(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136430
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】研磨パッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B24D 11/00 20060101AFI20240927BHJP
B24D 3/00 20060101ALI20240927BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B24D11/00 E
B24D11/00 Q
B24D3/00 330G
B24D3/00 340
H01L21/304 622F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047546
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】黒部 久徳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】阿部 規之
(72)【発明者】
【氏名】上野 敬
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 綾真
(72)【発明者】
【氏名】岸本 正敏
【テーマコード(参考)】
3C063
5F057
【Fターム(参考)】
3C063AA02
3C063AB05
3C063AB07
3C063BA02
3C063BB01
3C063BB07
3C063BB19
3C063BB20
3C063BC03
3C063BC09
3C063CC17
3C063EE15
5F057AA24
5F057BB11
5F057DA02
5F057EB03
5F057EB10
(57)【要約】
【課題】研磨後の研磨液の管理を簡素化できるとともに、研磨後の被研磨物の洗浄工程を簡素化できる等の研磨パッドの有利な効果を維持しつつ、より優れた研磨能力を発揮可能な研磨パッドを提供する。
【解決手段】本発明の研磨パッドでは、被研磨物Wは、非晶質、結晶質又は非晶質結晶質複合材料の固体からなる。各研磨粒子12、13は、被研磨物Wに対して化学機械研磨作用を有する主特定粒子12と、主特定粒子12よりビッカース硬度が大きく、被研磨物Wよりビッカース硬度が同等乃至小さい副特定粒子13とを含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を主成分とし、複数の細孔が形成された母材と、前記母材内又は前記細孔内に保持された無数の研磨粒子とを有し、被研磨物を研磨する研磨面を構成する研磨パッドであって、
前記被研磨物は、非晶質、結晶質又は非晶質結晶質複合材料の固体からなり、
各前記研磨粒子は、前記被研磨物に対して化学機械研磨作用を有する主特定粒子と、前記主特定粒子よりビッカース硬度が大きく、前記被研磨物よりビッカース硬度が同等乃至小さい副特定粒子とを含むことを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記副特定粒子は前記主特定粒子より小径である請求項1記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記主特定粒子は0.06~1.71μmであり、前記副特定粒子は0.01~5.00μmである請求項2記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記被研磨物は、水晶又は合成石英であり、
前記主特定粒子はセリア粒子であり、前記副特定粒子はシリカ粒子である請求項1又は2記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記セリア粒子は45体積%以上、85体積%以下であり、
前記シリカ粒子は15体積%以上、55体積%以下である請求項4記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記母材には、前記研磨面に開口可能であり、複数の前記細孔と連通しつつ、各前記細孔より容積が大きい大気孔が形成され、
前記研磨面に所定の荷重で前記被研磨物を押し付けつつ、前記被研磨物と相対移動することによって前記被研磨物を研磨している間、前記大気孔内には前記母材又は前記細孔から前記主特定粒子及び前記副特定粒子が補充されるとともに、前記大気孔内に滞留する前記主特定粒子及び前記副特定粒子が前記研磨面に移動する請求項1記載の研磨パッド。
【請求項7】
母材樹脂と、研磨粒子と、溶剤とを含むペーストを用意する第1工程と、
前記ペーストをシート状の成形体に成形する第2工程と、
前記成形体を置換液中に浸漬し、前記成形体中の前記溶剤を前記置換液で置換して細孔を形成して置換体を得る第3工程と、
前記置換体から前記置換液を除去し、前記母材樹脂を主成分とし、複数の細孔が形成された母材と、前記母材又は前記細孔内に保持された無数の研磨粒子とを有する研磨パッドを得る第4工程とを備え、
各前記研磨粒子は、非晶質、結晶質又は非晶質結晶質複合材料の固体に対して化学機械研磨作用を有する主特定粒子と、前記主特定粒子よりビッカース硬度が大きく、前記固体よりビッカース硬度が同等乃至小さい副特定粒子とを含むことを特徴とする研磨パッドの製造方法。
【請求項8】
前記第1工程は、前記主特定粒子と、前記溶剤とを含む第1ペーストを得る第1混合工程と、
前記副特定粒子と、前記溶剤とを含む第2ペーストを得る第2混合工程と、
前記母材樹脂、前記第1ペースト及び前記第2ペーストを含む前記ペーストを得る第3混合工程とを有している請求項7記載の研磨パッドの製造方法。
【請求項9】
前記ペーストは、前記第3工程において、複数の前記細孔と連通しつつ、各前記細孔より容積が大きい無数の大気孔を形成可能な気孔形成剤を含む請求項7又は8記載の研磨パッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨パッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~3に従来の研磨パッドが開示されている。これらの研磨パッドは、
図9に示すように、母材90と、無数の研磨粒子92とを有している。母材90は、樹脂を主成分とし、複数の細孔90aが形成されている。樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン、エポキシ樹脂、PES(ポリエーテルスルホン)等が用いられている。研磨粒子92は、シリカ等からなり、母材90内又は細孔90a内に保持されている。
【0003】
これらの研磨パッドは、第1工程、第2工程、第3工程及び第4工程を経て製造される。第1工程では、母材樹脂と、研磨粒子92と、溶剤とを含むペーストを用意する。第2工程では、ペーストをシート状の成形体に成形する。第3工程では、成形体を置換液中に浸漬し、成形体中の溶剤を置換液で置換して細孔90aを形成して置換体を得る。第4工程では、置換体から置換液を除去し、研磨パッドを得る。研磨パッドは、被研磨物Wを研磨する際、ドレッサ等によって表面及び/又は裏面がドレッシングされて研磨面94が構成される。
【0004】
こうして得られた研磨パッドは、研磨粒子92を母材90が半固定で保持していることから、研磨粒子92を含まない研磨液や単なる水を研磨液として採用しつつ、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨)法による研磨方法を実行できる。この場合、研磨粒子を含まないパッドを用いつつ、研磨粒子を含む研磨液を用いる遊離砥粒研磨方法と比較し、研磨後の研磨液の管理を簡素化できるとともに、研磨後の被研磨物の洗浄工程を簡素化できる等の有利な効果を奏する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-49256号公報
【特許文献2】特開2021-61306号公報
【特許文献3】特許6243009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の研磨パッドにはより優れた研磨能力の発揮が望まれる。すなわち、従来の研磨パッドは、被研磨物の時間当たりの研磨量を大きくするために研磨圧力を高くしても、研磨レートが十分に高くなり難い。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、研磨後の研磨液の管理を簡素化できるとともに、研磨後の被研磨物の洗浄工程を簡素化できる等の研磨パッドの有利な効果を維持しつつ、より優れた研磨能力を発揮可能な研磨パッドを提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の研磨パッドは、樹脂を主成分とし、複数の細孔が形成された母材と、前記母材内又は前記細孔内に保持された無数の研磨粒子とを有し、被研磨物を研磨する研磨面を構成する研磨パッドであって、
前記被研磨物は、非晶質、結晶質又は非晶質結晶質複合材料の固体からなり、
各前記研磨粒子は、前記被研磨物に対して化学機械研磨作用を有する主特定粒子と、前記主特定粒子よりビッカース硬度が大きく、前記被研磨物よりビッカース硬度が同等乃至小さい副特定粒子とを含むことを特徴とする。
【0009】
発明者らの試験によれば、本発明の研磨パッドでは、被研磨物の時間当たりの研磨量を大きくするために研磨圧力を高くすれば、研磨レートも十分に高くなる。すなわち、この研磨パッドは、研磨面に所定の荷重で被研磨物を押し付けつつ、被研磨物と相対移動すれば、主特定粒子が被研磨物を化学機械研磨する。その間、副特定粒子は、主特定粒子よりビッカース硬度が大きいため、主特定粒子を母材内又は細孔内で支持すると推察される。この際、副特定粒子は、被研磨物よりビッカース硬度が同等乃至小さいため、被研磨物を研磨せず、被研磨物にスクラッチを生じない。
【0010】
また、この研磨パッドも、上記従来の研磨パッドと同様、研磨粒子を母材が半固定で保持していることから、研磨粒子を含まない研磨液や単なる水を研磨液として採用しつつ、CMP法による研磨方法を実行できる。このため、この研磨パッドで被研磨物の研磨を行えば、遊離砥粒研磨方法で被研磨物の研磨を行う場合と比較し、研磨後の研磨液の管理を簡素化できるとともに、研磨後の被研磨物の洗浄工程を簡素化できる等の有利な効果を奏する。
【0011】
したがって、この研磨パッドによれば、研磨後の研磨液の管理を簡素化できるとともに、研磨後の被研磨物の洗浄工程を簡素化できる等の研磨パッドの有利な効果を維持しつつ、より優れた研磨能力を発揮できる。
【0012】
本発明の研磨パッドの製造方法は、母材樹脂と、研磨粒子と、溶剤とを含むペーストを用意する第1工程と、
前記ペーストをシート状の成形体に成形する第2工程と、
前記成形体を置換液中に浸漬し、前記成形体中の前記溶剤を前記置換液で置換して細孔を形成して置換体を得る第3工程と、
前記置換体から前記置換液を除去し、前記母材樹脂を主成分とし、複数の細孔が形成された母材と、前記母材又は前記細孔内に保持された無数の研磨粒子とを有する研磨パッドを得る第4工程とを備え、
前記研磨粒子は、非晶質、結晶質又は非晶質結晶質複合材料の固体に対して化学機械研磨作用を有する主特定粒子と、前記主特定粒子よりビッカース硬度が大きく、前記固体よりビッカース硬度が同等乃至小さい副特定粒子とを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の製造方法によれば、本発明の研磨パッドを製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の研磨パッドによれば、研磨後の研磨液の管理を簡素化できるとともに、研磨後の被研磨物の洗浄工程を簡素化できる等の研磨パッドの有利な効果を維持しつつ、より優れた研磨能力を発揮できる。また、本発明の製造方法によれば、本発明の研磨パッドを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施例の研磨パッドに係り、模式の拡大断面図である。
【
図2】
図2は、試験1に係り、実施例及び比較例の研磨方法における研磨圧力と研磨レートとの関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例の研磨パッドに係り、
図1と同様の拡大断面図である。
【
図4】
図4は、実施例の研磨パッドに係り、
図3の部分拡大断面図である。
【
図5】
図5は、試験2に係り、シリカ粒子の割合と研磨レートとの関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、試験2に係り、シリカ粒子の割合と表面粗さとの関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、試験3に係り、シリカ粒子の割合と研磨レートとの関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、試験3に係り、シリカ粒子の割合と表面粗さとの関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、従来の研磨パッドに係り、模式の拡大断面図である。
【
図10】
図10は、比較例の研磨パッドに係り、模式の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
母材を構成する樹脂としては、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリサルホン(PSU)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル、フッ化ビニル・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリエチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート等を採用することが可能である。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。
【0017】
溶剤としては、母材を構成する樹脂を溶解するものであれば何でもよく、例えばN-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドやジメチルスルホキシド等を用いることができる。
【0018】
発明者らの試験結果によれば、副特定粒子は主特定粒子より小径であることが好ましい。主特定粒子は、研磨面から突出して被研磨物に当接し、被研磨物に化学機械研磨を行うため、副特定粒子が主特定粒子より小径であれば、主特定粒子が被研磨物に当接し易く、被研磨物に化学機械研磨を行い易いからであると推察している。他方、副特定粒子は、主研磨粒子を母材内又は細孔内で支持すれば足りるため、研磨面から突出して被研磨物に当接する必要はなく、主特定粒子より小径である方が主研磨粒子を母材内又は細孔内で支持し易いからであると推察している。換言すれば、副特定粒子が主特定粒子より大径であれば、主特定粒子が被研磨物に当接し難く、被研磨物に化学機械研磨を行い難いからであると推察している。他方、副特定粒子が主特定粒子より大径であると、副特定粒子が研磨面から突出して被研磨物に当接し易くなるが、副特定粒子は被研磨物への化学機械研磨の必要がないからであると推察している。具体的には、主特定粒子は0.06~1.71μmであり、副特定粒子は0.01~5.00μmであることが好ましい。
【0019】
発明者らは、被研磨物が非晶質、結晶質又は非晶質結晶質複合材料の固体からなり、各研磨粒子がその被研磨物に対してCMP作用を有する主特定粒子と、主特定粒子よりビッカース硬度が大きく、被研磨物よりビッカース硬度が同等乃至小さい副特定粒子とを含む場合に本発明の効果を確認している。
【0020】
発明者らの試験によれば、具体的には、被研磨物は水晶又は合成石英であり得るが、被研磨物はタンタル酸リチウムウェハ、シリコンウェハ等であってもよい。これらは非晶質、結晶質又は非晶質結晶質複合材料の固体の例示である。
【0021】
各種材料のビッカース硬度(GPa)を表1に示す。被研磨物を研磨する場合、主特定粒子としては、被研磨物に対して化学機械研磨作用を有する粒子を選択し、副特定粒子としては、主特定粒子よりビッカース硬度が大きく、固体よりビッカース硬度が同等乃至小さい粒子を選択する。
【0022】
【0023】
例えば、被研磨物が水晶、合成石英、青板ガラス、ホウ珪酸ガラス等、珪素を含むガラスである場合、主特定粒子としては、セリア(酸化セリウム、CeO2)、ベンガラ(三酸化二鉄、Fe2O3)及び酸化マンガン(三酸化二鉄、Mn2O3)の少なくとも1種を採用し、副特定粒子としては、シリカ粒子を選択する。ガラスは、非晶質であっても、結晶質であっても、非晶質結晶質複合材料であってもよい。ベンガラがガラスに対してCMP作用を有することは、例えば、「研磨剤としての弁柄」(船橋渡,精密機械,19(1940),P342)、「ガラス用研磨材」(塙健三,NEW GLASS, Vol.27(2012),No.106)等によって公知である。酸化マンガンがガラスに対してCMP作用を有することは、例えば、特開平10-071571、特開2002-210640、特開2014-084420、特開2014-118468、特開2015-140402等によって公知である。
【0024】
発明者らの試験結果によれば、被研磨物が水晶である場合、セリア粒子は45体積%以上、85体積%以下であり、シリカ粒子は15体積%以上、55体積%以下であれば、研磨レートが向上している。
【0025】
母材には、研磨面に開口可能であり、複数の前記細孔と連通しつつ、各細孔より容積が大きい大気孔が形成されていることが好ましい。発明者らの試験によれば、この場合、被研磨物の時間当たりの研磨量を大きくするために研磨圧力を高くすれば、研磨レートも十分に高くなる。
【0026】
発明者らは、本発明の研磨パッドが高い研磨能力を発揮できる理由を以下の主特定粒子及び副特定粒子のマイクロポンピング効果によると推察している。すなわち、この研磨パッドは、研磨面に所定の荷重で被研磨物を押し付けつつ、被研磨物と相対移動することによって被研磨物を研磨している間、研磨面に開口する大気孔内に母材又は細孔から主特定粒子及び副特定粒子が補充される。そして、その間、研磨面に開口する大気孔内に滞留する主特定粒子及び副特定粒子が被研磨物により生じる研磨液の流れに乗って研磨面に移動する。本発明の研磨パッドでは、主特定粒子及び副特定粒子のこのマイクロポンピング効果により、研磨面に存在する主特定粒子及び副特定粒子が従来の研磨パッドと比べて増加するため、研磨能力が高くなる。
【0027】
他方、従来の研磨パッドでは、
図9に示すように、母材90や細孔90aに多くの研磨粒子92を有する。しかし、研磨粒子92は、母材90や細孔90a内に保持されたままの未作用研磨粒子92aと、ドレッシングされて研磨面94に露出はするものの、研磨に寄与しない待機研磨粒子92bと、ドレッシングされて研磨面94に露出し、しかも研磨に寄与する作用研磨粒子92cとからなる。母材90や細孔90a内に保持されたままの未作用研磨粒子92aは研磨面94に移動し難く、待機研磨粒子92bは少なく、作用研磨粒子92cだけが被研磨物Wに化学機械研磨作用を奏する。このため、従来の研磨パッドは、研磨面94に所定の荷重で被研磨物Wを押し付けつつ、被研磨物Wと相対移動することによって被研磨物Wを研磨していても、研磨面94に存在する作用研磨粒子92cは補充され難い。このため、従来の研磨パッドでは、研磨面94に存在する作用研磨粒子92cが本発明の研磨パッドと比べて少なく、研磨能力が低い。
【0028】
第1工程において、母材樹脂と主特定粒子と副特定粒子と溶剤とを同時に混合してペーストとしてもよいが、第1工程は、以下の第1混合工程、第2混合工程及び第3混合工程を有することが好ましい。第1混合工程は、主特定粒子と、溶剤とを含む第1ペーストを得る。第2混合工程は、副特定粒子と、溶剤とを含む第2ペーストを得る。第3混合工程は、母材樹脂、第1ペースト及び第2ペーストを含むペーストを得る。これにより、主特定粒子を保持する細孔と、副特定粒子を保持する細孔とが生じ易くなり、副特定粒子による主特定粒子の支持と、マイクロポンピング効果とが生じ易くなる。
【0029】
第1工程において、ペーストには、必要に応じて添加剤を添加してもよい。添加剤としては、溶剤に対する樹脂の溶解性を調整するためのグリセリン等を挙げることができる。
【0030】
第2工程は特に限定されず、Tダイ等の成形装置を用いてシート状の成形体に成形する。この成形方法についてはある程度厚みを揃えることができればこれに限られない。
【0031】
ペーストは、第3工程において、複数の細孔と連通しつつ、各細孔より容積が大きい無数の大気孔を形成可能な気孔形成剤を含むことが好ましい。これにより、マイクロポンピング効果を生じる研磨パッドを製造することができる。気孔形成剤としては、水性の置換液を採用する場合には、水溶性のものを用いることができる。水溶性の気孔形成剤としては、例えば、グラニュー糖を粉状に挽いた粉糖、コーンスターチ等を用いることができる。気孔形成剤の粒径を調整することによって大気孔の大きさを調整することができる。
【0032】
第3工程では、例えば、調温されたイオン交換水で満たした貯水槽に成形体を所定時間浸漬することにより、核生成成長型の相分離過程を生じさせる。これにより、球状で孤立し、その大きさや相互位置が不規則で研磨粒子を含んだ多数の溶剤リッチ相が樹脂リッチ相中に分散する。この際、溶剤リッチ相における溶剤は、置換液中に拡散することにより水に置換される。
【0033】
このように第3工程においては、水性の溶剤を採用した場合、イオン交換水等の水性の液体を置換液として採用し、この置換液中に成形体を浸漬することで、核生成成長型の相分離過程を経て樹脂リッチ相中に溶剤リッチ相を分散させると同時に、その溶剤リッチ相における溶剤を置換液に置換して成形体から溶剤を取り除くことができる。この際、孤立した各溶剤リッチ相と成形体の外部とは樹脂リッチ相中に形成された細孔を介して連通され、細孔を介して溶剤と置換液とが置換される。このように成形体から溶剤が除去されると、樹脂リッチ相が収縮して硬化するとともに、その樹脂リッチ相中に微小な連続気孔が形成される。また、イオン交換水等の水性の液体を置換液として採用し、この置換液中に成形体を浸漬することで、水溶性の気孔形成剤も同時に除去することができる。
【0034】
溶剤及び気孔形成剤が除去された成形体は、第4工程を経ることで、研磨パッドとされる。研磨パッドは、被研磨物を研磨する際、ドレッサ等によって表面及び/又は裏面がドレッシングされて研磨面が構成される。
【0035】
(試験1)
<第1工程>
以下の母材樹脂、研磨粒子(主特定粒子、副特定粒子)、溶剤及び気孔形成剤を用意した。
【0036】
(母材樹脂)
PES(ポリエーテルサルフォン)
(研磨粒子、主特定粒子)
セリア粒子(平均粒径:0.75μm)
(研磨粒子、副特定粒子)
シリカ粒子(平均粒径:0.25μm)
(溶剤)
N-メチル-2-ピロリドン
(気孔形成剤)
グラニュー糖の粉糖
【0037】
上記母材樹脂、研磨粒子、溶剤及び気孔形成剤の各成分を表2の調合比(質量部)で混合した。この際、実施例においては、まず、第1混合工程として、溶剤に対して主特定粒子であるセリア粒子を分散させて第1ペーストとした。また、第2混合工程として、溶剤に対して副特定粒子であるシリカ粒子を分散させて第2ペーストとした。そして、第2混合工程として、母材樹脂、第1ペースト及び第2ペーストを混合してペーストとした。他方、比較例においては、まず、溶剤に対して主特定粒子であるセリア粒子を分散させ、この分散液と気孔形成剤とを母材樹脂に混合した。こうして、実施例及び比較例の各ペーストを得た。
【0038】
【0039】
<第2工程>
得られた各ペーストを用い、Tダイを用いてシート状の実施例及び比較例の各成形体を得た。
【0040】
<第3工程>
貯水槽に貯留し、調温したイオン交換水中に各成形体を所定時間浸漬した。これにより、各成形体において核生成成長型の相分離過程を生じさせ、樹脂リッチ相中に球状で孤立した多数の溶剤リッチ相を分散させるとともに、各成形体内の溶剤をイオン交換水で置換して各成形体から溶剤を除去した。実施例及び比較例の成形体では、この際に気孔形成剤も除去した。こうして、各置換体を得た。
【0041】
<第4工程>
得られた各置換体を常温の大気中に2日程度放置することにより、各置換体から水分を除去し、実施例及び比較例の研磨パッドを得た。各研磨パッドは、直径300mm、厚さ2mmの円板状のものである。
【0042】
実施例及び比較例の研磨パッドの表面をドレッサでドレッシングし、
図1及び
図10に示すように、被研磨物Wを研磨する研磨面14が構成される。ドレッサは、#400のダイヤペレットを有している。
【0043】
実施例の研磨パッドは、
図1に示すように、母材10と、主特定粒子12と、副特定粒子13とを有している。母材10は、樹脂からなり、複数の細孔10a、10bと、複数の大気孔10cとが形成されている。細孔10aには主に主特定粒子12が保持されており、細孔10bには主に副特定粒子13が保持されている。
【0044】
比較例の研磨パッドは、
図10に示すように、母材10と、主特定粒子12とを有している。母材10は、樹脂からなり、複数の細孔10aと、複数の大気孔10cとが形成されている。細孔10aには主特定粒子12が保持されている。
【0045】
実施例及び比較例の研磨パッドにおける樹脂、研磨粒子、細孔10a、10b及び大気孔10cの体積%は表3に示すとおりである。また、実施例及び比較例の研磨パッドにおけるデュロメータ硬度(Dスケール)も表3に示す。
【0046】
【0047】
実施例及び比較例の研磨パッドに研磨面14を形成してから2分後、以下の条件の研磨試験を行い、研磨圧力(kPa)と研磨レート(μm/分)との関係を調べた。実施例の研磨パッドを用いた研磨試験を実施例の研磨方法とし、比較例の研磨パッドを用いた研磨試験を比較例の研磨方法とした。結果を
図2に示す。
装置:Engis EJW-380(φ380片面研磨機)
被研磨物(ワーク)W:水晶(φ100mm×厚さ0.5mm)1枚
定盤回転数:60rpm
ワークWの回転数:60rpm
試験時間:30分
研磨液:水道水(10ml/分)
研磨圧力:20(kPa)、20(kPa)、30(kPa)
【0048】
図2から明らかなように、実施例の研磨方法は比較例の研磨方法よりも高い研磨レートを実現している。また、実施例の研磨方法では、研磨圧力を高くすれば、研磨レートも高くなっている。これに対し、比較例の研磨方法では、研磨圧力を高くしても、研磨レートが低いままほぼ横ばいである。
【0049】
また、
図3に示すように、実施例の研磨パッドでは、研磨面14に所定の荷重でワークWを押し付けつつ、ワークWと相対移動することによってワークWを研磨している間、研磨面14に開口する大気孔10c内に母材10又は細孔10a、10bから主特定粒子12及び副特定粒子13が補充される。そして、その間、研磨面14に開口する大気孔10c内に滞留する主特定粒子12及び副特定粒子13がワークWにより生じる研磨液の流れに乗って研磨面14に移動する。
【0050】
つまり、実施例の研磨方法では、主特定粒子12は、母材10や細孔10a内に保持されたままの未作用主特定粒子12aと、母材10や細孔10a内から大気孔10c内に補充され、大気孔10c内に滞留する待機主特定粒子12bと、大気孔10cから研磨面14に移動する作用主特定粒子12cとからなる。また、副特定粒子13は、母材10や細孔10c内に保持されたままの未作用副特定粒子13aと、母材10や細孔10b内から大気孔10c内に補充され、大気孔10c内に滞留する待機副特定粒子13bと、大気孔10cから研磨面14に移動する作用副特定粒子13cとからなる。
【0051】
そして、実施例の研磨パッドは、研磨面14に所定の荷重でワークWを押し付けつつ、ワークWと相対移動すれば、
図4に示すように、作用主特定粒子12cがワークWを化学機械研磨する。その間、作用副特定粒子13cは、作用主特定粒子12cよりビッカース硬度が大きいため、作用主特定粒子12cを母材10内又は細孔10a、10b内で支持すると推察される。この際、作用副特定粒子13cは、ビッカース硬度がワークWと同等乃至小さいため、例えワークWと当接したとしても、ワークWを研磨せず、ワークWにスクラッチを生じない。
【0052】
実施例の研磨方法では、主特定粒子12及び副特定粒子13のこのマイクロポンピング効果により、従来の研磨パッドと比べ、研磨面14に存在する作用主特定粒子12cが待機主特定粒子12bによって順次補充されて増加するとともに、研磨面14に存在する作用副特定粒子13cが待機副特定粒子13bによって順次補充されて増加するため、研磨能力が高くなるのである。
【0053】
なお、比較例の研磨パッドは、母材10に大気孔10cを有して主特定粒子12のマイクロポンピング効果を有するため、研磨面14に存在する作用主特定粒子12cは従来の研磨パッドと比べて増加するものの、
図11に示すように、作用副特定粒子13cを有さないことから、作用主特定粒子12cが母材10内又は細孔10a、10b内に埋没し易いと推察される。
【0054】
また、平均粒径0.75μmのセリア粒子と、平均粒径0.25μmのシリカ粒子とを用いて上記の結果が得られていることから、副特定粒子13は主特定粒子12より小径であることが好ましいことがわかる。副特定粒子13が主特定粒子12より小さいと、主特定粒子12の下に回り込み易くなり、主特定粒子12を強く押し当てる効果が高くなる。副特定粒子13の大きさは主特定粒子12の直径で半分以下、好適には3分の1以下が望ましい。
【0055】
(試験2)
上記母材樹脂、研磨粒子、溶剤及び気孔形成剤の各成分を表4の調合比(質量部)で混合し、試験1と同様に試験品1~5のペーストを得た。そして、試験1と同様、試験品1~5の研磨パッドを得た。
【0056】
【0057】
試験品1~5の研磨パッドにおける樹脂、研磨粒子、細孔10a、10b及び大気孔10cの体積%は表5に示すとおりである。また、試験品1~5の研磨パッドにおけるデュロメータ硬度(Dスケール)も表5に示す。
【0058】
【0059】
試験品1~5の研磨パッドに研磨面14を形成してから2分後、試験1と同様の研磨試験を行い、研磨圧力(kPa)とシリカ粒子の割合(体積%)と研磨レート(μm/分)との関係と、研磨圧力(kPa)とシリカ粒子の割合(体積%)と加工後のワークWの面状態との関係とを調べた。加工後のワークWの面状態は、面粗さSa(nm)で評価した。結果を
図5、
図6、表6及び表7に示す。
【0060】
【0061】
【0062】
図5、
図6、表6及び表7より、ワークWが水晶である場合、主特定粒子12であるセリア粒子が45体積%以上、85体積%以下であり、副特定粒子13であるシリカ粒子が15体積%以上、55体積%以下であれば、研磨圧力にかかわらず、研磨レートが向上することがわかる。また、この範囲であれば、研磨圧力にかかわらず、加工後のワークWの面状態もよいことがわかる。
【0063】
(試験3)
上記母材樹脂、研磨粒子、溶剤及び気孔形成剤の各成分を表8の調合比(質量部)で混合し、試験1と同様に試験品6~8のペーストを得た。そして、試験1と同様、試験品6~8の研磨パッドを得た。
【0064】
【0065】
試験品6~8の研磨パッドにおける樹脂、研磨粒子、細孔10a、10b及び大気孔10cの体積%は表9に示すとおりである。また、試験品6~8の研磨パッドにおけるデュロメータ硬度(Dスケール)も表9に示す。
【0066】
【0067】
試験品6~8の研磨パッドに研磨面14を形成してから2分後、試験1と同様の研磨試験を行った。ワークWは合成石英である。研磨圧力は20kPaである。そして、シリカ粒子の割合(体積%)と研磨レート(μm/分)との関係と、シリカ粒子の割合(体積%)と加工後のワークWの面状態との関係とを調べた。結果を
図7、
図8及び表10に示す。
図7及び
図8には、研磨圧力を20kPaとした試験2の結果も示す。
【0068】
【0069】
図7、
図8及び表10より、ワークWが水晶ではなく、合成石英である場合、副特定粒子13であるシリカ粒子が0~60体積%であれば、研磨レートが向上することがわかる。また、この範囲であれば、研磨圧力にかかわらず、加工後のワークWの面状態もよいことがわかる。
【0070】
以上より、実施例の研磨パッドによれば、研磨後の研磨液の管理を簡素化できるとともに、研磨後の被研磨物Wの洗浄工程を簡素化できる等の研磨パッドの有利な効果を維持しつつ、より優れた研磨能力を発揮できることがわかる。また、上記製造方法によれば、実施例の研磨パッドを製造することができることがわかる。
【0071】
以上において、本発明を試験1~3に即して説明したが、本発明は上記試験1-3又は実施例に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、非晶質、結晶質又は非晶質結晶質複合材料の固体の研磨方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0073】
10…母材
10a、10b…細孔
14…研磨面
12…研磨粒子、主特定粒子(12a…未作用主特定粒子、12b…待機主特定粒子、12c…作用主特定粒子)
13…研磨粒子、副特定粒子(13a…未作用副特定粒子、13b…待機副特定粒子、13c…作用副特定粒子)
W…被研磨物(ワーク)
10c…大気孔