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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136385
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】セメント混和材
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20240927BHJP
   C04B 40/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B40/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047491
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】扇 嘉史
(72)【発明者】
【氏名】小林 和揮
(72)【発明者】
【氏名】橋本 真幸
(72)【発明者】
【氏名】細川 佳史
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PE07
4G112RA02
(57)【要約】
【課題】セメントクリンカを原料として使用し、二酸化炭素が固定化されているため、混和材として用いた場合に、該混和材を含む混合セメントの二酸化炭素排出原単位を低減することができるセメント混和材を提供する。
【解決手段】鉱物組成として、カルシウムシリケート及びAl含有鉱物相を含むセメントクリンカを炭酸化してなる炭酸化セメントクリンカの粉砕物を含むセメント混和材。上記セメントクリンカは、好ましくはカルシウムシリケートとしてビーライトを含み、Al含有鉱物相としてゲーレナイトを含み、かつ、以下の(1)~(2)の条件を満たす焼成物である。
(1)ビーライト100質量部に対するゲーレナイトの量が10~100質量部であること
(2)セメントクリンカがアルミネート相を含まない、又は、ビーライト100質量部に対して15質量部以下の量で含むこと
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱物組成として、カルシウムシリケート及びAl含有鉱物相を含むセメントクリンカを炭酸化してなる炭酸化セメントクリンカの粉砕物を含むことを特徴とするセメント混和材。
【請求項2】
上記セメントクリンカが、XRD-リートベルト法による鉱物組成として、上記カルシウムシリケートを40質量%以上の割合で、かつ、上記Al含有鉱物相を0.1質量%以上の割合で含むものである請求項1に記載のセメント混和材。
【請求項3】
上記セメント混和材の炭素の割合が0.5~10質量%である請求項1に記載のセメント混和材。
【請求項4】
上記カルシウムシリケートが、エーライト及びビーライトの中から選ばれる1種以上であり、上記Al含有鉱物相が、アルミネート相、フェライト相、ゲーレナイト、アウイン、及びCaAlの中から選ばれる1種以上である請求項1に記載のセメント混和材。
【請求項5】
上記セメントクリンカが、上記カルシウムシリケートとしてビーライトを含み、上記Al含有鉱物相としてゲーレナイトを含み、かつ、以下の(1)~(2)の条件を満たす焼成物である請求項1に記載のセメント混和材。
(1)上記ビーライト100質量部に対する上記ゲーレナイトの量が10~100質量部であること
(2)上記セメントクリンカがアルミネート相を含まない、又は、上記ビーライト100質量部に対して15質量部以下の量で含むこと
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のセメント混和材とセメントを含む混合セメントであって、
上記混合セメント中、上記セメント混和材の割合が5~60質量%である混合セメント。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のセメント混和材を製造するための方法であって、
上記セメントクリンカを粗砕してなる粗砕物を炭酸化養生し粉砕して、または、上記セメントクリンカを粉砕してなる粉砕物を炭酸化養生して、上記セメント混和材を得る第一の炭酸化養生工程、
を含むセメント混和材の製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載のセメント混和材を製造するための方法であって、
上記セメントクリンカを粉砕してなる粉砕物と水を混練して、ペーストを得る混練工程と、
上記ペーストを炭酸化養生して、炭酸化してなるペーストの硬化体を得るペースト炭酸化工程と、
上記硬化体を粉砕して上記セメント混和材を得る粉砕工程、
を含むセメント混和材の製造方法。
【請求項9】
上記粉砕工程で得られた上記セメント混和材を炭酸化養生する第二の炭酸化養生工程、を含む請求項8に記載のセメント混和材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント混和材に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、地球温暖化の抑制のため、二酸化炭素の排出量の低減が重要な課題になっている。
排ガスに含まれている二酸化炭素をセメント質硬化体に固定化して大気中への二酸化炭素の排出量を削減するための方法として、例えば、特許文献1には、セメント質硬化体に、350℃以上の温度を有する二酸化炭素含有ガスを接触させて、上記二酸化炭素含有ガスに含まれている二酸化炭素を、上記セメント質硬化体に固定化する接触工程を含むことを特徴とする二酸化炭素の固定化方法が記載されている。
また、コンクリート廃材から再生骨材を製造する際に副次発生する微粉末を、セメント原料の一部として再利用した微粉セメントとして、特許文献2には、水酸化カルシウムをほとんど含まない廃コンクリート微粉末を、セメントクリンカに微量添加したことを特徴とする微粉末セメントが記載されている。該微粉末セメントは、炭酸化の進行した材料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-131074号公報
【特許文献2】特開2010-254503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セメントクリンカは、原料として多量の廃棄物が使用されており、セメントクリンカを製造し、使用することは循環型社会の一翼を担う重要な機能を有している。
本発明の目的は、セメントクリンカを原料として使用し、二酸化炭素が固定化されているため、混和材として用いた場合に、該混和材を含む混合セメントの二酸化炭素排出原単位を低減することができるセメント混和材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、カルシウムシリケート及びAl含有鉱物相を含むセメントクリンカを炭酸化してなる炭酸化セメントクリンカの粉砕物を含むセメント混和材によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[9]を提供するものである。
[1] 鉱物組成として、カルシウムシリケート及びAl含有鉱物相を含むセメントクリンカを炭酸化してなる炭酸化セメントクリンカの粉砕物を含むことを特徴とするセメント混和材。
[2] 上記セメントクリンカが、XRD-リートベルト法による鉱物組成として、上記カルシウムシリケートを40質量%以上の割合で、かつ、上記Al含有鉱物相を0.1質量%以上の割合で含むものである前記[1]に記載のセメント混和材。
[3] 上記セメント混和材の炭素の割合が0.5~10質量%である前記[1]又は[2]に記載のセメント混和材。
[4] 上記カルシウムシリケートが、エーライト及びビーライトの中から選ばれる1種以上であり、上記Al含有鉱物相が、アルミネート相、フェライト相、ゲーレナイト、アウイン、及びCaAlの中から選ばれる1種以上である前記[1]~[3]のいずれかに記載のセメント混和材。
[5] 上記セメントクリンカが、上記カルシウムシリケートとしてビーライトを含み、上記Al含有鉱物相としてゲーレナイトを含み、かつ、以下の(1)~(2)の条件を満たす焼成物である前記[1]~[4]のいずれかに記載のセメント混和材。
(1)上記ビーライト100質量部に対する上記ゲーレナイトの量が10~100質量部であること
(2)上記セメントクリンカがアルミネート相を含まない、又は、上記ビーライト100質量部に対して15質量部以下の量で含むこと
【0006】
[6] 前記[1]~[5]のいずれかに記載のセメント混和材とセメントを含む混合セメントであって、上記混合セメント中、上記セメント混和材の割合が5~60質量%である混合セメント。
[7] 前記[1]~[5]のいずれかに記載のセメント混和材を製造するための方法であって、上記セメントクリンカを粗砕してなる粗砕物を炭酸化養生し粉砕して、または、上記セメントクリンカを粉砕してなる粉砕物を炭酸化養生して、上記セメント混和材を得る第一の炭酸化養生工程、を含むセメント混和材の製造方法。
[8] 前記[1]~[5]のいずれかに記載のセメント混和材を製造するための方法であって、上記セメントクリンカを粉砕してなる粉砕物と水を混練して、ペーストを得る混練工程と、上記ペーストを炭酸化養生して、炭酸化してなるペーストの硬化体を得るペースト炭酸化工程と、上記硬化体を粉砕して上記セメント混和材を得る粉砕工程、を含むセメント混和材の製造方法。
[9] 上記粉砕工程で得られた上記セメント混和材を炭酸化養生する第二の炭酸化養生工程、を含む前記[8]に記載のセメント混和材の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のセメント混和材は、二酸化炭素が固定化されているため、上記セメント混和材を含む混合セメントの二酸化炭素排出原単位を、上記セメント混和材を含まないセメントの二酸化炭素排出原単位と比較して、低減することができ、セメントを製造する際の二酸化炭素の排出量を低減することができる。
また、セメントクリンカを原料として使用しているため、本発明のセメント混和材を含む混合セメントについて、セメントクリンカの使用量を、上記セメント混和材を含まないセメントと同程度に維持することができ、セメントクリンカの原料としての廃棄物の有効利用を促進することができる。
さらに、本発明のセメント混和材は、該セメント混和材を含む混合セメントの強度発現性及び流動性を十分なものにすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のセメント混和材は、鉱物組成として、カルシウムシリケート及びAl含有鉱物相を含むセメントクリンカを炭酸化してなる炭酸化セメントクリンカの粉砕物を含むものである。
カルシウムシリケートの例としては、エーライト(3CaO・SiO:「CS」ともいう)及びビーライト(2CaO・SiO:「CS」ともいう)等が挙げられる。これらは1種が単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
Al含有鉱物相の例としては、アルミネート相(3CaO・Al:「CA」ともいう)、フェライト相(4CaO・Al・Fe:「CAF」ともいう)、ゲーレナイト(2CaO・Al・SiO:「CAS」ともいう)、アウイン(3CaO・3Al・CaSO)、CaAl(「CA」ともいう)等が挙げられる。これらは1種が単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
なお、上記鉱物相には、Na、Mg、Al、Si、P、S、Cl、K、Fe、Si、Cr等の成分が固溶していてもよい。
【0009】
セメントクリンカのカルシウムシリケートの割合は、本発明のセメント混和材を含む混合セメントの強度発現性、及び、該混合セメントの硬化前の流動性をより向上する観点からは、XRD-リートベルト法による鉱物組成として、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、特に好ましくは65質量%以上である。上記割合は、セメントクリンカに固定される二酸化炭素の量をより多くする観点、及び、製造の容易性等の観点からは、XRD-リートベルト法による鉱物組成として、好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは93質量%以下、さらに好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下、特に好ましくは75質量%以下である。
なお、セメントクリンカが、カルシウムシリケートとして複数の種類の鉱物組成を含む場合、上記割合は、複数の種類の鉱物組成の割合の合計である。
【0010】
セメントクリンカがカルシウムシリケートとしてエーライトを含む場合、セメントクリンカ中のエーライトの割合は、本発明のセメント混和材を含む混合セメントの強度発現性、及び、該混合セメントの硬化前の流動性等の観点から、好ましくは80質量%以下、より好ましくは10~70質量%、特に好ましくは25~65質量%である。
セメントクリンカがカルシウムシリケートとしてビーライトを含む場合、セメントクリンカ中のビーライトの割合は、本発明のセメント混和材を含む混合セメントの強度発現性、及び、該混合セメントの硬化前の流動性等の観点から、好ましくは5~95質量%、より好ましくは10~90質量%、さらに好ましくは15~88質量%、特に好ましくは20~85質量%である。
【0011】
セメントクリンカのAl含有鉱物相の割合は、セメントクリンカに固定される二酸化炭素の量をより多くする観点からは、XRD-リートベルト法による鉱物組成として、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは1.2質量%以上、さらに好ましくは8.0質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、特に好ましくは25質量%以上である。
また、相対的にカルシウムシリケートの割合を多くして、本発明のセメント混和材を含む混合セメントの強度発現性、及び、該混合セメントの硬化前の流動性をより向上させる観点からは、上記割合は、XRD-リートベルト法による鉱物組成として、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、特に好ましくは40質量%以下である。
なお、セメントクリンカが、Al含有鉱物相として複数の種類の鉱物組成を含む場合、上記割合は、複数の種類の鉱物組成の割合の合計である。
【0012】
セメントクリンカがAl含有鉱物相としてアルミネート相を含む場合、セメントクリンカ中のアルミネート相の割合は、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.2~15質量%、さらに好ましくは0.3~10質量%、さらに好ましくは0.5~8質量%、特に好ましくは0.7~5質量%である。上記割合が0.1質量%以上であれば、セメントクリンカの炭酸化が進みやすくなり、セメントクリンカにより多くの量の二酸化炭素を固定することができる。上記割合が20質量%以下であれば、本発明のセメント混和材を含む混合セメントの硬化前の流動性がより向上する。
【0013】
セメントクリンカがAl含有鉱物相としてゲーレナイトを含む場合、セメントクリンカ中のゲーレナイトの割合は、好ましくは0.1~40質量%、より好ましくは10~35質量%、さらに好ましくは20~32質量%、特に好ましくは25~30質量%である。上記割合が0.1質量%以上であれば、セメントクリンカの炭酸化が進みやすくなり、セメントクリンカにより多くの量の二酸化炭素を固定することができる。上記割合が40質量%以下であれば、相対的にカルシウムシリケート(例えば、ビーライト)の量が多くなるため、本発明のセメント混和材を含むセメントの強度発現性がより向上する。
セメントクリンカがAl含有鉱物相としてアウインを含む場合、セメントクリンカ中のアウインの割合は、好ましくは0.1~40質量%、より好ましくは10~35質量%、さらに好ましくは20~32質量%、特に好ましくは25~30質量%である。上記割合が40質量%以下であれば、相対的にカルシウムシリケート(例えば、ビーライト)の量が多くなるため、本発明のセメント混和材を含むセメントの強度発現性がより向上する。
【0014】
セメントクリンカがAl含有鉱物相としてCaAlを含む場合、セメントクリンカ中のCaAlの割合は、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.2~5質量%、さらに好ましくは0.3~3質量%、特に好ましくは0.4~1質量%である。上記割合が10質量%以下であれば、相対的にカルシウムシリケート(例えば、ビーライト)の量が多くなるため、本発明のセメント混和材を含むセメントの強度発現性がより向上する。
【0015】
セメントクリンカの鉱物組成(ビーライト等の割合)は、例えば、セメントクリンカに対してXRD(X線回折)-リートベルト法を用いて定量することができる。具体的には、各鉱物の理論プロファイルを、セメントクリンカの粉末X線回折チャート(実測プロファイル)にフィッティングする解析により定量できる。該定量には、市販の解析ソフトを使用することができる。また、顕微鏡観察や電子線後方散乱回折を用いたポイントカウンティング等によっても上記鉱物組成を定量することができる。
【0016】
短い炭酸化養生時間でより多くの二酸化炭素が固定化されたセメント混和材(より多くの二酸化炭素が固定化された炭酸化セメントクリンカの粉砕物を含むセメント混和材)を得る観点から、上述したセメントクリンカは、カルシウムシリケートとしてビーライトを含み、Al含有鉱物相としてゲーレナイトを含み、かつ、以下の(1)~(2)の条件を満たす焼成物であることが好ましい。
(1)ビーライト100質量部に対するゲーレナイトの量が10~100質量部であること
(2)焼成物がアルミネート相を含まない、又は、上記ビーライト100質量部に対して15質量部以下の量で含むこと
【0017】
(1)~(2)の条件を満たす焼成物において、ビーライト100質量部に対するゲーレナイトの量は10~100質量部、好ましくは20~80質量部、より好ましくは25~70質量部、さらに好ましくは30~60質量部、特に好ましくは40~50質量部である。上記量が10質量部未満である焼成物の粉砕物(セメントクリンカの粉砕物)は、炭酸化が進みにくくなり、セメントクリンカに固定化される二酸化炭素の量が少なくなる。上記量が100質量部を超える場合、相対的にビーライトの量が少なくなるため、本発明のセメント混和材を含む混合セメントの強度発現性が低下する。
焼成物がアルミネート相を含む場合、ビーライト100質量部に対するアルミネート相の量は15質量部以下、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.5~5質量部、特に好ましくは1~3質量部である。上記量が15質量部を超える焼成物は製造が困難である。また、上記量が15質量部以下であれば、本発明のセメント混和材を含む混合セメントの硬化前の流動性がより向上する。
【0018】
上述したセメントクリンカは、例えば、産業廃棄物、一般廃棄物、および建設発生土等から選ばれる1種以上を原料として、目標とする焼成物の鉱物組成、化学組成等となるように原料を調製した後、この原料を、例えば、1,000~1,400℃(好ましくは1,200~1,400℃、さらに好ましくは1,300~1400℃)で焼成することで製造することができる。
また、上記原料だけでは、セメントクリンカの鉱物組成が目標とする数値になるように調製することが難しい場合は、カルシウム原料(例えば、石灰石)、ケイ素原料、アルミニウム原料、および鉄原料等の原料を用いてもよい。
得られたセメントクリンカ(焼成物)は、通常、ボールミルやロッドミル等の粉砕機を用いて適宜粉砕される。セメント混和材が石膏や石灰石を含む場合、セメントクリンカと塊状の石膏や石灰石を同時に粉砕し混合してもよい。セメントクリンカを粉砕してなる粉砕物(以下、「セメントクリンカ粉砕物」ともいう。)のブレーン比表面積は、好ましくは1,000~10,000cm/g、より好ましくは2,000~8,000cm/g、特に好ましくは3,000~6,000cm/gである。上記ブレーン比表面積が1,000cm/g以上であれば、炭酸化養生によってセメントクリンカに固定される二酸化炭素の量がより多くなる。また、本発明のセメント混和材を含む混合セメントの強度発現性がより向上する。上記ブレーン比表面積が10,000cm/g以下であれば、本発明のセメント混和材を含む混合セメントの硬化前の流動性がより向上する。
【0019】
本発明のセメント混和材は、上述したセメントクリンカを炭酸化してなる炭酸化セメントクリンカの粉砕物(以下、「炭酸化セメントクリンカ粉砕物」ともいう。)を含むものである。
セメントクリンカの炭酸化は、例えば、炭酸化養生によって行われる。なお、「炭酸化」とは、二酸化炭素を吸収及び固定化することをいう。
炭酸化養生の方法としては、特に限定されないが、例えば、(i)セメントクリンカを粗砕してなる粗砕物(セメントクリンカ粗砕物)を二酸化炭素に晒して炭酸化養生する方法、(ii)セメントクリンカを粉砕してなる粉砕物(セメントクリンカ粉砕物)を二酸化炭素に晒して炭酸化養生する方法(後述)、(iii)セメントクリンカ粉砕物と水を含む水硬性組成物(例えば、ペースト)の硬化体を二酸化炭素に晒して炭酸化養生する方法(後述)、(iv)セメントクリンカ粉砕物と水を混合してなるスラリー中に二酸化炭素を吹き込んだ後、脱水し、乾燥する方法、(v)セメントクリンカ粉砕物と水を含む水硬性組成物(例えば、ペースト)の混練時に、該水硬性組成物中に二酸化炭素を吹き込む方法等が挙げられる。
なお、上記(i)の方法において、通常、炭酸化養生後のセメントクリンカ粗砕物を粉砕することで炭酸化セメントクリンカの粉砕物を得ることができる。
また、二酸化炭素に晒す方法としては、炭酸化養生の対象物を、炭酸ガス(気体の二酸化炭素)を含むガス(以下、「二酸化炭素含有ガス」ともいう)の雰囲気下で静置する方法等が挙げられる。
セメント混和材の炭素の割合は、好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは0.8~8質量%、さらに好ましくは1~6質量%、特に好ましくは2~5質量%である。上記割合が0.5質量%以上であれば、本発明のセメント混和材を含む混合セメントを製造する際の二酸化炭素の排出量をより低減することができる。上記割合が10質量%以下であれば、本発明のセメント混和材を含む混合セメントの強度発現性をより向上させることができる。
セメント混和材中の炭素の割合は、例えば、市販の炭素・硫黄分析装置を用いて測定することができる。
【0020】
本発明のセメント混和材は石膏を含んでいてもよい。セメント混和材が石膏を含むことによって、セメント混和材とセメントを含む混合セメントを調製する際に、混合セメントに含まれる石膏の量を調整する手間を省くことができる。
石膏の種類の例としては、特に限定されるものではなく、例えば、天然二水石膏、排脱石膏(排煙脱硫石膏)、リン酸石膏、チタン石膏、フッ酸石膏等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、石膏の形態(水和物であるか否か)の例としては、二水石膏、半水石膏及び無水石膏が挙げられる。これらは1種の形態のみからなるものであってもよく、2種以上の形態を含むものであってもよい。
セメント混和材中の石膏の割合は、SO3換算で、好ましくは0.1~4.0質量%、より好ましくは0.3~3.5質量%、特に好ましくは0.5~3.0質量%である。上記割合が0.1質量%以上であれば、本発明のセメント混和材を含む混合セメントの硬化前の使用可能時間(良好な流動性を保ちうる時間)が増大する。上記割合が4.0質量%以下であれば、本発明のセメント混和材を含む混合セメントの強度発現性が向上する。
石膏(通常、石膏粉末)は、セメントクリンカ粉砕物を炭酸化する前に、該セメントクリンカ粉砕物と石膏を混合してもよく、セメントクリンカ粉砕物を炭酸化した後、炭酸化セメントクリンカ粉砕物と石膏を混合してもよい。
【0021】
セメント混和材のブレーン比表面積は、好ましくは2,000~20,000cm/g、より好ましくは2,500~15,000cm/g。特に好ましくは3,000~13,000cm/gである。上記ブレーン比表面積が2,000cm/g以上であれば、本発明のセメント混和材を含む混合セメントの強度発現性がより向上する。上記ブレーン比表面積が20,000cm/g以下であれば、本発明のセメント混和材を含む混合セメントの硬化前の流動性がより向上する。
【0022】
上述したセメント混和材を製造するための方法としては、例えば、上述したセメントクリンカを粗砕してなる粗砕物を炭酸化養生し粉砕して、または、上記セメントクリンカを粉砕してなる粉砕物を炭酸化養生して、炭酸化セメントクリンカの粉砕物を含むセメント混和材を得る第一の炭酸化養生工程を含む方法が挙げられる。
炭酸化養生の方法の例としては、セメントクリンカを粗砕した後、得られた粗砕物を、または、セメントクリンカを粉砕した後、得られた粉砕物を、二酸化炭素含有ガスの雰囲気下で静置する方法が挙げられる。
該方法によれば、プレキャストコンクリート等を炭酸化養生して、コンクリートに二酸化炭素を固定化する方法と比較して、設備を小型化することができ、設備にかかるコストを小さくすることができる。
炭酸化養生の方法の他の例としては、セメントクリンカを粉砕した後、得られた粉砕物を二酸化炭素含有ガスと接触させ、連続式に炭酸化させる方法等があげられる。
【0023】
二酸化炭素含有ガスの二酸化炭素の濃度は、セメントクリンカに固定される二酸化炭素の量をより多くする観点からは、好ましくは1体積%以上、より好ましくは10体積%以上、さらに好ましくは50体積%以上、特に好ましくは60体積%以上である。また、養生設備費等にかかるコストを低減する等の観点からは、二酸化炭素ガスの濃度は、好ましくは95体積%以下、より好ましくは85体積%以下、さらに好ましくは50体積%以下、特に好ましくは30体積%以下である。
炭酸化養生における温度は、好ましくは5~300℃、より好ましくは10~250℃、さらに好ましくは20~200℃、さらに好ましくは40~150℃、特に好ましくは50~130℃である。上記温度が5℃以上であれば、炭酸化の効率がより向上する。上記温度が300℃以下であれば、炭酸化養生にかかるエネルギーコストをより小さくすることができる。
また、炭酸化養生における相対湿度は、好ましくは20~90%、より好ましくは30~80%、特に好ましくは40~70%である。上記相対湿度が20%以上であれば、炭酸化の効率がより向上する。上記相対湿度が90%以下であれば、養生設備等にかかるコストをより低減することができる。
【0024】
セメント混和材を製造するための方法の他の方法の例としては、セメントクリンカを粉砕してなる粉砕物と水を混練して、ペーストを得る混練工程と、ペーストを炭酸化養生して、炭酸化してなるペーストの硬化体を得るペースト炭酸化工程と、上記硬化体を粉砕して、炭酸化セメントクリンカの粉砕物を含むセメント混和材を得る粉砕工程を含む方法が挙げられる。
混練工程において、さらに石膏を混練してもよい。各材料を混練する方法は、特に限定されるものではない。また、混練に用いる装置も特に限定されるものではなく、例えば、オムニミキサ、パン型ミキサ、二軸練りミキサ、傾胴ミキサ等の慣用のミキサを使用することができる。
【0025】
ペースト炭酸化工程における炭酸化養生の方法としては、ペーストを、二酸化炭素含有ガスの雰囲気下で静置する方法等が挙げられる。
二酸化炭素含有ガスの二酸化炭素の濃度、炭酸化養生における温度、及び、炭酸化養生における相対湿度は、上述した第一の炭酸化養生工程における二酸化炭素含有ガスの二酸化炭素の濃度等と同様である。
また、硬化前のペーストを型枠内に打設し、型枠内のペーストが硬化した後に、ペーストの硬化体を型枠から脱型し、該硬化体を、二酸化炭素含有ガスの雰囲気下で静置してもよい。
ペーストの打設方法としては、特に限定されるものではなく、流し込み成形等の慣用の方法を使用することができる。
混練物を型枠内に打設した後、脱型するまでの養生方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、気中養生、湿空養生、水中養生、封かん養生、及び蒸気養生等の一般的な養生方法を採用することができる。また、脱型するまでの養生方法として、炭酸化養生を行ってもよい。
【0026】
粉砕工程において、硬化体を粉砕する方法は、特に限定されず、例えば、ディスクミル、振動ミル、インパクトクラッシャ、コーンクラッシャ等の粉砕手段を用いて、硬化体を粉砕する方法等が挙げられる。
また、セメントクリンカを粉砕してなる粉砕物の代わりに、粉砕工程で得られた粉砕物を用いて、再度、上述した混練工程及びペースト炭酸化工程を行ってもよい。
【0027】
上記粉砕工程の後に、粉砕工程で得られたセメント混和材を、さらに炭酸化養生する第二の炭酸化養生工程を設けてもよい。粉砕工程で得られたセメント混和材をさらに炭酸化養生することで、セメント混和材(特に、セメント混和材に含まれる炭酸化セメントクリンカ粉砕物)に、より多くの量の二酸化炭素を固定することができる。また、本工程において、さらに粉砕を行ってもよい。
第二の炭酸化養生工程における炭酸化養生の方法は、上述した第一の炭酸化養生工程における炭酸化養生の方法と同様である。
また、第二の炭酸化養生工程で得られたセメント混和材をさらに炭酸化養生する目的で、第二の炭酸化養生工程の後に、さらに一つ以上の炭酸化養生工程(上述した第二の炭酸化養生工程と同様の工程)を設けてもよい。追加される炭酸化養生工程の数は、好ましくは1以上、より好ましくは1~2である。炭酸化養生工程を複数回行うことでセメント混和材の炭素の割合をより大きくすることができる。
【0028】
本発明の混合セメントは、上述したセメント混和材とセメントを含むものである。
セメントとしては、特に限定されるものではなく、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合材を含むセメント(混合セメント)や、エコセメントや、白色セメントや、超速硬セメント等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
混合セメント中のセメント混和材の割合は、好ましくは5~60質量%、より好ましくは8~55質量%、さらに好ましくは10~50質量%、さらに好ましくは15~40質量%、特に好ましくは18~30質量%である。上記割合が5質量%以上であれば、セメント混和材を含む混合セメントの二酸化炭素排出原単位をより低減することができ、セメント混和材を含まないセメントと比較して、同じ量の混合セメントを製造する際の二酸化炭素の排出量をより低減することができる。上記割合が60質量%以下であれば、混合セメントの強度発現性をより向上させることができる。
【実施例0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[セメントクリンカAの製造]
下水汚泥、建設発生土、石灰石、及び粘土を原料に用いて、表1に示す化学組成(「JIS R 5204:2019(セメントの蛍光X線分析方法)」に準拠して測定した実測値)を含む目標の化学組成範囲内となるように、各原料を混合し、焼成用原料に調製した後、ロータリーキルンを用いて1,370℃で、この焼成用原料を焼成して、セメントクリンカA(焼成物)を得た。なお、焼成の際の燃料としては、重油のほかに、廃油や廃プラスチックを使用した。
得られたセメントクリンカAについて、X線回折装置(ブルカージャパン社製、商品名「D8 ADVANCE A-25型」)を用いて、セメントクリンカAの粉末X線回折(XRD)パターンを取得した。粉末X線回折の測定条件は、ターゲット:CuKα、管球条件:40kV-40mA、走査範囲:2θ=5~65°、ステップ幅:0.023°/step、及び測定時間:0.13秒/stepとした。得られた粉末XRDパターンを、解析ソフトウェア(ブルカージャパン社製、商品名「DIFFRAC.EVA」)を用いて定性分析したところ、CS(β-CS)、CAS、CA、及びCAのピークが認められた。
次いで、解析ソフトウェア(ブルカージャパン社製、商品名「DIFFRAC.TOPAS ver.6」を用いて、リートベルト法によって、CS(β-CS)、CAS、CA、及びCAの各鉱物の理論プロファイルを、粉末XRDの結果から得られた実測プロファイルにフィッティングすることにより、セメントクリンカAの鉱物組成を測定した。結果を表2に示す。
【0030】
[使用材料]
(1)セメントクリンカA:上述した製造方法によって得られたもの
(2)普通ポルトランドセメント:太平洋セメント社製、二水石膏の割合;0.9質量%(SO換算)、半水石膏の割合;1.7質量%(SO換算)、石灰石(CaCO)の割合;4.0質量%、普通ポルトランドセメントに含まれるセメントクリンカが、表3に示す化学組成を有しかつ表4に示す鉱物組成を有するもの(化学組成は、「JIS R 5204:2019(セメントの蛍光X線分析方法)」に準拠して測定した。鉱物組成は、解析ソフトウェアの鉱物の設定を、表4に示す種類の鉱物に変更した以外は、上述のセメントクリンカAと同様にして測定した。)、二酸化炭素排出原単位(普通ポルトランドセメント1トンを製造する際に排出される二酸化炭素の量);824.2kg/トン、ブレーン比表面積;3,160cm/g
(3)低熱ポルトランドセメント;太平洋セメント社製、二水石膏の割合;1.2質量%(SO換算)、半水石膏の割合;1.6質量%(SO換算)、低熱ポルトランドセメントに含まれるセメントクリンカが、表5に示す化学組成を有しかつ表6に示す鉱物組成を有するもの(化学組成及び鉱物組成は、普通ポルトランドセメントクリンカと同様にして測定した。)、二酸化炭素排出原単位(低熱ポルトランドセメント1トンを製造する際に排出される二酸化炭素の量);824.2kg/トン、ブレーン比表面積:3,160cm/g
(4)石膏:排脱二水石膏(SOの含有率:44.9質量%)
(5)細骨材:セメント協会標準砂
(6)水:上水道水
なお、普通ポルトランドセメント及び低熱ポルトランドセメントの二酸化炭素排出原単位は、「一般社団法人 セメント協会,セメントのLCIデータの概要,2022年3月16日:https://www.jcassoc.or.jp/cement/4pdf/jg1i_01.pdf」に記載されているポルトランドセメントを製造する際に発生する二酸化炭素の数値(全ポルトランドセメントの加重平均)を引用したものである。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
【表4】
【0035】
【表5】
【0036】
【表6】
【0037】
[実施例1]
普通ポルトランドセメントについて、温度:65℃、相対湿度:60℃、二酸化炭素の含有率が80体積%である二酸化含有ガスの雰囲気下(以下、「炭酸化養生条件A」ともいう。)で4日間静置後、さらに、温度:65℃、相対湿度:60℃、二酸化炭素の含有率が20体積%である二酸化含有ガスの雰囲気下(以下、「炭酸化養生条件B」ともいう。)で7日間静置して、炭酸化養生を行い、セメント混和材Aを得た。得られたセメント混和材の石膏の割合、及び、ブレーン比表面積(表7中、「ブレーン」と表す。)を表7に示す。
また、得られたセメント混和材Aの炭素の割合等を以下の方法に従って測定した。
【0038】
[炭素の割合]
得られたセメント混和材(以下、「炭酸化後のセメント混和材」ともいう。)の炭素の割合を、炭素・硫黄分析装置(堀場社製、商品名「EMIA-Step」)を使用し、温度:1,250℃、時間:120秒の条件で測定した。
[炭酸化前のセメント混和材の二酸化炭素の固定量(表7中、「CO固定量」と表す。)]
炭酸化前のセメント混和材(実施例1では普通ポルトランドセメント)の1トン当たりの二酸化炭素の固定量を、炭素・硫黄分析装置を用いて求めた。具体的には、炭酸化前のセメント混和材及び炭酸化後のセメント混和材(実施例1ではセメント混和材A)について、炭素・硫黄分析装置にて炭素量の分析を行ったのちCOに換算し、この換算値を、炭酸化前のセメント混和材又は炭酸化後のセメント混和材に含まれている炭酸カルシウムの脱炭酸によるものと判断し、以下の式(1)を用いて、炭酸化前のセメント混和材の1トン当たりの二酸化炭素の固定量を求めた。
二酸化炭素の固定量(kg/トン)=a/(100-b)×(100/(100-c)×1000-(d/100)×1000 ・・・(1)
(式(1)中、aは炭酸化後のセメント混和材の二酸化炭素の割合(質量%)、bは炭酸化後のセメント混和材の強熱減量(質量%)、cは炭酸化前のセメント混和材の強熱減量(質量%)、dは炭酸化前のセメント混和材の二酸化炭素の割合(質量%)を示す。)
【0039】
[二酸化炭素排出原単位(表7中、「CO排出原単位」と表す)]
炭酸化後のセメント混和材の二酸化炭素排出原単位(炭酸化後のセメント混和材を製造する際に排出される二酸化炭素の量)を、下記式(2)を用いて算出した。
二酸化炭素排出原単位(kg/トン)=(e-f)×1000/(1000+f+g) ・・・(2)
(式(2)中、eは炭酸化前のセメント混和材の二酸化炭素排出量原単位(kg/トン)、fは炭酸化前のセメント混和材の二酸化炭素の固定量(kg/トン)、gは炭酸化前のセメント混和材に対する、炭酸化後のセメント混和材の水の増加量(kg/トン))
なお、炭酸化前のセメント混和材に対する、炭酸化後のセメント混和材の水の増加量(表7中、「水の増加量」と表す。)は、以下の式(3)を用いて算出した。
水の増加量(kg/トン)=(h+i×1000/100)/j×100-1000-h ・・・(3)
(上記式(3)中、hは炭酸化前のセメント混和材の二酸化炭素固定量(kg/トン)、iは炭酸化前のセメント混和材の二酸化炭素の含有率(質量%)、jは炭酸化後のセメント混和材の二酸化炭素の含有率(質量%?)
【0040】
[二酸化炭素の削減率(表7中、「CO削減率」と表す。)]
セメントクリンカの炭酸化による二酸化炭素の削減率(%)を、以下の式(4)を用いて算出した。
二酸化炭素の削減率=(k-l)/k×100% ・・・(4)
(式(4)中、kは普通ポルトランドセメントの二酸化炭素排出原単位(kg/トン)、lは炭酸化後のセメント混和材の二酸化炭素排出原単位(kg/トン)
【0041】
[実施例2]
セメントクリンカAと排脱二水石膏を、質量比が95.67:4.33となる量で混合粉砕して、セメントクリンカAの粉砕物と排脱二水石膏の粉砕物の混合物を得た。
上記混合物の二酸化炭素排出原単位(上記混合物を製造する際に排出される二酸化炭素の量)は、615kg/トンであった。
上記混合物について、実施例1と同様にして炭酸化養生を行い、セメント混和材Bを得た。
得られたセメント混和材Bの炭素の割合等を、実施例1と同様にして測定した。
【0042】
[実施例3]
普通ポルトランドセメントと水を、水とセメントの質量比(水/セメント)が50/100となる量で、容器に投入し、「JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)」に規定されている手練り用さじを用いて3分間混練してペーストを調製した。得られたペーストを、容器内に入れたまま炭酸化養生条件Aで4日間静置した。静置後、乾燥させたペーストの硬化体を、容器から脱型し、振動式ディスクミルを用いて、100g/バッチの条件で30秒間粉砕した後、得られた粉砕物と水を、水と粉砕物の質量比(水/粉砕物)が50/100となる量で用いて、上述したペーストと同様にしてペーストを調製し、該ペーストを炭酸化養生条件Bで7日間静置した。静置後、乾燥させたペーストの硬化体を、容器から脱型し、振動式ディスクミルを用いて100g/バッチの条件で30秒間粉砕して、セメント混和材Cを得た。
得られたセメント混和材Cの炭素の割合等を、実施例1と同様にして測定した。
[実施例4]
普通ポルトランドセメントの代わりに実施例2で調製した上記混合物(セメントクリンカAの粉砕物と排脱二水石膏の粉砕物の混合物)を用いる以外は、実施例3と同様にしてセメント混和材Dを得た。
得られたセメント混和材Dの炭素の割合等を、実施例1と同様にして測定した。
【0043】
[実施例5]
普通ポルトランドセメントについて、温度:30℃、相対湿度:60℃、二酸化炭素の含有率が80体積%である二酸化含有ガスの雰囲気下(以下、「炭酸化養生条件C」ともいう。)で7日間静置して、炭酸化養生を行い、セメント混和材Eを得た。
得られたセメント混和材Eの炭素の割合等を、実施例1と同様に算出した。
[実施例6]
普通ポルトランドセメントの代わりに実施例2で調製した上記混合物を用いる以外は、実施例5と同様にしてセメント混和材Fを得た。
得られたセメント混和材Fの炭素の割合等を、実施例1と同様に算出した。
[実施例7]
普通ポルトランドセメントと水を、水とセメントの質量比(水/セメント)が50/100となる量で混練して、ペーストを調製した。得られたペーストを、炭酸化養生条件Cで1日間静置した。静置後のペーストの硬化体を、振動式ディスクミルを用いて粉砕してセメント混和材Gを得た。
得られたセメント混和材Gの炭素の割合等を、実施例1と同様に算出した。
[実施例8]
普通ポルトランドセメントの代わりに実施例2で調製した上記混合物を用いる以外は、実施例7と同様にしてセメント混和材Hを得た。
得られたセメント混和材Hの炭素の割合等を、実施例1と同様に算出した。
【0044】
[実施例9]
普通ポルトランドセメントと水を、水とセメントの質量比(水/セメント)が50/100となる量で混練して、ペーストを調製した。得られたペーストを、炭酸化養生条件Cで7日間静置した。静置後のペーストの硬化体を、振動式ディスクミルを用いて粉砕してセメント混和材Iを得た。
得られたセメント混和材Iの炭素の割合等を、実施例1と同様に算出した。
[実施例10]
普通ポルトランドセメントの代わりに実施例2で調製した上記混合物を用いる以外は、実施例9と同様にしてセメント混和材Jを得た。
得られたセメント混和材Jの炭素の割合等を、実施例1と同様に算出した。
【0045】
[実施例11]
実施例9と同様にして、セメント混和材Iとはブレーン比表面積が異なるセメント混和材Kを得た。
なお、得られた混和材Kはセメント混和材Iとブレーン比表面積のみが異なるため、セメント混和材Jの炭素の割合等は実施例9と同じとした。
[実施例12]
実施例10と同様にして、セメント混和材Jとはブレーン比表面積が異なるセメント混和材Lを得た。
得られた混和材Lはセメント混和材Jとブレーン比表面積のみが異なるため、セメント混和材Jの炭素の割合等は実施例10と同じとした。
[実施例13]
普通ポルトランドセメントの代わりに低熱ポルトランドセメントを用いる以外は、実施例9と同様にしてセメント混和材Mを得た。
得られたセメント混和材Mの炭素の割合等を、実施例1と同様に算出した。
それぞれの結果を表7に示す。
【0046】
【表7】
【0047】
[実施例14~36]
普通ポルトランドセメントと表8に示す種類のセメント混和材を、表8にしめす配合量で混合して、混合セメントを調製した。
調製した混合セメントと、水と、細骨材を使用し、「JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)」に準拠して供試体を作製して、材齢3日、7日、及び28日におけるモルタル圧縮強さを測定した。
なお、水の配合量は、水と混合セメントの質量比(水/混合セメント)が50/100となる量とし、細骨材の配合量は、混合セメント100質量部に対して、300質量部となる量にした。
【0048】
また、混合セメントの二酸化炭素排出原単位(混合セメント1トンを製造する際に排出される二酸化炭素の量;表8中、「CO排出原単位」と表す。)を、以下の式(5)によって算出した。
混合セメントの二酸化炭素排出原単位(kg/トン)=m×n+o×p ・・・(5)
(式(5)中、mは普通ポルトランドセメントの二酸化炭素排出原単位(kg/トン)、nは混合セメント中の普通ポルトランドセメントの混合比率(普通ポルトランドセメントと混合セメントの質量比(普通ポルトランドセメント/混合セメント))、oは炭酸化後のセメント混和材の二酸化炭素排出量原単位(kg/トン)、pは混合セメント中の炭酸化後のセメント混和材の混合比率(炭酸化後のセメント混和材と混合セメントの質量比(炭酸化後のセメント混和材/混合セメント))
また、二酸化炭素の削減率(表8中、「CO削減率」と表す。)を、以下の式(6)を用いて算出した。
二酸化炭素の削減率=(普通ポルトランドセメントの二酸化炭素排出原単位)-混合セメントの二酸化炭素排出原単位)/普通ポルトランドセメントの二酸化炭素排出原単位×100% ・・・(6)
さらに、実施例15、17、19、21のモルタルについて、「JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)」に準拠してモルタルフロー値(0打、及び、15打)を測定した。
【0049】
[比較例1]
混合セメントの代わりに普通ポルトランドセメントを使用する以外は、実施例14と同様にして、モルタルを調製し、モルタル圧縮強さ及びモルタルフロー値(0打、15打)を測定した。
それぞれの結果を表8~9に示す。
【0050】
【表8】
【0051】
【表9】
【0052】
表7から、セメント混和材A~Mには、二酸化炭素が固定されていることがわかる。
また、表8~9から、実施例14~36の混合セメントの二酸化炭素排出原単位(534~819kg/トン)は、比較例1の普通ポルトランドセメントの二酸化炭素排出原単位(824kg/トン)よりも小さく、本発明によれば、混合セメントの二酸化炭素排出原単位を小さくできることがわかる。また、実施例14~36の材齢3、7日のモルタル圧縮強さ(材齢3日:9.2~26.9N/mm、材齢7日:15.7~44.1N/mm)は、例えば、「JIS R 5210:2009(ポルトランドセメント)」において規定されているフライアッシュセメントC種の品質の一つであるモルタルの圧縮強さ(材齢3日:7.5N/mm以上、材齢7日:15.0N/mm以上)を満たしている。また、実施例14~22、24~36の材齢28日のモルタル圧縮強さ(材齢28日:32.6~63.2N/mm)は、上記フライアッシュセメントC種の品質の一つであるモルタルの圧縮強さ(材齢28日:32.5N/mm以上)を満たしている。
また、実施例15、17、19、21のモルタルフロー値(0打の平均値:104~108mm、15打の平均値:198~213mm)は、比較例1のモルタルフロー値(0打の平均値:107mm、15打の平均値:214mm)と同程度であることがわかる。