(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136259
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】射出成形用メタクリル酸メチル共重合体組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 20/14 20060101AFI20240927BHJP
C08J 11/10 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08F20/14
C08J11/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047322
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】岩田 昂
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 幹夫
【テーマコード(参考)】
4F401
4J100
【Fターム(参考)】
4F401AA17
4F401BA06
4F401CA32
4F401CA70
4F401CB14
4F401DA16
4F401FA01
4F401FA02
4J100AL03P
4J100AL03Q
4J100DA01
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4J100FA03
4J100FA04
4J100FA21
4J100GC07
4J100GC25
4J100GC35
4J100JA28
4J100JA32
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、リサイクルメタクリル酸メチルを用いた場合でも重合の失速を防止でき、更には射出成形時のシルバーストリークス発生を抑制することができる射出成形用メタクリル酸メチル共重合体組成物を提供することにある。
【解決手段】本発明の射出成形用メタクリル酸メチル共重合体組成物は、リサイクルメタクリル酸メチル10~50質量%、非リサイクルメタクリル酸メチル50~90質量%、を含有するモノマー組成物を重合して得られるメタクリル酸メチル共重合体を含むメタクリル酸メチル共重合体組成物であって、前記メタクリル酸メチル共重合体組成物中のイソ酪酸メチルの含有量が1~1500質量ppmであり、前記メタクリル酸メチル共重合体組成物中のドコサンの含有量が10~2000質量ppmである、ことを特徴としている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リサイクルメタクリル酸メチル10~50質量%、
非リサイクルメタクリル酸メチル50~90質量%、
を含有するモノマー組成物を重合して得られるメタクリル酸メチル共重合体を含むメタクリル酸メチル共重合体組成物であって、
前記メタクリル酸メチル共重合体組成物中のイソ酪酸メチルの含有量が1~1500質量ppmであり、
前記メタクリル酸メチル共重合体組成物中のドコサンの含有量が10~2000質量ppmである、
射出成形用メタクリル酸メチル共重合体組成物。
【請求項2】
前記モノマー組成物100質量%中にリサイクルアクリル酸メチル0.1~10質量%をさらに含有する、請求項1に記載の射出成形用メタクリル酸メチル共重合体組成物。
【請求項3】
前記モノマー組成物100質量%中に非リサイクルアクリル酸メチル0.1~10質量%をさらに含有する、請求項1又は2に記載の射出成形用メタクリル酸メチル共重合体組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の射出成形用メタクリル酸メチル共重合体組成物を含む、射出成形用材料。
【請求項5】
請求項1に記載の射出成形用メタクリル酸メチル共重合体組成物を含む、テールランプ部品成形用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル酸メチル共重合体を含有する、射出成形用の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
環境負荷を低減する観点から、ポリメタクリル酸メチルを熱分解、解重合してメタクリル酸メチルを単離し再利用する、「ケミカルリサイクル」の検討が進められている。
例えば特許文献1にはポリメタクリル酸メチル(PMMA、ポリメチルメタクリレート)を熱分解する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、メタクリル酸メチルを用いて懸濁重合又は塊状重合を行うと、重合後期に粘度の上昇によりポリマー末端の成長ラジカルの拡散速度が低下し、これにより重合初期よりもラジカル同士の衝突による停止反応が起きにくくなり、結果として成長反応が進行しやすくなって重合速度が上昇する。これをいわゆるトロムスドルフ効果という。トロムスドルフ効果で重合速度が上昇することで重合の転化率を向上させ、残存モノマーを低減することができる。
しかしながら、リサイクルメタクリル酸メチルを使用して重合しようとすると、トロムスドルフ効果が発生せず、すなわち重合の加速が起きず、残存モノマーが増えるという現象が頻発するという課題が発生した。
残存モノマーの多いメタクリル樹脂は射出成形用途に用いると耐熱性が劣ったり、射出成形時にシルバーストリークスが発生したりするという課題があり積極的には使用されず、結果としてリサイクルメタクリル酸メチルの活用及び、社会実装が進まないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、リサイクルメタクリル酸メチルの使用量を調整し、共重合体を含む樹脂組成物中のイソ酪酸メチルおよびドコサンの量が最適な範囲となるように重合することによって、重合時のトロムスドルフ効果が発現しないことによる重合の失速を防止し、更には射出成形時のシルバーストリークス発生を抑制することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
リサイクルメタクリル酸メチル10~50質量%、
非リサイクルメタクリル酸メチル50~90質量%、
を含有するモノマー組成物を重合して得られるメタクリル酸メチル共重合体を含むメタクリル酸メチル共重合体組成物 であって、
前記メタクリル酸メチル共重合体組成物中のイソ酪酸メチルの含有量が1~1500質量ppmであり、
前記メタクリル酸メチル共重合体組成物中のドコサンの含有量が10~2000質量ppmである、
射出成形用メタクリル酸メチル共重合体組成物。
[2]
前記モノマー組成物100質量% 中にリサイクルアクリル酸メチル0.1~10質量%をさらに含有する、[1]に記載の射出成形用メタクリル酸メチル共重合体組成物。
[3]
前記モノマー組成物100質量%中に非リサイクルアクリル酸メチル0.1~10質量%をさらに含有する、[1]又は[2]に記載の射出成形用メタクリル酸メチル共重合体組成物。
[4]
[1]~[3]のいずれかに記載の射出成形用メタクリル酸メチル共重合体組成物を含む、射出成形用材料。
[5]
[1]~[3]のいずれかに記載の射出成形用メタクリル酸メチル共重合体組成物を含む、テールランプ部品成形用材料。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、リサイクルメタクリル酸メチルを用いた場合でも重合の失速を防止でき、更には射出成形時のシルバーストリークス発生を抑制することができる射出成形用メタクリル酸メチル共重合体組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1の重合時の温度トレンドを示す図である。
【
図2】比較例1の重合時の温度トレンドを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0010】
本実施形態の射出成形用メタクリル酸メチル共重合体組成物は、リサイクルメタクリル酸メチル10~50質量%、非リサイクルメタクリル酸メチル50~90質量%を含有するモノマー組成物を重合して得られるメタクリル酸メチル共重合体を含むメタクリル酸メチル共重合体組成物であって、上記メタクリル酸メチル共重合体組成物100質量%中のイソ酪酸メチルの含有量が1~1500質量ppmであり、上記メタクリル酸メチル共重合体組成物100質量%中のドコサンの含有量が10~2000質量ppmである。
【0011】
本明細書において、「リサイクルメタクリル酸メチル」「リサイクルアクリル酸メチル」とは、メタクリル酸メチル単位を含むポリマー(例えば、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル単位を含有する共重合体など)、アクリル酸メチル単位を含むポリマー(例えば、ポリアクリル酸メチル、アクリル酸メチル単位を含有する共重合体など)、ポリメタクリル酸メチル及び/又はポリアクリル酸メチルを含むポリマーブレンドを分解精製して得られたメタクリル酸メチル、アクリル酸メチルを言う。
本明細書において、「非リサイクルメタクリル酸メチル」「非リサイクルアクリル酸メチル」とは石油・石炭・天然ガス・シェールオイル・バイオマスメタノールから生成された原料を用いて製造されたメタクリル酸メチル、アクリル酸メチルを言う。例えば、バージンメタクリル酸メチルやバージンアクリル酸メチル等が挙げられ、リサイクルモノマーは含まれない。
本明細書において、「メタクリル酸メチル共重合体」は、共重合体に含まれる単量体単位100質量%に対して、単量体単位としてメタクリル酸メチル単量体単位及びリサイクルメタクリル酸メチル単量体単位を合計で80質量%以上含む共重合体をいう。例えば、メタクリル酸メチル単量体単位が100質量%であるホモ重合体もメタクリル酸メチル共重合体に含まれる。
本明細書において、「モノマー組成物」は、モノマー成分の混合物であり、リサイクルメタクリル酸メチル及び非リサイクルメタクリル酸メチルを合計で80質量%以上含む組成物をいう。
本明細書において、「メタクリル酸メチル共重合体組成物」は、組成物100質量%に対して、上記「メタクリル酸メチル共重合体」を90質量%以上含む組成物をいう。
【0012】
上記モノマー組成物は、モノマー組成物100質量%に対して、リサイクルメタクリル酸メチル10~50質量%、非リサイクルメタクリル酸メチル50~90質量%を含有する。上記モノマー組成物は、さらに、リサイクルアクリル酸メチル、非リサイクルアクリル酸メチル、その他の単量体を含んでいてもよい。上記モノマー組成物100質量%に対する、リサイクルメタクリル酸メチル及び非リサイクルメタクリル酸メチルの合計質量割合は80質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上である。上記モノマー組成物100質量%に対する、リサイクルメタクリル酸メチル、非リサイクルメタクリル酸メチル、リサイクルアクリル酸メチル及び非リサイクルアクリル酸メチルの合計質量割合は90質量%以上であることが好ましく、より好ましくは95質量%以上、特に好ましくは100質量%である。
【0013】
リサイクルメタクリル酸メチルが10質量%未満だとリサイクル品の使用量が低く環境への寄与が小さくなる。リサイクルメタクリル酸メチルが50質量%を超えるとリサイクル品由来の不純物が多くなりトロムスドルフ効果の失速を抑えられなくなる。
リサイクルメタクリル酸メチルの下限としては好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上である。リサイクルメタクリル酸メチルの上限として好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
【0014】
非リサイクルメタクリル酸メチルが50質量%未満だとリサイクル品由来の不純物が多くなりトロムスドルフ効果の失速を抑えられなくなる。非リサイクルメタクリル酸メチルが90質量%を超えるとリサイクル品の使用量が低く環境への寄与が小さくなる。
非リサイクルメタクリル酸メチルの下限としては好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは65質量%以上である。リサイクルメタクリル酸メチルの上限として好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である。
【0015】
リサイクルメタクリル酸メチル中、イソ酪酸メチルは質量基準で100~50000ppm程度含まれることが多い。本実施形態においては、蒸留によりイソ酪酸メチルを取り除いたり、懸濁重合によって共重合体を得ることによりイソ酪酸メチルの含有量を調整することが好ましい。
リサイクルメタクリル酸メチル共重合体組成物100質量%中のイソ酪酸メチルの含有量は質量基準で、1~1500ppmである。イソ酪酸メチルが所定量存在することにより、射出成形時のシルバーストリークスを抑制することができる。1500ppmを超えると耐熱性などが劣化する場合があり好ましくない。下限として好ましくは2ppm以上、より好ましくは3ppm以上、更に好ましくは5ppm以上である。上限として好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下、更に好ましくは200ppm以下である。
【0016】
リサイクルメタクリル酸メチル共重合体組成物100質量%中のドコサンの含有量は質量基準で10~2000ppmである。リサイクルメタクリル酸メチルがモノマー組成に含まれる場合、共重合体中にドコサンが所定量入るように重合することで重合の失速を防止できる。ドコサンはモノマーに溶解して含有してもよいし開始剤の分解物として生成させてもよい。下限として好ましくは50ppm以上、より好ましくは100ppm以上、更に好ましくは200ppm以上である。上限として好ましくは1800ppm以下、より好ましくは1600ppm以下、更に好ましくは1400ppm以下である。
【0017】
上記モノマー組成物100質量%中にリサイクルアクリル酸メチル0.1~10質量%をさらに含有することが好ましい。リサイクルメタクリル酸メチル中には不純物としてリサイクルアクリル酸メチルを含有する場合があり、一定量含有して重合するほうが、エネルギー効率が良く好ましい。10質量%を超えて含有すると不純物の量が増え、耐熱性が劣化することがあり好ましくない。下限として好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上である。上限として好ましくは9.5質量%以下、より好ましくは9質量%以下、更に好ましくは8.5質量%以下である。
【0018】
上記モノマー組成物100質量%中に非リサイクルアクリル酸メチル0~10質量%をさらに含有することが好ましく、0.1~10質量%含むことがより好ましい。非リサイクルアクリル酸メチルを含有することにより耐熱分解性を向上できる。10質量%を超えて含有すると耐熱性が劣化することがあり好ましくない。下限として好ましくは0.5%質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上である。上限として好ましくは9.5質量%以下、より好ましくは9質量%以下、更に好ましくは8.5質量%以下である。
【0019】
メタクリル酸メチル共重合体は、メタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位等のその他の単量体単位をさらに含んでいてもよい。
【0020】
上記その他の単量体としては、メタクリル酸メチルと共重合可能なビニル単量体であってよく、具体的には、アルキル基の炭素数が2~18のメタクリル酸アルキル;アルキル基の炭素数が2~18のアクリル酸アルキル;アクリル酸やメタクリル酸等のα,β-不飽和酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和基含有二価カルボン酸及びそれらのアルキルエステル;スチレン、α-メチルスチレン、ベンゼン環に置換基を有するスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;無水マレイン酸、マレイミド、N-置換マレイミド;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のエチレングリコール又はそのオリゴマーの両末端水酸基をアクリル酸またはメタクリル酸でエステル化したもの;ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリレート等の2個のアルコールの水酸基をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール誘導体をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;ジビニルベンゼン等の多官能モノマー;等が挙げられ、これらは、単独或いは2種類以上を併用して用いることが出来る。
【0021】
<重合方法>
メタクリル酸メチル共重合体は、例えば、メタクリル酸メチル共重合体を構成する単量体を含むモノマー組成物と、重合開始剤、連鎖移動剤、懸濁剤、その他添加剤等を用いて製造することができる。
【0022】
重合開始剤としては、フリーラジカル重合を用いる場合は、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキサイド系や、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカボニトリル)等のアゾ系の一般的なラジカル重合開始剤を用いることができ、これらは単独でもあるいは2種類以上を併用しても良い。これらのラジカル開始剤と適当な還元剤とを組み合わせてレドックス系開始剤として実施しても良い。ジラウロイルパーオキサイドが好ましい。
【0023】
重合開始剤は、単量体の合計質量100質量%に対して、0.001~1質量%の範囲で用いるのが一般的である。
【0024】
メタクリル酸メチル共重合体の製造方法では、ラジカル重合法で製造する場合には、分子量を調整するために、一般的に用いられている連鎖移動剤を使用できる。
【0025】
連鎖移動剤としては、例えば、n-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、2-エチルヘキシルチオグリコレート、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオグリコート、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)などのメルカプタン類が好ましく用いられる。
【0026】
連鎖移動剤は、単量体の合計質量100質量%に対して、0.001~1質量%の範囲で用いてよい。連鎖移動剤の量は望む分子量に依存して決定される。
【0027】
メタクリル酸メチル共重合体の重合方法としては、懸濁重合または乳化重合を用いることが好ましい。水中で重合することによりイソ酪酸メチルの含有量を最適化することができる。
【0028】
(添加剤)
本実施形態のメタクリル酸メチル共重合体組成物は、任意選択的にその他の添加剤を配合してもよい。添加剤は、本発明の効果を発揮できる限り特に限定されることなく、目的に応じて、適宜選択されてよい。
【0029】
添加剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、紫外線吸収剤;熱安定剤;光安定剤;可塑剤;難燃剤;難燃助剤;硬化剤;硬化促進剤;帯電防止剤;導電性付与剤;応力緩和剤;離型剤;結晶化促進剤;加水分解抑制剤;潤滑剤;衝撃付与剤;摺動性改良剤;相溶化剤;核剤;強化剤;流動調整剤;染料;増感剤;着色剤;沈降防止剤;タレ防止剤;充填剤;消泡剤;光拡散性微粒子;防錆剤;抗菌剤;防カビ剤;防汚剤;導電性高分子等が挙げられる。
【0030】
本実施形態のメタクリル酸メチル共重合体組成物は射出成形用である。重合組成を最適化することで射出成形時のシルバーストリークス抑制などの効果が得られる。
【0031】
本実施形態の射出成形用メタクリル酸メチル共重合体組成物はテールランプ用であることが好ましい。テールランプからメタクリル樹脂を回収し、熱分解してメタクリル酸メチルを生成し本実施形態のメタクリル酸メチル共重合体組成物を作製し再びテールランプに用いることで閉じたサイクルを回すことができ、環境への貢献効果が最も高い。
【0032】
(メタクリル酸メチル共重合体組成物の特性)
<耐熱性>
耐熱性の指標としては、ビカット軟化温度を用いることができる。
本実施形態のメタクリル酸メチル共重合体組成物のビカット軟化温度は、実使用時の耐熱性の観点から、100℃以上であることが好ましく、より好ましくは105℃以上である。ビカット軟化温度は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0033】
本実施形態の射出成形用材料は、上述の本実施形態の射出成形用メタクリル酸メチル共重合体組成物を含み、射出成形用メタクリル酸メチル共重合体組成物のみからなっていてもよい。上記射出成形用材料は、射出成形の材料として用いることができる。
本実施形態のテールランプ部品成形用材料は、上述の本実施形態の射出成形用メタクリル酸メチル共重合体組成物を含み、射出成形用メタクリル酸メチル共重合体組成物のみからなっていてもよい。上記テールランプ部品成形用材料は、テーブルランプ部品の射出成形の材料として用いることができる。
【0034】
(メタクリル酸メチル共重合体組成物ペレットの製造方法)
本実施形態のメタクリル酸メチル共重合体組成物のペレットは、上述のメタクリル酸メチル共重合体組成物、必要に応じて、ゴム質重合体、メタクリル酸メチル共重合体組成物以外の樹脂であるその他の樹脂、添加剤を、溶融混練することによって、製造することができる。
メタクリル酸メチル共重合体組成物ペレットを製造する方法としては、例えば、押出機、加熱ロール、ニーダー、ローラミキサー、バンバリーミキサー等の混練機を用いて混練する方法が挙げられる。その中でも押出機による混練が、生産性の観点から好ましい。
混練温度は、メタクリル酸メチル共重合体組成物を構成する重合体や、混合する他の樹脂の好ましい加工温度に従えばよく、目安としては140~300℃の範囲、好ましくは180~280℃の範囲である。
また、押出機には、揮発分を減じる目的で、ベント口を設けることが好ましい。
【0035】
〔成形体〕
本実施形態の成形体は、上述した本実施形態のメタクリル酸メチル共重合体組成物を含む成形体である。
本実施形態の成形体は、好適には、導光板、導光体等の光学部品、車両用部材として用いられる。
本実施形態の成形体の厚みは、取扱性や強度に優れる観点、及び本実施形態の成形体を光学部品として用いる場合には光学特性にも優れる観点から、0.01~10mmが好ましく、0.01~1mmであってもよい。複屈折を抑える観点から、より好ましくは8mm以下であり、さらに好ましくは5mm以下、さらにより好ましくは3mm以下、よりさらに好ましくは2mm以下である。
射出成形体として使用する場合においては、好ましくは0.02mm以上であり、より好ましくは0.05mm以上である。
【0036】
本実施形態の成形体が車両用部材である場合、当該成形体の厚みは、軽量化と強度、成形加工性の観点から0.03~3mmであることが好ましく、0.5~3mmがより好ましく、0.8~2.8mmがさらに好ましい。
【実施例0037】
以下の実施例、比較例を用いて更に具体的に説明する。
<原料>
用いた原料は下記のものである。
・リサイクルメタクリル酸メチル(リサイクルMMA)
旭化成製デルペット80Nを二軸押出機にて400℃で熱分解して得られた租モノマーを蒸留精製して得られたメタクリル酸メチルに2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノールを2.5質量ppm含有させたもの
・リサイクルアクリル酸メチル(リサイクルMA)
上記祖モノマーの蒸留精製時に合わせて得られたアクリル酸メチルに4-メトキシフェノールを15ppm含有させたもの
・メタクリル酸メチル(MMA)
旭化成製(重合禁止剤として中外貿易製2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノールを2.5質量ppm含有)
・アクリル酸メチル(MA)
三菱ケミカル製(重合禁止剤として、4-メトキシフェノールを15ppm含有)
・n-オクチルメルカプタン(NOM)アルケマ製
・ジラウロイルパーオキサイド(LPO):日本油脂製
・t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート(パーブチルO):日本油脂製
【0038】
(実施例1)
-懸濁剤の調整-
4枚傾斜パドル翼を取り付けた攪拌機を有する容器に、水5kg、平均粒子径33μmの水酸化アルミニウム130g、ラウリル硫酸ナトリウム0.39g、EDTA2.3gを投入、混合し、混合液(a1)を得た。混合液(a1)中の懸濁剤の平均粒子径は33μmであり、得られた混合液(a1)のpHは5.5であった。得られた混合液(a1)を70℃まで加熱した。
-重合反応-
次いで、60Lの反応器に水25kgを投入して80℃に昇温し、その反応器に、混合液(a1)3kgと、表1に示す配合のモノマー成分21kgを混合したモノマー組成物に重合開始剤及び連鎖移動剤を混合した原料を投入した。その後、約80℃の温度を保って懸濁重合を行い、原料を投入してから約120分後にトロムスドルフ効果による発熱のピークが観測された。その後、90℃まで1℃/minの速度で昇温した後、45分間約90℃以上の温度を保持し、重合反応を実質終了して重合体スラリーを得た。次に、得られた重合体スラリーを50℃まで冷却した。その重合体スラリーに、懸濁剤を溶解させるために20質量%硫酸を投入して重合反応溶液を得た。次に、得られた重合反応溶液を、1.68mmメッシュの篩にかけて凝集物を除去して、濾過し、ビーズ状のメタクリル酸メチル共重合体粒子と懸濁廃液とに分離した。
この時の温度トレンドを
図1に示す。
-洗浄工程-
その後、ビーズ状のメタクリル酸メチル共重合体粒子とおおよそ等量の約70℃のイオン交換水を加えて攪拌、洗浄、および濾過を実施し、同様に約70℃のイオン交換水での洗浄をさらにもう一度実施し(合計で2回水洗浄)、スラリー状重合体溶液を得た。得られたスラリー状重合体溶液に、水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを8.5に調整し、攪拌し洗浄を行った。そのスラリー状重合体溶液を濾過し、さらに70℃のイオン交換水を加えて攪拌し洗浄を行った。その後、そのスラリー状重合体溶液を濾過し、共重合体ビーズを得た。得られた共重合体ビーズを70℃のオーブンで一晩乾燥し、メタクリル酸メチル共重合体ビーズを得た。得られたメタクリル酸メチル共重合体ビーズの重量平均分子量は105,000、Mw/Mn=1.9であった。
【0039】
(実施例2~4、6、7、参考例1、比較例1、2)
原料組成を表1に示す配合にした以外は実施例1と同様にしてメタクリル酸メチル共重合体を得た。比較例1、2はトロムスドルフ効果による発熱のピークが観測されなかった。
比較例1の重合時の温度トレンドを
図2に示す。
【0040】
(実施例5)
原料組成を表1に示す配合にし、イソ酪酸メチルをさらにモノマー中に2000質量ppm加えて重合した以外は実施例1と同様にしてメタクリル酸メチル共重合体ビーズを得た。
【0041】
(比較例3)
原料組成を表1に示す配合にし、イソ酪酸メチルをさらにモノマー中に5000質量ppm加えて重合した以外は実施例1と同様にしてメタクリル酸メチル共重合体ビーズを得た。
【0042】
(比較例4)
原料組成を表1に示す配合にし、ドコサンをさらにモノマー中に0.3質量部加えて重合した以外は実施例1と同様にしてメタクリル酸メチル共重合体ビーズを得た。
【0043】
[トロムスドルフ効果の失速]
上記重合においてトロムスドルフ効果による発熱のピークが観測されたもの(重合後期における系内温度の急激な上昇が発生し1℃以上系内温度(例えば、5分当たりの系内温度上昇が1℃以上)があがったもの)を〇(良好)、トロムスドルフ効果による発熱のピークが観測されなかったものを×(不良)とした。
【0044】
[メタクリル酸メチル共重合体の物性]
(重量平均分子量、分子量分布)
実施例、比較例で得られたメタクリル酸メチル共重合体ビーズの重量平均分子量、分子量分布を下記の装置、及び条件で測定した。
測定装置:東ソー株式会社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HLC-83
20GPC) カラム:TSKguardcolumn SuperH-H 1本、TSKgel SuperHM-M 2本、TSKgel SuperH2500 1本を順に直列接続して使用した。
本カラムでは、高分子量が早く溶出し、低分子量は溶出する時間が遅い。
検出器 :RI(示差屈折)検出器
検出感度 :3.0mV/min
カラム温度:40℃
サンプル :0.02gのメタクリル酸メチル共重合体ビーズのテトラヒドロフラン20mL溶液
注入量 :10μL
展開溶媒 :テトラヒドロフラン、流速;0.6mL/min
内部標準として、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)を、0.1g/L添加。
検量線用標準サンプルとして、単分散のピークトップ分子量が既知で分子量が異なる以下の10種のポリメタクリル酸メチル(Polymer Laboratories製;PMMA Calibration Kit M-M-10)を用いた。
ピークトップ分子量(Mp)
標準試料1 1,916,000
標準試料2 625,500
標準試料3 298,900
標準試料4 138,600
標準試料5 60,150
標準試料6 27,600
標準試料7 10,290
標準試料8 5,000
標準試料9 2,810
標準資料10 850
上記の条件で、メタクリル酸メチル共重合体の溶出時間に対する、RI検出強度を測定した。
GPC溶出曲線におけるエリア面積と、3次近似式の検量線を基にメタクリル酸メチル共重合体の重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
【0045】
[残存モノマー量の測定]
島津ガスクロマトグラフィーGC-1700(FID)を用いて、下記のカラム及び条件で、得られたメタクリル酸メチル共重合体ビーズの残存モノマー量を測定した。メタクリル酸メチル共重合体100質量%に対する残留メタクリル酸メチルモノマーの質量割合(質量%)を表1に示す。
試験条件
使用カラム:TC-1(無極性)φ0.32mm×30m×0.25μm
キャリアガス:窒素 1.3mL/min
設定温度:INJ/DET=230℃/300℃
試料:0.3gのメタクリル酸メチル共重合体ビーズを25mLのクロロホルムに溶解
保持時間:15min
【0046】
[シルバーストリークス]
成形体の外観性は、例えば、気泡の有無、筋ムラの有無、シルバーストリークスの有無等により評価することができ、具体的には、以下の方法により評価することができる。
本実施形態の射出成形用メタクリル酸メチル共重合体組成物は、射出成形体としたときに、80℃で24時間乾燥させた後、射出成形機、測定用金型を用いて成形される50個の試験片中、試験片の表面にシルバーストリークスが見られた試験片の数が、10個以下であることが好ましく、より好ましくは5個以下、さらに好ましくは2個以下である。
なお、成形体のシルバーストリークスの有無は、以下の方法により評価することができる。
実施例、比較例で得られたメタクリル酸メチル共重合体ビーズをφ26mmの二軸押出機に投入し、溶融混練(コンパウンド)してストランドを生成し、ウォーターバスでそのストランドを冷却した後、ペレタイザーで切断してペレットを得た。
なお、コンパウンドの際、押出機のベント部に真空ラインを接続し、-0.06MPaの条件で水分やモノマー成分等の揮発成分を除去した。また、コンパウンド時の樹脂温度は、250~270℃であった。
上述の方法で得られたメタクリル酸メチル共重合体ペレットを、80℃で24時間乾燥させた後、以下に記す射出成形機、測定用金型、成形条件を用い、シルバーストリークスの有無を評価した。
具体的には、金型表面の中心部に樹脂を下記条件にて射出し、射出終了40秒後にスパイラル状の成形品を取り出し、シルバーストリークスの発生有無を評価した。樹脂を切り替えた後、20ショット分を廃棄し、21ショット目から70ショットまでの50個を使用して評価を実施した。
射出成形機:EC-100SX(東芝機械株式会社製)
測定用金型:金型の表面に、深さ2mm、幅12.7mmの溝を、表面の中心部からアルキメデススパイラル状に掘り込んだ金型
成形条件
樹脂温度:290℃
金型温度:70℃
最大射出圧力:75MPa
射出時間:20sec
シルバーストリークス有無の評価
A:50個中、シルバーストリークスの見られたサンプルが2個以下
B:50個中、シルバーストリークスの見られたサンプルが5個以下
C:50個中、シルバーストリークスの見られたサンプルが10個以下
D:50個中、シルバーストリークスの見られたサンプルが10個超
【0047】
[耐熱分解性]
(a)1%重量減少時の温度
実施例及び比較例で得られたメタクリル酸メチル共重合体組成物を用いて、下記装置及び条件で、測定を行った。そして、組成物の重量が1%減少する時の温度を算出し、熱分解開始温度(1%重量減少時の温度)(℃)とした。
測定装置:差動型示差熱天秤 Thermo plus EVO II TG8120、株式会社リガク製
サンプル量:約10mg
測定雰囲気:窒素(100mL/分)
測定条件:100℃で5分保持し、10℃/分で400℃まで昇温しながら、1%重量が減じる点を熱分解開始温度(1%重量減少温度)とした。
測定装置:差動型示差熱天秤 Thermo plus EVO II TG8120(株式会社リガク製)
サンプル量:約10mg
測定雰囲気:窒素(100mL/分)
測定条件:50℃で2分保持し、20℃/分で200℃まで昇温し、20℃/分で250℃まで昇温し、10℃/分で設定温度284℃まで昇温し、284℃60分間保持し、保持開始から30分間経過後の重量減少割合(%)を算出した。なお、設定温度284℃としたときの測定温度は約290℃となっていた。
耐熱分解性の評価
A:1%重量減少温度が300℃以上
B:1%重量減少温度が280℃以上300℃未満
C:1%重量減少温度が280℃未満
【0048】
<耐熱性>
(VICAT軟化温度)
ISO 306 B50に準拠し、実施例及び比較例で得られたメタクリル酸メチル共重合体組成物ペレットを用いて成形した4mm厚試験片を用いて、VICAT軟化温度(℃)の測定を行い、耐熱性評価の指標とした。
A:VICAT軟化温度(℃)が110℃以上
B:VICAT軟化温度(℃)が100℃以上110℃未満
C:VICAT軟化温度(℃)が90℃以上100℃未満
【0049】
【0050】
実施例1と比較例1を比べると、リサイクルメタクリル酸メチルの量が多くなると、トルムスドルフ効果の失速が発生し、成形体としての物性が悪くなることが分かる。実施例2と比較例2を比べると、リサイクルメタクリル酸メチル使用時に、分解物としてドコサンが発生する開始剤を用いることでトルムスドルフ効果を発現していることが分かる。実施例2と比較例3や4を比べると、イソ酪酸メチルやドコサンの含有量が多くなりすぎると耐熱分解性や熱安定性が悪くなることが分かる。
本発明によれば、リサイクルメタクリル酸メチルを使用した場合でも、重合の失速を防止し、更には射出成形時のシルバーストリークス発生を抑制することができる射出成形用メタクリル酸メチル共重合体組成物を提供することができる。