(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136425
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/64 20060101AFI20240927BHJP
B24B 19/06 20060101ALI20240927BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20240927BHJP
B60B 35/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
F16C33/64
B24B19/06
F16C19/18
B60B35/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047539
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】猪八重 順也
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3C049
3J701
【Fターム(参考)】
3C049AA03
3C049CA01
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA53
3J701BA56
3J701DA11
3J701FA44
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】ハブの表面の仕上加工によって対数螺旋状の研削筋目が形成される部分である平面部および曲面部のうち、少なくとも該研削筋目が顕著に形成されやすい平面部の研削筋目を有効に除去することが容易なハブユニット軸受の製造方法を提供する。
【解決手段】ハブ3の平面部11、曲面部13、および円筒面部12の全体に、総型の砥石を用いて研削による仕上加工を施す工程と、該仕上加工を施した後、平面部11、曲面部13、および円筒面部12の全体のうち、平面部11を含む一部の範囲にのみ、弾性砥石30を用いて再加工を施す工程とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に複列の内輪軌道、および、前記外輪よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジを有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体と、
前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐ外側シールリングと、
を備え、
前記ハブは、前記回転フランジの径方向内側の端部の軸方向内側面に備えられた平面部と、前記複列の内輪軌道のうちの軸方向外側の内輪軌道の軸方向外側に隣接する部分の外周面に備えられた円筒面部と、前記平面部の径方向内側の端部と前記円筒面部の軸方向外側の端部とを接続する円弧形の断面形状を有する曲面部とを有し、
前記外側シールリングは、前記平面部に先端部を摺接させる外側リップと、前記円筒面部に先端部を摺接させる内側リップと、前記曲面部に先端部を摺接させる中間リップとを有する、
ハブユニット軸受の製造方法であって、
前記平面部、前記曲面部、および前記円筒面部の全体に、総型の砥石を用いて研削による仕上加工を施す工程と、
前記仕上加工を施した後、前記平面部、前記曲面部、および前記円筒面部の全体のうち、前記平面部を含む一部の範囲にのみ、弾性砥石を用いて再加工を施す工程と、
を備える、
ハブユニット軸受の製造方法。
【請求項2】
前記再加工を施す工程において、前記弾性砥石として、自身の中心軸を中心として回転する弾性砥石を用いる、請求項1に記載のハブユニット軸受の製造方法。
【請求項3】
前記中間リップの先端部は、前記曲面部のうち、前記ハブの中心軸を含む仮想平面における接線の傾斜角度が該中心軸に対して45゜よりも大きい部分にのみ摺接し、
前記一部の範囲が、前記曲面部のうち前記中間リップの先端部が摺接する部分を含む、
請求項1または2に記載のハブユニット軸受の製造方法。
【請求項4】
前記一部の範囲が、前記円筒面部を含む、請求項1または2に記載のハブユニット軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するためのハブユニット軸受の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、従来構造の1例のハブユニット軸受100を示している。なお、ハブユニット軸受100に関して、軸方向外側は、車両への組付け状態で車両の幅方向外側となる
図7の左側であり、軸方向内側は、車両への組付け状態で車両の幅方向中央側となる
図7の右側である。
【0003】
ハブユニット軸受100は、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するために用いられ、外輪101と、ハブ102と、複数個の転動体103a、103bと、外側シールリング104とを備える。
【0004】
外輪101は、内周面に複列の外輪軌道105a、105bを有する。外輪101は、使用状態で、懸架装置に結合固定され、回転しない。
【0005】
ハブ102は、外周面に複列の内輪軌道106a、106b、および、外輪101よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に向けて突出した回転フランジ107を有する。ハブ102は、使用状態で、回転フランジ107に結合固定された車輪および制動用回転部材と一体となって回転する。
【0006】
ハブ102は、回転フランジ107の径方向内側の端部の軸方向内側面に備えられた平面部108と、軸方向外側の内輪軌道106aの軸方向外側に隣接する部分の外周面に備えられた円筒面部109と、平面部108の径方向内側の端部と円筒面部109の軸方向外側の端部とを接続する円弧形の断面形状を有する曲面部110とを有する。平面部108、円筒面部109、および曲面部110は、それぞれがシール摺接面として用いられる。
【0007】
図示のハブユニット軸受100は駆動輪用であるため、ハブ102は、径方向中央部に、駆動軸をスプライン係合させるためのスプライン孔111を有する。
【0008】
ハブ102は、ハブ輪112と内輪113とを組み合わせてなる。ハブ輪112は、軸方向外側部に回転フランジ107、外周面の軸方向中間部に軸方向外側の内輪軌道106a、径方向中央部にスプライン孔111を有する。平面部108、円筒面部109、および曲面部110は、ハブ輪112に備えられている。内輪113は、外周面に軸方向内側の内輪軌道106bを有し、ハブ輪112の軸方向内側部に外嵌固定されている。
【0009】
転動体103a、103bは、複列の外輪軌道105a、105bと複列の内輪軌道106a、106bとの間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ配置されている。
【0010】
外側シールリング104は、外輪101の内周面とハブ102の外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞いでいる。これにより、該開口を通じて、外部から転動体設置空間に泥水などの異物が侵入すること、および、転動体設置空間から外部に潤滑用のグリースが漏洩することを防止している。
【0011】
外側シールリング104は、外輪101の軸方向外側の端部に支持固定されており、平面部108に先端部を摺接させる外側リップ114と、円筒面部109に先端部を摺接させる内側リップ115と、曲面部110に先端部を摺接させる中間リップ116とを有する。
【0012】
ハブユニット軸受100において、ハブ輪112の表面のうち、平面部108、円筒面部109、および曲面部110を含む所定の範囲、具体的には内輪113を外嵌する軸方向内側部の外周面から平面部108までの連続した範囲には、特開2017-180599号公報などに記載されて従来から知られている仕上加工が施される。
【0013】
すなわち、
図8および
図9に示すように、ハブ輪112の軸方向中間部外周面のうち、ハブ輪112の中心軸O
Hよりも下側に位置する周方向2箇所(図示の例では、時計盤における、概ね5時の箇所と概ね9時の箇所)を、シュー117の先端部により回転自在に支持することにより、ハブ輪112の径方向の位置決めを図る。
【0014】
そして、回転フランジ107の軸方向外側面に磁気結合したマグネットチャック118を回転させることで、ハブ輪112を回転させる。この際に、マグネットチャック118の中心軸OMをハブ輪112の中心軸OHに対して、2つのシュー117の先端部を結ぶ方向に0.1~0.2mm程度偏心させて、マグネットチャック118からハブ輪112に対し、2つのシュー117の間に向かう方向の押圧力、すなわち2つのシュー117に対する押し付け力Fを付与する。
【0015】
この状態で、ハブ輪112と同じ芯高となるように配置された総型の研削砥石(回転砥石)119を自身の中心軸O
Tを中心としてハブ輪112と逆方向に回転させながら、研削砥石119の外周面を、被加工面であるハブ輪112の表面の前記所定の範囲に押し付け、該被加工面に研削による仕上加工を施す。なお、ハブ輪112および研削砥石119について、芯高とは、
図9において、それぞれの回転中心軸O
H、O
Tの上下方向位置である。なお、研削砥石119の外周面の母線形状は、ダイヤモンドホイール120により、完成後の前記被加工面の母線形状に合致する形状に適宜整えられる。
【0016】
上述のような仕上加工を施す場合、シュー117を超硬合金製として摩耗しにくくしているものの、ハブ輪112の量産時においてはシュー117の摩耗は不可避であるため、ハブ輪112の芯高と研削砥石119の芯高とが不一致になりやすい。このため、回転フランジ107の軸方向内側面に対する研削砥石119の研削面の位置が、ハブ輪112の径方向に関して変化して、それぞれがハブ輪112の中心軸に対して交角を持った箇所である平面部108および曲面部110に、対数螺旋状の研削筋目が形成される可能性がある。なお、対数螺旋状の研削筋目は、ハブ輪112の中心軸に対する交角が曲面部110に比べて大きい平面部108で、曲面部110よりも顕著に形成されやすくなる。
【0017】
平面部108および曲面部110に対数螺旋状の研削筋目が形成されると、外側リップ114および中間リップ116のそれぞれの先端部が、研削筋目を構成する凹部の内側に深く入り込み、ハブ輪112が回転した際に、径方向に往復移動させられて振動し、シール鳴きと呼ばれる異音を発生させる可能性がある。
【0018】
これに対し、国際公開2020/158161号には、上述のような仕上加工を施した後、やはりダイヤモンドホイールで外周面を整えられた弾性砥石(回転砥石)を用いて、平面部108および曲面部110に再加工を施し、研削筋目を除去する技術が記載されている。
【0019】
弾性砥石は、多孔質にした樹脂系の結合材で砥粒を弾性的に支持した砥石であるため、被研削面を、筋目がなく、粗さの頂部が滑らかな面、すなわち鏡面に近い面に仕上げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2017-180599号公報
【特許文献2】国際公開2020/158161号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
図9に示した仕上加工を施す際には、仕上加工後の被加工面の真円度不良(ビビリを含む)を防止するために、ハブ輪の形状や重量、被加工面に対する研削抵抗(加工抵抗)などに応じて、ハブ輪112に対する2つシュー117の周方向位置、およびハブ輪112に対するマグネットチャック118の偏心量を、適宜調整する必要がある。
【0022】
したがって、
図9に示した仕上加工を施した後、同一の研削盤において、研削砥石119だけを弾性砥石に交換して被加工面に再加工を施しても、研削砥石119と弾性砥石とでは加工抵抗が異なるため、ハブ輪112に対する2つシュー117の周方向位置、およびハブ輪112に対するマグネットチャック118の偏心量を再調整する必要が生じるし、2つシュー117の摩耗も徐々に進行するため、仕上加工時と再加工時とで、ハブ輪112と砥石の芯高の差を一致させることは困難である。
【0023】
仕上加工時と再加工時とで、ハブ輪112と砥石の芯高の差が異なると、仕上加工を施した後のハブ輪112の被加工面の母線形状と、総型の弾性砥石の外周面の母線形状とに差が生じるため、再加工時に総型の弾性砥石を用いて、対数螺旋状の研削筋目を除去することが困難になる可能性がある。
【0024】
本開示は、ハブの表面の仕上加工によって対数螺旋状の研削筋目が形成される部分である平面部および曲面部のうち、少なくとも該研削筋目が顕著に形成されやすい平面部の研削筋目を有効に除去することが容易なハブユニット軸受の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本開示の一態様のハブユニット軸受の製造方法において、製造対象となるハブユニット軸受は、外輪と、ハブと、複数個の転動体と、外側シールリングとを備える。
【0026】
前記外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有する。
【0027】
前記ハブは、外周面に複列の内輪軌道、および、前記外輪よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジを有する。
【0028】
前記複数個の転動体は、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置されている。
【0029】
前記外側シールリングは、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐ。
【0030】
前記ハブは、前記回転フランジの径方向内側の端部の軸方向内側面に備えられた平面部と、前記複列の内輪軌道のうちの軸方向外側の内輪軌道の軸方向外側に隣接する部分の外周面に備えられた円筒面部と、前記平面部の径方向内側の端部と前記円筒面部の軸方向外側の端部とを接続する円弧形の断面形状を有する曲面部とを有する。
【0031】
前記外側シールリングは、前記平面部に先端部を摺接させる外側リップと、前記円筒面部に先端部を摺接させる内側リップと、前記曲面部に先端部を摺接させる中間リップとを有する。
【0032】
本開示の一態様のハブユニット軸受の製造方法は、前記平面部、前記曲面部、および前記円筒面部の全体に、総型の砥石を用いて研削による仕上加工を施す工程と、前記仕上加工を施した後、前記平面部、前記曲面部、および前記円筒面部の全体のうち、前記平面部を含む一部の範囲にのみ、弾性砥石を用いて再加工を施す工程とを備える。
【0033】
本開示の一態様のハブユニット軸受の製造方法では、前記再加工を施す工程において、前記弾性砥石として、自身の中心軸を中心として回転する弾性砥石を用いる。
【0034】
本開示の一態様のハブユニット軸受の製造方法では、前記中間リップの先端部は、前記曲面部のうち、前記ハブの中心軸を含む仮想平面における接線の傾斜角度が該中心軸に対して45゜よりも大きい部分にのみ摺接し、前記一部の範囲が、前記曲面部のうち前記中間リップの先端部が摺接する部分を含む。この場合には、たとえば、前記一部の範囲が、前記曲面部のうち、前記ハブの中心軸を含む仮想平面における接線の傾斜角度が該中心軸に対して45゜以上の部分を含むようにすることができる。
【0035】
本開示の一態様のハブユニット軸受の製造方法では、前記一部の範囲が、前記円筒面部を含む。
【0036】
本開示のハブユニット軸受は、上述したそれぞれの態様を、矛盾を生じない範囲で、適宜組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0037】
本開示の一態様のハブユニット軸受の製造方法によれば、ハブの表面の仕上加工によって対数螺旋状の研削筋目が形成される部分である平面部および曲面部のうち、少なくとも該研削筋目が顕著に形成されやすい平面部の研削筋目を有効に除去することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】
図1は、本開示の実施の形態の第1例のハブユニット軸受の製造方法により製造されるハブユニット軸受の断面図である。
【
図3】
図3は、第1例において、
図1のA部で仕上加工後の再加工を行っている様子を示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の実施の形態の第2例についての
図3に相当する図である。
【
図5】
図5は、本開示の実施の形態の第3例についての
図3に相当する図である。
【
図6】
図6は、本開示の実施の形態の第4例についての
図3に相当する図である。
【
図7】
図7は、ハブユニット軸受の従来構造の1例を示す断面図である。
【
図8】
図8は、
図7のハブユニット軸受のハブに仕上加工を施している様子を示す断面図である。
【
図9】
図9は、
図8の仕上加工を施している様子をハブの軸方向内側から見た模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
[第1例]
本開示の実施の形態の第1例のハブユニット軸受の製造方法について、
図1~
図3を用いて説明する。
【0040】
図1は、本例の製造対象となるハブユニット軸受1を示しており、
図2は、
図1のA部拡大図を示している。
【0041】
本例の製造対象となるハブユニット軸受1は、外輪2と、ハブ3と、複数個の転動体4a、4bと、外側シールリング5とを備える。
【0042】
なお、ハブユニット軸受1に関する以下の説明中、軸方向外側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側となる
図1の左側であり、軸方向内側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側となる
図1の右側である。
【0043】
外輪2は、中炭素鋼などの硬質金属製で、内周面に、複列の外輪軌道6a、6bを有する。
【0044】
外輪2は、軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ7を有する。静止フランジ7は、外輪2を懸架装置のナックルに結合固定するために用いられる部分である。外輪2は、使用状態で、懸架装置のナックルに結合固定され、回転しない。
【0045】
ハブ3は、中炭素鋼、軸受鋼などの硬質金属製で、外周面に複列の内輪軌道8a、8b、および、外輪2よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジ9を有し、外輪2の径方向内側に、該外輪2と同軸に配置されている。回転フランジ9は、ハブ3に車輪および制動用回転部材を結合固定するために用いられる部分である。
【0046】
ハブ3は、軸方向外側の端部に、円筒状のパイロット部10を有する。パイロット部10は、回転フランジ9に結合固定される車輪および制動用回転部材を外嵌する部分である。ハブ3は、使用状態で、回転フランジ9に結合固定された車輪および制動用回転部材と一体となって回転する。
【0047】
ハブ3は、それぞれがシール摺接面として用いられる、平面部11と円筒面部12と曲面部13とを有する。
【0048】
平面部11は、回転フランジ9の径方向内側の端部の軸方向内側面に備えられており、ハブ3の軸方向に対して直交する円輪状の平面により構成されている。
【0049】
円筒面部12は、ハブ3において、軸方向外側の内輪軌道8aの軸方向外側に隣接する部分の外周面に備えられており、軸方向に関して外径が変化しない円筒面により構成されている。
【0050】
曲面部13は、ハブ3において、平面部11の径方向内側の端部と円筒面部12の軸方向外側の端部とを接続する円弧形の断面形状を有する曲面により構成されている。すなわち、曲面部13は、軸方向外側に向かうにしたがって径方向外側に向かう方向に曲線的に傾斜している。
【0051】
本例では、ハブ3は、ハブ輪14と内輪15とを組み合わせてなる。ただし、本開示の製造方法を実施する場合、製造対象となるハブユニット軸受を構成するハブは、本例と異なる部品の組み合わせで構成されていてもよい。
【0052】
ハブ輪14は、ハブ3を構成する、軸方向外側の内輪軌道8a、回転フランジ9、パイロット部10、平面部11、円筒面部12、および曲面部13を備える。
【0053】
ハブ輪14は、軸方向外側の内輪軌道8aよりも軸方向内側に位置する部分に、軸方向外側に隣接する部分よりも外径が小さく、内輪15が外嵌される小径段部16を有する。さらに、ハブ輪14は、小径段部16の軸方向外側の端部に、軸方向内側を向いた段差面17を有し、かつ、小径段部16の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がったかしめ部18を有する。
【0054】
内輪15は、外周面に、ハブ3を構成する、軸方向内側の内輪軌道8bを有する。
【0055】
本例では、ハブ3は、軸方向内側部分に内輪15を外嵌することにより構成されている。より具体的には、本例では、ハブ3は、ハブ輪14の小径段部16に内輪15を外嵌し、かつ、ハブ輪14の段差面17とかしめ部18との間で内輪15を軸方向両側から挟持することにより、ハブ輪14と内輪15とを結合固定することで構成されている。なお、かしめ部18は、内輪15を小径段部16に外嵌した後、ハブ輪14の軸方向内側の端部に備えられた円筒部を径方向外側に向けて塑性変形させることにより形成される。
【0056】
なお、代替的に、ハブ輪のうちで内輪の軸方向内側の端部から突出した軸方向内側の端部にナットを螺合することで、ハブ輪と内輪とを結合することもできる。
【0057】
なお、本例のハブユニット軸受1は、従動輪用のハブユニット軸受であるため、ハブ3は、中実に構成されている。
【0058】
ただし、本開示のハブユニット軸受の製造方法は、駆動輪用のハブユニット軸受に適用することもできる。この場合、ハブは、中心部に、軸方向に貫通するスプライン孔を有する。スプライン孔には、エンジンや電動モータを駆動源として回転駆動される駆動軸の先端部が、スプライン係合される。自動車の走行時には、駆動軸によりハブを回転駆動することで、ハブの回転フランジに結合固定された車輪および制動用回転部材を回転駆動する。
【0059】
転動体4a、4bは、軸受鋼などの鉄合金製あるいはセラミックス製で、複列の外輪軌道6a、6bと複列の内輪軌道8a、8bとの間に、それぞれ複数個ずつ、保持器19a、19bにより保持された状態で転動自在に配置されている。これにより、ハブ3は、外輪2の径方向内側に回転自在に支持される。
【0060】
本例のハブユニット軸受1は、軸方向外側列の転動体4aのピッチ円直径と軸方向内側列の転動体4bのピッチ円直径とが等しい、等径PCD型の構造を備える。ただし、本開示のハブユニット軸受の製造方法は、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径と軸方向内側列の転動体4bのピッチ円直径とが異なる、異径PCD型のハブユニット軸受に適用することもできる。また、本例のハブユニット軸受1では、転動体4a、4bとして玉を使用しているが、玉に代えて円すいころを使用することもできる。
【0061】
外側シールリング5は、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在する転動体設置空間20の軸方向外側の開口を塞ぐ。これにより、該開口を通じて、外部空間の異物が転動体設置空間20に侵入したり、転動体設置空間20に封入されたグリースが外部空間に漏洩したりすることを防止している。
【0062】
外側シールリング5は、外輪2の軸方向外側の端部に固定され、平面部11に先端部を摺接させる外側リップ21と、円筒面部12に先端部を摺接させる内側リップ22と、曲面部13に先端部を摺接させる中間リップ23とを有する。
【0063】
本例では、外側シールリング5は、芯金24と、シール材25とを備える。
【0064】
芯金24は、軟鋼板などの金属板を曲げ成形することにより、全体を円環状に構成されている。芯金24は、外輪2の軸方向外側の端部に締り嵌めで内嵌されたシール嵌合筒部26と、シール嵌合筒部26の軸方向外側の端部から径方向内側に折れ曲がって径方向内側に向けて伸長した支持板部27とを備える。
【0065】
シール材25は、ゴムなどのエラストマーを含む弾性材により構成され、芯金24の表面に加硫接着により結合固定されている。外側リップ21、内側リップ22、および中間リップ23は、シール材25に備えられている。シール材25は、外側リップ21、内側リップ22、および中間リップ23に加え、基部28を備える。なお、
図2では、外側リップ21、内側リップ22、および中間リップ23を、自由状態で示している。
【0066】
基部28は、芯金24の表面のうち、支持板部27の軸方向外側面、内周面、および軸方向内側面の径方向内側部を覆っている。
【0067】
外側リップ21は、基部28のうちで支持板部27の軸方向外側面の径方向中間部を覆う部分から軸方向外側かつ径方向外側に向かう方向に伸長し、かつ、先端部を、平面部11に摺接させている。
【0068】
内側リップ22は、基部28のうちで支持板部27の径方向内側の端部を覆う部分から軸方向内側かつ径方向内側に向かう方向に伸長し、かつ、先端部を、円筒面部12に摺接させている。
【0069】
中間リップ23は、基部28のうちで支持板部27の径方向内側の端部を覆う部分から軸方向外側かつ径方向外側に向かう方向に伸長し、かつ、先端部を、曲面部13に摺接させている。
【0070】
より具体的には、本例では、中間リップ23の先端部は、曲面部13のうち、ハブ3の中心軸を含む仮想平面(
図2の紙面)における接線の傾斜角度が該中心軸に対して45゜よりも大きい部分にのみ摺接している。すなわち、
図2において、曲面部13のうち、ハブ3の中心軸に対する傾斜角度θが45゜となる接線Lが接する点をPとしたときに、中間リップ23の先端部は、曲面部13のうち、点Pよりも径方向外側に位置する部分にのみ摺接している。
【0071】
本例のハブユニット軸受1は、外輪2の軸方向内側の開口を塞ぐ有底円筒状の軸受キャップ29(
図1参照)をさらに備える。これにより、該開口を通じて、外部空間の異物が転動体設置空間20に侵入したり、転動体設置空間20に封入されたグリースが外部空間に漏洩したりすることを防止している。なお、軸受キャップ29に代えて、組み合わせシールリングにより、転動体設置空間20の軸方向内側の開口を塞ぐこともできる。
【0072】
本開示のハブユニット軸受の製造方法は、ハブ3の平面部11、曲面部13、および円筒面部12の仕上加工、および該仕上加工後の再加工に特徴があり、本例では、これらの仕上加工および再加工は、ハブ3のうちの内輪15を組み付ける前のハブ輪14に対して行われる。このため、以下では、これらの仕上加工および再加工について、ハブ輪14に対して適用することを前提に説明する。
【0073】
本例のハブユニット軸受1の製造方法において、ハブ輪14を造る際には、まず、金属製の素材に、鍛造加工や切削加工などを施して、かしめ部18を形成する前のハブ輪14の外形を成形する。
【0074】
その後、該ハブ輪14の表面のうち、内輪15を外嵌する部分から平面部11までの連続した範囲に熱処理を施してから、該ハブ輪14の表面のうち、平面部11、曲面部13、および円筒面部12の全体を含む所定の範囲、具体的には内輪15を外嵌する小径段部16から平面部11までの連続した範囲に、
図8および
図9に示した従来方法と同様の方法で、総型の研削砥石(回転砥石)を用いて、研削による仕上加工を施す。これにより、前記所定の範囲の表面粗さを向上させる。
【0075】
本例の製造方法を実施する場合には、仕上加工を施すための総型の研削砥石として、たとえば、A砥粒と呼ばれるアルミナ(Al2O3)系の砥粒をガラス系の結合材で結合し、かつ、砥粒の粒度を#100~#150、結合度をK~N、集中度を7~9、気孔の体積比率を20%~40%としたものを使用することができる。
【0076】
本例においても、従来方法と同様、仕上加工によって、ハブ輪14の表面のうち、それぞれがハブ輪14の中心軸に対して交角を持った箇所である、平面部11および曲面部13に、対数螺旋状の研削筋目が形成される可能性がある。また、このような対数螺旋状の研削筋目は、ハブ輪14の中心軸に対する交角が曲面部13に比べて大きい平面部11で、曲面部13よりも顕著に形成されやすい。
【0077】
そこで、本開示の製造方法では、仕上加工を施した後、平面部11、曲面部13、および円筒面部12の全体のうち、平面部11を含む一部の範囲にのみ、自身の中心軸O30を中心として回転する弾性砥石30を用いて再加工を施す。なお、平面部11、曲面部13、および円筒面部12の全体のうち、平面部11を含む一部の範囲とは、平面部11、曲面部13、および円筒面部12の全範囲から選択される一部の範囲であって、少なくとも平面部11を含む範囲を意味する。
【0078】
特に、本例では、平面部11にのみ弾性砥石30を用いた再加工を施し、曲面部13および円筒面部12には該再加工を施さない。
【0079】
本例では、弾性砥石30は、外周面に、平面部11の母線形状に沿った母線形状、すなわち直線状の母線形状を有する、円すい面状の平面研削部31を備える。弾性砥石30としては、たとえば、アルミナ系砥粒をPVA(ポリビニルアルコール)などの軟質樹脂からなる結合材で結合し、かつ、砥粒の粒度を#220~#320、気孔の体積比率を40%~60%とした、軟らかめの硬度を持つものを使用することができる。
【0080】
本例の製造方法において、弾性砥石30を用いて平面部11に再加工を施す際には、仕上加工を施す場合と同様の方法でハブ輪14を自身の中心軸を中心に回転させ、かつ、弾性砥石30を自身の中心軸O30を中心としてハブ輪14と逆方向に回転させながら、ハブ輪14の平面部11に弾性砥石30の平面研削部31を押し付けることで、平面部11に研削による再加工を施す。なお、弾性砥石30の平面研削部31の母線形状は、単石ドレッサーまたはダイヤモンドホイールにより、完成後の平面部11の母線形状に合致する形状に適宜整えられる。
【0081】
本例では、ハブ輪14の製造工程内での再加工前の製品である半製品の在庫を削減し、工程スキップを防止するために、再加工を、仕上加工とは別の研削盤を用いて行う。ただし、本開示の製造方法を実施する場合には、再加工を、仕上加工と同じ研削盤を用いて行うこと、すなわち、仕上加工を行った後、同じ研削盤の砥石だけを総型の研削砥石から弾性砥石30に交換して、再加工を行うこともできる。
【0082】
本例の製造方法では、平面部11、曲面部13、および円筒面部12の全体のうち、平面部11を含む一部の範囲にのみ、具体的には平面部11にのみ、弾性砥石30を用いて再加工を施す。このため、仕上加工時と再加工時とで、ハブ輪14と砥石の芯高の差が異なり、仕上加工を施した後の平面部11の母線形状と、弾性砥石30の平面研削部31の母線形状とに差が生じた場合、具体的には、仕上加工を施した後の平面部11の母線に対して、弾性砥石30の平面研削部31の母線が少し傾いて配置された場合でも、弾性砥石30の平面研削部31の母線形状を平面部11の母線形状に沿って弾性変形させやすい。このため、平面部11の全体に再加工を施すことができる。
【0083】
これにより、平面部11の研削筋目を除去することで、平面部11を、対数螺旋状の研削筋目がなく、粗さの頂部が滑らかな面、すなわち鏡面に近い面に仕上げることができる。このため、平面部11に対する外側リップ21の先端部の貼り付きによる摩擦抵抗の増大や異音の発生を防止することができる。なお、本例の製造方法を実施する場合に、弾性砥石30の弾性変形だけで平面部11の全体に再加工を施すことが難しい場合には、補助的に、弾性砥石30の中心軸O30の傾きを調整することもできる。このような場合でも、平面研削部31を弾性変形させることができる分、弾性砥石30の中心軸O30の傾き調整に要求される精度を緩和することができる。
【0084】
[第2例]
本開示の実施の形態の第2例のハブユニット軸受の製造方法について、
図4を用いて説明する。
【0085】
本例のハブユニット軸受の製造方法では、ハブ輪14に対して第1例と同様の仕上加工を施した後に行う、弾性砥石30aを用いた再加工の範囲が、第1例よりも広い。
【0086】
本例の製造方法では、ハブ輪14の平面部11、曲面部13、および円筒面部12の全体のうち、平面部11、および曲面部13の径方向外半部にのみ、弾性砥石30aを用いた再加工を施し、曲面部13の径方向内半部および円筒面部12には該再加工を施さない。
【0087】
ここで、曲面部13の径方向外半部とは、曲面部13のうち、ハブ輪14の中心軸を含む仮想平面(
図4の紙面)における接線Lの傾斜角度θが該中心軸に対して45゜以上の部分、すなわち
図4において、曲面部13のうち、傾斜角度θが45゜である接線Lが接する点P、および点Pよりも径方向外側の部分である。
【0088】
本例では、弾性砥石30aは、外周面に、平面研削部31に加えて、平面研削部31に対して軸方向に隣接する部分に、曲面部13の径方向外半部の母線形状に沿った母線形状を有する曲面研削部32を備える。
【0089】
本例では、再加工を施す範囲が第1例よりも広いことに伴い、再加工時に弾性砥石30aを第1例よりも大きく弾性変形させられるようにするために、弾性砥石30aの気孔の体積比率を第1例よりも高くしている。なお、該気孔の体積比率は、たとえば、50%~60%の範囲から選択することができる。
【0090】
本例の製造方法において、弾性砥石30aを用いて平面部11および曲面部13の径方向外半部に再加工を施す際には、仕上加工を施す場合と同様の方法でハブ輪14を自身の中心軸を中心に回転させ、かつ、弾性砥石30aを自身の中心軸O30を中心としてハブ輪14と逆方向に回転させながら、ハブ輪14の平面部11に弾性砥石30aの平面研削部31を押し付け、かつ、ハブ輪14の曲面部13の径方向外半部に弾性砥石30aの曲面研削部32を押し付ける。これにより、平面部11および曲面部13の径方向外半部に再加工を施す。
【0091】
本例の製造方法の場合も、平面部11、曲面部13、および円筒面部12の全体のうち、平面部11を含む一部の範囲にのみ、具体的には平面部11および曲面部13の径方向外半部にのみ、弾性砥石30aを用いて再加工を施す。このため、仕上加工時と再加工時とで、ハブ輪14と砥石の芯高の差が異なり、仕上加工を施した後の平面部11および曲面部13の径方向外半部の母線形状と、弾性砥石30aの平面研削部31および曲面研削部32の母線形状とに差が生じた場合でも、弾性砥石30aの平面研削部31および曲面研削部32の母線形状を平面部11および曲面部13の径方向外半部の母線形状に沿って弾性変形させやすい。このため、平面部11および曲面部13の径方向外半部の全体に再加工を施すことができる。
【0092】
これにより、平面部11および曲面部13の径方向外半部の研削筋目を除去することで、平面部11および曲面部13の径方向外半部を、対数螺旋状の研削筋目がなく、鏡面に近い面に仕上げることができる。このため、平面部11および曲面部13の径方向外半部に対する外側リップ21の先端部および中間リップ23の先端部の貼り付きによる摩擦抵抗の増大や異音の発生を防止することができる。
【0093】
なお、本例では、曲面部13に対しては、径方向外半部に再加工を施したが、中間リップ23の先端部が、より狭い範囲である、曲面部13の径方向外端部にのみ摺接する場合には、曲面部13に対しては、径方向外端部にのみ再加工を施すこともできる。本例についてのその他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0094】
[第3例]
本開示の実施の形態の第3例のハブユニット軸受の製造方法について、
図5を用いて説明する。
【0095】
本例のハブユニット軸受の製造方法では、ハブ輪14に対して第1例と同様の仕上加工を施した後に行う、弾性砥石30bを用いた再加工の範囲が、第1例よりも広い。
【0096】
本例の製造方法では、ハブ輪14の平面部11、曲面部13、および円筒面部12の全体のうち、平面部11および円筒面部12にのみ弾性砥石30bを用いた再加工を施し、曲面部13には該再加工を施さない。
【0097】
本例では、弾性砥石30bは、外周面に、平面研削部31に加えて、平面研削部31に対して軸方向に離隔した部分に、円筒面部12の母線形状に沿った母線形状、すなわち直線状の母線形状を有する、円すい面状の円筒面研削部33を備える。
【0098】
本例では、再加工を施す範囲が第1例よりも広いことに伴い、再加工時に弾性砥石30bを第1例よりも大きく弾性変形させられるようにするために、弾性砥石30bの気孔の体積比率を第1例よりも高くしている。なお、該気孔の体積比率は、たとえば、50%~70%の範囲から選択することができる。
【0099】
本例の製造方法において、弾性砥石30bを用いて平面部11および円筒面部12に再加工を施す際には、仕上加工を施す場合と同様の方法でハブ輪14を自身の中心軸を中心に回転させ、かつ、弾性砥石30bを自身の中心軸O30を中心としてハブ輪14と逆方向に回転させながら、ハブ輪14の平面部11に弾性砥石30bの平面研削部31を押し付け、かつ、ハブ輪14の円筒面部12に弾性砥石30bの円筒面研削部33を押し付ける。これにより、平面部11および円筒面部12に再加工を施す。
【0100】
本例の製造方法の場合も、平面部11、曲面部13、および円筒面部12の全体のうち、平面部11を含む一部の範囲にのみ、具体的には平面部11および円筒面部12にのみ、弾性砥石30bを用いて再加工を施す。このため、仕上加工時と再加工時とで、ハブ輪14と砥石の芯高の差が異なり、仕上加工を施した後の平面部11および円筒面部12の母線形状と、弾性砥石30bの平面研削部31および円筒面研削部33の母線形状とに差が生じた場合でも、弾性砥石30bの平面研削部31および円筒面研削部33の母線形状を平面部11および円筒面部12の母線形状に沿って弾性変形させやすい。このため、平面部11および円筒面部12の全体に再加工を施すことができる。
【0101】
本例では、円筒面部12に弾性砥石30bを用いて再加工を施しているため、円筒面部12をさらに平滑化して、円筒面部12に対する内側リップ22の先端部の摩擦抵抗を低く抑えることができる。
【0102】
本例の製造方法では、再加工を施す際に、ハブ輪14の表面に対して弾性砥石30bの外周面を、軸方向に離隔した2箇所で接触させている。このため、再加工時に弾性砥石30bの軸方向の反りや撓み変形を抑制しやすい。したがって、弾性砥石30bの気孔の体積比率を、第1例よりも大きくすることができ、被加工面の母線形状に対する弾性砥石30bの外周面の母線形状の追随性を高めることができる。
【0103】
本例の製造方法では、再加工を施す際に、ハブ輪14の回転でクーラントが飛ばされて、クーラントが最も届きにくい部分である曲面部13を再加工しないこと、および、クーラントが取り込まれる弾性砥石30bの気孔の体積比率を大きくできることから、被加工面へのクーラントの供給量を増やすことができる。このため、弾性砥石30bを構成する砥粒として、研削抵抗が大きい小さな砥粒、例えば結合粒度が#400程度の砥粒を使用することが可能となり、第1例よりも被加工面の粗さを向上させることができる。本例についてのその他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0104】
[第4例]
本開示の実施の形態の第4例のハブユニット軸受の製造方法について、
図6を用いて説明する。
【0105】
本例のハブユニット軸受の製造方法では、ハブ輪14に対して第1例と同様の仕上加工を施した後に行う、弾性砥石30cを用いた再加工の範囲が、第3例よりも広い。
【0106】
本例の製造方法では、ハブ輪14の平面部11、曲面部13、および円筒面部12の全体のうち、平面部11、曲面部13の径方向外半部、および円筒面部12にのみ弾性砥石30bを用いた再加工を施し、曲面部13の径方向内半部には該再加工を施さない。
【0107】
本例では、弾性砥石30bは、外周面に、平面研削部31および円筒面研削部33に加えて、平面研削部31に対して軸方向に隣接する部分に、曲面部13の径方向内半部の母線形状に沿った母線形状を有する曲面研削部32を備える。
【0108】
本例では、再加工を施す範囲が第3例よりも広いことに伴い、再加工時に弾性砥石30cを第3例よりも大きく弾性変形させられるようにするために、弾性砥石30cの気孔の体積比率を第3例よりも高くしている。なお、該気孔の体積比率は、たとえば、60%~70%の範囲から選択することができる。
【0109】
本例の製造方法において、弾性砥石30cを用いて平面部11、曲面部13の径方向外半部、および円筒面部12に再加工を施す際には、仕上加工を施す場合と同様の方法でハブ輪14を自身の中心軸を中心に回転させ、かつ、弾性砥石30cを自身の中心軸O30を中心としてハブ輪14と逆方向に回転させながら、ハブ輪14の平面部11に弾性砥石30cの平面研削部31を押し付け、ハブ輪14の曲面部13の径方向外半部に弾性砥石30cの曲面研削部32を押し付け、ハブ輪14の円筒面部12に弾性砥石30cの円筒面研削部33を押し付ける。これにより、平面部11、曲面部13の径方向外半部、および円筒面部12に再加工を施す。本例についてのその他の構成および作用効果は、第1例~第3例と同様である。
【0110】
本開示のハブユニット軸受は、上述した各実施の形態の構成を、矛盾を生じない範囲で適宜組み合わせて実施することができる。
【0111】
本開示のハブユニット軸受を実施する場合には、再加工を施す工程において、弾性砥石として、回転しない弾性砥石を用いることもできる。
【符号の説明】
【0112】
1 ハブユニット軸受
2 外輪
3 ハブ
4a、4b 転動体
5 外側シールリング
6a、6b 外輪軌道
7 静止フランジ
8a、8b 内輪軌道
9 回転フランジ
10 パイロット部
11 平面部
12 円筒面部
13 曲面部
14 ハブ輪
15 内輪
16 小径段部
17 段差面
18 かしめ部
19a、19b 保持器
20 転動体設置空間
21 外側リップ
22 内側リップ
23 中間リップ
24 芯金
25 シール材
26 シール嵌合筒部
27 支持板部
28 基部
29 軸受キャップ
30、30a、30b、30c 弾性砥石
31 平面研削部
32 曲面研削部
33 円筒面研削部
100 ハブユニット軸受
101 外輪
102 ハブ
103a、103b 転動体
104 外側シールリング
105a、105b 外輪軌道
106a、106b 内輪軌道
107 回転フランジ
108 平面部
109 円筒面部
110 曲面部
111 スプライン孔
112 ハブ輪
113 内輪
114 外側リップ
115 内側リップ
116 中間リップ
117 シュー
118 マグネットチャック
119 研削砥石
120 ダイヤモンドホイール