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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136422
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】サスペンションシステム
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/0185 20060101AFI20240927BHJP
   B60G 17/015 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B60G17/0185
B60G17/015 B
B60G17/015 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047536
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 彰人
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA60
3D301AA62
3D301DA08
3D301DA33
3D301DA35
3D301EA10
3D301EA15
3D301EA17
3D301EA19
3D301EA21
3D301EA22
3D301EC01
3D301EC59
(57)【要約】
【課題】学習済みモデルを利用して減衰力を調整するサスペンションシステムにおける異常を検知する。
【解決手段】実施形態のサスペンションシステムは、学習済みモデルを利用して、ばね上加速度の実測値を含む入力情報から、ショックアブソーバの変位量を示すストローク変位量及びショックアブソーバの変位速度を示すストローク速度の少なくとも一方を推定する推定部と、推定部による推定結果に基づいて、ばね上加速度の推定値を算出する演算部と、ばね上加速度の実測値とばね上加速度の推定値との誤差に基づいて、異常の有無を判定する異常判定部と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と車体との間に介在されるスプリングの振動を収束させる減衰力を発生させるショックアブソーバを備え、前記減衰力を調整可能なサスペンションシステムであって、
学習済みモデルを利用して、ばね上加速度の実測値を含む入力情報から、前記ショックアブソーバの変位量を示すストローク変位量及び前記ショックアブソーバの変位速度を示すストローク速度の少なくとも一方を推定する推定部と、
前記推定部による推定結果に基づいて、前記ばね上加速度の推定値を算出する演算部と、
前記ばね上加速度の実測値と前記ばね上加速度の推定値との誤差に基づいて、異常の有無を判定する異常判定部と、
を備えるサスペンションシステム。
【請求項2】
前記推定部が前記ストローク変位量及び前記ストローク速度を推定する場合には、前記演算部は、前記推定部により推定された前記ストローク変位量の推定値に基づいて、前記スプリングが発生させる反力であるばね力の推定値を算出し、前記推定部により推定された前記ストローク速度の推定値に基づいて、前記減衰力の推定値を算出し、前記ばね力の推定値及び前記減衰力の推定値に基づいて、前記ばね上加速度の推定値を算出する、
請求項1に記載のサスペンションシステム。
【請求項3】
前記推定部が前記ストローク変位量を推定する場合には、前記演算部は、前記推定部により推定された前記ストローク変位量の推定値に基づいて、前記スプリングが発生させる反力であるばね力の推定値と、前記ショックアブソーバの変位速度を示すストローク速度の推定値と、を算出し、前記ストローク速度の推定値に基づいて、前記減衰力の推定値を算出し、前記ばね力の推定値及び前記減衰力の推定値に基づいて、前記ばね上加速度の推定値を算出する、
請求項1に記載のサスペンションシステム。
【請求項4】
前記推定部が前記ストローク速度を推定する場合には、前記演算部は、前記推定部により推定された前記ストローク速度の推定値に基づいて、前記ストローク変位量の推定値と、前記減衰力の推定値と、を算出し、前記ストローク変位量の推定値に基づいて、前記スプリングが発生させる反力であるばね力の推定値を算出し、前記ばね力の推定値及び前記減衰力の推定値に基づいて、前記ばね上加速度の推定値を算出する、
請求項1に記載のサスペンションシステム。
【請求項5】
前記異常判定部は、異常があると判定された場合に、前記学習済みモデルにおけるパラメータをリセットする、
請求項1~4のいずれか1項に記載のサスペンションシステム。
【請求項6】
前記異常判定部は、異常があると判定された場合に、前記推定部による推定結果を前記減衰力の制御に使用することを禁止する、
請求項1~4のいずれか1項に記載のサスペンションシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、サスペンションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
路面から車体への衝撃を緩和させるスプリングの振動(伸縮運動)を収束させる減衰力を状況に応じて調整可能なサスペンションシステムにおいて、減衰力の制御に学習済みモデル(人工知能)が利用される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2022/024919号
【特許文献2】国際公開第2019/064833号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなシステムにおいては、学習済みモデルによる処理が適切性を失う可能性を考慮し、異常の発生を検知する機能が要求される。
【0005】
本発明の実施形態が解決しようとする課題の一つは、学習済みモデルを利用して減衰力を調整するサスペンションシステムにおける異常を検知可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、車輪と車体との間に介在されるスプリングの振動を収束させる減衰力を発生させるショックアブソーバを備え、減衰力を調整可能なサスペンションシステムであって、学習済みモデルを利用して、ばね上加速度の実測値を含む入力情報から、ショックアブソーバの変位量を示すストローク変位量及びショックアブソーバの変位速度を示すストローク速度の少なくとも一方を推定する推定部と、推定部による推定結果に基づいて、ばね上加速度の推定値を算出する演算部と、ばね上加速度の実測値とばね上加速度の推定値との誤差に基づいて、異常の有無を判定する異常判定部と、を備えるものである。
【0007】
上記構成によれば、ばね上加速度の実測値を含む入力情報から学習済みモデルにより推定されたストローク変位量及びストローク速度の少なくとも一方に基づいてばね上加速度の推定値が算出され、ばね上加速度の実測値と推定値との誤差に基づいて異常が判定される。これにより、学習済みモデルを利用した制御を行うシステムにおける異常を高精度に検知でき、システムの信頼性を向上させることができる。
【0008】
また、上記構成において、推定部がストローク変位量及びストローク速度を推定する場合には、演算部は、推定部により推定されたストローク変位量の推定値に基づいて、スプリングが発生させる反力であるばね力の推定値を算出し、推定部により推定されたストローク速度の推定値に基づいて、減衰力の推定値を算出し、ばね力の推定値及び減衰力の推定値に基づいて、ばね上加速度の推定値を算出してもよい。
【0009】
上記構成によれば、学習済みモデルにより推定されたストローク変位量及びストローク速度に基づいて、ばね上加速度の推定値を効率的に算出できる。
【0010】
また、上記構成において、推定部がストローク変位量を推定する場合には、演算部は、推定部により推定されたストローク変位量の推定値に基づいて、スプリングが発生させる反力であるばね力の推定値と、ショックアブソーバの変位速度を示すストローク速度の推定値と、を算出し、ストローク速度の推定値に基づいて、減衰力の推定値を算出し、ばね力の推定値及び減衰力の推定値に基づいて、ばね上加速度の推定値を算出してもよい。
【0011】
上記構成によれば、学習済みモデルにより推定されたストローク変位量に基づいて、ばね上加速度の推定値を効率的に算出できる。
【0012】
また、上記構成において、推定部がストローク速度を推定する場合には、演算部は、推定部により推定されたストローク速度の推定値に基づいて、ストローク変位量の推定値と、減衰力の推定値と、を算出し、ストローク変位量の推定値に基づいて、スプリングが発生させる反力であるばね力の推定値を算出し、ばね力の推定値及び減衰力の推定値に基づいて、ばね上加速度の推定値を算出してもよい。
【0013】
上記構成によれば、学習済みモデルにより推定されたストローク速度に基づいて、ばね上加速度の推定値を効率的に算出できる。
【0014】
また、上記構成において、異常判定部は、異常があると判定された場合に、学習済みモデルにおけるパラメータをリセットしてもよい。
【0015】
上記構成によれば、学習済みモデルの機能を正常化させることができる。
【0016】
また、上記構成において、異常判定部は、異常があると判定された場合に、推定部による推定結果を減衰力の制御に使用することを禁止してもよい。
【0017】
上記構成によれば、不適切な推定結果に基づく制御の実行を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、第1実施形態の車両に搭載されたサスペンションシステムの構成の一例を示す図である。
図2図2は、第1実施形態の懸架装置の構成の一例を示す図である。
図3図3は、第1実施形態のECUの機能構成の一例を示す図である。
図4図4は、第1実施形態における推定ばね上加速度の算出方法の一例を説明するための図である。
図5図5は、第1実施形態の異常発生時におけるばね上加速度と誤差と異常判定フラグとの関係の一例を示す図である。
図6図6は、第1実施形態のECUによる処理の一例を示すフローチャートである。
図7図7は、第2実施形態のECUの機能構成の一例を示す図である。
図8図8は、第2実施形態における推定ばね上加速度の算出方法の一例を説明するための図である。
図9図9は、第2実施形態のECUによる処理の一例を示すフローチャートである。
図10図10は、第3実施形態のECUの機能構成の一例を示す図である。
図11図11は、第3実施形態における推定ばね上加速度の算出方法の一例を説明するための図である。
図12図12は、第3実施形態のECUによる処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、並びに当該構成によってもたらされる作用、結果及び効果は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能であるとともに、基本的な構成に基づく種々の効果や、派生的な効果のうち、少なくとも一つを得ることが可能である。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の車両1に搭載されたサスペンションシステムSの構成の一例を示す図である。ここで例示する車両1は、路面上を走行可能な四輪自動車であり、車体2と4つの車輪3とを有する。
【0021】
サスペンションシステムSは、懸架装置11、加速度センサ12及びECU(Electronic Control Unit)13を有する。
【0022】
懸架装置11は、4つの車輪3のそれぞれと車体2との間に設置され、路面から車体2への衝撃を緩和する作用を奏する装置である。
【0023】
加速度センサ12は、4つの懸架装置11のそれぞれの上部に設置され、各設置位置に対応するばね上加速度を検出するセンサである。ばね上加速度とは、懸架装置11より上の部分(主に車体2)の上下方向の変位の加速度である。なお、加速度センサ12の数や設置位置はこれに限定されるものではない。
【0024】
ECU13は、各懸架装置11を制御するための情報処理を実行する情報処理装置であり、CAN(Controller Area Network)等のネットワークを介して懸架装置11等の車載デバイスと通信可能に接続している。また、ECU13は、加速度センサ12から出力された信号(アナログ信号)を適宜な回線を介して取得する。ECU13は、例えばCPU(Central Processing Unit)、メモリ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等を利用して構成され得る。ECU13と接続する車載デバイスには、懸架装置11及び加速度センサ12の他に、例えば、車輪3の回転速度(車輪速度)を検出する車輪速センサ、車体2の傾きを検出する3軸加速度センサ、舵角を検出する舵角センサ、所定の制御を実行する他のECU等が含まれ得る。
【0025】
図2は、第1実施形態の懸架装置11の構成の一例を示す図である。図2において、1つの車輪3と車体2との間に介在された1つの懸架装置11の構成が模式的に示されている。懸架装置11は、スプリング21とショックアブソーバ22とを有する。なお、4つの懸架装置11は全て同様の構成を有する。
【0026】
スプリング21は、車輪3と車体2との間に介在され、路面Rから車体2への衝撃を吸収するように伸縮する部材であり、その伸縮状態に応じて反力(復元力)を発生させる。以下、当該スプリング21の伸縮状態に応じた反力をばね力と称する。
【0027】
ショックアブソーバ22は、スプリング21の振動(伸縮運動)を収束させる減衰力を発生させるユニットである。ショックアブソーバ22の減衰力は、ECU13からの制御信号(制御電流)に応じて変更可能となっている。ショックアブソーバ22の具体的構成は特に限定されるべきものではないが、例えば、流体圧力に応じて減衰力が変化する油圧ダンパ、ECU13からの制御電流に応じて油圧ダンパの流体圧力を変化させるように動作するアクチュエータ等を利用した構成が採用され得る。
【0028】
本実施形態のECU13は、加速度センサ12やCAN等から取得される、車両1に関する各種情報に基づいて、ショックアブソーバ22の減衰力を最適化するための処理を実行する。各種情報には、加速度センサ12から取得されるばね上加速度、車輪速センサ等から取得される車輪速度、車体2に搭載された3軸加速度センサ等から取得される前後加速度、左右加速度、ヨーレート等が含まれ得る。ECU13による減衰力の具体的な制御方法は特に限定されるべきものではないが、例えば、スカイフック理論に基づく制御等が利用され得る。
【0029】
図3は、第1実施形態のECU13の機能構成の一例を示す図である。本実施形態のECU13は、推定部101、駆動制御部102、演算部103及び異常判定部104を有する。これらの機能部101~104は、ECU13を構成するハードウェア要素及びソフトウェア要素(プログラム等)の協働により構成され得る。また、これらの機能部101~104のうちの少なくとも1つが専用のハードウェア(回路等)により構成されてもよい。
【0030】
推定部101は、学習済みモデルを利用して、所定の入力情報からショックアブソーバ22のストローク変位量及びストローク速度を推定する。ストローク変位量とは、ショックアブソーバ22の上下方向の変位量である。ストローク速度とは、ショックアブソーバ22の上下方向の変位速度である。入力情報には、少なくとも、加速度センサ12により検出されたばね受け加速度の実測値である実測ばね上加速度が含まれる。入力情報には、更に、車輪速度、前後加速度、左右加速度、ヨーレート、その他の情報が含まれてもよい。
【0031】
学習済みモデルは、ニューラルネットワークに対して所定の教師データを用いて事前に行われた機械学習(深層学習)により生成されたモデルであり、機械学習により決定されたパラメータ(重み)が適用された所定のアルゴリズム等であり得る。学習済みモデルのパラメータには、使用(車両1の走行)に応じて更新されるパラメータが含まれてもよい。本実施形態の学習済みモデルは、実測ばね上加速度を含む入力情報の入力に対し、ストローク変位量の推定値である推定ストローク変位量と、ストローク速度の推定値である推定ストローク速度と、を出力する。学習済みモデルの具体的態様は特に限定されるべきものではないが、例えば、RNN(Recurrent Neural Network)構造や、LSTM(Long Short Term Memory)構造等を有するモデルが採用され得る。
【0032】
駆動制御部102は、加速度センサ12及びCANから取得される情報や推定部101による推定結果等に基づいてショックアブソーバ22の減衰力の目標値を決定し、ショックアブソーバ22の減衰力が当該目標値となるようにショックアブソーバ22に対して制御信号(制御電流)を出力する。減衰力の目標値の決定方法は特に限定されるべきものではないが、例えば、スカイフック理論に基づく方法等が採用され得る。
【0033】
演算部103は、推定部101による推定結果、すなわち学習済みモデルから出力された推定ストローク変位量及び推定ストローク速度に基づいて、ばね上加速度の推定値である推定ばね上加速度を算出する。推定ストローク変位量及び推定ストローク速度から推定ばね上加速度を算出する方法は、公知の演算手法を適宜利用して実現され得る。例えば、推定ストローク変位量からスプリング21のばね力の推定値である推定ばね力を算出し、推定ストローク速度からショックアブソーバ22の減衰力の推定値である推定減衰力を算出し、推定ばね力及び推定減衰力から運動方程式等に基づいて推定ばね上加速度を算出できる。
【0034】
異常判定部104は、加速度センサ12から取得された実測ばね上加速度と、演算部103により算出された推定ばね上加速度と、の誤差に基づいて、異常の有無を判定する。異常判定部104は、例えば、当該誤差が閾値以上である場合に、異常があると判定する。
【0035】
また、異常判定部104は、異常があると判定された場合に、所定の異常対応処理を実行してもよい。異常対応処理は、例えば、学習済みモデルにおけるパラメータのリセット等であり得る。リセットの対象となるパラメータは、例えば、使用(車両1の走行)により更新されるパラメータであり、例えば、RNNやLSTM等における記憶値等であり得る。これにより、学習済みモデルの作用を正常化させることができる可能性がある。また、異常対応処理は、例えば、推定部101による推定結果をショックアブソーバ22の減衰力の制御に使用することを禁止する処理であってもよい。これにより、不適切な推定結果に基づく減衰力の制御を回避できる。
【0036】
図4は、第1実施形態における推定ばね上加速度の算出方法の一例を説明するための図である。図4に示されるように、本実施形態の学習済みモデルは、加速度センサ12から取得された実測ばね上加速度を含む入力情報が入力されると、推定ストローク変位量及び推定ストローク速度を出力する。入力情報には、実測ばね上加速度の他、車輪速度、前後加速度、左右加速度、ヨーレート、推定ばね力のフィードバック値、推定減衰力のフィードバック値等が含まれてもよい。このように、実測ばね上加速度以外の情報を入力情報に含めることにより、学習済みモデルの推定精度の向上を図ることができる。
【0037】
学習済みモデルから出力された推定ストローク変位量にスプリング21のばね定数を乗算することにより、推定ばね力が算出される。また、ストローク速度と減衰力との対応関係を示すFV(Forth-Velocity)関係式を用いて、学習済みモデルから出力された推定ストローク速度に対応する減衰力である推定減衰力が算出される。FV関係式は、例えば、事前に行われた実験やシミュレーションに基づいて生成されてもよいし、走行中に取得される情報に基づいて生成されてもよい。このように算出された推定ばね力及び推定減衰力を学習済みモデルへの入力情報としてフィードバックさせてもよい。
【0038】
上記のように算出された推定ばね力と推定減衰力とを加算した値をばね上重量(例えば車体2の重量等)で除算することにより、推定ばね上加速度が算出される。そして、実測ばね上加速度と推定ばね上加速度との誤差に基づいて、異常の有無が判定される。
【0039】
なお、上記算出方法は例示であり、本実施形態における推定ばね上加速度の算出方法はこれに限定されるものではない。
【0040】
図5は、第1実施形態の異常発生時におけるばね上加速度と誤差と異常判定フラグとの関係の一例を示す図である。図5において、ばね上加速度変化情報201、誤差変化情報202及びフラグ変化情報203の対応関係が例示されている。
【0041】
ばね上加速度変化情報201は、ばね上加速度の実測値(実測ばね上加速度)及び推定値(推定ばね上加速度)の時系列変化を例示している。誤差変化情報202は、ばね上加速度の実測値と推定値との誤差(推定値-実測値)の時系列変化を例示している。Th1は、正側の閾値を示し、Th2は、負側の閾値を示している。フラグ変化情報203は、異常の有無を示すフラグの値(真偽値)の時系列変化を例示している。ここでは、正常時にはフラグの値が「0」となり、異常発生時にはフラグの値が「1」となる場合が例示されている。ばね上加速度変化情報201、誤差変化情報202及びフラグ変化情報203の時間軸(横軸)は一致しているものとする。
【0042】
図5において、時間経過に伴いばね上加速度の実測値と推定値とが徐々に乖離していき、時刻t1において誤差が閾値Th1に達した場合が例示されている。このような場合、時刻t1においてフラグの値が1となり、異常対処処理が実行される。これにより、図5に示されるように、時刻t1以降においてばね上加速度の実測値と推定値との乖離(誤差)が略なくなり、フラグの値が0となる。
【0043】
図6は、第1実施形態のECU13による処理の一例を示すフローチャートである。推定部101は、学習済みモデルに入力情報を入力し、推定ストローク変位量及び推定ストローク速度を取得する(S101)。演算部103は、推定ストローク変位量から推定ばね力を算出し(S102)、推定ストローク速度から推定減衰力を算出し(S103)、推定ばね力及び推定減衰力から推定ばね上加速度を算出する(S104)。
【0044】
異常判定部104は、実測ばね上加速度と推定ばね上加速度との誤差を算出し(S105)、当該誤差が閾値以上であるか否かを判定する(S106)。誤差が閾値以上でない場合(S106:No)、ステップS101以降の処理が再度実行され、誤差が閾値以上である場合(S106:Yes)、異常判定部104は、学習済みモデルのパラメータのリセット等の異常対処理を実行する(S107)。
【0045】
以上のように、本実施形態によれば、ばね上加速度の実測値を含む入力情報から学習済みモデルにより推定されたストローク変位量及びストローク速度に基づいてばね上加速度の推定値が算出され、ばね上加速度の実測値と推定値との誤差に基づいて異常が判定される。これにより、学習済みモデルを利用した制御を行うサスペンションシステムSにおける異常を高精度に検知でき、当該システムの信頼性を向上させることができる。
【0046】
以下に、他の実施形態について説明するが、第1実施形態と同一又は同様の作用効果を奏する箇所についてはその説明を適宜省略する。
【0047】
(第2実施形態)
第1実施形態の学習済みモデルは、入力情報の入力に対して推定ストローク変位量及び推定ストローク速度を出力するものであったが、第2実施形態の学習済みモデルは、入力情報の入力に対して推定ストローク変位量を出力し、推定ストローク速度を出力しないものである。
【0048】
図7は、第2実施形態のECU13の機能構成の一例を示す図である。本実施形態の推定部101は、上記のような学習済みモデルを利用して、実測ばね上加速度を含む入力情報からストローク変位量の推定値(推定ストローク変位量)を推定する。本実施形態の演算部103は、推定部101により推定された推定ストローク変位量に基づいて、ばね上加速度の推定値(推定ばね上加速度)を算出する。
【0049】
図8は、第2実施形態における推定ばね上加速度の算出方法の一例を説明するための図である。図8に示されるように、本実施形態の学習済みモデルは、加速度センサ12から取得された実測ばね上加速度を含む入力情報が入力されると、推定ストローク変位量を出力する。そして、本実施形態においては、学習済みモデルから出力された推定ストローク変位量を微分することにより、推定ストローク速度が算出される。
【0050】
その後の処理、すなわち推定ばね力、推定減衰力及び推定ばね上加速の算出は、第1実施形態と同様に行われる。すなわち、学習済みモデルから出力された推定ストローク変位量にスプリング21のばね定数を乗算することにより推定ばね力が算出され、所定のFV関係式を用いて推定ストローク速度に対応する推定減衰力が算出される。そして、推定ばね力と推定減衰力とに基づいて推定ばね上加速度が算出される。
【0051】
なお、上記算出方法は例示であり、本実施形態における推定ばね上加速度の算出方法はこれに限定されるものではない。
【0052】
図9は、第2実施形態のECU13による処理の一例を示すフローチャートである。推定部101は、学習済みモデルに入力情報を入力し、推定ストローク変位量を取得する(S201)。演算部103は、推定ストローク変位量から推定ばね力及び推定ストローク速度を算出し(S202)、推定ストローク速度から推定減衰力を算出し(S203)、推定ばね力及び推定減衰力から推定ばね上加速度を算出する(S204)。
【0053】
異常判定部104は、実測ばね上加速度と推定ばね上加速度との誤差を算出し(S205)、当該誤差が閾値以上であるか否かを判定する(S206)。誤差が閾値以上でない場合(S206:No)、ステップS201以降の処理が再度実行され、誤差が閾値以上である場合(S206:Yes)、異常判定部104は、学習済みモデルのパラメータのリセット等の異常対処理を実行する(S207)。
【0054】
以上のように、本実施形態によれば、ばね上加速度の実測値を含む入力情報に対して推定ストローク変位量を出力する(推定ストローク速度を出力しない)学習済みモデルを利用する場合であっても、第1実施形態と同様に、システムにおける異常を検知でき、システムの信頼性を向上させることができる。
【0055】
(第3実施形態)
第1実施形態の学習済みモデルは、入力情報の入力に対して推定ストローク変位量及び推定ストローク速度を出力するものであったが、第3実施形態の学習済みモデルは、入力情報の入力に対して推定ストローク速度を出力し、推定ストローク変位量を出力しないものである。
【0056】
図10は、第3実施形態のECU13の機能構成の一例を示す図である。本実施形態の推定部101は、上記のような学習済みモデルを利用して、実測ばね上加速度を含む入力情報からストローク速度の推定値(推定ストローク速度)を推定する。本実施形態の演算部103は、推定部101により推定された推定ストローク速度に基づいて、ばね上加速度の推定値(推定ばね上加速度)を算出する。
【0057】
図11は、第3実施形態における推定ばね上加速度の算出方法の一例を説明するための図である。図11に示されるように、本実施形態の学習済みモデルは、加速度センサ12から取得された実測ばね上加速度を含む入力情報が入力されると、推定ストローク速度を出力する。そして、本実施形態においては、学習済みモデルから出力された推定ストローク速度を積分することにより、推定ストローク変位量が算出される。
【0058】
その後の処理、すなわち推定ばね力、推定減衰力及び推定ばね上加速の算出は、第1実施形態と同様に行われる。すなわち、上記のように算出された推定ストローク変位量にスプリング21のばね定数を乗算することにより推定ばね力が算出され、所定のFV関係式を用いて推定ストローク速度に対応する推定減衰力が算出される。そして、推定ばね力と推定減衰力とに基づいて推定ばね上加速度が算出される。
【0059】
なお、上記算出方法は例示であり、本実施形態における推定ばね上加速度の算出方法はこれに限定されるものではない。
【0060】
図12は、第3実施形態のECU13による処理の一例を示すフローチャートである。推定部101は、学習済みモデルに入力情報を入力し、推定ストローク速度を取得する(S301)。演算部103は、推定ストローク速度から推定ストローク変位量及び推定減衰力を算出し(S302)、推定ストローク変位量から推定ばね力を算出し(S303)、推定ばね力及び推定減衰力から推定ばね上加速度を算出する(S304)。
【0061】
異常判定部104は、実測ばね上加速度と推定ばね上加速度との誤差を算出し(S305)、当該誤差が閾値以上であるか否かを判定する(S306)。誤差が閾値以上でない場合(S306:No)、ステップS301以降の処理が再度実行され、誤差が閾値以上である場合(S306:Yes)、異常判定部104は、学習済みモデルのパラメータのリセット等の異常対処理を実行する(S307)。
【0062】
以上のように、本実施形態によれば、ばね上加速度の実測値を含む入力情報に対して推定ストローク速度を出力する(推定ストローク変位量を出力しない)学習済みモデルを利用する場合であっても、第1実施形態と同様に、システムにおける異常を検知でき、システムの信頼性を向上させることができる。
【0063】
上記実施形態のサスペンションシステムSの機能をコンピュータ(例えばECU14等)に実現させるためのプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供するように構成してもよい。
【0064】
また、当該プログラムをインターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また、当該プログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供又は配布するように構成してもよい。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1…車両、2…車体、3…車輪、11…懸架装置、12…加速度センサ、13…ECU、21…スプリング、22…ショックアブソーバ、101…推定部、102…駆動制御部、103…演算部、104…異常判定部、201…ばね上加速度変化情報、202…誤差変化情報、203…フラグ変化情報、R…路面、S…サスペンションシステム
図1
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図12