(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013651
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】試験菌の作製方法及び被試験対象の試験方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20240125BHJP
C12Q 1/18 20060101ALI20240125BHJP
C02F 3/00 20230101ALI20240125BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20240125BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12Q1/18
C02F3/00 G
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115903
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 倫男
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ20
4B063QR75
4B063QS40
4B063QX10
4B065AA01X
4B065BA17
4B065BA18
4B065BD26
4B065BD50
4B065CA54
(57)【要約】
【課題】被試験対象が使用される実環境に近い条件下で除菌性能を確認、評価するために好適な試験菌を提供する。
【解決手段】試験菌の作製方法は、培養した試験菌に対して、被試験対象の実使用環境に基づく負荷を与える工程を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養した試験菌に対して、被試験対象の実使用環境に基づく負荷を与える工程を含む、
試験菌の作製方法。
【請求項2】
前記負荷を与える工程において、前記培養した試験菌を塩素系薬剤に曝露する、請求項1に記載の試験菌の作製方法。
【請求項3】
前記塩素系薬剤は、塩素を含む水道水である、請求項2に記載の試験菌の作製方法。
【請求項4】
前記負荷を与える工程において、前記培養した試験菌を酸化剤に曝露する、請求項1に記載の試験菌の作製方法。
【請求項5】
前記負荷を与える工程において、前記培養した試験菌を紫外線に曝露する、請求項1に記載の試験菌の作製方法。
【請求項6】
前記負荷を与える工程において、前記培養した試験菌をオゾンガスに曝露する、請求項1に記載の試験菌の作製方法。
【請求項7】
前記負荷を与える工程において、前記培養した試験菌を乾燥環境下に曝露する、請求項1に記載の試験菌の作製方法。
【請求項8】
前記負荷を与える工程の前に、前記培養した試験菌を1回以上洗浄する工程をさらに含む、請求項1に記載の試験菌の作製方法。
【請求項9】
前記試験菌は、メチロバクテリウム属細菌である、請求項1に記載の試験菌の作製方法。
【請求項10】
培養した試験菌に対して、被試験対象の実使用環境に基づく負荷を与えて、前記試験菌を作製する工程と、
作製した前記試験菌を、前記被試験対象に曝露して、前記被試験対象の性能試験を行う工程と、
を含む、被試験対象の試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験菌の作製方法及び被試験対象の試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、キッチン、洗面所、トイレ、浴室等の水を使用する設備である、いわゆる水回りや、例えば、エアコンディショナー、空気清浄機等の空調設備等において、水分や湿気、温度等により細菌が繁殖する。そこで、このような設備においては、細菌の繁殖を抑えるために、抗菌性材料を用いたり、除菌効果のある除菌成分を浮遊させて除菌する除菌機構や、所定の波長の光を照射して除菌する除菌機構等を搭載したりしている。
【0003】
このような抗菌性材料、除菌成分、除菌機構等の開発においては、これらが、細菌の繁殖を抑える効果を持っているか、さらには、どの程度の効果(性能)を発揮できるかを確認、評価する試験を行うことが欠かせない。そして、このような除菌性能試験においては、実験室で作製した試験菌を用いて、抗菌性材料、除菌成分、除菌機構等(被試験対象)の試験を行うこととなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-149994号公報
【特許文献2】特開平06-253892号公報
【非特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、実験室で、栄養豊富な培地で培養した試験菌は、抗菌性材料、除菌成分、除菌機構等(被試験対象)が使用される実環境で想定される負荷(ストレス)に曝されることがないことから、除菌性能効果試験で使用される試験菌には、耐性の弱い個体も含まれていることが避けられない。そして、このような試験菌を用いて、被試験対象である抗菌性材料、抗菌成分、除菌機構等の除菌性能試験を行った場合、耐性の弱い個体も含む試験菌を用いていることから、被試験対象は、実際に使用される実環境よりも高い除菌性能を示す恐れがある。すなわち、従来の試験菌を用いた除菌性能試験では、被試験対象が使用される実環境に近い条件下で行うことができないことから、適切に被試験対象の除菌性能を確認、評価することが難しい。
【0007】
そこで、本発明は、上述のような状況に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、被試験対象が使用される実環境に近い条件下で除菌性能を確認、評価するために好適な試験菌を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、培養した試験菌に対して、被試験対象の実使用環境に基づく負荷を与える工程を含む、試験菌の作製方法が提供される。
【0009】
前記負荷を与える工程において、前記培養した試験菌を塩素系薬剤に曝露してもよい。
【0010】
前記塩素系薬剤は、塩素を含む水道水であってもよい。
【0011】
前記負荷を与える工程において、前記培養した試験菌を酸化剤に曝露してもよい。
【0012】
前記負荷を与える工程において、前記培養した試験菌を紫外線に曝露してもよい。
【0013】
前記負荷を与える工程において、前記培養した試験菌をオゾンガスに曝露してもよい。
【0014】
前記負荷を与える工程において、前記培養した試験菌を乾燥環境下に曝露してもよい。
【0015】
前記試験菌の作製方法は、前記負荷を与える工程の前に、前記培養した試験菌を1回以上洗浄する工程をさらに含んでもよい。
【0016】
前記試験菌は、メチロバクテリウム属細菌であってもよい。
【0017】
さらに、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、培養した試験菌に対して、被試験対象の実使用環境に基づく負荷を与えて、前記試験菌を作製する工程と、作製した前記試験菌を、前記被試験対象に曝露して、前記被試験対象の性能試験を行う工程とを含む、被試験対象の試験方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、被試験対象が使用される実環境に近い条件下で除菌性能を確認、評価するために好適な試験菌を提供することができる。これにより、除菌性能試験で得られた被試験対象の除菌性能と、実際の使用における被試験対象の除菌性能との乖離が小さくなることから、被試験対象の除菌性能をより正確に把握することが可能となり、ひいては、所望の除菌性能を持つ被試験対象の開発を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、従来技術における試験細の作製の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態における試験菌の作製の流れを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明の実施例及び比較例の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
<背景>
まずは、本開示の実施形態を説明する前に、本発明者が本発明の実施形態を創作するに至る背景について説明する。
【0022】
先に説明したように、水回りや空調設備等において、水分等により細菌が繁殖する。そこで、このような設備においては、細菌の繁殖を抑えるために、抗菌性材料を用いたり、除菌効果のある除菌成分を浮遊させて除菌する除菌機構等を搭載したりしている。そして、このような抗菌性材料、除菌成分、除菌機構等の開発においては、これらが、細菌の繁殖を抑える効果を持っているか、さらには、どの程度の効果(性能)を発揮できるかを確認、評価する試験を行うことが欠かせない。そして、このような除菌性能試験においては、実験室で作製した試験菌を用いて、抗菌性材料、除菌成分、除菌機構等(被試験対象)の試験を行うこととなる。
【0023】
例えば、従来技術においては、
図1に示すような流れで試験菌を作製する。
図1は、従来技術における試験細の作製の流れの一例を示すフローチャートである。
【0024】
従来技術においては、試験菌は、属・種・株が特定され、所定の条件下で保管されている。そして、
図1に示すように、このように保管されたストックから試験菌となる保管菌を接種する(ステップS11)。次に、接種した保管菌を、培地に接種して培養する(ステップS12)。この際、培養は、被試験対象が使用される実環境中よりも生育速度が速くなるように、栄養豊富で、且つ、温度や酸素供給条件が整った、生育速度が最大に近づく条件で行うことが好ましい。
【0025】
そして、従来技術においては、培養によって増殖した保管菌を含む菌液の一部を新しい培地に添加し、同条件下で本培養を行う(ステップS13)。そして、本培養した保管菌を、好適なバッファー(緩衝)液で集菌、洗浄し、好適な濃度に調整する(ステップS14)。さらに、生存する保管菌を計数し、除菌性能試験の試験菌とする(ステップS15)。
【0026】
しかしながら、実験室で、栄養豊富な培地で培養した試験菌は、抗菌性材料、除菌成分、除菌機構等(被試験対象)が使用される実環境で想定される負荷(ストレス)に曝されることがないことから、除菌性能効果試験で使用される試験菌には、耐性の弱い個体も含まれていることが避けられない。そして、このような試験菌を用いて、被試験対象である抗菌性材料、抗菌成分、除菌機構等の除菌性能試験を行った場合、耐性の弱い個体も含む試験菌を用いていることから、被試験対象は、実際に使用される実環境よりも高い除菌性能を示す恐れがある。すなわち、従来の試験菌を用いた除菌性能試験では、被試験対象が使用される実環境に近い条件下で行うことができないことから、適切に被試験対象の除菌性能を確認、評価することが難しい。
【0027】
そこで、このような状況を鑑みて、本発明者は、培養した試験菌に対して、被試験対象の実使用環境に基づく負荷(ストレス)を与える工程を含む試験菌の作製方法である、本発明の実施形態を創作するに至った。本発明の実施形態によれば、被試験対象が使用される実環境に近い条件下で除菌性能を確認、評価するために好適な試験菌を提供することができる。これにより提供される試験菌には、耐性の弱い個体ではなく、実環境の存在する菌の耐性に近い耐性を持つ個体が含まれることとなる。従って、本実施形態によれば、このような試験菌を用いた除菌性能試験で得られた被試験対象の除菌性能と、実際の使用における被試験対象の除菌性能との乖離が小さくなることから、被試験対象の除菌性能をより正確に把握することができる。その結果、本実施形態によれば、所望の除菌性能を持つ被試験対象の開発を促進することができる。以下、このような本発明の実施形態の詳細を順次説明する。
【0028】
<実施形態>
図2を参照して、本発明の実施形態に係る試験菌の作製方法について説明する。
図2は、本発明の一実施形態における試験菌の作製の流れを示すフローチャートである。
【0029】
本実施形態においては、被試験対象が使用される実環境に応じた細菌が試験菌として選択される。本実施形態においては、例えば、水回りで使用する除菌剤を被試験対象とする場合には、水回りに存在する紅色やピンク色等の赤み帯びた色を持つ付着物やヌメリの原因とされているメチロバクテリウム属細菌(Methylobacterium sp.)等を選択することとなる。なお、本実施形態においては、試験菌は、メチロバクテリウム属細菌に限定されるものではない。
【0030】
そして、本実施形態においては、従来技術と同様に、試験菌は、属・種・株が特定され、所定の条件下で保管されている。例えば、試験菌は、所定の条件で保管された、栄養成分を含む寒天プレートからなる培地を用いて保管される。
【0031】
そして、本実施形態においては、
図2に示すように、従来技術と同様に、保管されたストックから試験菌となる保管菌を接種する(ステップS21)。次に、接種した保管菌を、培地に接種して培養する(ステップS22)。この際、培養は、被試験対象が使用される実環境中よりも生育速度が速くなるように、栄養豊富で、且つ、温度や酸素供給条件が整った、生育速度が最大に近づく条件で行うことが好ましい。
【0032】
次に、本実施形態においては、従来技術と同様に、培養によって増殖した保管菌を含む菌液の一部を新しい培地に添加し、同条件下で本培養を行う(ステップS23)。そして、本実施形態においては、本培養した保管菌を、例えば、遠心分離機等を使用してリン酸バッファー液、又は、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline:PBS)、又は、滅菌液で集菌し、さらに、リン酸バッファー液、又は、リン酸緩衝生理食塩水、又は、滅菌液で洗浄し、好適な濃度に調整する(ステップS24)。
【0033】
そして、本実施形態においては、細菌に、除菌性能の評価対象となる被試験対象が実際に使用される実環境中で細菌に負荷(ストレス)となると思われる負荷を与える処理を行う(ステップS25)。
【0034】
本実施形態においては、例えば、被試験対象が実際に使用される実環境中で細菌に負荷(ストレス)となっていると思われる濃度の塩素系薬剤に、細菌を曝露する。より具体的には、塩素系薬剤は、例えば、次亜塩素酸(HClO)、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)水溶液、次亜塩素酸カルシウム(Ca(ClO)2)水溶液、トリクロロイソシアヌル酸(C3Cl3N3O3)、もしくは、塩素を含む水道水等であることができる。本実施形態においては、例えば、水回りで使用する水道水には、殺菌剤として使用した塩素が残留していることから(0.1ppm~1ppm程度)、水道水中の塩素成分が水回り等に繁殖する細菌の負荷となると考えられることから、被試験対象が実際に使用される実環境中での細菌の負荷として、塩素を含む水道水を用いることができる。
【0035】
また、本実施形態においては、被試験対象が実際に使用される実環境中での細菌の負荷(ストレス)として、実環境に存在し得る酸化剤、紫外線、オゾンガス等に、細菌を曝露してもよい。もしくは、本実施形態においては、被試験対象が実際に使用される実環境中での細菌の負荷として、実環境において生じ得る乾燥環境下、高温環境下、低温環境下、酸素欠乏環境下等に、細菌を曝露してもよい。
【0036】
さらに、本実施形態においては、負荷(ストレス)を与えた細菌中の生存する保管菌を計数し、除菌性能試験の試験菌とする(ステップS26)。
【0037】
そして、このようにして作製した試験菌を被試験対象に曝露して、被試験対象の性能試験を行うことができる。
【0038】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、被試験対象が使用される実環境に近い条件下で除菌性能を確認、評価するために好適な試験菌を提供することができる。これにより提供される試験菌には、耐性の弱い個体ではなく、実環境の存在する菌の耐性に近い耐性を持つ個体が含まれることとなる。従って、本実施形態によれば、このような試験菌を用いた除菌性能試験で得られた被試験対象の除菌性能と、実際の使用における被試験対象の除菌性能との乖離が小さくなることから、被試験対象の除菌性能をより正確に把握することができる。その結果、本実施形態によれば、所望の除菌性能を持つ被試験対象の開発を促進することができる。
【0039】
<実施例>
以下、
図3を参照して、本発明について実施例に基づき説明する。
図3は、本発明の実施例及び比較例の結果を示す表である。なお、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0040】
(試験菌の作製)
まずは、試験菌の作製について説明する。4℃で保管しているメチロバクテリウム属細菌のコロニーが生育している寒天プレートから、微量のコロニーを掻き取り、3 mlのR2A液体培地(日本製薬株式会社製、Ref:395-01681)に植菌し、25℃で3~4日振とう培養して前培養とした。
【0041】
さらに、前培養の培養液から、メチロバクテリウム属細菌を、30~40 mlのR2A液体培地に1%v/vになるように植え継ぎ、25℃で一昼夜振とう培養した。
【0042】
遠心分離機(久保田商事株式会社製、モデル2410)で、培養液を相対遠心力2100g×5minの条件下で遠心分離を行い、集菌し、沈殿を1/4vol.のPBS(リン酸緩衝生理食塩水)(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製、Ref:P3813)に再懸濁した。そして、同様の条件で遠心分離及び再懸濁を3回繰り返して、メチロバクテリウム属細菌を洗浄した。最後に、得られたメチロバクテリウム属細菌を2.5 mlのPBSに懸濁し、これを比較例の試験菌である「Unselected cells」とした。
【0043】
上述のUnselected cellsの懸濁液を適当に希釈して、分光光度計(日本分光株式会社製、V650)により、光学密度(波長600 nm)を測定し、総細胞濃度(cell/ml)を算出した。さらに、総細胞濃度から計算して、約100 CFU(Colony Forming Unit)になるようにR2A寒天培地(栄研化学株式会社製、Ref:E-MS28)に播種し、25℃で培養した。得られたコロニー数から生細胞濃度を求め、Unselected cellsの初発菌数とした。
【0044】
次に、水道水(Tap water)を入れた水槽に、上述のUnselected cellsの懸濁液を入れ、添加直後の生細胞濃度を上述同様の方法で算出し、それを負荷(ストレス)としての水道水の残留塩素に曝露された、本実施例の試験菌である「Selected cells」の初発菌数とした。
【0045】
(除菌性能試験)
以下、比較例の試験菌である「Unselected cells」と、本実施例の試験菌である「Selected cells」とを用いて、被試験対象を次亜塩素酸として、除菌性能試験を行った。
【0046】
(PBS中の次亜塩素酸曝露)
PBS中の次亜塩素酸曝露については、PBSに懸濁したUnselected cellsに、終濃度0.5ppmになるように次亜塩素酸を加え、10min曝露後にチオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)で中和後、R2A寒天培地上で培養し、生育したコロニー数から、PBS中で次亜塩素酸に曝露されたUnselected cellsの生存菌数を算出した。
【0047】
(水道水中の次亜塩素酸曝露)
水道水(Tap water)を入れた水槽に、上述のUnselected cellsおよびSelected cellsの懸濁液を入れ、水槽内に設置した電極により、電解次亜塩素酸水を発生させ(最大約2ppm)、一定時間、Unselected cellsおよびSelected cellsを次亜塩素酸に曝露した。曝露後、生細胞濃度を上述同様の方法で算出し、水道水中で次亜塩素酸に曝露されたUnselected cellsおよびSelected cellsの生存菌数を算出した。
【0048】
さらに、PBS中で次亜塩素酸に曝露されたUnselected cellsの除菌率、及び、水道水中で次亜塩素酸に曝露されたUnselected cellsおよびSelected cellsの除菌率を算出した。ここで、除菌率(Inactivation)は、除菌率=(初発菌数-生存菌数)/初発菌数の式から算出されるものとする。
【0049】
また、次亜塩素酸の曝露量は、CT値(濃度(ppm)×時間(min))を使用した。次亜塩素酸濃度は、PBS中での曝露においては、曝露中に液をサンプリングして、残留塩素測定器法(柴田科学株式会社製、Ref:AQ-201)により濃度測定してタイムコースを取ることで得た。また、次亜塩素酸濃度は、水道水中の曝露においては、次亜塩素酸濃度計(東亜ディーケーケー株式会社製、Ref:RC-31P-F)を使用した。
【0050】
さらに、除菌率をCT値で割ったもの(Inactivation/CT)を、比較の指標となる不活性率とした。
【0051】
図3に、本発明の実施例及び比較例の結果を示す。培養・集菌したままの試験菌、すなわち、比較例の試験菌である「Unselected cells」に次亜塩素酸(PBS中及び水道水中で曝露)を作用させた場合と、一旦、水道水の残留塩素に曝されて生き残った試験菌、すなわち、本実施例の試験菌である「Selected cells」に次亜塩素酸を作用させた場合との、不活化率を比較する。
図3からわかるように、「Selected cells」の不活化率が、「Unselected cells」に比べて低い。従って、本実施例の試験菌である「Selected cells」は、水道水レベルの残留塩素に曝露されても生き延びた、塩素耐性が強い試験菌であることがわかる。
【0052】
水回りでは、水道水の残留塩素に曝露される可能性が高いことから、水道水中の塩素成分が水回り等に繁殖する細菌の負荷(ストレス)となると考えられる。従って、実環境の水回りで繁殖する細菌は、水道水レベルの残留塩素に曝露されても生き延びた、塩素耐性が強い細菌であると考えられる。従って、本実施例の試験菌である「Selected cells」を用いて除菌性能試験を行うことにより、このような試験菌を用いた除菌性能試験で得られた被試験対象の除菌性能と、実際の使用における被試験対象の除菌性能との乖離が小さくなることから、被試験対象の除菌性能をより正確に把握することができる。
【0053】
以上、実施形態の一例を説明したが、これらは例示であり、本実施形態は上記した説明に限定されるものではない。発明の開示の欄に記載の態様を始めとして、実施形態の構成や詳細は、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で実施することができる。また、各実施形態については、矛盾しない範囲で任意に組み合わせて実施することができる。