(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136344
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】シートリクライニング装置およびシートリクライニング装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
A47C 1/025 20060101AFI20240927BHJP
F16H 1/32 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A47C1/025
F16H1/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047439
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】517251797
【氏名又は名称】株式会社TF-METAL
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【弁理士】
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】大石 訓久
【テーマコード(参考)】
3B099
3J027
【Fターム(参考)】
3B099BA04
3B099CA20
3J027FA17
3J027FA36
3J027FB01
3J027GB03
3J027GC02
3J027GE11
3J027GE14
3J027GE27
3J027GE29
(57)【要約】
【課題】一方のプレートの外周部とホルダの外側フランジ部とを安定的に溶接固定しつつ、他方のプレートとホルダの内側フランジ部との間に微小な隙間を確保することができる。
【解決手段】シートリクライニング装置のホルダ12が、軸方向に延びる円筒部12aと、円筒部12aの軸方向一端から径方向内側に延び、軸方向において第1プレート2に対向する内側フランジ部12bと、円筒部12aの軸方向他端から径方向外側に延び、レーザー溶接によって第2プレート4の外周部4cに溶接固定された外側フランジ部12cとを有する。第2プレート4の外周部4cのうちホルダ12の外側フランジ部12cと対向する内面4dには、径方向内側に向かうにつれてホルダ12から離間するように傾斜して窪んだ凹部5が形成されている。外側フランジ部12cは、該外側フランジ部12cが凹部5内に押し込まれた状態で第2プレート4の外周部4cに溶接固定されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状の内周面に軸方向から半抜き加工された複数の内歯を有する第1プレートと、
円環状の外周面に前記第1プレートの内歯に噛み合い、該内歯よりも1歯または2歯少ない歯数の複数の外歯を有する第2プレートと、
前記内歯と前記外歯とが噛み合うように前記第1プレートおよび前記第2プレートを重ね合わせた状態で前記第1プレートおよび前記第2プレートのうち一方のプレートの外周部に溶接固定されるとともに、軸方向において他方のプレートの外周部と対向することで前記一方のプレートに対する前記他方のプレートの離間を規制するリング状のホルダと、
偏心回転して前記内歯と前記外歯との噛み合い位置を変化させることで前記一方のプレートに対して前記他方のプレートを回転させる偏心駆動機構とを備えたシートリクライニング装置において、
前記ホルダは、前記軸方向に延びる円筒部と、前記円筒部の軸方向一端から径方向内側に延び、前記他方のプレートに対向する内側フランジ部と、前記円筒部の軸方向他端から径方向外側に延び、前記一方のプレートの外周部に溶接固定された外側フランジ部とを有し、
前記一方のプレートの外周部のうち前記ホルダの前記外側フランジ部と対向する面には、径方向内側に向かうにつれて前記ホルダから離間するように傾斜して窪んだ凹部が形成されており、
前記ホルダの前記外側フランジ部は、該外側フランジ部が前記凹部内に押し込まれた状態で前記一方のプレートの外周部に溶接固定されていることを特徴とするシートリクライニング装置。
【請求項2】
前記ホルダの前記外側フランジ部は、レーザー溶接によって前記外側フランジ部の外周側から前記凹部に向かって斜めに照射されることで形成された溶接部を介して、前記一方のプレートの外周部に溶接固定されていることを特徴とする請求項1に記載のシートリクライニング装置。
【請求項3】
前記凹部は、前記ホルダ側に向かって凸となる円弧状面、または径方向内側に向かうにつれて前記ホルダから離間するように傾斜する傾斜面を有することを特徴とする請求項1に記載のシートリクライニング装置。
【請求項4】
前記一方のプレートの外周部は、前記他方のプレート側へ突出するように半抜き加工によって形成されており、
前記凹部は、前記一方のプレートの外周部の半抜き加工によるダレによって形成されており、
前記軸方向に沿った半抜きの高さは、前記軸方向に沿った前記一方のプレートの厚さの4分の1~3分の1程度に設定されることを特徴とする請求項1に記載のシートリクライニング装置。
【請求項5】
円環状の内周面に軸方向から半抜き加工された複数の内歯を有する第1プレートと、
円環状の外周面に前記第1プレートの内歯に噛み合い、該内歯よりも1歯または2歯少ない歯数の複数の外歯を有する第2プレートと、
前記内歯と前記外歯とが噛み合うように前記第1プレートおよび前記第2プレートを重ね合わせた状態で前記第1プレートおよび前記第2プレートのうち一方のプレートの外周部に溶接固定されるとともに、軸方向において他方のプレートの外周部と対向することで前記一方のプレートに対する前記他方のプレートの離間を規制するリング状のホルダと、
偏心回転して前記内歯と前記外歯との噛み合い位置を変化させることで前記一方のプレートに対して前記他方のプレートを回転させる偏心駆動機構とを備え、
前記ホルダは、前記軸方向に延びる円筒部と、前記円筒部の軸方向一端から径方向内側に延び、前記他方のプレートに対向する内側フランジ部と、前記円筒部の軸方向他端から径方向外側に延びる外側フランジ部とを有し、
前記一方のプレートの外周部に向かって前記外側フランジ部を押し付ける押し付け工程と、
レーザー溶接により前記一方のプレートの外周部に前記外側フランジ部を固定するレーザー溶接工程とを含むシートリクライニング装置の製造方法において、
前記一方のプレートの外周部のうち前記ホルダの前記外側フランジ部と対向する面には、径方向内側に向かうにつれて前記ホルダから離間するように傾斜して窪んだ凹部が形成されており、
前記押し付け工程は、前記凹部内に前記外側フランジ部を押し込むことを含み、
前記レーザー溶接工程は、前記外側フランジ部が前記凹部内に押し込まれた状態で前記外側フランジ部の外周側から前記凹部側に向かって斜めにレーザーを照射することにより、前記一方のプレートの外周部に前記外側フランジ部を溶接することを含むことを特徴とするシートリクライニング装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートリクライニング装置およびシートリクライニング装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のシートリクライニング装置は、シートクッションおよびシートバックのうちの一方に固定される円形の第1プレートと、シートクッションおよびシートバックのうちの他方に固定され、第1プレートと対向する円形の第2プレートと、第1プレートと第2プレートとの間に介在された一対の楔部材と、一対の楔部材を離接する方向に摺動させるカムとを備えている。また、第2プレートの直径が第1プレートの直径よりも大きくなっており、従って、第1プレートと第2プレートとを互いに対向させた状態では、第2プレートの外周部は、第1プレートの外周部よりも径方向外側に位置している。第1プレートは、第2プレートに対して相対回転可能となっている。
【0003】
また、第1プレートの外周部および第2プレートの外周部付近には、第2プレートに対する第1プレートの離間を規制するリング状のホルダが設けられている。ホルダは、第1プレートの中心軸に沿った方向である軸方向に延びる円筒部と、該円筒部の軸方向一端から径方向内側に延びており、微小な隙間を介して第1プレートに対向することで第2プレートに対する第1プレートの離間を規制する内側フランジ部と、円筒部の軸方向他端から径方向外側に延び、レーザー溶接により第2プレートの外周部に溶接固定された外側フランジ部とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のシートリクライニング装置では、レーザー溶接によるスパッタの発生を抑制するとともに安定的な固定を実現するために、第2プレートの外周部とホルダの外側フランジ部との間の間隙を無くした状態でレーザー溶接を行うことが必要とされている。
【0006】
また、一般に、特許文献1のようなシートリクライニング装置では、第2プレートに対する第1プレートの相対回転を許容しつつ、第2プレートに対する第1プレートの離間を規制するために、ホルダの内側フランジ部の内側面と第1プレートの外周部の外側面との間に微小な隙間が設けられている。
【0007】
また、シートリクライニング装置の製造現場では、第1プレート、第2プレートおよびホルダを量産すると、当然のことながら、個々の第1プレート、第2プレートおよびホルダについて寸法のばらつきが生じることになる。さらに、第1プレートおよび第2プレートに関しては、組み付けの際の組み付け誤差により、所定の組み付け位置よりも傾いた状態で組み付けられてしまうこともある。
【0008】
このような個々の第1プレート等の寸法のばらつきや第1プレートおよび第2プレートの傾きの問題が存在するので、内側フランジ部と第1プレートの外周部との間に微小な隙間を確保しようとすると、いくつかのシートリクライニング装置に関しては、第2プレートの外周部とホルダの外側フランジ部との間に間隙が生じてしまい、レーザー溶接を安定的に行うことができない場合がある。
【0009】
このように、第2プレートの外周部とホルダの外側フランジ部との間の間隙を無くして両者をレーザー溶接によって溶接固定すること、および、内側フランジ部の内側面と第1プレートの外周部の外側面との間に微小な隙間を確保することを両立させるのは困難である。
【0010】
本発明は、上記の技術的課題に鑑みて案出されたものであり、一方のプレートの外周部とホルダの外側フランジ部とを安定的に溶接固定しつつ、他方のプレートの外周部とホルダの内側フランジ部との間に微小な隙間を確保することが可能なシートリクライニング装置およびシートリクライニング装置の製造方法を提供することを1つの目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、円環状の内周面に軸方向から半抜き加工された複数の内歯を有する第1プレートと、円環状の外周面に第1プレートの内歯に噛み合い、該内歯よりも1歯または2歯少ない歯数の複数の外歯を有する第2プレートと、内歯と外歯とが噛み合うように第1プレートおよび第2プレートを重ね合わせた状態で第1プレートおよび第2プレートのうち一方のプレートの外周部に溶接固定され、軸方向において他方のプレートの外周部と対向し、一方のプレートに対する他方のプレートの離間を規制するリング状のホルダと、偏心回転して内歯と外歯との噛み合い位置を変化させることで一方のプレートに対して他方のプレートを回転させる偏心駆動部材とを備えたシートリクライニング装置に関し、ホルダは、軸方向に延びる円筒部と、円筒部の軸方向一端から径方向内側に延び、他方のプレートに対向する内側フランジ部と、円筒部の軸方向他端から径方向外側に延び、一方のプレートの外周部に溶接固定された外側フランジ部とを有し、一方のプレートの外周部のうちホルダの外側フランジ部と対向する面には、径方向内側に向かうにつれてホルダから離間するように傾斜して窪んだ凹部が形成されており、ホルダの外側フランジ部は、外側フランジ部が凹部内に押し込まれた状態で一方のプレートの外周部に溶接固定されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、一方のプレートの外周部とホルダの外側フランジ部とを安定的に溶接固定しつつ、他方のプレートの外周部とホルダの内側フランジ部との間に微小な隙間を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の実施形態のシートリクライニング装置の主たる構成部材の分解斜視図である。
【
図2】第1の実施形態のシートリクライニング装置の要部縦断面図である。
【
図3】第2プレートの外周部およびその周囲を示す断面の説明図である。
【
図4】(a)は第1プレート等の配置工程を示す工程図、
図4(b)は押し付け工程並びにレーザー溶接工程を示す工程図である。
【
図5】第2の実施形態の第2プレートの外周部およびその近傍を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は第1実施形態のシートリクライニング装置の主たる構成部材の分解斜視図、
図2は第1の実施形態のシートリクライニング装置の要部縦断面図である。
図3は、第2プレート4の外周部4cおよびその周囲を示す断面の説明図である。なお、
図3では、ホルダ12の傾きを実際よりも誇張して表現するため、第2プレート4の図示を省略してある。また、
図3には、押し付け装置の押し付け部15bにより押し付けられる前のホルダ12の位置を破線で示してある。
【0015】
シートリクライニング装置は、
図1および
図2に示すように、図示せぬシートバックに設けられたバック側アームに結合した内歯構成部材である第1プレート2と、図示せぬシートクッションのクッション側アームに結合した外歯構成部材である第2プレート4と、シートバック側に設けられた図外の電動モータによって回転駆動される出力軸である図外の駆動シャフトが挿入されて一体に回転駆動される駆動部材である駆動ブッシュ3と、駆動ブッシュ3の外側を覆うように第2プレート4に一体に結合したカバー部材1とを備えている。そして、上記電動モータによって駆動ブッシュ3に正転方向あるいは逆転方向の回転駆動力が付与されると、第2プレート4に対して第1プレート2が駆動ブッシュ3の回転方向とは反対方向へ高い減速比で減速されて回転するようになっている。
【0016】
第1プレート2は、鉄系金属材によって円板状に形成されて、外周部2aよりも径方向内側に環状凹部2bが形成されている共に、該環状凹部2bの内周面に半抜き加工された複数の内歯2cが形成されている。また、中央に貫通形成された貫通孔2dの孔縁から第2プレート4側に軸方向に延びる円筒状のボス部2eが一体に設けられている。また、第1プレート2の内歯2cとボス部2eとの間には、図示せぬバック側アームの方向に突出した複数(本実施形態では6つ)の突起部2fが円周方向の等間隔位置に設けられている。この各突起部2fは、プレス成形によってエンボス加工により形成され、図示せぬバック側アームに形成された6つの固定用孔に嵌合してこの部分が溶接によって結合されている。
【0017】
第2プレート4は、鉄系金属材によって円環状に形成されて、中心部に第1プレート2のボス部2eよりも十分に大きく且つカバー部材1側に向かって突出する環状フランジ部4aが形成されている。また、環状フランジ部4aの内周が取付穴となっているとともに、側面のうち径方向の中間部には第1プレート2側に向かって突出する外歯4bが半抜き状に形成されている。外歯4bの歯数は内歯2cの歯数よりも1歯あるいは2歯だけ少なく設定されていることから、第2プレート4の中心が第1プレート2の中心(中心線O)に対して偏心した状態となっており、円周方向の一部分で噛み合っている。
【0018】
また、第2プレート4の外周部4cは、半抜き加工によって第2プレート4の軸方向に沿って第1プレート2側に押圧されることで、第1プレート2側に突出している。ここで、第2プレート4の軸方向に沿った半抜きの高さは、第2プレート4の厚さの4分の1~3分の1程度に設定される。なお、第2プレート4は第1プレート2と重ね合わされるように配置されるので、第2プレート4の軸方向は、第1プレート2の軸方向と一致しており、即ち、
図2に示す中心線Oに沿った方向である。この軸方向に突出した外周部4cの径方向の内側部分には、外周部4cの軸方向内側の側面である内面4dに対して窪んだ円環状溝部4eが形成されている。また、円環状溝部4eの底面には、第1プレート2の外周部2aの第2プレート4側の側面である内側面2gが当接している。円環状溝部4eの底面には、周方向の位置決め用に3つの窪み部4fが周方向の等間隔位置に形成されている。
【0019】
カバー部材1は、カップ形状を有し、図外の駆動シャフトが挿通される軸穴1aが中心部に形成されているとともに、周壁部1bの先端部の周縁部に外フランジ部1cが環状に形成されている。そして、外フランジ部1cは、第2プレート4の環状フランジ部4aの外周面に周壁部1bが嵌め合わされたうえで、第2プレート4の側面に重ね合わされており、例えばレーザー溶接により、外フランジ部1cを第2プレート4の外側面に固定している。
【0020】
図3に示すように、第2プレート4の外周部4cの内面4dのうち円環状溝部4eに隣接した位置には、上述の第2プレート4の外周部4cの半抜き加工に伴うダレによって、第2プレート4の径方向内側に向かうにつれて後述のホルダ12から離間するように傾斜して窪んだ凹部5が形成されている。凹部5は、ホルダ12の内側フランジ部12b側に向かって僅かに凸となる円弧状面5aを有している。なお、凹部5は、第2プレート4の外周部4cの半抜き加工に伴うダレによって形成されるのではなく、プレス成形により第2プレート4の外周部4cの内面4dを直接変形させることによって形成されても良い。
【0021】
また、環状フランジ部4aの内周面には、リング状の滑り軸受であるメタルベアリング6が嵌合固定されている。このメタルベアリング6は、軸方向の長さが環状フランジ部4aの内周面を含むメタルベアリング6の大径孔4gの軸方向の長さとほぼ同一に形成されている。このように、メタルベアリング6の軸方向の長さを、大径孔4gの軸方向の長さに合わせて長くしたことによって、環状フランジ部4aの内周面とガイドプレート10の外周面との摺動面積を大きくして摺動する際の面圧を小さくしている。
【0022】
リングばね7は、駆動ブッシュ3のフランジ部3bとカバー部材1の内面との間に軸方向に配置されており、対向する両端末部に楔部材9,9側に突出した突出端部7a,7aが設けられている。
【0023】
図2に示すように、メタルベアリング6の内周面6aと第1プレート2のボス部2eの外周面2hとの間には、偏心空間8が形成されている。
【0024】
この偏心空間8内には、基端部同士を相互に対向させた一対の偏心部材である楔部材9,9が配置されている。この一対の楔部材9,9は、それぞれの基端部9a,9aから先端部9b,9bに向かって肉厚が細くなる円弧形状に形成され、それぞれの基端部9a,9aの先端面には半円状のばね係止溝9c,9cがそれぞれ形成されている。
【0025】
また、一対の楔部材9,9は、
図1および
図2に示すように、両ばね係止溝9c,9cに両突出端部7a,7aが互いに反対方向から係止するばね部材であるリングばね7によって円周方向で互いに離間する方向へ付勢されている。つまり、一対の楔部材9,9は、第2プレート4の外歯4bと第1プレート2の内歯2cとの噛み合いにおいて、常にバックラッシの無い状態を維持するために、円周方向に相互に離間する方向へリングばね7のばね力によって付勢されている。リングばね7の付勢力と楔効果とによって偏心空間8内における外歯4bと内歯2cとの中心間距離(偏心量)が広げられ、第2プレート4が、
図2の上方へ押し上げられている。このため、外歯4bと内歯2cとの噛み合いが深くなってバックラッシの無い状態が作られ、ボス部2eと内歯2cとの間で、第2プレート4と一対の楔部材9,9との間が遊びを生じない隙間の無い状態が維持されている。
【0026】
また、楔部材9,9の軸方向の一側面側には、ガイドプレート10が設けられており、偏心空間8では、楔部材9,9が第1プレート2側に配置されているのに対してガイドプレート10がカバー部材1側に配置されている。
【0027】
ガイドプレート10は、鉄系金属材によってほぼ円弧形状に形成されて、内周面10aがボス部2eの外周面2hとほぼ同じ曲率半径に形成されていると共に、外周面10bがメタルベアリング6の内周面6aとほぼ同じ曲率半径に設定されている。このガイドプレート10は、外歯4bと内歯2cとの中心間距離(偏心量)を一定に保った状態で偏心空間8内を円周方向に移動可能になっている。
【0028】
また、ガイドプレート10は、
図1および
図2に示すように、カバー部材1側の一側面に円弧状の凸部10cが一体に設けられていると共に、凸部10cより下側の円周方向のほぼ中央位置に、リングばね7の突出端部7a,7aが挿入される円弧状の長孔10dが貫通形成されている。
【0029】
ガイドプレート10とカバー部材1との間には、一対の楔部材9,9を円周方向へ押して回転させる駆動ブッシュ3が配置されている。
【0030】
この駆動ブッシュ3は、所定肉厚の鉄系金属の板材をプレス成形加工によって全体が形成され、
図1および
図2に示すように、第1プレート2のボス部2eの内部に回転可能に支持される円筒状部3aと、該円筒状部3aの軸方向の一端部に一体に設けられ、各楔部材9,9の側面を覆うフランジ部3bと、該フランジ部3bの外周側に一体に設けられて、各楔部材9,9を円周方向から押圧して楔作用を解除する押圧部3cと、円筒状部3aの軸方向の他端部の内周面に一体に形成された壁部3dとを備えている。
【0031】
円筒状部3aは、外周面3eの外径がボス部2eの内周面2jの内径より僅かに小さく形成されてボス部2e内で回転可能になっていると共に、他端部である先端部3fの内周面に上述した円環状の壁部3dが一体に設けられている。
【0032】
この壁部3dには、円筒状部3aの内径よりも僅かに小さい歯元内径を有する円環状の内歯部である雌スプライン歯3gが形成されている。この雌スプライン歯3gは、図外の電動モータの出力軸に連結された図外の駆動シャフトの外周に形成された雄スプライン歯が軸方向から噛合してスプライン結合するようになっている。
【0033】
フランジ部3bは、リング状に形成されて、外周部に押圧部3cが設けられていると共に、この押圧部3cの径方向反対側の位置に円弧状溝3hが形成されている。この円弧状溝3hは、ガイドプレート10の円弧状の長孔10dと重なる位置に形成され、リングばね7の両突出端部7a,7aが軸方向から嵌入されるようになっている。
【0034】
上記楔部材9,9、ガイドプレート10、リングばね7および駆動ブッシュ3は、偏心回転して内歯2cと外歯4bとの噛み合い位置を変化させることで第2プレート4に対して第1プレート2を回転させる偏心駆動機構11を構成する。
【0035】
また、内歯2cと外歯4bとが互いに噛み合うように第1プレート2と第2プレート4とを重ね合わせるとともに、レーザー溶接によって第2プレート4の外周部4cにホルダ12を溶接することにより、双方のプレート2,4同士が相対回転可能に拘束される。
【0036】
ホルダ12は、鉄系金属材によって円筒状に形成されていて、第1プレート2の中心線Oに沿った方向である軸方向に延びる円筒部12aと、該円筒部12aの軸方向一端から径方向内側に延び、軸方向において第1プレート2の外周部2aに対向する内側フランジ部12bと、円筒部12aの軸方向他端から径方向外側に延び、レーザー溶接によって第2プレート4の外周部4cに溶接固定された外側フランジ部12cとを有している。
ホルダ12は、後述の押し付け装置15の押し付け部15bにより第1プレート2の外周部2a側に内側フランジ部12bを押し付けると共に、外側フランジ部12cを第2プレート4の内面4dに押付けている。ここで、内側フランジ部12bは、第1プレート2の外周部2aとの間に軸方向の隙間13を有すると共に、外側フランジ部12cは、第2プレート4の内面4dに接している。また、第2プレート4の内面4dは、円筒部12aの外周面の位置よりも外側の半径方向位置で外側フランジ部12cの第2プレート4側の面12dに接している。そのため、円筒部12aの外周面の位置よりも内側の部分12eは、凹部5に対向して隙間を有しているため、押し付け部15bによりホルダ12全体が第2プレート4側に押されることで、凹部5内に押し込まれるように円弧状面5aに沿って傾くように変形し、この円弧状面5aに接触させた状態でレーザー溶接を行うことで、第2プレート4に対して僅かに傾いた状態で第2プレート4の外周部4cに溶接固定される。
【0037】
内側フランジ部12bは、全体として円環状をなしており、先端部12fが第2プレート4側に塑性変形されることにより、内側フランジ部12bの第1プレート2と対向する面である内側面12gの一部が、
図3に示すように第1プレート2側に凸となる円弧面12hとなっている。円弧面12hは、第2プレート4に対する第1プレート2の相対回転を許容しつつ、第2プレート4に対する第1プレート2の離間を規制するために、第1プレート2の外周部2aの外側面2iとの間に微小な隙間13(
図4(b)参照)、例えば約0.1mmの隙間が設けられている。
【0038】
外側フランジ部12cは、全体として円環状をなしており、第2プレート4の外径よりもわずかに小さい外径を有すると共に、ホルダ12の径方向に沿った長さが内側フランジ部12bよりも短く形成されている。
図3には、実際よりも誇張して図示されているが、押し付け部15bにより第2プレート4側に押されることで、外側フランジ部12cは、円筒部12aの外周面の位置よりも内側の部分12eが凹部5の円弧状面5aに沿って傾くように変形し、接触するように凹部5内に僅かに押し込まれている。外側フランジ部12cは、円筒部12aの外周面の位置よりも内側の部分12eが凹部5の円弧状面5aに接触した状態で、外側フランジ部12cの外周側から凹部5に向かって、より詳細には円筒部12aの外周面の位置辺りの部分12eと凹部5の円弧状面5aとの境界面を通るようにレーザー溶接のレーザーを斜めに照射することにより、第2プレート4の外周部4cに溶接固定されている。なお、
図2には、レーザー溶接による溶接痕(溶接部)14がドットで示されている。
【0039】
図4は、シートリクライニング装置の製造方法の種々の工程の一部を示すものであり、
図4(a)は第1プレート2等の配置工程を示す工程図、
図4(b)は押し付け工程並びにレーザー溶接工程を示す工程図である。
【0040】
まず、シートリクライニング装置の製造装置は、第1プレート2およびホルダ12を具備した第2プレート4が設置される図示省略した設置台と、第1プレート2側にホルダ12の内側フランジ部12bを押し付ける押し付け装置15と、第2プレート4の外周部4cとホルダ12の外側フランジ部12cとを溶接するレーザー溶接装置16とを有している。
【0041】
設置台は、
図4(a)に示すように第2プレート4の凹部5が上側に開口する姿勢で、第1プレート2およびホルダ12を具備した第2プレート4を設置および固定するものであり、第2プレート4の中心線を中心に周方向に回転可能となるように構成されている。
【0042】
押し付け装置15は、円形の板状をなす基部15aと、該基部15aの外周端部からホルダ12の内側フランジ部12b側に突出した環状の押し付け部15bとを有している。基部15aは、例えば第1プレート2およびホルダ12に対する接近および離間が可能となるように図示せぬ周知のエアシリンダに接続されている。押し付け部15bは、内側フランジ部12bの先端部12fを除いた外側面12iを押圧することができる程度の径方向寸法を有している。そして、押し付け部15bは、第1プレート2の外周部2aに向かうように内側フランジ部12bの外側面12iを押し付ける環状の押し付け面15cを有している。なお、押し付け部15bは、内側フランジ部12bの外側面12iの全体を押し付けるように構成されるのではなく、内側フランジ部12bの外側面12iの外周側部分(円筒部12a近傍)のみを押し付けるように形成されていても良い。
【0043】
レーザー溶接装置16は、レーザーを照射する照射部16aが第2プレート4の外周部4cの内面4dと平行な線Lに対して所定の傾斜角度αで傾斜するようにホルダ12の外周側において固定位置に設けられている。
【0044】
次に、シートリクライニング装置の製造方法について説明する。
【0045】
まず、
図4(a)に示す配置工程において、内歯2cと外歯4bとが噛み合う(
図2参照)ように第1プレート2および第2プレート4を重ね合わせ、第2プレート4の外周部4c上にホルダ12を配置したうえで、図示せぬ設置台上に、第1プレート2およびホルダ12を具備した第2プレート4を設置する。第2プレート4の設置後には、ホルダ12の内側フランジ部12bが第1プレート2の外周部2aと平行になっており、内側フランジ部12bと第1プレート2の外周部2aとの間に、上述の微小な隙間13よりも広い隙間が設けられている。
【0046】
次に、
図4(b)に示すように、レーザー溶接工程前の押し付け工程において、
図4(b)に矢印Aで示すようにホルダ12の内側フランジ部12bの外側面12iに押し付け部15bの押し付け面15cを押し付けることにより、外側フランジ部12cの面12dの部分12eが凹部5内に押し込まれて円弧状面5aに接触する。これにより、内側フランジ部12bと第1プレート2の外周部2aとの間に微小な隙間13が形成されるまで第1プレート2の外周部2aに内側フランジ部12bを接近させることができる。
【0047】
そして、レーザー溶接工程において、第2プレート4等を具備した設置台を回転させながら、固定された溶射部16aによりレーザー溶接を断続的に行うことで、第2プレート4の外周部4cにホルダ12の外側フランジ部12cを溶接する。この溶接後には、角度αで傾斜した複数の溶接痕(溶接部)14が第2プレート4の周方向における等間隔位置に形成される。
【0048】
上記のように、第1の実施形態では、ホルダ12の外側フランジ部12cが、該外側フランジ部12cが凹部5内に押し込まれた状態で第2プレート4の外周部4cに溶接固定されている。より具体的には、外側フランジ部12cの面12dの部分12eが凹部5の円弧状面5aに接触するように押し付けられた状態で、内側フランジ部12bの円弧面12hが微小な隙間13を介して第1プレート2の外周部2aの外側面2iに接近するようにしたうえで、外側フランジ部12cが第2プレート4の外周部4cに溶接固定されている。逆に言えば、凹部5により第1プレート2、第2プレート4およびホルダ12の寸法のばらつきや第1プレート2および第2プレート4の組み付け誤差に伴う傾きが吸収された状態でレーザー溶接が行われ、その結果、内側フランジ部12bの円弧面12hと第1プレート2の外周部2aの外側面2iとの間に理想的な隙間13が確保されている。従って、第2プレート4の外周部4cとホルダ12の外側フランジ部12cとを安定的に溶接固定しつつ、第1プレート2の外周部2aとホルダ12の内側フランジ部12bとの間に微小な隙間13を確保することができる。
【0049】
また、本実施形態では、ホルダ12の外側フランジ部12cは、レーザー溶接により、外側フランジ部12cの外周側から凹部5に向かって斜めに照射されることで、第2プレート4の外周部4cに溶接固定されている。より具体的には、外側フランジ部12cが凹部5内に押し込まれた状態では、外側フランジ部12cの部分12eが凹部5の円弧状面5aに接触することで、部分12eと円弧状面5aとの境界面が第2プレート4の外周部4cの内面4dに対して傾斜している。そして、このような傾斜した境界面に適合するように斜めにレーザー溶接を行うことで、ホルダ12の外側フランジ部12cの部分12eを凹部5内に押し込んだ位置で容易に溶接を行うことができる。
【0050】
さらに、本実施形態では、凹部5は、ホルダ12の内側フランジ部12b側に向かって凸となる円弧状面5aを有している。このため、外側フランジ部12cが円弧状面5aの円弧に沿って傾斜し、円弧状面5aと外側フランジ部12cとの間隙が小さくなるので、レーザー溶接を安定的に行うことができる。
【0051】
また、本実施形態では、第2プレート4の外周部4cは、第1プレート2側へ突出するように半抜き加工によって形成されており、凹部5は、半抜き加工によるダレによって形成されている。また、軸方向に沿った半抜きの高さは、軸方向に沿った第2プレート4の厚さの4分の1~3分の1程度に設定される。このように半抜き加工によるダレを利用して凹部5を形成することで、切削等の他の加工方法を用いる場合と比べて、凹部5を容易に形成することができる。
【0052】
なお、仮に、軸方向に沿った半抜きの高さを上記の設定よりも大きくすると、軸方向に沿ったホルダ12の円筒部12aの長さを十分に確保することができず、第1プレート2側に内側フランジ部12bを押し付ける際に、ホルダ12自体が弾性変形しやすくなり、凹部5内に外側フランジ部12cを十分に押し込めない虞がある。従って、ホルダ12の円筒部12aの高さの確保と、ダレを利用した凹部5の形成との双方を考慮した場合、半抜きの高さは、第2プレート4の厚さの4分の1~3分の1程度に設定されるのが良い。
【0053】
図5は、第2の実施形態の第2プレート4の外周部4cおよびその近傍を示す断面図である。
【0054】
第2の実施形態では、第1の実施形態とは異なり、凹部5が、第2プレート4の径方向内側に向かうにつれてホルダ12から離間するように徐々に傾斜する傾斜面5bを有している。この傾斜面5bは、例えばプレス成形により第2プレート4の外周部4cの内面4dを直接変形させることで形成される。傾斜面5bと外周部4cの内面4dとの境界に位置する点Pは、第1の実施例と同様に、半径方向で円筒部12aの外周面の位置よりも外側に配置されており、第1プレート2側にホルダ12の内側フランジ部12bを押し付ける際に、外側フランジ部12cが凹部5内に押し込まれて傾向く際の支点となる。そして、レーザー溶接の溶接痕は、この支点の位置を通るように設定される。
【0055】
上記のように、第2の実施形態では、凹部5が、第2プレート4の径方向内側に向かうにつれてホルダ12から離間するように徐々に傾斜する傾斜面5bを有している。このような傾斜面5bを有した凹部5を具備したシートリクライニング装置おいても、第1の実施形態と同様に、第2プレート4の外周部4cとホルダ12の外側フランジ部12cとを安定的に溶接固定しつつ、第1プレート2の外周部2aとホルダ12の内側フランジ部12bとの間に微小な隙間13を確保することができる。
【0056】
なお、上記各実施形態では、内歯2cが第1プレート2に形成され、さらに、外歯4bが第2プレート4に形成された例について説明したが、内歯2cが第2プレート4に形成され、さらに、外歯4bが第1プレート2に形成される例についても、本発明を適用することができる。この場合には、第1プレート2の外周部2aがホルダ12の外側フランジ部12cに溶接される。
【符号の説明】
【0057】
2・・・第1プレート、2a・・・外周部、3・・・駆動ブッシュ、4・・・第2プレート、4b・・・外周部、5・・・凹部、5a・・・円弧状面、5b・・・傾斜面、12・・・ホルダ、12a・・・円筒部、12b・・・内側フランジ部、12c・・・外側フランジ部、12h・・・円弧面、14・・・溶接痕