IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-変圧器 図1
  • 特開-変圧器 図2
  • 特開-変圧器 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136340
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】変圧器
(51)【国際特許分類】
   H01F 30/10 20060101AFI20240927BHJP
   H01F 27/245 20060101ALI20240927BHJP
   H01F 27/33 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01F30/10 S
H01F30/10 A
H01F27/245 150
H01F27/33
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047432
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100132067
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 喜雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120444
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 雅章
(72)【発明者】
【氏名】直島 勇斗
【テーマコード(参考)】
5E058
【Fターム(参考)】
5E058AA27
(57)【要約】
【課題】磁歪による鉄心での騒音を低減でき、鉄心の材料特性の変化を防止できるようにすること。
【解決手段】変圧器(1)は、複数の電磁鋼板を積層して形成される鉄心(10)を備えている。鉄心は、電磁鋼板の積層方向と交差する方向に延出する複数の脚部(11)と、電磁鋼板の積層方向と交差する方向であって複数の脚部の並び方向に延出して複数の脚部の端部間を連結する第1ヨーク部(13)及び第2ヨーク部(14)と、各ヨーク部に設けられる磁歪低減部(20)とを備えている。磁歪低減部は、各ヨーク部を構成する電磁鋼板の積層方向と異なる方向に複数の電磁鋼板を積層して構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電磁鋼板を積層して形成される鉄心を備えた変圧器であって、
前記鉄心は、前記電磁鋼板の積層方向と交差する方向に延出する複数の脚部と、
前記電磁鋼板の積層方向と交差する方向であって前記複数の脚部の並び方向に延出して前記複数の脚部の端部間を連結するヨーク部と、
前記ヨーク部に設けられる磁歪低減部とを備え、
前記磁歪低減部は、前記ヨーク部を構成する前記電磁鋼板の積層方向と異なる方向に複数の電磁鋼板を積層して構成されることを特徴とする変圧器。
【請求項2】
前記ヨーク部の延出方向はX方向、前記脚部の延出方向はY方向、前記脚部及び前記ヨーク部を構成する前記電磁鋼板の積層方向はZ方向とされ、前記X方向、前記Y方向及び前記Z方向が相互に直交する三次元方向とされ、
前記磁歪低減部を構成する前記電磁鋼板の積層方向は前記Y方向とされることを特徴とする請求項1に記載の変圧器。
【請求項3】
前記ヨーク部を構成する前記電磁鋼板の圧延方向と、前記磁歪低減部を構成する前記電磁鋼板の圧延方向とは、それぞれ前記X方向とされることを特徴とする請求項2に記載の変圧器。
【請求項4】
前記複数の脚部及び前記ヨーク部によって開口が形成され、
前記ヨーク部における前記開口と反対側に凹部が形成され、該凹部内に前記磁歪低減部が設けられることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の変圧器。
【請求項5】
前記磁歪低減部は、前記開口に対し前記X方向の形成位置が同一とされることを特徴とする請求項4に記載の変圧器。
【請求項6】
前記磁歪低減部は、前記ヨーク部に対し前記Y方向の幅が約半分とされることを特徴とする請求項2に記載の変圧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄心が電磁鋼板を積層して構成される変圧器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、相互に隣り合う位置にある2つの脚を磁気的に連結するヨークを備え、脚及びヨークがそれぞれ積層された複数の方向性電磁鋼板を有する変圧器用積鉄心を開示している。ヨークには、その方向性電磁鋼板の圧延方向に延伸するスリットや穴が設けられ、ヨークの圧延方向以外の方向における磁気抵抗を大きくし、ヨークにて圧延方向以外の方向に流れる磁束を低減させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-21721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、ヨークにて圧延方向以外の方向に流れる磁束を低減させることで、積鉄心の振動による騒音の低減を図っている。しかしながら、特許文献1は、騒音低減のために方向性電磁鋼板の厚さ方向に貫通するスリットや穴を形成するための加工が必要になる。更には、特許文献1は、かかる加工によりヨークにおける鉄損等の材料特性が変化し、所定の磁束に低減する設計が難しくなる。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、磁歪による鉄心での騒音を低減でき、鉄心の材料特性の変化を防止することができる変圧器を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明における一態様の変圧器は、複数の電磁鋼板を積層して形成される鉄心を備えた変圧器であって、前記鉄心は、前記電磁鋼板の積層方向と交差する方向に延出する複数の脚部と、前記電磁鋼板の積層方向と交差する方向であって前記複数の脚部の並び方向に延出して前記複数の脚部の端部間を連結するヨーク部と、前記ヨーク部に設けられる磁歪低減部とを備え、前記磁歪低減部は、前記ヨーク部を構成する前記電磁鋼板の積層方向と異なる方向に複数の電磁鋼板を積層して構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、磁歪低減部とヨーク部とで電磁鋼板の積層方向が異なるので、磁歪低減部とヨーク部との間にて磁歪低減部における電磁鋼板の積層方向の磁束密度を小さくすることができる。これにより、鉄心での磁歪振動を低減して騒音の発生を抑制することができる。しかも、従来のようにスリットや穴を形成する加工をなくすことができ、該加工によって電磁鋼板の材料特性が変化することを回避することができる。これにより、ヨーク部に実際に発生する磁束に対し、各種条件に基づき演算する解析の精度を高めることができ、ヨーク部の磁束を磁歪低減部によって低減する設計を行い易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態に係る変圧器の一部構成を省略した概略斜視図である。
図2図1の正面図である。
図3図3Aは、従来構造の鉄心の磁束のベクトル分布の解析結果を示す図であり、図3Bは、実施の形態に係る鉄心の磁束のベクトル分布の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施の形態に係る変圧器について、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下においては、本発明に係る変圧器を乾式変圧器(例えば、H種乾式変圧器)やガス絶縁変圧器及び油入変圧器に適用した場合について説明する。
【0010】
ここで、本発明は、下記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施できるものである。以下の図においては、説明の便宜上、一部の構成を省略することがある。
【0011】
図1は、実施の形態に係る変圧器の一部構成を省略した概略斜視図である。図2は、図1の正面図である。図1及び図2に示す変圧器1は、磁気回路を構成する鉄心10と、図示省略した電気回路を構成する巻線(コイル)とを備えている。図示省略しているが、例えば、鉄心10が上下両側にてフレームを介して支持された状態にて巻線と共に所定の容器内に収容される。
【0012】
鉄心10は、複数の電磁鋼板を積層して形成された積層鉄心とされる。電磁鋼板としては、無方向性珪素鋼板、方向性珪素鋼板、6.5%珪素鋼板等が例示できる。また、電磁鋼板は、圧延方向(磁化容易軸の方向)を有する方向性電磁鋼板とされ、方向性電磁鋼板は、圧延方向の透磁率が該圧延方向と異なる方向の透磁率より大きくなる。
【0013】
鉄心10は、複数本の脚部11と、複数の脚部11の端部間を連結する第1ヨーク部13(ヨーク部)及び第2ヨーク部14(ヨーク部)とを備えている。
【0014】
本実施の形態は、脚部11が3本とされ、それぞれの脚部11の周りに巻線がそれぞれ配置される3相3脚構造の変圧器1とされる。なお、脚部11の本数は5本にする等、複数であって各ヨーク部13、14が形成される構成であればよい。鉄心10には、電磁鋼板の積層方向に貫通する一対の開口16、17が複数の脚部11及び各ヨーク部13、14によって形成されている。これらの開口16、17は、鉄心10の窓部と呼ばれることもある。3本の脚部11に配置される巻線は、例えば、三相交流電源の各相の巻線に対応する。
【0015】
ここで、以下の説明においては、各図において矢印で示したX方向、Y方向、Z方向を基準に説明する。X方向、Y方向及びZ方向は、相互に直交する三次元方向とされる。以下の実施の形態では、Z方向が鉄心10の脚部11及び各ヨーク部13、14を構成する電磁鋼板の積層方向、Y方向が脚部11の延出方向、X方向が各ヨーク部13、14の延出方向になる。X方向は、電磁鋼板の積層方向(Z方向)と交差(直交)する方向になり、複数の脚部11の並び方向になる。Y方向も、電磁鋼板の積層方向(Z方向)と交差(直交)する方向になる。上記の各方向は実施の形態と同様の機能を発揮し得る限りにおいて変更してもよい。
【0016】
鉄心10においては、方向性電磁鋼板の磁化特性に応じ、脚部11を構成する方向性電磁鋼板の圧延方向RDがY方向、各ヨーク部13、14を構成する方向性電磁鋼板の圧延方向RDがX方向とされる。
【0017】
各ヨーク部13、14にあっては、X方向における2箇所位置に凹部13a、14aが形成され、それぞれの凹部13a、14a内に磁歪低減部20が設けられる。磁歪低減部20は、凹部13a、14aの内部空間全てを埋めるような直方体状に形成されており、磁歪低減部20の配設箇所と、凹部13a、14aの形成箇所とが同一とされる。凹部13a、14aの形成にあっては、積層する前の電磁鋼板に対し、各ヨーク部13、14の外縁と同様に所定位置に打ち抜き加工等を行い、その後、電磁鋼板を積層することが例示できる。
【0018】
磁歪低減部20においても、複数の方向性電磁鋼板を積層して構成される。但し、磁歪低減部20を構成する方向性電磁鋼板と、各ヨーク部13、14を構成する方向性電磁鋼板とは、積層方向が異なっている。各ヨーク部13、14を構成する方向性電磁鋼板の積層方向がZ方向であるのに対し、磁歪低減部20を構成する方向性電磁鋼板の積層方向はY方向とされる。
【0019】
磁歪低減部20を構成する方向性電磁鋼板の圧延方向RDはX方向とされる。よって、各ヨーク部13、14を構成する方向性電磁鋼板の圧延方向RDと同じ方向とされる。
【0020】
+Y側に位置する第1ヨーク部13に形成される凹部13aは、第1ヨーク部13にて開口16、17と反対側になる+Y側を陥没させて形成される。よって、第1ヨーク部13の凹部13a内に配置される磁歪低減部20は、第1ヨーク部13の+Y側に設けられる。-Y側に位置する第2ヨーク部14に形成される凹部14aは、第2ヨーク部14にて開口16、17と反対側になる-Y側を陥没させて形成される。よって、第2ヨーク部14の凹部14a内に配置される磁歪低減部20は、第2ヨーク部14の-Y側に設けられる。
【0021】
Y方向にて、各磁歪低減部20の幅は各ヨーク部13、14の幅の約半分とされる。よって、各ヨーク部13、14のY方向中央位置が、磁歪低減部20と各ヨーク部13、14との境界位置とされる。
【0022】
X方向にて、開口16、17と磁歪低減部20との形成位置は同一とされる。これにより、各磁歪低減部20の+X側及び-X側の形成領域は、脚部11と各ヨーク部13、14との接合部分近傍に位置するようになる。
【0023】
続いて、鉄心10の磁束の流れを確認するために行った解析について、図3を参照して以下に説明する。
【0024】
図3Aは、従来構造の鉄心の磁束のベクトル分布の解析結果を示す図であり、図3Bは、実施の形態に係る鉄心の磁束のベクトル分布の解析結果を示す図である。従来構造は、上記実施の形態における凹部13a、14a及び磁歪低減部20を設けずに、各ヨーク部13、14を形成した構成とされる。
【0025】
図3A及び図3Bは、3本の脚部11のうち、X方向中央の脚部11と-X側の脚部11、それらの端部を連結する第1ヨーク部13を拡大して図示している。また、図3A及び図3Bに多数図示した矢印は鉄心10の内部に発生する磁束のベクトル分布を解析した結果を表している。かかる矢印は、不図示の巻線に三相交流電源の交流電圧を印加して鉄心10を励磁した場合、励磁周期(三相交流電源の周波数に対応する周期)の或る一時点(例えば、U相とV相の電圧の振幅が等しく、極性も等しくなる時点)での解析結果となる磁束を表している。従来構造及び上記実施の形態の両方において、鉄心10を励磁した場合、磁束は主に脚部11及び第1ヨーク部13の圧延方向RDに沿った向きで発生する。
【0026】
図3Aの従来構造では、中央の脚部11と第1ヨーク部13の接合部分付近では、一部の磁束が圧延方向RDと直交した方向に発生し、図3Aの破線Bで囲む領域にて示すように磁束の回り込みが生じる。かかる回り込みによって、破線Bで囲む領域にて磁歪が大きいY方向に磁束が鎖交し、磁歪振動が大きくなる。
【0027】
これに対し、図3Bの実施の形態では、第1ヨーク部13に磁歪低減部20を設けており、磁歪低減部20の設置部分にて磁歪低減部20の積層方向であるY方向の磁気抵抗を高くして磁束が鎖交し難くすることができる。これにより、図3A及び図3Bの解析結果を比べて理解できるように、図3Bの実施の形態では、破線Bで囲む領域にて磁束の回り込みを抑制することができる。この結果、磁歪が大きいY方向の磁束密度を小さくすることができ、磁歪振動を低減して騒音を抑制することが可能となる。
【0028】
上記実施の形態によれば、電磁鋼板を積層した磁歪低減部20が各ヨーク部13、14に設けられるので、従来のようにスリットや穴を形成する加工をなくすことができ、該加工によって電磁鋼板の材料特性が変化することを回避することができる。これにより、励磁した鉄心10の磁束に応じて設計及び製造を行うにあたり、上述した解析の精度を向上でき、解析結果に近似した磁束が発生する鉄心10を容易に製造できる。よって、各ヨーク部13、14の磁束を磁歪低減部20によって低減する設計を行い易くすることができ、磁歪振動を低減して騒音を抑制することが可能となる。
【0029】
なお、本発明の実施の形態は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、本発明の技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、本発明の技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【0030】
例えば、脚部11及び各ヨーク部13、14の延出方向は、それらの電磁鋼板の積層方向に対して直交方向としたが、該直交方向から所定角度変位し、電磁鋼板の積層方向に交差する方向としてもよい。また、磁歪低減部20の電磁鋼板の積層方向においても、脚部11及び各ヨーク部13、14の積層方向に対して直交する方向から所定角度変位し、該直交する方向に交差する方向としてもよい。
【0031】
更に、磁歪低減部20の形成位置は、脚部11と各ヨーク部13、14との接合部分付近を含んでいる限りにおいて変更してもよい。例えば、磁歪低減部20は、図2に示す形成位置からY方向にずれた位置としたり、Y方向の幅を変更してもよい。
【0032】
また、上記実施の形態では、本発明を変圧器に適用した構成について説明したが、上述した作用効果が得られるのであれば、他の電力用静止器や電力変換装置に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 :変圧器
10 :鉄心
11 :脚部
13 :第1ヨーク部(ヨーク部)
13a :凹部
14 :第2ヨーク部(ヨーク部)
14a :凹部
16 :開口
17 :開口
20 :磁歪低減部
RD :圧延方向
図1
図2
図3