(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136263
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】圧電基材、センサー、アクチュエーター、及び生体情報取得デバイス
(51)【国際特許分類】
H10N 30/857 20230101AFI20240927BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20240927BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20240927BHJP
【FI】
H10N30/857
H10N30/20
H10N30/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047335
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 哲史
(72)【発明者】
【氏名】丸子 展弘
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 勝敏
(57)【要約】
【課題】良好な圧電感度が維持される圧電基材、センサー、アクチュエーター、及び生体情報取得デバイスを提供する。
【解決手段】長尺状の内部導体と、前記内部導体の外周面を覆う圧電体と、前記圧電体の外周面を覆う防水被覆と、を備え、前記防水被覆は前記圧電体側から第1被覆及び第2被覆をこの順に含み、前記圧電体は、光学活性ポリペプチドからなる繊維を含み、前記圧電体の長さ方向と、前記光学活性ポリペプチドの主配向方向とが略平行であり、X線回折測定から下記式(a)によって求められる前記光学活性ポリペプチドからなる繊維の配向度Fが0.50以上1.00未満である、圧電基材。式(a)中、αは配向由来のピークの半値幅(°)を表す。
配向度F=(180°-α)/180° … 式(a)
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の内部導体と、
前記内部導体の外周面を覆う圧電体と、
前記圧電体の外周面を覆う防水被覆と、を備え、
前記防水被覆は前記圧電体側から第1被覆及び第2被覆をこの順に含み、
前記圧電体は、光学活性ポリペプチドからなる繊維を含み、
前記圧電体の長さ方向と、前記光学活性ポリペプチドの主配向方向とが略平行であり、
X線回折測定から下記式(a)によって求められる前記光学活性ポリペプチドからなる繊維の配向度Fが0.50以上1.00未満である、圧電基材。
配向度F=(180°-α)/180° … 式(a)
〔式(a)中、αは配向由来のピークの半値幅(°)を表す。〕
【請求項2】
前記防水被覆は樹脂を含む、請求項1に記載の圧電基材。
【請求項3】
前記圧電体と前記防水被覆との間に配置される外部導体をさらに備え、前記外部導体は前記内部導体と電気的に絶縁されている、請求項1に記載の圧電基材。
【請求項4】
前記圧電体は長尺状の圧電体である、請求項1に記載の圧電基材。
【請求項5】
前記長尺状の圧電体は前記内部導体の外周面に螺旋状に巻回されている、請求項4に記載の圧電基材。
【請求項6】
前記内部導体の軸方向と、前記長尺状の圧電体の長さ方向とがなす螺旋角度は、20°~70°である、請求項4に記載の圧電基材。
【請求項7】
前記光学活性ポリペプチドがβシート構造を有する、請求項1に記載の圧電基材。
【請求項8】
前記光学活性ポリペプチドがフィブロインを含む、請求項1に記載の圧電基材。
【請求項9】
前記光学活性ポリペプチドからなる繊維がシルクである、請求項1に記載の圧電基材。
【請求項10】
前記圧電体が糸状の圧電体であり、前記糸状の圧電体の撚数は500T/m以下である、請求項1に記載の圧電基材。
【請求項11】
請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の圧電基材を備える、センサー。
【請求項12】
請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の圧電基材を備える、アクチュエーター。
【請求項13】
請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の圧電基材を備える、生体情報取得デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電基材、センサー、アクチュエーター、及び生体情報取得デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学活性を有するポリペプチド(以下、「光学活性ポリペプチド」という。)を含む圧電体を、センサーやアクチュエーター等の圧電デバイスに応用することが検討されている。また、光学活性ポリペプチドとしてシルク糸のような繊維状の光学活性ポリペプチドの使用が検討されている。
例えば、特許文献1には繊維状の光学活性ポリペプチドであるシルクを圧電体として用いた圧電基材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シルクのような繊維状の光学活性ポリペプチドは水分を吸収しやすく、光学活性ポリペプチドの空気中の水蒸気との接触が圧電基材の圧電感度の低下を招くおそれがある。そこで、圧電体の周囲を樹脂等で被覆して、圧電体と空気中の水蒸気との接触を抑制することが圧電感度を維持する観点から望ましい。
しかしながら、圧電体やその上に配置される部材の表面に凹凸が存在していると被覆をこれらの表面に密着させるのが難しく、形成された被覆が充分な防水機能を発揮できないおそれがある。その結果、圧電基材の良好な圧電感度が維持されないおそれがある。
【0005】
上記事情に鑑み、本開示の一実施形態における目的は、良好な圧電感度が維持される圧電基材、センサー、アクチュエーター、及び生体情報取得デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>長尺状の内部導体と、
前記内部導体の外周面を覆う圧電体と、
前記圧電体の外周面を覆う防水被覆と、を備え、
前記防水被覆は前記圧電体側から第1被覆及び第2被覆をこの順に含み、
前記圧電体は、光学活性ポリペプチドからなる繊維を含み、
前記圧電体の長さ方向と、前記光学活性ポリペプチドの主配向方向とが略平行であり、
X線回折測定から下記式(a)によって求められる前記光学活性ポリペプチドからなる繊維の配向度Fが0.50以上1.00未満である、圧電基材。
配向度F=(180°-α)/180° … 式(a)
〔式(a)中、αは配向由来のピークの半値幅(°)を表す。〕
<2>前記防水被覆は樹脂を含む、<1>に記載の圧電基材。
<3>前記圧電体と前記防水被覆との間に配置される外部導体をさらに備え、前記外部導体は前記内部導体と電気的に絶縁されている、<1>又は<2>に記載の圧電基材。
<4>前記圧電体は長尺状の圧電体である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の圧電基材。
<5>前記長尺状の圧電体は前記内部導体の外周面に螺旋状に巻回されている、<4>に記載の圧電基材。
<6>前記内部導体の軸方向と、前記長尺状の圧電体の長さ方向とがなす螺旋角度は、20°~70°である、<4>又は<5>に記載の圧電基材。
<7>前記光学活性ポリペプチドがβシート構造を有する、<1>~<6>のいずれか1つに記載の圧電基材。
<8>前記光学活性ポリペプチドがフィブロインを含む、<1>~<7>のいずれか1つに記載の圧電基材。
<9>前記光学活性ポリペプチドからなる繊維がシルクである、<1>~<8>のいずれか1つに記載の圧電基材。
<10>前記圧電体が糸状の圧電体であり、前記糸状の圧電体の撚数は500T/m以下である、<1>~<9>のいずれか1つに記載の圧電基材。
<11><1>~<10>のいずれか1項に記載の圧電基材を備える、センサー。
<12><1>~<10>のいずれか1項に記載の圧電基材を備える、アクチュエーター。
<13><1>~<10>のいずれか1項に記載の圧電基材を備える、生体情報取得デバイス。
【0007】
本開示によれば、良好な圧電感度が維持される圧電基材、センサー、アクチュエーター、及び生体情報取得デバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】本開示の一実施形態に係る圧電基材の外観を示す概略側面図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る圧電基材の外観を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
<圧電基材>
本開示の圧電基材は、
長尺状の内部導体と、
前記内部導体の外周面を覆う圧電体と、
前記圧電体の外周面を覆う防水被覆と、を備え、
前記防水被覆は前記圧電体側から第1被覆及び第2被覆をこの順に含み、
前記圧電体は、光学活性ポリペプチドからなる繊維を含み、
前記圧電体の長さ方向と、前記光学活性ポリペプチドの主配向方向とが略平行であり、
X線回折測定から下記式(a)によって求められる前記光学活性ポリペプチドからなる繊維の配向度Fが0.50以上1.00未満である。
配向度F=(180°-α)/180° … 式(a)
〔式(a)中、αは配向由来のピークの半値幅(°)を表す。〕
【0011】
本開示の圧電基材は、圧電体の外周面を覆う防水被覆を備えている。このため、圧電体と空気中の水蒸気との接触が効果的に抑制される。
さらに、防水被覆は圧電体側から第1被覆及び第2被覆をこの順に含む。防水被覆は、外部からの水蒸気の透過を遮断する性能(以下、水蒸気バリア性ともいう)に優れるとともに、防水被覆の下にある部材の表面の性状にあわせて変形しやすい性能(以下、密着性ともいう)に優れることが好ましい。しかしながら、水蒸気バリア性と密着性の両方を高い水準で満たす材料の選択肢は限られている。
本開示の圧電基材では、防水被覆が第1被覆と第2被覆とから構成されている。このため、たとえば、第1被覆には密着性の観点から好適な材料を選択し、第2被覆には水蒸気バリア性の観点から好適な材料を選択することができる。その結果、圧電体の周囲に優れた防水性能を示す被覆を形成することができ、良好な圧電感度が維持される。
【0012】
本開示において、「光学活性ポリペプチド」とは、不斉炭素原子を有し、かつ、光学異性体の存在量に偏りがあるポリペプチドを示す。
本開示において、「略平行」とは、2つの線分のなす角度を0°以上90°以下の範囲で表した場合に、2つの線分のなす角度が、0°以上30°未満(好ましくは0°以上22.5°以下、より好ましくは0°以上10°以下、更に好ましくは0°以上5°以下、特に好ましくは0°以上3°以下)であることを指す。
本開示において、圧電体の配向度Fは、圧電体に含まれる光学活性ポリペプチドの配向の度合いを示す指標である。
【0013】
(圧電基材)
圧電基材は、長尺状の内部導体と、前記内部導体の外周面を覆う圧電体と、を備えている。
圧電基材の形態は特に制限されない。例えば、コード状、リボン状等の形態であってもよい。
【0014】
圧電体が内部導体の外周面を覆う態様は、特に制限されない。例えば、長尺状の圧電体が内部導体に巻き付けられた状態であってもよい。長尺状の圧電体の形態は特に制限されず、糸状、コード状、リボン状等の形態であってもよい。
【0015】
圧電体を内部導体に巻き付ける方法は、特に限定されない。例えば、圧電体を内部導体の軸方向に対して螺旋状に巻き付けてもよいし、内部導体の軸方向に対して螺旋状に巻き付けられていなくてもよい。圧電基材の圧電感度を向上させる観点からは、圧電体が内部導体の軸方向に対して螺旋状に巻き付けられていることが好ましい。圧電体は、重なり合うように巻き付けされていてもよいし、重なり合わないように巻き付けられていてもよい。圧電感度の観点からは、圧電体は、内部導体の外周面の全面を覆っていることが好ましい。
圧電体は、内部導体の外周面上に直接的に巻き付けられていてもよく、間接的に(例えば、内部導体と圧電体との間に電気的絶縁体等を配置した状態で)巻き付けられてもよい。
【0016】
圧電基材では、螺旋状に巻回されている圧電体にずり応力が印加されることにより、電荷が発生しやすい。これにより、圧電性が発現しやすい。
圧電体へのずり応力の印加は、圧電体を変形させるによって行うことができる。例えば、第1非塑性変形、第2非塑性変形、又は第3非塑性変形等によって圧電体にずり応力を印加することができる。
第1非塑性変形は、螺旋状に巻回されている圧電体の全体を螺旋軸方向に引っ張ることを示す。
第2非塑性変形は、螺旋状に巻回されている圧電体の一部を捻る(即ち、圧電糸の一部を螺旋軸を軸として捻る)ことを示す。
第3非塑性変形は、螺旋状に巻回されている圧電体の一部又は全体を曲げることを示す。
【0017】
圧電体は、内部導体に、一方向に螺旋状に巻回されていることが好ましい。
「一方向に螺旋状に巻回されている」とは、第1巻回態様、又は第2巻回態様を示す。
第1巻回態様は、圧電基材の一端から見たときに、手前側から奥側に向けて左巻き(即ち、反時計回り)となるように、内部導体に圧電糸が螺旋状に巻回されていることを示す。
第2巻回態様は、圧電基材の一端から見たときに手前側から奥側に向けて右巻き(即ち、時計回り)となるように、内部導体に圧電体が螺旋状に巻回されていることを示す。
圧電体が一方向に螺旋状に巻回されている場合には、発生した電荷の極性が打ち消し合う現象(即ち、圧電性が低下する現象)が抑制される。従って、圧電基材の圧電性は、より向上する。
【0018】
圧電基材が一方向に螺旋状に巻回されている圧電体を備える態様は、圧電体からなる層の一層のみを備える態様だけでなく、圧電体からなる層を複数層重ねた態様も包含する。
圧電体からなる層を複数層重ねた態様として、例えば、一方向に螺旋状に巻回されている一層目の圧電体からなる層の上に重ねて、二層目の圧電体からなる層を上記一方向と同じ方向に螺旋状に巻回した態様が挙げられる。
圧電基材の態様としては、圧電体が一方向に螺旋状に巻回されてなる第1層と、第1層の圧電体とは異なる方向に圧電体が螺旋状に巻回されてなる第2層と、を備える態様も挙げられる。この態様では、第1層に含まれる光学活性ポリペプチドのキラリティと、第2層に含まれる光学活性ポリペプチドのキラリティとは、互いに異なる。
【0019】
圧電体が内部導体に螺旋状に巻回されている場合、圧電体の螺旋角度は、好ましくは20°~70°、より好ましくは25°~65°、さらに好ましくは30°~60°である。
本開示において「螺旋角度」とは、内部導体の軸方向と、圧電体の長さ方向とがなす角度を示す。螺旋角度の測定は、圧電体が内部導体に螺旋状に巻回された状態の圧電基材〈圧電基材が後述する外部導体を備える場合は、外部導体を取り除いた状態)の外観を光学顕微鏡で写真撮影して行う。観察された圧電基材のうち、圧電体の角度が極端にずれている部位を除いた5点において画像処理により角度を測定し、得られた測定値の平均値を圧電体の螺旋角度とする。
【0020】
圧電体の厚みは、特に限定されず、好ましくは0.02mm以上2.00mm以下、より好ましくは0.05mm以上1.00mm以下である。
【0021】
圧電体は、光学活性ポリペプチドからなる繊維を含む。以下、光学活性ポリペプチドからなる繊維を「光学活性ポリペプチド繊維」ともいう。
圧電体が光学活性ポリペプチド繊維を含むことにより、圧電基材が圧電性を発現する。
【0022】
光学活性ポリペプチド繊維は、糸状の圧電体に含まれた状態であってもよい。以下、糸状の圧電体を「圧電糸」ともいう。
圧電糸は、撚糸であっても無撚糸であってもよい。なかでも、圧電糸は、圧電性の観点から、撚糸であることが好ましい。無撚糸は、1本の原糸(繊維)、複数本の原糸(繊維)の集合体等が挙げられる。
撚糸を構成する原糸(繊維)の数は、特に限定されず、圧電糸の強度を確保する観点から、好ましくは3本~120本、より好ましくは4本~30本である。
圧電糸に含まれる繊維は、光学活性ポリペプチド繊維のみであっても、光学活性ポリペプチド繊維と光学活性ポリペプチドではない繊維の組み合わせであってもよい。圧電基材の圧電感度を向上させる観点からは、圧電糸に含まれる繊維は光学活性ポリペプチド繊維のみであることが好ましい。
【0023】
圧電糸の撚数は、好ましくは500T/m以下、より好ましくは300T/m以下である。圧電糸の撚数がこの範囲内にあると、圧電糸は破断しにくくなるとともに、圧電基材の圧電感度がより優れる。
【0024】
圧電糸の太さ(圧電糸が複数の繊維の集合体である場合には集合体全体の太さ)は、特に制限されず、好ましくは0.0001mm~2mm、より好ましくは0.001mm~1mm、さらに好ましくは0.005mm~0.8mmである。
圧電糸が、1本の原糸又は複数の原糸の集合体である場合、原糸1本の繊度は、好ましくは0.01デニール~10000デニール、より好ましくは0.1デニール~1000デニール、さらに好ましくは1デニール~100デニールである。
【0025】
圧電糸は、複数の圧電糸の集合体の状態であってもよい。複数の圧電糸の集合体は、コード状、リボン状等の形態であってよい。複数の圧電糸の集合体は、樹脂等で圧電糸同士を結着させた状態であってもよい。
【0026】
光学活性ポリペプチド繊維は、長繊維であることが好ましい。光学活性ポリペプチド繊維が長繊維であると、圧電基材に印加されたずり応力が圧電基材に伝わり易く、優れた圧電感度が得られる。
本開示において「長繊維」とは、圧電基材の長さ方向の一端から他端まで連続して巻回できる長さを有する繊維を意味する。
長繊維の光学活性ポリペプチド繊維としては、シルク(絹糸)、ウール、モヘヤ、カシミア、キャメル、ラマ、アルパカ、ビキューナ、アンゴラ、及びクモ糸が挙げられる。これらの中でも圧電性の観点からは、シルク及びクモ糸が好ましい。
【0027】
本開示において、光学活性ポリペプチド繊維の配向度Fは、0.50以上1.00未満の範囲内である。
光学活性ポリペプチド繊維の配向度Fが0.50以上であれば、圧電基材の圧電性が良好である。光学活性ポリペプチド繊維の配向度Fが1.00未満であれば、圧電基材の生産性が良好である。
光学活性ポリペプチド繊維の配向度Fは、好ましくは0.50以上0.99以下、より好ましくは0.70以上0.98以下、更に好ましくは0.80以上0.97以下である。
光学活性ポリペプチド繊維の配向度Fが1.00であることは、光学活性ポリペプチド繊維に含まれる光学活性ポリペプチドの主配向方向と、光学活性ポリペプチド繊維の長さ方向とが平行であることを示す。また、光学活性ポリペプチド繊維の配向度Fが0.80以上1.00未満であることは、光学活性ポリペプチド繊維に含まれる光学活性ポリペプチドの主配向方向と、光学活性ポリペプチド繊維の長さ方向とが略平行であることを示す。
光学活性ポリペプチド繊維の配向度Fは、サンプル(圧電体)を試料ホルダーに固定し、X線回折測定から、配向性由来のピーク付近(例えば、シルクの場合は2θ=20°付近)の方位角分布強度を測定し、下記式(a)によって求められる値であり、c軸配向度を意味する。
配向度F=(180°-α)/180° … 式(a)
〔式(a)中、αは配向由来のピークの半値幅(°)を表す。〕
【0028】
本開示において、圧電体の長さ方向と、圧電体に含まれる光学活性ポリペプチドの主配向方向とは略平行であることが好ましい。
圧電体の長さ方向と、圧電体に含まれる光学活性ポリペプチドの主配向方向とが略平行であることで、圧電基材の圧電性が良好に発現に発現する。
さらに、圧電体の長さ方向と、圧電体に含まれる光学活性ポリペプチドの主配向方向とが略平行であることで、圧電体の長さ方向に対する引張強度に優れ、破断しにくい。
圧電体が光学活性ポリペプチド繊維(例えば、シルク又はクモ糸)を含む圧電糸の状態である場合、シルク又はクモ糸の生成の過程で、圧電体の長さ方向と、圧電体に含まれる光学活性ポリペプチド(例えば、フィブロイン又はクモ糸タンパク質)の主配向方向とが略平行となる。
圧電体の長さ方向と、圧電体に含まれる光学活性ポリペプチドの主配向方向とが略平行であることは、X線回折測定において、サンプル(圧電体)の設置方向と結晶ピークの方位角と、を比較することによって確認できる。
圧電体の長さ方向と、圧電体に含まれる光学活性ポリペプチドの主配向方向とを略平行にする方法としては、例えば、光学活性ポリペプチド繊維の配向度Fが0.80以上1.00未満の光学活性ポリペプチド繊維を用いて圧電体を形成する方法が挙げられる。具体的には、光学活性ポリペプチド繊維の配向度Fが0.80以上1.00未満の光学活性ポリペプチド繊維を用いて作製した撚糸を圧電体として用いる方法が挙げられる。
【0029】
光学活性ポリペプチド繊維は、圧電体の圧電性及び圧電体の強度の観点から、βシート構造を有する光学活性ポリペプチドからなることが好ましい。
【0030】
βシート構造を有する光学活性ポリペプチドとしては、光学活性を有する動物性タンパク質、光学活性を有する合成タンパク質等が挙げられる。
光学活性を有する動物性タンパク質としては、フィブロイン、クモ糸タンパク質、セリシン、コラーゲン、ケラチン、エラスチン等が挙げられる。クモ糸タンパク質としては、特許文献1に記載のクモ糸タンパク質を用いることができる。クモ糸タンパク質としては、人工的に合成する手法で得られた人工クモ糸を用いることができる。
なかでも、光学活性ポリペプチドは、フィブロイン及びクモ糸タンパク質の少なくとも一方を含むことが好ましく、フィブロインを含むことが好ましい。
光学活性を有する合成タンパク質としては、例えば、合成クモ糸(例えば、「QMONOS(登録商標)」、合成ミノムシ糸、合成タンパク質(例えば、「Brewed Protein(登録商標)」等)等が挙げられる。光学活性を有する合成タンパク質の形態は、糸状が好ましい。上記の合成タンパク質を含む糸状繊維は、「Brewed Protein(登録商標)」を含む糸又は衣類等から得ることもできる。
【0031】
βシート構造を有する光学活性ポリペプチドからなる繊維としては、光学活性を有する動物性タンパク質からなる繊維が挙げられる。光学活性を有する動物性タンパク質からなる繊維としては、例えば、シルク、ウール、モヘヤ、カシミア、キャメル、ラマ、アルパカ、ビキューナ、アンゴラ、クモ糸、等が挙げられる。
なかでも、光学活性ポリペプチド繊維は、圧電性の観点から、シルク及びクモ糸の少なくとも一方を含むことが好ましく、シルク及びクモ糸の少なくとも一方からなることがより好ましく、シルクからなることが特に好ましい。
【0032】
シルクとしては、生糸シルク(raw silk)、精錬シルク、再生シルク、蛍光シルク等が挙げられる。
シルクとしては、生糸又は精錬シルクが好ましく、精錬シルクが特に好ましい。
「精錬シルク」とは、セリシンとフィブロインとの2重構造である生糸からセリシンを取り除いたシルクを示す。「精錬」とは、生糸からセリシンを取り除く操作を示す。生糸の色は艶の無い白色であるが、生糸からセリシンを取り除くこと(即ち、精錬)により、艶の無い白色から光沢がある白銀色へと変化する。また、精錬により、柔らかい風合いが増す。
【0033】
圧電体で内部導体の外周部を覆う際には、接着剤を用いてもよい。
接着剤を用いることで、圧電体が内部導体の外周部を覆った状態が良好に保持される。
その結果、圧電基材に外部応力が印加された際に、外部応力に起因するずり応力が圧電糸に作用しやすくなる。
【0034】
接着剤として具体的には、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、酢酸ビニル樹脂系エマルション型接着剤、エチレン酢酸ビニル系エマルション型接着剤、アクリル樹脂系エマルション型接着剤、スチレンブタジエンゴム系ラテックス型接着剤、シリコーン樹脂系接着剤、α-オレフィン系接着剤、塩化ビニル樹脂系溶剤型接着剤、ゴム系接着剤、弾性接着剤、クロロプレンゴム系溶剤型接着剤、ニトリルゴム系溶剤型接着剤、及びシアノアクリレート系接着剤が挙げられる。
【0035】
(内部導体)
圧電基材は、長尺状の内部導体を備える。
内部導体は、圧電基材の芯として機能する。
内部導体としては、電気的な良導体であることが好ましく、例えば、銅線、アルミ線、SUS(Steel Use Stainless)線、絶縁皮膜で被覆された金属線、カーボンファイバー、カーボンファイバーと一体化した樹脂繊維、錦糸線、有機導電材料等が挙げられる。錦糸線は、繊維に銅箔がスパイラルに巻回されてなる。繊維の外径は、圧電基材の所望の特性に応じて適宜調整され、好ましくは0.1mm以上10mm以下である。
中でも、内部導体は、圧電感度、及び圧電出力の安定性を向上し、高い屈曲性を付与する観点から、錦糸線、又はカーボンファイバーが好ましく、特に、電気的抵抗が低い観点から、錦糸線が好ましい。
【0036】
(外部導体)
圧電基材は、圧電感度及び静電シールド性向上の観点から、外部導体を更に備えることが好ましい。
外部導体は、圧電体の外周側に配置される。内部導体と外部導体とは電気的に接続されていない。
【0037】
外部導体は、例えば、圧電基材から電気的信号を検出するために、内部導体の対となる導体として機能する。
外部導体は、圧電層の外周面の一部に配置されてもよく、圧電層の外周面の全体に配置されてもよい。
【0038】
外部導体は、圧電体に固定されていてもよいし、圧電体に固定されていなくてもよい。
【0039】
外部導体は、例えば、長尺状の導体を圧電体の外周側に巻回して形成される。
長尺状導体の断面形状は、例えば、円形状、楕円形状、矩形状、異形状等が挙げられる。中でも、圧電基材に平面で密着し、圧電基材の圧電感度を向上させる観点から、長尺状導体の断面形状は、矩形状が好ましい。
長尺状導体の材料は、特に限定されず、断面形状によって、主に以下のものが挙げられる。
矩形断面を有する長尺状導体としては、円形断面の銅線を圧延して平板状に加工した銅箔リボン、アルミニウム箔リボン等が挙げられる。
円形断面を有する長尺状導体としては、銅線、アルミニウム線、SUS線、絶縁皮膜で被覆された金属線、カーボンファイバー、カーボンファイバーと一体化した樹脂繊維、繊維に銅箔がスパイラルに巻回された錦糸線等が挙げられる。
長尺状導体として、有機導電材料を絶縁材料でコーティングしたものを用いてもよい。
長尺状導体の巻回方法は、例えば、圧電基材に対して銅箔等を螺旋状に巻回する方法、銅線等を筒状の組紐にして、圧電基材を包みこむ方法、圧電基材を円筒状に包接する方法等が挙げられる。
【0040】
(防水被覆)
圧電基材は、圧電体の外周面を覆う防水被覆を備える。
防水被覆は、圧電体の外周面を直接覆っていても、間接的に(例えば、圧電体と防水被覆との間に外部導体が配置された状態で)覆っていてもよい。
【0041】
防水被覆の材質は特に制限されないが、防水性と電気的絶縁性とを示す材質であることが好ましい。防水性と電気的絶縁性とを示す材質としては、樹脂が挙げられる。
防水被覆に使用される好適な樹脂としては、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、四フッ化エチレン・パーフロロプロピルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ素ゴム、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ゴム(エラストマーを含む)等が挙げられる。
【0042】
防水被覆は、圧電体側から第1被覆及び第2被覆をこの順に含む。第1被覆及び第2被覆の材質は同じであっても異なっていてもよい。防水被覆は、第1被覆及び第2被覆以外の層をさらに含んでいてもよい。
【0043】
第1被覆は、防水被覆の下にある部材の表面に対する密着性に優れていることが好ましい。具体的には、防水被覆の下にある部材の表面に存在する凹凸形状にあわせて変形しやすいことが好ましい。したがって、第1被覆は比較的弾性率の低い材料から形成されることが好ましい。
第1被覆の好適な材料としては、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、ゴム(エラストマーを含む)、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂などが挙げられる。
第1被覆の厚み(厚みが一定でない場合は、厚みの最小値)は、特に制限されない。
充分な密着性を発現する観点からは、第1被覆の厚みは30μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、150μm以上であることがさらに好ましい。
充分な圧電感度を確保する観点からは、第1被覆の厚みは250μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。
【0044】
第2被覆は、外部からの水蒸気の透過を遮断する性能に優れていることが好ましい。したがって、第2被覆は水蒸気透過率が低い材料から形成されることが好ましい。
第2被覆の好適な材料としては、ポリエチレン樹脂(PE)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、四フッ化エチレン・パーフロロプロピルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ素ゴムなどが挙げられる。
第2被覆の厚み(厚みが一定でない場合は、厚みの最小値)は、特に制限されない。
充分な水蒸気バリア性発現する観点からは、第2被覆の厚みは1μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、100μm以上であることがさらに好ましい。
充分な圧電感度を確保する観点からは、第2被覆の厚みは250μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。
【0045】
第1被覆及び第2被覆は、それぞれ溶融した樹脂によって形成された状態であっても、それ以外の状態であってもよい。例えば、長尺状の材料を圧電基材の長さ方向に沿って螺旋状に巻回して形成された状態であってもよい。
防水性能に優れた防水被覆を得る観点からは、第1被覆は長尺状の材料を圧電基材の長さ方向に沿って螺旋状に巻回して形成された状態であり、第2被覆は溶融した樹脂によって形成された状態であることが好ましい。
【0046】
防水被覆の全体の厚み(厚みが一定でない場合は、厚みの最小値)は、特に制限されない。
充分な防水性を確保する観点からは、防水被覆の厚みは31μm以上であることが好ましく、110μm以上であることがより好ましく、250μm以上であることがさらに好ましい。
充分な圧電感度を確保する観点からは、防水被覆の厚みは500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。
【0047】
防水被覆は、外側電気的絶縁体(以下、「第1絶縁体」という。)としての機能を果たすものであってもよい。第1絶縁体は、圧電基材の最外周に配置される。換言すると、圧電基材の外周面の少なくとも一部は、第1絶縁体によって構成されていてもよい。
第1絶縁体は、圧電基材の最外周の全面を覆っていることが好ましい。換言すると、圧電基材の外周面の全面は、第1絶縁体で構成されていることが好ましい。これにより、内部導体を静電シールドすることが可能となる。その結果、外部の静電気に起因する圧電感度の変化を抑制できる。
【0048】
圧電基材は、外部導体を備える場合、内側電気的絶縁体(以下、「第2絶縁体」という。)を更に備えてもよい。第2絶縁体は、例えば、圧電体と内部導体との間、及び圧電体と外部導体との間の少なくとも一方に配置される。
これにより、内部導体と外部導体、又は圧電体と外部導体との間における短絡の発生をより抑制することができる。
第2絶縁体は、例えば、長尺状の絶縁体を外部導体の外周面に沿って螺旋状に巻回して形成される。あるいは、第2絶縁体は溶融した絶縁体を用いる押出成形によって形成される。
第2絶縁体の材料としては、第1絶縁体の材料として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0049】
(機能層)
圧電基材は、機能層を更に備えていてもよい。機能層としては、例えば、易接着層、ハードコート層、屈折率調整層、アンチリフレクション層、アンチグレア層、易滑層、アンチブロック層、保護層、帯電防止層、放熱層、紫外線吸収層、アンチニュートンリング層、光散乱層、偏光層、ガスバリア層、色相調整層、電極層等が挙げられる。
圧電基材に含まれる機能層は、1種のみでも2種以上であってもよい。
機能層の材料は、機能層に要求される機能に応じて適宜選択され、例えば、金属、金属酸化物等の無機物;樹脂等の有機物;樹脂と微粒子とを含む複合組成物;等が挙げられる。樹脂としては、例えば、温度や活性エネルギー線で硬化させることで得られる硬化物が挙げられる。
【0050】
(配線部材)
圧電基材は、内部導体と電気的に接続された配線部材をさらに備えてもよい。
圧電基材が外部導体を備える場合、圧電基材は外部導体と電気的に接続された配線部材をさらに備えてもよい。
【0051】
配線部材の形態は、圧電基材の内部導体と電気的に接続できるものであれば特に制限されない。配線部材は、例えば、長尺状の内部導体と、内部導体の周囲に配置される誘電性絶縁層と、前記誘電性絶縁層の周囲に配置される外部導体と、を備える同軸ケーブルであってもよい。
配線部材が同軸ケーブルである場合、同軸ケーブルの内部導体と圧電基材の内部導体とが電気的に接続され、かつ、圧電基材の外部導体と同軸ケーブルの外部導体とが電気的に接続された状態であってもよい。
【0052】
(圧電基材の構成例)
以下、圧電基材の構成の具体例について、図面を参照しながら説明するが、本開示は以下の具体例に限定されるものではない。
説明の便宜上、以下の図面において防水被覆は省略している。
【0053】
図1Aは、本開示の一実施形態に係る圧電基材10Aの外観を示す概略側面図である。
図1Bは、
図1AのIB-IB線断面図である。
【0054】
圧電基材10Aは、
図1Aに示すように、長尺状の内部導体12Aと、圧電層14Aとを備える。圧電層14Aは、内部導体12Aの外周面に沿って、螺旋角度β1にて一端から他端にかけて、隙間がないように一方向に螺旋状に巻回されている。
圧電層14Aは、圧電糸140Aが内部導体12Aの外周面に、内部導体12Aに対して左巻で巻き付けられて形成されている。圧電糸140Aは、光学活性ポリペプチド繊維を含む。
図1A中、螺旋角度β1は、側面視において、螺旋軸G1の方向(内部導体12Aの軸方向)と、圧電糸140Aの長さ方向とのなす角度である。
図1A中、両矢印E1は、圧電層14Aに含まれる光学活性ポリペプチドの主配向方向を示す。即ち、圧電糸140Aに含まれる光学活性ポリペプチドの主配向方向と、圧電糸140Aの長さ方向とが、略平行となっている。
【0055】
以下、圧電基材10Aの作用効果について説明する。
例えば、圧電基材10Aの長さ方向に張力が印加されると、圧電層14Aに含まれる光学活性ポリペプチドにずり応力が加わり、光学活性ポリペプチドは分極する。この光学活性ポリペプチドの分極は、
図1B中の矢印で示されるように、圧電基材10Aの径方向に位相が沿った状態で生じると考えられる。これにより、圧電基材10Aの圧電性が発現する。
【0056】
図2は本開示の一実施形態に係る圧電基材20Aの外観を示す概略側面図である。
圧電基材20Aは、内部導体12A及び圧電層14Aに加えて圧電層14Aの周囲に配置される外部導体22Aを備える点で、
図1Aに示す圧電基材10Aと異なる。
【0057】
図2に示すように、圧電基材20Aは内部導体12Aと、圧電層14Aと、外部導体22Aとを備える。外部導体22Aは、圧電層14Aよりも外周側に配置されている。外部導体22Aは、圧電層14Aの周りに長尺状の導体(例えば、銅箔)を螺旋状に巻回することによって形成されている。
【0058】
図2に示すように、圧電基材20Aでは圧電層14Aの端部と外部導体22Aの端部との位置がずれている。これにより、内部導体12Aと外部導体22Aとが電気的に絶縁されている。但し、本開示は内部導体12Aと外部導体22Aとを電気的に絶縁する方法は
図2に示された構成に限られない。
【0059】
圧電基材20Aは、内部導体12Aを備えるので、圧電層14Aに生じた電気的信号(電圧信号又は電荷信号)を、内部導体12Aを介してより容易に取り出すことができる。
更に、圧電基材20Aは外部導体22Aを備えるので、外部導体22Aによって圧電基材20Aの内部(圧電層14A、及び、内部導体12A)を静電シールドすることができる。このため、圧電基材20Aの外部の静電気の影響による、内部導体12Aの電圧変化を抑制でき、その結果、より安定した圧電性が得られる。
【0060】
(圧電基材の用途)
圧電基材の用途は、特に制限されず、例えば、センサー、アクチュエーター、エネルギーハーベスター、生体情報取得デバイス等が挙げられる。
すなわち、本開示の実施形態には本開示の圧電基材を含むセンサー、アクチュエーター、エネルギーハーベスター及び生体情報取得デバイスが含まれる。
センサーとして具体的には、力センサー、圧力センサー、変位センサー、変形センサー、モーションセンサー、振動センサー、衝撃センサー、超音波センサー等が挙げられる。
【0061】
生体情報取得デバイスは、圧電基材によって被験者又は被験動物(以下、これらをまとめて「被験体」ともいう)の生体信号を検出することにより、被験体の生体情報を取得する。生体信号としては、在不在、体動、脈波信号(心拍信号)、呼吸信号、体動信号、心弾動、生体振戦等が挙げられる。生体振戦とは、身体部位(手指、手、前腕、上肢等)の律動的な不随意運動を意味する。心弾動の検出には、身体の心機能による力の効果の検出も含まれる。即ち、心臓が大動脈及び肺動脈に血液をポンピングする場合、体は、血流と反対の方向に反動力を受ける。この反動力の大きさ及び方向は、心臓の機能的な段階とともに変化する。この反動力は、身体の外側の心弾動をセンシングすることによって検出される。
【0062】
生体情報取得デバイスが適用される物品は、特に制限されない。例えば、生体情報取得デバイスは座席、ステアリング、シート、シートバック、シートベルト、シフトノブ、ひじ掛け、ヘッドレスト、ハンドル等の被検体が接触する物品に適用されてもよい。あるいは、被検体が身に着ける衣類、帽子、腕時計等の物品に適用されてもよい。
本開示の生体情報取得デバイスは、情報処理装置の検出部として好適に用いられる。情報処理装置は、生体情報取得デバイスから被験体の生体信号を取得し、取得した生体信号に基づいて被検体の異常検知や体調異常等を検知する。情報処理装置は人工知能(AI:Artificial Intelligence)を利用するものであってもよい。
【0063】
以下、本発明に係る実施形態を、実施例を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0064】
[実施例1]
(圧電糸の作製)
光学活性ポリペプチド繊維として、21デニールの生糸シルクを準備した。生糸シルクは、光学活性ポリペプチドからなる長繊維である。生糸シルクの太さは0.06mm~0.04mmであった。
上述した生糸シルクを公知の方法により6本片撚り(撚数150T/m)した糸を精錬して、精練シルクからなる圧電糸を作製した。
【0065】
広角X線回折装置(リガク社製の「RINT2550」、付属装置:回転試料台、X線源:CuKα、出力:40kV 370mA、検出器:シンチレーションカウンター)を用い、圧電糸をホルダーに固定し、結晶面ピーク[2θ=20°]の方位角分布強度を測定した。
得られた方位角分布曲線(X線干渉図)において、ピークの半値幅(α)から、下記式(a)により、圧電糸に含まれる光学活性ポリペプチド繊維の配向度F(c軸配向度)を算出した。結果は0.86であった。
配向度(F)=(180°-α)/180° … (a)
(αは配向由来のピークの半値幅)
【0066】
圧電糸に含まれる光学活性ポリペプチド繊維の配向度Fが0.86であったこと、及び精練シルクを用いて6本片撚りした糸(圧電糸)を作製したことから、圧電糸の長さ方向と、圧電糸に含まれる光学活性ポリペプチドの主配向方向とは略平行であると評価することができる。
【0067】
(圧電基材の作製)
内部導体として、株式会社明清産業製の錦糸線「U24-01-00」(線径0.26mm、長さ200m)を準備した。
圧電糸を内部導体の外周面上に、螺旋角度が約45°となるように左巻きで巻きつけることで、内部導体の外周面上に圧電糸からなる層(圧電糸層)を形成した。形成された圧電糸層は、内部導体の外周面の全面を覆っていた。つまり、内部導体の外周面は露出していなかった。
圧電糸層の外周に、接着剤として東亞合成株式会社製の「901H3」(シアノアクリレート系接着剤)を滴下し、圧電糸層の内部に染み込ませた。その後、すぐにキムワイプで余剰分の接着剤を圧電糸の外周面からふき取り、室温で接着剤を硬化させた。
【0068】
外部導体として、平角断面の圧延銅箔リボン(幅:0.3mm、厚さ:30μm)を準備した。この圧延銅箔リボンを、圧電糸層の外周面上に右巻きに巻きつけることで、圧電糸層の外周面に外部導体を形成した。外部導体は、圧電糸層の外周面の全面を覆っていた。つまり、圧電糸層の外周面は露出していなかった。
【0069】
外部導体の外周に、防水被覆を形成した。具体的には、外部導体の上にPTFEフィルムを左巻きに巻き付けて、厚さが0.15mmの第1被覆を形成した。次いで、第1被覆の上に溶融したFEPを用いた押出成形によって厚さが0.15mmの第2被覆を形成した。以上の工程を経て、2層構造の防水被覆を備える圧電基材を得た。
【0070】
(圧電感度の測定)
作製した圧電基材を用いて、圧電感度の初期値を測定した。
具体的には、圧電基材の両端を引張試験機に固定(チャック間距離:150mm)し、1.0N~2.0Nの応力範囲で、0.5Hzで周期的に三角波状に繰り返し応力を印加し、そのときの圧電基材の表裏に発生する電荷量をエレクトロメータ(ケースレー社製のプログラマブルエレクトリックメータ「617」)で測定した。
測定した発生電荷量Q[C]をY軸とし、圧電基材の引張力F[N]をX軸としたときの散布図の相関直線の傾きから単位引張力当たりの発生電荷量を算出し、圧電感度の初期値とした。結果は1.7pC/N・mmであった。
【0071】
(高温高湿保管試験)
圧電基材を1m長さに切り取り、ホットメルト中量吐出グルーガン(三洋ライフマテリアル製の「TEC806ー12」)を用いて、ポリオレフィン系樹脂(三洋ライフマテリアル製の「912K」)を用いて圧電基材の切断面である端部の周囲に樹脂部を形成した。樹脂部の表面から圧電基材の端部までの距離が5mm以上10mm以下となるように樹脂部を形成することで、樹脂部の外部から端部への水分の浸入を抑制した。
続いて、端部を封止した圧電基材を温度85℃、湿度85%rhの環境下に設定した恒温恒湿槽(ヤマト科学製の「IG-420」)に入れて、恒温恒湿試験を実施した。この時、端部を封止した圧電基材1mのうち、中間点から両端にかけての各25cm程度の部分を恒温槽内に納まるように配置し、両端部から中間点にかけての25cmの部分はケーブル孔や開放扉などから、恒温槽外に出るよう圧電基材を固定した。
85℃、85%RHの恒温恒湿槽に24時間入れたのち、恒温恒湿槽内に配置した50cmの部位のみを使用して、発生電荷量(圧電感度)を測定した。圧電基材を恒温恒湿槽から取り出してから発生電荷量の測定までの時間は、23℃、50%RHの環境下にて、30分以上1時間未満とした。結果は2.0pC/N・mmであり、充分な感度が維持されていた。
【0072】
[比較例1]
防水被覆として第1被覆のみを形成し、第2被覆を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして圧電基材を作製し、実施例1と同様にして高温高湿保管試験を実施した。圧電感度の測定結果は初期値が2.5pC/N・mmであり、保管試験後の値は0.3pC/N・mmであり、感度維持率は12%であった。
【0073】
[比較例2]
防水被覆として第2被覆のみを形成し、第1被覆を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして圧電基材を作製し、実施例1と同様にして高温高湿保管試験を実施した。圧電感度の測定結果は初期値が2.3pC/N・mmであり、保管試験後の値は0.2pC/N・mmであり、感度維持率は8.7%であった。
【0074】
以上の結果から、第1被覆と第2被覆とを含む防水被覆を備える圧電基材は良好な圧電感度が維持されることがわかった。