IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シチズンホールディングス株式会社の特許一覧 ▶ シチズン・システムズ株式会社の特許一覧

特開2024-136472検出装置、プログラム、検出システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136472
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】検出装置、プログラム、検出システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20240927BHJP
   A61B 5/16 20060101ALI20240927BHJP
   A61M 21/00 20060101ALI20240927BHJP
   G16H 10/20 20180101ALI20240927BHJP
【FI】
A61B10/00 H
A61B5/16 120
A61M21/00 B
G16H10/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047599
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507351883
【氏名又は名称】シチズン・システムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】野口 和博
【テーマコード(参考)】
4C038
5L099
【Fターム(参考)】
4C038PP01
4C038PP03
4C038PS09
4C038VA05
4C038VB03
4C038VC05
5L099AA04
(57)【要約】
【課題】軽度認知障害の判定精度を向上させること。
【解決手段】本開示は、被験者の心拍情報を取得する取得部と、前記被験者の心拍間隔に基づいて、前記被験者の感情が脳疲労、不安もしくは抑うつがある負の感情であるか、又は脳疲労、不安及び抑うつがない正の感情であるかを判定する感情判定部と、第一の時間にて前記被験者を前記正の感情に誘導する感情誘導部と、前記第一の時間の少なくとも一部で、前記被験者の心身状態を判定する心身状態判定部と、前記心身状態判定部が判定した前記被験者の心身状態に応じて、前記第一の時間を調整する誘導時間調整部と、を有する。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の心拍情報を取得する取得部と、
前記被験者の心拍間隔に基づいて、前記被験者の感情が脳疲労、不安もしくは抑うつがある負の感情であるか、又は脳疲労、不安及び抑うつがない正の感情であるかを判定する感情判定部と、
第一の時間にて前記被験者を前記正の感情に誘導する感情誘導部と、
前記第一の時間の少なくとも一部で、前記被験者の心身状態を判定する心身状態判定部と、
前記心身状態判定部が判定した前記被験者の心身状態に応じて、前記第一の時間を調整する誘導時間調整部と、
を有する検出装置。
【請求項2】
前記被験者が所定の心身状態であると前記心身状態判定部が判定した場合、前記誘導時間調整部は、次回、前記被験者を前記正の感情へ誘導する第二の時間を前記第一の時間より短くする請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記被験者が所定の心身状態でないと前記心身状態判定部が判定した場合、前記誘導時間調整部は、次回、前記被験者を前記正の感情へ誘導する第二の時間を前記第一の時間より長くする請求項1に記載の検出装置。
【請求項4】
前記被験者が所定の心身状態であると前記心身状態判定部が判定した場合、前記誘導時間調整部は、前記第一の時間より短い時間で、前記正の感情への誘導を終了する請求項1に記載の検出装置。
【請求項5】
前記被験者が所定の心身状態でないと前記心身状態判定部が判定した場合、前記誘導時間調整部は、前記第一の時間より長い時間、前記正の感情への誘導を継続する請求項1に記載の検出装置。
【請求項6】
所定期間において閾値以上の回数の前記負の感情が検出される場合、前記被験者を軽度認知障害であると判定するMCI判定部を有し、
前記被験者が所定の心身状態であると前記心身状態判定部が判定し、前記誘導時間調整部が前記第二の時間、前記被験者を前記正の感情に誘導した場合、
前記MCI判定部は、前記閾値を小さくして、前記被験者が軽度認知障害であるか否か判定する請求項2に記載の検出装置。
【請求項7】
前記心拍情報から心拍間隔の揺らぎ度を示す最大リアプノフ指数を算出する算出部を有し、
前記感情判定部は、前記最大リアプノフ指数に基づいて前記被験者が前記正の感情か前記負の感情か判定し、
前記心身状態判定部は、前記第一の時間の少なくとも一部における前記最大リアプノフ指数の変動に基づいて前記被験者の心身状態を判定する請求項1~6の何れか1項に記載の検出装置。
【請求項8】
前記被験者を撮像する撮像部を有し、
前記心身状態判定部は、前記第一の時間の少なくとも一部における前記被験者の画像データを解析し、前記被験者の身体の動きに基づいて前記被験者の心身状態を判定する請求項1~6の何れか1項に記載の検出装置。
【請求項9】
前記被験者の所定の心身状態は、前記被験者の集中力が低下した状態である請求項1に記載の検出装置。
【請求項10】
前記被験者が所定の心身状態であると前記心身状態判定部が判定し、
前記誘導時間調整部が、前記正の感情に誘導する時間を調整した場合、
前記時間を調整した旨を表示する表示部を有する請求項1に記載の検出装置。
【請求項11】
前記第一の時間において、前記感情判定部が感情の判定を行った回数に対する、正の感情の発生回数の比である発生率を算出する効果判定部を有し、
前記表示部は、前記発生率と共に、前記第一の時間の少なくとも一部において前記被験者が所定の心身状態であった旨を表示する請求項10に記載の検出装置。
【請求項12】
前記効果判定部は、前記被験者が所定の心身状態である場合に前記発生率を低減し、
前記表示部は、低減された前記発生率を表示する請求項11に記載の検出装置。
【請求項13】
情報処理装置を、
被験者の心拍情報を取得する取得部と、
前記被験者の心拍間隔に基づいて、前記被験者の感情が脳疲労、不安もしくは抑うつがある負の感情であるか、又は脳疲労、不安及び抑うつがない正の感情であるかを判定する感情判定部と、
第一の時間にて前記被験者を前記正の感情に誘導する感情誘導部と、
前記第一の時間の少なくとも一部で、前記被験者の心身状態を判定する心身状態判定部と、
前記心身状態判定部が判定した前記被験者の心身状態に応じて、前記第一の時間を調整する誘導時間調整部、
として機能させるためのプログラム。
【請求項14】
検出装置と情報処理システムがネットワークを介して通信できる検出システムであって、
被験者の心拍情報を取得する取得部と、
前記被験者の心拍間隔に基づいて、前記被験者の感情が脳疲労、不安もしくは抑うつがある負の感情であるか、又は脳疲労、不安及び抑うつがない正の感情であるかを判定する感情判定部と、
第一の時間にて前記被験者を前記正の感情に誘導する感情誘導部と、
前記第一の時間の少なくとも一部で、前記被験者の心身状態を判定する心身状態判定部と、
前記心身状態判定部が判定した前記被験者の心身状態に応じて、前記第一の時間を調整する誘導時間調整部と、
を有する検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、検出装置、プログラム、及び、検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
認知症を完治させる治療方法はないが、認知症の早期症状である軽度認知障害(以下、MCI(Mild Cognitive Impairment)という場合がある)の段階で予兆を検出することができれば、発症を止めたり遅らせたりすることが可能である。
【0003】
しかし、MCIと仮性認知症は一般には見分けが付きにくく、両者を判別する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、脳疲労、不安、又は抑うつなどの負の感情の発生頻度に基づいて、軽度認知障害を検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許6755356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、軽度認知障害の判定精度が低下する場合があった。本開示は、軽度認知障害の判定精度を向上させる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み、本開示は、被験者の心拍情報を取得する取得部と、前記被験者の心拍間隔に基づいて、前記被験者の感情が脳疲労、不安もしくは抑うつがある負の感情であるか、又は脳疲労、不安及び抑うつがない正の感情であるかを判定する感情判定部と、第一の時間にて前記被験者を前記正の感情に誘導する感情誘導部と、前記第一の時間の少なくとも一部で、前記被験者の心身状態を判定する心身状態判定部と、前記心身状態判定部が判定した前記被験者の心身状態に応じて、前記第一の時間を調整する誘導時間調整部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示は、軽度認知障害の判定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】達成率と集中力に対応付けて示した被験者の状態を説明する図である。
図2】集中力の有無の判定方法についてその概略を説明する図である。
図3】検出装置の使用状態を示す一例の斜視図である。
図4】(A)及び(B)は撮像部の外観を示す一例の斜視図である。
図5】検出装置の一例のブロック図である(実施形態1)。
図6】(A)~(C)は脈波から負の感情を判定する原理を説明するための一例のグラフである。
図7】(A)~(D)は検出装置1の検出結果の表示例を示す一例のグラフである。
図8】検出装置の動作例を示す一例のフローチャート図である。
図9】別の撮像部を用いた検出装置の使用状態を示す一例の斜視図である。
図10】検出装置の一例のブロック図である(実施形態2)。
図11】検出装置の一例の表示画面を示す図である。
図12】検出装置の動作例を示す一例のフローチャート図である。
図13】(A)~(D)は感情誘導の有無による正負感情の変動の差異を示す一例のグラフを示す図である。
図14】時系列に記録された正負感情に基づいて集中力の有無を判定する方法を説明する図である。
図15】画像データから検出される被験者の身体の動きにより集中力の有無を判定する方法を説明する図である。
図16】機械学習を使用した集中度推定部の一例の機能ブロック図である。
図17】MCI判定部が最大リアプノフ指数λに基づいて被験者がMCIか否かを判定する一例のフローチャート図である。
図18】検出装置の一例の表示画面を示す図である。
図19】検出装置の一例の表示画面を示す図である。
図20】検出装置の一例の表示画面を示す図である。
図21】(A)~(D)は検出部を示す図である。
図22】検出システムの一例の構成図である。
図23】検出システムがユーザーをマインドフルネスへ転換すると共に、集中力の有無を判定する処理を説明する一例のシーケンス図である。
図24】検出装置の一例のハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態の一例として、検出装置と検出装置が行う調整方法について図面を参照しながら説明する。
【0010】
<MCIの判定と集中力の関係>
まず、図1を参照して、正の感情の達成率と心身状態の一例である集中力との関係について説明する。図1は、達成率と集中力に対応付けて示した被験者の状態を説明する図である。後述するように、検出装置が被験者を正の感情へ誘導する間(これを感情誘導時間という)、被験者から正の感情と負の感情を検出することで、両者の比から達成率が算出される。達成率が高い場合、検出装置が行う正の感情への誘導が成功していると判定される(領域203)。また、正の感情への誘導が成功すると、被験者がMCIではないと判定される傾向が強まる。
【0011】
一方、達成率が低い場合、被験者はMCI(軽度認知障害)であると判定されやすい傾向になるが、被験者の集中力が低下すると負の感情が検出されやすくなる場合があった。すなわち、検出装置は、息を吸うことと息を吐くことを繰り返し被験者に指導するが、被験者の心身状態によっては、呼吸中に呼吸が苦しくなるなどにより、集中が切れてしまう場合がある。その場合、負の感情が検出されやすくなり、MCIでないのにMCIと判定されるおそれが高くなる。すなわち、図1において達成率が低い場合、集中力が高い領域201なのか、達成率が低い領域202なのかを検出装置が判別しないと、MCIの判定精度が低下するおそれがあった。
【0012】
そこで、本実施形態では、検出装置が被験者を正の感情へ誘導している間に、集中力の有無を判定し、集中力の有無に応じて、次回の感情誘導時間を調整する。
【0013】
後述するように被験者を正の感情へ誘導することは、マインドフルネス状態への転換のために行われる。このマインドフルネス状態への転換がMCIの判定を兼ねている。したがって、被験者は、正の感情へ誘導されながらMCIか否かの判定も受けることができる。ただし、MCI判定とマインドフルネス状態への転換とは別々に実施されてもよい。
【0014】
図2は、本実施形態における集中力の有無の判定方法についてその概略を説明する図である。検出装置は、正の感情、負の感情を時系列に記録する(S101)。詳細は後述するが、正負の感情の記録によりMCI判定が可能であり、さらにマインドフルネス状態への転換も可能になる。
【0015】
検出装置は、被験者に呼吸を指導する間、並行して集中力を検出している(S102)。集中力の検出方法については後述する。
【0016】
そして、検出装置は、集中力が低下していたか否か判定する(S103)。検出装置は、集中力が低下していたと判定した場合に、次回の感情誘導時間を短くし(S104)、集中力が低下していない場合、次回の感情誘導時間を長くする(S105)。
【0017】
こうすることで、検出装置は、被験者にとって適切な感情誘導時間を決定でき、被験者が集中を保てる時間内に正負の感情を判定することでMCIの判定精度を向上することができる。感情誘導時間を長くした場合は、マインドフルネス状態に転換させやすくなり、正の感情に誘導することができる。
【0018】
なお、検出装置は、次回の感情誘導時間を調整するのでなく、今回のマインドフルネス状態への転換を中断してもよいし、今回の感情誘導時間を短縮したり延長したりしてもよい。
【0019】
<用語について>
負の感情とは、脳疲労、不安又は抑うつがある状態をいい、正の感情とは、脳疲労、不安及び抑うつがない状態をいう。この他、正の感情とは、ポジティブな感情であり、具体的には、喜び、楽しさ、心地よさ、落ち着き、幸福感、満足感など、快感や安らぎを伴う感情でもよい。負の感情とは、ネガティブな感情であり、正の感情がないことでもよい。
【0020】
第一の時間とは、被験者を正の感情に誘導するために検出装置に設定されている時間である。本実施形態では、感情誘導時間という。第二の時間とは、マインドフルネスへの転換を開始した当初に設定されていた感情誘導時間から変更された感情誘導時間である。
【0021】
心身状態とは、被験者の心と体の少なくとも一方の状態である。所定の心身状態とは、被験者が正の感情に誘導されるために適切な心身状態でないことをいう。本実施形態では、所定の心身状態は、集中力が低下した状態を例にして説明する。
【0022】
[実施形態1 MCIの判定]
後述する実施形態2で説明する感情誘導時間の調整は、MCIを改善するためのマインドフルネス状態への転換時に行われるが、まずは、実施形態1においてMCIを判定する構成と処理について説明する。すなわち、後述の実施形態2で調整された感情誘導時間は、MCI判定する実施形態1の構成と処理に活かすことができる。
【0023】
図3は、検出装置1の使用状態を示す斜視図である。図3に示すように、検出装置1は、撮像部10と情報端末5とを備える。図示した例では、撮像部10はスマートフォンなどの携帯端末であり、情報端末5はノート型パーソナルコンピュータである。ただし、特にこれに限らず、撮像部10としてタブレット端末又はデジタルカメラを用いてもよく、情報端末5としてタブレット端末又は専用の処理装置を用いてもよい。あるいは、撮像部10と情報端末5は一体化されていてもよい。
【0024】
検出装置1は、認知症発症後の認知症レベルを測定する装置ではなく、あくまで、認知症発症前の早期症状であるMCIの発現の有無を検出する装置である。MCIの人にも仮性認知症の人にも、脳疲労、不安又は抑うつ(以下、「負の感情」という)やもの忘れが現れる。しかしながら、仮性認知症は自律神経異常による疾患のため、負の感情の発生回数の日内変動が生じやすく、症状の継続は週~月単位であるのに対し、MCIでは、負の感情の発生回数に日内変動はなく、数日~数か月の期間にわたって負の感情が持続することが知られている。
【0025】
検出装置1は、心拍又は脈波の間隔の時系列データから心拍間隔の揺らぎ度を示す最大リアプノフ指数を算出し、その値から脳疲労、不安又は抑うつの程度を定量化する手法が知られている。実際には、心拍よりも脈拍の方がより簡易に測定でき、脈波間隔を心拍間隔として用いても、感情変動の傾向を見る目的上は特に支障はない。そこで、検出装置1は、被験者の脈波を例えば毎日、少なくとも午前と午後の1回ずつ測り、脈波間隔の揺らぎ度を示す最大リアプノフ指数を算出し、その値に基づいて、被験者に負の感情が発生しているか否かを判定する。そして、検出装置1は、月単位の負の感情の発生頻度(負の感情の発生パターン)から数か月程度の期間における負の感情の継続性を判定し、MCIに特有の兆候を検出した場合には外部に通報する。
【0026】
図4(A)及び図4(B)は、撮像部10の外観を示す斜視図である。図4(B)では、撮像部10を保持するスタンド90に撮像部10が設置された状態を示している。図4(A)に示すように、撮像部10は、撮像素子11と、撮像部10の動作を設定するための表示部付タッチパネル19とを備える。図4(B)に示すように、スタンド90は、充電コネクタ91を内蔵しており、電源ケーブル92が商用電源に接続されることで撮像部10を充電する機能を備える。
【0027】
特に高齢者の中には、測定に対する恐怖感を抱く人や、測定時のセンサ装着などの測定行為そのものに抵抗を感じる人、測定説明を聞いただけで一時的に負の感情が現れる人などが存在し、適正に負の感情が測定できないことがある。そこで、検出装置1は、測定自体がストレスにならないように、撮像素子(カメラ)11を有する撮像部10を用いて、被験者の皮膚の露出部分(例えば、顔の額又は頬などの部位)を撮像する。そして、検出装置1は、得られた画像から血流に同期した輝度変化を抽出することで、被験者に対して非接触で、かつ被験者が無意識のまま、被験者の心拍情報である脈波信号を自動的に検出する。
【0028】
撮像素子11は、例えばCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)型又はCCD(Charge Coupled Device)型のイメージセンサである。撮像素子11は、測定の度に、図3に示すように、例えば被験者HKの額における測定枠Saの画像Grを、被験者の操作によらずに連続して複数枚、自動撮像する。測定枠Saは額に限られず、顔の中央などでもよい。撮像部10は、内蔵する顔認識のアプリケーションプログラムによって、被験者HKの額の測定枠Saを自動的に追尾する機能を有している。これにより、被験者HKが撮像部10の設置領域内で動き回っても、被験者HKの脈波を捉えることが可能である。図3に示すように、撮像部10は、撮像した被験者HKの画像データを、内蔵する無線通信機能により電波RWを介して情報端末5に送信する。
【0029】
撮像部10は、画像撮像により脈波を検出するものに限らず、非接触での心拍検知が可能なマイクロ波ドップラー方式のもの、又は常時装着の電極方式もしくは光電方式のものなどであってもよい。
【0030】
図5は、検出装置1のブロック図である。図5に示すように、検出装置1の情報端末5は、感情検出部20と、判定部30と、報知部40と、計時部50とを備える。感情検出部20は、顔認識部21と、脈波抽出部22と、間隔検出部23と、脈波メモリ24と、カオス解析部25と、測定値判定部26と、個人認識部27とを備える。判定部30は、感情判定部31と、感情データメモリ32と、MCI判定部33とを備える。報知部40は、表示部41と、送信部42とを備える。このうち、脈波メモリ24及び感情データメモリ32はハードディスク又は半導体メモリで構成され、表示部41は液晶表示ディスプレイで構成され、計時部50は公知の時計回路で構成される。その他の要素は、CPU、ROM及びRAMなどを含む情報端末5内のマイクロコンピュータにより、ソフトウェアとして実現される。
【0031】
顔認識部21は、撮像素子11が撮像した被験者HKの画像Grに対して輪郭検知アルゴリズム又は特徴点抽出アルゴリズムを用いて顔の様態を分析し、額などの皮膚露出部分を測定部位として特定する。顔認識部21は、その測定部位における皮膚色を示すデータである時系列信号E1を、脈波抽出部22、測定値判定部26及び個人認識部27に出力する。
【0032】
脈波抽出部22は、時系列信号E1から被験者HKの脈波信号を抽出し、その信号を間隔検出部23に出力する。被験者HKの額における測定枠Saの内部には毛細動脈が集中しているので、画像Grには被験者HKの血流に同期した輝度変化成分が含まれている。特に、画像Grの緑色光の輝度変化成分に脈波(血流変化)が最も反映されているので、脈波抽出部22は、人の脈波が有する略0.5~3Hzの周波数を通過させるバンドパスフィルタを用いて、時系列信号E1の緑色光の輝度変化成分から脈波信号を抽出する。
【0033】
撮像部10、顔認識部21及び脈波抽出部22は、被験者の心拍情報を検出する検出部の一例である。ただし、検出部の機能は必ずしも撮像部10と情報端末5に分かれていなくてもよく、例えば、顔認識部21と脈波抽出部22の機能を撮像部10に持たせてもよいし、撮像部10を情報端末5に含めてもよい。
【0034】
図6(A)~図6(C)は、脈波から負の感情を判定する原理を説明するためのグラフである。このうち、図6(A)は脈波信号PWの波形例を示し、横軸tは時間(ミリ秒)、縦軸Aは脈波の振幅の強さである。図6(A)に示すように、脈波信号PWは、心臓の拍動による血流量の変動を反映した三角波状であり、最も血流量が強いピーク点P1~Pnの間隔を脈波間隔d1~dnとする。
【0035】
間隔検出部23は、被験者HKの脈波信号PWのピーク点P1~Pnを検出し、計時部50を用いて脈波間隔d1~dnをミリ秒単位で算出し、さらに脈波間隔d1~dnから脈波間隔の時系列データを生成する。
【0036】
脈波メモリ24は、間隔検出部23により検出された脈波間隔d1~dnを脈波間隔の時系列データとして記憶する。
【0037】
図6(B)は、脈波間隔の揺らぎ度の例を示すグラフである。このグラフはローレンツプロットと呼ばれ、横軸を脈波間隔dn、縦軸を脈波間隔dn-1(ともに単位はミリ秒)とし、n=1,2,・・・について座標(dn、dn-1)上に脈波間隔の時系列データをプロットしたものである。図6(B)のグラフにおけるドットのバラつき度合いが被験者HKの脳疲労度を反映することが知られているので、表示部41に図6(B)のデータ散布図を表示すれば、被験者HKの測定中の脳疲労度を簡易的にモニタすることも可能である。
【0038】
カオス解析部25は、脈波メモリ24に記憶された脈波間隔の時系列データ、すなわち、図6(B)のローレンツプロットにおける座標(dn、dn-1)を用いて、以下の式1により最大リアプノフ指数λを算出する。
【0039】
【数1】
ここで、Mは脈波間隔d1~dnにおける総サンプル時間、dは時系列データの時刻kと時刻k-1とのパターン間距離(ローレンツプロットにおける2次元平面上の距離)である。カオス解析部25は、さらに、測定値判定部26から測定値が有効であることを示すデータを取得した場合にのみ、算出した最大リアプノフ指数λを感情判定部31に出力する。間隔検出部23及びカオス解析部25は、心拍情報から心拍間隔の揺らぎ度を示す最大リアプノフ指数を算出する算出部の一例である。
【0040】
測定値判定部26は、顔認識部21から時系列信号E1を取得する度に、以下の2つの判定基準が満たされているか否かを判定し、それらが両方とも満たされている場合に、測定値が有効であることを示すデータをカオス解析部25に出力する。判定基準の1つ目は、時系列信号E1のデータに予め定められた個数分、連続性があり、かつ画像Grの測定枠Saの移動量が所定範囲内に収まっていることであり、これは測定データが安静時のものであるか否かを見分けるための条件である。判定基準の2つ目は、画像Gr内に被験者HK以外の顔がないことであり、これは近くに他の人がいないことを確認するための条件である。
【0041】
個人認識部27は、顔認識部21から取得した画像データを基に、予め検出装置1に登録されている個人認証データ(顔の特徴データ等)を参照して、被験者が登録されている本人であることを確認し、その確認ができた場合にその旨を感情判定部31に通知する。
【0042】
図6(C)は、心拍又は脈波の間隔の揺らぎ度を示す最大リアプノフ指数と負の感情との関係を示すグラフである。このグラフは、成人男女10人を対象に問診アンケートを行って、疲れをどの程度感じるか、及び疲れが脳疲労、不安又は抑うつと感じる状態であるか否かを回答させると共に、同じ被験者について脈波間隔の最大リアプノフ指数λを測定し、得られた回答内容とλの値との関係をまとめたものである。F0は「疲れなし」に、F1は「年齢相当の疲れあり」に、F2は「一時的な疲れあり」に、F3は「慢性的な疲れあり」に、F4は「負の感情あり」にそれぞれ相当する。グラフの縦軸は最大リアプノフ指数λである。
【0043】
図6(C)から、最大リアプノフ指数は、単なる疲れの状態では0に近い絶対値の小さい値であるが、負の感情があるとマイナスで絶対値の大きな値となることが分かる。当該成人男女10名に関しては、測定のばらつきを考慮して、負の感情を感じるか否かの最大リアプノフ指数の閾値を-0.6程度に設定することができる。
【0044】
感情判定部31は、カオス解析部25から取得した最大リアプノフ指数λが以下の式2を満たす場合に、被験者に負の感情が発生していると判定し、λが式2を満たさない場合には、被験者に負の感情が発生していないと判定する。
【0045】
λ≦λt ・・・式2
ここで、閾値λtは一例として-0.6であるが、検出装置1に求められる特性によっては他の値を用いることがある。感情判定部31は、負の感情が発生していると判定した場合に、その旨を、測定日時の情報及び被験者に固有の識別情報と対応付けて、感情データメモリ32に記憶する。その際、最大リアプノフ指数λの値も併せて感情データメモリ32に記憶してもよい。感情判定部31は、最大リアプノフ指数に基づいて、被験者の感情が脳疲労、不安もしくは抑うつがある負の感情であるか否かを判定する感情判定部の一例である。
【0046】
MCI判定部33は、感情データメモリ32に記憶された情報を基に、被験者の負の感情の発生頻度を月単位で午前と午後で分けて集計する。そして、MCI判定部33は、集計により得られた負の感情の発生パターンに基づき、表1に示す判定条件にしたがって、被験者がMCIか又はそれ以外であるかを次のように判定する。
・負の感情の発生回数が月間20回以下であれば、発生時刻や発生期間に係わらず正常である。
・負の感情の発生回数に係わらず発生時刻が午前か午後の何れか一方のみであるか、又は負の感情の発生回数が月間20回以上でも継続が3か月間未満であれば、仮性認知症である。
・午前及び午後の両方で負の感情の発生回数が月間20回以上であり、かつそれが3か月間以上継続していれば、MCIである。
【0047】
ここで、負の感情の発生回数とは、最大リアプノフ指数λの測定値が上記の式2を満たした回数のことである。表1に示した負の感情の発生回数、発生期間、発生時刻及び継続期間の条件は一例であり、検出装置1に求められる特性に応じて他の数値を選択してもよい。MCI判定部33は、所定期間(表1の例では3か月以上の期間)における負の感情の発生頻度に基づいて被験者の正負感情の変動の有無を判定する変動判定部の一例である。
【0048】
【表1】
【0049】
報知部40は、MCI判定部33の判定結果を表示部41に表示させる。特に、報知部40は、MCI判定部33がMCIであると判定した場合に、その旨の警告を表示部41に表示させると共に、送信部42を介して外部に送信する。報知部40は、変動判定部の判定結果を出力する出力部の一例である。
【0050】
図7(A)~図7(D)は、検出装置1の表示例を示すグラフである。図7(A)は正常の被験者に、図7(B)は仮性認知症の被験者に、図7(C)は図7(B)とは別の仮性認知症の被験者に、図7(D)はMCIの被験者に、それぞれ検出装置1を適用した結果であり、これらのグラフは表示部41に表示される。各図の横軸Mは検出装置1を適用した月であり、「1」は適用開始月、「8」は適用最終月である。縦軸Nは負の感情の月間の発生回数であって、白抜きの棒グラフは午前(AM)における負の感情の発生回数、黒
抜きの棒グラフは午後(PM)における負の感情の発生回数である。
【0051】
図7(A)の例では、適用開始月から適用最終月までの間、負の感情の発生回数が20回以下である。これは、表1に示す「正常」の範囲内であるので、検出装置1は、正常であることを示す「-」をグラフの左上に表示する。
【0052】
図7(B)の例では、適用開始月から5か月間は負の感情の発生回数が20回以下であり、運用開始から6か月目から適用最終月までの間は負の感情の発生回数が20回以上であるものの、それは午前に集中している。これは、表1に示す「仮性認知症」の一方の条件である「月間の回数に係わらず午前、午後の何れか一方」に該当するので、検出装置1は、仮性認知症であることを示す「±」をグラフの左上に表示する。
【0053】
図7(C)の例では、午前及び午後の何れにおいても負の感情の発生回数が20回以上の月があるが、それらは3か月間継続していない。これは、表1に示す「仮性認知症」の他方の条件である「月間20回以上で継続が3か月未満」に該当するので、検出装置1は、図7(B)と同様に「±」と表示する。
【0054】
図7(D)の例では、適用開始から6か月目から適用最終月までの間、午前及び午後の何れにおいても3か月間継続して負の感情の発生回数が20回以上である。これは、表1に示す「MCI」の条件である「月間20回以上で継続が3か月以上」かつ「午前及び午後で月間20回以上」に該当するので、検出装置1は、MCIであることを示す「+」をグラフの左上に表示する。
【0055】
図8は検出装置1の動作を示すフローチャートである。まず、使用者により情報端末5の電源が投入されると、情報端末5は電波RWによって撮像部10の電源を投入する(S1)。こうして検出装置1の電源が投入されると、撮像部10は撮像素子11によって被験者HKの測定枠Saの画像Grを撮像し、その画像データを情報端末5に送信する(S2)。続いて、顔認識部21は被験者HKの画像データから測定部位を特定し、個人認識部27は被験者HKを識別する(S3)。脈波抽出部22は、顔認識部21が特定した測定部位の皮膚色の時系列信号E1から被験者HKの脈波信号を抽出する(S4)。間隔検出部23は、S4の脈波信号から脈波間隔を算出してその時系列データを生成し、その時系列データを脈波メモリ24に記憶させる(S5)。
【0056】
次に、カオス解析部25は、S5で記憶された脈波間隔の時系列データに基づいて脈波間隔の最大リアプノフ指数λを算出する(S6)。感情判定部31は、その値を閾値λtと比較し(S7)、λがλt以下である場合(S7でYes)には、負の感情が発生したと判定して、その旨を測定日時などの情報と対応付けて感情データメモリ32に記憶する(S8)。
【0057】
さらに、MCI判定部33は、負の感情の発生頻度を月単位で集計し、その集計値が正常、仮性認知症又はMCIの何れの条件を満たしているか判定する(S9)。S9でMCIと判定された場合(S9でYes)には、報知部40は、その旨の警告を表示部41に表示させると共に、送信部42を介して外部に送信する(S10)。その後、情報端末5は、撮像部10による被験者の測定を継続するか中止するかを判定する(S11)。継続する場合(S11でNo)にはS2に戻り、中止する場合(S11でYes)には、情報端末5は撮像部10の動作を停止させて、一連の処理を終了する。
【0058】
検出装置1は、撮像部10を用いて、被験者に対して非接触で、かつ被験者が無意識のまま脈波を測定するため、被験者HKには測定によるストレスが発生しない。例えば光電式センサを用いて脈拍を測定する場合には、指先とセンサとの接触を一定に保たなくてはならないという制約によって被験者にストレスが発生し、このストレスが測定結果に影響することがあるが、検出装置1ではこのような問題は生じない。また、検出装置1では、撮像部10を被験者HKの傍らに置いておけば自動測定が可能となり、被験者の行動が束縛されない。さらに、必ずしもリアルタイムで測定する必要はなく、撮像素子11で撮像した動画データを用いて後からMCIの判定を行うことも可能であるため、被験者に測定を意識させずに自然な状態での脈波信号を取得することができる。
【0059】
検出装置1は、正常、仮性認知症及びMCIの各状態の検出を確実かつ正確に行うことが可能であり、被験者の精神疾患状態の継時的変化を容易に把握可能にする。特に、検出装置1では、MCIの特徴である負の感情の午前及び午後での発生状況を定量的に捉えられるので、MCIに酷似する老齢性うつ病による仮性認知症との判別が可能である。例えば図7(D)に示す例では、適用開始から5か月目と6か月目の中間時期Htにおいて被験者がMCIを発症したとの推定が可能であり、検出装置1はMCIの臨床診断においても有用である。
【0060】
図9は、別の撮像部10aを用いた検出装置1の使用状態を示す斜視図である。撮像部10aは、図3の撮像部10に個人特定機能が加わったものである。撮像部10aを用いる場合には、図9に示すように、複数の被験者のそれぞれが、例えば胸部などに、被験者毎に異なる形状の個人特定マークを着ける。図示した例では、被験者HKは星形の形状の個人特定マークNmを着けているが、個人特定マークとしては文字又は記号が記載されたものを用いてもよい。撮像部10aは、撮像素子11が撮像した画像Gr内の個人特定マークNmを画像認識により特定し、予め登録された複数人の中から測定対象の被験者HKを特定したのち、被験者HKの識別情報と測定枠Saの画像Grとを1組のデータ群として情報端末5に送信する。いわゆる顔認証で被験者個人が識別されてもよい。
【0061】
撮像部10aを用いれば、複数の被験者を個々に特定し、各被験者について個別にMCIを判定することが可能である。このため、例えば介護施設などにおいて複数人で検出装置1を共有することができるので、MCIの判定を効率的かつ廉価に行うことができる。
【0062】
[実施形態2 マインドフルネス状態への転換と集中力の有無の判定]
認知機能低下に対する防御因子としては、有酸素運動や、行動日記を付けるなどの認知療法は効果があることが知られている。しかしながら、有酸素運動や認知療法は、中高年や高齢者では実践できる人が限定されてしまい、現在のところ、MCIの段階で万人が実践できる認知症の予防法や、MCIの改善法は知られていない。検出装置1はMCIを判定できるが、検出だけでなく、誰でも実践できMCIの段階で認知症の発症を予防できるような付加機能があることが好ましい。
【0063】
そこで、本実施形態では、検出装置1のMCI判定とマインドフルネス療法とを応用し、認知症が進行しないように、健常者及びMCI段階の人が受動的に予防改善をすることができる装置について説明する。
【0064】
図10は、検出装置2のブロック図である。検出装置2は、例えばスマートフォン又はタブレット端末などでよい。検出装置2は、撮像部110と、感情検出部120と、判定部130と、感情誘導部140と、表示部41と、スピーカ43と、計時部170と、誘導時間調整部36と、を備える。検出装置2は、使用者に対して呼吸誘導と音楽再生による感情誘導を行うことにより、使用者の意識を集中させて脳をマインドフルネス状態に(すなわち、負の感情を正の感情に)転換させると共に、誘導中の正負感情の変動を使用者にフィードバックする。
【0065】
撮像部110は、検出装置1の撮像部10と同様に、使用者の脈波を検出するために、使用者の皮膚の露出部分を撮像する。撮像部110は、検出装置2内に一体化されているが、検出装置1と同様に、検出装置を構成するタブレット端末などとは別体になっていてもよい。あるいは、撮像部110に代えて、使用者の心電波又は脈波を検出するセンサを用いてもよい。
【0066】
感情検出部120は、検出装置1のものと同じ顔認識部21、脈波抽出部22、間隔検出部23、脈波メモリ24及びカオス解析部25を備え、感情誘導部140による誘導中に、例えば数十秒間隔で、脈波間隔の最大リアプノフ指数を算出する。検出装置2では、感情検出部120は、心拍数算出部28をさらに備える。心拍数算出部28は、最大リアプノフ指数の算出と同様に一定間隔で、間隔検出部23により得られた脈波間隔から使用者の心拍数(脈拍数)を算出する。
【0067】
判定部130は、感情判定部31と、感情データメモリ32と、効果判定部34と、心身状態判定部35と、を備える。感情判定部31及び感情データメモリ32は検出装置1のものと同様である。ただし、検出装置2の感情判定部31は、カオス解析部25から取得した最大リアプノフ指数λが式2を満たさない場合には、使用者に正の感情が発生していると判定する。さらに、感情判定部31は、感情誘導部140による誘導中に感情判定部31により判定された使用者の感情状態(負の感情と正の感情の何れであるか)を表示部41に表示させる。あるいは、感情判定部31は、最大リアプノフ指数λの値の大小に応じて、使用者の感情状態を例えば「正の感情(ストレスフリー)」、「活動中」、「軽い負の感情(軽疲労状態)」及び「負の感情(疲労状態)」4つに分け、使用者が何れの区分に属するかを表示してもよい。
【0068】
効果判定部34は、変動判定部の一例であり、感情誘導部140が誘導を継続している期間(感情誘導時間)における使用者の正負感情の変動の有無を判定する。そのために、効果判定部34は、感情データメモリ32を参照して、感情誘導時間中における正の感情の発生率を算出し、その値を、検出装置2の使用によるマインドフルネスの達成率(負の感情から正の感情への改善度)として、表示部41に表示させる。正の感情の発生率は、(正の感情と判定された回数)/(感情判定部31が判定を行った回数)で定義される値である。すなわち、効果判定部34は、使用者が検出装置2を使用することで感情状態がどの程度改善されたかを数値化して、使用者にフィードバックする。
【0069】
心身状態判定部35は、感情誘導部140が正の感情への誘導を継続している感情誘導時間における被験者の最大リアプノフ指数に基づいて、被験者が所定の心身状態か否か判定する。所定の心身状態は例えば集中力が低下した(切れた)状態をいう。集中の対象は呼吸及び音楽の少なくとも一方である。マインドフルネス状態への転換の間、被験者はマインドフルネス状態への転換の最中であることを意識している(集中している)ことが求められている。これはMCI判定の正確さのためである。なお、所定の心身状態は、検出装置2が指導する息を吸うことと吐くことにユーザーがついて行けない心身状態であれば集中力が低下した状態でなくてもよい。例えば、所定の心身状態には、傾注していない、専心していない、注意していない状態などがふくまれてよい。また、心身状態判定部35は、被験者が集中しているか否かを判定すると共に、集中度を推定してもよい。また、心身状態判定部35は、最大リアプノフ指数までは用いずに、被験者の身体の動きに基づいて所定の心身状態か否か判定してもよい。詳細は図15にて説明する。
【0070】
感情誘導部140は、呼吸誘導部141と、音楽再生部142とを備え、使用者を無心化させ、意識を呼吸及び音楽に集中させることで、使用者を正の感情に誘導する。
【0071】
呼吸誘導部141は、被験者が息を吸いかつ吸う速度よりも遅く息を吐く深呼吸を行うように促すことで、被験者の意識を呼吸に集中させる。速く吸って遅く吐く深呼吸をすると、横隔膜を刺激し、結果として自律神経が安定するので、正の感情への感情状態の改善に効果がある。この深呼吸は、例えば2秒で吸って6秒で吐くなど、吐く期間が吸う期間の2~3倍となる呼気延長深呼吸であることが好ましい。そこで、呼吸誘導部141は、表示部41への表示により、息を吸うタイミングと息を吐くタイミングとを使用者に報
知する。その際、例えば、後述する図11に示すように、吸う期間と吐く期間の最初から最後まで徐々に長さが変化するバーを表示してもよい。人は、動いているものや変化しているものに意識を集中する習性があるので、こうしたバーの変化を目で追わせることで、意識が表示や呼吸に集中し、負の感情のことを考えなくなる無心化の効果が得られる。
【0072】
音楽再生部142は、呼吸の周期よりも長いフレーズを含む音楽を再生することで、使用者の意識を音楽に集中させる。音楽再生部142が再生する曲は、フレーズ周期が呼吸誘導部141による誘導呼吸の周期よりも長い曲とする。これは、フレーズ周期が誘導呼吸の周期よりも短いと、表示部41の表示バーではなく曲の方に呼吸が合ってしまい、誘導呼吸の効果が半減してしまうためである。
【0073】
このフレーズ周期の条件に加えて、音楽再生部142が再生する曲は、次の3つの条件のうち少なくとも1つを有することが好ましい。
(1)曲のテンポ音が4~6kHzのビートで構成されている。
(2)曲の音階の周波数分布の中心が528Hzである。
(3)曲のテンポの感覚的BPM(Beats Per Minute)と安静心拍数のBPMが一致する。
これらは、自律神経安定に効果があると言われている複数の曲が共通して有する条件である。(1)は、背骨及び脳幹に共鳴し易いビート音の周波数が4~6kHzであるためであり、(2)は、細胞が自己修復する周波数が528Hzと言われているためである。(3)は、曲のテンポが心拍と一致していると安らぎが得られやすいためである。
(3)の条件を満たすために、音楽再生部142は、心拍情報から算出される被験者の心拍数に応じて音楽の再生ピッチを制御してもよい。そのためには、音楽再生部142は、心拍数算出部28から使用者の心拍数(脈拍数)を取得し、曲の再生ピッチを心拍数に合うように調整すればよい。例えば、3拍子曲の場合には、感覚的テンポは物理的テンポ(実際のテンポ)の0.66倍であるから、実際のテンポが101.68BPMである曲の感覚的テンポは66.9BPMである。成人の安静心拍数の平均は約65BPMであるから、実際のテンポが101.68BPMである曲を再生する場合には、音楽再生部142は、心拍数に応じて曲の再生速度を微調整すればよい。
【0074】
表示部41は、出力部の一例であり、感情誘導部140の誘導中に、感情判定部31が負の感情と正の感情の何れの判定をしたかを定期的に表示し、感情誘導部140の誘導が終了した後に、効果判定部34が算出した正の感情の発生率(達成率)及び集中力の有無の判定結果を表示する。表示部41は、こうした表示することで、使用中の感情状態及び使用後の感情状態の改善効果を使用者に実感させる。
【0075】
スピーカ43は、音楽再生部142が音楽を再生するためのものである。音楽はヘッドホンで使用者に聴かせてもよく、この場合には、検出装置2は、スピーカ43に代えてイヤホンジャックを有してもよい。計時部170は、検出装置1の計時部50と同じものである。
【0076】
誘導時間調整部36は、心身状態判定部35による集中力の有無の判定結果に応じて、感情を誘導する感情誘導時間(マインドフルネス状態への転換時間)を調整する。誘導時間調整部36は、被験者の集中力が低下している場合、次回の感情誘導時間を短くし、集中力が低下していない場合、次回の感情誘導時間を長くする。あるいは、誘導時間調整部36は、被験者の集中力が低下している場合、今回のマインドフルネス状態への転換を中断してもよいし、今回の感情誘導時間を短縮したり延長したりしてもよい。
【0077】
図11は、検出装置2の表示画面150の例を示す図である。図11に示すように、表示部41には、撮像部110により撮像された使用者の顔画像151が、例えば画面左側に表示される。符号152は顔認識部21により認識された顔領域であり、符号153は、脈波を抽出するための測定枠である。画面の左下には、測定の開始及び終了を指示するためのボタン154,155が表示され、その右隣には、心拍数算出部28により算出された使用者の脈拍数が表示される(符号156)。
【0078】
画面右上には、呼吸誘導部141が呼吸誘導を行うための円形のプログレスバー157が表示される。このバーは、例えば、息を吸う期間中に、図中矢印で示すように、黒色の領域が12時の位置から時間経過と共に時計回りに延びて円上を1周分埋め尽くし、次の息を吐く期間中にも同様に、黒色の領域が12時の位置から時計回りに1周分延びる。こうしたバーの形状は、円形のものに限らず、例えば直線状のものであってもよい。画面右下には、感情判定部31が判定した使用者の感情状態が表示され(符号158)、この表示は例えば40秒毎などの一定間隔で更新される。さらに、画面右下には、呼吸誘導部141による呼吸誘導及び音楽再生部142による音楽再生の終了後に、効果判定部34が算出した正の感情の発生率(達成率)が表示される(符号159)。
【0079】
図12は、検出装置2の動作例を示すフローチャートである。まず、撮像部110と感情検出部120は、検出装置1と同様に使用者の脈波を検出し(S21)、心拍数算出部28は、脈波間隔から使用者の心拍数を算出する(S22)。音楽再生部142は、S22で算出された心拍数と合うように、音楽の再生ピッチを調整する(S23)。その上で、呼吸誘導部141と音楽再生部142は、呼吸誘導と音楽再生を行う(S24)。並行して、カオス解析部25は、S21で検出された脈波から最大リアプノフ指数λを算出し(S25)する。カオス解析部25は、最大リアプノフ指数λを時系列に記録する。
【0080】
感情判定部31は、最大リアプノフ指数λを閾値λtと比較する(S26)。感情判定部31は、λがλt以下である場合(S26でYes)には負の感情が発生したと判定し、λがλtよりも大きい場合(S26でNo)には正の感情が発生したと判定して、その旨を感情データメモリ32に記憶する(S27,28)。続いて、感情判定部31は、最大リアプノフ指数λの値の大小に応じて、使用者の感情状態が「正の感情」、「活動中」、「軽い負の感情」及び「負の感情」の何れの区分に属するかを表示部41に表示させる(S29)。
【0081】
また、心身状態判定部35は感情誘導時間における最大リアプノフ指数に基づいて、被験者が呼吸に集中しているか否かを判定する(S30)。誘導時間調整部36は、集中力がないと判定された場合、今回の正の感情への誘導を終了してよい。この場合、ステップS31で誘導終了と判定される。集中力がないと判定された場合、誘導時間調整部36は、当初の設定よりも感情誘導時間を短くしてもよい。また、集中力があると判定された場合、誘導時間調整部36は、今回の感情誘導時間を当初の設定よりも長くしてよい(正の感情への誘導の継続)。
【0082】
そして、感情検出部120は呼吸誘導部141と音楽再生部142による誘導を終了するか否かを判定する(S31)。終了しない場合(S31でNo)にはS21に戻り、終了する場合(S31でYes)には、効果判定部34は、正の感情の発生率(達成率)を算出し(S32)、その値を表示部41に表示させる(S33)。
【0083】
マインドフルネスへの転換が終了すると、誘導時間調整部36が集中力の有無の判定結果に応じて調整した感情誘導時間を表示部41に表示させる(S34)。誘導時間調整部36は、集中力がないと判定された場合、次回の感情誘導時間を短くし、集中力があると判定された場合、次回の感情誘導時間をなくしてよい。
【0084】
また、心身状態判定部35は、負の感情の発生、感情誘導時間、集中力の有無、及び日付及びをユーザーに対応付けて記録することが好ましい。すなわち、図8のステップS8で負の感情の発生だけでなく感情誘導時間、集中力の有無、日付及びユーザーが記録される。感情誘導時間が短く調整されている場合には早期にMCI判定が可能になる。
【0085】
図13(A)~図13(D)は、感情誘導の有無による正負感情の変動の差異を示すグラフである。各図の横軸tは時間(秒)であり、縦軸は最大リアプノフ指数λである。グラフ中の領域R+(λ>0)は正の感情に、領域R-(λ<0)は負の感情に、それらの間の領域R0(λ≒0)は正負の中間の感情に、それぞれ対応する。時刻0で負の感情であった使用者に対し、図13(A)は呼吸誘導と音楽再生の何れも行わなかった場合の、図13(B)は音楽再生のみを行った場合の、図13(C)は呼吸誘導のみを行った場合の、図13(D)は呼吸誘導と音楽再生の両方を行った場合の、感情状態の時間変化を示す。図13(B)~図13(D)では、時刻t1~t2の長さTの期間で感情誘導が行われたとする。
【0086】
図示した例では、10回の感情判定のうち、図13(A)では2回、図13(B)では8回、図13(C)では9回、図13(D)では10回、正の感情と判定されており、その発生率は、それぞれ20%、80%、90%及び100%である。図13(A)に示すように、感情誘導がなければ負の感情がほぼ維持されるが、図13(B)~図13(D)に示すように、感情誘導があると負の感情が正の感情に改善されることが分かる。この改善効果は、音楽再生のみを行った場合の図13(B)よりも、呼吸誘導を行った図13(C)及び図13(D)の場合の方がより顕著に現れる。特に、図13(D)に示すように、呼吸誘導と音楽再生の両方を行うと、正の感情が持続し易く、感情状態の改善効果は最も高くなる。
【0087】
このように、感情誘導としては呼吸誘導と音楽再生の両方を行うことが好ましい。ただし、呼吸誘導と音楽再生の一方だけでも感情状態の改善効果は見られるので、検出装置2は、感情誘導部として、呼吸誘導部141と音楽再生部142の一方のみを有してもよい。
【0088】
検出装置2では、装置の前に座り、例えば1日15~20分程度、流れる音楽を聴きながら表示に合わせて呼吸するだけでよいため、誰でも使用することができる。検出装置2では、使用期間中の正の感情の発生率がマインドフルネス達成率として表示されるので、使用者が効果を実感し易く、使用者に使用の動機付けを与えることもできる。
【0089】
次に、図14を参照して、最大リアプノフ指数に基づく集中力の有無の判定について説明する。図14は、時系列に記録された正負感情に基づいて集中力の有無を判定する方法を説明する図である。なお、説明の便宜上、図13と同じグラフを使用して説明する。
【0090】
図14(A)は、図13(D)と同じグラフであるが、被験者が集中している場合のグラフを示す。被験者が集中している場合は最大リアプノフ指数λも安定していることが知られている。したがって、図14(A)に示すように、最大リアプノフ指数λが安定している場合は、心身状態判定部35は被験者が集中力していると判定できる。
【0091】
また、図14(B)は、図13(A)と同じグラフであるが、被験者が集中していない場合のグラフを示す。図14(B)では、最大リアプノフ指数λが波打っているし、丸210で囲んだ領域では最大リアプノフ指数λが正から負に変化している。被験者がMCIでない場合、マインドフルネス状態への転換時には徐々に最大リアプノフ指数λが増大し、その後は安定することが一般的な波形である。このように、マインドフルネス状態への転換時には最大リアプノフ指数λが正から負に変化することが起こりにくいので、最大リアプノフ指数λが正から負に変化している場合、心身状態判定部35は被験者が集中力していないと判定できる。
【0092】
図14(B)のように、集中していないと判定するのは一例であって、心身状態判定部35は以下のように判定してもよい。
・最大リアプノフ指数λが正から負に変化することがN回以上(N≧1)の場合に、被験者が集中力していないと判定する。
・最大リアプノフ指数λの傾きが負、かつ、変化の絶対値が閾値以上であることがM回以上(M≧1)の場合に、被験者が集中力していないと判定する。
・1点目の最大リアプノフ指数λと最後の最大リアプノフ指数λを結ぶ直線の傾きが負の場合に、被験者が集中力していないと判定する。マインドフルネス状態への転換中における全ての最大リアプノフ指数λを直線近似してその傾きが負の場合に被験者が集中力していないと判定してもよい。
【0093】
また、図15にて説明するように、心身状態判定部35は、最大リアプノフ指数λのみから集中力の有無を判定しなくてもよい。図15は、画像データから検出される被験者の身体の動きにより集中力の有無を判定する方法を説明する図である。被験者の身体の動きとは、被験者に落ち着きがあるか否かを判定できる身体の動きをいう。ここでは、顔の動き、目の動き、肩の動き等に例にして説明する。
【0094】
感情誘導時間の間、顔認識部21は常に顔領域152を検出している。被験者が集中していない場合、顔領域152が上下左右に移動すると考えられる。そこで、心身状態判定部35は、一定時間ごとに顔領域152の移動量を蓄積し、移動量が閾値以上の場合に、被験者が集中していないと判定する。
【0095】
また、顔認識部21は既存の画像処理により被験者の瞳孔158を検出することができる。被験者が集中している場合、瞳孔158は画面を中止するので大きく移動しない。一方、被験者が集中していない場合、瞳孔158が左右に移動する量が大きくなると考えられる。そこで、心身状態判定部35は、一定時間ごとに瞳孔158の移動量を蓄積し、移動量が閾値以上の場合に、被験者が集中していないと判定する。
【0096】
心身状態判定部35は、最大リアプノフ指数λ、顔領域152の移動量、及び、瞳孔の移動量の2つ以上に基づいて集中力の有無を判定してよい。例えば、心身状態判定部35は以下のように判定する。
・最大リアプノフ指数λと顔領域152の移動量の両方又は一方で集中力がないと判別される場合に集中力がないと判定する。
・最大リアプノフ指数λと瞳孔158の移動量の両方又は一方で集中力がないと判別される場合に集中力がないと判定する。
・顔領域152の移動量と瞳孔158の移動量の両方又は一方で集中力がないと判別される場合に集中力がないと判定する。
【0097】
なお、被験者の肩の動き(左右、傾き)の変化に基づいて、心身状態判定部35が集中力の有無を判定してもよい。被験者の肩の位置は、骨格検知などの既存の画像処理により認識される。
【0098】
また、心身状態判定部35は、機械学習を使用して被験者の集中度を推定してもよい。機械学習とは、コンピュータに人のような学習能力を獲得させるための技術であり、コンピュータが、データ識別等の判定に必要なアルゴリズムを、事前に取り込まれる学習データから自律的に生成し、新たなデータについてこれを適用して予測を行う技術のことをいう。機械学習のための学習方法は、教師あり学習、教師なし学習、半教師学習、強化学習、深層学習の何れの方法でもよく、さらに、これらの学習方法を組み合わせた学習方法でもよく、機械学習のための学習方法は問わない。
【0099】
機械学習により集中力の有無を判定する場合、例えば、最大リアプノフ指数λの一定時間の変化量、顔領域152の座標の一定時間の変化量、及び、瞳孔の座標の一定時間の変化量を入力、集中度(例えば3~10段階で自己申告された値や脳波計測などで測定された値)を正解の出力とするディープラーニングでモデル化する方法がある。このモデルは、上記の入力に対し、被験者の集中度を出力する。
【0100】
図16は、機械学習を使用した集中度推定部230の機能ブロック図である。図16に示されるように、集中度推定部230は、入力情報取得部221、トレーニングデータ格納部222、機械学習部223、学習済みモデル格納部224、及び、推論部225を備えることができる。以下、それぞれについて説明する。まず、入力情報取得部221は、最大リアプノフ指数λの一定時間の変化量、顔領域152の座標の一定時間の変化量、及び、瞳孔の座標の一定時間の変化量を取得する。一定時間は例えば最大リアプノフ指数λが算出される間隔である。
【0101】
<学習フェーズ>
トレーニングデータ格納部222には、機械学習のためのトレーニングデータが格納されている。トレーニングデータは、入力情報取得部221が取得した最大リアプノフ指数λの一定時間の変化量、顔領域152の座標の一定時間の変化量、及び、瞳孔の座標の一定時間の変化量(入力データ)と、予め既知の集中度(教師データ)を1組とし、これが複数組用意されたデータである。
【0102】
機械学習部223は、トレーニングデータのうち入力データから、集中度を出力するための学習済みモデルを生成する。具体的には、機械学習部223は、入力データと被験者の集中度(教師データ)を用いて機械学習を行い、学習済みモデルを生成する。また、機械学習部223は、生成した学習済みモデルを学習済みモデル格納部224に格納する。学習済みモデル格納部224には、機械学習部223が生成した学習済みモデルが格納されている。
【0103】
<推論フェーズ>
推論部225は、現在の被験者から検出された上記の入力データを取得して、集中度を推論する。具体的には、推論部225は、入力情報取得部221から、最大リアプノフ指数λの一定時間の変化量、顔領域152の座標の一定時間の変化量、及び、瞳孔158の座標の一定時間の変化量を取得する。また、推論部225は、学習済みモデル格納部224内の学習済みモデルにこの入力データを入力して、被験者の集中度を出力する。心身状態判定部35は、集中度を閾値(集中度が10段階の場合、例えば6とする)と比較して、集中力の有無を判定する。なお、推論部225は1つの最大リアプノフ指数が算出されるごとに集中度を推論できる。
【0104】
<感情誘導時間を用いたMCIの判定の一例>
実施形態1では、図8のステップS9で説明したようにMCI判定部33が過去の最大リアプノフ指数λに基づいて被験者がMCIか否かを判定した。本実施形態のように被験者が集中力を維持し易い短い感情誘導時間に調整しても、負の感情が多いならMCIであると判定しやすくなる。
【0105】
図17は、MCI判定部33が最大リアプノフ指数λに基づいて被験者がMCIか否かを判定するフローチャート図である。図17の処理は、図8のステップS9と同様のタイミングで実行される。
【0106】
まず、MCI判定部33は負の感情のうち閾値未満の感情誘導時間で記録されている負の感情の発生頻度を月単位で集計する(S41)。感情誘導時間の初期値が400秒とすると、閾値は例えば200秒などでよい。
【0107】
次に、MCI判定部33は、表1の判定条件を緩和する(S42)。緩和とは、MCIと判定しやすくすることをいう。表1によればMCIの判定条件は以下のとおりである。
・午前及び午後の両方で負の感情の発生回数が月間20回以上(閾値以上の一例)であり、かつそれが3か月間以上継続していれば、MCIである。
これを緩和する場合、例えば以下のようになる。
・午前又は午後に負の感情の発生期間が月間20回以上である。
【0108】
なお、このように緩和すると「負の感情の発生回数が月間20回以上」という仮性認知症の条件にも適合するので、MCI判定部33は、例えば「仮MCI」と判定してもよい。また、月間20回以上という条件は一例であって月間5回以上でもよい。
【0109】
MCI判定部33は、負の感情の発生頻度が緩和した条件を満たす場合(S43のYes)、MCIである可能性が高いと判定する(S44)。
【0110】
このように、被験者が集中力を維持し易い短い感情誘導時間に調整することで、MCIの判定精度を上げることができる。
【0111】
<感情誘導時間の調整の表示例>
図18は、検出装置2の表示画面150の例を示す図である。図18の説明では主に図11との相違を説明する。図18の表示画面150は、集中力が切れていたと判定された場合に表示される画面である。このため、図18の表示画面150には、「次回の測定は時間を1分短く設定します」というメッセージ171が表示されている。すなわち、このメッセージ171は感情誘導時間を短くする旨を示す。被験者は、次回の感情誘導時間が短くなったことを把握できる。
【0112】
感情誘導時間の終わりまで集中力が続いていたと判定された場合、図2に示したように、表示画面150には、「次回の測定は時間を1分長く設定します」というメッセージが表示される。なお、調整により増減する1分は一例であり、20秒や30秒など別の時間でもよい。
【0113】
また、図19に示すように、表示画面が被験者の集中力について表示してもよい。図19は、被験者が集中していた又は集中していなかった時間帯を有する表示画面180である。図19の表示画面180は、集中有無判定バー181を有している。集中有無判定バー181は、感情誘導時間に対応付けて、被験者が集中していなかった時間帯182,183を集中していた時間帯とは異なる色で示す。時間帯182,183は、正の感情から負の感情に変化した2つの最大リアプノフ指数の間、又は、2つの最大リアプノフ指数の傾きが負で絶対値が閾値以上の時間帯等である。ユーザーは色に注意することで、集中していなかった時間帯を容易に把握できる。被験者の集中力の有無だけでなく、時系列に集中度が推定されている場合、表示部41は、集中度に応じた色を各時間帯に配色してもよい。
【0114】
また、集中力が低下している状態においてMCIの判定精度が低下することを考慮すると、効果判定部34は達成率を集中度に応じて低減してもよい。
【0115】
図20は、集中度に応じて低減された達成率を含む表示画面190を示す。図20では、集中有無判定バー181の下部に集中度を考慮した場合の達成率191が表示されている。したがって、被験者は集中度を考慮した達成率についても把握できる。被験者が集中していない時間が長いと達成率は低めの傾向になるので、達成率が低くても集中していないことが分かれば(集中すれば達成率が上がると期待できる)、被験者がマインドフルネス状態への転換に取り組むことを継続しやすい。また、次回は集中しようという動機付けになる。
【0116】
なお、効果判定部34は、集中していなかった時間帯が1回あるごとに、例えば5~10%、達成率を小さくしてよい。集中度(1~5段階など)が推定されている場合、効果判定部34は、集中度が1~3の場合に、集中度に応じた1未満の係数(集中度が大きいほど大きい)を達成率に乗じる。効果判定部34は、集中度が4,5の場合、集中しているとみなして達成率を低減しない。
【0117】
[実施形態3]
本実施形態では、検出装置の別の形態について説明する。
図21(A)~図21(D)は、検出部10b,10cを示す図である。図21(A)~図21(C)に示す検出部10bは、心電波を検知するための1組の電極14L,14Rを有する。図21(A)及び16(B)に示すように、電極14L,14Rは、検出部10bの本体ケースの左側側面と右側側面に設けられている。図21(C)に示すように、被験者が両手で検出部10bの本体ケースをつかみ、左手70Lと右手70Rが電極14L,14Rにそれぞれ触れている間に、検出部10bは、被験者の心電波を連続して検知する。このように、心拍情報を検出する検出部は、画像撮像により脈波を検出するものに限らず、電極を有するセンサであってもよい。さらに、検出部10bなどの電極型のセンサでは、被験者が長時間把持し易いように、例えば電極の上面にバンドを設けてもよい。
【0118】
図21(D)に示す検出部10cは、腕時計型の脈波センサである。検出部10cは、時計の裏面に脈波センサ14を有し、時計のバンド16を手70に着けることで脈波を検知し、測定値を時計の表示部15に表示させる。検出部10cのように腕時計型の形態であれば、被験者が違和感なくセンサを身に着けて、心拍情報を検出することができる。
【0119】
図22は、検出システム300の構成例を示す。図22の検出システム300は、Webアプリにより、MCI判定とマインドフルネス状態への転換を行う。Webアプリとは、Webブラウザ上で動作するプログラミング言語(例えばJavaScript(登録商標))によるプログラムとWebサーバ側のプログラムが協調することによって動作するアプリケーションである。これに対し、端末装置にインストールされなければ実行されないアプリケーションをネイティブアプリという。
【0120】
図22では、情報処理システム302と、端末装置301とがインターネット等の広域的なネットワーク303を介して通信可能に接続されている。端末装置301は、企業や自宅などの施設に敷設されたLAN等に接続されている。また、端末装置301は、外出先に存在していてもよい。LANは、Wi-Fi(登録商標)、広域イーサネット(登録商標)、4G、5G、6G等の携帯電話網、などでもよい。端末装置301は、常にLAN等に接続している必要はない。
【0121】
情報処理システム302は、一台以上の情報処理装置で実現される。MCI判定とマインドフルネス状態への転換は、端末装置301と情報処理システム302のどちらでも行うことができる。まず、情報処理システム302がMCI判定とマインドフルネス状態への転換を行う場合を説明する。
【0122】
情報処理システム302は、端末装置301から送信された被験者の画像データに対し、図8又は図12の処理を行う。この処理において、端末装置301が表示する表示画面150、180,190を表示するためのWebページを情報処理システム302が生成し、Webページを端末装置301に送信する。Webページは、HTML、XML、スクリプト言語、及びCSS(Cascading Style Sheet)等で記述されたプログラムであり、主にHTMLによりWebページの構造が特定され、スクリプト言語によりWebページの動作が規定され、CSSによりWebページのスタイルが特定される。端末装置301は、受信したWebページに基づいて表示画面150、180、190をWebブラウザ等で表示できる。
【0123】
情報処理システム302は、クラウドコンピューティングにより実現されてもよいし、単一の情報処理装置によって実現されてもよい。クラウドコンピューティングとは、特定ハードウェア資源が意識されずにネットワーク上のリソースが利用される形態をいう。情報処理システム302は、インターネット上に存在しても、オンプレミスに存在してもよい。
【0124】
端末装置301がMCI判定とマインドフルネス状態への転換を行う場合を説明する。端末装置301は、情報処理システム302からWebアプリを取得する。このWebアプリにはスクリプト言語で記述されたプログラムが含まれる。端末装置301はプログラムを実行することで、MCI判定とマインドフルネス状態への転換を行う。したがって、この場合、端末装置301がWebアプリを受信した後は、実施形態1,2と同様になる。
【0125】
端末装置301は、例えばデスクトップPC(Personal Computer)、ノート型PC、スマートフォン、タブレット端末等である。端末装置301としては、Webアプリを実行するためのWebブラウザが動作すればPC等には限られない。端末装置301は、例えば、顔を撮像して検温する検温装置、リフレッシュルームの鏡等に内蔵されていてもよい。
【0126】
また、端末装置301はネイティブアプリを実行してもよい。この場合も、端末装置301と情報処理システム302がネットワーク303を介して通信する。画面構成についてはネイティブアプリが保持しているので、端末装置301は、情報処理システム302が行ったMCI判定とマインドフルネス状態への転換に関する表示内容を情報処理システム302から受信して表示する。
【0127】
図23は、検出システム300がユーザーをマインドフルネスへ転換すると共に、集中力の有無を判定する処理を説明するシーケンス図である。なお図23では、次回の感情誘導時間が調整されるものとして説明する。
【0128】
S201:端末装置301は情報処理システム302と通信して、Webアプリを受信済みか、又はネイティブアプリを実行しており、表示画面150の初期状態を表示している。ユーザーは端末装置301に対し、マインドフルネスへの転換を開始する操作を入力する。
【0129】
S202:端末装置301のWebアプリ又はネイティブアプリは、マインドフルネスへの転換を開始する。
【0130】
S203:端末装置301は図12のステップS21~S24と同様に、脈波、心拍数、再生ピッチの調整、呼吸誘導と音楽再生等を行い、脈波と心拍数を情報処理システム302に送信する。
【0131】
S204:情報処理システム302のカオス解析部25は脈波と心拍数に基づいて最大リアプノフ指数λを算出する。
【0132】
S205:情報処理システム302の感情判定部31は、最大リアプノフ指数λを閾値λtと比較し、正の感情又は負の感情が発生したと判定する。感情判定部31は、その旨を感情データメモリ32に記憶する。
【0133】
S206:情報処理システム302は感情の区分を端末装置301に送信する。
【0134】
S207:端末装置301は受信した感情の区分(正の感情、活動中、軽い負の感情、負の感情)をディスプレイ等に表示させる。
【0135】
S208:心身状態判定部35は感情誘導時間における最大リアプノフ指数に基づいて、被験者が呼吸に集中しているか否かを判定する。誘導時間調整部36は、集中力の有無に応じて、次回の感情誘導時間を調整する。
【0136】
ステップS203~S208は感情誘導時間において繰り返し実行される。感情誘導が終了すると、ステップS209以降が実行される。
【0137】
S209、S210:効果判定部34は、正の感情の発生率(達成率)を算出し、情報処理システム302がその値と感情誘導時間の調整内容を端末装置301に送信する。
【0138】
S211:端末装置301は、発生率及び感情誘導時間の調整内容を表示画面150に表示する(例えば図18)。
【0139】
<ハードウェア構成>
前述した実施形態1~3における検出装置1,2の一部又は全部は、ハードウェアで構成されていてもよいし、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等が実行するソフトウェア(プログラム)の情報処理で構成されてもよい。ソフトウェアの情報処理で構成される場合には、前述した実施形態における各装置の少なくとも一部の機能を実現するソフトウェアを、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、USB(Universal Serial Bus)メモリ等の非一時的な記憶媒体に収納し、コンピュータに読み込ませることにより、ソフトウェアの情報処理を実行してもよい。また、通信ネットワークを介して当該ソフトウェアが検出装置1,2にダウンロードされてもよい。さらに、ソフトウェアの処理の全部又は一部がASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の回路に実装されることにより、当該ソフトウェアによる情報処理がハードウェアにより実行されてもよい。
【0140】
図24は、前述した実施形態における検出装置1,2のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。検出装置1,2は、一例として、プロセッサ71と、主記憶装置72(メモリ)と、補助記憶装置73(メモリ)と、ネットワークインタフェース74と、デバイスインタフェース75と、を備え、これらがバス76を介して接続されたコンピュータとして実現されてもよい。
【0141】
プロセッサ71は、少なくともコンピュータの制御又は演算の何れかを行う電子回路(処理回路、Processing circuit、Processing circuitry、CPU、GPU、FPGA、ASIC等)であってもよい。プロセッサ71は、コンピュータの内部構成の各装置等から入力されたデータやソフトウェアに基づいて演算処理を行ってもよく、演算結果や制御信号を各装置等に出力してもよい。プロセッサ71は、コンピュータのOS(Operating System)や、アプリケーション等を実行することにより、コンピュータを構成する各構成要素を制御してもよい。
【0142】
主記憶装置72は、プロセッサ71が実行する命令及び各種データ等を記憶してもよく、主記憶装置72に記憶された情報がプロセッサ71により読み出されてもよい。補助記憶装置73は、主記憶装置72以外の記憶装置である。前述した実施形態1~3における検出装置1,2において各種データ等を保存するための記憶装置は、主記憶装置72又は補助記憶装置73により実現されてもよく、プロセッサ71に内蔵される内蔵メモリにより実現されてもよい。
【0143】
ネットワークインタフェース74は、無線又は有線により、通信ネットワークに接続するためのインタフェースである。ネットワークインタフェース74は、既存の通信規格に適合したもの等、適切なインタフェースを用いればよい。デバイスインタフェース75は、外部装置77と直接接続するUSB等のインタフェースである。
【0144】
<主な効果>
本実施形態の検出装置は、集中力の有無を判定することで、被験者にとって適切な感情誘導時間を決定でき、被験者が集中を保つ時間内に正負の感情を判定することでMCIの判定精度を向上することができる。感情誘導時間を長くした場合は、マインドフルネス状態に転換させやすくなり、正の感情に誘導することができる。
【0145】
<その他の適用例>
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【0146】
例えば、検出装置1,2にはネイティブアプリがインストールされていてもよいし、Webアプリがダウンロードされてもよい。検出装置1,2は専用の装置でもよいし、PCなどのように通常は汎用的な処理を実行する情報処理装置が、所定のアプリケーションの実行により検出装置1,2として使用されてもよい。
【0147】
また、図5図10などの構成例は、検出装置1,2による処理の理解を容易にするために、主な機能に応じて分割したものである。処理単位の分割の仕方や名称によって本願発明が制限されることはない。検出装置1,2の処理は、処理内容に応じてさらに多くの処理単位に分割することもできる。また、1つの処理単位がさらに多くの処理を含むように分割することもできる。
【符号の説明】
【0148】
1,2 検出装置
10 撮像部
300 検出システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24