(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136437
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】複合シリカガラス材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 23/203 20060101AFI20240927BHJP
C03B 20/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C03B23/203
C03B20/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047554
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000190138
【氏名又は名称】信越石英株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】森 竜也
(72)【発明者】
【氏名】富塚 憲夫
【テーマコード(参考)】
4G014
【Fターム(参考)】
4G014AH00
(57)【要約】
【課題】 異種又は同種のシリカガラス材を重ね合わせて加熱することにより、複合シリカガラスを製造するにあたり、加熱時の気泡の発生が抑制されてなる複合シリカガラスの製造方法を提供する。
【解決手段】 少なくとも2枚のシリカガラス材を、前記シリカガラス材の少なくともいずれか一か所の面端部に所定間隔の隙間が形成されるように相対向せしめる隙間形成工程と、前記相対向するシリカガラス材の少なくとも一つの最外層を加熱せしめて、複合シリカガラス材とする加熱工程と、を含み、前記所定間隔の隙間が、前記相対向するシリカガラス材の間にスペーサーを挟むことで形成されてなり、前記所定間隔が前記加熱工程での溶接が可能な間隔である、複合シリカガラス材の製造方法とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2枚のシリカガラス材を、前記シリカガラス材の少なくともいずれか一か所の面端部に所定間隔の隙間が形成されるように相対向せしめる隙間形成工程と、
前記相対向するシリカガラス材の少なくとも一つの最外層を加熱せしめて、複合シリカガラス材とする加熱工程と、
を含み、
前記所定間隔の隙間が、前記相対向するシリカガラス材の間にスペーサーを挟むことで形成されてなり、前記所定間隔が前記加熱工程での溶接が可能な間隔である、複合シリカガラス材の製造方法。
【請求項2】
前記相対向するシリカガラス材が平行となるように前記相対向するシリカガラス材の面端部に前記スペーサーを挟むことで、所定間隔の隙間が形成されてなる、請求項1記載の複合シリカガラス材の製造方法。
【請求項3】
前記相対向するシリカガラス材の最外層を加熱する工程が、前記スペーサーが挟まれていなかった面端部から順に加熱されてなる、請求項1記載の複合シリカガラス材の製造方法。
【請求項4】
前記相対向するシリカガラス材の最外層を加熱する工程が、前記スペーサーが挟まれていた面端部から順に加熱されてなる、請求項1記載の複合シリカガラス材の製造方法。
【請求項5】
前記スペーサーが、帯状であり、前記相対向するシリカガラス材の面端部近傍に挟まれてなる請求項1記載の複合シリカガラス材の製造方法。
【請求項6】
前記スペーサーが、カーボンシートである、請求項5記載の複合シリカガラス材の製造方法。
【請求項7】
前記隙間形成の後、前記加熱工程の前に、前記スペーサーを前記相対向するシリカガラス材の間から抜く工程をさらに含む、請求項1記載の複合シリカガラス材の製造方法。
【請求項8】
前記所定間隔の隙間が、0mmより大きく3.5mmより小さい、請求項1記載の複合シリカガラス材の製造方法。
【請求項9】
前記シリカガラス材が、不透明シリカガラス材及び/又は透明シリカガラス材である、請求項1記載の複合シリカガラス材の製造方法。
【請求項10】
前記加熱が、バーナー火炎により行われる、請求項1記載の複合シリカガラス材の製造方法。
【請求項11】
前記シリカガラス材が、前記加熱時に延伸されてなる、請求項1記載の複合シリカガラス材の製造方法。
【請求項12】
前記バーナー火炎が、プロパンガスを燃焼ガスとしたバーナー火炎である、請求項10記載の複合シリカガラス材の製造方法。
【請求項13】
前記シリカガラス材が、2枚の相対向する透明シリカガラス材の間に、前記透明シリカガラス材に相対向して設けられた不透明シリカガラス材、であり、前記透明シリカガラス材と前記不透明シリカガラス材の間にスペーサーを挟むことで前記所定間隔の隙間が形成されてなる、請求項1記載の複合シリカガラス材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置等において用いられる複合シリカガラス材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異種又は同種のシリカガラス板を重ね合わせて加熱することにより、シリカガラス積層体である複合シリカガラスを製造する方法が知られている。従来の複合シリカガラスを製造する方法としては、例えば、特許文献1~4がある。しかし、公知の方法では重ね合わせたシリカガラス板を加熱し、積層体とする際に、シリカガラス板同士の界面部分に大きな気泡が発生しやすいという問題があった。製造過程で気泡が発生してしまうと不良品となり、歩留まりが悪化してしまう。こういった複合シリカガラスの性能に対する要求は年々高くなっており、製造過程で気泡が発生しない複合シリカガラスの製造方法が待ち望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭51-061522
【特許文献2】特開昭63-201026
【特許文献3】特開2004-067456
【特許文献4】特開2004-091314
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らが鋭意検討した結果、異種又は同種のシリカガラス板同士を、加熱による溶接が可能な程度に隙間を空けて重ね合わせて端部から順次加熱すると、加熱時の気泡の発生が抑制されて、良好な複合シリカガラス材が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0005】
即ち、本発明は、異種又は同種のシリカガラス材を重ね合わせて加熱することにより、複合シリカガラス材を製造するにあたり、加熱時の気泡の発生が抑制されてなる複合シリカガラス材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の複合シリカガラス材の製造方法は、少なくとも2枚のシリカガラス材を、前記シリカガラス材の少なくともいずれか一か所の面端部に所定間隔の隙間が形成されるように相対向せしめる隙間形成工程と、前記相対向するシリカガラス材の少なくとも一つの最外層を加熱せしめて、複合シリカガラス材とする加熱工程と、を含み、前記所定間隔の隙間が、前記相対向するシリカガラス材の間にスペーサーを挟むことで形成されてなり、前記所定間隔が前記加熱工程での溶接が可能な間隔である、複合シリカガラス材の製造方法である。
【0007】
前記相対向するシリカガラス材が平行となるように前記相対向するシリカガラス材の面端部に前記スペーサーを挟むことで、所定間隔の隙間が形成されてなるのが好適である。
【0008】
前記相対向するシリカガラス材の最外層を加熱する工程が、前記スペーサーが挟まれていなかった面端部から順に加熱されてなるのが好適である。
【0009】
前記相対向するシリカガラス材の最外層を加熱する工程が、前記スペーサーが挟まれていた面端部から順に加熱されてなるのが好適である。
【0010】
前記スペーサーが、帯状であり、前記相対向するシリカガラス材の面端部近傍に挟まれてなるのが好適である。
【0011】
前記スペーサーが、カーボンシートであるのが好適である。
【0012】
前記隙間形成の後、前記加熱工程の前に、前記スペーサーを前記相対向するシリカガラス材の間から抜く工程をさらに含むのが好適である。
【0013】
前記所定間隔の隙間が、0mmより大きく3.5mmより小さいのが好適であり、0mmより大きく3.0mm以下であるのがさらに好適である。
【0014】
前記シリカガラス材が、不透明シリカガラス材及び/又は透明シリカガラス材であるのが好適である。
【0015】
前記加熱が、バーナー火炎により行われるのが好適である。
【0016】
前記シリカガラス材が、前記加熱時に延伸されてなるのが好適である。
【0017】
前記バーナー火炎が、プロパンガスを燃焼ガスとしたバーナー火炎であるのが好適である。
【0018】
また、前記シリカガラス材が、2枚の相対向する透明シリカガラス材の間に、前記透明シリカガラス材に相対向して設けられた不透明シリカガラス材、であり、前記透明シリカガラス材と前記不透明シリカガラス材の間にスペーサーを挟むことで前記所定間隔の隙間が形成されてなるのが好適である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、異種又は同種のシリカガラス材を重ね合わせて加熱することにより、複合シリカガラス材を製造するにあたり、加熱時の気泡の発生が抑制されてなる複合シリカガラス材の製造方法を提供することができるという顕著な効果を奏する。
また、加熱時の気泡の発生が抑制されるので、歩留まりが向上するという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の複合シリカガラス材の製造方法の一つの実施の形態における、加熱前の相対向するシリカガラス材の様子を示し、(a)が模式的右側面図、(b)が模式的正面図である。
【
図2】(a)が上部クランプに取付けた足場棒を
図1の加熱前の相対向するシリカガラス材に取り付けるところを示す模式的右側面図、(b)が上部クランプに取付けた足場棒を
図1の加熱前の相対向するシリカガラス材に取り付けた後を示す模式的右側面図である。
【
図3】(a)が
図2(b)と同様の図、(b)が下部クランプに取付けた足場棒を
図3(a)の加熱前の相対向するシリカガラス材に取り付けるところを示す模式的右側面図、(c)が下部クランプに取付けた足場棒を
図3(a)の加熱前の相対向するシリカガラス材に取り付けた後を示す模式的右側面図である。
【
図4】(a)が
図3(c)の相対向するシリカガラス材をバーナーで加熱するところを示す模式的右側面図、(b)が
図3(c)の相対向するシリカガラス材をバーナーで加熱したところを示す模式的右側面図である。
【
図5】本発明の複合シリカガラス材の製造方法の別の実施の形態における、加熱前の相対向するシリカガラス材の様子を示し、(a)が模式的右側面図、(b)が模式的正面図である。
【
図6】(a)が上部クランプに取付けた足場棒を
図5の加熱前の相対向するシリカガラス材に取り付けるところを示す模式的右側面図、(b)が上部クランプに取付けた足場棒を
図5の加熱前の相対向するシリカガラス材に取り付けた後を示す模式的右側面図である。
【
図7】(a)が
図6(b)と同様の図、(b)が下部クランプに取付けた足場棒を
図7(a)の加熱前の相対向するシリカガラス材に取り付けるところを示す模式的右側面図、(c)が下部クランプに取付けた足場棒を
図7(a)の加熱前の相対向するシリカガラス材に取り付けた後を示す模式的右側面図である。
【
図8】(a)が
図7(c)の相対向するシリカガラス材をバーナーで加熱するところを示す模式的右側面図、(b)が
図7(c)の相対向するシリカガラス材をバーナーで加熱したところを示す模式的右側面図である。
【
図9】(a)が
図3(c)の相対向するシリカガラス材をバーナーで加熱する前を示す模式的正面図、(b)が
図3(c)の相対向するシリカガラス材がバーナーで加熱されて複合シリカガラスとなるところを示す模式的正面図である。
【
図10】(a)が
図9(b)の要部拡大模式図、(b)が従来技術の製造方法を示す模式図であり、相対向するシリカガラス材がバーナーで加熱される様子を示す従来技術の模式的正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、これら実施の形態は例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。図示において、同一部材は同一符号であらわされる。
【0022】
図1~4に、本発明の複合シリカガラス材の製造方法の一つの実施の形態を示す。
図1に、加熱前の相対向するシリカガラス材10Aの様子を示す。
図1(a)がシリカガラス材10Aの模式的右側面図、
図1(b)がシリカガラス材10Aの模式的正面図である。
【0023】
前記相対向するシリカガラス材10Aは、少なくとも2枚のシリカガラス材12a,12b,14を、前記シリカガラス材12a,12b,14の少なくともいずれか一か所の面端部13a,13b,13c,13dに所定間隔の隙間(
図9及び
図10(a)に示される隙間D1,D2)が形成されるように相対向せしめる隙間形成工程によって得られる。前記所定間隔の隙間D1,D2は、前記相対向するシリカガラス材12a,12b,14の間にスペーサー16a,16b,16c,16dを挟むことで形成されてなる。前記所定間隔は前記加熱工程での溶接が可能な間隔であり、0mmより大きく3.5mmより小さいのが好適であり、0mmより大きく3.0mm以下であるのがさらに好適である。
【0024】
前記加熱工程は、例えば、特許文献3に記載された多層石英ガラス板の製造装置を用いて行うのが好適である。本発明の実施の形態の説明では、特許文献3に記載された多層石英ガラス板の製造装置を用いて加熱工程を行う例を示す。
【0025】
図示例では、2枚の透明シリカガラス材12a,12bである2枚の透明シリカガラス板の間に、1枚の不透明シリカガラス材14である不透明シリカガラス板を、帯状のスペーサー16a,16b,16c,16dを挟むことで
図9及び
図10(a)に示されるわずかな隙間D1,D2を設け、シリカガラス材12a,12b,14同士を重ね合わせて固定した。シリカガラス材12a,12b,14としては、シリカガラス板の例を示した。
【0026】
スペーサーとしては、シリカガラスを汚染しない材料シートであるのが好適である。図示例では、スペーサー16a,16b,16c,16dとしてカーボンシートを使用した。カーボンシートは、スペーサーを前記相対向するシリカガラス材の間から抜く工程において、抜きやすく好適である。スペーサーは所定間隔の隙間を形成するためのものであるので、前記シリカガラス材12a,12b,14の全面を覆わないものが好ましい。図示例では帯状のスペーサー16a,16b,16c,16dの例を示した。なお、使用するスペーサーは、1つの隙間に1枚でも良く、2枚以上重ねて使用しても良い。
【0027】
また、前記相対向するシリカガラス材12a,12b,14は、テープ18a,18b,18c,18dで固定されている。なお、図示例では、2枚の透明シリカガラス板である透明シリカガラス材12a,12bの間に、1枚の不透明シリカガラス板である不透明シリカガラス材14を挟んだ例を示したが、少なくとも2枚のシリカガラス材が相対向するようにすればよいものであるから、図示例以外の組み合わせも可能である。
【0028】
図1~4に示す前記相対向するシリカガラス材12a,12b,14では、平行となるように前記相対向するシリカガラス材12a,12b,14の面端部13a,13b,13c,13dに前記スペーサー16a,16b,16c,16dを挟むことで、所定間隔の隙間が形成されてなる。なお、図示例では、前記スペーサー16a,16b,16c,16dはほぼ面端部の位置に挟んだが、面端部13a,13b,13c,13d以外にも、面端部近傍に前記スペーサー16a,16b,16c,16dを挟むようにしてもよい。
【0029】
少なくとも2枚のシリカガラス材12a,12b,14としては、シリカガラス板の例を示したが、本発明が適用できる限り、板状以外の形状のシリカガラス材も含まれる。
【0030】
そして、
図2~3に示すように、上部クランプ20a,20bに取付けた足場棒22a,22bを前記相対向するシリカガラス材12a,12b,14に取り付ける。取り付けてからさらに前記足場棒22a,22bと前記相対向するシリカガラス材12a,12b,14とを溶接で取り付ける。なお、図示例の上部クランプ20a,20b及び足場棒22a,22bのそれぞれは、特許文献3に記載された多層石英ガラス板の製造装置の上部支持アーム及び石英ガラスサポート板のそれぞれに相当する。
【0031】
そして、
図3に示すように、前記相対向するシリカガラス材12a,12b,14からスペーサー16a,16b,16c,16dを取り外した後、下部クランプ24a,24bに取付けた足場棒26a,26bを前記相対向するシリカガラス材12a,12b,14に取り付ける。取り付けてからさらに前記足場棒26a,26bと前記相対向するシリカガラス材12a,12b,14とを溶接で取り付ける。なお、図示例の下部クランプ24a,24b及び足場棒26a,26bのそれぞれは、特許文献3に記載された多層石英ガラス板の製造装置の下部支持アーム及び石英ガラスサポート板のそれぞれに相当する。
【0032】
次に、
図4に示すように、前記相対向するシリカガラス材12a,12b,14の最外層(図示例では、シリカガラス材12a,12bの外層)を加熱するが、
図3に示した如く、この加熱工程の前に、前記スペーサー16a,16b,16c,16dを前記相対向するシリカガラス材12a,12b,14の間から抜いておくのが好適である。テープ18a,18b,18c,18dは剥がさずにそのままとしておき、バーナー28で加熱する際に燃やすことで、剥がす工程を省いて省力化する。なお、
図1~
図4及び後述する
図5~
図8では、相対向するシリカガラス材に上部クランプに取付けた足場棒を取り付けた後、下部クランプに取付けた足場棒を取り付ける前に、相対向するシリカガラス材の間からスペーサーを取り外している例を示したが、前記スペーサーをシリカガラス材から抜く工程は、前記相対向するシリカガラス材を加熱して複合シリカガラス材とする加熱工程前であり、且つ隙間形成された相対向するシリカガラス材が固定された後であればいつでも良いものである。
【0033】
そして、
図4に示すように、前記相対向するシリカガラス材12a,12b,14の最外層(図示例では、シリカガラス材12a,12bの外層)を加熱する。加熱は、
図4に示すようにバーナー28により、前記相対向するシリカガラス材12a,12b,14の下端部から加熱する。
【0034】
図4の例では、前記スペーサー16b,16dが挟まれていた面端部を加熱する。
図9及び
図10(a)に示すように、バーナー火炎50を前記相対向するシリカガラス材12a,12b,14の最外層(図示例では、シリカガラス材12a,12bの外層)に当てて加熱する。バーナー火炎50はプロパンガスを燃焼ガスとするのが好適である。そして、この加熱工程では、例えば上部クランプ20a,20bの送り降下速度は3mm/分及び下部クランプ24a,24bの引き降下速度は9mm/分のように設定する。このように設定して加熱することで、前記相対向するシリカガラス材12a,12b,14が、バーナー火炎50によって加熱溶融されつつ降下しかつ同時に下部クランプ24a,24bは上部クランプ20a,20bの3倍の速度で降下するので下方への延伸力として働き溶融されかつ互いに溶着した透明シリカガラス材12a,12b及び不透明シリカガラス材14は延伸されつつ降下することとなる。このように前記相対向するシリカガラス材12a,12b,14を加熱する方法としては、特許文献3に記載された加熱の方法を適用することができる。
【0035】
このようにして、加熱によって溶接が行われると、
図4(b)に示されるように、前記相対向するシリカガラス材12a,12b,14は延伸されて、複合シリカガラス材30Aとなる。延伸の様子は、
図9及び
図10(a)にも示される。
図10(a)に示されるように、シリカガラス材12a,12bの表面は拡大すると、微小の凹凸52a,52bが存在する。これを、所定間隔の隙間D1,D2を空けて加熱すると、滞留する空気が
図10(a)に矢印で示されるように、加熱による延伸方向とは逆方向に空気の抜け道があるので、複合シリカガラス材30A(
図4(b)参照)となったときに、気泡となって残らないため、気泡の発生が抑えられるのである。
【0036】
図10(b)に従来技術の例を示すが、従来は、シリカガラス材12a,12b,14をただ単に重ねてバーナー28で加熱しているだけであった。このため、シリカガラス材12a,12bの表面は拡大すると、微小の凹凸52a,52bが存在するが、加熱して溶接される際に、滞留する空気が内部にトラップされて気泡の原因になると考えられる。
【0037】
図5~8に、本発明の複合シリカガラス材の製造方法の別の実施の形態を示す。
図5に、加熱前の相対向するシリカガラス材10Bの様子を示す。
図5(a)がシリカガラス材10Bの模式的右側面図、
図5(b)がシリカガラス材10Bの模式的正面図である。
【0038】
前記相対向するシリカガラス材10Bは、少なくとも2枚のシリカガラス材42a,42b,44を、前記シリカガラス材42a,42b,44の少なくともいずれか一か所の面端部43a,43b,43c,43dに所定間隔の隙間が上部のみに形成されるように相対向せしめる隙間形成工程によって得られる。前記所定間隔の隙間は、前記相対向するシリカガラス材42a,42b,44の間にスペーサー46a,46bを挟むことで形成されてなる。前記所定間隔は前記加熱工程での溶接が可能な間隔であり、0mmより大きく3.5mmより小さいのが好適であり、0mmより大きく3.0mm以下であるのがさらに好適である。即ち、
図5~8の例では、前記所定間隔の隙間は、面端部43c,43dの側のみに形成されており、面端部43a,43bの側には形成されていない。
【0039】
図示例では、2枚の透明シリカガラス材42a,42bである2枚の透明シリカガラス板の間に、1枚の不透明シリカガラス材44である不透明シリカガラス板を、帯状のスペーサー46a,46bを挟むことでわずかな隙間を上部に設け、シリカガラス材42a,42b,44同士を重ね合わせて固定した。シリカガラス材42a,42b,44としては、シリカガラス板の例をしめした。
【0040】
スペーサーとしては、シリカガラスを汚染しない材料シートであるのが好適であり、図示例では、スペーサー46a,46bとして帯状のカーボンシートを使用した。
【0041】
また、前記相対向するシリカガラス材42a,42b,44は、テープ48a,48b,48c,48dで固定されている。なお、図示例では、2枚の透明シリカガラス板である透明シリカガラス材42a,42bの間に、1枚の不透明シリカガラス板である不透明シリカガラス材44を挟んだ例を示したが、少なくとも2枚のシリカガラス材が相対向するようにすればよいものであるから、図示例以外の組み合わせも可能である。
【0042】
図5~8に示す前記相対向するシリカガラス材42a,42b,44では、前記相対向するシリカガラス材42a,42b,44の面端部の一部である面端部43c,43dに前記スペーサー46a,46bを挟むことで、逆三角形の所定間隔の隙間が形成されてなる。前記所定間隔の隙間が、0mmより大きく3.5mmより小さいのが好適であり、0mmより大きく3.0mm以下であるのがさらに好適である。なお、図示例では、前記スペーサー46a,46bはほぼ面端部の位置に挟んだが、面端部43c,43d以外にも、面端部近傍に前記スペーサー46a,46bを挟むようにしてもよい。
【0043】
少なくとも2枚のシリカガラス材42a,42b,44としては、シリカガラス板の例を示したが、本発明が適用できる限り、板状以外の形状のシリカガラス材も含まれる。
【0044】
そして、
図6~7に示すように、上部クランプ20a,20bに取付けた足場棒22a,22bを前記相対向するシリカガラス材42a,42b,44に取り付ける。取り付けてからさらに前記足場棒22a,22bと前記相対向するシリカガラス材42a,42b,44とを溶接で取り付ける。
【0045】
そして、
図7に示すように、前記相対向するシリカガラス材42a,42b,44からスペーサー46a,46bを取り外した後、下部クランプ24a,24bに取付けた足場棒26a,26bを前記相対向するシリカガラス材42a,42b,44に取り付ける。取り付けてからさらに前記足場棒26a,26bと前記相対向するシリカガラス材42a,42b,44とを溶接で取り付ける。
【0046】
次に、
図8に示すように、前記相対向するシリカガラス材42a,42b,44の最外層(図示例では、シリカガラス材42a,42bの外層)を加熱するが、
図7に示した如く、この加熱工程の前に、前記スペーサー46a,46bを前記相対向するシリカガラス材42a,42b,44の間から抜いておくのが好適である。テープ48a,48b,48c,48dは剥がさずにそのままとしておき、バーナー28で加熱する際に燃やすことで、剥がす工程を省いて省力化する。
【0047】
そして、
図8に示すように、前記相対向するシリカガラス材42a,42b,44の最外層(図示例では、シリカガラス材42a,42bの外層)を加熱する。加熱は、
図8に示すようにバーナー28を用いて、前記相対向するシリカガラス材42a,42b,44の下端部から加熱する。
【0048】
図9及び
図10(a)に示すように、バーナー火炎50を前記相対向するシリカガラス材12a,12b,14の最外層(図示例では、シリカガラス材12a,12bの外層)に当てて加熱する。バーナー火炎50はプロパンガスを燃焼ガスとするのが好適である。そして、この加熱工程では、例えば上部クランプ20a,20bの送り降下速度は3mm/分及び下部クランプ24a,24bの引き降下速度は9mm/分のように設定する。このように設定して加熱することで、前記相対向するシリカガラス材42a,42b,44が、バーナー火炎50によって加熱溶融されつつ降下しかつ同時に下部クランプ24a,24bは上部クランプ20a,20bの3倍の速度で降下するので下方への延伸力として働き溶融されかつ互いに溶着した透明シリカガラス材42a,42b及び不透明シリカガラス材44は延伸されつつ降下することとなる。このように前記相対向するシリカガラス材42a,42b,44を加熱する方法としては、特許文献3に記載された加熱の方法を適用することができる。
【0049】
このようにして、加熱によって溶接が行われると、
図8(b)に示されるように、前記相対向するシリカガラス材42a,42b,44は延伸されて、複合シリカガラス材30Bとなる。延伸の様子は、
図9及び
図10(a)と同様である。
【0050】
上述した例はいずれも、シリカガラス材を3枚使用した例を示したが、少なくとも2枚であればよいものであるから、シリカガラス材を2枚使用して相対向させたものや、4枚以上使用して相対向させたものなど、いずれも本発明の範囲に含まれる。
【実施例0051】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0052】
(実施例1)
図1に示した如く、400mm×400mm×6mmの不透明シリカガラス板の片面に、足場棒を取り付ける両端部付近に、それぞれ厚さ0.4mmの短冊状のカーボンシートを2枚重ねたもの(厚さ合計0.8mm)を1組ずつ置いた後、それを介して400mm×400mm×3mmの透明シリカガラス板を重ねた。
前記不透明シリカガラスの反対側の面にも同様に、カーボンシートを2枚重ねたものを2か所に置いた後、透明シリカガラス板を重ねた。
透明シリカガラス板-不透明シリカガラス板-透明シリカガラス板をテープで固定し、加熱前複合シリカガラス板を得た。
【0053】
上下に昇降するクランプ部を有する複合シリカガラス材製造装置の上部クランプ部に、シリカガラス製の足場棒を取り付け、足場棒と加熱前複合シリカガラス板を酸水素火炎で溶接した。
【0054】
前記溶接により、透明シリカガラス板及び不透明シリカガラス板との間の隙間(0.8mm)を形成した後、カーボンシートを取り外し、複合シリカガラス製造装置の下部クランプ部にシリカガラス製の足場棒を取り付け、足場棒と加熱前複合シリカガラス板を酸水素火炎で溶接した。
【0055】
加熱前複合シリカガラス板の下部からプロパン-酸素バーナーで加熱しつつ、上部クランプの送り降下速度は3mm/分及び下部クランプの引き降下速度は9mm/分に設定し、上部クランプ部と下部クランプ部が下方向に移動することで加熱前複合シリカガラス板を延伸し、本発明の複合シリカガラス材である複合シリカガラス板を得た。
【0056】
<気泡発生の評価方法>
上記方法で製造された複合シリカガラス板の泡を目盛付きルーペ(東海産業株式会社製、スタンドマイクロスコープ)で観察し、泡の長手方向の長さが5mm以上のものをカウントした。カウントは複合シリカガラス板の300×300mmの範囲とし、上記方法でカウントされた泡の個数が0個の場合を最良、0個より多く10個未満の場合を良、10個以上の場合を不良とした。結果を表1に示す。
【0057】
【0058】
(実施例2)
1枚あたり厚さ0.7mmのカーボンシートを2枚(厚さ合計1.4mm)用いること以外は実施例1と同様にして、複合シリカガラス板を得た。
前記得られた複合シリカガラス板に対し、実施例1と同様の方法により、気泡発生の評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
(実施例3)
1枚あたり厚さ0.05mmのカーボンシートを2枚(厚さ合計0.1mm)用いること以外は実施例1と同様にして、複合シリカガラス板を得た。
前記得られた複合シリカガラス板に対し、実施例1と同様の方法により、気泡発生の評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
(実施例4)
1枚あたり厚さ1.6mmのカーボンシートを2枚(厚さ合計3.2mm)用いること以外は実施例1と同様にして、複合シリカガラス板を得た。
前記得られた複合シリカガラス板に対し、実施例1と同様の方法により、気泡発生の評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
(実施例5)
プロパン-酸素バーナーに変えて、酸水素バーナーを用いること以外は実施例1と同様にして、複合シリカガラス板を得た。
前記得られた複合シリカガラス板に対し、実施例1と同様の方法により、気泡発生の評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
(実施例6)
加熱前複合シリカガラス板を加熱時に延伸しないこと以外は実施例1と同様にして、複合シリカガラス板を得た。
前記得られた複合シリカガラス板に対し、実施例1と同様の方法により、気泡発生の評価を行った。結果を表1に示す。
【0063】
(比較例1)
カーボンシートを用いずに、相対向する透明シリカガラス板と不透明シリカガラス板との間に隙間を設けないこととした以外は実施例1と同様にして、複合シリカガラス板を得た。
前記得られた複合シリカガラス板に対し、実施例1と同様の方法により、気泡発生の評価を行った。結果を表1に示す。
【0064】
(比較例2)
1枚あたり厚さ2.0mmのカーボンシートを2枚(厚さ合計4.0mm)用いること以外は実施例1と同様にして、複合シリカガラス板の製造を試みたが、溶接できなかった。
【0065】
(実施例7)
図5に示した如く、400mm×400mm×6mmの不透明シリカガラス板の上部端部の両面に、厚さ0.4mmのカーボンシート2枚(厚さ合計0.8mm)を介して400mm×400mm×3mmの透明シリカガラス板を重ね、透明シリカガラス板-不透明シリカガラス板をテープで固定し、加熱前複合シリカガラス板を得た。
【0066】
複合シリカガラス製造装置の上部クランプ部にシリカガラス製の足場棒を取り付け、足場棒と加熱前複合シリカガラス板を酸水素火炎で溶接した。
【0067】
カーボンシートを取り外した後、複合シリカガラス製造装置の下部クランプ部にシリカガラス製の足場棒を取り付け、足場棒と加熱前複合シリカガラス板を酸水素火炎で溶接した。
【0068】
加熱前複合シリカガラス板の下部からプロパン-酸素バーナーで加熱しつつ、上部クランプ部と下部クランプ部が下方向に移動することで加熱前複合シリカガラス板を延伸し、複合シリカガラス板を得た。
【0069】
前記得られた複合シリカガラス板に対し、実施例1と同様の方法により、気泡発生の評価を行った結果、カウントされた泡の個数は0個であった。結果を表1に示す。
10A,10B:加熱前の相対向するシリカガラス材、12a,12b,14,42a,42b,44:シリカガラス材、13a,13b,13c,13d,43a,43b,43c,43d:面端部、16a,16b,16c,16d,46a,46b:スペーサー、18a,18b,18c,18d,48a,48b,48c,48d:テープ、20a,20b:上部クランプ、22a,22b,26a,26b:足場棒、24a,24b:下部クランプ、28:バーナー、30A,30B:複合シリカガラス材、50:バーナー火炎、52a,52b:微小の凹凸、D1,D2:所定間隔の隙間。