(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136426
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】2重壁遮音構造体
(51)【国際特許分類】
G10K 11/172 20060101AFI20240927BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G10K11/172
G10K11/16 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047540
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】野上 洋平
(72)【発明者】
【氏名】安部 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】岡部 俊一
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061AA16
5D061BB17
5D061CC04
(57)【要約】
【課題】軽量であり、かつ、広域な周波数の範囲(100~5,000Hz)において遮音性能が高い2重壁遮音構造体を提供する。
【解決手段】凸構造2Aを備える凸状パネル2と平板状パネル3とを備え、凸状パネル2と平板状パネル3との間に凸構造2Aによる空洞4が形成され、平板状パネル3の1次共振周波数f
2[Hz]に対する凸状パネル2の1次共振周波数f
1[Hz]の比f
1/f
2が2以上である、2重壁遮音構造体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸構造を備える凸状パネルと平板状パネルとを備え、
前記凸状パネルと前記平板状パネルとの間に前記凸構造による空洞が形成され、
前記平板状パネルの1次共振周波数f2[Hz]に対する前記凸状パネルの1次共振周波数f1[Hz]の比f1/f2が2以上である、2重壁遮音構造体。
【請求項2】
前記凸状パネルの1次共振周波数f1が前記平板状パネルの1次共振周波数f2より大きい、請求項1に記載の2重壁遮音構造体。
【請求項3】
前記凸状パネルの前記凸構造の厚みTが、0.1mm以上20mm以下である、請求項1に記載の2重壁遮音構造体。
【請求項4】
前記凸状パネルの前記凸構造を形成する部材の引張弾性率が、0.1GPa以上である、請求項1に記載の2重壁遮音構造体。
【請求項5】
前記凸状パネルの前記凸構造の最も低い部分から最も高い部分の高さH[mm]と前記辺長L[mm]との商が0.01以上0.7以下である、請求項1に記載の2重壁遮音構造体。
【請求項6】
前記凸状パネルの前記凸構造が半球形状である、請求項1に記載の2重壁遮音構造体。
【請求項7】
前記凸状パネルの前記凸構造を形成する部材がアルミ板である、請求項1に記載の2重壁遮音構造体。
【請求項8】
前記凸状パネルの前記凸構造が単数である、請求項1に記載の2重壁遮音構造体。
【請求項9】
前記凸状パネルの前記凸構造が複数である、請求項1に記載の2重壁遮音構造体。
【請求項10】
前記凸状パネルの前記凸構造が曲面部を有する、請求項1に記載の2重壁遮音構造体。
【請求項11】
前記凸状パネルの前記凸構造が平面部を有する、請求項1に記載の2重壁遮音構造体。
【請求項12】
前記空洞に吸音材が充填された、請求項1に記載の2重壁遮音構造体。
【請求項13】
前記凸状パネルと前記平板状パネルとの重複率が50%以上である、請求項1に記載の2重壁遮音構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2重壁遮音構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物における室内環境及び車両における車内環境を向上させるために外部との仕切り部において騒音を遮る性能の要求が増している。外部との仕切り部において、騒音を遮る遮音性能の指標として、音響透過損失がある。音響透過損失は、仕切り部に配置された遮音構造体への入射音に対する透過音のエネルギーの低減量を表し、値が大きいほど遮音性能が高いことを示す。
音響透過損失は、遮音構造体に採用された材質が均質単板材料の場合、基本的に質量で決定され、特に遮音構造体の1次共振周波数付近で値が低下する特性を示す。また、遮音構造体に採用された材質が均質単板材料の場合、1次共振周波数よりも低周波数域では剛性則領域と呼ばれ、1次共振周波数よりも高周波数域では共振領域と呼ばれ、共振領域よりも高周波数域では質量則領域と呼ばれ、各周波数領域でそれぞれ特性を示す。剛性則領域では、遮音構造体に採用された材質の剛性と、遮音構造体の境界の剛性条件が音響透過損失に影響し、剛性を向上させることで音響透過損失が大きくなる性質がある。共振領域では、透過音のエネルギーによる遮音構造体の振動モードの共振が音響透過損失に影響し、遮音構造体の振動モードにより音響透過損失にピークやディップが生じる。質量則領域では、遮音構造体に採用された材質の質量が大きいほど音響透過損失が大きくなる性質があり、遮音構造体の屈曲振動に起因するコインシデンス効果の影響により特定の周波数付近で音響透過損失が小さくなる性質がある。
【0003】
外部との仕切り部に配置される遮音構造体として、例えば、均質単板材料であるアルミ板を採用した場合、アルミ板は、質量を増すことで可聴域の遮音性能を向上させることができる。しかし、質量の大きいものを遮音構造体に採用した場合、可聴域の遮音性能を向上させることができる反面、遮音構造体の取り扱い性及び仕切り部の耐久性が低下するという欠点が生じる。また、質量の大きいものを遮音構造体に採用した場合、遮音性能は、質量則に従い、周波数が低くなるにつれて低下する性質がある。
そこで、質量の小さいものを遮音構造体に採用した場合でも、遮音構造体の遮音性能を向上させるために、遮音構造体の一部に膜部材を設けて、膜の弾性反発力によって屈曲振動を生じさせて音を遮音することで遮音性能を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、弾性反発力を発生させるために膜部材を用いつつ、剛性を高めるために梁を設けて遮音性能を向上させることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2004/107313号
【特許文献2】特開2007-232906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、弾性反発力によって音を遮音する構造においては、屈曲振動を発生させるために、材料の剛性を低くする必要があり、遮音できる周波数の範囲が狭いという欠点がある。また、屈曲振動を発生させるために膜部材を用いつつ、剛性を高めるために梁を設ける構造においては、重量が大きくなるという欠点がある。
【0006】
上記のような事情に鑑み、本発明は、軽量であり、かつ、広域な周波数の範囲(100~5,000Hz)において遮音性能が高い2重壁遮音構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、凸構造を備える凸状パネルと平板状パネルの2重壁構造にすることにより、広域な周波数の範囲(100~5,000Hz)における遮音性能が向上することを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]凸構造を備える凸状パネルと平板状パネルとを備え、前記凸状パネルと前記平板状パネルとの間に前記凸構造による空洞が形成され、前記平板状パネルの1次共振周波数f2[Hz]に対する前記凸状パネルの1次共振周波数f1[Hz]の比f1/f2が2以上である、2重壁遮音構造体。
[2]前記凸状パネルの1次共振周波数f1が前記平板状パネルの1次共振周波数f2より大きい、[1]に記載の2重壁遮音構造体。
[3]前記凸状パネルの前記凸構造の厚みTが、0.1mm以上20mm以下である、[1]又は[2]に記載の2重壁遮音構造体。
[4]前記凸状パネルの前記凸構造を形成する部材の引張弾性率が、0.1GPa以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の2重壁遮音構造体。
[5]前記凸状パネルの前記凸構造の最も低い部分から最も高い部分の高さH[mm]と前記辺長L[mm]との商が0.01以上0.7以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の2重壁遮音構造体。
[6]前記凸状パネルの前記凸構造が半球形状である、[1]~[5]のいずれかに記載の2重壁遮音構造体。
[7]前記凸状パネルの前記凸構造を形成する部材がアルミ板である、[1]~[6]のいずれかに記載の2重壁遮音構造体。
[8]前記凸状パネルの前記凸構造が単数である、[1]~[7]のいずれかに記載の2重壁遮音構造体。
[9]前記凸状パネルの前記凸構造が複数である、[1]~[8]のいずれかに記載の2重壁遮音構造体。
[10]前記凸状パネルの前記凸構造が曲面部を有する、[1]~[9]のいずれかに記載の2重壁遮音構造体。
[11]前記凸状パネルの前記凸構造が平面部を有する、[1]~[10]のいずれかに記載の2重壁遮音構造体。
[12]前記空洞に吸音材が充填された、[1]~[11]のいずれかに記載の2重壁遮音構造体。
[13]前記凸状パネルと前記平板状パネルとの重複率が50%以上である、[1]~[12]のいずれかに記載の2重壁遮音構造体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、軽量であり、かつ、広域な周波数の範囲(100~5,000Hz)において遮音性能が高い2重壁遮音構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る2重壁遮音構造体の模式的断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る2重壁遮音構造体の凸状パネルと平板状パネルとの重ねた構造を示す模式的断面図である。
【
図3】
図3(a)は、本発明の実施形態に係る2重壁遮音構造体を構成する凸状パネル平面図であり、
図3(b)は、
図3(a)のA-A線における断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る遮音構造体の面外振動(屈曲振動)を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る遮音構造体の凸構造の様々な形態を示す断面図(その1)である。
【
図6】本発明の実施形態に係る遮音構造体の凸構造の様々な形態を示す断面図(その2)である。
【
図7】
図7(a)は、本発明の実施形態に係る2重壁遮音構造体を構成する平板状パネルの平面図であり、
図7(b)は、
図7(a)のB-B線における断面図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る2重壁遮音構造体(吸音材有り)の模式的断面図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る2重壁遮音構造体の実施例の環境を示す模式図である。
【
図10】実施例及び比較例に係る2重壁遮音構造体のサンプルの断面図である。
【
図11】実施例1~5に係る遮音パネルの周波数ごとに面密度から計算した質量則を減算した結果を示すグラフである。
【
図12】比較例1~4に係る遮音パネルの周波数ごとに面密度から計算した質量則を減算した結果を示すグラフである。
【
図13】比較例5~8に係る遮音パネルの周波数ごとに面密度から計算した質量則を減算した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係る2重壁遮音構造体1は、
図1に示すように、凸構造2Aを備える凸状パネル2と平板状パネル3とを重ねて、凸状パネル2と平板状パネル3との間に凸構造2Aによる空洞4を形成するように組み合わせた2重壁遮音構造体である。凸状パネル2は、平板状パネル3との接合に利用可能な平構造2Bを一部に設けてもよく、全体が凸構造2Aであってもよい。2重壁遮音構造体1は、
図2に示すように、凸状パネル2と平板状パネル3とを重ねるように組み合わせることで形成することができる。凸状パネル2と平板状パネル3は、周知の接着手段及び固定手段により接合して組み合わせることで、機械的剛性を向上させつつ、空洞4を閉空間とすることができるので、遮音性能を向上させることができる。
本発明の実施形態に係る2重壁遮音構造体1は、平板状パネル3の1次共振周波数f
2[Hz]に対する凸状パネル2の1次共振周波数f
1[Hz]の比f
1/f
2が2以上である。
本発明の実施形態に係る2重壁遮音構造体1において、凸状パネル2により平板状パネル3の1次共振周波数f
2より低周波数域において遮音性能を発揮し、平板状パネル3により2重壁遮音構造体1の剛性が増すことで平板状パネル3の1次共振周波数f
2より高周波数域において遮音性能を発揮する。よって、本発明の実施形態に係る2重壁遮音構造体1において、凸構造2Aを備える凸状パネル2と平板状パネル3とを重ねた構成とすることで、広域な周波数の範囲(100~5,000Hz)において遮音性能を高めることができる。また、平板状パネル3の1次共振周波数f
2[Hz]に対する凸状パネル2の1次共振周波数f
1[Hz]の比f
1/f
2が2以上とすることで、広域な周波数の範囲(100~5,000Hz)において遮音性能をより高めることができる。
【0012】
凸構造2Aの凸形状とは、
図3(b)に示すように、凸状パネル2の一方の面2R
1側、またはその逆の面2R
2側に突出し、内部が空洞の形状をいい、例えば、湾曲面からなる半球形状をいう。凸構造2Aは、全体として凸形状であればよく、完全に曲面である必要はなく多面体で構成されていてもよいし、局所的に凹部、平面部があってもよい。2重壁遮音構造体1を構成する凸状パネル2が凸構造2Aを備えることで、凸構造2Aの頂部20の剛性が向上し、面外振動(屈曲振動)を抑制する。凸状パネル2と平板状パネル3の共振周波数をずらすことで、互いが同じ周波数で激しく振動することを抑制し、遮音性能を向上することができる。
【0013】
凸構造2Aの凸形状としては、例えば、
図5(a)に示すように、曲率が高い曲面部からなる半球形状の凸構造2A
1であってもよく、
図5(b)に示すように、同じ凸構造2A
2が複数であってもよく、
図5(c)に示すように、異なる凸構造2A
3,2A
4,2A
5が設けられてもよい。また、凸構造2Aの凸形状としては、例えば、
図6(a)に示すように、平面部からなるピラミッド形状の凸構造2A
6であってもよく、
図6(b)に示すように、平面部からなる多面体形状の凸構造2A
7であってもよく、
図6(c)に示すように、曲面部と平面部が混在する凸構造2A
8であってもよい。凸構造2Aの凸形状は、面外振動(屈曲振動)を抑制する形状であることが好ましく、例えば、凸構造2Aの頂部が単数であって裾部が周囲に配置される半球形状が好ましい。
【0014】
凸構造2Aの厚みT1は、0.1mm以上20mm以下であることが好ましく、0.2mm以上15mm以下であることがより好ましく、0.5mm以上10mm以下であることがさらに好ましく、1mm以上5mm以下であることがよりさらに好ましい。凸構造2Aの厚みT1が上記範囲内であることで、機械的剛性を有しつつ、軽量化に寄与し、面外振動(屈曲振動)を抑制することを可能とする。
【0015】
凸状パネル2の凸構造2Aを形成する部材の引張弾性率は、0.1GPa以上であることが好ましく、1GPa以上であることがより好ましく、5GPa以上であることがさらに好ましく、10GPa以上であることがよりさらに好ましい。凸状パネル2の凸構造2Aを形成する部材の引張弾性率が上記下限値以上であることで、凸構造2Aの面内の弾性伸縮変形および面外振動(屈曲振動)を抑制することができる。凸構造2Aの引張弾性率の上限は特に限定されないが、500GPaが実質的な上限である。
なお、基材2の引張弾性率は、JIS K 7161-1:2014に準ずる方法により測定することができる。
【0016】
平板状パネル3の1次共振周波数f2[Hz]に対する凸状パネル2の1次共振周波数f1[Hz]の比f1/f2は2.0以上であることが好ましく、2.5以上であることがより好ましく、3.0以上であることがさらに好ましく、5.0以上であることがよりさらに好ましく、10.0以上であることが特に好ましい。
なお、凸状パネル2の1次共振周波数f1、及び平板状パネル3の1次共振周波数f2は、JIS C 60068-2-81:2007に準ずる方法により測定することができる。
【0017】
凸状パネル2の面積(
図3(a)のXY平面における面積)と投影面積が同じである正方形の辺の長さを辺長L
1とする。本明細書では、凸状パネル2の形状は限定されず、凸状パネル2の面積に着目し、凸状パネル2の面積と同じ面積である仮想の正方形を想定し、その正方形の一辺の長さを辺長L
1とみなす。しかし、
図3(a)に示すように、凸状パネル2が正方形である場合、辺長L
1は、凸状パネル2がなす正方形の一辺の長さとする。
【0018】
凸構造2Aの高さH(
図1におけるZ軸方向)は、凸構造2Aの頂部20の剛性を維持しつつ、裾部21の近傍で面外振動(屈曲振動)を抑制する観点から、10mm以上200mm以下であることが好ましく、20mm以上170mm以下であることがより好ましく、30mm以上150mm以下であることがさらに好ましい。
なお、凸構造2Aの高さHとは、凸構造2Aの最も低い部分から最も高い部分の高さをいい、具体的には、凸構造2Aの一番低い箇所(例えば、凹部底部)から凸構造2Aの一番高い箇所(例えば、凸部頂部)の高さをいう。凸構造2Aが複数である場合は、最も大きい値となる高さHを採用する。
【0019】
凸構造2Aの高さHと辺長Lとの商(H/L)は、0.01以上0.7以下である。凸構造2Aの高さHと辺長Lとの商が上記範囲外であると、機械的剛性を有しつつ、軽量化に寄与し、面外振動(屈曲振動)を抑制することが困難となる。凸構造2Aの高さHと辺長Lとの商は、機械的剛性を有しつつ、軽量化に寄与し、面外振動(屈曲振動)の抑制を可能とする観点から、0.05以上0.6以下であることが好ましく、0.07以上0.5以下であることがより好ましく、0.1以上0.4以下であることがさらに好ましい。
【0020】
凸状パネル2の面密度は、0.1kg/m2以上50kg/m2以下であることが好ましく、0.5kg/m2以上20kg/m2以下であることがより好ましく、1kg/m2以上10kg/m2以下であることがさらに好ましい。凸状パネル2の面密度が上記範囲内であることで、機械的剛性を有しつつ、軽量化に寄与することができる。
なお、凸状パネル2の面密度は、JIS Z 8807:2012に準ずる方法により測定することができる。
【0021】
凸状パネル2としては、機械的剛性を有しつつ、遮音性能を向上させるために空気を通さない材料であれば特に限定はなく、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂及びエポキシ樹脂等の少なくともいずれか1種を含む樹脂板などの有機材料が挙げられる。また、凸状パネル2としては、例えば、アルミ板、鋼板、ステンレス板及び鉄板等の金属板、並びに、ガラス板などの無機材料が挙げられる。また、凸状パネル2としては、セラミック板、石膏板及びFRP板等の複合材料を採用することができる。
【0022】
平板状パネル3は、
図7(b)に示すように、平板状パネル3の一方の面3R
1側、またはその逆の面3R
2側を区分することが可能な平板形状である。平板状パネル3は、全体として平板形状であればよく、完全に平面である必要はなく、エンボス加工のような微小な凸があってもよい。平板状パネル3は、2重壁遮音構造体1に剛性を付与し、剛性を向上させることで音響透過損失を向上させることが可能となる。
【0023】
平板状パネル3の厚みT2は、0.1mm以上20mm以下であることが好ましく、0.2mm以上15mm以下であることがより好ましく、0.5mm以上10mm以下であることがさらに好ましく、1mm以上5mm以下であることがよりさらに好ましい。平板状パネル3の厚みT2が上記範囲内であることで、機械的剛性を有しつつ、軽量化に寄与し、2重壁遮音構造体1の剛性を向上させることで音響透過損失を向上させることが可能となる。
【0024】
平板状パネル3の面積(
図7(a)のXY平面における面積)と投影面積が同じである正方形の辺の長さを辺長L
2とする。本明細書では、平板状パネル3の形状は限定されず、平板状パネル3の面積に着目し、平板状パネル3の面積と同じ面積である仮想の正方形を想定し、その正方形の一辺の長さを辺長L
2とみなす。しかし、
図7(a)に示すように、平板状パネル3が正方形である場合、辺長L
2は、平板状パネル3がなす正方形の一辺の長さとする。
【0025】
平板状パネル3の面密度は、0.1kg/m2以上50kg/m2以下であることが好ましく、0.5kg/m2以上20kg/m2以下であることがより好ましく、1kg/m2以上10kg/m2以下であることがさらに好ましい。平板状パネル3の面密度が上記範囲内であることで、機械的剛性を有しつつ、軽量化に寄与することができる。
なお、平板状パネル3の面密度は、JIS Z 8807:2012に準ずる方法により測定することができる。
【0026】
平板状パネル3としては、機械的剛性を有しつつ、遮音性能を向上させるために空気を通さない材料であれば特に限定はなく、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂及びエポキシ樹脂等の少なくともいずれか1種を含む樹脂板などの有機材料が挙げられる。また、平板状パネル3としては、例えば、アルミ板、鋼板、ステンレス板及び鉄板等の金属板、並びに、ガラス板などの無機材料が挙げられる。また、平板状パネル3としては、セラミック板、石膏板及びFRP板等の複合材料を採用することができる。
【0027】
凸状パネル2と平板状パネル3との重複率(XY平面における重複率)は、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、100%であることが特に好ましい。凸状パネル2と平板状パネル3との重複率が上記範囲内であることで、広域な周波数の範囲(100~5,000Hz)において遮音性能を向上させることができる。
【0028】
2重壁遮音構造体1は、
図8に示すように、凸状パネル2の凸構造2A及び平板状パネル3によって形成される空洞4の内部の少なくとも一部に吸音材5を充填する構成とすることができる。吸音材5が凸状パネル2の凸構造2A及び平板状パネル3によって形成される空洞4の内部の少なくとも一部を充填することによって、2重壁吸音構造体1を透過する音が吸音材5の中を通過することで減衰量が大きくなり、吸音効果が増大する。つまり、吸音材5によって、2重壁吸音構造体1を透過する音を取り除く(吸音する)ことが可能となり、さらに吸音効果を向上させることができる。
【0029】
吸音材5の材質は、特に限定されるものではないが、例えばグラスウール、ロックウール、合成繊維及び金属繊維等の乾式工法により充填される乾式材料、並びに、ウレタンフォーム及びパテ等の湿式工法により充填される湿式材料が挙げられる。吸音材5の材質は、乾式材料又は湿式材料を単体で用いてもよい。
【0030】
吸音材5の乾式材料の密度は、16kg/m3以上64kg/m3以下であることが好ましく、20kg/m3以上48kg/m3以下であることがより好ましく、24kg/m3以上32kg/m3以下であることがさらに好ましい。吸音材5の乾式材料の密度が上記範囲内であることで、吸音効果と製造コスト低減とを両立させることができる。
【0031】
吸音材5の湿式材料の密度は、20kg/m3以上100kg/m3以下であることが好ましく、25kg/m3以上80kg/m3以下であることがより好ましく、30kg/m3以上60kg/m3以下であることがさらに好ましい。吸音材5の湿式材料の密度が上記範囲内であることで、吸音効果と吸音構造体1の軽量化とを両立させることができる。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例0033】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0034】
(音響透過損失の測定)
JIS A 1441-1:2007に準拠して、実施例及び比較例に係る2重壁遮音構造体の音響透過損失を算出した。具体的には、
図9に示すように、残響室R
1と無響室R
2の間に設けられた開口部11を実施例及び比較例に係る2重壁遮音構造体のサンプルで間仕切りする構成とした。実施例及び比較例に係る2重壁遮音構造体のサンプルは、ワッシャー等の治具32を介在させ、ボルト30及びナット31により開口部11に取り付けた。実施例及び比較例に係る2重壁遮音構造体のサンプルの断面図を
図10に示す。そして、残響室R
1においてスピーカーから100dBのノイズを発生させ、残響室R
1における平均音圧レベルおよび無響室R
2の実施例及び比較例に係る2重壁遮音構造体から10cm離れた地点での音響インテンシティをそれぞれ測定し、1/3オクターブバンドごとの音響透過損失を算出した。算出した1/3オクターブバンドごとの音響透過損失から、周波数ごとに面密度から計算した質量則を減算した結果を
図11~
図13のグラフに示す。
【0035】
[実施例1]
曲面部からなる単数の半球形状の凸構造2Aを有する凸状パネル2としてエポキシドーム(株式会社KDA社製、縦400mm×横400mm×高さ110mm×厚み2mm、面密度2.2kg/m2)を採用した。また、平板状パネル3としてエポキシ平板(株式会社KDA社製、縦400mm×横400mm×厚み2mm、面密度2.2kg/m2)を採用した。実施例1に係る2重壁遮音構造体1の凸状パネル2と平板状パネル3との重複率は、100%であった。凸状パネル2と平板状パネル3との間に凸構造2Aによる空洞4には、吸音材5(商品名「シンセファイバー(TR24265W)」、東レ株式会社製)を充填した。
実施例1に係る2重壁遮音構造体1の凸状パネル2の凸構造2Aの高さHと辺長Lとの商の算出した結果、2重壁遮音構造体1の凸構造を形成する部材の引張弾性率、凸状パネル2の1次共振周波数f1を測定した結果、平板状パネル3の1次共振周波数f2を測定した結果、及び、凸状パネル2の1次共振周波数f1と平板状パネル3の1次共振周波数f2ついての比f1/f2を測定した結果を表1に示す。
【0036】
[実施例2]
曲面部からなる単数の半球形状の凸構造2Aを有する凸状パネル2としてエポキシドーム(株式会社KDA社製、縦400mm×横400mm×高さ110mm×厚み2mm、面密度2.2kg/m2)を採用した。また、平板状パネル3としてゴム平板(クロロプレンゴム、商品名「CRシート」、タイガースポリマー社製、縦400mm×横400mm×厚み2mm、面密度2.6kg/m2)を採用した。実施例2に係る2重壁遮音構造体1の凸状パネル2と平板状パネル3との重複率は、100%であった。凸状パネル2と平板状パネル3との間に凸構造2Aによる空洞4には、吸音材5(商品名「シンセファイバー(TR24265W)」、東レ株式会社製)を充填した。
実施例2に係る2重壁遮音構造体1の凸状パネル2の凸構造2Aの高さHと辺長Lとの商の算出した結果、2重壁遮音構造体1の凸構造を形成する部材の引張弾性率、凸状パネル2の1次共振周波数f1を測定した結果、平板状パネル3の1次共振周波数f2を測定した結果、及び、凸状パネル2の1次共振周波数f1と平板状パネル3の1次共振周波数f2ついての比f1/f2を測定した結果を表1に示す。
【0037】
[実施例3]
曲面部からなる単数の半球形状の凸構造2Aを有する凸状パネル2としてエポキシドーム(株式会社KDA社製、縦400mm×横400mm×高さ110mm×厚み2mm、面密度2.2kg/m2)を採用した。また、平板状パネル3としてアルミ平板(商品名「A5052」、志摩鋼業社製、縦400mm×横400mm×厚み1mm、面密度2.7kg/m2)を採用した。実施例3に係る2重壁遮音構造体1の凸状パネル2と平板状パネル3との重複率は、100%であった。凸状パネル2と平板状パネル3との間に凸構造2Aによる空洞4には、吸音材5(商品名「シンセファイバー(TR24265W)」、東レ株式会社製)を充填した。
実施例3に係る2重壁遮音構造体1の凸状パネル2の凸構造2Aの高さHと辺長Lとの商の算出した結果、2重壁遮音構造体1の凸構造を形成する部材の引張弾性率、凸状パネル2の1次共振周波数f1を測定した結果、平板状パネル3の1次共振周波数f2を測定した結果、及び、凸状パネル2の1次共振周波数f1と平板状パネル3の1次共振周波数f2ついての比f1/f2を測定した結果を表1に示す。
【0038】
[実施例4]
曲面部からなる単数の半球形状の凸構造2Aを有する凸状パネル2としてエポキシドーム(株式会社KDA社製、縦400mm×横400mm×高さ110mm×厚み2mm、面密度2.2kg/m2)を採用した。また、平板状パネル3としてエポキシ平板(株式会社KDA社製、縦400mm×横400mm×厚み2mm、面密度2.2kg/m2)を採用した。実施例4に係る2重壁遮音構造体1の凸状パネル2と平板状パネル3との重複率は、100%であった。
実施例4に係る2重壁遮音構造体1の凸状パネル2の凸構造2Aの高さHと辺長Lとの商の算出した結果、2重壁遮音構造体1の凸構造を形成する部材の引張弾性率、凸状パネル2の1次共振周波数f1を測定した結果、平板状パネル3の1次共振周波数f2を測定した結果、及び、凸状パネル2の1次共振周波数f1と平板状パネル3の1次共振周波数f2ついての比f1/f2を測定した結果を表1に示す。
【0039】
[実施例5]
曲面部からなる単数の半球形状の凸構造2Aを有する凸状パネル2としてポリカドーム(株式会社KDA社製、縦400mm×横400mm×高さ110mm×厚み2mm、面密度2.4kg/m2)を採用した。また、平板状パネル3としてポリカ平板(株式会社KDA社製、縦400mm×横400mm×厚み2mm、面密度2.4kg/m2)を採用した。実施例5に係る2重壁遮音構造体1の凸状パネル2と平板状パネル3との重複率は、100%であった。
実施例5に係る2重壁遮音構造体1の凸状パネル2の凸構造2Aの高さHと辺長Lとの商の算出した結果、2重壁遮音構造体1の凸構造を形成する部材の引張弾性率、凸状パネル2の1次共振周波数f1を測定した結果、平板状パネル3の1次共振周波数f2を測定した結果、及び、凸状パネル2の1次共振周波数f1と平板状パネル3の1次共振周波数f2ついての比f1/f2を測定した結果を表1に示す。
【0040】
[比較例1]
2重壁遮音構造体1の代わりに、遮音構造体としてエポキシ平板(株式会社KDA社製、縦400mm×横400mm×厚み2mm、面密度2.2kg/m2)を採用した。エポキシ平板の1次共振周波数f2を測定した結果を表1に示す。
【0041】
[比較例2]
2重壁遮音構造体1の代わりに、遮音構造体としてアルミ平板(商品名「A5052」、志摩鋼業社製、縦400mm×横400mm×厚み2mm、面密度5.4kg/m2)を採用した。アルミ平板の1次共振周波数f2を測定した結果を表1に示す。
【0042】
[比較例3]
2重壁遮音構造体1の代わりに、遮音構造体としてエポキシドーム(株式会社KDA社製、縦400mm×横400mm×高さ110mm×厚み2mm、面密度2.2kg/m2)を採用した。エポキシドームの1次共振周波数f1を測定した結果を表1に示す。
【0043】
[比較例4]
2重壁遮音構造体1の代わりに、遮音構造体としてアルミドーム(商品名「A5052」、志摩鋼業社製、縦400mm×横400mm×高さ50mm×厚み2mm、面密度5.4kg/m2)を採用した。アルミドームの1次共振周波数f1を測定した結果を表1に示す。
【0044】
[比較例5]
2重壁遮音構造体1の代わりに、遮音構造体としてエポキシドーム(株式会社KDA社製、縦400mm×横400mm×高さ110mm×厚み2mm、面密度2.2kg/m2)を2つ用意し、凸が逆方向となるように重ね合わせた。そして、2つのエポキシドームの凸構造による空洞4には、吸音材5(商品名「シンセファイバー(TR24265W)」、東レ株式会社製)を充填した。アルミドームの1次共振周波数f1を測定した結果を表1に示す。
【0045】
[比較例6]
2重壁遮音構造体1の代わりに、遮音構造体としてアルミドーム(商品名「A5052」、志摩鋼業社製、縦400mm×横400mm×高さ50mm×厚み2mm、面密度5.4kg/m2)を2つ用意し、凸が逆方向となるように重ね合わせた。そして、2つのアルミドームの凸構造による空洞4には、吸音材5(商品名「シンセファイバー(TR24265W)」、東レ株式会社製)を充填した。アルミドームの1次共振周波数f1を測定した結果を表1に示す。
【0046】
[比較例7]
平面部からなる単数の半球形状の凸構造2Aを有する凸状パネル2としてアルミ箱型(株式会社KDA社製、縦400mm×横400mm×高さ110mm×厚み2mm、面密度5.4kg/m2)を採用した。また、平板状パネル3としてアルミ平板(商品名「A5052」、志摩鋼業社製、縦400mm×横400mm×厚み2mm、面密度5.4kg/m2)を採用した。比較例7に係る2重壁遮音構造体1の凸状パネル2と平板状パネル3との重複率は、100%であった。凸状パネル2と平板状パネル3との間に凸構造2Aによる空洞4には、吸音材5(商品名「シンセファイバー(TR24265W)」、東レ株式会社製)を充填した。
比較例7に係る2重壁遮音構造体1の凸状パネル2の凸構造2Aの高さHと辺長Lとの商の算出した結果、2重壁遮音構造体1の凸構造を形成する部材の引張弾性率、凸状パネル2の1次共振周波数f1を測定した結果、平板状パネル3の1次共振周波数f2を測定した結果、及び、凸状パネル2の1次共振周波数f1と平板状パネル3の1次共振周波数f2ついての比f1/f2を測定した結果を表1に示す。
【0047】
[比較例8]
2重壁遮音構造体1の代わりに、遮音構造体としてエポキシドーム(株式会社KDA社製、縦400mm×横400mm×高さ110mm×厚み2mm、面密度2.2kg/m2)と、アルミドーム(商品名「A5052」、志摩鋼業社製、縦400mm×横400mm×高さ50mm×厚み2mm、面密度5.4kg/m2)とを用意し、凸が逆方向となるように重ね合わせた。そして、エポキシドームとアルミドームの凸構造による空洞4には、吸音材5(商品名「シンセファイバー(TR24265W)」、東レ株式会社製)を充填した。アルミドームの1次共振周波数f1を測定した結果を表1に示す。
【0048】
【0049】
図11~13に示したグラフより、凸構造を備える凸状パネルと平板状パネルとを重ねた構成で、凸状パネルの1次共振周波数f
1と平板状パネルの1次共振周波数f
2との差が特定の条件を満たすものは、広域な周波数の範囲(100~5,000Hz)において遮音性能が高いものであることがわかった。