(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136282
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】インサート成形体の製造方法及びインサート成形体の製造装置
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
B29C45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047360
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】312016780
【氏名又は名称】共和工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島▲崎▼ 絢也
(72)【発明者】
【氏名】小倉 正裕
(72)【発明者】
【氏名】山田 孝
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AG03
4F206AH17
4F206AH42
4F206AK05
4F206AM32
4F206AR06
4F206JB12
4F206JE06
4F206JF05
4F206JF23
4F206JL02
4F206JM06
(57)【要約】
【課題】金属部材と樹脂部材との接合強度に優れるインサート成形体が得られるインサート成形体の製造方法、及び金属部材と樹脂部材との接合強度に優れるインサート成形体が得られるインサート成形体の製造装置の提供。
【解決手段】金属部材を第1金型内に配置する工程と、第2金型を第1金型と対向するように配置して前記金属部材の周囲に樹脂材料を注入するための空間を形成する工程と、を含み、前記金属部材が第1金型に配置されてから第2金型を第1金型と対向するように配置するまでの間前記金属部材を加熱する、インサート成形体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材を第1金型内に配置する工程と、
第2金型を第1金型と対向するように配置して前記金属部材の周囲に樹脂材料を注入するための空間を形成する工程と、を含み、
前記金属部材が第1金型に配置されてから第2金型を第1金型と対向するように配置するまでの間前記金属部材を加熱する、インサート成形体の製造方法。
【請求項2】
金属部材及び樹脂材料を第1金型内に配置する工程と、
第2金型を第1金型と対向するように配置する工程と、を含み、
前記金属部材及び前記樹脂材料が第1金型に配置されてから第2金型を第1金型と対向するように配置するまでの間前記金属部材を加熱する、インサート成形体の製造方法。
【請求項3】
前記加熱は移動可能なヒーターを用いて行われる、請求項1又は請求項2に記載のインサート成形体の製造方法。
【請求項4】
第1金型に配置される前の前記金属部材を予備加熱する工程をさらに含む、請求項1又は請求項2に記載のインサート成形体の製造方法。
【請求項5】
金属部材を配置するための第1金型と、
第1金型と対向するように配置可能であり前記金属部材の周囲に樹脂材料を注入するための空間を形成する第2金型と、
前記金属部材が第1金型に配置されてから第2金型を第1金型と対向するように配置するまでの間前記金属部材を加熱するためのヒーターと、を備えるインサート成形装置。
【請求項6】
金属部材及び樹脂材料を配置するための第1金型と、
第1金型と対向するように配置可能な第2金型と、
前記金属部材及び前記樹脂材料が第1金型に配置されてから第2金型を第1金型と対向するように配置するまでの間前記金属部材を加熱するためのヒーターと、を備えるインサート成形装置。
【請求項7】
前記ヒーターは移動可能である、請求項5又は請求項6に記載のインサート成形装置。
【請求項8】
第1金型に配置される前の前記金属部材を予備加熱する機構をさらに備える、請求項5又は請求項6に記載のインサート成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサート成形体の製造方法及びインサート成形体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インサート成形は樹脂部材が金属などの異種部材と一体化された物品(インサート成形体)を形成する方法である。
インサート成形では一般に、金型に形成された空間(キャビティ)に金属などの異種部材を配置し、その表面に樹脂材料を接触させる。この状態で樹脂材料を固化又は硬化させて、インサート成形体を得る。
【0003】
金属部材と樹脂部材との界面における気密性を高める方策として、金属部材の表面をケミカルエッチングにより粗面化する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の段落[0010]では、金属表面をケミカルエッチングにより微細粗化することで金属の表面積が増大し、金属/樹脂界面の面積が増大することにより、界面を伝わって気体や液体が部品内部に侵入する際の圧力伝達損失が大きくなることが気密性向上のメカニズムとして挙げられている。その一方で、ケミカルエッチングにより形成された微細な凹凸構造に樹脂材料が入り込みにくくなり、気密性などの接合強度の増大効果が充分に得られないおそれがある。
【0006】
上記事情に鑑み、本開示は、金属部材と樹脂部材との接合強度に優れるインサート成形体が得られるインサート成形体の製造方法、及び金属部材と樹脂部材との接合強度に優れるインサート成形体が得られるインサート成形体の製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>金属部材を第1金型内に配置する工程と、
第2金型を第1金型と対向するように配置して前記金属部材の周囲に樹脂材料を注入するための空間を形成する工程と、を含み、
前記金属部材が第1金型に配置されてから第2金型を第1金型と対向するように配置するまでの間前記金属部材を加熱する、インサート成形体の製造方法。
<2>金属部材及び樹脂材料を第1金型内に配置する工程と、
第2金型を第1金型と対向するように配置する工程と、を含み、
前記金属部材及び前記樹脂材料が第1金型に配置されてから第2金型を第1金型と対向するように配置するまでの間前記金属部材を加熱する、インサート成形体の製造方法。
<3>前記加熱は移動可能なヒーターを用いて行われる、<1>又は<2>に記載のインサート成形体の製造方法。
<4>第1金型に配置される前の前記金属部材を予備加熱する工程をさらに含む、<1>又は<2>に記載のインサート成形体の製造方法。
<5>金属部材を配置するための第1金型と、
第1金型と対向するように配置可能であり前記金属部材の周囲に樹脂材料を注入するための空間を形成する第2金型と、
前記金属部材が第1金型に配置されてから第2金型を第1金型と対向するように配置するまでの間前記金属部材を加熱するためのヒーターと、を備えるインサート成形装置。
<6>金属部材及び樹脂材料を配置するための第1金型と、
第1金型と対向するように配置可能な第2金型と、
前記金属部材及び前記樹脂材料が第1金型に配置されてから第2金型を第1金型と対向するように配置するまでの間前記金属部材を加熱するためのヒーターと、を備えるインサート成形装置。
<7>前記ヒーターは移動可能である、<5>又は<6>に記載のインサート成形装置。
<8>第1金型に配置される前の前記金属部材を予備加熱する機構をさらに備える、<5>又は<6>に記載のインサート成形装置。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、金属部材と樹脂部材との接合強度に優れるインサート成形体が得られるインサート成形体の製造方法、及び金属部材と樹脂部材との接合強度に優れるインサート成形体が得られるインサート成形体の製造装置が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値または下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、材料中の各成分の量は、材料中の各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、材料中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0010】
<第1実施形態>
本開示の第1実施形態は、金属部材を第1金型内に配置する工程と、
第2金型を第1金型と対向するように配置して前記金属部材の周囲に樹脂材料を注入するための空間を形成する工程と、を含み、
前記金属部材が第1金型に配置されてから第2金型を第1金型と対向するように配置するまでの間前記金属部材を加熱する、インサート成形体の製造方法である。
【0011】
上記方法によれば、金属部材と樹脂部材との接合強度に優れるインサート成形体を得ることができる。特に、金属部材の表面に微細な凹凸構造が形成されている場合であっても金属部材と樹脂部材との接合強度に優れるインサート成形体を得ることができる。この理由としては、金属部材が第1金型に配置されてから第2金型を第1金型と対向するように配置するまでの間加熱されていることで、金属部材と接触しているときの樹脂材料の温度低下が抑制され、金属部材の凹凸構造に入り込みやすい状態が維持されることが考えられる。
【0012】
金属部材の加熱は、金属部材が第1金型内に配置されてから第2金型を第1金型と対向するように配置するまでの期間において行われる。すなわち、金属部材の加熱は金型が開放状態である期間において行われる。
【0013】
第1金型内に配置された金属部材を加熱する方法は、特に制限されない。
第2金型が第1金型と対向するように配置されていない(すなわち、金型が開放状態である)ときの金属部材の加熱しやすさの観点からは、移動可能なヒーターを用いて金属部材を加熱することが好ましい。移動可能なヒーターを用いることで、例えば、金型が開放状態であるときは第2金型を第1金型と対向するように配置したときの第2金型の位置(以下、基準位置ともいう)にヒーターを配置して金属部材を加熱することができ、金型を閉じるときにはヒーターを基準位置から移動させて第2金型を基準位置に配置することができる。
ヒーターが移動可能である場合、ヒーターの全体が移動可能であっても、ヒーターの一部(ヒーターのヘッド部など)が移動可能であってもよい。
【0014】
金属部材の加熱は、金属部材の全体に対して均等に行っても、金属部材の温度が低下しやすい部位に対して集中的に行ってもよい。例えば、金属部材が第1金型と接していない部位は金型が開放状態であると外気と接して温度が低下しやすい。したがって、金属部材の加熱は金属部材が第1金型と接していない部位に対して集中的に行ってもよい。
【0015】
上記方法は、第1金型に配置される前の金属部材を予備加熱する工程をさらに含んでもよい。
金属部材の予備加熱を行うことで、金属部材と接触する際の樹脂材料の流動性がより確実に確保されるとともに、インサート成形の作業効率を改善することができる。
【0016】
第1金型内に配置される前の金属部材を予備加熱する方法は特に制限されず、オーブン、ヒーターなどの公知の加熱手段を用いて行うことができる。
【0017】
上記方法において、加熱又は予備加熱されているときの金属部材の温度は特に制限されない。金属部材と接触する際の樹脂材料の流動性の確保及び樹脂材料の劣化防止の観点からは、加熱又は予備加熱されているときの金属部材の温度は下記式を満たす温度T(℃)であることが好ましい。
Tm-A≦T≦Tm+B
式中、Tmは樹脂材料の融点又は軟化点(℃)であり、A及びBはそれぞれ独立に0~50、好ましくは0~25、より好ましくは0~10の数である。
【0018】
上記方法において、金属部材の周囲の空間に樹脂材料を注入する方法等は特に制限されず、公知の方法で行うことができる。
【0019】
<第2実施形態>
本開示の第2実施形態は、金属部材及び樹脂材料を第1金型内に配置する工程と、
第2金型を第1金型と対向するように配置する工程と、を含み、
前記金属部材及び前記樹脂材料が第1金型に配置されてから第2金型を第1金型と対向するように配置するまでの間前記金属部材を加熱する、インサート成形体の製造方法である。
【0020】
上記方法は、例えば、第1金型内に配置される樹脂材料が固体である場合に好適である。固体の樹脂材料の形態としては、シート状、フィルム状、テープ状、粒子状などが挙げられる。
【0021】
第2実施形態において金属部材の加熱又は予備加熱の詳細及び好ましい態様は、第1実施形態における金属部材の加熱又は予備加熱の詳細及び好ましい態様と同様である。
【0022】
<第3実施形態>
本開示の第3実施形態は、金属部材を配置するための第1金型と、
第1金型と対向するように配置可能であり前記金属部材の周囲に樹脂材料を注入するための空間を形成する第2金型と、
前記金属部材が第1金型に配置されてから第2金型を第1金型と対向するように配置するまでの間前記金属部材を加熱するためのヒーターと、を備えるインサート成形装置である。
【0023】
上記製造装置は、例えば、第1実施形態のインサート成形体の製造方法に使用される。
製造装置を構成する第1金型、第2金型及びヒーターは特に制限されず、公知の手段を用いることができる。
【0024】
上記製造装置において、ヒーターは移動可能であってもよい。
上記製造装置は、第1金型に配置される前の前記金属部材を予備加熱する機構をさらに備えてもよい。金属部材を予備加熱する機構は特に制限されず、オーブン、ヒーターなどの公知の加熱手段を用いて行うことができる。
【0025】
<第4実施形態>
本開示の第4実施形態は、金属部材及び樹脂材料を配置するための第1金型と、
第1金型と対向するように配置可能な第2金型と、
前記金属部材及び前記樹脂材料が第1金型に配置されてから第2金型を第1金型と対向するように配置するまでの間前記金属部材を加熱するためのヒーターと、を備えるインサート成形装置である。
【0026】
上記製造装置は、例えば、第2実施形態のインサート成形体の製造方法に使用される。
製造装置を構成する第1金型、第2金型及びヒーターは特に制限されず、公知の手段を用いることができる。
【0027】
上記製造装置において、ヒーターは移動可能であってもよい。
上記製造装置は、第1金型に配置される前の前記金属部材を予備加熱する機構をさらに備えてもよい。金属部材を予備加熱する機構は特に制限されず、オーブン、ヒーターなどの公知の加熱手段を用いて行うことができる。
【0028】
(金属部材)
本開示のインサート成形体の製造方法で使用する金属部材の種類は特に制限されず、インサート成形体の用途等に応じて選択できる。
導電性及び放熱性の観点からは、銅、アルミニウム、銅合金及びアルミニウム合金から選択される少なくとも1種の金属を含むものが好ましい。金属部材に含まれる金属は1種のみでも2種以上であってもよい。また、表面の少なくとも一部にメッキ層を有していてもよい。
【0029】
本開示の方法で製造される金属部材は、表面の少なくとも一部が樹脂部材と接合した状態である。本開示において「接合」とは、金属部材が接着剤、ねじ等を用いずに樹脂部材と固着している状態を意味する。
【0030】
金属部材は、表面に凹凸構造を有していてもよい。金属部材が表面に凹凸構造を有していると、溶融又は軟化した樹脂材料が凹凸構造に入り込んだ状態で固化することでアンカー効果が発現し、樹脂部材が金属部材の表面に強固に接合する。
【0031】
樹脂部材との接合性の観点からは、金属部材の表面のRzは2μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。
本開示において金属部材の表面のRzは「最大高さ」と呼ばれる高さ方向のパラメーターであり、粗さ計で測定した粗さ曲線の一部を基準長さ(500μm)で抜き出し、もっとも高い部分(最大山高さ:Rp)ともっとも深い部分(最大谷深さ:Rv)の和の値と
して求める。
【0032】
金属部材の表面のクリプトン吸着法により測定される真表面積(m2)を幾何学的表面積(m2)で除して得られる粗さ指数は、4以上、6以上又は10以上であってもよい。粗さ指数が大きいほど、金属部材の微視的な表面積が大きく樹脂材料との接触面積が大きいことを意味する。
【0033】
本開示において金属部材の表面の真表面積は、クリプトンガスを吸着質としてBET法により求める。すなわち、測定対象のBET比表面積(m2/g)に測定対象の質量(g)を乗じた値が測定対象の真表面積(m2)である。金属部材の表面の真表面積は、真空加熱脱気(100℃)による測定対象の前処理を実施し、次いで比表面積測定装置(例えば、BELSORP-max、マイクロトラック・ベル株式会社製)を使用して液体窒素温度下(77K)におけるクリプトンガス吸着法にて吸着等温線を測定し、測定結果から求められる。
本開示において金属部材の表面の幾何学的表面積は、測定対象の寸法から求められる値である。例えば、測定対象が長さX、幅Y、高さZの直方体である場合の幾何学的表面積Sは、S=2XY+2YZ+2ZXとして求められる。
【0034】
金属部材は、表面に凹凸構造を形成するための粗化処理が施されていてもよい。
金属部材の粗化処理の方法としては、特開2001-225352号公報に開示されているようなケミカルエッチング法;特許第4020957号に開示されているようなレーザーを用いる方法;NaOH等の無機塩基、またはHCl、HNO3等の無機酸の水溶液に金属部材の表面を浸漬する方法;特許第4541153号に開示されているような、陽極酸化により金属部材の表面を処理する方法;国際公開第2015-8847号に開示されているような、酸系エッチング剤(好ましくは、無機酸、第二鉄イオンまたは第二銅イオン)および必要に応じてマンガンイオン、塩化アルミニウム六水和物、塩化ナトリウム等を含む酸系エッチング剤水溶液によってエッチングする置換晶析法;国際公開第2009/31632号に開示されているような、水和ヒドラジン、アンモニア、および水溶性アミン化合物から選ばれる1種以上の水溶液に金属部材の表面を浸漬する方法(NMT法);特開2008-162115号公報に開示されているような温水処理法;ブラスト処理等の粗化処理が挙げられる。
【0035】
金属部材の表面に凹凸構造が形成されている場合、凹凸構造における凹部の平均孔径は、たとえば5nm~250μmであってよく、好ましくは10nm~150μmであり、より好ましくは15nm~100μmである。
また、凹凸構造における凹部の平均孔深さは、たとえば5nm~250μmであってよく、好ましくは10nm~150μmであり、より好ましくは15nm~100μmである。
凹凸構造における凹部の平均孔径または平均孔深さのいずれかまたは両方が上記数値範囲内であると、より強固な接合が得られる傾向にある。
【0036】
凹凸構造における凹部の平均孔径および平均孔深さは、電子顕微鏡またはレーザー顕微鏡を用いることによって求めることができる。具体的には、金属部材の表面および表面の断面を撮影する。得られた写真から、任意の凹部を50個選択し、それらの凹部の孔径および孔深さから、凹部の平均孔径および平均孔深さをそれぞれ算術平均値として算出することができる。
【0037】
金属部材は、メッキ層を有していてもよい。メッキ層の材質は特に制限されず、スズ(Sn)、亜鉛(Zi)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)等の公知の材料を使用することができる。メッキ層の厚みは特に制限されない。例えば、10nm~2,000μmの範囲であってもよい。
【0038】
(樹脂材料)
本開示のインサート成形体の製造方法で使用する樹脂材料の種類は特に制限されず、インサート成形体の用途等に応じて選択できる。
本開示において樹脂材料とは、樹脂を必須で含み、必要に応じて樹脂以外の材料を含む材料を意味する。
樹脂材料に含まれる樹脂は熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマー等であってよい。
【0039】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル/スチレン樹脂(AS)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS)、メタクリル樹脂(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルペンテン(TPX)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶性樹脂(LCP)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアリレート(PAR)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリブチレンスルフィド(PBS)、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)、熱可塑性ポリイミド(TPI)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリイミド(PI)等が挙げられる。
【0040】
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂等が挙げられる。
【0041】
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0042】
熱硬化性エラストマーとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)等のジエン系ゴム、ブチルゴム(IIR)、エチレン・プロピレンゴム(EPM)、ウレタンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム等の非ジエン系ゴムなどが挙げられる。
樹脂材料に含まれる樹脂は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
金属部材に対する接合強度の観点からは、樹脂材料に含まれる樹脂としてはポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリブチレンスルフィド及びポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレートが好ましい。
耐熱性(耐熱温度が150℃以上である)及び耐油性の観点からは、樹脂材料に含まれる樹脂としてはポリエーテルエーテルケトン、液晶性樹脂、ポリエーテルサルフォン、熱可塑性ポリイミド、ポリフタルアミド、ポリイミド、ポリアミド及びポリフェニレンスルフィドが好ましい。
【0044】
樹脂材料は、樹脂に加えて種々の配合剤を含んでもよい。配合剤としては、ガラス繊維、無機粉末等の充填材、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、耐候剤、難燃剤、可塑剤、分散剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0045】
樹脂材料が樹脂以外の成分を含む場合、樹脂材料全体に占める樹脂の割合は10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。樹脂材料全体に占める樹脂の割合の上限は特に制限されず、100質量%であってもよい。
【0046】
(インサート成形体)
本開示の方法で製造されるインサート成形体は、金属部材と樹脂部材とを少なくとも備える物体である。樹脂部材は本開示の方法で使用する樹脂材料から形成される。
本開示の方法で製造されるインサート成形体は、種々の用途に使用することができる。例えば、電気・電子機器、自動車部品、日用品、家具等に使用することができる。
【0047】
本開示の方法で製造されるインサート成形体は、金属部材として銅を使用する場合にも好適である。電気伝導性に優れる銅はバスバーなどの導電部材の材料として広く使用される一方で、熱伝導率が高く成形工程中に温度が低下しやすい。本開示の方法では成形工程中の金属部材の温度の低下が抑制される。このため、本開示の方法で製造されるインサート成形体は、金属部材として銅を使用しても樹脂部材との接合強度に優れている。