(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136272
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】炭素材料前駆体、炭素材料前駆体の製造方法、炭素材料の製造方法、炭素材料前駆体製造用組成物、及び炭素材料前駆体製造用組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 33/26 20060101AFI20240927BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20240927BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08L33/26
C08L1/00
C08K7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047345
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】森下 卓也
(72)【発明者】
【氏名】成田 麻美子
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB002
4J002AB012
4J002AB052
4J002BG131
4J002FA042
4J002HA06
(57)【要約】
【課題】延伸処理又は耐炎化処理時の軟化による垂れ及び融着の発生を低減することが可能な炭素材料前駆体、炭素材料前駆体の製造方法、炭素材料前駆体の製造に用いる炭素材料前駆体製造用組成物、及び炭素材料前駆体製造用組成物の製造方法、並びに炭素材料前駆体を用いた炭素材料の製造方法を提供する。
【解決手段】バイオマスファイバーとアクリルアミド系ポリマーとを含む、炭素材料前駆体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスファイバーと、アクリルアミド系ポリマーとを含む、炭素材料前駆体。
【請求項2】
前記バイオマスファイバーの含有量が、前記アクリルアミド系ポリマーの含有量に対して0.1~40質量%である、請求項1に記載の炭素材料前駆体。
【請求項3】
前記バイオマスファイバーが、セルロース及び含窒素多糖高分子からなる群より選択される少なくとも一種に由来するファイバーである、請求項1又は2に記載の炭素材料前駆体。
【請求項4】
前記バイオマスファイバーの繊維径が、1nm~100μmの範囲内である、請求項1又は2に記載の炭素材料前駆体。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の炭素材料前駆体を耐炎化処理して耐炎化物を得ることと、
前記耐炎化物を炭化処理することと、を含む炭素材料の製造方法。
【請求項6】
バイオマスファイバーと、アクリルアミド系ポリマーと、溶媒とを含む、炭素材料前駆体製造用組成物。
【請求項7】
前記溶媒が水を含む、請求項6に記載の炭素材料前駆体製造用組成物。
【請求項8】
バイオマスファイバーとアクリルアミド系ポリマーと溶媒とを混合する、炭素材料前駆体製造用組成物の製造方法。
【請求項9】
前記溶媒が水を含む、請求項8に記載の炭素材料前駆体製造用組成物の製造方法。
【請求項10】
前記バイオマスファイバーの液体分散体を用いる、請求項8又は9に記載の炭素材料前駆体製造用組成物の製造方法。
【請求項11】
バイオマスファイバーとアクリルアミド系ポリマーと溶媒とを含む炭素材料前駆体製造用組成物を乾燥することを含む、炭素材料前駆体の製造方法。
【請求項12】
前記溶媒が水を含む、請求項11に記載の炭素材料前駆体の製造方法。
【請求項13】
前記バイオマスファイバーの液体分散体を用いる、請求項11又は12に記載の炭素材料前駆体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭素材料前駆体、炭素材料前駆体の製造方法、炭素材料の製造方法、炭素材料前駆体製造用組成物、及び炭素材料前駆体製造用組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料は軽量で力学特性に優れるため、炭素材料を用いた炭素材料複合材料は金属材料に置き換わる素材として注目されている。炭素材料の一つである炭素繊維の製造方法としては、ポリアクリロニトリルを紡糸して得られる繊維束に耐炎化処理を施した後、炭化処理を施す方法が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2)。
ポリアクリロニトリルは、安価な汎用溶媒に溶解しにくいため、重合、紡糸等を行う際に、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド等の高価な有機溶媒を使用する必要があり、炭素繊維の製造コストが高くなるという問題があった。
【0003】
一方、アクリルアミド系モノマーを含有するアクリルアミド系ポリマーは水溶性のポリマーであり、溶媒として水を使用できることから安価に製造でき、且つ環境負荷が小さく、炭素材料の製造コストの削減が期待される(例えば、特許文献3及び特許文献4)。
【0004】
しかしながら、一般的に、炭素材料前駆体の延伸処理及び耐炎化処理は160℃以上の温度で実施されるが、ガラス転移温度が約160℃であるアクリルアミド系ポリマーは、延伸処理及び耐炎化処理において160℃以上の温度で急激に軟化する。そのため、アクリルアミド系ポリマーからなる炭素材料前駆体は、水平方向で延伸処理及び耐炎化処理を施す際に、加熱によりポリマーが軟化し、融着や垂れが発生しやすい。垂れが発生すると、設備への接触や形状不良が起こり、また延伸処理及び耐炎化処理時に張力を十分にかけられないなどの不具合が発生する場合がある。融着が発生すると、炭化収率の低下や炭素材料の強度低下、外観品質の低下が起こる場合がある。
【0005】
そこで、特許文献5では、アクリルアミド系ポリマーを架橋させることで、炭素材料前駆体の軟化を抑制し、垂れにくくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-183159号公報
【特許文献2】特開2008-202208号公報
【特許文献3】特開2019-26827号公報
【特許文献4】特開2019-167516号公報
【特許文献5】特開2019-172800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献5に記載の技術により、延伸処理又は耐炎化処理の際に炭素材料前駆体の垂れの発生が抑制されるものの、架橋により延伸性が低下する傾向にあること、及び、架橋反応が完了する前に溶融が起きたり、炭素材料前駆体同士の接触部分で架橋反応が起きたりすることで、融着が発生しやすくなることが明らかとなった。
融着すると、耐炎化処理及びこれに続く炭化処理が十分に進行せず、炭化収率の低下や炭素材料の強度低下、外観品質の低下が起こるおそれがあった。
【0008】
上記状況を鑑み、本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、延伸処理及び耐炎化処理時の軟化による垂れ及び融着の発生を低減することが可能な炭素材料前駆体、及びその製造方法を提供することである。さらには、本開示の炭素材料前駆体の製造に用いる炭素材料前駆体製造用組成物、及び炭素材料前駆体製造用組成物の製造方法、並びに本開示の炭素材料前駆体を用いた炭素材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> バイオマスファイバーと、アクリルアミド系ポリマーとを含む、炭素材料前駆体。
<2> 前記バイオマスファイバーの含有量が、前記アクリルアミド系ポリマーの含有量に対して0.1~40質量%である、<1>に記載の炭素材料前駆体。
<3> 前記バイオマスファイバーが、セルロース及び含窒素多糖高分子からなる群より選択される少なくとも一種に由来するファイバーである、<1>又は<2>に記載の炭素材料前駆体。
<4> 前記バイオマスファイバーの繊維径が、1nm~100μmの範囲内である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の炭素材料前駆体。
<5> <1>~<4>のいずれか1項に記載の炭素材料前駆体を耐炎化処理して耐炎化物を得ることと、
前記耐炎化物を炭化処理することと、を含む炭素材料の製造方法。
<6> バイオマスファイバーと、アクリルアミド系ポリマーと、溶媒とを含む、炭素材料前駆体製造用組成物。
<7> 前記溶媒が水を含む、<6>に記載の炭素材料前駆体製造用組成物。
<8> バイオマスファイバーとアクリルアミド系ポリマーと溶媒とを混合する、炭素材料前駆体製造用組成物の製造方法。
<9> 前記溶媒が水を含む、<8>に記載の炭素材料前駆体製造用組成物の製造方法。
<10> 前記バイオマスファイバーの液体分散体を用いる、<8>又は<9>に記載の炭素材料前駆体製造用組成物の製造方法。
<11> バイオマスファイバーとアクリルアミド系ポリマーと溶媒とを含む炭素材料前駆体製造用組成物を乾燥することを含む、炭素材料前駆体の製造方法。
<12> 前記溶媒が水を含む、<11>に記載の炭素材料前駆体の製造方法。
<13> 前記バイオマスファイバーの液体分散体を用いる、<11>又は<12>に記載の炭素材料前駆体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、延伸処理及び耐炎化処理時の軟化による垂れ及び融着の発生を低減することが可能な炭素材料前駆体、炭素材料前駆体の製造方法、炭素材料前駆体の製造に用いる炭素材料前駆体製造用組成物、及び炭素材料前駆体製造用組成物の製造方法、並びに炭素材料前駆体を用いた炭素材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例における垂れ状態の評価方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、合成例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
【0013】
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。炭素材料前駆体中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、炭素材料前駆体中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
【0014】
本開示において、「炭素材料前駆体」とは、炭化処理を施すことにより、炭素材料を得ることができるものを意味する。
本開示において、「炭素材料前駆体製造用組成物」とは、炭素材料前駆体の製造に用いられる組成物である。
本開示において、「炭素材料」とは、炭化処理を施すことにより得られる材料を意味し、形状は問わない。例えば、炭素材料は、繊維、板、フィルム、粉体、粒体状等のいずれであってもよい。
【0015】
本開示において、「アクリルアミド系ポリマー」とは、アクリルアミド系モノマーの単独重合体又はアクリルアミド系モノマーとアクリルアミド系モノマー以外のモノマー(以下、他の重合性モノマーという。)との共重合体を意味する。
本開示において、「バイオマスファイバー」とは、生物由来資源に由来するファイバーを意味する。
【0016】
<炭素材料前駆体>
本開示の炭素材料前駆体は、バイオマスファイバーとアクリルアミド系ポリマーとを含む。本開示の炭素材料前駆体は、延伸処理又は耐炎化処理時の軟化による垂れ及び融着の発生を低減することが可能である。
【0017】
上記効果が奏される理由は以下のように推測されるが、これに限定されない。
アクリルアミド系ポリマーはガラス転移温度(Tg)の約160℃以上で急激に軟化するが、耐熱性及び補強性に優れるバイオマスファイバーを併用することで160℃以上での軟化が抑制され、垂れの発生が抑制されるものと推察される。特に、バイオマスファイバーは表面にヒドロキシ基を有するため、このヒドロキシ基とアクリルアミド系ポリマーとが水素結合し、アクリルアミド系ポリマーがバイオマスファイバー上で均一的に分布し、且つその状態が保持されることから、160℃以上での軟化及び垂れが効果的に抑制されているものと推察される。
【0018】
なお、バイオマスファイバーは表面にヒドロキシ基を有することから親水性で水分散が容易であるため、炭素材料前駆体製造用組成物において水を溶媒として用いることができる。そのため、本開示の炭素材料前駆体は、安価に製造でき、且つ環境負荷が小さいといった製造上の利点を享受できる。その他の製造上の利点については、後述する。
【0019】
(アクリルアミド系ポリマー)
本開示の炭素材料前駆体は、アクリルアミド系ポリマーを含む。アクリルアミド系ポリマーは、アクリルアミド系モノマーの単独重合体であってもよく、アクリルアミド系モノマーとアクリルアミド系モノマー以外のモノマー(以下、他の重合性モノマーという。)との共重合体であってもよい。
【0020】
アクリルアミド系ポリマーにおけるアクリルアミド系モノマー単位の含有率は、30モル%以上であることが好ましく、40モル%以上であることがより好ましく、50モル%以上であることがさらに好ましく、55モル%以上であることが特に好ましく、60モル%以上であることが最も好ましい。
アクリルアミド系モノマー単位の含有率が30モル%以上であることにより、アクリルアミド系ポリマーの水性溶媒又は水系混合溶媒に対する溶解性を向上させることができる傾向にある。
また、アクリルアミド系ポリマーにおけるアクリルアミド系モノマー単位の含有率の上限は、特に限定されるものではないが、融着抑制性等の観点からは、99.9モル%以下であることが好ましく、99モル%以下であることがより好ましく、95モル%以下であることがさらに好ましく、90モル%以下であることが特に好ましく、85モル%以下であることが最も好ましい。
アクリルアミド系モノマー単位の含有率は、30モル%~99.9モル%であることが好ましい。
【0021】
アクリルアミド系ポリマーがアクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体である場合、上記共重合体における他のモノマー単位の含有率は、融着抑制性等の観点から、0.1モル%以上であることが好ましく、1モル%以上であることがより好ましく、5モル%以上であることがさらに好ましく、10モル%以上であることが特に好ましく、15モル%以上であることが最も好ましい。
また、アクリルアミド系ポリマーの水性溶媒又は水系混合溶媒に対する溶解性の向上という観点から、他のモノマー単位の含有率の上限は、70モル%以下であることが好ましく、60モル%以下であることがより好ましく、50モル%であることがさらに好ましく、45モル%以下であることが特に好ましく、40モル%以下であることが最も好ましい。
他のモノマー単位の含有率は、0.1モル%~70モル%であることが好ましい。
【0022】
アクリルアミド系モノマーとしては、アクリルアミド;エタクリルアミド;クロトンアミド;イタコン酸ジアミド;ケイ皮酸アミド;マレイン酸ジアミド;N‐メチルアクリルアミド、N‐エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N‐イソプロピルアクリルアミド、N-n-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド等のN-アルキルアクリルアミド;N-シクロヘキシルアクリルアミド等のN-シクロアルキルアクリルアミド;N,N’-ジメチルアクリルアミド等のジアルキルアクリルアミド;ジメチルアミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等のジアルキルアミノアルキルアクリルアミド;N-(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N-(ヒドロキシエチル)アクリルアミド等のヒドロキシアルキルアクリルアミド;N‐フェニルアクリルアミド等のN-アリールアクリルアミド;ジアセトンアクリルアミド;N,N’-メチレンビスアクリルアミド等のN,N’-アルキレンビスアクリルアミド;メタクリルアミド;N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N‐n-ブチルメタクリルアミド、N‐tert-ブチルメタクリルアミド等のN-アルキルメタクリルアミド;N-シクロヘキシルメタクリルアミド等のN-シクロアルキルメタクリルアミド;N,N-ジメチルメタクリルアミド等のジアルキルメタクリルアミド;ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド等のジアルキルアミノアルキルメタクリルアミド;N-(ヒドロキシメチル)メタクリルアミド、N-(ヒドロキシエチル)メタクリルアミド等のヒドロキシアルキルメタクリルアミド;N-フェニルメタクリルアミド等のN‐アリールメタクリルアミド;ジアセトンメタクリルアミド;N,N’-メチレンビスメタクリルアミド等のN,N’-アルキレンビスメタクリルアミドなどが挙げられる。
また、アクリルアミド系ポリマーの水性溶媒又は水系混合溶媒に対する溶解性の観点から、上記のアクリルアミド系モノマーの中でも、アクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、ジアルキルアクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミド又はジアルキルメタクリルアミドが好ましく、アクリルアミドがより好ましい。
アクリルアミド系モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0023】
他の重合性モノマーとしては、シアン化ビニル系モノマー、不飽和カルボン酸及びその塩、不飽和カルボン酸無水物、不飽和カルボン酸エステル、芳香族ビニル系モノマー、ハロゲン化ビニル系モノマー、ビニルアルコール系モノマー、カルボン酸ビニル系モノマー、スルホン酸系ビニルモノマー及びその塩、オレフィン系モノマー等が挙げられる。
【0024】
シアン化ビニル系モノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、2-ヒドロキシエチルアクリロニトリル、クロロアクリロニトリル、クロロメチルアクリロニトリル、エトキシアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等が挙げられる。
不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸等が挙げられる。
不飽和カルボン酸の塩としては、不飽和カルボン酸の金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アンモニウム塩、アミン塩などが挙げられる。
【0025】
不飽和カルボン酸無水物としては、マレイン酸無水物、イタコン酸無水物等が挙げられる。
不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル等が挙げられる。
芳香族ビニル系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン等が挙げられる。
ハロゲン化ビニル系モノマーとしては、塩化ビニル等が挙げられる。
ビニルアルコール系モノマーとしては、ビニルアルコール等が挙げられる。
カルボン酸ビニル系モノマーとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。
スルホン酸系ビニルモノマーとしては、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
スルホン酸系ビニルモノマーの塩としては、スルホン酸系ビニルモノマーの例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アンモニウム塩、アミン塩などが挙げられる。
オレフィン系モノマーとしては、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブタジエン等が挙げられる。
【0026】
上記した他の重合性モノマーの中でも、アクリルアミド系ポリマーの紡糸性、融着抑制性、紡糸性等の観点からは、シアン化ビニル系モノマーが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。
また、上記した他の重合性モノマーの中でも、上記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する溶解性の観点からは、不飽和カルボン酸及びその塩が好ましく、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸又はイタコン酸がより好ましい。
また、上記した他の重合性モノマーの中でも、融着抑制性の観点からは、不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸無水物が好ましく、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸又はマレイン酸無水物がより好ましい。
上記した他の重合性モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0027】
上記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する溶解性、紡糸性、融着抑制性等の観点から、アクリルアミド系ポリマーは、アクリルアミド系モノマーと、シアン化ビニル系モノマーと、不飽和カルボン酸との共重合体であることが特に好ましく、アクリルアミドと、アクリロニトリルと、アクリル酸との共重合体であることが最も好ましい。
紡糸性、融着抑制性等の観点から、上記共重合体におけるシアン化ビニル系モノマー単位の含有率は、5モル%~40モル%であることが好ましく、10モル%~38モル%であることがより好ましい。
上記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する溶解性、融着抑制性等の観点から、上記共重合体における不飽和カルボン酸単位の含有率は、1モル%~15モル%であることが好ましく、2モル%~10モル%であることがより好ましい。
【0028】
アクリルアミド系ポリマーの重量平均分子量は、特に限定されるものではなく、通常、500万以下であるが、炭素材料前駆体の製造加工性の観点から、200万以下であることが好ましく、100万以下であることがより好ましく、50万以下であることがさらに好ましく、20万以下であることが特に好ましく、13万以下であることがまた特に好ましく、10万以下であることが最も好ましい。
また、アクリルアミド系ポリマーの重量平均分子量の下限は、特に限定されるものではないが、通常1万以上であるが、炭素材料前駆体及び炭素繊維の強度の観点から、2万以上であることが好ましく、3万以上であることがさらに好ましく、4万以上であることが特に好ましい。
【0029】
なお、本開示において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、下記条件により測定する。測定装置としては、東ソー社製のHLC-8220GPC又はこれと同程度の装置を使用することができる。
(測定条件)
・カラム:TSKgel GMPWXL×2本+TSKgel G2500PWXL×1本
・溶離液:100mM硝酸ナトリウム水溶液/アセトニトリル(=80/20(体積比))
・溶離液流量:1.0ml/min
・カラム温度:40℃
・分子量標準物質:標準ポリエチレンオキシド/標準ポリエチレングリコール
・検出器:示差屈折率検出器
【0030】
アクリルアミド系ポリマーは、市販品を使用してもよく、従来公知の方法により合成したものを使用してもよい。
アクリルアミド系ポリマーの合成は、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、リビングラジカル重合等の公知の重合反応を利用することにより行うことができる。上記重合反応の中でも、合成コスト低減の観点から、ラジカル重合が好ましい。
また、アクリルアミド系ポリマーの合成は、溶液重合、懸濁重合、沈殿重合、分散重合、乳化重合(例えば、逆相乳化重合)等の重合方法を利用することにより行うことができる。
また、溶液重合によりアクリルアミド系ポリマーの合成を行う場合、溶媒としては、原料のモノマー及び得られるアクリルアミド系ポリマーが溶解する溶媒を使用することが好ましく、低コストで安全に合成できるという観点から、水性溶媒又は水系混合溶媒を使用することがより好ましく、水性溶媒を使用することがさらに好ましい。
水性溶媒としては、水、アルコール、これらの混合溶媒等が挙げられ、水が特に好ましい。
水系混合溶媒は、上記水性溶媒と有機溶媒との混合溶媒を意味し、有機溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0031】
ラジカル重合によるアクリルアミド系ポリマーの合成において、重合開始剤を使用することが好ましい。
重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の従来公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。
溶媒として水性溶媒又は水系混合溶媒を使用する場合には、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の水性溶媒又は水系混合溶媒に可溶なラジカル重合開始剤が好ましい。
また、アクリルアミド系ポリマーの分子量を制御するという観点から、重合開始剤に代えて、又は重合開始剤と共に、重合促進剤及び分子量調節剤の少なくとも一方を使用することが好ましく、重合開始剤及び重合促進剤を併用することがより好ましい。
重合促進剤としては、テトラメチルエチレンジアミン等が挙げられる。
分子量調節剤としては、n-ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン化合物などが挙げられる。
重合開始剤である過硫酸アンモニウムと、重合促進剤であるテトラメチルエチレンジアミンとを併用することが特に好ましい。
【0032】
上記重合反応の温度としては特に制限はないが、アクリルアミド系ポリマーの分子量を制御するという観点から、35℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましく、70℃以上であることが特に好ましく、75℃以上であることが最も好ましい。重合反応温度の上限は、特に限定されるものではなく、200℃以下とすることができる。
【0033】
炭素材料前駆体は、アクリルアミド系ポリマー以外の他のポリマーを含有してもよい。
融着抑制性、耐水性等の観点から、全ポリマーの総質量に対するアクリルアミド系ポリマーの含有率は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが特に好ましく、99質量%以上であることがまた特に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0034】
アクリルアミド系ポリマー以外の他のポリマーとしては、特に制限はないが、水性溶媒又は水系混合溶媒に溶解又は分散するポリマーが好ましく、水性溶媒又は水系混合溶媒に溶解するポリマーがより好ましく、水溶性ポリマーが更に好ましい。他のポリマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸及びその塩、アクリル酸メチル等の不飽和カルボン酸エステル、ビニルアルコール、酢酸ビニル等のカルボン酸ビニル、ビニルピロリドン、ビニルスルホン酸及びその塩、ビニルスルホン酸メチル等のビニルスルホン酸エステル、ビニルベンゼンスルホン酸及びその塩、ビニルベンゼンスルホン酸エステル、カルボキシビニル、エチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物、マレイン酸やフマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びこれらの塩、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル等の不飽和ジカルボン酸エステル、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びその塩、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸エステル等のモノマーからなる群のうち少なくとも1種以上を(共)重合してなるポリマーや、アセチルセルロース、キサンタンガム等の親水性多糖高分子を好ましく挙げることができる。
【0035】
(バイオマスファイバー)
本開示の炭素材料前駆体は、バイオマスファイバーを含む。本開示のバイオマスファイバーは、生物由来資源に由来するファイバーである。生物由来資源としては特に制限はなく、例えば、セルロース(リグニン又はヘミセルロースを含有したリグノセルロース、化学修飾によりヒドロキシ基の全部又は一部をカルボキシ基、カルボキシメチル基等のカルボキシ基を含む官能基、ヒドロキシエチル基、リン酸基、ポリリン酸基、スルホン酸基、ベンゼンスルホン酸基等のスルホン酸基を含む官能基及びそれらの塩等に変性したセルロース等も含む)、含窒素多糖高分子(キチン、キトサン等)、タンパク質(シルク、蜘蛛の糸、微生物発酵による人工タンパク質等)等が挙げられる。アクリルアミド系ポリマーとの親和性、耐熱性、補強性、炭化収率、形状安定性等の観点から、セルロース及び含窒素多糖高分子(キチン、キトサン)からなる群より選択される少なくとも一種が好ましい。
ここで、キトサンは、キチンとほぼ同等の構造を有しており、キチンのアミド基がアミノ基に置き換わったものであるため、キチンとキトサンのそれぞれに由来するバイオマスファイバーは同等の特性(アクリルアミド系ポリマーとの親和性、耐熱性、補強性、炭化収率、形状安定性等)を有する。
バイオマスファイバーは1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0036】
バイオマスファイバーは、種々の製造方法から製造することができ、製造方法としては、例えば、生物由来資源の解繊を好ましく挙げることができる。解繊方法としては、機械的手法、化学的手法、及びこれらを併用する手法等を好ましく挙げることができる。中でも機械的手法による解繊、又は機械的手法による解繊と化学的手法による解繊の併用により製造されたバイオマスファイバーであることが好ましい。
【0037】
機械的手法による解繊としては、例えば、ウォータージェット、高圧ホモジナイザー、グラインダー、衝撃粉砕機、ビーズミル等を用いて生物由来資源を解繊する方法を挙げることができる。また、解繊で用いる生物由来資源は、ビーター、リファイナー等で所定の長さとしたものを用いることも好ましい。
【0038】
また機械的手法による解繊と化学的手法による解繊を併用する場合、機械的手法による解繊の前、解繊の途中、及び解繊の後の何れか1つ以上のタイミングにおいて、生物由来資源及びバイオマスファイバーの少なくとも一方に化学処理を施すことができる。化学処理により生物由来資源及びバイオマスファイバーの少なくとも一方に化学修飾をした後、機械的手法による解繊を行うと、生物由来資源をより微細化することができる。
化学的手法による解繊としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)を用いたTEMPO酸化処理、次亜塩素酸ナトリウムを用いた酸化処理、リン酸エステル化処理、硫酸エステル化処理等により、バイオマスファイバー表面のヒドロキシ基の全部又は一部をカルボキシ基、リン酸基等のイオン化しやすい官能基に変性することで、バイオマスファイバー同士の静電反発作用を用いて微細化しやすくする方法が挙げられる。イオン化しやすい官能基としては、例えば、カルボキシ基、カルボキシメチル基等のカルボキシ基含む官能基、リン酸基、ポリリン酸基、スルホン酸基、ベンゼンスルホン酸基等のスルホン酸基を含む官能基及びそれらの塩(金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等)等が挙げられる。
【0039】
バイオマスファイバーの繊維径は、アクリルアミド系ポリマーへの分散性、耐熱性、補強性、炭化収率等の観点から、1nm~100μmの範囲が好ましく、2nm~50μmの範囲がより好ましく、3nm~20μmの範囲がさらに好ましい。
【0040】
炭素繊維前駆体中に含まれるバイオマスファイバーの繊維径は、耐熱性、補強性、炭化収率等の観点から、1nm~100μmの範囲が好ましく、2nm~50μmの範囲がより好ましく、3nm~20μmの範囲がさらに好ましい。
【0041】
バイオマスファイバーの平均繊維長は、特に制限はないが、0.5μm~500μmの範囲であることが好ましく、1μm~200μmの範囲であることがより好ましい。
【0042】
炭素繊維前駆体中に含まれるバイオマスファイバーの平均繊維長は、特に制限はないが、0.5μm~500μmの範囲であることが好ましく、1μm~200μmの範囲であることがより好ましい。
【0043】
バイオマスファイバーの繊維径及び平均繊維長は、マイクロスコープ、透過電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、走査型プローブ顕微鏡(SPM)等によって測定することができる。
【0044】
バイオマスファイバーがセルロース及び含窒素多糖高分子(キチン、キトサン)由来の場合、その重合度は、特に制限はないが、耐熱性、補強性、炭化収率、形状安定性、炭素材料前駆体製造用組成物のハンドリング性の観点から、50~10000が好ましく、75~5000がより好ましく、100~2000がさらに好ましい。
【0045】
セルロース及び含窒素多糖高分子(キチン、キトサン)の重合度は、最小構成単位であるグルコース単位の連結数であり、バイオマスファイバーの繊維長と比例する。その重合度は、銅エチレンジアミン溶液を用いた粘度法によって求められる。具体的には、バイオマスファイバーをイオン交換水で含有量が2±0.3質量%となるように希釈した懸濁液30gを、遠沈管に分取して冷凍庫に一晩静置し、凍結させる。さらに凍結乾燥機で5日間以上乾燥させた後、105℃に設定した定温乾燥機で3時間以上4時間以下加熱し、絶乾状態のバイオマスファイバーを得る。リファレンスを測定するために、空の50ml容量のスクリュー管に純水15mlと1mol/Lの銅エチレンジアミン15mlを加え、0.5mol/Lの銅エチレンジアミン溶液を調製する。キャノンフェンスケ粘度計に上記の0.5mol/Lの銅エチレンジアミン溶液10mlを入れ、5分間置いた後、25℃ における落下時間を測定して溶媒落下時間とする。
次に、バイオマスファイバーの粘度を測定するため、絶乾状態のバイオマスファイバーの0.14g~0.16gを空の50ml容量のスクリュー管に量り取り、純水15mlを添加する。さらに1mol/Lの銅エチレンジアミン15mlを加え、自転公転式スーパーミキサーで1000rpm、10分撹拌し、バイオマスファイバーが溶解した0.5mol/Lの銅エチレンジアミン溶液とする。リファレンスの測定と同様に、キャノンフェンスケ粘度計に調製した0.5mol/Lの銅エチレンジアミン溶液10mlを入れ、5分間置いた後、25℃における落下時間を測定する。落下時間の測定は3回行い、その平均値をバイオマスファイバー溶液の落下時間とする。
測定に用いた絶乾状態のバイオマスファイバーの質量、溶媒落下時間、及びバイオマスファイバー溶液の落下時間から下式を用いて重合度を算出する。なお、下記の重合度を2 回以上測定した場合は、それらの平均値である。
【0046】
・測定に用いた絶乾状態のバイオマスファイバー質量:a(g)(ただし、aは0.14~0.16)
・溶液のセルロース濃度:c=a/30(g/mL)
・溶媒落下時間:t0(sec)
・バイオマスファイバー溶液の落下時間:t(sec)
・溶液の相対粘度:ηrel=t/t0
・溶液の比粘度:ηsp=ηrel-1
・固有粘度:[η]=ηsp/c(1+0.28ηsp)
・重合度:DP=[η]/0.57
【0047】
本開示では、自作したバイオマスファイバーを用いてもよく、市販のバイオマスファイバーを用いてもよい。
市販のバイオマスファイバーの例としては、株式会社スギノマシン製のRMa-10002、RMa-10005、IMa-10002、IMa-10005、BMa-10002、BMa-10005、BMa-10010、WFo-10002、WFo-10005、WFo-10010、AFo-10002、AFo-10005、AFo-10010、FMa-10002、FMa-10005、FMa-10010、WFo-UNDP、FMa-UNDP、CMF-05DP、TFo-10002、TFo-10005、SFo-20002、SFo-20005、SFo-20010、EFo-08002、EFo-08005、EFo-08010及びKCo-30005、ダイセルミライズ株式会社製のPC110T、PC110A、PC100B、ろか名人、PC110S、FD100F、FD100G、FD200L、KY100S及びKY100G、中越パルプ工業株式会社製のnanoforest-S及びnanoforest-M、東亞合成株式会社製のT-OP 100、第一工業製薬株式会社製のI-2SX、C-2SP、I-2AX及びI-2SXS、並びに大王製紙株式会社製のELLEX-S、ELLEX-P及びELLEX-☆等が挙げられる。
【0048】
延伸処理又は耐炎化処理時の融着及び垂れを抑える観点から、バイオマスファイバーの含有量はアクリルアミド系ポリマーの含有量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、0.75質量%以上であることがさらに好ましい。また、炭素材料前駆体製造用組成物の製造性の観点から、40質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。
【0049】
(その他の成分)
本開示の炭素材料前駆体は、有機溶剤、界面活性剤、架橋剤、耐炎化促進剤(酸及びその塩からなる群等)、塩化ナトリウム、塩化亜鉛等の塩化物、水酸化ナトリウム等の水酸化物、ガラスファイバー、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン等の各種フィラー、分散剤、平滑剤、吸湿剤、粘度調整剤、可塑剤、離型剤、展着剤、酸化防止剤、抗菌剤、防腐剤、防錆剤、pH調整剤等の添加成分をさらに含んでもよい。添加成分の含有量は、適宜調整できる。
【0050】
本開示の炭素材料前駆体が耐炎化促進剤を含むと、耐炎化処理を施した際に、脱水反応、脱アンモニア反応等による環状構造の形成が加速し、融着抑制性や炭化収率、炭素材料の強度、形状安定性がさらに向上する傾向にある。なお、本開示に係る炭素材料においては、前記耐炎化成分及びその残渣の少なくとも一部が残存していてもよい。
【0051】
耐炎化促進剤としては、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸、硫酸、硝酸、炭酸等の無機酸、シュウ酸、クエン酸、スルホン酸等の有機酸が挙げられる。
またこれらの酸の金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アンモニウム塩、アミン塩なども挙げられる。
上記の中でも、融着抑制性、炭化収率、炭素材料の強度及び形状安定性の観点から、耐炎化促進剤としては、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸、硫酸又はこれらのアンモニウム塩が好ましく、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸又はこれらのアンモニウム塩がより好ましく、リン酸、ポリリン酸、リン酸のアンモニウム塩又はポリリン酸のアンモニウム塩がさらに好ましい。
【0052】
耐炎化促進剤の含有量は、融着抑制性、炭化収率、炭素材料の強度及び形状安定性の観点から、アクリルアミド系ポリマー100質量部に対して、0.1質量部~100質量部であることが好ましく、0.2質量部~50質量部であることがより好ましく、0.5質量部~30質量部であることがさらに好ましく、1質量部~20質量部であることが特に好ましい。
【0053】
また、本開示の炭素材料前駆体が繊維形状の場合、集束性の向上および繊維同士の融着抑制の観点から、シリコーン系油剤等の従来公知の油剤を表面に塗布してもよい。
【0054】
<炭素材料前駆体製造用組成物>
本開示の炭素材料前駆体製造用組成物は、バイオマスファイバーと、アクリルアミド系ポリマーと、溶媒とを含む。
炭素材料前駆体製造用組成物を乾燥し、溶媒の少なくとも一部を除去することで炭素材料前駆体が得られる。例えば、フィルム状の炭素材料前駆体は、炭素材料前駆体製造組成物の塗膜を乾燥することで得られる。
【0055】
溶媒としては、水性溶媒(水、アルコール等、及びこれらの混合溶媒)、水系混合溶媒(前記水性溶媒と有機溶媒(テトラヒドロフラン等)との混合溶媒)等が挙げられ、水を含むことが好ましい。
溶媒は1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
製造コストの低減及び環境負荷の低減の観点から、溶媒の総量に対する水の含有量は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、99質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であってもよい。
【0056】
炭素材料前駆体製造用組成物における溶媒の含有率は、塗工、紡糸等の観点から適宜調整でき、製造性の観点からは、5~99%がこのましく、10~95%であることがより好ましく、25~90%であることが更に好ましい。
【0057】
炭素材料前駆体製造用組成物におけるアクリルアミド系ポリマーは、炭素材料前駆体で説明したものと同様である。
【0058】
炭素材料前駆体製造用組成物におけるバイオマスファイバーは、炭素材料前駆体で説明したものと同様である。
バイオマスファイバーは液体分散体として用いてもよい。液体(本開示では分散媒とも呼ぶ)としては、水性溶媒(水、アルコール等、及びこれらの混合溶媒)、水系混合溶媒(前記水性溶媒と有機溶媒(テトラヒドロフラン等)との混合溶媒)等が挙げられ、水を含むことが好ましい。アクリルアミド系ポリマーは水溶性であることから、水を分散媒として使用することができ、環境負荷が低減される。
【0059】
炭素材料前駆体製造用組成物における、アクリルアミド系ポリマーの含有量に対するバイオマスファイバーの含有量は、炭素材料前駆体の場合と同様である。
【0060】
炭素材料前駆体製造用組成物は、炭素材料前駆体で説明した添加成分を含有してもよい。炭素材料前駆体製造用組成物が添加成分を含む場合、添加成分の含有量は、炭素材料前駆体の場合と同様である。
【0061】
<炭素材料前駆体製造用組成物の製造方法>
炭素材料前駆体製造用組成物の製造方法は、上記の炭素材料前駆体製造用組成物が得られれば特に制限されず、バイオマスファイバーとアクリルアミド系ポリマーと溶媒とを混合して調製してもよい。溶媒として水を使用することができ、環境負荷が低減される。
【0062】
炭素材料前駆体製造用組成物の製造方法におけるアクリルアミド系ポリマーは、炭素材料前駆体で説明したものと同様である。
【0063】
炭素材料前駆体製造用組成物の製造方法におけるバイオマスファイバーは、炭素材料前駆体で説明したものと同様であり、バイオマスファイバーの液体分散体を用いることが好ましく、その分散媒は、水を含むことがより好ましい。
バイオマスファイバーの液体分散体におけるバイオマスファイバーの含有率は、バイオマスファイバーの分散性の観点から、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。また、炭素材料前駆体を得るための乾燥エネルギーを低減する観点からは、バイオマスファイバーの液体分散体におけるバイオマスファイバーの含有率は、0.5質量%以上であることが好ましく、0.75質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることがさらに好ましい。
【0064】
炭素材料前駆体製造用組成物における、アクリルアミド系ポリマーの含有量に対するバイオマスファイバーの含有量は、炭素材料前駆体の場合と同様である。
【0065】
炭素材料前駆体製造用組成物の製造方法における溶媒は、炭素材料前駆体製造用組成物で説明したものと同様であり、水を含むことが好ましい。
【0066】
バイオマスファイバーとアクリルアミド系ポリマーと溶媒との混合方法としては、具体的には、アクリルアミド系ポリマー溶液にバイオマスファイバー粉体を分散させる方法、バイオマスファイバー液体分散体にアクリルアミド系ポリマーを添加する方法、バイオマスファイバー液体分散体にアクリルアミド系ポリマーと溶媒を添加する方法、アクリルアミド系ポリマー溶液とバイオマスファイバー液体分散体とを混合する方法、アクリルアミド系ポリマーとバイオマスファイバー液体分散体と溶媒とを混合する方法、アクリルアミド系ポリマーとバイオマスファイバー粉体と溶媒とを混合する方法、アクリルアミド系ポリマーにバイオマスファイバー粉体を混練した後に溶媒を添加する方法する方法などが挙げられる。環境負荷及びバイオマスファイバーを容易かつ低コストに分散できる観点から、バイオマスファイバー液体分散体を用いるのが好ましく、その分散媒は水を含むことがより好ましい。
【0067】
さらに、上記の添加成分を添加して炭素材料前駆体製造用組成物を調製してもよい。添加成分を添加する場合、アクリルアミド系ポリマー100質量部に対する添加成分の含有量は、炭素材料前駆体の場合と同様である。
また、上記の他の添加成分を添加して炭素材料前駆体製造用組成物を調製してもよい。
添加成分及び他の添加成分は、アクリルアミド系ポリマー、マスファイバーとともに混ぜて、炭素材料前駆体製造用組成物を調製してもよい。
【0068】
<炭素材料前駆体の製造方法>
本開示の炭素材料前駆体の製造方法では、本開示の炭素材料前駆体製造用組成物を乾燥して炭素材料前駆体を得る。このようにして得られた炭素材料前駆体は、延伸処理又は耐炎化処理時の軟化による融着及び垂れが抑制される。
【0069】
炭素材料前駆体の製造方法で用いる炭素材料前駆体製造用組成物は、上述の炭素材料前駆体製造用組成物の製造方法により得ることができる。
【0070】
炭素材料前駆体製造用組成物の乾燥温度は、溶媒の少なくとも一部を除去できる温度であればよい。
【0071】
<炭素材料の製造方法>
本開示の炭素材料の製造方法は、本開示の炭素材料前駆体を耐炎化処理して耐炎化物を得ること(以下「耐炎化処理工程」ともいう)と、前記耐炎化物を炭化処理すること(以下「炭化処理工程」ともいう)と、を含む。
本開示の炭素材料前駆体を用いることで、耐炎化処理時の軟化による融着及び垂れが抑制される。本開示の炭素材料の製造方法において用いる炭素材料前駆体は上述のとおりである。
【0072】
(耐炎化処理工程)
炭素材料前駆体への耐炎化処理は、酸化性雰囲気下、炭素材料前駆体に対して熱処理を行うことにより行うことができる。
【0073】
耐炎化処理は、特に限定されるものではないが、150℃~500℃の範囲の温度で実施されることが好ましく、175℃~450℃の範囲の温度で実施されることがより好ましく、200℃~420℃の範囲の温度で実施されることがさらに好ましい。
なお、上記温度には、後述する耐炎化処理時の最高温度(耐炎化処理温度)だけでなく、耐炎化処理温度までの昇温過程等における温度も包含される。
【0074】
耐炎化処理時の最高温度(耐炎化処理温度)は、200℃~500℃であることが好ましく、250℃~450℃であることがより好ましく、305℃~440℃であることがさらに好ましく、310℃~430℃であることが特に好ましく、315℃~420℃であることが最も好ましい。
耐炎化処理温度を250℃以上とすることにより、耐炎化物の耐熱性及び炭化収率を向上することができる傾向にある。
また、耐炎化処理温度を500℃以下とすることにより、耐炎化物の熱分解を抑制することができる傾向にある。
【0075】
炭素材料前駆体の耐炎化処理時において、炭素材料前駆体に対し延伸処理を施すことが好ましい。炭素材料前駆体に対し延伸処理を施すことにより、炭素材料前駆体に含まれる架橋アクリルアミド系ポリマーが配向し、耐炎化物の引張強度を向上することができる傾向にある。
延伸処理は、耐炎化処理温度での加熱時に少なくとも実施されることが好ましい。
また、耐炎化物の引張強度向上という観点からは、耐炎化処理温度までの昇温過程においても延伸処理が実施されることが好ましい。なお、延伸処理は、昇温過程の初期から実施してもよく、途中から実施してもよい。
一実施形態において、耐炎化処理温度においては、延伸処理を実施し、それ以外の温度
については、延伸処理を実施しなくてもよい。
また、延伸処理は、紡糸処理過程又は耐炎化処理の前工程において、吸湿率を制御しつつ実施してもよい。
【0076】
延伸処理時において、炭素材料前駆体に付与する張力としては特に制限はないが、繊維形状の場合、0.05mN/tex~2000mN/texであることが好ましく、0.1mN/tex~500mN/texであることがより好ましく、0.1mN/tex~200mN/texであることがさらに好ましく、0.2mN/tex~100mN/texであることが特に好ましい。延伸処理時における炭素材料前駆体に付与する張力を上記数値範囲とすることにより、融着抑制性を向上することができ、且つ耐炎化物における切断、毛羽の発生を抑制することができる。
【0077】
なお、本開示において、繊維形状の炭素材料前駆体に付与する張力(単位:mN/tex)は、耐炎化処理時に炭素材料前駆体に付与する張力(単位:mN)を、炭素材料前駆体の絶乾状態での繊度(単位:tex)で除した値、すなわち、炭素材料前駆体の単位繊度当たりの張力である。
また、上記張力は、耐炎化炉等の加熱装置の入口及び出口における速度調整を実施したり、ロードセル、バネ、重り、エアシリンダー等を使用したりすることによって調整することができる。
【0078】
耐炎化処理時間(耐炎化処理温度での加熱時間)は、特に限定されるものではないが、炭化収率及び製造コストの観点から、1分間~120分間であることが好ましく、2分間~60分間であることがより好ましく、3分間~50分間であることがさらに好ましく、4分間~40分間が特に好ましい。
なお、耐炎化処理時間を2時間超の長時間に設定してもよい。
【0079】
また、本開示の炭素材料前駆体に対し、炭素材料前駆体の延伸性を大きく損なわない範囲で、耐熱性、強度、炭化収率、形状安定性、又は耐湿性の向上の観点から、電子線、紫外線、熱等による架橋処理を行ってもよい。
【0080】
(炭化処理工程)
炭化処理とは、炭素材料前駆体を炭化する処理を指し、低酸素環境(好ましくは酸素を遮断した環境)下、加熱処理を施すことを意味する。
【0081】
炭化処理の方法としては、不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム等)雰囲気下、耐炎化物に対し、耐炎化処理における温度よりも高い温度で加熱処理を施す方法等が挙げられる。
上記炭化処理により、耐炎化物が炭化し、炭素材料が得られる。
炭化処理における加熱最高温度は、500℃以上であることが好ましく、1000℃以上であることがより好ましく、1100℃以上であることがさらに好ましく、1200℃以上であることが特に好ましく、1300℃以上であることが最も好ましい。
また、加熱最高温度の上限値は、3000℃以下であることが好ましく、2500℃以下であることがより好ましい。
炭化処理における加熱最高温度は、500℃~3000℃であることが好ましい。
【0082】
また、炭化処理における最高温度での加熱時間は、特に限定されるものではないが、30秒~60分間であることが好ましく、1分間~30分間であることがより好ましい。
【0083】
なお、本開示において「炭化処理」には、一般的に、不活性ガス雰囲気下、2000℃~3000℃の温度で加熱することによって行われる「黒鉛化」を含んでいてもよい。
また、炭化処理は、複数回の加熱処理を含むものであってもよい。
例えば、先に1000℃未満の温度で加熱処理(予備炭化処理)を行い、次いで1000℃以上の温度で加熱処理(炭化処理)を行い、さらに、2000℃以上の温度で加熱処理(黒鉛化処理)を行うことができる。
【実施例0084】
以下、上記実施形態を実施例により具体的に説明するが、上記実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0085】
[実施例1]
アクリルアミド(AM)60モル%、アクリロニトリル(AN)35モル%及びアクリル酸(AA)5モル%を含むモノマー組成物100質量部と、テトラメチルエチレンジアミン5質量部とをイオン交換水400質量部に溶解し、水溶液を得た。
得られた水溶液を窒素雰囲気下で撹拌しながら、過硫酸アンモニウムを添加した後、80℃で150分間加熱し、重合反応を行った。
得られた水溶液をメタノール中に滴下して共重合体を析出させ、これを回収して80℃で12時間真空乾燥させ、水溶性のAM/AN/AA共重合体(AM/AN/AA=60モル%/35モル%/5モル%、「アクリルアミド系ポリマー(a-1)」)を得た。
【0086】
得られたアクリルアミド系ポリマー(a-1)100質量部と、リン酸3質量部と、セルロース由来のバイオマスファイバーIMa-10002(株式会社スギノマシン製、2質量%水分散体、平均繊維径10~50nm(カタログ値)、重合度800(カタログ値))100質量部とをイオン交換水に添加し、炭素材料前駆体製造用組成物を得た。なお、IMa-10002には、マイクロスコープによる観察の結果、繊維径がマイクロレベル(1~5μm)のバイオマスファイバーが一部含まれていた。
得られた炭素材料前駆体製造用組成物をテフロン(登録商標)製シャーレ上で乾燥し、炭素材料前駆体であるフィルム試料を作製した。
【0087】
[実施例2]
IMa-10002をセルロース由来のバイオマスファイバーWFo-10002(株式会社スギノマシン製、2質量%水分散体、平均繊維径10~50nm(カタログ値)、重合度650(カタログ値))に変更した以外は、実施例1と同様の手順でフィルム試料を作製した。なお、WFo-10002には、マイクロスコープによる観察の結果、繊維径がマイクロレベル(1~4μm)のバイオマスファイバーが一部含まれていた。
【0088】
[実施例3]
IMa-10002をセルロース由来のバイオマスファイバーFMa-10002(株式会社スギノマシン製、2質量%水分散体、平均繊維径10~50nm(カタログ値)、重合度200(カタログ値))に変更した以外は、実施例1と同様の手順でフィルム試料を作製した。なお、FMa-10002には、マイクロスコープによる観察の結果、繊維径がマイクロレベル(1~5μm)のバイオマスファイバーが一部含まれていた。
【0089】
[実施例4]
IMa-10002を含窒素多糖高分子であるキチン由来のバイオマスファイバー(SFo-10002、株式会社スギノマシン製、2質量%水分散体、平均繊維径10~50nm、重合度300)に変更した以外は、実施例1と同様の手順でフィルム試料を作製した。なお、なお、SFo-10002には、マイクロスコープによる観察の結果、繊維径がマイクロレベル(1~3μm)のバイオマスファイバーが一部含まれていた。
【0090】
[比較例1]
バイオマスファイバーを使用しないこと以外は、実施例1と同様の手順でフィルム試料を作製した。
【0091】
<評価>
(耐熱性評価)
作製したフィルム試料を幅5mm、長さ30mmの短冊状に加工した試料を用い、水平式の動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御株式会社製、DVA-220)にて、粘弾性測定を実施した。温度条件:常温~300℃、昇温条件:10℃/分、データ取り込み間隔:1℃、周波数:1Hz、ひずみ:0.05%、静動比:2.5、チャック間:20mmの条件で測定を実施した。測定データから、各温度における貯蔵弾性率を求めた。結果を表1に示す。
【0092】
(垂れ評価)
上記の粘弾性測定後の短冊状試料の状態を観察した。
図1のように、動的粘弾性測定装置の掴み部材10における掴み部間を結んだ直線と短冊状試料20の底辺の長さ(L)を測定した。結果を表1に示す。
【0093】
(融着評価)
作製したフィルム試料を2枚重ねた状態で、ホットプレート上に設置し、室温から200℃まで昇温した後、ホットプレート上でフィルム試料同士が剥がれるかをピンセットで確認した。その後、300℃まで25℃ずつ昇温する毎に、ホットプレート上でフィルム試料同士が剥がれるかをピンセットで確認した。フィルム試料同士が完全に剥がれなくなった温度を融着温度とした。結果を表1に示す。
【0094】
(炭化評価)
示差熱天秤(株式会社リガク社製、ThermoPlusEV02)を用い、作製したフィルム試料の炭化評価を行った。フィルム試料(約1~2mg)を入れた白金製パンを示差熱天秤にセットし、空気雰囲気下、室温から350℃まで昇温速度10℃/分で昇温後、350℃で10分間保持することで耐炎化を行って耐炎化後のフィルム試料を得た。
その後、耐炎化したフィルム試料を白金製パンに入れた状態のまま、窒素雰囲気下、室温から1200℃まで昇温速度20℃/分で昇温することで炭化を行いながら質量を測定した。測定した質量から以下の式に基づき、炭化収率を算出した。結果を表1に示す。
炭化収率(%)=各炭化温度における質量/耐炎化後のフィルム試料の質量×100
【0095】
(フィルム中のバイオマスファイバーの観察)
フィルムをミクロトームにより切削加工して得られた断面について、TEMによる観察を行って、フィルム中のバイオマスナノファイバーの繊維径の範囲を求めた。観察結果より、フィルム中に存在するバイオマスファイバーの繊維径の範囲を表1に示す。
【0096】
【0097】
表1に示されるように、粘弾性測定の結果から、160℃以上の高温領域において、セルロース由来のバイオマスファイバーを含む実施例1~3は、バイオマスファイバーを全く含まない比較例1に比べて、約1.5~4倍の貯蔵弾性率となっており、耐熱性が向上している。そのため、延伸処理及び耐炎化処理時に張力を付与しやすいことが分かる。特に、重合度が高い実施例1~2は、実施例3よりも高温領域の貯蔵弾性率が高くなっている。
【0098】
また粘弾性測定で300℃まで昇温した後のフィルム試料(炭素材料前駆体)の垂れ状態を観察すると、比較例1は6mm垂れていたのに対し、実施例1~3は殆ど垂れておらず、バイオマスファイバーを含有することにより軟化が抑制されていることが分かる。
【0099】
さらに、融着評価の結果において、比較例1は200℃で完全に融着していたのに対し、実施例1~3は300℃でも融着しておらず、バイオマスファイバーを含有することにより融着が抑制されていることが分かる。
【0100】
なお、実施例ではアクリルアミド系ポリマーのガラス転移温度である約160℃を超えて300℃まで融着が抑制されており、また300℃付近で環状構造が形成され不融化することから、300℃を超えた温度においても同じように融着は抑制される。上記と同様の理由から、300℃を超えた温度では垂れの発生がより抑制されると考えられる。
【0101】
炭化評価の結果において、バイオマスファイバーを含有する実施例1~2は、比較例1よりも炭化収率が若干高く、炭素材料前駆体として使用可能であることが分かる。実施例3は比較例1よりも炭化収率が若干低いが、ほぼ同等であり、十分に高い炭化収率が得られているため、炭素材料前駆体として使用可能であることが分かる。
【0102】
また含窒素多糖高分子であるキチン由来のバイオマスファイバーを含有する実施例4は、バイオマスファイバーを含まない比較例1に比べて高温領域の貯蔵弾性率が高く、セルロースファイバーを用いた実施例1~3とほぼ同等の貯蔵弾性率であった。また、フィルム試料の垂れ及びフィルム試料同士の融着も抑制されている。炭化収率についても、含窒素多糖高分子であるキチン由来のバイオマスファイバーを含有する実施例4は、比較例1よりも炭化収率が高く、炭素材料前駆体として使用可能であることが分かる。
【0103】
[実施例5~8]
セルロース由来のバイオマスファイバーの添加量を、アクリルアミド系ポリマー(a-1)100質量部に対して表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様の手順でフィルム試料を作製した。また、耐熱性評価、垂れ評価、融着評価、及び炭化評価についても同様に行った。
【0104】
【0105】
表2に示されるように、バイオマスファイバーの添加量を5質量部、10質量部に増やすと、高温領域の貯蔵弾性率が更に高くなり、延伸処理及び耐炎化処理時により高い張力を付与しやすくなることが分かる。また、フィルム試料の垂れ及びフィルム試料同士の融着も抑制されている。炭化収率についても、バイオマスファイバーの添加量を2質量部した際とほぼ同等で、十分に高い炭化収率が得られているため、炭素材料前駆体として使用可能であることが分かる。