寸法が相互に異なっていることにより、質量が相互に異なっている。これにより、ゴム脚22a,22b,22c,22dは、固有振動数が相互に異なっており、共振(サージング)が発生する入力振動の周波数が相互に異なっている。本実施形態のゴム脚22a,22b,22c,22dは、周方向幅寸法及び径方向厚さ寸法が相互に略同じとされていることから、軸方向長さ寸法の違いに応じてゴム脚22a,ゴム脚22b,ゴム脚22c,ゴム脚22dの順に質量が大きくなっている。
【0041】
ゴム脚22a,22b,22c,22dは、軸方向長さ寸法の違いによる質量及びばね定数の違いによって、固有振動数が相互に異なっている。これにより、ゴム脚22a,22b,22c,22dは、ゴムサージングが相互に異なる周波数の振動入力時に生じることから、ゴムサージングに起因する振動状態の悪化が抑制される。ゴムサージングは、100Hz以上の高周波域で問題となるが、ゴム脚22a,22b,22c,22dの固有振動数を相互に異ならせたことによって、高周波域での防振性能の向上が実現されている。
【0042】
本実施形態では、4つのゴム脚22a,22b,22c,22dの固有振動数が相互に全て異なっていることから、複数のゴム脚22のゴムサージングが同時に発生することによる振動状態の悪化が防止されて、高周波域でのより優れた防振性能が実現される。なお、4つのゴム脚22a,22b,22c,22dの固有振動数が相互に全て異なる本実施形態では、4つのゴム脚22a,22b,22c,22dが、何れも、調節ゴム脚であり、且つ、調節ゴム脚とは固有振動数が異なる他のゴム脚でもある。即ち、ゴム脚22aを他のゴム脚とは固有振動数が異なる調節ゴム脚とみなす場合には、ゴム脚22b,22c,22dが何れも他のゴム脚となる。同様に、ゴム脚22bを調節ゴム脚とみなす場合には、ゴム脚22a,22c,22dが何れも他のゴム脚となり、ゴム脚22cを調節ゴム脚とみなす場合には、ゴム脚22a,22b,22dが何れも他のゴム脚となり、ゴム脚22dを調節ゴム脚とみなす場合には、ゴム脚22a,22b,22cが何れも他のゴム脚となる。
【0043】
4つのゴム脚22a,22b,22c,22dの固有振動数の違いは、局所的な凹凸を設けることなく、軸方向長さを異ならせることで設定されている。それゆえ、ゴム脚22a,22b,22c,22dの弾性変形に際して応力の集中が生じ難く、ゴム脚22a,22b,22c,22dの耐久性を確保しながら固有振動数を相互に異ならせることができる。
【0044】
4つのゴム脚22a,22b,22c,22dは、周方向の幅寸法と径方向の厚さ寸法が相互に略同じとされており、軸方向の長さ寸法が相互に異なっている。これにより、ゴム脚22a,22b,22c,22dのばね特性や耐久性に大きく影響する軸方向視での形状を相互に略同じとしながら、ゴム脚22a,22b,22c,22dの質量を相互に異ならせることができる。それゆえ、目的とする防振性能や耐久性能を確保しつつ、ゴムサージングに起因する振動状態の悪化を防ぐことができる。
【0045】
なお、4つのゴム脚22a,22b,22c,22dの軸方向長さ寸法を異ならせて固有振動数を異ならせることによって、ゴムサージングによる高動ばね化に起因する振動状態の悪化が抑制されることは、図8に示すシミュレーション結果のグラフからも明らかである。図8のグラフにおいて、態様1は、4つのゴム脚22を全てゴム脚22dに相当する同じ軸方向長さとした場合である。態様2は、3つのゴム脚をゴム脚22dに相当する軸方向長さとし、1つのゴム脚をゴム脚22cに相当する他の3つのゴム脚よりも短い軸方向長さとした場合である。態様3は、2つのゴム脚をゴム脚22dに相当する軸方向長さとし、2つのゴム脚をゴム脚22b,22cに相当する他の2つのゴム脚よりも短い軸方向長さとした場合である。態様4は、4つのゴム脚をそれぞれゴム脚22a,22b,22c,22dに相当する相互に異なる軸方向長さとした上記第一の実施形態に相当する構造の場合である。
【0046】
図8のグラフによれば、4つのゴム脚の軸方向長さがすべて同じとされた態様1に比して、少なくとも1つのゴム脚の長さが他のゴム脚と異ならされた態様2~4では、700Hz付近や1400Hz付近のゴムサージングに起因するばね定数のピーク値が低減されている。従って、軸方向の長さ寸法の違いによって他のゴム脚とは固有振動数が異ならされた調節ゴム脚をもうけることにより、低動ばね化による防振性能の向上が図られ得ることが、図8のシミュレーション結果からも確認できる。それ故、例えば電気モータ等の振動による500Hz以上の高周波数数域においてもゴムサージングに起因する特定周波数域の防振性能の低下を効果的に低減し得る効果を得ることが可能であり、500Hz~2000Hzの高周波で且つ広い周波数領域での防振性能の向上にも寄与し得ることが判る。
【0047】
また、態様3におけるばね定数のピーク値の低減幅は、態様2よりも大きくなっており、態様4におけるばね定数のピーク値の低減幅は、態様3よりも大きくなっている。この理由としては、固有振動数が相互に同じとされたゴム脚の数が、態様2よりも態様3において少なく、態様3よりも態様4において更に少ないからだと考えられる。
【0048】
また、図8のグラフにおいて、態様1と態様2のばね定数のピーク値の差よりも、態様2と態様3のばね定数のピーク値の差が大きく、態様2と態様3のばね定数のピーク値の差よりも、態様3と態様4のばね定数のピーク値の差が大きい。この理由としては、態様2では、態様1に比して、ゴム脚の軸方向長さがL4からDだけ短いL3に変更されるが、態様3では、態様2に比して、ゴム脚の軸方向長さがL4から2Dだけ短いL2に変更され、態様4では、態様3に比して、ゴム脚の軸方向長さがL4から3Dだけ短いL1に変更されることから、ピーク値の低下幅が大きくなるものと考えられる。
【0049】
なお、図8のグラフから分かるように、少なくとも1つのゴム脚が他のゴム脚と固有振動数の異なる調節ゴム脚とされていれば、有効な防振性能の向上(高周波での低動ばね化)を実現することが可能である。従って、必ずしも全てのゴム脚22の固有振動数が相互に異なっている必要なく、軸方向の長さ寸法が相互に略同じとされて固有振動数が相互に同じとされたゴム脚があってもよい。
【0050】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態では、4つのゴム脚が設けられた構造を例示したが、ゴム脚の数は複数であれば特に限定されず、2つ又は3つであってもよいし、5つ以上であってもよい。また、複数のゴム脚の配置は特に限定されず、必ずしも対称的に配置されなくてもよい。
【0051】
複数のゴム脚は、周方向の幅寸法が相互に異なっていてもよいし、径方向の厚さ寸法が相互に異なっていてもよい。尤も、少なくとも調節ゴム脚と他のゴム脚の間において、周方向幅寸法の違いや径方向厚さ寸法の違いは、軸方向の長さ寸法の違いよりも小さいことが望ましい。また、ゴム脚に応力集中による耐久性の低下が問題にならない程度の凹凸を設けたり、高比重の他部材を固着する等して、固有振動数の変化を補助的に生じさせることもできる。
【0052】
前記実施形態では、本発明がエンジンマウント10に適用された例を示したが、本発明は、例えば、パワーユニットの傾動を抑えるトルクロッドや、電気モータを車両ボデーに対して防振連結するモータマウント等に用いられる筒型防振装置にも、好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0053】
10 エンジンマウント(筒型防振装置 第一の実施形態)
12 インナ軸部材
14 アウタ筒部材
16 本体ゴム弾性体
18 内周固着部
20 外周固着部
22 ゴム脚
22a ゴム脚(調節ゴム脚,他のゴム脚)
22b ゴム脚(調節ゴム脚,他のゴム脚)
22c ゴム脚(調節ゴム脚,他のゴム脚)
22d ゴム脚(調節ゴム脚,他のゴム脚)
24 ストッパゴム
26 第一すぐり孔(すぐり孔)
28 第二すぐり孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8