(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001364
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】抗体製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20231226BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20231226BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20231226BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20231226BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20231226BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20231226BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20231226BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K9/08
A61K47/22
A61K47/18
A61K47/26
A61K47/36
A61K47/02
A61K9/19
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023189255
(22)【出願日】2023-11-06
(62)【分割の表示】P 2020555387の分割
【原出願日】2019-04-10
(31)【優先権主張番号】201841013646
(32)【優先日】2018-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PLURONIC
(71)【出願人】
【識別番号】512276315
【氏名又は名称】ドクター レディズ ラボラトリーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ムラリ ジャヤラマン
(72)【発明者】
【氏名】アヌジャ チャンドラセカール
(57)【要約】
【課題】抗体の安定な薬学的製剤であって、ここで上記製剤は、緩衝液、界面活性剤、糖を含み、必要に応じて、遊離アミノ酸を含む製剤を提供すること。
【解決手段】開示される製剤は、50℃において2週間にわたって安定である。さらに、上記製剤は、上記貯蔵条件下でモノマー形態において上記抗体のうちの少なくとも96%を維持する。本開示は例えば、緩衝液、糖および界面活性剤を含むα4β7抗体の安定な薬学的製剤であって、ここで前記糖の濃度は、80mg/ml未満である、製剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
50mg/ml~200mg/mlのベドリズマブ抗体、6.0~6.5のpHの緩衝液、糖、アルギニン、塩化ナトリウムおよびポリソルベートを含む、抗α4β7抗体の安定な薬学的製剤であって、前記糖の濃度が、80mg/ml未満であり、アルギニンの濃度が、15mg/ml未満である、製剤。
【請求項2】
前記糖は、トレハロースである、請求項1に記載の抗体製剤。
【請求項3】
前記製剤は、40℃で2~4週間にわたって安定であり、上述の貯蔵条件下でモノマー形態の前記抗体のうちの95%以上を維持する、請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
液体製剤または再構成された凍結乾燥製剤にある、請求項1に記載の抗体製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、抗体分子の安定な製剤に関する。開示される製剤は、凍結乾燥形態および液体形態と適合性であり、静脈内および/または皮下の投与経路にも適している。
【背景技術】
【0002】
背景
過去20年間で、組換えDNA技術は、多くのタンパク質、特に、抗体治療薬の商業化をもたらしてきた。これらの治療用抗体の有効性は、安定性、投与経路ならびにそれらの投与形態および濃度に大きく依存する。これは、次に、治療用抗体が治療用抗体の安定性および活性を保持するように適切に製剤化されることを必要とする。
【0003】
各投与経路および投与形態のための製剤化は、特有である可能性があり、従って、特定の要件を有する可能性がある。固体投与形態(例えば、凍結乾燥散剤)は、液体(水性)製剤より概して安定である。しかし、凍結乾燥製剤の再構成は、顕著なバイアル過量充填(overfill)、取り扱いに注意を要し、液体製剤と比較して高い生産コストを伴う。液体製剤は、これらにおいて有利であり、通常は、注射用タンパク質治療薬にとって好ましい(エンドユーザーにとって便利であり、製造業者によって調製が容易であるという点で)が、この形態は、温度、pH変化、撹拌などのようなストレス下で、変性、凝集および酸化に対するタンパク質の感受性を考慮すれば、常に実現可能であるわけではない。これらのストレス要因の全ては、治療用タンパク質/抗体の生物学的活性の喪失を生じ得る。特に、高濃度液体製剤は、分解および/または凝集に感受性である。にもかかわらず、高濃度製剤は、投与頻度および注射容積が低減されることから、皮下または静脈内の投与経路に望ましい場合もある。他方で、特定の処置スケジュールおよび投薬によっては、低濃度製剤が要求される場合もあり、治療薬のより推定可能な送達および完全なバイオアベイラビリティーのためには、静脈内投与経路が好ましい場合もある。
【0004】
よって、治療用タンパク質/抗体の高濃度でも低濃度でも安定であり、異なる投与経路(静脈内または皮下)を助け、凍結乾燥形態または液体形態において適切である製剤のデザインは、開発上のかなりの難題をもたらす。さらに、タンパク質または抗体ごとに、その変性の特徴および特性は特有であることで、安定な製剤の開発には複雑さが加わり、特異的な製剤化が要求され得る。
【0005】
治療用タンパク質または抗体の安定な製剤は、アミノ酸、糖、ポリオール、界面活性剤、塩、ポリマー、アミン、抗酸化剤、キレート化剤を含む、広く種々の安定化剤/賦形剤の添加を伴う。FDA認可の治療用タンパク質/抗体の多くは、安定化剤の1より多くのカテゴリーを含む。
【0006】
増大した濃度のタンパク質および/または安定化剤との製剤組み合わせは、製剤の粘性を増大し得、次に、注射時間および注射部位での疼痛を増大し得、薬物物質の処理中の困難をも提示し得る。よって、凍結乾燥形態および液体形態において、最小数のまたは最小濃度の賦形剤を含み、その濃度の広い範囲において上記薬物をなおも安定化する改善された製剤を開発することが必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
要旨
本発明は、緩衝液、糖および界面活性剤を含む抗体の安定な薬学的製剤を開示する。本発明に従う抗体は、α4β7に結合する。開示されるα4β7抗体製剤は、50℃で2週間にわたって安定であり、上記製剤中の抗体の凝集物およびフラグメント含有量における変化は、上述の貯蔵条件下で約1.5%未満である。さらに、糖の濃度は、80mg/ml未満であり、好ましくは70mg/ml未満である。上記製剤は必要に応じて、安定化剤として作用する遊離アミノ酸を含む。
【0008】
本発明は、緩衝液、糖、遊離アミノ酸および界面活性剤を含むα4β7抗体の安定な薬学的製剤を開示する。開示されるα4β7抗体製剤は、50℃で2週間にわたって安定である。さらに、上記製剤中の抗体の凝集物およびフラグメント含有量の変化は、50℃で2週間にわたって1%未満である。
【0009】
特に、本発明は、α4β7抗体製剤において、最適でありなお低濃度の賦形剤、すなわち、糖および遊離アミノ酸の組み合わせを開示する。開示される製剤の賦形剤は、加速条件下で凝集物およびフラグメント含有量の変化を制御し、さらに上記主要ピーク含有量を維持する。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
緩衝液、糖および界面活性剤を含むα4β7抗体の安定な薬学的製剤であって、ここで前記糖の濃度は、80mg/ml未満である、製剤。
(項目2)
前記製剤は、アミノ酸、塩、およびこれらの組み合わせから選択される安定化剤のような薬学的に受容可能な賦形剤をさらに含む、項目1に記載の抗体製剤。
(項目3)
ヒスチジン-リン酸緩衝液、60mg/mlの糖、遊離アミノ酸、塩および界面活性剤を含む、α4β7抗体の安定な薬学的製剤。
(項目4)
前記糖は、トレハロースである、項目3に記載の抗体製剤。
(項目5)
リン酸緩衝液、少なくとも60mg/mlの糖、遊離アミノ酸、および界面活性剤を含むα4β7抗体の安定な薬学的製剤であって、ここで前記製剤は、50℃で2週間にわたって安定であり、上述の貯蔵条件下で前記抗体のモノマー含有量のうちの少なくとも97%を維持する、製剤。
(項目6)
50℃で2週間にわたって貯蔵した場合に、主要ピークとして、前記製剤中の抗体のうちの少なくとも55%を維持する、項目4に記載のα4β7抗体製剤。
(項目7)
前記遊離アミノ酸は、アルギニンまたはリジンまたはグリシンまたはこれらの組み合わせである、項目3または5に記載の抗体製剤。
(項目8)
前記抗体の濃度は、約50mg/ml~200mg/mlである、項目3または5に記載の抗体製剤。
(項目9)
液体製剤または凍結乾燥製剤である、項目1または3または5に記載の抗体製剤。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1-1】
図1は、実施例に従って調製し、SECクロマトグラフィーを使用して分析したベドリズマブ(60mg/ml)製剤のLMW、HMWおよびモノマー含有量に対する種々の糖の効果を図示する。
図1(a)は、50℃で2週間の貯蔵条件の間のLMW含有量を表し、
図1(b)は、50℃で2週間の貯蔵条件の間の凝集物含有量を表し、
図1(c)は、50℃で2週間の貯蔵条件の間のモノマー含有量を表す。
【0011】
【
図2】
図2は、実施例1に従って調製し、50℃で2週間後にIEXクロマトグラフィーを使用して分析したベドリズマブ(60mg/ml)製剤の主要ピーク含有量に対する種々の糖の効果を図示する。
【0012】
【
図3-1】
図3は、実施例2に従って調製し、SECクロマトグラフィーを使用して分析したベドリズマブ(60mg/ml)製剤のLMW、HMWおよびモノマー含有量に対するスクロースの増大した濃度の効果を図示する。
図3(a)は、50℃で2週間の貯蔵条件の間のLMW含有量を表し、
図3(b)は、50℃で2週間の貯蔵条件の間の凝集物含有量を表し、
図3(c)は、50℃で2週間の貯蔵条件の間のモノマー含有量を表す。
【0013】
【
図4】
図4は、実施例2に従って調製し、50℃で2週間後にIEXクロマトグラフィーを使用して分析したベドリズマブ(60mg/ml)製剤の主要ピーク含有量に対するスクロースの増大した濃度の効果を図示する。
【0014】
【
図5-1】
図5は、実施例3に従って調製し、SECクロマトグラフィーを使用して分析したベドリズマブ(60mg/ml)製剤のLMW、HMWおよびモノマー含有量に対するアミノ酸および糖濃度の効果を図示する。
図5(a)は、50℃で2週間の貯蔵条件の間のLMW含有量を表し、
図5(b)は、50℃で2週間の貯蔵条件の間の凝集物含有量を表し、
図5(c)は、50℃で2週間の貯蔵条件の間のモノマー含有量を表す。
【0015】
【
図6】
図6は、実施例3に従って調製し、50℃で2週間後にIEXクロマトグラフィーを使用して分析したベドリズマブ(60mg/ml)製剤の主要ピーク含有量に対するアミノ酸および糖濃度の効果を図示する。
【0016】
【
図7-1】
図7は、実施例4に従って調製し、SECクロマトグラフィーを使用して分析したベドリズマブ(60mg/ml)製剤のLMW、HMWおよびモノマー含有量に対する緩衝液の効果を図示する。
図7(a)は、50℃で2週間の貯蔵条件の間のLMW含有量を表し、
図7(b)は、50℃で2週間の貯蔵条件の間の凝集物含有量を表し、
図7(c)は、50℃で2週間の貯蔵条件の間のモノマー含有量を表す。
【0017】
【
図8】
図8は、実施例4に従って調製し、50℃で2週間後にIEXクロマトグラフィーを使用して分析したベドリズマブ(60mg/ml)製剤の主要ピーク含有量に対する緩衝液の効果を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
定義
用語「抗体」とは、ジスルフィド結合によって相互に接続される少なくとも2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む糖タンパク質、またはその抗原結合部分をいう。「抗体」は、本明細書で使用される場合、抗体全体または任意の抗原結合フラグメント(すなわち、「抗原結合部分」)またはその融合タンパク質を包含する。
【0019】
用語「安定な」製剤とは、その中にある上記抗体が、貯蔵に際してその物理的安定性および/または化学的安定性および/または生物学的活性を保持する製剤をいう。
【0020】
安定性試験は、時間経過の間の種々の環境要因の影響下での抗体の品質という証拠を提供する。ICHの「Q1A: Stability Testing of New Drug Substances and Products」は、加速安定性試験のデータが、抗体の輸送の間に起こり得る表示貯蔵条件より高いかまたは低い短時間の影響の効果を評価するために使用され得ることを述べる。
【0021】
種々の分析方法が、薬学的製剤中の抗体の物理的および化学的分解を測定するために利用可能である。抗体は、色および/もしくは透明性の目視検査の際に、またはUV光散乱によってもしくはサイズ排除クロマトグラフィーによって測定される場合に、凝集、沈殿および/または変性の徴候を実質的に示さなければ、薬学的製剤において「その物理的安定性を保持する」。抗体は、目的の抗体の化学的改変(例えば、脱アミノ化、酸化など)の結果としての改変体を含み得る生成物改変体の形成を全くまたは最小限にしか示さない場合に、薬学的製剤において「その化学的安定性を保持する」といわれる。イオン交換クロマトグラフィーおよび疎水性イオンククロマトグラフィーのような分析法は、化学的生成物改変体を調べるために使用され得る。
【0022】
用語「モノマー」は、本明細書で使用される場合、2つの軽鎖および2つの重鎖からなる抗体を説明する。抗体組成物のモノマー含有量は、代表的には、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分析される。SECの分離原理に従って、大きな分子または高分子量(HMW)を有する分子が先ず溶離し、続いて、より小さなまたはより低い分子量が溶離する。抗体組成物に関する代表的なSECプロフィールにおいて、ダイマー、マルチマーなどを含み得る凝集物が先ず溶離し、続いて、モノマーが溶離し、切り取られた(clipped)抗体改変体または分解物が最後に溶離され得る。状況によっては、上記凝集物ピークまたは上記分解物ピークは、ベースラインとして分離したピークを溶離しなくてもよいが、代わりに、ショルダーまたは異常に広いピークとして溶離してもよい。抗体の、特に、治療用抗体の適切な活性を維持するために、生成物の凝集物の形成またはフラグメント化を低減し、従って、モノマー含有量を目標値に制御することは、望ましい。安定性試験の間の種々の時点で測定される場合に、凝集物および分解物含有量の形成を阻害する能力は、目的の抗体の候補製剤が適切であることを示し得る。TOSCHのTSK-GEL G3000SWXL(7.8mm×30cm)カラムは、SECを行うために、water HPLCで使用され得る。
【0023】
用語「主要ピーク(main peak)」とは、本明細書で使用される場合、カチオン交換クロマトグラフィーの間に多量に溶離するピーク(主要ピーク)をいう。カチオン交換クロマトグラフィーの間に、上記主要ピークに対して酸性である電荷を有する、上記主要ピークより早く溶離するピークは、酸性改変体ピークと称される。カチオン交換クロマトグラフィーの間に、上記主要ピークより相対的に塩基性である電荷を有する上記主要ピークより遅れて溶離するピークは、塩基性改変体ピークと称される。上記主要ピーク含有量は、イオン交換クロマトグラフィー(IEC)によって決定され得る。利用可能なIECには2つのモード、すなわち、カチオン交換クロマトグラフィーおよびアニオン交換クロマトグラフィーが存在する。正に荷電した分子は、アニオン交換樹脂に結合する一方で、負に荷電した分子は、カチオン交換樹脂に結合する。抗体組成物の代表的なカチオン交換クロマトグラフィープロフィールにおいて、酸性改変体は最初に溶離し、続いて主要ピークが溶離し、その後、最後に塩基性改変体が溶離される。上記酸性改変体は、アスパラギン残基の脱アミノ化のような抗体改変の結果である。上記塩基性改変体は、C末端リジン残基の不完全な除去の結果である。一般に、抗体において、リジン残基は、重鎖および軽鎖両方のC末端に存在する。重鎖および軽鎖の両方においてリジンを含む抗体分子は、K2改変体といわれ、重鎖および軽鎖のうちのいずれか一方においてリジン残基を含む抗体分子は、K1改変体といわれ、いずれも有しない抗体分子は、K0分子である。カルボキシペプチダーゼB(CP-B酵素)酵素は、K2改変体およびK1改変体に存在するC末端リジン残基に作用し、従って、それらをK0分子として変換する。上記の場合の状況に従って、IEC分析は、カルボキシペプチダーゼB(CP-B)酵素で消化したサンプルに対して行われ得る。代表的な安定性試験において、安定な製剤が、試験の間に、電荷改変体(酸性改変体および塩基性改変体)の形成の低減をもたらし、よって、主要ピーク含有量における任意の低減を最小限にすると予測される。
【0024】
用語「遊離アミノ酸」とは、本明細書で使用される場合、上記製剤中に含まれ、かつ緩衝液構成要素の一部ではないアミノ酸に言及する。アミノ酸は、そのD型および/またはL型において存在してもよい。上記アミノ酸は、任意の適切な塩、例えば、アルギニン-HCIのような塩酸塩として存在してもよい。
【0025】
塩の例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛および/または酢酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
薬学的に受容可能な賦形剤とは、添加剤またはキャリアに言及し、これらは、製剤中の抗体の安定性に寄与し得る。上記賦形剤は、安定化剤および張度改変剤(tonicity modifier)を包含し得る。安定化剤および張度改変剤の例としては、糖、ポリオール、塩、界面活性剤、および誘導体ならびにこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
糖は、本明細書において、糖および糖アルコール(例えば、ポリオール)を含む。糖は、モノサッカリド、ジサッカリド、およびポリサッカリドに言及し得る。糖の例としては、スクロース、トレハロース、グルコース、デキストロース、ラフィノースなどが挙げられるが、これらに限定されない。ポリオールの例としては、マンニトール、ソルビトールなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
界面活性剤とは、撹拌、剪断、高温への曝露などのような種々のストレス条件からタンパク質製剤を保護するために使用される薬学的に受容可能な賦形剤に言及する。適切な界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、Tween(登録商標)20またはTween(登録商標)80)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー(例えば、Poloxamer、Pluronic)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などまたはこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
本発明のある種の具体的局面および実施形態は、以下の例を参照することによってより十分に記載される。しかし、これらの例は、いかなる様式においても本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【0030】
実施形態の詳細な説明
本発明は、緩衝液、糖および界面活性剤を含む抗体の安定な薬学的製剤を開示する。
【0031】
上記の実施形態において、上記抗体は、治療用モノクローナル抗体である。
【0032】
上述の実施形態において、上記治療用抗体は、α4β7に結合する。
【0033】
一実施形態において、本発明は、緩衝液、糖および界面活性剤を含むα4β7抗体の安定な薬学的製剤であって、ここで上記糖の濃度は、80mg/ml未満であり、好ましくは70mg/ml未満、より好ましくは60mg/ml未満である製剤を開示する。
【0034】
上記で述べられた実施形態において、上記α4β7抗体製剤に存在する糖は、貯蔵条件下で凝集物およびフラグメントの形成を制御する。
【0035】
上記で述べられた実施形態において、上記製剤中のα4β7抗体の凝集物およびフラグメント含有量の変化は、50℃で2週間にわたって1.5%未満である。
【0036】
上記で述べられた実施形態のうちのいずれかにおいて、上記製剤は、必要に応じて、アミノ酸および塩のような薬学的に受容可能な賦形剤を含む。
【0037】
別の実施形態において、本発明は、緩衝液、糖、遊離アミノ酸および界面活性剤を含む安定なα4β7抗体を開示する。
【0038】
上記の実施形態において、上記糖の濃度は、70mg/ml未満であり、好ましくは30mg/mlであり、上記遊離アミノ酸の濃度は、15mg/ml未満であり、好ましくは約5mg/mlであり、これらは、上記製剤中の抗体の凝集物およびフラグメント含有量の増大を効果的に制御する。
【0039】
上記の実施形態において、糖および遊離アミノ酸を含む開示されるα4β7抗体製剤は、50℃で2週間にわたって安定であり、上記製剤中の抗体の凝集物およびフラグメント含有量の変化を1%未満に制御する。
【0040】
本発明の上記の実施形態のうちのいずれかにおいて、緩衝液は、有機緩衝液、無機緩衝液および/またはこれらの組み合わせを含む。
【0041】
上述の実施形態において、上記有機緩衝液としては、ヒスチジン緩衝液、コハク酸緩衝液または酢酸緩衝液およびそれらの塩が挙げられる。
【0042】
本発明のさらに別の実施形態において、上記α4β7抗体の安定な製剤は、リン酸緩衝液を含む、無機緩衝液を含む。
【0043】
ある実施形態において、本発明は、リン酸緩衝液、少なくとも60mg/mlの糖、50mM 遊離アミノ酸、および界面活性剤を含むα4β7抗体の安定な薬学的製剤であって、ここで上記製剤は、50℃で2週間にわたって安定であり、上述の貯蔵条件下で上記抗体のモノマー含有量のうちの少なくとも97%を維持する製剤を開示する。
【0044】
ある実施形態において、本発明は、酢酸緩衝液、少なくとも60mg/mlの糖、50mM 遊離アミノ酸および界面活性剤を含むα4β7抗体の安定な薬学的製剤であって、ここで上記製剤は、50℃で2週間にわたって安定であり、上記抗体のモノマー含有量のうちの少なくとも96%を維持する製剤を開示する。さらに、上記抗体のうちの少なくとも55%は、開示される製剤において、上記貯蔵条件下で、主要ピークとして維持される。
【0045】
ある実施形態において、本発明は、コハク酸緩衝液、少なくとも60mg/mlの糖、50mM 遊離アミノ酸、および界面活性剤を含むα4β7抗体の安定な薬学的製剤であって、ここで上記製剤は、50℃で2週間にわたって安定であり、上記抗体のうちの少なくとも55%を維持し、上記貯蔵条件下で主要ピークとして保持される製剤を開示する。
【0046】
上述の実施形態のうちのいずれかにおいて、上記糖は、スクロースまたはトレハロースまたはマンニトールまたはソルビトールである。好ましくは、上記糖は、トレハロースである。
【0047】
上述の実施形態のうちのいずれかにおいて、上記遊離アミノ酸は、アルギニンまたはリジンまたはグリシンまたはこれらの組み合わせもしくは誘導体である。
【0048】
本発明の上記の実施形態の全てにおいて、上記α4β7抗体の濃度は、約50mg/ml~約200mg/mlである。
【0049】
本発明の述べられた実施形態のうちのいずれかにおいて、上記α4β7抗体製剤のpHは、6.0~7.0である。
【0050】
ある実施形態において、本発明は、緩衝液、糖、遊離アミノ酸および界面活性剤を含むα4β7抗体であって、ここで上記製剤は、50℃で2週間にわたって安定である抗体を開示する。
【0051】
上述の実施形態において、上記糖の濃度は、少なくとも30mg/ml、かつ70mg/ml未満であり、好ましくは60mg/mlである。
【0052】
本発明の上記で述べられた実施形態において、アルギニンの濃度は、少なくとも5mg/ml、かつ15mg/ml未満であり、好ましくは10mg/mlである。
【0053】
上述の実施形態のうちのいずれかにおいて、上記α4β7抗体の製剤は、非経口投与のために使用され得る、安定な液体な(水性)製剤である。非経口投与としては、静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内投与、または概して非経口投与の範囲内に入ると考えられかつ当業者に周知であるとおりの任意の他の送達経路が挙げられる。
【0054】
本発明の上記の実施形態のうちのいずれかにおいて、上記安定な液体/水性製剤は、適切であり、凍結乾燥散剤として凍結乾燥され得る。さらに、α4β7抗体の上記凍結乾燥製剤は、投与に適した液体製剤を達成するために適切な希釈剤で再構成され得る。
【実施例0055】
本発明の薬学的組成物での貯蔵に適したα4β7抗体であるベドリズマブは、当該分野で公知の標準的方法によって生成される。例えば、ベドリズマブは、チャイニーズハムスター卵巣細胞のような哺乳動物宿主細胞での免疫グロブリン軽鎖遺伝子および重鎖遺伝子の組換え発現によって調製される。さらに、上記発現されたベドリズマブは採取され、その粗製採取物は、精製、濾過および必要に応じて、希釈工程または濃縮工程を含む標準的な下流のプロセス工程に供される。例えば、上記ベドリズマブの粗製採取物は、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーおよびこれらの組み合わせのような標準的クロマトグラフィー技術を使用して精製され得る。その精製されたベドリズマブ溶液はさらに、1またはこれより多くの濾過工程に供され得、その得られた溶液は、さらなる製剤化試験に供される。下流のクロマトグラフィープロセスから得られるTris酢酸緩衝液中のベドリズマブ(8mg/mlの濃度において)を、緩衝液交換し、ヒスチジン緩衝液中で70mg/mlまで濃縮した。上記濃縮したベドリズマブを、その後の実験において使用した。
【0056】
実施例1: 種々の糖の存在下でのベドリズマブの安定性
ベドリズマブの安定性に対する種々の糖の効果を理解するために、種々の糖を有する製剤を調製した。ヒスチジン緩衝液バックグラウンド中の濃縮ベドリズマブの一部を、20mM リン酸緩衝液へと緩衝液交換した。さらに、糖およびポリソルベートのような賦形剤を、上記製剤に添加した。ベドリズマブのFDA承認製剤は、アルギニン、スクロースおよびポリソルベートを含む。よって、同じ賦形剤を、ヒスチジン緩衝液バックグラウンドにおけるベドリズマブに添加し、これを、その後の実験における参照標準として使用した。製剤の詳細を、表1に示す。サンプルを全て、50℃において2週間にわたる加速安定性試験に供した。その後、上記サンプルを、低分子量(LMW)またはフラグメント種、高分子量(HMW)種または凝集物、およびモノマー含有量についてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して分析し[結果を
図1(a)~(c)に示す]、また、主要ピーク含有量についてイオン交換クロマトグラフィーを使用してチェックした[結果を
図2に示す]。上記ベドリズマブサンプルの目視検査データを、表2に示す。
表1: 異なる糖の存在下でのベドリズマブ製剤の組成
【表1】
表2: 実施例1に従って調製したベドリズマブ(60mg/ml)製剤の目視検査データ
【表2】
W-週を示す
【0057】
実施例2: スクロースの増大した濃度の存在下でのベドリズマブの製剤
ベドリズマブの安定性に対するスクロースの濃度の効果を理解するために、種々の濃度のスクロースを有する製剤を調製した。ヒスチジン緩衝液バックグラウンド中の濃縮ベドリズマブの一部を、20mM リン酸緩衝液へと緩衝液交換した。その後、スクロース、ポリソルベートのような賦形剤を、ヒスチジン緩衝液バックグラウンドにおよびリン酸緩衝液バックグラウンドに存在するベドリズマブに添加した。
【0058】
スクロースを、タンパク質安定性に対するスクロースの効果を理解するために、種々のベドリズマブサンプルに増大した濃度で添加した。
【0059】
製剤の詳細を、表3に示す。サンプルを全て、50℃で2週間にわたる安定性試験に供した。その後、上記サンプルを、低分子量(LMW/フラグメント)種、高分子量種(HMW/凝集物)、およびモノマー含有量についてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して分析し[結果を
図3(a)~(c)に示す]、主要ピーク含有量についてもイオン交換クロマトグラフィーを使用してチェックした[結果を
図4に示す]。上記ベドリズマブサンプルの目視検査データを、表4に示す。
表3: 実施例2に従って調製したベドリズマブ製剤の組成
【表3】
表4: 実施例1に従って調製したベドリズマブ(60mg/ml)製剤の目視検査データ
【表4】
W-週を示す
【0060】
実施例3: 糖およびアミノ酸の存在下でのベドリズマブの製剤
ベドリズマブの安定性に対するアミノ酸の効果を理解するために、異なる濃度のアルギニンを調製し、実施例2の製剤に添加した。上記製剤の詳細を、表5に示す。サンプルを全て、50℃において2週間にわたる加速安定性試験に供した。その後、上記サンプルを、上記抗体の凝集物、フラグメントおよびモノマー含有量についてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して分析し[結果を
図5(a)~(c)に示す]、主要ピーク含有量についてもイオン交換クロマトグラフィーを使用して[結果を
図6に示す]、目視検査についても[表6]チェックした。
表5: 遊離アミノ酸を有する種々のベドリズマブ製剤の組成
【表5】
表6: 実施例3に従って調製したベドリズマブ(60mg/ml)製剤の目視検査データ
【表6】
W-週を示す
【0061】
実施例4: 種々の緩衝液バックグラウンド中のベドリズマブの製剤
上記の実験から、賦形剤の至適濃度をベドリズマブのために選択し、種々の緩衝液バックグラウンドにおいて同じ組成で製剤化した。製剤の詳細を、表7に示す。サンプルを全て、50℃において2週間にわたる加速安定性試験に供した。その後、上記サンプルを、低分子量(LMW/フラグメント)種、高分子量種(HMW/凝集物)、およびモノマー含有量についてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して分析し[結果を
図7(a)~(c)に示す]、主要ピーク含有量についてもイオン交換クロマトグラフィーを使用してチェックした[結果を
図8に示す]。上記ベドリズマブサンプルの目視検査データを、表8に示す。
表7: 異なる緩衝液バックグラウンド中のベドリズマブ製剤の組成
【表7】
表8: 実施例4に従って調製したベドリズマブ(60mg/ml)製剤の目視検査データ
【表8】
W-週を示す
【0062】
実施例1、2、3および4に従って調製したベドリズマブサンプルの液体製剤を、当該分野で公知の凍結乾燥技術に供し、安定性に関してチェックした。
【0063】
実施例5: ベドリズマブの高濃度製剤
下流のクロマトグラフィー工程から得られる40mM ヒスチジン緩衝液バックグラウンド中で30mg/mlの濃度にあるベドリズマブを、賦形剤を有する40mM ヒスチジン-リン酸緩衝液バックグラウンドへと緩衝液交換し(Vmab-12)、120mg/mlへと濃縮した。ここでは、(Vmab 13および14)の場合のように、最初のベドリズマブを40mM ヒスチジン-リン酸緩衝液へと緩衝液交換し、次いで、賦形剤を添加し、続いて、120mg/mlまで濃縮した。製剤の詳細を、表9に示す。その後、上記サンプルを2~8℃で1週間貯蔵し、上記サンプルを、低分子量(LMW/フラグメント)種、高分子量種(HMW/凝集物)、およびモノマー含有量についてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して分析し[結果を表10に示す]、また、主要ピーク含有量についてイオン交換クロマトグラフィーを使用してチェックした[結果を表11に示す]。上記ベドリズマブサンプルの目視検査データを、表12に示す。
表9: 実施例5に従って調製した高濃度のベドリズマブ製剤の組成
【表9】
表10: 実施例5に従って調製したベドリズマブ製剤のSECデータ
【表10】
W-週を示す
表11: 実施例5に従って調製したベドリズマブ製剤のIEXデータ
【表11】
W-週を示す
表12: 実施例5に従って調製したベドリズマブ製剤の目視検査データ
【表12】
W-週を示す
【0064】
実施例6: 糖、塩およびアミノ酸の存在下でのベドリズマブの製剤
塩、糖、およびアミノ酸のような種々の賦形剤の組み合わせの安定性の累積効果を理解するために、ヒスチジン緩衝液バックグラウンド中のベドリズマブを、種々の賦形剤を含むヒスチジン-リン酸緩衝液に緩衝液交換した。製剤の詳細を、表13に示す。上記サンプル全てを、40℃で4週間にわたる加速安定性試験に供した。その後、上記サンプルを、高分子量種(HMW/凝集物)、およびモノマー含有量についてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して分析し[結果を表14に示す]、また、主要ピーク含有量についてイオン交換クロマトグラフィーを使用してチェックした[結果を表15に示す]。上記ベドリズマブサンプルの目視検査データを、表16に示す。さらに、上記サンプルを、pHの変化についても(表17)、すなわち、pHの安定性についてチェックした。
表13: 実施例6に従って調製したベドリズマブ製剤の組成
【表13】
表14: 実施例6に従って調製したベドリズマブ製剤のSECデータ
【表14】
W-週を示す
表15: 実施例6に従って調製したベドリズマブ製剤のIEXデータ
【表15】
W-週を示す
表16: 実施例6に従って調製したベドリズマブ製剤の目視検査データ
【表16】
W-週を示す
表17: 40℃で貯蔵した場合に、ある期間(0週間~4週間)にわたって観察したベドリズマブ製剤のpH値
【表17】
W-週を示す