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特開2024-136509熱硬化性組成物、半導体素子固定用組成物、及び硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136509
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】熱硬化性組成物、半導体素子固定用組成物、及び硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/06 20060101AFI20240927BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20240927BHJP
   C08G 77/14 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08L83/06
C08K9/06
C08G77/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047645
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108419
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 治仁
(74)【代理人】
【識別番号】100201949
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 久美
(74)【代理人】
【識別番号】100227097
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 幸治
(72)【発明者】
【氏名】森 瑶子
(72)【発明者】
【氏名】森岡 孝至
【テーマコード(参考)】
4J002
4J246
【Fターム(参考)】
4J002CP031
4J002CP032
4J002CP051
4J002DE096
4J002DE136
4J002DE146
4J002DJ016
4J002FB266
4J002FD016
4J002GJ01
4J002GQ05
4J002HA01
4J002HA02
4J002HA08
4J246AA03
4J246BA12X
4J246BB022
4J246BB02X
4J246CA14X
4J246CA24X
4J246FA071
4J246FA081
4J246FA131
4J246FA321
4J246FA381
4J246FA431
4J246FB051
4J246FB211
4J246FE03
4J246FE22
4J246GA01
4J246GA04
4J246GB02
4J246HA32
4J246HA56
(57)【要約】
【課題】
室温で液体のシラン化合物重合体を含有する熱硬化性組成物であって、チキソ性及び塗布性に優れる熱硬化性組成物、この熱硬化性組成物からなる半導体素子用組成物、及び前記熱硬化性組成物が硬化してなる硬化物を提供する。
【解決手段】
下記の(A)成分、及び(B-i)成分を含有する熱硬化性組成物、この熱硬化性組成物からなる半導体素子固定用組成物、及び前記熱硬化性組成物が硬化してなる硬化物。
(A)成分:25℃において液体であるシラン化合物重合体
(B-i)成分:シリコーン修飾粒子
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分、及び(B-i)成分を含有する熱硬化性組成物。
(A)成分:25℃において液体であるシラン化合物重合体
(B-i)成分:シリコーン修飾粒子
【請求項2】
前記(A)成分が、25℃における粘度が15,000Pa・s以下のシラン化合物重合体である、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が、アルコキシ基を有するシラン化合物重合体である、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項4】
前記(A)成分が、アルコキシシラン化合物を加水分解重縮合させることで得られるシラン化合物重合体である、請求項3に記載の熱硬化性組成物。
【請求項5】
前記(A)成分が、アルコキシ基残存率が25%以下のシラン化合物重合体である、請求項4に記載の熱硬化性組成物。
【請求項6】
前記(A)成分が、熱硬化性を有するシラン化合物重合体である、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項7】
前記(A)成分が、質量平均分子量(Mw)が500~20,000のシラン化合物重合体である、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項8】
前記(A)成分が、下記式(a-1)
【化1】
〔Meは、メチル基を表す。〕
で表される繰り返し単位〔繰り返し単位(1)〕を有し、
下記式(a-2)
【化2】
〔Rは、無置換の炭素数2~10のアルキル基、置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換の炭素数6~12のアリール基、及び、置換基を有する炭素数6~12のアリール基からなる群から選ばれる基を表す。〕
で表される繰り返し単位〔繰り返し単位(2)〕を有する、又は有しないシラン化合物重合体である、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項9】
前記シラン化合物重合体に含まれる繰り返し単位(1)の量が、繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の合計量に対して70~100モル%である、請求項8に記載の熱硬化性組成物。
【請求項10】
前記シラン化合物重合体中の繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の合計量が、シラン化合物重合体の全繰り返し単位中80~100モル%である、請求項8に記載の熱硬化性組成物。
【請求項11】
前記シラン化合物重合体が、下記式(a-3)で示されるT1サイト、下記式(a-4)で示されるT2サイト、及び下記式(a-5)で示されるT3サイトを有するものであって、前記T1サイトの量が、T1サイト、T2サイト、及びT3サイトの合計量に対して2.5~25モル%である、請求項8に記載の熱硬化性組成物。
【化3】
〔Rは、無置換の炭素数1~10のアルキル基、置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換の炭素数6~12のアリール基、及び、置換基を有する炭素数6~12のアリール基からなる群から選ばれる基を表す。X~Xは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。*は別の繰り返し単位との結合手であり、別の繰り返し単位のケイ素原子と直接結合している。〕
【請求項12】
前記シラン化合物重合体が、アルコキシ基を有するT1サイトの量が全T1サイト中20~60モル%のシラン化合物重合体である、請求項11に記載の熱硬化性組成物。
【請求項13】
前記(B-i)成分の平均粒子径が、1~40nmである、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項14】
前記(B-i)成分が、シリコーン修飾シリカ粒子である、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項15】
前記(B-i)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して、0.1~50質量部である、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項16】
溶媒を含有する、又は含有しない熱硬化性組成物であって、溶媒の含有量が熱硬化性組成物全量に対して、40質量%以下である、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項17】
請求項1に記載の熱硬化性組成物からなる半導体素子固定用組成物。
【請求項18】
請求項1に記載の熱硬化性組成物が硬化してなる硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性組成物、半導体素子固定用組成物、及び硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、硬化性組成物は用途に応じて様々な改良がなされ、光学部品や成形体の原料、接着剤、コーティング剤等として産業上広く利用されてきている。
また、近年、耐熱性、透明性等に優れた硬化物が形成されることから、ポリシルセスキオキサン化合物を含有する硬化性組成物が注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1~3には、ポリシルセスキオキサン化合物を含有する硬化性組成物や、硬化性組成物を封止材料として利用することが記載されている。
【0004】
ところで、硬化性組成物の硬化性成分が、室温で固体のポリシルセスキオキサン化合物である場合、硬化性組成物の塗布性を向上させるために、通常、硬化性組成物に溶媒が添加される。
しかしながら、近年、環境負荷の低減等の観点から、硬化性組成物中の溶媒の低減化や無溶媒化が望まれている。このため、室温で液体のポリシルセスキオキサン化合物を合成すべく、これまでに種々の検討が行われてきた。
【0005】
例えば、特許文献4には、室温で液体のポリシルセスキオキサン等を含有する縮合反応型シリコーン組成物が記載されている。
特許文献4の製造例1、2においては、メチルトリメトキシシランを単量体として用いて、室温で液体のポリシルセスキオキサンを製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-359933号公報
【特許文献2】特開2005-263869号公報
【特許文献3】特開2006-328231号公報
【特許文献4】WO2017/122762号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、特許文献4には室温で液体のシラン化合物重合体が記載されている。
しかしながら、本発明者らの検討の結果、室温で液体のシラン化合物重合体を硬化性成分として使用し、溶媒を含有しない又は溶媒の含有量が少ない硬化性組成物においては、チキソ性の制御が困難であることが分かった。
すなわち、従来、硬化性組成物にフィラーを添加することで硬化性組成物のチキソ性を向上させることが行われてきたが、溶媒を含有しない又は溶媒の含有量が少ない硬化性組成物にフィラーを添加した場合、チキソ性がほとんど向上しなかったり、粘度が高くなり過ぎて塗布性が低下したりした。
【0008】
本発明は、この問題を解決することを目的としてなされたものであり、室温で液体のシラン化合物重合体を含有する熱硬化性組成物であって、チキソ性及び塗布性に優れる熱硬化性組成物、この熱硬化性組成物からなる半導体素子固定用組成物、及び前記熱硬化性組成物が硬化してなる硬化物を提供することを目的とする。
なお、本発明において、「室温で液体」とは、25℃において流動性を有するものをいう。
また、「熱硬化性」とは、硬化触媒が存在しなくても、加熱のみで硬化する性質をいうものとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、室温で液体のシラン化合物重合体とフィラーを含有し、溶媒を含有しない又は溶媒の含有量が少ない熱硬化性組成物について鋭意検討を重ねた。
その結果、フィラーとしてシリコーンで修飾された粒子を用いることで、室温で液体のシラン化合物重合体を含有し、溶媒を含有しない又は溶媒の含有量が少ない熱硬化性組成物のチキソ性を効率よく制御し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明によれば、下記〔1〕~〔16〕の熱硬化性組成物、〔17〕の半導体素子固定用組成物、及び〔18〕の硬化物が提供される。
【0011】
〔1〕下記の(A)成分、及び(B-i)成分を含有する熱硬化性組成物。
(A)成分:25℃において液体であるシラン化合物重合体
(B-i)成分:シリコーン修飾粒子
〔2〕前記(A)成分が、25℃における粘度が15,000Pa・s以下のシラン化合物重合体である、〔1〕に記載の熱硬化性組成物。
〔3〕前記(A)成分が、アルコキシ基を有するシラン化合物重合体である、〔1〕又は〔2〕に記載の熱硬化性組成物。
〔4〕前記(A)成分が、アルコキシシラン化合物を加水分解重縮合させることで得られるシラン化合物重合体である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
〔5〕前記(A)成分が、アルコキシ基残存率が25%以下のシラン化合物重合体である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
〔6〕前記(A)成分が、熱硬化性を有するシラン化合物重合体である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
〔7〕前記(A)成分が、質量平均分子量(Mw)が500~20,000のシラン化合物重合体である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
〔8〕前記(A)成分が、下記式(a-1)
【0012】
【化1】
【0013】
〔Meは、メチル基を表す。〕
で表される繰り返し単位〔繰り返し単位(1)〕を有し、
下記式(a-2)
【0014】
【化2】
【0015】
〔Rは、無置換の炭素数2~10のアルキル基、置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換の炭素数6~12のアリール基、及び、置換基を有する炭素数6~12のアリール基からなる群から選ばれる基を表す。〕
で表される繰り返し単位〔繰り返し単位(2)〕を有する、又は有しないシラン化合物重合体である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
〔9〕前記シラン化合物重合体に含まれる繰り返し単位(1)の量が、繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の合計量に対して70~100モル%である、〔8〕に記載の熱硬化性組成物。
〔10〕前記シラン化合物重合体中の繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の合計量が、シラン化合物重合体の全繰り返し単位中80~100モル%である、〔8〕又は〔9〕に記載の熱硬化性組成物。
〔11〕前記シラン化合物重合体が、下記式(a-3)で示されるT1サイト、下記式(a-4)で示されるT2サイト、及び下記式(a-5)で示されるT3サイトを有するものであって、前記T1サイトの量が、T1サイト、T2サイト、及びT3サイトの合計量に対して2.5~25モル%である、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
【0016】
【化3】
【0017】
〔Rは、無置換の炭素数1~10のアルキル基、置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換の炭素数6~12のアリール基、及び、置換基を有する炭素数6~12のアリール基からなる群から選ばれる基を表す。X~Xは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。*は別の繰り返し単位との結合手であり、別の繰り返し単位のケイ素原子と直接結合している。〕
〔12〕前記シラン化合物重合体が、アルコキシ基を有するT1サイトの量が全T1サイト中20~60モル%のシラン化合物重合体である、〔1〕~〔11〕のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
〔13〕前記(B-i)成分の平均粒子径が、1~40nmである、〔1〕~〔12〕のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
〔14〕前記(B-i)成分が、シリコーン修飾シリカ粒子である、〔1〕~〔13〕のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
〔15〕前記(B-i)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して、0.1~50質量部である、〔1〕~〔14〕のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
〔16〕溶媒を含有する、又は含有しない熱硬化性組成物であって、溶媒の含有量が熱硬化性組成物全量に対して、40質量%以下である、〔1〕~〔15〕のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
〔17〕前記〔1〕~〔16〕のいずれかに記載の熱硬化性組成物からなる半導体素子固定用組成物。
〔18〕前記〔1〕~〔16〕のいずれかに記載の熱硬化性組成物が硬化してなる硬化物。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、室温で液体のシラン化合物重合体を含有する熱硬化性組成物であって、チキソ性及び塗布性に優れる熱硬化性組成物、この熱硬化性組成物からなる半導体素子固定用組成物、及び前記熱硬化性組成物が硬化してなる硬化物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。
【0020】
以下、本発明を、1)熱硬化性組成物、及び、2)硬化物、に項分けして詳細に説明する。
【0021】
1)熱硬化性組成物
本発明の熱硬化性組成物は、下記の(A)成分、及び(B-i)成分を含有する熱硬化性組成物である。
(A)成分:25℃において液体であるシラン化合物重合体
(B-i)成分:シリコーン修飾粒子
【0022】
[(A)成分:25℃において液体であるシラン化合物重合体]
本発明の熱硬化性組成物を構成する(A)成分は、25℃において液体であるシラン化合物重合体である。
本発明の熱硬化性組成物は(A)成分を含有するため、塗布性に優れたものとなる。
【0023】
〔(A)成分の物性及び構造〕
(A)成分は、25℃における粘度が15,000Pa・s以下のシラン化合物重合体であることが好ましい。
(A)成分の25℃における粘度が15,000Pa・s以下であることで、塗布性により優れる熱硬化性組成物が得られ易くなる。
同様の理由により、(A)成分の25℃における粘度は、より好ましくは4,000Pa・s以下、さらに好ましくは1,000Pa・s以下、よりさらに好ましくは500Pa・s以下、よりさらに好ましくは300Pa・s以下である。
(A)成分の25℃における粘度の下限値は特にないが、通常0.3Pa・s以上である。
したがって、(A)成分は、25℃における粘度が0.3~15,000Pa・sのシラン化合物重合体であることが好ましい。
【0024】
本明細書において、(A)成分の「25℃における粘度」とは、コーン半径(円錐底面の半径)12.5mm、コーン角度0.5度のコーンプレートを用いた、せん断速度2.2s-1に対する粘度をいう。ただし、この測定で50Pa・sを超える場合、「25℃における粘度」とは、半径12.5mmのパラレルプレートを用いた、角周波数2.0rad/sに対する粘度をいう。
【0025】
(A)成分は、アルコキシ基を有するシラン化合物重合体であることが好ましい。
アルコキシ基を有するシラン化合物重合体は、室温で液体になる傾向があるため、アルコキシ基を有するシラン化合物重合体は(A)成分として適している。
【0026】
アルコキシ基を有するシラン化合物重合体は、例えば、常法に従って、アルコキシシラン化合物を加水分解重縮合させることで得ることができる〔以下、この方法により得られる(A)成分を「シラン化合物重合体(A-i)」と記載することがある。〕。
シラン化合物重合体(A-i)は、アルコキシ基残存率が25%以下のシラン化合物重合体であることが好ましい。
【0027】
シラン化合物重合体(A―i)のアルコキシ基残存率は、単量体として用いたアルコキシシラン化合物に含まれていたアルコキシ基が、シラン化合物重合体(A-i)にどの程度残存しているかを表すものである。
アルコキシ基残存率が25%以下のシラン化合物重合体(A-i)は、アルコキシシラン化合物の加水分解反応が十分に進行したものであり、Si-O-Si結合やSi-OH結合を多く含んでいる。このようなシラン化合物重合体(A-i)は比較的大きな分子であり、かつ、反応性を有するものであるため、熱硬化性組成物の硬化性成分として適している。
同様の理由により、シラン化合物重合体(A-i)のアルコキシ基残存率は、20%以下がより好ましく、15%以下がさらに好ましく、10%以下がよりさらに好ましい。
また、シラン化合物重合体(A-i)が室温で液体になり易いことから、シラン化合物重合体(A-i)のアルコキシ基残存率は、2.5%以上が好ましく、3.5%以上がより好ましく、4.5%以上がよりさらに好ましい。
したがって、シラン化合物重合体(A-i)のアルコキシ基残存率は、2.5~25%が好ましい。
【0028】
アルコキシ基残存率は、シラン化合物重合体(A-i)のH-NMRを測定することで算出することができる。例えば、メチルトリエトキシシランを用いてシラン化合物重合体(A-i)を合成した場合、シラン化合物重合体(A-i)のH-NMRを測定し、メチル基とエトキシ基の割合をピークの面積比に基づいて求めることで、シラン化合物重合体(A-i)のアルコキシ基残存率を算出することができる。
なお、シラン化合物重合体(A-i)は、通常、アセトン等のケトン系溶媒;ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルスルホキシド等の含硫黄系溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;クロロホルム等の含ハロゲン系溶媒;及びこれらの2種以上からなる混合溶媒;等の各種有機溶媒に可溶であるため、これらの溶媒を用いて、シラン化合物重合体(A-i)の溶液状態でのNMRを測定することができる。
【0029】
(A)成分は、熱硬化性を有するシラン化合物重合体であることが好ましい。熱硬化性を有する(A)成分は、熱硬化性組成物中の硬化性成分として適している。上記のようにSi-OH結合を含むシラン化合物重合体は熱硬化性を有する傾向がある。したがって、熱硬化性を有するシラン化合物重合体としては、アルコキシ基残存率が25%以下のシラン化合物重合体(A-i)が挙げられる。
【0030】
(A)成分は、質量平均分子量(Mw)が500~20,000のシラン化合物重合体であることが好ましい。
(A)成分の質量平均分子量(Mw)が大き過ぎない熱硬化性組成物は、塗布性に優れる傾向がある。同様の理由により、(A)成分の質量平均分子量(Mw)は、10,000以下が好ましく、8,000以下がより好ましく、5,000以下がよりさらに好ましい。
(A)成分の質量平均分子量(Mw)が小さ過ぎない熱硬化性組成物は、比較的短時間で硬化する傾向がある。同様の理由により、(A)成分の質量平均分子量(Mw)は、600以上が好ましく、700以上がより好ましい。
(A)成分の分子量分布(Mw/Mn)は特に限定されないが、通常1.00~10.00、好ましくは1.10~6.00、より好ましくは1.15~4.00である。
【0031】
質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、例えば、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値として求めることができる。
【0032】
(A)成分のシラン化合物重合体が共重合体である場合、(A)成分のシラン化合物重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、交互共重合体等のいずれであってもよいが、製造容易性等の観点からは、ランダム共重合体が好ましい。
また、(A)成分のシラン化合物重合体の構造は、ラダー型構造、ダブルデッカー型構造、籠型構造、部分開裂籠型構造、環状型構造、ランダム型構造のいずれの構造であってもよい。
【0033】
(A)成分としては、下記式(a-1)
【0034】
【化4】
【0035】
〔Meは、メチル基を表す。〕
で表される繰り返し単位〔繰り返し単位(1)〕を有し、
下記式(a-2)
【0036】
【化5】
【0037】
〔Rは、無置換の炭素数2~10のアルキル基、置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換の炭素数6~12のアリール基、及び、置換基を有する炭素数6~12のアリール基からなる群から選ばれる基を表す。〕
で表される繰り返し単位〔繰り返し単位(2)〕を有する、又は有しないシラン化合物重合体〔以下、このシラン化合物重合体を「シラン化合物重合体(A-ii)」と記載することがある。〕が挙げられる。
【0038】
で表される「無置換の炭素数2~10のアルキル基」の炭素数は、2~6が好ましく、2~3がより好ましい。
「無置換の炭素数2~10のアルキル基」としては、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。
【0039】
で表される「置換基を有する炭素数1~10のアルキル基」の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましい。なお、この炭素数は、置換基を除いた部分(アルキル基の部分)の炭素数を意味するものである。したがって、Rが「置換基を有する炭素数1~10のアルキル基」である場合、Rの炭素数は10を超える場合もあり得る。
「置換基を有する炭素数1~10のアルキル基」のアルキル基としては、メチル基や、「無置換の炭素数2~10のアルキル基」として示したものと同様のものが挙げられる。
【0040】
「置換基を有する炭素数1~10のアルキル基」の置換基の原子数(ただし水素原子の数を除く)は、通常1~30、好ましくは1~20である。
「置換基を有する炭素数1~10のアルキル基」の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;フェニル基等のアリール基;等が挙げられる。
【0041】
で表される「無置換の炭素数6~12のアリール基」の炭素数は6が好ましい。
「無置換の炭素数6~12のアリール基」としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等が挙げられる。
【0042】
で表される「置換基を有する炭素数6~12のアリール基」の炭素数は6が好ましい。なお、この炭素数は、置換基を除いた部分(アリール基の部分)の炭素数を意味するものである。したがって、Rが「置換基を有する炭素数6~12のアリール基」である場合、Rの炭素数は12を超える場合もあり得る。
「置換基を有する炭素数6~12のアリール基」のアリール基としては、「無置換の炭素数6~12のアリール基」として示したものと同様のものが挙げられる。
【0043】
「置換基を有する炭素数6~12のアリール基」の置換基の原子数(ただし水素原子の数を除く)は、通常1~30、好ましくは1~20である。
「置換基を有する炭素数6~12のアリール基」の置換基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基等のアルキル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;等が挙げられる。
【0044】
これらの中でも、Rとしては、無置換の炭素数2~10のアルキル基、又は無置換の炭素数6~12のアリール基が好ましい。
【0045】
シラン化合物重合体(A-ii)が繰り返し単位(2)を有するとき、シラン化合物重合体(A-ii)は、1種のRを有するものであってもよいし、2種以上のRを有するものであってもよい。
【0046】
シラン化合物重合体(A-ii)に含まれる繰り返し単位(1)の量は、繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の合計量に対して70~100モル%であることが好ましい。
繰り返し単位(1)の量が70モル%以上であることで、シラン化合物重合体(A-ii)は良好な硬化性を有し、かつ、その硬化物はクラックの抑制と高い接着強度が両立する傾向がある。
同様の理由により、繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の合計量に対する繰り返し単位(1)の量は、より好ましくは80~100モル%、さらに好ましくは90~100モル%、特に好ましくは95~100モル%である。
【0047】
シラン化合物重合体(A-ii)中の繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の合計量は、シラン化合物重合体(A-ii)の全繰り返し単位中80~100モル%であることが好ましい。
繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の合計量が、全繰り返し単位中80モル%以上のシラン化合物重合体(A-ii)は、室温で液体であって、かつ、熱硬化性を有する傾向がある。
同様の理由により、繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の合計量は、全繰り返し単位中、より好ましくは85~100モル%、さらに好ましくは90~100モル%である。
【0048】
シラン化合物重合体(A-ii)が繰り返し単位(1)や繰り返し単位(2)以外の繰り返し単位を有するとき、繰り返し単位(1)や繰り返し単位(2)以外の繰り返し単位としては、トリメチルメトキシシラン等の1官能シラン化合物に由来する繰り返し単位、ジメチルジメトキシシラン等の2官能シラン化合物に由来する繰り返し単位、3官能シラン化合物に由来する繰り返し単位(ただし、繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)を除く)、テトラメトキシシラン等の4官能シラン化合物に由来する繰り返し単位等が挙げられる。
【0049】
先に説明した繰り返し単位(1)や繰り返し単位(2)は、下記式(a-6)で示されるものである。
【0050】
【化6】
【0051】
式(a-6)中、Rは、メチル基又はRで表される基を表す。O1/2は、酸素原子が隣の繰り返し単位と共有されていることを表す。
【0052】
式(a-6)で示されるように、シラン化合物重合体(A-ii)は、一般にTサイトと総称される、ケイ素原子に酸素原子が3つ結合し、それ以外の基(Rで表される基)が1つ結合してなる部分構造を有する。
シラン化合物重合体(A-ii)に含まれるTサイトとしては、下記式(a-3)で示されるT1サイト、下記式(a-4)で示されるT2サイト、下記式(a-5)で示されるT3サイトが挙げられる。
【0053】
【化7】
【0054】
〔Rは、メチル基又はRで表される基を表す。X~Xは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。X~Xのアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。*は別の繰り返し単位との結合手であり、別の繰り返し単位のケイ素原子と直接結合している。〕
【0055】
式(a-3)~(a-5)で示されるように、T3サイトは隣接する3つのSi原子を有し、T2サイトは隣接する2つのSi原子を有するのに対し、T1サイトは、隣接するSi原子は1つだけである。したがって、T1サイトは、シラン化合物重合体(A-ii)の末端部を構成する傾向があり、他の分子と相互作用をする際に重要なサイトである。
シラン化合物重合体(A-ii)の状態(液体又は固体)や熱硬化性は、他の分子との相互作用の結果として表される性質である。したがって、T1サイトの含有量や、T1サイト全量に対する、アルコキシ基含有T1サイトの割合は、前記アルコキシ基残存率と同様、室温で液体であって、かつ、熱硬化性を有するシラン化合物重合体の指標となり得るものである。
なお、T1サイト、T2サイト、T3サイトの含有割合は、常法に従って、シラン化合物重合体(A-ii)の溶液状態での29Si-NMRを測定することにより求めることができる。
【0056】
シラン化合物重合体(A-ii)に含まれるT1サイトの量は、T1サイト、T2サイト、T3サイトの合計量に対して2.5~25モル%が好ましく、2.5~15モル%がより好ましい。
シラン化合物重合体(A-ii)において、T1サイト全量に対するアルコキシ基含有T1サイトの割合は、全T1サイト中20~60モル%が好ましく、25~50%がより好ましい。
T1サイト全量に対する、アルコキシ基含有T1サイトの割合は、実施例に記載の方法にしたがって算出することができる。
【0057】
〔(A)成分の製造方法〕
(A)成分のシラン化合物重合体の製造方法は特に限定されない。
例えば、メチルトリアルコキシシランを水、及び酸触媒の存在下で加水分解重縮合させる工程(工程PO)と、工程POで得られたシラン化合物重合体を精製する工程(工程PU)を行うことで、上記のシラン化合物重合体(A-ii)を製造することができる。
【0058】
工程POは、メチルトリアルコキシシランを水、及び酸触媒の存在下で加水分解重縮合させる工程である。
【0059】
工程POにおいては、必須の単量体としてメチルトリアルコキシシランが用いられる。メチルトリアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン等が挙げられる。
【0060】
工程POにおいては、メチルトリアルコキシシラン以外の3官能アルコキシシラン化合物を単量体として用いてもよい。
メチルトリアルコキシシラン以外の3官能アルコキシシラン化合物としては、下記式(a-7)で表される3官能アルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0061】
【化8】
【0062】
式(a-7)中、Rは前記と同じ意味を表す。ORは、アルコキシ基を表す。ORは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0063】
ORで表されるアルコキシ基の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましい。
ORで表されるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が挙げられる。
【0064】
式(a-7)で表される3官能アルコキシシラン化合物の具体例としては、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-プロピルトリプロポキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン化合物類;
3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリプロポキシシラン等の置換アルキルトリアルコキシシラン化合物類;
フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン等のアリールトリアルコキシシラン化合物類;
4-メトキシフェニルトリメトキシシラン、4-メトキシフェニルトリエトキシシラン、4-メトキシフェニルトリプロポキシシラン等の置換アリールトリアルコキシシラン化合物類;等が挙げられる。
これらの3官能アルコキシシラン化合物は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
メチルトリアルコキシシランの量は、3官能アルコキシシラン化合物の全量に対して、通常70~100モル%、好ましくは80~100モル%、より好ましくは90~100モル%、さらに好ましくは95~100モル%である。
【0066】
工程POにおいては、3官能アルコキシシラン化合物に加えて、トリメチルメトキシシラン等の1官能アルコキシシラン化合物、ジメチルジメトキシシラン等の2官能アルコキシシラン化合物、テトラメトキシシラン等の4官能アルコキシシラン化合物を単量体として使用してもよい。
【0067】
3官能アルコキシシラン化合物の量は、アルコキシシラン化合物全量中、好ましくは80~100モル%、より好ましくは85~100モル%、さらに好ましくは90~100モル%である。
3官能アルコキシシラン化合物の量が、アルコキシシラン化合物全量中80モル%以上であることで、室温で液体であって、かつ、熱硬化性を有するシラン化合物重合体が得られ易くなる。
【0068】
工程POにおいて反応系内に添加する水の量は、下記式(F1)で導かれる水とアルコキシ基のモル比Mが、0.46~0.86となる量が好ましく、0.48~0.80となる量がより好ましく、0.50~0.70となる量がさらに好ましい。
【0069】
【数1】
【0070】
式(F1)中、MH2Oは、反応系内に添加する水の物質量(モル数)であり、MORは、アルコキシシラン化合物中のアルコキシ基の総数(総モル数)である。
例えば、メチルトリアルコキシシラン1モルに対して、水を1モル添加した場合、モル比Mの値は、1/3(約0.33)である。
【0071】
モル比Mが0.46~0.86であることで、アルコキシ基を適量含み、室温で液体であって、かつ、熱硬化性を有するシラン化合物重合体が得られ易くなる。
【0072】
工程(PO)において用いられる酸触媒としては、リン酸、塩酸、ホウ酸、硫酸、硝酸等の無機酸;クエン酸、酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸;等が挙げられる。これらの中でも、リン酸、塩酸、ホウ酸、硫酸、クエン酸、酢酸、及びメタンスルホン酸から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0073】
酸触媒の使用量は、アルコキシシラン化合物の総量に対して、通常0.05~10モル%、好ましくは0.1~5モル%である。
【0074】
工程POは、例えば、反応容器に、アルコキシシラン化合物、水、及び、酸触媒を入れ、得られた混合物を撹拌することにより行うことができる。また、反応容器内には、これらの成分の他に有機溶媒が存在していてもよい。
有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、s-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール等のアルコール類;等が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
工程POにおいて有機溶媒を使用する場合、アルコキシシラン化合物に対して、体積基準で、好ましくは0.05~3倍、より好ましくは0.1~1.5倍の有機溶媒が用いられる。
【0075】
工程POの反応条件は特に限定されない。
工程POの反応温度は、通常0~85℃、好ましくは15~75℃である。
工程POの反応時間は、通常30分から50時間、好ましくは1~24時間である。
【0076】
工程POは、開始から終了まで一定の条件で行うものであってもよいし(すなわち、1つのステップを有するものであってもよいし)、反応条件が異なる複数のステップを有するものであってもよい。
目的の分子量を有するシラン化合物重合体を効率よく製造し得ることから、工程POは、水、及び酸触媒の存在下で、アルコキシシラン化合物の加水分解を進行させるステップ(ステップPO-I)と、シラン化合物重合体の分子量を調整するステップ(ステップPO-II)を含むものが好ましい。
【0077】
ステップPO-Iは、水、及び酸触媒の存在下で、アルコキシシラン化合物の加水分解を進行させるステップである。
ステップPO-Iは、例えば、反応容器に、アルコキシシラン化合物、水、及び、酸触媒を入れ、得られた混合物を撹拌することにより行うことができる。また、反応容器内には、これらの成分の他に有機溶媒が存在していてもよい。
有機溶媒としては、工程POの有機溶媒として先に例示したものが挙げられる。
ステップPO-Iにおいて有機溶媒を使用する場合、アルコキシシラン化合物に対して、体積基準で、好ましくは0.05~1倍、より好ましくは0.1~0.5倍の有機溶媒が用いられる。
【0078】
ステップPO-Iの反応条件は特に限定されない。
ステップPO-Iの反応温度は、通常0~50℃、好ましくは15~35℃である。
ステップPO-Iの反応時間は、通常10分から2時間、好ましくは15~90分である。
【0079】
アルコキシシラン化合物の加水分解用に添加した水は、ステップPO-Iの終了時において十分に消費されていることが好ましい。単量体としてメチルトリエトキシシランを使用する場合は、水の消費量は、反応生成物についてH-NMRを測定し、「Si-Me」の量と「Si-OEt」の量とを対比することにより推測することができる。
なお、ステップPO-Iにおいては、アルコキシシラン化合物の加水分解反応だけでなく、重縮合反応が進行していてもよい。
【0080】
ステップPO-IIは、シラン化合物重合体の分子量を調整するステップである。
すなわち、ステップPO-IIは、目的の分子量を有するシラン化合物重合体を生成させるために、ステップPO-Iの反応生成物の重縮合反応を進行させるステップである。
【0081】
シラン化合物重合体の分子量を調整するために、必要に応じて、ステップPO-IIを行う際に、反応系内に塩基を添加することが好ましい。
塩基を比較的多めに添加したり、ステップPO-IIを比較的高い温度で行ったり、ステップPO-IIの反応時間を長くしたりすることにより、室温で液体であり、熱硬化性を有し、かつ、比較的分子量が大きなシラン化合物重合体が得られる傾向がある。また、ステップPO-Iにおいて、酸触媒の量や反応温度を調整して、アルコキシシラン化合物の加水分解反応を促進させることにより、分子量が大きなシラン化合物重合体が得られる傾向がある。
一方、塩基を比較的少なめに添加したり、ステップPO-IIを比較的低い温度で行ったり、ステップPO-IIの反応時間を短くしたりすることにより、室温で液体であり、熱硬化性を有し、かつ、比較的分子量が小さなシラン化合物重合体が得られる傾向がある。また、ステップPO-Iにおいて、酸触媒の量や反応温度を調整して、アルコキシシラン化合物の加水分解反応を抑制気味に進行させることにより、分子量が小さなシラン化合物重合体が得られる傾向がある。
【0082】
ステップPO-IIを行う際に反応系内に塩基を添加する場合、その添加量は、アルコキシシラン化合物の総量に対して、通常0.05~10モル%、好ましくは0.1~5モル%である。
反応系内に上記の量の塩基を添加することで、目的の分子量を有するシラン化合物重合体を効率よく製造することができる。
【0083】
塩基としては、アンモニア水;トリメチルアミン、トリエチルアミン、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、ピリジン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、アニリン、ピコリン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、イミダゾール等の有機塩基;水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等の有機水酸化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムt-ブトキシド、カリウムt-ブトキシド等の金属アルコキシド;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の金属炭酸水素塩;等が挙げられる。
【0084】
ステップPO-IIの反応条件は特に限定されない。
ステップPO-IIの反応温度は、通常20~85℃、好ましくは24~70℃である。
ステップPO-IIの反応時間は、通常20分から48時間、好ましくは1~24時間である。
【0085】
ステップPO-IIは、撹拌しながら行うことが好ましい。
すなわち、上記のように水とアルコキシ基のモル比Mが0.46~0.86の範囲になる条件で反応を行う場合、添加した水が加水分解によって完全に消費された場合であっても、ステップPO-Iの反応生成物にはアルコキシ基が残存している。
このように、ステップPO-Iの反応生成物には、反応性に優れる(Si-OH)と反応性に劣る(Si-OR)が混在しているため、この反応生成物の重縮合反応を効率よく行い、目的の分子量のシラン化合物重合体を得るためには、反応系内を撹拌することが好ましい。
【0086】
ステップPO-IIは有機溶媒存在下で行うことが好ましい。ステップPO-IIを有機溶媒存在下で行うことで、反応系内を十分に撹拌することができ、ステップPO-Iの反応生成物の重縮合反応を十分に進行させることができる。
また、ステップPO-Iの反応生成物の重縮合反応を希釈条件下で行うことができるため、分子量の調整を再現性よく行うことができる。
【0087】
有機溶媒としては、工程POにおける有機溶媒として先に例示したものが挙げられる。
したがって、ステップPO-Iを有機溶媒の存在下で行った場合、その有機溶媒をそのまま利用してステップPO-IIを行うことができる。
一方、ステップPO-Iを有機溶媒が存在しない状態で行った場合、ステップPO-Iで得られた反応混合物に有機溶媒を加えることで、ステップPO-IIを有機溶媒存在下で行うことができる。
ステップPO-IIにおいて有機溶媒を使用する場合、ステップPO-Iにおいて用いたアルコキシシラン化合物に対して、体積基準で、好ましくは0.05~3倍、より好ましくは0.1~1.5倍の有機溶媒が用いられる。
【0088】
ステップPO-IIは開放系で行うことが好ましい。ステップPO-IIを開放系で行うことで、工程POにおける生成物である水やアルコールが反応系外に放出され易くなるため、水やアルコールにより重縮合反応が阻害されるのを回避することができる。また、ステップPO-IIを有機溶剤の存在下で行う場合、過度な加圧状態になることを抑制し得るため、重縮合反応を安全に進行させることができる。
開放系とは、反応系と、その周囲の系が完全に遮断されておらず、互いに分子の移動が可能な状態にある系をいう。
【0089】
〔工程PU〕
工程PUは、得られたシラン化合物重合体を精製する工程である。
工程PUを行うことで、高純度のシラン化合物重合体を得ることができる。そのようなシラン化合物重合体は、半導体素子固定用組成物等の熱硬化性組成物の硬化性成分としてより適している。
【0090】
工程PUとしては、溶媒抽出法による精製工程が挙げられる。
溶媒抽出法による精製工程としては、例えば、以下のステップを有するものが挙げられる。
(ステップPU-I)工程POで得られた反応混合物に、必要に応じて水非混和性の有機溶媒や水を加え、これを撹拌した後、静置して、有機相と水相に分離させるステップ
(ステップPU-II)ステップPU-Iで生じた有機相を分取し、必要に応じて有機相を水で洗浄するステップ
(ステップPU-III)ステップPU-IIで分取した有機相を乾燥させるステップ
(ステップPU-IV)ステップPU-IIIで乾燥させた有機相から溶媒を除去するステップ
【0091】
ステップPU-Iにおいては、工程POで得られた反応混合物が有機相と水相に分離するように、必要に応じて、前記反応混合物に、水非混和性の有機溶媒や水等の溶媒を加える。加える溶媒の量や、有機溶媒の種類は工程POで得られた反応混合物が有機相と水相に分離する限り、特に限定されない。
【0092】
シラン化合物重合体は、通常、有機相に含まれる。したがって、ステップPU-IIにおいては、ステップPU-Iで生じた有機相を分取する。この後、常法に従って、有機相を水で洗浄してもよい。
【0093】
ステップPU-IIIにおいては、硫酸マグネシウムの添加等、常法に従って、有機相を乾燥させる。
【0094】
ステップPU-IVにおいては、有機相から溶媒を除去する。溶媒の除去は、エバポレーターによる濃縮処理や、真空乾燥処理等、常法に従って行うことができる。
【0095】
〔(A)成分の含有量〕
本発明の熱硬化性組成物に含まれる(A)成分の含有量は、熱硬化性組成物を構成する成分(ただし溶媒を除く)全量に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。上限は特にないが、通常95質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下である。
したがって、(A)成分の含有量は、熱硬化性組成物を構成する成分(ただし溶媒を除く)全量に対して、50~95質量%が好ましい。
(A)成分の含有量が上記範囲内の熱硬化性組成物は、チキソ性及び塗布性により優れる傾向がある。
【0096】
[(B-i)成分:シリコーン修飾粒子]
本発明の熱硬化性組成物を構成する(B-i)成分は、シリコーン修飾粒子である。
本発明の熱硬化性組成物は(B-i)成分を含有するため、溶媒を含有しない又は溶媒の含有量が少ない熱硬化性組成物であっても、チキソ性及び塗布性に優れたものとなる。
すなわち、一般に、塗料や接着剤においては、チキソ性を改善するために疎水性の粒子を添加することが行われているが、実施例で示すように、室温で液体のシラン化合物重合体を硬化性成分として含有し、溶媒を含有しない熱硬化性組成物に、表面にアルキル基を有する粒子(アルキル修飾粒子)を添加しても、チキソ性はあまり向上しなかった。
一方、この熱硬化性組成物にシリコーン修飾粒子を添加するとチキソ性が向上した。
チキソ性向上効果に関するこの違いは、アルキル修飾粒子は、熱硬化性組成物中の(A)成分との親和性が高く、アルキル修飾粒子間での相互作用が弱まり、チキソ性向上効果が発現し難くなったのに対して、シリコーン修飾粒子は、熱硬化性組成物中の(A)成分との親和性が低く、シリコーン修飾粒子間で十分に相互作用し、チキソ性向上効果が発現したためであると推測される。
【0097】
シリコーン修飾粒子の平均粒子径は、好ましくは1~40nm、より好ましくは5~30nm、さらに好ましくは9~20nmである。
上記範囲内の平均粒子径を有するシリコーン修飾粒子を用いることで、チキソ性により優れる熱硬化性組成物が得られ易くなる。
シリコーン修飾粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてシリコーン修飾粒子を観察し、任意に選んだ複数の粒子(例えば1000個の粒子)の粒子径の平均値を算出することにより求めることができる。
【0098】
シリコーン修飾粒子としては、表面に水酸基等の反応性基を有する粒子(コア粒子)と、シリコーンオイルとを接触させて得られる粒子が挙げられる。
【0099】
コア粒子としては、酸化アルミニウム粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化ケイ素粒子、酸化チタニウム粒子等の無機酸化物粒子が挙げられる。これらの無機酸化物粒子の中でも、入手が容易であることから酸化ケイ素粒子が好ましい。したがって、(B-i)成分としては、シリコーン修飾シリカ粒子が好ましい。
【0100】
コア粒子として用いられる無機酸化物粒子は、例えばフュームド法により合成することができる。
フュームド法は公知の製法であり、例えば、四塩化ケイ素等のケイ素化合物や金属ケイ素を酸素-水素火炎中に導入して加水分解反応させる工程等を行い、フュームドシリカを合成することができる。
【0101】
シリコーン修飾粒子を製造する際に用いられるシリコーンオイルとしては、反応性シリコーンオイルや非反応性シリコーンオイルが挙げられる。
【0102】
反応性シリコーンオイルとしては、シロキサン結合で構成された主鎖の末端や側鎖に、反応性基を有するシリコーンオイルが挙げられる。
反応性シリコーンオイルに含まれるシロキサン結合で構成された主鎖としては、ポリ(ジメチルシロキサン)鎖が挙げられる。
反応性シリコーンオイルに含まれる反応性基としては、水酸基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基等が挙げられる。
【0103】
非反応性シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等が挙げられる。
【0104】
シリコーン修飾粒子の製造方法は特に限定されない。例えば、コア粒子粉末とシリコーンオイルを混合し、得られた混合物を加熱することでシリコーン修飾粒子を得ることができる。
加熱条件は特に限定されないが、例えば、80~380℃で5~80分である。
【0105】
本発明の熱硬化性組成物に含まれる(B-i)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して0.1~50質量部が好ましい。
(B-i)成分の含有量が(A)成分100質量部に対して0.1質量部以上であることでチキソ性向上効果が十分に発現する。同様の理由により、(A)成分100質量部に対して0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上がさらに好ましい。
(B-i)成分の含有量が(A)成分100質量部に対して50質量部以下であることで、熱硬化性組成物が高粘度になり過ぎず、優れた塗布性を有する。同様の理由により、(A)成分100質量部に対して40質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。
【0106】
[(B-ii)成分:(B-i)成分以外の粒子]
本発明の熱硬化性組成物は、(B-ii)成分として、(B-i)成分以外の粒子を含有してもよい。
(B-ii)成分としては、熱硬化性組成物の硬化物中の応力を緩和し、クラックの発生を抑制する目的で使用される粒子が挙げられる。
(B-ii)成分としては、平均一次粒子径が0.04μm超、8μm以下、好ましくは0.06~7μm、より好ましくは0.3~6μm、さらに好ましくは0.5~4μmの粒子が挙げられる。
(B-ii)成分の平均一次粒子径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(例えば、株式会社堀場製作所製、製品名「LA-920」)等を用いて、レーザー散乱法による粒度分布の測定を行うことにより求められる。
【0107】
(B-ii)成分の形状は、球状、鎖状、針状、板状、片状、棒状、繊維状等のいずれであってもよいが、球状が好ましい。ここで、球状とは、真球状の他、回転楕円体、卵形、金平糖状、まゆ状等球体に近似できる多面体形状を含む略球状を意味する。
【0108】
(B-ii)成分の構成成分としては、特に制限はなく、無機酸化物;金属;金属炭酸塩;金属硫酸塩;金属水酸化物;金属珪酸塩;鉱物;ケイ素含有重合体;等が挙げられる。
【0109】
無機酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタニウム、酸化クロム、酸化ニッケル、酸化銅、酸化ジルコニウム、酸化インジウム、酸化亜鉛、及びこれらの複合酸化物等が挙げられる。
【0110】
金属とは、周期表における、1族(Hを除く)、2~11族、12族(Hgを除く)、13族(Bを除く)、14族(C及びSiを除く)、15族(N、P、As及びSbを除く)、又は16族(O、S、Se、Te及びPoを除く)に属する元素をいう。
【0111】
金属炭酸塩としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
金属硫酸塩としては、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等が挙げられる。
金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
金属珪酸塩としては、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム等が挙げられる。
鉱物としては、スメクタイト、ベントナイト等が挙げられる。
ケイ素含有重合体としては、シリコーン、ポリシルセスキオキサン等が挙げられる。
【0112】
(B-ii)成分は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、透明性に優れる硬化物が得られ易いことから、(B-ii)成分の構成成分としてはケイ素含有重合体が好ましく、ポリシルセスキオキサンがより好ましい。
【0113】
本発明の熱硬化性組成物が(B-ii)成分を含有する場合、(B-ii)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。(B-ii)成分の含有量が(A)成分100質量部に対して40質量部以下であることで、十分な接着強度を有する硬化物になる熱硬化性組成物が得られ易くなる。
(B-ii)成分の含有量の下限値は特にないが、(A)成分100質量部に対して好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、さらに好ましくは0.5質量部以上である。
したがって、(B-ii)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して0.1~40質量部が好ましい。
【0114】
[(C)成分:シランカップリング剤]
本発明の熱硬化性組成物は、(C)成分として、シランカップリング剤を含有してもよい。(C)成分を含有する熱硬化性組成物の硬化物は、常温時や高温時における接着強度により優れたものとなる。
【0115】
シランカップリング剤とは、ケイ素原子と、官能基と、前記ケイ素原子に結合した加水分解性基とを有するシラン化合物をいう。
官能基とは、他の化合物(主に有機物)に対する反応性を有する基をいい、例えば、ビニル基、アリル基、エポキシ基、アミノ基、置換アミノ基、アクリル基、メタクリル基、メルカプト基、イソシアネート基、イソシアヌレート構造を有する基、ウレア構造を有する基、酸無水物構造を有する基等が挙げられる。
(C)成分は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0116】
本発明の熱硬化性組成物が(C)成分を含有する場合、(C)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して70質量部以下が好ましく、60質量部以下がより好ましく、50質量部以下がさらに好ましい。(C)成分の含有量が(A)成分100質量部に対して70質量部以下であることで、硬化物にクラックが生じ難い熱硬化性組成物が得られ易くなる。
(C)成分の含有量の下限値は特にないが、(A)成分100質量部に対して好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上である。
したがって、(C)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して0.1~70質量部が好ましい。
【0117】
シランカップリング剤としては、分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤、及び、分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤が好ましい。
【0118】
分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤としては、例えば、下記式(c-1)で表されるトリアルコキシシラン化合物、式(c-2)で表されるジアルコキシアルキルシラン化合物又はジアルコキシアリールシラン化合物等が挙げられる。
【0119】
【化9】
【0120】
上記式中、Rは、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基を表す。複数のR同士は同一であっても相異なっていてもよい。
は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基等の炭素数1~6のアルキル基;又は、フェニル基、4-クロロフェニル基、4-メチルフェニル基、1-ナフチル基等の、置換基を有する、又は置換基を有さないアリール基;を表す。
【0121】
は、窒素原子を有する、炭素数1~10の有機基を表す。また、Rは、更に他のケイ素原子を含む基と結合していてもよい。
の炭素数1~10の有機基の具体例としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピル基、3-アミノプロピル基、N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)アミノプロピル基、3-ウレイドプロピル基、N-フェニル-アミノプロピル基等が挙げられる。
【0122】
上記式(c-1)又は(c-2)で表される化合物のうち、Rが、他のケイ素原子を含む基と結合した有機基である場合の化合物としては、イソシアヌレート骨格を介して他のケイ素原子と結合してなるイソシアヌレート系シランカップリング剤や、ウレア骨格を介して他のケイ素原子と結合してなるウレア系シランカップリング剤が挙げられる。
【0123】
これらの中でも、分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤としては、接着強度により優れる硬化物が得られ易いことから、イソシアヌレート系シランカップリング剤、及びウレア系シランカップリング剤が好ましく、更に、分子内に、ケイ素原子に結合したアルコキシ基を4以上有するものが好ましい。
ケイ素原子に結合したアルコキシ基を4以上有するとは、同一のケイ素原子に結合したアルコキシ基と、異なるケイ素原子に結合したアルコキシ基との総合計数が4以上という意味である。
【0124】
ケイ素原子に結合したアルコキシ基を4以上有するイソシアヌレート系シランカップリング剤としては、下記式(c-3)で表される化合物が挙げられる。ケイ素原子に結合したアルコキシ基を4以上有するウレア系シランカップリング剤としては、下記式(c-4)で表される化合物が挙げられる。
【0125】
【化10】
【0126】
式中、Rは上記と同じ意味を表す。t1~t5はそれぞれ独立して、1~10の整数を表し、1~6の整数であるのが好ましく、3であるのが特に好ましい。
【0127】
これらの中でも、分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤としては、1,3,5-N-トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5-N-トリス(3-トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート(以下、「イソシアヌレート化合物」という。)、N,N’-ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ウレア、N,N’-ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ウレア(以下、「ウレア化合物」という。)、及び、上記イソシアヌレート化合物とウレア化合物との組み合わせを用いるのが好ましい。
【0128】
本発明の熱硬化性組成物が分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、その量は、上記(A)成分100質量部に対して65質量部以下が好ましく、60質量部以下がより好ましく、50質量部以下がさらに好ましい。
分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤の含有量の下限値は特にないが、(A)成分100質量部に対して好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上である。
したがって、分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤の含有量は、(A)成分100質量部に対して0.1~65質量部が好ましい。
【0129】
分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤は、一つの分子中に、酸無水物構造を有する基と、加水分解性基の両者を併せ持つ有機ケイ素化合物である。具体的には下記式(c-5)で表される化合物が挙げられる。
【0130】
【化11】
【0131】
式中、Qは酸無水物構造を有する基を表し、Rは炭素数1~6のアルキル基、又は、置換基を有する、若しくは置換基を有さないフェニル基を表し、Rは炭素数1~6のアルコキシ基又はハロゲン原子を表し、i、kは1~3の整数を表し、jは0~2の整数を表し、i+j+k=4である。jが2であるとき、R同士は同一であっても相異なっていてもよい。kが2又は3のとき、複数のR同士は同一であっても相異なっていてもよい。iが2又は3のとき、複数のQ同士は同一であっても相異なっていてもよい。
Qとしては、下記式
【0132】
【化12】
【0133】
(式中、hは0~10の整数を表す。)で表される基等が挙げられ、(Q1)で表される基が特に好ましい。
【0134】
分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤としては、2-(トリメトキシシリル)エチル無水コハク酸、2-(トリエトキシシリル)エチル無水コハク酸、3-(トリメトキシシリル)プロピル無水コハク酸、3-(トリエトキシシリル)プロピル無水コハク酸等の、トリ(炭素数1~6)アルコキシシリル(炭素数2~8)アルキル無水コハク酸;
2-(ジメトキシメチルシリル)エチル無水コハク酸等の、ジ(炭素数1~6)アルコキシメチルシリル(炭素数2~8)アルキル無水コハク酸;
2-(メトキシジメチルシリル)エチル無水コハク酸等の、(炭素数1~6)アルコキシジメチルシリル(炭素数2~8)アルキル無水コハク酸;
【0135】
2-(トリクロロシリル)エチル無水コハク酸、2-(トリブロモシリル)エチル無水コハク酸等の、トリハロゲノシリル(炭素数2~8)アルキル無水コハク酸;
2-(ジクロロメチルシリル)エチル無水コハク酸等の、ジハロゲノメチルシリル(炭素数2~8)アルキル無水コハク酸;
2-(クロロジメチルシリル)エチル無水コハク酸等の、ハロゲノジメチルシリル(炭素数2~8)アルキル無水コハク酸;等が挙げられる。
【0136】
これらの中でも、分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤としては、トリ(炭素数1~6)アルコキシシリル(炭素数2~8)アルキル無水コハク酸が好ましく、3-(トリメトキシシリル)プロピル無水コハク酸又は3-(トリエトキシシリル)プロピル無水コハク酸が特に好ましい。
【0137】
本発明の熱硬化性組成物が分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、その量は、上記(A)成分100質量部に対して30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。
分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤の含有量の下限値は特にないが、(A)成分100質量部に対して好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、さらに好ましくは0.5質量部以上である。
したがって、分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤の含有量は、(A)成分100質量部に対して0.1~30質量部が好ましい。
【0138】
[溶媒]
本発明の熱硬化性組成物は、溶媒を含有してもよい。
ただし、本発明の熱硬化性組成物は溶媒を含有しなくてもチキソ性及び塗布性に優れるものであるため、環境負荷等を考慮すると、溶媒を含まないことが好ましい。
溶媒の含有量は、熱硬化性組成物全量に対して40質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、0質量%が特に好ましい。
【0139】
[その他の成分]
本発明の熱硬化性組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、上記のもの以外の成分を含有してもよい。
上記のもの以外の成分としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤が挙げられる。
これらの添加剤の含有量は、目的に合わせて適宜決定することができる。
【0140】
[熱硬化性組成物]
本発明の熱硬化性組成物は、例えば、上記(A)成分と(B)成分、及び、所望によりこれら以外の成分を所定割合で混合し、脱泡することにより調製することができる。
混合方法、脱泡方法は特に限定されず、公知の方法を使用することができる。
【0141】
本発明の熱硬化性組成物の、温度が25℃、せん断速度が2s-1のときの粘度は、20~100Pa・sが好ましく、20~45Pa・sがより好ましい。
本発明の熱硬化性組成物の、温度が25℃、せん断速度が200s-1のときの粘度は、3~30Pa・sが好ましく、3~12Pa・sがより好ましい。
本発明の熱硬化性組成物のチキソ指数は、3以上が好ましく、4以上がより好ましい。
本発明の熱硬化性組成物の粘度やチキソ指数は、実施例に記載の方法に従って求めることができる。
【0142】
このように、本発明の熱硬化性組成物は(A)成分と(B)成分とを組み合わせて用いるものであるため、溶媒を含有しない又は溶媒の含有量が少ないものであっても、チキソ性及び塗布性に優れる。
このため、本発明の熱硬化性組成物を用いることで、微量分注を繰り返すような作業を、周囲を汚染することなく効率よく行うことができる。
【0143】
上記の特徴を有するため、本発明の熱硬化性組成物は半導体素子固定用組成物として好適に用いられる。
半導体素子固定用組成物としては、半導体素子固定用接着剤や半導体素子固定用封止剤が挙げられる。
半導体素子としては、発光ダイオード(LED)、レーザーダイオード(LD)等の発光素子;フォトダイオード、太陽電池、CMOSイメージセンサー等の受光素子;複合光素子;集積回路;大規模集積回路;等が挙げられる。
【0144】
本発明の熱硬化性組成物を半導体素子固定用組成物として使用する際は、通常、本発明の熱硬化性組成物を加熱硬化させる。
本発明の熱硬化性組成物を加熱硬化させる際の加熱温度は、通常100~200℃である。加熱時間は、通常10分から20時間、好ましくは30分から10時間である。
【0145】
〔半導体素子固定用接着剤〕
本発明の熱硬化性組成物を半導体素子固定用接着剤として使用するときは、通常、接着対象の材料(半導体素子と基板等)の一方又は両方の接着面に本発明の熱硬化性組成物を所定量塗布し、圧着した後、加熱硬化させる。この作業により、接着対象の材料同士を強固に接着することができる。
【0146】
基板を構成する材料としては、ソーダライムガラス、耐熱性硬質ガラス等のガラス類;セラミックス;サファイア;鉄、銅、アルミニウム、金、銀、白金、クロム、チタン及びこれらの金属の合金、ステンレス(SUS302、SUS304、SUS304L、SUS309等)等の金属類;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミド、アクリル樹脂、ノルボルネン系樹脂、シクロオレフィン樹脂、ガラスエポキシ樹脂等の合成樹脂;等が挙げられる。
【0147】
〔半導体素子固定用封止剤〕
本発明の熱硬化性組成物を半導体素子固定用封止剤として使用するときは、通常、本発明の熱硬化性組成物を所望の形状に成形して、半導体素子を内包した成形体を得た後、このものを加熱硬化させる。この作業により、半導体素子を内包した半導体素子封止体が得られる。
本発明の熱硬化性組成物を所望の形状に成形する方法としては、特に限定されるものではなく、通常のトランスファー成形法や、注型法等の公知のモールド法を採用できる。
【0148】
2)硬化物
本発明の硬化物は、本発明の熱硬化性組成物が硬化してなるものである。
本発明の熱硬化性組成物を硬化させる方法としては加熱硬化が挙げられる。
本発明の熱硬化性組成物を加熱硬化させる際の加熱温度は、通常100~200℃である。加熱時間は、通常10分から20時間、好ましくは30分から10時間である。
【0149】
本発明の硬化物が半導体素子固定用接着剤として使用されたときの接着剤硬化物である場合、本発明の硬化物は接着強度に優れたものであることが好ましい。
例えば、実施例のダイシェア強度測定を行ったときに、本発明の硬化物は、23℃において80N/4mm以上であることが好ましく、100N/4mm以上であることがより好ましい。また、100℃において、30N/4mm以上であることが好ましく、50N/4mm以上であることがより好ましく、60N/4mm以上であることがよりさらに好ましい。
本明細書において、「4mm」とは、「2mm square」、すなわち、2mm×2mm(1辺が2mmの正方形)を意味する。
【実施例0150】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例になんら限定されるものではない。
【0151】
〔製造例1〕
300mlのナス型フラスコに、メチルトリエトキシシラン23.71g(133mmol)を仕込んだ後、これを撹拌しながら、蒸留水4.782gに35質量%塩酸0.014g(HCl:0.133mmol、メチルトリエトキシシランに対して0.1mol%)を溶解した水溶液(HO:266mmol)を加え、全容を24℃にて1時間撹拌した。系を70℃へ昇温し、そこへ酢酸プロピル15.3gと28%アンモニア水溶液0.020g(NH:0.333mmol、メチルトリエトキシシランに対して0.25mol%)を加え、全容を70℃で4時間撹拌した。
反応液を室温(25℃)まで放冷した後、そこに、酢酸プロピル100g及び水200gを加えて分液処理を行い、反応生成物を含む有機相を分取した。この有機相に硫酸マグネシウムを加えて乾燥処理を行った。硫酸マグネシウムを濾別除去した後、有機相をエバポレーターで濃縮し、次いで、得られた濃縮物を真空乾燥することにより、シラン化合物重合体を得た。
【0152】
〔製造例2~4〕
第1表に記載の条件に変更したことを除き、製造例1と同様にしてシラン化合物重合体を得た。
【0153】
【表1】
【0154】
製造例1~3で得られたシラン化合物重合体について、それぞれ以下の測定を行った。結果を第2表に示す。
【0155】
〔粘度測定〕
製造例1および3においては、レオメーター(装置名「MCR301」、Anton Paar社製)にて、コーン半径が12.5mm、コーン角度が0.5°のコーンプレートを用い、25℃で2.2s-1の粘度を測定した。
製造例2においては、半径が12.5mmのパラレルプレートを用い、25℃で2.0rad/sの粘度を測定した。
製造例4においては、固体であるため、粘度は測定できなかった。
【0156】
〔平均分子量測定〕
シラン化合物重合体の質量平均分子量(Mw)は、以下の装置及び条件にて測定した。
装置名:HLC-8220GPC、東ソー株式会社製
カラム:「TSK guard column SuperH-H」「TSK gel SuperHM-H」「TSK gel SuperHM-H」「TSK gel SuperH2000」を順次連結したもの
溶媒:テトラヒドロフラン
標準物質:ポリスチレン
注入量:20μl
測定温度:40℃
流速:0.6ml/分
検出器:示差屈折計
【0157】
H-NMR測定〕
装置名:ブルカー・バイオスピン社製 AV-500
H-NMR共鳴周波数:500MHz
プローブ:5mmφ溶液プローブ
測定温度:室温(25℃)
繰り返し時間:1s
積算回数:16回
【0158】
H-NMR試料作製方法〉
シラン化合物重合体濃度:3%
測定溶媒:アセトン-d6
内部標準:TMS
【0159】
〔アルコキシ基残存率〕
H-NMR測定結果に基づき、メチル基に対するアルコキシ基の割合を求め、シラン化合物重合体のアルコキシ基残存率を算出した。
【0160】
29Si-NMR測定〕
装置名:ブルカー・バイオスピン社製 AV-500
29Si-NMR共鳴周波数:99.352MHz
プローブ:5mmφ溶液プローブ
測定温度:室温(25℃)
試料回転数:20kHz
測定法:インバースゲートデカップリング法
29Si フリップ角:90°
29Si 90°パルス幅:8.0μs
繰り返し時間:5s
積算回数:9200回
観測幅:30kHz
【0161】
29Si-NMR試料作製方法〉
緩和時間短縮のため、緩和試薬としてFe(acac)を添加し測定した。
シラン化合物重合体濃度:15%
Fe(acac)濃度:0.6%
測定溶媒:アセトン
内部標準:TMS
【0162】
〈波形処理解析〉
フーリエ変換後のスペクトルの各ピークについて、ピークトップの位置によりケミカルシフトを求め、以下の範囲で各ピークの積分を行った。
T1サイト:-52.0~-45.0ppm
T2サイト:-60.7~-52.0ppm
T3サイト:-71.5~-60.7ppm
得られた値をもとに、T1サイト、T2サイト、T3サイトの割合を算出した。
【0163】
〔T1サイト全量に対する、アルコキシ基含有T1サイトの割合〕
29Si-NMR測定を行い、-52.0~-50.0ppmの範囲の積分値に基づいて、アルコキシ基を1つ又は2つ有するT1サイトの量を求めた。
次いで、この積分値を基に、T1サイト全量に対する、アルコキシ基含有T1サイトの割合(T1(OR)/T1(total))を算出した。
【0164】
【表2】
【0165】
実施例、比較例、及び参考例で用いた化合物を以下に示す。
【0166】
(シラン化合物重合体)
PSQ(A1):製造例1で得られたシラン化合物重合体
PSQ(A2):製造例2で得られたシラン化合物重合体
PSQ(A3):製造例3で得られたシラン化合物重合体
PSQ(A4):製造例4で得られたシラン化合物重合体
【0167】
(粒子)
粒子(B1):(日本アエロジル株式会社製、製品名「AEROSIL RY200」、シリカ粒子に対してポリジメチルシロキサンで表面修飾処理してなる粒子、平均一次粒子径:12nm)
粒子(B2):(日本アエロジル株式会社製、製品名「AEROSIL RY300」、シリカ粒子に対してポリジメチルシロキサンで表面修飾処理してなる粒子、平均一次粒子径:7nm)
粒子(B3):(日本アエロジル株式会社製、製品名「AEROSIL RX300」、表面修飾基としてトリメチルシリル基を有するシリカ粒子、平均一次粒子径:7nm)
粒子(B4):(日興リカ株式会社製、製品名「MSP-SN08」、ポリメチルシルセスキオキサン粒子、平均一次粒子径:0.8μm)
【0168】
(シランカップリング剤)
SCA(C1):1,3,5-N-トリス〔3-(トリメトキシシリル)プロピル〕イソシアヌレート
SCA(C2):3-(トリメトキシシリル)プロピルコハク酸無水物
【0169】
〔実施例1〕
PSQ(A1)100質量部に、粒子(B1)5質量部、及び粒子(B4)10質量部を加え、全容を撹拌した。三本ロールミルによる分散処理後、シランカップリング剤(C1)30質量部、シランカップリング剤(C2)3質量部を加え、全容を十分に混合、脱泡することにより、熱硬化性組成物を得た。
【0170】
〔実施例2、3、比較例1~3〕
第3表に記載の組成に変更したことを除き、実施例1と同様にして熱硬化性組成物を得た。
【0171】
〔参考例1〕
ポリシルセスキオキサン化合物(A4)100質量部に、粒子(B3)25質量部、及び粒子(B4)10質量部を加え、更に、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート:トリプロピレングリコール-n-ブチルエーテル=40:60(質量比)の混合溶剤60質量部を加え、全容を撹拌した。三本ロールミルによる分散処理後、シランカップリング剤(C1)30質量部、シランカップリング剤(C2)3質量部を加え、全容を十分に混合、脱泡することにより、熱硬化性組成物を得た。
【0172】
実施例1~3、比較例1~3、参考例1で得られた熱硬化性組成物について、それぞれ以下の測定を行った。結果を第3表に示す。
【0173】
[粘度評価]
レオメーター(Anton Paar社製、MCR301)にて、半径12.5mm、コーン角度0.5°のコーンプレートを用い、25℃で、せん断速度が2s-1と、せん断速度が200s-1の粘度をそれぞれ測定した。得られた測定値からチキソ指数(せん断速度が2s-1の粘度/せん断速度が200s-1の粘度)を求めた。
【0174】
[ダイシェア強度試験]
4mm(2mm×2mm)のシリコンチップのミラー面に、熱硬化性組成物を、それぞれ、厚さが約2μmになるよう塗布し、塗布面を被着体(銀メッキ銅板)の上に載せ圧着した。その後、170℃で2時間加熱処理して硬化して試験片付被着体を得た。この試験片付被着体を、予め所定温度(23℃、100℃)に加熱したボンドテスター(デイジ社製、シリーズ4000)の測定ステージ上に30秒間放置し、被着体から100μmの高さの位置より、スピード200μm/sで接着面に対し水平方法(せん断方向)に応力をかけ、23℃及び100℃における、試験片と被着体との接着強度(N/4mm)を測定した。
【0175】
【表3】
【0176】
第3表から以下のことが分かる。
実施例1~3で得られた熱硬化性組成物は、(A)成分と(B-i)成分を含有するものであるため、チキソ性及び塗布性に優れている。
一方、比較例1では、(B-i)成分〔シリコーン修飾粒子〕の代わりに、アルキル修飾粒子を使用したところ、チキソ指数が低下した。
アルキル修飾粒子を添加しない比較例2では、チキソ指数は比較例1よりも低い値になった。
また、アルキル修飾粒子を過剰に入れた比較例3では、チキソ指数は比較例1と同程度であったが、粘度が高くなり過ぎて塗布性に劣っている。
なお、アルキル修飾粒子を使用する場合であっても、溶媒が存在する参考例1では、粘度、チキソ性とも十分な性能を有している。