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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136279
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ウォーターポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/24 20060101AFI20240927BHJP
   F04D 29/22 20060101ALI20240927BHJP
   F04D 13/06 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
F04D29/24 C
F04D29/22 C
F04D13/06 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047356
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】竹田 光一
(72)【発明者】
【氏名】樋口 幸洋
【テーマコード(参考)】
3H130
【Fターム(参考)】
3H130AA03
3H130AB22
3H130AB47
3H130AC13
3H130BA66C
3H130BA72C
3H130CA05
3H130CB01
3H130CB05
3H130DD01Z
3H130DD04X
3H130EB02C
3H130EB04C
(57)【要約】
【課題】高精度の金型を用いることなく効率の良いウォーターポンプを提供する。
【解決手段】本発明のウォーターポンプ(100)は、流体の流入部(123)および流体の流出部(125)を有するケーシング(120)と、ケーシング(120)の内側に回転可能に支持されたインペラ(140)と、を備え、インペラ(140)は、ベース(142)と、当該ベース(142)に設けられた複数の羽根(145)とを有し、羽根(145)は、流体に対する負圧側面(145a)と圧力側面(145b)を有し、負圧側面(145a)の内周側の端部には流入部から流入される流体の流入角度に沿うように所定角度に傾斜して形成された傾斜面(146)を有し、羽根(145)の延在方向において、ベース(142)は、傾斜面(146)に隣接した貫通孔(143h)を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流入部および前記流体の流出部を有するケーシングと、
前記ケーシングの内側に回転可能に支持されたインペラと、
を備え、
前記インペラは、ベースと、当該ベースに設けられた複数の羽根とを有し、
前記羽根は、前記流体に対する負圧側面と圧力側面を有し、
前記負圧側面の内周側の端部には前記流入部から流入される流体の流入角度に沿うように所定角度に傾斜して形成された傾斜面を有し、
前記羽根の延在方向において、前記ベースは、前記傾斜面に隣接した貫通孔を有する、
ウォーターポンプ。
【請求項2】
前記貫通孔は、前記ベースに対して前記羽根の側にある空間と、前記ベースに対して前記羽根の側とは反対側にある空間とをつなぐ、請求項1に記載のウォーターポンプ。
【請求項3】
径方向において、前記貫通孔は、前記傾斜面に対して内側に設けられている、請求項1または2に記載のウォーターポンプ。
【請求項4】
前記貫通孔の数は、前記複数の羽根と同数または前記複数の羽根の数の倍数である、請求項1に記載のウォーターポンプ。
【請求項5】
前記貫通孔は、円形状または弧状である、請求項1に記載のウォーターポンプ。
【請求項6】
前記貫通孔は、前記傾斜面に沿って配置されている、請求項5に記載のウォーターポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォーターポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、冷却水の流入時、入口側端部および出口側端部の羽根厚さを薄くすることにより、流入された冷却水と羽根の入口側端部との衝突損失やウェークを低減し、ポンプ効率を向上させたウォーターポンプが提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
この特許文献1のウォーターポンプでは、インペラ1の複数の羽根3がシャフト13の径方向から周方向に向かって湾曲するような円弧状に形成されており、インペラ1の回転運動により冷却水を羽根3に沿って流動させることにより冷却水吐出口12から吐出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-67617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように先行文献1のウォーターポンプにおいて、羽根3の先端は入口円4に沿った吸力面入口部8cを有しており、入口側端部に近づくほど羽根3の板厚が薄くなっている。このため、先行文献1のウォーターポンプでは、冷却水が吸入される際に発生する衝突損失を低減し、ポンプ効率を向上させているが、更なるポンプ効率の向上が求められている。
【0006】
本発明は、以上の点を鑑み、更にポンプ効率が向上した簡易な構成のウォーターポンプを提供することを課題の一例とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のウォーターポンプは、流体の流入部および前記流体の流出部を有するケーシングと、前記ケーシングの内側に回転可能に支持されたインペラと、を備え、前記インペラは、ベースと、当該ベースに設けられた複数の羽根とを有し、前記羽根は、前記流体に対する負圧側面と圧力側面を有し、前記負圧側面の内周側の端部には前記流入部から流入される流体の流入角度に沿うように所定角度に傾斜して形成された傾斜面を有し、前記羽根の延在方向において、前記ベースは、前記傾斜面に隣接した貫通孔を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一例である実施の形態にかかるウォーターポンプの外観構成を示す斜視図である。
図2】本発明の一例である実施の形態にかかるウォーターポンプの構成を示す縦断面図である。
図3】本発明の一例である実施の形態にかかるウォーターポンプのインペラの上側から見た外観構成を示す斜視図である。
図4】本発明の一例である実施の形態にかかるウォーターポンプの羽根の内側先端部に形成された傾斜面の傾斜角度が28度であることを示す部分拡大図である。
図5】本発明の一例である実施の形態にかかるウォーターポンプの羽根の内側先端部に形成された傾斜面の傾斜角度が38度であることを示す部分拡大図である。
図6】本発明の一例である実施の形態にかかるウォーターポンプの羽根の傾斜角度が28度の場合の静圧を示すグラフである。
図7】本発明の一例である実施の形態にかかるウォーターポンプの羽根の傾斜角度が28度の場合のポンプ効率を示すグラフである。
図8】本発明の一例である実施の形態にかかるウォーターポンプの羽根の傾斜角度が38度の場合の静圧を示すグラフである。
図9】本発明の一例である実施の形態にかかるウォーターポンプの羽根の傾斜角度が38度の場合のポンプ効率を示すグラフである。
図10】本発明の一例である他の実施の形態にかかるウォーターポンプのインペラの構成(1)を示す上面図である。
図11】本発明の一例である他の実施の形態にかかるウォーターポンプのインペラの構成(2)を示す上面図である。
図12】本発明の一例である他の実施の形態にかかるウォーターポンプのインペラの構成(2)を示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<実施の形態>
以下、本発明の一例である実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一例である実施の形態にかかるウォーターポンプの外観構成を示す斜視図である。図2は、本発明の一例である実施の形態にかかるウォーターポンプの構成を示す縦断面図である。図3は、本発明の一例である実施の形態にかかるウォーターポンプのインペラの上側から見た外観構成を示す斜視図である。
【0010】
図4は、本発明の一例である実施の形態にかかるウォーターポンプの羽根の内側先端部に形成された傾斜面の傾斜角度が28度であることを示す部分拡大図である。図5は、本発明の一例である実施の形態にかかるウォーターポンプの羽根の内側先端部に形成された傾斜面の傾斜角度が38度であることを示す部分拡大図である。
【0011】
図6は、本発明の一例である実施の形態にかかるウォーターポンプの羽根の傾斜角度が28度の場合の静圧を示すグラフである。図7は、本発明の一例である実施の形態にかかるウォーターポンプの羽根の傾斜角度が28度の場合のポンプ効率を示すグラフである。図8は、本発明の一例である実施の形態にかかるウォーターポンプの羽根の傾斜角度が38度の場合の静圧を示すグラフである。図9は、本発明の一例である実施の形態にかかるウォーターポンプの羽根の傾斜角度が38度の場合のポンプ効率を示すグラフである。
【0012】
なお、本実施の形態の説明において、説明の便宜上、軸Xに沿った矢印a方向を上側または一方側とする。軸Xに沿った矢印b方向を下側または他方側とする。ここで、矢印ab方向を上下方向またはX軸方向と称する。ただし、上下方向は、鉛直方向とは必ずしも一致しない。また、矢印cd方向を径方向と称し、軸Xから離れる矢印c方向を外側または径方向一方側、軸Xに近づく矢印d方向を内側または径方向他方側と称する。
【0013】
<ウォーターポンプの構成>
図1に示すように、ウォーターポンプ100は、例えばエンジンの冷却水を移送するいわゆる遠心ポンプである。
【0014】
ウォーターポンプ100は、当該ウォーターポンプ100をエンジンルーム等に取り付けるための3つのフランジ135(図1では2個のフランジ135だけが表示されている)、その内部のインペラ収容空間180s(図2)にインペラ140等を収容する側面視略円錐形の上ケーシング120、その内部に駆動源であるモータ170(図2)を収容する円筒形状または略円筒形状の下ケーシング130を有している。
【0015】
ウォーターポンプ100のフランジ135は、下ケーシング130の下ケーシング本体部131の外周面に対して互いに120度間隔かつ外側へ向かって放射状に延びる部分である。フランジ135は、先端の略円形の開口部135aを有している。したがって、ウォーターポンプの100は、フランジ135の開口部135aを介してエンジンルーム等(図示せず)に取り付けられる。
【0016】
<上ケーシング>
ウォーターポンプ100の上ケーシング120は、樹脂の射出成形により形成された成型品である。
【0017】
図1および図2に示すように、上ケーシング120は、内部にポンプとして作用するためのインペラ140を収容する筐体からなる上ケーシング本体部121、その上ケーシング本体部121の外周面の中心には軸方向の上側(矢印a方向)に突出し、外部からインペラ140に冷却水を流入するための円筒形状の流入部123と、上ケーシング本体部121の外周面から流入部123とは直交する径方向へ突出し、インペラ140の回転によって冷却水を外部へ吐出するための円筒形状の流出部125とを有している。
【0018】
流入部123は、上ケーシング本体部121の頂部からX軸方向の上側(矢印a方向)に延びる円筒形状を有し、例えば、水、冷却水等の流体を流入する部位である。流出部125は、上ケーシング本体部121の外周面から流入部123とは直交する径方向の外側(矢印c方向)へ延びる円筒形状を有し、流入部123から流入された流体がインペラ140の回転によって外部へ流出(圧送)する部位である。
【0019】
上ケーシング本体部121は、側面視略円錐形のお椀形状からなり、外周側の底面に環状の突部121pを有すると共に、その突部121pよりも内側(矢印d方向)にはインペラ140を収容可能な円錐状または略円錐状のインペラ収容空間180sを有している。
【0020】
上ケーシング本体部121の突部121pは、樹脂の成型品からなるステータホルダ180に埋め込まれた後に熱溶着される部分であり、上ケーシング本体部121およびステータホルダ180の両者が一体に形成されている。
【0021】
上ケーシング本体部121は、流入部123の下側部分からインペラ収容空間180sに所定の長さだけ突出する軸支部124を有している。軸支部124は、流入部123の内周面に対して、所定の角度間隔で設けられた複数本(例えば3本)の腕部124aによって流入部123と一体に結合されている。
【0022】
複数本の腕部124aの中心には、略円筒状のシャフト支持部124pが設けられ、そのシャフト支持部124pの下側(矢印b方向)の端部の内周面において、後述するシャフト165の上側(矢印a方向)の端部を軸支している。
【0023】
この場合、シャフト165のX軸方向における下側(矢印b方向)の端部は、後述するステータホルダ180の内側円板部185と一体に固定され、かつ、X軸方向における上側(矢印a方向)の端部が軸支部124に支持されているので、当該シャフト165の振れ周りが抑制されている。
【0024】
軸支部124のシャフト支持部124pは、その下側(矢印b方向)の外周端に径方向(矢印cd方向)の外側(矢印c方向)へ僅かに延びた環状のフランジ部124dを有している。フランジ部124dは、流入部123から流入した流体をインペラ140の羽根145(図2)へ導く機能を有する方向変換部位である。
【0025】
<下ケーシング>
図2に示すように、下ケーシング130は、樹脂の射出成形により形成された成型品であり、有底円筒形状の下ケーシング本体部131と、その下ケーシング本体部131の上側(矢印a方向)の端部から径方向の外側(矢印c方向)へ向かって延びた環状のフランジ部132とを有している。
【0026】
下ケーシング130のフランジ部132は、ステータホルダ180のフランジ部183を間に介在した状態で上ケーシング本体部121の突部121pと対向配置される部分である。下ケーシング130のフランジ部132の外径と、上ケーシング本体部121の外径およびステータホルダ180のフランジ部183の外径は全て同じである。
【0027】
下ケーシング130の内側には、ステータホルダ180が一体に固定されている。これにより、下ケーシング130の下ケーシング本体部131の底板部分131bとステータホルダ180の内側円筒部182とによってモータ170のステータ160を収容可能なステータ収容空間130sを形成している。
【0028】
下ケーシング本体部131の下側(矢印b方向)の端部とステータホルダ180下側(矢印b方向)の端部との接合面には、例えばОリングからなる防水シール189が介在されており、外部から水等が進入して内部の回路基板191に到達することを防止している。
【0029】
<ステータホルダ>
ステータホルダ180は、樹脂の射出成形により形成された成型品であり、外側円筒部181、内側円筒部182、フランジ部183、外側円板部184および内側円板部185を有している。
【0030】
ステータホルダ180の外側円筒部181は、下ケーシング130における下ケーシング本体部131の内側の面と一体に形成される円筒状の部位であり、下ケーシング本体部131の底板部分131bに到達する程度の長さを有している。
【0031】
外側円筒部181は、その上側(矢印a方向)の端部から外側(矢印c方向)に向かって延びるフランジ部183、および、その上側(矢印a方向)の端部から内側(矢印d方向)に向かって延びる円環状の外側円板部184と一体に形成されている。
【0032】
フランジ部183は、上ケーシング本体部121の突部121pと対応する位置に設けられた環状の凹溝183mを有している。フランジ部183の凹溝183mに上ケーシング本体部121の突部121pが嵌め込まれた状態で両者は一体に形成されている。
【0033】
内側円筒部182は、外側円筒部181よりも内側(矢印d方向)に設けられると共に、外側円筒部181とX軸方向(矢印ab方向)に沿って平行に設けられている。内側円筒部182は、外側円板部184の内側(矢印d方向)の端部から下側(矢印b方向)に向かって所定の長さだけ延びる部位である。内側円筒部182は、外側円筒部181よりも上下方向(矢印ab方向)の長さが短く形成されている。
【0034】
外側円板部184は、外側円筒部181の上側(矢印a方向)の端部と、内側円筒部182の上側(矢印a方向)の端部とを繋ぐ円環状かつ薄い板状の部位である。外側円板部184の下側(矢印b方向)にはステータ収容空間130sが形成されており、このステータ収容空間130sにステータ160が収容されている。具体的には、内側円筒部182の外周面に対してステータ160のステータコア161が固定されている。
【0035】
内側円板部185は、内側円筒部182の下側(矢印b方向)の端部と一体に設けられた円板状の部位であり、後述するインペラ収容空間180sを構成する底部となっている。内側円板部185は、その中心となる部分に平面視円形の貫通孔185hを有している。内側円板部185の貫通孔185hには、シャフト165の下側(矢印b方向)の端部が圧入され、両者が一体化されている。
【0036】
内側円筒部182の内側(矢印d方向)であって、かつ、内側円板部185の上側(矢印a方向)には、インペラ収容空間180sが形成されており、そのインペラ収容空間180sにインペラ140のインペラ本体部141が収容されている。
【0037】
内側円板部185は、貫通孔185hの周囲部分が下側(矢印b方向)に向かって僅かに突出した突出部185pを有している。突出部185pの外径は内側円板部185の外径よりも小さく、突出部185pの外周面には、薄い円環状の回路基板支持プレート188が固定されている。回路基板支持プレート188の外径は、外側円筒部181の内径よりも僅かに小さい。
【0038】
外側円板部181の内側(矢印d方向)であって、かつ、内側円板部185および回路基板支持プレート188の下側(矢印b方向)には、モータ駆動するためのモータ駆動制御回路を構成する各種の電子部品193が実装された回路基板191が配置されている。回路基板191は、回路基板支持プレート188に対して支柱187を介して一体に取り付けられている。
【0039】
<ステータ>
ステータ収容空間130sに収容されたステータ160は、ステータコア161、インシュレータ162およびコイル163を有している。ステータ160は、ステータホルダ180の内側円筒部182の外側(矢印c方向)の外周面と一体に固定されている。
【0040】
すなわち、ステータ160は、インペラ収容空間180sに配置されたインペラ140のインペラ本体部141およびロータマグネット159を囲繞するように配置されている。
【0041】
このステータ160においては、インシュレータ162を介してコイル163の巻回されたステータコア161がステータホルダ180の内側円筒部182の外周面と一体になって固定されている。つまり、ステータ160は、ステータホルダ180と一体化されている。
【0042】
ステータコア161は、軟磁性材からなる電磁鋼板を複数枚積層された積層体によって形成されており、円環状のコアバック、コイル163が巻回されたティース(図示せず)、および、突極(図示せず)を有している。
【0043】
<ロータ>
図2に示すように、ロータ150は、インペラ本体部141およびロータマグネット159からなる。ここで、インペラ本体部141は、ロータとして機能する部分でもあるため、以下、ロータ本体部141と呼ぶ場合があるものとする。
【0044】
ロータ150は、ステータホルダ180の内側円板部185に固定されたシャフト165に対して、当該シャフト165を回転中心として回転する。シャフト165は、ステータホルダ180の内側円板部185によって回転不能な固定状態でインペラ収容空間180sに配置されている。このため、ロータ150が回転するのに対し、シャフト165は非回転であり、ステータホルダ180と一体に固定されている。
【0045】
ロータ150は、ステータホルダ180のインペラ収容空間180sに配置されており、ロータ本体部141およびロータマグネット159の外径が内側円筒部182の内径よりも小さい。これにより、ロータ150が回転したときにロータ本体部141およびロータマグネット159がインペラ収容空間180sを形成している内側円筒部182の内周面と接触することが予め防止されている。
【0046】
このようにモータ170は、ステータ160とロータ150によって構成されたインナーロータ型の三相のブラシレスDCモータである。但し、モータ170は、三相のブラシレスDCモータに限るものではなく、例えば単相ブラシレスDCモータ等、その他のモータであってもよい。
【0047】
<インペラ>
図2に示すように、インペラ140は、熱可塑性樹脂材である例えばPPS(ポリフェニレンサルファイド)の射出成形により形成された成型品である。
【0048】
インペラ140は、X軸方向(矢印ab方向)に沿って延びる円柱状のインペラ本体部141、そのインペラ本体部141の上側(矢印a方向)の端部に一体に形成された円盤状のベース142と、そのベース142の中心部分において上側(矢印a方向)に向かってなだらかに膨出した膨出部143と、その膨出部143の周囲であってベース142の上に立設された複数の羽根145とを有している。
【0049】
インペラ140のインペラ本体部141、ベース142、膨出部143、および、複数の羽根145は全て一体に形成されている。ただし、これに限るものではなく、例えば、インペラ本体部141とベース142等とが別々に形成された後に溶着等によって一体形成されていてもよい。
【0050】
インペラ本体部(ロータ本体部)141は、所定の外径を有する円柱体からなり、ステータホルダ180の内側円筒部182の内側に形成されたインペラ収容空間180sに収容される部分である。
【0051】
インペラ本体部141は、その外周面に凹状に凹んだ環状の凹部を有し、そこにロータマグネット159が接着等により固定されている。ロータマグネット159は、永久磁石からなり、S極に着磁された領域と、N極に着磁された領域とに分けられ、周方向に沿って交互に配置されている。
【0052】
因みに、磁石粉末を含んだ樹脂材でロータマグネット159を射出成形し、磁石粉末を含まない樹脂材でインペラ本体部141とベース142および羽根145を射出成形により形成した後に、両者を結合するようにしてもよい。
【0053】
ロータマグネット159の外径は、インペラ本体部141の外径と同じであり、ロータマグネット159の外周面とインペラ本体部141の外周面とは面一である。なお、インペラ本体部141およびロータマグネット159は、ステータホルダ180の内側円筒部182の内周面と接触することのない大きさの外径を有している。要は、インペラ140の回転時にインペラ本体部141が、ステータホルダ180の内側円筒部182と接触することなく回転できればよい。
【0054】
ベース142は、薄い円盤状の部材であり、インペラ本体部141の上側(矢印a方向)の端部において一体に形成されている。ベース142の外径は、インペラ収容空間180sの内径よりも小さい。
【0055】
インペラ本体部141は、その中心においてX軸方向(矢印ab方向)に沿って貫通した貫通孔141hを有している。この貫通孔141hの内径は、後述するシャフト165の外径よりも僅かに大きく形成されている。この場合、インペラ140におけるインペラ本体部141の貫通孔141hの内周面と、シャフト165の外周面とはスリーブ軸受として機能する。
【0056】
これによりインペラ140は、ステータホルダ180の内側円板部185に固定されたシャフト165に対して回転可能とすることができる。なお、これに限るものではなく、インペラ本体部141に対して円筒状の焼結軸受を設けるようにしてもよい。
【0057】
複数の羽根145は、回転軸となるシャフト165を中心として膨出部143の周囲に放射状に配置されている。図3に示すように、羽根145は、弧状に湾曲しており、シャフト165から径方向の外側(矢印c方向)へ離れるに連れてその高さが次第に低くなっている(図2参照)。この場合、羽根145は例えば7枚設けられているが、これに限るものではなく、他の枚数であってもよい。
【0058】
複数の羽根145は、全て同一の構造および形状を有している。羽根145は、インペラ140の回転方向が図中時計回り方向(太矢印で示す)の場合、図3において図示しないシャフト165と対向する側の面が負圧側面145a、その負圧側面145aと背向する側の面が圧力側面145bとなる。羽根145の負圧側面145aと圧力側面145bとは同じ曲率を有している。
【0059】
図4に示すように、羽根145の内側の先端部(以下、これを「内側先端部」と呼ぶ。)145tの負圧側面145aには、所定の傾斜角度に形成された傾斜面146を有している。
【0060】
図4に示すように、傾斜面146は、羽根145の厚さ方向に対する中心線145Lの接線TL1と、7個の羽根145の傾斜面146同士を繋ぐ仮想円icの接線TL2とによって形成される狭い方の角度(以下、これを「狭角」という。)が例えば28度となるように傾斜している。ここで、仮想円icは、流入部123から流入される流体の流入角度に沿っている。
【0061】
また、図5に示すように、傾斜面146は、羽根145の厚さ方向に対する中心線145Lの接線TL3と、7個の羽根145の傾斜面146同士を繋ぐ仮想円icの接線TL4とによって形成される狭い方の角度(以下、これを「狭角」という。)が例えば38度となるように傾斜していてもよい。
【0062】
したがって、流入部123の内径と、仮想円icの内径とが同じであり、図4および図5に示すように、仮想円icと傾斜面146とが傾斜角度28度や傾斜角度38度で接している場合、傾斜面146と流入部123から流入される流体とが衝突することがない。ただし、傾斜角度については、28度乃至38度が好ましいが、これに限るものではない。
【0063】
これにより、羽根145の内側先端部145tの負圧側面145aは、傾斜角度28度または傾斜角度38度に形成された傾斜面146の存在によって流体との衝突損失を低減し、ポンプ効率を向上させることが可能となる。
【0064】
また、図3に示すようにインペラ140の膨出部143には、シャフト165を中心として約120度間隔で配置された複数の平面視円形からなる3個の貫通孔143hを有している。3個の貫通孔143hは、径方向において、傾斜面146に対して内側に設けられている。
【0065】
図2に示すように、インペラ140のインペラ本体部141には、シャフト165を中心として膨出部143の貫通孔143hと上下方向(矢印ab方向)において対応する位置に有底円筒状の凹部空間141rが設けられており、その凹部空間141rと膨出部143の貫通孔143hとが連通している。
【0066】
このように膨出部143の貫通孔143hおよびインペラ本体部141の凹部空間141rは互いに連通している。このため、インペラ140のベース142を境にして複数の羽根145が設けられた上側(矢印a方向)の空間と、複数の羽根145が設けられていない下側(矢印b方向)の空間とは、貫通孔143hおよび凹部空間141rを介して互いにつながって(連通して)いることになる。
【0067】
<ウォーターポンプの動作および効果>
ウォーターポンプ100においては、モータ170のロータ150とステータ160との電磁気的作用によりシャフト165を中心としてインペラ140のインペラ本体部(ロータ本体部)141が回転する。
【0068】
これによりウォーターポンプ100では、インペラ本体部141と共に羽根145が回転し、流入部123から流入した流体を複数の羽根145の作用により径方向の外側(矢印c方向)の流出部125から圧送することができる。
【0069】
また、ウォーターポンプ100では、インペラ140における複数の羽根145の内側先端部145tの負圧側面145aに傾斜面146を設けると供に、ベース142の膨出部143に傾斜面146と隣接するように複数の貫通孔143hを設けるようにした。
【0070】
これによりウォーターポンプ100では、羽根145の内側先端部145tの負圧側面145aに設けられた傾斜面146によって、流入部123から流入される流体との衝突損失を低減し、ポンプ効率を向上させることができる。
【0071】
同時に、ウォーターポンプ100では、インペラ140の膨出部143に設けられた3個の貫通孔143hの存在により、複数の羽根145が設けられたベース142の上側(矢印a方向)の空間と、複数の羽根145が設けられていないベース142の下側(矢印b方向)の空間とが連通し、ベース142の上側空間と下側空間との間に大きな圧力差が生じないようにすることができる。
【0072】
従来のウォーターポンプでは、インペラ140の膨出部143に貫通孔143hは存在しておらず、ベース142の上側空間と下側空間との間で圧力差が生じ、インペラ140全体がシャフト156に沿って上側(矢印a方向)に上昇し、上ケーシング本体部121の内周面と接触してしまうおそれがあった。
【0073】
しかしながら、ウォーターポンプ100は、ベース142の上側空間と下側空間との間で圧力差が生じなくなるので、シャフト156に対してインペラ140が上側(矢印a方向)に上昇して上ケーシング本体部121と接触することを防止することができる。
【0074】
これによりウォーターポンプ100では、インペラ140が上ケーシング本体部121と接触することなく安定して回転することができるので、その分だけ確実にポンプ効率を向上させることができる。
【0075】
実際に、図6および図7に示すように、羽根145の内側先端部145tの負圧側面145aに設けられた傾斜面146の傾斜角度28度の場合のPQ性能およびポンプ効率について検証した。この場合、羽根145の圧力側面145bにだけ傾斜角度28度の傾斜面146が設けられた場合、および、両方に傾斜角度28度の傾斜面146が設けられた場合についても比較対象として同時に検証した。
【0076】
この場合、図6(A)の折れ線グラフ、および、図6(B)の棒グラフに示すように、流出部125からの流出量が中域レベル(M)のとき静圧[Pa]が最も高くなるのは、負圧側面145aにだけ傾斜面146が設けられた場合であることが示されている。
【0077】
また、図7(A)の折れ線グラフ、および、図7(B)の棒グラフに示すように、流出部125からの流出量が中域レベル(M)のときポンプ効率が最も高くなるのは、この場合も負圧側面145aにだけ傾斜面146が設けられた場合であることが示されている。ここで、ポンプ効率とは、駆動軸(この場合、インペラ140とインペラ本体部141)によって入力される軸動力と、このウォーターポンプ100によって出力される水動力の比である。
【0078】
同様に、図8および図9に示すように、羽根145の内側先端部145tの負圧側面145aに設けられた傾斜面146が傾斜角度38度の場合のPQ性能およびポンプ効率について検証した。この場合、羽根45の圧力側面145bにだけ傾斜角度38度の傾斜面146が設けられた場合、および、両方に傾斜角度38度の傾斜面146が設けられた場合についても比較対象として同時に検証した。
【0079】
この場合、図8(A)の折れ線グラフ、および、図8(B)の棒グラフに示すように、流出部125からの流出量が中域レベル(M)のとき静圧[Pa]が最も高くなるのは、負圧側面145aにだけ傾斜面146が設けられた場合であることが示されている。
【0080】
また、図9(A)の折れ線グラフ、および、図9(B)の棒グラフに示すように、流出部125からの流出量が中域レベル(M)のときポンプ効率が最も高くなるのは、負圧側面145aにだけ傾斜面146が設けられた場合であることが示されている。
【0081】
このように、ウォーターポンプ100では、羽根145の内側先端部145tの負圧側面145aに設けられた傾斜面146、および、インペラ140の膨出部143に設けられた3個の貫通孔143hの存在によって、従来に比してポンプ効率を向上することができる。
【0082】
<他の実施の形態>
以上、本発明のウォーターポンプについて、好ましい実施の形態を挙げて説明したが、本発明のウォーターポンプは上記実施の形態の構成に限定されるものではない。
【0083】
なお、実施の形態におけるインペラ140においては、膨出部143に3個の貫通孔143hを設けるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、図10に示すように、7個の羽根145と同数の7個の貫通孔143h、または、複数の羽根145の個数の倍数となる例えば14個や21個等の貫通孔143hを設けるようにしてもよい。貫通孔143hの個数を増やした場合、貫通孔143hの内径を小さくしてインペラ140のベース142の上側空間と下側空間との圧力差を調整することができる。
【0084】
例えば、7個の貫通孔143hを設ける場合、羽根145の傾斜面146と周方向において対向するように配置してもよい。ただし、これに限るものではなく、7個の貫通孔143hは、羽根145の傾斜面146と径方向において対向するように配置されていてもよい。
【0085】
また、14個の貫通孔を設ける場合、羽根145の内側先端部145tを径方向において挟むように2個ずつ配置されるようにすればよい。ただし、これに限るものではなく、14個の貫通孔143hは、羽根145の傾斜面146と周方向において2個ずつ対向するように配置されていてもよく、羽根145の傾斜面146と径方向において2個ずつ対向するように配置されていてもよい。
【0086】
また、実施の形態におけるインペラ140においては、膨出部143に3個の円形の貫通孔143hを設けるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、図11に示すように、周方向に沿って複数(この場合3個)の長円形の貫通孔283hを設けるようにしてもよい。
【0087】
この場合、図12に示すように、羽根145の傾斜面146と貫通孔283hとは線接触しており、少ない数の貫通孔283hだけでインペラ140のベース142の上側空間と下側空間との圧力差を調整することができる。
【0088】
さらに、インペラ140では、インペラ本体部141がインペラ140の一部であり、かつ、ロータ150の一部としてベース142、膨出部143および羽根145と一体に設けられているようにした構成について述べたが、本発明はこれに限らず、ロータ150とインペラ140とは別部品として形成された後に溶着等により一体に結合するようにしてもよい。
【0089】
さらに、実施の形態におけるウォーターポンプ100においては、エンジンルーム等に取り付けられる場合を一例として説明したが、本発明はこれに限らず、近年普及したハイブリッド車や電気自動車において、インバータ等の電動機器に対して冷却水を強制循環させる場合に用いるようにしてもよい。
【0090】
その他、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明のウォーターポンプを適宜改変し、また各種構成の組み合わせを変更することができる。かかる変更によってもなお本発明の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【符号の説明】
【0091】
100…ウォーターポンプ、120…上ケーシング、121…上ケーシング本体部、121p…突部、123…流入部、124…軸支部、124a…腕部、124d…フランジ部、124p…シャフト支持部、125…流出部、130…下ケーシング、130s…ステータ収容空間、131…下ケーシング本体部、132…フランジ部、135…フランジ、140…インペラ、141…インペラ本体部(ロータ本体部)、142…ベース、143…膨出部、145……羽根、150…ロータ、159…ロータマグネット、160…ステータ、161…ステータコア、162…インシュレータ、163…コイル、165…シャフト、170…モータ、180s…インペラ収容空間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12