(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136307
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】スプレッド及びその製造方法、凝固を抑制する方法、食肉凝固抑制剤及び加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 13/00 20160101AFI20240927BHJP
【FI】
A23L13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047388
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003274
【氏名又は名称】マルハニチロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 憲滋
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC05
4B042AD23
4B042AG12
4B042AG34
4B042AH01
4B042AK01
4B042AK06
4B042AK07
4B042AK10
4B042AK11
4B042AK13
4B042AK20
4B042AP02
4B042AP18
4B042AP20
4B042AP30
(57)【要約】
【課題】蛋白質分解酵素・蛋白質を消化する微生物を添加せずとも加熱時の食肉の凝固が抑制されて食感が滑らかな加工食品を提供する。
【解決手段】本発明は、食肉と、当該食肉に由来しないコラーゲンペプチド又はその変性物とを含有するスプレッドを提供する。スプレッドは、魚肉100質量部に対し、コラーゲンペプチド又はその変性物を10質量部以上50質量部以下含有することが好ましい。コラーゲンペプチドとして、平均分子量が4,000~10,000のものを用いることも好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食肉と、当該食肉に由来しないコラーゲンペプチド又はその変性物とを含有するスプレッド。
【請求項2】
食肉100質量部に対し、コラーゲンペプチド又はその変性物を10質量部以上50質量部以下含有する、請求項1に記載のスプレッド。
【請求項3】
コラーゲンペプチドの平均分子量が4,000~10,000である、請求項1又は2に記載のスプレッド。
【請求項4】
食肉が魚肉である、請求項1又は2に記載のスプレッド。
【請求項5】
魚肉が魚肉すり身である、請求項4に記載のスプレッド。
【請求項6】
未加熱状態の食肉に当該食肉に由来しないコラーゲンペプチドを混合して加熱してなる、スプレッド。
【請求項7】
未加熱状態の食肉に当該食肉に由来しないコラーゲンペプチドを混合して加熱する、スプレッドの製造方法。
【請求項8】
未加熱状態の食肉に当該食肉に由来しないコラーゲンペプチドを混合して加熱する、食肉の加熱に伴う凝固を抑制する方法。
【請求項9】
コラーゲンペプチドを含有する、食肉凝固抑制剤。
【請求項10】
未加熱状態の魚肉すり身又はその擂潰物に、当該魚肉すり身に由来しないコラーゲンペプチドを混合して加熱する、加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプレッド及びその製造方法、凝固を抑制する方法、食肉凝固抑制剤及び加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スプレッドは、一般に延展性のあるペースト状の食品として知られている。
従来より、魚肉等の食肉を擂潰して調味料等と混合してなるスプレッド等の加工食品が知られている。このような加工食品は、食肉を擂潰した後に加熱殺菌することが必要になる。この場合、加熱により魚肉がゲル化して凝固することで、加工食品の滑らかさを低下させてしまう。このことから、従来、加熱時における食肉のゲル化を低減させる手段が検討されている。
【0003】
例えば特許文献1には、魚肉に蛋白質分解酵素又は蛋白質を消化する微生物を作用させて得られる生成物を用いた水中油型エマルジョンが記載されている。
特許文献2には、魚肉に醤油もろみ及び/又は生醤油を加えて擂潰、混練し、これに各種調味料等を添加混合した後に容器に充填密封、レトルト処理する魚肉スプレッドの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60-130349号公報
【特許文献2】特開昭64-10964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の方法は、酵素・微生物による蛋白質分解性能を用いた製法であるため、食肉を酵素・微生物が蛋白質分解性能を発揮する温度に設定する必要があり、衛生管理の負担が大きいという問題がある。
従って蛋白質分解酵素・微生物の添加をせずとも加熱時の食肉の凝固を抑制できる新たな手段が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決する方法について鋭意検討した結果、コラーゲンペプチドを用いることで、効果的に食肉加熱時の凝固を抑制できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、食肉と、当該食肉に由来しないコラーゲンペプチド又はその変性物とを含有するスプレッドを提供するものである。
また本発明は、未加熱状態の食肉に当該食肉に由来しないコラーゲンペプチドを混合して加熱してなる、スプレッドを提供する。
また本発明は、未加熱状態の食肉に当食肉擂潰物に由来しないコラーゲンペプチドを混合して加熱する、スプレッドの製造方法を提供する。
【0008】
更に本発明は、未加熱状態の食肉に当該食肉に由来しないコラーゲンペプチドを混合して加熱する、食肉の加熱に伴う凝固を抑制する方法を提供するものである。また、本発明は、コラーゲンペプチドを含有する、食肉凝固抑制剤を提供するものである。
【0009】
また本発明は、未加熱状態の魚肉すり身又はその擂潰物に当該魚肉すり身に由来しないコラーゲンペプチドを混合して加熱する、加工食品の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、蛋白質分解酵素や微生物を用いずとも、魚肉等の食肉の加熱による凝固を効果的に抑制できるスプレッド及びその製造方法、食肉の加熱に伴う凝固を抑制する方法、食肉凝固抑制剤、加工食品の製造方法を提供できる。例えば本発明のスプレッドはコラーゲンペプチドの食肉の凝固抑制性能に起因して滑らかな食感を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。
まず、本発明のスプレッドを説明する。
本発明のスプレッドは食肉と、当該食肉に由来しないコラーゲンペプチド又はその変性物とを含有する。本発明ではコラーゲンペプチドを用いることで、この食肉のゲル形成能、つまり凝固能を阻害ないし抑制することができ、それにより、加熱殺菌を経ているにも関わらず非凝固の食肉の滑らかな食感を得ることができる。
【0012】
食肉としては、鶏肉、牛肉、豚肉などの畜肉や魚肉があるが、蛋白質以外の油脂含有量の点から鶏肉又は魚肉が好ましく、肉の身質の点から魚肉が好ましい。スプレッドに含まれる食肉が魚肉の場合、当該魚肉は、魚肉のすり身又はその擂潰物の加熱体であることが好ましい。すり身とは、原料魚に対し採肉の後、水晒し工程を経たものであり、冷凍状態で通常流通している。原料魚は、通常、魚の頭、内臓、尻尾、皮を除かれた状態で骨から分離した肉が水晒し工程に供される。水晒し工程は、ゲル形成に寄与しない筋形成タンパク質、エキス成分、脂質などを除去して、結果としてゲル形成能を持つ筋原繊維タンパク質を濃縮し、ゲル形成能を阻害する成分や魚臭成分を除去するために行われる。また、ゲル形成に最も寄与するミオシンを溶出しやすい状態にする効果もあると言われる。このような理由から、従来の魚肉すり身を用いる場合において加熱時の弾力の向上が大きい分、コラーゲンペプチドを用いることによる、加熱時のゲル形成ないし加熱凝固を阻害ないし抑制する効果が顕著となる。また、すり身の滑らかな食感を得ることが可能となる。
【0013】
特に魚肉のすり身の擂潰物、特に塩を添加した擂潰物においては、すり身が水晒し工程を経ていることに起因して、すり身中の塩溶性筋原繊維タンパク質であるアクチン、ミオシンが多量に溶出し、水を含みながら互いに絡み合い、粘性のある塩ずり身(アクトミオシン)を形成する。このようなすり身擂潰物のゲル形成能(凝固能)は高いが、コラーゲンペプチドと混合状態とすることで、加熱時の凝固を抑制でき、フレークやツナ等の粒状加熱体を用いたものでは得難い、滑らかな食感を得ることができる。
【0014】
魚肉の原料魚としては、ママカリ;スケソウダラ、ミナミダラ、シロガネダラ、マダラ等のタラ;タチウオ;エソ;マグロ;イワシ;サンマ;サバ;ウナギ;サケ;アジ;アナゴ;アンコウ;カツオ;サワラ;ニシン;ブリ;キントキダイ、キンメダイ、イトヨリダイ、レンコダイ、マダイ等のタイ;カサゴ;ホッケ;ヨイキリザメ、ショモクザメ、アオザメ等のサメ;アカウオ;コガネガレイ、アブラガレイ等のカレイ;シログチ等のグチ;クロカジキ等のカジキ;コノシロ等が挙げられる。中でも食品への風味影響の点から、ママカリ;スケソウダラ、ミナミダラ、シロガネダラ、マダラ、コマイ等のタラ;タチウオ;エソ;マグロ;イワシ;サンマ;サバ;サケ;アジ;カツオ;サワラ;ニシン;ブリ;キントキダイ、キンメダイ、イトヨリダイ、レンコダイ、アコウダイ、マダイ等のタイ、ホッケ;シログチ等のグチ;クロカジキ等のカジキ;コノシロ、エソ等がより好ましく、ママカリ;タラ、スケソウダラ、ミナミダラ、シロガネダラ、マダラ、コマイ等のタラ、エソが最も好ましい。特に、白身魚を用いる事が、得られるスプレッドの風味への影響の点で好ましい。
【0015】
本発明のスプレッドにおける食肉の含有量は凝固抑制効果に優れる点から40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることが更に好ましい。一方、たんぱく質含有量を高めて、食味、食感、栄養面での向上を図る点では、15質量%以上が好ましく、より好ましくは20質量%以上である。
【0016】
本発明で用いるコラーゲンペプチドはスプレッドに含まれている食肉に由来しないものである。コラーゲンペプチドとは、動物の骨や皮に多く含まれるたんぱく質であるコラーゲンを加熱及び変性させて得られるゼラチンを、さらに酸やアルカリあるいは酵素等で加水分解させたものをいう。コラーゲンは、由来生物(豚、牛、魚など)や製法(酸処理、アルカリ処理など)に関して特に限定されずに使用することができる。例えば動物としては、牛や豚、鶏などの動物の骨や皮、鮭、マグロ、ティラピア、タラ等の魚の皮、鱗を用いることができる。
【0017】
本発明に用いるコラーゲンペプチドの平均分子量は、4,000~10,000であり、当該範囲であることで、本発明の効果を得やすくなる。好ましくはコラーゲンペプチドの平均分子量は5,000~9,000、さらに好ましくは6,000~8,000、最も好ましくは6,500~7,500の範囲にある。なお本明細書において、単に「平均分子量」という場合、重量平均分子量を指す。重量平均分子量は、日本ゼラチン・コラーゲン工業組合が定めた「食用コラーゲンペプチド規格」(https://www.gmj.or.jp/topics/201215/201215.html、2022年7月24日検索)に記載の方法にて測定される。
【0018】
本発明のスプレッドにおいて、コラーゲンペプチドは変性物であってもよい。コラーゲンペプチドとしては熱変性物が挙げられる。コラーゲンペプチドの熱変性物としては、分子量が低減したもの等が挙げられる。
【0019】
本発明のスプレッドにおいて、コラーゲンペプチドの量は、食肉100質量部に対し、乾燥質量にて、10質量部以上50質量部以下であることが本発明の加熱凝固抑制効果を一層効果的に奏する点で好ましい。この観点からコラーゲンペプチドの量は、食肉100質量部に対し、乾燥質量にて、20質量部以上40質量部以下であることがより好ましく、23質量部以上35質量部以下であることが特に好ましい。
【0020】
また、本発明のスプレッド中に、コラーゲンペプチドの含有量は乾燥質量にて、2質量%以上20質量%以下であることが本発明の凝固抑制効果を一層効果的に奏する点で好ましい。この観点からコラーゲンペプチドの量は、本発明のスプレッドにおいて、乾燥質量にて、4質量%以上18質量%以下であることがより好ましく、5.5質量%以上15質量%以下であることが特に好ましい。
【0021】
本発明のスプレッドは、水分量は10質量%以上70質量%以下であることが、魚肉凝固抑制効果に優れる点やたんぱく質含有量の点で好ましく、より好ましくは、15質量%以上60質量%以下であり、更に好ましくは、25質量%以上60質量%以下である。スプレッドの水分量は例えば135℃の常圧加熱法にて測定できる。
【0022】
本発明のスプレッドは、食肉、コラーゲンペプチド、水以外の成分を適宜含有することができ、そのような成分としては、スプレッドに含まれる食肉に由来しない油脂、澱粉又は穀粉類、植物蛋白質、調味料、着色料等を適宜用いることができる。
【0023】
前記食肉に由来しない油脂とは、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂(ヘットを含む)、乳脂、豚脂(ラード)、カカオ脂、魚油、鯨油などの各種植物油脂、動物油脂から選択される1種以上の油脂、並びに、これらの油脂を原料として加工処理を施した油脂が挙げられる。油脂の加工方法としては、水素添加、分別、エステル交換等が挙げられ、これらのうち、一または二以上の処理を組み合わせて施すことが可能である。本発明では、中でも植物油脂等を用いることが保存性、食味、風味等の点で好ましい。
【0024】
前記食肉に由来しない油脂の量は、得られるスプレッド中2質量%以上30質量%以下となる量であることが油脂を用いる事による上記効果を得やすい点や生産性の点から好ましく、得られるスプレッド中1質量%以上20質量%以下となる量であることがより好ましい。
【0025】
上記澱粉又は穀粉類を用いることで、得られる加工食品において保形性を保つ効果があるほか、保水性を向上できる。上記澱粉又は穀粉類としては、小麦澱粉、トウモロコシ澱粉、ワキシーコーン澱粉、馬鈴薯澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉、緑豆澱粉等が挙げられる。またこれらの加工澱粉、小麦粉、米粉等の穀粉が挙げられる。上記澱粉又は穀粉類は得られる加工食品中0.5質量%以上20質量%以下となる量であることが澱粉類を用いる事による上記効果を得やすい点や離水防止の点から好ましく、得られる加工食品中1質量%以上15質量%以下となる量であることがより好ましい。
【0026】
上記植物蛋白質を用いることで、得られる加工食品においてたん白含有量の増量効果がある。植物蛋白質としては、小麦蛋白質や大豆蛋白質が挙げられ、小麦蛋白質はグルテンが挙げられ、大豆蛋白質は、全粒大豆粉、脱脂大豆粉、分離大豆蛋白質、粒状大豆蛋白質等が挙げられる。上記植物蛋白質は得られる加工食品中5質量%以上20質量%以下となる量であることが澱粉類を用いる事による上記効果を得やすい点から好ましく、得られる加工食品中8質量%以上15質量%以下となる量であることがより好ましい。
【0027】
調味料としては、塩摺り用の食塩を除くものであり、砂糖、砂糖以外の甘味料、塩、胡椒、その他香辛料、酢、醤油、味噌、だし、酒かす、みりん、酒、コンソメ、ケチャップ、カレー粉、アミノ酸やその塩、核酸、有機酸等を用いることができる。調味料を用いる場合は、固形分として、得られる加工食品中0.1質量%以上20質量%以下となる量であることが食味、食感に優れた加工食品が得やすい点で好ましい。
【0028】
炭酸カルシウムを用いることは、カルシウム含有量の増量効果の点で好ましい。炭酸カルシウムは、得られる加工食品中0.5質量%以上2質量%以下となる量であることが上記の効果が得やすい点で好ましく、得られる加工食品中0.8質量%以上1.5質量%以下となる量であることがより好ましい。
【0029】
本発明のスプレッドは、未加熱状態の食肉と当該食肉に由来しないコラーゲンペプチドとを混合物を加熱してなるものであることが好適である。本発明者は未加熱状態の食肉と当該食肉に由来しないコラーゲンペプチドとの混合物を加熱することで、食肉加熱時の凝固が効果的に抑制できることを見出した。しかしながら、当該の組成物の物性や特性は種々のものが存在し、全てを明らかにして出願することは、物性の特定方法から開発する必要があり、先願主義の下、早期出願を図る必要がある点から実際には不可能である。そこで、本出願においては、上記の処理により得られたスプレッドであることを、スプレッドの構成として特許請求の範囲に規定することとした。以上の通り、出願時において本明細書に記載されていること以外に当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又は実際的でない事情が存在した。
前記の食肉とは、食肉の擂潰物、つまり食肉を擂り潰し処理したものであることが好ましい。食肉の擂り潰し処理とはサイレントカッターや、ボールカッター、擂潰機等を用いることができ、必ずしも食塩を添加する必要はない。未加熱状態とは例えば60℃以上の加熱処理が施されていないことを指すことが好ましく、50℃以上の加熱処理が施されていないことを指すことが特に好ましい。加熱方法としては加熱殺菌が挙げられ、好適には、後述する加熱加圧殺菌等が挙げられる。
【0030】
次いで、本実施形態の好適な加工食品の製造方法及び食肉の加熱に伴う凝固を抑制する方法について説明する。本発明の方法は、未加熱状態の食肉に当該食肉に由来しないコラーゲンペプチドを混合して加熱するものである。以下では、食肉として魚肉すり身を用いる場合を記載しているが、魚肉すり身と異なる食肉を用いることが可能であり、その場合、下記の製法において、下記で記載する魚肉すり身を別の食肉に置き換えればよい。
【0031】
本方法では、魚肉すり身の中でも、特に好ましくは、魚肉すり身又はその擂潰物に対し当該魚肉すり身に由来しないコラーゲンペプチドを混合して加熱する。好適な魚肉すり身の擂潰物を得るためには、上記の原料すり身に対し、粗摺りや塩摺りといった擂り潰し工程を施すことが好ましい。粗摺りはすり身を擂り潰す工程であり、原料すり身を粉砕し、次の塩摺り工程において塩溶性筋原繊維タンパク質を溶解させる加工が可能な状態にする処理である。粗摺りを行わずに塩摺りのみを行ってもよい。
【0032】
粗摺りを行う場合、例えばサイレントカッターや、ボールカッター、擂潰機等で行うことができる。回転式のカッターで行う場合、回転数としては、例えば50~3000rpm程度で行うことが品質保持の点で好ましい。
【0033】
次いで、塩摺り工程では、すり身擂潰物に対し食塩を添加し、筋肉中の塩可溶性画分を溶出させる。通常、用いる食塩の量は、原料すり身100質量部に対し、2質量部以上10.0質量部以下であることが好ましく、2.5質量部以上7.0質量部以下であることがより好ましい。
【0034】
塩摺りは、例えばサイレントカッターやボールカッター、擂潰機等で行うことができる。回転式のカッターで行う場合、回転数としては、例えば50~3,000rpm程度で行うことが品質保持の点で好ましい。塩摺り工程後のすり身の温度は例えば-5~0℃が品質保持の点で好適であり、温度調整のために適宜冷水等を添加してもよい。
【0035】
上記の塩摺り工程を施してなる擂潰物を用いることで、効率よく塩溶性筋原繊維タンパク質が溶解し、更にコラーゲンペプチドの存在により加熱殺菌を経てもゲル化が抑制されることで得られる加工食品において滑らかな食感効果が得られる。
【0036】
塩摺りを経たすり身は、次いで、すり身をコラーゲンペプチドと混合させることが好ましい。コラーゲンペプチドは乾燥粉末状態のものをそのまま混合に用いることができる。が、水に溶解させたものを添加してもよい。コラーゲンペプチドの説明には上記の説明が全て該当する。未加熱状態の魚肉すり身(食肉)100質量部に対するコラーゲンペプチドの好ましい量は、魚肉すり身(食肉)100質量部に対し、乾燥質量にて、10質量部以上50質量部以下であることが本発明の凝固抑制効果を一層効果的に奏する点で好ましい。この観点からコラーゲンペプチドの量は、魚肉すり身(食肉)100質量部に対し、乾燥質量にて、20質量部以上40質量部以下であることがより好ましく、25質量部以上35質量部以下であることが特に好ましく、28質量部以上32質量部以下が最も好ましい。
【0037】
すり身とコラーゲンペプチドとの混合は、サイレントカッターやボールカッター、擂潰機で行うことができる。回転数としては50~3,000rpm程度で行うことが均一な煉り合せの点で好ましい。コラーゲンペプチドによる加熱凝固抑制効果を一層高める点から、混合に用いる時間としては10分~1時間が好ましく、20~40分がより好適に挙げられ、25~35分が更に好適である。コラーゲンペプチドとすり身の混合させる温度は-5℃~12℃が好適に挙げられ、0℃~10℃がより好適である。
【0038】
更に、すり身にコラーゲンペプチドを添加混合させると同時、又はその前、或いはその後に、必要に応じ、すり身を副材料と合せて練り合わせることができる。
上記副材料としては、水、魚肉に由来しない油脂、澱粉又は穀粉類、植物蛋白質、調味料、着色料等などが挙げられる。これらの量について上記で挙げた量を使用できる。
【0039】
上記の通り、原料すり身の擂潰物を含むすり身材とコラーゲンペプチドとを混合する。
【0040】
原料すり身の擂潰物とコラーゲンペプチドを含む混合物がケーシングに充填される時点において、粗摺り、塩摺り、その後の練り工程を含めて充填までに至る工程で添加される。加熱時点において、混合物中の食肉とコラーゲンペプチドの合計量は25~40質量%の割合であることが好ましく、30~37質量%であることがより好ましい。また、混合物中の水の量の合計量はコラーゲンペプチド100質量部に対して通常、200質量部以上600質量部以下を占める割合で使用することが、得られる加工食品の食感が良好である点で好ましく、300質量部以上500質量部以下であることがより好ましい。
【0041】
混合後のすり身の擂潰物とコラーゲンペプチドはプラスチック製のケーシングに充填されることが好適である。プラスチック製ケーシングは、高分子成分からなるフィルムからなることが好ましい。プラスチック製のフィルムは、合成樹脂を膜状に成形した、非食用部分である。ケーシングの材料である合成樹脂としては、例えば、VDC/VC(塩化ビニリデン/塩化ビニル共重合体)、VDC/MA(塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体)、HIPS(耐衝撃性ポリスチレン)、PVDC(ポリ塩化ビニリデン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PA(ポリアミド)、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、EVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)、PET(ポリエチレンテフタレート樹脂)及びこれらの1又は2以上の複合材が挙げられ、VDC/VC(塩化ビニリデン/塩化ビニル共重合体)、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン又はこれらから選ばれる2種以上のフィルムの複合体であることが破れにくさや保存性等の点で好ましい。
【0042】
ケーシングに充填した食品は、ケーシング充填後に加熱される。食品は無加圧下で加熱してもよいが、加圧加熱処理により殺菌されたものであることが製造効率の点で好ましい。加圧加熱殺菌はレトルト装置により実施でき、殺菌方法としては、湿熱殺菌を行うことが好ましい。殺菌の具体例としては、蒸気式、熱水式(静置式、回転式)、熱水シャワー式、静水圧式、水封式、連続式などが挙げられ、熱水式が好ましい。加圧加熱温度は、殺菌効率の点から110℃以上125℃以下が好ましく、118℃以上121℃以下がより好ましい。レトルト装置内の加圧圧力は例えば1.8MPaG以上3.0MPaGが好適である。
【0043】
以上の本発明の加工食品によれば、食肉の凝固が効果的に抑制されており、食肉の滑らかな食感を衛生的に且つ低コストに得られるものであり、スプレッド等のペースト状食品のほか、介護食等各種の用途に使用できる。
【0044】
次いで、本発明の食肉凝固抑制剤に関する。本発明の食肉凝固抑制剤は、コラーゲンペプチドを、食肉凝固抑制剤として用いるものに関する。コラーゲンペプチドの形態は乾燥粉末状であっても水溶液状であってもよい。本用途発明は、コラーゲンペプチド又はそれを含有する組成物を商品とする包装体、広告物又は包装の同封物等において、「魚肉凝固の抑制」、「食肉凝固の防止」、「食肉凝固の阻害」、「食肉蛋白質のゲル化抑制」といった、本発明の用途に係る記載がなされていることを要するものである。
【実施例0045】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0046】
〔実施例1〕
(1)第1工程
食肉として、市販の冷凍魚肉すり身(ウェストワード社製)を用いた。冷凍魚肉すり身は魚種として、スケソウダラ、タチウオ、エソを用い、水晒し工程を行った後に脱水工程、リファイナー工程・スクリュープレス工程等の工程を経たものであった。カッター(ヤナギヤ社製サイレントカッター)に-5℃の冷凍すり身120kgを投入し、750rpmで粗摺り後、内容物の温度が-2℃となった時点で6.7kgの食塩を加え添加して、1,400rpmで塩摺りを行った。
(2)第2工程
内容物の温度が0℃となった時点で、(1)で得られた塩ずり後のすり身に、生グルテン40kg、植物油脂70kg、粉末状大豆蛋白質5.7kg、タマネギみじん切り5kg、松谷マリーゴールド(加工でん粉)15kg、炭酸カルシウム5kg、調味料24.0kg、コラーゲンペプチド(ゼライス社、NCG-10、平均分子量Mw7,000)31kg、水140kgを添加し、混合用の機械として、(株)ヤナギヤ社製のサイレントカッターを用いて30分間、0~10℃、1,500rpmで混合した。
(3)充填、加熱工程
(2)で得られた混合物をナイロン製のパックに50gずつ密封充填した。この加熱前ケーシング詰め混合体をレトルト殺菌装置(型式:RCS-140/40;日阪製作所製)を用いて121℃で18分殺菌した。この際のレトルト殺菌装置内の圧力は2.8MPaGであった。この工程により加熱殺菌済魚肉スプレッドを得た。スプレッドの水分量は53質量%であった。
【0047】
〔比較例1〕
コラーゲンペプチドを添加しない以外は実施例1と同様として、加熱殺菌済魚肉スプレッドを得た。
【0048】
(官能評価)
健常な成人である5人のパネラー(男性4人、女性1人)に試食させ、下記の評価基準で評価させた。評価点の平均点を表1に示す。
【0049】
●評価1;パンに塗った時の延ばしやすさ
5 大変延びが良い。
4 延びが良い。
3 標準。
2 やや硬い部分があり、延ばしにくい。
1 硬い部分があり、延びが大変悪い。
【0050】
●評価2:目視による滑らかさ
5 パンに塗った時に凝固による異物が全く視認されない。
4 パンに塗った時に凝固による異物がほとんど視認されない。
3 パンに塗った時に僅かに凝固物が視認される。
2 パンに塗った時に凝固物が明確に視認される。
1 パンに塗った時に凝固物が多く視認される。
【0051】
●評価3:目視による離水抑制及び均一性
3 離水が観察されず、均一である。
2 ほとんど離水が観察されず、概ね均一である。
1 離水が観察され、均一性に欠ける。
【0052】
●評価4:滑らかな食感
5 滑らかな食感が非常に良好である。
4 概ね滑らかさを感じる。
3 ザラつきがある。
2 ザラつきが強い。
1 ザラツキがひどい。
【0053】