IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田中央研究所の特許一覧 ▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特開-車輪モジュール 図1
  • 特開-車輪モジュール 図2
  • 特開-車輪モジュール 図3
  • 特開-車輪モジュール 図4
  • 特開-車輪モジュール 図5
  • 特開-車輪モジュール 図6
  • 特開-車輪モジュール 図7
  • 特開-車輪モジュール 図8
  • 特開-車輪モジュール 図9
  • 特開-車輪モジュール 図10
  • 特開-車輪モジュール 図11
  • 特開-車輪モジュール 図12
  • 特開-車輪モジュール 図13
  • 特開-車輪モジュール 図14
  • 特開-車輪モジュール 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136416
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】車輪モジュール
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20240927BHJP
   B62D 9/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B60L15/20 S
B62D9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047529
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米澤 紀男
(72)【発明者】
【氏名】金山 光浩
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA20
5H125AB01
5H125AB02
5H125BA06
5H125BE05
5H125CA02
5H125CB00
(57)【要約】
【課題】車体に回動可能に取り付けられた車輪モジュールの転舵を簡単な機構により実現する。
【解決手段】転舵車輪モジュール14は、支持軸32回りに回動可能に支持軸32を介して車体12に取り付けられている。主車輪22は、支持軸32の中心線からずれた位置で路面に接している。主車輪22を回転駆動すると、主車輪22は路面から路面間力Frを受ける。一方、主車輪22と車体の相対運動によって、転舵車輪モジュール14は車体12から車体間力Fbを受ける。路面間力Frと車体間力Fbの作る転舵モーメントMtによって、車輪モジュール14が転舵する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に対して転舵軸線回りに回動可能に取り付けられた車輪モジュールであって、
前記転舵軸線からずれた位置にて路面に接している車輪と、
前記車輪を回転駆動する電動機と、
を含み、
前記車輪が前記路面から受ける路面間力と、前記車輪と前記車体の相対運動によって前記車輪モジュールが前記車体から受ける車体間力との相互作用によって当該車輪モジュールが転舵する、
車輪モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の車輪モジュールであって、前記電動機の前記車輪を駆動する力により生じる前記路面間力によって、当該車輪モジュールの回動角が制御される、車輪モジュール。
【請求項3】
請求項1に記載の車輪モジュールであって、前記路面間力が、前記電動機の前記車輪を駆動する力により生じる、車輪モジュール。
【請求項4】
請求項2または3に記載の車輪モジュールであって、当該車輪モジュールが前記転舵軸線回りに回動可能な状態と、回動しない状態とを選択する選択機構を備えた車輪モジュール。
【請求項5】
請求項4に記載の車輪モジュールであって、前記選択機構が、当該車輪モジュールの前記転舵軸線回りの回動を機械的に阻止するブレーキ機構を有する、車輪モジュール。
【請求項6】
請求項4に記載の車輪モジュールであって、
前記車輪が主車輪であり、さらに
当該車輪モジュールは、前記転舵軸線に関して前記主車輪と反対側に、かつ前記主車輪と平行に配置された副車輪をさらに含み、
前記選択機構が、前記副車輪が前記主車輪と同期して回転するよう前記主車輪と前記副車輪を選択的に接続するクラッチ機構を有する、
車輪モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体に取り付けられ、車体を走行駆動し、かつ転舵する車輪モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
車体に取り付けられ車体を走行駆動する車輪モジュールが知られている。さらに、車体を走行駆動するとともに転舵して車両の進行方向を変える車輪モジュールが知られている。下記特許文献1に記載の装置においては、走行用の電動機と転舵用の電動機をそれぞれ備えている。下記特許文献2に記載の装置では、走行と転舵の2つの自由度に対応して2機の電動機を備えている。下記特許文献3に記載の装置は、走行と転舵を1機の電動機で行っており、電動機の回転が伝達機構を介して転舵機構に伝達されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6837910号
【特許文献2】特許第6066166号
【特許文献3】特開2022-111895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車輪モジュールにおいて走行駆動および転舵を行うために、上記特許文献1,2の装置では2機の電動機を備えており、装置が大形となり、コストも上昇する。また、上記特許文献3は、電動機は1機であるものの、電動機の回転を転舵機構に伝える伝達機構を必要とし、その分、装置が大形化し、コストも上昇する。
【0005】
本発明は、車両を走行駆動し、かつ転舵可能な車輪モジュールの構造を簡略にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車輪モジュールは、車体に対して転舵軸線回りに回動可能に取り付けられた車輪モジュールであり、転舵軸線からずれた位置にて路面に接している車輪と、車輪を回転駆動する電動機とを含む。車輪モジュールは、車輪が路面から受ける路面間力と、車輪と車体の相対運動によって車輪モジュールが車体から受ける車体間力との相互作用によって転舵する。
【0007】
車輪モジュールの車輪を転舵軸線からずれた位置にて路面に接するようにすることで、車輪モジュールに作用する路面間力と車体間力とがオフセットし、これにより転舵軸線回りのモーメントを生じさせる。このモーメントにより車輪モジュールが転舵する。
【0008】
上記の車輪モジュールは、電動機の車輪を駆動する力により生じる路面間力によって、当該車輪モジュールの回動角が制御されるものとすることができる。
【0009】
上記の車輪モジュールは、路面間力が、電動機の車輪を駆動する力により生じるものとすることができる。
【0010】
上記の車輪モジュールは、当該車輪モジュールが転舵軸線回りに回動可能な状態と、回動しない状態とを選択する選択機構を備えたものとすることができる。
【0011】
上記の車輪モジュールは、選択機構が、当該車輪モジュールの転舵軸線回りの回動を機械的に阻止するブレーキ機構を有するものとすることができる。
【0012】
上記の車輪モジュールは、前記の車輪が主車輪であり、さらに、転舵軸線に関して主車輪と反対側に、かつ前記主車輪と平行に配置された副車輪をさらに含むものとすることができ、選択機構が、副車輪が主車輪と同期して回転するよう主車輪と副車輪を選択的に接続するクラッチ機構を有するものとすることができる。
【発明の効果】
【0013】
車輪モジュールに作用する互いにオフセットされた路面間力と車体間力とを利用することで、車輪モジュールを簡易な構成で転舵させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の自走車の一例を示す斜視図である。
図2】本実施形態の転舵車輪モジュールの概略構成を示す斜視図である。
図3図2に示す転舵車輪モジュールの構成を概念的に示す模式的な断面図である。
図4図2に示す転舵車輪モジュールの転舵原理を説明するための図であり、特に転舵角を増加させるときの説明図である。
図5図2に示す転舵車輪モジュールの転舵原理を説明するための図であり、特に転舵角を減少させるときの説明図である。
図6】転舵制御の説明に用いる変数等を示す図である。
図7】フィードフォワード制御による転舵制御の制御ブロック図である。
図8】フィードバック制御による転舵制御の制御ブロック図である。
図9】他の実施形態の自走車の例を示す斜視図である。
図10】他の実施形態の転舵車輪モジュールの概略構成を示す斜視図である。
図11図10に示す転舵車輪モジュールの構成を概念的に示す模式的な断面図である。
図12図10に示す転舵車輪モジュールの転舵原理を説明するための図であり、特に転舵角を増加させるときの説明図である。
図13】転舵制御の説明に用いる変数等を示す図である。
図14】さらに他の実施形態の転舵車輪モジュールの構成を模式的に示す図である。
図15】さらに他の実施形態の転舵車輪モジュールの構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。図1は、自走車10の外観を示す図である。車体12の底部に自走車10を走行駆動する3つの車輪モジュール14,16,18が設けられている。車輪モジュール14,16,18は、それぞれ車輪と、この車輪を駆動する電動機とを備えている。これらの電動機は、力行動作および回生動作が可能であり、回生動作において生じる力/トルクは、力行動作と逆向きの力/トルクである。以下において、電動機による駆動とは、回生動作時の車体の慣性により電動機が駆動される負の駆動も含む。2つの車輪モジュール16,18は車体12に固定され、車輪の向きは一定である。これら2つの車輪モジュール16,18を固定車輪モジュール16,18と記す。残り1つの車輪モジュール14は、車体12に、軸線20回りに回動可能に取り付けられ、この車体12に対する回動によって転舵が可能である。車体12に対する回動角度、すなわち転舵の角度を検出する転舵角センサ21が設けられている。車輪モジュール14を転舵車輪モジュール14と記し、また軸線20を転舵軸線20と記す。転舵車輪モジュール14が配置された側が自走車10の前、固定車輪モジュール16,18が配置された側が後である。
【0016】
図2は、転舵車輪モジュール14を示す斜視図である。転舵車輪モジュール14は、2つの車輪22,24を有する。車輪22,24は、転舵軸線20に直交する軸線回りに回動可能にモジュールベース26に支持されている。また、車輪22,24は、転舵軸線20に関して互いに反対側に、かつ互いに平行に配置されている。さらに、車輪22,24は、転舵軸線20から等距離に配置されてよい。モジュールベース26には、電動機28が搭載されている。電動機28の駆動力は、歯車列などの伝達機構30を介して車輪22に伝達される。回生動作時には、力行動作とは逆に、車輪22の回転が伝達機構30を介して電動機28に伝達される。以下の説明では、力行動作について説明し、回生動作については省略する。電動機28の駆動力は、車輪24には選択的に伝達される。車輪24への駆動力の伝達については後に詳述する。車輪22の車軸に対して、車輪22の回転および回転角を検出する回転センサ31が設けられている。2つの車輪22,24のうち、常に電動機28の駆動力が伝達される状態にある車輪22を主車輪22と記し、選択的に駆動力が伝達される車輪24を副車輪24と記してこれらを区別する。モジュールベース26の上部には、転舵軸線20が中心線となるように支持軸32が設けられている。
【0017】
図3は、転舵車輪モジュール14の構造を概念的に示す図である。図2に示す構造と、電動機28の駆動力を伝達する伝達機構の構成が異なるが、車輪22,24が電動機28により駆動されることについては共通である。支持軸32は、車体12の底面に固定され、モジュールベース26を転舵軸線20回りに回動可能に支持している。主車輪22は、モジュールベース26に回転可能に支持された主車軸34に固定されて、これと一体に回転する。また、副車輪24も、モジュールベース26に回転可能に支持された副車軸36に固定されて、これと一体に回転する。主車軸34の中心線と副車軸36の中心線は同一の軸線38上に位置している。この軸線38回りに主車輪22および副車輪24は回転する。この軸線38を回転軸線38と記す。回転軸線38は、転舵軸線20と直交している。主車輪22および副車輪24は、転舵軸線20から離れた、またはずれた位置で路面に接している。
【0018】
主車軸34と副車軸36の間にはクラッチ40が設けられている。クラッチ40は、主車軸34と副車軸36が一体となって回転する状態と、主車軸34と副車軸36を切り離して別個に回転する状態を選択的に実現する。クラッチ40は、例えば、主車軸34と副車軸36の互いに対向する端部にそれぞれ設けられた2つの平板状のクラッチプレート42を有し、2つのクラッチプレート42の対向面が接合/離反することで接続/切断が行われる摩擦クラッチであってよい。また、対向面に凹凸が設けられ、凹凸がかみ合うことで接続状態となるドグクラッチであってもよい。さらに、通常は流動している粉体に磁場をかけることにより流動性をなくして接続状態とする電磁粉体クラッチであってもよい。クラッチ40を接続状態とすると、主車軸34と副車軸36が結合されて、主車輪22と副車輪24が一体となって回転する。クラッチ40が接続されると、電動機28の駆動力が副車輪24にも伝達される。一方、クラッチ40が切断状態であると、主車軸34と副車軸36が切り離され、副車輪24には電動機28の駆動力は伝達されない。電動機28によって駆動されることにより、主車輪22および副車輪24と路面の間に力が作用する。この力の向きは、転舵軸線20上に中心を有する円周の接線方向である。
【0019】
クラッチ40が接続された状態では、主車輪22および副車輪24に電動機28の駆動力が伝達され、電動機28の駆動力に起因する車輪が路面から受ける路面間力が、主車輪22と副車輪24の両方で発生する。主車輪22と副車輪24の回転速度が一致するので、転舵車輪モジュール14は転舵しない。一方、クラッチ40を切断すると、副車輪24には、電動機28の駆動力が伝達されず、主車輪22のみに路面間力が発生する。この路面間力は、転舵軸線20回りのモーメントを形成し、このモーメントを利用して転舵車輪モジュール14の転舵が可能である。クラッチ40は、転舵車輪モジュール14の、転舵可能な状態と、転舵しない状態とを選択する選択機構である。
【0020】
図4および図5は、転舵車輪モジュール14が転舵する原理の説明図である。図4および図5において、転舵車輪モジュール14のクラッチ40は切断され、主車輪22にのみ電動機28の駆動力が伝達されて、この駆動力の反力として、主車輪22は、路面から路面間力Frを受ける。また、支持軸32上に、転舵車輪モジュール14が車体から受ける力である車体間力Fbが生じている。図示する車体間力Fbは、旋回半径に対して直交する成分であり、この成分が転舵に関連する。
【0021】
図4は、転舵車輪モジュール14が車体12に対して先行しようとしている状態を示している。例えば、転舵車輪モジュール14の主車輪22の回転速度が、固定車輪モジュール16,18の車輪の回転速度より速い場合である(ただし、各車輪モジュールの車輪の直径は等しいとする。)。この場合、主車輪22が路面から受ける路面間力Frと、転舵車輪モジュール14が車体12から受ける車体間力Fbとが図において時計回りの転舵モーメントMtを生じさせ、転舵角が増加する。転舵角の増加に伴い旋回中心Pは、自走車10に向けて移動する。また、転舵車輪モジュール14が受ける路面間力Frは、自走車10を加速させる向きに作用している。この路面間力Frによって転舵時に自走車10が増速するのを避けるためには、固定車輪モジュール16,18の発電機を回生動作して後方に向く駆動力(路面間力D)を生じさせて、転舵車輪モジュール14の路面間力Frとバランスさせる。
【0022】
図5は、転舵車輪モジュール14が車体12に対して遅れようとしている状態を示している。この場合、主車輪22が路面から受ける路面間力Frと、転舵車輪モジュール14が車体12から受ける車体間力Fbとが図5において反時計回りの転舵モーメントMtを生じさせ、転舵角が減少する。転舵角の減少に伴い旋回中心Pは、自走車10から離れる向きに移動する。
【0023】
転舵角を制御するために、転舵角を転舵角センサにより取得し、転舵角を増加させる場合には電動機28を加速させ、転舵角を減少させる場合には電動機28を減速させる。
【0024】
自走車10における転舵制御について説明する。図6は、説明に用いる変数等を示す図である。車体の中心点がO、車両の質量がM、転舵車輪モジュール14の質量がm、2つの固定車輪モジュール16,18の車輪間の距離がW、固定車輪モジュール16,18の車輪の中心と転舵軸線20の前後方向における距離がL、転舵軸線20と主車輪22の距離がrである。2つの固定車輪モジュール16,18のそれぞれ車輪の中心を通る線をx軸に定める。点Pが旋回中心、uが自走車10の速度、vfが主車輪22の速度、θが旋回角度、φが転舵角度である。
【0025】
図7は、自走車10を目標速度u、目標旋回角度θにフィードフォワード制御する場合の制御ブロック図である。各車輪モジュール14,16,18の車輪の速度が図中の各式となるよう各車輪モジュール14,16,18を制御する。
【0026】
図8は、自走車10を、転舵角度φをフィードバックして目標速度u、目標旋回角度θにフィードバック制御する場合の制御ブロック図である。各車輪モジュール14,16,18の車輪の速度が図中の各式となるよう各車輪モジュール14,16,18を制御する。転舵角度φは、PID制御によりフィードバックされてよい。
【0027】
図9は、自走車50の外観を示す図である。車体52の底部に自走車50を走行駆動する4つの車輪モジュール54,55,56,58が設けられている。車輪モジュール54,55,56,58は、それぞれ車輪を駆動する電動機を備えている。各電動機は、力行動作および回生動作が可能である。2つの車輪モジュール56,58は車体52に固定され、車輪の向きは一定である。これら2つの車輪モジュール56,58を固定車輪モジュール56,58と記す。残りの2つの車輪モジュール54,55は、車体に対して軸線60回りに回動可能に取り付けられ、この回動によって転舵が可能である。2つの車輪モジュール54,55のそれぞれに、自走車10と同様に、転舵角を検出する転舵角センサ(不図示)が設けられている。車輪モジュール54,55を転舵車輪モジュール54,55と記し、また軸線60を転舵軸線60と記す。転舵車輪モジュール54と転舵車輪モジュール55は互いに左右対称な形状である。転舵車輪モジュール54,55が配置された側が自走車50の前、固定車輪モジュール56,58が配置された側が後である。2つの転舵車輪モジュール54,55を区別する必要があるときは、車体52の右側に配置された転舵車輪モジュール54を右側転舵車輪モジュール54、車体52の左側に配置された転舵車輪モジュール55を左側転舵車輪モジュール55と記す。右側と左側の転舵車輪モジュール54,55は互いに左右対称であるので、主に、右側の転舵車輪モジュール54を説明し、左側の転舵車輪モジュール55については、右側と共通の事項については省略し、必要に応じて追加の説明を行う。
【0028】
図10は、転舵車輪モジュール54を示す斜視図である。転舵車輪モジュール54は、1つの車輪62を有する。車輪62は、転舵軸線60に直交する軸線回りに回動可能にモジュールベース66に支持されている。モジュールベース66には、電動機68が搭載されている。電動機68の駆動力は、歯車列などの伝達機構70を介して車輪62に伝達される。車輪62の車軸に対して、車輪62の回転および回転角を検出する回転センサ71が設けられている。モジュールベース66の上部には、転舵軸線60が中心線となるように支持軸72が設けられている。
【0029】
図11は、転舵車輪モジュール54の構造を概念的に示す図である。図10に示す構造と、電動機68の駆動力を伝達する伝達機構の構成が異なるが、車輪62が電動機68により駆動されることについては共通である。支持軸72は、車体52の底面に固定され、モジュールベース66を転舵軸線60回りに回動可能に支持している。車輪62は、モジュールベース66に回転可能に支持された車軸74に固定されて一体に回転する。車輪62は、軸線78回りに回転する。この軸線78を回転軸線78と記す。回転軸線78は、転舵軸線60と直交している。車輪62は、転舵軸線60から離れた、またはずれた位置で路面に接している。
【0030】
モジュールベース66と支持軸72の間にはブレーキ80が設けられている。ブレーキ80は、車体52に対して転舵車輪モジュール54が転舵軸線60回りに回動可能な状態と、固定された状態を選択的に実現する選択機構である。ブレーキ80は、例えば、支持軸72に固定され、支持軸72と一体に回転するブレーキディスク82と、ブレーキディスク82に押し付けられるブレーキパッド(不図示)を備えたブレーキキャリパ84を含むディスクブレーキであってよい。また、ブレーキ80は、ブレーキドラムとブレーキシューを含むドラムブレーキであってもよい。さらにまた、対向面に凹凸が設けられ、凹凸がかみ合うことで相対的な運動を制止するドグブレーキであってもよい。
【0031】
ブレーキ80を掛けて転舵車輪モジュール54が車体52に対して固定される状態とすると、転舵角がその状態で維持される。ブレーキ80を解放して転舵車輪モジュール54が車体52に対して回動可能な状態とされると、車輪62が路面から受ける路面間力が、転舵軸線60回りのモーメントを形成し、このモーメントを利用して転舵車輪モジュール54の転舵が可能である。ブレーキ80は、転舵車輪モジュール54の、転舵可能な状態と、転舵しない状態とを選択する選択機構である。また、電動機68によって駆動されることにより車輪62と路面の間に作用する力の向きは、転舵軸線60上に中心を有する円周の接線方向である。
【0032】
転舵車輪モジュール54の転舵の原理は、図4および図5で説明した1対の車輪22,24を有する転舵車輪モジュール14と同様に説明できる。転舵軸線60からオフセットした1つの車輪62を有する転舵車輪モジュール54において、ブレーキ80が解放された状態は、図4,5において、副車輪24を取り除いた転舵車輪モジュール14と同じである。つまり、転舵車輪モジュール54も、車輪62が路面から受ける路面間力Frと、転舵車輪モジュール54が車体52から受ける車体間力Fbとが作る転舵モーメントMtにより転舵する。
【0033】
図12は、自走車50における転舵モーメントMt、路面間力Frおよび車体間力Fbを示す図である。右側の転舵車輪モジュール54と左側の転舵車輪モジュール55のそれぞれ路面間力Frは、概ね逆向きでありほぼ相殺する。したがって、転舵時の自走車50の速度を維持するための固定車輪モジュール56,58の駆動力Dは、図4に示す1つの転舵車輪モジュールを備えた自走車10の場合よりも小さい。このように、2つの転舵車輪モジュールを備えることで、転舵時の固定車輪モジュールの駆動力を抑えることができ、電力消費を抑制することができる。
【0034】
図13は、4輪の自走車50の転舵時に作用する力を説明する図である。変数等は、図6で用いられた変数と基本的に同一であるが、左右の転動車輪モジュールに関する変数を区別するために、左側転舵車輪モジュール55に関連するものは「L」が添えられ、右側転舵車輪モジュール54に関連するものは「R」が添えられている。
【0035】
旋回角度θが十分小さいと仮定すると、点Pで旋回するとき、転舵車輪モジュール54,55の角速度が等しいことから式(1)が得られ、旋回中心Pを速度xで移動させた場合、電動機に必要な加速度は式(2)で表される。
【0036】
【数1】
【0037】
また、角運動量保存則から、駆動力以外の外力が車体に作用しない場合には、式(3)および式(4)が成り立つ。
【数2】
【0038】
ダランベールの原理より転舵軸線と車輪の相対加速度の慣性力
【数3】
が車体に作用するので、式(2)および式(4)を用いて、式(5)が得られる。また、進行方向への写像を取ると、式(6)となる。Frollは、車体速度uの方向の力である。
【0039】
【数4】
【0040】
式(6)から、定数項を除き符号を整理すると、式(7)に示す傾向が得られる。これは、右旋回時(θ(・)>0)において、旋回半径を小さくする過程(x(・)<0)で、自走車50は減速する(Froll≦0)ことを示している。逆に、右旋回時(θ(・)>0)において旋回半径を大きくする過程(x(・)>0)では、自走車は加速する(Froll≧0)ことを示している。なお、「x(・)」、「θ(・)」は、それぞれxの時間微分、θの時間微分を示す。
【0041】
転舵時に発生する力の大きさは、旋回半径の変化速度と車体速度の関係式(式(7))になっていることから、旋回加速度により調整できることが分かる。すなわち、この力を車体慣性に対して小さくすることで車体の運動に大きな影響を与えることなく転舵が可能になる。前述のように、自走車50においては、2つの転舵車輪モジュール54,55の路面間力Frが概ね相殺するため、自走車10のように1つの転舵車輪モジュール14を備えた車両に比べてFrollを小さくすることができる。
【0042】
図1に示す自走車10は、3つの車輪モジュール14,16,18を備え、転舵車輪モジュール14が2つの車輪22,24を有している。自走車10において、転舵車輪モジュール14に代えて、車輪を1つだけ有する転舵車輪モジュール54を備えるようにしてもよい。また、図9に示す自走車50は、4つの車輪モジュール54,55,56,58を備え、転舵車輪モジュール54,55は、1つの車輪62を有している。自走車50において、2つの転舵車輪モジュール54,55に代えて、車輪を2つ有する転舵車輪モジュール14を2つ備えるようにしてもよい。この場合、2つの転舵車輪モジュール14の互いの主車輪22と副車輪24の配置は、左右対称となるようにしてよい。例えば、自走車の車幅方向において、2つの主車輪22が外側、2つの副車輪24が内側に配置される。
【0043】
自走車の一態様は、2つの固定車輪モジュールと、3つ以上の転舵車輪モジュールを備えてよい。さらに、自走車の他の一態様は、固定車輪モジュールを備えず、3つ以上の転舵車輪モジュールのみを備えてよい。
【0044】
上述の転舵車輪モジュール14,54,55においては、クラッチ40やブレーキ80によって転舵可能な状態と転舵を生じない状態とを選択可能としていた。クラッチ40やブレーキ80のような選択機構を有さない車輪モジュールにおいても、車体に備えられた他の駆動輪により前進および後退が可能であれば、転舵が可能である。なお、この駆動輪は、前述の固定車輪モジュール16,18,56,58の車輪であってよい。以下、選択機構を有さない転舵車輪モジュールについて説明する。
【0045】
図14は、自走車の車体100に、転舵軸線102回りに回動可能に取り付けられた転舵車輪モジュール104を模式的に示す図である。転舵車輪モジュール104は、転舵軸線102が中心線となる支持軸106によって車体100に回動可能に支持されている。転舵車輪モジュール104の車輪108は、インホイールモータなどにより駆動される駆動輪である。車輪108の回転軸線110が転舵軸線102と直交している。これにより、車体100は車輪108の横方向のグリップ力(コーナリングフォース)を伝達できる。車体100の運動を計測し、転舵車輪モジュール104が車体100と全く同じ速度で移動するよう車輪108の駆動力を制御することで自走車は直進する。転舵車輪モジュール104が、車体100と相対速度をもって移動するように車輪108を駆動した場合、転舵が生じる。相対速度がある場合、支持軸106を介して車体間力が作用する。一方、車輪108には、車輪108の駆動力によって生じる路面間力が作用する。この路面間力の向き、転舵軸線102上に中心を有する円周の接線方向である。これらの路面間力と車体間力が作るモーメントにより転舵車輪モジュールが転舵する。
【0046】
図15は、自走車の車体120に、転舵軸線122回りに回転可能に取り付けられた転舵車輪モジュール124を模式的に示す図である。転舵車輪モジュール124は、転舵軸線122が中心線となる支持軸126によって車体120に回動可能に支持されている。転舵車輪モジュール124の車輪128は、インホイールモータなどにより駆動される駆動輪である。車輪128の回転軸線130は、転舵軸線122に対してねじれの位置にある。この場合、車体120は車輪128の駆動力を伝達できる。車輪128を駆動することによって生じる路面間力の向きは、転舵軸線122を通る方向、つまり転舵軸線122を中心とする放射方向である。転舵車輪モジュール124は、車輪128が路面から受ける路面間力が転舵軸線122から離れる向きであるときには安定状態となり、逆に路面間力が転舵軸線122に向かう向きであるときには準安定状態となる。
【0047】
自走車が直進時には、転舵車輪モジュール124によって車体120が牽引され、転舵車輪モジュール124は安定状態にある。転舵が要求されたとき、車輪128を駆動する電動機を回生動作させて、転舵車輪モジュール124を準安定状態にする。準安定状態では、外乱などにより、容易に不安定となって、車輪128に路面から横方向の路面間力が作用し、この横方向の路面間力によって転舵車輪モジュール124が転舵し始める。転舵の向きが、要求された向きと反対であれば、電動機を力行動作に戻す。このとき、転舵軸線122回りの慣性のため、転舵車輪モジュール124は、準安定状態を通過し反対側に転舵する。そして、再度、電動機を回生動作させることにより、要求された向きに転舵される。要求された転舵角となったら、この転舵角が維持されるように、車体120と転舵車輪モジュール124の相対速度を制御する。
【符号の説明】
【0048】
10,50 自走車、12,52,100,120 車体、14,54,55,104,124 転舵車輪モジュール、16,18,56,58 固定車輪モジュール、20,60,102,122 転舵軸線、22 主車輪、24 副車輪、26,66 モジュールベース、28,68 電動機、32,72,106,126 支持軸、38,78,110,128 回転軸線、40 クラッチ、62,108,128 車輪、80 ブレーキ、Fr 路面間力、Fb 車体間力。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15