(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136339
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】異常診断装置及び異常診断方法
(51)【国際特許分類】
F01N 3/18 20060101AFI20240927BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20240927BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
F01N3/18 C ZAB
F01N3/08 B
B01D53/94 400
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047430
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷岡 謙一
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
【Fターム(参考)】
3G091AB05
3G091BA34
3G091CA17
3G091DA08
3G091DB05
3G091DB06
3G091DB10
3G091DC02
3G091DC05
3G091EA00
3G091EA22
3G091EA30
4D148AA06
4D148AB02
4D148AC03
4D148CC61
4D148DA01
4D148DA02
4D148DA10
4D148DA20
4D148EA04
(57)【要約】
【課題】還元剤供給システムの異常診断の信頼性の低下を抑制する。
【解決手段】異常診断装置(50)は、ゼロ点学習値(PmDC_0)を学習するゼロ点学習部(61)と、液体還元剤の目標噴射量がゼロを超える期間のポンプ(21)の駆動指示値(PmDC)とゼロ点学習値(PmDC_0)との差に基づいて還元剤供給システム(10)の異常を判定する異常診断部(63)と、を備え、ゼロ点学習部(61)は、液体還元剤の目標噴射量がゼロの間の圧力(Pu)の変化量(ΔPu)又はポンプ(21)の駆動指示値(PmDC)の変化量(ΔPmDC)が所定の閾値(Th1)を超えた場合、ゼロ点学習値(PmDC_0)の学習を停止する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体還元剤を収容するタンク(17)と、前記液体還元剤を圧送するポンプ(21)と、前記液体還元剤を内燃機関(11)の排気通路(13)内に噴射する還元剤噴射弁(19)と、前記ポンプ(21)から前記還元剤噴射弁(19)に供給される前記液体還元剤の圧力(Pu)を検出する圧力センサ(31)と、前記ポンプ(21)及び前記還元剤噴射弁(19)の駆動を制御する制御部(51)と、を備えた還元剤供給システム(1)であって、前記制御部(51)が、前記圧力(Pu)が所定のシステム圧(Pu_0)となるように前記ポンプ(21)を駆動し、前記液体還元剤の目標噴射量に応じて前記還元剤噴射弁(19)を駆動する前記還元剤供給システム(10)の異常を診断する異常診断装置(50)において、
前記液体還元剤の目標噴射量がゼロのときの前記ポンプ(21)の駆動指示値(PmDC)であるゼロ点学習値(PmDC_0)を学習するゼロ点学習部(61)と、
前記液体還元剤の目標噴射量がゼロを超える期間の前記ポンプ(21)の駆動指示値(PmDC)と前記ゼロ点学習値(PmDC_0)との差に基づいて前記還元剤供給システム(10)の異常を判定する異常診断部(63)と、を備え、
前記ゼロ点学習部(61)は、
前記液体還元剤の目標噴射量がゼロの間の前記圧力(Pu)の変化量(ΔPu)又は前記ポンプ(21)の駆動指示値(PmDC)の変化量(ΔPmDC)が所定の閾値(Th1)を超えた場合、前記ゼロ点学習値(PmDC_0)の学習を停止する、
異常診断装置。
【請求項2】
前記ゼロ点学習部(61)は、
前記ゼロ点学習値(PmDC_0)の学習を停止してから所定時間経過したときに前記ゼロ点学習値(PmDC_0)の学習を再開する、
請求項1に記載の異常診断装置。
【請求項3】
前記ゼロ点学習部(61)は、
前記液体還元剤の目標噴射量がゼロのときに、所定の期間ごとに前記ゼロ点学習値(PmDC_0)を学習し、
前記ゼロ点学習値(PmDC_0)と、記録されている前記ゼロ点学習値(PmDC_0)の記録値と、の差(ΔPmDC_0)が所定の閾値を超える場合には前記記録値を保持し、前記差(ΔPmDC_0)が所定の閾値以下の場合に前記記録値を更新する、
請求項1又は2に記載の異常診断装置。
【請求項4】
前記ポンプ(21)の駆動指示値(PmDC)が前記所定の単位時間当たりの前記ポンプ(21)への電流供給時間の割合であるポンプ駆動デューティ比(PmDC)であり、
前記異常診断部(63)は、
前記液体還元剤の目標噴射量がゼロを超えるときの、前記ポンプ駆動デューティ比(PmDC)と前記ゼロ点学習値(PmDC_0)との差(ΔPmDC)の積算値(Int_ΔPmDC)に基づいて前記還元剤供給システム(10)の異常を判定する、
請求項1又は2に記載の異常診断装置。
【請求項5】
液体還元剤を収容するタンク(17)と、前記液体還元剤を圧送するポンプ(21)と、前記液体還元剤を内燃機関(11)の排気通路(13)内に噴射する還元剤噴射弁(19)と、前記ポンプ(21)から前記還元剤噴射弁(19)に供給される前記液体還元剤の圧力(Pu)を検出する圧力センサ(31)と、前記ポンプ(21)及び前記還元剤噴射弁(19)の駆動を制御する制御部(51)と、を備えた還元剤供給システム(1)であって、前記制御部(51)が、前記圧力(Pu)が所定のシステム圧(Pu_0)となるように前記ポンプ(21)を駆動し、前記液体還元剤の目標噴射量に応じて前記還元剤噴射弁(19)を駆動する前記還元剤供給システム(1)の異常を診断する異常診断方法において、
前記液体還元剤の目標噴射量がゼロのときの前記ポンプ(21)の駆動指示値(PmDC)であるゼロ点学習値(PmDC_0)を学習する学習ステップ(S5)と、
前記液体還元剤の目標噴射量がゼロを超える期間の前記ポンプ(21)の駆動指示値(PmDC)と前記ゼロ点学習値(PmDC_0)との差に基づいて前記還元剤供給システム(1)の異常を判定する異常判定ステップ(S7)と、を備え、
前記学習ステップ(S5)において、前記液体還元剤の目標噴射量がゼロの間の前記圧力(Pu)の変化量(ΔPu)又は前記ポンプ(21)の駆動指示値(PmDC)の変化量(ΔPmDC)が所定の閾値(Th1)を超えた場合、前記ゼロ点学習値(PmDC_0)の学習を停止する、
異常診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元剤供給システムの異常診断装置及び異常診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関の排気中にはNOX(窒素酸化物)が含まれる。このNOXを浄化する排気浄化装置の一つとして、内燃機関の排気通路中に配置される還元触媒と、還元触媒の上流側で尿素水溶液等のアンモニア由来の液体還元剤を噴射する還元剤供給システムとを備えた排気浄化装置が知られている。この排気浄化装置は、還元触媒中で、排気中のNOXと、液体還元剤から生成されるアンモニアとを還元反応させ、NOXを窒素や水等に分解する。
【0003】
このような排気浄化装置に用いられる還元剤供給システムの一態様として、ポンプ及び還元剤噴射弁を備え、貯蔵タンク内の液体還元剤をポンプによって圧送するとともに、排気通路に固定された還元剤噴射弁を介して液体還元剤を排気通路内に供給するシステムがある。還元剤供給システムは、ポンプの駆動量を調節することで還元剤噴射弁に供給する液体還元剤の圧力を所定のシステム圧に制御し、還元剤噴射弁の駆動量を調節することで液体還元剤の噴射量を制御している。
【0004】
このような還元剤供給システムの異常を診断する装置として、特許文献1には、噴射弁の噴射状態におけるポンプの回転速度を噴射時回転速度として取得し、噴射弁の噴射停止状態におけるポンプの回転速度を無噴射時回転速度として取得し、噴射弁における要求噴射量と、無噴射時回転速度に対する噴射時回転速度の上昇量から算出される実噴射量との差に基づいて、噴射弁における異常の有無を判定する異常診断装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、還元剤供給システムにおける液体還元剤の供給経路内にエアが混入することがある。例えば貯蔵タンク内に設けられた異物捕集用のフィルタ内にエアが滞留し、当該エアが液体還元剤の供給経路内に吸入されることが起き得る。液体還元剤の供給経路内にエアが混入すると、所定のシステム圧を保持するためのポンプの駆動量が変化するため、特許文献1のようにポンプの回転速度(駆動量)を利用した異常診断の信頼性が低下するおそれがある。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、還元剤供給システムの異常診断の信頼性の低下を抑制可能な異常診断装置及び異常診断方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある観点によれば、液体還元剤を収容するタンクと、上記液体還元剤を圧送するポンプと、上記液体還元剤を内燃機関の排気通路内に噴射する還元剤噴射弁と、上記ポンプから上記還元剤噴射弁に供給される上記液体還元剤の圧力を検出する圧力センサと、上記ポンプ及び上記還元剤噴射弁の駆動を制御する制御部と、を備えた還元剤供給システムであって、上記制御部が、上記圧力が所定のシステム圧となるように上記ポンプを駆動し、上記液体還元剤の目標噴射量に応じて上記還元剤噴射弁を駆動する上記還元剤供給システムの異常を診断する異常診断装置であって、上記液体還元剤の目標噴射量がゼロのときの上記ポンプの駆動指示値であるゼロ点学習値を学習するゼロ点学習部と、上記液体還元剤の目標噴射量がゼロを超える期間の上記ポンプの駆動指示値と上記ゼロ点学習値との差に基づいて上記還元剤供給システムの異常を判定する異常診断部と、を備え、上記ゼロ点学習部は、上記液体還元剤の目標噴射量がゼロの間の上記圧力の変化量又は上記ポンプの駆動指示値の変化量が所定の閾値を超えた場合、上記ゼロ点学習値の学習を停止する異常診断装置が提供される。
【0009】
本発明の別の観点によれば、液体還元剤を収容するタンクと、上記液体還元剤を圧送するポンプと、上記液体還元剤を内燃機関の排気通路内に噴射する還元剤噴射弁と、上記ポンプから上記還元剤噴射弁に供給される上記液体還元剤の圧力を検出する圧力センサと、上記ポンプ及び上記還元剤噴射弁の駆動を制御する制御部と、を備えた還元剤供給システムであって、上記制御部が、上記圧力が所定のシステム圧となるように上記ポンプを駆動し、上記液体還元剤の目標噴射量に応じて上記還元剤噴射弁を駆動する上記還元剤供給システムの異常を診断する異常診断方法であって、上記液体還元剤の目標噴射量がゼロのときの上記ポンプの駆動指示値であるゼロ点学習値を学習する学習ステップと、上記液体還元剤の目標噴射量がゼロを超える期間の上記ポンプの駆動指示値と上記ゼロ点学習値との差に基づいて上記還元剤供給システムの異常を判定する異常判定ステップと、を備え、上記学習ステップにおいて、上記液体還元剤の目標噴射量がゼロの間の上記圧力の変化量又は上記ポンプの駆動指示値の変化量が所定の閾値を超えた場合、上記ゼロ点学習値の学習を停止する異常診断方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように本発明によれば、還元剤供給システムの異常診断の信頼性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る還元剤供給システムを備えた排気浄化システムの構成図である。
【
図2】本実施形態に係る還元剤供給システムの制御装置の構成例を示すブロック図である。
【
図3】本実施形態によるゼロ点学習値の学習処理を示す説明図である。
【
図4】本実施形態による異常診断処理を示す説明図である。
【
図5】本実施形態に係る異常診断装置による異常診断処理を示すフローチャートである。
【
図6】本実施形態に係る異常診断装置によるゼロ点学習処理を示すフローチャートである。
【
図7】本実施形態に係る異常診断装置による異常判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0013】
<1.排気浄化システムの全体構成>
図1は、本発明の実施の形態に係る還元剤供給システム10を備えた排気浄化システム1の全体構成の一例を示す説明図である。
排気浄化システム1は、排気中のNO
Xを浄化するシステムであり、ディーゼルエンジン等の内燃機関11の排気通路13に設けられている。排気浄化システム1は、排気通路13の途中に介装された還元触媒15と、還元触媒15よりも上流側で排気通路13内に液体還元剤を供給する還元剤供給システム10とを備えている。
【0014】
還元触媒15は、排気中のNOXの還元を促進する機能を有する触媒であり、液体還元剤から生成される還元成分を吸着するとともに、還元触媒15に流れ込む排気中のNOXを還元成分によって選択的に還元する。本実施形態の排気浄化システム1は、液体還元剤として尿素水溶液を用いるシステムであり、尿素水溶液が排気通路13中で分解されることにより還元成分としてのアンモニアが生成され、還元触媒15に吸着される。
【0015】
<2.還元剤供給システム>
続いて、排気浄化システム1に備えられた還元剤供給システム10を説明する。
【0016】
還元剤供給システム10は、液体還元剤が貯蔵される貯蔵タンク17と、液体還元剤を圧送するためのポンプユニット20と、液体還元剤を排気通路13内に噴射する還元剤噴射弁19とを備えている。ポンプユニット20は、ポンプ21及び流路切換弁23を備えている。還元剤噴射弁19、ポンプ21及び流路切換弁23の駆動は、制御装置50によって行われる。
【0017】
ポンプ21と貯蔵タンク17とは第1の供給通路41によって接続されている。第1の供給通路41の貯蔵タンク17側の端部は、液体還元剤の吸い上げを可能にするために、貯蔵タンク17の底面近傍に位置している。ポンプ21と還元剤噴射弁19とは第2の供給通路45によって接続されている。ポンプ21と、第1の供給通路41及び第2の供給通路45とは、流路切換弁23を介して接続されている。
【0018】
流路切換弁23は、ポンプ21によって圧送される液体還元剤の流れる方向を、貯蔵タンク17側から還元剤噴射弁19側に流れる方向(以下「正方向」という。)と、還元剤噴射弁19側から貯蔵タンク17側に流れる方向(以下「逆方向」という。)とに切換える。本実施形態では、流路切換弁23は、非通電状態で第1の供給通路41をポンプ21の吸入側21aに連通するとともに第2の供給通路45をポンプ21の吐出側21bに連通する一方、通電状態で第1の供給通路41をポンプ21の吐出側21bに連通するとともに第2の供給通路45をポンプ21の吸入側21aに連通する。
【0019】
つまり、内燃機関11の排気通路13への液体還元剤の噴射制御を行う際には、液体還元剤を還元剤噴射弁19側に供給するために、流路切換弁23は非通電状態とされる。このとき、液体還元剤は正方向に流れる。一方、内燃機関11の停止時において、還元剤供給システム10内の液体還元剤を貯蔵タンク17に回収する際には、流路切換弁23は通電状態とされる。このとき、液体還元剤は逆方向に流れる。
【0020】
なお、液体還元剤を貯蔵タンク17に回収するための構成は、流路切換弁23を設ける例に限られない。例えばポンプ21を逆回転可能なポンプとして、液体還元剤を回収可能に構成することもできる。
【0021】
第2の供給通路45には、第2の供給通路45から分岐して貯蔵タンク17に接続された還流通路47が接続されている。還流通路47の貯蔵タンク17側の端部は、液体還元剤の逆流を防ぐために、貯蔵タンク17内の気相部分に接続されている。なお、貯蔵タンク17は、内部の圧力が大気圧で保たれるように構成されている。
【0022】
還流通路47の途中には、流路面積が小さく絞られたオリフィス27が設けられている。当該オリフィス27は、第2の供給通路45内の圧力を保持する機能を有する。
【0023】
還流通路47のうち、第2の供給通路45から分岐する還流通路47の分岐位置とオリフィス27との間の領域には、圧力ゲージ通路49が接続されている。圧力ゲージ通路49は、第2の供給通路45及び還流通路47内の圧力を圧力センサ31に導く通路であり、反対側の端部に圧力センサ31が設けられている。なお、圧力センサ31の設置位置は、ポンプ21と還元剤噴射弁19とを接続する第2の供給通路45内の圧力を検出可能な位置であれば特に限定されるものではない。
【0024】
ポンプ21は、制御装置50による通電制御によって、所定の流量の液体還元剤を圧送する。本実施形態では、ポンプ21は電磁式ポンプであり、駆動量(ポンプ駆動デューティ比)が大きいほどポンプ21の出力(吐出流量)が大きくなる。本実施形態で、当該ポンプ21が、液体還元剤を貯蔵タンク17に回収する機能も有する。ポンプ駆動デューティ比とは、所定の単位時間当たりのポンプ21への電流供給時間の割合をいう。
【0025】
内燃機関11の排気通路13への液体還元剤の噴射制御時において、制御装置50は、圧力センサ31によって検出される圧力値(以下、この値を「検出圧力」と称する。)Puが、あらかじめ設定された所定のシステム圧Pu_tgtで維持されるように、ポンプ21の駆動量をフィードバック制御する。具体的に、第2の供給通路45へ圧送される液体還元剤の一部が還流通路47を介して貯蔵タンク17へ循環可能な状態で、制御装置50は、圧力センサ31の検出圧力Puと所定のシステム圧Pu_tgtとの差分ΔPuに基づいてポンプ21の駆動量をフィードバック制御する。また、液体還元剤を逆方向に流して貯蔵タンク17に回収する場合において、制御装置50は、基本的に駆動量を一定にしてポンプ21の駆動を制御する。
【0026】
還元剤噴射弁19は、内燃機関11の運転状態において、制御装置50による通電制御によって開閉され、所定量の液体還元剤を排気通路13内に噴射する。本実施形態では、還元剤噴射弁19は、非通電状態で閉弁し、通電状態で開弁する、電磁式のオンオフ弁である。制御装置50は、所定の演算式に基づいて目標噴射量Qdv_tgtを求めるとともに、第2の供給通路45内の圧力(検出圧力Pu)が所定のシステム圧Pu_tgtとなっているものとして、あらかじめ定められた演算周期ごとに、目標噴射量Qdv_tgtに応じた駆動量(噴射弁駆動デューティ比)で還元剤噴射弁19の通電制御を行う。噴射弁駆動デューティ比とは、所定の単位時間当たりの還元剤噴射弁19への電流供給時間の割合をいう。
【0027】
一方、制御装置50は、内燃機関11の停止時において、液体還元剤を回収する際に、還元剤噴射弁19を開いた状態で保持する(噴射弁駆動デューティ比=100%)。
【0028】
<3.制御装置>
続いて、還元剤供給システム10の制御装置50を説明する。なお、本実施形態において、制御装置50は、還元剤供給システム10の異常の有無を診断する異常診断装置としての機能を有する。
【0029】
(3-1.構成)
図2は、本実施形態の制御装置50のうち、還元剤供給システム10の異常診断に関連する部分を機能的なブロックで表した構成例を示す。制御装置50は、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置からなる制御部51と、制御部51と通信可能に接続された記憶部65とを備えている。
【0030】
記憶部65は、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)等の記憶素子を含む。記憶部65は、制御部51により実行されるコンピュータプログラムや演算処理に用いられるパラメータ、制御部51による演算結果等のデータを記憶する。記憶部65の一部は、制御部51のワーク領域として使用される。ただし、記憶部65を構成する記録媒体の種類や数は特に限定されるものではない。
【0031】
制御装置50は、その他、ポンプ21、流路切換弁23及び還元剤噴射弁19を駆動する図示しない駆動回路や、図示しないタイマカウンタ等を備えている。また、制御装置50には、還元剤供給システム10の起動及び停止を指示する信号S_swと、圧力センサ31から出力されるセンサ信号S_puが入力される。
【0032】
制御部51は、ポンプ駆動制御部53、噴射弁駆動制御部55、流路切換弁駆動制御部57、回収制御部59、ゼロ点学習部61及び異常診断部63を備えている。これらの各部は、演算処理装置によるコンピュータプログラムの実行によって実現される機能である。ただし、これらの各部の一部が、アナログ回路により構成されていてもよい。
【0033】
ポンプ駆動制御部53は、ポンプ21の駆動を制御する。ポンプ駆動制御部53は、液体還元剤を排気通路13内へ噴射する制御モード中、圧力センサ31により検出される検出圧力Puが所定のシステム圧Pu_tgtとなるようにポンプ21の駆動量を制御する。システム圧Pu_tgtから検出圧力Puを引いた値が大きいほどポンプ21の駆動量は大きくなる。また、ポンプ駆動制御部53は、液体還元剤を貯蔵タンク17へ回収する制御モード中、あらかじめ設定された駆動量又は制御条件に基づいてポンプ21の駆動を制御する。
【0034】
噴射弁駆動制御部55は、還元剤噴射弁19の駆動を制御する。記憶部65には、液体還元剤の圧力がシステム圧Pu_tgtで保持されている場合の還元剤噴射弁19の駆動量と噴射量との関係を定めた噴射マップ情報が記憶されている。噴射弁駆動制御部55は、液体還元剤を排気通路13内へ噴射する制御モード中、当該噴射マップ情報に基づいて目標噴射量に応じた駆動量を設定し、還元剤噴射弁19の駆動を制御する。液体還元剤の目標噴射量は、内燃機関11から排出されるNOxの流量に基づいて設定される。液体還元剤の目標噴射量の算出方法は従来公知の方法であってよく、詳しい説明は省略する。また、噴射弁駆動制御部55は、液体還元剤を貯蔵タンク17へ回収する制御モード中、あらかじめ設定された駆動量又は制御条件に基づいて還元剤噴射弁19の駆動を制御する。
【0035】
流路切換弁駆動制御部57は、流路切換弁23の駆動を制御する。流路切換弁駆動制御部57は、液体還元剤を排気通路13内へ噴射する制御モード中、流路切換弁23への通電を停止する。これにより、ポンプ21によって圧送される液体還元剤が、貯蔵タンク17側から還元剤噴射弁19側へ流れる状態になる。また、流路切換弁駆動制御部57は、液体還元剤を貯蔵タンク17へ回収する制御モード中、流路切換弁23を通電状態とする。これにより、ポンプ21によって圧送される液体還元剤が、還元剤噴射弁19側から貯蔵タンク17側へ流れる状態になる。
【0036】
回収制御部59は、内燃機関11の停止時に、還元剤供給システム10の制御モードを、液体還元剤を貯蔵タンク17へ回収する制御モードに切り換える。回収制御部59は、例えば、還元剤供給システム10の停止を指示する信号S_swが入力されたときに、液体還元剤の回収する制御モードに切り換える。
【0037】
ゼロ点学習部61は、液体還元剤を排気通路13内へ噴射する制御モード中、液体還元剤の目標噴射量がゼロのときのポンプ21の駆動指示値であるゼロ点学習値を学習する。本実施形態では、ゼロ点学習部61は、液体還元剤の目標噴射量がゼロのときのポンプ駆動デューティ比PmDCを単位時間おきに積算し、ポンプ駆動デューティ比PmDCの積算値Int_PmDCが所定の基準値Int_PmDC_Xに到達したときのポンプ駆動デューティ比PmDCの積算値Int_PmDCを積算回数で割った平均値をゼロ点学習値PmDC_0とする。ゼロ点学習部61は、液体還元剤の目標噴射量がゼロのときのポンプ駆動デューティ比PmDCを単位時間おきに積算し、所定回数又は所定時間積算したときのポンプ駆動デューティ比PmDCの積算値Int_PmDCを積算回数で割った平均値をゼロ点学習値PmDC_0としてもよい。
【0038】
所定の圧力下で、エアの圧縮率は、液体還元剤の圧縮率よりも大きい。上述のとおり、ポンプ駆動制御部53は、検出圧力Puがシステム圧Pu_tgtとなるようにポンプ21の駆動量を制御することから、液体還元剤の供給経路内にエアが混入しているときのポンプ21の駆動指示値は、エアが混入していないときのポンプ21の駆動指示値PmDCよりも大きくなる。本実施形態では、ポンプ駆動制御部53は、液体還元剤の目標噴射量がゼロの間の検出圧力Puの変化量ΔPuが所定の閾値Th1を超えた場合、ゼロ点学習値PmDC_0の学習を停止する。具体的に、検出圧力Puの低下量ΔPuが大きい場合、液体還元剤の供給経路内にエアが混入したと考えられるため、ポンプ駆動制御部53は、検出圧力Puの低下量ΔPuが所定の閾値Th1を超えた場合、ゼロ点学習値Pm_DC_0の学習を停止する。
【0039】
図3は、本実施形態に係る制御装置50のゼロ点学習部61によるゼロ点学習値PmDC_0の学習処理を示す説明図である。
図3には、液体還元剤の検出圧力Pu、ポンプ駆動デューティ比PmDC、噴射弁駆動デューティ比DvDC、ポンプ駆動デューティ比の積算値Int_PmDC及びポンプ駆動デューティ比の積算フラグF_intpmが示されている。
【0040】
図3の期間C1は、液体還元剤の目標噴射量がゼロであって、検出圧力Puの変化量ΔPuが所定の閾値Th1以下の状態が維持された期間である。また、期間C2は、液体還元剤の目標噴射量がゼロであって、検出圧力Puの変化量ΔPuが所定の閾値Th1を超えた時刻t3を含む期間である。
【0041】
ゼロ点学習部61は、所定の単位時間ごとに計算されるポンプ駆動デューティ比PmDCを積算し、積算値Int_PmDCが所定の基準値Int_PmDC_Xに到達したときの積算値Int_PmDCを積算回数で割った平均値をゼロ点学習値PmDC_0とする。期間C1では、時刻t1から時刻t2までの間、検出圧力Puの変化量ΔPuが所定の閾値Th1を超えていないため、ポンプ駆動デューティ比の積算フラグF_intpmは「OK」の状態で維持されている。ゼロ点学習部61は、時刻t1から時刻t2までの間、継続的に単位時間ごとにポンプ駆動デューティ比Pm_DCを積算し、積算値Int_PmDCが所定の基準値Int_PmDC_Xに到達したときの積算値Int_PmDCを積算回数で割った平均値(PmDC_t2)をゼロ点学習値PmDC_0とする。
【0042】
一方、期間C2では、時刻t3において検出圧力Puの変化量ΔPuが所定の閾値Th1を超えたとする。この場合、ゼロ点学習部61は、時刻t3から、あらかじめ設定した所定の時間ゼロ点学習値PmDC_0の学習を停止する。
図3に示した例では、ゼロ点学習部61は、検出圧力Puの変化量ΔPuが所定の閾値Th1を超えたことを検出した時刻t3から所定時間(時刻t3から時刻t4までの期間)、ポンプ駆動デューティ比の積算フラグF_intpmを「NG」とする。これに伴って、ゼロ点学習部61は、時刻t3から時刻t4までの期間、ポンプ駆動デューティ比PmDCの積算を停止する。
【0043】
そして、ゼロ点学習部61は、時刻t4においてポンプ駆動デューティ比の積算フラグF_intpmを「OK」の状態としてポンプ駆動デューティ比Pm_DCの積算を再開し、積算値Int_PmDCが所定の基準値Int_PmDC_Xに到達したときの積算値Int_PmDCを積算回数で割った平均値(PmDC_t5)をゼロ点学習値PmDC_0とする。これにより、時刻t3以降、検出圧力Puの低下に伴ってポンプ駆動デューティ比PmDCが急増する期間が発生したとしても、その間のポンプ駆動デューティ比PmDCがゼロ点学習値PmDC_0の学習に用いられることがないようになっている。
【0044】
図3に示した例において、検出圧力Puの変化量ΔPuが所定の閾値Th1を超える場合であってもポンプ駆動デューティ比PmDCの積算を停止しない場合、時刻t6において積算値Int_PmDCが所定の基準値Int_PmDC_Xに到達することになる。この場合、時刻t3から時刻t6の期間におけるポンプ駆動デューティ比PmDCも積算され、時刻t6で学習されるゼロ点学習値PmDC_0(PmDC_t6)はエアが混入していない状態に比べて大きくなる。エアの混入によりポンプ駆動デューティ比PmDCが増大したとしても、時間が経過して大部分のエアが排出された後にはポンプ駆動デューティ比PmDCは増大前の状態に戻るため、ゼロ点学習値PmDC_0として学習された値PmDC_t6は適切でない値を示すことになる。
【0045】
ポンプ駆動デューティ比PmDCの積算を停止する所定時間は、液体還元剤の供給経路内にエアが混入したときに検出圧力Puが変動する時間の長さよりも長い時間にあらかじめ設定される。当該所定時間は、あらかじめシミュレーション等により求めることができる。
【0046】
異常診断部63は、液体還元剤を排気通路13内へ噴射する制御モード中、液体還元剤の目標噴射量がゼロを超える期間のポンプ21の駆動指示値PmDCとゼロ点学習値PmDC_0との差に基づいて還元剤供給システム10の異常を判定する。本実施形態では、異常診断部63は、液体還元剤の目標噴射量がゼロを超える期間におけるポンプ駆動デューティ比PmDCとゼロ点学習値PmDC_0との差ΔPmDCの積算値Int_ΔPmDCに基づいて還元剤供給システム10の異常を判定する。
【0047】
具体的に、異常診断部63は、液体還元剤の目標噴射量がゼロを超える期間における噴射弁駆動デューティ比の積算値Int_DvDCが所定の基準値Int_DvDC_Xとなったときの、所定の基準値Int_DvDC_Xに対するポンプ駆動デューティ比PmDCとゼロ点学習値PmDC_0との差ΔPmDCの積算値Int_ΔPmDCの比が所定の閾値を下回った場合に、還元剤供給システム10に異常が発生していると判定する。例えば還元剤噴射弁19の噴孔の詰まりなどによって、液体還元剤の噴射量が低下している場合、ポンプ駆動デューティ比PmDCは小さくなるため、所定の基準値Int_DvDC_Xに対するポンプ駆動デューティ比PmDCとゼロ点学習値PmDC_0との差ΔPmDCの積算値Int_ΔPmDCの比は小さくなる。異常診断部63は、当該比の値の低下量が所定以上となったときに還元剤供給システム10に異常が発生していると判定する。
【0048】
図4は、本実施形態に係る制御装置50の異常診断部63による異常診断処理を示す説明図である。
図4には、液体還元剤の検出圧力Pu、ポンプ駆動デューティ比PmDC、ゼロ点学習値PmDC_0、噴射弁駆動デューティ比DvDC、異常判定用状態値CDM、噴射弁駆動デューティ比の積算値Int_DvDC及びポンプ駆動デューティ比の積算値Int_ΔPmDCが示されている。本実施形態において、異常判定用状態値CDMは、噴射弁駆動デューティ比の積算値Int_DvDCの所定の基準値Int_DvDC_Xに対するポンプ駆動デューティ比PmDCとゼロ点学習値PmDC_0との差ΔPmDCの積算値Int_ΔPmDCの比を示す。
【0049】
図4の期間C11は、適切に学習されたゼロ点学習値PmDC_0を用いて異常診断が行われた期間である。また、期間C12は、液体還元剤の供給経路内にエアが混入したときに学習されたゼロ点学習値PmDC_0を用いて異常診断が行われた期間である。期間C11及び期間C12ともに噴射弁駆動デューティ比DvDCは同じ値となっている。
【0050】
期間C11及び期間C12それぞれにおいて、異常診断部63は、噴射弁駆動デューティ比DvDCを積算するとともに、ポンプ駆動デューティ比PmDCとゼロ点学習値PmDC_0との差ΔPmDCを積算する。また、異常診断部63は、噴射弁駆動デューティ比の積算値Int_DvDCが所定の基準値Int_DvDC_Xとなったときのポンプ駆動デューティ比PmDCとゼロ点学習値PmDC_0との差ΔPmDCの積算値Int_ΔPmDCを求める。そして、異常診断部63は、噴射弁駆動デューティ比の積算値Int_DvDCが所定の基準値Int_DvDC_Xとなったときの、所定の基準値Int_DvDC_Xに対するポンプ駆動デューティ比PmDCとゼロ点学習値PmDC_0との差ΔPmDCの積算値Int_ΔPmDCの比CDMを求め、還元剤供給システム10の異常を判定する。
【0051】
液体還元剤の供給経路内にエアが混入した状態で学習されたゼロ点学習値PmDC_0は適正値よりも大きい値となるため、ポンプ駆動デューティ比PmDCが同じであるにもかかわらず、ポンプ駆動デューティ比PmDCとゼロ点学習値PmDC_0との差ΔPmDCは小さくなる。このため、期間C12において噴射弁駆動デューティ比の積算値Int_DvDCが所定の基準値Int_DvDC_Xとなった時刻t15の積算値Int_ΔPmDCは、期間C11において噴射弁駆動デューティ比の積算値Int_DvDCが所定の基準値Int_DvDC_Xとなった時刻t12の積算値Int_ΔPmDCよりも小さくなる。したがって、時刻t15において算出される異常判定用状態値CDMは、時刻t12において算出される異常判定用状態値CDMよりも小さくなっている。
【0052】
(3-2.処理動作)
続いて、制御装置50の制御部51による還元剤供給システム10の異常判定に関連する処理動作を具体的に説明する。
【0053】
図5は、制御部51による異常診断処理のフローチャートを示す。
図5のフローチャートに示される異常診断処理は、還元剤供給システム10の起動時において常時実行されてもよく、所定の時間ごとに実行開始されてもよい。
【0054】
異常診断部63は、液体還元剤を排気通路13へ噴射する制御モードが開始されると(ステップS1)、液体還元剤の目標噴射量がゼロであるか否かを判定する(ステップS3)。例えば内燃機関11のイグニッションスイッチがオンにされて、還元触媒15の暖機に要する起動時間の経過後に液体還元剤を排気通路13へ噴射する制御モードが開始される。液体還元剤の目標噴射量は、例えば噴射弁駆動制御部55により算出され、異常診断部63は、噴射弁駆動制御部55による算出結果の情報を取得し、液体還元剤の目標噴射量がゼロであるか否かを判定する。
【0055】
異常診断部63が液体還元剤の目標噴射量がゼロであると判定した場合(S3/Yes)、ゼロ点学習部61は、ゼロ点学習値PmDC_0を学習する処理(ゼロ点学習処理)を実行する(ステップS5)。
図6は、ゼロ点学習処理の流れを示すフローチャートである。
【0056】
ゼロ点学習部61は、圧力センサ31により検出される検出圧力Puを取得する(ステップS21)。次いで、ゼロ点学習部61は、検出圧力Puの変化量ΔPuが所定の閾値Th1を超えているか否かを判定する(ステップS23)。検出圧力Puの変化量ΔPuは、圧力の制御目標値と検出圧力Puとの乖離量、すなわちシステム圧Pu_tgtと検出圧力Puとの差分を示す。ただし、検出圧力Puの変化量ΔPuは、前回又は前々回の演算周期で取得した検出圧力Puとの差分であってもよく、前回以前の一回又は複数回の演算周期で取得した検出圧力のPuの平均値又は移動平均値との差分であってもよい。検出圧力Puの変化量ΔPuは、検出圧力Puが大きくなる場合及び小さくなる場合の両方を含むように検出圧力Puの変化量ΔPuの絶対値としてもよい。ただし、前回以前に取得した検出圧力Puから今回取得した検出圧力Puを引いた差分が所定の閾値Th1を超えているか否かを判定することにより、液体還元剤の供給経路内へのエアの混入を見極めることができる。
【0057】
ゼロ点学習部61は、検出圧力Puの変化量ΔPuが所定の閾値Th1を超えていると判定しない場合(S23/No)、液体還元剤の供給経路内へのエアの混入のおそれがないことから、ゼロ点学習部61はステップS29へ進む。この場合、ゼロ点学習部61は、ポンプ駆動デューティ比PmDCを取得し(ステップS29)、記録されているポンプ駆動デューティ比PmDCの積算値Int_PmDCに加算する(ステップS31)。
【0058】
次いで、ゼロ点学習部61は、ポンプ駆動デューティ比PmDCの積算値Int_PmDCが所定の基準値Int_PmDC_Xに到達したか否かを判定する(ステップS33)。ゼロ点学習部61は、ポンプ駆動デューティ比PmDCの積算値Int_PmDCが所定の基準値Int_PmDC_Xに到達したと判定しない場合(S33/No)、ステップS21に戻る。
【0059】
一方、ゼロ点学習部61は、ポンプ駆動デューティ比PmDCの積算値Int_PmDCが所定の基準値Int_PmDC_Xに到達したと判定した場合(S33/Yes)、ゼロ点学習値PmDC_0を算出する(ステップS35)。本実施形態では、ゼロ点学習部61は、ポンプ駆動デューティ比PmDCの積算値Int_PmDC(すなわち、所定の基準値Int_PmDC_X)を積算回数で割った平均値を求め、当該平均値をゼロ点学習値PmDC_0として算出する。
【0060】
次いで、ゼロ点学習部61は、ゼロ点学習値PmDC_0の変化量ΔPmDC_0が所定の閾値Th2以下であるか否かを判定する(ステップS37)。具体的に、ゼロ点学習部61は、算出したゼロ点学習値PmDC_0が、現時点で記録されているゼロ点学習値の記録値から所定以上変化しているか否かを判定する。ゼロ点学習部61は、ゼロ点学習値PmDC_0の変化量ΔPmDC_0が所定の閾値Th2以下であると判定した場合(S37/Yes)、記録されているゼロ点学習値PmDC_0を上書きして更新する(ステップS39)。一方、ゼロ点学習部61は、ゼロ点学習値PmDC_0の変化量ΔPmDC_0が所定の閾値Th2以下であると判定しない場合(S37/No)、ゼロ点学習値PmDC_0の記録値を上書きせずに、そのままステップS41へ進む。
【0061】
液体還元剤の供給経路内にエアが混入してポンプ駆動デューティ比PmDCが増大側に変位した場合、ポンプ駆動デューティ比PmDCが元の状態に戻るまでに所定の時間を要する。この間に液体還元剤の目標噴射量がゼロを超える状態となって還元剤供給システム10の異常診断が実行されると、異常判定用状態値CDMが低下して誤診断を招くおそれがある。具体的には、
図4に示した例において、時刻t13から時刻t14の間の液体還元剤の目標噴射量はゼロであるにもかかわらず、ポンプ駆動デューティ比PmDCが時刻t11以前の値よりも大きくなる。このため、ゼロ点学習部61は、ゼロ点学習値PmDC_0の変化量ΔPmDC_0が所定の閾値Th2を超える場合(S37/No)、ゼロ点学習値PmDC_0を更新せずに前回値を保持する。
【0062】
ゼロ点学習部61は、ゼロ点学習値PmDC_0を更新又は保持した後、ポンプ駆動デューティ比PmDCの積算値Int_PmDCをリセットする(ステップS41)。次いで、ゼロ点学習部61は、液体還元剤の目標噴射量がゼロの状態で維持されているか否かを判定する(ステップS43)。ゼロ点学習部61は、液体還元剤の目標噴射量がゼロの状態であると判定しない場合(S43/No)、ゼロ点学習処理を終了する。一方、ゼロ点学習部61は、液体還元剤の目標噴射量がゼロの状態であると判定した場合(S43/Yes)、ステップS21に戻ってゼロ点学習処理を繰り返す。
【0063】
一方、ゼロ点学習部61は、上記のステップS23において、検出圧力Puの変化量ΔPuが所定の閾値Th1を超えていると判定した場合(S23/Yes)、ポンプ駆動デューティ比PmDCの積算を禁止する(ステップS25)。次いで、ゼロ点学習部61は、ポンプ駆動デューティ比PmDCの積算を禁止してからの経過時間が、所定の第1時間に到達したか否かを判定する(ステップS27)。ゼロ点学習部61は、ポンプ駆動デューティ比PmDCの積算を禁止してからの経過時間が所定の第1時間に到達したと判定しない場合(S27/No)、液体還元剤の目標噴射量がゼロの状態で維持されているか否かを判定する(ステップS45)。
【0064】
ゼロ点学習部61は、液体還元剤の目標噴射量がゼロの状態で維持されていると判定しない場合(S45/No)、ゼロ点学習値PmDC_0を学習可能な状態ではなくなったとして、ポンプ駆動デューティ比PmDCの積算値Int_PmDCを保持し(ステップS47)、ゼロ点学習処理を終了する。この場合、その後に液体還元剤の目標噴射量がゼロの状態になったときに、保持されていたポンプ駆動デューティ比PmDCの積算値Int_PmDCから積算が再開される。なお、ゼロ点学習部61は、ゼロ点学習値PmDC_0を学習可能な状態ではなくなった場合、ポンプ駆動デューティ比PmDCの積算値Int_PmDCをリセットし、その後に液体還元剤の目標噴射量がゼロの状態になったときに、ポンプ駆動デューティ比PmDCの積算値Int_PmDCがゼロの状態から積算を再開してもよい。
【0065】
一方、ゼロ点学習部61は、液体還元剤の目標噴射量がゼロの状態で維持されていると判定した場合(S45/Yes)、ステップS27に戻り、経過時間が所定の第1時間に到達するまでステップS27及びステップS45の判定を繰り返す。この間、ポンプ駆動デューティ比PmDCの積算が禁止された状態で維持される。一方、ゼロ点学習部61は、ポンプ駆動デューティ比PmDCの積算を禁止してからの経過時間が所定の第1時間に到達したと判定した場合(S27/Yes)、ステップS29に進み、ポンプ駆動デューティ比PmDCの積算を再開する。
【0066】
図5に戻り、ステップS5において、ゼロ点学習部61がゼロ点学習処理を実行した後、異常診断部63は、液体還元剤を排気通路13へ噴射する制御モードが終了しているか否かを判定する(ステップS9)。例えば内燃機関11の運転が停止し、液体還元剤を貯蔵タンク17へ回収する制御モードに切り換えられた場合、異常診断部63は、液体還元剤を排気通路13へ噴射する制御モードが終了していると判定する。異常診断部63は、液体還元剤を排気通路13へ噴射する制御モードが終了していると判定した場合(S9/Yes)、異常診断処理を終了する。
【0067】
一方、異常診断部63は、液体還元剤を排気通路13へ噴射する制御モードが終了していると判定しない場合(S9/No)、ステップS3に戻る。ステップS3において、異常診断部63は、液体還元剤の目標噴射量がゼロであると判定しない場合(S3/No)、つまり、液体還元剤の目標噴射量がゼロを超える場合、異常判定処理を実行する(ステップS7)。
図7は、異常判定処理の流れを示すフローチャートである。
【0068】
異常診断部63は、ポンプ駆動制御部53及び噴射弁駆動制御部55それぞれにより設定されているポンプ駆動デューティ比PmDC及び噴射弁駆動デューティ比DvDCの情報を取得する(ステップS51)。次いで、異常診断部63は、取得したポンプ駆動デューティ比PmDC及び噴射弁駆動デューティ比DvDCの値を、記録されているポンプ駆動デューティ比の積算値Int_PmDC及び噴射弁駆動デューティ比の積算値Int_DvDCに加算する(ステップS53)。
【0069】
次いで、異常診断部63は、噴射弁駆動デューティ比の積算値Int_DvDCが所定の基準値Int_DvDC_Xに到達したか否かを判定する(ステップS55)。所定の基準値Int_DvDC_Xは任意に設定されてよいが、例えば100%(=噴射弁駆動デューティ比の積算値Int_DvDC)とすることができる。異常診断部63は、噴射弁駆動デューティ比の積算値Int_DvDCが所定の基準値Int_DvDC_Xに到達したと判定しない場合(S55/No)、異常診断部63は、液体還元剤の目標噴射量がゼロになったか否かを判定する(ステップS67)。ゼロ点学習部61は、液体還元剤の目標噴射量がゼロになったと判定しない場合(S67/No)、ステップS51に戻り、ポンプ駆動デューティ比PmDC及び噴射弁駆動デューティ比DvDCの積算を継続する。
【0070】
一方、ステップS55において、異常診断部63は、噴射弁駆動デューティ比の積算値Int_DvDCが所定の基準値Int_DvDC_Xに到達したと判定した場合(S55/Yes)、異常判定用状態値CDMを算出する(ステップS57)。本実施形態では、異常診断部63は、噴射弁駆動デューティ比の積算値Int_DvDCが所定の基準値Int_DvDC_Xに到達したときの、所定の基準値Int_DvDC_Xに対するポンプ駆動デューティ比PmDCとゼロ点学習値PmDC_0との差ΔPmDCの積算値Int_ΔPmDCの比を求め、異常判定用状態値CDMとする。
【0071】
次いで、異常診断部63は、異常判定用状態値CDMが所定の閾値Th3を超えているか否かを判定する(ステップS59)。ゼロ点学習値PmDC_0の値が大きいほどポンプ駆動デューティ比PmDCとゼロ点学習値PmDC_0との差ΔPmDCの積算値Int_ΔPmDCが小さい値となって、異常判定用状態値CDMは小さくなる。所定の閾値Th3は、還元剤供給システム10の噴射量の低下が著しい場合に異常が発生していると判定されるように任意の適切な値に設定される。
【0072】
異常診断部63は、異常判定用状態値CDMが所定の閾値Th3を超えていると判定した場合(S59/Yes)、ポンプ駆動デューティ比PmDCの変化量が、液体還元剤の噴射量に応じた適切な変化量から大きく外れていないとして、還元剤供給システム10に異常が発生していないと判定する(ステップS61)。一方、異常診断部63は、異常判定用状態値CDMが所定の閾値Th3を超えていると判定しない場合(S59/No)、ポンプ駆動デューティ比PmDCの変化量が、液体還元剤の噴射量に応じた適切な変化量から大きく外れているとして、還元剤供給システム10に異常が発生していると判定する(ステップS63)。
【0073】
ステップS61又はステップS63において還元剤供給システム10の異常の有無を判定した後、異常診断部63は、ポンプ駆動デューティ比の積算値Int_PmDC及び噴射弁駆動デューティ比の積算値Int_DvDCをそれぞれリセットしてステップS67へ進む。異常診断部63は、液体還元剤の目標噴射量がゼロになったか否かを判定する(ステップS67)。ゼロ点学習部61は、液体還元剤の目標噴射量がゼロになったと判定しない場合(S67/No)、ステップS51に戻り、ポンプ駆動デューティ比PmDC及び噴射弁駆動デューティ比DvDCの積算を再開する。
【0074】
一方、ゼロ点学習部61は、液体還元剤の目標噴射量がゼロの状態であると判定した場合(S67/Yes)、ポンプ駆動デューティ比の積算値Int_PmDC及び噴射弁駆動デューティ比の積算値Int_DvDCをそれぞれリセットして異常判定処理を終了する。
【0075】
以上説明したように、本実施形態に係る還元剤供給システムの制御装置50は、液体還元剤の目標噴射量がゼロのときのポンプ21の駆動指示値PmDCであるゼロ点学習値PmDC_0を学習する際に、液体還元剤の目標噴射量がゼロの間の検出圧力Puの変化量ΔPuが所定の閾値Th1を超えた場合、ゼロ点学習値PmDC_0の学習を停止する。このため、液体還元剤の供給経路に一時的にエアが混入して、ポンプ駆動デューティ比PmDCが増大側に変位している間のポンプ駆動デューティ比PmDCがゼロ点学習値PmDC_0に反映されることを防ぐことができる。したがって、ゼロ点学習値PmDC_0を用いた還元剤供給システム10の異常診断の信頼性が低下することを抑制することができる。
【0076】
また、本実施形態に係る還元剤供給システムの制御装置50は、ゼロ点学習値PmDC_0の学習を停止してから所定の第1時間が経過したときにゼロ点学習値PmDC_0の学習を再開する。これにより、ポンプ駆動デューティ比PmDCの変化が所定以下に収束した後にゼロ点学習値PmDC_0の学習を再開させることができる。
【0077】
また、本実施形態に係る還元剤供給システムの制御装置50は、ゼロ点学習値PmDC_0と、記録されているゼロ点学習値PmDC_0の記録値と、の差(変化量)ΔPmDC_0が所定の閾値を超える場合には記録値を保持し、差ΔPmDC_0が所定の閾値以下の場合に記録値を更新する。このため、液体還元剤の供給経路にエアが混入した後、ポンプ駆動デューティ比PmDCが元の状態に戻る前にゼロ点学習値PmDC_0が更新されることを防ぐことができる。したがって、ゼロ点学習値PmDC_0を用いた還元剤供給システム10の異常診断の信頼性が低下することを抑制することができる。
【0078】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0079】
例えば上記実施形態に係る制御装置50は、液体還元剤の目標噴射量がゼロの間の検出圧力Puの変化量ΔPuが所定の閾値Th1を超えた場合、ゼロ点学習値PmDC_0の学習を停止していたが、本発明はかかる例に限定されない。制御装置50は、液体還元剤の目標噴射量がゼロの間の検出圧力Puの変化量ΔPuが所定の閾値Th1を超えた場合に代えて、ポンプ21の駆動指示値PmDCの変化量ΔPmDCが所定の閾値Th1を超えた場合、ゼロ点学習値PmDC_0の学習を停止してもよい。
【0080】
また、上記実施形態に係る制御装置50によるゼロ点学習処理及び異常判定処理はあくまでも一例にすぎず、ゼロ点学習値を用いて還元剤供給システム10の異常診断が実行される構成であれば、ゼロ点学習処理及び異常判定処理の手法は上記の例に限定されるものではない。この場合であっても、液体還元剤の目標噴射量がゼロの間の検出圧力Puの変化量ΔPu又はポンプ21の駆動指示値PmDCの変化量ΔPmDCが所定の閾値Th1を超えた場合にゼロ点学習値PmDC_0の学習を停止することで、ゼロ点学習値PmDC_0の学習結果及び異常診断結果の信頼性を高めることができる。
【符号の説明】
【0081】
1:排気浄化システム、10:還元剤供給システム、11:内燃機関、13:排気通路、15:還元触媒、17:貯蔵タンク、19:還元剤噴射弁、20:ポンプユニット、21:ポンプ、23:流路切換弁、31:圧力センサ、41:第1の供給通路、45:第2の供給通路、47:還流通路、49:圧力ゲージ通路、50:制御装置、53:ポンプ駆動制御部、55:噴射弁駆動制御部、61:ゼロ点学習部、63:異常診断部